14
49 が発見したという言い伝えが残る温泉(群馬県の 草津温泉など)や,傷ついた動物が発見したとさ れる温泉(長野県の鹿教湯温泉など),源氏や平 氏,戦国武将と密接に関わりがあると言われる温 泉(栃木県の湯西川温泉,長野県の渋温泉など) もある。すなわち,日本人にとって,温泉は単なる 入浴の場所,あるいは入浴ツールという存在を超 えて,古来人々(時には動物)の傷を癒やし,健康 の増進や回復に寄与し,時には信仰の対象にすら なる極めて重要な存在であるといえよう。 期待される温泉の効果 温泉の大きな特長は,温泉の利用による多様な “ 効果”が 謳われていることにあるだろう。日本 温泉科学会(2005)は,温泉の効果として以下の6 問題と目的 環太平洋造山帯に位置する日本は温泉資源に 非常に恵まれており,我々日本人にとっては,温泉 の存在は極めて身近である。しかし,広く世界を見 渡せば,温泉資源が全くない国や地域も少なくな い。また,温泉が湧出していても,たとえばシンガ ポールのSembawang温泉のように浴用に供され ていないままとなっている場所や,米国ハワイ州ハ ワイ島のAhalanui Parkのように,海水浴の一環と してビーチパーク化されている場所もある。 わが国の歴史ある温泉地の中には,温泉神社 や温泉寺といった名の寺社が祀られていること が少なくない。また,大和武尊(ヤマトタケル)に 代表されるような古事記や日本書紀中の登場人物 温泉ツーリズム志向と温泉イメージの特徴を探る ―心理的要因との関連に着目して― An Analysis of Features of Hot Spring Images and Interest in Hot Spring Tourism: Focusing Attention on the Relationship to Psychological Factors Daiki SEKIYA Yuichi KAJI 関 谷  大 輝 加 地  雄 一 ** 注1 本研究の実施にあたり、回答収集や質問紙配布準備等において、植木貴子氏、髙橋育歩氏、福島法子氏の3氏を はじめ、多くの方にご協力をいただきました。ここに記して感謝いたします。 Daiki SEKIYA 福祉心理学科(Department of Social Work and Psychology) ** Yuichi KAJI 東京家政学院大学(Tokyo Kasei Gakuin University)

温泉ツーリズム志向と温泉イメージの特徴を探る ― …51 温泉ツーリズム志向と温泉イメージの特徴を探る ―心理的要因との関連に目して―

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49

が発見したという言い伝えが残る温泉(群馬県の

草津温泉など)や,傷ついた動物が発見したとさ

れる温泉(長野県の鹿教湯温泉など),源氏や平

氏,戦国武将と密接に関わりがあると言われる温

泉(栃木県の湯西川温泉,長野県の渋温泉など)

もある。すなわち,日本人にとって,温泉は単なる

入浴の場所,あるいは入浴ツールという存在を超

えて,古来人 (々時には動物)の傷を癒やし,健康

の増進や回復に寄与し,時には信仰の対象にすら

なる極めて重要な存在であるといえよう。

期待される温泉の効果

 温泉の大きな特長は,温泉の利用による多様な

“効果”が謳われていることにあるだろう。日本

温泉科学会(2005)は,温泉の効果として以下の6

問題と目的

 環太平洋造山帯に位置する日本は温泉資源に

非常に恵まれており,我 日々本人にとっては,温泉

の存在は極めて身近である。しかし,広く世界を見

渡せば,温泉資源が全くない国や地域も少なくな

い。また,温泉が湧出していても,たとえばシンガ

ポールのSembawang温泉のように浴用に供され

ていないままとなっている場所や,米国ハワイ州ハ

ワイ島のAhalanui Parkのように,海水浴の一環と

してビーチパーク化されている場所もある。

 わが国の歴史ある温泉地の中には,温泉神社

や温泉寺といった名の寺社が祀られていること

が少なくない。また,大和武尊(ヤマトタケル)に

代表されるような古事記や日本書紀中の登場人物

温泉ツーリズム志向と温泉イメージの特徴を探る―心理的要因との関連に着目して― 1

An Analysis of Features of Hot Spring Images and Interest in Hot Spring Tourism: Focusing Attention on the Relationship to

Psychological FactorsDaiki SEKIYA

Yuichi KAJI

関 谷  大 輝*

加 地  雄 一**

注1 本研究の実施にあたり、回答収集や質問紙配布準備等において、植木貴子氏、髙橋育歩氏、福島法子氏の3氏をはじめ、多くの方にご協力をいただきました。ここに記して感謝いたします。

  * Daiki SEKIYA 福祉心理学科(Department of Social Work and Psychology) ** Yuichi KAJI 東京家政学院大学(Tokyo Kasei Gakuin University)

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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 22 号(2015)

泉の諸効果を否定するものではなく,実際には,

これらの諸効果が相まって,総体的な温泉の効果

を構成しているものと考えられる。ここで重要なの

は,これらの諸効果を温泉入浴によってどの程

度享受できているかは,私たち一般の温泉利用者

には測定できないということである。つまり,温泉

の効果が具体的に定かではない中でも,私たちは

温泉に健康増進効果を期待し(岡田,2007),そし

て,訪れる温泉地選択のために,単なる沸かし湯

とは異なる温泉の効能を参考情報として用いるの

である(e.g., JTBパブリッシング, 2014)。

温泉志向とヘルスツーリズム

 上述のとおり,様々な効果が期待されている温

泉は,温泉療法(balneology)の側面からその有

効性や活用法について議論がおこなわれている

(e.g., Kotikova & Schwartzhoffova, 2013)。温

泉地が非常に多い地域のひとつであるヨーロッパ

では,温泉の活用において,療養や保養,健康保

持といった目的が重視されている(山村, 2004)。

しかし,本邦で温泉地に宿泊する客の約9割は観

光目的であるといわれる(山村, 2004)。このよう

に,温泉がレジャーとしての側面から取り上げら

れることが大半である本邦においては,科学的な

側面から温泉を検討する論考は多くないことが指

摘されている(日本温泉科学会, 2005)。

 近年,観光行動や観光目的の多様化にともなっ

て,健康増進や健康回復期待を伴った観光行動

である“ヘルスツーリズム(health tourism)”と

いう用語が広く用いられるようになった。もとも

と,ヘルスツーリズムという呼称は,ヨーロッパに

おける温泉療養に関する実態の報告書において

用いられたのが最初であるといわれる(IUOTO,

1973)。温泉利用の効果は,温泉療法的なアプ

ローチから医学,理学的に解明していくことも重

要である。しかし,本邦において,多様な余暇活動

を担うひとつの重要な観光資源として温泉ツーリ

種類を挙げている。すなわち,(a)温熱効果,(b)

浮力による効果,(c)静水圧による効果,(d)含

有成分による効果,(e)変調効果,(f)転地効果

といった諸効果である。

 しかし,これらの諸効果を批判的に検討すれ

ば,(a),(b),(c)のような物理的効果は,家

庭の浴槽でもある程度は享受することが可能で

あり,温泉プール内での運動療法(e.g. , 石田,

2001)といった本格的なリハビリテーションプログ

ラムでない限り,温泉に固有の効果とは断言しづ

らい。また,(e)についても,身体に変調効果を見

るには2~3週間の温泉療養が必要とされ(日本温

泉科学会, 2005),短期間のみ温泉を訪れる一般

の利用者が広くその効果を期待するのは困難と考

えられる。

 では,温泉の効果として特徴的ともいえる(d)

はどうであろうか。たとえば,温泉水中に炭酸ガス

を含有する炭酸泉では,明確な皮膚血流量の増加

や血管拡張作用が確認されているほか(大河内,

2003),酸性泉として有名な草津温泉での温泉療

法によってアトピー性皮膚炎の改善症例が報告さ

れているように(久保田・町田・田村・倉林・白倉,

1997),泉質によってはその効果を期待することが

できそうである。とはいえ,本邦の温泉の泉質の

過半数は食塩泉と単純泉で占められ,ここに挙げ

た炭酸泉や酸性泉は国内の温泉の2%あまりを構

成するに過ぎない(金原, 1992)。そのうえ,含有

成分が比較的少量である単純泉の温泉地の中に

も,いわゆる名湯として古くから人気を集める温泉

も多く,私たち一般の温泉利用者は,単に温泉の

含有成分による薬理的効果のみを期待していると

は限らない可能性がある。(f)に関しても,温泉と

は無関係の遠出や旅行であっても転地効果を享

受することは十分に可能であり,これも温泉に固

有の効果であると主張することは難しいと考えら

れる。

 もちろん,ここで取り上げた(a)~(f)に示す温

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温泉ツーリズム志向と温泉イメージの特徴を探る ―心理的要因との関連に着目して―

よって,温泉ツーリズムがどのような動因に基づく

ストレス対処行動であるのかが明らかになるであ

ろう。

 観光心理学分野では,観光動機に影響を与え

る心理的要因の検討は中心的課題のひとつとされ

ている。これと同様に,温泉志向に関しても,心理

学的な見地からその動機の構造や影響,効果に

ついて分析することは,温泉ツーリズムを健康増

進に有効に活用するための示唆を導き,ひいては

我々のウェルビーイングの向上にもつながるであろ

う。

本研究の目的

 本研究では,温泉をヘルスツーリズムの視点か

ら捉え,温泉に対する人々のイメージと志向の特

徴について検討する。その際,温泉施設と類似し

た温浴施設であるスーパー銭湯との対比を行いな

がら,温泉に対するイメージや期待の特徴を明ら

かにすることを試みる。具体的には,温泉イメージ

に関する調査による定性的データから,一般に温

泉の効果として期待されている事柄や温泉ツーリ

ズムの特徴について探索的に検討する。続いて,

心理的ストレス反応やコーピングスタイルと温泉志

向の関係について,定量的分析によって明らかに

することを目的とする。

方法

調査対象者および調査方法

 本研究では,インターネットを用いたウェブ調査

および印刷された質問紙の2つの手法を併用し,

大学生および一般社会人を対象とした調査を実

施した。調査期間は,2013年10月~2014年11月で

あった。ウェブ調査では,マクロミル社が提供する

アンケートサービスQuestantを用い,主にスノー

ボール法によって調査回答者を募った。また,印

刷された質問紙も同時期にスノーボール法およ

ズムがマーケットを形成していることを鑑みれば,

ヘルスツーリズムの視点から,温泉の効果や在り

方について科学的,実証的に検討を重ねていく試

みが必要であろう。

温泉志向に対する心理的要因の影響

 ここまで議論してきたように,一般の温泉利用

客が温泉の効果を定量的に測定する術を持たな

い中でも,なお温泉に対して何らかの効果期待を

持っているとすれば,それはすぐれて心理的な要

因が多大な影響を及ぼしていると考えるのが妥当

である。温泉ツーリズムには,たとえば,宿泊施設

や食事,周辺環境や入浴環境といった多様な要因

が存在し,これらの総合的な満足感をもって“温

泉の効果”とされていると考えられる。

 では,温泉利用客は,温泉に対して何をイメー

ジし,どの程度温泉に訪れたいという志向を有し

ているのであろうか。また,一般に温泉はリラク

セーションの場といわれるが,日常的にストレスの

影響を強く受けている者ほど,いわゆる“ストレス

解消”の目的のもと,高い温泉志向を有している

のであろうか。

 ストレスに対処するために私たちがおこなう認

知的な努力や行動は,“コーピング理論(coping

theory; Lazarus & Folkman, 1984)”として体

系化されている。コーピングには,生じた問題の原

因に直接的に対峙し,ストレッサーそのものを解

決しようとする問題焦点型コーピングや,情動的な

発散や気晴らしといった方略を用いる情動焦点型

コーピング,問題から逃避したり,目を逸らしたり

する回避型コーピングなど,多くのスタイルが提唱

されている。このうち,問題焦点型コーピングや情

動焦点型コーピングは,自ら何らかのストレス対処

行動を取ろうと試みることから積極的コーピング

と位置づけられる。一方,回避型コーピングは消

極的コーピングとも呼ばれる。温泉ツーリズム志向

とコーピングスタイルの関連を明らかにすることに

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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 22 号(2015)

る具体的な例を補記した。これらの施設にそれぞ

れ“普段,どの程度行きたいと思っているか”を,

“とても行きたい”,“やや行きたい”,“どちらで

もない”,“あまり行きたくない”,“全く行きたくな

い”の5段階から選択するよう求めた。

(c)心理的ストレス反応

 ストレスに伴う心身反応を比較的少ない項目

で多面的に測定できる尺度として,松浦・勝岡・

脇(2012)による心理的ストレス反応尺度を用い

た。本尺度は,(a)抑うつ感(項目:気持ちが沈ん

でいる,ゆううつだ,希望が持てない),(b)易怒

感(項目例:怒りを感じる,すぐかっとなる,イライ

ラする),(c)身体不調感(目が疲れる,首筋や肩

がこる,頭が重かったり頭痛がする),(d)疲労感

(疲れてぐったりとすることがある,だるい感じが

なくならない,作業を少ししただけで疲れる)の4

因子12項目から構成される尺度であった。本研究

では,教示文を“あなたが日頃の生活で経験する

こととして,以下のようなことはどのくらい当てはま

りますか。最も近いと思うところに○をつけてくだ

さい”とし,“よくあてはまる”から“全くあてはまら

ない”までの4件法で回答を求めた。

(d)コーピングスタイル

 尾関(1993)によるコーピング尺度を用いた。

本尺度は,コーピングスタイルを,問題焦点型因

子5項目(項目例:現在の状況を変えるよう努力

する),情動焦点型因子3項目(項目例:自分で自

分を励ます),回避・逃避型因子6項目(項目例:

先のことをあまり考えないようにする)の3側面か

ら測定可能な14項目から構成される尺度である。

本研究では,教示文を“日頃‘強いストレスを感じ

ていること’に対して,あなたはどのように考えた

り,行動したりしていますか。それぞれの項目を読

んで,あなたの考え方や行動に近いと思われる選

択肢に○をつけてください”とし,回答は“いつも

する”から“全くしない”の4段階で求めた。

(e)最寄りの温泉地,温泉施設までの所要時間

び縁故法により配布し,合計160名から回答を得

た。

 160名の回答者の年齢は18歳~72歳の範囲

で,平均年齢は32.39(SD=13.29)歳であった。

また,居住地域は,北海道から沖縄県までの16

都道府県に分布していたが,回答者数が多かっ

た地域は,順に千葉県(N=64,40.0%),東京都

(N=39,24.4%),神奈川県(N=17,10.6%),埼

玉県(N=11,6.9%)であり,これら南関東地方の1

都3県で全回答者の81.9%を占めていた。

 なお,温泉およびスーパー銭湯のイメージを問う

自由記述部分に限り,大学生を対象に授業時間を

活用して集合実施した71名分の回答を別途加え,

計231名の回答を分析対象とした。

質問紙の構成

(a)“温泉”および“スーパー銭湯”のイメージ

に関する自由記述

 質問内容は,“「○○」と聞いてイメージする事

柄,イメージする言葉などを,思いつく限り自由に

記入してください。どんなものでもかまいません”

という内容であった(「○○」には,“温泉”および

“スーパー銭湯”が入る)。 

(b)余暇時間に訪れたいレジャー施設に対する

志向

 余暇時間に訪れることができる施設ないし活

動として,(a)温泉,(b)スーパー銭湯(都市部な

どにある大型の日帰り入浴施設),(c)カラオケ,

(d)スポーツ観戦,(e)音楽・アート鑑賞(例:映

画,コンサート,ライブなど),(f)大規模商業施

設(例:ショッピングセンター,アウトレットモール

など),(g)運動施設(例:バッティングセンター,

フットサルコート,ボウリング場,スキー場,プール,

テニスコート,ゴルフ練習場など),(h)遊園地・

テーマパーク,(i)ゲームセンターという9種類の

選択肢を挙げた。(b)については,一般的な定義

を補記し,(e),(f),(g)はこの選択肢に含まれ

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温泉ツーリズム志向と温泉イメージの特徴を探る ―心理的要因との関連に着目して―

上”,“月に1回くらい”,“2~3ヶ月に1回くらい”,

“年に2~3回くらい”,“1~2年に1回くらい”,“数

年に1回以下”,“ほとんど行かない”という7段階

の選択肢を提示し,選択を求めた。

(g)デモグラフィック

 年齢,性別,居住地について回答を求めた。

結果

自由記述データの分析

 テキストマイニング 分析ソフトウェアとして

KH coder(樋口, 2014)を用い,自由記述データ

のテキスト分析および内容分析を実施した。まず,

分析に先立って,記入されたデータから絵文字や

記号を削除し,明らかな誤字や変換ミスと認めら

 温泉にどの程度の時間で訪れることができるか

を確認するため,“あなたが「温泉」に行こうと考

える時に思い浮かぶ行き先(温泉地や温泉施設)

の中でもっとも近い場所まで,ご自宅からどのくら

いの所要時間で行くことができますか。普段よく使

う交通手段での所要時間として,もっとも近い選

択肢を選んでください”という質問文とし,回答者

が任意に思い浮かべる最寄りの温泉地まで,通常

どの程度の所要時間が必要かについて質問した。

選択肢として,“30分以内”,“30分~1時間くら

い”,“1~2時間くらい”,“2~3時間くらい”,“3~

4時間くらい”,“4時間以上”,“わからない”の7種

類を提示し,選択を求めた。

(f)温泉を訪れる頻度

 温泉を訪問する頻度について,“月に数回以

抽出語 抽出語 抽出語 抽出語

温泉 63 タオル 9 牛乳 43 街 7リラックス 38 開放 9 サウナ 39 岩盤 7露天風呂 38 混浴 9 風呂 37 子ども 7旅行 36 日常 9 安い 34 施設 7湯 31 良い 9 人 33 身近 7浴衣 30 ツルツル 8 多い 27 湯船 7猿 27 岩 8 コーヒー 26 リラックス 6自然 24 健康 8 マッサージ 23 ロッカー 6気持ちいい 22 源泉 8 行く 20 円 6牛乳 22 広い 8 温泉 19 汚い 6癒す 22 楽しい 7 種類 15 家族連れ 6旅館 19 景色 7 富士山 14 庶民 6サウナ 18 種類 7 行ける 12 体重 6風呂 17 湯治 7 手軽 11 湯 6箱根 16 ビール 6 気軽 10 きれい 5熱い 15 マーク 6 家族 9 テレビ 5疲れ 15 回復 6 絵 9 プール 5露天 14 気分 6 楽しい 9 高い 5草津 13 食事 6 銭湯 9 高齢 5湯気 13 水風呂 6 年寄り 9 混む 5コーヒー 12 体 6 たくさん 8 混雑 5マッサージ 12 白い 6 にぎやか 8 騒がしい 5卓球 12 疲労 6 イメージ 8 大衆 5卵 12 流す 6 近所 8 日帰り 5硫黄 12 ストレス 5 古い 8 浴槽 5行く 11 解消 5 広い 8肌 11 紅葉 5 水風呂 8家族 10 雪 5取れる 10 足湯 5リフレッシュ 9 熱海 5注) 太斜字は,それぞれのカテゴリーに独自に出現した語。細字は,双方のカテゴリーに共通して出現した語。

温泉イメージ

頻度 頻度 頻度

スーパー銭湯イメージ

頻度

表1 温泉およびスーパー銭湯のイメージとして記述された出現頻度 5 回以上の語

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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 22 号(2015)

れるものの修正を行った(例:“スーパー戦闘”は

“スーパー銭湯”に修正)。また,回答者によって

用字や記述方法が異なっていても,明らかに同一

の意味および読みを持つ語については表記を統

一した(例:“たまご”,“玉子”,“タマゴ”はすべ

て“卵”に統一)。

 頻出語の検討 温泉イメージおよびスーパー銭

湯イメージの自由記述中に記載された頻出語のう

ち,出現頻度が5回以上であった語をそれぞれリス

トアップした(表1)。出現頻度が5回以上であった

語は,温泉イメージでは60語,スーパー銭湯では52

語確認された。なお,ここでは,“疲労”と“疲れ”の

ように,意味はほぼ同一と解されても表記方法が異

なる語は別の語として見なして計数した。頻出語の

中で,温泉イメージとスーパー銭湯イメージとして重

複している語は14語と限定的であった。温泉とスー

パー銭湯のイメージとして共通に挙げられた語とし

て,“リラックス”,“家族”,“広い”,“楽しい”,“種

注)円が大きいほど,出現数が多い語であることを意味する。また,語を結ぶ線が太いほど,

  共起関係が強い。なお,円と円の間の距離(遠近)は意味を持たない。

図 1.温泉イメージの共起ネットワーク

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温泉ツーリズム志向と温泉イメージの特徴を探る ―心理的要因との関連に着目して―

類”といったものが挙げられた。

 頻出語間の共起ネットワーク 頻出語同士の

関連を確認するため,出現頻度5回以上の語を用

いた共起ネットワークを描画した。温泉イメージの

共起ネットワークを図1に,スーパー銭湯イメージ

の共起ネットワークを図2に示す。温泉イメージの

共起ネットワークでは,多様な湯や風呂の種類を

はじめ,自然,リラックスといった語が共に用いら

れていることや,草津や箱根といった特定の温泉

地名と関連して,旅館という語が結合しており,温

泉は単に入浴行為ではなく,旅行的な要素を強く

含む選択であることが確認された。また,肌―ツ

ルツル―スベスベ,疲労―回復,疲れ―癒という

ネットワークが見られるように,健康増進,疲労回

復,美容といった温泉に期待する様々な効能がイ

メージとして挙げられていた。

注)円が大きいほど,出現数が多い語であることを意味する。また,語を結ぶ線が太いほど,

  共起関係が強い。なお,円と円の間の距離(遠近)は意味を持たない。

図 2.スーパー銭湯イメージの共起ネットワーク

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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 22 号(2015)

 一方のスーパー銭湯では,効能的要素を持つ語

としてリラックスという語が手軽と結びついてお

り,手軽なリラックスの場としてその機能が期待さ

れていることがうかがえた。しかし,この反面,人

―多いという強いネットワークが見られ,施設が

混雑しているというイメージが強く抱かれているこ

とが明らかになった。さらに,騒がしい,汚い,に

ぎやかといった語が,家族,高齢,大衆といった語

と結びつき,家族連れや高齢者など多くの人で施

設が混雑し,場合によっては清潔感に疑問を抱く

ようなネガティブな状況がイメージされる場合が

しばしばあることが確認できた。

定量的データの分析

 続いて,自由記述部以外の定量的データについ

て分析を行った。分析にはSPSSバージョン22を用

いた。

 レジャー志向得点の比較 本研究で質問した9

種類のレジャーに対する志向得点間に差が見られ

るかどうかを検討した。Levene検定においてデー

タの等分散性が確認できなかったため,Kruscal-

Wallis検定を用いて得点の比較を行った。その結

果,分布の同一性に関する帰無仮説が棄却(p <

.01)され,それぞれの項目の回答分布には有意な

差があることが示された。そこで,ペアごとに多重

比較を実施したところ,表2に示す通り,温泉およ

び音楽・アート鑑賞は他のレジャーに比べて有意

に得点が高い一方で,ゲームセンターは,他の全て

のレジャーより得点が低かった。特に温泉は,中

央値および最頻値の双方が5段階中最高点となる

5であり,過半数の回答者が普段から温泉に“非

常に行きたい”と考えていることが明らかになっ

た。なお,遊園地,運動施設,スーパー銭湯,カラ

オケボックスの4項目間には,有意な得点差は見ら

れなかった。

 また,これら9種類のレジャー施設志向と,年

齢,性別間の関連を確認するため,単相関係数を

算出した(表3)。温泉志向と年齢,性別間の相関

はほぼ無相関に近い値であった。大規模商業施

設や遊園地・テーマパーク,カラオケ,ゲームセン

ターの4種は,年齢が高まるほど志向得点が下が

る傾向があった。また,音楽・アート鑑賞,大規模

商業施設,遊園地・テーマパークは,男性よりも女

性の志向得点が高いことが明らかになった。

p < .05 n.s.

1 温泉 4.29 1.05 5 5 >3,4,5,6,7,8,9 2

2 音楽・アート鑑賞 4.19 0.93 4 5 >3,4,5,6,7,8,9 1

3 大規模商業施設 3.61 1.13 4 4 >9,8; <1,2 4,5,7,6

4 遊園地,テーマパーク 3.45 1.26 4 4 >9; <1,2 3,5,6,7,8

5 運動施設 3.34 1.32 4 4 >9; <1,2 3,4,6,7,8

6 スーパー銭湯 3.33 1.27 4 4 >9; <1,2 3,4,5,7,8

7 カラオケボックス 3.23 1.42 4 4 >9; <1,2 3,4,5,6,8

8 スポーツ観戦 2.98 1.38 3 3,4 >9; <1,2,3 4,5,6,7

9 ゲームセンター 2.28 1.21 2 1 <1,2,3,4,5,6,7,8

 注)  N = 160

多重比較M 中央値SD 最頻値

表 2 レジャー諸施設に対する志向得点と多重比較結果

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温泉ツーリズム志向と温泉イメージの特徴を探る ―心理的要因との関連に着目して―

 心理的ストレス反応尺度の因子構造および信

頼性 本研究で得られたデータを用い,心理的ス

トレス反応尺度の因子分析(主因子法,プロマッ

クス回転)を行ったところ,抑うつ感と易怒感の2

因子は松岡他(2012)と同様の因子構造が確認さ

れた。しかし,疲労感と身体不調感の2因子が混

在し,原版通りの4因子構造が抽出できなかった。

そこで,本研究では,複数の因子に.30以上の因子

負荷を示した項目,もしくは,いずれの因子にも.40

の因子負荷が見られなかった2項目を削除したう

えで,原版では別の因子として扱われている疲労

感と身体不調感の2因子を統合し,3因子10項目か

ら成る尺度として,以後の分析に使用した。なお,

統合した第3因子は,“疲れてぐったりとすること

がある”,“だるい感じがなくならない”,“首筋や

肩がこる”,“目が疲れる”の4項目から構成された

ため,本研究では“身体愁訴”因子と名付けた。

信頼性係数αは,抑うつ感:α=.91,疲労感:α

=.81,身体愁訴:α=.73であり,概ね良好な信頼性

が確認された。

 コーピング尺度の因子構造および信頼性 本

研究で得られたデータを用い,コーピング尺度の

因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行った

ところ,尾関(1993)において想定された回避・逃

避型因子内の項目は原版の通りに負荷したが,問

題焦点型および情動焦点型の2つの因子内の項目

が混在し,4因子構造となった。そこで,構造が安

定している回避・逃避型因子(消極的コーピング)

と積極的コーピングに関する因子を区別して抽出

するため,2因子構造を指定した因子分析を行い,

複数の因子に.30以上の因子負荷を示した項目,も

しくは,いずれの因子にも.40以上の因子負荷が見

られなかった項目を順次削除した結果,2因子10

項目で単純構造に至ったと判断された。第1因子

は,原版で回避・逃避型因子に含まれている5項

目であった。しかし,第2因子には,原版の問題焦

点型因子から3項目,情動焦点型因子から2項目

が混在して負荷した。そこで,本研究では,第1因

子を“消極的コーピング”因子,第2因子を“積極

的コーピング”因子とみなし,以後の分析に使用し

た。信頼性係数αは,消極的コーピング:α=.76,

積極的コーピング:α=.66であった。積極的コーピ

ング因子の信頼性係数がやや低めの値となった

が,最低限の内的一貫性を保持していると判断し

た。

 単相関分析 温泉志向およびスーパー銭湯志

向とその他の諸要因の関連について検討するた

め,年齢,性別,温泉訪問頻度,最寄りの温泉まで

の所要時間について単相関分析を行った。結果を

表4に示す。

 この結果,温泉志向とスーパー銭湯志向の間に

は中程度の有意な相関が示されたほか,温泉志向

と訪問回数の間にも有意な正の相関が見られた。

また,最寄りの温泉地までの距離と訪問頻度の間

1 温泉 .03 .03 ―

2 音楽・アート鑑賞 -.06 .25 ** -.01 ―

3 大規模商業施設 -.33 ** .26 ** .00 .08 ―

4 遊園地,テーマパーク -.29 ** .30 ** .04 .23 ** .49 ** ―

5 運動施設 .02 -.09 .22 ** .25 ** .14 † .21 ** ―

6 スーパー銭湯 .01 -.08 .56 ** .03 .09 .13 .17 * ―

7 カラオケボックス -.32 ** .06 -.06 .33 ** .31 ** .35 ** .02 .09 ―

8 スポーツ観戦 .03 .00 .13 † .09 .10 .04 .57 ** .09 -.05 ―

9 ゲームセンター -.40 ** .00 .00 .02 .25 ** .50 ** .00 .10 .34 ** -.04

年齢 性別 1 2 3 4 5 6 7 8

注) ** p < .01,* p < .05, † p < .10。性別は,男性=1,女性=2。N = 160。

表 3 性別,年齢とレジャー志向の単相関

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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 22 号(2015)

いずれも有意であった。このことから,スーパー銭

湯志向が温泉地の訪問頻度と直接的な関連を持

つわけではないことが示された。すなわち,スー

パー銭湯志向と温泉訪問頻度の間に見られた単

相関は,温泉志向による正の影響を相互に受けた

偽相関であることが明らかになった。

 温泉訪問頻度への影響要因 温泉訪問頻度に

対し,年齢,性別,温泉地までの所要時間,心理

的ストレス反応,コーピングの諸要因がどのような

影響を及ぼしているのかを確認するため,重回帰

分析(強制投入法)を繰り返したパス解析を行っ

た2。まず,年齢,性別,所要時間,ストレス反応

(抑うつ感,易怒感,身体愁訴),コーピングスタ

イルの諸要因を独立変数とし,温泉志向および

スーパー銭湯志向に対する影響を確認した。続い

て,温泉訪問頻度を目的変数として,これら全て

の変数を独立変数に投入した重回帰分析をおこ

なった。

 この結果,図3に示すとおり,温泉志向に対して

は,身体愁訴から有意な正のパスが確認された。

また,所要時間および抑うつ感が高い場合には,

温泉志向が低かった。スーパー銭湯志向に対して

は,身体愁訴および消極的コーピングから正のパ

には有意な負の相関が認められ,最寄りの温泉ま

での所要時間が長い人ほど,訪問頻度を少なく回

答していることが明らかになった。

 また,年齢と温泉訪問頻度との間には,有意

傾向ではあるが弱い正の相関が見られた。すなわ

ち,日頃から温泉に行きたいという志向は年代や

性別を問わないことが明らかになったものの,実

際に温泉に行っている回数は,年齢が上がるほど

多いことが,有意傾向ながら確認された。また,最

寄りの温泉地として思い浮かべる地までの所要時

間と年齢の間にも有意な正の相関が見られた。

 偏相関分析 単相関分析において,スーパー

銭湯志向と温泉訪問頻度の間に有意な正の相関

が見られた。この相関は,温泉志向が高い人ほど

スーパー銭湯志向も高まることに影響を受けた偽

相関である可能性もあるため,温泉志向を統制変

数として,スーパー銭湯志向と温泉訪問回数の偏

相関分析を行ったところ,偏相関係数は有意とは

ならなかった(r = .05, n.s.)。なお,スーパー銭湯

志向を統制変数とした場合の,温泉志向と温泉訪

問頻度間の偏相関(r = .37, p < .001),温泉訪

問回数を統制変数とした場合の,温泉志向とスー

パー銭湯志向間の偏相関(r = .50, p < .001)は

1 年齢 32.39 13.29

2 性別 -.14 †

3 所要時間 3.08 1.43 .29 ** -.05

4 抑うつ感 7.09 2.70 -.35 ** .08 -.13

5 易怒感 6.86 2.45 -.10 .15 † -.13 .52

6 身体愁訴 10.78 2.93 -.30 ** .18 * -.09 .61 ** .45

7 消極的コーピング 13.07 3.26 .00 -.01 -.02 -.04 -.15 † -.08

8 積極的コーピング 14.43 2.92 .07 -.06 .12 -.27 ** -.11 -.08 .01

9 温泉志向 4.29 1.05 .03 .03 -.21 ** -.13 † -.07 .12 .07 .07

10 スーパー銭湯志向 3.33 1.27 .01 -.08 -.24 ** .04 .01 .23 ** .17 * -.04 .56 **

11 温泉訪問頻度 3.41 1.55 .13 † -.10 -.32 ** -.24 ** -.17 * -.11 .00 .29 ** .45 ** .29 **

 注) ** p < .01,* p < .05, † p < .10 性別は,男性=1,女性=2。N = 160。ただし,所要時間が“わからない”と回答した者の回答は欠損値として扱ったため,所要時間との相関分析に用いた

 データはN = 151。

M SD 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10―

― ― ―

表 4 変数の記述統計および変数間の単相関

注2 本研究では、分析対象となるデータ数から共分散構造分析による解析は適当ではないと判断した。

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温泉ツーリズム志向と温泉イメージの特徴を探る ―心理的要因との関連に着目して―

ることが目的であった。温泉のイメージをスーパー

銭湯と対比しながら定性的に検討を行ったとこ

ろ,単なる入浴行為という枠を超えて,温泉に対し

て人々が抱いている幅広い効果への期待といった

特徴的なイメージが明らかになった。また,温泉を

はじめとした様々なレジャー活動に対する志向を

比較したところ,温泉は年齢や性別を問わずに非

常に人気が高いことが明らかになった。一方で,

スーパー銭湯は,入浴を目的に訪れる施設という

点では温泉と同種ではあるものの,その人気は温

泉に比べると有意に低く,身近で安く楽しめる場

としての機能を持つ反面,温泉とは大きく異なった

イメージで捉えられていた。

ス,所要時間から負のパスが見られた。最後に,

温泉訪問頻度に対しては,温泉志向および積極

的コーピングからの正のパスが確認された一方,

所要時間から負のパスが見られた。なお,有意傾

向ながら,性別からスーパー銭湯志向への負のパ

ス,年齢から温泉訪問頻度への正のパスが見られ

た。つまり,有意傾向ながら,スーパー銭湯志向は

男性のほうが高まり,年齢が高いほど温泉訪問頻

度が多いことを意味する結果が見られた。

考察

 本研究では,我々日本人にとって身近な温泉

ツーリズムの特徴を定性的,定量的に明らかにす

温泉志向

スーパー銭湯志向

温泉訪問頻度

年齢

性別

易怒感

抑うつ感

身体愁訴

温泉地所要時間

R2=.192

R2=.134-.266**

-.241*

-.253**

.333**

R2=.433

-.322**

.389**

積極的コーピング

消極的コーピング

.387**

.182*

.141†

.271**

-.134†

注)** p< .01,* p< .05,†p< .10。性別は,男性=1,女性=2。

  実線は正のパス,破線は負のパスを表す。標準偏回帰係数

  が有意とならなかったパスは省略した。

図 3.温泉訪問頻度に対する影響のパス図

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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 22 号(2015)

比較的近隣にある場合が多いスーパー銭湯が,温

泉ツーリズムの代替手段としての役割を担うこと

は可能なのだろうか。本研究の結果から考察すれ

ば,スーパー銭湯が温泉の代替手段として活用で

きる面は限定的だと考えられる。

 確かに,温泉志向とスーパー銭湯志向の相関を

見ると,温泉志向が高い者はスーパー銭湯志向も

高い傾向にあった。また,スーパー銭湯イメージ

の中にも頻出語として“温泉”の語が見られるよう

に,スーパー銭湯は時に温泉のイメージを想起さ

せる存在であると考えられ,すぐには温泉地を訪

れることができない者にとってスーパー銭湯は身

近な代替手段となり得るのであろう。しかし,スー

パー銭湯に対するイメージを温泉のイメージと対

比すると,楽しい,リラックスといった共通イメージ

がごく一部に見られてはいたものの,自然,気持ち

いい,疲れが取れる,疲労回復,肌がツルツル,ス

ベスベになるといった美容効果のように,人々が

温泉に対して固有に抱くポジティブイメージは数多

い。これらはスーパー銭湯には期待しづらいもの

であると見なすことができるだろう。

 さらに,スーパー銭湯イメージの共起ネットワー

クに見られた“家族連れ―混雑―騒がしい”と

いったネガティブな意味を持つネットワークは,温

泉イメージの共起ネットワークにおいては全く出現

しておらず,温泉に対しては総体的にポジティブな

イメージが抱かれていた点も特徴的であろう。と

はいえ,スーパー銭湯がにぎやかで子どもも多い

場所であるならば,ファミリー層にとっては,比較

的安価に家族とともに気兼ねなく入浴を楽しめる

というメリットにもなり得る。したがって,スーパー

銭湯は,数多くのポジティブイメージを背負った

温泉の代替としてのニーズを満足する場としてより

も,身近で気兼ねなく普段とは異なる入浴環境を

楽しみ,手軽なリラクセーションを享受できる場と

して活用されていると考えられる。

 また,ストレス対処の一環としての利用可能性と

温泉人気の高さ

 一般に,私たち日本人には“温泉好き”が多い

といわれるが,本研究はこの通説を裏付ける結果

となった。本研究で取り上げた9種類のレジャー

活動中,温泉は回答者の過半数が“とても行きた

い”と回答し,志向得点の平均値では9種中の第1

位となった。温泉と並んで高い人気が見られた音

楽・アート鑑賞については,本研究では,コンサー

トやライブといった音楽鑑賞と,映画等の鑑賞を

区別していない。これらを細分化して調査した場

合には,さらに回答者の志向は分散されることに

なるため,温泉人気の高さがさらに明確化された

可能性も否定できない。

 また,温泉人気の特徴は,性別や年齢を問わ

ずに多くの人が志向していたという点にもある。

温泉と並び人気が高かった音楽・アート鑑賞志向

は,女性の得点の方が高い傾向があり,大規模商

業施設は若年かつ女性の志向得点が高い傾向が

あったことと対比すると,温泉は老若男女を問わ

ずに極めて高い人気を有している存在であること

がわかる。これは,後述するように温泉ツーリズム

には様々なコストがかかると考えられることを考

慮すれば,興味深い結果であろう。もちろん,温泉

志向得点が高い者がすべて実際に温泉を訪れる

とは限らないものの,私たちの多くが日頃から温

泉に行きたいと考えており,他のレジャーと比べて

も,温泉人気は極めて高いと見なしてよさそうで

ある。

スーパー銭湯は温泉の代替となり得るか

 本研究では,温泉と類似した施設として近年人

気が高いスーパー銭湯との対比から,温泉の持

つ特徴について分析した。温泉訪問頻度は,最寄

りの温泉までの所要時間が短いほど多い傾向が

あったことから,所要時間をはじめとした温泉に

行くためのコストが小さければ,温泉に行きたい

という動因はより高まるものと推察される。では,

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温泉ツーリズム志向と温泉イメージの特徴を探る ―心理的要因との関連に着目して―

知的斉合性理論を援用すれば,このように高いコ

ストを投入せざるを得ない温泉ツーリズムである

からこそ,人々は温泉に対して,実感できるか否か

は別として,より多くの効果を求めるのだという理

解も成り立つ。温泉を訪れることに付随するコスト

に対する利用客の意識は,温泉地や温泉旅館等

の経営的な視点からも,十分に留意する必要があ

る点だと考えられる。

 同様の考察は,心理的ストレス反応が温泉志向

に及ぼす影響からも見て取ることができる。すな

わち,抑うつ感が高い場合に温泉志向が低下して

しまう理由は,心理的ストレス反応として気分的な

落ち込みがある場合に,温泉ツーリズムに求めら

れるコストが過大なものに感じられるためだろう

と考えられる。ここで極めて重要なのは,温泉ツー

リズムを計画するためには,そもそも,温泉を訪れ

ようと思えるだけの心理的な“余力”が求められ

るという,逆説的な状況の存在が示唆されること

である。つまり,心理的に強いストレス反応を呈し

ている場合には,ストレス解消が期待できる温泉

ツーリズムであるにもかかわらず,温泉を訪れたい

という志向そのものが低下してしまうのである。し

たがって,健康心理学的な視点から,温泉ツーリ

ズムをストレス対策の一環として捉える場合には,

二次予防ではなく一次予防的な見地に基いて温泉

の活用法を検討してこそ,温泉の効果をより享受

しやすくなると考えられる。

 温泉が持ついわゆるストレス解消効果は一

過性のものかもしれず(志村・東郷・岡田・武藤,

2014),また,一般の温泉利用者は温泉の効果を

定量的に測定することもできない。それにも関わら

ず,数あるレジャーの中で,これほど多様な健康増

進,健康回復効果が直接的にイメージされ,しか

も多くの人々が分け隔てなく志向するものは温泉

以外に見当たらない。温泉は,単に余暇活動の選

択肢の一環という意味を超えて,我々にとって,美

容や健康増進,疲労回復といった何らかの効果や

いう視点から温泉とスーパー銭湯を比較した場合

も,温泉とスーパー銭湯では役割がやや異なる可

能性が示唆された。温泉志向にはコーピングスタ

イルからの直接的なパスは確認されなかったが,

温泉訪問頻度には,積極的コーピングから正のパ

スが,スーパー銭湯志向には消極的コーピングか

ら正のパスがそれぞれ見られている。つまり,温泉

はストレスをより明確に意識する者が,意図的にそ

れらのストレス解消効果を期待して訪れる場であ

る反面,スーパー銭湯は,ストレッサーとの対峙を

一時的に回避するための手段として活用されてい

る傾向があることがうかがえる。

温泉ツーリズムのコストと効果期待

 温泉イメージの共起ネットワークには,旅館や浴

衣といった宿泊を伴う旅行と結びついたイメージ

ネットワークが出現しているとおり,温泉を実際に

訪ねるためには,どこの温泉地を選択するのか,

宿泊するか否かといった計画面をはじめ,金銭面

においても多くのコストを要求される。経済産業省

(2009)の調査では,スーパー銭湯(健康ランド・

スーパー銭湯)の客単価は2,483円であったのに

対し,温泉(温泉・旅館施設)の客単価は12,246

円であり,現地までの交通費等の付加的経費を含

めると,温泉地の近隣に居住する一部の人々を除

き,温泉は“気軽に”,“手軽に”行ける場とはい

いづらいと考えられる。

 つまり,温泉は,認知的には多くの効果を期待

できる有用な存在である反面,実際に訪問する

ためには体力的にも,金銭的にも,相応の負担が

生じる高コストを強いる存在でもあることが分か

る。このような特性を持った温泉を実際に訪れる

ことは,積極的な意思や決断と,温泉ツーリズムに

対する何らかの明確な目的意識が必要であろう。

温泉訪問頻度に対して,積極的コーピングから有

意なパスが確認されたのは,温泉ツーリズムが持

つこのような特性にも一因があると考えられる。認

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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 22 号(2015)

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効能を期待して訪れる,心身の癒しのための特別

な場だといえるだろう。

今後の課題

 本研究は横断的調査研究であり,リラクセー

ションや癒し,美容効果といった多様な期待を背

負う温泉ツーリズムが,我々に実際にどのような効

果や変化をもたらすのかという因果的検討はでき

ていない。今後は,縦断的なデザインを用いた研

究を用いるなどして,より効果的な温泉ツーリズム

の在り方について実証的な検討をおこなっていく

ことが求められる。また,本研究の調査対象者の

多くは首都圏在住者であったため,回答傾向に一

定の偏りがあったことは否めない。温泉地の近隣

に居住している人に同様の調査を行った場合,回

答傾向や温泉イメージにも大きな差が生じてくる

可能性もあるだろう。このように温泉地の近傍に

暮らし,温泉をツーリズムとしてではなく,日常生

活の一部として活用している人々にとっての温泉

の効果分析も,今後データを蓄積すべき検討課題

であろう。

 近年では,集客の伸び悩みに苦慮している温

泉地も少なくない(e.g., 浦,2007)。温泉地の活

性化や安定的な集客のためにも,実証的データ

に基づく議論や対策が重要視されている(味水,

2014)。温泉という資源に恵まれたわが国におい

て,温泉の有効な活用法や温泉効果を健康心理

学的な見地から実証的に明らかにする“温泉心理

学”研究のさらなる進展が望まれる。

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