30
(* 虎の門病院腎センター リウマチ膠原病科 同病理部 (** 信州大学脳神経内科 リウマチ・膠原病内科 Key WordAH アミロイドーシス,糸球体に限局した病変, IgG1 優位沈着 症  例 背景: Ig immunoglobulin)関連原発性アミロイドー シスの大多数は軽鎖 (κ,λ)によるもので あり,通常全身諸 臓器が罹患し,特に心臓 沈着症例の予後は不良であることが報告され てきた。 ・近年腎臓主体 (一部肺主体)に沈着し生命予 後良好な重鎖が主体の AH/AHL 型と診断さ れる一群が存在し,臨床的にも AL 型とは一 線を画するタイプであることが注目されだし ている。 症 例:78 歳男。 主 訴:下腿浮。 現病歴:2003 年(68 歳時) 健診で蛋白尿を 指摘されるも経過観察 2006 年(71 歳時) 蛋白 尿 2.6g/day まで増加し,精査目的に入院。 2006年入院時の身体所見:身長 :170 ㎝, 体重 :68kgBT 36.4℃,BP 102/70mmHgHR 84bpm,頭部 :貧血・黄染なし,頸部 : 甲状腺腫大なし,リンパ節腫脹なし,胸部 : 肺野ラ音なし,心雑音なし,腹部 :平坦・軟, 圧痛なし,腸蠕動音亢進・減弱なし,下肢 : pitting edema (−)。 内服薬:カンデサルタン 12 mg/日,アムロ ジピン 20 mg/ 日,モサプリド 45 mg/。 既往歴: 18 歳 :肺結核, 56 歳 :下肢静脈瘤(静 脈瘤抜去術), 63 歳 :前立腺癌(前立腺全摘術), 高血圧,白内。 家族歴:父 :肝細胞癌,娘 :Sjogren 症候群。 メルファラン・デキサメタゾン療法が奏効し良好な経過を 維持している重鎖(軽鎖)AH(L)型原発性アミロイドーシス一例 菊 地 晃 一 早 見 典 子 葉 末   亮 川 田 真 宏 今 福   礼 三 瀬 広 記 関 根 章 成 稲 永 淳 一 濱之上   哲 上 野 智 敏 住 田 圭 一 平 松 里佳子 早 見 典 子 諏訪部 達 也 長谷川 詠 子 星 野 純 一 澤   直 樹 高 市 憲 明 大 橋 健 一 * 藤 井 隆 志 * 矢 崎 正 英 ** 松 田 正 之 ** 池 田 修 一 ** 乳 原 善 文 209 第 60 回神奈川腎炎研究会 209

メルファラン・デキサメタゾン療法が奏効し良好な経過を 維 …...DFS 糸球体係蹄壁中心に陽性像が確認されアミロイドーシスと診断 図9

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Page 1: メルファラン・デキサメタゾン療法が奏効し良好な経過を 維 …...DFS 糸球体係蹄壁中心に陽性像が確認されアミロイドーシスと診断 図9

(*虎の門病院腎センター リウマチ膠原病科 同病理部(**信州大学脳神経内科 リウマチ・膠原病内科

Key Word:AHアミロイドーシス,糸球体に限局した病変,IgG1 優位沈着

症  例背景:

・ Ig (immunoglobulin)関連原発性アミロイドーシスの大多数は軽鎖 (κ,λ)によるものであり,通常全身諸 臓器が罹患し,特に心臓沈着症例の予後は不良であることが報告されてきた。

・ 近年腎臓主体 (一部肺主体)に沈着し生命予後良好な重鎖が主体のAH/AHL型と診断される一群が存在し,臨床的にもAL型とは一線を画するタイプであることが注目されだしている。

症 例:78歳男。主 訴:下腿浮。現病歴:2003年(68歳時) 健診で蛋白尿を

指摘されるも経過観察2006年(71歳時) 蛋白尿2.6g/dayまで増加し,精査目的に入院。2006年入院時の身体所見:身長 :170㎝,

体重 :68kg,BT :36.4℃,BP :102/70mmHg,HR :84bpm,頭部 :貧血・黄染なし,頸部 :甲状腺腫大なし,リンパ節腫脹なし,胸部 :肺野ラ音なし,心雑音なし,腹部 :平坦・軟,圧痛なし,腸蠕動音亢進・減弱なし,下肢 :pitting edema (−)。

内服薬:カンデサルタン 12 mg/日,アムロジピン20 mg/日,モサプリド45 mg/。既往歴:18歳 :肺結核,56歳 :下肢静脈瘤(静

脈瘤抜去術),63歳 :前立腺癌(前立腺全摘術),高血圧,白内。家族歴:父 :肝細胞癌,娘 :Sjogren症候群。

メルファラン・デキサメタゾン療法が奏効し良好な経過を維持している重鎖(軽鎖)AH(L)型原発性アミロイドーシス一例

菊 地 晃 一 早 見 典 子 葉 末   亮川 田 真 宏 今 福   礼 三 瀬 広 記関 根 章 成 稲 永 淳 一 濱之上   哲上 野 智 敏 住 田 圭 一 平 松 里佳子早 見 典 子 諏訪部 達 也 長谷川 詠 子星 野 純 一 澤   直 樹 高 市 憲 明大 橋 健 一* 藤 井 隆 志* 矢 崎 正 英**松 田 正 之** 池 田 修 一** 乳 原 善 文

― 209 ―

第60回神奈川腎炎研究会

― 209 ―

Page 2: メルファラン・デキサメタゾン療法が奏効し良好な経過を 維 …...DFS 糸球体係蹄壁中心に陽性像が確認されアミロイドーシスと診断 図9

末梢血WBC 4700 /µl

Seg 60.6 %

Eos 1.9 %

Baso 0.4 %

Mono 3.8 %

Lym 33.3 %

Hb 12.6 g/dl

Ht 36.3 %

MCV 95.0 fl

MCH 33.0 pg

Plt 22.1×103 /µl

凝固APTT 26.9 sec

PT 97.3 %

PT-INR 1.01

生化学TP 6.5 g/dl

Alb 3.4 g/dl

UN 20 mg/dl

Cr 0.9 mg/dl

LDH 182 IU/l

AST 29 IU/l

ALT 18I U/l

Na 140 mEq/l

K 4.4 mEq/l

Cl 106 mEq/l

Ca 8.7 mg/dl

P 3.4 mg/dl

CRP 0 mg/dl

Fe 119 µg/dl

UIBC 143 µg/dl

TSAT 45 %

Ferittin 123 µg/l

IgG 1396 mg/dl

IgA 61.1 mg/dl

IgM 30.3 mg/dl

CH50 41 U/ml

C3 82 mg/dl

C4 15 mg/dl

BNP 35.9 pg/ml

尿比重 1.016

糖 (-)蛋白 (3+)潜血 (-)沈渣RBC <1/hpf

蛋白定量 2.55 g/day

CCr 85.5 ml/min

初回腎生検前(2006)の検査所見

図 1

画像・検査所見

胸部レントゲン:CTR 53 %左CPA dull, calcification (+)

心電図:Sinus rhythm, Low voltage (-)

心臓超音波:Normal LV contractility, EF 77%IVST 9mm (6-10)

腹部超音波:腎臓:右96 mm, 左102 mm

図 2

Masson-Trichrome染色

糸球体58個中硬化糸球体数は2個のみ.

― 210 ―

腎炎症例研究 30巻 2014年

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PAS

糸球体係蹄壁の膜肥厚が主体でメサンギウム領域の拡大も一部にあり

図 3

図 4

PAM

糸球体係蹄壁の膜肥厚とspike様病変

図 5

IgA IgMIgG

C1q C3 C4

蛍光抗体法

図 6

IgG1

IgG4

IgG3IgG2

蛍光抗体法

この時点で膜性腎症が疑われ電顕での確認がなされた.

図 7

係蹄壁上皮下に高電子沈着部はみられず(↓),係蹄壁の一部に肥厚像あり( ).

図 8

不規則な方向性をもつ幅10nm大の

細線維構造物を認めた.

― 211 ―

第60回神奈川腎炎研究会

― 211 ―

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DFS

糸球体係蹄壁中心に陽性像が確認されアミロイドーシスと診断

図 9

図 10

DFS アミロイドは糸球体に限局するという特徴がみられた.

図 11

λ κ

蛍光抗体法λ κ

AAパラフィン標本での免疫組織化学

κに比べλに優位性があるようにみられた.

図 12

免疫電気泳動

血中M蛋白 (+) IgG-λ尿中BJP (+) IgG-λ

骨髄生検:

Slightly hypocellular bone marrow形質細胞増生なし (C:F = 3:1,M/E = 3), アミロイド (-).

胃粘膜生検:

アミロイド沈着 (-)

図 13

パラフィン標本でのλ沈着陽性所見に注目し,

λ型原発性AL型アミロイドーシスと診断

IgGとIgG1の有意沈着がみられたが, その意味づけは当時明らかにできなかった.

図 14

0

2

4

6

8

10

12

0

0.5

1

1.5

2

2006年6月 2006年12月 2007年6月 2007年12月 2008年6月 2008年12月 2009年6月 2009年12月

クレアチニン

尿蛋白

治療開始前の経過

Cr(mg/dl)

尿蛋白(g/day)

― 212 ―

腎炎症例研究 30巻 2014年

― 212 ―

Page 5: メルファラン・デキサメタゾン療法が奏効し良好な経過を 維 …...DFS 糸球体係蹄壁中心に陽性像が確認されアミロイドーシスと診断 図9

● VAD療法 (Vincristine+Doxorubicin+Dexamethasone)・少数例の検討でMP療法より優れた生存率と血液学的部分寛解率が示されている.・Doxorubicinによる末梢神経障害, 心筋障害などが問題

● MP療法 (Melphalan+Prednisolone)・28%の患者しか効果がなく、そのうち30%は治療反応までに1年以上を要した。ALアミロイドー

シスのうち特に重症の患者では反応までの時間が重要である。・有効毒性は低いが、 Melphalanによる二次発癌の危険性

● MD療法 (Melphalan+Dexamethasone)・67%の患者に効果あり (血液学的完全寛解33%)・臓器機能に改善が見られたものが48%・心臓や末梢神経に機能障害のある患者でも使用できる

(Palladini G, Perfetti V, Obici L, et al. Blood 103:2936-2938,2004)

● Dex療法・副作用が少なく治療効果発現が早い(Palladini G, Anesi E, Perfetti V, et al. Br J Haematol 113:1044-1046, 2001)

● Thalidomide+Dexamethasone療法・48%の患者に効果あり (血液学的完全寛解19%)・徐脈・眠気・末梢神経障害・便秘などの副作用が65%と高頻度に見られた

(Palladini G, Perfetti V, Perlini S, et al Blood 105:1949-1951, 2005)・海外ではMD療法やPBSCT後のAdjuvant療法として使用

● Bortezomib+Dexamethasone療法・94%の患者に効果あり (血液学的完全寛解44%) (Kastritis E, et al Haematologica 92:1351-1358, 2007)

・神経毒性、起立性低血圧の増悪が問題となる。

● 大量Melphalan (HDM)+自家末梢血幹細胞移植 (PBSCT)・従来治療と比べ、高い治療効果・治療関連死は10-12%であったが、リスクに応じたメルファラン減量により死亡率は低下。

ALアミロイドーシスの治療

図 15

図 16

● VAD療法(Vincristine+Doxorubicin+Dexamethasone)・少数例の検討でMP療法より優れた生存率と血液学的部分寛解率が示されている。・Doxorubicinによる末梢神経障害、心筋障害などが問題

● MP療法(Melphalan+Prednisolone)・28%の患者しか効果がなく、そのうち30%は治療反応までに1年以上を要した。ALアミロイドー

シスのうち特に重症の患者では反応までの時間が重要である。・有効毒性は低いが、 Melphalanによる二次発癌の危険性

● MD療法(Melphalan+Dexamethasone)・67%の患者に効果あり (血液学的完全寛解33%)・臓器機能に改善が見られたものが48%・心臓や末梢神経に機能障害のある患者でも使用できる

(Palladini G, Perfetti V, Obici L, et al. Blood 103:2936-2938,2004)

● Dex療法・副作用が少なく治療効果発現が早い(Palladini G, Anesi E, Perfetti V, et al. Br J Haematol 113:1044-1046,2001)

● Thalidomide+Dexamethasone療法・48%の患者に効果あり(血液学的完全寛解19%)・徐脈・眠気・末梢神経障害・便秘などの副作用が65%と高頻度に見られた

(Palladini G, Perfetti V, Perlini S, et al Blood 105:1949-1951, 2005)・海外ではMD療法やPBSCT後のAdjuvant療法として使用

● Bortezomib+Dexamethasone療法・94%の患者に効果あり(血液学的完全寛解44%) (Kastritis E, et al Haematologica 92:1351-1358, 2007)

・神経毒性、起立性低血圧の増悪が問題となる

● 大量Melphalan(HDM)+自家末梢血幹細胞移植(PBSCT)・従来治療と比べ、高い治療効果・治療関連死は10-12%であったが、リスクに応じたメルファラン減量により死亡率は低下。

ALアミロイドーシスの治療

図 17

高容量メルファラン+自己末梢血幹細胞移植併用療法の治療基準

1. 65歳以下2. 心機能:EF ≧ 45%, BNP ≦ 50 pg/mL3. 血圧:収縮期圧 ≧ 90 mmHg4. 酸素飽和度: ≧ 95%5. PS (performance status) ≦ 2 (神経障害によるものを除く)6. 末梢血: 白血球 ≧ 3000 /μL (好中球 ≧ 2000 /μL),

血小板 ≧ 70万 /μL7. 血清Cre ≦ 2 mg/dL8. 血清ALP ≦ 正常上限 の3倍9. 血清直接ビリルビン ≦ 2 mg/dL10. 治療に支障を来すような慢性疾患 (特に呼吸器, 神経系の疾患,

重度の糖尿病)がない. 11. 肝炎ウイルスやHTLV1ウイルス, HIVウイルスのキャリアでない.

Toranomon Hospital, Kajigaya

図 18

1. × 65歳以下2. ○ 心機能:EF ≧ 45%, BNP ≦ 50 pg/mL3. ○ 血圧:収縮期圧 ≧ 90 mmHg4. ○ 酸素飽和度: ≧ 95%5. ○ PS (performance status) ≦ 2 (神経障害によるものを除く)6. ○ 末梢血: 白血球 ≧ 3000 /μL (好中球 ≧ 2000 /μL),

血小板 ≧ 70万 /μL7. ○ 血清Cre ≦ 2 mg/dL8. ○ 血清ALP ≦ 正常上限の3倍9. ○ 血清直接ビリルビン ≦ 2 mg/dL10. ○ 治療に支障を来すような慢性疾患(特に呼吸器,神経系の疾患,

重度の糖尿病)がない11. ○ 肝炎ウイルスやHTLV1ウイルス, HIVウイルスのキャリアでない.

⇒本症例は適応外

高容量メルファラン+自己末梢血幹細胞移植併用療法の治療基準

図 19

● VAD療法 (Vincristine+Doxorubicin+Dexamethasone)・少数例の検討でMP療法より優れた生存率と血液学的部分寛解率が示されている。・Doxorubicinによる末梢神経障害、心筋障害などが問題

● MP療法 (Melphalan+Prednisolone)・28%の患者しか効果がなく、そのうち30%は治療反応までに1年以上を要した。ALアミロイドー

シスのうち特に重症の患者では反応までの時間が重要である。・有効毒性は低いが、 Melphalanによる二次発癌の危険性

● MD療法 (Melphalan+Dexamethasone)・67%の患者に効果あり (血液学的完全寛解33%)・臓器機能に改善が見られたものが48%・心臓や末梢神経に機能障害のある患者でも使用できる

(Palladini G, Perfetti V, Obici L, et al. Blood 103:2936-2938, 2004)

● Dex療法・副作用が少なく治療効果発現が早い(Palladini G, Anesi E, Perfetti V, et al. Br J Haematol 113: 1044-1046, 2001)

● Thalidomide+Dexamethasone療法・48%の患者に効果あり (血液学的完全寛解19%)・徐脈・眠気・末梢神経障害・便秘などの副作用が65%と高頻度に見られた

(Palladini G, Perfetti V, Perlini S, et al Blood 105:1949-1951, 2005)・海外ではMD療法やPBSCT後のAdjuvant療法として使用

● Bortezomib+Dexamethasone療法・94%の患者に効果あり(血液学的完全寛解44%) (Kastritis E, et al Haematologica 92:1351-1358,

2007)・神経毒性、起立性低血圧の増悪が問題となる

● 大量Melphalan (HDM)+自家末梢血幹細胞移植 (PBSCT)・従来治療と比べ、高い治療効果・治療関連死は10-12%であったが、リスクに応じたメルファラン減量により死亡率は低下。

ALアミロイドーシスの治療

適応外の場合

図 20

Cr・尿蛋白の推移Cr

(mg/dl)尿蛋白(g/day)

0

0.5

1

1.5

2

2.5

0

2

4

6

8

10

12

2006

.08

2006

.11

2007

.02

2007

.05

2007

.08

2007

.11

2008

.01

2008

.04

2008

.07

2008

.120

09.01

2009

.04

2009

.07

2009

.120

10.01

2010

.04

2010

.07

2010

.120

11.01

2011

.04

2011

.07

2011

.120

12.01

2012

.04

2012

.07

2012

.120

13.01

2013

.04

2013

.07

MD療法開始

DEX療法MDCr

uPro

― 213 ―

第60回神奈川腎炎研究会

― 213 ―

Page 6: メルファラン・デキサメタゾン療法が奏効し良好な経過を 維 …...DFS 糸球体係蹄壁中心に陽性像が確認されアミロイドーシスと診断 図9

末梢血WBC 3600 /µl

 Seg 79 %

 Eos 4.0 %

 Baso 0.5 %

 Mono 4.0 %

 Lym 11.5 %

Hb 10.7 g/dl

Ht 31.3 %

MCV 93.4 fl

MCH 31.9 pg

Plt 19.9×103 /µl

凝固APTT 25.8 sec

PT 101.3 %

PT-INR 0.99

Fibrinogen 361.7 mg/dl

FDP 3.9 μg/ml

D-dimer 2.2 μg/ml

生化学TP 5.3 g/dl

Alb 3.2 g/dl

UN 28 mg/dl

Cr 1.84 mg/dl

eGFR 28.5ml/min/1.73

T-Bil 0.7 mg/dl

LDH 299 IU/l

AST 24 IU/l

ALT 12 IU/l

Na 133 mEq/l

K 4.5 mEq/l

Cl 97 mEq/l

Ca 8.3 mg/dl

P 4.0 mg/dl

CRP 0 mg/dl

Fe 89 µg/dl

UIBC 169 µg/dl

TSAT 34 %

Ferittin 27 µg/l

IgG 515 mg/dl

IgA 88.8 mg/dl

IgM 34.9 mg/dl

IgE 204 IU/l

BNP 35.9 pg/ml

FLC κ35.9 mg/dl

λ25.9 mg/dl

κ/λ比 1.39

免疫電気泳動血中M蛋白(+) IgG-λ尿中BJP(+) IgG-λ

尿比重 1.015

糖 (-)蛋白 (2+)潜血 (+/-)RBC <1/hpf

蛋白定量 2.33 g/day

CCr 29.3 ml/min

2回目の腎生検前の検査所見

2回目腎生検時(2013.5)身体所見:身長 :167cm,体重 :59.3kg,体

温 :36.2℃,血圧 :126/78 mmHg,脈拍 :88 bpm,頭部 :眼瞼結膜 貧血なし,眼球結膜 黄染なし,頸部 :甲状腺腫大なし,リンパ節腫脹なし,胸部 :肺野ラ音なし,心雑音聴取せず,腹部 :平坦・軟,圧痛なし,腸蠕動音亢進・減弱なし,下肢 :pitting edema(+)

内服薬:カンデサルタン12mg/日,ドキサゾシン2 mg/日,ニフェジピン徐放剤40mg/日,フロセミド80mg/日,アロプリノール50mg/日,ロスバスタチン2.5mg/日,ゾルピデム10mg/日,モサプリド15mg/日,エポエチンβペゴル 250 μg/月(皮下注)

― 214 ―

腎炎症例研究 30巻 2014年

Page 7: メルファラン・デキサメタゾン療法が奏効し良好な経過を 維 …...DFS 糸球体係蹄壁中心に陽性像が確認されアミロイドーシスと診断 図9

Masson-Trichrome染色

糸球体70個中硬化糸球体数は0個

図 21

図 22

PAS

アミロイドの沈着量が増加

図 23

PAM

図 24

係蹄壁中心にアミロイドの沈着量が増えているようにみえた.

図 25

図 26

― 215 ―

第60回神奈川腎炎研究会

― 215 ―

Page 8: メルファラン・デキサメタゾン療法が奏効し良好な経過を 維 …...DFS 糸球体係蹄壁中心に陽性像が確認されアミロイドーシスと診断 図9

IgG

C4C1qC3

IgMIgA

蛍光抗体法

図 27

図 28

IgG1

λκIgG4

IgG3IgG2

蛍光抗体法

図 29

ATTR

κ λ

AA

信州大学第三内科 矢崎正英先生,池田修一先生に山口大学星井嘉一先生の教室の抗体で染色していただいた.κ,λの沈着は確認できなかった。

図 30

2回目の腎生検結果

• 血清・尿中のM蛋白はIgG・λ型であるが,免疫染色ではκ・λ共に陰性だった.

• IgG,IgG1が依然と陽性を示していた.→この症例に特異性のある所見なのではないか?

κ,λが陰性であることからこのアミロイドーシスの可能性としてheavy chainに注目した.

信州大学池田修一教授,矢崎正英医師にアミロイド蛋白のアミノ酸配列の解析を依頼.

図 31

2520

1510

18K15K12K

10K

SDS-PAGE analysis

MW (kDa)

3750

75

5

EVQLVESGGGLVQPGGSLR

VESGGGLVQPGGSLR

GGLVQPGGSLR

GLVQPGGSLR

LVQPGGSLR

NSLYLQMNSLRAEDTAVYYCFR

Heavy chain N-terminal sequence

Heavy chain variable region sequence

Light chain fragmentは検出されず信州大学 矢崎先生より

図 32

EVQLVESGGG LVQPGGSLRV SCKASGYPFT SYYVHWVRQA PGKGLEWVAN MNQDGSEKYY

VDSVWGRFTI SRDNSKNSLY LQMNGLRAED TAVYYCARA

EVQLLESGGD LVQPGGSLRL SCVASGFTVS NNAMSWVRQA PGKGLEWVSS MSSGAGNTHY

ADSVKGRFTI SRDNSENTLY LQMNSLRVED TAIYYCAKR

EVQLVESGGG LVQPGGSLRL SCAASGFTFS NYAMSWVRQA PGKGLEWVSG ITGSSGLTFY

ADSVKGRFTI SRDNSKNTLS LHMNNLRADD TAVYYCAKAL GSYN

EVQLLESGGG LVQPGGSLRL SCAASGFTFN GYAMTWVRQA PGKGLEWVSG ITRSGNAIYN

ADSVEG NTLW LQMNSLSVED TAIYYCAKVD SPRVAAALLT DWGQGTLVTV

Primary structures of amyloid fibrils

Yazaki

GonoSolomon

Eulitz

FR1 CDR1 FR2 CDR2

FR3 CDR3 FR4 CH3

EVQLVESGGG LVQPGGSLRKikuchi

NSLY LQMNSLRAED TAVYYCFR

信州大学 矢崎先生より

― 216 ―

腎炎症例研究 30巻 2014年

― 216 ―

Page 9: メルファラン・デキサメタゾン療法が奏効し良好な経過を 維 …...DFS 糸球体係蹄壁中心に陽性像が確認されアミロイドーシスと診断 図9

2回目の腎生検結果

• 血清・尿中のM蛋白はIgG・λ型であるが,免疫染色ではκ・λ共に陰性.

• IgG,IgG1が陽性を示していた.

• 腎生検組織から得られたアミロイド組織のアミノ酸配列の解析結果をふまえて.

AH amyloidosis と診断

図 33

図 34

これまでのAHアミロイドーシスの報告(1)(LCMS/MS法での解析)

Yazaki, Gono, Miyazakiらはlight chain(κ,λ)が陰性のIg関連amyloidosisでheavy chainが組織免疫染色で

染まらない症例

LCMS/ MSを用いてアミロイド物質の

アミノ酸配列解析を施行

γ-heavy chainのN末端と可変領域(VH3)を証明

AH amyloidと診断(AJKD2004, 2006, amyloid2008)

LCMS: liquid chromatography-ion trap mass spectrometry

図 35

これまでのAHLアミロイドーシスの報告(2)(IF法での解析)

1. CopelandはIF法で腎に顕著なIgGと軽度 (λ鎖)の沈着が確認された症例をAH amyloidと報告.(Am J Surg Pathol 2003; 27:1477-82)

2. NasrはIF法にて糸球体にλ鎖,IgG,IgG1が染色されたことに注目しAHL amyloidosisと報告.(Kidney Int. 2006; 70: 7)

3. Kaplanは免疫組織学的手法を用い,肺アミロイド組織にIgGとλの沈着を確認.さらにアミノ酸配列解析を行いIgG-VHとCH(λ)を証明しAHL-amyloidosisと報告.(Virchow Arch 2005)

IF: immunofluorescence

図 36

これまでのAHアミロイドーシスの報告(3)(IF法とLMD/MS法の対比)

1. IFにてIgG + λと IgA + κ と診断された2症例がLMD/MS法にてIgγ1+λ,Igα+κと証明されAHL amyloidosisとして報告.

さらにIgγ3の別2症例もAH amyloidosisとして報告.(Sethi, CJASN 5: 2180-2187, 2010).

1. IFでのIgG, IgAが沈着した症例についてLMD/MS法ではAH amyloidのIgG1やIgA1型に相当.

IFでの軽鎖(κやλ)の沈着がLMD/MS法にて

軽鎖(κやλ)が確認されAHL amyloidosisとして報告.(Sanih, Kidney Int 2013. 83, 463-470)

LMD/MS: Laser microdissection/mass spectrometry

本症例のまとめ・ IgGと IgG1の有意沈着が気になったが パラ

フィン標本でのλ沈着陽性所見に注目しλ型原発性AL型アミロイドーシスと診断。

・ 2回目の腎生検ではアミロイド沈着は進展したが,κ,λが陰性であり,IgGと IgG1が強陽性であったことから本症のアミロイドーシスの可能性としてheavy chainに注目した。

・ 信州大学池田修一教授,矢崎正英医師に依頼してアミロイド蛋白のアミノ酸配列の解析を行い,従来報告されているAH amyloidsisに相当する所見が得られた。

・ 本症ではMD療法の治療効果は良好と考えられる。

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討  論 菊地 よろしくお願いします。虎の門病院腎センターの菊地です。 まず背景ですが,immunoglobulin関連原発性アミロイドーシスの大多数は軽鎖によるものであり,通常全身臓器が罹患し,特に心臓沈着症例では予後が不良であることが報告されてきております。 しかし,近年,腎臓主体,一部肺主体でありますが,沈着し,生命予後良好な重鎖が主体のAHあるいはAHL型と診断される一群が存在し,臨床的にもAL型とは一線を画するタイプであることが注目され出しております。 症例ですが,78歳の男性で,主訴は下腿浮腫であります。現病歴としましては,68歳時に健診で蛋白尿を指摘されておりましたが,以後は経過観察されておりました。71歳時に蛋白尿2.6g/dayまで増加し,精査目的に当院入院となっております。 初回入院時の身体所見としましては,身長は170cmの68kg,バイタルに特に異常はなく,また身体所見上も特記すべき異常所見は認めておりませんでした。 内服薬は既往歴,家族歴は以下のようになっております。すみません。ちょっと端が切れておりますが。 検査所見ですが,軽度の貧血を認めるのと,アルブミンの低下を認めるのと,免疫グロブリン補体が軽度低下に加えまして,潜血はないのですが,尿所見として蛋白尿が1日2.5g程度出ているというかたちでした。 また胸部レントゲン上は,過去の結核の既往を反映しまして,左の肺野にcalcificationを認めるほかは,特に異常はありませんでした。心電図でも low voltage等はなく,腹部超音波でも特に異常はありませんでした。 腎生検を施行しますと,糸球体58個中,硬化糸球体数が2個でありました。 こちらがPAS染色ですけれども,糸球体係蹄

壁の膜肥厚が主体でありまして,mesangium領域の拡大も一部に認めるというような所見でした。 PAM染色で見ますと,また糸球体係蹄壁の膜肥厚を認め,一部矢印で示しましたようなかたちで,spicula,あるいは spikeととれるような突起物も認めておりました。 こちらが蛍光抗体法ですが,IgGが有意に沈着しておりまして,そのほか,特に IgA,IgM,C1q,補体C3,C4では有意な沈着は認めませんでした。 こちらが IgGの subclassですけれども,IgG1

が有意に染まっておりまして,また係蹄壁を中心にfine granularとは言いがたいんですけれども,そういった所見を認め,この時点で強いて言えば,膜性腎症が疑われて,電顕での確認がなされております。 こちらが電顕所見ですけれども,係蹄壁上皮下にelectron dense deposit等は認めておりませんで,逆に係蹄壁の一部に肥厚像があるというような状況でした。 こちらを拡大しますと,不規則な方向性を持つ,幅10nm台の細繊維構造物を認めまして,こちらをもって,アミロイドーシスを疑いまして,DFS染色を施行しております。糸球体係蹄壁中心に溶質映像を認めて,通常AL型等で認めるような血管壁への沈着とか,尿細管や間質へのアミロイドの沈着が目立たず,糸球体にアミロイド沈着が限局しているという所見でありました。 こちらが蛍光抗体法で,κ・λで,κが切れておりますけれども,蛍光抗体法では有意差はありませんでしたが,パラフィン切片での免疫染色ではλ型に有意に沈着しているような所見が見てとれました。 追加で検査しますと,免疫電気泳動では,血中,尿中ともに蛋白が陽性で,骨髄穿刺を施行しますと,形質細胞は3.6%と大きな増加はなく,MGUSの診断でありまして,胃粘膜生検でもアミロイドの沈着等は認めておりませんでし

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た。 以上の所見から,当初λ型の原発性ALアミロイドーシスと診断されました。IgGと IgG1の有意沈着は認められたんですけれども,その意味付けは当時明らかにできなかった状態です。 治療前の経過です。これは2006年から2010

年までの経過です。当初,蛋白尿のみで,血圧は軽度高かったんですけれども,その他,無症状でしたので,ARBで,血圧をコントロールして,そのほかは特に治療をせずに見ておりましたが,2010年に至って,蛋白尿とクレアチニンが上昇してきたということで,ALアミロイドーシスとして治療を開始しております。 これはALアミロイドーシスの治療の種類を並べたものですけれども,現在ではhigh-dose melphalanとPBSCTがアミロイドーシスの予後に治療効果がいいといわれておりますが。すみません。ちょっと切れてしまって申し訳ないです。  こ ち ら が 当 院 で のhigh-dose melphalanとPBSCTの治療基準でありますが,この方の場合は年齢がご高齢であるということで,治療基準を満たさずということで,結果的に選択したのが,MD療法でありました。こちらは2010年の4月からMD療法を開始しまして,開始後は尿蛋白は速やかに改善し,むくみ等もひいていって,クレアチニンも2前後で経過しておりまして,ことしの5月まで続いております。現在は,MD療法を18回やって,その後ちょっと汎血球減少等がありましたので,デキサメタゾン単独療法を行っている状態であります。 ことしの5月に治療開始から3年経て,腎機能もある程度保たれていて,そのほかは,新合併症等もないということで,病変の再評価という意味で,腎生検を施行しております。 身体所見ですが,このようなかたちで,下肢にpitting edemaを認める以外は大きな異常はありません。内服薬としては以下のものを挙げました。 検査所見ですけれども,貧血があるのと,腎

機能としては低下してきている。免疫電気泳動で,M蛋白は IgGλ型のM蛋白はいずれも陽性だったということであります。尿蛋白としては2.3g前後と,ほぼ前回と変わりないような所見であります。 腎生検の結果ですけれども,糸球体は70個ありまして,うち硬化糸球体の数としてはゼロというかたちで,PAS染色で見ますと,アミロイドの沈着量が増えているふうに見受けられました。 こちらがDFS染色ですけれども,やはり糸球体係蹄壁を中心に沈着しているというようなかたちです。 抗体法で見ますと,2回目の腎生検でも IgG

が有意に染まっていて,subclassでも,やはりIgG1が有意に染まっているというかたちです。κ・λに関しては,1回目に比べると,あまり染まりがはっきりしないというかたちでした。 こちらは信州大学の池田(修一)先生にお願いして,今回は染めていただいたんですけれども,パラフィン切片でもκ・λの染色は明らかに染まらなかったというかたちであります。 2回目の腎生検結果ですけれども,血清,尿中のM蛋白,IgGλ型でありますが,免疫染色では,いずれも陰性でありました。IgG,IgG1

が依然として陽性を示していたということで,これらは何か特異性のある所見なのではないかと考えまして,私たちが疑ったものとしてはheavy chainに着目したということで,信州大学の池田先生に依頼しまして,アミロイド蛋白のアミノ酸配列の解析を依頼しております。 こちらは,抽出したアミロイドをSDS-PAGE ANALYSISを行いまして,沈着したのが,約11kDaのところに沈着したということで,その sequenceがこちらの結果ですけれども,いずれもheavy chainのN-terminal,variable region

に相当する配列が見られて,逆に light chainのfragmentは検出されなかったという結果であります。 こちらはheavy chainのアミノ酸配列との比

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較 で す。fragmentの1,fragmentの3とCDR3のほうに一致するようなのは,今回われわれの検体で認められていたということです。以上のことから,われわれとしてはAHアミロイドーシスと診断できるのではないかと考えております。 これまでの結果ですと,信州大学さんのほうでは,LC-MS/MS法を用いて,AHアミロイドーシスの診断を行っていたり,Mayo Clinicのほうですと,IF法を用いて,DFS染色でアミロイドが陽性というようなことから,AHアミロイドーシスと関連付けている報告等もございます。また両方,IF法とLMDと質量解析を用いて,AHアミロイドーシス,あるいはAHLアミロイドーシスとして報告している例もございました。 本症例のまとめとしましては,IgGと Ig1の有意沈着が気になりましたが,パラフィン切片のλ沈着陽性所見に注目し,λ型の原発性AL

アミロイドーシスと当初は診断されておりました。2回目の腎生検では,アミロイド沈着は進展しておりましたが,κ・λが陰性であり,IgGと IgG1が陽性であったことから,本症のアミロイドーシスの可能性として,heavy chainに着目しております。それでアミロイド配列を行って,AHアミロイドーシスに相当する所見が得られているということで,MD療法は効いているという感じで考えられるんですけれども,これらのAHアミロイドーシスに特異的な所見として,腎生検,腎組織,あるいは免疫染色として何かあれば,ご教唆頂きたいと思いまして提示させていただきました。以上であります。座長 ありがとうございました。それでフロアのほうから,臨床経過につきまして,ご質問,ご意見はございますでしょうか。城先生,お願いします。城 信州でやったのは,mass spectrometryじゃないですね。アミノ酸解析の方ですね。この結果は要するにMayo Clinicでやっているmass

spectrometryではないと思います。菊地 Mayoとは違う。城 そうですね。さっきの先生の御発表では,κとλが1回目で双方とも結構染まっていましたよね。菊地 免疫染色。はい。城 ええ。こんなにきれいに蛍光で染まっていますよね。しかし,これは本来はλ単独であるべきものが,両方とも染まっているということですよね。菊地 ええ。城 これを完全に無視をして,AHアミロイドーシスと本当に言えるんでしょうかね。菊地 ううん。城 信州の方法の場合では,heavy chainのほうが当然分子量が大きいですし,ああいうふうにSDS-PAGEにかけると,heavy chainのほうが強く出てくるけど,light chainが出ていないということ,SDS-PAGEでは相対的に少なく出るということで,「ない」とは恐らくあの手法では言えないんじゃないかと。乳原 ちょっと追加します。1回目は,僕らはLはあると思っているんです。2回目,治療後にはっきりしなくなったということで,結構よく効いたので,Lは消えちゃったけど,Hだけが残ってしまったと考えていただいたほうがいいかもしれません。この程度は,大体コマーシャルレベルのもので,どこでもやっているようなものです。こういうものをもって,今まではALと,ALはあるということで診断してきたということです。城 そうしたら,これは light and heavy chain deposition diseaseにアミロイドーシスの合併した症例という考え方のほかに,AHアミロイドーシスと,ALアミロイドーシスのcomplex

という考え方もあるんじゃないですか。乳原 Hと(L)として,HLです。きっとそうだろうと思っていますが,Hの分に対しては,あまり注目されてこなかったということですね。

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城 結論的には,AHアミロイドーシスという結論は,やはり無理があるんじゃないかと思います。乳原 無理があるというのは,どうしてですか。Lがある?城 1回目の。乳原 1回目はAHLと。2回目はAHだけ。Lのほうが診断できなかったというところです。城 そうすると,治療によって,heavy and light chain deposition diseaseにアミロイドが加わったものの中から,light chainが消えた疾患だというふうに。乳原 いや,もしかしたら消えたかもしれないかなと思ったりはしているんですけども,同じ抗体系で1回目のを,もう1回ホシイ先生ので今染めてもらっているところです。われわれの染まったのと,同じように区別ができるかどうかということで,それを今,確認しつつある。城 mass spectrometryのほうが reliableだと思います,手法としては。乳原 ええ。それも今やっているところですけども,ここで言いたかったのは,信州大学のグループが出しているのは,国内の3例,4例は,IF法では診断できない,染まらないということで出されているので,AHはDFSが陽性であって,κ・λが陽性であっても,このような分析をしないとできませんと報告したのですが,私たちは,その中でもHは IgGとか,特に IgG1

が強いということで診断できるのではないかと報告をしたんですが,MayoとColombia group

の出されている新しいのは,やはり IFも大切ですということで,先ほど紹介いたしました。質量分析でも証明されて,最後,そうですね,Mayoのgroupは IFでも IgGが染まりますということ,heavy chainが染まりますということを証明しているわけです。 もう一つは,IFだけで『Kidney international』に載せているのは,IgGとλが確か染まったということで,IgGと診断したのもあります。城 それから,僕らもALアミロイドーシスの

ときに,生の frozenで,light chainを染めたときに染まらない場合があるんです。基本的には,やっぱりアミロイドκ,あるいはアミロイドλの正式なepitopeを認識するべきであって,染まらない場合は,やっぱりmaskされている可能性もあるんじゃないかと思います。 だから,山口大学のアミロイド軽鎖のepitope

を認識する抗体を使用することが一番正確な方法じゃないかなと思います。座長 そのほか,ございますでしょうか。よろしいでしょうか。それでは病理の先生方のコメントよろしくお願いします。山口 私もLに関しては疑問なので,この症例はAHにアミロイドーシスという診断にしました。

【スライド01】 非常に特徴的なんです。AHのアミロイドーシスというのは,糸球体どれを見ても,unifon

であるというのが特徴です。【スライド02】 染色性があまりよくないんですが,PASがちょっと柔らかいんですが,結局,ALですと,変なnodularになったり,peripheralに強調されたり,血管極部に限局したり,いろいろなパターンで来ます。だけど,AH型はほとんどがこういうように,どの糸球体を見ても大体似たり寄ったりの顔つきをしているんです。ですから,そのときはもうAHであるというふうに判断すべきです。 確かに動脈とか何かにはないんですが,少しずつ間質とかTBMには付いてきます。

【スライド03】 massonで見ても,なんとなく似たり寄ったりの顔つきをしています。mesangiumがやや拡大して,係蹄壁がなんとなく厚ぼったいという感じです。

【スライド04】 それで,非常に spiculaの形成が顕著です。mesangiumもmatrixがちょっと溶けたような感じになっています。spiculaはあちこちに形成さ

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れます。多発しているのが多いです。【スライド05】 congo redですと,このように,どの糸球体を見ても似たような顔です。つぶれているやつはあれですけれども。それから,軽度にTBM

に出ています。大体,AHはALに比べて予後はいいということになっています。

【スライド06】 これはλ・κで,確かにλのほうがちょっと出ているのかなということだったんですが,なかなか酵素抗体法で軽鎖を染めるのは難しいように思います。

【スライド07】 IgG1が有意に出て,大体congo redのパターンと類似しているかなと。mesangial peripheral

というかたちだろうと思います。【スライド08】 このときは両方出てしまっているんです。この解釈はなかなか。後でちょっと文献の中で話をします。

【スライド09】 mesangiumか らperipheralで す。peripheralにこぶ状になって,これが spicula。spiculaがなぜできるのかというのは,よく分からないです。PAMを撮ってくるわけで,PAMが撮っているものが何を表しているのかというのは。この間 も,『clinical JASN』(『Clinical Journal of the American Society of Nephrology』)に表紙で出ていたんですが,どうも spiculaのPAMを撮ってくる理由が,unknownということになっております。

【スライド10】 それで,mesangial matrix内にもfibrilが沈着をだいぶしてきています。matrixが全体に増えてしまっています。もちろんperipheralにも。それから,普通のALに比べると,なんとなくdensityを持ったものが混ざっている感じですかね。何が違うんだという。AHのときに,なんとなくdensityが高いかなと,patchですけども。

【スライド11】 fibrilで,アミロイドでいいと思います。

【スライド12】 そういうことで,私自身はもうちょっとκ・λの意味が分からないので,AHであるとしました。AHは間違いなくあるということです。

【スライド13】 これが,最初のころのペーパーなんです。

【スライド14】 この例の質量分析をやったときの Immuno-fluorescenceです。AHとAHLと2種類に分けているんですが,そのパターンを見ますと,1例だけκ・λの両方出ているのがあります,確かに。AHLで,κ・λが両方。λのほうが強いということです。それから,こちらのパターンもいろいろです。ですから,最終的には,軽鎖が出ていてもAHという場合もあり得るという感じでしょうか。AHはG1がちょっと多いですかね。AHLだと,A1,G1と両方に分かれているようです。ですから,最終的に Immuno-fluorescenceだけではなくて,こちらをやって確定すべきだろうという話だと思います。

【スライド15】 これは向こうで出しているスライドで,上がAHLで,似てはいます。これはAHで,ちょっとperipheralな変化が強いようです。

【スライド16】 それで,2回目がよくなってしまったというんですけれども,僕はほとんどもうつぶれてきているように思います。細胞がほとんどないんです。細胞が剥離してしまって,アミロイドの沈着だけが。だから,global sclerosisがないなんていうことはあり得なくて,もうこれはglobalに近い。細胞がないんですから,生きていないです。もうこの糸球体は functionしていないわけで,どんどんひどくなっています。それから,細動脈のこの入り口の細動脈硬化症もひどいです。何の影響か分かりませんけども。それから,尿細管間質もだいぶ萎縮してきて,だいぶadvanceに進んでしまっているとしか言

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いようがありません。【スライド17】 こういうようなFGS-likeの病変で,細動脈硬化症もひどい状態です。

【スライド18】 こういうようなhyalinosisが非常に顕著になって,そのhyalinosisの影響で何か segmental

はFGS-likeの病変も出てきていますけれども,ほとんどこれは functionしていませんよね。細胞がないんですから,つぶれてしまっているのと同じです。

【スライド19】 似たような。こういう細動脈硬化症がひどいんで,segmentalに癒着とかが起きてしまっています。

【スライド20】 銀で見ても,spiculaみたいのはあまり分からないです。mesangiumももうmesangial cellがいないので,限外ろ過はできませんから,ほとんどつぶれていると言ってもおかしくないだろうと思います。

【スライド21】 銀がちょっと染まりが薄くて,よく分からないです。二重もありますけれども。mesangium

もmatrix構造もだいぶなくなってきてしまっているように思います。

【スライド22】 こういうように間質にもうアミロイドの沈着があって,糸球体にはびまん性に沈着が起きてきています。peritubular capillaryにもあるのかもしれないです。

【スライド23】 このときの蛍光はGだけで。

【スライド24】 これは前のやつをそのまま,あれになってしまったのではないかと思います。

【スライド25】 電顕で見ますと,もうびまん性のamyloid fibrilの沈着で,内腔が一部残っているのかなという。全体にくっついて,癒合してしまって,

硬化してきていますので,少し硬化した糸球体を見ていると思います。

【スライド26】 それから,間質のほうはこの辺です。尿細管の基底膜のところにやはりfibrilがだいぶべったり付いてきていますので,間質にもちょっと出ているように思います。ですから,あまり治療は僕は効いていないんじゃないのかなとしか言いようがありません。

【スライド27】 そういうようなことで,AHで,かなり進展したAH型のアミロイドーシスだろうと思います。以上です。座長 山口先生,ありがとうございました。続いて重松先生,よろしくお願いします。重松 

【スライド01】私どもに与えられた情報は IFというものですので,診断は非常にぐらつきやすいということはあると思います。それなりに組織像を見たところの印象をお話しします。最初のHE標本で,この赤く染まっているのは全部硝子滴変性です。ものすごい量の蛋白尿が出ているというのが分かります。それから,あまり増殖性の変化のない,あまり細胞がはっきりしない糸球体が大きさを結構保って見られるということです。

【スライド02】 それで,血管壁は硬化があるけれども,どうも沈着病変はない。それに比べると,このHE

染色でも糸球体自身の染まり方がよくないです。何か沈着があるんじゃないかと思わせます。

【スライド03】 そして,見てみますと,あまり細胞の増生がなくて,mesangiumに相当する部分が非常に拡大する。それから,末梢の係蹄も拡大している。肥厚しているということで,大体こういうのを見せられたら,われわれはアミロイドーシスがあるなということまでは言えると思います。

【スライド04】 そして,PAM染色でやると,こういう spike,

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spicula,あるいは霜柱状の突起物が,いろいろな係蹄に背の高さを変えて出ています。だから,この間に何か沈着物があるに違いないと思うわけです。

【スライド05】 拡大するまでもなく,結構係蹄壁の染み込み,あるいは沈着物質があることが強く示唆されます。

【スライド06,07】 これもMasson染色の赤や青をとらない沈着物があるということです。

【スライド08】 それで,dylon染色の変法みたいな染色なんですが,アミロイドを非常によく染色するといわれています。それで見ると,ここでは糸球体が非常に強くて,間質にも基底膜,あるいは間質にちょっとあるようですけども,とにかく糸球体にある。従来なら,ここでまずアミロイドということを証明するために,偏光装置を用いてやるんです。

【スライド09】 これは偏光装置で見たんですけども,ここにちょっと見えます。

【スライド10】 今見た糸球体は,偏光は陽性なのは,こことこことここら辺とここら辺ですかね。その4カ所。もう1回戻してくれますか。 ここにもあります。痕はあるんだけど,dylon染色で染まっているけれども,偏光装置で出てこない。これは,このごろの標本はみんな薄いですから,偏光装置がうまく働かないわけです。たまたまアミロイドの沈着が強いところが,こういうふうに陽性になるということなので,これから偏光装置を使うときには,あまり偏光陰性だと決め付けて,アミロイドじゃないというふうな即断は避けるようにしなければいけないと思います。

【スライド11】 これは電顕で見ると,顕著な,まずアミロイド性の変化があるということは分かります。

【スライド12】 上皮から細かいfibrilが出ているのが分かります。

【スライド13】 ちょっと拡大したんだけど,これではあまりはっきり分かりません。

【スライド14】 これでもちょっと無理です。

【スライド15】 これは非常に細いfibrilです。こういう細胞の膜の厚さより細いか,ほぼ同等のfibrilがあるということで,これはamyloid fibrilとしておかしくないと思いました。

【スライド16】 それで付けてある蛍光の所見です。IgG1が有意に見られる。

【スライド17】 それからκもλもよく沈着しています。これは,糸球体に沈着しているんですよね。

【スライド18】 それから,2回目のbiopsy。44個あります。やはり,蛋白尿が多いという硝子滴変性はあって,糸球体は本当に細胞が染まらなくなってしまって,空働きしているという糸球体の集まりの状態になっています。

【スライド19】 こういうところです。係蹄壁は厚くなっているというのが,余計はっきりしてきました。

【スライド20】 沈着はものすごくて,こういうふうにglobal

に沈着を見せるところがあります。本当に細胞がなくなってしまって,もうmesangium細胞なんか,ほとんどないです。内皮下,ちょっと残っている程度であります。

【スライド21】 染み込み病変が非常に強くなってきています。hyalinosisの始まりです。

【スライド22】 PAMで染まるmaterialはどんどん基底膜に限局して,mesangiumはほとんど染まっていませ

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ん。【スライド23】 これも同じ。これも非常に強い染み込み病変,hyalinosisの始まりです。

【スライド24】 やはりPAMで染めても,1回目のbiopsyほどきれいな,外へ沈着していくものは見えなくなっています。あまりはっきりしなくなった。けれども,明らかに沈着物はmassiveにあるということであります。

【スライド25】 これも同様です。

【スライド26】 このdylonの変法の染色は,やはり糸球体に有意に染まっていて,血管にはない。

【スライド27】 けれども,間質にこういうふうに染まっています。

【スライド28】 ここもきれいに基底膜の間,あるいは間質にも沈着が見られます。

【スライド29】 ここで蛍光抗体法で,ここではやっぱりG1

が強くて,κとλを見ますと,やはりκが有意です。ここでκ型のものかなと思いました。

【スライド30】 この電顕で見ますと,fibrilだけじゃなくて,densityが非常に高い部分があるんです。基底膜の上に乗っかって,染み込みか沈着物かという変化が2回目のbiopsyでは顕著になっています。

【スライド31】 これは間質には,amyloid fibrilと思われるものが,fibrilだけが見えます。ここはあまりdensityの高いdepositはないようです。

【スライド32】 大体,caliberが細胞膜の大きさぐらいの細線維でできていますので,アミロイドのfibrilとしていいと思います。こういうcollagenがありますけれども,それと比較しても小さい。

【スライド33】

 それから,ボーマン嚢のcapsuleにもアミロイドのfibrilのほかに,こういう沈着物があります。そういうわけで,この症例はheavy chainもあるんでしょうけども,light chainも一緒に沈着していて,それにアミロイドが合併していると,この電顕は読めるのではないかと思いました。

【スライド34】  ア ミ ロ イ ド の 中 に 埋 め 込 ま れ る よ う にdensityの高いdepositが入っているということです。

【スライド35】 これはhyalinosisで,血管壁にはアミロイドの沈着はないということです。

【まとめ】 そういうわけで,私は,direct fast scarletという染色で,ともかくアミロイドーシスというものが1回,2回の生検であって,2回目の生検でより顕著であったと。IgG4,κ,λの,1回目はそうなんですけれども,2回目ではGとκが有意となって,heavy chainと light chainが一緒に沈着すると考えました。それは間質のほうにもあるということで,私はこれは「L」を消さないでAHL型アミロイドーシスと解釈いたしました。以上です。

まとめ

1.光顕上1回目生検時に糸球体係蹄壁の肥厚が見られ、沈着物の存在が示唆された。 この沈着物はDFS ( Direct Fast Scarlet ) 染色陽性であり、電顕的にも細線維の集積があり、アミロイド-シスと考えられ、2回目生検でより顕著であった。

2.蛍光抗体法でIgG4,κ、λの有意の沈着が見られ2回目生検ではIgG4,κが有意となり、糸球体への軽重鎖の沈着が示唆される。

3.電顕的にはB1,B2ともにアミロイド細線維の糸球体間質への析出と軽鎖、重鎖の沈着が合併して認められた。

4.本症例はAHL型アミロイドーシスと考えられる。

座長 重松先生,ありがとうございました。全体を通しまして,ご質問,ご意見ございますでしょうか。はい。遠藤先生。遠藤 東海大学の遠藤です。 ちょっと混乱したんで整理していただきたいんですが,血中,尿中にあったのは IgGλだっ

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たんですよね。さっき,Bence Jonesは陽性でとあったんですけど,それはλ鎖だったんですか。それは,Bence Jones陽性,IgGλと書いていなかったですか。ベンス・ジョーンズ蛋白は軽鎖なので,κからλのどっちかと思います。これはλなんですか。菊地 最初のときはλというかたちで出ていたと思います。遠藤 2回目は?菊地 2回目も。現在もそれは変わらず。遠藤 λが出ていますか。菊地 はい。遠藤 このheavy chainと light chainの両方がアミロイド化して,沈着しているのか。山口先生が言われたheavy chainだけで,κ・λは着くことがあるということで,城先生のお話だと,これは最終診断はmass spectrometryをやらないと分からないということでしょうか。そうすると,確かLaser Microdissectionで糸球体をくりぬいて,それをかけるんですよね。それは日本では,どこかやっているところがあるんですか。城 熊本でやっていると思います。信州は今のような手法で,ちょっと違った手法でやっていると思います。山口 Mayoではないですか。城 そ う で す ね。 お っ し ゃ る と お りMayo Clinicに出したら10万円取られます。城 う ち は IgA λ 型 の light and heavy chain amyloidosisだったんで,免疫染色では IgA1とλがきれいに染まってきて,その症例をMayo Clinicに送りmass spec-trometryで分析したところ同じ結果が返ってきました。遠藤 もう一つ質問なんですが,2回目に確か軽鎖が染まっていなかった。でも,蛍光抗体は染まっていましたよね。乳原 蛍光は重松先生のだと差があるように見えましたけど,よく透かして見ると,κ・λも陽性なんで,同じぐらいかなと。やっぱり差は出なかった,蛍光は。遠藤 両方あるということですか。

乳原 ええ。なぜ,κ,λが染まるかということと,先ほど遠藤先生が,じゃあ血中,尿中に出たBJPのλはどういう意味があるんだということを言われているんだろうと思うんです。本来なら出ないはずなのに出ている。出ているのは事実だと。それは本当にアミロイド形成に関係があるかどうかということですが,Hとして報告しているのも実はみんな出ているんです,信州の。ということで,それは意味がないと。ただのMGUSのときに出てくる意味のないM

蛋白というふうに説明されています。遠藤 そうですか。先ほど城先生が言われたように,λ鎖でも,λ抗体に染まらないことがあるというのは。乳原 アミロイドのときに,見ているのは。遠藤 確か,アミロイド,variable chainのほうですね。乳原 そうですね。も,見ているかなと。遠藤 そういうこともあるということで,そうすると,どこか日本でも最終診断ができる施設が必要ということですね。乳原 それで,Mayoのこの前の出ているんですけど,Lだけだと,かなり予後が悪いんです,全身に沈着して,心臓とか。Hがあると,Lは弱くて,Hが入っていると予後がいいと。腎臓だけで,特に糸球体だけなので,透析にはなるけれども,生命予後はいいというかたちで,軒並み症例がそういうふうに報告されているので,この症例も透析にはなっていくだろうけれども,やはり生命予後はいい症例。そういう症例の中に,従来Lとして診断されていた中に,Hがないかなということが,今回研究会に出した意図です。城 原茂子先生がおっしゃっているように,心臓の involvementが,予後を決定する。そうすると,Hが入っているものは心臓の involvement

が少ない。乳原 少ないと。ええ。特に腎臓のみ,さらに糸球体に中心だということで。この症例も消化管には出てこないということと,心臓も大きく

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なってこない。ただ,そういう症例もアミロイドの中にあるんではないかというもので,実際に私たちでそういうのもあって,それを今,もう一度見直してみたいということでやっているところです。座長 はい。そのほか,ございますでしょうか。よろしいでしょうか。はい。ありがとうございました。

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第1回目

山口先生 _01 山口先生 _04

山口先生 _02 山口先生 _05

山口先生 _03 山口先生 _06λ κ

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IgG3

IgG1

IgG2

IgG

山口先生 _07 山口先生 _10

山口先生 _08

IgG4

IgM

κ

λ

山口先生 _11

山口先生 _09 山口先生 _12

病 理 診 断Renal amyloidosis, AH type

cortex/medulla = 9/1, global sclerosis/glomeruli= 11/70

光顕では,糸球体には血管極部からメサンギウム域と係蹄壁に沿って硝子物沈着がびまん性に見られ、係蹄壁のスピクラ形成を高度に認めます。

尿細管系は保たれ、近位上皮に硝子滴変性が目立ち、硝子円柱が散見されます。間質の線維化巣が散在し、萎縮尿細管を認めます。

動脈系には中位動脈壁内、外膜及びその周囲に硝子物沈着が見られ、中位動脈内膜肥厚を中等度認め、細動脈硝子化は軽度で、静脈周囲にも認めます。

コンゴ-レッド染色では陽性で、糸球体メサンギウム及び係蹄、尿細管基底膜と傍尿細管毛細血管壁に沿って見られ、消化に抵抗性で、AA抗体は陰性です。蛍光抗体法では、IgG(+), IgG1(+), C3(-), C1q(-), kappa(++), lambda(++) : perpheral &

mesangial patternで、尿細管壁にも陽性です。

電顕では、糸球体ではメサンギウム域中心に細線維状物の沈着が目立ち、所々でGBM下からGBMを置換する様に沈着し、スピクラ形成を認め、同部の脚突起癒合が見られます。細線維状物は幅が10nm前後です。

以上で,上記の診断でAH型と思われます。

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山口先生 _13

第2回目

山口先生 _16

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山口先生 _19 山口先生 _22

山口先生 _20 山口先生 _23

IgG(- + -)

C4(- - -)C1q(- - -)C3(- - -)

IgM(- - -)IgA(- - -)

蛍光抗体法 (mes cl tbm)

山口先生 _21 山口先生 _24

IgG1(+)

λ(+ + +/-)κ(+ + +/-)IgG4(+/-)

IgG3(-)IgG2(-)

蛍光抗体法 (mes cl tbm)

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山口先生 _25

P13-05801増殖性変化に乏しい基質の肥厚のある糸球体 44ヶ硝子滴変性の目立つ尿細管

重松先生 _01

山口先生 _26 重松先生 _02

山口先生 _27

病 理 診 断Renal amyloidosis, AH type

cortex/medulla = 9/1, global sclerosis/glomeruli= 36/83

光顕では,糸球体には構成細胞成分が全体的に消失して球状硬化を呈し、虚脱した糸球体が半数近く見られます。血管極部からメサンギウム域と係蹄壁に沿って硝子物沈着がびまん性に見られ、係蹄壁にスピクラを認め、更に内皮下沈着と分節状硝子化を伴っています。尿細管系は高度の萎縮を認め、硝子円柱が散見されます。

動脈系には中位動脈内膜肥厚を高度認め、細動脈壁全層に及ぶ硝子物沈着が目立ち、輸出細動脈にも認めます。コンゴ-レッド染色では陽性で、糸球体メサンギウム及び係蹄、尿細管基底膜と傍尿

細管毛細血管壁に沿って見られ、消化に抵抗性で、AA抗体は陰性です。蛍光抗体法では、IgG(+), IgG1(+), C3(-), C1q(-), kappa(±), lambda(-) : peripheral &

mesangial patternです。電顕では、観察糸球体では分節の虚脱、癒合が目立ち、メサンギウム域からGBM

に沿って細線維状物の沈着が目立ち、所々でGBMを置換する様に沈着し、スピクラ形成を認め、同部の脚突起癒合が見られます。細線維状物は幅が10nm前後です。尿細管基底膜に沿って同様の細線維状物沈着を認めます。

以上で,上記の診断でかなり進展したAH型と思われます。

重松先生 _03

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重松先生 _05 重松先生 _08

DSF 染色

重松先生 _06 重松先生 _09

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P-0607353分節性係蹄壁肥厚 44ヶ

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重松先生 _29

IgG

IgG1

kappa

lambda

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重松先生 _30 重松先生 _33

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