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Meiji University Title � -�- Author(s) �,Citation �, 66(2): 151-171 URL http://hdl.handle.net/10291/20417 Rights Issue Date 2019-03-15 Text version publisher Type Departmental Bulletin Paper DOI https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

グローカル時代の日本企業の管理・組織・技術・労 …...巨大企業である日本の総合商社の「管理・組織・労働・技術(OA化等)・労使関係」の構造と

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Meiji University

 

Title

グローカル時代の日本企業の管理・組織・技術・労働・労

使関係に関する研究フレームワーク構築のための一考

察 -先行研究のサーベィを中心として-

Author(s) 守屋,貴司

Citation 経営論集, 66(2): 151-171

URL http://hdl.handle.net/10291/20417

Rights

Issue Date 2019-03-15

Text version publisher

Type Departmental Bulletin Paper

DOI

                           https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

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151

経 営 論 集6 6 巻 第 2 号2 0 1 9 年 3 月

グローカル時代の日本企業の管理・組織・技術・労働・労使関係に関する研究フレームワーク構築のための一考察

—先行研究のサーベィを中心として—

守 屋 貴 司

目 次

はじめに

1.「管理・組織・技術・労働・労使関係」の分析視角の提示

2.巨大企業の理論的フレームワークとその実態を巡って

3.生産システム・中小企業の理論的フレームワークとその実態を巡って

4.労務管理の理論的フレームワークとその実態を巡って

5.�労務管理制度と労働政策・社会政策を切り結ぶ理論的フレームワークとその実態を

巡って

むすび

はじめに

 これまで,筆者は,さまざまな形で,「日本企業の管理・組織・技術・労働・労使関係と日本

社会 1」の様々な独特なあり方に強い関心と同時にそのあり方に問題意識をもち,系統的に研究

をおこなってきた。本論文では,まず,筆者のこれまでの研究の系統的な紹介をとおして,本

論文の問題意識を明らかにすることにしたい。

 まず,筆者の初の単著である(1997)『現代英国企業と労使関係』税務経理出版では,英国に

1� 本論文では,「日本社会」という用語を経済地理的な都市部や地方によって構成される「共同体」的な社会構成と日本資本主義としての経済システムの両側面を有する存在としてとらえている。

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152 経 営 論 集

主題を取りながらも,日本の企業の管理・組織・技術・労働・労使関係,日本社会(日本資本

主義)の特異性を念頭におきながらその対比の中で英国の企業の管理・組織・技術・労働・労

使関係と英国社会(英国資本主義)の分析をおこなった。そして,英国との対比の中で,なぜ

このような日本企業をはじめとした諸組織において独特な管理・組織・技術・労働・労使関係

の再編や日本企業社会が生まれてきたのかに強い関心を持つに至った。特に,日本企業社会研

究への道を切り開くキッカケとなったのは阪神淡路大震災での兵庫県西宮市の自宅での被災で

あった。この経験をベースに,自らの暮らす被災地域(兵庫県西宮市)を研究対象として,「灘

酒造企業の震災復興と危機管理」長岡豊編著(1998)『震災復興の歩みー産業と都市の再生—』

知碵書房などを著した。詳細な被災地域と被災企業(特に酒造中小企業)等のヒアリング調査

を通して,日本の企業と社会の独特なあり方(日本企業社会的あり方)により深い関心を寄せる

ようになった。

 阪神淡路大震災では,崩壊するはずのない高速道路の倒壊や倒壊するはずのないマンション

の全壊を経験した被災経験から企業と枠組みを超えた「日本資本主義・日本企業社会」という

広い枠組みで研究をおこなうことの重要性と復興過程におけるボランティア活動を通してアソ

シエーションとしての社会のあり方を深く考えさせられることとなり,研究対象が,日本資本

主義・日本企業社会を構成するあらゆる事象への関心とそれへ研究対象が拡大とすることと

なった 2。

 次に,ホワイトカラー労働研究の領域において未開拓であった総合商社の領域を射程として,

巨大企業である日本の総合商社の「管理・組織・労働・技術(OA化等)・労使関係」の構造と

特に人事管理と労働実態の解明に力点をおいた二冊目の単著である(2001)『激動の総合商社:

管理・技術・労働の経営学的研究』森山書店を著した。本書では,総合商社で働く総合商社マ

ン・総合商社ウーマンへの丹念なヒアリング調査をベースとして,総合商社の管理(特に経営

戦略と人事管理・国際人事管理)と組織の再編による労働・労使関係の変化の分析をおこない,

それを通して総合商社の擬似的な「共同体」の変容について考察を深めることができた。そし

て,その後,共同研究会を組織し,編著者として,平澤克彦・守屋貴司編著(2001)『国際人事

管理の根本問題:21 世紀の国際経営と人事管理の国際的新動向』八千代出版,木田融男・浪江

巌・平澤克彦・守屋貴司編著(2003)『変容期の企業と社会:現代日本社会の再編』八千代出版

の二冊の学術書を著した。『国際人事管理の根本問題:21 世紀の国際経営と人事管理の国際的

新動向』では,今日につながるグローバリゼーションとローカライゼーションの中での日本企

業の人事管理の国際化について人事・労務管理の国際比較や多様な視点からの分析を試みた。

2� 守屋貴司(1996)「阪神・淡路大震災と日本型企業社会」『産業と経済』第 10 巻第 2・3号,157 頁から 171頁,参照。

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153グローカル時代の日本企業の管理・組織・技術・労働・労使関係に関する

研究フレームワーク構築のための一考察

また,『変容期の企業と社会:現代日本社会の再編』では,日本企業を取り巻く日本社会の全体

像に目を向け,日本企業の管理・組織・労働・労使関係がどのように変化をとげ,日本社会

(日本資本主義)がどのような方向に向かいつつあり,それに対してどのような対案が必要なの

かを考察をおこなった。本書は,今日の筆者の研究のベースとなる問題意識に通じる内容となっ

ている。

 そして,次に,日本企業の中にあって,矛盾が深化する周縁的な労働力として利用されてき

た女性労働を研究対象として,それを国際比較の視点から分析をおこなった編著書である柴山

恵美子・藤井治枝・守屋貴司編著(2005)『シリーズ女・あすに生きる 世界の女性労働:ジェ

ンダーバランスの創造へ』ミネルヴァ書房では,世界との国際比較との中で,日本の女性労働

の特徴や問題点を明らかにした。日本企業の管理・組織・技術・労働・労使関係の編成・対抗

において大きな矛盾を体現している存在が,周縁的な労働として「差別」されながら利用され

てきた女性労働者や外国人労働者などにある点に着目すると同時に,周縁的な女性労働者や外

国人労働者が,経営の中心に近づくことによって,日本企業社会や組織全体に大きな文化的・

社会的影響を与えることを気づき,それ以降,女性労働者や外国人労働者を大きな研究対象に

すえることとなった。

 そして,日本企業の管理・組織・労働・労使関係の筆者自身の研究の一つの到達点として,

三冊目の単著である(2005)『日本企業への成果主義導入:企業内「共同体」の変容』森山書店

を著した。日本企業の成果主義の導入によって,日本企業の管理・組織・労働が労使関係の力

学を経てどのように再編され,その結果として,企業内「共同体」が,維持・変容・崩壊をし

たのかを調査・分析したものであった。これが筆者の博士(社会学,乙号,立命館大学)論文

となった。

 日本企業における成果主義人事労務管理の進展に関しては,編著書として,黒田兼一・守屋

貴司・今村寛治編著(2009)『人間らしい「働き方」・「働かせ方」:人事労務管理の今とこれか

ら』ミネルヴァ書房にて,論究をおこなった。

 その後,周縁的な労働として,これまで経営学分野で十分に研究展開がおこなわれてこな

かった外国人労働に着目し,編著書として,(2011)『日本の外国人留学生・労働者と雇用問

題:労働と人材のグローバリゼーションと企業経営』晃洋書房を著した。また,日本の女性労

働に関しては,女性労働の矛盾を端的にあらわす「ガラスの天井」をあきらかにするために,

渡辺峻・守屋貴司編著(2016)『シリーズ女・あすに生きる 24 活躍する女性会社役員の国際

比較:役員登用と活性化する経営』ミネルヴァ書房をまとめた。

 また,編著書の『変容期の企業と社会:現代日本社会の再編』で獲得した日本社会全体構造

から日本企業・日本社会(日本資本主義)を分析するという視点の上でこれまで研究対象とし

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154 経 営 論 集

て欠落してきた日本の国土面積の大半を占める中山間地域の研究を,全労済協会からの研究助

成をえて,守屋貴司・佐藤典司・三浦正行著(2011)『公募研究シリーズ 16 日本における中

山間地域の活性化に関する地域マネジメント研究:経営学・マーケティング・ケアの視点から』

全労済協会をまとめることができた。こうした日本の地域への目線からその後も,全労済協会

より研究援助を受け,岩手大学の田口典男教授(当時)を研究代表として,共同研究成果とし

て(2014)『2011 年東日本大震災下の中小企業再生と雇用問題:広い社会的支援と阪神淡路大

震災との比較の視点から』全労済協会を著すことができた。このような日本の地方を研究対象

とした分析から日本の地方が国家による地方への補助金等の助成によって成立している側面と

日本の地方自治体や地方に根ざした中小企業独自の活動の二つによって成立していることを解

明・分析し,その問題点もあわせて指摘することができた。

 上述したような日本企業・日本資本主義・日本社会の様々な側面の解明とその問題点の解明

をおこなってきた結果,現在から未来において広い視点から研究テーマ設定すべきであると考

えた今後の研究テーマが,「グローカル時代の日本大企業の管理・組織・技術・労働・労使関係

に関する研究」である。今,経営学では研究の専門分化がすすみ,総合的な研究が少なくなっ

てきているが,そのような研究状況にも関わらず,筆者の研究遍歴を通して前述してきたよう

に,様々な累積する矛盾・問題点と迷走を深める日本資本主義・日本社会において,日本企業

の経営とその下での労働・労使関係の有機的構造の問題点と課題を明らかにし,それとの連関

で,日本社会・日本資本主義を論じる研究が求められていると考えた。

 それゆえ本論文の研究課題としては,日本資本主義を取り巻く今日の諸状況を,グローカル

時代と表現しながら,この「グローカル時代の日本大企業の管理・組織・技術・労働・労使関

係に関する研究」の分析視角や理論的フレームワークについて考察をおこなうことにある。

 「日本大企業の管理・組織・技術・労働・労使関係」に関する理論的フレームワークは,筆者

の恩師である故石田和夫関西学院大学名誉教授が,日本の巨大鉄鋼企業研究を通して構築され

たものである。その理論的フレームワークは,経営戦略に基づく技術の企業レベルの具体化で

ある設備近代化が管理戦略を通して,管理組織・生産組織をどのように再編し,雇用量・労働

力構成をどのように変化させ,労働過程の統制(支配)権をどのように変化させ,それに対し

て労使関係の中で対抗し,かつ労使関係をどのように変化させたかを探るといったものであっ

た 3。故石田和夫関西学院大学名誉教授が構築されたこの「日本大企業の管理・組織・技術・労

働・労使関係」に関する理論的フレームワークは,優れた理論的フレームワークであったが,

3� 石田和夫編著(1981)『現代日本の鉄鋼企業労働』ミネルヴァ書房,笹川儀三郎・石田和夫編(1983)『現代企業のホワイトカラー労働』上・下巻,大月書店,長谷川治清・渡辺峻・安井恒則編(1991)『ニューテクノロジーと企業労働』大月書店。

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155グローカル時代の日本企業の管理・組織・技術・労働・労使関係に関する

研究フレームワーク構築のための一考察

2019 年現在から未来の巨大多国籍企業を中心とした日本資本主義・日本社会を分析するには分

析枠組みを新たに組み直す必要がある。それは,2019 年現在から未来を理解するための新しい

分析視角と多国籍企業研究・生産システム研究・労務管理研究・労働政策研究等の新しい知見

とそれらを統合する分析枠組みを必要としているからである。

 そのような理論的なフレームワークを構築するために,批判的経営学を中心とした様々な経

営学等の先行研究からの知見からの理論的摂取やその実態をめぐって論じることにしたい。そ

して,本論文では,そのような先行研究の紹介・検討・分析を通して,グローカル時代の日本

企業における「管理・組織・技術・労働・労使関係」の再編の歴史的過程と日本企業内の様々

な擬似的な「共同体」に関する理論的フレームワークの検討をはかると同時に,今日の日本資

本主義・日本社会・日本企業,そしてその下での「支配・労働疎外・貧困化」を取り巻く状況

とその実像・問題点への接近とそれを分析するための研究方法について考察をおこなうことに

したい。

1.「管理・組織・技術・労働・労使関係」の分析視角の提示

 「グローカル時代の管理・組織・技術・労働・労使関係」の分析視角として四つの分析視角を

あげておきたい。四つの分析視角とは,①グローカルの分析視角,②労働力人口の動態変化へ

の分析視角,③技術革新の分析視角,④女性・外国人・障碍者・高齢者といったダイバーシ

ティマネジメントの分析視角である。

1)グローカルの分析視角

 グローカルという言葉は和製造語であり,グローバリゼーションとローカライゼーションと

いう二つの現象が同時並行しておこる現象を指してる。では,グローバリゼーションとは何で

あろうか。

 グローバリゼーションでは,インターネットに代表される IT(情報技術)を基礎として国境

の障壁が低くなり世界的な規模で巨大な資金を流動化による金融のグローバリゼーションが進

行すると同時に,世界的な規模で様々な機能を分散化させた巨大多国籍企業が世界的な生産の

国際的分業(生産のグローバリゼーション)と世界的な規模での物流活動を促進(物流のグ

ローバリゼーション)することになった。そして,世界の人々の活動が,市場経済の中に包摂

されるようになったと言える 4。

4� 伊豫谷登士翁著(2001)『グローバリゼーションと移民』有信堂。

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156 経 営 論 集

 そして,グローバリゼーションは,「資本の集積・集中のグローバル展開であるとともに,グ

ローバルな相互依存関係の緊密化をいう。グローバリゼーションの典型は多国籍企業であり,

国際トラストであり,国際コンツェルンである。21 世紀のグローバリゼーションの特徴は,巨

大多国籍企業だけでなく,小・中規模のミニ多国籍企業が展開していることであ 5」り,企業の

グローバリゼーションを意味している。

 このようなグローバリゼーションは,必然的に,ローカライゼーションの動きを生む。企業

レベルで言えば,巨大企業の世界展開は,経営陣も組織も世界化し,更に所有に関しても,グ

ローバル化するが,労使関係だけはそうならない 6。グローバル化した企業において,その下の

大半の労働者が事業や組織のように国境を越えて移動することはないからである。また,巨大

企業のみならず,小・中規模の企業の生産拠点のグローバル化は,母国の内部空洞化を生み,

母国の地域の経済や雇用を支え,守ろうとする力が働くからである 7。ローカライゼーションの

動きは,時に,反グローバリゼーションとして,地域の社会や共同体の文化・宗教を守るため

に働く場合すらある。

 グローバリゼーションにともなう企業のグローバル化を分析する時,常に,母国のローカラ

イゼーションとしての本国の社会や共同体,そして,雇用や生活を守ろうとする動きと統一的

に把握する必要がある。

2)労働力人口の動態変化への分析視角

 今後,日本においては,先進国の中でも最も早いスピードで,少子高齢化が進行し,その結

果,人口の減少とともに,日本国内の労働力人口の減少と消費市場の縮小がともにおこり,そ

れが,必然的に,「日本企業の管理・組織・技術・労働・労使関係」に大きな影響を与えること

が想定される。特に,国内市場に大きく依存する日本の内需依存型産業の企業や日本の地域経

済に依存する中小企業は大きな影響を受け,経営戦略を変更し,国内組織を縮小,もしくは

M&Aを通して国内市場での占有率を高めたり,海外展開を図る必要に迫られている。また,

労働力人口の減少に対しては,AI やロボット等の技術革新を利用した人員削減「合理化」を通

して,省力化をはかったり,女性・高齢者・外国人労働者等の利用をより高めたりする必要が

でてきている 8。

5� 赤羽新太郎・夏目啓二・日高克平編著(2009)『グローバリゼーションと経営学:21 世紀におけるBRICs の台頭』ミネルヴァ書房,3頁。6� 伊豫谷登士翁著,前掲書,5頁。7� 吉田敬一・井内尚樹編著(2010)『地域振興と中小企業:持続可能な循環地域づくり』ミネルヴァ書房,参照。8� 日本の人口減少の社会的影響に関しては,河合雅司(2017)『未来年表 人口減少日本でこれから起きること』講談社,毛受敏浩(2014)『人口激減 移民は日本に必要である』新潮社,参照。

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157グローカル時代の日本企業の管理・組織・技術・労働・労使関係に関する

研究フレームワーク構築のための一考察

 このような事態は,世界でも最も早く日本が体験するものであり,人口が急減する日本企業

と日本社会の事例として調査・分析をおこない,海外に紹介することは,今後,人口が減少す

る先進諸国のみならず中国をはじめとしたアジア諸国においても大いに参考になると想定され

る。日本に続いて,人口減少が想定される国は,韓国,シンガポール,タイ,中国などがあり,

それらの諸国の少子高齢化・人口減少に続いて,所得水準の向上に伴って,ベトナム,マレー

シア,インドといった国々も少子高齢化が想定されている 9。

3).技術革新の分析視角

 AI(人工知能)や ICTを超える IoT(Internet�of�Things)などの第 4次産業革命やフィン

テック , 汎用型ロボットなどの新しい技術革新が,「日本企業の管理・組織・技術・労働・労使

関係」にどのような影響を与えるかを分析するかは,今後の重要な研究の分析視角である 10。

 AI(人工知能)がマネジメントを変化させるという議論は,様々な角度から現在行われてい

る。AI がマネジメントを「ヒト・モノ・カネ」から「ヒト・データ・キカイ」に変えるとした

見解 11 からAI をはじめとした技術革新が人間の労働を全て奪う可能性すらあり,そのために,

教育システムを変更すべきであるといった見解 12 まで様々な見解がだされている。また,井上

智洋(2016)は,「肉体労働や頭脳労働は,今後しばらく増大する可能性があります。AI やロ

ボットの研究開発といった頭脳労働が増大することは間違いないでしょう。しかしながら,

2030 年頃に汎用AI が登場するならば・その後は急速にあらゆる雇用が失われていくことにな

ります。13」と指摘している。

4).女性・外国人・高齢者・障碍者の雇用といったダイバーシティマネジメントの視点

 ローカルである日本国の日本企業独自の支配体制が,正社員の男性社員の終身雇用層を核と

して成立し,女性・外国人・障碍者・高齢者といったこれまでのコア層と異なる労働力層を組

み込んで日本独自のローカル的(日本国内的)な支配体制を維持しようとする時,日本独自の

ローカル的(日本国内的)な支配の仕組みが再編化にさらされることとなる。そのプロセスで

の力は,グローバル化による世界標準(国連・ILO等の条約・基準)の圧力の増大として働く

側面とグローバル化による資本の論理の貫徹というに側面からおこることとなる。ダイレクト

9� 小峰隆夫・日本経済研究センター編(2012)『超長期予測:老いるアジア』日本経済新聞社,22頁から 23頁。10� 第四次産業革命に関しては,長島聡(2015)『日本型インダストリー 4.0』日本経済新聞出版社。11� DIAMONDハーバード・ビジネス・レヴュー編集部編(2016)『人工知能:機械といかに向き合うか』ダイヤモンド社,64 頁から 75 頁。

12� タイラー・コーエン著,池村千秋訳(2014)『大格差:機械の知能は仕事と所得をどう変えるのか』NTT出版。13� 井上智洋(2016)『人工知能と経済の未来:2030 年雇用大崩壊』文芸春秋,199 頁。

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158 経 営 論 集

に,グローバル化のこの二側面を受け入れると,ローカル(日本国内)的な体制の支配・統治

が崩れる恐れがあり,ローカル(日本国内的)な諸体制の支配・統治を崩さないように,ロー

カル(日本)的文脈の中に解釈しなおして適応しようと試み続ける体制側の歴史であったとも

いえる(図参照)14。

2.巨大企業の理論的フレームワークとその実態を巡って

 次に,本章では,「管理・組織・技術・労働・労使関係」の理論的フレームワークの構築のた

めに,これまでの経営学分野等の先行研究の中での多国籍企業論の検討を通して,まずは,そ

こからえられる理論的フレームワークやその実態をめぐって整理をおこなうことにしたい。

1)多国籍企業研究の先行研究の検討

 今日の資本主義の中心的な活動は,企業活動であり,更にその核として機能しているのが,

トヨタなどの巨大多国籍企業である。巨大多国籍企業は,国境を越え,本社を母国におきなが

ら生産拠点を世界各地に配置し,階層的な管理組織構造によって,その世界支配のグローバル

機構を構築することになっている 15。

 このような動きに対して,丸山恵也編著(2012)『現代日本の多国籍企業』新日本出版社で

は,日本の多国籍企業を産業別に分析をし,その民主的規制のあり方を解明しており,理論的

14� 森ます美(2005)『日本の性差別賃金:同一価値労働同一賃金原則の可能性』有斐閣,参照。15� 夏目啓二「現代多国籍企業のオフショア戦略」丸山恵也編著(2006)『批判経営学』新日本出版社,170 頁から 171 頁。

分析視角の構造

構造主義的分析視角

 諸条件の変化(技術革新と世界・日本の労働市場の変化,市場変化)

     ⇅

 グローバル化⇆ローカル化(ローカル内権力構造の維持・変化:「支配の力学」)

     ⇅

 諸組織における適応・変化(ダイバシティマネジメント)

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159グローカル時代の日本企業の管理・組織・技術・労働・労使関係に関する

研究フレームワーク構築のための一考察

フレームワークとして摂取すべき点が多々ある。また,上田慧(2011)『多国籍企業の世界再編

と国境経済』同文館出版では,多国籍業の国境経済圏への進出が地域経済に与える影響という

新しい問題を分析・解明をおこなっている。巨大多国籍企業の規制を考える時,丸山恵也

(2012)で示された民主的規制と多国籍企業の進出先地域における労働運動との国際的連帯が必

要である時,上田慧(2011)が示唆する点は重要である。

 「21 世紀のグローバル時代の多国籍企業」とは何かを問う研究としては,関下稔(2012)『21

世紀の多国籍企業:アメリカ企業の変容とグローバリゼーションの深化』同文館出版がある。

本書では,アメリカ多国籍企業を,「知識集積体」としてとらえ,その収益源を配当収入やライ

センス利用料におき,それらの収益を稼ぐために,生産基盤を労働コストの低い新興国にアウ

トソーシングしながら,研究開発体制やマーケティング・販売体制をグローバルに展開してい

る。アメリカ多国籍企業のように,生産基盤をアウトソーシングしながら「知識集積体」とな

る経営を,日本の多国籍企業がとるのかは,今後,注目すべき点でもある。また,本書は,大

変,アメリカ多国籍企業,その国際競争力の支援策を講じるアメリカ政府,そして,アメリカ

資本主義の性格を考える上でも大きな示唆を与える学術書となっており,私の理論的フレーム

ワーク構築においてもアメリカ多国籍企業の「知識集積体」としての経営を,資本主義体制に

おける経営モデルの大きな一類型として念頭におくことにしたい。

 「21 世紀のグローカル時代の日本の多国籍企業」を考える上で重要な点は,アメリカの多国

籍企業の動向と同時に,新興国の多国籍企業の動向がある。新興国と言った場合,注目すべき

一番の国は,日本を越えて,世界第 2位の経済大国となった中国であろう。

 夏目啓二『21 世紀の ICT多国籍企業』同文館出版では,新興国の多国籍企業の台頭を描き,

日本の多国籍企業の相対的な競争力の低下を明らかにしている。本書では,「中国などの新興国

のグローバル寡占企業は,自国のグローバル市場で先進国の多国籍企業との企業間競争を経て

大規模化,寡占企業化し,企業特殊的優位を確立することにより,他の発展途上国や先進国に

進出し,新興国発の多国籍企業になるのである。16」と指摘し,新興国のグローバル寡占企業の

独特な多国籍化のプロセスを明らかにしている。また,本書では,先進国と新興国の多国籍企

業の国際分業関係と競争関係を分析し,それらの関係が,競争と寡占,戦略的提携,アウト

ソーシング(外部委託),オフショアリングなどの多様な形態をとることについて論究してい

る。本書では,グローバルな観点から競争力指標として,国籍,売上高,経常利益,雇用者数,

研究開発費,研究開発人員数などの財務数値と市場シェア,売上高利益率を分析している。ま

た,本書では,新興国多国籍企業の中でも,中国の国有巨大多国籍企業に注目をし,このよう

16� 夏目啓二(2014)『21 世紀の ICT多国籍企業』同文館出版,17 頁。

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160 経 営 論 集

な現象を,「国家資本主義」と呼んでいる。そして,本書では,中国において,「国家資本主義

においては国家官僚が国有企業,旗艦的民営企業,政府系ファンドを市場を通じて政治目的に

活用するという命題を使い展開している。・・・中略・・・国家官僚の国有企業を利用する政

治目的は『政権の安定』にのみあるのではない。国家官僚は,地方官僚を含めて国有企業を汚

職や派閥闘争の手段に利用する。このことが『政権の安定』でなく,『政権の不安定』を生み出

す。17」とも指摘している。

 隣国の中国の国家資本主義の台頭,そして,国家資本主義の下での国有巨大多国籍企業のグ

ローバル展開は,日本資本主義と日本の多国籍大企業の競争環境に大きな影響を与えており,

その点も,理論的フレームワークの構築に織り込んでゆくことは重要である。

 そして,このような欧米・日本・新興国の巨大多国籍企業のグローバル展開は,アメリカ,

日本,新興国である中国をはじめとして国々において貧富の格差拡大をもたらしている。

2)資本主義企業経営に関する先行研究の検討

 山崎敏夫(2009)は,「戦後ドイツの資本主義におけるドイツの巨大企業経営」を研究対象と

して資本主義多国籍大企業経営(特に巨大多国籍大企業経営)への優れた分析枠組みを提示し

ている。

 山崎敏夫は,資本主義企業経営の分析枠組みとして,「企業経営の構造体系」という新しい概

念を提示している。この「企業経営の構造体系」という概念は,「企業をとりまくある国の資本

主義システムの構造,産業的システム,市場や資本面での関係などの外部的な経営環境的要因

と,企業の内部構造的な側面(生産関係における制度としての労使関係のほか,管理や組織,

ことに単層的構造か,二層構造かといったトップ・マネジメントのシステムなどの制度的な面

にみられる経営構造的要因)による規定性をさす概念 18」としている。そして,山崎敏夫

(2009)は,「企業経営の構造体系」の概念に含まれる要素として,①資本主義の世界的構造,

②企業と国家の関係,③生産関係の制度的側面をさす労使関係,④企業間関係にもとづく産業

システム,⑤金融システム,⑥生産力構造,⑦市場構造,⑧産業構造,⑨それらとも関係する

「企業と市場との関係」,すなわち市場化のあり方などをあげている。

 ④企業間関係にもとづく産業システムは,企業間の所有と支配の構造,産業間の関係,「産業

と銀行」の関係,コンツェルン体制における協調的な産業システム・体制をさしている。⑤金

融システムは,今日的に言えば,ITCを基礎とした世界的な金融ネットワークや世界的な金融

投資,相互連関的金融システムをさしている。⑥生産力構造では,生産体制のあり方が生産力

17� 前掲書,135 頁。18� 山崎敏夫(2009)『戦後ドイツ資本主義と企業経営』森山書店,12 頁から 13 頁。

Page 12: グローカル時代の日本企業の管理・組織・技術・労 …...巨大企業である日本の総合商社の「管理・組織・労働・技術(OA化等)・労使関係」の構造と

161グローカル時代の日本企業の管理・組織・技術・労働・労使関係に関する

研究フレームワーク構築のための一考察

構造の変化にどのような影響を及ぼしたのか,いかなる規定関係をもったかを分析するものと

なっている。具体的には,生産力構造を構成する生産方式・生産に従事する熟練労働者の専門

技能資格制度・職業訓練制度などからなる。⑦市場構造については,商品市場,労働市場をさ

し,特に,商品市場の分析を中心におこなっている。商品市場としては,その国の企業となる

市場の特質,商品構成,輸出先の国の貿易政策,それらの諸要素に規定された競争構造のあり

様などである。⑧は,特に,その国の国際競争力を支える産業部門の特徴的な産業構造的特質,

産業諸部門の関連的特質などである。⑨「企業と市場との関係」とは,その国の資本主義的市

場化のあり方が企業経営や産業集中のあり方におよぼす影響・規定性である。

 この分析枠組みの優れた点は,経営環境的側面と企業の内部構造的側面を一体的かつ重層構

造的に分析することを可能にした点である。その優れた研究成果は,「図—1 戦後ドイツにお

ける『企業経営の全体構造体系』」として図式化されることとなっている。

 現在からの未来の「グローカル時代の日本企業の管理・組織・技術・労働・労関係に関する

研究フレームワーク」の構築においても,山崎敏夫(2009)で示された①から⑨の諸要素を組

み込んで,産業・企業事例研究をおこなうことにしたい。特に,⑦及び⑨に示される「市場」

との関係性での分析が批判的経営学においてこれまでの研究において十分に分析されておらず,

それらの点は,山崎敏夫(2009)でも指摘されているように,競争構造や産業集中にも大きな

影響を与えるものであるだけに重視することにしたい。

3.生産システム・中小企業の理論的フレームワークの検討とその実態を巡って

 次に,日本は,トヨタをはじめとした輸送用機械産業を代表とする製造資本主義の国であり,

「日本企業の管理・組織・技術・労働・労使関係に関する研究フレームワーク構築」をしてゆく

ためには,日本企業の生産システムをどのように捉えるかが大きな鍵ともなる。そこで,生産

システムに関わる先行研究の検討を通して,特に,生産技術と管理システム,労働組織等の編

成である生産システムの展開と労務管理・労働・労使関係の相互影響について考察をおこなう

ことにしたい。

 林正樹(1998)は,日本的生産システムを「オートメーションと呼ばれる生産技術とそれを

利用し管理する人間集団の組織(=分業と協業の形態)およびその管理方式=制度(=システ

ム)からなる 19」と定義づけている。そして,林正樹(1998)は,「生産システムは生産技術

(=労働手段の体系)と労働組織(=分業と協業)」の管理方式(=システム)とによって構成

19� 林正樹著(1998)『日本的経営の進化—経営システム・生産システム・国際移転メカニズムー』税務経理協会,90 頁。

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162 経 営 論 集

されるものであり,オートメーションは労働手段の体系であるが,そのあり方は分業と協業の

管理方式とその原理によって規定されるものである。さらに,分業システムの組織原理は,市

場・競争・利潤・労使関係・文化などによって規定されるのであって,「唯一最善のもの」が存

在するわけではない。つまり,フォード型以外に,トヨタ型が存在するのである。どちらの型

が選ばれるかは,その企業の取り巻く市場状況・競争条件・企業の経営目標・文化などによっ

て決まる。20」と指摘している。

 そして,林正樹(1998)では,経営システムを「経営方針,経営戦略,経営管理体制,生産

技術などからなるというだけでなく,それぞれの要素を特質づける要因がある社会・文化構造,

経済・産業構造と競争構造,組織形態と組織メンバーの思考・行動様式,生産性・品質などを

総合的に関連付けて把握することが必要である。21」と論述している。その上で,林正樹(1998)

では,日本的経営システムを「技術・制度・組織・戦略・方針という要素システムとそれら

各々の「内的(発展の)原理」とからなる一つのシステムであると同時に,外部主体(システ

ム)との相互関係をもつ「開かれたシステム」である 22」としている。そして,この「日本的経

営の進化の基礎に生産技術があるという視点がすべての章で一貫して 23」おり,日本的経営にお

いて,「経営制度・技法は生産技術を基礎にしつつも企業の営利原則を第 1の規定要因として制

度化され,運用されるために技術進歩が人間性や社会性と対立・矛盾する 24」と規定している。

 本書は,生産技術を,日本的経営システムの基礎においている点において大いに学ぶべき点

があると同時に,今後,オープンシステムとして,AI や IoT などの第四次産業革命において,

日本的経営システムがどのように変化するのかを分析する上で重要なフレームワークを今日に

おいても提供してくれる理論的フレームワークを提供してくれている。ただ,日本多国籍大企

業が,前述したようなアメリカの多国籍大企業のように,「知識集積体」としての経営システム

に転換する企業ができてきた場合,そのような日本企業の経営システムをどのようにとらえる

のかは,また,位置づけるかも今後の研究者の課題とも言えよう。

 鈴木良治・那須野公人編著(2009)『日本のものづくりと経営学:現場からの考察』ミネル

ヴァ書房では,現代の市場条件を軸に,技術,労働,生産組織,企業間関係の変化を,どのよ

うに相互に関係しているのかを解明している。本書では,インテグラ型製品アーキテクチャと

モジュラー型製品アークテクチャに関して,自動車産業のみならず,鉄鋼産業,半導体産業に

20� 前掲書,91 頁。21� 前掲書,21 頁。22� 前掲書,4頁。23� 前掲。24� 前掲。

Page 14: グローカル時代の日本企業の管理・組織・技術・労 …...巨大企業である日本の総合商社の「管理・組織・労働・技術(OA化等)・労使関係」の構造と

163グローカル時代の日本企業の管理・組織・技術・労働・労使関係に関する

研究フレームワーク構築のための一考察

ついて分析をし,「擦り合わせ論」がすべての産業の生産システムに適合しないと批判的検討を

加えている。そして,本書では,日本の自動車大企業のグローバル化の中でのプラットフォー

ムの共通化と多品種化を同時に志向する生産システムを紹介し,生産ラインの新たなフレキシ

ビリティの追究の実態や日本の自動車大企業における市場適応のための生産システムの構築に

ついて論究している。また,本書では,トヨタ生産方式における労働と管理を分析し,非正規

雇用の拡大が,正社員の負担増,過度のマニュアル化による改善能力の低下,正社員と非正規

雇用の拡大による「職場共同体」の崩壊に関しても論究している。

 次に,坂本清(2017)『熟練・分業と生産システムの進化』文真堂を検討することにしたい。

本書は,坂本清大阪市立大学名誉教授の多年にわたる研究成果の結実した大著(449 頁)であ

る。本書は,生産システムの歴史的発展を,①自立統合型生産システム→②垂直統合型生産シ

ステム→③柔軟統合型生産システム→④分散統合型システム→⑤循環統合型生産システムの五

つのフェーズにわけ,それぞれの段階の生産システムの内容と展開について詳細に論じている。

筆者にとって,本書において着目すべき点は,生産システムにおける労働疎外の問題,自然環

境との共生をはかる循環統合型生産システム構築の問題,日本の企業経営における「共同体」

の問題の三点であると考えた。

 生産システムの労働疎外の問題は,マルクスが論じた「労働疎外論」であり,生産と労働の

根本問題でもあり,本書においても,理論的・実態的に深く論じられている。そして,労働疎

外に対しての労働の人間化や日本型生産システム,トヨタ生産システムなどの様々な取り組み

が分析されている。そして,本書では,「『人間化の面から見れば,トヨタシステムは,『管理さ

れた自律性』としての『人間化』という弱点を残している。『人間化』を『効率化』の手段とす

るシステムにおいては,他律的・権威主義的管理を否定し,人間を優先させた労働者の自律性

を確保するという本来の『労働の人間化』の実現はできない。これはトヨタシステムの抱える

矛盾である。この点からするならば,トヨタシステムは,生産システムのパラダイム転換につ

いて,その必要条件は達成したものの,その十分条件の達成はその後の課題として残されたと

いえよう。25』と指摘し,これが世界の資本主義企業が抱える根本的矛盾であると結論づけてい

る。この点については,今後のAI や IoT,ロボットなどの技術革新にともなう完全自動化工

場の拡大などの中で,この「労働疎外」という根本的矛盾に行方を探求し続けることが重要で

ある。

 自然環境との共生をはかる循環統合型生産システム構築の問題については,本書では循環型

統合生産システムの技術的条件の一つとして,IoTを中核とするデジタルネットワーク技術に

25� 坂本清(2017)『熟練・分業と生産システムの進化』文真堂,332 頁。

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164 経 営 論 集

よるイノベーションをあげている。本書では,循環統合型生産システムの構築のための IoTの

技術的可能性を論じつつ,IoTの労働への影響や「デジタル疎外」の問題にも論究している。

 日本の企業経営における「擬似的共同体」の問題に関しては,本書の「第 8章 補論・日本

的経営論に関するノートー市場と社会の対立と融合—」において論じられている。本章では,

戦後の日本的経営特殊性論として,三戸公が戦後の日本企業の経営を「擬似的・擬制的家族的

組織」ととらえ,また,岩田龍子が,日本企業の集団主義を,「イエの論理」ではなく「ムラの

論理」でとらえるべきであると主張したことなどを紹介している。その上で,戦後の日本的経

営論として,宮坂純一が,「日本的経営論史を総括して,共同体(戦前)から共同態(擬似共同

体,戦後)へというキーワードで日本的経営組織の変化を捉え,『イデオロギーとしての集団主

義』という戦後の日本的経営の特質を極めて明快に分析した。26」と指摘している。本章におい

て,坂本清は,これらの議論などを踏まえて再検討をおこない,日本的経営論の新たな視角を

提起している。それは,共同体がなぜ集団主義と無条件で結びつくのか,そして,そこから社

会(共同体)原理と市場原理と結びつくのかを検討し,組織編成原理の断続と日本人の精神構

造の断続を論じている。そして,その中で,坂本清は,西欧社会との比較の中で,日本社会の

歴史を分析し,日本社会構造と企業の関係を歴史的に考察し,日本的経営の重層構造を明らか

にしている。このような分析の上に,グローバリゼーションの進行やそれに連動したグローバ

ルスタンダードによって,本章の結論では,これまで続いてきた閉鎖的組織編成原理,日本的

雇用原理・日本的統治原理が揺らいでいる指摘している。この組織編成原理・日本的雇用原

理・日本的統治原理と日本社会(共同体)原理の行方への視点は,現在からの未来の「グロー

カル時代の日本企業の管理・組織・技術・労働・労関係に関する研究フレームワーク」におい

て重要な理論的ポイントであると考えている。そして,この「グローカル時代の日本企業の管

理・組織・技術・労働・労関係に関する研究」では,日本的な組織編成原理・日本的雇用原

理・日本的統治原理と日本社会(共同体)原理の変容分析を通して,「日本において労働者が個

人として「自立」に至るのか?」という点の解明をおこないたい 27。

4.労務管理の理論的フレームワークとその実態を巡って

 次に,本章では,「管理・組織・技術・労働・労使関係」の理論的フレームワークの構築のた

めに,これまでの経営学分野等の先行研究の中での人事・労務管理に関する諸研究の検討を通

して,まずは,そこからえられる理論的フレームワークやその実態をめぐって整理をおこなう

26� 前掲書,148 頁。27� 「個の自立化」に関しては,片岡信之編著(2004)『現代企業社会における個人の自律性』文真堂,参照。

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165グローカル時代の日本企業の管理・組織・技術・労働・労使関係に関する

研究フレームワーク構築のための一考察

ことにしたい。

 長谷川廣(1988)は,労務管理の本質を鋭く分析し,労務管理が「企業がより多くの利潤を

獲得するために,商品としての労働力の最も能率的に消費するための管理である。28」と規定し,

そして,そのために,様々な資本主義的管理制度や方法を使って,労働組合をコントロールし,

「労働者の企業意識を育成するための管理である。29」と定義している。

 そして,長谷川廣(1988)では,生産関係と共に前述したような生産技術との関連などとい

う生産力的視点を加えた上での労務管理諸制度の分析の重要性,さらに大企業が打ち出してく

る巧妙で新しい近代的な労務管理の本質を解明すると同時に,労働者と労働組合の力を評価す

ることを指摘している 30。

 また,木元進一郎(1972)は,労務管理の本質と課題を分析した上で,日本資本主義の「近

代的労務管理」の導入と「再編・強化」を解明すると同時に,労務管理の諸問題について論究

をおこなった 31。

 労務管理に関する研究では,このような新しい近代的な労務管理の本質を解明する研究 32 と

共に探究されてきた研究に,日英比較の視点から管理戦略が労務管理・生産システムを再編し

企業労働にいかに影響を与えるのかに関する研究がある 33。

 その学術研究とは,石田和夫・安井恒則・加藤正治編(1998)『企業労働の日英比較』大月書

店である。本書では,「日英ほぼ同様の技術パラダイムのもとで,どのように生産システムの構

成要素である労働慣行,労働条件を変化させ,さらに雇用慣行,労使関係にもどのような影響

を与えるのか 34」を分析・解明をおこなっている。筆者も,本書において,在英日系製造企業の

生産管理・労務管理の展開が労使関係にどのような影響を与えるのかを分析した。

 現在から未来の「グローカル時代の管理・組織・技術・労働・労使関係の理論的フレーム

ワーク」では,経営戦略にもとづく新しい現代的な労務管理・生産システムの進化の下での企

業労働・労使関係の分析という新しい管理による労働・労使関係の再編・対抗といった理論的

フレームワークをとることにしたい。

 次に,筆者が注目する労務管理研究の先行研究について検討することにしたい。

 遠藤公嗣著(1999)『日本の人事査定』ミネルヴァ書房は,日本企業の人事査定制度の日米比

28� 長谷川廣『現代の労務管理』中央経済社,15 頁から 16 頁。29� 前掲書,15 頁から 16 頁。30� 前掲書,4頁から 14 頁。31� 木元進一郎著(1972)『労務管理』森山書店,参照。32� 近代的な労務管理の基本構造に関しては,浪江巌著(2010)『労務管理の基本構造』晃洋書房,参照。33� 石田和夫・安井恒則・加藤正治編(1998)『企業労働の日英比較』大月書店。34� 長谷川治清「設備近代化と労働・組織・管理」前掲書,110 頁。

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166 経 営 論 集

較を通して,その「日本的な特徴」について,日米比較研究を通して明らかにした学術書であ

る。本書の大きな特徴は,日本の人事評価制度に関するこれまでの研究史を詳細に分析するこ

とを通して,これまでの研究の「常識」を覆す研究となっている。本書でも,大きな研究上の

武器として,国際比較研究が利用されると同時に,これまでの日本の人事評価制度の先行研究

の「常識」を,日本の人事評価制度の歴史研究と人事評価制度の実態調査を通して,覆すこと

に成功している。

 黒田兼一・山崎憲(2012)『フレキシブル人事の失敗』旬報社,では,日米の人事労務管理の

フレキシブル化の具体的内容を探り,かつ,国際比較をおこなうことで,日米の人事労務管理

のフレキシブル化の国際比較をおこない,その動向について分析をおこなっている。黒田兼

一・山崎憲(2012)では,人事労務管理の基本課題として,第一に,「できるだけ質の良い労働

力を効率的に使っていくことであり」,第二に,「労使関係を良好にし,労働意欲を高めること」

としている。本書では,そのような視点から ITC時代の経営環境の中で日米の人事労務管理が

双方のフレキシブル化の方向で進んでおり,日本が「ヒト」基準のフレキシブル化であり,ア

メリカの場合が,「職務」基準から「ヒト」基準の変更であることを明らかにしている。そし

て,本書では,アメリカにおいて「良好」な労使関係の構築を通して,日米双方の正規雇用・

非正規雇用のフレキシブル化の実態を解明している。そして,本書では,ディーセントワーク

(人間らしい労働)への道として,人事評価等への労働組合の積極的な関与と吾郷真一提起する

ような「労働CSR機構」の設置などを提唱さえている。

 ICTに高度化や労働市場,製品市場の変化や生産システムの進展の企業経営環境の変化に適

合してそれぞれの国のコンテキスト(文脈)の中で人事労務管理の近代化・現代化がされるこ

ととなる。そうした人事労務管理の近代化・現代化のあらわれとして,グローバルタレントマ

ネジメントのなどの新しい人事・労務管理を追尾し,管理・組織・技術・労働・労使関係の枠

組みで分析をおこなうことも,重要である 35。

 次に,人事労務管理の対象となる労働力が,日本において,1990 年代のバブル経済崩壊以

降,正規雇用から非正規雇用に急速に拡大してきており,その点を,先行研究から見ることに

したい。

 伍賀一道(2014)『「非正規大国」日本の雇用と労働』新日本出版社では,雇用と働き方・働

かせ方の全体的構図を明らかにし,雇用形態の変化,特に,非正規雇用が抱えるリスクを明ら

かにしている。その上で,本書では,非正規雇用でも最も問題を抱える間接雇用に焦点をあて,

その原理を明らかにしている。こうした非正規雇用と対比する形で,本書では,「終身雇用像」

35� 守屋貴司(2014)「タレントマネジメント論(Talent�Managements)に関する一考察」『立命館経営学』第53 巻第 2・3号,参照。

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167グローカル時代の日本企業の管理・組織・技術・労働・労使関係に関する

研究フレームワーク構築のための一考察

が正社員の働き方にいかに作用したかを分析し,かつ,非正規雇用の戦後史を解明している。

そして,今日的な日本のセフィティネットの弱体化や 90 年代後半に本格化した「規制緩和」政

策による雇用劣化と貧困の深刻化をもたらしたことについて論究している。

 本書では多面的な角度から非正規雇用の雇用と労働問題を明らかにしているが,バブル経済

崩壊以降の日本多国籍業の海外展開と新興国からの低価格製品の流入,日本多国籍企業の国際

競争力の低下,そして,日本国内の産業構造の転換,産業連関の変化,日本資本主義の変化と

いう側面と重ね合わせる時,日本が非正規雇用に傾斜していった事実の含意をより深く読みと

ることができよう。

5.�労務管理制度と労働政策・社会政策を切り結ぶ理論的フレームワークとその実態を巡って

 次に,猿田正機(2013)『日本的労使関係と「福祉国家」』税務経理協会の紹介・検討を通し

て,労務管理制度と労働政策・社会政策を切り結ぶ理論的フレームワークとその実態について

論じることにしたい。本書では,本書の基本視角として,労務管理と同時に,一体的に,労働

政策・社会政策として論じることをあげている。そして,本書では,労働政策・社会政策の資

本主義を存続させる性格と「プロレタリアートがその闘争を大衆的に強化し拡大するために利

用できる性格」の二重性について確認している。その上で,労務管理・労働政策の内容を下記

のように論述している。

「労務管理」

人事管理,雇用管理,賃金管理,労働時間管理,企業内教育・訓練,動機づけ管理,

ヒューマン・リレーションズ,企業内福祉,労使関係管理

「労働政策(社会政策)」

労働市場・雇用政策,賃金・所得政策,労働基準保護政策,教育・職業訓練,人づくり・

成績評価,イデオロギー政策,社会保障・福祉政策,労使関係政策

 本書では,戦後民主変革期,高度経済成長期,低経済成長期,長期経済不況期のそれぞれの

時期における労務管理・労働政策(社会政策)が分析・論述され,その後,日本企業体制にお

ける労使関係,教育・労働,そして,モチベーションについて批判的に論じられている。その

上で,これまであまり論じられることのなかった日本の中小企業労働問題を論じると同時に,

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168 経 営 論 集

日本のモデルとして,福祉国家スウェーデンの市民社会について,日本の労働運動が学ぶべき

点を明らかにしている。

 本書の特徴は,日本企業の労務管理のみならず労働政策(社会政策)と一体的に歴史分析を

おこなうと同時に,そうした日本的な労務管理を支える日本の学校教育システムを,スウェー

デンの学校教育との国際比較から批判的に論じている点にある。そして,その上で,「企業社

会・日本」と「福祉社会・スウェーデン」という形でその構造を対比し提示した点は,今後の

研究に大きな示唆を与えうるものである。

むすび

 以上,「グローカル時代の日本企業における管理・組織・技術・労働・労使関係」研究の分析

視角や理論的フレームワーク構築のために批判経営学を中心に様々な先行研究の検討やその考

察をおこなってきた。

 本論文で取り扱った分析視角や理論的フレームワークやそれに関連する実態を巡る議論は,

ともすれば,経営学の専門領域を超えるもの 36 であったかもしれないが,筆者が問題とする経

営現象とそれに関連する社会現象の問題・課題,そして改善策などを導き出すためには,この

ような思考作業が必要であると考えている。

 そして,先行研究の検討やその考察を通して,「日本企業における管理・組織・技術・労働・

労使関係」を立体的に理解する上でも,企業を取り巻く世界および日本の政治的・経済的環境

の変化,多国籍企業間競争の推移,多国籍企業の構造分析,生産システムの進化,多国籍企業

の下請構造を含めて,中小企業分析,そして,人事・労務管理制度の労使関係を絡めての国際

比較分析,労働政策・社会政策の視野の重要性を改めて認識すると同時に,「グローカル時代の

日本企業の管理・組織・技術・労働・労使関係に関する研究フレームワーク構築」においては,

それらを組み込んでの分析枠組みを構築することを志向したい。

 また,本稿の先行研究の検討を通して浮かびあがってきた実態を考える時,今後の日本企業

を分析する上において,技術革新の破壊的イノベーションの大波の中で,ますます「知識集積

体」としての国際競争力を増すアメリカ多国籍企業や中国などの国家資本主義を背景とした独

特な新興国多国籍企業の台頭の中,旧来型の日本的経営システムの構造を残す日本多国籍大企

業が過酷な企業間競争にとなることが想定される。そのような過酷な競争状況の中で,日本的

経営システムがどのような進化し,その結果,その下での労働がどのように変化をし,労使関

36� 経営学会の専門領域規定に関する議論としては,経営関連学会協議会編(2014)『新しい経営学の創造』中央経済社,参照。

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169グローカル時代の日本企業の管理・組織・技術・労働・労使関係に関する

研究フレームワーク構築のための一考察

係が再編を迫られうるのかを解明することが重要であると考えられる。日本企業のこのような

競争構造や企業競争の今後を予測するには,市場構造の分析が重要である。特に,日本多国籍

大企業の海外・国内の商品市場の未来分析が大切である。商品市場では,日本企業の海外と国

内の商品市場の特質・商品構成・輸出先の国の貿易政策,それらの諸要素に規定された競争構

造のあり様と今後の変化予測を丹念に分析することが重要である。そして,日本多国籍巨大企

業の組織構造の分析を通して,生産の国際的分業構造の益々の拡大と海外販路への依存構造,

そして,それを通して,もはや日本国内だけでみれば,日本は製造立国ではなく,サービス産

業立国となり,かつて筆者が研究した英国のような直接・関節投資のリターンに依存する経済

的・社会的状況になっている。

 そして,そのような変容の中で,日米の人事労務管理・労使関係がどのような変化をとげる

のかを分析することは極めて重要であると思われる。日米の人事労務管理の変化の日米比較の

含意は,日本の人事労務管理の特殊性の矛盾とその進化の意味を探ると同時に,「知識集積体」

となったアメリカ多国籍業や新興国の多国籍大企業との国際競争の中で日本の多国籍大企業を

中心として日本企業がどのような人事労務管理の「進化」を図るかを探る試みとも言える。こ

のような進化のプロセスにおいて,ダイバシティマネジメントやタレントマネジメント等のア

メリカの現代的な管理技法が日本の人事労務管理への接ぎ木的な接続がおこなわれ,女性・高

齢者・外国人などの労働者の活用が多くの矛盾を内包しながら図られることともなる 37。このよ

うな現代的な人事労務管理の導入は,一面において,日本の日本的な組織編成原理・日本的雇

用原理・日本企業社会(擬似共同体)的原理の掘り崩しながら新しい組織編成原理・雇用原理

と擬似共同体的原理にかわる組織原理を生むのか(もしくは再編するのか)が注目される。ま

た,同時に,契約社員・アルバイト・パートなどの益々拡大する非正規雇用やミッシングワー

カーと呼ばれる職場復帰の気力さえ喪失した失業者層の分析とそれらの人々が人間らしい生活

への再生のための労働・社会運動についても研究をおこなうことが重要である。また,拡大す

る非正規雇用やミッシングワーカーを労働・労働組合運動が包摂し,政治運動に結びつけるこ

とが十分にできてこなかった点も課題として大きい。旧来型の労働組合運動が,企業別労働組

合を基礎とした正規従業員を対象としてきたことと,一般労働組合が,志を同じくする様々な

NPOとの連携を深め拡大する非正規雇用やミッシングワーカーをフォローし,その「自己責任

論」に縛られた意識改革をすすめる必要があろう 38。

 そして,このようなグローバル競争の結果,ますます日本において貧富の格差の拡大と日本

37� 渡辺峻・守屋貴司編著(2016)『活躍する女性管理職の国際比較』ミネルヴァ書房,参照。38� 遠藤公嗣(2012)『個人加盟ユニオンと労働NPO―排除された労働者の権利擁護�(現代社会政策のフロンティア)』ミネルヴァ書房。

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170 経 営 論 集

の地域経済の内部空洞化が進み,中小企業数の減少の中,地域経済を含めて日本社会をどのよ

うに再生してゆくのかという大きな課題が提示されることとなる 39。そこでは,より地域に根ざ

した形での社会福祉国家への転換をいかにはかってゆくのかという課題ともなってくる。まさ

に,労働人口減少社会・日本において,豊かな日本と地域を築くには,中央集権社会から地方

分権社会にシフトし,地方に財源と権限を大きく移譲し,地方経済圏を活性化し,魅力的な地

方を構築できる権限と機能を与えるべきである。また,日本の各地域ごとに,「自然環境との共

生をはかる循環統合型生産システム構築」をはかり,太陽光発電・バイオマス発電などもおこ

ないエネルギーの地産地消を図る体制をつくることが大切であろう。そのような地方経済圏の

再生のプロセスの中で,契約社員・アルバイト・パートなどの益々拡大する非正規雇用やミッ

シングワーカーと呼ばれる職場復帰の気力さえ喪失した失業者層の方々がより労働条件の良い

職場で働ける「経済の新たな仕組みの構築」が必要になっている。また,それと連動して日本

の地域経済圏の雇用と経済を支える中小企業の維持・存続・育成・発展も大きな課題となって

くる。

 上記のような研究フレームワークと問題意識・事実認識をもとに,今後,特定の産業とその

下での企業を研究対象として,新しい「グローカル時代の日本企業における管理・組織・技

術・労働・労使関係」研究を展開してゆくことにしたい。

*�本研究は,日本学術振興会の基盤研究C「グローバルタレントマネジメントの国際比較によ

る類型化とその新理論の構築」(研究課題 /領域番号 16K03912:研究代表者 守屋貴司 共

同研究者 橋場俊展:研究期間 2016 年 4 月 1 日�–�2019 年 3 月 31 日)の研究成果の一部で

ある。

参考文献

赤羽新太郎・夏目啓二・日高克平編著(2009)『グローバリゼーションと経営学:21 世紀におけるBRICs の台頭』ミネルヴァ書房。

遠藤公嗣著(1999)『日本の人事査定』ミネルヴァ書房。遠藤公嗣(2012)『個人加盟ユニオンと労働NPO―排除された労働者の権利擁護�(現代社会政策のフロンティ

ア)』ミネルヴァ書房。伊豫谷登士翁著(2001)『グローバリゼーションと移民』有信堂。長谷川廣『現代の労務管理』中央経済社。林正樹著(1998)『日本的経営の進化—経営システム・生産システム・国際移転メカニズムー』税務経理協会。平澤克彦・守屋貴司編著(2001)『国際人事管理の根本問題:21 世紀の国際経営と人事管理の国際的新動向』

八千代出版。

39� 吉田敬一・井内尚樹編著,前掲書,参照。

Page 22: グローカル時代の日本企業の管理・組織・技術・労 …...巨大企業である日本の総合商社の「管理・組織・労働・技術(OA化等)・労使関係」の構造と

171グローカル時代の日本企業の管理・組織・技術・労働・労使関係に関する

研究フレームワーク構築のための一考察

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域マネジメント研究:経営学・マーケティング・ケアの視点から』全労済協会。守屋貴司編著(2011)『日本の外国人留学生・労働者と雇用問題:労働と人材のグローバリゼーションと企業経

営』晃洋書房。守屋貴司(2014)「タレントマネジメント論(Talent�Managements)に関する一考察」『立命館経営学』第 53 巻

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ンスの創造へ』ミネルヴァ書房。タイラー・コーエン著,池村千秋訳(2014)『大格差:機械の知能は仕事と所得をどう変えるのか』NTT出版。山崎敏夫(2009)『戦後ドイツ資本主義と企業経営』森山書店。吉田敬一・井内尚樹編著(2010)『地域振興と中小企業:持続可能な循環地域づくり』ミネルヴァ書房。上田慧(2011)『多国籍企業の世界再編と国境経済』同文館出版。渡辺峻・守屋貴司編著(2016)『活躍する女性管理職の国際比較』ミネルヴァ書房。