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プロジェクトの成功確率を高めるためには,プロジェクトリスクに対して適切なリスク対策を実施すること が重要である.そこで,システムダイナミクスに基づくプロジェクト挙動シミュレーションシステムを用い て,リスクが高いプロジェクト状況をリスクケースにリスク対策効果の推定を行う. 1.背景および目的 2. プロジェクト挙動シミュレーションシステム 3.リスク対策効果の推定への適用 4.結論 システムダイナミクスに基づくプロジェクト挙動シミュレーションシステムを用いて,リスクが高いプロ ジェクト状況をリスクケースにリスク対策効果の推定を行った.有識者アンケートによる妥当性評価では, リスクケースに対して想定したリスク対策が一部現実的でないとの指摘もあったが,シミュレーション結果 自体は実プロジェクトの経験と良く一致した曲線を描いていると,一定の評価を得ることができた. プロジェクト挙動シミュレーションシステムによる プロジェクトのリスク対策効果の推定 Estimation of Risk Countermeasure Effects Based upon Project-Behavior Simulation System 大嶋亜也香 (東京都市大学大学院) 岡田公治 (東京都市大学) 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0 基準ケースに対する影響( ) 基準ケースに対する人員規模 ( ) 期間 総工数 期間( 単純人月計算) 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 0.00 0.10 0.20 0.30 0.40 0.50 0.60 新規性の高いケースに対する影響 () レビュー工数比率 期間 総工数 プロジェクト挙動シミュレーションシステム Probes-SD0 (Pro ject-Be havior S imulation system based upon S ystem D ynamics, version 0 ) プロセスモデル 人材資源モデル プロジェクト進捗監視モデル 相互作用効果モデル システムアーキクチャ プロセスモデル 7フェーズV字モデルにおける 欠陥混入と手戻り作業の伝播を表現 人材資源モデル フェーズ毎の担当職種 (および分担) と必要作業量とに応じて,投入可能工数 を職種別・作業種別に配分 人材能力,モチベーションレベルを加味 プロジェクト進捗監視モデル 理想的進捗モデルを内包し プロセスモデルと比較することで 進捗指標を算出 相互作用効果モデル 一般的に知られている各種の効果(習熟効果, コミュニケーションオーバーヘッド 等) をモデル化 4.結論 シナリオ 1 短納期リスク (基準ケースと同じ) 開発 人員増員 開発人員規模 シナリオ 2 新規性リスク 開発人員能力レベル初期値 コミュニケーションエラー率 レビュー強化 レビュー工数比率 シナリオ 3 コミュニケーションリスク コミュニケーションエラー率 コミュニケーション強化 コミュニケーション工数比率 シナリオ 4 進捗遅延リスク (シナリオ2と同じ) 時間外労働時間率上限値緩和 時間外労働時間率上限値 シナリオ 想定するリスク状況と 基準ケースから変更する シミュレーションパラメータ 想定するリスク対策と 評価する シミュレーションパラメータ 4種のシナリオでプロジェクトリスク対策効果を算出し、 アンケート調査により有識者の経験との一致を評価 システムダイナミクスを用い,プロジェクト挙動シミュレーションシステム(Probes-SD0) を試作 シナリオ1 シナリオ2 シナリオ3 シナリオ4 0 2 4 6 回答者数() 経験との一致 有識者に対する アンケート結果 (N = 9) 否定的な回答はない シナリオ2と4に関しては 「判断を付け難い」が多い 有識者アンケート調査では,情報サービス産業協会プロジェクト マネジメントコミュニティに御協力頂いた.感謝を申し上げたい. 自由記述による指摘内容 ( くの有識者に共通の指摘 ) シミュレーション結果自体は、実プロジェクトでの経験と 良く一致した曲線を描いている リスクケースに対する リスク対策が現実的でないものがある ・新規性リスクに対するレビュー強化施策 (シナリオ2: レビューに有識者がいなければ意味が無い) ・遅延リスクに対する時間外労働時間緩和施策 (シナリオ4: 負荷集中するキーパーソン以外は意味が無い) 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 0.00 0.10 0.20 0.30 0.40 0.50 0.60 高コミュニケーションリスクケース に対する影響() コミュニケーション工数比率 期間 総工数 シナリオ毎のシミュレーション結果 シナリオ2 シナリオ1 シナリオ3 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.00 1.05 1.10 1.15 1.20 高進捗遅延リスクケースに対する 影響() 時間外労働上限 期間 総工数 シナリオ4 増員による期間短縮の効果は極めて 限定的 非現実的なほど増員した場合には, 増員を行わない場合よりも 期間・工数が増大 レビュー工数比率を高めることで期間が改善 レビュー工数比率が高すぎる場合には逆効果 コミュニケーション工数比率を高めることで 期間が改善 コミュニケーション工数比率が高すぎる場合 には逆効果 時間外労働時間率上限値の緩和は効果無く, モチベーション低下を招き,逆に総工数・ 期間が増大

Estimation of Risk Countermeasure Effects Based upon ...Estimation of Risk Countermeasure Effects Based upon Project-Behavior Simulation System 大嶋亜也香 (東京都市大学大学院)

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Page 1: Estimation of Risk Countermeasure Effects Based upon ...Estimation of Risk Countermeasure Effects Based upon Project-Behavior Simulation System 大嶋亜也香 (東京都市大学大学院)

プロジェクトの成功確率を高めるためには,プロジェクトリスクに対して適切なリスク対策を実施することが重要である.そこで,システムダイナミクスに基づくプロジェクト挙動シミュレーションシステムを用いて,リスクが高いプロジェクト状況をリスクケースにリスク対策効果の推定を行う.

1.背景および目的

2. プロジェクト挙動シミュレーションシステム

3.リスク対策効果の推定への適用

4.結論システムダイナミクスに基づくプロジェクト挙動シミュレーションシステムを用いて,リスクが高いプロジェクト状況をリスクケースにリスク対策効果の推定を行った.有識者アンケートによる妥当性評価では,リスクケースに対して想定したリスク対策が一部現実的でないとの指摘もあったが,シミュレーション結果自体は実プロジェクトの経験と良く一致した曲線を描いていると,一定の評価を得ることができた.

プロジェクト挙動シミュレーションシステムによるプロジェクトのリスク対策効果の推定

Estimation of Risk Countermeasure Effects Based upon Project-Behavior Simulation System

大嶋亜也香 (東京都市大学大学院) 岡田公治 (東京都市大学)

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0

基準

ケースに対

する影

響(倍

)

基準ケースに対する人員規模 (倍)

期間 総工数 期間(単純人月計算)

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

0.00 0.10 0.20 0.30 0.40 0.50 0.60

新規性の高いケースに対する影響

(倍)

レビュー工数比率

期間 総工数

プロジェクト挙動シミュレーションシステムProbes-SD0 (Project-Behavior Simulation system

based upon System Dynamics, version 0)

プロセスモデル 人材資源モデル

プロジェクト進捗監視モデル

相互作用効果モデル

システムアーキクチャ プロセスモデル7フェーズV字モデルにおける欠陥混入と手戻り作業の伝播を表現

人材資源モデルフェーズ毎の担当職種 (および分担) と必要作業量とに応じて,投入可能工数を職種別・作業種別に配分人材能力,モチベーションレベルを加味

プロジェクト進捗監視モデル理想的進捗モデルを内包しプロセスモデルと比較することで進捗指標を算出

相互作用効果モデル一般的に知られている各種の効果(習熟効果,コミュニケーションオーバーヘッド 等)をモデル化

4.結論

シナリオ1

短納期リスク•(基準ケースと同じ)

開発人員増員•開発人員規模

シナリオ2

新規性リスク•開発人員能力レベル初期値•コミュニケーションエラー率

レビュー強化•レビュー工数比率

シナリオ3

コミュニケーションリスク•コミュニケーションエラー率

コミュニケーション強化•コミュニケーション工数比率

シナリオ4

進捗遅延リスク•(シナリオ2と同じ)

時間外労働時間率上限値緩和•時間外労働時間率上限値

シナリオ想定するリスク状況と

基準ケースから変更するシミュレーションパラメータ

想定するリスク対策と評価する

シミュレーションパラメータ

4種のシナリオでプロジェクトリスク対策効果を算出し、アンケート調査により有識者の経験との一致を評価

システムダイナミクスを用い,プロジェクト挙動シミュレーションシステム(Probes-SD0) を試作

シナリオ1シナリオ2

シナリオ3シナリオ4

0

2

4

6

回答者数

(人)

経験との一致

有識者に対するアンケート結果(N = 9名)

否定的な回答はない

シナリオ2と4に関しては「判断を付け難い」が多い

有識者アンケート調査では,情報サービス産業協会プロジェクトマネジメントコミュニティに御協力頂いた.感謝を申し上げたい.

自由記述による指摘内容 (多くの有識者に共通の指摘)シミュレーション結果自体は、実プロジェクトでの経験と良く一致した曲線を描いているリスクケースに対するリスク対策が現実的でないものがある・新規性リスクに対するレビュー強化施策

(シナリオ2: レビューに有識者がいなければ意味が無い)・遅延リスクに対する時間外労働時間緩和施策

(シナリオ4: 負荷集中するキーパーソン以外は意味が無い)

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

0.00 0.10 0.20 0.30 0.40 0.50 0.60

高コミュニケーションリスクケース

に対

する影

響(倍

)

コミュニケーション工数比率

期間 総工数

シナリオ毎のシミュレーション結果

シナリオ2

シナリオ1

シナリオ3

0.9

1.0

1.1

1.2

1.3

1.00 1.05 1.10 1.15 1.20

高進

捗遅

延リスクケースに対

する

影響

(倍)

時間外労働上限

期間 総工数

シナリオ4

増員による期間短縮の効果は極めて限定的

非現実的なほど増員した場合には,増員を行わない場合よりも期間・工数が増大

レビュー工数比率を高めることで期間が改善

レビュー工数比率が高すぎる場合には逆効果

コミュニケーション工数比率を高めることで期間が改善

コミュニケーション工数比率が高すぎる場合には逆効果

時間外労働時間率上限値の緩和は効果無く,モチベーション低下を招き,逆に総工数・期間が増大