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はじめに
このレクチャーノートは, 前年度に引き続き, 2014年 2月 12日から14日まで, 山口県健康づくりセンターで開かれた研究会
多様体上の変分問題とその周辺領域— Willmore 曲面について —
(第 2回)
の講演記録である.
—————————————————
Willmore 曲面の研究は, 2つの特徴をもっている:
(1) 有意義な対象 ・・・ Willmore 汎関数, 曲面論
(2) 豊富な方法論 ・・・ Willmore 予想の解決のためのアプローチ(変分法, 偏微分方程式, 可積分系, 等々)
Willmore曲面はWillmore汎関数から定義される曲面として,変分法と深い関係がある. よく知られている極小曲面について見てみると, 「極小曲面は面積汎関数の停留値を与える曲面であり, 平均曲率がゼロとなる曲面である」が,その平均曲率の二乗の積分がWillmore
汎関数であり, 極小曲面は Willmore 汎関数がゼロという値をとる曲面として特徴づけられる. 極小曲面が存在しない状況でも, 最小エネルギーの Willmore 曲面は, 極小曲面に (平均曲率の L2 -ノルムの意味で) 最も “近い”曲面と見ることもできる. また, 極小曲面は調和写像 (harmonic map) と密接な関係があるが, Willmore 曲面は重調和写像 (biharmonic map) と関連をもつ.
1
Willmore 汎関数について, もう少し見てみよう. 向きづけ可能な閉曲面 M の主曲率を κ1, κ2 とすると, 平均曲率は H = 1
2(κ1 + κ2)
であるので, Willmore 汎関数 W (M) は
W (M) =
∫M
H2dv =1
4
∫M
(κ1 + κ2)2dv
で与えられる. ガウス曲率は K = κ1κ2 であるので,
H2 =1
4(κ1 − κ2)
2 + K
と変形して, ガウス-ボネの定理を使うと, Willmore 汎関数は
W (M) =1
4
∫M
(κ1 − κ2)2dv + 2πχ(M)
となる. ここで, χ(M) は曲面 M のオイラー数である. この式から
Willmore 汎関数は, 主曲率の差の二乗の積分平均を測っている
と見ることができる. 一方,
H2 =1
4(κ21 + κ22) +
1
2K
と変形して, ガウス-ボネの定理を用いると
W (M) =1
4
∫M
(κ21 + κ22) dv + πχ(M)
となるが, κ21 + κ22 は第 2基本形式のノルムの二乗であり∗,
Willmore 汎関数は, 第 2基本形式の大きさを測っている
∗ G =
(g11 g12g21 g22
)を第 1基本量からなる行列, H =
(h11 h12
h21 h22
)を第 2基本量からなる
行列とすると, 適当な正則行列 P をとって行列 HG−1 を三角行列に直すことにより P−1(HG−1)P
=
(κ1 ∗0 κ2
), したがって, P−1(HG−1)2P =
(κ21 ∗0 κ2
2
)となるので
κ21 + κ2
2 = tr(P−1(HG−1)2P
)= tr(HG−1HG−1)
= ∥H∥2G (計量Gについての第 2基本形式Hのノルム)
となる.
2
ものとも言える.
「R3 にはめ込まれたトーラスに対する Willmore 汎関数の最小値は 2π2 である」という Willmore 予想は, 様々な研究者により調べられた. その研究の過程で Li と Yau による conformal volume の概念, 幾何学的測度論を用いた L.Simonによる最小解の存在証明, 複素Fermi 曲線の話に帰着させようとした Schmidt のアプローチなどがあり, ついに, 2013 年に Marques と Neves により, 幾何学的測度論を用いた min-max 法により, Willmore 予想が肯定的に解決された.
その影響からか, 最近Willmore曲面の研究が活発になってきている.
このように, Willmore 曲面の研究は,「対象」としても, また,「方法論」としても興味深い内容をもっている. このレクチャーノートは, Willmore 曲面の研究に興味をもつ人たちのためにまとめられたものである. このレクチャーノートは, 山口大学数理科学レクチャーノート No.3 として刊行されたが, 前 2巻 (No.1, No.2) と合わせて,
Willmore 曲面の基本的な事柄を修得するための貴重な資料になっていると思う.
この研究会で講演いただいた方々に感謝致します. また, この研究会は, 金沢大学 (当時は, 山口大学) の川上裕氏との熱い (?) 議論から始まっています. 最後になりましたが, 川上裕氏に感謝致します.
なお, この研究会の開催, および, このレクチャーノートの印刷にあたり, 文部科学省 科学研究費 基盤研究 (C) 課題番号 24540213 (平成 24年度~平成 26年度, 研究代表者 中内伸光) の援助を受けています. 感謝致します.
2014年 10月 中内伸光
3
目 次
1. 加藤信 (大阪市立大学大学院理学研究科)
「Willmore 曲面に関連する flat-ended な極小曲面について」
2. 安藤直也 (熊本大学大学院自然科学研究科)
「Euclid 空間内の部分多様体の反転による像のコンパクト化について」
3. 守屋克洋 (筑波大学数理物質系)
「四元数射影空間内のウィルモア正則曲線」
4. 加藤信 (大阪市立大学大学院理学研究科)
「Willmore 曲面の gap について」
5. 安藤直也 (熊本大学大学院自然科学研究科)
「4次元 de Sitter 空間内の平均曲率ベクトルが零である曲面について」
Willmore曲面に関連する flat-endedな極小曲面について
加藤 信(大阪市立大・理)
2014年 2月 12日 山口県健康づくりセンター
1 はじめに
本稿の目的は、3 次元 Euclid 空間内の Willmore 球面に関するBryant [2] の結果の内、その Willmore エネルギーの gap について、関連する flat-ended な極小曲面の共形類に関する観察を通して、平易な説明を与えることである。 一般に Willmore 曲面に関する文献においては、用語の定義や標記がかなりまちまちであるので、本論に入る前に、一応の統一を見ておきたい。基本的な方針としては、本稿の読者の大半が参考にすると思われる安藤氏による解説 [1] と出来得る限り同じものを用いることとする。 まず、 3 次元 Euclid 空間を E3 と表す。特に断らない限り、M は compact 曲面、すなわち 2 次元閉多様体とし、ι : M → E3 を C∞ 級はめ込みとする。ι の平均曲率を H,
Gauss曲率を K と表す。E3 の標準的計量から ι により誘導されるM 上の Riemann 計量 g = ι∗gE3 に関する面積要素を dA, Laplacian を ∆ と表す。 ここで、平均曲率の平方の積分により定義される次の汎関数を、Willmore 汎関数または Willmore エネルギーと呼ぶ。
W(ι) :=∫MH2dA.
また、次の汎関数も、しばしば同じ名前で呼ばれる。
WM(ι) :=∫M(H2 −K)dA.
WM(ι) はE3 の共形変換( Mobius 変換)で不変である。 χ(M) を M の Euler 標数とすると、Gauss-Bonnet の定理より次の等式が従う。
W(ι) = WM(ι) + 2πχ(M).
従って、はめ込み ι がW の臨界点であることとWM の臨界点であることは同値であり、そのような ι は Willmore はめ込み、その像 ι(M) は Willmore 曲面と呼ばれる。 全臍的球面はWillmore曲面である。また、より一般に E3 内の極小曲面のE3 の共形変
1
換( Mobius 変換)による像も Willmore 曲面である。但し、この例は一般には compact
とは限らない。 Willmore 汎関数の第一変分を計算することにより、W かつ WM に関する次のようなEuler-Lagrange 作用素が得られる。
W(ι) := ∆H + 2(H2 −K)H.
ι が Willmore はめ込みであること、もしくは ι(M) が Willmore 曲面であることは、微分方程式W(ι) = 0 の解であることと同値である。 一般に Willmore 汎関数の値については、次の事実が知られている。
定理 1.1.(Willmore [8, 9], cf. [1, 定理 1.1]) 任意のはめ込み ι : M → E3 に対し、次の不等式が成り立つ。
W(ι) ≥ 4π.
等号成立は全臍的球面の場合に限る。
一度、Willmore 汎関数の最小値と最小点が決定されると、次に問題となるのは、最小点でない臨界点と臨界値はどのように分布しているかと言うことである。球面の場合に関しては、次のような事実が知られている。
定理 1.2(Bryant [2]) 任意の Willmore はめ込み ι : S2 → E3 に対し、次の不等式が成り立つ。
W(ι) = 4kπ (k ∈ N \ 2, 3, 5, 7).
既に述べたように、本稿では、ここに現れる gap の意味について、考えてみたい。 ついでながら、高次元の Euclid 空間内の場合についても、一通りの標記の準備をしておくことにする。任意の n ≥ 3 に対し、n 次元 Euclid 空間を En と表す。M はこれまで同様 compact 曲面とし、ι : M → En を C∞ 級はめ込みとする。ι の第二基本形式をA = D2ι⊥, 平均曲率ベクトル場を H = 1
2tr A と表す。En の標準的計量から ι により誘
導されるM 上の Riemann 計量 g = ι∗gEn に関する面積要素を dA, Laplacian を ∆ と表す。 ここで、平均曲率ベクトル場のノルムの平方の積分により定義される次の汎関数を、Willmore 汎関数または Willmore エネルギーと呼ぶ。
W(ι) :=∫M|H|2dA.
W の臨界点であるとき、はめ込み ι は、Willmore はめ込み、その像 ι(M) は Willmore
曲面と呼ばれる。
2
2 E3 内の Willmore 球面と Willmore 射影平面
本節では、Bryant [2] による定理 1.2 とその背景となる Li-Yau [4] の結果、また、関連する Kusner [3] の結果について、簡単に復習しておく。詳細については安藤氏の講義録[1, §3] を参照されたい。 Li-Yau [4] は、一般に、 compact 曲面 M に対して、共形面積と言う概念を導入することにより、Willmore 汎関数の値に関して次の評価を得た。
定理 2.1.(Li-Yau [4, Theorem 6], cf. [1, 定理 3.13]) compact 曲面の任意のはめ込みι :M → En に対し、k = max#ι−1(p) | p ∈ En とおくとき、次の不等式が成り立つ。
W(ι) ≥ 4kπ.
特にW(ι) < 8π(= 4π · 2)
のとき、ι は埋め込みである。
また、射影平面 RP 2 については、次を示した。
定理 2.2.(Li-Yau [4, Theorem 4], cf. [1, 定理 3.12]) 任意の共形はめ込み ι : RP 2 → En
(n ≥ 4) に対し、次の不等式が成り立つ。
W(ι) ≥ 6π.
等号成立は、λ1 = 2 であるような S4 への共形極小はめ込みと立体射影との合成であるときに限る。なお、等号は Veronese 曲面により実現される。
共形不変性を利用して、Bryant [2] では、球面 S2 の E3 への Willmore はめ込み ι :
S2 → E3 を、立体射影の逆写像と合成した S3 への Willmore はめ込み ι : S2 → S3 に置き換えて、論じている。その内、本稿に関連するのは、次の定理である。
定理 2.3.(Bryant [2, Theorem F], cf. [1, p.30]) 任意のWillmore はめ込み ι : S2 → S3
に対し、( ι(S2) が全臍的球面でなければ一意的な)点 y0 ∈ ι(S2) ⊂ S3 と、有理型写像f : S2 → C3 が存在して、次を満たす。(1) ι−1(y0) は S2 の離散集合である。(2) f は ι−1(y0)の各点で一位の極を持ち、立体射影π : S3\y0 → E3に対しπι = Re f
を満たす。(3) ⟨df, df⟩ ≡ 0.
逆に、(2’) f は ι−1(y0) の各点で一位の極を持つ。(3’) ⟨df, df⟩ ≡ 0.
を満たす任意の有理型はめ込み f : S2 → C3 に対し、ι−1(y0) 上も滑らかな Willmore
3
はめ込み ι : S2 → S3 で ι|S2\(ι−1(y0)) = π−1 Re f : S2 \ (ι−1(y0)) → S3 を満たすものが存在する。
すなわち、球面 S2 の S3 への Willmore はめ込みは、E3 内への完備極小はめ込みと立体射影の逆写像との合成によって得られると言うことである。 ここで、ι : S2 → S3 に対し、ι−1(y0)の各点が、極小はめ込みπι : S2\(ι−1(y0)) →E3 の end となる。その個数を k = #(ι−1(y0)) とおくと、次の等式が成り立つ ( cf.
Osserman [7] )。
WS2(ι) = WS2(ρ ι)
=∫S2\D
(H2 −K)dA =∫S2\D
(−K)dA
= 2π(2k − χ(S2)) = 4(k − 1)π.
一方、Gauss-Bonnet の定理より、次の等式が成り立つ。
WS2(ι) =∫S2(H2 −K)dA = W(ι)−
∫S2KdA
= W(ι)− 2πχ(S2) = W(ι)− 4π.
以上より、次を得る。W(ι) = 4(k − 1)π + 4π = 4kπ.
定理 2.4.(Bryant [2, §5]) M = S2 の場合、任意の臨界点 ι に対し、次の不等式が成り立つ。
W(ι) = 4kπ (k ∈ N).
ここで、E3 内への完備極小はめ込みと立体射影の逆写像との合成が、球面 S2 の S3 への Willmore はめ込みに滑らかに拡張されるためには、全ての end が平面型 end でなければならない。そのような極小はめ込みを、構成分類することにより、Bryant [2] は、次の各事実を示した。
定理2.5.(Bryant [2, §5]) WS2(ι) = 0の自明な場合に続き、Willmoreはめ込み ι : S2 →S3 : の 4-パラメーター族で
W(ι) = 16π
を満たすものが存在する。
ここで得られた族は非 compact 族であり、任意の二元は S2 の座標変換でも S3 の共形変換でも写り合わない、本質的に異なるもので構成されている。
4
定理 2.6.(Bryant [2, §5]) 任意の N ≥ 1 に対し、次が成り立つ。
dimι : S2 → S3 | W(ι) = 4(2N + 2)πである Willmore はめ込み
= 4N.
定理 1.2.(再掲)(Bryant [2]) M = S2 のとき、任意の臨界点 ι に対し、次の等式が成り立つ。
W(ι) = 4kπ (k ∈ N \ 2, 3, 5, 7)= 4π, 16π, 24π, 32π, 36π, 40π, . . . .
ここで、C1 級の点を許せば k ∈ 2, 3, 5, 7 も実現可能である。実際、平面型ではなくcatenoid 型の end を持つ極小はめ込みから構成されるものを考えればよい。 ちなみに、射影平面の場合については、Kusner [3] が、次を示している。
定理 2.7.(Kusner [3, Theorem B]) M = RP 2 のとき、次の等式を満たす臨界点 ι が存在する。
W(ι) = 4kπ (k ∈ N; k ≥ 3; k :奇数)
= 12π, 20π, 28π, 36π, . . . .
ここで、定理 2.2 の n ≥ 4 の場合と異なり、n = 3 の場合は 12π が最小値となっている。 ところで、C1 級の点を許さなければ、自明な k = 1 と次の非自明な k = 4 の間に、エネルギーにして 12π もの gap があるのはなぜか? 定理 2.3 を介して、定理 1.2 を示したBryant [2] の構成分類の essence を、flux 公式の逆問題に於ける定式化を利用して、なるべく平易に説明することが、次節の課題である。
3 E3 内の flat-ended な極小曲面
一般に Riemann 面の共形極小はめ込みX : M → E3 は、Enneper-Weierstrass の表現公式を用いて、次の形で表される。
X(z) = Re∫ z
z0
t(1− g2,√−1(1 + g2), 2g)η.
g と η はそれぞれM 上の有理型関数と正則一次微分形式であり、併せてWeierstrass data
と呼ばれる。ここで、この表示が well-defined であるための必要十分条件は、
Re∫C
t(1− g2,√−1(1 + g2), 2g)η = 0 (∀C :M 内の閉曲線),
5
また、得られた曲面が分岐点を持たないための必要十分条件は、η と g2η が共通零点を持たないことである。 特にX :M → E3が、向き付け可能な全曲率有限完備共形極小はめ込みであるとき、あるcompact Riemann 面 M と有限個の点 q1, . . . , qn ∈M が存在して、M =M \ q1, . . . , qnととれることが知られている。この有限個の点 q1, . . . , qn またはそれらの近傍の X による像を、end と呼ぶ。X 自身が埋め込みであるか否かは問わず、n 個の end 全てが埋め込みとなっているような全曲率有限完備共形極小はめ込みX を n-noid と呼ぶ。全曲率有限のとき、埋め込まれた end はその漸近挙動によって、catenoid 型と平面型に分類される。n 個の end 全てが catenoid 型のとき、n-end catenoid と呼び、n 個の end 全てが平面型のとき、flat-ended であると言う。Willmore 曲面に最も関係が深いのは後者である。 一般に極小曲面の end に対し、その周囲を正の向きに一周する閉曲線に沿う単位余法ベクトル場の積分を flux ベクトルと呼ぶ。全曲率有限のとき、埋め込まれた end の flux
ベクトルは、単位法ベクトル場の極限として与えられる limit normal と平行になることが知られている。このことから、n-noid X :M \ q1, . . . , qn → E3 の各 end qj の weight
が、flux ベクトル φ(qj) と limit normal G(qj) を用いて
w(qj) =φ(qj)
4πG(qj)
により定義される。w(qj) = 0 のときが catenoid 型、w(qj) = 0 のときが平面型に対応している。 一般に n-noid X の Weierstrass data は次の形で与えられる。
g(z) =P (z)
Q(z),
η = −Q(z)2dz.
但し、P と Q は、種数 0 の場合、次の形で与えられる有理関数である。P (z) =
n∑j=1
pjbjz − qj
,
Q(z) =n∑
j=1
bjz − qj
.
種数 0 の n-noid X の周期条件は、各 end に関する留数を計算することにより、次の形で表される。
w(qj) =n∑
k=1;k =j
bjbkpk − pjqk − qj
∈ R
w∗(qj) =n∑
k=1;k =j
bjbkpjpk + 1
qk − qj= 0
(j = 1, . . . , n).
特に flat-ended の場合
w(qj) = w∗(qj) = 0 (j = 1, . . . , n)
6
となるので、周期条件は、次のように容易に書き換えられる。
n∑k=1;k =j
bk1
qk − qj= 0
n∑k=1;k =j
pkbk1
qk − qj= 0
(j = 1, . . . , n).
上の条件は、次のことと同値である。
b1b2...
bn
,p1b1p2b2...
pnbn
∈ Ker
01
q2 − q1· · · 1
qn − q11
q1 − q20 · · · 1
qn − q2...
.... . .
...1
q1 − qn
1
q2 − qn· · · 0
.
ここで、非分岐条件より deg g = n− 1 でなければならないので、#p1, . . . , pn ≥ 2 すなわち limit normal が全て一致してしまうことはない。よって、上の核に含まれるべき二つのベクトルは一次独立である。
dim
⟨b1b2...
bn
,p1b1p2b2...
pnbn
⟩
= 2.
従って、
rank
01
q2 − q1· · · 1
qn − q11
q1 − q20 · · · 1
qn − q2...
.... . .
...1
q1 − qn
1
q2 − qn· · · 0
≤ n− 2
でなければならない。 逆に、二つのベクトル
b1b2...
bn
,c1c2...
cn
∈ Ker
01
q2 − q1· · · 1
qn − q11
q1 − q20 · · · 1
qn − q2...
.... . .
...1
q1 − qn
1
q2 − qn· · · 0
が存在して、
dim
⟨b1b2...
bn
,c1c2...
cn
⟩
= 2
7
を満たすならば、pj :=cjbj
(j = 1, . . . , n) とおくことにより、flat-ended な n-noid の
Weierstrass data を得ることができる。 ここまで準備すると、Bryant [2] の結果の中で、4 の倍数次元が出て来る理由を知ることも可能である。実際、
g(z) =P (z)
Q(z),
η = −Q(z)2dz.
が flat-ended な n-noid を実現しているならば、各留数が、
Resz=qj
P (z)2 = Resz=qj
P (z)Q(z) = Resz=qj
Q(z)2 = 0 (j = 1, . . . , n)
のように消えているので、αδ − βγ = 0 である任意の α, β, γ, δ の組に対し、g(z) =
αP (z) + βQ(z)
γP (z) + δQ(z),
η = −(γP (z) + δQ(z))2dz
もまた flat-ended な n-noid を実現することがわかる。但し、これらの内、E3 内の回転または相似拡大を与えているものが実 4 次元分含まれているので、それらで写り合うものを同一視した上で、一つの例から、flat-ended な n-noid の実 4 パラメーター族を得ることになる。もちろん、厳密にはこれだけで、一般に flat-ended な n-noid 全体の空間が4 の倍数次元となることが示されたわけではないことは一応注意しておく。 ところで、一般に n 次交代行列 A に対しては、n が偶数のとき、rank A ≤ n− 2 であることと、detA = 0 であることは同値であり、一方、 n が奇数のときは、detA = 0 は自動的に成立してしまうので、rank A ≤ n− 2 であるための必要十分条件は、A の任意の n− 1 次の小行列 A′ に対し、detA′ = 0 が成り立つことである。 ここで、上で出て来た end の配置によって定まる交代行列について見てみると、まずn = 2 の場合、
det
01
q2 − q11
q1 − q20
= 0
で、これは階数が n− 2 = 0 とはなり得ない。従って、 flat-ended な 2-noid は存在しないことが直ちにわかる。 次に n = 3 の場合であるが、
det
0
1
qj2 − qj11
qj1 − qj20
= 0 (∀j1, j2 ⊂ 1, 2, 3)
で、やはり元の行列の階数が n − 2 = 1 とはなり得ない。従って、 flat-ended な 3-noid
も存在しないことがわかる。
8
ところが、 n = 4 の場合は、
det
01
q2 − q1
1
q3 − q1
1
q4 − q11
q1 − q20
1
q3 − q2
1
q4 − q21
q1 − q3
1
q2 − q30
1
q4 − q31
q1 − q4
1
q2 − q4
1
q3 − q40
= 0
は、矛盾を引き起こすことはなく、但し、q1, q2, q3, q4 は正四面体の頂点の配置と共形でなければならないことが従う。このような配置は end の添え字の入れ替えを許せば、ただ一通りしか存在しないため、既に示した理由から、flat-ended な 4-noid の 4 パラメーター族がただ一つ存在することがわかる。 次に n = 5 の場合、
det
01
qj2 − qj1
1
qj3 − qj1
1
qj4 − qj11
qj1 − qj20
1
qj3 − qj2
1
qj4 − qj21
qj1 − qj3
1
qj2 − qj3
. . .1
qj4 − qj31
qj1 − qj4
1
qj2 − qj4
1
qj3 − qj40
= 0
(∀j1, j2, j3, j4 ⊂ 1, 2, 3, 4, 5)で、今度は 5 個の添え字の内、任意の四ツ組 j1, j2, j3, j4 に対し、qj1 , qj2 , qj3 , qj4 が正四面体の頂点の配置と共形でなければならないことが従う。しかし、このような配置は実現不可能であり、従って、 flat-ended な 5-noid は存在しないことがわかる。
4 向き付け不可能な場合
次に、向き付け不可能な場合についても、見ておくことにする。 一般に、共形構造の与えられた向き付け不可能な曲面 M に対し、向き付け可能な Rie-
mann 面 M による 2 重被覆写像 π : M → M を考える。ここで、写像 I : M → M
で、 π I = π,
∂I = 0,
I2 = idM
を満たすものをとれば、被覆変換かつ反正則対合となる。 X : M → R3, X :M → R3 は共に全曲率有限完備共形極小はめ込みであるとする。Xが X の持ち上げであるとは、
X = X π
9
を満たすことを言うが、これは上の被覆変換を用いると
X I = X
とも表される。 Meeks [5] は、X が X の持ち上げとなるための、X の Weierstrass data (g, η) に関する必要十分条件は
g I = −1
g,
I∗η = −g2ηであることを示した。 特に、M = RP 2 の場合、M := RP 2 \ [q1], . . . , [qn] で、X :M → R3 は全曲率有限完備共形極小はめ込み、X : M → R3 は X の持ち上げとすると、
M = S2 \ q1, . . . , qn, I(q1), . . . , I(qn)
となる。ここで、S2 = C = C ∪ ∞ と同一視するならば、被覆変換として
I(z) = −1
z
をとることになる。 このことを踏まえて、持ち上げ X の Weierstrass data
g(z) =P (z)
Q(z),
η = −Q(z)2dz.
を考えると、 P (z) =
n∑j=1
(pjbjz − qj
+−pj−1bjz + qj−1
),
Q(z) =n∑
j=1
(bj
z − qj+
bjz + qj−1
)で、特に Meeks の判定条件より
g I = −1
g⇐⇒ I∗P
I∗Q= −Q
P
⇐⇒ ∃t s.t. |t| = 1, qj bj = tpjbj (j = 1, . . . , n),
及び
I∗η = −g2η ⇐⇒ −(I∗Q)2 = (zP )2
⇐⇒ ±√−1I∗Q = zP
⇐⇒ qj bj = ±√−1pjbj (j = 1, . . . , n).
を得る。後者は前者を満たすので、結局、必要十分条件は後者と言うことになる。 この条件の下で探せば、Kusner [3] の例も得られる。具体的な data については、原論文または安藤氏の講義録 [1, §3.3, p.25] を参照されたい。
10
5 E4 内の Willmore 球面
最後に、Bryant [2] の上述の結果の、Montiel [6] による 4 次元への一般化についても見ておきたい。ここでも、球面 S2 の E4 への Willmore はめ込み ι : S2 → E4 の代わりに、立体射影の逆写像と合成した S4 への Willmore はめ込み ι : S2 → S4 について論じられているが、敢えて書き直さないことにする。
定理 4.1.([6, Theorem 5]) 任意の Willmore はめ込み ι : S2 → S4 に対し、少なくとも次のいずれかが成り立つ。(1) ι は flat-ended な E4 内の k-noid と立体射影の逆写像との合成である。(2) ι または −ι がCP 3 内の有理曲線と Penrose twistor fibration CP 3 → S4(= HP 1) との合成である。
定理 4.2.([6, Theorem 6]) W の任意の臨界点 ι : S2 → S4 に対し、次が成り立つ。
W(ι) = 4kπ (k ∈ N)
特に ιがWhitney自己交点数 q ∈ Zにより定まる regular homotopy類に属するWillmore
はめ込みのとき、次が成り立つ。
W(ι) = 4π(1 + |q|+ n) (n ∈ N ∪ 0)
ここで、最小値 4π(1 + |q|) をとるのは、定理 4.1 (2) で 1 + |q| 次の有理曲線の場合に限る。
定理 4.1 (1) が 3 次元と共通する場合であるが、4 次元の場合は定理 4.1 (2) の場合が加わるので、[6, Corollary 8] にあるように、3 次元の場合 8π, 12π にあった gap は補完される。但し、その記述には若干の誤解が含まれているようである。
参考文献
[1] 安藤直也: Willmore 予想および Willmore 曲面について山口大学大学院理工学研究科集中講義, 山口大学理学部.
[2] R. Bryant: A duality theorem for Willmore surfaces. J. Differ. Geom., 20, (1984),
23-53.
[3] R. Kusner: Conformal geometry and complete minimal surfaces. Bull. Amer. Math.
Soc., 17, (1987), 291-295.
[4] P. Li and S. T. Yau: A new conformal invariant and its applications to the Willmore
conjecture and the first eigenvalue of compact surfaces. Invent. Math., 69, (1982),
269-291.
11
[5] W. Meeks III: The classification of complete minimal surfaces in R3 with total cur-
vature greater than −8π. Duke Math. J., 48, (1981), 525-535.
[6] S. Montiel: Willmore two-spheres in the four-sphere. Trans. Amer. Math. Soc., 352,
(2000), 4469-4486.
[7] R. Osserman: A survey of minimal surfaces, 2nd ed. Dover Publications, New York,
1986.
[8] T. J. Willmore: Note on embedded surfaces. Ann. Sti. Univ. Iasi, Ia. Mat., (1965),
493-496.
[9] T. J. Willmore: Mean curvature of immersed surfaces. Ann. Sti. Univ. Iasi, Ia. Mat.,
(1968), 99-103.
12
Euclid空間内の部分多様体の反転による像のコンパクト化について
安藤 直也 (熊本大学)
はじめに
E3 内の連結, 完備な極小曲面 S で有限の全曲率およびうめこまれたエンドを持つもの
に対し, S のエンドが平坦であるならばE3 \ S の点を中心とする球面に関する反転 X に
よる S の像 X(S) のコンパクト化 X(S) は滑らかな (C∞ 級)曲面であり, S のエンドが
平坦でないならば X(S) は C1 級ではあるがC2 級ではない ([2]). 以上の結果とWillmore
曲面上に定義される正則 4 次微分 Φ の性質を踏まえて, コンパクトなWillmore曲面でそ
の上の正則 4 次微分 Φ が恒等的に零であるものはちょうど平坦なエンドを持つ極小曲面
によって与えられることがわかる ([2]). このことから特にWillmore球面の特徴づけを得
ることができる. このようにWillmore曲面に関する議論の中に E3 内の極小曲面のエン
ドについての考察が現れる. 本稿の目的は冒頭に記した平坦なエンドを持つ極小曲面の反
転による像に関する結果を C2 級部分多様体に関して一般化したものとみなせる結果を紹
介することである. M は N 次元 Euclid空間 EN (但し N 3)内の連結, 完備, 非コン
パクトな C2 級部分多様体で, そのエンドは有限個のみ存在しかつ各エンドはうめこまれ
ているとする. さらに M 上で無限遠点に近づく際の M の第二基本形式 B のノルム |B|の減衰に関する次の条件が満たされると仮定する: 正数 c0 および正数 ε が存在して, 任
意の x ∈M に対して EN の原点と x の間の距離 |x| および |B| が |x|2+ε|B| c0 を満た
す. このとき EN \M の点を中心とする超球面に関する反転 X による M の像 X(M) の
コンパクト化 X(M) は C2 級部分多様体である ([3]). 冒頭の S のエンドが平坦であるな
らば S は ε = 1 に対し上述の条件を満たし, S のエンドが平坦ではないならば S はいか
なる正数 ε に対しても上述の条件を満たさない.
なお, [1] の 3.4節において冒頭の結果の解説がなされているが, その中でまず行なわれ
ている連結, 完備な極小曲面が無限遠点で正則であることの定義は不十分であり, その定
義に基づいてその後の議論をきちんと行なうことはできない. そこで本稿の付録において,
[1] の 3.4節における無限遠点で正則であることの定義を書き換え, そして書き換えられた
ものに基づいて [1] の定理 3.14および定理 3.15の証明を与える.
本稿作成の機会および本稿で扱われた内容を講演する機会を与えて下さった山口大学の
中内伸光先生, および [3] に関する様々な助言を与えて下さった東京理科大学の榎本一之
先生に心から感謝の意を表します.
1
1 準備
1.1 Euclid空間内の連結, 完備, 非コンパクトかつproperな部分多様体
N を 3 以上の整数とし, M を EN にはめこまれた連結, 完備かつ非コンパクトな C2
級部分多様体とする. 正数 R に対し
B(R) := x ∈ EN | |x| < R, S(R) := x ∈ EN | |x| = R
とおき, M(R) := M \ B(R) とおく. M は EN に properにはめこまれているとする: 十
分大きな R に対し,
• 可微分多様体としての M の位相に関する M(R) の連結成分の数は有限であり,
• その数を q で表し, 連結成分を M1(R), M2(R), . . . ,Mq(R) で表すとき, 各 Mλ(R)
は EN にうめこまれている.
各 Mλ(R) を M のエンドという. M は完備なので, ∂Mλ(R) := Mλ(R)∩ S(R) はコンパ
クトである.
M の点 xでの EN の接空間 Tx(EN )は,その部分空間とみなされるM の接空間 Tx(M)
およびその直交補空間 Tx(M)⊥ の直和で表される. 従って Tx(EN )の元 V は V = V +V ⊥
と一意に表される,但し V ∈ Tx(M), V ⊥ ∈ Tx(M)⊥ である. Dを EN のLevi-Civita接続
に関する共変微分作用素とする. このとき M の第二基本形式 B は B(V,W ) := (DVW )⊥
で与えられる, 但し V , W は M 上のベクトル場である (もちろん, B はテンソル場であ
るので, 実際には V , W は M の 1 点での接ベクトルであればよい). r は M 上の関数で,
x ∈ M に対し r(x) は EN の原点と x の間の距離 |x| で与えられるとする. 以下, M は
EN の原点 o を含まないとする. このとき r は M 上で滑らかである. 本稿においては r
を EN における M 上の距離関数と呼ぶことにする. ∇r を EN からの誘導計量に関す
る距離関数 r の勾配ベクトル場とし, |∇r| を ∇r の長さとする.
1.2 部分多様体の反転による像
X を EN \M の点を中心とする超球面に関する反転とする. 次節以降, X(M) のコン
パクト化 X(M) の滑らかさを議論するが, そのための準備として X(M) 上に現れるもの
と M 上に現れるものの関係を以下に記したい. 簡単のため, X を EN の原点 o を中心と
する単位超球面に関する反転とする. このとき x ∈ EN \ o に対し, X(x) = x/r(x)2 が
成り立つ. そして V ∈ Tx(EN) に対し,
dX(V ) =1
r(x)2V − 2
r(x)4〈x, V 〉x (1.1)
2
が成り立つ, 但し 〈 , 〉 は EN の計量である. (1.1) を用いて, V , W ∈ Tx(EN ) に対し
〈dX(V ), dX(W )〉 =1
r(x)4〈V,W 〉 (1.2)
を得る.
以下, M := X(M) とし, また x := X(x) とする. V ∈ Tx(EN) の長さは 1 であるとす
ると, V := r(x)2dX(V ) の長さも 1 である. また V ∈ Tx(M) ならば V ∈ Tx(M) であり,
V ∈ Tx(M)⊥ ならば V ∈ Tx(M)⊥ である. 次の補題は B と M の第二基本形式 B の関
係式を与える.
補題 1.1 ([3]) V , W ∈ Tx(M) に対し,
B(V , W ) = r2dX(r2B(V,W ) + 2〈V,W 〉x⊥),
但し x ∈ M を EN の原点を始点とし xを終点とするベクトルと同一視し, さらに Tx(EN)
の元とみなすことによって x⊥ ∈ Tx(M)⊥ を考える.
証明 V , W を M 上のベクトル場とするとき, 次を得る:
DV W = Dr2dX(V )dX(r2W )
= r2DV
(W − 2
r2〈x,W 〉x
)
= r2DVW + 4〈x, V 〉r2
〈x,W 〉x− 2〈V,W 〉x− 2〈x,DVW 〉x− 2〈x,W 〉V
= r4
(1
r2DVW − 2
r4〈x,DVW 〉x
)
− 2r2〈x,W 〉(
1
r2V − 2
〈x, V 〉r4
x
)+ 2r2〈V,W 〉
(− 1
r2x
)
= r4dX(DVW ) − 2r2〈x,W 〉dX(V ) + 2r2〈V,W 〉dX(x).
この最右辺と最左辺の法成分を見ることで, 補題 1.1を得る.
r を EN における M 上の距離関数とする: r(x) := |x|. このとき r(x) = 1/r(x) が成り
立つ. よって x = X(x) = x/r(x)2 および (1.2) から, EN からの誘導計量に関する r の勾
配ベクトル場 ∇r は
∇r = r4dX
(∇(
1
r
))= −r2dX(∇r) (1.3)
と表されることがわかる.
3
2 反転による像の C1 コンパクト化
実数 α に対し, M が条件 P (α)を満たすとは, 正数 c0 が存在して B のノルム |B| がM 上で rα|B| c0 を満たすときにいう. o /∈M を仮定するとき, M が条件 P (α) を満た
すならば, α より小さい実数 β に対し M は条件 P (β) を満たす. 本節の目的は, 本稿の
主定理である定理 3.1と類似の形をした次の定理を証明することである.
定理 2.1 ([3]) ある正数 ε に対して, M が条件 P (1 + ε) を満たすとする. このとき
EN \M の点を中心とする超球面に関する反転 X による M の像 X(M) のコンパクト化
X(M) は EN にはめこまれたC1 級部分多様体である.
定理 2.1を証明するために幾つかの補題を必要とする. M の反転 X による像 M =
X(M) を考察する前に, まず M そのものに関する補題を挙げる.
補題 2.2 ([4]) ある正数 ε に対し, M が条件 P (1+ ε) を満たすとする. このとき正数 c1,
R1 が存在して, M(R1) 上で |∇r| 1/c1 が成り立つ.
証明 f を M の 1 点 x0 の EN における近傍上の滑らかな関数とする. このとき V ,
W ∈ Tx0(M) に対し
∇2f(V,W ) = D2f(V,W ) + 〈B(V,W ), (Df)⊥〉 (2.1)
が成り立つ, 但し Df , D2f はそれぞれ EN の計量に関する f の勾配ベクトル場および
Hessianであり∇2f は M 上の EN からの誘導計量に関する f のHessianである. EN 上
の関数 r を r(x) := |x| (x ∈ EN )で定め, f として f := r2 をとると, (2.1) を用いて
∇2r2(V, V ) 2(1 − c0r−ε)|V |2 (2.2)
を得る. よって十分大きな Rに対してMλ(R)上の関数 r2が臨界点を持つならば,それらの
いずれの点においても rは極小値をとる. 従ってさらに大きな R1に対し, Mλ(R1)上の関数
r2は臨界点を持たない. よって |∇r| = 0が成り立つ. Mλ(R1)上のベクトル場 (1/|∇r|2)∇rの積分曲線 γ のパラメーターとして r を採用することができ dγ(d/dr) = (1/|∇r|2)∇r が成り立つことに注意すると, V := (1/|∇r|)∇r に対し
∇2r2(V, V ) =1
|∇r|2 〈∇∇r∇r2,∇r〉
=2
|∇r|2 〈|∇r|2∇r + r∇∇r∇r,∇r〉
= 2|∇r|2 + rd
dr|∇r|2
(2.3)
4
を得る. (2.2) が成り立つので, Mλ(R1) 上で ∇2r2(V, V ) 1 を仮定してよい. ある
R R1 に対し ∂Mλ(R) のある点で |∇r| < 1/√
2 が成り立つとする. このとき (2.3) か
ら, d|∇r|2/dr > 0 がわかる. よって |∇r| の ∂Mλ(R1) における最小値と 1/√
2 の小さい
方を 1/c1 と表すとき, M(R1) 上で |∇r| 1/c1 が成り立つ. よって補題 2.2を得る.
補題 2.3 ([5]) ある正数 ε に対して, M が条件 P (1 + ε) を満たすとする. このとき任意
の δ < minε, 1 に対し, limr→∞
r−1+δ|x⊥| = 0.
証明 まず x ∈ M での r の勾配ベクトル Dr について, Dr = ∇r + (1/r)x⊥ = (1/r)x
が成り立つ. よって
|x⊥|2r2
= 1 − |∇r|2 (2.4)
が成り立つ. また M(R1) 上で |∇r| = 0 が成り立つので, (2.1) を用いて
d
dr(r2(1 − |∇r|2)) = 2r(1 − |∇r|2) − 2r2
|∇r|2 〈∇∇r∇r,∇r〉
=2r2
|∇r|2 (〈D∇rDr,∇r〉 − ∇2r(∇r,∇r))
= −2r2
⟨B
( ∇r|∇r| ,
∇r|∇r|
),1
rx⊥⟩
を得る. よって (2.4) を用いて, ある正数 c′ が存在して十分大きな r に対し∣∣∣∣d|x⊥|dr
∣∣∣∣ < c′
rε
が成り立つことがわかる. よって δ < minε, 1 に対し, limr→∞
r−1+δ|x⊥| = 0 を得る. よっ
て補題 2.3を得る.
補題 2.4 ある正数 ε に対して, M が条件 P (1 + ε) を満たすとする. このときある正数
c2 に対し, 次が成り立つ: 任意の正数 h に対しある R > R1 が存在して, 任意の t R お
よび ∂Mλ(t) の任意の 2 点 x1, x2 に対し, ∂Mλ(t) 内の x1, x2 を端点とするある曲線 C
の長さ l(C) が l(C) c2t1+h を満たす.
注意 十分大きな t に対し, ∂Mλ(t) は弧状連結である.
補題 2.4の証明 [5]の補題 6の証明を参考にして,補題 2.4の証明を以下に記したい. まず
補題 2.3から,任意の正数 hに対しある R > R1 が存在してMλ(R)上 |∇r|2 > 1/(1+h/2)
が成り立つことがわかる. 各 x ∈ ∂Mλ(R) に対し, γx は (1/|∇r|2)∇r の積分曲線で x を
通るとする. 開区間 I に対し, β : I −→ ∂Mλ(R) を ∂Mλ(R) 内の曲線とし, s を β の弧
5
長パラメーターとする. (r, s) ∈ (R,∞) × I に対し, α(r, s) := γβ(s)(r) とおく. このとき
α : (R,∞) × I −→ Mλ(R) は滑らかであり, W := dα(∂/∂s) に対して
∂
∂r|W |2 = − 2
|∇r|2 〈∇r,∇WW 〉 =1
r|∇r|2∇2r2(W,W ) (2.5)
が成り立つ. よって (2.2), (2.5) および limr→R+0
|W | = 1 を用いて, |W | = 0 を得る. よって
(2.1) を用いて, 次を得る:
∂
∂rlog |W | =
∇2r(W,W )
|∇r|2|W |2 =1
|∇r|2(
1
r+
⟨B
(W
|W | ,W
|W |),x⊥
r
⟩).
よって十分大きな R > R1 に対し, Mλ(R) 上 |∂ log |W |/∂r| < (1 + h)/r を得る. よって
|W |(r, s)/|W |(R, s) < (r/R)1+h がわかり, これを用いて補題 2.4を得る.
以上の補題を用いて, M の反転による像についての以下の補題を得ることができる.
補題 2.5 ([3]) ある正数 ε に対して, M が条件 P (1 + ε) を満たすとする. このときある
δ ∈ (0, 1) に対し, r1−δ|B| は M 上有界である.
証明 V , W ∈ Tx(M) を単位ベクトルとするとき, (1.2) および補題 1.1を用いて
|B(V , W )|2 = |r2dX(r2B(V,W ) + 2〈V,W 〉x⊥)|2
= |r2B(V,W ) + 2〈V,W 〉x⊥|2
(r2|B| + 2|x⊥|)2
を得る. よって δ ∈ (0,minε, 1), ある正数 c′ および十分小さい r に対して
r1−δ|B| c′r1−δ(r2|B| + 2|x⊥|) < c′(r1+ε|B| + 2r−1+δ|x⊥|) (2.6)
が成り立つので, ε > 0 に対し M が条件 P (1 + ε) を満たすならば補題 2.3および (2.6)
を用いて r1−δ|B| は M 上有界であることがわかる.
Mλ := X(Mλ(R1)) とおく.
補題 2.6 ある正数 ε に対して, M が条件 P (1+ε) を満たすとする. このときある正数 c3
が存在して, 次が成り立つ: 任意の正数 h に対しある R > R1 が存在して, B(1/R) ∩ Mλ
の任意の 2 点 x1, x2 に対し Mλ 内の x1, x2 を端点とするある曲線 C の長さ l(C) が
l(C) c3/R1−h を満たす.
証明 [3] の補題 2.3の証明を参考にして, 補題 2.6の証明を以下に記したい. 補題 2.2に
よると, Mλ(R1) 上で ∇r は零にはならない. このことと (1.3) を用いて, Mλ 上で ∇r は
6
零にはならないことがわかる. i = 1, 2 および xi ∈ B(1/R) ∩ Mλ に対し, γi は Mλ 上の
ベクトル場 (1/|∇r|2)∇r の積分曲線で xi を通るとする. γi のパラメーターとして r を採
用することができ, さらに dγi(d/dr) = (1/|∇r|2)∇r がわかる. (1.2) および (1.3) を用い
て |∇r| = |∇r| がわかり, これと補題 2.2を用いて Mλ 上 |∇r| 1/c1 がわかる. よって
yi := γi(1/R) とおくと, xi, yi の間の γi の長さ l(γi; xi ∼ yi) は
l(γi; xi ∼ yi) <
∫ 1/R
0
∣∣∣∣dγi(d
dr
)∣∣∣∣ dr =
∫ 1/R
0
1
|∇r|dr ∫ 1/R
0
c1dr =c1R
(2.7)
を満たす. また (1.2)および補題 2.4を用いて, 任意の正数 hに対しある R > R1 が存在し
て S(1/R)∩ Mλ 内の y1, y2 を端点とするある曲線 C ′ の長さ l(C ′) が l(C ′) c2/R1−h を
満たすことがわかる. 従って c3 := 2c1 + c2 とおきまた Mλ 内の x1, x2 を端点とする曲線
C を γ1 による像, C ′ および γ2 による像の和とすると, C の長さ l(C) は l(C) c3/R1−h
を満たす.
定理 2.1の証明を行なうために, EN の部分多様体に対して定義されるGauss写像に関
する必要事項を記したい. nをM および M の次元とする. RN(N−n) の元を RN の N−n個の元の組で表す. RN における全ての順序づけられた正規直交 N − n 枠からなる集合
を VN,N−n(R) で表す:
VN,N−n(R) := (e1, . . . , eN−n) ∈ RN(N−n) | 〈ei, ej〉 = δij
(〈 , 〉 は RN の自然な内積である). VN,N−n(R) はRN(N−n) の部分多様体である (Stiefel
多様体). 従って RN(N−n) の自然な計量を VN,N−n(R) 上に誘導することで, VN,N−n(R)
を Riemann多様体とみなすことができる. N 次直交群 O(N) は VN,N−n(R) に推移的
に作用し, また O(N) の各元は VN,N−n(R) の等長変換を定める. 従って VN,N−n(R) は
Riemann等質空間であり, VN,N−n(R) = O(N)/(IN−n × O(n)) と表される, 但し IN−n
は O(N − n) の単位元である N − n 次単位行列 である.
N − n 次直交群 O(N − n) は VN,N−n(R) に作用する: T = (tij) ∈ O(N − n) および
e = (e1, . . . , eN−n) ∈ VN,N−n(R) に対し
eT :=
(N−n∑k=1
tk1ek, . . . ,
N−n∑k=1
tkN−nek
)
は RN における正規直交 N − n 枠であるので, eT ∈ VN,N−n(R) である; O(N − n) の単
位元 IN−n は eIN−n = e を満たす; T , T ′ ∈ O(N −n) に対し, e(TT ′) = (eT )T ′. O(N −n)
の VN,N−n(R) への作用は自由である, つまり任意の e ∈ VN,N−n(R) における O(N − n)
の固定群は単位元のみからなる. VN,N−n(R) の各元を通る O(N −n) の軌道は VN,N−n(R)
の部分多様体である. 各 T ∈ O(N − n) は VN,N−n(R) の等長変換を定め, さらに T は
O(N − n) の各軌道の等長変換を定める.
7
軌道空間 VN,N−n(R)/O(N − n) をRN の全ての n 次元部分空間からなる集合Gn(RN)
と自然に同一視できる: π は VN,N−n(R) からGn(RN) への写像で各 e = (e1, . . . , eN−n)
に対し e1, . . . , eN−n の全てに直交する RN の部分空間を対応させるとき, π は全射であ
りかつ Gn(RN ) の各元の π による逆像はちょうど VN,N−n(R)/O(N − n) の一つの元で
ある. また Gn(RN) は自然にRiemann等質空間O(N)/(O(N − n)×O(n)) とみなされる
(Grassmann多様体). このとき π は可微分多様体である VN,N−n(R) から可微分多様体で
ある Gn(RN ) = O(N)/(O(N − n) × O(n)) への可微分写像である. また e ∈ VN,N−n(R)
に対し V ∈ Te(VN,N−n(R)) が e を通る O(N − n) の軌道に直交するとき, 可微分写像 π
の微分 dπ による V の像 dπ(V ) のGn(RN) の計量に関する長さは V の長さに等しい.
M の 1 点 x の M における近傍 U 上定義された EN における単位法ベクトル場
ξ1, . . . , ξN−n で 〈ξi, ξj〉 = δij を満たすものをとる. このとき組 (ξ1, . . . , ξN−n) は U から
VN,N−n(R) への写像 F を定める. EN の部分多様体である M のGauss写像 G は U 上
で G = π F と表される. このとき V ∈ Tx(M) に対し, dG(V ) = dπ(DV ξ1, . . . , DV ξN−n)
が成り立つ. Ai を単位法ベクトル場 ξi に関する M の型 (形)作用素とすると, F (x) を通
る O(N −n) の軌道への (DV ξ1, . . . , DV ξN−n) の法成分は (−A1(V ), . . . ,−AN−n(V )) で与
えられる. よって, g を Gn(RN ) のRiemann計量とするとき, V , W ∈ Tx(M) に対し
g(dG(V ), dG(W ))
= g(dπ(DV ξ1, . . . , DV ξN−n), dπ(DW ξ1, . . . , DW ξN−n))
= g(dπ(−A1(V ), . . . ,−AN−n(V )), dπ(−A1(W ), . . . ,−AN−n(W )))
=N−n∑i=1
〈Ai(V ), Ai(W )〉
=
n∑k=1
〈B(V , Ek), B(W , Ek)〉
(2.8)
が成り立つ, 但し E1, . . . , En は Tx(M) の正規直交基底である.
定理 2.1の証明 補題 2.6によると, h ∈ (0, δ)に対しある R > R1 が存在して, B(1/R)∩Mλ の任意の 2 点 x1, x2 に対し, Mλ 内の x1, x2 を端点とするある曲線 C の長さ l(C) が
l(C) c3/R1−h を満たす, 但し δ は補題 2.5に現れるものである. 補題 2.6の証明におい
て, C は γ1 による像, C ′ および γ2 による像の和で与えられた. (2.7) を参考にし補題 2.5
および (2.8) を用いて, G(xi), G(yi) の間の G γi の長さ l(G γi; G(xi) ∼ G(yi)) は
l(G γi; G(xi) ∼ G(yi)) < c′∫ 1/R
0
|B|dr < c′′∫ 1/R
0
rδ−1dr =c′′
δRδ(2.9)
8
を満たすことがわかる, 但し c′, c′′ は正の定数である. また補題 2.5および (2.8) を用い
て, G(C ′) の長さ l(G(C ′)) について
l(G(C ′)) c′′′
Rδ−h (2.10)
を得る, 但し c′′′ は正の定数である. (2.9) および (2.10) から, G(C) の長さ l(G(C)) は
l(G(C)) < (2c′′/δ + c′′′)/Rδ−h を満たすことがわかる. よって Gn(RN) の元 p0 が存在し
て, p0 の Gn(RN ) における任意の近傍 U に対しEN の原点 o の Mλ ∪ o におけるある
近傍 U が G(U \ o) ⊂ U を満たすことがわかる. よって M のGauss写像 G を Mλ 上
で o まで連続に拡張できることがわかる. よって定理 2.1を得る.
9
3 反転による像の C2 コンパクト化
本節の目的は, 本稿における主定理である次の定理を証明することである.
定理 3.1 ([3]) ある正数 ε に対して, M が条件 P (2 + ε) を満たすとする. このとき
EN \M の点を中心とする超球面に関する反転 X による M の像 X(M) のコンパクト化
X(M) は EN にはめこまれたC2 級部分多様体である.
定理 3.1を証明するために, 前節までの結果に加えて以下の二つの補題を必要とする.
補題 3.2 ([3]) ある正数 ε に対して, M が条件 P (2 + ε) を満たすとする. このとき各
エンド Mλ(R1) 上 x⊥ を無限遠点まで連続に拡張できる: ある ξλ ∈ RN が存在して,
x ∈Mλ(R1) に対し |x| −→ ∞ のとき x⊥ −→ ξλ.
証明 x ∈M(R1), V , W ∈ Tx(M) および ξ ∈ Tx(M)⊥ に対し,
〈DV x⊥,W 〉 = −〈B(V,W ), x⊥〉, 〈DV x
⊥, ξ〉 = −〈B(V, x), ξ〉
が成り立つ. よって
|DV x⊥| c|B||V |r cc0r
−1−ε|V | (3.1)
を得る, 但し c は正の定数である. R > R1 および y ∈ ∂Mλ(R) に対し, γy は Mλ(R1) 上
のベクトル場 (1/|∇r|2)∇r の積分曲線で, y を通るとする. γy のパラメーターとして r を
採用することができ, そして dγy(d/dr) = (1/|∇r|2)∇r が成り立つ. ξ(r) := γy(r)⊥ とお
く. このとき補題 2.2および (3.1) を用いて,∣∣∣∣dξdr∣∣∣∣ =
∣∣∣∣∣dγ⊥y
dr
∣∣∣∣∣ = |Dd/drx⊥|γy | cc0
1
r1+ε
1
|∇r| cc0c11
r1+ε(3.2)
を得る. よって (3.2) を用いて,
|ξ(r) − ξ(R)| =
∣∣∣∣∫ r
R
dξ
drdr
∣∣∣∣ c′∫ r
R
∣∣∣∣dξdr∣∣∣∣ dr cc′c0c1
ε
(1
Rε− 1
rε
)(3.3)
を得る, 但し c′ は正の定数である. (3.3) から, ある ξy ∈ RN が limr→∞
ξ(r) = ξy を満たすこ
とがわかる. さらに, ξy は y ∈ ∂Mλ(R) の選び方に依らない: 任意の正数 η および任意の
y1, y2 ∈ ∂Mλ(R) に対し, |ξy1 − ξy2| < η が成り立つ. これを示すために, まず
|ξy1 − ξy2| |ξy1 − γy1(R)⊥| + |γy1(R)⊥ − γy2(R)⊥| + |γy2(R)⊥ − ξy2 | (3.4)
に着目する. 十分大きな R に対し
|ξyi− γyi
(R)⊥| < η
3(3.5)
10
がわかる. また補題 2.4によると, ある正数 c2 が存在して次が成り立つ: h ∈ (0, ε) に対
しある R > R1 が存在して任意の t R および ∂Mλ(t) 内の y1, y2 を端点とするある曲
線 C の長さ l(C) が l(C) c2t1+h を満たす. s を C の弧長パラメーターとすると, (3.1)
を用いて十分大きな R に対し
|γy1(R)⊥ − γy2(R)⊥| c′′∫C
∣∣∣∣dx⊥ds∣∣∣∣ ds cc′′c0c2R−ε+h <
η
3(3.6)
がわかる, 但し c′′ は正の定数である. よって (3.4), (3.5) および (3.6) から, |ξy1 − ξy2| < η
を得る.
定理 2.1によると X(M) は C1 級部分多様体であるので, 各 λ に対し Mλ ∪ o 上で特に o の近傍上で連続なベクトル場を考えることができる.
補題 3.3 ([3]) ある正数 ε に対して, M が条件 P (2 + ε) を満たすとする. このとき
Mλ ∪ o における o の近傍 U 上の連続なベクトル場 V , W に対して, U \ o 上定義されている B(V , W ) を o まで連続に拡張することができる.
証明 (1.1) および補題 1.1を用いて,
B(V , W ) = r4dX(B(V,W )) + 2〈V,W 〉x⊥ − 4〈V,W 〉 |x⊥|2r2
x (3.7)
を得る. (1.2) を用いて, r → ∞ のとき (3.7) の右辺第1項は零に近づくことがわかる. ま
た補題 2.3を用いて, r → ∞ のとき (3.7) の右辺第3項は零に近づくことがわかる. よっ
て (1.2), 補題 3.2および (3.7) から, 補題 3.3を得る.
定理 3.1の証明 各 λ に対し, Rn の原点の近傍 U 上定義された N − n 個の関数 fα
(α = n+ 1, . . . , N)が存在して, Mλ ∪ o における o の近傍 U は U から EN への写像
(x1, . . . , xn) −→ (x1, . . . , xn, fn+1(x1, . . . , xn), . . . , fN(x1, . . . , xn))
による U の像として表されると仮定してよい. fα(0, . . . , 0) = 0 とすると, fα は U 上
で C1 級でありそして U \ (0, . . . , 0) 上 C2 級である. (∂fα/∂xi)(0, . . . , 0) = 0 を仮定
してよい (i = 1, . . . , n, α = n + 1, . . . , N). α = n + 1, . . . , N に対し, EN の元 Eα を
Eα := (δα1, . . . , δαN)とおく (δαβ はKroneckerのデルタである). このとき Mλ∪oの EN
における o での法空間はEn+1, . . . , EN を基底として持つ. 補題 3.3において V := ∂/∂xi,
W := ∂/∂xj とおくことができる (i, j = 1, . . . , n) ので, ∂2fα/∂xi∂xj の (x1, . . . , xn) =
(0, . . . , 0) における極限が存在することがわかる. このことを用いて, U \ (0, . . . , 0) 上の C2 級関数である fα は U 上で C2 級であることがわかる.
11
A 付録: E3 内の連結, 完備な極小曲面の反転による像のコ
ンパクト化
E3 内の連結かつ完備な極小曲面 S が無限遠点で正則であるとは, S のコンパクト集
合 T が存在して次を満たすときにいう:
(i) S \ T の連結成分の個数は有限である (S の位相は可微分多様体としての S のもの
であり, E3 に対する相対位相ではない);
(ii) S \ T の各連結成分 Σ (S のエンド)に対し, E3 内のある平面 P および P の有界領
域 D が存在して Σ は P \D 上の滑らかな関数 f のグラフである;
(iii) (x, y) を P 上の直交座標系とするとき, f は次のように表される:
f(x, y) = a log(x2 + y2
)+ ψ
(x
x2 + y2,
y
x2 + y2
), (A.1)
但し a は実数であり ψ は R2 における (0, 0) の近傍上定義された実解析的関数で
ある.
注意 (A.1) の右辺は [1] の 3.4節でのものよりも具体的に記されている.
上述の定義を踏まえて, 次の定理 ([1] の定理 3.14の記述と全く同じもの) の証明を記し
たい.
定理 A.1 ([7]) S を E3 内の連結かつ完備な極小曲面とする. このとき次の (a), (b) は
同値である:
(a) S は無限遠点で正則である;
(b) S の全曲率は有限でありかつ S の任意のエンドはうめこまれている.
証明 まず (A.1) を用いて, (a) から (b) がわかる. 以下においては, (b) を仮定し (a) を
示したい. [6, p. 82] の補題 9.5によると,
• E3 内の連結, 完備で向きづけ可能な極小曲面 S が有限の全曲率を持つならば, コン
パクトなRiemann面 S, S の有限個の点 p1, p2, . . . , pk および S \ p1, . . . , pk からS の上への共形な微分同相写像 F が存在し,
• S \ p1, . . . , pk 上の有理型関数とみなされる S のGauss写像は S 上のある有理型
関数の S \ p1, . . . , pk への制限である.
12
このとき S の任意のエンドがうめこまれているということは, 各 pl の S における近傍 Ol
が存在してF (Ol\pl)が E3 にうめこまれているということである. F |Ol\pl を Ol\pl上の三つの 1 価関数 x1, x2, x3 の組で表す. w をRiemann面 S の点 pl の近傍上の複素
座標とし, w = 0 が pl に対応するとする. このとき φi := ∂xi/∂w は Ol \ pl 上の正則関数であり, さらに [6, p. 85] の定理 9.3の証明を参考にすることで φi は Ol 上で pl まで
有理型関数として拡張されることがわかる. F (Ol \ pl) は E3 にうめこまれているので,
pl が φi の極であるならば極 pl の位数は高々 2 である. さらに, E3 の座標変換を行なう
ことで, pl が φ3 の極であるならば極 pl の位数は 1 であるようにできる (このとき, S に
おいて pl に近づく点 p に対し, S のGauss写像による F (p) の像は (0, 0, 1) に近づく).
よって φ21 + φ2
2 + φ23 ≡ 0 を用いて, また E3 の座標変換を第 1 座標および第 2 座標に関
してのみ行ないそして複素座標の変換を行なうことで, φi の pl での Laurent展開は
φ1(w) = − α
w2+ f1(w), φ2(w) = −
√−1α
w2+ f2(w), φ3(w) =
2γ
w+ f3(w) (A.2)
と表されると仮定してよい, 但し α ∈ R \ 0, γ ∈ R でありまた fi は正則関数である.
よって, w を w = u+√−1v と表し xi を Ol \ pl 上の u, v の関数とみなすとき, Ol 上
の u, v の調和関数 h1, h2, h3 が存在して
x1(u, v) = αu
u2 + v2+ h1(u, v),
x2(u, v) = αv
u2 + v2+ h2(u, v),
x3(u, v) = γ log(u2 + v2) + h3(u, v)
(A.3)
が成り立つ. Xi := xi/(x21 + x2
2), h := h1 −√−1h2 とおくと,
X1 +√−1X2 =
w
α+ wh(A.4)
が成り立つので, X1, X2 は R2 における (0, 0) の近傍上定義された u, v の実解析的関数
であり,
X1(0, 0) = 0, X2(0, 0) = 0,∂(X1, X2)
∂(u, v)= 0
を満たす. 従って R2 における (0, 0) の近傍上定義された 2 変数の実解析的関数 U , V が
存在して
u = U(X1, X2), v = V (X1, X2),
∂U
∂X1(0, 0) =
∂V
∂X2(0, 0) = α,
∂U
∂X2(0, 0) =
∂V
∂X1(0, 0) = 0
を満たす. よって x3 を R2 における有界閉集合の補集合上の x1, x2 の実解析的関数とみ
なすことができる. (A.4) から
w =α(X1 +
√−1X2)
1 − (X1 +√−1X2)h(U(X1, X2), V (X1, X2))
(A.5)
13
を得るので, (A.5) を (A.3) の第3式に代入しXi = xi/(x21 + x2
2) を用いることで,
x3(x1, x2) = −γ log(x21 + x2
2) + ψ
(x1
x21 + x2
2
,x2
x21 + x2
2
)(A.6)
を得る, 但し ψ は R2 における (0, 0) の近傍上定義された実解析的関数である. (A.6) に
おいて x := x1, y := x2, f := x3, a := −γ とおくことで, S が無限遠点で正則であること
がわかる.
S は無限遠点で正則であるとする. このとき S のエンドの対数増大度が零であるまた
はエンドが平坦であるとは, S の任意のエンドに対し対応する (A.1) における係数 a が
0 であるときにいう. 定理 A.1の証明を踏まえて, 次の定理 ([1] の定理 3.15の記述と全く
同じもの, X は E3 \ S の点を中心とする球面に関する反転である) の証明を記したい.
定理 A.2 ([2]) S を E3 内の連結かつ完備な極小曲面とする. このとき次の (a), (b) は
同値である:
(a) S は無限遠点で正則でありかつ S のエンドの対数増大度は零である;
(b) X(S) のコンパクト化は滑らかな曲面である.
証明 まず X(S)のコンパクト化が滑らかな曲面であることを仮定して, S は無限遠点で
正則でありかつ S のエンドは平坦であることを示す. 仮定から, S のエンドがうめこまれ
ていることは直ちにわかる. K, dA をそれぞれ S のGauss曲率および面積要素とし, H2X ,
KX , dAX をそれぞれX(S) の平均曲率の 2 乗, Gauss曲率および面積要素とする. この
とき ∫S
(−K)dA =
∫X(S)
(H2X −KX)dAX (A.7)
が成り立ち, そして (A.7) の右辺は有限の値であるので, S の全曲率は有限であることが
わかる. よって定理 A.1から, S は無限遠点で正則であることがわかる. S のエンドの一
つ Σ に対し, 定理 A.1の証明に現れたRiemann面 S の点 pl および pl の近傍 Ol が存在
して Σ = F (Ol \ pl) が成り立つ. X を E3 の原点 o を中心とする半径 1 の球面に関す
る反転とする:
X(x, y, z) :=1
x2 + y2 + z2(x, y, z).
o /∈ Σ を仮定する. X(Σ) に o を付け加えたものを Σ0 によって表す. Σ0 は滑らかな曲面
である. 定理 A.1の証明に現れたように, w を S の点 pl の近傍上の複素座標とし, w = 0
が pl に対応するとする. w を w = u+√−1v と表す. このとき F |Ol\pl を (A.3) で与え
られているような三つの関数 x1, x2, x3 の組で表すことができる. よって X F |Ol\pl を
X F |Ol\pl(u, v) = (r1(u, v), r2(u, v), r3(u, v))
14
と表すとき,
r1(u, v) =1
r(u, v)(αu+ (u2 + v2)h1(u, v)),
r2(u, v) =1
r(u, v)(αv + (u2 + v2)h2(u, v)),
r3(u, v) =1
r(u, v)(u2 + v2)(γ log(u2 + v2) + h3(u, v))
(A.8)
が成り立つ, 但し
r(u, v) :=α2 + 2α(uh1(u, v) + vh2(u, v))
+ (u2 + v2)h1(u, v)2 + h2(u, v)
2 + h3(u, v)2
+ γ2(log(u2 + v2))2 + 2γh3(u, v) log(u2 + v2)
である. r1, r2 は (0, 0) の近傍上の C2 級関数であり, また (A.8) から (0, 0) の近傍上
∂(r1, r2)/∂(u, v) = 0 がわかる. Σ0 は滑らかな曲面であるから, r3 を (0, 0) の近傍におい
て r1, r2 の滑らかな関数とみなすことができ, 従って r3 は u, v の C2 級関数である. よっ
て (A.8) における r3 の表示に注意して, γ = 0 を得る. これは S が無限遠点で正則であ
りかつ S のエンドが平坦であることを意味し, またこのとき ri は (0, 0) の近傍上滑らか
である.
以上の議論を参考にすることによって, 逆を示すことができる: S が無限遠点で正則であ
りかつ S のエンドが平坦であるならば, X(S) のコンパクト化は滑らかな曲面であること
を示すことができる.
15
参考文献
[1] 安藤直也, Willmore予想およびWillmore曲面について, 山口大学大学院理工学研究
科集中講義講義録 (山口大学数理科学レクチャーノート No.1).
[2] R.Bryant, A duality theorem for Willmore surfaces, J. Differential Geom. 20 (1984)
23–53.
[3] K.Enomoto, Compactification of submanifolds in Euclidean space by the inversion,
Advanced Studies in Pure Math. 22 (1993) 1–11.
[4] A.Kasue, Gap theorems for minimal submanifolds of Euclidean space, J. Math. Soc.
Japan 38 (1986) 473–492.
[5] A.Kasue and K. Sugahara, Gap theorems for certain submanifolds of Euclidean
spaces and hyperbolic space forms, Osaka J. Math. 24 (1987) 679–704.
[6] R.Osserman, A survey of minimal surfaces, 2nd ed., Dover Publications, New York,
1986.
[7] R. Schoen, Uniqueness, symmetry, and embeddedness of minimal surfaces, J. Differ-
ential Geom. 18 (1983) 791–809.
16
四元数射影空間内のウィルモア正則曲線
守屋克洋筑波大学数理物質系数学域
1 序Leschkeの論文 [3]を解説する. この論文の内容は [2]を用いた [1]の高余次元化である. 二次元ユークリッド空間内の曲線の理論を高余次元化する場合には, 曲率が零になる点を一旦外して考える必要がある. それと同様なことがこの論文でも行われている. なるべく仮定を多くおいて, 定理の内容がよく伝わる述べ方になるようにする. 証明はあまり説明しない. 原論文と異なる記号を用いている箇所があることを注意する.
2 フレネ曲線と四元数的正則ベクトル束四元数的ベクトル束は本稿での基本的な技術であり, これを解説する.
Mをリーマン面とし, JMをその複素構造とする. V をM上のベクトル束とするとき, V に値をもつM上の k次微分形式の空間をΩk(V )と書く.
ω ∈ Ω1(V )のとき, ∗ω = ω JM とおく. M 上のベクトル束 V1, V2, V3でペアリング ( , ) : V1 × V2 → V3が定義されているとする. (v1, v2) = v1v2と書く.X, Y ∈ TM , ω ∈ Ω1(V1), η ∈ Ω1(V2)にたいして,
(ω ∧ η)(X,Y ) = ω(X)η(Y )− ω(Y )η(X)
である. ξ ∈ Ω2(V )のとき, ξ(X) = ξ(X, JMX)とおいて, ξと ξを同一視する. とくに,
(ω ∧ η)(X) = (ω ∧ η)(X, JMX) = ω(X)η(JMX)− ω(JMX)η(X)
= ω(X) ∗ η(X)− ∗ω(X)η(X) = (ω ∗ η − ∗ω η)(X)
である.
1
V1, V2を右四元数的ベクトル束とするとき,四元数的準同形束Hom(V1, V2)
は実ベクトル束である. 右四元数的ベクトル束 V にたいし, Hom(V, V ) =
End(V )と書く. S ∈ Ω0(End(V ))で S S = − Idとなるものを右ベクトル束の複素構造とよぶ.
V1, V2に複素構造 S1, S2が与えられているとき, Hom(V1, V2)を
Hom(V1, V2) = Hom(V1, V2)+ ⊕ Hom−(V1, V2),
Hom±(V1, V2) = B ∈ Hom(V1, V2) : S2 B = ±B S1
と分解する. B ∈ Hom(V1, V2)にたいし,
B± =1
2(B ∓ S2 B S1) ∈ Hom±(V1, V2)
と書く.
V に複素構造 Sが与えられているとする. T ∗M ⊗ V を
T ∗M ⊗ V = KV ⊕KV,
KV = ω ∈ T ∗M ⊗ V : ∗ω = Sω,KV = ω ∈ T ∗M ⊗ V : ∗ω = −Sω
と分解する.
V に複素構造 Sと四元数的接続∇ ∈ Ω1(End(V ))が定義されているとき, ∇を
∇′ ∈ Ω0(K End(V )), ∇′′ ∈ Ω0(K End(V )),
∇ = ∇′ +∇′′,
∇′ =1
2(∇− S ∗ ∇), ∇′′ =
1
2(∇+ S ∗ ∇),
と分解する. さらに, ∇′, ∇′′を,
∂ ∈ Ω0(K End+(V )), ∂ ∈ Ω0(K End+(V )),
A ∈ Ω0(K End−(V )), Q ∈ Ω0(K End−(V )),
∇′ = ∂ + A, ∇′′ = ∂ +Q,
∂ϕ =1
2(∇′ϕ− S∇′(Sϕ)), ∂ϕ =
1
2(∇′′ϕ− S∇′′(Sϕ)),
Aϕ =1
2(∇′ϕ+ S∇′(Sϕ)), Qϕ =
1
2(∇′′ϕ+ S∇′′(Sϕ))
2
と分解する. また,
∇ = ∇+ A+Q, ∇ = ∂ + ∂
であり, ∇ ∈ Ω0(V ) → Ω1(V )は Sについての複素接続である. ∂は Sについての複素正則構造である. ϕ ∈ Ω0(V )にたいして,
S ∂ϕ = ∂(Sϕ), S ∂ϕ = ∂(Sϕ),
SA = −AS, SQ = −QS,
であるから,
(∇S)ϕ = ∇(Sϕ)− S∇ϕ = (A+Q)(Sϕ)− S(A+Q)ϕ
= 2(∗Q− ∗A)ϕ
となる. ∇が平坦接続であるととくに,
0 = d∇∇S = 2(d∇ ∗Q− d∇ ∗ A)
である.
Σ → HP nを tautological束とする. 接空間 TWHP nはHom(W,Σ/W )
と同一視される.
VnをM上の階数n+1の四元数的自明束とする. はめ込みf : M → HP n
にたいし, f ∗ΣはM 上の階数 1のベクトル束となり, これを V0と書く. f
と V0を同一視する. V0を Vnの部分束とみなす. Σの標準的な平坦接続から誘導される V0の平坦接続を∇と書く. πn,0 : Vn → Vn/V0を射影とすると, δn,0 := πn,0∇|Γ(V0)は f の微分写像と対応する. これを V0の微分写像という.
定義 1 ([3], Definition 2.1, 2.3, 2.4). はめ込み f : M → HP nにたいし, 旗
V0 ⊂ V1 ⊂ · · · ⊂ Vn−1 ⊂ Vn
と Vnの複素構造 Sで,
∇Γ(Vk) ⊂ Ω1(Vk+1),
S(Vk) = Vk,
∗δk+1,k|Γ(Vk/Vk−1) = πk+1,kS∇|Γ(Vk/Vk−1) = δk+1,kS|Γ(Vk/Vk−1),
Q|Vn−1 = 0
3
がなりたつとき, V0もしくは (V0, S,∇)を Vnのフレネ曲線とよぶ. 最後のQについての条件は
A(Vn) ⊂ T ∗M ⊗ V0
と同値である. Sをフレネ曲線の標準複素構造という.
以下, フレネ曲線と言ったら, 自動的に定義における平坦接続, 旗, 標準複素構造 S, 微分形式A, Qが定義されているとする.
例 1 (S4 ∼= HP 1内の曲面). はめ込み f : M → HP 1にたいし, V0は V1のフレネ曲線である.
例 2 (双対曲線). ⟨ , ⟩を Vnの内積とする. Vkにたいして,
V ⊥k = α ∈ V ∗
n : ⟨α, ψ⟩ = 0 for all ψ ∈ Vk.
とおく. V ∗0 = V ⊥
n−1とおいて, これを V0の双対曲線という. フレネ曲線の双対曲線には旗
V ∗0 ⊂ V ∗
1 ⊂ · · · ⊂ V ∗n−1 ⊂ V ∗
n ,
V ∗k = V ⊥
n−k−1,
が付随する. フレネ曲線 V0の平坦接続∇と標準複素構造 Sから誘導される接続∇∗と複素構造 S∗に関して, 双対曲線 V ∗
0 は V ∗n のフレネ曲線であ
る. フレネ曲線の平坦接続その双対曲線の平坦接続の分解,
∇ = ∇+ A+Q, ∇∗ = ∇∗ + A♯ +Q♯
に関して,
A♯ = −Q∗, Q♯ = −A∗
が成り立つ. V ∗0 がフレネ曲線なので
A♯(V ∗n ) = −Q∗ ⊂ T ∗M ⊗ V ∗
0 , Q♯|V ∗
0= −A∗|V ⊥
0= 0
となる.
定義 2 ([3], Definition 2.7). 四元数的ベクトル束 V とその複素構造 Sに対して, D : Γ(V ) → Γ(KV )は任意のψ ∈ Γ(V )と任意の λ : M → Hにたいして
D(ψλ) = D(ψ)λ+ ψ(dλ)′′
4
となるとき, V の(四元数的)正則構造という. 組 (V, S,D)を正則束という. H0(V,D) = kerDの切断を正則切断という. 正則束 (V, S,D)にたいして, 部分束W ⊂ V が, D(Γ(W )) ⊂ Γ(KW )であるとき, (W,S|W , D|Γ(W ))
を正則部分束という. 正則部分束は正則ベクトル束である.
本稿で重要な正則束の例は以下のものである.
例 3. Vnのフレネ曲線にたいして (Vn, S,∇′′)は正則束であり, (Vk, S|Vk,∇′′|Γ(Vk))
は正則部分束である.
例 4. Vnのフレネ曲線にたいして (Vn,−S,∇′)は正則束である.
例 5. Vnのフレネ曲線にたいして, V ∗0 = α ∈ Hom(V0,H)には β|V0 :
β ∈ V ∗n が正則切断全体になるような正則構造が入る.
∇の曲率はAとQを用いて計算できる.
補題 1 ([3], Lemma 2.9). フレネ曲線にたいして, R∇ を ∇の曲率とすると,
R∇ = −(Q ∧Q+ A ∧ A) ∼= 2S(A A−Q Q)
となる.
V1, V2をそれぞれ ∂1, ∂2を複素正則構造とする複素正則ベクトル束とする. このとき, Hom+(V1, V2)に複素正則構造 ∂が,
(∂B)ψ = ∂2(Bψ)−B∂1ψ
で定義され, さらにK Hom+(V1, V2)に複素正則構造が誘導される.
フレネ曲線に戻る.
∇|Γ(Vk) = ∇k = ∂k + Ak + ∂k +Qk
と書く. Vk の四元数的正則構造は∇′′|Γ(Vk)であるから, 複素正則構造は∂kである. Vk+1の四元数的正則構造 ∂k+1から, Vk+1/Vkの複素正則構造∂k+1,k ∈ Ω0(K Hom+(Vk+1/Vk, Vk+2/Vk+1))を
∂k+1,kπk+1,k = πk+1,k∂k+1
で定義する. 同様に, ∂k+1,k ∈ Ω0(K Hom+(Vk+1/Vk, Vk+2/Vk+1))を
∂k+1,kπk+1,k = πk+1,k∂k+1
5
とおく.
δk+1,kπk+1,k = δk+1,0
で δk+1,k ∈ Ω1(Hom+(Vk+1/Vk, Vk+2/Vk+1))を定義する. 上記と同様に,
K Hom+(Vk+1/Vk, Vk+2/Vk+1)には複素正則構造が誘導される. δk+1,k は複素正則切断となる.
補題 2 ([3], Lemma 2.10). Vn のフレネ曲線にたいし, Ak(Vk) ⊂ KVk,
Qk(Vk) ⊂ KVk, ∂kΓ(Vk) ⊂ Γ(KVk)であり,
δk+1,k = ∂k+1,k ∈ H0(K Hom+(Vk+1/Vk, Vk+2/Vk+1))
である.
従って, 正則切断として δk+1,kの位数 ord δk+1,kが定義され,
ord δk+1,k = degK Hom+(Vk+1/Vk, Vk+2/Vk+1)
となる.
次の補題は特殊なフレネ曲線を特徴づけるために用いられる.
補題 3 ([3], Lemma 2.13). Vnのフレネ曲線にたいして, A|V0 = 0であれば, A = 0, Q(Vn) ⊂ Vn−1であれば, Q = 0が成り立つ.
3 ウィルモア・フレネ曲線以下でウィルモア曲面の高余次元版を考察する.
四次元球面内のウィルモア曲面と同様にエナジーを導入する.
定義 3 ([3], Definition 3.1, Lemma 3.3, Definition 3.4). フレネ曲線 V0にたいし,
W (V0) =1
2
∫M
trRA ∧ ∗A
を V0のウィルモア・エナジーとよぶ. フレネ曲線がフレネ曲線の空間の中でウィルモア・エナジーの臨界点であるとき, ウィルモア・フレネ曲線とよぶ.
6
ウィルモア・フレネ曲線のウィルモア・エナジーは, その標準複素構造のエナジーと関連する.
定義 4 ([3], Definition 3.5). ベクトル束 V とその平坦接続∇を固定する.
Zを V の複素構造全体の空間とする. B : M → Zにたいして, ∇を分解してA, Qが得られるとき,
E(B) =1
8
∫M
trR ∇B ∧ ∗∇B =1
2
∫M
trR(Q ∧ ∗Q+ A ∧ ∗A)
をBのエナジーという. BがEの臨界点であるとき, Bを調和写像という.
Vnのフレネ曲線にたいし, Sの固有値 iの固有ベクトル束をEn = ϕ ∈Vn : Sϕ = ϕiとおく. Vn = En ⊕Enjであるから, 複素ベクトル束としてVn ∼= En ⊕ Enである. deg Vn = degEnとして deg Vnを定義する.
以前の計算より,
2π deg Vn =1
4
∫M
trR SR∇ =
1
4
∫M
(trRA ∧ ∗A− trRQ ∧ ∗Q)
となる. よって Vnのフレネ曲線においては,
E(S) + 4π deg Vn = 2W (V0)
となる.
フレネ曲線がウィルモアであることはAの性質で特徴づけられる.
定理 1 ([3], Theorem 3.8). フレネ曲線がウィルモアであることとd∇∗A =
0であることは同値である.
さらに, d∇ ∗ A = 0であることは Sの性質で特徴付けられる.
定理 2 ([3], Theorem 3.6). フレネ曲線にたいし, 次は同値である.
1. Sが調和である.
2. d∇ ∗Q = 0.
3. d∇ ∗ A = 0.
4. ∂Q = 0.
5. ∂A = 0.
従って, ウィルモア・フレネ曲線の標準複素構造は調和写像である.
7
4 フレネ曲線のプリュッカー関係式プリュッカー関係式は, フレネ曲線とその双対曲線のウィルモア・エナジーの関係を, フレネ曲線の度数とM の種数で表す式である. これを得るために次の補題が用いられる.
補題 4 ([3], Lemma 4.1). Vnのフレネ曲線にたいして,
deg(Vk/Vk−1) =k−1∑i=0
ord δi,i−1 − k degK + deg V0
が成り立つ.
Vn =⊕n
k=0 Vk/Vk−1であるから, 上の式を kを動かしながら辺々足し合わせることにより, フレネ曲線とその双対曲線のウィルモア・エナジーの間には次の関係式が成り立つことが分かる.
定理 3 ([3], Theorem 4.3). Vnの種数 gのフレネ曲線にたいして,
deg(Vn) =1
4π(W (V0)−W (V ∗
0 ))
= (n+ 1)(n(1− g) + deg V0) +n−1∑i=0
(n− i) ord δi,i−1
が成り立つ.
V0がリーマン面から複素射影空間への正則写像のツイスター射影の場合はW (V0) = 0であるから, W (V ∗
0 ) ∈ 4πNである.
5 ウィルモア曲線のベックルント変換与えられたウィルモア曲線から新たなウィルモア曲線を得る方法を解説する.
Vnのフレネ曲線にたいして, Q = 0ならば kerQ = Vn−1である. また,
A = 0ならば imAは V0値一次微分形式である. 微分形式のところを外して imA = V0と考える. kerAと imQについては次が成り立つ.
補題 5 ([3], Lemma 5.2). Vnのウィルモア・フレネ曲線にたいして,
8
1. A = 0ならば, kerAは正則ベクトル束 (Vn,−S,∇′)の階数 nの正則部分束である.
2. Q = 0ならば, imQは正則ベクトル束 (Vn,−S,∇′)の階数 1の正則部分束である.
A = 0, Q = 0であるウィルモア・フレネ曲線にたいして,双対正則ベクトル束 (V ∗
n ,−S∗, (∇∗)′′)とその階数 1の部分束 (kerA)⊥を考える. (kerA)⊥
は V ∗n の, imQはVnのフレネ曲線とならない可能性がある. そこで, 以下,
Vnの階数m + 1の自明部分束で V0 = imQをフレネ曲線とするもの Vmが存在し, Vnの階数 l+ 1の自明部分束で V ∗
l が kerA⊥をフレネ曲線とするもの Vlが存在すると仮定する. そこで kerA⊥の双対曲線 (kerA⊥)∗を考え, それを V0とおく.
定義 5 ([3], Definition 5.3). ウィルモア・フレネ曲線 V0にたいして, V0を V0の後方ベックルント変換, V0を V0の前方ベックルント変換という.
前後方ベックルント変換はフレネ曲線であるだけではなく, さらに次が成り立つ.
定理 4 ([3], Theorem 5.5). 後方ベックルント変換, 前方ベックルント変換はウィルモア・フレネ曲線である.
後方ベックルント変換の標準複素構造を S, 前方ベックルント変換の標準複素構造を Sと書く. この定理の証明において, S|V0
= −S|V0, S∗|V ∗
0=
−S∗|V ∗0であることが指摘される. 一般には S = −S, S = −Sではない.
この場合は後で議論される. さらに, ウィルモア・フレネ曲線とその前方ベックルント変換, 後方ベックルント変換, 双対曲線の間に, 次の関係が成り立つ.
系 1 ([3], Corollary 5.6). フレネ曲線 V0 とその双対曲線 V ∗0 にたいし,
V ∗0 = (V0)
∗, V ∗0 = (V0)
∗が成り立つ.
系 2 ([3], Corollary 5.7). フレネ曲線 V0にたいし, V0 =˜V0 = V0が成り
立つ.
系 3 ([3], Corollary 5.8). フレネ曲線 V0 とその双対曲線 V ∗0 にたいし,
W (V0) = W (V ∗0 ), W (V ∗
0 ) = W (V0)が成り立つ.
9
6 −Sを標準複素構造とするベックルント変換前で触れたように, フレネ曲線 V0の複素構造 Sについて, m ≤ nであるとき, S|V0
= −S|V0であるが, S = −Sとは限らない. フレネ曲線 V0に
ついても同様である.
定理 5 ([3], Theorem 6.1). Vnのウィルモア・フレネ曲線 (V0, S,∇′′)にたいして次が成り立つ.
1. l ≤ nであり前方ベックルント変換 (Vl, S, ∇′′)が S = −S|Vlであれ
ば, VlはM からCP 2l+1への正則写像のツイスター射影である.
2. m ≤ nであり後方ベックルント変換 (Vm, S, ∇′′)が S = −S|Vmであ
れば, VmはMからCP 2m+1への正則写像のツイスター射影である.
どちらの場合もW (V0) ∈ 4πNとなる.
注 1. l > nのときやm > nのときも前方, 後方ベックルント変換は正則写像のツイスター射影となる.
7 種数 0のウィルモア・フレネ曲線ウィルモア・フレネ曲線は, 種数 0の場合は imQ, (kerA)⊥ が標準複素構造が−Sのフレネ曲線になることを述べる. ここで用いるのは次のimQ, (kerA)⊥をフレネ曲線にするような旗の具体的な構成方法である.
補題 6 ([3], Lemma 7.1). Vnのウィルモア・フレネ曲線V0にたいし, Q = 0
であるとする. V0 = imQとおき, 0 ≤ k ≤ n − 1なる kにたいし, 階数i+ 1のベクトル束 Vi (i ≤ k)で
∇Γ(Vi) ⊂ Ω1(Vi+1) (0 ≤ i ≤ k − 1)
となるものが存在すると仮定する.
δi = δi,i−1 δi−1,i−2 · · · δ1,0 δ0 (1 ≤ i ≤ k),
δ0 = Id |V0
とおく.
∗δi = −Sδi = −δiS (0 ≤ i ≤ k)
であれば, 次が成り立つ.
10
1.
AδiQ ∈ H0(Ki+2Hom+(Vn/Vn−1, V0)) (0 ≤ i ≤ k)
となる. 特にM = S2のときAδiQ = 0となる.
2. AδiQ = 0 (0 ≤ i ≤ k)であり, δk = 0であるとき, im δkは Vnの階数 k + 2の部分束となり,
∗δk = −Sδk = −δkS
となる.
M = S2であるとき, im δk = Vk+1とおき, 上の操作を δk = 0になるまで繰り返すことにより, imQをフレネ曲線にすることができる. (kerA)⊥
についても同様である. よって次が成り立つ.
系 4 ([3], Corollary 7.2). ウィルモア球面の imQ, (kerA)⊥はウィルモア・フレネ曲線にすることができる. すなわち, ウィルモア球面には前方, 後方ベックルント変換が存在する.
リーマン面から複素射影空間への正則写像のツイスター射影となるフレネ曲線について, その imQ, (kerA)⊥も上の補題よりフレネ曲線となる:
系 5 ([3], Corollary 7.4). V0をMからCP 2n+1への正則写像のツイスター射影となる Vnのフレネ曲線とする.
1. Q = 0ならば, 正則ベクトル束 V0 = imQは Q = 0である.
2. 双対曲線が A♯ = 0ならば, 正則ベクトル束 ˜(kerA)⊥は A♯ = 0である.
リーマン面から複素射影空間への正則写像のツイスター射影となるフレネ曲線の場合は, W (V0) ∈ 4πNとなることは述べた. その他の場合でも同様なことが成り立つ.
定理 6 ([3], Theorem 7.5). Vnの種数 0のウィルモア・フレネ曲線は, V3内の端部がすべて平坦端である極小曲面であるか, S2から複素射影空間への正則写像のツイスター射影か, 双対曲線が S2から複素射影空間への正則写像のツイスター射影か, のどれかであり, どの場合もウィルモア・エナジーは 4πの自然数倍である.
11
参考文献[1] F. Burstall, D. Ferus, K. Leschke, F. Pedit, U. Pinkall, Confor-
mal Geometry of Surfaces in S4 and Quaternions , Lecture Notes
in Mathematics 1772, 86 pages, Springer, Berlin, Heidelberg, 2002.
[2] D. Ferus, K. Leschke, F. Pedit, U. Pinkall, Quaternionic holomorphic
geometry: Plucker formula, Dirac eigenvalue estimates and energy
estimates of harmonic 2-tori, Invent. math., Vol. 146, pages 507-593,
2001.
[3] K. Leschke, Willmore spheres in quaternionic projective spaces,
arXiv:math/0209359, to appear in Comm. Math. Helvitici.
12
Willmore 曲面の gap theorem について
加藤 信(大阪市立大・理)
2014年 2月 13日 山口県健康づくりセンター
1 はじめに
本稿の目的は、3次元 Euclid空間内のWillmore曲面に関してそのWillmoreエネルギーの最小値と次の臨界値との間の gap について、Willmore flow に関する Kuwert-Schatzle
らの一連の業績 [7, 8, 9, 3, 6]、及び近年の Marques-Neves による Willmore 予想の肯定的な解決 [13] を踏まえて得られた、Mondino-Nguyen の結果 [14] 等を紹介することにある。 とは言っても、生憎筆者は Willmore 曲面に関しても flow に関しても門外漢でしかなく、従って本稿は、専門家による解説ではなく、たまたま山口での勉強会で発表する機会をいただいた初学者によるセミナー準備ノートと言った類のものであることを、あらかじめご理解いただいた上で、ご参考にしていただければ幸いである。 さて、(以下、一部前稿と重複するが、)一般に Willmore 曲面に関する文献においては、用語の定義や標記がかなりまちまちであるので、本論に入る前に、一応の統一を見ておきたい。基本的な方針としては、本稿の読者の大半が参考にすると思われる安藤氏による詳細な解説 [1] と出来うる限り同じものを用いることとする。 まず、本稿で特に重点的に取り扱う 3 次元 Euclid 空間の場合から始めることとする。3 次元 Euclid 空間を E3 と表す。特に断らない限り、M は compact 曲面すなわち 2 次元閉多様体とし、ι : M → E3 を C∞ 級はめ込みとする。ι の平均曲率を H, Gauss曲率を K と表す。E3 の標準的計量から ι により誘導されるM 上の Riemann 計量 g = ι∗gE3
に関する面積要素を dA, Laplacian を ∆ と表す。 ここで、平均曲率の平方の積分により定義される次の汎関数を、Willmore 汎関数または Willmore エネルギーと呼ぶ。
W(ι) :=∫MH2dA.
また、次の汎関数も、しばしば同じ名前で呼ばれる。
WM(ι) :=∫M(H2 −K)dA.
WM(ι) はE3 の共形変換( Mobius 変換)で不変である。 χ(M) を M の Euler 標数とすると、Gauss-Bonnet の定理より次の等式が従う。
W(ι) = WM(ι) + 2πχ(M).
1
従って、はめ込み ι がW の臨界点であることとWM の臨界点であることは同値であり、そのような ι は Willmore はめ込み、その像 ι(M) は Willmore 曲面と呼ばれる。 標準的 Clifford トーラス
ιCl(T2) = (x1, x2, x3) | (
√x12 + x22 −
√2)2 + x3
2 = 1
は Willmore 曲面である。また、共形 Clifford トーラス、すなわち、標準的 Clifford トーラスのE3 の共形変換( Mobius 変換)による像も Willmore 曲面である。 Willmore 汎関数の第一変分を計算することにより、W かつ WM に関する次のようなEuler-Lagrange 作用素が得られる。
W(ι) := ∆H + 2(H2 −K)H.
ι が Willmore はめ込みであること、もしくは ι(M) が Willmore 曲面であることは、微分方程式W(ι) = 0 の解であることと同値である。 C∞ 級はめ込み ι :M → E3 の族 (ιt)t に対し、
∂tιt = −W(ι)ν
を Willmore flow の方程式と呼び、その解を Willmore flow と呼ぶ。ここで ν は曲面の単位法ベクトル場である。 一般に Willmore 汎関数の値については、次の事実が知られている。
定理 1.1.(Willmore [18, 19], cf. [1, 定理 1.1]) 任意のはめ込み ι : M → E3 に対し、次の不等式が成り立つ。
W(ι) ≥ 4π.
等号成立は全臍的球面の場合に限る。
特にトーラス T 2 についての次の主張が、Willmore 予想として提唱されていたが、近年肯定的な解決を見た。
定理 1.2.(Marques-Neves [13]) 任意のはめ込み ι : T 2 → E3 に対し、次の不等式が成り立つ。
W(ι) ≥ 2π2.
等号成立は共形 Clifford トーラスの場合に限る。
一度、Willmore 汎関数の最小値と最小点が決定されると、次に問題となるのは、最小点でない臨界点と臨界値はどのように分布しているかと言うことである。トーラスの場合に関しては、次のような事実が知られている。
定理 1.3(Pinkall [16]) M = T 2 のとき、Willmore 汎関数は無限個の臨界点を持つ。
2
トーラスの場合、Willmore汎関数の臨界点は孤立点か、また、Willmore汎関数の臨界値は離散的か、本稿では、この問題について、近年明らかになって来た事実を紹介する。 ついでながら、しばしば併せて考える高次元の Euclid 空間についても、一通りの準備をしておくことにする。任意の n ≥ 3 に対し、n 次元 Euclid 空間を En と表す。M はこれまで同様 compact 曲面とし、ι : M → En を C∞ 級はめ込みとする。ι の第二基本形式を A = D2ι⊥, 平均曲率ベクトル場を H = 1
2tr A と表す。H については、H := tr A
としている文献も多く、それぞれの主張において定数倍の差異が生ずるので、読み比べる際、若干の注意が必要である。 En の標準的計量から ι により誘導されるM 上の Riemann 計量 g = ι∗gEn に関する面積要素を dA, Laplacian を ∆ と表す。 ここで、平均曲率ベクトル場のノルムの平方の積分により定義される次の汎関数を、Willmore 汎関数または Willmore エネルギーと呼ぶ。
W(ι) :=∫M|H|2dA.
A の tracefree part をA = A− g ⊗H と表すとき、次の汎関数も、しばしば同じ名前で呼ばれる。
WM(ι) :=∫M|A|2dA.
WM(ι) はEn の共形変換( Mobius 変換)で不変である。n = 3 の場合については、先に定義したものの 2 倍となっていることに注意する。 Gauss-Bonnet の定理より次の等式が従う。
W(ι) =1
4
∫M|A|2dA+ πχ(M)
=1
2
∫M|A|2dA+ 2πχ(M)
=1
2WM(ι) + 2πχ(M).
M の種数を p(M) とおくと、次のように書き換えられる。
W(ι) =1
4
∫M|A|2dA+ 2π(1− p(M))
=1
2
∫M|A|2dA+ 4π(1− p(M)).
従って、高次元の場合も、はめ込み ι がW の臨界点であることとWM の臨界点であることは同値であり、そのような ι は Willmore はめ込み、その像 ι(M) は Willmore 曲面と呼ばれる。 ιに沿う法ベクトル場上の接続を∇Xι = (DXι)
⊥, ∇の形式的随伴作用素を∇∗, Laplace
作用素を∆ϕ = −∇∗∇ϕ, g に関する正規直交基を e1, e2 とし、
Q(A)ϕ :=2∑
i=1
2∑j=1
A(ei, ej)⟨A(ei, ej), ϕ⟩
3
とおくならば、W かつ WM に関する Euler-Lagrange 作用素は、次で与えられる。
W(ι) := ∆H +Q(A)H.
ι が Willmore はめ込みであることが、微分方程式W(ι) = 0 の解であることと同値であるのも同様である。 C∞ 級はめ込み ι :M → En の族 (ιt)t に対し、
∂tιt = −W(ι)
を Willmore flow の方程式と呼び、その解を Willmore flow 呼ぶ。
2 Willmore エネルギーの下からの評価
本節では、背景となる Li-Yau [12] の結果、並びに Montiel-Ros [15] によるその拡張について、簡単に復習しておく。詳細は安藤氏の講義録 [1, §3] を参照されたい。 Li-Yau [12] は、一般に、 compact 曲面 M に対して、共形面積と言う概念を導入することにより、Willmore 汎関数の値に関して次の評価を得た。
定理 2.1.([12, Theorem 6], cf. [1, 定理 3.13]) compact 曲面の任意のはめ込み ι :M →En に対し、k = max#ι−1(p) | p ∈ En とおくとき、次の不等式が成り立つ。
W(ι) ≥ 4kπ.
特にW(ι) < 8π(= 4π · 2)
のとき、ι は埋め込みである。
また、特別な共形類に属するトーラスについて、Willmore 汎関数の値に関して下からの評価を得た。Montiel-Ros [15] により一般化されたのが、次の定理である。
定理 2.2.([12, Theorem 5],[15], cf. [1, 定理 3.8,命題 3.9,定理 3.10]) 基本周期 (ω1, ω2) =
(1, x+√−1y) が
0 ≤ x ≤ 1
2, x2 + y2 ≥ 1, (x− 1
2)2 + (y − 1)2 ≤ 1
4
を満たす任意のトーラス T 2 からの共形はめ込み ι : T 2 → En に対し、次の不等式が成り立つ。
W(ι) ≥ 2π2.
等号成立は、λ1 = 2 であるような S4 への極小はめ込みと立体射影の合成であるときに限る。なお、等号は共形 Crifford トーラスにより実現される。
4
基本周期に関する制約無しに、上の主張が成り立ち、かつ、等号成立が共形 Crifford
トーラスに限ると言うのが、定理 1.2 すなわち、Marques-Neves [13] によって証明されたWillmore 予想の主張である。この後、本稿で紹介する諸事実は、その Willmore flow による approachの成果、並びに、予想の証明と併せて得られた結果と言う位置付けになる。
3 Gap 補題
放物型方程式を用いて楕円型方程式の分析を行う場合、しばしば三つの段階に分けて議論が行われる。その段階とは、短時(有限時間)解の存在、長時(無限時間)解の存在、解の収束、である。Willmore flow に関するKuwert-Schatzle の一連の研究の内、この第一段階に関しては、主に [8] において結果が与えられた。出版年度は前後しているようであるが、本節で紹介する [7] は、先の結果を踏まえての、第二、第三段階に関する研究である。 一般に、短時解が存在しても、長時解が存在するとは限らない。有限時間しか解が延長出来ない場合、しばしばエネルギーの集中が起きていると考えられる。そこで、その集中部分を rescale して、より詳細な観察を行うことが重要となる。 そのことを踏まえて、はめ込み ι :M → En において、任意の ϱ > 0, x0 ∈ En に対し、Mϱ(x0) = ι−1(Bϱ(x0)) と表すことにしておく。
定理 3.1([7, Theorem 2.7]) (gap 補題) ある ϵ0(n) > 0 が存在して、( M が compact か非 compact かを問わず)任意の固有 Willmore はめ込み ι :M → En に対し、
liminfϱ→∞
1
ϱ4
∫Mϱ(0)
|A|2dA = 0,
かつ ∫M|A|2dA < ϵ0
ならば、ι(M) は 埋め込まれた平面または全臍的球面である。
(証明)
φ : R → [0,∞) C1 級
φ(s) = 1 (s ≤ 1
2),
φ(s) = 0 (s ≥ 1)
をみたす cut-off 関数を一つ固定し、任意の ϱ > 0 に対し、
γ(p) := φ(1
ϱ|ι(p)|) (p ∈M)
5
とおく。これは次をみたす。
γ :M → [0,∞) C1 級
γ(p) = 1 (|ι(p)| ≤ 1
2ϱ),
γ(p) = 0 (|ι(p)| ≥ ϱ).
ここで
Λ := ||∇γ||L∞ =1
ϱ||(|φ′| · ∇ι)||L∞ =:
1
ϱ· c
とおく。今、任意のはめ込みに対し、次の評価が成り立つ。
補題 3.2([7, Proposition 2.6]) ι :M → En ははめ込み、γ :M → R は M 上 compact
台を持つ C1 級関数で、||∇γ||L∞ = Λ をみたすとする。 このとき、ある ϵ0(n) > 0, c(n) <∞ が存在して、∫
[γ>0]|A|2dA < ϵ0
ならば、次の不等式が成り立つ。∫(|∇2A|2 + |A|2|∇A|2 + |A|4|A|2)γ4dA
≤ c∫
|W(ι)|2γ4dA+ cΛ4∫[γ>0]
|A|2dA.
(定理 3.1 の証明の続き) 今 ι は Willmore はめ込みなので、W(f) = 0 より、上の不等式の右辺第一項は消える。ここで、ϱ→ ∞ とすると、仮定より右辺第二項の下極限も0 なので、|A| ≡ 0 を得る。このようなはめ込みの像は、En 内の平面または全臍的球面への写像であることが知られている。今、 ι は完備とすると、ι(M) は平面または全臍的球面への微分同相写像でなければならない。 (証明終)
4 Blowup の構成法とその非自明性
本節で、エネルギーの集中部分を rescale して極限を取る、いわゆる blowup の構成法について述べる([7, §4])。次の各評価が重要になるが、本稿ではその証明については一切触れない。
定理 4.1([7, Theorem 2.9]) ( tracefree な曲率の評価) ある ϵ0(n) > 0, c > 0 が存在して、任意のはめ込み ι :M → En とMϱ(x0) ⊂⊂M に対し、∫
Mϱ/2(x0)|A|2dA < ϵ0
6
ならば、次の不等式が成り立つ。
||A||2L∞(Mϱ(x0))
≤ c
(||W(ι)||L2(Mϱ(x0)) +
1
ϱ2||A||L2(Mϱ(x0))
)||A||L2(Mϱ(x0)).
定理 4.2([7, Theorem 2.10]) (曲率の評価) ある ϵ0(n) > 0, c > 0 が存在して、任意のはめ込み ι :M → En とMϱ ⊂⊂M に対し、∫
Mϱ
|A|2dA < ϵ0
ならば、次の不等式が成り立つ。
||A||2L∞(Mϱ/2(x0))
≤ c
(||W(f)||L2(Mϱ(x0)) +
1
ϱ2||A||L2(Mϱ(x0))
)||A||L2(Mϱ(x0)).
定理 4.3([7, Theorem 3.5]) (内部評価) ある ϵ0(n) > 0, c(n) > 0 が存在して、任意のWillmore flow ι :M × (0, T ] → En に対し、
sup0<t≤T
∫Mϱ(0)
|A|2dA ≤ ϵ < ϵ0
かつT ≤ c(n)ϱ4
ならば、任意の k ∈ N0 と任意の時刻 t ∈ (0, T ] に対し、次の評価式が成り立つ。
||∇kA||L∞(Mϱ/2(0)) ≤ c(k)√ϵt−(k+1)/4,
||∇kA||L2(Mϱ/2(0)) ≤ c(k)√ϵt−k/4.
compact 曲面 M からのC∞ 級の Willmore flow ι :M × [0, T ) → En (0 < T ≤ ∞) に対し、
κ(r, t) := supx∈En
∫Mr(x)
|A(t)|2dAt
とおく。これは各 r > 0 に対し、En 内の半径 r の球での局所的な Willmore エネルギー(-定数)の集中の上限を意味している。
limj→∞
rj = 0
7
をみたす単調減少数列 rj を任意に取り、各 j ∈ N に対し、
tj := inft ≥ 0 : κ(rj, t) > ϵ1 < T
をみたすようなWillmore エネルギーの集中を考える。但し、ϵ1 := ϵ0/c とし、ϵ0, c はKuwert-Schatzle [8, Theorem 1.2] で与えた定数とする。これは解が存在する最終時刻 T
までに、半径 rj のある球内に Willmore エネルギーが一度はある特定の値 ϵ1 を越えて集中することを前提とすると言うことで、そのような時刻の下限が tj である。 その下限時刻 tj より以前には、特定の値を超えないのであるから、時刻 tj においては、∫
Mrj (x)|A(tj)|2dAtj ≤ ϵ1 (x ∈ En)
が成り立っているが、一方、
limν→∞
τν = tj, κ(rj, τν) > ϵ1
をみたす単調減少な時刻の列 τν に対し、Willmore エネルギーが集中する半径 rj の球の中心の列を考えれば、その極限として、∫
Mrj (xj)|A(tj)|2dAtj ≥ ϵ1
をみたす xj ∈ En を見出すことが出来る。 ここで集中の起きる点 xj と時刻 tj を中心として、ι の次のような rescale を考える。
ιj :M × [−r−4j tj, r
−4j (T − tj)) → En
ιj(p, t) :=1
rj(ι(p, tj + r4j t)− xj).
この ιj に対する各量を κj, Aj, dAj で表すことにすると、中心点 xj は原点 0 に平行移動され、球の半径 rj は 1/rj 倍に拡大されて 1 となり、かつ時刻 tj が「初期」時刻 0 となるので、集中の程度は
κj(1, t) := supx∈En
∫M1(x)
|Aj(t)|2dAt ≤ ϵ1 (t ≤ 0)
かつ ∫M1(0)
|Aj(0)|2dAj ≥ ϵ1
と書き換えられる。 さらに [8, Theorem 1.2] により、ある時刻 c0 ≤ r−4
j (T − tj) に対し、
κj(1, t) ≤ ϵ0 (0 < t ≤ c0)
を得る。 ここで定理 4.3 により内部評価
||∇kAj(t)||L∞ ≤ c(k) (−r−4j tj + 1 ≤ t ≤ c0)
8
が得られる。 一方、今、任意のはめ込みに対し、次の評価が成り立つ。
補題 4.4.(Simon [17],[7, Lemma 4.1]) (局所面積評価) ι :M → En は固有はめ込みとする。このとき、任意の 0 < σ ≤ ϱ <∞ に対して、次の不等式が成り立つ。
1
σ2
∫Mϱ(x0)
dA ≤ c
(1
ϱ2
∫Mϱ(x0)
dA+∫Mϱ(x0)
|H|dA).
特に、M が compact ならば、次の不等式が成り立つ。
1
σ2
∫Mϱ(x0)
dA ≤ c (WM(ι) + 4πχ(M)) .
この補題により、面積の評価
1
R2
∫MR(0)
dAj(t) ≤ c(WM(ι0) + 4πχ(M))( = 2cW(ι0)) < ∞
も得られるので、rescale 後の初期時刻における写像の列 ιj(·, 0) に、次の事実を適用することができる。
補題 4.5(Langer [10],[7, Theorem 4.2]) compact 曲面の固有はめ込みの列 ιj :Mj → En
に対し、 ∫(Mj)R(0)
dAj ≤ c(R) (R > 0),
||∇kAj||L∞(Mj) ≤ c(k) (k ∈ N0)
ならば、ある部分列と compact 曲面の固有はめ込み ι : M → En が存在して、次が成り立つ。
ιj φj = ι+ uj on (M)j(0),
φj : M ⊃ (M)j(0) → Uj ⊂Mj 微分同相写像,
(Mj)R(0) ⊂ Uj (j ≥ j(R)),
uj : (M)j(0) → En C∞ 級写像かつ M に直交,
limj→∞
||∇kuj||L∞((M)j(0))= 0 (k ∈ N0).
すなわち、任意の R に対し、半径 R の球内における面積の評価と、第二基本形式の任意階微分に関する上からの評価があれば、部分列の極限曲面が存在して、半径 R に応じて十分大きい j に対し、半径 j の球内においては、適当な変数変換の後、第 j 番目の曲
9
面が、極限曲面上のグラフとして表され、かつその任意階微分が十分小さい。 これにより得られた極限の compact 曲面の固有はめ込みを
ι0 : M → En
と表すことにする。 ここでは j ∈ N によらずMj =M であることに注意する。 このとき、初期時刻のみ考えるのでなく、元の
ιj : (M)j(0)× [0, c0] → En
の微分同相写像φj : M ⊃ (M)j(0) → Uj ⊂Mj =M
による reparametrization
ιj(φj, ·) : (M)j(0)× [0, c0] → En
を考えれば、これもまた、各 j ∈ N に対してそれぞれ
ιj(φj, 0) = ι0 + uj : (M)j(0) → En
を初期写像とする Willmore flow となっている。 これらの flow の列 ιj(φj, ·) (j ∈ N) は、上述の内部評価をみたし、かつ初期写像の列ιj(φj, 0) = ι0 + uj がはめ込み ι0 : M → En に局所的に Ck 級に収束することから、[8] で扱った微分方程式の一般論により、
ι0 : M → En
を初期写像とする Willmore flow
ι : M × [0, c0] → En
に局所的に Ck 級に収束することが示される。 ところが一方、 ∫ c0
0
∫(M)j(0)
|W(ιj(φj, t))|2dAιj(φj ,·)dt
=∫ c0
0
∫Uj
|W(ιj(·, t))|2dAjdt
≤∫M|Aj(c0)|2dAj −
∫M|Aj(0)|2dAj
=∫M|A(tj + r4j c0)|2dA−
∫M|A(tj)|2dA
→ 0 (j → ∞)
であるから、極限の写像においては、
W(ι) ≡ 0
10
でなければならず、これはすなわち、時刻によらず
ι(·, t) ≡ ι0
で、初めから Willmore はめ込みであったことを意味する。 さらに、初めの下からの評価の極限をとれば、∫
(M)1(0)|A|2dA ≥ ϵ1 > 0
より、ι(M) は平面の和集合ではあり得ない。
以上で、blowup が平面の和集合ではあり得ないことがわかったが、実は球面ともなり得ないことを次に示す。まず、次の点に注意する。
補題4.6.([7, Lemma 4.3]) Willmore flowの blowup ι : M → En に対し、M が compact
な成分 C を持つならば、実は M = C であり、M も C と微分同相である。
(証明) 十分大きい任意の j ∈ N に対し、φj(C) は M 内で開かつ閉である。 今、仮定より M は連結であるから、M = φj(C) であり、従って M = C である。 (証明終)
定理4.7.([7, Theorem 4.4])(blowupの非自明性) Willmore flowの blowup ι : M → En
に対し、M のどの成分も全臍的な球面の媒介変数表示を与えない。 特に、この blowup は、( compact または非 compact な)全臍的でない Willmore 曲面の成分を持つ。
(証明) 結論が成立しない、すなわち、M のある成分が全臍的な球面の媒介変数表示を与えたと仮定する。この成分は compact であるから、上の補題により、M の成分はただ一つと言うことになる。このとき、十分大きい j ∈ N に対し、写像 ιj(φj, ·) は、Ck ノルムについて ι に近く、かつこれは全臍的な球面の媒介変数表示を与えるから、次が成り立つことになる。 ∫
M|A(tj)|2dAι(·,tj) =
∫M|A
j(0)|2dAιj(·,0) → 0,∫MdAι(·,tj) = r2j
∫MdAιj(·,0) → 0.
しかし、これは、定理 5.2 で与えられる面積の評価(途中の時刻における面積が、初期時刻における面積と余り変わらない)の内、特に下からの評価と矛盾する。 (証明終)
上の事実は、他の flow においてしばしば、球面がエネルギー集中の極限である bubble
として現れることに反しているように見える。しかし、ここで注意すべきことが、少なくとも二点あるように思われる。 一点は、Willmore エネルギーWM が実は主曲率の分散とも言うべき量を表していると
11
言う点である。その意味では全臍的球面のエネルギーは 0 であり、その大小にかかわらず、エネルギーの集中としては捉えられない。 もう一点は、曲面のエネルギーの集中においては、定義域ではなく値域において、エネルギーの集中の度合いが測られていると言うことである。 実際、他の多様体の部分多様体としてではなく、その多様体自身の内在的な量として測られたエネルギーに関する flow においては、球面が bubble として現れる場合も、球面1個分のエネルギーが1点の近傍に集中して見えているのは、実は幾何構造が激変しつつあるのにもかかわらず、元の幾何構造を保つような座標で記述しようとするために、エネルギーがそこに集中して見えているだけで、新たに生まれる球面に合った座標で測れば、そこにあるのは、1点もしくは小さな集合では決してない。むしろ小さい部分に集中しているのは、球面と残りの部分を分かつくびれの部分であり、Willmore flow の集中として捉えられるのも、実はそのような部分であると考えられる。 従って、少なくともこの時点では、1個の球面と残りの部分が、くびれによって分かたれる可能性を否定しているものではない。
5 Willmore flow の長時解の存在と収束
本節では、小さい初期エネルギーに対するWillmore flow の長時解の存在と収束に関する、[7] の主結果を紹介する。
定理 5.1([7, Theorem 5.1]) (主結果:小さい初期エネルギーに対する大域的存在と収束) ある ϵ0(n) > 0 が存在して、
WM(ι0) :=∫M|A|2dA < ϵ0
をみたす任意の ι0 : M → En に対し、ι0 を初期条件とする Willmore flow が全時間において C∞ 級に存在して、全臍的な球面に収束する。
この定理を証明するために、それ自身また意味を持つ次の定理が用意されている。
定理 5.2([7, Theorem 5.2]) (面積の評価) ある ϵ1(n) > 0 が存在して、
WM(ι) :=∫M|A|2dA ≤ ϵ < ϵ1
をみたす任意の Willmore flow ι :M × [0, T ) → En に対し、次の評価式が成り立つ。
(1− cϵ)∫MdA0 ≤
∫MdA ≤ (1 + cϵ)
∫MdA0,∫ t
0
∫M(|∇A|2 + |A|2|A|2)dAds ≤ cϵ
∫MdA0.
12
(定理 5.1 の略証)Step 1. 定理 5.2 より、途中の時刻における面積は、初期時刻における面積と余り変わらない。Step 2.([7, Lemma 5.3]) ある r0 > 0 が存在して、次の不等式をみたす。∫
Mr0 (x)|A(t)|2dA ≤ ϵ1 (x,∈ En, t ∈ [0,∞)).
すなわち、ある半径 r0に対しては、どこが中心の球においても、全時刻において、Willmore
エネルギーは、特定の値以上には集中しない。さもなくば、blowup が構成出来る。エネルギーが小さいため、極限は、定理 3.1 より有限個の平面または球面にならざるを得ない。ところがこれは、定理 4.7 で示した非自明性に反する。Step 3.([7, Lemma 5.4]) limj→∞ tj = ∞ である任意の時刻の列 tj (j ∈ N) に対し、点列 xj ∈ En (j ∈ N) とM の微分同相の列φj :M →M が存在して、部分列をとれば、はめ込みの列 ι(φj, tj)− xj は、全臍的球面を像とする埋め込みにCk 級に収束する。 実際、任意に一点 p ∈M を固定し、xj := ι(p, tj) とおけば、blowup しなくても、写像の列 ι(·, tj) に Langer [10] の結果が適用できて、その極限として、有限個の平面または球面を得る。 ところが、定理 5.2 で与えられた面積の評価(途中の時刻における面積が、初期時刻における面積と余り変わらない)の内、特に上からの評価から、平面は除外され、補題 4.6
同様にして、成分はただ一つの球面とわかる。 従って特に、Willmore エネルギーの極限は
limj→∞
WM(ι) = limj→∞
∫M|A(tj)|2dAtj = 0
である一方で、面積の極限は
limj→∞
∫MdAtj ∈ (0,∞)
と言うことになる。Step 4.([7, Lemma 5.5]) t ∞ とするとき、ある λ > 0 が存在して、次が成り立つ。
||∇kA(t)||L∞ ≤ cke−λt (k ≥ 1),
||A||L∞ ≤ c0e−λt.
すなわち、曲率が指数 order で減衰する。この評価により、実際には部分列を取らなくても、Ck 級に収束することがわかる。 (略証終)
6 その後の展開
Kuwert-Schatzle は続く [9] において、E3 へのはめ込みの場合には、球面への収束の条件が、次のように具体的に意味のある範囲まで緩めることが出来ることを示した。
13
定理 6.1.([9, Theorem 5.2])
W(ι0) ≤ 8π
をみたす ι0 : S2→E3 に対し、ι0 を初期条件とする Willmore flow が全時間において C∞
級に存在して、全臍的な球面に収束する。
定理 6.2.([9, Theorem 5.3]) 集合
M1,δ := ι : T 2 ⊆ E3 Willmore はめ込み | W(ι) ≤ 8π − δ
は、Mobius 変換を法として、E3 内の compact 曲面の C∞ 級収束に関して compact である。
Willmore flow が短時解しか存在しない、すなわち T < ∞ のとき、rj ∼ 1 またはrj → ∞ のようなことは起こり得ないことが、[8, Theorem 1.2] において示された。従ってこの場合は、blowup を考えるだけでよかったが、一方、長時解が存在する、すなわちT = ∞ のときは、rj ∼ 1 も rj → ∞ も可能性があり、rj ∼ 1 の場合は元のサイズのままで収束を考えられるが、rj → ∞ の場合は縮小する方向で rescale を考える必要があり、その場合の極限は blowdown と呼ぶことにする。 前々節では blowup の非自明性について言及したが、Chill-Fasanagova-Schatzle [3] は、実は blowup または blowdown は compact ではあり得ないことを示した。
定理 6.3.([3, Theorem 1.1]) 閉曲面 M の任意の Willmore flow (ιt :M → En)t に対し、blowup または blowdown の成分はいずれも compact ではない。
定理 6.4.([3, Theorem 1.2]) Willmore はめ込み ιW : M → E3 が Willmore 汎関数をCk(M,E3) (k ≥ 2) 内で局所的に最小とするならば、(すなわち、ある δ > 0 が存在して
W(ι) ≥ W(ιW ) (∀ι s.t. ||ι− ιW ||Ck ≤ δ)
を満たすならば、)ある ϵ > 0 が存在して、
||ι0 − ιW ||W 2,2∩C1 < ϵ
を満たす任意のはめ込み ι0 : M → E3 に対し、ι0 を初期条件とする Willmore flow (ιt)t
が全時間において C∞ 級に存在して、適当な微分同相 Ψt : M → M による座標変換を法として、やはり Willmore 汎関数を Ck 内で局所的に最小とするWillmore はめ込みι∞ :M → E3 に C∞ 級に収束する。 すなわち、次が成り立つ。
ιt Ψt → ι∞ (t→ ∞).
14
種数 pの向き付けられた compact曲面M のC∞ 級はめ込み ι :M → En の類をC(n, p)とし、その中での Willmore エネルギーの下限を次で表す。
βnp = infW(ι) | ι ∈ C(n, p)
このとき、次の事実が知られていた。
定理 6.5. (Simon [17]) Douglas 型条件
βnp < 4π +min
r∑
i=1
(βnpi− 4π) : 1 ≤ pi < p,
r∑i=1
pi = p
=: βn
p
が成り立つならば、βnp を最小化する曲面が C(n, p) 内に存在する。
特に p = 1 のとき、Douglas 型条件が成り立つ。
これは rough に言えば、種数を分けて分離するより、一つにつながっていた方が得なら、最小化解が存在すると言うことである。 さらに、この条件を用いて、次の結果が得られた。
定理 6.6.(Bauer-Kuwert [2]) 任意の n ≥ 3 と p ≥ 1 に対し、Douglas 型条件が成り立つ。従って、 βn
p を最小化する曲面が C(n, p) 内に存在する。特に βnp > 4π である。
定理 6.7. (Kuhnel-Pinkall [4], Kusner [5])
4π < βnp < 8π (p ≥ 1)
(略証) 下からの評価は、βnp を実現する曲面が存在するが、それが全臍的球面ではない
ことからわかる。上からの評価は、Lawson [11] の例が実現している。 (略証終)
Kuwert-Li-Schatzle [6] は、この βnp の挙動について、次の事実を示した。
定理 6.8([6, Theorem 1.1]) 同上の仮定の下で、次の等式が成り立つ。
limp→∞
βnp = 8π.
[6] には、βnp は p について単調増加であると予想された(過去形)とあるが、結局ど
うなのかは未解決のようである。
15
7 Willmore トーラスの gap 定理
最後に、Mondino-Nguyen [14] によるWillmore トーラスの gap 定理を紹介して、本稿を終わりたい。 標準的 Cliffordトーラス ιCl : T
2 → E3 に対し、TCl := ιCl(T2)とおく。まず、 TCl にお
いてはWillmore 汎関数 W の第2変分 W ′′ は半正定値であり、その核 K ⊂ C∞(TCl) ⊂H2(TCl)は無限小Mobius変換 wにより生成され、またそれらが(無限小でない)Mobius
変換Φtw(TCl) = ExpTCl
(tw) (|t| :十分小)
を引き起こすことに注意する。核 K の直交補空間 K⊥ ⊂ H2(TCl) においては、第2変分W ′′ が正定値となる。
BCk
δ (0) := w ∈ Ck(TCl) | ||w||Ck(TCl) < δ
とおく。このとき、次が成り立つ。
補題 7.1.([14, Lemma 3.1]) k ≥ 2 とする。( M が compact か非 compact かを問わず、)ある δ > 0 と連続関数の族
u : BCk
δ (0) → K u(0) = 0,
v : BCk
δ (0) → Ck(TCl) ∩K⊥ v(0) = 0
で、Ck ノルムに関する ιCl の δ 近傍に属する任意の C∞ 級埋め込み ι :M → E3 に対し、ある
w ∈ Ck(TCl), ||w||Ck(M) < δ
が存在して、M = ExpTCl
(w) = Exp[ExpTCl(u(w))](v(w))
が成り立つようなものが存在する。
ここで、ExpTCl(u(w)) は、小さい Mobius 変換 Φu(w) による TCl の像 Φu(w)(TCl) に
なっている。補題が主張する処は、Ck ノルムに関して ιCl に近い任意の埋め込み ι は、Mobius 変換を法として、TCl 上のグラフとして表せると言うことである。 補題 7.1 を用いて、Mondino-Nguyen は次の gap 定理を示した。
定理 7.2.([14, Theorem 1.1]) ( Willmore トーラスの gap定理) ある ϵ0 > 0 が存在して、C∞ 級はめ込み ι : T 2 → E3 が
W(ι) ≤ 2π2 + ϵ0
を満たすならば、T 2 は、標準的 Clifford トーラス T 2Cl の適当な E3 の Mobius 変換によ
る像である。特に、次が成り立つ。
W(ι) = 2π2.
16
(略証) 共形 CliffordトーラスでないWillmoreトーラスの列 ιnで、limn→∞W(ιn) = 2π2
(単調減少)を満たすものが存在したと仮定する。定理 6.2より、ιn は、(部分列をとれば)ある Willmore トーラス ι∞ にC∞ 級に収束する。このとき Willmore エネルギーも収束してW(ι∞) = 2π2 となるので、Marques-Neves [13] により、ι∞ は共形 Clifford トーラスでなければならない。ここで補題 7.1 より、十分大きい n に対しては、ιn(T 2) は ι∞(T 2)
上のグラフとして表される。このような ιn(T2)の存在は、第2変分 W ′′ がK⊥ 上正定値
であることに矛盾する。 (略証終)
この gap 定理から、Willmore flow の収束に関しても、次の結果が得られた。
定理 7.3.([14, Cororally 1.3]) ιC : T 2 → E3 は共形 Clifford トーラスとする。あるϵ0 > 0 が存在して、
||ι0 − ιC ||W 2,2∩C1 ≤ ϵ0
を満たす任意のはめ込み ι0 : T2→E3 に対し、ι0 を初期条件とする Willmore flow (ιt)t が
全時間において C∞ 級に存在して、適当な微分同相Ψt : T2 → T 2 による座標変換を法と
して、ある共形 Clifford トーラス ιC : T 2 → E3 に C∞ 級に収束する。すなわち、次が成り立つ。
ιt Ψt → ιC (t→ ∞).
(略証) 定理 6.4 より、Willmore flow (ιt)t は、ある Willmore トーラス ι∞ に C∞ 級に収束する。ここで定理 7.2 の ϵ0 に対し、初期曲面 ι0 が
W(ι0) ≤ 2π2 + ϵ0
を満たすならば、極限曲面 ι∞ も
W(ι∞) ≤ 2π2 + ϵ0
を満たすので、定理 7.2 より、ι∞ は共形 Clifford トーラスでなければならない。(略証終)
さらに、一般種数の場合についても、
定理 7.4.([14, Theorem 1.4]) ある ϵ0 > 0 が存在して、種数 p ≥ 2 である M の任意のC∞ 級はめ込み ι :M → E3 に対して、次が成り立つ。
W(M) ≥ 2π2 + ϵ0.
17
(証明) 定理 6.8より limp→∞ β3p = 8π で、一方Marques-Neves [13]によりW(M) > 2π2
(p > 1) である。 (証明終?)
となっているが、これだけでは、証明に gap があるように思われる。決定稿におけるより詳細な記述を待ちたい。
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19
4 次元de Sitter空間内の平均曲率ベクトルが零である曲面について
安藤 直也 (熊本大学)
はじめに
M を向きづけられた 2 次元多様体とし, ι : M −→ S3 を M の S3 へのはめこみとす
る. このとき ι に関する共形Gauss写像 γ は M から 4 次元 de Sitter空間 S41 への写像
であり, Reg (M, ι) を ι に関する M の全ての非臍点からなる集合とするとき, γ|Reg (M,ι)
は Reg (M, ι) 上に (正定値の) Riemann計量 g を導くはめこみであり, g は ι が導く計量
g と共形的である: H を ι に関する M の平均曲率としK を g に関する M の曲率とす
るとき, g = (H2 −K + 1)g が成り立つ. さらに, ι : M −→ S3 がWillmoreはめこみであ
ることと γ|Reg (M,ι) に関する平均曲率ベクトルが恒等的に零であることは同値であり, ま
た M の S41 への空間的はめこみ γ′ で平均曲率ベクトルが零であるものに対し γ′ を共形
Gauss写像とする S3 へのWillmoreはめこみ ι : M −→ S3 が存在する. こうして S3 内
のWillmore曲面は, S41 内の平均曲率ベクトルが恒等的に零である空間的曲面とほとんど
同一視される.
本稿の目的は, S41 内の空間的曲面で誘導計量に関する曲率が 1 (S4
1 の一定断面曲率)に
等しくならずかつ平均曲率ベクトルが恒等的に零であるものを局所的に特徴づけること
である. 第1節において共形Gauss写像の定義および本稿における議論に必要な諸性質を
確認する. 筆者は本稿の目的を達成するために, まず 4 次元 Riemann空間型内の極小曲
面の局所的な特徴づけに関する議論を行ない, そしてそれを参考にして S41 内での考察を
行なった. 本稿はあくまでも S41 における考察を主な目的とするが, 4 次元Riemann空間
型における結果は主定理を理解するのに役立つと筆者は考える. そこでまず第2節におい
て, 4 次元 Euclid空間 E4 を自然に 2 次元複素数空間 C2 とみなし, この中の特殊な極小
曲面である複素曲線が持つある性質について考察する. そして第3節において, C2 内の
複素曲線が持つ性質に注意して, 4 次元Riemann空間型内の極小曲面の局所的な特徴づけ
について議論する. 第4節においては, 4 次元 de Sitter空間だけではなくMinkowski空間
および反 de Sitter空間つまり 4 次元Lorentz空間型内の空間的曲面で, 誘導計量に関する
曲率が空間の一定断面曲率に等しくならずかつ平均曲率ベクトルが恒等的に零であるも
のの局所的な特徴づけを与える.
本稿作成の機会および本稿で扱われた内容を講演する機会を与えて下さった山口大学の
中内伸光先生に心から感謝の意を表します.
1
1 共形Gauss写像
〈 , 〉 を R5 の Lorentz計量とする: 〈 , 〉 は R5 の不定値で対称な双線形形式で,
x := (x0, x1, x2, x3, x4), y := (y0, y1, y2, y3, y4) ∈ R5
に対し
〈x, y〉 := −x0y0 + x1y1 + x2y2 + x3y3 + x4y4
で定義される. 以下, R5 に 〈 , 〉 が与えられた擬Riemann多様体を E51 で表す. ベクトル
x ∈ E51 が
(i) 空間的であるとは, 〈x, x〉 > 0 が成り立つときにいう;
(ii) 時間的であるとは, 〈x, x〉 < 0 が成り立つときにいう;
(iii) 光的または零的であるとは, x は零ベクトルではなくかつ 〈x, x〉 = 0 を満たすとき
にいう.
時間的または光的ベクトル x ∈ E51 が未来を向いているとは, x0 > 0 が成り立つとき
にいう. L+ を E51 の全ての未来を向いている光的ベクトルからなる集合とする. 二つの
x, y ∈ L+ に対し, x と y が一次従属であるとき x ∼ y と書くことにする. ∼ は L+ にお
ける同値関係であり, 商空間 L+/ ∼ を 3 次元単位球面 S3 と同一視できる: L+ の部分集
合 x ∈ L+ | x0 = 1 は ∼ の全ての同値類の代表元からなる集合すなわち代表系であり,
この集合は 〈 , 〉 の引き戻しを付与されることによって S3 と等長なRiemann多様体とみ
なされる.
M を向きづけられた 2 次元可微分多様体とし, ι : M −→ S3 を M の S3 へのはめこ
みとする. e4 は ι で S3 の接空間に直交する M に沿う滑らかなベクトル場で, e4 ∈ L+
および 〈e4, ι〉 = −1 を満たすとする. また e3 は ι : M −→ S3 の単位法ベクトル場で, 各
p ∈ M および M の向きを与える Tp(M) の基底 (v1, v2) に対し
(ι(p), dι(v1), dι(v2), e3(p), e4(p))
は E51 の向きを与える Tι(p)(E
51) の基底であるとする. H を ι : M −→ S3 の e3 に関する
平均曲率とする. M から 4 次元 de Sitter空間 S41 := x ∈ E5
1 | 〈x, x〉 = 1 への滑らかな写像 γι : M −→ S4
1 を γι := e3 +Hι で定義する. Reg (M, ι) を ι に関する M の全ての非
臍点からなる集合とする. Reg (M, ι) の点 p に対し, (u, v) は Reg (M, ι) における p の近
傍 Up 上の局所座標で, ∂/∂u および ∂/∂v は ι に関する主方向に含まれるとする. k1, k2
2
をそれぞれ ∂/∂u, ∂/∂v に対応する主曲率とし, k1 > k2 を仮定する. このとき Up 上で次
が成り立つ:
dγι
(∂
∂u
)= −εdι
(∂
∂u
)+Huι, dγι
(∂
∂v
)= εdι
(∂
∂v
)+Hvι, (1.1)
但し
ε :=k1 − k2
2=
√H2 −K + 1
であり, K は ι によって導かれた計量 g に関する M の曲率である. (1.1) から, γι|Reg (M,ι)
は g と共形的な計量 g を導きそして g は g = ε2g と表されることがわかる. p が ι に
関する M の臍点であるとき, p の近傍上の局所座標 (u, v) に対し (dγι)p(∂/∂u) および
(dγι)p(∂/∂v) は光的ベクトルである. 写像 γι : M −→ S41 をはめこみ ι : M −→ S3 の
共形Gauss写像と呼ぶ.
以下, Reg (M, ι) = M を仮定する. このとき γι : M −→ S41 ははめこみである. O(4, 1)
をde Sitter群 (符号数が (4, 1)であるLorentz群)とする,つまり E51 の線形変換でLorentz
計量 〈 , 〉を保つものの全体からなる群とする. O(4, 1)の元で, E51 の向きおよび未来の方向
を保つものの全体からなる集合を Gで表す. Gは O(4, 1)の部分群である. Gで S3の向き
を保つ共形変換の全体からなる群を表すとき, Gの各元 X および S3 = x ∈ L+ | x0 = 1の元 a に対し X(a) が定める E5
1 の 1 次元部分空間と S3 の唯一つの交点を X(a) で表す
ならば, X ∈ G は G の元 X を定め, こうして得られる G から G への写像は群の同型を
与える. 任意の X ∈ G に対し,
γXι = X γι (1.2)
が成り立つ ([2, 命題 4.3]). よって γXι が導く計量は X ∈ G に依らず, このことから特
にコンパクトな曲面に対するWillmore汎関数の値は空間の共形変換によって不変である
ことがわかる.
M 上の E51 -値関数 ν を次のように定義する:
ν :=1
2
(H2u
A2ε2+
H2v
B2ε2+H2
)ι− Hu
A2εdι
(∂
∂u
)+
Hv
B2εdι
(∂
∂v
)+He3 + e4, (1.3)
但し (u, v) は M の 1 点の近傍上の局所座標で, ∂/∂u および ∂/∂v は ι に関する主方
向に含まれるとし, また A, B は g = A2du2 + B2dv2 によって与えられる正値関数であ
る. このときまず ν は L+-値関数である, つまり ν は L+ に値をとることがわかる. また
〈ν, ι〉 = −1 がわかる. また ι, ν の各々は γι, dγι(∂/∂u), dγι(∂/∂v) の各々と Lorentz計量
〈 , 〉 に関して直交しているので, ι, ν ははめこみ γι : M −→ S41 の法ベクトル場である.
3
はめこみ γι : M −→ S41 の法ベクトル場 ι, ν の各々に関する型 (形)作用素のトレースを
求めることができる. (1.1) から,
∇∂/∂uι = −1
εdγι
(∂
∂u
)+Hu
ει, ∇∂/∂vι =
1
εdγι
(∂
∂v
)− Hv
ει
を得る, 但し ∇ は E51 の Levi-Civita接続である. よって γι の法ベクトル場 ι に関する型
(形)作用素のトレースは零である. また 法ベクトル場 ν に関する型 (形)作用素のトレー
スは −(ΔH + 2H)に等しいことがわかっている ([2, 補題 4.5]), 但し Δ は g に関する M
上の Laplacianである.
h を γι : M −→ S41 に関する M の第二基本形式とする. このとき M の 1 点での二つ
の接ベクトル v1, v2 および γι の法ベクトル ξ に対し,
g(Aξ(v1), v2
)=⟨h(v1, v2), ξ
⟩(1.4)
が成り立つ, 但し Aξ は ξ に関する M の型 (形)作用素である. よって 〈ν, ι〉 = −1 およ
び (1.4) を用いて,
1
A2ε2h
(∂
∂u,∂
∂u
)+
1
B2ε2h
(∂
∂v,∂
∂v
)=(ΔH + 2H
)ι (1.5)
を得る. (1.5) から,(ΔH + 2H
)ι は γι : M −→ S4
1 の平均曲率ベクトルの 2 倍に等しいこ
とがわかる. Δ を g に関する M 上の Laplacianとすると,(H2 −K + 1
)Δ = Δ が成り
立つ. よってWillmore曲面に対するEuler-Lagrange方程式 ([2, p. 12] の式 (2.18))に注意
して, 次の定理を得る:
定理 1.1 ([12]) Reg (M, ι) = M を仮定する. このとき共形Gauss写像 γι : M −→ S41 の
平均曲率ベクトルが恒等的に零であることと, ι : M −→ S3 がWillmoreであることは同
値である.
注意 γ : M −→ S41 は空間的なはめこみで, 平均曲率ベクトルが恒等的に零でありかつ光
的法ベクトル場 ι に関する型 (形)作用素 Aι が零にはならないとする. ι が ι0 ≡ 1 を満た
すとするとき, M 上の関数 H で (γ −Hι)0 ≡ 0 を満たすものが存在する. e3 := γ −Hι
とおくと,
• ι は M の S3 へのはめこみで, e3 および H をそれぞれ単位法ベクトル場および平
均曲率とし,
• γ または −γ は ι の共形Gauss写像 γι に等しく, 従って ι はWillmoreはめこみで
ある.
4
2 C2 内の複素曲線
2.1 C2 内の複素曲線のある性質
D を複素平面 C の連結開集合とし, F を D から C2 への正則写像とする. このと
き F は D 上の二つの正則関数 f 1, f 2 の組として表される: 任意の w ∈ D に対し,
F (w) = (f 1(w), f 2(w)). 複素変数 w の実部および虚部をそれぞれ u, v とし, f i の実部お
よび虚部をそれぞれ ai, bi とする. このとき ai, bi は 2 変数 u, v の関数とみなされ, 従っ
て F を R2 の開集合とみなされた D からC2 と同一視された 4 次元Euclid空間 E4 への
写像とみなすことができる. f i は正則なので, ai, bi はCauchy-Riemannの方程式 aiu = biv,
aiv = −biu を満たす. 従って Fu, Fv を
Fu = (a1u, b
1u, a
2u, b
2u), Fv = (−b1u, a1
u,−b2u, a2u) (2.1)
と表すことができる. E4 のRiemann計量を 〈 , 〉で表す. (2.1)から, D の各点で写像 F の
微分 dF による ∂/∂u の像 dF (∂/∂u) = Fu の長さは ∂/∂v の像 dF (∂/∂v) = Fv の長さに
等しいことがわかる: |dF (∂/∂u)| = |dF (∂/∂v)|,但し接ベクトル xに対し, |x| :=√〈x, x〉.
また 〈dF (∂/∂u), dF (∂/∂v)〉 = 0 がわかる.
F を前段落におけるものとし,さらに F ははめこみであるとする. このとき λ := |Fu| =
|Fv| は正である. ∇ を E4 の Levi-Civita接続とするとき,
Fuu = ∇∂/∂uFu, Fuv = ∇∂/∂uFv = ∇∂/∂vFu, Fvv = ∇∂/∂vFv
が成り立つ. Cauchy-Riemannの方程式から Fvv = −Fuu がわかり, 従って F は極小であ
る. また
ν1 :=1
λ(−a2
u, b2u, a
1u,−b1u),
ν2 :=1
λ(−b2u,−a2
u, b1u, a
1u)
(2.2)
とおくと, ν1, ν2 ははめこみ F の単位法ベクトル場でありまた互いに直交していることが
わかる. θ ∈ R に対し ν(θ) := (cos θ)ν1 + (sin θ)ν2 とおくとき, ν(θ) は F に関する単位
法ベクトル場である. この ν(θ) に関する F の主曲率 (型 (形)作用素 Aν(θ) の固有値)は
±√l(θ)2 +m(θ)2/λ2 で与えられる, 但し
l(θ) := 〈∇∂/∂uFu, ν(θ)〉, m(θ) := 〈∇∂/∂uFv, ν(θ)〉 (2.3)
である. そして
Fuv = (−b1uu, a1uu,−b2uu, a2
uu)
5
に注意して
l(θ) = 〈Fuu, ν1〉 cos θ + 〈Fuu, ν2〉 sin θ,
m(θ) = −〈Fuu, ν2〉 cos θ + 〈Fuu, ν1〉 sin θ
がわかるので, 主曲率は θ ∈ R の取り方に依らないことがわかる.
2.2 各点での主曲率が単位法ベクトルの取り方に依らないE4 内の極小
曲面
F を R2 の連結開集合 Dから E4 へのはめこみとし, R2 と C の同一視によりF は共形
的であるとする. R2 の座標を (u, v)とするとき, λ := |Fu| = |Fv| > 0 および 〈Fu, Fv〉 = 0
が成り立つ. ν1, ν2 ははめこみ F の単位法ベクトル場で, 互いに直交しているとする.
ν(θ) := (cos θ)ν1 + (sin θ)ν2 とおき, l(θ), m(θ) を (2.3) の中でのようにおく. F が極小は
めこみであると仮定し, さらに ν(θ) に関する F の主曲率±√l(θ)2 +m(θ)2/λ2 が θ ∈ R
に依らないと仮定する. このとき
l(θ)2 +m(θ)2
= (l21 +m21) cos2 θ + 2(l1l2 +m1m2) cos θ sin θ + (l22 +m2
2) sin2 θ(2.4)
(但し li := 〈∇∂/∂uFu, νi〉, mi := 〈∇∂/∂uFv, νi〉) から
l21 +m21 = l22 +m2
2, l1l2 +m1m2 = 0
がわかり, 従って (l2, m2) = ±(−m1, l1) を得る. 以下,
l := l1 = m2, m := −m1 = l2
とする. そして
α :=1
λ2〈∇∂/∂uFu, Fu〉, β :=
1
λ2〈∇∂/∂uFu, Fv〉
とおくと,
∇∂/∂uFu = αFu + βFv + lν1 +mν2,
∇∂/∂uFv = −βFu + αFv −mν1 + lν2
(2.5)
が成り立つ. J を E4 の標準的な複素構造とする. そして D の 1 点 a に対し,
(JFu)a = (Fv)a, (Jν1)a = (ν2)a
6
が成り立つと仮定する. このとき (2.5) を用いて,
(∇∂/∂u(JFu))a = (J(∇∂/∂uFu))a
= (αJFu + βJFv + lJν1 +mJν2)a
= (∇∂/∂uFv)a
を得る. 同様に (∇∂/∂v(JFu))a = (∇∂/∂vFv)a を得る. 一般に, 0 以上の整数 i, j に対し,
∂i+j
∂ui∂vj(JFu − Fv)
∣∣∣∣a
= 0
が成り立つ. 従って JFu ≡ Fv が成り立ち, よって J を D ⊂ C の複素構造とするとき
J dF = dF J が成り立つ, つまり F は正則写像である.
以上から, 次の定理を得る:
定理 2.1 ([10]) F を R2 の連結開集合 D の E4 への共形的な極小はめこみとする. こ
のとき次の (a), (b) は同値である:
(a) E4 のある等長変換 T が存在して, T F は正則写像である;
(b) D の各点での F の主曲率が単位法ベクトルの取り方に依らない.
注意 [11] において, Riemann面 M の C2 への正則はめこみの局所的な特徴づけが, 誘導
計量および M 上の正則 3 次微分の観点でなされている.
7
3 4 次元Riemann空間型内の極小曲面
3.1 Gauss, CodazziおよびRicciの方程式
本節においては, 4 次元Riemann空間型内の極小曲面の, 空間からの誘導計量およびあ
る法ベクトル場に関する主方向の観点での局所的な特徴づけについて議論したい.
N を 4 次元実空間型とし, L0 を N の一定断面曲率とする. M を向きづけられた 2 次
元多様体とし, ι : M −→ N を M の N への極小はめこみとする. e1, e2 は M の 1 点の
近傍 U 上のベクトル場で, g(ei, ej) = δij を満たしまた (e1, e2) は M の向きを与えると
する, 但し g は ι によって導かれた M 上の計量である. ν1, ν2 は ι : U −→ N の単位法
ベクトル場で, N 上の計量に関して互いに直交しているとする. L0 = 0 のとき, N = E4
と考えることができ従って e1, e2, ν1, ν2 は U 上の E4-値関数であると考えることができ,
そして U の任意の点 a に対しこれらは Tι(a)(E4) の基底をなしている. L0 > 0 のとき, N
を 5 次元 Euclid空間 E5 内の原点を中心とし半径が 1/√L0 である超球面と考えること
ができる. L0 < 0 のとき, 第1節で現れた E51 の Lorentz計量 〈 , 〉 を用いて N が
N = x ∈ E51 | 〈x, x〉 = 1/L0
で与えられていると考えることができる. 従って L0 = 0の場合, ι, e1, e2, ν1, ν2 は U 上の
R5-値関数であると考えることができ, そして U の任意の点 a に対しこれらは Tι(a)(R5)
の基底をなしている.
θ ∈ R に対し ν(θ) := (cos θ)ν1 + (sin θ)ν2 とおく. ν(θ) は ι に関する単位法ベクトル場
である. ν(θ) に関する ι の主曲率の一つを k(θ) で表す. そして U の各点 a で
k1 := max|k(θ)| | θ ∈ R
とおく. k1 を ι の a での最大主曲率と呼ぶことにする. |k(θ)| = k1 を満たす θ ∈ R に
対し, ν(θ) に関する ι の型 (形)作用素 Aν(θ) の固有方向を ι の a での最大主方向と呼ぶ
ことにする. 以下においては, k1 > 0 を仮定する. また, 後述の 3.2節および 3.3節におい
ては |k(0)| = k1 が成り立つように ν1 を選ぶことができる場合を考えるので, この時点で
|k(0)| = k1 を仮定する. そして e1, e2 は U の各点で ι の最大主方向に含まれるとし, さ
らに U 上
Aν1(e1) = k1e1, Aν1(e2) = −k1e2
を仮定する. k2 := k(π/2) とおくと, (2.4) に注意してまた必要ならば ν2 の向きを取り直
すことで U 上
Aν2(e1) = k2e2, Aν2(e2) = k2e1
が成り立つことがわかる.
8
ω10, ω
20 は U 上の 1 形式で, U の任意の点で (e1, e2) の双対基底をなすとする. このと
き dι を dι = e1ω10 + e2ω
20 と表すことができる. さらに, 以上に注意して,
(dι de1 de2 dν1 dν2)
= (ι e1 e2 ν1 ν2)
⎛⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎝
0 −L0ω10 −L0ω
20 0 0
ω10 0 −ω2
1 −k1ω10 −k2ω
20
ω20 ω2
1 0 k1ω20 −k2ω
10
0 k1ω10 −k1ω
20 0 −α
0 k2ω20 k2ω
10 α 0
⎞⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎠
(3.1)
を得る, 但し ω21, α は U 上の 1 形式である. ω2
1 を ω21 = l1ω
10 + l2ω
20 と表すことができる,
但し li は ei の積分曲線の測地的曲率である. また α を α = α1ω10 + α2ω
20 と表すことに
する. (3.1) の両辺に d を作用させることによって, 以下に記す幾つかの式を導くことが
できる. ddι = 0 から,
dω10 = l1ω
10 ∧ ω2
0, dω20 = l2ω
10 ∧ ω2
0 (3.2)
を得る. dde1 = 0 および (3.2) から,
K = −k21 − k2
2 + L0, e2(k1) = 2l1k1 − α1k2, e1(k2) = −2l2k2 + α2k1 (3.3)
を得る, 但し K は g に関する M の曲率であり
Kω10 ∧ ω2
0 = −dω21 (3.4)
を満たす. dde2 = 0 および (3.2) から,
K = −k21 − k2
2 + L0, e1(k1) = −2l2k1 + α2k2, e2(k2) = 2l1k2 − α1k1 (3.5)
を得る. (3.3) の第一式および (3.5) の第一式は同じものであり, Gaussの方程式である.
k1 > 0 を仮定しているので, Gaussの方程式から K < L0 がわかる. 逆に, K < L0 なら
ばやはりGaussの方程式から k1 > 0 がわかる. (3.3) および (3.5) に現れるGaussの方程
式以外の式はCodazziの方程式であり, これらをまとめて
dk = 2k∗ω21 −
√−1 k∗α (3.6)
と表すことができる, 但し k := k1 +√−1k2 であり ∗ はHodgeの ∗-作用素である. また
ddνi = 0 から得られる式で以上には現れていないものは
e1(α2) − e2(α1) + l1α1 + l2α2 = −2k1k2 (3.7)
である. (3.7) はRicciの方程式であり, これを
dα = −2k1k2ω10 ∧ ω2
0 (3.8)
と表すことができる.
9
3.2 k1 ≡ k2 の場合
U 上 k1 ≡ k2 が成り立つとし, k0 := k1 = k2 とおく (k0 は一般には U の点の取り方に
依る). このとき 3.1節で得られた式は
K − L0 = −2k20, d log k0 = 2∗ω2
1 − ∗α, dα = −2k20ω
10 ∧ ω2
0 (3.9)
と表される. (3.4) および (3.9) の第一式と第三式から,
dα = −dω21 − L0ω
10 ∧ ω2
0
がわかる. (u, v) を U 上の等温座標とする. このとき U 上の関数 θ で ιuv と ν(θ) が直交
するようなものが存在することに注意すると, e1, e2 はある関数 φを用いて e1 = e−φ∂/∂u,
e2 = e−φ∂/∂v と表されると仮定してよい. このとき ∗ω21 = −dφ が成り立ち, 従って (3.9)
の第二式から ∗α = −d(log k0 + 2φ) を得る. ψ := 2φ+ log k0 とおく. このとき (3.9) の第
一式から
φuu + φvv = 2e2ψ
e2φ− L0e
2φ (3.10)
を得ることができ, (3.9) の第三式から
ψuu + ψvv = −2e2ψ
e2φ(3.11)
を得ることができる.
φ, ψ は R2 の連結開集合 D 上の 2 変数 u, v の関数で, (3.10) および (3.11) を満たす
とする. このとき
ω10 := eφdu, ω2
0 := eφdv, ω21 := ∗dφ, α := ∗dψ, k1 = k2 :=
eψ
e2φ(3.12)
とおくと, D の各点 a の近傍 U 上で
• L0 = 0 ならば, (3.1) を満たす E4-値関数 ι, e1, e2, ν1, ν2 が存在し,
• L0 = 0 ならば, (3.1) を満たす R5-値関数 ι, e1, e2, ν1, ν2 が存在する;
さらに (3.1) を満たす ι, e1, e2, ν1, ν2 は a での初期値に対し一意である. 初期値として,
〈ei, ej〉 = δij , 〈νi, νj〉 = δij , 〈ei, νj〉 = 0 (3.13)
を満たすものをとり, さらに L0 = 0 の場合には
〈ι, ι〉 = 1/L0, 〈ι, ei〉 = 0, 〈ι, νj〉 = 0 (3.14)
も満たすものをとると,
10
• ι : U −→ N は極小はめこみであり,
• dι(∂/∂u) = eφe1, dι(∂/∂v) = eφe2 が成り立ち従って ι による誘導計量は g =
e2φ(du2 + dv2) で与えられ, そして g に関する曲率 K は K < L0 を満たし,
• ν1, ν2 は互いに直交する ι : U −→ N の単位法ベクトル場であり,
• U の各点での ι の主曲率は単位法ベクトルの取り方に依らず, ±eψ/e2φ によって与
えられる.
この段落に記した事柄については後述の第5節で示したい. ここではこれらを認めること
によって, 次の定理を得る:
定理 3.1 ([10]) (M, g) を 2 次元Riemann多様体とし, (M, g) の曲率 K は実数 L0 より
小さいとする. このとき次の (a), (b) は同値である:
(a) M の各点の近傍 U の N への等長かつ極小なはめこみで, U の各点での主曲率が単
位法ベクトルの取り方に依らないものが存在する;
(b) M の各点の近傍上の等温座標 (u, v) に対し, ある関数 φ, ψ が g = e2φ(du2 + dv2),
(3.10) および (3.11) を満たす.
さらに, これら (a), (b) が成り立つならば, (a) に現れるはめこみは N の等長変換との合
成を除いて計量 g によって一意に定まり, U の各点での主曲率は ±eψ/e2φ で与えられる.
3.3 k1 > |k2| の場合以下においては, k1 > |k2| を仮定する. このとき (3.6) を用いて,
0 = ddk
= 2dk ∧ ∗ω21 + 2kd∗ω2
1 −√−1dk ∧ ∗α−√−1 kd∗α
= 2kd∗ω21 −
√−1 kd∗α(3.15)
を得る. k21 − k2
2 = 0 なので, (3.15) から d∗ω21 = 0 および d∗α = 0 を得る. よって U 上
の関数 φ および ψ が存在して dφ = −∗ω21, dψ = −∗α を満たす. dφ = −∗ω2
1 から, U 上
の等温座標 (u, v) で e1 = e−φ∂/∂u, e2 = e−φ∂/∂v を満たすものが存在することがわかる.
dψ = − ∗α および (3.8) から,
1
e2φ(ψuu + ψvv) = −2k1k2 (3.16)
11
を得る. (3.3) の第一式に注意して, U 上の関数 θ で
k1 =√L0 −K cos θ, k2 =
√L0 −K sin θ (3.17)
を満たすものが存在することがわかる. よって k =√L0 −Ke
√−1θ および (3.6)を用いて,
d log√L0 −K = −2dφ+ sin 2θdψ, dθ = cos 2θdψ (3.18)
を得る. (3.18) の第二式から, θ と ψ は
sin 2θ = tanh 2ψ (3.19)
を満たすと仮定できる. 従って (3.18) の第一式を用いて, φ は
L0 −K =1
e4φcosh 2ψ (3.20)
を満たすと考えてよい. (3.20) から,
φuu + φvv =1
e2φcosh 2ψ − L0e
2φ (3.21)
を得る. また (3.16), (3.17), (3.19) および (3.20) から,
ψuu + ψvv = − 1
e2φsinh 2ψ (3.22)
を得る.
φ, ψ は R2 の連結開集合 D 上の 2 変数 u, v の関数で, (3.21) および (3.22) を満たす
とする. このとき
ω10 := eφdu, ω2
0 := eφdv, ω21 := ∗dφ, α := ∗dψ (3.23)
および
k1 +√−1k2 :=
√cosh 2ψ
e2φexp
(√−1
2sin−1(tanh 2ψ)
)
=1
e2φ(coshψ +
√−1sinhψ)
(3.24)
(但し x ∈ (−1, 1)に対し sin−1x ∈ (−π/2, π/2)とする)とおくと, D の各点の近傍 U 上で
• L0 = 0 ならば, (3.1) を満たす E4-値関数 ι, e1, e2, ν1, ν2 が存在し,
• L0 = 0 ならば, (3.1) を満たす R5-値関数 ι, e1, e2, ν1, ν2 が存在する;
さらに (3.1) を満たす ι, e1, e2, ν1, ν2 は 1 点での初期値に対し一意である. 初期値とし
て, (3.13) を満たすものをとり, さらに L0 = 0 の場合には (3.14) も満たすものをとると,
12
• ι : U −→ N は極小はめこみであり,
• dι(∂/∂u) = eφe1, dι(∂/∂v) = eφe2 が成り立ち従って ι による誘導計量は g =
e2φ(du2 + dv2) で与えられ, そして g に関する曲率 K は K < L0 を満たし,
• ν1, ν2 は互いに直交する ι : U −→ N の単位法ベクトル場であり,
• U の各点での νi に関する ι の主曲率は±ki によって与えられ, k1 > |k2| が成り立つので k1 は最大主曲率である.
この段落に記した事柄についてはやはり後述の第5節で示したい. ここではこれらを認め
ることによって, 次の定理を得る:
定理 3.2 ([10]) (M, g) を 2 次元Riemann多様体とし, (M, g) の曲率 K は実数 L0 より
小さいとする. D1, D2 は M 上の 1 次元分布で, M の任意の点で g に関して直交してい
るとする. このとき次の (a), (b) は同値である:
(a) M の各点の近傍 U の N への等長かつ極小なはめこみで, U の各点での主曲率が単
位法ベクトルの取り方に依りかつ D1, D2 が U の任意の点での最大主方向を与え
るものが存在する;
(b) M の各点の近傍上のある等温座標 (u, v) およびある関数 φ, ψ が g = e2φ(du2 +dv2),
∂/∂u ∈ D1, ∂/∂v ∈ D2, (3.21) および (3.22) を満たす.
さらに, これら (a), (b) が成り立つならば, (a) に現れるはめこみは N の等長変換との合
成を除いて計量 g および 1 次元分布 D1, D2 によって一意に定まり, D1, D2 に対応する
主曲率は±(1/e2φ)coshψ で与えられる.
注意 [18] において, (3.21), (3.22) に対応する方程式系が現れている.
注意 3.2節においても 3.3節においても φ および ψ はそれぞれ ω21 および α によって同
様のやり方で与えられ, そして 3.2節における主曲率 k1, k2(= k1) の和も 3.3節における
上述の主曲率 k1 = (1/e2φ)coshψ, k2 = (1/e2φ)sinhψ の和も φ, ψ を用いて eψ/e2φ の定数
倍と表されることがわかる.
注意 3.2節および 3.3節においてはそれぞれ k1 ≡ k2 の場合および k1 > |k2|の場合を扱ったが, 一般には 1 点 a で k1 = k2 が成り立ちかつその任意の近傍のある点で k1 > |k2| が成り立つ場合が考えられる. 従ってこの場合には a の近傍上で単位法ベクトル場 ν1 を連
続に定めることができない可能性がある.
13
4 4 次元Lorentz空間型内の平均曲率ベクトルが零である
空間的曲面
4.1 Gauss, CodazziおよびRicciの方程式
実数 L0 に対し, 連結, 単連結, 完備かつ L0 を一定断面曲率とする 4 次元 Lorentz空間
型を N41 で表す. L0 が零であるならば, N4
1 はMinkowski空間 (以下 E41 で表す)である.
L0 が正であるならば, N41 は de Sitter空間 (以下 S4
1(L0) で表す) であり, 第一節で現れた
E51 において
S41(L0) =
x ∈ E5
1
∣∣∣∣ 〈x, x〉 =1
L0
と表される. 従って S41(1) = S4
1 が成り立つ. S41(L0) の計量は E5
1 の計量の制限である.
〈 , 〉′ は R5 の不定値で対称な双線形形式で,
x := (x0, x1, x2, x3, x4), y := (y0, y1, y2, y3, y4) ∈ R5
に対し
〈x, y〉′ := −x0y0 − x1y1 + x2y2 + x3y3 + x4y4
で定義されるとする. R5 に 〈 , 〉′ が与えられた擬Riemann多様体を E52 で表す. L0 が負
であるならば, N41 は反 de Sitter空間 (以下 H4
1 (L0) で表す) であり, E52 において
H41 (L0) =
x ∈ E5
2
∣∣∣∣ 〈x, x〉′ =1
L0
と表される. H41 (L0) の計量は E5
2 の計量の制限である. N41 の計量を 〈 , 〉 で表す.
M を向きづけられた 2 次元多様体とする. γ : M −→ N41 は M の N4
1 への空間的なは
めこみで, 平均曲率ベクトルが零であるとする. このとき M の各点に対し, N41 における
γ の法平面への N41 の計量の制限の符号は (1,1) である. 従って法ベクトル場 ι, ν として
光的でありかつ 〈ι, ν〉 = −1 を満たすものをとることができる. 以下においては, ι および
ν に関する γ の主曲率のうち零ではないものが存在すると仮定する. このとき ι に関す
る主曲率の絶対値が恒等的に 1 であるとして一般性を失わない. e′1, e′2 は M の 1 点の近
傍 U 上のベクトル場で,
• g(e′i, e′j) = δij を満たし (g は γ によって導かれる M 上の計量である),
• (e′1, e′2) は M の向きを与え,
• Aι(e′1) = e′1, Aι(e
′2) = −e′2 が成り立つ (Aι は ι に関する γ の型 (形)作用素である)
とする. また e1, e2 は U 上のベクトル場で,
14
• g(ei, ej) = δij を満たし,
• (e1, e2) は M の向きを与え,
• U 上の関数 k に対しAν(e1) = ke1, Aν(e2) = −ke2 が成り立つ
とする. このとき U 上のある関数 θ が
e′1 = (cos θ)e1 + (sin θ)e2, e′2 = −(sin θ)e1 + (cos θ)e2 (4.1)
を満たす. よって Aι(e′i) = (−1)i−1e′i および (4.1) から,
Aι(e1) = (cos 2θ)e1 + (sin 2θ)e2, Aι(e2) = (sin 2θ)e1 − (cos 2θ)e2 (4.2)
を得る.
L0 = 0 のとき, N41 = E4
1 であり従って e1, e2, ι, ν は U 上の E41 -値関数であると考
えることができ, そして U の任意の点 a に対しこれらは Tγ(a)(E41) の基底をなしている.
L0 = 0 のとき, γ, e1, e2, ι, ν は U 上の R5-値関数であると考えることができ, そして U
の任意の点 a に対しこれらは Tγ(a)(R5) の基底をなしている. 以上に, 特に (4.2) に注意
して,
(dγ de1 de2 dι dν)
= (γ e1 e2 ι ν)
⎛⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎝
0 −L0ω10 −L0ω
20 0 0
ω10 0 −ω2
1 −ω2θ −kω10
ω20 ω2
1 0 −ω′2θ kω2
0
0 −kω10 kω2
0 β 0
0 −ω2θ −ω′2θ 0 −β
⎞⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎠
(4.3)
を得る, 但し
• ω10, ω
20 は U 上の 1 形式で, U の任意の点で (e1, e2) の双対基底をなし,
• ω21 は U 上の 1 形式で, ei の積分曲線の測地的曲率 li を用いて ω2
1 = l1ω10 + l2ω
20 と
表され,
• ω2θ := (cos 2θ)ω10 + (sin 2θ)ω2
0, ω′2θ := (sin 2θ)ω1
0 − (cos 2θ)ω20 であり,
• β は U 上の 1 形式である.
ddγ = 0 から, 3.1節の (3.2) に相当する式
dω10 = l1ω
10 ∧ ω2
0, dω20 = l2ω
10 ∧ ω2
0 (4.4)
15
を得る. (4.4) を用いて,
dω21 = −Kω1
0 ∧ ω20,
dω2θ = ((2e1(θ) + l1) cos 2θ + (2e2(θ) + l2) sin 2θ)ω10 ∧ ω2
0
= −(2dθ + ω21) ∧ ω′
2θ,
dω′2θ = (−(2e2(θ) + l2) cos 2θ + (2e1(θ) + l1) sin 2θ)ω1
0 ∧ ω20
= (2dθ + ω21) ∧ ω2θ
(4.5)
を得る, 但し K は計量 g に関する曲率である. (4.4), (4.5) および ddei = 0 を用いて,
Gaussの方程式
K = 2k cos 2θ + L0 (4.6)
を得る. k = 0 かつ任意の n ∈ Z に対し θ = (1/4 + n/2)π ならば, Gaussの方程式から
K = L0 がわかる. 逆に, K = L0 ならばやはりGaussの方程式から
• 光的法ベクトル場に関する主曲率は零にはならず,
• ι, ν, θ を上のようにおいたとき任意の n ∈ Z に対し θ = (1/4 + n/2)π が成り立つ
ことがわかる. (4.4), (4.5) および ddei = 0 を用いて, Codazziの方程式
(e2(k) − 2kl1)ω10 ∧ ω2
0 + kω10 ∧ β = 0,
(e1(k) + 2kl2)ω10 ∧ ω2
0 − kω20 ∧ β = 0
(4.7)
および
2(ω21 + dθ) ∧ ω′
2θ − ω2θ ∧ β = 0, 2(ω21 + dθ) ∧ ω2θ + ω′
2θ ∧ β = 0 (4.8)
も得る. 以下, k > 0 を仮定し, φ := −(1/4) log k とおく. このとき (4.7) および (4.8)
から,
β = 2 ∗ω21 + 4dφ = −2 ∗ω2
1 − 2 ∗dθ (4.9)
を得る. また ddι = 0 または ddν = 0 を用いてさらに得られる式はRicciの方程式
dβ = − 2
e4φsin 2θω1
0 ∧ ω20 (4.10)
である.
16
4.2 主定理
(u, v) を U 上の等温座標とし, 正値関数 λ を用いて g を g = λ2(du2 + dv2) と表す. こ
のとき (4.9) から得られる
dβ = 2d ∗ω21 = −d ∗dθ
および (4.10) から,
1
λ2(θuu + θvv) =
2
e4φsin 2θ (4.11)
を得る. また (4.9) から得られる
ω21 = ∗dφ− 1
2dθ, (4.12)
(4.5) の第一式および (4.6) を用いて,
1
λ2(φuu + φvv) = − 2
e4φcos 2θ − L0 (4.13)
を得る. e1 := (1/λ)∂/∂u, e2 := (1/λ)∂/∂v とおき, U 上の関数 t は
e1 = (cos t)e1 + (sin t)e2, e2 = −(sin t)e1 + (cos t)e2 (4.14)
を満たすとする. 1 形式 ω10, ω
20 は各点で e1, e2 の双対基底をなすとする. このとき
ω10 = (cos t)ω1
0 + (sin t)ω20, ω2
0 = −(sin t)ω10 + (cos t)ω2
0
が成り立つ. ここで ∇ を計量 g に関する Levi-Civita接続とするとき, g により 1 形式
∗ω21 に対応するベクトル場は −l2e1 + l1e2 = ∇e1 e1 + ∇e2 e2 であり, (4.14) を用いて
∇e1 e1 + ∇e2 e2 = ∇e1 e1 + ∇e2 e2 − e2(t)e1 + e1(t)e2 (4.15)
がわかるので, (4.12) および (4.15) から
dt+ (l1ω10 + l2ω
20) = ∗dφ− 1
2dθ (4.16)
を得る, 但し li は ei の積分曲線の測地的曲率である. よって
− 1
λ2((log λ)uu + (log λ)vv)ω
10 ∧ ω2
0 = Kω10 ∧ ω2
0 = −d ∗dφ
がわかるので, h := log λ− φ は huu + hvv = 0 を満たす. よって λ = eφeh がわかり, 従っ
て等温座標 (u, v) を選んで λ = eφ が成り立つと仮定してよい. こうして (4.13) は
φuu + φvv = − 2
e2φcos 2θ − L0e
2φ (4.17)
17
となり, (4.11) は
θuu + θvv =2
e2φsin 2θ (4.18)
となる. また λ = eφ および (4.16) から d(θ + 2t) = 0 がわかり, 従って t = −θ/2 が成り立つと考えてよい.
φ, θ は R2 の連結開集合 D 上の 2 変数 u, v の関数で, (4.17) および (4.18) を満たす
とする. このとき
ω10 := eφdu, ω2
0 := eφdv, ω21 := ∗dφ− 1
2dθ, k := 1/e4φ, β := 2dφ− ∗dθ (4.19)
とおくと, D の各点 a の近傍 U 上で
• L0 = 0 ならば, (4.3) を満たす E41 -値関数 γ, e1, e2, ι, ν が存在し,
• L0 = 0 ならば, (4.3) を満たす R5-値関数 γ, e1, e2, ι, ν が存在する;
さらに (4.3) を満たす γ, e1, e2, ι, ν は a での初期値に対し一意である. 初期値として
〈ei, ej〉 = δij, 〈ι, ι〉 = 〈ν, ν〉 = 0, 〈ι, ν〉 = −1, 〈ei, ι〉 = 0, 〈ei, ν〉 = 0 (4.20)
を満たすものをとり, さらに L0 > 0 の場合には
〈γ, γ〉 = 1/L0, 〈γ, ei〉 = 0, 〈γ, ι〉 = 0, 〈γ, ν〉 = 0 (4.21)
も満たすものをとり, L0 < 0 の場合には (4.21) において 〈 , 〉 を 〈 , 〉′ に置き換えたものも満たすものをとると,
• γ : U −→ N41 は空間的なはめこみでその平均曲率ベクトルは零であり,
• dγ(∂/∂u) = eφe1, dγ(∂/∂v) = eφe2 が成り立ち, 従って γ による誘導計量は g =
e2φ(du2 + dv2) で与えられ,
• ι, ν は γ : U −→ N41 の光的な法ベクトル場で U 上 〈ι, ν〉 = −1 を満たし,
• U の各点での ι, ν に関する γ の主曲率はそれぞれ ±1, ±k によって与えられ,
• 任意の n ∈ Z に対し θ = (1/4 + n/2)π ならば, g に関する曲率 K は L0 に等しく
ならない.
この段落に記した事柄については第5節で示したい. ここではこれらを認めることによっ
て, 次の定理を得る:
18
定理 4.1 ([10]) (M, g) を 2 次元Riemann多様体とし, (M, g) の曲率 K は実数 L0 に等
しくならないとする. D1, D2 は M 上の 1 次元分布で, M の任意の点で g に関して直交
しているとする. このとき次の (a), (b) は同値である:
(a) M の各点の近傍 U の N41 への等長かつ平均曲率ベクトルが恒等的に零であるはめこ
みで, D1, D2 が U の任意の点である光的な法ベクトル場 ν に関する主方向を与え
るものが存在する;
(b) M の各点の近傍上のある等温座標 (u, v) およびある関数 φ, θ が g = e2φ(du2 + dv2),
cos(θ/2)∂/∂u − sin(θ/2)∂/∂v ∈ D1, (4.17) および (4.18) を満たす.
さらに, これら (a), (b) が成り立つならば,
• (a) に現れるはめこみは N41 の等長変換との合成を除いて計量 g および 1 次元分布
D1, D2 によって一意に定まり,
• θ は θ ∈ (−π/4, π/4) または θ ∈ (π/4, 3π/4) のいずれかを満たすと仮定でき,
• (a) に現れるはめこみの光的法ベクトル場 ι で 〈ι, ν〉 = −1 を満たすものに関する主
方向の一つは cos(θ/2)∂/∂u + sin(θ/2)∂/∂v で与えられ,
• ι に関する主曲率と ν に関する主曲率の積は±1/e4φ で与えられる.
注意 [1] および [15] のそれぞれにおいて, 曲面が空間的および時間的である場合の (4.17),
(4.18) に対応する方程式系が現れている.
19
5 過剰決定系
5.1 過剰決定系の整合条件
N を自然数とし, Aj, Bj (j = 1, 2, . . . , N)を RN+2 の連結開集合 O 上の関数とする.
xj は 2 変数 u, v の関数で, 過剰決定系
∂xj∂u
= Aj(u, v, x1, . . . , xN ),∂xj∂v
= Bj(u, v, x1, . . . , xN) (5.1)
を満たすとする. このとき ∂2xj/∂u∂v = ∂2xj/∂v∂u から, 点 (u, v, x1, . . . , xN ) で
∂Aj∂v
+N∑i=1
∂Aj∂wi
Bi =∂Bj
∂u+
N∑i=1
∂Bj
∂wiAi (5.2)
が成り立つことがわかる, 但し Aj, Bj の i+ 2 番目の変数を wi で表している. 過剰決定
系 (5.1) の整合条件とは, Aj , Bj の定義域 O 上で (5.2) が成り立つことである.
定理 5.1 ([17]) 過剰決定系 (5.1) が整合条件を満たすならば, 各 (u0, v0, w10, . . . , wN0) ∈O に対し (u0, v0) のR2 におけるある近傍 U 上の関数 x1, x2, . . . , xN の組で xj(u0, v0) =
wj0 および U 上 (5.1) を満たすものが一意に存在する.
定理 5.1の証明は [17, pp. 393–395] にある.
5.2 線形な過剰決定系
Aj, Bj の定義域 O が O = D × RN で与えられているとする, 但し D は R2 の連結開
集合である. 関数 Aj , Bj が
Aj(u, v, w1, . . . , wN) =N∑i=1
aij(u, v)wi,
Bj(u, v, w1, . . . , wN) =
N∑i=1
bij(u, v)wi
という形で与えられているとする, 但し aij , bij は D 上の関数である (i, j = 1, 2, . . . , N).
このとき (5.1) は
xu = xA, xv = xB (5.3)
と表される, 但し x := (x1, . . . , xN) でありまた A, B は (i, j) 成分がそれぞれ aij , bij で与
えられる N 次正方行列である. (5.3) の整合条件は D 上で
Av −Bu = AB − BA (5.4)
20
が成り立つことである. D 上の 1 形式を成分とする N 次正方行列 Ω をΩ := Adu+Bdv
で定める. このとき (5.3) は
dx = xΩ (5.5)
と表される. (5.5) の整合条件は D 上で
dΩ + Ω ∧ Ω = 0 (5.6)
が成り立つことであり, (5.6) は (5.4) と同値である.
自然数 n, p が np = N を満たすとし, A, B を D 上の関数を成分とする p 次正方行列
とする. X1, X2, . . . , Xp は D 上の Rn-値関数で, 過剰決定系
Xu = XA, Xv = XB (5.7)
を満たすとする, 但し X := (X1 X2 . . . Xp) でありX を D 上の関数を成分とする n× p
行列とみなすことができる. (5.7) の整合条件は D 上で (5.4) が成り立つことである.
(5.7) を
dX = XΩ (5.8)
と表すこともできる, 但し Ω := Adu+Bdv は D 上の 1 形式を成分とする p 次正方行列
である. (5.8) の整合条件は D 上で (5.6) が成り立つことである. T を n 次対称行列とし,
u, v に依らないとする. このとき
d(tXTX) = t(dX)TX + tXTdX = tΩ(tXTX) + (tXTX)Ω
が成り立つ. 従って D 上の関数を成分とする p 次対称行列 Y := tXTX は過剰決定系
dY = tΩY + Y Ω = t(Y Ω) + Y Ω (5.9)
の解である. (5.9) の解 Y に対し
0 =ddY
=d(tΩY + Y Ω)
=t(dΩ)Y − tΩ ∧ dY + dY ∧ Ω + Y dΩ
=t(dΩ)Y − tΩ ∧ (tΩY + Y Ω) + (tΩY + Y Ω) ∧ Ω + Y dΩ
=t(dΩ + Ω ∧ Ω)Y + Y (Ω ∧ Ω + dΩ)
(5.10)
が成り立つので, (5.10) から (5.9) の整合条件は (5.6) であることがわかる.
21
5.3 定理 3.1, 定理 3.2および定理 4.1の証明
φ, ψ は R2 の連結開集合 D 上の 2 変数 u, v の関数で, (3.10) および (3.11) を満たす
とする. ω10, ω
20, ω
21, α, k1, k2 を (3.12) の中でのようにおく. ここで n = p = 4 とし, D 上
の 1 形式を成分とする 4 次正方行列 Ω を
Ω :=
⎛⎜⎜⎜⎜⎜⎝
0 −ω21 −k1ω
10 −k2ω
20
ω21 0 k1ω
20 −k2ω
10
k1ω10 −k1ω
20 0 −α
k2ω20 k2ω
10 α 0
⎞⎟⎟⎟⎟⎟⎠
で定める ((3.1) の右辺に現れる 5 次正方行列から第 1 行と第 1 列を除いたものである).
このとき Ω は (5.6) を満たす. よって過剰決定系 (5.8) の解X1 := e1, X2 := e2, X3 := ν1,
X4 := ν2 が初期値に対し一意に存在する. このとき Y := tXX は過剰決定系 (5.9) の解で
ある. Y が初期条件 (3.13) を満たすとすると, 実は Y = tXX は恒等的に 4 次の単位行列
I4 であることがわかる: Y ≡ I4 は初期条件 (3.13) を満たす (5.9) の一意解である. そし
て d(e1ω10 + e2ω
20) = 0 が成り立つので, dι = e1ω
10 + e2ω
20 を満たすR4-値関数 ι が存在す
る. 以上から L0 = 0 の場合の定理 3.1の証明が完成する.
また n = p = 5 とし, L0 = 0 に対しD 上の 1 形式を成分とする 5 次正方行列 Ω を
(3.1) の右辺に現れるものとする. このとき Ω は (5.6) を満たす. よって過剰決定系 (5.8)
の解X1 := ι, X2 := e1, X3 := e2, X4 := ν1, X5 := ν2 が初期値に対し一意に存在する. 5
次対称行列 T を
T :=
⎛⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎝
L0/|L0| 0 0 0 0
0 1 0 0 0
0 0 1 0 0
0 0 0 1 0
0 0 0 0 1
⎞⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎠
とおく. このとき Y := tXTX は過剰決定系 (5.9) の解である. Y が初期条件 (3.13) お
よび (3.14) を満たすならば, 前段落における議論と同様に Y は恒等的に (3.13) および
(3.14) を満たすことがわかる. 以上から L0 = 0 の場合の定理 3.1の証明が完成する.
同様に定理 3.2の証明を完成させることができるが, 変更点は
• φ, ψ として (3.21) および (3.22) を満たすものをとることと,
• ω10, ω
20, ω
21, α, k1, k2 として (3.23) および (3.24) の中でのようなものをとること
である.
22
定理 4.1の証明の粗筋も同様のものである. φ, θ は R2 の連結開集合 D 上の 2 変数 u,
v の関数で, (4.17) および (4.18) を満たすとする. ω10, ω
20, ω
21, k, β を (4.19) の中でのよ
うにおく. ここで n = p = 4 とし, D 上の 1 形式を成分とする 4 次正方行列 Ω を
Ω :=
⎛⎜⎜⎜⎜⎜⎝
0 −ω21 −ω2θ −kω1
0
ω21 0 −ω′
2θ kω20
−kω10 kω2
0 β 0
−ω2θ −ω′2θ 0 −β
⎞⎟⎟⎟⎟⎟⎠
で定める ((4.3) の右辺に現れる 5 次正方行列から第 1 行と第 1 列を除いたものである).
このとき Ω は (5.6) を満たす. よって過剰決定系 (5.8) の解X1 := e1, X2 := e2, X3 := ι,
X4 := ν が初期値に対し一意に存在する. 4 次対称行列 T を
T :=
⎛⎜⎜⎜⎜⎜⎝
−1 0 0 0
0 1 0 0
0 0 1 0
0 0 0 1
⎞⎟⎟⎟⎟⎟⎠
とおく. このとき Y := tXTX は過剰決定系 (5.9) の解である. Y が初期条件 (4.20) を
満たすならば, 実は Y は恒等的に (4.20) を満たす. d(e1ω10 + e2ω
20) = 0 が成り立つので,
dγ = e1ω10 + e2ω
20 を満たす R4-値関数 γ が存在する. 以上から L0 = 0 の場合の定理 4.1
の証明が完成する.
また n = p = 5 とし, L0 = 0 に対しD 上の 1 形式を成分とする 5 次正方行列 Ω を
(4.3) の右辺に現れるものとする. このとき Ω は (5.6) を満たす. よって過剰決定系 (5.8)
の解X1 := γ, X2 := e1, X3 := e2, X4 := ι, X5 := ν が初期値に対し一意に存在する. 5 次
対称行列 T を
T :=
⎛⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎝
−1 0 0 0 0
0 L0/|L0| 0 0 0
0 0 1 0 0
0 0 0 1 0
0 0 0 0 1
⎞⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎠
とおく. このとき Y := tXTX は過剰決定系 (5.9) の解である. Y が初期条件 (4.20) およ
び (4.21) (但し L0 < 0 の場合には (4.21) において 〈 , 〉 を 〈 , 〉′ に置き換えたもの)を満
たすならば, Y は恒等的に (4.20) および (4.21) を満たす. 以上から L0 = 0 の場合の定
理 4.1の証明が完成する.
23
おわりに
本稿の主な目的は, 4 次元 de Sitter空間 S41 内の空間的曲面で誘導計量に関する曲率が
1 に等しくならずかつ平均曲率ベクトルが恒等的に零であるものを局所的に特徴づける
ことであり, これを第4節において行なった. このような曲面は S3 内の臍点を持たない
Willmore曲面でその上の正則 4 次微分が零にならないものを与えることが本稿第4節の
(4.6) および [3, p. 9] の (2.15) からわかる. 一方で, [5] において S41 内の空間的曲面で誘
導計量に関する曲率が恒等的に 1 に等しくかつ平均曲率ベクトルが恒等的に零である曲
面の局所的な特徴づけを行なった. このような曲面は S3 内の臍点を持たないWillmore
曲面でその上の正則 4 次微分が恒等的に零であるものを与えることが本稿第4節の (4.6),
[3, p. 9] の (2.15) および [5] の補題 4.2の証明からわかり, また逆も成り立つ. Willmore
曲面上の正則 4 次微分が非常に重要な情報を有することは言うまでもないが, 既に調べ尽
くされているようには筆者には思えず, 以上を踏まえて S41 からの誘導計量に関する曲率
が 1 点で 1 に等しくしかしその任意の近傍において恒等的に 1 に等しくない場合も正則
4 次微分の観点で調べることは可能かどうかを今後検討したい. また本稿第4節において
は S41 に限らず一般の 4 次元 Lorentz空間型 N4
1 において議論したが, N41 内の平均曲率
ベクトルが恒等的に零である空間的曲面上に正則 4 次微分を定義しそしてその観点でこ
のような曲面をさらに調べることは可能かどうかも今後検討したい.
第3節において, 4 次元Riemann空間型内の極小曲面の局所的な特徴づけについて議論
した. これは本稿の主な目的ではないが, 一方で 4 次元Riemann空間型内の極小曲面は
筆者が以前から関心を持っていた考察対象でありそして本稿の主な考察対象と見比べなが
ら考察し得るものであると考えていた. 今回扱うことができたのは, 各点での主曲率が単
位法ベクトルの取り方に依らない場合と各点での主曲率が単位法ベクトルの取り方に依
る場合である. 前者は 3 次元空間型内の全臍的曲面の類似物で, 後者は 3 次元空間型内の
臍点を持たない曲面の類似物であるように思える. このような類似を想起するならば, 当
然 4 次元Riemann空間型内の極小曲面上で主曲率が単位法ベクトルの取り方に依らない
ような点が孤立している場合も有り得ると考えるべきである. 3 次元空間型内の曲面上の
Hopf微分の零点はちょうど曲面の臍点である. 従って全臍的曲面上でHopf微分は恒等的
に零であり, 臍点を持たない曲面上で Hopf微分は零にはならない. また 3 次元空間型内
の曲面が一定の平均曲率を持つこととその上のHopf微分が正則であることは同値であり,
従って連結な曲面が全臍的ではなくかつ一定の平均曲率を持つならばその臍点は孤立して
いることがわかり, さらに孤立臍点の指数は負である ([16, pp. 139]). 以上を踏まえて, 3
次元空間型内の曲面上のHopf微分の類似物を 4 次元Riemann空間型内の極小曲面上に
見出すことは可能かどうかを今後検討したい.
定理 3.1においては, 条件 (a)のはめこみは空間の等長変換との合成を除いて計量によっ
24
て一意に定まる. また定理 3.2および定理 4.1においては, 条件 (a) のはめこみは空間の
等長変換との合成を除いて計量および二つの 1 次元分布によって一意に定まる. 一方で,
3 次元空間型内の臍点を持たずかつ誘導計量に関する曲率が空間の一定断面曲率に等しく
ならない曲面で, 空間の等長変換による像を除いても計量と主分布によって一意に定まら
ないものが存在する. このような曲面上にGaussの方程式とCodazzi-Mainardiの方程式
から導かれる過剰決定系の解の集合は計量と主分布によって決まり, 解の各々は空間内の
曲面を与える. この系が唯一つの解を持つならば, 計量と主分布は空間内に曲面を一意に
定める. 一方で, 系が複数の解を持つならば, これらが与える曲面どうしは空間内で合同で
はない, 従って計量と主分布は空間内に曲面を一意に定めない. 特に曲面上で系が整合条
件を満たすならば, 各初期値に対し解が一意に存在するので, このような曲面は計量と主
分布によって一意に定まらない. 整合条件を満たす系を持つ E3 内の曲面はmoldingであ
ると言われ, moldingである曲面の曲率線の族の一つは測地線からなる ([14, pp. 152–153],
[13, pp. 277–281], [7]). このことと [4] の結果から, moldingである曲面は主方向平行曲面
であることがわかり, また上述のように臍点とGauss曲率に関する条件を満たす主方向平
行曲面はmoldingであることがわかる. 整合条件を満たさない系を持つがしかし計量と主
分布によって一意に定まらないE3 内の曲面は sinh-Gordon方程式を用いて特徴づけられ,
零ではない一定平均曲率を持つ曲面で回転面の一部ではないものはこのような曲面の例
である ([8]). E3 内の曲面上の過剰決定系については [6] において概説されている. 空間
が平坦ではない場合については [9] において調べられていて, 整合条件を満たす系を持つ
曲面および整合条件を満たさない系を持つがしかし計量と主分布によって一意に定まらな
い曲面の特徴づけが与えられている. 4 次元空間型内の曲面についても以上のような議論
が可能かどうかを今後検討したい.
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参考文献
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領域」—Willmore曲面について— (山口大学数理科学レクチャーノート No.2).
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18 (2005) 57–68.
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[10] N. Ando, Surfaces with zero mean curvature vector in 4-dimensional space forms,
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in preparation.
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26
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[16] H. Hopf, Differential geometry in the large, Lecture Notes in Math., vol.1000,
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[17] J. J. Stoker, Differential geometry, John Wiley & Sons, 1969.
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dimensional space forms, Rendiconti del Seminario Matematico della Universita di
Padova 73 (1985) 1–13.
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山口大学数理科学レクチャーノート No.3
Willmore 曲面について 第 2巻
研究会 講演記録 多様体上の変分問題とその周辺領域 — Willmore 曲面について — (第 2回) 2014年 2月 12日 (水)~14日 (金) 山口県健康づくりセンター
2014年10月 第1版第1刷
編集 中内伸光
発行 山口大学理学部数理科学科 ————————————————————————–