26
B5EB1029 伊藤燿 東北大学経済学部経営学科 プロ野球と地域貢献 楽天イーグルスを例として

プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

B5EB1029 伊藤燿

東北大学経済学部経営学科

プロ野球と地域貢献

楽天イーグルスを例として

Page 2: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

1

目次

はじめに ................................................................................................................................... 2

第 1章 理論編 ........................................................................................................................ 3

第 1節 プロ野球経営の CSR 活動 ..................................................................................... 3

第 1項 CSR の定義 ........................................................................................................ 3

第 2項 プロ野球チームのステークホルダー ................................................................. 3

第 2節 プロ野球界の現状 ................................................................................................. 3

第 1項 プロ野球における親会社の変遷 ........................................................................ 3

第2項 プロ野球経営のビジネスモデル ........................................................................ 5

第 3項 楽天イーグルスの現状 ...................................................................................... 6

第 3節 ソーシャルキャピタルの醸成、地域コミュニティの必要性について ................. 9

第 1項 ソーシャルキャピタルについて ........................................................................ 9

第 2項 地域コミュニティについて ............................................................................. 10

第 2章 ケーススタディ編 .................................................................................................... 12

第 1節 東北楽天ゴールデンイーグルス.......................................................................... 13

第 1項 球団概要 .......................................................................................................... 13

第 2項 CSR 活動の実例 ............................................................................................... 13

第 3項 CSR 活動の分析 ............................................................................................... 16

第 2節 他球団の CSR 活動 .............................................................................................. 18

第 1項 北海道日本ハムファイターズ .......................................................................... 18

第 2項 広島東洋カープ ............................................................................................... 19

第 3章 提言・まとめ ........................................................................................................... 20

おわりに ................................................................................................................................. 23

参考文献 ................................................................................................................................. 24

Page 3: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

2

はじめに

本論文では、プロ野球というスポーツの球団経営の中での CSR 活動を、地域の抱える課

題、地域コミュニティの減退にどう貢献していくことができるか、地域コミュニティを活

発化させるためのソーシャルキャピタルをどのように生み出していくかという観点から分

析していきたい。また、分析には仙台に拠点を置くプロ野球チーム、「東北楽天ゴールデ

ンイーグルス」の CSR活動を主な例として取り上げ、他球団の CSR活動との比較も交えな

がら分析していく。そして、ここでは、数あるプロスポーツチームの中で、プロ野球を選

定した理由を述べる。

個人的な理由になるが、筆者が小学生の頃から野球という存在、主に地元に籍を置く楽

天イーグルスという球団の存在に支えられていたというのを選定理由の1つとして挙げよ

う。2005 年から楽天イーグルスが仙台で始動し、気軽に球場に足を運んでプロ野球の試合

を見ることができるようになり、野球が好きだった筆者にとって込み上げるものがあった。

また、筆者の通っていた小学校に楽天イーグルスの選手が訪問に来てくださったことを今

でも覚えている。テレビで活躍している憧れの選手が自分たちに直々に野球を教えてくれ

る、そんな貴重な体験はなかなかないだろう。このように、筆者は子供に夢を見せること

のできる野球というスポーツに魅力を感じ、そしてその野球を通じ、将来の子供達のため

に、また地域活性のためにどういった活動ができるか、プロ野球を愛する筆者が勝手なが

ら考えていきたいと感じたのが個人的ではあるがプロ野球をテーマに取り上げた理由の1

つである。

先の理由は大変個人的ではあったが、2つ目の理由はプロ野球の現状にある。詳細は後

述するが、プロ野球は 12球団(独立リーグ、女子プロ野球を除く)とサッカーの「Jリー

グ」と比べて少ない。また、プロ野球経営は地域経営の J リーグと違い、大手企業が親会社

となることで、地域との関わりが Jリーグと比べ少なく、そのため CSR活動、地域貢献の

重要性が低いと見なされることが多いと感じる。筆者の所属するゼミナールでもそのよう

な意見が見受けられた。しかし、プロ野球経営も昔と今では違い、親企業の存在だけでは

足りないと感じている。プロ野球経営も地域住民の力、簡単な例で言えばファンの存在が

必要であることは当然であり、チーム状況がどうであれその球団を応援してくれるファン

の獲得には地域貢献活動による関係の構築が欠かせない。たとえ地域経営ではなくても、

地域との関わりを密にしていくこと、プロ野球だからこそできる活動があること、プロ野

球チームの CSR 活動の必要性などを、本論文を通じて論じていきたい。

稚拙ではあったが、これらの理由により本論文ではプロ野球に焦点を当てた。そしてプ

ロ野球経営の中での CSR活動、地域貢献活動の新たな可能性やロールモデルとなり得る姿

を見いだすことができるような提言につなげていきたい。

Page 4: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

3

第 1章 理論編

この理論編ではプロ野球の現状や楽天イーグルスについての説明、そして理論編の要と

なる「ソーシャルキャピタル」、「地域コミュニティ」についての定義や現状等をまとめ

ていく。

第 1 節 プロ野球経営の CSR 活動

第 1 項 CSR の定義1

まず、はじめに CSRの定義を簡単にまとめておく。

CSR とは、企業が社会や環境と共存し、持続可能な成長を図るため、その活動の影響に

ついて責任を取る企業行動であり、企業を取り巻く様々なステークホルダーからの信頼を

得るための企業のあり方 である。

本論文での企業とはプロ野球球団である。ではステークホルダーとはどのような者を指

すのか、以後述べる。

第 2 項 プロ野球チームのステークホルダー

プロ野球チームのステークホルダーと捉えられるのは、地域住民、選手、球団職員、ス

ポンサー企業、行政機関などである。詳細が後述するが、プロ野球チームの CSR 活動は、

内向け(球団職員や選手向け)の活動より、外向け(地域住民向け、地域密着型)の活動

が多いと言え、本論文でも地域密着型の CSR 活動について言及していく。

また、地域密着型の CSR 活動のメリットとして、相乗効果を挙げることができる。地域

住民の存在は、チームにとって球団経営を進めやすくもなり、球場に足を運んでくれる地

域住民の数が増えれば、選手のモチベーション向上にも繋がる。また、球団の存在は地域

住民にとっても、その地域の活性化、コミュニティの強化などプラスである。そのため、

地域密着型の CSR活動を進めることは、球団にとっても地域住民にとってもプラスであり、

合理的であると言える。

第 2 節 プロ野球界の現状

今更ではあるが、現在のプロ野球は、一般社団法人日本野球機構(NPB)の統括の下、

セントラル・リーグ、パシフィック・リーグと 2つのリーグで行われている。尚、ここで

はプロ野球の詳しい歴史等の説明は省略させていただく。

第 1 項 プロ野球における親会社の変遷

1 経済産業省 HP より引用

Page 5: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

4

ここでは、プロ野球界の親会社の変遷を見ることで、かつてのプロ野球経営と現在のプ

ロ野球経営の環境、状況の違いを認識していく。その上で、プロ野球経営の CSR 活動の必

要性、意義を論じていく。

まず、1960 年と、2018 年現在のプロ野球球団の名称変遷を簡単に表にした。

セントラル・リーグ

1960 年 2018 年

広島カープ 広島カープ

国鉄スワローズ 東京ヤクルトスワローズ

読売ジャイアンツ 読売ジャイアンツ

大洋ホエールズ 横浜 DeNA ベイスターズ

中日ドラゴンズ 中日ドラゴンズ

大阪タイガース 阪神タイガース

パシフィック・リーグ

1960 年 2018 年

西鉄ライオンズ 西武ライオンズ

南海ホークス 福岡ソフトバンクホークス

東映フライヤーズ 北海道日本ハムファイターズ

阪急ブレーブス オリックスバファローズ2

近鉄バファロー

毎日大映オリオンズ 千葉ロッテマリーンズ

東北楽天ゴールデンイーグルス3

さて、簡単に表にさせて頂いたが、次はそれぞれの親会社について言及していく。

1960 年のプロ野球球団の親会社には特徴があり、12 球団中 10 球団の親会社が鉄道系・

マスメディア系の企業なのである。

⚫ 電鉄系・・・阪神電鉄、阪急電鉄、国鉄4、南海電鉄、西日本電鉄、近畿日本鉄道

⚫ マスメディア系・・・読売新聞社、中日新聞社、毎日新聞、東映5

2 尚、オリックスバファローズは、オリックスブルーウェーブ(元阪急ブレーブス)と大阪

近鉄バファローズ(元近鉄バファロー)との合併でできた球団である。

3 楽天イーグルスは 2005 年新規参入の球団であるため変遷はない。

4 当時、国鉄は日本国有鉄道法により直接の親会社になることはできず、外郭団体である株

式会社国鉄球団によって運営されていた。

5 直接的にマスメディア関係の職種とは言えないが、メディア色が強いため便宜上マスメデ

ィア系に分類した。

Page 6: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

5

⚫ その他・・・大洋漁業、市民(広島カープは市民球団である。)

このように鉄道系・マスメディア系の企業が中心となっていたのは理由がある。

それは、プロ野球経営に「本社とのシナジー効果」を求めていたからだと考えられる。

シナジー効果とは企業活動においての相乗効果であるが当時のプロ野球経営によるシナジ

ー効果には以下のようなものがあった。

⚫ マスメディアとして試合を報道することによる拡散ツールとしての効果

(例 読売新聞による試合の報道により、新聞自体の拡散に繋がり、購読が増える。)

⚫ 新聞と共にチケットの販売をするという相乗効果

⚫ 野球観戦に行く際の電鉄利用促進

⚫ 鉄道沿線周辺商業施設の開発、誘客

このように1960年当時のプロ野球経営には本社の利益に直接的に繋がるような相乗効果

を目的とするものが多く、地域貢献などの活動にそこまで力を入れなくても十分に経営を

進めることができていたと考えられる。

では、現在のプロ野球の親会社はどうであろうか。現在は以下のように様々な業種の会

社が親会社となっている。

⚫ 食品系・・・ロッテ、日本ハム、ヤクルト

⚫ 携帯会社・・・ソフトバンク

⚫ 金融・・・オリックス

⚫ IT・・・DeNA,楽天

⚫ マスメディア・・・中日新聞、読売新聞

⚫ 鉄道・・・阪神、西武ホールディングス

⚫ 市民経営・・・広島

このように、1960 年に 12球団中 10球団の親会社が鉄道系、マスメディア系の企業だっ

たとは思えないほどの変遷があることが分かる。今や、シナジー効果があまり期待できな

いような IT企業でさえもプロ野球球団を持っている。鉄道系、マスメディア系の企業がプ

ロ野球経営から撤退したのには以下の理由が考えられる。

⚫ 鉄道沿線開発の一環としての役割もあり、沿線開発が完了してしまった後では利益を

見込めなくなった

⚫ 全国への広告(ニュースや新聞などでの)が特に意味をなさない鉄道系の企業にとっ

ては広告費などが赤字となった(鉄道会社にとって鉄道利用者が最大の顧客となるが、

全国への広告があっても直接利用者が増えるとは考えにくい)

マスメディアや鉄道といった地域色が強いものであると、シナジー効果があまり得られ

なくなり、赤字となってしまい、撤退を余儀なくされてしまったと考えられる。

さて、親会社の変遷もあり、今や IT 企業や食品系などの企業が球団を持つようになった

が、どのように経営を進めていくべきなのか。次項にてビジネスモデルについて言及する。

第2項 プロ野球経営のビジネスモデル

Page 7: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

6

次にプロ野球経営のビジネスモデルについて論ずる。これまでのプロ野球経営のビジネ

スモデルとしては、先にも挙げたとおり、本社業務とプロ野球のシナジー効果を利用し、

本社の利益を向上していくというものであった。これは、従来のプロ野球経営では、野球

を好きな人が、プロの試合を観戦する、という単純な経営でも十分に成り立っていたから

である。しかし、現在はどうだろうか。プロ野球経営において IT企業や食品産業などでは、

鉄道系の沿線開発などに比べて、直接的に利益を上げられるようなシナジー効果は期待で

きそうもない。さらに、野球自体の人気の低迷や他スポーツ(サッカーなど)の人気向上

により従来のようなプロ野球経営では広告費等の赤字が発生してしまう恐れがある。その

ため、試合をする、試合を報道するということの他に手段を講じなければならない。

そこで、必要となるのが「地域密着型」の経営であると考えられる。地域に密着し、地

域と連携をすることで地元の根強いファンの獲得に繋がる。具体的にはプロ野球選手と地

域の住民が直接触れあうことのできるイベントや、地域の商店街や自治体と連携し事業を

進めていくなどである。地域密着型の経営のメリットとしては、地元の根強いファン、チ

ームの状態に関わらず応援してくれるようなファンの獲得、試合以外にも通年的な利益獲

得などに繋がると言える。特に、プロ野球経営の事業構造としてファンの存在は必要不可

欠である。ファンの方が試合を見ることで、広告料、チケット代金、スタジアムフード等

様々なところで収益をあげることができるため、地域密着によるファン獲得は今やプロ野

球経営の必要条件となっていると言える。

このように、以前のプロ野球経営のように親会社さえ見ていれば心配はいらないという

経営ではなく、積極的に地域を意識した地域密着型の経営が、戦略的にも望まれているの

である。そのため、プロ野球でも CSR、または CSV6の活動が必要不可欠であると言える。

第 3 項 楽天イーグルスの現状

この項では筆者が本論文で主に取り上げさせていただく、楽天イーグルスの現状を分析

した上で、前項で挙げた地域密着による経営が有効なのかどうかを論じていく。

まず、楽天イーグルスのホーム開催試合による経済効果の推移をグラフにした。(図 1)

6 CSV(Creating Shared Value):共通価値の創造と定義づけられており、本業を活かしつ

つ社会的な価値も創造することを意味する

Page 8: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

7

年によって経済効果がマイナス推移している年もあるが、2013 年から 2017 年までを見る

と+に推移していることが分かる。楽天イーグルスが活躍し、成長していくことで宮城県

にも巨大な経済効果の波及を期待することができる。また、これはホームゲームの開催に

よる経済効果であり、これに加え、シティセールス機能や二軍戦などの開催によっても経

済効果が期待されており、宮城県の経済に大きく貢献をしている。

このことからもプロ球団が地域密着経営をしていくべきだということが言える。楽天イ

ーグルスに限らず、プロ野球はその籍を置く地域に経済効果をもたらしているため、経済

的な観点からしてもプロ野球球団はファンを増やし、活躍しつづけるべきである。持続的

に成長を続けるためには根強いファンの獲得が必要、そしてそのために積極的な地域密着

経営をすることが求められる。

次に、楽天イーグルスの年間観客者数の推移をグラフにした。(図 2)

こちらは顕著に年々増加しているのが分かる。2013 年に楽天イーグルスは日本一となった

が、それ以降は成績が振るった訳ではない。しかし、年々観客者が増えている。要因とし

ては現在楽天イーグルスが取り組んでいるテーマパークのようなスタジアム作りによる初

めての観客を増やす取り組みによるもの、そして地域密着活動によるファンの獲得などが

挙げられる。テーマパークのようなスタジアム作りとしては観覧車やメリーゴーランド、

子供が遊べる公園などをスタジアム側につくり。家族連れの観客を増やし、地域密着とし

ては選手と触れあう機会を設けるなど新しいファンの獲得に尽力しているのだ。そして、

0

50

100

150

200

250

2013年 2014年 2015年 2016年 2017年

10

0万単位

経済効果

経済効果

図 1 楽天イーグルス ホームゲーム開催による経済効果の年推移 (宮城県庁作成資料を参

考に筆者作成)

Page 9: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

8

これからのことを考えるとき、訪れたいテーマパーク作りという点には土地的な制限もあ

り、長い目で見たときにいずれ限界が来てしまうかもしれない。そのため地域密着活動に

より力を入れていくべきといえる。具体的には、地元の小学生や自治会の方々を試合に招

待し、新規のファンを獲得することや、選手と触れあう、選手とスポーツをする体験型の

機会を設けたりなどである。観客者数というものは親会社の存在だけではどうもできず、

その球団の努力が必要とされる。強い球団を目指しつつ、地域密着の活動にも力を入れる

ことが球団経営を支えることにも繋がるのだ。

図 2 楽天イーグルス 年間観客者数の推移 (宮城県庁作成資料より筆者作成)

最後に、同じ仙台に籍を置く、Jリーグのベガルタ仙台との比較を表にした。(図 3)

経済効果や、観客者数に関して楽天イーグルスの方が、規模が大きいのが分かる。J クラブ

は地域経営であり、クラブの数も多いため、一つ一つのクラブの規模が大きくないと言う

ことは当然ではあるが、プロ野球チームの存在がその地域に経済的に良い影響を与えると

いうことには違いない。そのため、持続的な成長が求められる。それにはやはり、プロ野

球経営にも地域密着的な活動が必要というのは自明である。地域経営の J リーグと比べると、

プロ野球経営に地域密着経営、CSR 活動が必要ない、重要ではないという意見は今や通用

しないと言える。

また、プロ野球には Jリーグや他のスポーツに比べて、情報発信力に長けている。新聞の

一面に取り上げられるのはプロ野球の話題が比較的多く、そういった面で差別化を図るこ

ともできる。プロ野球の情報発信力を活かし、地域貢献、地域連携を発信し、他のスポー

118

135 141151

166

0

50

100

150

200

2013年 2014年 2015年 2016年 2017年

10

0万単位

年間観客者数

年間観客者数

Page 10: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

9

ツ経営に影響を与える、地域密着の重要性、可能性を広めていくことができるのもプロ野

球ならではの地域密着経営といえるだろう。

2016 年 楽天イーグルス ベガルタ仙台

ホームゲーム数 67 試合 20 試合

年間観客者数 約 151 万人 約 28 万人

1試合平均観客者数 約 2 万 2000 人 約 1 万 4000 人

経済効果(A+B) 213 億円 24 億円

直接効果(A) 129 億円 15 億円

1次・2次波及効果(B) 84 億円 9 億円

誘発される雇用者数 2006 人 223 人

図 3 2006 年の楽天イーグルス、ベガルタ仙台における各項目の比較(宮城県庁作成資

料より筆者作成)

と、この第 2 節では、プロ野球経営も昔と今では違うこと、そしてプロ野球には大きな

影響力があり、これからの可能性も十分に秘めていること、それらを踏まえ、プロ野球経

営の中で、地域密着型を取り入れ、持続可能性の高い球団を作り上げていくことが求めら

れているということを、くどいようではあるが論じさせていただいた。次節では地元のフ

ァンを獲得するためと言っても過言ではないプロ野球の地域密着経営が、実際にどのよう

な地域貢献に繋がる可能性があるのか、どのような社会問題の解決に繋がりうるのか、つ

まり CSVの活動としても捉えうるのかということを論じていく。

第 3 節 ソーシャルキャピタルの醸成、地域コミュニティの必要性について

この節では理論編の要となる、ソーシャルキャピタル、地域コミュニティについての説

明、また、プロ野球がソーシャルキャピタルの醸成にどう関わることができるか、そして

プロ野球の CSR 活動が現在社会問題にもなっている地域コミュニティの希薄化を食い止め

るべくどう貢献でき得るかということを論じていく。

第 1 項 ソーシャルキャピタルについて7

まず、ソーシャルキャピタルの定義として、明確な定義に関しては議論があり、普遍的、

一般的な定義があるわけではないが、ソーシャルキャピタルという概念を社会学全般に普

及させた、パットナムの考え方を中心に考えていく。パットナムはソーシャルキャピタル

を、

[人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることができる「信頼」、

7 内閣府 HP を参考にした。

Page 11: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

10

「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴]8と定義づけている。

それは、人々の互酬性の規範と、市民活動への積極的参加のネットワークにより社会的

信頼が得られ、またそれにより、さらに市民活動が活発になり、それがまた信頼を強めソ

ーシャルキャピタルをさらに豊かにしていくという相互強化的な関係があるとされている。

このように、ソーシャルキャピタルの豊かさと市民活動の活発さには正の相関があると言

える。

では、実際に野球というスポーツはソーシャルキャピタルの培養にどのように貢献でき

るのであろうか。まず、具体的な活動については後述するが、プロ野球チームが行う地域

貢献活動には、野球教室、震災復興活動、環境保護活動など様々考えられる。こういった

活動を地域の人々と行うことで、地域住民間のコミュニケーション増加、団体意識の培養、

市民活動への参加促進が期待され、ソーシャルキャピタルが豊かになるのではないか。

例えば、野球教室では、子供の社交性向上や同じ世代の子を持つ親同士の交流などが期

待され、震災復興活動や環境保護活動などは共通の目的を設定することで、住民間の協調

行動を促すことができ、市民活動が積極的になるなどの効果が期待される。したがってプ

ロ野球チームによる地域貢献活動はソーシャルキャピタルの培養に効果的であると言える。

第 2 項 地域コミュニティについて9

前項ではソーシャルキャピタルの意義について論じたが、そもそもソーシャルキャピタ

ルを豊かにすることのメリットは何か。私は地域コミュニティの醸成をメリットの一つと

して挙げたい。

まず、地域コミュニティとは地域住民相互の様々な交流が行われている地域社会、ある

いはそのような住民の集団、町内会や自治会、子供会や地域の消防団などが挙げられる。

地域コミュニティの役割としては以下のものが挙げられる。

⚫ 生活に関する相互扶助

→災害時の住民同士の救助活動や安否確認、情報交換が円滑に行われる。また、地域住民

で子供を見守る地域子育てや、地域防犯、高齢者の生きがい確保などである。

⚫ 伝統文化などの維持

⚫ 地域全体の課題に関する意見調整

→まちづくりに関するものや、行政との意見調整などが円滑に行われる。

というように地域コミュニティは地域が効率的であり持続していくためには必要不可欠な

ものであると言える。ソーシャルキャピタルが豊かになれば、市民活動も活発になり、そ

れがまた他の協調行動を誘発し、社会的信頼を育むことができる。その結果、住民同士の

関わり合いも増え、相互扶助の精神を持った地域コミュニティといったものが醸成されて

8 「Making Democracy Work」 by Robert David Putnam (1993)より

9 国土交通省 HP、総務省HP を参考にした。

Page 12: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

11

いくだろう。これがソーシャルキャピタル培養のメリットである。

さてここからが問題であるが、地域コミュニティが必要不可欠なものと言ったが、現在

その地域コミュニティは希薄化の一途を辿っている。地域コミュニティが希薄化し、崩壊

してしまえば、高齢者の孤独死や地域犯罪の増加、地域文化の停滞、地域ブランドの低下

など様々な弊害を引き起こしてしまう。現在、この地域コミュニティの希薄化は社会問題

として捉えられているが、以下に簡単ではあるが、地域ごとの現状と、希薄化の原因をま

とめた。

[地域コミュニティの現状]10

都市部 中間部 過疎地

地域コミュニ

ティの現状

人口は多く経済活動は

活 発だが、長期定着人

口や居住地の昼間人口

は少なく、 地縁的なつ

ながりや共通の 価値

観は希薄か皆無。

地縁的なつながりは

比較的強いが、都市化

が進み、地縁的なつな

がりは徐々に希薄化。

農林漁村が多く、地縁

的なつながりは比較

的強いが、地域経済の

縮小、人口減少・高齢

化によりコミュニテ

ィ の維持が困難な場

合も。

[地域コミュニティ希薄化の原因]11

⚫ 昼間地域に人がいなくなることによる関わりの希薄化

→都市部などでは出勤などで昼間人がいなくなってしまう。

⚫ コミュニティ活動のきっかけにもなる子供の減少

→少子化による子供の減少が、子供会の縮小や町内会での繋がりが希薄に。

⚫ 住民の頻繁な入れ替わりによる地域への愛着・帰属意識の低下

→主に都市部では住民の入れ替わりが多い。仙台でもそういった傾向が見られるだろう。

⚫ 住民の意識の変化、SNSの発達による直接的関わりの希薄化

→そもそも地域の人々の関わりを面倒に思うといった意識の変化と、SNS の発達で顔を合

わすことなく人と関わることができる時代の到来により地域住民が直接関わる機会そのも

のが減っている。

このように、地域コミュニティは地域の存続、発展に必要不可欠なものでありながら、

現在地域コミュニティが縮小し、機能が損なわれているという問題が生じている。そこで、

プロ野球経営の中で、地域貢献活動をすることにより、この問題の解決に繋げることはで

きないだろうか。プロ野球の地域貢献活動は地域コミュニティのきっかけでもある「子供」

向けのものが多く、また、球団の存在は地元住民の帰属意識を醸成する可能性もあり、貢

献できる可能性は十分にあるだろう。もちろん、現在のプロ野球経営の中での地域貢献活

10 総務省作成資料(2007)より引用

11 総務省作成資料(2007)を参考に作成

Page 13: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

12

動、CSR 活動を行う目的が「地域の諸問題の解決」というより「地元のファンの獲得」と

いうものに重きを置いているのは実際問題仕方のないことではあるが、同時的に地域コミ

ュニティの醸成にも繋がるような活動を行うことができれば球団の利益(=ファンの獲得)

と社会的価値の創造(=地域コミュニティの醸成、社会問題の解決)を達成する CSV の活

動となり得るのではないだろうか。

以上のことを踏まえ、プロ野球チームは球団経営の中で、地域コミュニティの醸成とい

う観点から社会的価値を創造しつつ、球団の利益にも繋がるような活動、CSR 活動から CSV

の活動を目指すべきである。という課題を設定し、次章のケーススタディ編にて実際のプ

ロ野球チームの地域貢献活動を分析していく。

また、その際に以下の 3 つ基準を設け分析をしていく。

⚫ 全ての年齢層を対象にできているか、世代や性別に差はないか。(平等性)

⚫ 地域ごとに差はないか。(均等性)

⚫ 独自の活動が行われているか。他球団との差別化を計ることができているか(独自性)

各基準について簡単な説明をさせていただくが、平等性に関しては先に記したとおり、

プロ野球経営の地域貢献活動は子供向けのものが多いイメージがあるが、高齢者や女性向

けの活動は行われているかといった点を分析する。均等性は地域内で地域貢献活動の質や

量といったものに差はできていないか、また、その差をどのようにカバーするのかといっ

たところに注目して分析する。主に取り上げる楽天イーグルスは他の球団と違い、東北に

籍を置くため県内の差だけでなく東北6県の中で差ができていないかなどを分析していく

必要がある。最後に独自性では、プロ野球に限らず、スポーツチームの地域貢献活動の内

容は似たりよったりなものになりがちであるため、野球ならでは、そしてそのチームなら

ではの独自の活動を行うことができれば、地域貢献の面でも差別化を図ることもできる。

そういった、独自の活動を行うことができているかという点に注目して分析を行う。

以上、理論編では現在のプロ野球界の現状からプロ野球の経営形態に関わらず地域密着

経営は必要とされ、これからも積極的に進めていく必要があること、そして、ソーシャル

キャピタルと地域コミュニティの関係性から、ソーシャルキャピタルを強め、地域コミュ

ニティの醸成に繋げられるような活動を行うことがプロ野球の地域貢献活動の課題であり、

目標とするべきであるということを論じた。次章では実際の球団を取り上げ、分析してい

く。

第 2章 ケーススタディ編

この章ではケース編として実際のプロ野球球団の地域貢献活動を取り上げ、先の理論編

で挙げた課題や基準を用いて分析していく。また、分析に挙げさせていただく球団として、

Page 14: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

13

中心に東北楽天ゴールデンイーグルス、他球団との比較の際に北海道日本ハムファイター

ズ、広島東洋カープなどを取り上げる。

第 1 節 東北楽天ゴールデンイーグルス12

第 1 項 球団概要

東北楽天イーグルスは仙台市に本籍を置きながら、東北のプロ野球チームとして活躍し

ている。会社名は「株式会社楽天野球団」で、2004 年 10 月 29日に設立された。楽天イー

グルスは 2004 年の球界再編問題の中、新規参入球団として認められ今に至る。そのため、

他の球団と比べるとまだ歴史は浅く、さらなる成長が期待されている球団である。

経営理念として、「私たちは,野球を通じて感動を創り、夢を与える集団である」と掲げて

おり、「強いチームの創造」、「地域密着の実現」、「健全経営の実現」という三位一体の経営

を経営方針としている。方針の一つでもある通り、東北という地域に密着しながら東北に

夢を与え、東北を元気づけていくという目的を持っている。

第 2 項 CSR 活動の実例

さて、ここからは楽天イーグルスが実際に行っている CSR 活動を紹介していく。

1.TOHOKU SMILE PROJECT 13

TOHOKU SMILE PROJECT とは株式会社樂天野球団が中心となって設立した任意団体

であり、イーグルスの復興支援活動である。法人や個人からの寄附金により子供達がのび

のびと体を動かすことのできるスポーツ施設を建設することを目的としており、それを通

じて「東北の復興・再生を手伝いたい」、「スポーツを通じて、地域の方々の笑顔を作り出

す場を作りたい」という想いの下、活動している。活動の仕組みのイメージを図にした。(図

4)

12 東北楽天イーグルス HPを参考にした。

13 樂天イーグルス・TOHOKU SMILE PROJECT 専用 HPを参考にした。

法人・個人

建設資金を寄付 TOHOKU SMILE

PROJECT

完成した施設を寄贈

完成した施設を寄贈

株式会社楽天野球団

寄附金募集、

建設、寄贈を

目的に団体

設立

Page 15: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

14

図 4 TOHOKU SMILE PROJECTの活動仕組みのイメージ

(TOHOKU SMILE PROJECT HP を参考に筆者作成)

TOHOKU SMILE PROJECT で、第一弾(H26年 3月~H26 12 月)で約 1億 9000 万の

募金が集まり、「相馬こどもドーム」を設立し福島県相馬市に寄贈した。相馬こどもドーム

ではボールなどの用具も無料で貸し出しされており、野球やフットサルなど種目を問わず

気軽に体を動かすことができる。9 時から 21 時まで利用できるため、地元の住民が気軽に

体を動かすことのできる場となっている。2015 年には楽天イーグルスが毎年行っているシ

ーズン報告会でもここが会場として使われ、ファンとの交流にも活用された。第二弾(H27

年 5 月~H28 年 3 月)では約 4920 万の募金が集まり、「大槌グリーンフィールド」を整備

し、岩手県大槌町に寄贈した。野球やサッカーが利用できる人工芝のグラウンドとなって

おり、地元のスポーツ団体などに利用されている。大槌町は東日本大震災で壊滅的な被害

を受けてしまったため、こういった施設の完成は復興の希望ともなっている。第 3 弾は現

在も募金を受け付けており、東北各地に「こどもスタジアム」の建設を目指している。こ

どもスタジアムは壁当て用のスペースや自由運動スペースが設けられ子供の運動を促進す

ることができる。第 1 次寄贈先には岩手県陸前高田市、宮城県南三町、福島県南相馬市、

第 2 次寄贈先には岩手県岩泉町、岩手県宮古市、宮城県石巻市、福島県福島市が決定して

いる。また、既に建設は進められており 2018 年 4 月には寄贈第一号として宮城県南三陸町

にて「南三陸こどもスタジアム」が完成しており既に多くの子供達によって利用されてい

る。

また、TOHOKU SMILE PROJECT の一環として「TOHOKU SMILE チャリティシート」

という活動も行っている。野球を通じて元気や夢を与えるという目的を達成すべく、地域

の子供達や福祉団体の方々を野球観戦に招待するというものであり、2017 年は約 3700 人

もの人を招待した。

このように、楽天イーグルスは CSR 活動の一つとして復興支援活動に力を入れており、

現在も精力的に活動を続けていることが分かる。

2.がんばろう東北 復興支援活動

TOHOKU SMILE PROJECT と関連して「がんばろう東北」という復興支援活動も行っ

ている。内容としては選手の被災地訪問による触れあい、被災地の方々を野球観戦に招待、

被災地での野球教室などを行っている。

しかし、現在は東北の被災地も着々と復興を進め、発展を目指し歩み出している。これ

からはイーグルスからの一方的な支援ではなく、発展しようとする地域の「やりたいこと」

を楽天イーグルスならではの方法で支えていくという双方向に関わり合うことができるよ

うな活動が求められている。実際に、陸前高田市では町の一体感を高めるべく、町開きイ

ベントにて町中に楽天イーグルスの応援フラッグを掲げている。また、震災で営業を停止

していた南三陸の海水浴場が復興した際、そのことを周知したいという南三陸の想いに応

Page 16: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

15

え、海水浴場でパブリックビューイングを行い集客するなどの活動もしている。

このように現在は、復興、発展を目指す被災地の「やりたいこと」を楽天イーグルスが

「表現」する形で復興支援活動に取り組んでいる。熊本や北海道で起きた地震や広島の豪

雨などもあり各地域に籍を置くプロ球団もこれから復興支援活動を行うのであろうが、楽

天イーグルスの双方向的な復興支援活動がこれからのロールモデルとなりうる。復興を目

指す地域に球団として何ができるかという観点から行う活動は独自性もあり、楽天イーグ

ルスならではといえるものにもなるかもしれない。

3.東北ろっけん活動

東北ろっけん活動とは楽天イーグルスが野球をはじめとしたスポーツ振興や、青少年の

育成、そして東北地方の地域活性化に貢献することを目指して行っている活動であり、そ

の名の通り、東北 6 県各地で活動している。具体的な活動として「未来塾」と「フレンド

シップジャーニー」を挙げる。

まず、楽天イーグルス「未来塾」とは、2009 年度から楽天イーグルスが行っている野球

を通じた地域密着活動である。「夢」や「目標」を持つことの大切さを元・イーグルスの選

手であるジュニアコーチなどが講師となり東北各地の小中学生に伝えている。体を動かし

て野球を体験することも行っているため、次世代育成だけでなく、子供達の健康増進にも

貢献している。もちろん野球の楽しさを伝えることにより、ファンの獲得にも繋がり、双

方にメリットのある活動となっている。

次に「フレンドシップジャーニー」とは楽天イーグルスの公式マスコットキャラクター

が東北の幼稚園や保育園を訪問し、オリジナルの体操で体を動かすことや、バットやボー

ルなどに触れてもらい野球に興味を持ってもらうことを目的とした活動である。こちらも

次世代育成や、健康増進に貢献している。幼い時期からスポーツの楽しさに気づく機会を

提供するという点では地域貢献として非常に評価できる。

これらの活動の他にも、学校訪問や女子向けのソフトボールクリニック(現在はやって

いないが)、東北の全ての新一年生にイーグルスキャップをプレゼントするなどの活動実績

があり、東北ろっけん活動は様々な活動を通じて、東北の地域に密着できていると評価す

ることができる。しかし、同時に課題もある。それは東北地域の中でも差ができてしまっ

ていることだ。例えば、2014 年の未来塾の開催数で言えば、宮城県では 55 校で行ってい

るのに対し、秋田県、青森県は 7 校、岩手県、山形県は 3 校、福島県は 9 校とかなり少な

くなっている。他の活動にも開催数に差が生まれてしまっている。本籍を仙台市に置いて

いるため、宮城県での開催が多くなるのは必然的ではあるが、「東北のチーム」である楽天

イーグルスとして、東北の中での地域差をどうにか埋めていく必要もあるのは間違いない

はずである。こういった地域差をどのように克服するかが楽天イーグルスの地域密着活動

の課題の 1 つとして考えられる。

Page 17: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

16

4.エコ活動14

楽天イーグルスはエコ活動にも取り組んでいる。エコステーションを設置し、来場者に

ゴミの分別を促すことで、来場者自身のエコ意識の啓蒙に繋げている。また、皿やコップ

などの包材を統一することで分別回収の効率化を図り、割り箸やプラスチック等はリサイ

クルすることで 2017 年は 33.9tの CO2 の削減に成功した。

また、エコ活動には市民ボランティアがスタッフとして活躍しており、積極的な市民活

動の場を提供できているとも言える。

5.地域連携活動

楽天イーグルスは地域連携活動も積極的に行っている。例えば、福島県田村市のあぶくま

洞鍾乳洞でパブリックビューイングを行い、地域の観光資源を発信した。球界初の試みで

あり、メディアでも取り上げられたため地域ブランドの向上に貢献している。他にも街の

賑わい創出のため、商工業協同組合と連携し仙台市東口に楽天イーグルスデザインのマン

ホールを設置したり、仙台空港の到着口に楽天イーグルスの広告を載せることで、仙台に

来た人、帰ってきた人に対して「仙台には楽天イーグルスがある」というプロモーション

をしたり、すずめ祭りなどの仙台の祭りにマスコットが参加し盛り上げたりなどしている。

東北の全ての小学校とも連携し、このように、東北を、地元を盛り上げたいという想いを

持った自治体や協議会などと楽天イーグルスが協働することで地元の賑わい創出や魅力開

拓に尽力している。

以上、楽天イーグルスが行っている地域貢献活動を説明してきたが、次項で理論編にて

挙げた課題と基準を用いて、楽天イーグルスの活動を分析していく。

第 3 項 CSR 活動の分析

この項では、楽天イーグルスの CSR活動を理論編第 3 節第 2 項で設定した課題と基準を

用いて分析していく。

改めて、課題とは「プロ野球チームは球団経営の中で、地域コミュニティの醸成という

観点から社会的価値を創造しつつ、球団の利益にも繋がるような活動、CSR 活動から CSV

の活動を目指すべきである。」というものである。楽天イーグルスの、地域コミュニティを

醸成しうるような活動ができているのであろうか。

前項で紹介した楽天イーグルスの CSR 活動がそれぞれどのように地域コミュニティ醸成

に貢献できているかを表にした。

CSR活動 地域コミュニティ醸成への関わり方

TOHOKU SMILE PROJECT 子供達が関わる機会の提供、若い世代が集まることで地

域コミュニティ活性化のきっかけにもなる。

14 楽天イーグルス CSR活動ページを参考にした。

Page 18: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

17

がんばろう東北 地元住民の一体感創出に貢献。復興に向けた住民の団体

意識が市民活動や地域の活気を上げることに繋がる。

東北ろっけん活動 若い世代の育成、東北各地での活動による住民の地元へ

の帰属意識の培養による地域コミュニティ創出へ。

エコ活動 ボランティアの活用による市民活動の促進。

地域連携活動 地域住民の団体意識培養、地域の活気を上げる。

結果として、楽天イーグルスの CSR 活動、地域貢献活動は地域コミュニティの醸成に貢

献できていると言える。球団として、最大の目的であるファンの獲得と、社会的価値の創

出を両立させているため、これらの地域貢献活動を改めて CSVの活動として続けていくこ

とが求められている。では、次に 3 つの基準に当てはめて、イーグルスの活動を分析して

いく。改めて、3つの基準とは、

⚫ 全ての年齢層を対象にできているか、世代や性別などに差はないか。(平等性)

⚫ 地域ごとに差はないか。(均等性)

⚫ 独自の活動が行われているか。他球団との差別化を計ることができているか(独自性)

という基準である。では順に当てはめていく。

まず、平等性に関してだが、楽天イーグルスの CSR 活動の対象は子供向けのものが多い

印象がある。未来塾や学校訪問、観戦招待や、TOHOKU SMILE PROJECT の施設などは

基本的な対象は子供向けのものであり、高齢者向けの活動は少ないと言わざるを得ない。

また、野球というスポーツの性質上、男性向けのものが多く、女性向けといえる活動はあ

まり多くはない。この点で平等性にやや問題があるように見える。地域コミュニティには

地域子育て、地域防犯などの役割もあるため、それを担う高齢者の存在が必要となる。高

齢者が市民活動へ積極的に参加し、高齢者同士の関わりを持つようになるきっかけを何か

球団の活動を通じて作り出すことができないかを考えるべきである。また、現代社会では

女性活躍の風潮が高まっており、女性活躍を支えるような活動を考えてよいかもしれない。

次に均等性に関してだが、これは前項の東北ろっけん活動の説明の際にも挙げたが、楽

天イーグルスの地域貢献活動はどうしても地域の差が出てしまっている。完全に東北の全

ての地域に均等に活動することは難しいといわざるを得ないが、差を縮小できるような工

夫が必要と言うべきである。

最後に独自性であるが、まず、野球教室や学校訪問などは他の球団も行っておりここに

は独自性を見いだすことはできない。TOHOKU SMILE PROJECT によるこどもドームな

どの施設寄贈に関しては、東北の広大な土地利用という点で他の都市圏ではできないよう

活動であり、東北ならではという独自性が見て取れる。また、震災復興活動に関しても、

前項でも挙げたが、復興がある程度進んできた東北だからこそ、双方向的な関わりによる

活動ができるという点で独自性があると言えるのではないだろうか。さらに楽天イーグル

スのような双方向的な復興活動は他球団に対して、または他のスポーツに対してのロール

Page 19: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

18

モデルともなり得るため積極的に推し進めていくべきものでもある。

さて、3 つの基準を用いて楽天イーグルスの CSR 活動を分析してきたが、これらを踏ま

え、楽天イーグルスの CSR、地域貢献活動の課題を 3つ設定する。

1.高齢者向け、女性向けの活動が少ないため、双方にメリットのある活動を考える。

2.東北地域の中で活動の量に差があるため、差の縮小に向けた対策・活動を考える。

3.独自性のある活動がさらに必要であるため、プロ野球ならでは、そして楽天イーグルスな

らではの活動を考える。

このように課題を挙げさせていただいたが、本論文の終盤にてこれらの課題を解決でき

るような CSR、CSV 活動案を提言していきたいと思う。しかし、その前に他球団の CSR 活

動も参考にしていく。高齢者向け、女性向け、独自性のある CSR 活動といった点で他球団

の活動からヒントを得ることにも繋がり、また楽天イーグルスの CSR 活動と比較すること

で先ほど挙げた課題や問題点等がさらに明確になるためである。次節では参考になるよう

な有用な地域貢献活動を行う他のプロ野球チームを挙げさせていただき、簡単にではある

が楽天イーグルスの活動との比較をしていく。

第 2 節 他球団の CSR 活動

第 1 項 北海道日本ハムファイターズ15

日本ハムファイターズは 1946 年にセネタースという名称で創立され、数々の変遷を経て

今に至る、現在北海道に籍を置くプロ野球チームである。日本ハムファイターズを例とし

て挙げたのには、CSR 活動に球団としてかなり力を入れており、またユニークな活動を行

っている印象を受けたためである。

まず、日本ハムファイターズは企業理念として「Sports Community」を掲げており、社

会的課題(高齢者や子供の健康増進など)の解決、運動機会の創出、食とスポーツと健康

の融合を目指して CSR 活動に取り組んでいる。これから、その活動例として参考になるよ

うなものを挙げさせていただく。

1,いきいき健やか!元気プロジェクト

高齢者向けの活動としてファイターズが毎年行っているのがこの「いきいき健やか!元

気プロジェクト」である。これは、地域の高齢者を対象に体育館や公民館でリアル野球盤

ゲームを通じて体を動かし健康増進を促す活動である。この活動は、健康増進だけでなく

高齢者の関わり合いを増やすことや、生きがいを創出することにも貢献でき、地域コミュ

ニティの強化にも繋がると言える。球団側からしても実際に野球に触れた高齢者が興味を

持ってくれたり、観戦に足を運んでくれたりするため活動の意義がある。双方にメリット

のある活動であり、楽天イーグルスの活動の課題としていた高齢者向け活動といったもの

15 日本ハムファイターズ HP を参考にした。

Page 20: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

19

ができている点で非常に評価できる。

2.農業女子 Fight!プロジェクト

日本ハムファイターズは地域貢献活動の一環として、北海道の農業後継者、新規就農者で

構成される若手女性農業者集団「LINKS」16の方々と連携し道産野菜を活かしアスリートの

体作りを考えていくという双方の発想を形にする活動をしている。活動内容としては、野

菜を作ったレシピを HP上で紹介したり、道産野菜を使った料理をスタジアムフードとして

販売したりしており、この活動は北海道の農業の底上げやブランド力の向上にも貢献して

いるだけでなく、女性活躍の観点からも有用な活動と言えるだろう。これも楽天イーグル

スの活動の課題として挙げた女性向けの活動ができているとして評価できる。

3.北海道大学との連携

大学病院や大学と連携してスポーツセミナーを開催することも活動の一環としてある。

セミナーではスポーツによる怪我の予防や処置の方法やパフォーマンス向上のためのトレ

ーニング方法を教えている。以上 3 つの活動だけ見ても、日本ハムファイターズは地域貢

献活動の中でも特に地域の健康増進に力を入れていることが分かる。

4.北海道 179市町村応援大使

これは、日本ハムファイターズが北海道の 179 市町村全てを応援していくというもので

あり、10年がかりで取り組む壮大なプロジェクトである。仕組みは毎年抽選で 18市町村を

選び、それぞれの市町村にファイターズの選手をランダムに割りあて応援大使となるとい

うものである。応援大使となった選手はその市町村を訪問し、ファンとの触れあいイベン

トや観光名所への訪問などを行っている。また、日本ハムファイターズ HPにて、その年に

選ばれた市町村の基本情報、名物、観光名所などを紹介しており、北海道の全ての市町村

の活性化、ブランド向上に努めている。この活動は北海道という広大な地域でもなるべく

均等に活動を行っているため、楽天イーグルスの課題としてあげた地域の差をできるだけ

縮小しているという点で評価できる。

他にも、ファイターズは読書啓蒙や地元のものづくり産業との連携などかなり広い範囲

で地域貢献活動に取り組んでおり、12 球団の中でも取り組みの多さはトップクラスといえ

る。特に上で挙げた活動に関しては楽天イーグルスの活動の課題を解決するためのヒント

を得ることにも繋がるため、今後日本ハムファイターズの地域貢献活動は注目していくべ

きものであると考える。

第 2項 広島東洋カープ17

16 2011 年に発足した女性農業者で構成される農業団体であり、北海道の農業の底上げや女

性の働き方の道を広げるため、交流会や勉強会などマルシェなどを開催している。(LINKS

HP より)

17 広島東洋カープ HP を参考にした。

Page 21: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

20

広島カープは 1949 年に創立された球団で、親会社のない市民球団として活躍している。

市民球団ということで、他の球団と比べると、市民との距離も近く地域貢献活動がやりや

すい環境でもある。それでは、広島カープが行っている CSR 活動を紹介していく。

1,スタジアム内での地域交流イベント

広島カープではホーム試合時に「○○PRデー」と名付けた地域交流のイベントを開催し

ている。○○には広島県の市町村(庄原市や三次市)などが入るが、市町村 PR の際はその

地域の特産品をスタジアム内で販売したり、イメージキャラクターとのダンスを披露した

りしてプロモーションを図っている。また、広島県の女子サッカーチーム・アンジュヴィ

オレ広島の PR デーも行うこともあり、グッズなどを販売している。スポーツの垣根を越え

地域を活性化させるという点において評価できる。

2.P3 HIROSHIMA

これは広島の、広島交響楽団・サンフレッチェ広島・広島東洋カープの 3大プロが、PRIDE

(誇り)・PASSION(情熱)・PROSPECT(期待)の 3 つの P の下に集結し、広島の地域活性

を図ることを目的にコラボレーション活動を継続していくプロジェクトである。活動内容

としては、広島の三大プロを体験できる企画をしたり、3大プロが同時に学校訪問をしたり

している。このプロジェクトは、それぞれ全く違う団体が広島を盛り上げるという共通目

的を持ち、協働している点で評価できる。三大プロが連携して地域貢献活動をすることで

より多くの人を対象に活動でき、情報発信や影響力といった点でも効果的である。

仙台でも、楽天イーグルスだけでなく、仙台 89 ナイナーズ、ベガルタ仙台という 3大プロ

スポーツチームが所属しているため、こういった事例は参考にできるのではないだろうか。

以上、他球団分析として、北海道日本ハムファイターズ、広島東洋カープを取り上げ、

地域貢献活動を見てきたが、高齢者、女性向け活動、他スポーツとの連携など、楽天イー

グルスの活動をよりよくするため参考にできる部分が多くあった。これを踏まえ、次章で

は楽天イーグルスの CSR 活動の課題を解決できるような活動案を提言していきたいと思う。

第 3章 提言・まとめ

さて、この章では、第 2 章第 1 節第 3項にて設定した楽天イーグルスの CSR 活動の課題

を解決できるような、かつ理論編で挙げた課題でもある地域コミュニティの醸成にも繋が

るような CSR 活動案を提言していきたいと思う。まず、改めて、挙げさせていただいた楽

天イーグルスの活動の課題は、

1.高齢者向け、女性向けの活動が少ないため、双方にメリットのある活動を考える。

2.東北地域の中で活動の量に差があるため、差の縮小に向けた対策・活動を考える。

3.独自性のある活動がさらに必要であるため、プロ野球ならでは、そして楽天イーグルスな

らではの活動を考える。

Page 22: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

21

の 3つである。これらの課題の解決に向けた CSR案を提言する。

提言① スタジアムボランティア、スポーツボランティアに高齢者を活用する。

まず、高齢者向けの活動としてスタジアムボランティア、スポーツボランティアの高齢

者活用を活発にすることが有用だと考える。エコステーションに配置する、警備スタッフ

として活動してもらう、また、野球教室でも指導者側として活躍してもらうなど活用法は

様々である。意義として、職をリタイアしてしまった高齢者がもう一度活躍する場を提供

することで、高齢者の生きがいを創出することができ得る。また、高齢者同士の関わりの

場も増えるため地域コミュニティの醸成のきっかけにもなり得るだろう。また、ボランテ

ィアとして活用するだけでなく、ボランティア向けのスポーツ大会や交流会などを開催す

るのはどうだろうか。スポーツ大会などは健康増進にも繋がるし、高齢者の楽しみも創出

することで、ボランティアに積極的に参加してくれる高齢者の方々も増えることが考えら

れる。さらに、スポーツボランティアとして活躍してくれた高齢者が地元でもコミュニテ

ィ組成に貢献してくれる可能性もある。スポーツ大会などを通じて体の動かし方や、野球

の簡単なやり方などを高齢者スタッフに伝え、それを高齢者が地元の子供たちに伝えるこ

とで地域コミュニティが活発になり、それにより高齢者による地域防犯や地域子育てが積

極的になる。スポーツボランティアは、球団としても人手不足を解消することができ、高

齢者側も活躍の場を与えられ、生きがいを得ることができる。また、少し遠回りではある

が高齢者ボランティアの活用が地域コミュニティの醸成に良い影響を与えることも間違い

ないと言える。そのため、改めて、高齢者のボランティア活用、ボランティア向けの交流

会などを CSR活動案として提言させていただく。

提言② 女子プロ野球との連携による野球教室の開催

次に、女子プロ野球チームと連携し男女問わず野球の楽しさを教えられるような野球教

室を開くというものを提案する。女性向けの活動という観点からの提案ではあるが、女性

でもレベルの高い野球をすることができるということを伝えることで野球は男がやるもの

というイメージを少しでも払拭することができるかもしれない。また、男性と女性では体

の作りが違うこともあり体の使い方も異なる。そのため、女子プロとイーグルスが連携す

ることで男女関係なく野球を教えることができる。女子プロ野球チームにとっても情報発

信力のより強いプロ野球と連携しての地域貢献活動になるため、自チームの活動を、メデ

ィアなどを通じて知ってもらうことにもなり、女性の野球人口が増えれば女子プロ野球界

自体が盛り上がる。イーグルスにとっても単純に野球に触れてもらう子供が増えることで

ファンの獲得に繋がる、また、イーグルスには東北ゴールデンエンジェルスというチアグ

ループもあるため、野球に興味を持つ女子が増えれば自然とチアの活動も活発になり、メ

ンバーも増えるだろう。このように、男女問わずに地域の子供達に野球振興ができ、健康

増進にも繋がり、女子プロ野球、イーグルスにもメリットがあるため、この活動は有用と

言えるのではないだろうか。これを 2つ目の提言とさせていただく。

提言③ 地域の自治体、自治会、協議会との地域連携の拡大

Page 23: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

22

これは現在もイーグルスが行っている活動であり目新しさを感じさせる提言ではないが、

これを拡大することが、課題 2 で挙げた、東北の中での地域の差を埋めることに繋がると

考えられる。東北には全部で 227 もの市町村があり、日本ハムファイターズの 179 市町村

応援大使のように長期スパンで各市町村に選手を応援大使として訪問させるのは難しさも

ある。それに移動といった面でも費用も時間もかなりかかってしまうので現実的ではない。

そこで、現在も楽天イーグルスが行っている地域連携活動を拡大させ、東北各地に「地元

を盛り上げたい」、「東北を盛り上げたい」という強い思いを持った自治体、自治会、協議

会の数を増やすことが解決に繋がるのではないだろうか。南三陸の海水浴場でのパブリッ

クビューイングも南三陸の方々が楽天イーグルスに協力を求める形で実現されたイベント

であったし、福島県あぶくま洞鍾乳洞でのパブリックビューイングも同じである。地元を

盛り上げたいという気持ちを持った地域の話を聞き入れ、積極的に連携することで、実際

に楽天イーグルスの選手が訪れずとも、楽天イーグルスとしてその地域の活性化に関わる

ことができる。東北各地で連携する地域が増やしていき、パブリックビューイングによる

集客、観光資源の周知や、楽天イーグルスの広告による一体感の創出などの活動をしてい

くことで、東北地域の中での地域貢献の量、質の差は少しずつ縮小されていくと考えられ

る。そのため、

これからも、東北を、地元を盛り上げたいという地域の声に耳を傾け、球団としてできる

ことを積極的に行っていくことが必要である。

提言④ 仙台 3大スポーツチームとの協働

これは課題 3 で挙げた独自性のある活動になり得る。先にも述べたが、仙台には、楽天

イーグルスだけでなく、仙台 89ナイナーズ、ベガルタ仙台という 3つのプロスポーツチー

ムが存在する。このアドバンテージを利用することが独自性ある活動に繋がるのではない

か。例えば、3大プロチームでの合同運動会を開催するのはどうだろうか。野球、サッカー、

バスケットボールといずれも人気のスポーツのプロ選手と一緒に体を動かす機会というの

は非常に有用である。また、その中で野球、バスケットボール、サッカーの体験をする機

会を設けても面白いかもしれない。参加者、主に子供達に様々なスポーツの楽しさを教え

ることもできる。また、仙台市は児童肥満率が年々増加傾向18にあるため 3大プロチームに

よる運動促進活動は、仙台市の肥満率上昇を抑えるきっかけにもなるかもしれない。

提言⑤ IT企業との連携、協働

これも親会社が IT 企業である楽天イーグルスならではといった提言になる。東北の IT

企業、IT に興味のある若者と連携してスタジアム内外で利用できる設備、アプリの開発な

どを考えるワークショップを開いてはどうだろうか。もちろんこれは楽天イーグルスの力

だけでは難しいと思われるので、各地域の自治体とも連携をしていくことが望ましい。東

北の若者のアイデアや地元企業のアイデアを活用することは現在東北全体が抱えている若

18 仙台市統計資料を参考にした。

Page 24: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

23

者の減少を食い止めるのに貢献できるかもしれない。また、野球×ITの設備、VR を使った

野球体験設備などをスタジアムだけでなくTOHOKU SMILE PROJECTの寄贈設備周辺に

設置することで地域活性にも繋がる。もちろんかなりの費用も時間もかかってしまうが非

現実的な話ではないだろう。親会社の業種を活かした独自性ある活動案として提言させて

頂く。

以上、5 つの提言を有用な CSR 活動案として挙げた。これを踏まえ、最後に簡単にではあ

るがまとめさせていただく。

野球というスポーツは「情報発信力」「影響力」に優れており、これを活かした CSR 活動

をすることでファンの獲得、球団の価値の上昇に繋がる。また活動によってはそれが地域

コミュニティの醸成といった社会的価値を高めるものになり、CSV の活動として認められ

るようにもなる。今後はそういった CSV の活動を全プロ野球チームが目指していくべきで

あるのだ。その中で、平等性、均等性に問題はないか、独自性のある活動ができているか

という点を検討していく必要があり、各球団がそれらの基準に配慮し、地域貢献活動を行

うことにより、互いに良い影響を及ぼし合い、プロ野球経営の中での地域貢献がよりよい

ものになっていくのである。先の提言も楽天イーグルスの地域貢献活動の課題解決の策と

してさせていただいたものだが、もちろん他の球団の活動に当てはまる部分も多い。この

提言がプロ野球の地域貢献の新たな可能性を生み出すことに少しでも貢献できれば幸いで

ある。

おわりに

本論文ではプロ野球経営の中での地域貢献というテーマを、楽天イーグルスを中心に挙

げながら考えてきた。筆者自身、プロ野球ファンとしてプロ野球の CSR 活動について研究

したいと思ったのがきっかけとなった。実際に調査を進めていく中で、楽天イーグルスだ

けでなく 12球団全てのプロ野球チームが球団経営の中で地域貢献活動にしっかりと力を入

れ、地域の状況と真剣に向き合い、地域と共に歩んでいこうとしていることが分かった。

プロ野球の一ファンとして、これからも地域に密着し、共に前に進もうとするプロ野球を

応援していきたいと思う。

最後になるが、本論文を書くに当たって様々な方のお力添えがあった。特に楽天野球団

の地域連携部の方にはお忙しい中貴重なお話を頂くことができた。この場を借りて改めて

感謝申し上げたい。また、様々なアドバイスをくださった高浦先生、論文の質を高めてく

れるような質問、アドバイスをくださった高浦ゼミナールの皆様にも感謝申し上げたい。

Page 25: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

24

参考文献

東北楽天ゴールデンイーグルス HP

https://www.rakuteneagles.jp/

東北楽天ゴールデンイーグルス TOHOKU SMILE PROJECT HP

https://www.rakuteneagles.jp/tohoku-smile/

相馬観光ガイド 相馬こどもドーム

http://soma-kanko.jp/trip/soma-kodomo-dome/

北海道日本ハムファイターズ HP

http://www.fighters.co.jp/

広島東洋カープ HP

http://www.carp.co.jp/

Page 26: プロ野球と地域貢献 - Tohoku University Official ...takaura/18hikaru.pdf · となることで、地域との関わりがj リーグと比べ少なく、そのためcsr 活動、地域貢献の

25

経済産業省 HP CSRの定義

http://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/

内閣府 ソーシャルキャピタル

https://www.npo-homepage.go.jp/toukei/2009izen-chousa/2009izen-sonota/2002social-ca

pital

国土交通省 地域コミュニティの衰退

http://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h17/hakusho/h18/html/H1022100.html

総務省 HP

http://www.soumu.go.jp/

長崎県 HP 地域コミュニティについて

https://www.pref.nagasaki.jp/bunrui/kurashi-kankyo/sumai/community/imi/

宮城県庁 HP

http://www.pref.miyagi.jp/

広島っぷ

https://hiroshimap.info/about-carp/

総務省 HP 東北総合通信局

http://www.soumu.go.jp/soutsu/tohoku/tetuduki/bousai.html

統計データから見る仙台市の現況

https://www.city.sendai.jp/kenkosesaku-zoshin/kurashi/kenkotofukushi/kenkoiryo/chosa/k

ekaku/ikikishimin/documents/shiryou1.pdf