59
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。 URL : http://keirin.jp/ システム開発 18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ ―要 旨― 平成19年3月 財団法人 機械システム振興協会 委託先 財団法人 次世代金属・複合材料研究開発協会

コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。 URL : http://keirin.jp/

システム開発 18-F-3

コールドスプレーによる革新部材創製技術

の開発に関するフィージビリティスタディ

報 告 書

―要 旨―

平成19年3月

財 団 法 人 機 械 シ ス テ ム 振 興 協 会

委託先 財団法人 次世代金属・複合材料研究開発協会

Page 2: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

わが国経済の安定成長への推進にあたり、機械情報産業をめぐる経済的、社

会的諸条件は急速な変化を見せており、社会生活における環境、都市、防災、

住宅、福祉、教育等、直面する問題の解決を図るためには技術開発力の強化に

加えて、多様化、高度化する社会的ニーズに適応する機械情報システムの研究

開発が必要であります。

このような社会情勢の変化に対応するため、財団法人機械システム振興協会

では、日本自転車振興会から機械工業振興資金の交付を受けて、システム技術

開発調査研究事業、システム開発事業、新機械システム普及促進事業を実施し

ております。

このうち、システム技術開発調査研究事業及びシステム開発事業については、

当協会に総合システム調査開発委員会(委員長:政策研究院 リサーチフェロー 藤正 巖氏)を設置し、同委員会のご指導のもとに推進しております。

本「コールドスプレーによる革新部材創製技術の開発に関するフィージビリ

ティスタディ」は、上記事業の一環として、当協会が財団法人次世代金属・複

合材料研究開発協会に委託し、実施した成果をまとめたもので、関係諸分野の

皆様方のお役に立てれば幸いであります。

平成19年3月

財団法人 機械システム振興協会

Page 3: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

はじめに 地球にやさしく、資源やエネルギーを浪費しないという命題は工業製品の製造及び使用

にも課せられており、このための技術革新が必要となります。当協会は優れた性質を有す

る革新的な金属及び複合材料の研究開発並びにその成果の普及を通じて産業の振興、発展

に寄与することを目指しております。 近年、音速レベルに高速化した金属合金粉末を部材に衝突させることにより、金属系の

部材表面の改質あるいは部材を直接造形するコールドスプレーの研究開発が進められてお

ります。当協会では、平成15年度の自主事業及び平成16年度に(財)機械システム振

興協会より「高速粒子を利用した革新部材創製に関する調査研究」を受託し、金属部材創

製に関する調査研究を行い、本技術が部材創製として優れた特徴をもち、かつ実現性の高

い技術であるとの見通しを得ました。 本技術を製造業での部材に応用するプロジェクトの可能性を検討する目的で「コールド

スプレーによる革新部材創製技術の開発に関するフィージビリティスタディ」を(財)機

械システム振興協会より受託し、関係者とともにフィージビリティスタディ(以下スタデ

ィという。)を実施いたしました。 本スタディは、溶射などの表面技術に造詣の深い豊橋技術科学大学福本昌宏教授を委員

長とする技術委員会を設け、実際に試験体を作成し、評価試験を実施いたしました。実施

に際し、とりわけ信州大学榊研究室には成膜に関して多大なご尽力を頂き感謝しておりま

す。 本報告書は上述のスタディ体制のもとに成膜条件の適正化、ノズル性能改善、評価試験、

検討結果及びプロジェクト化に向けた提言を取りまとめたものであります。経済産業省製

造産業局素形材産業室には技術委員会にご出席いただき、取りまとめの方針などご指導賜

りました。本報告書がコールドスプレーを利用した革新部材創製プロジェクトの発足及び

技術開発指針として役立つことを願うものであります。 最後に、ご指導いただきました経済産業省製造産業局素形材産業室、(財)機械システム

振興協会及び技術委員会の関係各位に深甚の謝意を表します。 平成19年3月

財団法人 次世代金属・複合材料研究開発協会

Page 4: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

目 次

はじめに

1. スタディの目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

2. スタディの実施体制 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

3. スタディ成果の要約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

3.1 成膜条件の最適化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

3.2 粉末の噴射量・速度の安定化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 3.3 ノズル性能の改善 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

3.4 皮膜の耐腐食性向上対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

3.5 成膜メカニズムの解明 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

3.6 試験体の作製と評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

3.6.1 ガスタービン部材 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

3.6.2 航空機機器部材 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

3.6.3 ボイラーチューブ部材 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・29

3.6.3.1 コールドスプレー粉末の試作及び成膜化 ・・・・・・・・・・・・29

3.6.3.2 コールドスプレー皮膜の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・37

3.6.4 耐摩耗部材 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・43

3.7 総合技術調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・54

4. スタディの今後の課題及び展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・54

Page 5: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 1 -

1. スタディの目的 部材の高機能化、高寿命化、高付加価値化の要求が高まると同時に、低コストで高性

能な新部材創製プロセスが必要とされ、各種のプロセス開発が行われている。近年、音

速レベルに高速化した粒子を部材に衝突させることにより、部材表面の改質あるいは直

接造形を行う技術(以下、「コールドスプレー」という。)の研究開発が進められている。

コールドスプレーに対する重電、重工業などをはじめとする需要業界各社の関心は高い

が、実用研究に着手するには信頼できる基礎データが不足しており、技術動向を見守っ

ているのが現状である。

(財)次世代金属・複合材料研究開発協会は(以下、「RIMCOF」という。)(財)機械

システム振興協会から平成17年度に「コールドスプレーによる革新部材創製技術の開

発に関するフィージビリティスタディ」を受託し、コールドスプレーによる部材の高機

能化・高性能化の実証に最も効果的であると考えられるボイラー配管、ガスタービン、

航空機機体部品及び内燃機関の耐摩耗部材への適用に絞り、耐食・耐摩耗・耐高温腐食

皮膜の形成とその基本性能評価を行った。

その結果、純アルミを用いた重厚皮膜の形成に成功するとともに、耐熱材料であるイ

ンコネルや WC-Co などのサーメット材料でも高速で成膜可能であることを確認した。ま

た、皮膜の性能についても粉末の粒径や成膜条件の最適化、成膜後の後処理等によりそ

の性能を更に向上でき、製品適用への要求に応えられるようになるものと判断された。

本スタディでは平成17年度の成果を踏まえ、成膜条件の最適化等により皮膜性能の

向上を図るとともに、ノズル性能の改善並びに粉末の噴射量安定化等の実用化を睨んだ

研究開発を行い、コールドスプレーの実用部材への適用可能について明らかにするとと

もに、製品に適合した実証的なデータを蓄積することを目的とする。表面をコーティン

グして機能性を付加する手法は溶射、スパッタ、イオンプレーティング、メッキなどが

あるが、本スタディのコールドスプレーは、以下の利点と課題がある。

<コールドスプレーの利点>

(1)従来技術では不可能な緻密で高品質の皮膜が、熱影響なしに、かつ極めて厚く形成

できるので、ジェットエンジン、ガスタービン、発電用ボイラー及び航空機機体部

品等への適用により、これらの大幅な性能向上が図れる。

(2)従来技術では不可能な材質・組織の部材が直接造形できるので、高性能で精密な部

材が安価に製造できる。

(3)部材表面を直接ナノ結晶に改質できるので、機械構造部品等の耐摩耗性や疲労強度

が格段に向上できる。

(4)部材製造装置として生産性が高く、装置コストも低い。

(5)従来技術に比し、高品質で生産性が高く低コストであり、かつ応用分野も広く、我

が国の素形材産業における重要な次世代のプロセス技術として大きく期待できる。

<コールドスプレーの課題>

(1)製品応用のためのデータが不足である。

(2)コールドスプレーに適した合金粉末の性状が不明確である。

Page 6: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 2 -

(3)ノズル閉塞防止や安定した粉末供給等の実用化装置の開発が必要である。

(4)皮膜形成メカニズムの解明が不十分である。

(5)ガスや粉末材料の回収による一層の低コスト化技術の開発が必要である。

以上、コールドスプレーは多くの利点を有する画期的な技術であるが、実証されたデー

タが極めて少なく、また実用化装置の技術や量産プロセスの技術についても開発が不十分

なため、需要業界各社が具体的な適用検討に積極的に取り組めないでいる。本スタディは、

具体的な適用アイテムを需要業界各社と協議し、信頼できる実証データを着実に蓄積する

一方、装置面やプロセス面での改善を検討し、実用化の可能性を明確にしていく。

具体的には、対象部材をガスタービン翼、ボイラー配管、航空機部材及び内燃機関の耐

摩耗部材への適用にしぼり、それぞれインコネル、WC-Co 合金、純 Al、純 Cr の粉末を用い

て試験体を作製し、ガスタービン翼やボイラー配管では耐摩耗・耐高温酸化皮膜の生成と

その性能評価を、航空機部材については塩水噴霧試験などによる耐食性評価を行い、さら

に耐摩耗部材では耐摩耗特性の評価を行うことにより、製品に適合した実証的なデータを

蓄積する。

2.実施体制

(1)実施体制

(財)機械システム振興協会内にある総合システム調査開発委員会の審議をうけ、研究

開発は、RIMCOF が中心で実施し、試験体の作製は信州大学と連携して進める。また、試験

体の評価はそれぞれの製品に適した評価技術を有するメーカーに外注する。

なお、成膜条件の最適化については信州大学に再委託して進める。

また、出口メーカーのニーズ抽出とフィードバック及び研究開発の効率的推進のため、

上記の大学及び関連メーカー並びに溶射技術に関する学識経験者によるコールドスプレー

技術委員会を組織して進める。

Page 7: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 3 -

(2)実施体制図

委託

再委託

連携 信州大学試験体作製

㈱日立製作所:ガスタービン部材評価

三菱重工業㈱:航空機部材評価

石川島播磨重工業㈱:ボイラーチューブ部材評価

三井造船㈱:耐摩耗部材評価

[試験体評価外注先]

RIMCOF 粉末噴射量・速度の安定化、ノズル

性能の改善、皮膜の耐腐食性向上対

策、成膜メカニズムの解明、試験体

作製、部材評価、総合技術調査

コールドスプレー

技術委員会

委員長:豊橋技科大 福本教授

委 員:信州大 榊助教授

東北大学 小川助教授

企業研究員

日立製作所

三菱重工業

石川島播磨重工業

三井造船

新東ブレーター

福田金属箔粉工業

フジミインコーポレーテ

ッド

事務局:RIMCOF

信州大学成膜条件の最適化

財団法人 機械システム振興協会 総合システム調査開発委員会

Page 8: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 4 -

総合システム調査開発委員会委員名簿

(順不同・敬称略)

委員長 政策研究院 藤 正 巖

リサーチフェロー

委 員 埼玉大学 太 田 公 廣

地域共同研究センター

教授

委 員 独立行政法人産業技術総合研究所 金 丸 正 剛

エレクトロニクス研究部門

副研究部門長

委 員 独立行政法人産業技術総合研究所 志 村 洋 文

産学官連携部門

コーディネータ

委 員 東北大学 中 島 一 郎

未来科学技術共同研究センター

センター長

委 員 東京工業大学大学院 廣 田 薫

総合理工学研究科

教授

委 員 東京大学大学院 藤 岡 健 彦

工学系研究科

助教授

委 員 東京大学大学院 大 和 裕 幸

新領域創成科学研究科

教授

Page 9: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 5 -

コールドスプレー技術委員会名簿

(順不同・敬称略) 委員長 豊橋技術科学大学 教授 福本昌宏 委員 信州大学 工学部 機械システム工学科 助教授 榊 和彦 委員 東北大学 大学院 工学研究科 助教授 小川和洋 委員 石川島播磨重工業(株)生産技術センター 課長 園家啓嗣 委員 三菱重工業(株)名古屋航空宇宙システム製作所 主席チーム統括 小栗和幸 委員 (株)日立製作所 エネルギー材料研究部 主任研究員 有川秀行 委員 三井造船(株) 技術本部 玉野技術開発センター 主管研究員 鎌田勤也 委員 福田金属箔粉工業(株)新商品事業部 グループマネージャー 西田元紀 委員 新東ブレーター(株)取締役 開発部門長 伊澤守康 委員 (株)フジミインコーポレーテッド 溶射材事業部 技師 北村順也 事務局 (財) 次世代金属・複合材料研究開発協会 専務理事 溝上芳史 事務局 同上 金属材料技術部 部長 手島秋雄 事務局 同上 金属材料技術部 主幹研究員 嶋岡 誠 事務局 同上 金属材料技術部 研究員 藤橋順子

Page 10: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 6 -

3. スタディ成果の要約 本スタディでは、対象部材をガスタービン翼、ボイラー配管、航空機部材及び内燃機関

の耐摩耗部材への適用にしぼり、それぞれインコネル、WC-Co 合金、純 Al、純 Cr 等の粉末

を用いて試験体を作製し、ガスタービン翼やボイラー配管では耐摩耗・耐高温腐食皮膜の

生成とその性能評価・改善を、航空機部材については塩水噴霧試験などによる耐食性評価・

改善を行い、更に耐摩耗部材では耐摩耗特性の評価を行った。具体的には、成膜条件の最

適化により皮膜性能の向上を図り、ノズル性能の改善並びに粉末の噴射量安定化等の実用

化を睨んだ試験体の作製と評価を行い、コールドスプレーの実用部材への適用可能につい

て明らかにするとともに、製品に適合した実証的なデータの蓄積を図った。

3.1 成膜条件の最適化 ガスタービン部材へ適用のインコネル皮膜は、ニッケルろう材+HIP 処理により緻密化した。航空機部材に適用のアルミ皮膜は、粉末供給量及びガス圧の改善とショットの併用

で緻密化できた。ボイラーチューブ部材へ適用のタングステンーコバルト皮膜は、ナノ粒

子粉使用と作動ガス変更で緻密な組織を達成した。内燃機関の摺動部材へ適用のクロム皮

膜は、ヘリウムガス使用と 500℃の成膜で緻密化できた。 3.2 粉末の噴射量・速度の安定化 粉末を噴射させる上での安定化因子として、粉末の粒径、粉末供給量、ガス圧、作動ガ

ス温度等を明らかにし、更に成膜に使用する粉末に適した供給を検討して、緻密化した皮

膜を得ることができた。 3.3 ノズル性能の改善 アルミ粉末噴射時のノズル閉塞について、ノズル形状、ノズル各部温度、粉末供給量、

ガス圧力、粉末粒径などの因子から検討した。その結果、ノズル円筒部外面の温度が 200℃を超え、かつ粉末供給量が多いとノズル閉塞が生じやすいことを実験から把握できた。 3.4 皮膜の耐腐食性向上対策 アルミ皮膜における耐食性向上のためには、皮膜緻密化が必要であり、このためには(ⅰ)粒子衝突時の速度または温度を高くして、気孔をなくし、粒間の結合力を高める、(ⅱ)大粒径粒子の混合によるスプレー中の皮膜の緻密化、(ⅲ)成膜後処理による皮膜の緻密化(ショットピーニング及び微粒子ショットピーニング)、などが良いことを明らかにした。 3.5 成膜メカニズムの解明 (ⅰ ) コールドスプレー法の粒子堆積メカニズムを解明し皮膜作製プロセスを能動的に制御するため、基材上での銅単一粒子の偏平堆積挙動を観察調査した。この結果、粒子堆

積に影響を及ぼす主要因子として、粒子基材間における衝突場の温度である可能性を示し

た。(ⅱ)低圧型(LP 型)コールドスプレー法の基礎的特性を調査することを目的とし、高速度カメラを用いたアルミ粒子の飛翔速度測定及び粒子付着挙動の評価を行った。この

Page 11: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 7 -

結果、コールドスプレーによる粒子の付着が速度だけに依存するのではないことを示した。 3.6 試験体の作製と評価 3.6.1 ガスタービン部材 ガスタービン部材へのコールドスプレー技術の適用性可能性を評価するため、ガスター

ビン動翼で多く用いられる Ni 基耐熱合金(IN-738LC)について、昨年度の結果 1)を踏ま

え、コールドスプレーによる成膜条件の検討、緻密化処理の検討、耐熱性の基礎評価を行

った。 (1) 試験片及び粉末 試験片基材は、IN-738LC 製、直径 25mm、厚さ 3mm のものを用いた。IN-738LC の代

表組成を表 3.6.1-1 に示す 2)。コールドスプレー(CS)用 IN-738LC 粉末はガスアトマイズ法による、50%累積粒径が約 15μm のものを用いた。 前処理として、試験片基材の表面にアルミナ研削材(#36)を、圧力 0.52MPa で投射し、

ブラスト処理して粗面化した。その後、コールドスプレー装置を用いて成膜した。 (2) 成膜条件の検討 昨年度は、緻密な皮膜が得られたものの、ほぼ全ての試験片で端部剥離が観察された。

また、この端部剥離の影響で、膜厚も 0.7mm 程度が限界であった 1)。そこで、本年度は信

州大学のコールドスプレー装置を用い、表 3.6.1-2 に示す成膜条件で皮膜を作製、断面組織を調査して、成膜条件の検討を行った。なお、膜厚は目標を 1mm 以上とした。

He ガスの圧力の影響を調べた成膜条件#1~#4 では、膜厚約 1mm 以上で端部剥離のない皮膜の形成ができた。しかし、いずれの成膜条件でも皮膜は多孔質となっており、昨年

度のような緻密な組織は得られなかった。代表的な断面組織として、図 3.6.1-1 に成膜条件#1 の組織を示す。また、同形状のノズル(Type-B ノズル、先細末広円筒型)を用い、He ガス圧力を変えた成膜条件#1(2.0MPa)、#2(3.0MPa)、#4(4.0MPa)の皮膜を比較すると、気孔は He ガス圧力が高くなるほど減少する傾向を示した。また、ノズル形状の異なる(Type-A ノズル、先細末広型)成膜条件#3 では、圧力は 3.0MPa と中程度にもかかわらず、最も気孔の少ない皮膜が得られた。今回の皮膜が多孔質となったのは、昨年度

の成膜条件に比べ、粒子速度、粒子温度のいずれか、または両方が低かったと考えられる。

しかし、装置の制約上、これ以上の高速、高温条件での成膜はできなかった。一方、今回

の皮膜では、膜厚が 1mm 以上と厚いにもかかわらず、昨年度の皮膜に見られた端部剥離

が全く生じていなかった 成膜条件#5 では、IN738LC 粉末にアルミナ粉末を重量比1:1で混合した粉末を用い

てコールドスプレー成膜を行った。これは、硬質粒子を加えることで、成膜中に堆積した

皮膜表面に硬質粒子の衝突による研削効果で新生面を生じさせ、粒子の付着効率を高める

効果を狙ったもので、Al、Cu 等では効果が認められている。しかし、成膜の結果では、100μm 程度の皮膜が形成されるのみで、これ以上の厚膜を形成することはできなかった。 成膜条件#6~#9 では、粉末供給量を変化させ、その影響を調べた。いずれの条件も、皮

膜は成膜条件#1~#5 と同様の多孔質で、粉末供給量による膜質の変化は認められなかった。

Page 12: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 8 -

以上の結果、今回検討した成膜条件の中では、緻密、端部剥離なし、膜厚が 1mm 以上

の皮膜を実現できる成膜条件を見出すことはできなかった。これを、実現するためには、

装置改良による、粒子速度、温度の向上や、残留応力低減のための機能追加(例えば、基

材温度の制御機構等)が必要と考えられる。しかし、現状装置でも、皮膜が多孔質である

ことを許容すれば、端部剥離なしで 1mm 以上の成膜が可能であることが分かった。

(3) 多孔質皮膜の緻密化の検討 前項の結果から、現状のコールドスプレー装置では、耐熱高強度材料である Ni 基合金

を緻密かつ端部剥離なしで厚膜に形成することは困難であるが、多孔質膜では比較的安定

して、端部剥離なしに厚膜が形成できることが分かった。そこで、コールドスプレーで成

膜した多孔質厚膜を成膜後の後処理で緻密化する方法を検討することにした。 ① 熱処理による緻密化の検討 成膜条件#1~#4 の試験片に対し、1121℃×4h の真空熱処理を実施して、断面ミクロ組

織を観察した。結果は、ほとんど緻密化の効果が認められなかった。 ② HIP 処理による緻密化 真空熱処理による拡散のみでは、緻密化の効果がほとんど得られなかったので、積極的

に気孔をつぶすために HIP(熱間等方圧加圧)処理を検討した。成膜条件#1~#4 の試験片に対し、温度=1120℃、圧力=193MPa(1900atm)、保持時間=2h の HIP 処理を、下記の二種類の工程で行った。

(A) 成膜 → 真空熱処理(1121℃×2h)→ HIP (B) 成膜 → 真空熱処理(1121℃×2h)→ 皮膜表面ショットピーニング処理 (φ0.6mm 鋼球、空気圧 5kg/cm2) → 真空熱処理(1121℃×2h)→ HIP

(B)工程は、皮膜表面のショットピーニング処理で機械的に表面近傍の気孔を押しつぶした層を形成後、拡散熱処理することで、多孔質皮膜の表面に緻密層を形成して開気孔を封止

することを狙ったものである。 各試験片について、(A)、(B)工程にて HIP 処理後に断面観察した。断面観察の結果から

は、(A)、(B)工程いずれも、HIP 処理による皮膜全体の顕著な緻密化の効果は得られなかった。(B)工程の試験片では、表面に約 50μm 程度の緻密化層が形成されていたが、局所的に気孔が残存している箇所が認められ、ショットピーニング+拡散熱処理による表面の

完全な封止は困難と考えられる。しかし、唯一、成膜条件#1、(B)工程試験片では、端部の一部で、図 3.6.1-2 に示すように局所的ではあるが、HIP による緻密化が認められた。これより、表面封止を完全に行うことができれば、皮膜全体を HIP により緻密化できる可能性を示唆する結果が得られた。 ③ Ni ろう材による表面封止+HIP 処理の検討 ②の結果から、HIP 処理に効果的な表面封止を行うために、Ni ろう材による表面封止処

理について検討した。Ni ろう材には Ni-15Cr-3.5B(BNi-9 相当)のペースト状のものを用いた。HIP 処理の工程を以下の手順で行った。

Page 13: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 9 -

成膜 → 真空熱処理(1121℃×2h)→ 皮膜表面ショットピーニング処理 (φ0.6mm 鋼球、空気圧 5kg/cm2) → 真空熱処理(1121℃×2h)→ ろう材塗布→ ろう付真空熱処理(1121℃×2h ) → HIP

ろう材は、試験片の皮膜表面、及び側面に塗布した。成膜条件#2 に相当する試験片に対して、上記工程にて HIP 処理まで実施した後、断面を観察した。結果を図 3.6.1-3 に示す。比較のため、成膜のままの断面組織も示した。図のように、Ni ろう材による封止処理+HIP 処理では、皮膜全体がほぼ完全に緻密化している。緻密化した皮膜表面には Ni ろう材と IN738LC 材皮膜が反応した層が約 400μm の厚さ生じており、ろう付真空熱処理の際に、溶融して液層になったろう材が表面近傍の気孔に浸入して凝固することで、表面の

気孔を完全に風止したものと考えられる。このように、コールドスプレー成膜後に Ni ろう材による封止処理+HIP 処理を用いることで、多孔質皮膜をほぼ完全に緻密化できることが分かった。 (4) 耐酸化性の評価

(3)項で得られた、コールドスプレー成膜後に Ni ろう材による封止処理+HIP 処理を施して緻密化した IN738LC 皮膜に対し、大気中 1000℃にて高温酸化試験を行い、耐酸化性を評価した。 ① 試験片 試験片は、(2)項と同様に、基材として IN-738LC 製、直径 25mm、厚さ 3mm のものを

用いた。コールドスプレーによる IN738LC 材の成膜は、信州大学のコールドスプレー装置を用い、表 3.6.1-3 に示した条件にて、約 1mm の厚さの皮膜を形成した。成膜後の試験片は、(3)-③項と同様の工程、条件で、緻密化処理を行った。作製した試験片の断面観察の結果、皮膜全体が HIP 処理によって緻密化し、端部における剥離も認められないことを確認した。ろう材による反応層は、中央部では約 200μm と薄いが、端部では、非常に厚くなっていた。端部では表面と端面(横面)の二面からろう材が染み込んでくることが原

因と推定されるが、中央部に比べ、端部の膜厚がかなり厚くなっていることから、膜厚の

影響や、ろう材の塗布状況、溶融して液相になった際のろう材の流動等の影響も考えられ

る。反応層はろう材による B を多く含むため、ホウ化物の析出により脆化する可能性があり、反応層はできるだけ薄い方が皮膜特性上好ましいと考えられる。

② 酸化試験 ①で作製した緻密化皮膜の高温酸化特性を評価するため、電気炉を用い、大気中 1000℃

の酸化試験を行った。酸化試験時間は、最大 300h、500h とし、各試験時間について、1 個

の試験片を試験に供した。なお、比較のために、成膜後に真空熱処理を実施したのみの多

孔質皮膜の試験片も同様に試験に供した。各試験片とも、100h 毎に試験片を電気炉より取

り出し、ナイロンブラシで表面のスケールを落とした後に試験片重量を測定し、試験前の

重量との差から重量変化を求めた。また、所定の試験時間後は、重量測定後に各試験片を

中央で切断し、酸化試験後の断面組織観察を行った。

③試験結果

Page 14: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 10 -

各試験片の試験時間と重量変化の関係を図 3.6.1-4 に示す。なお、図中の多層成膜

の結果については、(5)項で後述する。緻密化試験片では、重量変化は単調に減少、多

孔質試験片では、100h までに大きく増加した後、200h でピークとなり、その後、緩や

かに減少する傾向を示した。各皮膜の 500h 後の断面ミクロ組織観察結果を図 3.6.1-5、

及び図 3.6.1-6 に示す。概略の観察位置を中央のマクロ観察写真上に矢印で示した。マク

ロ組織上側の矢印が上段のミクロ観察位置、下側の矢印が下段のミクロ観察位置を示す。

図 3.6.1-5 に示した緻密化皮膜の断面組織では、皮膜表面に薄い酸化層が形成されている

が、皮膜内部にはほとんど酸化は認められず健全であった。一方、図 3.6.1-6 に示した多

孔質皮膜の断面組織では、皮膜表面には明確な酸化層は認められず、不連続にごく薄い酸

化物が形成されていた。また、皮膜内部では気孔を通じて浸入した酸素によって、気孔の

周辺で酸化が生じていた。

今回は、皮膜の高温酸化前後の機械的特性は評価することができなかったが、内部酸化

が進行した多孔質皮膜では、機械的特性が低下して破壊しやすくなっている可能性が高く、

多孔質皮膜のままでのガスタービン部材への適用は困難と思われる。一方、緻密化皮膜で

は、ろう材反応層の影響を厳密に評価する必要があるが、局所的なクラックに対しろう材

を利用した補修方法の適用例 3)もあることから、ろう材の選定や熱処理条件の最適化等、

検討の必要はあるものの、ろう材反応層による機械的特性の低下は大きな障害にはならな

いと考えられる。

(5) 多層成膜法の検討 昨年度実施した P 社のコールドスプレー装置を用いた IN738LC 材の成膜では、緻密な皮膜が得られたものの端部剥離が生じ、この影響で膜厚 0.7mm 程度が厚膜化の限界であ

った。この端部剥離の原因としては、厚膜化に伴い皮膜の残留応力が蓄積され、基材と皮

膜の密着力が残留応力に耐え切れなくなって剥離が生じると考えられる。そこで、緻密質、

かつ、端部剥離のない厚膜を実現する方法として、成膜途中で剥離が生じる前に熱処理を

行い、残留応力緩和と基材/皮膜間の密着向上を図り、その後さらに成膜を継続するとい

う、多層成膜法について検討した。成膜は P 社コールドスプレー装置によって行った。 試験片基材には、これまでと同じ IN-738LC 製、直径 25mm、厚さ 3mm のものを用いた。試験片作製は、①基材表面のブラスト処理、②1 層目 CS 成膜(約 0.7mm)、③真空熱処理(1120℃×2h)、④2 層目 CS 成膜(約 0.7mm)、⑤真空熱処理(1120℃×2h)、の手順で行った。成膜条件は 1 層目、2 層目共通である。主な成膜条件を図 3.6.1-7 中に示した。 成膜後の試験片断面組織(エッチングあり)の観察結果を図 3.6.1-7 に示す。最大で約1.8mm、最小で約 1.3mm の皮膜厚さが得られた。また、端部剥離は全く認められなかっ

た。皮膜は緻密質であるが、数ミクロン程度の気孔(断面写真上で黒い部分)が点在して

いるのが認められた。また、皮膜の厚さ方向ほぼ中央には、皮膜の母相組織と異なる 2~3μm 厚さの異相組織(断面写真上で白い線状に見える部分)が認められた。 このようにして作製した試験片を前項同様の酸化試験に供した。時間的な制約から、試

験時間は 300h までとした。図 3.6.1-4 に多層成膜試験片の重量変化を、他の試験片の結果とともに示す。多層成膜試験片では、重量変化は、多孔質、緻密化試験片と異なる傾向を

示し、100h までは重量が増加、その後、単調に重量が減少していた。図 3.6.1-8 に 300h

Page 15: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 11 -

酸化試験後の試験片断面組織観察結果を示す。同図(1)に示したマクロ断面を見ると、試験片端部(写真左側)で、皮膜と基材の境界にて、皮膜の剥離が認められた。同図(3)に示した端部剥離部のミクロ断面を見ると、剥離から皮膜内部へと伸びたクラックの中には、隙

間を埋めるように酸化物が生じていた。これは、昨年度の単層成膜の試験片で見られたも

のと同様で、この端部剥離は 1 層目の成膜の段階で既に生じていたと考えられる。酸化試験片で端部剥離が発生した理由としては、1 層目の膜厚を昨年度の限界厚さ 0.7mm としたために、個々の試験片で端部剥離の発生にばらつきが生じたと思われる。1層での膜厚を

調節すれば端部剥離は回避できると考えられる。 同図(2)に示した中央部のミクロ断面を見ると、端部剥離の影響を除けば、皮膜はほぼ健全であり、耐酸化性に大きな問題はない

と考えられる。 以上のように、成膜途中で剥離を生じる前に熱処理による残留応力緩和と密着向上を図

りながら、複数層を積層していく多層成膜法を用いることで、単層の CS 法では困難であった IN738LC 材の厚膜化が可能との見通しが得られた。 (6) まとめ コールドスプレー法による Ni 基耐熱合金 IN738LC 材皮膜の、ガスタービン部材への適

用可能性を検討した結果、以下の知見が得られた。 ・現状のコールドスプレー装置では、高強度耐熱合金である IN738LC 材を緻密かつ剥離なしで、1mm 以上の厚さに成膜することは困難である。

・これを改善するためには、粒子速度の向上、粒子温度の制御、残留応力の制御等の機

能をコールドスプレープロセスに追加することが望まれる。 ・適当なコールドスプレー条件を選択すれば、多孔質皮膜となるものの、IN738LC 材を剥離なしで 1mm 以上の厚さ成膜することが可能である。

・多孔質皮膜に対し、Ni ろう材による表面封止+HIP 処理を施すことで、緻密化が可能である。

・緻密化皮膜は高温酸化試験において、ガスタービン部材への適用可能性を示唆する良

好な耐酸化性を示した。 ・成膜途中で、熱処理による残留応力緩和と密着向上を図りながら、複数層を積層

していく多層成膜法を用いることで、単層の CS 法では困難であった IN738LC 材の

厚膜化の見通しが得られた。

参考文献

1) (財)機械システム振興協会;コールドスプレーによる革新的部材創製技術の開発に関

するフィージビリティスタディ報告書、システム開発 17-F-11 (2006)

2) 吉岡洋明他;日本ガスタービン学会誌、32、(3)、130 (2004)

3) 石井潤冶他;日本ガスタービン学会誌、29、(5)、352 (2001)

Page 16: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 12 -

図3.6.1-1 CS/IN738LC成膜試験片の断面組織(#1、成膜のまま)[#1:He、2MPa、トラバース=10mm/s、Type-Bノズル]

200μm

50μm

皮膜

基材

1mm

表3.6.1- 1 IN738LC材の代表組成

Ni Cr Co C Mo W Ti Al Nb Ta Zr BIN738LC Bal. 12.5 8.5 0.11 1.7 2.6 3.4 3.4 0.9 1.7 0.05 0.01

材料化学成分(mass%)

条件 #1 #2 #3 #4 #5 #6 #7 #8 #9

粉末IN738LC+ア

ルミナの混合

(1:1)粉末

ガスガス圧力(MPa) 2.0 4.0 3.0 3.0 3.0 2.0 2.0 2.0 2.0ガス温度(℃)距離(mm) 5 5 5 5 5 5 5 5 5

粉末供給量(g/min) 42 37 36 - - 32 14 25 41トラバース速度(mm/s) 10 50 50 50 50 50 50 50 50

ノズル Type-B Type-B Type-A Type-B Type-B Type-B Type-B Type-B Type-B

400~450

He

IN738LC -25 (Lot:614221) IN738LC -25 (Lot:614221)

~500

表3.6.1-2 主な成膜条件

皮膜

基材

Page 17: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 13 -

(B) ピーニング+真空熱処理+HIP処理 [右端部]200μm

図3.6.1-2 HIP処理後のCS/IN738LC成膜試験片の断面組織(#1)[#1:He、2MPa、トラバース=10mm/s、Type-B]

200μm

皮膜

基材

200μm

ろう材反応層

皮膜

基材

(1) 成膜のまま

(2) Niろう表面封止+HIP処理後

図3.6.1-3 Niろう表面封止+HIP処理によるCS/IN738LC皮膜の緻密化(成膜条件#2相当試験片)

Page 18: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 14 -

図3.6.1-4 高温酸化試験における重量変化

表3.6.1-3 耐酸化試験片の主な成膜条件

粉末(粒度)IN738LCLot:622201(-45+25μm)

ガス He

ガス圧力(Mpa) 3

ガス温度(℃) 450-550

距離(mm) 5

粉末供給量(g/min) 32

トラバース速度(mm/s) 50

-100

-50

0

50

100

150

0 100 200 300 400 500 600

試験時間 (h)

重量変化 (mg)

緻密化-1

緻密化-2

多孔質-1

多孔質-2

多層成膜

300hで試験終了断面観察

300hで試験終了断面観察

300hで試験終了断面観察

Page 19: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 15 -

1mm

200μm 100μm

200μm 100μm

図3.6.1-5 緻密化試験片の 1000℃×500h酸化試験後の断面組織

皮膜

基材

酸化層

皮膜

基材

酸化層

皮膜

基材

Page 20: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 16 -

1mm

200μm 100μm

200μm 100μm

図3.6.1-6 多孔質試験片の 1000℃×500h酸化試験後の断面組織

皮膜

基材

皮膜

基材

酸化物(濃い灰色の部分)

酸化物(濃い灰色の部分)

酸化物(濃い灰色の部分)

酸化物(濃い灰色の部分)

皮膜

基材

Page 21: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 17 -

図3.6.1-7 多層成膜による厚膜試験片の断面組織(エッチング)

1mm

200μm

100μm 20μm

皮膜

基材

皮膜

基材

2層目

1層目

境界

欠陥(気孔)

膜厚:約1.3mm(min) 膜厚:約1.8mm(max)

(1) 断面マクロ組織

(2) 断面ミクロ組織

①基材表面のブラスト処理

②CS成膜(1層目、約0.7mm)

③真空熱処理(1120℃×2h)

④CS成膜(2層目、約0.7mm)

⑤真空熱処理(1120℃×2h)

・成膜条件

IN738LC/-25μm(Lot622201)

粉末

550 ℃ガス温度

3.5 MPaガス圧力

He作動ガス

IN738LC/-25μm(Lot622201)

粉末

550 ℃ガス温度

3.5 MPaガス圧力

He作動ガス

Page 22: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 18 -

図3.6.1-8 300h酸化試験後の多層成膜試験片の断面組織(エッチング)

1mm

200μm

皮膜

基材

皮膜 1、2層目境界(白い線)

基材

(1) 断面マクロ組織

(3) 端部剥離部

端部剥離

(2) 中央部

100μm100μm

基材

皮膜

剥離

皮膜

基材

剥離

クラック

Page 23: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 19 -

3.6.2 航空機機器部材 (1) アルミニウム粉末 コーティングに使用したアルミニウム粉末の特性を図 3.6.2-1 に示す。粉末の製造はガ

スアトマイズ法で行った。なお、今回のコーティングには、手法の違いによらず、全て同

一の粉末を使用した。

(2) 供試体 JIS SNCM439 鋼材を使用し、塩水噴霧試験用供試体を製作した。詳細を以下に示す。 ・熱処理: 焼入;820~870℃油冷、 焼戻;580~680℃急冷、 硬度;HB293~352 ・寸法:70mm×70mm×t3mm ・仕上げ:片面▽▽▽仕上げ

(3) 成膜条件 表 3.6.2-1 に、各供試体のコーティングの種類、コーティング条件、後処理条件及び実

施した評価試験を示す。供試体 No.67~79 は、信州大学で施工したコールドスプレーによる純 Al コーティングであり、一方、供試体 No.1~15 は、東北大学で施工した簡易的なコールドスプレー法である Dymet による純 Al コーティングである。Al コーティングの厚さはいずれも約 300μm とした。 なお、昨年度の評価結果から、コーティングのままでは緻密性が不足し、耐食性に劣る

恐れがあるため、表 3.6.2-1 に示すように、ショットピーニング(通常ショット及び微粒子ショット)による緻密化処理を施した供試体を製作した。

(4) 評価試験 表 3.6.2-1 に示す 5 種類の供試体に関して、以下の塩水噴霧試験、断面組織観察及び組

成分析を実施した。 ①塩水噴霧試験

ASTM B117 に準拠して 336 時間までの塩水噴霧試験を行い、一定時間毎に供試体を取り出して腐食の発生の有無、及び腐食が発生している場合にはその程度、を調査した。 試験経過時間:2,6,24,48,72,168,240,336 時間

②供試体断面観察 表 3.6.2-1 に示す 5 種類の供試体各 1 体を用い、切断、樹脂埋込及び断面研磨を行い、

光学顕微鏡によりコーティングの断面組織を観察・撮影した。その後、ケラー氏*液によるエッチングを行い、再び断面観察・撮影を行った。

*ケラー氏液:70%硝酸 2.5vol.%、塩酸 1.5vol.%、フッ酸 1.0vol.%、蒸留水 95vol.%

③供試体分析評価 上記②で断面観察した供試体を用い、電子線マイクロアナライザー(EPMA、日本電子製 JXA-8200)によりアルミと酸素の組成分析を行い、酸素の含有量を評価した。

Page 24: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 20 -

(5) 評価結果

①塩水噴霧試験 各経過時間後に取り出した供試体の外観状況を表 3.6.2-2 に、また各条件の供試体 1 体ずつに関して、代表的な時間の外観観察写真を図 3.6.2-2 に示す。 まず、コールドスプレー(信州大)の供試体では、3 種類の供試体いずれにおいても、

336 時間の塩水噴霧後に基材の鋼の赤錆は発生していないことから、航空機部材の耐食コーティング(Cd コーティング、Al-IVD (Ion Vapor Deposition) コーティング)に要求される基準を満たすことがわかった。 「コールドスプレー、He、350℃、2MPa」の供試体では、2 時間後にわずかに赤褐色の腐食が観察され、48 時間経過後にほぼ全面に腐食が進行し、時間の経過とともにほぼ全面が白色の腐食で覆われた。しかし、表面の詳細な観察及び EPMA による組成分析の結果から、基材の鉄鋼の腐食は発生していないことを確認した。Al-IVD コーティングで一般的

に観察されるアルミの白錆とは色調がやや異なるものの、Al-IVD コーティングの場合と

同様にコーティング自体のアルミの白錆が発生していると判断できる。 一方、「コールドスプレー、He、350℃、2MPa、通常ショット」と「コールドスプレー、

N2、350℃、3MPa、通常ショット」の供試体では、48 時間経過後の写真に見られるように、赤褐色と白色の腐食が混在し、時間の経過とともに、白色の腐食の割合が増加した。

上記同様、表面の詳細な観察及び EPMA による組成分析の結果から、基材の鉄鋼の腐食ではないことを確認した。 次に、Dymet(東北大)の供試体の結果でも、2 種類の供試体いずれにおいても、336時間の塩水噴霧後に基材の鉄鋼の赤錆は発生していない。従って、上記のコールドスプレ

ーによる Al コーティングと同様に、航空機部材の耐食コーティング(Cd コーティング、Al-IVD コーティング)に要求される基準を満たすことがわかった。 「Dymet、Air、320℃、0.6MPa」の供試体では、上記の「コールドスプレー、He、350℃、

2MPa」の供試体の結果とほぼ同様の腐食形態であり、外観及び EPMA 分析により基材の鉄鋼の腐食が発生していないことを確認した。 一方、「Dymet、Air、320℃、0.6MPa、微粒子ショット」の供試体では、48 時間経過後以降の腐食の発生が最も少なく、良好な外観を維持した。 ②供試体断面観察 コールドスプレーによる 3 種類の Al コーティング供試体(No.68、No.72、No.75)及び Dymet による 2 種類の Al コーティング供試体(No.3、No.12)を断面観察した結果を図 3.6.2-3 に示す。なお、それぞれエッチング前後の写真を記載した。 「コールドスプレー、He、350℃、2MPa」と「コールドスプレー、He、350℃、2MPa、通常ショット」を比較すると、通常ショットにより、コーティングの表面が平滑化され、

また、表層部分の粒子が塑性変形したと考えられる扁平な粒子が観察された。エッチング

前のコーティング組織の空隙率を、エッチングなしの組織写真で比較すると、「コールドス

プレー、He、350℃、2MPa」が 1.8%、一方「コールドスプレー、He、350℃、2MPa、通常ショット」が 0.7%であり、通常ショットにより、特に表層部分の緻密度が向上したこ

Page 25: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 21 -

とがわかった。 一方、「コールドスプレー、N2、350℃、3MPa、通常ショット」では、上記の「コールドスプレー、He、350℃、2MPa、通常ショット」と同様に、通常ショットによる表層の粒子の塑性変形による緻密化は見られるものの、表面に欠陥の多い組織であり、エッチン

グ前のコーティング組織の空隙率は 3.2%であった。 次に、「Dymet、Air、320℃、0.6MPa」と「Dymet、Air、320℃、0.6MPa、微粒子ショット」を比較すると、微粒子ショットにより、コーティングの表面が平滑化され、また、

表層部分の粒子が塑性変形したと考えられる扁平な粒子が観察された。ただし、上記の通

常ショットと比較すると、微粒子ショットによる塑性変形は、比較的表層のみに起こって

いることが分かった。エッチング前のコーティング組織の空隙率を、エッチングなしの組

織写真で比較すると、「Dymet、Air、320℃、0.6MPa」が 2.6%、一方「Dymet、Air、320℃、0.6MPa、微粒子ショット」が 0.7%であり、微粒子ショットにより、特に表層部分の緻密度が向上したことがわかった。 なお、いずれの組織においても、エッチングにより空隙率が大幅に増加している。これ

は、コーティング内部の気孔部や粒子間接合の弱い部分がエッチングにより腐食され、強

調されたことによると考えられる。 ③供試体分析評価 コールドスプレー及び Dymetによる 5種類の Alコーティング後供試体(No.68、No.72、

No.75、No.3、No.12)について、コーティング断面から EPMA 分析により Al 及び O の元素分析を実施した結果を図 3.6.2-4 に示す。比較のために、標準試料の純 Al も合わせて分析を行った。図 3.6.2-4 の横軸は各供試体と分析位置であり、縦軸は任意スケールのカウント数を示したものである。 コールドスプレー施工時の作動ガスに He を使用したコーティング供試体 2 種類で比較的高い酸素がカウントされたが、定量分析できるレベルではなく、他の供試体及び純 Alと比較して特に議論が必要な差異ではないと考えられる。 (6) 考察 塩水噴霧試験による評価の結果、今回評価した 5 種類の Al コーティングいずれも 336時間の塩水噴霧試験で基材の鉄鋼の腐食は観察されず、良好な結果が得られた。ただし、

48 時間経過後から、表面の腐食(白錆)が進行し、特に通常ショットピーニングの後処理を施したコーティングでは、表面の腐食が顕著であった。EPMA で表面の腐食生成物を分析しても、Al と O しか測定されず、特に表面に何からの物質が付着していた痕跡は認められなかった。外観上、広範囲の白錆、特に着色した白錆の発生は好ましくないため、今

後、コーティング及び後処理後の供試体表面の清浄度確認(付着物の有無等)が必要と考

えられる。 断面観察の結果から、通常ショットピーニング及び微粒子ショットピーニングにより、

Al コーティングの表層が緻密化できることが分かった。粒子の小さい微粒子ショットピーニングの方が、より表層のみの緻密化が可能であり、また、塩水噴霧試験による外観(白

錆)の発生の状態も最も良好であった。

Page 26: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 22 -

Al コーティングの EPMA 分析の結果、いずれのコーティングも、ほぼ標準 Al 材に近い微量の含有酸素量であった。

(7) まとめ JIS SNCM439鋼材表面にコールドスプレーによる Alコーティングを施工した 5種類の供試体(支給材)を用いて、塩水噴霧試験、断面観察及び EPMA 分析を実施した。 いずれの供試体においても、336 時間の塩水噴霧試験後に基材の鉄鋼の赤錆が発生しておらず、航空機規格の耐食性コーティング要求を満たすことが分かった。 ただし、表面の腐食、おそらく何からの微量付着物の腐食、は外観上好ましくない。詳

細は今後の確認が必要であるが、改良が必要と考えられる。

Page 27: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 23 -

図 3.6.2-1 アルミニウム粉末の特性

品 名 Al G-AT(Lot614381) d25(μm) 20.5 d50(μm) 26.8

粒 度

d75(μm) 34.4 酸素量(%) 0.20

(d25: 25%累積粒

径)

(d50: 50%累積粒

径)

(d75: 75%累積粒

径)

SEM

Page 28: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

24

表 3.6.2-1 Alコーティング供試体の概要

*1:ガラスビーズ GB-C(粒径 350μm程度),圧力 0.5MPa,カバレージ 300% *2:セラミックスビーズ FHB400(粒径 50μm程度),圧力 0.4MPa,カバレージ 3000%

No. 種類 条件 (ガス,温度,圧力) 後処理 適用評価試験

67 塩水噴霧試験

68 断面観察,組成分析

69 塩水噴霧試験

70

Cold Spray (信州大)

He,250~320℃,2MPa

(ノズル入口温度) なし

塩水噴霧試験

71 塩水噴霧試験

72 断面観察,組成分析

73 塩水噴霧試験

74

Cold Spray (信州大)

He,250~320℃,2MPa

(ノズル入口温度)

通常ショット*1

塩水噴霧試験

75 断面観察,組成分析

77 塩水噴霧試験

78 塩水噴霧試験

79

Cold Spray (信州大)

N2,325~400℃,3MPa

(ノズル入口温度)

通常ショット*1

塩水噴霧試験

1 塩水噴霧試験

3 断面観察,組成分析

4 塩水噴霧試験

5

Dymet (東北大)

Air,320℃,0.6MPa(ノズル出口ガス温度)

なし

塩水噴霧試験

12 断面観察,組成分析

13 塩水噴霧試験

14 塩水噴霧試験

15

Dymet (東北大)

Air,320℃,0.6MPa(ノズル出口ガス温度)

微粒子ショッ

ト*2

塩水噴霧試験

Page 29: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

-25-

表 3.6.2-2 塩水噴霧試験結果

供試

体№ 評価部位 2 時間経過後 6 時間経過後 24 時間経過後 48 時間経過後 72 時間経過後 144時間経過後 240時間経過後 336時間経過後

表面 茶褐色の腐食発生 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行

67 素地金属 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし

表面 茶褐色の腐食発生 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行

69 素地金属 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし

表面 茶褐色の腐食発生 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行

70 素地金属 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし

表面 茶褐色の腐食発生 茶褐色腐食が進行,白色腐食発生 茶褐色,白色腐食進行 茶褐色,白色腐食進行 茶褐色,白色腐食進行 茶褐色,白色腐食進行 茶褐色,白色腐食進行 茶褐色,白色腐食進行

71 素地金属 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし

表面 茶褐色,白色腐食発生 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行

73 素地金属 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし

表面 茶褐色の腐食発生 茶褐色腐食が進行,白色腐食発生 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行

74 素地金属 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし

表面 茶褐色の腐食発生 茶褐色腐食が進行,白色腐食発生 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行

77 素地金属 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし

表面 茶褐色の腐食発生 茶褐色腐食が進行,白色腐食発生 茶褐色,白色腐食進行 茶褐色,白色腐食進行 茶褐色,白色腐食進行 茶褐色,白色腐食進行 茶褐色,白色腐食進行 茶褐色,白色腐食進行

78 素地金属 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし

表面 茶褐色の腐食発生 茶褐色腐食が進行,白色腐食発生 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行

79 素地金属 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし

表面 腐食生成物の発生なし 茶褐色の腐食発生 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行

1 素地金属 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし

表面 茶褐色の腐食発生 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 4

素地金属 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし

表面 茶褐色の腐食発生 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 茶褐色腐食が進行 5

素地金属 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし

表面 茶褐色の腐食発生 茶褐色腐食が進行,白色腐食発生 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行

13 素地金属 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし

表面 腐食生成物の発生なし 茶褐色,白色腐食発生 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行 茶褐色,白色腐食が進行

14 素地金属 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし

表面 腐食生成物の発生なし 茶褐色,白色腐食発生 茶褐色,白色腐食進行 茶褐色,白色腐食進行 茶褐色,白色腐食進行 茶褐色,白色腐食進行 茶褐色,白色腐食進行 茶褐色,白色腐食進行

15 素地金属 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし 赤錆の発生なし

Page 30: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 26 -

T/P 0 時間 48 時間 336 時間

67

Cold Spray

He

71

Cold Spray

He

通常ショット

77

Cold Spray

N2

通常ショット

1

Dymet

Air

13

Dymet

Air

微粒子ショット

図 3.6.2-2 Alコーティング供試体の塩水噴霧試験状況

Page 31: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 27 -

T/P エッチングなし エッチングあり

68

Cold Spray

He

72

Cold Spray

He

通常ショット

75

Cold Spray

N2

通常ショット

3

Dymet

Air

12

Dymet

Air

微粒子ショット

撮影倍率 (×200)

50μm図 3.6.2-3 Alコーティング供試験体の断面観察結果

Page 32: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 28 -

0

100

200

300

400

500

600

700

RA68-1 RA72-1 RA75-1 3-1 12-1 Al標準-1

Al

O68

Cold Spray

He

純 Al

99 99

75

Cold Spray

N2

72

Cold Spray

He

3

Dymet

Air

無処理

12

Dymet

Air

微粒子 無処理 通常ショット 通常ショット

図3.6.2-4 Alコーティング供試体のEPMAによる

Al及びOの組成分析結果(縦軸はカウント数)

Page 33: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 29 -

3.6.3 ボイラーチューブ部材 3.6.3.1 コールドスプレー粉末の試作及び成膜化 サーメット粉末のコールドスプレーへの適用を目指し、本スタディでは材料として

WC/Co(タングステンカーバイド)を選択し、WC の粒子径、顆粒の粒子径、Co の含有量らの粉末特性に着目し、それら粉末特性が皮膜特性に与える影響について調査した。皮

膜特性に関しては、今回は、皮膜組織、硬度、耐摩耗性に着目しつつ、コールドスプレー

の条件に関しても最適化を行った。

(1) コールドスプレー用 WC/Co 粉末の作製 表 3.6.3.1-1 に本スタディで用いたコールドスプレー用 WC/Co 粉末を示す。これらは㈱フジミインコーポレーテッドで作製された造粒焼結粉末であり、No.1~6 は顆粒を構成する WC の粒子径がナノレベルのサイズであり、比較用に WC 粒子径が2μmの粉末も作製した(No.7~8)。顆粒径については、従来の高速フレーム溶射(HVOF)で一般的に使用されている-45+15μmと、それよりも粒径が小さいもの(-20+0、-10+0μm)の2種類を作製した。更には、Co 含有量を中間の 17wt%を基準に、ナノ WC については、WC/12Coと WC/22Co を準備した。

表 3.6.3.1-1 本スタディで使用した WC/Co 造粒焼結粉末

No 製品番号Co量※(wt.%)

顆粒径μm(二次粒径)

WC一次粒子径

コメント:

1 DTS-W420-45/15 -45+152 DTS-W537-20/0 -20+03 DTS-W538-45/15 -45+154 DTS-W539-20/0 -20+05 DTS-W540-45/15 -45+156 DTS-W541-20/0 -20+07 SURPREX WC17 -45+15 基準の顆粒粒度違い

8 DTS-W398-10/0 -10+0本試験の基準とする。W398:昨年度に試験済み

ナノ粒子+Co増+粒度は2種類

2μm17

ナノ粒子+Co減+粒度は2種類

17ナノ粒子+Co基準と同等+粒度は2種類

ナノレベル

12

22

図 3.6.3.1-1 WC/Co(-45+15μm)造粒焼結粉末の SEM 像

No. 7 WC/17Co, 2μm (SURPREX WC17J-45/15) No. 3 WC/17Co, ナノ (DTS-W538-45/15)

Page 34: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 30 -

図 3.6.3.1-1 に、顆粒の粒度分布が-45+15μmの WC/17Co 粉末の SEM 像を示す。SEM像で分かるように、顆粒の粒子径はほぼ同じであるが、顆粒を構成する WC の粒子径が異なっており、ナノ WC を用いた方が、Co と均一に混在している。図 3.6.3.1-2 は、図

3.6.3.1-1 に示した粉末の断面の反射電子組成像である。この手法では、原子番号の大き

い元素ほど輝度が高くなるので、高輝度領域が WC 粒子であり、低輝度領域が Co であることを示している。No.7 の2μmWC 粒子を用いた粉末では、WC の粒子1個1個がはっきりと観察され、粒子間に金属バインダーとしての Co の存在が確認される。一方、No.3のナノ WC を用いた粉末では、WC の粒子径が細かいため、個々の粒子をこの分解で確認することはできない。また、Co と WC の混合の程度がより均一であることが分かる。また、粉末の緻密性については、ナノ WC を用いた方の空隙が少なく、より緻密であることがわかる。

図 3.6.3.1-2 WC/Co(-45+15μm)造粒焼結粉末の断面組成像 (2) WC/Co 皮膜の作製

① WC/Co 粉末の最適化

表 3.6.3.1-2 WC/Co 粉末の最適化における施工条件と成膜特性

製法

試験片番号

製品名Co量μm

WC粒径

顆粒径μm

施工条件膜厚mm

成膜量g

供給量g/min

R-1 DTS-W398-10/0 -10+0 0.10-0.16 3.07

R-2 SURPREX WC17J -45+15 0.50-0.53 10.62 25.4

R-3 DTS-W539-20/0 -20+0 0.29-0.48 9.17 12.7

R-4 DTS-W538-45/15 0.23-0.27 5.52 29.5

R-5 DTS-W420-45/15 12 0.40-0.43 8.94 27

R-6 DTS-W540-45/15 0.39-0.48 8.54 42.4

R-7 DTS-W541-20/0 0.47-0.85 12.35 27.4

R-8 DTS-W537-20/0 12 0.29-0.40 8.12 31.9

H-1 SURPREX WC17J 2μm

H-2 DTS-W538-45/15

H-3 DTS-W420-45/15 12

JP-5000(Praxair)酸素:1900scfh 灯油:5.1gph溶射距離:380mm バレル:8inch

ガス:He、3MPa、450℃Stand off dis.: 15mmトラバース速度: 20mm/s

17

22

17

-20+0

2μm

ナノ

ナノ

コールドスプレー

HVOF

-45+15

-45+15

No. 7 WC/17Co, 2μm (SURPREX WC17J-45/15) No. 3 WC/17Co, ナノ (DTS-W538-45/15)

Page 35: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 31 -

表 3.6.3.1-1に示した各WC/Co粉末の皮膜を表 3.6.3.1-2の条件にて成膜を実施した。表中には成膜特性(膜厚、成膜量)も示されている。R-1 は、昨年度のフィージビリティスタディでも実施した粉末であり、その際に最適化されたコールドスプレー条件を採用し

ている。

図 3.6.3.1-3 WC/Co コールドスプレー皮膜の外観写真

図 3.6.3.1-4 WC/12Co 皮膜断面組織像(DTS-W420-45/15: ナノ WC、-45+15μ

m) 左:コールドスプレー(R-5)、右:HVOF(H-3) 図 3.6.3.1-3 に皮膜の外観写真を示す。どの粉末においても成膜は行われることが分か

った。効率に関しては、昨年度に実施した R-1 と比較して、どの条件においても良好であ

WC/12Co WC/17Co WC/22Co

-45+

15-1

0+0

-20+

0-4

5+15

ナノ

WC

2μm

WC

基材サイズ:30×60×2.5mm

Page 36: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 32 -

った。コールドスプレー皮膜の特徴としては、基材の反りが大きいことが判明した。従来

の HVOF 溶射においても、WC/Co 皮膜が施工されると、基材は反る傾向にあり、反りの方向より皮膜に圧縮残留応力が働いていることがわかっている。コールドスプレーにおい

ても同様であった。皮膜表面については、顆粒径の大きい粉末の方が流動性良好のため、

粉末供給が安定しており、比較的平滑面が得られている。一方、顆粒径の小さい粉末では

流動性が低下し、脈動を起こしてしまった結果、表面にうねりが残留する結果となってい

る。本結果は粉末供給装置の改善で解決でき、さほど大きな問題ではない。 図 3.6.3.1-4 は、WC/12Co 皮膜断面組織の光学顕微鏡像(DTS-W420-45/15 ナノ WC、

-45+15μm)を示しており、左がコールドスプレー、右が HVOF により作製されたものである。像から明らかなように、コールドスプレー皮膜は HVOF よりも緻密な皮膜を形成できることがわかる。

920

487

1286

893961

1033

889

674

1196

1079 1084

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

Hv

W398 WC17J

WC17JW537

W420

W420

W539 W538W541

W540

W538

2μm nano

12Co

Cold spray HVOF

17Co 22Co17Co

図 3.6.3.1-5 WC/Co 皮膜のビッカース硬度

図 3.6.3.1-5 に WC/Co 皮膜のビッカース硬度(HV0.2kgf)の測定結果を示す。コールドスプレーに関しては、WC の粒子径が細かいナノ粒子のほうが高硬度になる結果が示されている。特に WC 粒子2μmで顆粒径の大きい WC17J 皮膜の硬度は極めて低く、ビッカース圧痕観察時においてもクラックが散見される脆性の高い皮膜であった。一方、ナノ

WC を用いたコールドスプレー皮膜は概してクラックの発生が低かった。また顆粒径に関しては、粒径の細かい粉末を用いた方が、硬度が高くなる傾向であった。Co については、含有量を低く、すなわち WC 量の増大に伴い高硬度になった。結論として、ナノ WC を用いた-20+0μmの WC/12Co 皮膜(DTS-W537-20/0)が最も硬度が高く、HVOF と比較しても同等あるいはそれ以上の特性を示した。 図 3.6.3.1-6 にWC/Co皮膜のスガ式摩耗試験結果を示す。相手材には SiC#180を用い、荷重は 3.15kgf で一定として、SS400 の体積摩耗量を基準にそれに対する体積摩耗比を算出した値が示されている。コールドスプレー皮膜においては、最も硬度の高い

DTS-W537-20/0 が耐摩耗性にも最も優れることが判明した。WC 一次粒子については、ナ

Page 37: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 33 -

ノ粒子を用いた方が耐摩耗性に優れ、Co 含有量については低くなるほど耐摩耗性が良いことがわかった。顆粒径は-45+15μmよりも、粒径の細かい-20+0μmの方が耐摩耗性に優れることもわかった。しかしながら、全般には HVOF 皮膜よりも耐摩耗性は低く、ベストの W537 において、HVOF とほぼ同等であることがわかった。すなわち、皮膜硬度は HVOFよりも優れているものの、耐摩耗性についてはコールドスプレーの優位性は示されていな

い結果になっている。しかしながら、前年度での結果(DTS-W398-10/0)と比較した場合、硬度で 350 以上(920→1286)、耐摩耗性で2倍の特性が得られており、粉末特性の改善により皮膜特性が向上していることが証明された。

0.00 0.10 0.20 0.30

DTS-W398-10/0

SURPREX WC17J

DTS-W537-20/0

DTS-W420-45/15

DTS-W539-20/0

DTS-W538-45/15

DTS-W541-20/0

DTS-W540-45/15

SURPREX WC17J

DTS-W538-45/15

DTS-W420-45/15

体積摩耗比/SS400比較 [-]

Cold spraynano

Cold spray、2μm、17Coffff

22Co

17Co

12Co

HVOF

図 3.6.3.1-6 WC/Co 皮膜の耐摩耗試験結果(スガ摩耗)

② コールドスプレー条件の最適化

粉末の最適化試験により、ナノ WC を用いた-20+0μmの WC/12Co(DTS-W537-20/0)が、本試験の範囲内において最も優れていることが判明したので、使用する粉末をこれに

統一してコールドスプレー条件の最適化を実施した。表 3.6.3.1-3 にコールドスプレーの

最適化試験条件を示す。また、基材の反りが粉末最適化試験で問題となったため(スガ摩

耗試験において、研磨紙との片当たりが発生しデータ精度が低下)、本試験では、基材厚を

2.5→5.9mm に変更している。 表 3.6.3.1-3 コールドスプレーの最適化試験条件

粉末は DTS-W537-20/0(WC/12Co、-20+0μm、ナノ WC) 試験片

No

ガス圧力

(MPa)

SOD

(mm)

トラバース速度

(mm/s)

R-8 3 15 20

R-11 3 15 20

R-12 4 15 20

R-13 3 15 10

R-14 3 5 20

R-16 3 5 10

Page 38: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 34 -

図 3.6.3.1-7 WC/Co 皮膜の断面組織

今回の条件最適化にあたり、着目した施工パラメータは、ガス圧力、Stand off distance、そしてトラバース速度であり、前項の粉末最適化試験での条件 R-8 を基準とした。なおR-11 は、R-8 の再現性確認のために実施している。 図 3.6.3.1-7 に WC/Co 皮膜の断面組織を示す。前項に示したようにコールドスプレー皮膜は HVOF 皮膜よりも緻密性が極めて高い。しかしながら、R-11 では皮膜中にクラックが生じており、同条件の R-8 とは異なる皮膜組織になっている。この差異の原因は、試験片数が少ないこともあり現時点では不明だが、HVOF 皮膜のように空隙が少ないため、コールドスプレー皮膜中の残留応力が解放されにくいことが予想される。 表 3.6.3.1-4 及び図 3.6.3.1-8 に最適化試験結果をまとめた。参考に HVOF 皮膜の結果も示す。H-3 は顆粒径が-45+15μmである以外は、DTS-W537-20/0 と同じ粉末である。H-4 で使用した粉末は顆粒径がほぼ同じ-20+5μmであるが、WC 粒子径は 2μmで形成されている。コールドスプレー皮膜の結晶構造の特徴としては、WC と Co のピークのみが X線回折で観測されており、粉末のオリジナルの結晶相が保たれていることがわかる。一方、

従来の HVOF では、WC の他に W2C のピークが観測され、Co のピークは小さくなる或いはほとんど見えなくなる場合が一般的である。このことより、HVOF ではプロセス中に酸化等の影響によって、WC が脱炭していると考えられている。WC と Co のピークが維持されるコールドスプレーでは、プロセス中の温度が低温であるが故に、酸化や脱炭が抑制

Page 39: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 35 -

されていると推測される。

表 3.6.3.1-4 コールドスプレー条件最適化試験結果

試験片

No

体積摩耗比[-]

基準:SS400

硬度

[Hv] XRD 皮膜断面写真

R-8 0.0623 1286 WC,Co 緻密

R-11 0.0560 1234 WC,Co 緻密であるが、

水平クラックあり

R-12 0.0476 1341 WC,Co 緻密

R-13 0.0502 1296 WC,Co 緻密

R-14 0.0581 1385 WC,Co 緻密

R-16 0.0602 1294 WC,Co 緻密

H-3 (HVOF) 0.0546 1084 WC>>W2C,Co ポーラス

H-4 (HVOF)

DTS-W520-20/5

WC 粒子径:2μm

0.0207 1169 WC>>W2C,Co 緻密

0.0000

0.0100

0.0200

0.0300

0.0400

0.0500

0.0600

0.0700

R-8 R-11 R-12 R-13 R-14 R-16 H-3 H-4

体積摩耗比[-]

ReferenceSS400

1000

1100

1200

1300

1400

1500

1600

1700

1800

1900

2000

Hv[-]

体積摩耗比

硬度

図 3.6.3.1-8 コールドスプレー条件最適化試験結果 図 3.6.3.1-8 において、同一条件で作製した R-8 と R-11 に注目すると、両者の硬度と耐摩耗性は若干異なり、R-11 の方の耐摩耗性がわずかに良くなっている。ばらつきなのか、基材厚さの効果なのかは不明である。耐摩耗性に着目した場合、ヘリウム圧力を高めた

R-12 やトラバース速度を遅くした R-13 で改善が見られた。また、これらの特性は H-3(ナ

Page 40: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 36 -

ノ WC)皮膜をわずかながらも上回る結果であった。一方 Stand off distance を 5mm に近づけた R-14 や R-16 では、耐摩耗性はほとんど改善されなかった。これらスプレー条件が皮膜の耐摩耗特性に与えるメカニズムについては、現状では把握できておらず、今後の

課題となる。また、HVOF 皮膜の場合、2μmの WC 粒子を用いた皮膜 H-4 の耐摩耗性は、どのコールドスプレー皮膜よりも2倍以上優れており、ナノ WC 粒子によるコールドスプレー皮膜の限界が示唆される。なお、3.6.3.2 にて記される皮膜の詳細な分析においては、R-16 の条件で作製した皮膜が用いられている。 最後に、本 3.6.3.1 項の結論を以下に記す。 1. ナノ WC 粒子により、WC/Co の皮膜特性向上が実現した。

(ア) 2μmWC 粒子よりも、耐摩耗性、硬度に優れ、昨年度のスタディでの結果と比較して耐摩耗性は2倍以上向上した。

(イ) 付着効率が高くなり、成膜が容易となった。 (ウ) ベスト条件の皮膜では、HVOF とほぼ同等のものが得られた(WC 粒子径が同一の場合において)。

2. 2μmWC 粒子による HVOF 皮膜よりも耐摩耗性は2倍以上劣る。 (ア) ナノ WC 粒子で大幅な改善があったものの、WC 粒子径の最適化は不十分であることが予想される。

(イ) ナノ~2μm間の粒子径の範囲内において、更に詳細な試験を行うことにより、コールドスプレーWC/Co 皮膜の耐摩耗性改善が期待される。

Page 41: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 37 -

3.6.3.2 コールドスプレー皮膜の評価 コールドスプレーの火力発電のボイラー部材等への適用可能性を検討するため、現状の

溶射法(大気プラズマ溶射、高速フレーム溶射)と耐摩耗性を比較評価した。 (1) 評価方法 ①皮膜形成 基材はボイラー部材の SUS304 を用いた。コーティング材料は、ボイラー等で耐摩耗のために適用されている WC-12%Co 粉末を使用した。粉末は、コールドスプレーについては、予備試験で最も耐摩耗性などの性能が良好であるとされたナノサイズの1次粒子を

焼結し粒径 20μm以下の 2 次粒子にしたもの(DTS-W537-20/0:Fujimi Incorporated 製)を用いた。また、高速フレーム溶射は HVOF POWDER(粒径:10~45μm、日本ユテク㈱製)粉末を、大気プラズマ溶射は WC114(Praxair 製、平均粒径 15μm)を用いた。成膜条件は下記のとおりである。

コールドスプレー 1、ノズルと基材間距離 5mm 2、キャリアガス He

3、ノズル入り口圧力 3.0MPa

4、ノズル入り口温度 550℃

5、ガン送り速度 10cm/s

6、膜厚 300μm

高速フレーム溶射 1、酸素ガス流量 1900SCFH 2、燃料流量 6GPH 3、燃焼圧力 96Psi

4、溶射距離 300mm 5、成膜速度

・ガン送り速度 350mm/s ・送りピッチ 5mm/P ・1パスの厚み 27μm 6、基板温度 ・溶射前 予熱なし

・溶射後 180℃

7、膜厚 300μm

大気プラズマ溶射

1、電流 800A 、 電圧 38.3V 2、Ar ガス 圧力:7kg/cm2 流量 50L/min He ガス 圧力:7kg/cm2 流量 20L/min 3、溶射距離 120mm 4、成膜速度

Page 42: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 38 -

ガン送り速度 500mm/S 送りピッチ 5mm/P 1 パスの厚み 23μm 5、基板温度 溶射前 96℃

溶射後 142℃

6、膜厚 300μm、

②ミクロ組織観察 コールドスプレー、高速フレーム溶射及び大気プラズマ溶射皮膜の断面ミクロ組織観察

を行った。 ③ 硬さ測定 コールドスプレー、高速フレーム溶射及び大気プラズマ溶射皮膜の断面についてマイク

ロビッカース硬さを 5 点測定(荷重:50g)し、最大値と最小値を除いた 3 点の平均値を求めた。 ④ブラスト摩耗試験

コールドスプレー、高速フレーム溶射及び大気プラズマ溶射皮膜について、ブラスト摩

耗試験装置 (1)を用いて、噴射材には Al2O3(#280:100μm)を使って摩耗特性を比較評価した。噴射角度:30 度、噴射速度:50m/s~150m/s、温度:RT、200℃とした。評価は、最大摩耗深さを測定した。 (2) 評価結果 ①皮膜のミクロ組織

コールドスプレー、高速フレーム溶射及び大気プラズマ溶射WC-12%Co皮膜について、ミクロ観察結果を図 3.6.3.2-3 に示す。 コールドスプレーによる WC-12%Co 皮膜は、キャリアガスとして He ガスを使用してい

るので、緻密な組織となった。高速フレーム溶射による WC-12%Co 皮膜も比較的緻密な組織であるが、大気プラズマ溶射皮膜は気孔の多い積層組織であった。 ②硬さ測定結果

WC-12%Co コールドスプレー、高速フレーム溶射及び大気プラズマ溶射皮膜のマイクロビッカース硬さ測定結果を表 3.6.3.2-1 に示す。コールドスプレー皮膜の硬さは HV:1292と非常に硬く、高速フレーム溶射の HV:1065 よりも硬かった。一方、大気プラズマ溶射皮膜は HV:712 程度であった。 ③ブラスト摩耗特性 コールドスプレー、高速フレーム溶射及び大気プラズマ溶射 WC-12%Co 皮膜のブラス

ト摩耗試験結果について噴射材の噴射速度でまとめたものを図 3.6.3.2-5 に、試験温度でまとめて図 3.6.3.2-6 示す。コールドスプレーの摩耗速度は高速フレーム溶射皮膜の摩耗速度と同程度であった。一方、大気プラズマ溶射皮膜の摩耗速度は、他方法と比べてかなり大

きくなる傾向を示した。硬さ測定結果(表 3.6.3.2-1)から、皮膜が硬くなると耐摩耗性も良くなるという摩耗特性と硬さの間の傾向は認められた。しかし、コールドスプレーの皮

膜は超硬度にもかかわらず、高速フレーム溶射皮膜と同じ程度の耐摩耗性であった。ブラ

Page 43: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 39 -

スト摩耗特性は、扁平粒子間の結合力に依存すると考えられる (3)。コールドスプレーの皮

膜はナノサイズの粒子であるため、高速フレーム溶射皮膜と比較すると、粒子間結合力が

低くなることもブラスト摩耗特性低下の一因と考えられる。 (3) 総合評価 コールドスプレーのボイラー部材への適用可能性を検討するため、コールドスプレー皮

膜の耐摩耗性を、現状の溶射法(大気プラズマ溶射、高速フレーム溶射)と比較評価した。

その評価結果は以下のとおりである。 コールドスプレーによる WC-12%Co 皮膜は、高速フレーム溶射及び大気プラズマ溶射

に比べて非常に緻密な組織である。しかし、コールドスプレーによる皮膜の耐摩耗性は、

大気プラズマ溶射よりは数段良いが、高速フレーム溶射とは同程度の耐摩耗結果であった。

従って、ボイラー部材へ適用するためには、コールドスプレーによる WC-12%Co 皮膜の耐摩耗性を更に向上させる必要があると判断される。 (4) 今後の課題 コールドスプレーによる皮膜をボイラー部材へ適用するためには、 WC-12%Co 皮膜の耐摩耗性を更に向上させることが肝要である。そのためには、摩耗形態が粒子の離脱によ

って生じることから、粒子間の結合力の強化 (3)が必要であると考えられる。 平成17年度は、造粒-焼結法で製造した粒径 10μm以下の粒子を試作し、コールドス

プレーに供試した (4)。今年度(H18 年度)は、粒子径の最適化から、韓国の研究者が発表(5)しているナノサイズの 1 次粒子を焼結した 2 次粒子(20μm以下)を試作して試験に供した。その結果、昨年度よりも硬度を上げて耐摩耗性を向上できた。 今後、更に耐摩耗性を向上させるためには、コールドスプレー施工条件(He 圧力、基

材及び粒子予熱など)の詳細仕様を策定することが是非とも必要である。 参考文献 (1)園家啓嗣ほか:HVOF 溶射によるボイラー用誘引通風機の耐摩耗動翼の高性能化 石川島播磨技報 第 38 巻 第 3 号 2000 年 9 月 pp.273-276 (2) Keiji Sonoya:Blast erosion properties of erosion-resistant thermally sprayed coatings , Recent Progress on Science & Technology IHI , Vol.11 (2002) pp.34-41 (3) 園家啓嗣ほか:HVOF による Cr3C2-NiCr 溶射皮膜の組織構造と物性との相関性 石川島播磨技報 第 43 巻 第 1 号 2003 年 1 月 pp.21-26

(4)RIMCOF 報告書:コールドスプレーによる革新部材創製技術の開発に関するフィージビ

リティスタディ、平成 18 年 3 月

(5)Hyung-Jun Kim etal : Fabrication of WC-Co coatings by cold spray deposition,

Surface and Coating technology,191(2005)335-340

Page 44: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 40 -

大気プラズマ溶射

図3.6.3.2-3. WC-12%Co皮膜のミクロ組織

(エッチングなし)

高速フレーム溶射

コールドスプレー

Page 45: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 41 -

大気プラズマ溶射

図3.6.3.2-4. WC-12%Co皮膜のミクロ組織

(クロム酸電解エッチング)

高速フレーム溶射

コールドスプレー

大気プラズマ溶射

図3.6.3.2-4. WC-12%Co皮膜のミクロ組織

(クロム酸電解エッチング)

高速フレーム溶射

コールドスプレー

Page 46: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 42 -

表3.6.3.2-1. WC-12%Co皮膜の硬さ測定結果

100g 25秒

721 大気プラズマ溶射

1065 高速フレーム溶射

1292 コールドスプレー

備考 硬さ

注)5点の最大値、最小値を除いた3点の平均値

図3.6.3.2-5. WC-12%Co皮膜のブラスト摩耗試験結果(衝突速度)

0

20

40

60

80

100

50 100 150

衝突速度(m/min)

磨耗速度(μm/分)

コールドスプレ-

高速フレーム溶射

大気プラズマ溶射

試験温度:RT衝突角度:30度噴射材:Al2O3(100μm)

※大気プラズマ溶射は、衝突速度:125m/min

図3.6.3.2-6. WC-12%Co皮膜のブラスト摩耗試験結果(試験温度)

0

20

40

60

RT 200試験温度(℃)

磨耗速度(μm/分)

コールドスプレ-

高速フレーム溶射

大気プラズマ溶射

噴射速度:100m/S噴射角度:30度噴射材:Al2O3(100μm)

Page 47: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 43 -

3.6.4 耐摩耗部材 (1) 試験体の製作 ピン・ディスク試験による摩耗試験を実施するため、ピン試験片に純 Cr 皮膜を成膜し

た。ピン試験片は SS400 相当材であり、直径 57mm、板厚 8mm のディスクに 3 本のピンを有する。ピンは直径 5mm-高さ 2mm である。 成膜に使用した Cr 粉末の概要を図 3.6.4-1 に示す。Cr 粉末は昨年度同様に粉砕粉末を

使用した。平均粒径は約 12μm であり、昨年度の粉末(平均粒径約 9μm)に比べて少し粗くなっている。ピン試験片の成膜条件を表 3.6.4-1 に示す。使用した粉末の平均粒径は昨年度より大きめであるが、基本的な成膜条件は昨年度と一致させた。作動ガスには 3MPaのヘリウムガスを使用し、作動ガスのヒーターは 700℃に設定した。この時のノズル入口のガス温度は 550℃前後である。スプレーガンの移動速度と積層数は目標とする皮膜厚さ(約 300μm)を基に決定した。 試験体の外観と代表的な断面ミクロ組織を図 3.6.4-2 に示す。成膜前後のピン高さから

算出した皮膜厚さは約 400~450μm であった。皮膜の断面硬度は HV510~540 であり、昨年度の Cr 皮膜の断面硬度とほぼ一致していた。ミクロ組織から判断される皮膜の緻密性も昨年度とほぼ同様である。断面マクロ組織や断面ミクロ組織から明らかなように基材

界面にき裂のような欠陥が認められた。昨年度の平板試験片や円柱状試験片ではこのよう

な欠陥は認められていないことから、この欠陥は基材形状に起因する欠陥である考えられ

る。ピン(突起物)周囲において作動ガス及び Cr 粒子の流動状況に乱れが生じたため、基材界面にき裂状の欠陥が発生したと推測した。 基材界面の欠陥を防止するため、ピン部の形状を改良した試験片(ピンに溝を設けた開先

タイプ)を試作した。成膜条件を表 3.6.4-1 に示す。開先タイプの基材を用いて成膜を行った後に、皮膜の緻密性を改善する目的で 1150℃×2 時間の真空熱処理を実施した。熱処理後の外観と断面組織写真を図 3.6.4-3 に示す。真空熱処理後の断面観察によると皮膜端部(開先側面)において基材と密着していたが、皮膜中央部(開先底面)は基材から剥離していた。本試験体を所定寸法に加工したが、側面(外径)加工時に皮膜が剥離したため、摩耗試験は中止した。他の開先タイプの成膜試験体について熱処理前に断面観察を実施した結果、基

材界面の欠陥は認められなかった。熱処理による圧縮残留応力の解放や基材と皮膜の熱膨

張差が一因で基材からの剥離が進展したと考えられる。

表 3.6.4-1 耐摩耗部材成膜条件

作動ガス スプレーガン 粉末供給

種類 圧力

(MPa) ノズル入口 温度 (℃)

基材 距離 (mm)

積層数

(層)

移動 速度

(mm/s)方式

供給 速度

(g/min)

備 考

1 10 RI* 35~45

2 20 RI* 30~35 オリジナル

He 2.9 ~ 3.1

520~590 5

2 7.5 RI* 30~35 開先タイプ

*:Radial Injection ノズル出口の径方向より粉末を投入する粉末供給方式

Page 48: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 44 -

品 名 Cr-S 5-15μm Lot.614221

Cr-S 5-15μm Lot.622561

d25(μm) 5.3 4.9 d50(μm) 11.9 11.1

粒 度

d75(μm) 20.0 18.5 酸素量(%) 0.9 0.9

SEM

製造方法 粉砕法 粉砕法 図 3.6.4-1 クロム粉末の特性

外観

断面マクロ組織

断面ミクロ組織

図 3.6.4-2 試験体の外観及び断面組織写真(オリジナルタイプ)

組織試験位置

皮膜中央部(研磨状態) 皮膜中央部(エッチング状態)

50μm 50μm

Page 49: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 45 -

外観

断面マクロ組織

断面ミクロ組織

図 3.6.4-3 試験体の外観及び断面組織写真(開先タイプ熱処理後) (2) 耐摩耗性の評価 ① 試験方法 摩耗試験に供した試験片を表 3.6.4-2 に示す。純 Cr コールドスプレー皮膜に加えて比較

材として高リン鋳鉄(ターカロイ C)と Cr メッキ材についても耐摩耗性を評価した。コールドスプレー皮膜は試験面の平面度を確保するため、皮膜厚さ約 250μm まで研磨した。Cr メッキも同様に平面度を確保するため、皮膜厚さ 120μm を目標に研磨加工を実施した。

表 3.6.4-2 摩耗試験片の組み合わせ

ピン材質 皮膜厚さ(μm) ディス材質

Cr コールドスプレー 当初皮膜厚さ:400~450μm試験前皮膜厚さ:約 250μm

高リン鋳鉄 (ターカロイ C)

Cr メッキ 当初皮膜厚さ:約 150μm 試験前皮膜厚さ:約 250μm

高リン鋳鉄 (ターカロイ C)

真空熱処理前 真空熱処理後

皮膜中央部 (熱処理後エッチング状態)

皮膜端部(熱処理後)

基材

皮膜

Page 50: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 46 -

ピン・ディスク摩耗試験は油中でピン試験片をディスク試験片に一定荷重で押し付け、

ピン試験片を回転させて摩耗試験を行う。油温は冷却油が循環するコイルにより冷却を行

い、約 160℃を維持するように制御した。摩耗試験は以下の 3 段階の試験を実施した。各段階の試験条件の概要を表 3.6.4-3 に示す。所定の摩耗条件に達するまで段階的に荷重と回転速度を上昇させた。

① 摺り合わせ試験:試験加重 3500N-試験時間 22 時間 ② 第 1 次摩耗試験:試験荷重 3500N-試験時間 40 時間 ③ 第 2 次摩耗試験:試験荷重 4500N-試験時間 40 時間

表 3.6.4-3 摩耗試験条件

試 験 荷重 (N)

面圧* (MPa)

回転速度

(rpm) 速度** (m/s)

総試験時間 (h)

摺り合わせ試験 3500 73.4 1330 1.57 22 第 1 次摩耗試験 3500 73.4 1330 1.57 40 第 2 次摩耗試験 4500 94.3 1330 1.57 40

*荷重をピンの接触面積(直径 4.5mm)で除した公称値 **ピンの PCD(45mm)と回転速度から算出した周速

摩耗量の評価として、各摩耗試験の後にピン摩耗量とディスク摩耗量を計測した。ピン

摩耗量は試験前後における 3 本のピン高さを計測して求めた。ディスク摩耗量は、試験後に表面粗さを計測して平均摩耗深さを算出した。更に、試験後の摩耗面の状況を実体顕微

鏡とレーザ顕微鏡により観察し、表面粗さ計測の結果と併せて摩耗機構について検討した。

また、試験中に摩擦力を計測し、負荷荷重をもとに摩擦係数を求めた。

② 試験結果 摩耗試験時の摩擦係数の一例として、摩耗条件が最も厳しい第 2 次摩耗試験の摩擦係数

を図 3.6.4-4 に示す。第 1 次摩耗試験及び第 2 次摩耗試験における摩擦係数(摩擦力/負荷荷重)は、いずれの試験片においてもおおよそ 0.08 から 0.09 であった。この結果から、Crコールドスプレー皮膜の摩擦係数は高リン鋳鉄や Crメッキと同等であることを確認した。また、各表面に作用する摩擦力はほぼ同等であり、負荷荷重の 1/10 程度であった。 摩耗試験の初期における負荷パターンと摩擦係数の関係を詳細に分析すると、同一荷重

条件では周速の上昇とともに摩擦係数が低下していた。このことから、いずれの試験片に

おいても摩擦状態は同一モードであり、混合潤滑状態(流体潤滑と境界潤滑の混合状態)が支配的であると考えられる。この状態では、部分的な固体面の直接接触により摩耗が生ず

る。 各試験におけるピン摩耗量を図 3.6.4-5 に示す。Cr コールドスプレー皮膜の総摩耗量は

150~200μm である。個々のピンでは摩耗量に若干のばらつきが認められた。摩耗量のばらつきは、試験条件が厳しくなる(面圧と周速が大きくなる)と増加する傾向であった。これに対して、高リン鋳鉄の総摩耗量は約 150μm であり、ピンごとの摩耗量のばらつきは少ない。また、Cr メッキ材の総摩耗量は約 30μm 程度あり、この中では最も少ない。こ

Page 51: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 47 -

の結果から判断すると、現状の Cr コールドスプレー皮膜の耐摩耗性は高リン鋳鉄と同程度であると考えられる。後述するように Cr コールドスプレー皮膜では粒子間の結合強度が低く、粒子の脱落により摩耗が生じていると考えられる。ピン毎に摩耗量がばらついた

原因は、粒子間の結合強度にばらつきがあったことに起因すると推察される。 相手材のディスク摩耗量を図 3.6.4-6 に示す。最終的なディスク摩耗量は Cr コールドス

プレー皮膜が最も大きく、7~15μm 程度である。高リン鋳鉄、Cr メッキの摩耗量は 5~10μm 程度であり、両者で大差はなかった。Cr コールドスプレー皮膜では初期(擦り合わせ試験)から摩耗量が大きく、負荷荷重の増加とともに摩耗量が増加する傾向が認められた。一方、高リン鋳鉄と Cr メッキは初期の摩耗量は小さく、荷重の増加とともに急激に摩耗量が増加する傾向が認められた。この傾向は、Cr メッキで顕著であった。 第 2 次摩耗試験後の代表的な摩耗痕のプロファイルを図 3.6.4-7 に示す。それぞれ、Cr

コールドスプレー皮膜、高リン鋳鉄、Cr メッキの摩耗痕である。Cr コールドスプレー皮膜の摩耗痕では、スパイク状の局部的に深い摩耗痕が認められた。一方、高リン鋳鉄と Crメッキでは、全体的になだらかなプロファイルを示していた。Cr コールドスプレーでは皮膜を形成する Cr 粒子の粒子間の結合力が弱く部分的に脱落し、ピンとディスク間でアブレッシブ作用を起こして局所的に深い溝状の摩耗痕が形成されたと考えられる。相手材の

ディスクの摩耗量を抑制する点でも、Cr 粒子の結合力の強化が重要であると考えられる。

図 3.6.4-4 第 2 次摩耗試験における摩擦係数

0.00

0.02

0.04

0.06

0.08

0.10

0.12

0.14

0.16

0.18

0.20

0 10 20 30 40 50

時間 (h)

摩擦係数

Crコールドスプレー

Crメッキ

高リン鋳鉄

Crコールドスプレー

Crメッキ

高リン鋳鉄

Page 52: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 48 -

図 3.6.4-5 摩耗試験結果 (ピン摩耗量)

図 3.6.4-6 摩耗試験結果(ディスク摩耗量)

0

50

100

150

200

250

1.0 2.0 3.0 4.0試験

摩耗量 (μ

m)

コールドスプレー

高リン鋳鉄

Crメッキ

試験前 3500N×22h 3500N×40h 4500N×40h

0

5

10

15

20

25

1.0 2.0 3.0 4.0試験

摩耗量 (μ

m)

コールドスプレー

高リン鋳鉄

Crメッキ

試験前 3500N×22h 3500N×40h 4500N×40h

Page 53: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 49 -

Crコールド スプレー

高リン 鋳鉄

Cr メッキ

図 3.6.4-7 ディスク摩耗痕のプロファイル(第 2 次摩耗試験後) 試験毎にピンとディスクの実体顕微鏡観察を実施した。図 3.6.4-8 に第 2 次摩耗試験後

のピン及びディスクの実体顕微鏡写真を示す。コールドスプレー皮膜試験体(ピン)では、第 2 次摩耗試験後の皮膜に局部的な剥離が生じているのが観察された。摩擦力の増加により粒子の脱落が進展したと考えられる。ディスク表面の研磨加工痕は擦り合わせ試験によ

り消失しており、初期の摩耗量が比較的大きいことを示している。高リン鋳鉄試験体では

ピン、ディスクともに擦り合わせ試験後において研磨加工の加工痕が残存していた。Crメッキ試験体では、第 1 次摩耗試験後も研磨加工の加工痕が残存しており、この段階まではピン、ディスクともに摩耗量が少ないことを示している。荷重条件が厳しい第 2 次摩耗試験では摩耗量の増加により加工痕が消失したが、Cr メッキ皮膜の顕著な損傷は認められなかった。これらの観察結果は、摩耗量の計測結果と良く一致していた。

10μm 1mm

10μm 1mm

10μm 1mm

Page 54: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 50 -

ピン ディスク

Cr コールドスプレー

高リン鋳鉄

Cr メッキ

図 3.6.4-8 試験体の実体顕微鏡写真 (第 2 次摩耗試験後) 第 2 次摩耗試験後にピン表面のレーザ顕微鏡観察を実施した。図 3.6.4-9 は Cr コールド

スプレー皮膜の表面状態である。表面粗さのプロファイルから 20~40μm の幅で局部的

なくぼみがあることがわかる。この部分の皮膜が脱落したと考えられる。また、10μm 前後の点状の痕跡が認められる。この点状の痕跡は皮膜が脱落した部分であると考えられる。

高リン鋳鉄の表面では筋状の擦過痕が認められた。観察した範囲の最大表面粗さは約 10μm ある。Cr メッキ皮膜においても同様に筋状の擦過痕が認められた。高リン鋳鉄と比較すると擦過痕の深さは浅く、最大表面粗さは約 5μm であった。Cr メッキ皮膜の表面には微小き裂が観察されたが、皮膜の剥離などの表面損傷は認められなかった。Cr メッキ皮膜は硬度が高い (HV800~900)ことに加えて緻密で剥離を生じないので摩耗量が少ないと考えられる。第 2 次摩耗試験後のディスク(相手材 Cr コールドスプレー)には、100~150μの領域に筋状の擦過痕が認められた。観察した範囲の最大表面粗さは約 20μm であり、ピンより大きな値であった。ディスク表面には皮膜から脱落した Cr 粒子の噛み込みは認

Page 55: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 51 -

められなかった。高リン鋳鉄と Cr メッキを相手材としたディスクにも筋状の擦過痕が認められたが、Cr コールドスプレーと比較するとその深さは浅かった。

図 3.6.4-9 第 2 次摩耗試験後のレーザ顕微鏡観察結果(Cr メッキ表面)

1A-1B 表面粗さプロファイル

1A-1B 表面粗さプロファイ

Page 56: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 52 -

第 2 次摩耗試験後に摩耗粉をサンプリングして観察を行った。Cr コールドスプレー皮膜

の摩耗粉の観察結果を図 3.6.4-10 に示す。摩耗粉の大きさは数μm から数十μm であり、形状は鱗片状である。摩耗粉には Cr 粒子と Fe 粒子が混在している。Cr の面分析結果から摩耗粉中の Cr 粒子の大きさは数μm から数十μm であることがわかる。図 3.6.4-1 に示した Cr 原料粉末の粒子径と形状から判断すると、これらの摩耗粉は粒子単位で脱落した Cr 粉末であると考えられる。摩耗粉中の Fe 粒子はディスク(高リン鋳鉄)に由来するものである。ほぼ全面に分散しており、粒子径は Cr 粒子より小さかった。

実体顕微鏡写真 SEM 像

SEM 像 反射電子像

Fe 面分析像 Cr 面分析像

図 3.6.4-10 Cr コールドスプレー皮膜の摩耗粉の SEM、EPMA 観察結果

200μm

Page 57: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 53 -

(3) まとめと今後の課題 ① まとめ

Cr コールドスプレー皮膜と比較材である高リン鋳鉄、Cr メッキについて摩耗試験を実施した。その結果として、ピンの摩耗率(1000 時間あたりの摩耗量)を表 3.6.4-4 に、ディスクの摩耗率を表 3.6.4-5 に示す。コールドスプレーのピンの摩耗量は高リン鋳鉄とほぼ同等であり、Cr メッキの 4~5 倍程度であった。一方、コールドスプレーのディスク摩耗量は初期に大きく、厳しい摩耗条件下(荷重 4500N)では局部的に深い摩耗痕が認められた。これは、Cr 粒子が剥離、脱落し、部分的にアブレッシブ摩耗の状態になったためと考えられる。第 2 次摩耗試験後の摩耗率は 0.1~0.15mm/1000h で Cr メッキ皮膜や高リン鋳鉄とほぼ同等であった。

表 3.6.4-4 ピンの摩耗率

摩耗率(mm/1000h)

試験条件 (荷重×時間) コールド

スプレー

高リン 鋳鉄

Cr メッキ

摺り合わせ試験 3500N×22h 約 0.3 約 0.5 約 0.1

第 1 次摩耗試験 3500N×40h 約 1.7 約 1.4 <0.1

第 2 次摩耗試験 4500N×40h 約 2.7 約 2.1 約 0.6

表 3.6.4-5 ディスクの摩耗率

摩耗率(mm/1000h)

試験条件 (荷重×時間) コールド

スプレー

高リン 鋳鉄

Cr メッキ

摺り合わせ試験 3500N×22h 約 0.08 約 0.03 約 0.03

第 1 次摩耗試験 3500N×40h 約 0.08 約 0.05 約 0.02

第 2 次摩耗試験 4500N×40h 約 0.15 約 0.11 約 0.15

② 今後の課題

Cr コールドスプレー皮膜の耐摩耗性は、Cr 粒子の結合強度が支配的であると考えられる。従って、Cr 粒子の結合力を改善することにより耐摩耗性の向上が期待できる。粉末焼結の事例から、粒子の結合強度改善には熱処理(HIP 処理)が有効である。今後は、Cr コールドスプレー皮膜に対する HIP 処理の適用を検討する必要があると考えられる。このためには、熱処理を実施しても剥離が生じない密着性の高い皮膜を得るとともに、HIP 処理の最適条件を把握する必要がある。 また、Cr 粉末は低温では脆いため成膜性が悪く、通常のコールドスプレーでは十分な塑

性変形と粒子間の結合性が得られ難いと考えられる。As Spray 状態での粒子結合性を改善するためには、Cr 粉末の予熱を検討する必要があると考えられる。

Page 58: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

- 54 -

3.7 総合技術調査 海外では、第2回アジア溶射会議が 2006年 11 月韓国で開催され、アジアでの情報収集を行った。国内では、日本溶射協会 2006 年 6 月春季講演大会及び 2006 年 11 月全国講演大会が開催され、技術動向の調査を実施した。 アジア溶射会議では、従来の高圧コールドスプレーの他にロシア製の低圧空気型コール

ドスプレーを使用した発表があり、平成 17 年より市販され始めた装置での基礎データ中心の発表であり、今後の展開が期待できる。製品へのアプリケーションでは、航空機、ラ

ジエターフィン、シリコンウエハー切断用ダイヤモンドホイールの発表があった。韓国か

らの発表は、国家プロジェクト支援を受けたもので勢力的に進められている。 国内の講演大会では、コールドスプレーの成膜機構など基礎的研究が中心で、製品への

アプリケーションとしては、二次電池用電極への応用程度であった。国内の講演大会では、

特に、若手研究者からの発表が盛んであり、これからの活躍が期待される。 4. スタディの今後の課題及び展開 (1) アルミ皮膜は、高緻密性皮膜を成形する手法を見出すとともに、航空機規格の耐食性コーティング要求を満足することができ、航空機実用部材への適用性あるいは優位性を明

らかにすることができた。WC-Co 皮膜は、耐摩耗性評価から、高速フレーム溶射とほぼ同等の磨耗特性を得ることができ、低温で皮膜処理できるコールドスプレーでの優位性を示

すことができた。インコネル皮膜については、皮膜の緻密化を得る手法を見出すとともに、

1000℃大気中での高温酸化に耐える皮膜であることを確認し、ガスタービン部材への適用可能性を示唆する良好な耐酸化性を明らかにすることができた。今後は、さらに高温強度

特性の評価が必要である。また、クロム皮膜については、耐摩耗性について評価し、皮膜

性能の更なる向上のための要因を明らかにすることができた。 今後は、需要業界各社のニーズとの整合性を計りながら本スタディでの研究内容を整理

し、国家プロジェクト研究への展開を準備していく。 (2) 本スタディで取り上げたコールドスプレーは、従来の溶射が高温度で溶融金属を部材表面に成形する手法であるのに対し、非溶融で金属粒子を部材表面にスプレー成形する方

法であり、製品構造部材への適応あるいは実用化するに関連した基盤技術の検討・データ

の蓄積を実施した。 また、低温度での皮膜形成手法には、電子デバイスへのセラミックコーティング技術(エ

アロゾルデポジション:AD 法)が知られている。この膜形成技術は、本スタディで検討

したコールドスプレー技術と共通する分野もあるので、今後、AD 法との連携を図り、国

家プロジェクト提案へ向けた議論を進める。

Page 59: コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に …18-F-3 コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

-禁無断転載-

システム開発 18-F-3

コールドスプレーによる革新部材創製技術 の開発に関するフィージビリティスタディ

(要旨)

平成19年3月

作 成 財団法人 機械システム振興協会 東京港区三田一丁目 4 番 28 号 TEL 03-3454-1311

委託先名 財団法人 次世代金属・複合材料研究開発協会 東京都港区虎ノ門三丁目 25 番 2 号

ブリヂストン虎ノ門ビル 3F TEL 03-3459-6900