1
KEYWORDS レーザーアブレーション(LA)、イメージングマススペクトロメトリー法、金 属元素の局在情報、イメージング分析、生理学・薬物学的動態 ABSTRACT PurposeLA-ICP-MSにて腎臓中のリチウム分布を可視化し、リチウ ムの生理的および薬理学的状況におる役割を考察することにしました。 MethodsThermo Scientific TM iCAP TM RQ ICP-MS Teledyne CETAC LSX-213 G2+ TM HelEx 2-volume cellレーザーアブレーション システムを組み合わせてイメージング分析を行いました。 Results:マウス腎臓の生理学的および薬理学的リチウム動態は、LA- ICP-MSで追跡できることが判明しました。将来、たとえば糖尿病性腎 症やNDIモデルのリチウムイメージングを取得することで、腎臓の病態 生理について多くのことが解明できることが期待されます。 INTRODUCTION リチウム塩は、主に双極性障害の気分安定薬としてもっとも効果的で広 く処方された薬の一つです。医療において、精神医学的および神経学 障害に対し有用性が認められている一方、リチウムの過剰投与は、諸 臓器に副作用を引き起こすことが知られています。たとえば、低用量リ チウムの短期投与は急性腎障害(acute kidney injuryAKI)の治療的 有効性がある一方、 長期間のリチウム過剰投与により腎性糖尿病腎 症(nephrogenic diabetes insipidusNDI)をきたすことはもっとも知ら れています。人々は年齢経過とともに、リチウムクリアランスの能力が 低下し、糸球体濾過後、濾過されたリチウムの80%が腎尿細管を介し て再吸収されます。 比較的高用量のリチウムを長期間使用することは、 尿の濃縮に携わる腎臓機能を損なう可能性があります。 このように、リ チウムは腎臓生理と病理においてそれぞれの過程で多彩な役割を果 たしているかもしれません。 MATERIALS AND METHODS Animals ヒトのリチウム投与モデルとしてC57BL6マウスを用い、200 mg/L600 mg/Lに調製した塩化リチウム溶液を飲料水として14日間投与しました。 血清リチウム濃度はアッセイキットにてモニターしました。モデルマウス の腎臓をクライオスタットにて10 m厚にスライスし、スライドガラス上に 固定したものをLA-ICP-MS測定用のサンプルとしました。 LA-ICP-MS 1. iCAP RQ ICP-MS パラメーター ネブライザーガスは、レーザーキャリアガスとして使用 2. CETAC LSX-213 G2+ レーザーアブレーションパラメーター Thermo Fisher Scientific • 3-9 Moriya-cho, Kanagawa-ku • Yokohama, Kanagawa 221-0022 • www.thermofisher.com Yasuo Kuroki 1 , Yuki Kuzuhara 2 , Kenta Iio 2 , Yoshiki Makino 3 , Takafumi Hirata 3 , Kazuto Honda 1 , Masaya Ikegawa 2 1.Thermo Fisher Scientific K.K., 2.Doshisha University faculty of life and medical Science 3.Graduate School of Science, The University of Tokyo Corresponding author email :[email protected] マウス腎臓中のリチウムイメージング分析における レーザーアブレーション-ICP-MSの有用性 TRADEMARKS/LICENSING © 2018 Thermo Fisher Scientific Inc. 無断複写・転写を禁じます。 ここに記載されている会社名、製品名は各社の商標または登録商標です。 Parameters Value Injector 2.5 mm I.D., quartz Interface High sensitivity version (2.5 mm), Ni cone RF power 1,550 W Nebulizer gas* 0.9 L/min Measurement mode STD CCT Bias -2 V Pole Bias -1 V Integration time 10 msec RESULTS 200 mg/Lおよび600 mg/L投与群の血清リチウム濃度は、対照群と比 較すると有意に上昇していることから飲料水自由摂取法でのリチウム 投与実験が成功していることが分かりました。LA-ICP-MSによるリチ ウムイメージングの結果、対照群の腎臓リチウム分布は腎盤に限られ ていたのに対し、投与群では腎盤の他、髄質にも顕著にリチウム分布 が見られました。また、投与群では皮質の外側、内側の一部にもリチ ウム分布が確認されています(図2.参照)。この分布パターンは大きさ や密度、局在などからネフロンを構成する糸球体の分布を示している ように見られている点は注目に値します(図3.参照)。腎臓の疾患の多 くは糸球体の機能低下が招くものであり、LA-ICP-MSによるリチウム イメージングによる所見からリチウムの腎糸球体病理を誘発している 可能性を示唆しています。 Optical Image LA-ICP-MS Lithium Image HE staining CONCLUSION LA-ICP-MSによるイメージングマススペクトリー法は、金属元素が生 体試料内で担う役割を解明するための手法として有効であることが証 明されました。本法は、試料中に内在する金属元素の情報を取得する 目的であれば特別な前処理を必要としません。一方、有機化合物に 金属元素を標識化し、この金属元素を検出することで間接的に有機 化合物の局在情報を得ることも可能です。LA-ICP-MSの高い選択性 と検出能力を応用することで生化学分野の解明と新たな知見をもたら すものと期待します。 ACKNOWLEDGEMENTS 本アプリケーション作成に多大なるご協力をいただいた同志社大学教 授池川雅哉先生に感謝いたします。 Parameters Value Sample cell HelEX 2-volume Laser wavelength 213 nm Laser fluence 1.2 J/cm 2 Laser frequency 20 Hz Spot size 50 m Scan speed 150 m/sec He carrier gas flow 0.8 L/min 1. iCAP RQ ICP-MS Teledyne CETAC LSX-213 レーザーアブレーションシステム 2. LA-ICP-MSによるマウス腎臓中リチウムのイメージング分析結果 上段:光学系イメージ、下段:LA-ICP-MSによるリチウムイメージ )対照群、200 mg/L投与群、600 mg/L投与群 3. 20週齢の雄性SDTラットにおける腎臓のHE染色 a:全腎臓、b:髄盤、c:髄質、d:内側皮質、e:外側皮質、黒矢印:糸球体 4. 腎臓(腎髄質および腎皮質)の構造図 WHAT IS LA-ICP-MS Role of each device FEATURES OF LA-ICP-MS Sample preparation マトリックスの選択や塗布など、前処理の知識や技術は不要です。 Data analysis ICP-MS分析は、既知の元素・同位体の質量を測定するだけです。 従って、タンパク質やペプチドなどの質量スペクトルのデータ解析は必 要ありません。 得られたイオン強度で検体の元素のイメージングデー タを簡単に得ることができます。 Obtain new knowledge by comparing the data between LA-ICP-MS and MALDI LA-ICP-MSの元素・同位体情報とMALDIの有機化合物情報を対比 することで、新たな知見を得ることができます。 Quantitative analysis 担当者にお問い合わせください。 固体試料サンプリング 元素のイオン化

マウス腎臓中のリチウムイメージング分析における …...Science, The University of Tokyo Corresponding author email :[email protected] マウス腎臓中のリチウムイメージング分析における

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: マウス腎臓中のリチウムイメージング分析における …...Science, The University of Tokyo Corresponding author email :yasuo.kuroki@thermofisher.com マウス腎臓中のリチウムイメージング分析における

KEYWORDS

レーザーアブレーション(LA)、イメージングマススペクトロメトリー法、金属元素の局在情報、イメージング分析、生理学・薬物学的動態

ABSTRACT

Purpose:LA-ICP-MSにて腎臓中のリチウム分布を可視化し、リチウムの生理的および薬理学的状況におる役割を考察することにしました。

Methods:Thermo ScientificTM iCAPTM RQ ICP-MS にTeledyne CETAC LSX-213 G2+TM HelEx 2-volume cellレーザーアブレーションシステムを組み合わせてイメージング分析を行いました。

Results:マウス腎臓の生理学的および薬理学的リチウム動態は、LA-ICP-MSで追跡できることが判明しました。将来、たとえば糖尿病性腎症やNDIモデルのリチウムイメージングを取得することで、腎臓の病態生理について多くのことが解明できることが期待されます。

INTRODUCTION

リチウム塩は、主に双極性障害の気分安定薬としてもっとも効果的で広く処方された薬の一つです。医療において、精神医学的および神経学障害に対し有用性が認められている一方、リチウムの過剰投与は、諸臓器に副作用を引き起こすことが知られています。たとえば、低用量リチウムの短期投与は急性腎障害(acute kidney injury:AKI)の治療的有効性がある一方、 長期間のリチウム過剰投与により腎性糖尿病腎症(nephrogenic diabetes insipidus:NDI)をきたすことはもっとも知られています。人々は年齢経過とともに、リチウムクリアランスの能力が低下し、糸球体濾過後、濾過されたリチウムの80%が腎尿細管を介して再吸収されます。 比較的高用量のリチウムを長期間使用することは、尿の濃縮に携わる腎臓機能を損なう可能性があります。 このように、リチウムは腎臓生理と病理においてそれぞれの過程で多彩な役割を果たしているかもしれません。

MATERIALS AND METHODS

■ Animalsヒトのリチウム投与モデルとしてC57BL6マウスを用い、200 mg/Lと600 mg/Lに調製した塩化リチウム溶液を飲料水として14日間投与しました。血清リチウム濃度はアッセイキットにてモニターしました。モデルマウスの腎臓をクライオスタットにて10 m厚にスライスし、スライドガラス上に固定したものをLA-ICP-MS測定用のサンプルとしました。

■ LA-ICP-MS表1. iCAP RQ ICP-MS パラメーター

• ネブライザーガスは、レーザーキャリアガスとして使用

表2. CETAC LSX-213 G2+ レーザーアブレーションパラメーター

Thermo Fisher Scientific • 3-9 Moriya-cho, Kanagawa-ku • Yokohama, Kanagawa 221-0022 • www.thermofisher.com

Yasuo Kuroki1, Yuki Kuzuhara2, Kenta Iio2, Yoshiki Makino3, Takafumi Hirata3, Kazuto Honda1, Masaya Ikegawa2

1.Thermo Fisher Scientific K.K., 2.Doshisha University faculty of life and medical Science 3.Graduate School of Science, The University of Tokyo Corresponding author email :[email protected]

マウス腎臓中のリチウムイメージング分析におけるレーザーアブレーション-ICP-MSの有用性

TRADEMARKS/LICENSING© 2018 Thermo Fisher Scientific Inc. 無断複写・転写を禁じます。

ここに記載されている会社名、製品名は各社の商標または登録商標です。

Parameters Value

Injector 2.5 mm I.D., quartz

Interface High sensitivity version (2.5 mm), Ni cone

RF power 1,550 W

Nebulizer gas* 0.9 L/min

Measurement mode STD

CCT Bias -2 V

Pole Bias -1 V

Integration time 10 msec

RESULTS

200 mg/Lおよび600 mg/L投与群の血清リチウム濃度は、対照群と比較すると有意に上昇していることから飲料水自由摂取法でのリチウム投与実験が成功していることが分かりました。LA-ICP-MSによるリチ

ウムイメージングの結果、対照群の腎臓リチウム分布は腎盤に限られていたのに対し、投与群では腎盤の他、髄質にも顕著にリチウム分布が見られました。また、投与群では皮質の外側、内側の一部にもリチウム分布が確認されています(図2.参照)。この分布パターンは大きさや密度、局在などからネフロンを構成する糸球体の分布を示しているように見られている点は注目に値します(図3.参照)。腎臓の疾患の多くは糸球体の機能低下が招くものであり、LA-ICP-MSによるリチウム

イメージングによる所見からリチウムの腎糸球体病理を誘発している可能性を示唆しています。

■ Optical Image

■ LA-ICP-MS Lithium Image

■ HE staining

CONCLUSION

LA-ICP-MSによるイメージングマススペクトリー法は、金属元素が生

体試料内で担う役割を解明するための手法として有効であることが証明されました。本法は、試料中に内在する金属元素の情報を取得する目的であれば特別な前処理を必要としません。一方、有機化合物に金属元素を標識化し、この金属元素を検出することで間接的に有機化合物の局在情報を得ることも可能です。LA-ICP-MSの高い選択性

と検出能力を応用することで生化学分野の解明と新たな知見をもたらすものと期待します。

ACKNOWLEDGEMENTS

本アプリケーション作成に多大なるご協力をいただいた同志社大学教授池川雅哉先生に感謝いたします。

Parameters Value

Sample cell HelEX 2-volume

Laser wavelength 213 nm

Laser fluence 1.2 J/cm2

Laser frequency 20 Hz

Spot size 50 m

Scan speed 150 m/sec

He carrier gas flow 0.8 L/min

図1. iCAP RQ ICP-MS と Teledyne CETAC LSX-213レーザーアブレーションシステム

図2. LA-ICP-MSによるマウス腎臓中リチウムのイメージング分析結果上段:光学系イメージ、下段:LA-ICP-MSによるリチウムイメージⅰ)対照群、ⅱ)200 mg/L投与群、ⅲ)600 mg/L投与群

図3. 20週齢の雄性SDTラットにおける腎臓のHE染色a:全腎臓、b:髄盤、c:髄質、d:内側皮質、e:外側皮質、黒矢印:糸球体

図4. 腎臓(腎髄質および腎皮質)の構造図

WHAT IS LA-ICP-MS

■ Role of each device

FEATURES OF LA-ICP-MS

■ Sample preparationマトリックスの選択や塗布など、前処理の知識や技術は不要です。

■ Data analysisICP-MS分析は、既知の元素・同位体の質量を測定するだけです。従って、タンパク質やペプチドなどの質量スペクトルのデータ解析は必要ありません。 得られたイオン強度で検体の元素のイメージングデータを簡単に得ることができます。

■ Obtain new knowledge by comparing the data betweenLA-ICP-MS and MALDILA-ICP-MSの元素・同位体情報とMALDIの有機化合物情報を対比することで、新たな知見を得ることができます。

■ Quantitative analysis担当者にお問い合わせください。

固体試料サンプリング

元素のイオン化