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クリプトスポリジウム原虫に関する研究(第1報) 糞便内Cryptosporidium parvumオーシストの検出と同定のため P C R法と免疫酵素染色法 Studies on the Protozoan Cryptosporidi PCR and Immunoperoxidase Methods for Detect Cryptospondium parvum Oocysts in F 古屋 宏二 八木田健司* 遠藤 卓郎* 村上 晋-** 都築 俊文 木村 浩男 Koji Furuya, Kenji Yagita, Takuro En Murakami, Toshifumi Tsuzuki and Hi *国立感染症研究所 * *北海道胆振家畜保健衛生所 クリプトスポリジウム症(cryptosporidiosis)は下痢症 状を主徴とする人畜共通の原虫性感染症である。諸外国に おいては、ヒトにおける本症の大規模な水系流行がしばし ば発生しており1)、 わが国でも、 1994年に神奈川県2)で、 1996年に埼玉県3)で水系媒体による本症の集団発生が起こ り注目されるようになった。 ヒト下痢症の起因病原体であるCryptosporidium parvumは、アピコンプレックス門(Apicomplexa)胞子 虫類(Sporozoa)に属する原虫で、感染宿主の小腸粘膜細 胞に寄生し無性生殖で増殖するが、その一部のものが有性 生殖に移行し、受精してオーシスト(嚢胞体)となる4)。 糞便とともに環境中に排出されたオーシストは増殖性はな いが感染性を有し、ヒト以外ではウシ・ヒツジなど各種は 乳類に感染する4)。しかも、塩素などの消毒剤に強い抵抗 性を有するため、飲料水の衛生対策上大きな問題となって いる3)。 本症の診断は糞便中のオーシストを検出すれば確定する 5)。検出方法として種々の方法が考案されているが、ショ 糖遠心沈澱浮遊法や糞便塗抹標本の抗酸染色法が操作も簡 単であり、現時点ではルーチン検査などに多用されている 6)。ただし、糞便内オーシスト数が少ない場合の判定や染 色の仕上げに熟練を要することなどの問題もある。 また、オーシスト壁に対するモノクローナル抗体(mAb) を用いる免疫蛍光法のキットも米国で市販され、飲料水な どの検体中オーシストの検出に使用されている7)が、キッ トの価額が高い、特異蛍光像の判定に特殊な顕微鏡を必要 とする、検査手順が煩雑など、日常検査向きではない。mAb を用いるELISA法も米国で開発されたが、疑陽性率が高い などの点が、検査上の問題となっている8)。高感度で少数 オーシストの検出に有利なPCR法も最近多数報告されてい る9州が、飲料水などの環境中オーシストに対する検出例 がほとんどであり、糞便内オーシストの検出のために応用 された例は少ない12、 13) そこで我々は、一般検査室などで糞便内C. parvumオー シストを簡便・迅速かつ高感度に検出し同定する目的で、 Awad-El-Kariemらが開発したPCR法14)と、細 内抗原検出用に開発された免疫酵素染色法 (immunoperoxidase method)15)に注目し を改良したうえで併用する手法を検討したので、ここにそ の結果を報告する。 材料 方法 1.試料 今回、標準試料としてC.parvumオーシスト3株とヒト 以外のほ乳類特にウシとネズミに寄生するC. muris4)のオ ーシスト1株を用いた。未知試料としてクリプトスポリジ ウム感染が疑われたウシ糞便17材料を用いた。これらの由 来などをTable 1に示す。 2. PCR法 PCRによる糞便内C.parvumオーシストの検出方法の概

クリプトスポリジウム原虫に関する研究(第1報) 糞 …...虫類(Sporozoa)に属する原虫で、感染宿主の小腸粘膜細 胞に寄生し無性生殖で増殖するが、その一部のものが有性

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クリプトスポリジウム原虫に関する研究(第1報)

糞便内Cryptosporidium parvumオーシストの検出と同定のためのP C R法と免疫酵素染色法

Studies on the Protozoan Cryptosporidium (Part 1)

PCR and Immunoperoxidase Methods for Detection and Identification of

Cryptospondium parvum Oocysts in Feces

古屋 宏二   八木田健司*  遠藤 卓郎*  村上 晋-**都築 俊文   木村 浩男

Koji Furuya, Kenji Yagita, Takuro Endo, Shmichi

Murakami, Toshifumi Tsuzuki and Hiroo Kimura

*国立感染症研究所

* *北海道胆振家畜保健衛生所

緒     言

クリプトスポリジウム症(cryptosporidiosis)は下痢症

状を主徴とする人畜共通の原虫性感染症である。諸外国に

おいては、ヒトにおける本症の大規模な水系流行がしばし

ば発生しており1)、 わが国でも、 1994年に神奈川県2)で、

1996年に埼玉県3)で水系媒体による本症の集団発生が起こ

り注目されるようになった。

ヒト下痢症の起因病原体であるCryptosporidium

parvumは、アピコンプレックス門(Apicomplexa)胞子

虫類(Sporozoa)に属する原虫で、感染宿主の小腸粘膜細

胞に寄生し無性生殖で増殖するが、その一部のものが有性

生殖に移行し、受精してオーシスト(嚢胞体)となる4)。

糞便とともに環境中に排出されたオーシストは増殖性はな

いが感染性を有し、ヒト以外ではウシ・ヒツジなど各種は

乳類に感染する4)。しかも、塩素などの消毒剤に強い抵抗

性を有するため、飲料水の衛生対策上大きな問題となって

いる3)。

本症の診断は糞便中のオーシストを検出すれば確定する

5)。検出方法として種々の方法が考案されているが、ショ

糖遠心沈澱浮遊法や糞便塗抹標本の抗酸染色法が操作も簡

単であり、現時点ではルーチン検査などに多用されている

6)。ただし、糞便内オーシスト数が少ない場合の判定や染

色の仕上げに熟練を要することなどの問題もある。

また、オーシスト壁に対するモノクローナル抗体(mAb)

を用いる免疫蛍光法のキットも米国で市販され、飲料水な

どの検体中オーシストの検出に使用されている7)が、キッ

トの価額が高い、特異蛍光像の判定に特殊な顕微鏡を必要

とする、検査手順が煩雑など、日常検査向きではない。mAb

を用いるELISA法も米国で開発されたが、疑陽性率が高い

などの点が、検査上の問題となっている8)。高感度で少数

オーシストの検出に有利なPCR法も最近多数報告されてい

る9州が、飲料水などの環境中オーシストに対する検出例

がほとんどであり、糞便内オーシストの検出のために応用

された例は少ない12、 13)

そこで我々は、一般検査室などで糞便内C. parvumオー

シストを簡便・迅速かつ高感度に検出し同定する目的で、

Awad-El-Kariemらが開発したPCR法14)と、細胞・組織

内抗原検出用に開発された免疫酵素染色法

(immunoperoxidase method)15)に注目し、両方法の一部

を改良したうえで併用する手法を検討したので、ここにそ

の結果を報告する。

材料 と 方法

1.試料

今回、標準試料としてC.parvumオーシスト3株とヒト

以外のほ乳類特にウシとネズミに寄生するC. muris4)のオ

ーシスト1株を用いた。未知試料としてクリプトスポリジ

ウム感染が疑われたウシ糞便17材料を用いた。これらの由

来などをTable 1に示す。

2. PCR法

PCRによる糞便内C.parvumオーシストの検出方法の概

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略をFig. 1に示す.基本的に、 Awad-El-Kanemら14)の

PCR法に準じて実験を行ったが、オーシストの分離に関し

ては井関のショ糖遠心沈澱浮遊法6)を利用した。テンプレ

ート(鋳型DNA)に関しては、フェノール-クロロホルム

処理に基づく抽出DNAの代わりに、オーシストのIysis

buffer抽出液(ライセート)を直接用いた。

Fig.1 Flowchart of PCR Method

オーシストの数は、血球計算盤で測定した。

オーシストの18SリボソームRNA遺伝子を標的とするプ

ライマーのセットは、 5 ′-AGTGCTTAAAGCAGGCAA-

CTG- 3 ′ (Foward) 、 5 ′ -CGTTAACGGAATTAACCAG-

AC-3′ (Reverse)を用いた。 PCRは、熱変性94 ℃ 1分、

アニーリング50 ℃1分、伸長反応72 ℃2分の条件で40

サイクル行い、最後に72 ℃10分の伸長反応を加えた。ホ

ットスタート法16)により非特異的増幅を抑えるため、抗

Taqポリメラーゼ抗体(Clontech laboratories)をPCR反

応系に添加した17)サーマルサイクラ-は、 TechneTher-

mal Cycler PHC-3を使用した。DNAの陽性対照として、

R.C.A.Thompson教授(マードック大学、豪州)から分

与された精製C. parvum DNAを用いた。

種(species)を特定するため、原法に従ってPCR反応で

増幅させた産物をさらに制限酵素MaeⅠ(Boehringer)で

消化した。すなわち、 PCR産物10μlに添付の反応buffer

(2倍濃度) 10μlと酵素2μl (4単位)を加え、ミネラル

オイル1滴を重層後37 ℃、 15時間反応させた。

PCR産物および制限酵素消化物の検出は、電気泳動(2

%アガロースゲル)後エチジウムプロミド染色で行った。

Fig.2 Flowchart of lmmunoperoxidase Method

3.免疫酵素染色法

免疫酵素染色法による糞便内C.parvumオーシストの検

出方法の概略をFig. 2に示す。まず、染色・洗浄過程での

試料の脱離を防ぐため、市販の切片脱落防止用表面処理用

ペンであるFRO-Tissuer FEEC あるいはPARA-Tissuer

(FEEC)でスライドグラスをあらかじめ処理し、次に5μ

lの糞便検体を直径0.8-1cm程度に円形状に塗抹した。

1枚のスライドに4試料を塗布し、アセトン固定、内因性

ベルオキシダーゼ活性のブロッキング後、一次抗体として

マウス抗C. parvumオーシストmAb (1, 000倍希釈液;

Chemicon)を用いて、 Histostain SPキット(Zymed)の

マニュアルに従って免疫染色を行った。本キットによる陽

性の場合、抗原のまわりに一次抗体/ビオチン化二次抗体

/ベルオキシダーゼ標識ストレプトアピジンの複合体を作

り、 3 -アミノ-9-エチルカルバゾール基質の存在下ベ

ルオキシダーゼ酵素反応で生じた不溶性の赤色沈着物を形

成した。なお、一次抗体として使用したChemicon社製の

mAbの特異性について、説明書によると、原虫Eimeria

bovis、 E. zuerniu E. ellipsoidalis、 E. auburnensisとは

反応しなかったが、C. murisオーシストとは反応したと書

かれている。

糞便1g に含まれるオーシスト数を算出するため、被検

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便5 μlで作成した塗抹標本上の全陽性オーシストを検鏡し

計数した。検査した便がピペッティング可能な水様状ある

いは泥状であったので、便宜上便5μlを5μgとして換算

した。オーシストを多数含む試料ではPBSで10倍階段希釈

列を作り再度計数した。

Fig.3 Agarose Gel Electrophoresis of PCR Products Am-

plified with Cryptosporidium spp.-specific Primers for

Cryptosporidium DNA from Separated Oocyst Prepa-

rations

Fig.4 Agarose Gel Electrophoresis of PCR Products Di-aested with MaeⅠ

結     果

1. PCR法の結果

本PCR法の検出感度をFig. 3に示す。分離オーシスト0

から1,000個を含む5つのライセートをテンプレートとして

用意し検討したところ、 C.parvum株(SAI)、 C. muris株

(KAM)のいずれのオーシストに対してもPCR反応液あた

り1個まで検出されることが分かった。 PCR増幅産物は

SAI、KAMともにアガロースゲル電気泳動後556bpの位置

に陽性対照(精製C.parvumDNA)と同様なバンドとし

て見えた。以上の結果は未固定オーシストを調べた際に得

られたが、ホルマリン固定(YOK)あるいはアルコール固

定(KAN)でも、数十個の分離オーシストがあれば制限酵

素による解析に必要な十分量のPCR産物を得ることができ

た(Fig. 4A)。これらC.parvum3株(SAI、 YOK、 KAN)

からのPCR産物は、消化後いずれも283bp付近に陽性対照

(精製C.parvumDNA;レーン8と9)と同じ見かけ上単

一のバンドとして認められた(Fig. 4A)。消化物として一

本のバンドが形成された点については原著14)での記載通り

であった。一方、 C.muris株(KAM)のオーシストから得

られたPCR産物に対するMaeⅠ切断パターンをFig. 4 Bに

示す。 C.parvum株と異なり、 C. muris株のオーシストか

ら得られたPCR産物では、消化後283、 200、 80bp付近に3

本のバンドが見えた(Fig. 4B)。この点に関し、原著14)で

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は、C.murisの場合は、完全消化により4本のバンド(475、

275、 156、 80bpバンド)が認められるが、より大きなサイ

ズのバンドの消化程度に依存して3本のバンドパターンも

生ずると記述されているので、再度検討したところ、556bp

PCR産物の消化程度により4本目のバンドが500bp付近に

形成されることを確認した(未記載データ)。

クリプトスポリジウム感染が疑われたウシ糞便17材料

(HOK 1~HOK17)に対し本PCR法を応用した場合の検査

結果をTable2にまとめた。これら17検体のうち16検体が

PCR陽性であった。 MaeⅠによる切断パターンとウシ由来

であることから、 12検体がC.parvumに属するオーシスト

を、残り4検体がC. murisに属するオーシストを含むと判

定した。

Fig.5 Staining Characteristics of Cryptosporidium Oocysts

2 .免疫酵素染色法の結果

Chemicon社製のmAbを用いて免疫酵素染色法でC. par

vumオーシスト(SAI)を検出した場合の代表的な特異染

色像をFig. 5Aに示す。また、同法でC.munsオーシスト

(KAM)を検出した場合の代表的な特異染色像をFig. 5 B

に示す。免疫染色後のSAIオーシストの大きさ(5.2 -6.6

μm)は、KAMオーシスト(4.8-6.7×7.6-8.6μm)よ

り明らかに小さく、形状についても前者がほぼ円形、後者

は楕円形であることが分かった。この結果は、既に報告さ

れているC.parvumオーシストやC. munsオーシストに関

する形態的所見(前者は類円形で4-6 μm5)、後者は楕

円形で6×8μm18))と一致する。オーシスト壁の染色像

に関しては、 C.parvumオーシストの多くが外殻様構造を

示したが(Fig. 5A)、 C.murisオーシストの多くは長軸

に沿ったしわ様構造を示した(Fig. 5B)。

クリプトスポリジウム感染が疑われたウシ糞便材料

(HOK1~HOK17)に対し本法を応用した場合の検査結果

をTable2にまとめた。これら17検体のうち16検体が免疫

染色陽性であった。大きさ、形状、オーシスト壁の染色像

から、 12検体が小型のC.parvumオーシストを、残り4検

体が大型のC. murisオーシストを含むと判定した。 PCR

法による結果はこれと矛盾するものではなかった。

また、今回検査した糞便1 gあたりに含まれるC.parvurn

オーシスト数は1.3×104から3.2×106と計数した。

考     察

クリプトスポリジウム症の診断に際し、 C.parvumオー

シスト検出方法として抗酸染色、免疫蛍光など多数の染色

法が考案されていることもあって、PCR法が実際に応用さ

れた例は少ない12. 13)。ヒト糞便を検査したGobetら12)の報

告によると、 PCR (nestedPCR)法の検出感度は免疫蛍

光法や抗酸染色法に比べ50~500倍高いという。また、

Balatbatら13)の研究では、 PCR (nested PCR)法の検出

限界は糞便1gあたり500オーシストであった。これらの研

究で使われたプライマーは、ゲノムDNAライブラリーの1

クローンからデザインしたものであり、 C.parvumオーシ

ストDNAと特異的に反応した19)。 Rochelleら11)によれば、

このプライマーを使うPCRはハイブリダイゼーション法

や、 doublePCRすなわち1回目のPCR後同一プライマー

でもう一度PCRを行うことにより感度を高め、結果として

PCR反応液中オーシストが1個でもあれば検出することが

できた。

我々は、 C.parvumオーシストの18SリボソームRNA

遺伝子領域に対するプライマーに着目し、 Awad-El-

Kariemら14)が開発したPCR法を改良し試用したところ、

1回のPCRでC.parvumオーシスト1個/PCR反応液が検

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出可能であることが分かった(Fig. 1)。この結果は、同遺

伝子領域を標的とする別のプライマーを用い、環境中

C.parvumオーシストの検出を試みたJohnsonら10)の成績

(PCR後のアガロースゲル電気泳動検出法で90個、ドット

ハイブリダイゼーション法との組み合わせで1~10個の検

出感度)より優れていると考える。

Table 1 Cryptosporidium Isolates and Fecal Specimes Used in This Study

今回の検出感度に関する良好な成績は、DNA遊離法とし

てAwad-El-Kariemら14)の原法を改良し、 Iysis bufferで

可溶化したオーシスト液を鋳型として直接使うようにした

ことや、非特異的反応を減少させる抗Taqポリメラーゼ抗

体を使用したことによるものと思われる。ちなみに抗Taq

ポリメラーゼ抗体非存在下での検出感度はオーシスト10~

100個で(未発表)、これは同じプライマーを使ってPCRの

感度評価を行ったRochelleら11)の成績とほぼ一致してい

た。

一般的にC. parvumオーシストの18SリボソームRNA

遺伝子を標的とするプライマーは種を越えて反応し、 C.

parvumのはかにC. murisや鳥類に感染するC. baileyiか

らのDNAと反応した11.14)。従って、被検オーシストをC.

parvumと最終的に判定するためには、増幅後のPCR産物

を別の手段でさらに解析する必要がある。 Awad-El-

Kariemら14)は、他の種からC. parvumを区分けする非常

に簡単で再現性のある方法として、 PCR産物を制限酵素

MaeⅠで消化する方法を考案した。この方法によりC.

parvumのPCR産物(556bp)を消化した場合、その制限酵

素地図から予想されるバンドは、273bpと283bpの2本であ

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るが、アガロース電気泳動では見かけ上275bp付近に単一

バンドとして認められ、他の種から得られる切断パターン

とは明らかに異なっていた。我々の成績(Fig. 4、 Table

2)からも、このMaeⅠ制限酵素法は、 C.parvumオーシ

ストの同定のための簡便な手法であると思われた。けれど

も、 556bp PCR産物のMaeⅠ消化物については、原著14)で

記載されたサイズと若干の違いがありシークエンス決定な

ど今後に課題も残った。

Table 2 Results for Fecal Specimens Collected from Cattle Suspected of Having Cryptosporidial Infection in Hokkaido

次に免疫酵素染色法についてみると、この方法はスライ

ドグラスに吸着されたオーシストを免疫試薬で検出すると

いう点で免疫蛍光法20)と根本的な違いはない。ただ、標的

となる抗原に一次抗体/ビオチン化二次抗体/ペルオキシ

ダーゼ標識アビジンが3重に構築され複合体を形成するの

で、免疫蛍光法(一次抗体/FITC標識二次抗体)に比べ感

度が高くなることが予想される。実際、免疫酵素染色法で

検出されたオーシスト数の最小値は1.3×104個/糞便1gで

あった(Table2)。免疫蛍光法と抗酸染色法の検出限界が

糞便1gあたりオーシスト数5×104と5×105個とそれぞ

れ推定されている21)ことを参考にすると、免疫蛍光法のお

よそ5倍、抗酸染色法のおよそ50倍高い感度が得られたこ

とになる。

本研究に用いたmAbはC. parvumオーシストの40kDa抗

原を認識し、その外表面に結合する(Chemicon社製品添

付説明書)ので、 C.parvumオーシストを特徴づける大き

さ、形状、オーシスト壁の染色像についての情報が正確に

得られた(Fig. 5)。これらの特徴は、本mAbを用いてと

卜糞便試料からC.parvumオーシストを検出するための同

定基準になると思われる。

今回報告した免疫酵素染色法は、糞便塗抹標本で直接検

査できるなど、スクリーニング試験法として十分に利用し

うると考える。また、改良したPCR法も、 C.parvumオー

シストを高感度でしかも確実に検出できることが判明した

ので、確認試験法として有用であろう。すなわち、クリプ

トスポリジウム症の診断確定に際し、免疫酵素染色法と

PCR法を組み合わせた診断法を用いることにより、迅速

に正確な診断結果が得られることが期待される。

結     語

C.parvumはと卜に感染して下痢の原因となる胞子虫類

に属する原虫である。本原虫の検出と同定のため、我々は、

PCR法と免疫酵素染色法を用いた。増幅反応においては、

18SリボソームRNA遺伝子を標的とするプライマーが使わ

れた。その結果、 PCR反応液あたりC.parvumオーシスト

が1個あれば検出されることが分かった。PCR産物の制限

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酵素MaeⅠによる切断パターンから、 C.parvumオーシス

トの同定は容易であった。一方、免疫反応においては、ベ

ルオキシダーゼ標識ストレプトアピジン-ビオチン染色の

補助によりC.parvumオーシストを検出するmAbが使われ

た。その結果、糞便1gあたりC.parvumオーシストが少

なくとも1.3×104個あれば検出されることが分かった。免

疫染色に基づく形態的特徴から、 C.parvumオーシストの

同定は容易であった。以上のことから、 PCR法と免疫染色

法の併用が、そのいずれの方法単独より、確実な診断を可

能にするものと思われた。

終わりに、本研究の実施にあたり、試料の入手に御協力

をいただいた神奈川県衛生研究所、埼玉県衛生研究所、北

海道農政部酪農畜産課、北海道上川家畜保健衛生所の関係

諸氏並びに豪州マ-ドック大学のR. C.A. Thompson教授

に深謝致します。

文     献

1 ) Meinhardt, P. L. etal. : Epidemiologic

Reviews, 18, 118 (1996)

2)黒木俊郎他:感染症学雑誌. 70,132 (1996)

3)厚生省水道環境部:水道におけるクリプトスポリジウ

ム暫定対策指針(案),クリプトスポリジウム緊急対

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4) Fayer, R. & Ungar, B. L. P. :Microbiological

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6)井関基弘:モダンメディア, 38, 561 (1992)

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15) Elias,J.M. etal : AMJ. Clin.Pathol.,92, 62

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18)井関基弘:メディヤサークル, 37, 11 (1992)

19) Laxer,M.A. etal. : Am.J.Trop.Med. Hyg.,45,

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20) Rusnak,J. etal : J.Clin.Microbiol., 27, 1135

(1989

21) Weber,R.etal : ibid, 29, 1323(1991)

英 文 要 約

C. parvum is a coccidian protozoan that causes diar-

rhea in humans. For detection and identification of the

protozoan parasite, we employed two different methods

of PCR and immunoperoxidase. In the amplification

reaction, a primer set was used which targets the 18S

ribosomal RNA gene of cryptosporidial DNA, resulting

in detection of 1 oocyst per reaction mixture. From Mael

restriction patterns of PCR products, C. parvum oocysts

were easily identified from other species. On the other

hand,in immunologic reactions, monoclonal antibody

was used which detects C. parvum oocysts with aid of

peroxidase-labeled streptavidin-biotin staining, result-

ing in detection ofa minimum of 1.3 × 104 C.parvum

oocysts per g of stool. From morphologic features based

on immunoperoxidase staining, C.parvum oocysts were

easily identified from other species. We concluded that

the combⅰnation ofimmunoperoxidase method and PCR

method could secure more positive diagnosis than either

method alone.

Key words: Cryptospondium parvum oocysts; PCR; en-

donuclease restriction; immunoperoxidase: monoclonal

antibody; detection; identification; feces; Hokkaido