12
アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と新規殺 虫剤による斑点米被害の抑制 誌名 誌名 宮城県古川農業試験場研究報告 = Bulletin of the Miyagi Prefectural Furukawa Agricultural Experiment Station ISSN ISSN 09172904 巻/号 巻/号 8 掲載ページ 掲載ページ p. 35-45 発行年月 発行年月 2010年3月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術 …アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と新規殺 虫剤による斑点米被害の抑制

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Page 1: アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術 …アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と新規殺 虫剤による斑点米被害の抑制

アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と新規殺虫剤による斑点米被害の抑制

誌名誌名宮城県古川農業試験場研究報告 = Bulletin of the Miyagi PrefecturalFurukawa Agricultural Experiment Station

ISSNISSN 09172904

巻/号巻/号 8

掲載ページ掲載ページ p. 35-45

発行年月発行年月 2010年3月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

Page 2: アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術 …アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と新規殺 虫剤による斑点米被害の抑制

宮城古)1日設試毅(Bull.Miyagi Pref. Furukawa Agri. Exp. Stn.) No.8:P 35-45 (2010)

アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と

新規殺虫剤による斑点米被害の抑制

小野亨,加進丈二,城所経,佐藤浩也ヘ石原なつ子2)

Control of Sorghum Plant Bug, Stenotus rubrovittatus (Matsumura)

(Hemiptera:Miridae) in Rice Paddy Field by Grass Mowing in Migration Source

and Application of New Insecticides

Tohru ONO, Joji KASHIN, Takashi KIDOKORO, Kouya SATO and Natsuko ISHIHARA

秒、録

宮城県の斑点米カメムシ類の主要穏であるアカスジカスミカメに対して,繁殖地の刈り取りによる斑点米被害の抑制効

果を検証した.本穏の繁殖地であるイタリアンライグラス主体の牧草地lニおいて,第lt世代幼虫の発生盛期に刈り取りを

行ったところ,牧車地における第l世代成虫の密度は低下し,近接する水間内の発生密度および斑点米被害についても抑

制された.しかし,この時期に刈り取りを行わなかった牧草地に近接した水田では,牧草地から100m離れた地点まで被害

が及んだ.また,アカスジカスミカメによる斑点米被害に対しては,ネオニコチノイド系のジノテフラン液剤の効果が高

かった.散布百数については,アカスジカスミカメの水田内における発生期間が長いことから,穂揃期の1呂散布では効

果が認められず,穂揃期とその7日後の2@]散布あるいは穂揃鶏7日後のl回散布の効果が高かった.

〔キーワード〕アカスジカスミカメ,ジノテフラン液剤,発生源対策,繁殖地,斑点米

key word: dinotefuran, grass mowing, migration source, pecky rice, Stenotus rubrobittatus (Matumura),

sorghum plant bug

35

緒言

近年,斑点米カメムシ類による被害は,全国的に

大きな問題となっており,宮城県においても2002年

以蜂,多発傾向が続いている 14) 特に,被害が多し

には,全検査数量の8%以上が,斑点米カメムシ類の

被害により落等した.等級低下による米価の低下は,

稲作農家にとって深刻な問題であり,斑点米カメム

シ類に対する防除対策は重要な課題である.

宮城県における斑点米カメムシ類の主要種は,ア

カスジカスミカメ Stθ'flOtusrubrovittatus CMatsum

ura) (カメムシ目;カスミカメムシ科)であり 10,14)

近年全国的にも発生が増加しているカメムシ種であ

る玖本種は,イタジアンライグラスなどのイネ科植

物を好み,牧草地や雑草地,畦囲畔半等でで、繁殖している

.3正以.

これまで,斑点米カメムシ類に対する防除対策と

して,水積の出穂前日'""1 0日前に雑草地・畦畔等の

刈り取りが勧められてきた.しかし,アカスジカス

ミカメに対する発生源の刈り取りの効果は明らかに

なっておらず,生産現場からも効果的な発生源対策

が求められていた.また,本種の発生源として,牧

草地のイタリアンライグラスが,生産現場において

問題視されており, 7月に高密度になっていることが

多い.そこで,牧草地のイタリアンライグラスの刈

り取りによるアカスジカスミカメの窃度抑制の効果

を検証した.また,密度抑制の効果を高めるため,

飛類することができず,移動能力の小さい幼虫の発

生盛期を刈り取り時期とすることを試みたので報告

する.

降であり,第l世代以昨の成虫が侵入するものと考え

られている叫日

平成21年11月27B受理

2つ自の課題として,有機リン系や合成ピレスロイ

ド系などの従来の殺虫剤では,斑点米カメムシ類に

対して,十分な訪除効果が得られない場合が認めら

1)宮城県農林水産部農業振興課,現宮城県北部地方振興事務所 2)宮城県栗原農業改良普及センター,現宮城県大崎農業改良普及センター

Page 3: アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術 …アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と新規殺 虫剤による斑点米被害の抑制

36 宮減県古)11農業試験場研究報告 第8号 (2010)

れておりへまたネオニコチノイド系の新規殺虫剤

が,本種と閉じカスミカメムシ科のアカヒゲホソミ

ドリカスミカメ行igonotyluscaelestialium (kirk

aldy) Iこ対して高い防除効果が京されている 7.11,12¥こ

のため,近年開発されたネオニコチノイド系やフェ

ニノレピラゾーノレ系の新規殺虫剤が本種に対する防除

薬剤として期待されている.また, 71<田内のアカス

ジカスミカメに対する殺虫剤による紡除は,棒、t前期

とその7~10 日後の2回散布が効果的であるとされて

きたがぺ生産現場においては,環境保全型農業の推

進および生産コスト低減などのため, 1呂敷布のとこ

ろが多い.そこで,アカスジカスミカメに対する新

規殺虫剤の妨除効果および散布時期・散布回数につ

いて試験を実施したので報告する.

報告に先立ち,みどりの農業協同組合田尻営農セ

ンター,栗っこ農業協同組合および宮城県美盟農業

改良普及センターの職員の皆擦には,試験の実施に

おいて多大なるご協力を頂いた.ここに厚く御礼申

し上げる.また,本研究の一部は,新たな農林水産

政策を推進する実用技術開発事業(1目 先端技術を

活用した農林水産研究高度化事業)r誕点米カメムシ

発生予察技術の高度化と斑点米被害抑制技指の開発

(課題番号:18013) J の支援を受けた.なお,本報

告の内容の一部は既に発表済みでありぺ北日本病害

虫研究会には一部改変して転載する承諾を頂いた.

材料及び方法

1 .牧草地におけるアカスジカスミカメの発生議長

2005年および2006年に宮城県北部のー殻農家の牧

草地において,捕虫網(柄の長さ 1m,口径36cm) に

よる20閤振りすくい取り調査を行った.牧草地は,

イタリアンライグラスが主な革種である盟場を選定

した.

2005年は, 5月 17 日 ~8月 4 日に牧草地1画場におい

て調査を行った.調査関場のイタリアンライグラス

は, 5月中~下旬に出穂しており, 6月5日にメIjり取り

が行われた.その後は, 6月下伺に再び出聴い調査

が終了するまで刈り取りは行われなかった.

2006年は, 7月 3 臼 ~8月 11 日に牧草地3~9圏場にお

いて調査を行った.調査画場は,イタリアンライグ

ラスが出穂後の牧草地を選定した.

2.メIJり取りによる牧草地のアカスジカスミカメの

抑制効果

2005年および2006年に宮城県北部の一般農家の牧

草地において試験を行った.牧草地は,イタリアン

ライグラスが主な草議である臨場を選定した.

2005年は, 7月中旬に刈り取りを実施した牧草地

(メIjり取り区)において, 7月2913に20回振りすくい

取り調査を行い,そこでのアカスジカスミカメ第1世

代の密度を調査した.諦査は2地区で行い,対照区と

して7月中旬に刈り敢りを行わなかった隣接顕場ある

いは関場の一部を調査した.

2006年は, 7月中旬にメIjり取りを行った牧草地l圏

場(刈り取り区)と刈り取りを行わなかった牧草地

9閥場(対照亘)において, 7月26日に20回振りすく

い取り調査を行った.なお, 7月初日の刈り取り区は,

イタジアンライグラスは出穂、しておらず,対照gでの

み穏が存在していた.

3.牧草地のメIJり取りによる誕点米被害の揮制効果

2006年7月1813あるいは7月初日 "'8月3沼に刈り取

りを行った牧草地3置場(刈り取り芭)と,この時期

にメIjり取りを行わなかった牧草地3関場(対照、医)に

おいて, 20間接りすくい取り調査を行い,牧草地に

おける斑点米カメムシ類の発生密度を調査した.調

査は, 7丹1413,7月26日, 8月1113の3回行った.

また,牧草地に近接した水田において, 20間接り

すくい取り調査および斑点米発生率調査を行った.

すくい取り調査は, 8月1113,8月23日の2回行った.

8月11日の水稲の生育ステージは,出穂期~璃描期に

達していた.斑点米カメムシ類に対する殺虫剤散布

は慣行訪除であり, 1 "'2回実施した.

斑点米発生率は,成熟期にランダムに選んだ50株

から2穂ずつ許100穂、を抜き取り,乾燥謂製後に1.8m

孫の儲いを通し, 1. 8rnrn以上および1.8rnrnより小さい玄

米を区別して調査した.

水田におけるすくい取り諦査および斑点米発生率

の調査は,牧草地から10m離れた地点で、行い,対照、区

の3掴場のうち2圏場においては, 50mおよび100m離れ

た地点でも調査を行った.

Page 4: アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術 …アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と新規殺 虫剤による斑点米被害の抑制

小野ら:アカスジカスミカメに対する繁箔地の密度抑制技術と新規殺虫剤による斑点米被害の抑制37

4.牧草地からの距離とアカスジカスミカメによる

斑点米被害の関係

2007年に宮城県北部の一般農家の牧草地および近

接する水田1ヶ所で、試験を行った.牧草地は,イタリ

アンライグラスが主な草種である開場を選定した.

牧草地と水田の関には,道路と土手があり,牧草地

と水田の間の距離は20mで、あった.水稲品種は「ひと

めぼれjであり,出穂期は8月10日であった.斑点米

カメムシ類に対する殺虫剤散布は慣行防除であり,

無人ヘリコプターにより 2回実施した.

牧草地における斑点米カメムシ類の調査は, 7月

24日と8月10日に20回振りすくい取り謂査を行った.

牧草地における7月中~下旬の刈り取りは行われなか

ったため,すくい取り調査時にイタリアンライグラ

スの穂、は存在していた.水田における斑点米カメム

シ類の調査は, 8月10日と8月24臼に20回振りすくい

取り調査を行った.水出における調査は,牧草地か

ら30m,60m, 100m, 150m, 200m, 250m離れた地点に

おいて行った.斑点米発生率の調査は,すくい取り

調査と開様,牧草地から30m,60m, 100m, 150m, 20

0毘1,250m離れた地点において100穂を抜き取り,乾燥

調製後に1.8mmの儲いを過し, 1. 8mm以上および1.8m

mより小さい玄米を草加して調査した.

5. 新規殺虫剤によるI}!点米被害の抑制

1)新規殺虫剤の議議と防総効果

2007年に古川農業試験場内の水田(lha臨場)を用

いて試験を実塙した.供試薬剤は,ネオニコチノイ

ド系殺虫剤としてジノテフラン液剤(商品名:スタ

ークノレ液剤10),フェニノレピラゾーノレ系殺虫剤として

エチプローノレ水和剤(高品名:キラップフロアブ

ノレ),合成ピレスロイド系殺虫剤としてエトフェンプ

ロックス乳剤(商品名:トレボンEW) を用いた.希

釈倍率および散布量は,いずれの供試薬剤も1,000倍

および1501/10aとした.

試験区は,ジノテフラン液剤,ヱチプローノレ水和

剤,エトフェンプロックス乳剤をそれぞれ散布した

区の他に,無処理区を設けた.区の面積および区制

は 1区4aおよび3連制とした.品稽は,宮城県の主

要品種である「ひとめぼれj を用いて, 5丹1日に移

植した.穂揃期は8月8日で, 613後の8丹14白に供試

薬剤を動力噴霧機で散布した.

水田内における斑点米カメムシ類の密度調査は,

8月14臼(散布前), 8月18日(散布4臼後), 8月2313

(散布9日後), 8丹29日(散布15日後)に羽田振りす

くい取り調査を行った.斑点米発生率については,

9月20日に各区30株 (5株 X6カ所)を刈り取り,乾燥

調製後に1.8mmの舗を通した精玄米について,斑点米

の発生を調査した.斑点米発生塁手の統計検定につい

ては,アークサイン変換後にTukey-Kramer法による

多重比較検定を行った.

2)散布時期・由数と訪除効果

2008年に古川農業試験場内の2関場(10a,11a閤

場)において試験を実施した.試験i玄は,供試薬剤

を稽揃期と捺揃期7臼後の2回散布した区(穂揃期十

穂揃期7日後区),議捕期iこ1四散布した区(穂揃期

区),穂、揃期7日後lこl囲散布した区(穂揃期7日後区)

および無処理区の4種類のIKを設けた(第1表).穂揃

期は8月13日であり,穂描期の散布は8月1313,捺揃

期7日後の散布は8月20日に,動力噴霧機でジノテフ

ラン液剤を散布した.希釈倍率および散布量は 1,

000倍および1501/10aとした.医の面積および軍制

は 1区1.32""' 1. 35aとし,約50獄離れた2関場にそれ

ぞれの区を記置し, 2連制とした.品種ーはひとめ

ぼれ」を用いて, 5月9日に移越した.育苗箱施活剤

には,無処理区のみプロベナゾーノレ粒剤(踊品名:

Dr.オリゼ箱粒剤),それ以外の区にフィプロニノレ・

オリサストロピン粒剤(溜品名:嵐プリンス箱粒剤

10) を移植当日に処理した.

水田内における斑点米カメムシ類の密度調査は,

8月12日(穂揃期散布の前日), 8丹19臼(間6日後),

8丹26日(穂揃期7臼後散布の6日後), 9月3日(間14

日後), 9丹10日(問21日後)に15回振りすくい敢り

調査を行った.斑点米発生率については, 9月30尽に

各区40株 (5株 X8カ所)をメIjり取り,乾燥諦製後に

1.8mmの簡を通し,1.8mm以上および1.8mmより小さい

玄米を区別して調査した.斑点米発生率の統計検定

については,アークサイン変換後にTukey-Kramer法

による多重比較検定を行った.

以上の全てのすくい取り調査において、カスミカ

メムシ類の成虫は麓を区別したが、幼虫はそれが圏

難であったためカスミカメムシ類幼虫とした。

Page 5: アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術 …アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と新規殺 虫剤による斑点米被害の抑制

一+ーアカスジ

. -0.アカ kゲ

• .ts • ムギ

第8-i予 (2010)

Aカスミカメムシ

成虫 アカスジカスミカメ越冬世代成虫

アカスジカスミカメ箆1世代成虫

..・0 ・・網 O~

o l(>..ι ムム品ムム噌どえー一一山吋ι品仏日

5/15 5/23 5/31 6/8 6/16 6/24 7/2 7/10 7/18 7/26 8/3 8/11

1,500 磁 5鈴凶 3-4章者。1-2齢

150

宮城県古川農業試験場研究報告

すくい叡り虫数

試験区の構成(散布時期・国数と妨除効果)

区 名 穏繍刻 (8月13B) 務総期7日後 (8月20日)

穏綴期+務檎綴7日後 ジノテフラン液弗j ジノテフラン液lf!J

若草繍綴 ジノテフラン液斉IJ

穏機長n7日後

然処理

ジノテフラン液lf!J

38

第1表

自力スミカメムシ

幼虫

100

50 果

1 .牧草地におけるアカスジカスミカメの発生消長

2005年の牧草地におけるカスミカメムシ類の発生

消長を第1図に示した.水稲の出穂前の牧草地におい

て発生した斑点米カメムシ類成虫の主要種はアカス

ジカスミカメであった.次いで、アカヒゲホソミドリ

全土

‘ロ

すく1,000い取

り虫

20回振りすくい取カスミカメの発生が多かったが,

500 カメムシの密度は羽田振りすりで20頭以下(以下,

くい取り虫数で示す) その他の斑点米カで推移し,

メムシ類についても3頭以下で推移した.0

5/155/235/31 6/8 6/166/24 7/2 7/107/187126 8/3 8/11

イタリアンライグラスにおけるカスミカメムシ第1鴎

したがっ

て,発生したカスミカメムシ類幼虫のほとんどはア

カスジカスミカメであったと判断した. 類の発生治長 (2005年)

注1)アカスジ アカスジカスミカメ,アカヒゲ:アカヒゲホ

ソミドリカスミカメ、ムギ:フタトゲムギカスミカメ.

アカスジカスミカメ第1t控代成虫

-ーアカスジ

. -0 ・アカとゲ

・也・ムギ

Aカスミカメムシ成虫

150

100 すくい取り虫数

6月下旬に100頭に達し

カスミカメムシ類幼虫

が増加し, 7月上~中却の1'"'-'2齢幼虫の発生密度は,

また 7月中旬には, 3'"'-'4齢幼虫の

S齢幼虫の発生は7月中旬の24頭

がピークであった.アカスジカスミカメ第1世代成虫

の密度は7月下旬に増加したが,その程度は越冬世代

に比べて低く, 8月上伺には発生が認められなくなっ

アカスジカ

スミカメの越冬世代成虫は,

その後,てピークとなった.

600頭を超えた.

発生密度が増加し,

アカスジカスミカメ越冬世代成虫

0

6/24

50 た.

2006年の牧草地におけるカスミカメムシ類の発生

消長を第2圏に示した.すくい取り虫数は,調査した

3'"'-'9地点の平均値で示した.水稲の出穂高jの牧草地

2005年同様ア 際 5鈴

l!J3-4齢ロ1-2齢

sカスミカメムシ幼虫

500

400 における斑点米カメムシ類の発生は,

カスジカスミカメが主体であり, 300

すくい取り虫数

カスミカメムシ主夏

幼虫のほとんどはアカスジカスミカメであったと判

断した.カスミカメムシ類幼虫は, 7月中特に1'"'-'2齢

200

100

幼虫が200頭を超えてピークとなり, 7月下旬には3'"'-'

4齢幼虫および5齢幼虫が増加した.

カスミカメ成虫も, 7月下旬に100頭を超える発生密

度を示し,第l世代成虫の発生ピークとなったが,

月に入るとその密度は急、激に低下した.

2005年と2006年の2カ年の調査結果から,

ンライグラスが主体の牧草地におけるアカスジカス

ミカメ第1世代幼虫の発生盛期は7月中~下旬であ

第1世代成虫の発生盛期は7月下特であった.

8/11

イタリアンライグラスにおけるカスミカメムシ

8/3 7/26 7/18 7/10 7/2 0

6/24

第2図

アカスジまた,

類の発生j消長 (2006年)8

注1)調査地点数 :7月3Sおよび8Ji11隠は3地点, 7月比日は7

地点, 7月初日は9地点、.

注2) 凡例の説明は,第1図参煎.

イタジア

り,

Page 6: アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術 …アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と新規殺 虫剤による斑点米被害の抑制

小野ら:アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と新規殺虫剤による斑点米被答の抑制39

100

80 す

い 60取

i 49

20

A 図アカスジ成虫ロアカヒゲ成虫間カスミカメムシ幼虫ロその他のカメムシ

メIJり取り区 対照区

500

400

300

200

100

E n = 9

500

400

300

200

100 n = 1

。>tIJ ~)取り区 対照区 刈り取り区 対照区

第3悶 アカスジカスミカメ第1世代に対する牧草地のメIJり取りの効果 (2005,2006年)

注1)A: 2005年N地区,自:2005年0地区, C: 2006年

投2)密度調査は, 7月下旬に20回振りすくい取り調査を行った.

注3)凡例の説明は,第1図参照.

注4) Cの~cþの縦棒は,襟準誤差を表す.

2. メIJり取りによる牧草地のアカスジカスミカメの

抑制効果

イタリアンライグラス主体の牧草地において,ア

カスジカスミカメ幼虫の発生盛期 (7丹中旬)のメIjり

取りによるアカスジカスミカメ第l世代成虫の窮度抑

制効果を第3函に示した. 2006年の対照区は9園場の

平均値で示した.すくい取りで捕獲された成虫の多

くはアカスジカスミカメであったことから,発生し

たカスミカメムシ類幼虫の多くはアカスジカスミカ

メであったと判断した.7月下旬のメuり取り E互におけ

る幼虫密度は,対照区と比較して樺めて低く抑えら

れた.また,対照区のアカスジカスミカメの成虫密

度は,高いところでは200頭を超え,低いところでは

20'"'"'30頭と圏場開差があったものの,メuり取り区で

は成虫がほとんど捕獲されず,明らかな密度抑制効

果が認められた.

3.牧草地のメIJり取りによる斑点米被害の抑制効果

牧草地の刈り取りが,斑点米の発生量に与える影

響について試験を行った.まず,牧草地におけるカ

メムシの発生密度を第4図に示した. 7月14日のメuり

取り区および対黒区のカメムシの密度は,ともにカ

スミカメムシ類幼虫が主体であり, 1'"'"'4齢幼虫が全

幼虫の8'"'"'9部を占めた.7丹26日の調査では,刈り取

り前の刈り取り区と対-照区において,カスミカメム

シ類幼虫の他にアカスジカスミカメ成虫の発生が多

くなったが,刈り取り後の刈り取り症では,カメム

シ密度は低く抑えられた.8月11日のメuり取り区は全

て刈り取り後であったことから,カメムシ窮度は対

照、区と比較して低く抑えられた.

400

すく 300L、取 200りE註 100数

250

す 200く

い 150淑り 100虫

50 数

100

す 80く

い 60取り 40

z 20

7月14日

I 7J'l26B

8Fl11B

出jり取り後

刈り取り区

n = 2

対喜吉区

n = 1

n = 3

怒アカスジJit虫

ロアカヒゲ成虫

Bカスミカメムシ幼虫

ロその他カメムシ

れ =3

第4図 牧草案地における刈り取りと斑点米カメムシ類の

発生の関係 (2006年)

注1) rxljり取り j 区の刈り取り特異耳:7月 18 日あるいは7月 26~8

月313.

注2) 凡例の説明は,第w窓参照.

Page 7: アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術 …アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と新規殺 虫剤による斑点米被害の抑制

40 宮城県古川農業試験場研究報告 第8号 (2010)

牧草地に近接した水田におけるすくい取り調査と

斑点米発生率調査の結果を第5留に示した.対照区に

近接した水田では,出穂璃~穂揃期およびその12沼

後まで斑点米カメムシ類,特にアカスジカスミカメ

成虫の発生が多かったのに対し,刈り取り区に近接

した水田におけるカメムシ密度は低かった.また,

対照区に近接した水田では,牧草地に近い地点ほど

カメムシ密度が高くなる領向が認められた.斑点米

発生率についても,対照区に近接した地点では高く,

メiJり取り区に近接した水田で、は低かった.また,対

照区に近接した水田における斑点米発生率と牧草地

からの距離の関係については,牧草地に近いほど発

生率は高い傾向が認められたが, 100m離れた地点に

おいても0.1% (1等米の着色粒混入の許容限界)を

超えた.

n::;::: 3

20

15 r (8月11日)L、取 10り

虫 5 数

。ト」ニ1α羽

別世取り区

く (8月23日}L、取 10

虫 5数

:01り取り区

: 0.5 ~ C 斑点米発生率

法 0.4発生 0.3

率 0.2

同 0.1

0.0

10m

:01り叡り区

n = 3 n ;:: 2 n:;:: 2

ロその他由カメムシ

羽アカヒゲ成虫

周アカスジ成虫

ロモ由他的カメムシ

ロ1島町来滋

磁 I島羽以上

第5函 牧草地の刈り取りが水国内カメムシ密度と斑点米

発生率に与える効果 (2006年)

注1)綴効の数値 (m) は,牧草地からの距離を表す.

注2)8月111=1:水稲の出穏期~穂、揃期.

注3)凡例の説明は,第1図参照、.

注4)斑点米カメムシ類に対する殺虫剤散布は,慣行防徐である

(薬剤散布回数:1~2由).

注5)斑点米発生率の図中の破線は, 1等米の着色粒混入の許容

限度を示す.

4. 牧草地からの距離とアカスジカスミカメによる

斑点米被害の関館

牧草地における現点米カメムシ類の発生状況を第

2表に示した.7月24日および8月10Sの斑点米カメム

シ類の発生について,成虫はアカスジカスミカメが

主体であり, 8月10臼には300頭を超える密度であっ

た.また,カスミカメムシ類幼虫の発生は, 500頭を

超える高密度であった.その他に,アカ上ゲホソミ

ドリカスミカメ成虫やフタトゲムギカスミカメ Sten

odema calcaratθ(Fallen)成虫などの発生も認めら

れた.

牧草地からの距離と水閏内の斑点米カメムシ類の

発生密度の関係を第6閣に示した.斑点米カメムシ類

の発生は,アカスジカスミカメ成虫が主体であり,

その他に,アカヒゲホソミドリカスミカメ成虫やフ

タトゲムギカスミカメ成虫,カスミカメムシ類幼虫

の発生が認められた.出穂期 (8月10S)における水

田内のアカスジカスミカメ成虫の密度と牧草地から

の距離の関係は,調査地点の中で最も近い30mの地点

においては9頭であったが、 60mと100mの地点におい

て20顕を超える高い密度であった.さらに150mで、は

4頭となり、 200認と250m地点で、は発生が認められな

かった.出穂期の14日後 (8月24S)における水田内

のアカスジカスミカメ成虫の密度は,牧草地から30

mの地点で、約60頭の高い密度となり, 60mの地点で'20

頭, 100怒以上離れた地点においては5頭以下で、あっ

た.アカスジカスミカメ成虫以外の寵点米カメムシ

類については,牧草地からの距離との相関は認めら

れなかった.

牧草地からの距離と斑点米発生率の関係を第7図に

示した.斑点米発生率は, 100m以内の地点において

高く, 150m以上の地点において0.1%未満の低い斑点

米発生率であった.また,牧草地から60mと100mの地

において,1.8mm未満の斑点米被害粒の発生が多く

なった.

第2表 牧草地における斑点米カメムシ類のすくい取り調

査 (2007年)力スミカメムシ翁

成虫 幼虫ホソハリカメムシ

アカスジアカヒゲ ムギ 1-2齢 3-4草書 5齢 計 成虫 幼虫

7124 95 20 366 176 94 636

8/10 302 58 14 218 170 140 528

注1)fL例の説明は,第l図参照.

Page 8: アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術 …アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と新規殺 虫剤による斑点米被害の抑制

41

カメムシ類幼虫の発生密度を抑制したが,殺虫剤の

種類の違いによる抑制効果の違いは認められなかっ

小野ら.アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と新規殺虫剤jによる斑点米被害の抑制

一@ーアカスジ成虫

-","アカとゲ成虫

-0-ムギ成虫

一+ーカスミカメムシ幼虫

8月10850

す 40

〈ぃ30

り 20虫

数 10

た.

無処理症と比斑点米の発生に対する抑制効果は,

ジノ

テフラン液剤が最も効果が高く(無処理比3.7%),次

いでヱチプロール水和剤(無処理比38.6九)およびエ

トフェンプロックス乳剤(無処理比41.9お)であった.

全ての殺虫剤において認められたが,較して,

300

勾ムギ

.アiJスジ

散布瞬 (8/14)

斑点米カメムシ類の発生に対する新規殺虫剤の紡

除効果 (2007年)

5

す 4くL、司教

り,!l! 数 1

0

" す 25〈L、2窃

取 15

2m 数 s。

第8図

一@ーアカスジ成虫

一←アカヒゲ成虫

-cトムギ成虫

一←力スミカメムシ幼虫

4

0

Ao

b

A

¥

2

、紅色仏

間的

¥¥¥eJJi

大¥¥rJrL一i

50

9

0

nu《

υ

ハυAυnυ

υ《

υnυ

7

5

5

4

3

2

1

300

牧草地からの誼離と水田内の斑点米カメムシ類の

発生密度の関係 (2007年)

250

ロ1.8附来言語

翻1.8闘以上

100 150 200

牧畿地からの箆繋 (m)

主主1)凡例の説明は,第1図参照.

5

0

5

D

5

0

9hn441gtnυ

υ

AU

υnυ

υ

υ

υ

斑点米発生率〈帖)

第6図

注1)上図:斑点米カメムシ類成虫の密度.

下図:カスミカメムシ類幼虫の密度.

250m 200m 10伽 15倣1

牧翠地からの箆産量

6伽:3的1

注2)図注の縦棒は,標準誤差を表す牧草地からの誼離と斑点米発生家の関係(2007年)第7臨

注3)凡伊jの説明は,第l図参照、.注1)斑点米発生塁手の図中の破線は, 1等米の着色粒滋入の許容

限度を示す.

2その他

ロ塁審査書

窃I寛章事

0.25

0

5

0

5

2

1

1

0

0

0

0

0

斑点米発生率{持)

5. 新規殺虫剤による斑点米被害の抑制

1)新規殺虫離の麓類と防除効果

理点、米カメムシ類に対する新規殺虫剤の効果を第

8図に示した.水田内で発生した斑点米カメムシ類の

カスミカ成虫はアカスジカスミカメが主体であり,

メムシ類幼虫の発生も認められた.散布前~散布15

緩処理ヱトフェンブロックスヱチブロールジノテフラン0.00 日後の無処理E互におけるアカスジカスミカメの発生

斑点米発生率に対する新規殺虫剤の効巣第9図無処理区以外の芭につ密度は1~2頭で推移したが,

(2007年)いては,散布前の密度が1~3頭であり,散布4~15 日

波1) アークサイン変換後にTukey-Kramer法による多重比較検定後は1頭以下で推移した.無処理症におけるカスミカ

を行った.向じ添字は5%レベノレで有意な差がないことを示す.散布メムシ類幼虫の発生密度は,散布前が約10頭,

注2) 図浅の縦稼は,標準誤差を表す.無処理区以外の区4~15 臼後が9~18頭であったが,

注3)図中の破線は, 1等米の者色粒混入の許容限度を示す.については,散布前の密度が3~9頭であり,散布4~

15日後は4頭以下で推移した.殺虫剤散布後は,いず

れの殺虫剤もアカスジカスミカメ成虫およびカスミ

Page 9: アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術 …アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と新規殺 虫剤による斑点米被害の抑制

42 宮城県古川農業試験場研究報告 第8~手 (2010)

2) 肪除効果に対する散布時期・散布函数の影響

斑点米カメムシ類の発生消長を第10閣に示した.

無処理区における発生密度は,穂描期6""'13日後が高

く,穂揃期21日以後は減少しているが,穂捕期28日

後まで斑点米カメムシ類の発生が認められた.穂揃

期6""'13日後の無処理区以外の区における発生密度

は,無処理区と比較して低密度であったが,穂揃期

21臼以後は増加しており, 1呂散布の穂揃期区と穂揃

期7日後区は,穂揃期28日後に無処理区より密度が高

くなった.全すくい取り頭数の種構成を第11閣に示

したが,いずれの区もアカスジカスミカメが主体で

あった.

斑点米発生率を第12閣に示したが, 2間散布の「穂

揃期十穂描期7臼後j区と l回散布の f穂揃期7日後」

震は,無処理区と比較して{尽く抑えられたが, 1沼散

布区の「穂描期JIRは無処理区とほぼ問等であった.

12 一+町議長岩怒H霊長議期7一台一総長詰鰯

、、、、

¥

、、。『

p ,,

,,

J'

,,

,,

,,,

関移

すくい取り虫数

10 r D -0ー怒議禁罪7

一0・帽禁処王室

8/12 8/19

(+6)

8/26

(+13)

9/2 9/9

(-1) (+20) (+27)

第10~ J;定点米カメムシ類の発生j員長に対する散布時期

.@]数の影響 (2008年)

注1)図注の自矢印は穏揃期,黒矢印は薬剤散布の時期を表す

注2)20回振りすくい取り虫数iこ換算した値で示した.

注3)穂、揃期:8Jl13S. 横軸のかっこ内数字は,穂揃携を基準

にした経過日数.

35

日その他

30

す 25

くも、 20

り 15虫

数 10

務繍線十穏議期7 穏繍異耳 穏繍矧7 務処耳塁

第11悶 斑点米カメムシ類の発生密度と発生種に対する

散布持期・自数の影響 (2008年)

注1)羽田振りすくい取り虫数に換算した値で示した.

注2)凡例の説明は,第l図参照.

0.14 ロ1.8闘未満

0.12 園1.8醐以上

斑 0.10

米 0.08発

ー品らー

率 0.06(

ち 0.04

0.02

0.00

認;詞織+穏主語悶7 務4藷期 穏繍期7 紫係書室

第12図 斑点米発生率に対する散布時期・回数の影響

(2008年)

注1)アークサイン変換後lこTukey-Kramer法による多重比較検定

を行った.向じ添字は5%レベルで有意な羨がないことを示す.

注2) 図中の破線は, 1等米の着色粒混入の許容限度を示す.

考察

宮城県におけるアカスジカスミカメによる斑点米

被害は1980年代から認められへその後,宮城県にお

ける最重要種に位置づけられている 10) 本種は,イタ

リアンライグラスが作付けされている転f作乍牧草地に

おいて繁殖しておりγ2.3川'

E原原子京、因となるの;は土,第1世代以降の成虫である山4) 従っ

て,繁殖地における第1世代成虫の密度を抑制するこ

とは,斑点米被害を抑制する上で重要である.また,

本謹は移動性が高いカメムシである 10.川ことから,寄

主植物の刈り取りによる成虫の移動・分散が問題と

なる.従って,飛滞できず移動性が小さい幼虫の発

生接期に,繁殖地の寄主植物を刈り取ることが,発

生源対策として重要であると考えられる.

イタリアンライグラス主体の牧草地において,ア

カスジカスミカメの第l世代幼虫の発生盛期は, 7月

中~下旬であり(第1,2臨),この時期に牧草地の刈

り取りを行うことにより,そこでのアカスジカスミ

カメの密度は低く抑えられることが明らかになった

(第3,4図).また,メIjり取りを行った牧草地に近接

した水田では,アカスジカスミカメの成虫密度が低

く抑えられ,斑点米被害が低減された(第S図).従

って,発生糠となる牧草地においては,斑点米被害

を効果的に抑えられる刈り取り時期は, 7月中~下旬

と判断した.なお,試験顕場では,斑点米カメムシ

類に対する殺虫剤散布は農家慣行により 1""'2回行わ

れた.従って,繁殖地のイタリアンライグラスの刈

り取りによる密度抑制だけで, 1等米の着色粒混入率

Page 10: アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術 …アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と新規殺 虫剤による斑点米被害の抑制

小野ら:アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制j技術と新規殺虫剤による斑点米被答の抑制43

を許容眼度以下に抑制できるかは,今後の課題であ

る.

アカスジカスミカメの繁殖地の刈り取りが適期に

行われていない場合,繁殖地に近接する水田では,

慣行の薬剤防除だけで斑点米被害を十分に抑制でき

ないことが明らかになった(第5,7図).また, 100

m離れたところまで本種の密度や斑点米発生率が高か

ったことから,アカスジカスミカメの移動・分散能

力は高いことが示された.一守ら5)の報告によれば,

1等米の許容隈度を超える斑点米の被害が発生するの

は,発生糠から30m以内の範囲で、あった.本試験にお

いて,本種の被害が及ぶ範囲が大きい理由として,

繁殖地の面積の違いが考えられた.一守ら 5)の試験に

おける繁殖地の規模は約1haの転作牧草地または農道

であったのに対して,本試験において対象とした繁

殖地は,数十ha規模のイタジアンライグラス鴎場を

含んで、いた.従って,アカスジカスミカメによる斑

点米被害が及ぶ範屈については,繁殖地の規模の違

いが影響を及ぼすと考えられた.

1999年に全国的に斑点米被害が問題となり,斑点

米カメムシ類の防除薬剤として,ネオニコチノイド

系やフェニノレピラゾーノレ系の殺虫剤が新たに農薬登

録され,使用されるようになった.これらの新規殺

虫剤に対して,アカスジカスミカメの基幹防除の薬

剤として位置づけを明らかにすることは重要である

と考えられる.本試験では,これらの新規殺虫剤の

効果を調査し,ネオニコチノイド系のジノテフラン

液剤が最も高い効果を有することを明らかにした

(図的.フェニノレピラゾール系のエチプロール水和

剤と従来から使用されている合成ぜレスロイド系の

エトブェンブロックス乳剤についても効果は認めら

れたが,斑点米発生率は無処理の約40%に抑える程

度であった.また,本試験では,水田内でカスミカ

メムシ類幼虫の発生が認められた(第8図).水田内

で発生したカスミカメムシ類の成虫はアカスジカス

ミカメが主体であったことから,本種の幼虫である

と判断した.本建は,水田内に発生したカヤツリグ

サ科のイヌホタルイやイネ科のヒヱ類に対して産卵

し,幼虫が発生すること,そのことにより斑点米被

害が助長されることが知られているは13¥本試験にお

いて,イヌホタルイ等の水田雑草の発生が幼虫発生

の要因と推測したが,殺虫剤散布前の試験区間の成

虫および幼虫の発生密度から,水田雑草の発生が,

薬剤開の防除効果に対して大きな影響を及ぼさなか

ったと判断した. したがって,アカスジカスミカメ

に対する基幹防除の薬剤としては,ジノテフラン剤

が最も有力であると考えられた.また,今後は環境

保全型農業を推進する上で,斑点米カメムシ類に対

する防除効果だけでなく,水田内外の生態系に及ぼ

す影響についても明らかにすることが重要で、ある.

アカスジカスミカメの紡除効果に対する殺虫剤の

散布時期と屈数について調査を行い,水田内におけ

るアカスジカスミカメの発生が長期間にわたる場合

には,殺虫剤の2回散布が重要であることが示された

(第10,12顕).無処理主主においては,稽揃期6'""21

日後, 1閉散布した震においても,穂捕期21'""28 S後

に,カメムシ密度が高くなっており,水謡の登熟中

期に本種の発生が多かった.このことが,斑点米発

に対して穂描期l閤散布の防除効果が認められなか

った要閤であると考えられた.一方,璃揃期7臼後の

l回散布は, 2四散布とほぼ同等の効果が得られたこ

とから,本試験のように登熟中期までアカスジカス

ミカメが水田内に発生した場合には,穂t前期7沼後の

殺虫剤散布が有効であると考えられた.本種の水田

内への侵入は出穂以降である引が,その発生消長は一

様ではなく,出穏期から穂揃期に発生ピークとなり,

その後は低密度で推移することもある 9)ことから,そ

の場合の散布団数および散布時期についても検討す

る必要がある.また,アカスジカスミカメの水田内

の発生パターンに影響を及ぼす要思について明らか

にすることは,殺虫剤による防除体系を構築する上

で重要であると考えられる.

本報告では,アカスジカスミカメの主要な繁殖地

であるイタリアンライグラスの牧草地における刈り

取り管理の重要性と水田内における新規殺虫剤の訪

除効果および散布時期と自数の防除効果への影響に

ついて明らかにした.また,アカスジカスミカメに

よる被害は, 100mの範留に及ぶことも明らかになっ

たことから,広域的な害虫管理の戦略を組み立てる

ことが重要であると考えられた.

要約

l アカスジカスミカメの主要な繁殖地であるイタジ

アンライグラスの牧草地において,アカスジカスミ

Page 11: アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術 …アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と新規殺 虫剤による斑点米被害の抑制

44 宮城県古川農業試験場研究報告 第8号 (2010)

カメ第1世代幼虫の発生盛期は, 7月中~下旬であっ

た.

2 アカスジカスミカメ第1世代幼虫の発生盛期に牧

草地のメiJり取りを行うことにより,そこでのアカス

ジカスミカメ第1世代成虫の密度は低下し,近接する

水田においても,アカスジカスミカメの発生密度お

よび斑点米発生率は低下した.

3 アカスジカスミカメによる斑点米被害の抑制に対

しては,ネオニコチノイド系のジノテフラン液剤の

効果が高かった.

4 水田内におけるアカスジカスミカメの発生が,水

稲の出穂以降,長期間にわたる場合には,穂揃期の

1回散布では効果が認められず,穂揃期とその7日後

の2四散布あるいは穂描期7臼後のl回散布の効果が高

かった.

引用文献

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おけるヒエ類とアカスジカスミカメ(I日称:アカス

ジメクラガメ)による斑点米との関係.北a本病虫

研報 51 ; 162-164

2)林 英明 .1986.アカスジメクラガメの生態と防

除.植物訪疫 40 : 321-326

3)林英明,中沢啓一.1988.アカスジメクラガメ

の生態と訪除に関する研究第l報 生息場所と発生

推移.広島農試報告 51 ; 45-53

4)飯村茂之.1992.斑点米を発生させるアカスジメ

クラガメの寄主選好性.東北農業研究 45 ; 101…10

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5) 一守貴志,千葉武勝,田中英樹,伊藤正樹. 19

90. アカスジカスミカメの発生源からの距離と斑点

米発生量の関係.北 B本病虫研報 41 ; 121-124

6) 一守貴志,問中英樹,浦)11福一,平野稔. 19

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米の発生.北日本病虫研報 42 ; 101-102

7)右本万寿広. 2007. ネオニコチノイド系殺虫剤

l回散布によるアカヒゲホソミドリカスミカメの防除

技術第1報 置場単位の防除技術.北韓病虫研報

56 ; 9-15

8)加進丈二,熔中教子,小野亨,小山湾,城所

隆. 2009. イヌホタノレイの存在が水田内のアカス

ジカスミカメ発生動態および斑点米被害量に与える

影響.応動昆 53 ; 7-12

9)菊地淳志,菅野洋光,木村未u幸,後藤純子,小野

,新山徳光,滝田雅美,松木伸浩,大場淳司,

堀末 登. 2004. 東北地域における斑点米カメムシ

類の発生と被害実態調査.東北農研研報 102 ; 101

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況.宮城農セ報 58 ; 10-24

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ヲカスミカメに対するネオニコチノイド系薬剤l由散

布の防除効果.北日本病虫研報 55 ; 131-133

12)新山徳光,糸山 享.2005.ジノテフラン剤l回

数布によるアカヒゲホソミドリカスミカメ防除の現

地実証.北日本病虫研報 56 ; 111-112

13)大友令史,菅 広和,問中誉志美.2005. アカ

スジカスミカメの生態、に関する 2,3の知見.北日

本病虫研報 56 ; 105-107

14)小野 亨.2006. 2005年宮城県における斑点米

カメムシ類の発生状況と防除.今月の農業 50 (7)

; 20-26

15)小野亨,力日進丈二,城所 峰. 2007. アカス

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制.北日本病虫研報 58 ; 75-79

16)高矯富士男,永野敏光,佐藤智美. 1985.宮城

県におけるアカスジメクラガメによる斑点米の発

生.北日本病虫研報 36 ; 38-40

17)武田 藍,清水喜一,椎名伸二,萩原邦彦,片

瀬雅彦. 2008. 手目指川堤防法語雑草地と水田におけ

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東病虫研報 55 ; 97-102

18)接選朋成,樋口博也.2006.斑点米カメムシ類

の近年の発生と課題.植物防疫 60 ; 201-203

Page 12: アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術 …アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と新規殺 虫剤による斑点米被害の抑制

小野ら:アカスジカスミカメに対する繁殖地の密度抑制技術と新規殺虫剤jによる斑点米被害の抑制45

Control of Sorghum Plant Bug, Stenotus rubrovittatus (Matsumura)

(Hemiptera:Miridae) in Rice Paddy Field by' Grass Mowing in Migration Source and

Application of New Insecticides

Toh1'u ONO, Joji KASHIN, Takashi KIDO五ORO,Kouya SATO and Natuko ISHIHARA

Summary

The so1'ghum plant bug, Stθnotus rubTOvittaus (Matumura) is the main 1'ice stink bug species causing

pecky 1'ice in Miyagi P1'efecture. The second-01' third-gene1'ation ofthe bug im盟 igrateinto paddy fields

afte1' heading time. The main migration sou1'ce of the bug is a pastu1'e planted to the italian ryegrass

Lolium muJtif10rum Lam. First, we verified bug cont1'ol by grass mowing in the migration source. As a

1'esult, the adult density of the second-gene1'ation was controlled by grass mowing at the peak of the

nymphal stage f1'om mid幽Julyto late July. Also, damage by the bug in the paddy fields was supp1'essed.

In the case of non-grass mowing, the damage by the bug was obse1'ved even in the paddy field 100 m

away企omthe sou1'ce. The1'efo1'e, the impo1'tance of grass mowing in the migration sou1'ce was shown.

Second, we investigated the effect of sp1'aying insecticides using dinotefu1'an, ethip1'ole and ethofenp1'ox.

Dinotefu1'an and ethip1'ole a1'e insecticides that have been developed only in 1'ecent yea1's. Among the

three insecticides tested, dinotefu1'an was the most effective fo1' cont1'ol of the bug. Also, we investigated

the effects of f1'equency and timing of insecticide sp1'aying on bug cont1'ol. We found that sp1'aying

insecticides twice, once at full heading time and anothe1' seven days late1', is effective fo1' cont1'ol of the

bug.