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海 事イノベーション 海事イノベーションの推進について 海事産業におけるデジタライゼーションの進 展 や 熾 烈 化 する国 際 競 争 の 中 、国 土 交 通 省 で は、自動運航船の実現に向けた取組の加速化 をはじめとして、 IoTを活用するi-Shippingな ど、海 事 イノベ ーション 実 現 の た め の 取 組 を 官 民一体で推進しています。 ここで は 、今 後 の 海 事 業 界 に 新しい 価 値 や サ ービスを創出し、大きな革新をもたらすと期待さ れる、国 や 民 間 企 業 による海 事イノベーション に 関連する最新の取組をご紹介します。 船舶は、法令により検査や測度を受ける ことが義務付けられています。(検査業務 については特集④ 海のお仕事紹介をご 覧下さい。) デジタライゼーションが進展する中、 この船舶検査・測度の分野においても、 一層の品質向上や検査時間の短縮によ る受検者の利便性向上等が期待されて います。 国土交通省では、「新たな船舶検査・ 測度制度の構築」に向けた取組として、 ①新技術導入、②データ活用、③手続き の電子化の3つのテーマに取り組んでお り、今年度から、遠隔技術の検査・測度 の現場への導入を開始しました。 地球温暖化対策が喫緊の課題となって い る 中、2018 年 4 月 に 国 際 海 事 機 関 (IMO)は、今世紀中早期の温室効果ガ ス排出ゼロ(GHG ゼロエミッション)等を 目指す中長期目標に国際合意しました。 (GHG 削減戦略) 世界の経済成長に伴い、有効な対策を 講じないと国際海運からのGHG排出量 が増加を続けることが予想される中、目 標達成にはイノベーションが必須です。 国土交通省は、我が国海事産業にイノ ベーションを促すような国際競争環境を 整備することで、地球温暖化対策への貢 献と海事産業の持続的発展の両立を目指 します。 新たな船舶検査・測度制度の 構築に向けた取組 環 境イノベーション ( G H G ゼ ロ エミッション ) colu mn colu mn 左:GHG 削減戦略の国際合意に尽力した 斎藤 英明議長(海事局船舶産業課長) 右:IMO 山田 浩之海洋環境部長 造船所の船舶や工場で 製造中の舶用機器等を、 検査官が事務所から映 像・音声で確認。 船舶検査における 遠隔技術の導入 海難事故の多くは人の操作や判断ミス(ヒューマンエラー)によるものです。私たちが開発している「自律 操船システム」は、船員の“サポート役”として安全な航海を支えるシステムです。船の種類や大きさ、天候、 周囲の状況等からシステムが安全な航路を導き出し船員に提案することで、船員の労働負荷を低減し、ヒュ ーマンエラーを未然に防止します。 船は、自動車や飛行機と比較すると急な操作が困難であり、障害物の発見から回避や停止まで時間がかか ることから、船員は予め危険を察知し安全な航路を考えて操 船しています。「自律操船システム」は、本船の動作、気象・ 海象、海域内の他船の動き等、様々な条件から、最も安全で 効率の良い航路を船員に代わって“考える”システムの開発を しています。ただし、このシステムだけでは理解できない想定 外の状況や機械自体のトラブルなど、船員でなければ対処で きないことも起こり得ます。目指しているのは、人とシステム が力を合わせて船を走らせる技術を確立すること。これを日 本から世界へ発信し、さらに船の運航を安全なものにしたい と思います。 私 たち が 開 発して いる「 MaSSA(the Maintenance system for Soundness Sailing Ability)」は、機器のトラブ ルなどのリスク対処を船内で自ら実施し、健全な航行性能を 維持するシステムです。様々なリスクを「察知」して未然に「回 避」し、万が一トラブルが発生しても早急に「回復」を図る。こ の「察知」、「回避」、「回復」の3つの機能を発揮するシステム を AI を活用して構築し、何があっても止まることなく安全に運 航する船を実現させます。 船は正常な運航を保つために各機器からさまざまなデータ を集めています。機器が故障する前には必ず予兆があり、トラ ブルを未然に防ぐにはこれを察知し、適切に対処することが重要になります。しかし、各機器から得られる情 報は多種多様で、ある程度の経験や能力を有する船員でないと原因の特定が困難なケースもあります。そこ で、すべての機器をつないだ船内ネットワークの構築とAI の活用によって、トラブルの元を事前に探り出し、 故障や事故を未然に防ぐシステムを開発しています。今後、他社や大学などとの協力によってシステムを完 成させ、「何があっても止まらない船」を実現し、世界の船舶による物流を支援していきたいと思っています。 BEMAC株式会社  マーケティング本部 東京支社 支社長 多田雅英さん イノベーション本部 東京データラボ 室長 村上 誠さん 民間の 取組 「 何 が あっても止まらな い 船 」の 実現を目指す 三井 E&S 造船 株式会社 企画管理本部 事業開発部長(兼)自律操船システム事業推進室長 平山明仁さん 博士(工学) 企画管理本部 事業開発部 自律操船システム事業推進室 主管 村田 航さん 博士(工学) 民間の 取組 未 来 の“ 思 考 する船 ”を開 発 ▲海事イノベーションの推進により、新たな価値を創出 ©(一財)日本海事協会 09 海事レポート 2019 10

海事イノベーション - MLIT › common › 001299265.pdf海事イノベーション 海 て 海事産業におけるデジタライゼーションの進 展や熾烈化する国際競争の中、国土交通省で

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Page 1: 海事イノベーション - MLIT › common › 001299265.pdf海事イノベーション 海 て 海事産業におけるデジタライゼーションの進 展や熾烈化する国際競争の中、国土交通省で

海事イノベーション

海事イノベーションの推進について

  海 事 産 業 におけるデジタライゼーションの 進展 や 熾 烈 化 する国 際 競 争 の 中、国 土 交 通 省 では、自動 運 航 船 の 実 現 に 向 け た 取 組 の 加 速 化をはじめとして、IoT を 活 用 するi-Sh ipp ing など、海 事イノベーション 実 現 の た め の 取 組 を官民一体で推進しています。 ここでは、今 後 の 海 事 業 界に新しい価 値や サービスを創出し、大きな革 新をもたらすと期 待される、国や 民間企業による海事イノベーションに関連する最新の取組をご紹介します。

船舶は、法令により検査や測度を受けることが義務付けられています。(検査業務については特集④ 海のお仕事紹介をご覧下さい。) デジタライゼーションが進展する中、この船舶検査・測度の分野においても、一層の品質向上や検査時間の短縮による受検者の利便性向上等が期待されています。 国土交通省では、「新たな船舶検査・測度制度の構築」に向けた取組として、①新技術導入、②データ活用、③手続きの電子化の3つのテーマに取り組んでおり、今年度から、遠隔技術の検査・測度の現場への導入を開始しました。

 地球温暖化対策が喫緊の課題となっている中、2018年4月に国際海事機関

(IMO)は、今世紀中早期の温室効果ガス排出ゼロ(GHGゼロエミッション)等を目指す中長期目標に国際合意しました。

(GHG削減戦略) 世界の経済成長に伴い、有効な対策を講じないと国際海運からのGHG排出量が増加を続けることが予想される中、目標達成にはイノベーションが必須です。 国土交通省は、我が国海事産業にイノベーションを促すような国際競争環境を整備することで、地球温暖化対策への貢献と海事産業の持続的発展の両立を目指します。

新たな船舶検査・測度制度の構築に向けた取組

環境イノベーション(GHG ゼロエミッション)

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左:GHG 削減戦略の国際合意に尽力した  斎藤 英明議長(海事局船舶産業課長)右:IMO 山田 浩之海洋環境部長

造船所の船舶や工場で製造中の舶用機器等を、検査官が事務所から映像・音声で確認。

船舶検査における遠隔技術の導入

 海難事故の多くは人の操作や判断ミス(ヒューマンエラー)によるものです。私たちが開発している「自律操船システム」は、船員の“サポート役”として安全な航海を支えるシステムです。船の種類や大きさ、天候、周囲の状況等からシステムが安全な航路を導き出し船員に提案することで、船員の労働負荷を低減し、ヒューマンエラーを未然に防止します。 船は、自動車や飛行機と比較すると急な操作が困難であり、障害物の発見から回避や停止まで時間がかかることから、船員は予め危険を察知し安全な航路を考えて操船しています。「自律操船システム」は、本船の動作、気象・海象、海域内の他船の動き等、様々な条件から、最も安全で効率の良い航路を船員に代わって“考える”システムの開発をしています。ただし、このシステムだけでは理解できない想定外の状況や機械自体のトラブルなど、船員でなければ対処できないことも起こり得ます。目指しているのは、人とシステムが力を合わせて船を走らせる技術を確立すること。これを日本から世界へ発信し、さらに船の運航を安全なものにしたいと思います。

  私たちが 開 発している「MaSSA(the Maintenance system for Soundness Sailing Ability)」は、機器のトラブルなどのリスク対処を船内で自ら実施し、健全な航行性能を維持するシステムです。様々なリスクを「察知」して未然に「回避」し、万が一トラブルが発生しても早急に「回復」を図る。この「察知」、「回避」、「回復」の3つの機能を発揮するシステムをAIを活用して構築し、何があっても止まることなく安全に運航する船を実現させます。 船は正常な運航を保つために各機器からさまざまなデータを集めています。機器が故障する前には必ず予兆があり、トラブルを未然に防ぐにはこれを察知し、適切に対処することが重要になります。しかし、各機器から得られる情報は多種多様で、ある程度の経験や能力を有する船員でないと原因の特定が困難なケースもあります。そこで、すべての機器をつないだ船内ネットワークの構築とAIの活用によって、トラブルの元を事前に探り出し、故障や事故を未然に防ぐシステムを開発しています。今後、他社や大学などとの協力によってシステムを完成させ、「何があっても止まらない船」を実現し、世界の船舶による物流を支援していきたいと思っています。

BEMAC�株式会社  マーケティング本部 東京支社 支社長   多田雅英さんイノベーション本部 東京データラボ 室長 村上 誠さん

民間の取組

「何があっても止まらない船」の実現を目指す

三井E&S造船株式会社

企画管理本部 事業開発部長(兼)自律操船システム事業推進室長 平山明仁さん 博士(工学)企画管理本部 事業開発部 自律操船システム事業推進室 主管 村田 航さん 博士(工学)

民間の取組 未来の“思考する船”を開発

特 集

▲ 海事イノベーションの推進により、新たな価値を創出

©(一財)日本海事協会

09 海事レポート 2019  10