12
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リーダーシップ研究の動向と課題組織科学 Vol.43 No.2 表2 The Bass Handbook of Leadership (第4版:2008年)の目次 第1部 導入 1 リーダーシップの概念

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.はじめに

我々は他者との関係を築きながら,集団や組織

を形成し,日常生活を営んでいる.そこでは組織

のさらなる向上をめざしながら,関連した諸問題

の解決が図られる一方で,構成員(フォロワー)

の幸福が追求される.そして,このような組織に

おける活動に関わって,大きな役割を果たすのが

リーダーである.リーダーによるリーダーシップ

のあり方が,集団や組織の業績や雰囲気作り,構

成員の満足度など客観的な指標から主観的な心理

過程まで影響をもたらすことは,広く経験的にも

知られている.

リーダーシップは,これまで社会科学の研究に

おいて重要な位置を占めてきた.これまで,「リ

ーダーのどのような働きかけが効果的であろう

か」「どのような特性が有能なリーダーと関連し

ているのだろうか」「フォロワーはどのようなリ

ーダーシップを受容するのであろうか」などの疑

問を解明しようとして,膨大な数のリーダーシッ

プ研究が行われてきた.例えば,Bass(1981)

による Stogdill’s Handbook of Leadershipでは,

約4,700の研究が引用されているが,Bass

(1990)Bass and Stogdill’s Handbook of

Leadershipでは,約7,500の研究が引用され,

さらに最新刊である Bass(2008)The Bass

Handbook of Leadershipでは,約8,700の研究

が引用されており,いつの時代でも継続的な関心

をもって研究されていることが理解できる.

本稿では,社会科学の中でも心理学を中心とし

ながら,主にミクロな理論をベースとしたリーダ

ーシップ研究を取り上げながら,近年特に最近

20年のリーダーシップに関する実証的研究の動

向について概観する.

組織科学 Vol.43 No.2:4-15(2009)|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

特集/リーダーシップ・セオリー・ホライゾン

リーダーシップ研究の動向と課題

淵上 克義(岡山大学 大学院教育学研究科 教授)

近年のリーダーシップ研究の動向を,影響力の構造,相互作

用,リーダーシップの効果の観点からまとめた.次に,これら

の研究と新しいリーダーシップ理論との関連性について整理

し,新しい研究がリーダーシップ・プロセスの解明にもたらす

成果について議論した.最後に今後の研究への課題と展望を試

みた.

キーワード

リーダーシップ,相互作用,フォロワー,リーダーシップ・プロセス,リーダーシップの効果

.リーダーシップに対して多様な視点から

取り組む

1. から研究動向

を読み解く

まず,1990年代から最近に至るまでの約20年

間にわたる,リーダーシップの実証的研究の動向

について概観してみよう.表1は Bass(1990)

による Bass and Stogdill’s Handbook of Leader-

shipの目次であり,表2は,Bass(2008)によ

る The Bass Handbook of Leadershipの目次を

示している.目次の構成はほぼ共通しているが,

新たに設定ないしは修正された研究テーマもみら

れる.例えば,最新刊ではリーダーの個人属性に

関連してリーダーの相反する属性である倫理性と

権力志向性に関する研究が新たに取り上げられて

いる.次に,リーダーシップ・プロセスの個人属

性として,信頼,説明責任,フォロワーの影響な

どが新たなテーマになっている.さらに,カリス

マ型・変革型リーダーシップに関する研究成果を

まとめて一つの独立した章立てが構成されてい

る.また,多様性と文化の章ではリーダーのみな

らずフォロワーの多様性も視野に入れたリーダー

シップの考えや差異を超えた共通したリーダーシ

ップのあり方が一つのまとまりとして構成されて

いる.

このように,リーダーとして基本的に必要な資

質(例えば,倫理性など)やリーダーシップ・プ

ロセスにおける基礎をなす信頼関係や説明責任な

どが注目されており,このことは単に効率性を基

準としたリーダーのあり方を今一度再考するよう

なアプローチが注目されているともいえよう.ま

たリーダーシップ・プロセスにおけるフォロワー

の影響やリーダーシップの対象となるフォロワー

の多様性など,フォロワーを視野に入れたリーダ

ーシップ研究も数多く行われている.これについ

ては後述するように,フォロワーという位置づけ

に止まらず,フォロワーの影響力やリーダーとフ

ォロワーの影響力の共有など,斬新なアプローチ

によるリーダーシップ研究が展開している.

2.多様なリーダー形態への注目

1990年代以前において,リーダーシップ研究

を進めていく上で,そもそもリーダーシップ現象

をどのように捉えるのかについて暗黙の前提があ

ったように思われる.例えば,筆者が学生時代リ

ーダーシップを学んだ1980年代頃は,リーダー

シップ現象を把握する際には,以下のような暗黙

の前提があったように思われる(淵上,2008).

⑴ 影響力の構造

まず第一に,リーダーシップを発揮する基盤と

なる影響力の構造に対する認識である.以前は,

組織における階層構造を前提としたリーダーとフ

ォロワーの存在があり,リーダーシップを単体と

しての集団や組織内部に対する対面的な働きかけ

であると捉えていた.さらに,そのような集団内

部でのリーダーのフォロワーに対する一方向的な

働きかけをリーダーシップと捉え,そのような働

きかけを分析することに重きがおかれていた.と

ころが,一極集中型の階層構造を前提としない組

織構造が注目されるにつれて,フォロワーによる

自己リーダーシップやミドルリーダーシップ(金

井,1991),ないしは共有リーダーシップなどが

注目されるようになってきた.

⑵ 相互作用の形態

次に第一点と関連して,リーダーシップをリー

ダーとフォロワーによる相互影響過程として捉え

るようになってきた(淵上,2002).以前はフォ

ロワーとは,リーダーシップに盲目的に従う存在

として把握されていた.そこでは,リーダーがあ

る指示を与えると,フォロワーはそれに黙って従

うという前提があり,リーダーシップとはリーダ

ーによる一方向的な影響過程であるとみなされて

きた.けれどもフォロワーの影響力が認識される

ようになり,リーダーシップ・プロセスにおける

フォロワーの役割が注目されるようになってき

た.フォロワーのもつ自己概念,プロトタイプ,

社会的アイデンティティなど多様な研究が行われ

るようになり,相互作用の形態に対する認識が変

化してきた.

リーダーシップ研究の動向と課題

組織科学 Vol.43 No.2

表 2 The Bass Handbook of Leadership

(第4版:2008年)の目次

第1部 導入

1 リーダーシップの概念

2 分類と類型

3 リーダーシップのモデルと理論

第2部 リーダーの個人属性

4 リーダーシップの特性(1904~1970年)

5 リーダーシップの特性(1970~2006年)

6 活動レベル

7 権威主義と権力志向

8 価値,自尊心,幸福感とリーダーシップ

9 倫理とリーダーシップ

第3部 リーダーシップの個人属性

10 リーダーシップ 地位 尊敬 信頼

11 パワーとリーダーシップ

12 リーダーシップとパワーの分配

13 葛藤解決

14 権威,責任制,説明責任,リーダーシップ

15 強化と道具的リーダーシップ

16 フォロワーがリーダーシップに及ぼす相互影響

第4部 リーダーシップスタイル

17 権威的対民主的リーダーシップ

18 指示的対参加的リーダーシップ

19 課題対関係志向性

20 構造対配慮

第5部 新しいリーダーシップ-カリスマと変革型リ

ーダーシップ

21 カリスマ的リーダーシップ

22 変革型リーダーシップ

第6部 管理と組織

23 管理的仕事

24 戦略的リーダーシップ

25 環境と組織の効果

26 集団とチームにおけるリーダーシップ

27 課題とテクノロジーの効果

28 ストレスの効果

29 空間,視覚,リーダーシップの代替物

30 交代と継承

第7部 多様性と文化の効果

31 リーダーとフォロワーとしての女性

32 リーダーとフォロワーとしてのマイノリティー

33 グローバリゼーションと通文化的効果

第8部 リーダーとリーダーシップの開発と同一化

34 訓練と開発

35 評価と人事選抜

第9部 将来

36 これからに向けて

表 1 Bass & Stogdill’s Handbook of Leadership

(第3版:1990年)の目次

第1部 リーダーシップの概念と理論-導入-

1 リーダーシップの概念

2 リーダーシップの分類と類型

3 リーダーシップの理論とモデルの導入

第2部 リーダーの個人属性

4 リーダーシップの特性(1904~1947年)

5 リーダーシップの特性(1970年まで)

6 リーダーシップと活動レベル

7 課題コンピテンスとリーダーシップ

8 対人コンピテンスとリーダーシップ

9 権威主義とリーダーシップ

10 リーダーの価値,ニーズと幸福感

11 地位,尊敬とリーダーシップ

12 カリスマ的,鼓舞的リーダーシップ

第3部 パワーと正当性

13 パワーとリーダーシップ

14 リーダーシップとパワーの分配

15 リーダーシップにおける葛藤と正当性

16 権威,責任とリーダーシップ

第4部 交換型リーダーシップ

17 条件即応型強化としてのリーダーシップ

18 リーダーとフォロワーの相互作用効果

19 条件即応型強化の行使と効果の調整変数

第5部 リーダーシップと管理

20 リーダーと管理者の仕事

21 民主的対権威的リーダーシップ

22 指示的対参加的リーダーシップ

23 課題志向的対関係志向的リーダーシップ

24 配慮・構造づくりそしてリーダー行動の記述に関連し

た要因

25 放任的リーダーシップ対管理への動機づけ

第6部 状況的調整変数

26 リーダーシップ,環境,組織

27 リーダーと対面集団

28 リーダーシップ,課題,テクノロジー

29 ストレスとリーダーシップ

30 空間,ネットワーク,リーダーシップ,代替物

31 固執,委譲,リーダーシップの継承

第7部 多様な集団

32 女性とリーダーシップ

33 リーダーシップ,黒人,ヒスパニック,他のマイノリ

ティー

34 異なる国と文化におけるリーダーシップ

第8部 リーダーシップの改善とリーダーシップ研究

35 リーダーシップと管理の開発,教育,訓練

36 リーダーと管理者のパフォーマンスの評価と予測

37 21世紀に向けたリーダーシップに関する諸問題

⑶ リーダーシップの効果-量的・質的効果-

第三に,リーダーシップがもたらす効果に焦点

を当てると,従来の研究は総じてルーティーン化

した課題をいかに効率よく遂行できるのかを明ら

かにしようとしてきた.つまり量的な効果をいか

に生み出していくのか,そしてそのためにフォロ

ワーの意欲をどのように維持・向上していくのか

について関心がもたれてきた.けれども,1980

年代に変革型リーダーシップ理論が登場して以

降,質的な変化を創出する,現状維持から問題の

予見と予防など,リーダーシップを読み取る効果

の指標には多様性がみられるようになってきた

(Bass and Riggio,2006).さらには,効率性中心

から構成員全員の幸福または,安全や安心などを

保証するようなリーダーシップのあり方が問われ

るようになってきた(Mendonca and Kanungo,

2007:Yukl,2005など).

⑷ リーダーシップの効果-個と集団への影響-

第四に,従来はリーダーシップは集団成員に均

質に影響を及ぼすものとされていたことである.

つまり,特定のリーダー行動は,フォロワー全員

に均質に影響をもたらすものであり,あるリーダ

ーの行動がフォロワー全員を規定するものとして

考えられていた.ところが,リーダーシップの対

象となる当事者と他のフォロワーへの効果が異な

る研究がなされるにつれ,個と集団に及ぼすリー

ダーシップの効果について再検討されてきた.

⑸ リーダーシップの効果-人を育てるリーダー

シップ-

第五に,フォロワーの自律性やコントロール感

を高めるようなリーダーシップの在り方や彼ら自

身のやりがいや生きがいなどより内面に焦点を当

てた研究に関心がもたれるようになってきた.こ

れについては,コーチング,エンパワーメント,

メンタリング,サーバントリーダーシップなどが

検討されており,フォロワー個々の価値観や尊厳

を高めるようなリーダーシップの在り方が注目さ

れている.これに関連して,リーダーの成長,リ

ーダーシップ開発など広くリーダーシップの成

長・発達にも関心が寄せられてきた(Day,

2001;Murphy and Riggio,2003).

⑹ リーダーシップがもたらす負の影響

第六に,リーダーシップの概念そのものに注目

した場合,リーダーシップは善であり,望ましい

行為であるという前提があったように思われる.

けれども,合理的な行為としてリーダーシップを

把握するだけでは,社会におけるリーダーの心理

や行動を十分に理解することができないことがわ

かってきた.近年の破壊的リーダーシップや権力

に焦点を当てた研究では,現代社会におけるリー

ダーシップにおける負の実態を明らかにすると共

に,今後取り組むべき課題についても積極的な提

言がなされている.

このように,近年のリーダーシップ研究は,従

来の枠組みに捉われない多様な視点から取り組み

ながら,リーダーシップ現象を解明しようとする

動きがみられている.そこで,これまで述べてき

た新たな視点を代表する研究についてみてみよ

う.

.影響力の構造

1.自己リーダーシップ

リーダーとフォロワーが相互作用を続けていく

うちに,フォロワー自身が力量を身につけ自力に

より課題を遂行できる場合もある.Manz and

Sims(1989)によれば,フォロワーはリーダー

と一定の相互作用を繰り返しながら,リーダーの

行動を観察・学習しているとする.そしてフォロ

ワーは,リーダーの適切な行動を取り入れ(モデ

リング),そうでない行動を学習しないとする.

また,フォロワーが自然に学習するだけでなく,

リーダーはフォロワーが自己管理できるように,

意図的にモデリングさせ,教授し,勇気づけ,さ

まざまな強化を与える.やがてフォロワーは,自

己認識(自分は高業績組織において,有能で,能

力があり,パワーを与えられている)を育成する

(Sims and Lorenzi,1992).このように,フォロ

ワーが自分で目標を設定し,自己に働きかけ,自

リーダーシップ研究の動向と課題

分自身に報酬と罰の強化を与える過程を,自己リ

ーダーシップと呼ぶ.自己リーダーシップに関す

る研究成果は,伝統的に管理されたフォロワーと

自己管理されたフォロワーを比較することによっ

て,自己リーダーシップの効果性を明らかにして

いる.ただし,いつでも自己リーダーシップが望

ましいというわけではなく,フォロワー自身の独

自の判断が可能な領域と,リーダーの指示が必要

な領域の区別を明確にしなければならない

(Schnake,Dumler,and Cochran,1993).

2.共有リーダーシップ

Pearce and Conger(2003)は,自己リーダー

シップのさらに進んだ段階として共有リーダーシ

ップを提唱している.つまり,フォロワーが個別

にリーダーシップを発揮する段階から,互いに働

きかけあいながら職務を遂行する段階である.

Pearce and Conger(2003)は,これまでのリー

ダーシップ研究を整理しながら,リーダーシップ

研究はその当初から,公的な特定の地位を占めた

支配権のあるリーダーによる下方向への影響過程

を明らかにすることが前提であったと述べてい

る.特に1990年代以降行われてきた自己リーダ

ーシップ,自己管理作業チーム,フォロワーシッ

プ,エンパワーメントなどの諸研究は,リーダー

による垂直的なリーダーシップを想定していると

はいえ,自律的なチームにおけるリーダーシップ

理論の構築に大いに貢献したとしている.

これらの先行研究を踏まえながら,Pearce

and Sims(2002)は,相互依存的で自律的なチ

ームに影響をもつ源として共有リーダーシップを

取り上げている.つまり,自律的またはエンパワ

ーメントされたチームでは,成員全員がリーダー

の役割を共有している,いわば共有リーダーシッ

プともいうべき集団プロセスが生じているとい

う.このような共有リーダーシップは,成員同士

による水平的な影響過程がチームのダイナミック

スやチームの有効性を説明する際に重要な役割を

演じる.Pearce and Sims(2002)は,アメリカ

中西部の大手自動車製造販売会社において,部署

が横断的で高度に相互依存的である変化管理チー

ムを対象として調査を行った.調査では八つのリ

ーダーシップタイプ(垂直リーダーシップ(①指

示型,②交換型,③変革型,④エンパワー型),

共有リーダーシップ(⑤指示型,⑥交換型,⑦変

革型,⑧エンパワー型))を比較している.調査

の結果,共有リーダーシップがチームの有効性に

大きな影響力をもっていることが明らかになっ

た.けれども,このような自律的なチームを対象

とした場合においても,変革型リーダーシップの

ような垂直的リーダーシップもチームの有効性の

決め手になっていることがわかり,垂直的リーダ

ーシップと共有リーダーシップは互いに排除的で

はなく,双方がチームの有効性認知に影響をもつ

と結論づけている.関連して組織のイノベーショ

ンと共有リーダーシップとの関連も検討されいる

(Pearce and Ensley,2004).さらに,共有リーダ

ーシップが特に効果的な集団は,トップマネジメ

ントチームや組織の変革に携わるプロジェクトチ

ームなどにみられるような成員同士の相互依存性

が高い場合や組織としての不確実性が高い状況,

ないしは創造性が強く求められる状況であると指

摘されている.日本でも職場内での協力行動は共

有リーダーシップの認知を介してフォロワーの活

動意欲を規定することが実証的に確かめられてい

る(高口・早瀬・坂田,2008).

関連して近年は,組織内のチームに焦点を当て

ながらメンバー間に共有されたチームレベルにお

けるチーム・リーダーシップにも関心が寄せられ

ており(Day,Gronn, and Salas, 2004),例えば

チームの有効性に貢献する機能的なリーダーシッ

プモデルなどが提唱されている(Zaccaro, Ritt-

man,and Marks,2001).このモデルは,チーム

の集団過程を認知,動機,情動,及び調整という

四つの側面から捉え,リーダーシップがこれらに

及ぼす影響を予測しようとするものである(坂

田,2008).日本でもチーム・リーダーシップの

効果が検討され始めている(山口,2006).

組織科学 Vol.43 No.2

.相互作用におけるフォロワーの役割

-フォロワーによるリーダーシップ認知-

リーダーシップは,被影響者であるフォロワー

が受け入れて初めて効果をもつ.かりにリーダー

がいくら働きかけたとしても,フォロワーが彼の

影響力を受け入れることがなければ,ほとんど効

果は望めない.したがって,リーダーシップの有

効性は,フォロワーの捉え方次第であるといって

も過言ではない.1980年代以降リーダーシップ

研究において,フォロワーの認知構造に焦点を当

てた研究が数多く行われている.

1.リーダーのプロトタイプ

Lord and Maher(1991)は,リーダーシップ

研究において従来ほとんど看過されてきた影響を

受ける側であるフォロワーの認知に焦点を当て

た.彼らは,人は一般にリーダーとはこういうも

のだというリーダー像の原型(プロトタイプ:

prototype)をもっており,このリーダー像がリ

ーダーとそうでない者や様々なリーダー像を区別

するだけでなく,リーダー当事者がどのように評

価されるのかにも影響を及ぼすとしている.例え

ば,あるフォロワーが「リーダーとは決断力があ

り,有能で,男性的である」と考えているなら

ば,それらをリーダー像の原型として彼の記憶に

貯える.そして彼が評定者としてリーダー行動を

評定する時,彼のもつリーダー像の原型に近けれ

ば彼をリーダーとしてふさわしいと判定し,そう

でないときはリーダー的でないと判断する.ま

た,このようなフォロワーがもつリーダー像は人

それぞれによって異なるだけでなく,多くの人々

に共通しているものもある.いわゆる我々が共通

して抱いているリーダーらしさと呼ばれるリーダ

ー像である.このようなリーダー像の共通性や時

間的な安定性については,比較文化的視点も含め

ながらこれまで詳細に検討されている(例えば

Den Hartogら,1999;Olga,and Robin,2004).

これらの研究の多くは,フォロワーがプロトタイ

プを多くもつリーダーを高く評価する一方で,ア

ンチ(反)プロトタイプを多くもつリーダーを低

く評価することが明らかになっている.

最近の研究では,フォロワーがリーダーを評価

する前段階であるリーダーとして記銘する段階に

おいて,すでにプロトタイプ像の影響を受けるこ

とも実証的に確かめられている(Scott and

Brown,2006;鎌田・淵上,2008).

2.フォロワーの作動自己概念

近年 Lord and Brown(2004)は,これまでの

研究成果をさらに発展させて,フォロワーの認知

の中心となる自己概念に注目した研究に取り組ん

でいる.彼らによると,有能なリーダーは,フォ

ロワーの自己概念(例えば,自分の今の状態,将

来の自分,集団メンバーとしての自己など)を変

化させるような適切な働きかけを行っていると指

摘している.この自己概念は,様々な社会的状況

によって変化する.例えば,自分の子どもと接す

るときは親としての自己が顕在化し,職場で部下

と接するときは上司としての自己が顕在化する.

そのように文脈に応じて,自己についてのスキー

マが活性化し,反応する状態を作動自己概念と呼

ぶ.Lordら(2004)によれば,作動自己概念に

は,自己評価の基盤となる個人の知能,運動能

力,身体的魅力などについての知覚である自己観

(self-viewing),将来どうなりうるかという希望

や不安を含む自己である可能性自己(possible

selves),短期間で焦点化された目標にかかわる

文脈化されたスキーマである当面の目標(cur-

rent goal)の3つの要素を含むものとして概念

化されている.

この3つの要素は図1に示しているように,動

機づけや情緒を調節する統制システムを創り出す

ため相互に作用しており,異なる組み合わせでの

比較ごとに,異なる動機づけ過程が生じる(迫

田,2008).例えば,自己観と当面の目標との比

較は,身近な目標に関係する動機づけが活性化さ

れ,その目標が達成されそうにない自己観であっ

た場合,不安などの情緒的な反応が生じやすい.

対照的に,当面の目標と可能性自己との比較で

は,可能性自己は遠い将来に投影されるものであ

リーダーシップ研究の動向と課題

るため,長期的な目標に対する動機づけ過程が生

じる.さらに,自己観と可能性自己との比較で

は,時間経過にともなう道筋を作ることにより将

来の自己に向けて自己観を描き出すことが可能と

なる.

そしてこのような自己概念を想定した上で,

Lord and Brown(2004)は,リーダーとフォロ

ワーが同じ時間志向をもつことで,その効果が促

進されるだろうという仮説を示すとともに,リー

ダーとフォロワーの時間志向の一致の効果につい

て検討することの重要性を指摘している.

さらに Lord and Brown(2004)は,フォロワ

ーの動機づけと作動自己概念との関係を理解する

ために,さらに細かく個人レベル,関係レベル,

集団レベルという3つのレベルで論じる必要性を

示している.個人レベルは,能力などの個人特性

に基づいて他者と区別する自己である.関係レベ

ルは,子供と両親など他者との関係性における自

己を指す.そして,集団レベルは,作業チームや

組織といった特定の集団での自己である.例え

ば,作動自己概念の中で,目標と将来の可能性自

己との結びつきが,個人レベルで作動した場合,

自己の能力発達に関わる動機づけへとつながる

が,関係レベルでは,特定の他者とのより強い関

係の構築しようとする動機づけへとつながる.そ

して集団レベルで活性化した場合は,特定の集団

の機能や状況を高めることへの動機づけに関連す

ると考えられる.したがってリーダーは,フォロ

ワーの集団的自己概念に働きかける場合もあれ

ば,個人的自己概念に働きかけることもある.例

えば,「君のおかげで仕事が順調だ」と言われた

場合と,「うちの課の職員のおかげで仕事が順調

だ」と言われた場合では,フォロワーに異なる効

果をもたらす(迫田,2008).したがって,リー

ダーは文脈に対応してフォロワーの自己概念のど

の側面に働きかけるのが効果的であるのかについ

て認識しておく必要がある.

3.フォロワーの社会的アイデンティティ理論

さて,同じフォロワーの認知理論でも,所属集

団に対するアイデンティティに注目した研究も行

われている.Tajfel and Turner(1986)は社会

的アイデンティティ理論を提唱した.この理論で

は自己概念を他者と異なる独自の個人としての個

人的アイデンティティと所属する集団や社会的カ

テゴリーの一員であることに基づく社会的アイデ

ンティティとの区別する.そして一般に集団の構

成員は,所属している集団の一員であるという同

一視の認識である社会的アイデンティティを高め

るほど,他者に対する好意の基準を,個人的関係

に基づいた「個人的魅力」から,所属集団の特徴

を基盤とした「社会的魅力」へと変える.つま

り,社会的アイデンティティが高まった状態で

は,他者への好意が,個人的にどの程度気が合う

相手であるか,というような個人的な基準で決ま

るのではなく,相手がどの程度自分たちの所属集

団の特徴を備えているのか,または所属集団を代

表しているのかというような社会的な基準で決ま

るのである.したがって,社会的アイデンティテ

ィが顕在化した状況では,所属集団の特徴を最も

図 1 作動自己概念のモデル(Lord & Brown,2004による)

組織科学 Vol.43 No.2

兼ね備えた構成員の魅力が最大となり,ひいては

そのような構成員がリーダーとして認められるこ

とになる(坂田・高口,2008).

これに関連して,Hains, Hogg, and Duck

(1997)は,社会的アイデンティティが高まった

状況では所属集団の特徴を兼ね備えたリーダーが

フォロワーから強く承認され有効であるとみなさ

れていることが見出された.この結果は,日本で

も確認されており(坂田・藤本・高口,2005),

リーダーシップ認知がフォロワーの集団に対する

同一視である社会的アイデンティティによって調

整されることを明らかにしたものである.さら

に,川口・坂田(2008)は,集団において上司と

部下,同僚と同僚など人間関係レベルにおけるア

イデンティティが顕在化すると,構成員の意見を

よく聞くリーダーや構成員の協力を促したり,個

別に働きかけるリーダーが求められることを明ら

かにしている.このように,フォロワーの自己概

念の顕在化したレベルに適切に働きかけるリーダ

ーが効果的であることがうかがえる.

Lordらの研究や社会的アイデンティティ理論

は,フォロワーの自己概念に焦点を当てることに

よって,リーダーシップの効果性を明らかにしよ

うとするものであり,リーダーシップ・プロセス

におけるフォロワーの役割を認識させる重要な研

究といえよう.

.リーダーシップが及ぼす効果

1.変革型リーダーシップ

1980年代に入り,集団ないしは組織の変革を

視野に入れたリーダーシップの在り方が注目され

るようになった.Bass and Avolio(1994)は,

変革型リーダーシップは,以下の四つの I’sから

構成されるとした.① idealized influence:リー

ダーは賞賛され,尊敬され,信頼される.フォロ

ワーはリーダーに同一視しようとし,彼らを見習

おうとする.リーダーは個人的利益のためにパワ

ーを用いることを避ける.② inspirational moti-

vation:リーダーは,フォロワーの仕事に対して

意味やチャレンジを与えることで彼らを発憤さ

せ,モチベートする.チームスピリット,目標へ

のコミットメント,分かち合ったビジョン.③

intellectual stimulation:リーダーは,仮説を疑

ったり,問題を再構成したり,新しいやり方で古

い状況にアプローチしたりすることによって,フ

ォロワーの努力を革新的・創造的なものへと刺激

する.④ individualized consideration:リーダ

ーは,コーチや助言者として振る舞うことで,達

成や成長のために個々人の欲求に対して特別な注

意を払う.個人差を受け入れたリーダー行動.

さらに,Bass and Riggio(2006)は,これま

でのリーダー行動に関する先行研究をまとめなが

ら,もっとも効果的なリーダー行動のモデルとし

て,The Model of Full Range of Leadershipを

提唱している.まずリーダー行動を,①先述した

四つの I’sからなる変革型リーダーシップ,②三

つの交流型リーダーシップ(業績に対応して報酬

を与える行動,能動的な例外時罰行動,受動的な

例外時罰行動),③放任型リーダーシップに分類

している.そして,すべてのリーダーは,これら

五つのリーダー行動を組み合わせながら,一定の

リーダーシップスタイルを示すと述べている.そ

の中でも,最適なリーダーシップスタイルは,変

革型リーダーシップと業績に対応した報酬を与え

る行動を中心とした組み合わせであり,このよう

なスタイルを頻繁に用いる者こそ,活動的で効果

的なリーダーであり,リーダーシップを十分に発

揮している(Full Range of Leadership)有能な

リーダーであるとしている.逆に,最も貧困なリ

ーダーシップスタイルは,何もしない放任型と例

外時の罰行動を中心とした交流型リーダーシップ

であり,これらが受動的で非効果的リーダーシッ

プであるとしている.これまで数多くの研究によ

って,変革型リーダーシップの効果が明らかにさ

れているが,その効果はあくまで交流型リーダー

シップが日常発揮されて始めて高まることが実証

的に確かめられている(古川,1998).したがっ

て,日々の対面的な交流型リーダーシップによる

リーダーとフォロワーの信頼関係なしに,変革型

リーダーシップの高い効果は望めないことがうか

がえる.関連してリーダーシップの効果の差異に

リーダーシップ研究の動向と課題

関して,変革型リーダーシップは組織のシステム

に影響を及ぼし,配慮型リーダーシップは職場の

風土に影響をもたらすことが明らかになっている

(西山・淵上・迫田,2009).

また近年,変革型リーダーシップやカリスマ型

リーダーシップに関連して,リーダーが私益に捉

われずに組織や全構成員のことを考えることや,

組織のためならば自分の犠牲もいとわないという

ようなリーダーの行動に注目した自己犠牲的リー

ダーシップが注目されている.リーダーによる自

己犠牲的行動とは,彼らが組織の利益のために

は,リーダーとしての自分の正当な特権をあきら

めるなど,組織目標遂行のためには,自分が犠牲

になることもいとわない行動をいう.Choi and

Mai-Dalton(1999)は,リーダーによる自己犠

牲的行動は①フォロワーがリーダーのカリスマ性

や正当性を自己犠牲的なリーダーに帰属し,②リ

ーダーによるそのような自己犠牲的行動をフォロ

ワー自身が置き換えることによって組織への強い

コミットメントや組織への貢献行動をとるように

なる,ことを明らかにしており,フォロワーの自

己犠牲的行動受容プロセスを検討している.リー

ダーの自己犠牲的行動は,フォロワーのカリスマ

帰属と関連していることが多くの研究で示されて

おり(De Cremer and Van Knippenberg,2004;

Halverson,Hollanday,Kazama,and Quinones,

2004他),リーダーシップの効果性との関連で今

後も検討すべき課題である.

2.個と集団に及ぼす効果

リーダーシップの効果は,働きかけの対象とな

る当事者と集団内の他のフォロワーに対する効果

は異なることがわかっている(淵上,2005).例

えば Podsakoff, Bommer, Podsakoff, and

MacKenzie(2006)は,リーダーによる懲罰行

動に関連した先行研究のメタ分析を行っている.

その結果,リーダーによる状況に対応した懲罰行

動(フォロワーの不適切な行動に対して懲罰をと

る行動)は,懲罰の対象となったフォロワーの行

動改善成果には影響がないことが見出されてい

る.けれども,そのような懲罰行動は集団レベル

での成果には,ポジティブな影響を示すことを見

出しており,リーダーによる適切な懲罰の実施

は,集団としての成果には有効であることを明ら

かにしている.このように組織における懲罰行動

は,社会的な文脈から必要であり,組織の規範を

維持するため,ないしは組織における公平性とい

う視点からリーダーの懲罰行動の効果性に注目し

た研究が行われている(Trevino and Ball,

1993;Niehoff, Paul, and Bunch, 1998;淵上・

迫田,2004).それによると,リーダーによる懲

罰行動は,観察者である他のフォロワーにとって

は,場合によっては必要不可欠であることを明ら

かにしている.これに関連して,交換理論に基づ

いたリーダーシップ研究においても,低質な交換

関係であると捉えているフォロワーは,同一集団

内において他のフォロワーが高質の交換関係を形

成している原因を客観的な業績や能力ではなくえ

こひいきなど政治的な意図に原因を求める傾向が

あり(Davis and Gardner,2004),集団内部にお

ける関係性の質のばらつきがフォロワー同士の確

執や不満を引き起こす傾向にあることがわかって

いる(Hooper, and Martin, 2008).このように

リーダー行動は,社会的な文脈に中で評価される

傾向にあり,リーダーシップの効果についてはそ

のことを念頭におく必要があることを示唆してい

る.

3.倫理的リーダーシップ

社会においてリーダーに対する道徳的・道義的

な責任に強い関心が向けられるようになって,生

産性や業績が向上しさえすれば,優秀なリーダー

として評価されていた時代から,それに加えてリ

ーダーに強い倫理性が求められる時代になってき

た.リーダー自身の私益や効率性中心のリーダー

シップから組織の構成員全員の安寧やフォロワー

に対する奉仕・サービスに焦点を当てた変革型リ

ーダーシップやサーバントリーダーシップ(池

田・金井,2007)などは,他者の権利や幸福を中

心に据えるという意味で,倫理的リーダーシップ

と密接に関連している.倫理的リーダーシップそ

のものについては,リーダー個人の誠実さ,道徳

組織科学 Vol.43 No.2

的な発達段階や道徳的行動などとの関連で検討さ

れている(Mendonca and Kanungo, 2007).ま

た,リーダーによる倫理的行動は状況的文脈から

も強く影響を受けることが知られており

(Brown,and Trevino,2006),例えば収益向上の

プレッシャーが強く,褒賞や昇進に激しい競争が

ある場合,権力への服従が強く求められる場合,

倫理的な規範が欠如している場合などに非倫理的

行動が生起しやすいことも指摘されている

(Yukl,2005).

4.人材育成のリーダーシップ理論

近年は,リーダーシップの効果の一側面である

人を育てるという視点が重視されている.つまり

リーダー主導により,リーダーの指示に忠実に従

うフォロワーを育成するという考えから,自主

的・自律的に判断できるようにフォロワーを育成

するリーダーシップのあり方への注目である.

この人材育成に関するリーダーシップは,フォ

ロワーの課題解決能力や役割意識を高めるための

開発的リーダーシップと呼ばれている(Yukl,

2005).具体的には,ソーシャルサポート,メン

タリング,コーチング,など多様な形態のリーダ

ーシップ理論が提唱されているが,これらは共通

して,リーダーがフォロワーの成長に強い関心を

抱き,彼らの能力自律的な意欲や態度,及び判断

力への強い信頼感をもとにして,発揮されるリー

ダーシップといえる.例えば,コーチングリーダ

ーシップとは,フォロワーの抱いている問題意識

に対して傾聴を基礎としながら,彼らに回答を与

えるよりも複雑な課題を解決するための方法やヒ

ントを与えたりすることによって,フォロワー自

身に考えさせることをねらいとしている.例え

ば,定型的な課題よりも創造性を求められる課題

においてコーチングリーダーシップが効果的であ

ることが確かめられている(鎌田・淵上,2008).

関連して学校でのリーダーである校長が教師に与

えるソーシャルサポートが教師の校長評価に効果

的であることも確かめられている(迫田・淵上・

田中,2004).このように人を育てるリーダーシ

ップへの注目も近年みられる動向の一つである.

.まとめと課題

リーダーシップはフォロワーに対するリーダー

の働きかけであり,影響力であるという考えは,

共通している.けれども,元来 Bass(1990,

2008)が指摘しているように,リーダーシップの

定義や概念は,リーダーシップの研究者の数に匹

敵するほど存在するといわれている.これまで述

べてきたように,近年の研究もリーダーシップの

実態を実証的に解明しようとした取り組みが多

い.リーダーシップ・プロセスとその効果をつぶ

さに観察すると,多様なリーダーシップ像が浮か

んでくる.さらには,リーダーシップを発揮する

対象がどのような集団や組織かによってもリーダ

ーシップの構造や機能は異なる.各局面における

具体的なリーダーシップの現象とその効果が明ら

かになることは望ましいことである.

けれどもこのような研究が進む一方で,概念間

の混乱が生じてきたもの事実である.例えば,リ

ーダーとフォロワーの個別的な関係に焦点を当て

たものが交換型リーダーシップであり,それはフ

ォロワーの個人的な利益や個人による上司への貢

献に焦点を当てた研究であるとされてきた.それ

に対してフォロワーが組織の利益に焦点を向ける

働きかけが変革型リーダーシップであると説明さ

れてきた.ところが,近年交換型リーダーシップ

とフォロワーの組織市民行動の関係において,高

質の交換関係はフォロワーの組織市民行動と強い

肯定的な関係があることが明らかにされている

(Ilies,Nahrgang, and Morgenson, 2007).この

ような研究結果は,変革型リーダーシップと交換

型リーダーシップの区別について改めて考えさせ

る機会を提供する.

さて,これまで述べてきたリーダーシップ研究

の発展は,リーダーとフォロワーを含めたリーダ

シップ・プロセスの解明を目的としたものである

といえよう.リーダーシップ・プロセスの全貌を

解明するためには,リーダー行動の前段階とし

て,リーダーの行動発生過程を分析する必要があ

る.リーダーの行動発生過程については,リーダ

リーダーシップ研究の動向と課題

ー側から見れば,①リーダーは自分が預かる組

織・集団をどのように認識しているのか,②リー

ダーの認識や判断に影響を及ぼすものはどのよう

な要因かなどの要因を考える必要がある(古川,

2006).この点に関連して,組織における目標設

定の効果性を促進するリーダー行動についても検

討されており,目標設定段階におけるリーダーの

価値観表明やその後の指導との一貫性がフォロワ

ーに効果的な影響をもたらすことなどが明らかに

なっている(野上,2007).今後はリーダーの行

動発生の前段階も含めたリーダーシップ・プロセ

スを解明していく必要があるだろう.

第三に,倫理的リーダーシップ研究とは裏腹で

ある,組織をダメにするリーダー研究についても

注目されている.例えば,組織を破滅へと導く破

壊的リーダーシップ(Mumford,et al.,2007)権

力の活性化に伴うリーダーの暴走傾向(Keltner,

Gruenfeld, and Anderson, 2003),放任的リーダ

ーシップがもたらす影響(Hinkin and Schrie-

sheim, 2008)など多様な側面から検討されてお

り,リーダーシップの実態を明らかにしていく上

でも欠かせない研究である.

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