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ディリクレ形式における指数とその応用 日野 正訓 (京都大学) 本稿では,強局所対称正則ディリクレ形式に対して定まる(各点)指数とい う概念について紹介を行う.指数は,状態空間における仮想的な接空間の次 元を表すという幾何学的な解釈と,ディリクレ形式に付随する拡散過程のマ ルチンゲール次元に等しいという確率論的解釈を持つ.これらの事実を用い た応用として,一般の状態空間にリーマン構造に準じた構造が常に定まるこ と,およびフラクタル上の拡散過程に関するマルチンゲール次元の定量評価 について述べる. 1. 拡散過程の微視的挙動の情報を与える解析量を考察し,可能ならば拡散過程を何らか の意味で特徴付けるという問題は,Kolmogorov による確率過程の研究の時代からすで に意識されていたといってよいだろう.状態空間が可微分構造を持っている場合は,拡 散過程の確率微分方程式による表示や,微分作用素等によるマルコフ半群の生成作用 素の表示が求められれば,第一段階の情報が得られたといえる.しかしながら,状態 空間がフラクタル集合のように微分構造を持たない場合は,この時点で既に障害が生 じる.一方,確率過程に付随するフィルトレーションを研究すること,例えばマルチ ンゲールやマルチンゲール加法汎関数のクラスを調べることが確率過程の理解に有用 であることは従前から認識されており,[MW64, Sk66, KW67, DV74] Yor による一 連の研究等,多様な設定の下で研究が行われてきた.これは一般の状態空間に対して も問題設定が可能である.実際,自己相似フラクタルの基本例である Sierpinski gasket 上の拡散過程を論じた最初期の論文 [BP88] において既に,拡散過程が生成するフィル トレーションは Davis–Varaiya [DV74] の意味で何次元かという問題が提起されている. 楠岡 [Kus89] はその 1 つの解答として,任意の d 2 に対し,d 次元 Sierpinski gasket 上のブラウン運動に対するマルチンゲール次元は 1 であるという著しい結果を示した 1 その証明方針は,マルチンゲール次元を指数という一種の解析的量で特徴付け,その 値を具体的な計算を用いて求めるというものである.その後この関連の研究は殆どな されていなかったが,講演者は [Hi08, Hi11p] において,上記の結果を nested fractal Sierpinski carpet 等の,より扱いが難しい自己相似フラクタル上の自己相似対称拡散過 程の場合に拡張した.その際,[Kus89] におけるアイディアの自然な一般化として,付 随するディリクレ形式について指数の概念を導入し,それがマルチンゲール次元に一 2012 年度日本数学会年会(東京理科大学)講演予稿(誤記等を修正した改訂版) 本研究は科研費 (課題番号: 21740094) の助成を受けたものである。 2010 Mathematics Subject Classification: 31C25, 60J60, 28A80 キーワード:Dirichlet form, index, martingale dimension, measurable Riemannian structure, fractal, self-similar set * 606-8501 京都市左京区吉田本町 京都大学 大学院情報学研究科 e-mail: [email protected] web: http://www-an.acs.i.kyoto-u.ac.jp/~hino 1 d 次元 Sierpinski gasket のハウスドルフ次元は log 2 (d + 1) であり,d が大きくなると幾らでも大きく なることと対照的である.

ディリクレ形式における指数とその応用hino/file/yokou1203.pdf · 2016. 4. 1. · 2文献[FOT10, CF11]など,ディリクレ形式の理論の標準的なテキストでは

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ディリクレ形式における指数とその応用日野 正訓 (京都大学)∗

概 要本稿では,強局所対称正則ディリクレ形式に対して定まる(各点)指数という概念について紹介を行う.指数は,状態空間における仮想的な接空間の次元を表すという幾何学的な解釈と,ディリクレ形式に付随する拡散過程のマルチンゲール次元に等しいという確率論的解釈を持つ.これらの事実を用いた応用として,一般の状態空間にリーマン構造に準じた構造が常に定まること,およびフラクタル上の拡散過程に関するマルチンゲール次元の定量評価について述べる.

1. 序拡散過程の微視的挙動の情報を与える解析量を考察し,可能ならば拡散過程を何らかの意味で特徴付けるという問題は,Kolmogorovによる確率過程の研究の時代からすでに意識されていたといってよいだろう.状態空間が可微分構造を持っている場合は,拡散過程の確率微分方程式による表示や,微分作用素等によるマルコフ半群の生成作用素の表示が求められれば,第一段階の情報が得られたといえる.しかしながら,状態空間がフラクタル集合のように微分構造を持たない場合は,この時点で既に障害が生じる.一方,確率過程に付随するフィルトレーションを研究すること,例えばマルチンゲールやマルチンゲール加法汎関数のクラスを調べることが確率過程の理解に有用であることは従前から認識されており,[MW64, Sk66, KW67, DV74]やYorによる一連の研究等,多様な設定の下で研究が行われてきた.これは一般の状態空間に対しても問題設定が可能である.実際,自己相似フラクタルの基本例であるSierpinski gasket

上の拡散過程を論じた最初期の論文 [BP88]において既に,拡散過程が生成するフィルトレーションはDavis–Varaiya [DV74]の意味で何次元かという問題が提起されている.楠岡 [Kus89]はその 1つの解答として,任意の d ≥ 2に対し,d次元 Sierpinski gasket

上のブラウン運動に対するマルチンゲール次元は1であるという著しい結果を示した 1.その証明方針は,マルチンゲール次元を指数という一種の解析的量で特徴付け,その値を具体的な計算を用いて求めるというものである.その後この関連の研究は殆どなされていなかったが,講演者は [Hi08, Hi11p]において,上記の結果をnested fractalやSierpinski carpet等の,より扱いが難しい自己相似フラクタル上の自己相似対称拡散過程の場合に拡張した.その際,[Kus89]におけるアイディアの自然な一般化として,付随するディリクレ形式について指数の概念を導入し,それがマルチンゲール次元に一

2012年度日本数学会年会(東京理科大学)講演予稿(誤記等を修正した改訂版)本研究は科研費 (課題番号: 21740094)の助成を受けたものである。2010 Mathematics Subject Classification: 31C25, 60J60, 28A80キーワード:Dirichlet form, index, martingale dimension, measurable Riemannian structure, fractal,self-similar set∗ 606-8501 京都市左京区吉田本町 京都大学 大学院情報学研究科e-mail: [email protected]: http://www-an.acs.i.kyoto-u.ac.jp/~hino

1d次元 Sierpinski gasketのハウスドルフ次元は log2(d + 1)であり,dが大きくなると幾らでも大きくなることと対照的である.

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致すること,および指数の定量評価を通じたマルチンゲール次元の評価(又は値の決定)を行った.講演者にとって,ディリクレ形式における指数の導入はフラクタル上の解析が動機であったが,その定義自体は一般の状態空間における強局所ディリクレ形式で有効である.更に,最近の講演者の研究 [Hi10, Hi未]において,この一般の枠組で,各点における指数がその点での仮想的な接空間の次元と見なせること,および局所座標系に準じた関数の組を適切に選ぶことにより,状態空間にリーマン構造に類似した構造が定まることを示した.これは木上(cf. [Ki08])により提唱された,「測度論的リーマン構造」の研究に向けての足掛かりと言えるかもしれない.また,[Hi11p]

におけるマルチンゲール次元の評価の手法に関しても,一般の状態空間で適用可能な議論と,空間とディリクレ形式の自己相似性を本質的に利用する議論を切り分けることができ,少なくとも講演者にとって目新しいアイディアが幾つか含まれている.これらの議論や結果が今後どのような発展を見せ得るのか,現状では定かとはいえないが,フラクタル解析自体には関心のない方にも興味を持って頂ける部分はあるかと思い,本稿でやや詳しく紹介する次第である.次節以降の概要は以下の通りである.第2節では,念頭にあるディリクレ形式の典型

例を幾つか挙げる.第3節では,天下り的ではあるが,一般の強局所正則ディリクレ形式に対して指数という量を導入する.(各点)指数が状態空間の各点における仮想的な接空間の次元であるという解釈の 1つの正当化として,ディリクレ形式から自然に定まる「測度論的リーマン構造」が空間に導入され,ディリクレ形式の定義域に属する関数に「微分」が定義される事を述べる.更に,確率論的意味付けとして,対応する拡散過程のマルチンゲール次元が指数に一致することを述べる.第 4節で,自己相似フラクタルにおけるマルチンゲール次元の決定問題について,証明のアイディアを紹介する.第5節では,派生して考えられる問題等についてコメントする.

2. 強局所ディリクレ形式の例Kを局所コンパクト可分距離付け可能空間,µをK上の正値ラドン測度で台が全体であるものとする.L2(K,µ)上の対称正則ディリクレ形式 (E ,F)が考察の対象である.以後,常に対称形式しか考察しないため,「対称」という語は省略する.K上の可測関数fに対して,測度 |f | · µの台を supp[f ]で表す.以降,(E ,F)は強局所,すなわち次の性質をみたすもののみを考える.

f, g ∈ Fに対して,supp[f ]と supp[g]がともにコンパクト集合で,supp[f ]

の近傍上で gが定数ならば,E(f, g) = 0.

このとき,ディリクレ形式の一般論から,(E ,F)に付随した,内部消滅を持たないµ-対称なK上の拡散過程Xtが構成される (cf. [FOT10]).Fには内積E1(f, g) := E(f, g)+∫K fg dµを定め,ヒルベルト空間と見なす.Fbを,Fに属する関数で有界であるもの全体とする.Fbに属する関数 fのエネルギー測度 νf

2は,次で特徴付けられるK上の正の有限ラドン測度として定義される:∫

Kϕdνf = 2E(f, fϕ) − E(f2, ϕ), ∀ϕ ∈ Fb ∩ C(K). (2.1)

2文献 [FOT10, CF11]など,ディリクレ形式の理論の標準的なテキストでは µ〈f〉という記号が用いられているが,本稿ではフラクタル上の解析に関する論文でよく用いられる νf という記号を使用することにする.

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このとき,Kの任意のボレル集合Aに対して∣∣∣∣√νf1(A) −√νf2(A)

∣∣∣∣ ≤ √νf1−f2(A) ≤

√2E(f1 − f2, f1 − f2), f1, f2 ∈ Fb

という不等式が成り立つため,一般のf ∈ Fに対しても,Fbの元で近似することで自然にエネルギー測度νfが定まる.また,f, g ∈ Fに対して,

νf,g :=1

2(νf+g − νf − νg)

としてK上の符号付き測度νf,g(相互エネルギー測度)を定める.νf,gはf, gに関して双線型性を持つ.このエネルギー測度が本稿では重要な役割を演じる.(2.1)より,エネルギー測度は本質的には測度µとは無関係に定まることに注意する.今後の話の具体例として念頭にある典型例を幾つか挙げる.

例 2.1. K = Rd, µ = dx(ルベーグ測度), F = W 1,2(Rd)とし,A(x) =(aij(x)

)di,j=1

(x ∈ Rd)を,ルベーグ可測なRd×d-値関数で各xについてA(x)は対称行列であって,更にある定数 c ≥ 1に対して

c−1|h|2Rd ≤ (A(x)h, h)Rd ≤ c|h|2Rd , h ∈ Rd, x ∈ Rd

が成り立つものとする.

E(f, g) =1

2

∫Rd

(A(x)∇f(x),∇g(x))Rd dx, f, g ∈ F

と定めると,(E ,F)はL2(Rd, dx)上の強局所正則ディリクレ形式となる.f, g ∈ Fに対し

νf,g(dx) = (A(x)∇f(x),∇g(x))Rd dx

であることが具体的な計算からわかる.

例 2.2. (superposition) K = R2, µ = dx dy(2次元ルベーグ測度)とし,f, g ∈ C∞c (R2)

に対して

E(f, g) =1

2

∫R2

(∇f(x, y),∇g(x, y))R2 dx dy +1

2

∫R

∂f

∂x(x, 0)

∂g

∂x(x, 0) dx

と定めると,(E , C∞c )はL2(K,µ)上で可閉となる.そこでその最小閉拡大を (E ,F)と

書くことにすると,(E ,F)はL2(K,µ)上の強局所正則ディリクレ形式であり,エネルギー測度は

νf,g(dx dy) = (∇f(x, y),∇g(x, y))R2 dx dy +∂f

∂x(x, 0)

∂g

∂x(x, 0) dx⊗ δ0(dy), f, g ∈ F

と表される.ここで f , gはf, gの準連続修正を表し,δ0は0におけるy軸上のディラック測度である.

Superpositionの例は生成作用素が通常の微分作用素で表せない典型例として,これまでにもいろいろな見地から研究されてきた([Ik69, IW71, IW72, IW73, To80, HMO96]

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図 1: 2次元Sierpinski gasketとグラフ (V2,∼)

など).[HMO96]によれば,上記のディリクレ形式に付随する拡散過程の推移密度関数pt(z1, z2)について,x軸上では

limt→0

[−2t1/3 log pt

((x1, 0), (x2, 0)

)]= 3|x1 − x2|4/3, x1, x2 ∈ R

という非ガウス型の挙動を示す 3.

例 2.3.(2次元 Sierpinski gasket)z1 = (0,√

3/2), z2 = (−1/2, 0), z3 = (1/2, 0) ∈ R2

とし,z1, z2, z3をそれぞれ不動点とするR2上の縮小写像ψ1, ψ2, ψ3を

ψi(z) =1

2(z − zi) + zi, z ∈ R2

により定める.2次元 Sierpinski gasket K ⊂ R2は,関係式K =∪3i=1 ψi(K) をみたす

唯一つの空でないコンパクト集合として定義される.K上の標準的な拡散過程は,最初期の研究 ([Go87, Kus87, BP88])ではランダムウォークのスケール極限として与えられたが,ここでは [Ki89, FS92]に従い直接ディリクレ形式を構成する方法を述べる 4.V0 = z1, z2, z3とし,Vn ⊂ R2 (n = 1, 2, . . . )をVn =

∪3i=1 ψi(Vn−1) により帰納的に

定める.Vnはnに関して単調に増大し,V∗ =∪∞n=0 VnとおくとV∗の閉包はKに一致す

る.各Vnには自然にグラフ構造が定まる(図 1を参照).x, y ∈ Vnが 1つのボンドの両端になっているときx ∼ yと書くことにする.V∗上の関数f, gに対して,

Qn(f, g) =∑

x,y∈Vnx∼y

(f(x) − f(y))(g(x) − g(y))

とおくと,任意のfに対して数列(5/3)nQn(f, f)∞n=1はnに関して単調非減少となり,更に任意のV0上の関数に対して,そのV∗への拡張fで,この数列が定数列となるような関数が存在する.従って,5/3がこの例での適切なスケーリング定数となる.

F∗ = f | fはV∗上の関数で limn→∞

(5/3)nQn(f |Vn , f |Vn) <∞

とおく.すると各f ∈ F∗に対して,fはV∗上で一様連続(実際はヘルダー連続)であることが示されるので,K上の連続関数に一意的に拡張される.これを改めて fで表し,この関数全体をFとする.f, g ∈ Fに対して

E(f, g) = limn→∞

(5/3)nQn(f |Vn , g|Vn)

3後述するAronson型評価 (2.3)と比較すると,dw = 4として整合性があるのが興味深い.4わざわざ述べるまでもないほど既に常識化しているのかも知れないが,一応記述する.

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図 2: p. c. f. self-similar setの例.左から,3次元Sierpinski gasket, snowflake, Pentakun,

Vicsek set, Hata’s tree-like set.左4つはnested fractalでもある.

とおくと (E ,F)はL2(K,µ)(µはK上の正規化されたハウスドルフ測度)上の強局所正則ディリクレ形式となり,更に (E ,F)は次の自己相似性を持つ.

E(f, g) =3∑i=1

5

3E(ψ∗

i f, ψ∗i g), f, g ∈ F .

(ここで,ψ∗i fはfのψiによる引き戻しf ψiを表す.)このことから,エネルギー測度

についても関係式

νf,g =3∑i=1

5

3νψ∗

i f,ψ∗i g, f, g ∈ F (2.2)

が成り立つ.このエネルギー測度は楠岡 [Kus89]により行列の積の極限を用いた表示が与えられているが,そこから具体的な情報を引き出すのは容易ではない.また,エネルギー測度はµと互いに特異である ([Kus89])ため,µに関する密度関数を考えることはできない.

例 2.4. (Nested fractal, p.c.f. self-similar set) 例 2.3における構成法は,より一般の有限分岐的 5自己相似集合にも適用できる.Lindstrøm [Li90]が導入した nested fractal

は,ユークリッド空間の部分集合として実現される良い対称性を持つ自己相似集合K

である 6.Kを定める縮小写像の族を ψiMi=1,K上のハウスドルフ測度をµとするとき,例2.3と類似の方法で,L2(K,µ)上に

E(f, g) =M∑i=1

1

riE(ψ∗

i f, ψ∗i g), f, g ∈ F

(ri ∈ (0, 1)はある定数)の形の自己相似性を持つ非自明なディリクレ形式(E ,F)で,対応するK上の拡散過程がブラウン運動と呼ぶに値するものが構成できる.木上 [Ki93a]により導入されたpost-critically finite (p. c. f.) self-similar setはより抽象的な形で定義された,nested fractalを含むクラスの自己相似集合である(図2).この場合,自己相似ディリクレ形式の存在は明らかではなく,有限次元空間における非線型変換の不動点の存在に話が帰着される.存在のための十分条件がいくつか知られている([Ki01, HMT06, Pe07]

などを参照).エネルギー測度は例 2.3と同様に行列の積の極限を用いて表示可能ではあるが,定量的な性質を得るのは更に困難である.多くの場合,エネルギー測度はK

上の自己相似測度と互いに特異である ([Hi05, HN06]).

5有限個の点を除いて非連結にできるという性質6正確な定義は長くなるので省略する

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図 3: 2次元標準Sierpinski carpetと3次元標準Sierpinski carpet

例 2.5. (Sierpinski carpet) Dを 2以上の自然数,lを 3以上の自然数とする.Q0 =

[0, 1]D ⊂ RDをD次元単位立方体とし,

D∏j=1

[kj/l, (kj + 1)/l] (kj ∈ 0, 1, . . . , l − 1, j = 1, . . . , D)

と表される一辺 1/lの立方体の全体をC とする.ψ1, . . . , ψM (M < lD)を,相異なるRD上の縮小写像で,各ψiはある bi ∈ RDを用いてψi(x) = l−1x + biと表され,更にψi(Q0) ∈ C であるものとする.このときK =

∪Mi=1 ψi(K)をみたすRDの空でないコ

ンパクト集合が唯一つ存在する.KをψiMi=1から定まる,(一般化)D次元Sierpinski

carpetという(図3).Q1 =

∪Mi=1 ψi(Q0)とし,Int(A)で集合A ⊂ RDの内部を表す.幾何学的な条件とし

て,Barlow–Bassによる次の条件を課す.

• (Symmetry) Q0上の任意の等長変換によって,Q1は不変.

• (Connectedness) Int(Q1)は連結で,超平面 x1 = 0と x1 = 1を結ぶ pathを含む.

• (Nondiagonality) m ∈ Nとし,B ⊂ Q0を

B =D∏j=1

[kj/l

m, (kj + 2)/lm]

(kj ∈ 0, 1, . . . , lm − 2, j = 1, . . . , D)

と表される一辺2/lmの立方体とする.このとき,Int(Q1 ∩B)は連結集合(空集合かもしれない)である.

• (Borders included) (x1, 0, . . . , 0) ∈ RD | 0 ≤ x1 ≤ 1 ⊂ Q1.

µをK上の正規化されたハウスドルフ測度とする.このとき,L2(K,µ)上の非自明な強局所正則ディリクレ形式 (E ,F)で,次の性質を持つものが定数倍の違いを除いて一意的に存在することがBarlow–Bass–熊谷–Teplyaev [BBKT10]による結果から従う 7:

•(保存性)1 ∈ F .

7拡散過程やディリクレ形式の構成(すなわち存在)に関しては,[BB89, KZ92, BB99, HKKZ00, Os01]など,多くの先行研究があったことに注意しておく.

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•(対称不変性)f ∈ F とQ0上の任意の等長変換Ψに対して,Ψ∗f ∈ F であり,E(Ψ∗f,Ψ∗f) = E(f, f)が成り立つ.

•(自己相似性)ある定数 r ∈ (0, 1)が存在して,任意のf, g ∈ Fに対して

E(f, g) =M∑i=1

1

rE(ψ∗

i f, ψ∗i g).

更に,付随する推移密度関数pt(x, y)は次のAronson型の評価を持つ:

c1t−ds/2 exp

(−c2(|x− y|dw

RD/t)1/(dw−1)

)≤ p(t, x, y) ≤ c3t

−ds/2 exp(−c4(|x− y|dw

RD/t)1/(dw−1)

),

t ∈ (0, 1], x, y ∈ K. (2.3)

ここで,c1, . . . , c4は正の定数,

ds = (2 logM)/ log(M/r) > 1 (スペクトル次元), (2.4)

dw = log(M/r)/ log l ≥ 2 (ウォーク次元) (2.5)

である (cf. [BB99, BBK06]).Kのハウスドルフ次元をdf (= logM/ log l)で表すと,関係式

ds =2dfdw

≤ df (2.6)

が成り立つ.dw > 2(劣ガウス的)のとき 8はds < dfである.r(同じことだがds)の値については,特徴付けや評価式は存在するが正確な値は知られていない.(E ,F)を構成する方法としては,KをRDのリプシッツ領域Knで近似し,Kn上のブラウン運動のn→ ∞としたときのスケール極限として確率過程から構成する方法 ([BB89, BB99])

や,例 2.3に類似したグラフ近似による方法 ([KZ92, HKKZ00])がある.いずれの手法でも例 2.3や例 2.4のような近似列の単調性はなく,非自明な極限の存在を示すにはハードな解析が必要である.また,ディリクレ形式の具体的表現も知られていない.同じことがエネルギー測度についても言え,解析に用いることのできる情報は限定的である.エネルギー測度とハウスドルフ測度は互いに特異であることは示されている([Hi05, BBK06]).

注意 2.6. 例2.4で述べた,nested fractal上の自然なディリクレ形式に付随する推移密度関数pt(x, y)についても (2.3)と同様の評価が成立する (cf. [Kum93, Ba98]).もちろんdsやdwの値はフラクタル集合によって異なる.また,nested fractal, Sierpinski carpet

において,Fはベゾフ空間Λdw/22,∞ に一致する ([Jo96, Kum00, Gr03]).Fに属する関数

は,一般に通常の意味での滑らかさとは程遠い関数である.

3. 指数の定義とその性質この節では,Kは一般の局所コンパクト可分距離付け可能空間,µはK上の正値ラドン測度で台が全体であるもの,(E ,F)はL2(K,µ)上の強局所正則ディリクレ形式とする.以下,第3.1節と第3.3節は [Hi10],第3.2節は [Hi未]に基づいた記述である.

8 [BB99]では,Kに関する付加条件の下で dw > 2が示され,実際は常に dw > 2であることが証明抜きで述べられている.

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3.1. 指数の定義前節の例でみたように,エネルギー測度は一般にµとは絶対連続ではない.そのため,エネルギー測度が密度を持つようなK上の新たな測度を導入する.

定義 3.1. K上の正のRadon測度νが (E ,F)のエネルギー支配極小測度であるとは,次の2条件が成り立つことをいう.

(i) 任意のf ∈ Fに対して,νf ν(すなわちνfはνに対して絶対連続).

(ii) もし別の測度ν ′が上の条件を(νをν ′に置き換えて)みたしていれば,ν ν ′である.

エネルギー支配極小測度は常に存在する.更に次のような,より強い主張が成り立つ.

命題 3.2. 集合f ∈ F | νf は (E ,F)のエネルギー支配極小測度はFで稠密である.

(E ,F)のエネルギー支配極小測度νを一つ固定する.Z+で非負整数の全体を表す.

定義 3.3. ディリクレ形式(E ,F)の各点指数とは,次の条件を満たすK上のZ+∪+∞-値関数 p(x)のうち,(ν-a.e. の意味で)最小の関数のことである: 任意のn ∈ Nと任意のf1, . . . , fn ∈ Fに対して,

rank

(dνfi,fj

dν(x)

)ni,j=1

≤ p(x) ν-a.e. x ∈ K.

また,p := ν- esssupx∈K p(x) ∈ Z+ ∪ +∞を (E ,F)の指数と呼ぶ.明らかに,p(x)および pは νの選び方に依存しない.p(x)はν-a.e.の意味で一意に

定まり,後述するように「点x ∈ Kにおける仮想的な“接空間”の次元」を表す.また第 3.3節で述べるように,指数 pは拡散過程 Xtの加法汎関数に関するマルチンゲール次元に等しいという確率論的な意味を持つ.この概念のプロトタイプは楠岡 [Kus89]によって,あるクラスの有限分岐的フラクタ

ル上で導入されており,定義3.3はその自然な一般化といえる.指数は次のような性質を持つ.

命題 3.4. 指数が0であるための必要十分条件はE ≡ 0.

定理 3.5 (安定性). (E ,F), (E ′,F ′)をL2(K,µ)上の強局所ディリクレ形式で同値なもの,すなわちF = F ′かつ,ある定数 c ≥ 1が存在して

c−1E(f, f) ≤ E ′(f, f) ≤ cE(f, f), f ∈ F (3.1)

が成り立っているものとする.このとき,(E ,F)と (E ′,F ′)に関する各点指数は一致する.

定理3.5の証明は比較的易しく,ディリクレ形式の強局所性と(3.1)から,任意のf ∈ Fに対してエネルギー測度に関する不等式 c−1νf ≤ ν ′f ≤ cνf が成り立つ ([Le78, Mo94])

ことを用いて,対称行列の固有値に関するmin–max原理により主張が示される.第2節の例において,幾つかのものは(各点)指数を容易に決定できる.

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• 例2.1の場合,νとしてルベーグ測度dxがとれる.このとき(dνfi,fj

dν(x)

)ni,j=1

=((

(A(x)∇fi(x),∇fj(x))

Rd

)ni,j=1

=t(√

A(x)B(x))(√

A(x)B(x)),

ただしB(x)は (k, l)-成分が ∂fl∂xk

(x)であるようなd行n列行列.これよりp(x) ≤ d

ν-a.e.が直ちに従い,一方で適切なfidi=1をとることによってp(x) ≥ d ν-a.e.が容易にわかる.従ってp(x) = d ν-a.e.で,指数pはdに等しい.

• 例2.2の場合,νとしてdx⊗ (dy+ δ0(dy))をとることができ,具体的な計算から,各点指数p(z) (z = (x, y) ∈ R2)と指数pは

p(z) =

2 (y 6= 0のとき)1 (y = 0のとき)

ν-a.e., p = 2

であることが確かめられる.

例2.3–2.5については,指数の値を求めるのは容易でない.第4節で詳述する.

3.2. 各点指数の,“接空間”の次元としての解釈この小節では簡単のため,指数pは有限値とする.ここでの目的は状態空間に疑似的な(「測度論的」)リーマン構造を導入し,Fに属する関数の微分を定義することである.

定理 3.6. Fp := F × · · · × F︸ ︷︷ ︸p個

の稠密な部分集合Gが存在し,Gの任意の元 (g1, . . . , gp)

に対して以下が成立する.

(i) 各 i = 1, . . . , pに対して,νgiはエネルギー支配極小測度.

(ii) ν-a.e.xに対して,p(x)次正方行列(dνgi,gj

dν(x)

)p(x)i,j=1

は正則.

定理3.6は命題3.2の拡張といえる.g = (g1, . . . , gp) ∈ Gを 1つ固定し,Zg(x) :=

(dνgi,gj

dν(x))pi,j=1とおく.次の定理より,

g : K → RpはKの局所座標系の亜種(gの単射性は一般に成り立たない),Zg(x)はx ∈ Kの「接空間」におけるリーマン計量,p(x)は接空間の次元とみなすことができる.

定理 3.7 (F に属する関数の “全微分”). 任意の f ∈ F に対し,K 上の ν-可測 Rp値関数∇gf = t(∂(1)f, . . . , ∂(p)f)で以下をみたすものが ν-a.e.の意味で一意的に存在する:

ν-a.e.xに対して,∂(j)f(x) = 0 (j > p(x))であり,

f(y) − f(x) =p(x)∑i=1

∂(i)f(x)(gi(y) − gi(x)

)+Rx(y), y ∈ K (3.2)

と表したとき dνRx

dν(x) = 0.

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また,このとき等式

E(f, h) =1

2

∫K

(Zg ∇gf,∇gh

)Rpdν, f, h ∈ F (3.3)

が成立する.

上の定理の主張において,f , gはf, gの準連続修正を表す.また,dνRx

dν(x)の正確な

意味は,xを定数とみてRx(y)を (3.2)によって yの関数として定義したとき,自然に定まる dνRx

dν(y)のversionに y = xを代入したもの,すなわち

dνRx

dν(x) =

dνfdν

(x) − 2p(x)∑i=1

∂(i)f(x)dνf,gi

dν(x) +

p(x)∑i,j=1

∂(i)f(x) ∂(j)f(x)dνgi,gj

dν(x)

のことである.注意 3.8. フラクタル集合のような,通常の意味では微分構造を持たない空間上の関数について「微分」の概念を考えることは,ある有限分岐的フラクタルのクラスにおいては,既に楠岡 [Kus89]により論じられているほか,以下のような先行研究がある.

• K上の自然な関数系に関する,(3.3)と類似の表現(ただし「リーマン計量」は退化している)— [Kus89, Kus93, Ki93b, Te00].

• p = 1の場合の (3.2)に類似した表現 — [PT08, Hi10].

また,より一般の状態空間において,[Eb99]で,各点での接空間として無限次元ヒルベルト空間を定め,(3.3)と類似の表現が得られている.(もちろんこの場合も「リーマン計量」は退化している.)定理3.6および定理3.7はこれらの結果の精密化・拡張と見なすことができる.ここ

での新規性はKには何の構造も仮定していないこと,および最小限の関数系で(≒退化していない計量の下で)微分を表現していることである.

3.3. 指数の確率論的解釈この小節では,「ノイズの重複度」に相当するマルチンゲール次元の概念を導入し,指数との関連を述べる.まず,[FOT10]に従って記号等を復習する.Kの1点コンパクト化をK∆ := K ∪∆とするとき,(E ,F)に付随するK∆上の拡散過程Xtがフィルターつき確率空間 (Ω,F∞, P, Pxx∈K∆

, Ftt∈[0,∞))上で定義される.また,Xs θt = Xs+t

が任意のs, t ≥ 0で成り立つようなシフト作用素θt : Ω → Ωが定義されているとしてよい.確率測度Pxに関する積分をExで表す.マルコフ過程Xt(ω)t∈[0,∞)の生存時間をζ(ω)で表す.[−∞,+∞]-値汎関数At(ω) (t ∈ [0,∞), ω ∈ Ω)が次の条件をみたすとき加法汎関数という:

• 任意の t ≥ 0に対してAt(·)はFt-可測;

• 定義集合 Λ ∈ σ(Ft; t ≥ 0)と容量 0の除外集合 N ⊂ K が存在して,任意のx ∈ K \ Nに対してPx(Λ) = 1,任意の t > 0に対して θtΛ ⊂ Λが成り立ち,更に ω ∈ Λに対してA·(ω)は [0, ζ(ω))上で右連続かつ左極限を持ち,A0(ω) = 0,

|At(ω)| <∞ (t < ζ(ω)),At(ω) = Aζ(ω)(ω) (t ≥ ζ(ω))であって次式が成り立つ:

At+s(ω) = As(ω) + At(θsω), t, s ≥ 0.

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マルコフ過程に関する通常の加法汎関数の定義と比較すると,除外集合Nの存在を許している点が異なることに注意する.マルチンゲール加法汎関数の族Mを以下のように定義する:

M =

MMは有限値加法汎関数で,定義集合Λに属するωに対してM·(ω)は[0,∞)上で右連続かつ左極限を持ち,任意の t > 0と q.e. x ∈ Kに対して,Ex[M2

t ] <∞ かつEx[Mt] = 0

.今は (E ,F)が強局所という仮定を課しているため,実は任意のM ∈ Mは連続加法汎関数である ([FOT10, Lemma 5.5.1 (ii)]).

非負値連続加法汎関数AのRevuz対応で定まるK上の測度をµAで表す.加法汎関数Aに対して,limt→0(2t)

−1∫K Ex[A

2t ]µ(dx)が存在するときこれを e(A)と表し,Aの

エネルギーという. M ∈ Mの 2次変分加法汎関数を 〈M〉で表すと,等式 e(M) =12µ〈M〉(K)が成立する.

M = M ∈ M | e(M) < ∞とおくと,

Mは内積 e(M,L) :=

(e(M + L) − e(M) − e(L))/2を持つヒルベルト空間になる .M,L ∈Mに対して

µ〈M,L〉 = (µ〈M+L〉 − µ〈M〉 − µ〈L〉)/2と定める.M ∈Mとf ∈ L2(K,µ〈M〉)に対して,確

率積分f •Mは次の条件をみたす唯一のMの元として定義される:

e(f •M,L) =1

2

∫Kf(x)µ〈M,L〉(dx), L ∈

M.

f ∈ Cc(K)ならば,q.e.x ∈ Kで (f •M)t =∫ t0 f(Xs) dMs (t > 0) Px-a.e. である.

定義 3.9. Xtの(または (E ,F)の)(AF-)マルチンゲール次元とは,以下の条件をみたす最小のdm ∈ Z+のことである:

Mの元の族M (k)dm

k=1が存在して,任意のM ∈M

は,あるhk ∈ L2(K,µ〈M(k)〉) (k = 1, . . . , dm)を用いて

Mt =dm∑k=1

(hk •M (k))t, t > 0, Px-a.e., q.e.x ∈ K

の形に確率積分で表現される.もしそのようなdmが存在しなければ,AF-マルチンゲール次元は+∞であると定義

する.

定理 3.10. (E ,F)の指数はAF-マルチンゲール次元に等しい.

この定理は楠岡 [Kus89]による,状態空間が有限分岐的自己相似フラクタルの場合の結果の自然な一般化である.ただし,[Kus89]においては指数の定義はかなり異なり,それが本稿における指数に実質的に相当する量と等しいこと,およびそれが更にAF-

マルチンゲール次元に等しいという 2つの結果が与えられている.定理 3.10は 2つ目の結果の一般化であり,証明はより煩雑になっているが,方針は [Kus89]のものを踏襲している.

注意 3.11. 定義 3.9において,AFは “additive functional”の略である.マルチンゲール次元は上記のもの以外にも幾つかのバリエーションが考えられる.例えば,(必ずしも対称とは限らない)K上の拡散過程に関して,

M =

M = Mtt∈[0,∞)

任意のx ∈ Kに対して,Mは 2乗可積分Px-マルチンゲールでM0 = 0

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とする.M ∈ Mに対し,その 2次変分過程を 〈M〉で表す.発展的可測過程 ϕ(t, ω)

で,任意の x ∈ Kと t > 0に対しEx[∫ t

0 ϕ(s)2 d〈M〉s]< ∞となるもの全体をL(〈M〉)

とする.すると,Mのマルチンゲール次元を,次の条件をみたす最小の qとして定義できる 9: M (1), . . . ,M (q) ∈ Mが存在して,任意のM ∈ Mは,ある ϕk ∈ L(〈M (k)〉)(k = 1, . . . , q)を用いて

Mt =q∑

k=1

∫ t

0ϕk(s) dM

(k)s Px-a.e.x, x ∈ K

と表示される.Xtが強局所ディリクレ形式に対応している場合,これがAF-マルチンゲール次元と一致することはまず間違いないと思われるが 10,講演者は証明をつけることが出来なかったので一応この2つは別物として扱う.本稿では定義3.9のAF-マルチンゲール次元しか取り扱わないので,以降“AF-”は省略して記述する.

4. 自己相似フラクタルにおけるマルチンゲール次元の評価第 2節で述べたように,フラクタル上の自己相似ディリクレ形式は,指数(マルチンゲール次元)の定量的解析が容易な表現を持たないため,その値を決定するのは非自明な問題である.これらについては [Kus89, Hi08, Hi11p]で論じられており,それぞれ異なったアイディアが導入されている.[Kus89, Hi08]では,対象とする自己相似フラクタルが有限分岐的でエネルギー測度が行列の積の極限を用いて表されることを本質的に用いている.いろいろと凝った議論もなされているのだが 11それらは割愛し,ここでは [Hi11p]による,より一般的な状況でも通用する議論のみを紹介する.基本的なアイディアは,Kからユークリッド空間Rdへの非常に性質の良い調和写像を構成し,K上で定義されたディリクレ形式 (E ,F)をその調和写像でpush forwardして,Rd上の標準ディリクレ形式と比較することにより情報を得るというものである.定理の主張は以下の通り.

定理 4.1. マルチンゲール次元をdmで表す.

(1) 例 2.5で考察した Sierpinski carpet上の自己相似ディリクレ形式において,1 ≤dm ≤ ds.ここで dsはスペクトル次元((2.4)参照)である.特に ds < 2ならば,dm = 1.

(2) 例2.4で考察したp. c. f.自己相似集合上の自己相似ディリクレ形式において,dm =

1.

上定理の (1)において,ds ≤ df(Kのハウスドルフ次元)であること,および不等式ds < 2はディリクレ形式に対応する拡散過程が点再帰的であるための必要十分条件であることに注意する.(2)は [Kus89, Hi08]によるマルチンゲール次元の決定についての結果を含んでいる.以下の小節で,もう少し詳しく証明のアイディアについて説明する.

9 [KW67]で議論されているものとほぼ同じ.10実際,複数の人からそう指摘された11例えば [Hi08]では,ランダム行列に関するある定理の「エネルギー測度版」を示して,それを指数の決定に利用している.

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4.1. 一般の状態空間で通用する議論の部分Kを局所コンパクト可分距離空間,µをK上の有限ボレル測度,(E ,F)をL2(K,µ)上の強局所正則ディリクレ形式でE ≡ 0ではない非自明なものとする.K∂をKの閉部分集合とし,

F0 = f ∈ F | supp[f ] ∩K∂ = ∅,H = h ∈ F |任意のf ∈ F0に対してE(h, h) ≤ E(h+ f, h+ f)

とする.Hの元を(K∂を境界とする)調和関数と呼ぶ.まず,ディリクレ形式 (E ,F)には次の条件 (A0)と,(A1)または (A1’)を課す.

(A0)(非自明性と保存性)E 6≡ 0.また,1 ∈ Fで,E(1, 1) = 0.

(A1)(Sobolevの不等式)ある定数ds > 2とC > 0が存在して

‖f‖2L2ds/(ds−2)(K,µ) ≤ CE1(f, f), f ∈ F

が成り立つ.

(A1’) Kの空でない任意の部分集合の容量は正.

dmを (E ,F)のマルチンゲール次元とし,dをd ≤ dmなる自然数とする 12.後に具体例で示すことになるが,以下の条件を仮定する.

(A2) 次の条件をみたすK上の調和関数の組hidi=1が存在する:

• νh1 = · · · = νhdで,この測度はゼロ測度ではない.

• i 6= jならば,νhi,hjはゼロ測度.

1d

∑di=1 νhi

を νhで表すことにすると,任意の i, j = 1, . . . , dに対して νhi,hjは νhに関し

て絶対連続である.条件 (A2)は,νh 6= 0かつ(dνhi,hj

dνh

)di,j=1が νh-a.e.で単位行列に等

しいことと同等である.なお,νhはエネルギー支配極小測度である必要はない.h = (h1, . . . , hd) : K → Rdとおき,準連続なversionをとっておく.一般に準連続な

f ∈ Fに対して,fによる νfの像測度は 1次元ルベーグ測度に関して絶対連続であることはよく知られている(energy image density property, [BH91]).しかし,d ≥ 2のときは,(f1, . . . , fd) ∈ Fdによって∑d

i=1 νfiをpush forwardしたRd上の像測度の滑ら

かさは無条件には期待できない.[BH91]ではかなり強い制約条件の下で滑らかさが議論されているが,今の状況には適用できない.ここでは条件 (A2)を用いて,次の主張を示すことができる.

命題 4.2. f ∈ F0 ∩ Fbで fは準連続とする.このとき,測度 f 2 · νhのhによるRd上の像測度h∗(f

2 · νh)はルベーグ測度に関して絶対連続であり,密度関数を ξとすると√ξ ∈ W 1,2(Rd)である.

この命題をふまえ,更に次を仮定する.

12 d = dmとしたいところだが,アプリオリには dmが有限値かどうかわからないのでこうしている

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(A3) 測度 νhのhによるRd上の像測度h∗νhはルベーグ測度L dに関して絶対連続であり,密度関数を ρとするとき,ρ ≤ ξ L d-a.e.および

√ξ ∈ W 1,2(Rd)をみたす

Rd上の関数 ξが存在する.

x ∈ Rdと r > 0に対し,

B(x, r) = y ∈ Rd | |x− y|Rd < r, B(x, r) = y ∈ Rd | |x− y|Rd ≤ r

と定める.また,Rdにおける (1, 2)-容量をCap1,2で表す.容量に関するソボレフ関数の最大不等式 (cf. [AH96]),およびRdにおける幾何学的測度論の結果を援用することにより,次の性質が示せる.

命題 4.3. (1) Cap1,2-q.e.x ∈ Rdに対して

supr>0

∫B(x,r)

ρ(y) dy <∞, limr0

(h∗µ)(B(x, r))

rd−2= 0.

(2) 集合x ∈ Rd

∣∣∣∣ lim infr0

(h∗µ)(B(x, r))

rd= 0

は (h∗µ)-零集合.

ここで∫· · · dyは正規化された積分を表す.

更に,(E ,F)がL2(K,µ)上の閉形式であることと,条件 (A2), (A3)を用いて,次の主張が示される.

命題 4.4. Rd上の測度h∗µは(1, 2)-容量0の集合に集中しない.すなわち,Cap1,2(B) = 0

なる任意のB ⊂ Rdに対して,(h∗µ)(Rd \B) > 0.

命題4.3と命題4.4より,次の性質をみたすx0 ∈ h(K)が存在することがわかる:

(a) supr>0

∫B(x0,r)

ρ(y) dy <∞;

(b) r → 0のとき (h∗µ)(B(x0, r)) = o(rd−2);

(c) 定数a > 0とr0 > 0が存在して,任意のr ∈ (0, r0]に対して(h∗µ)(B(x0, r)) ≥ ard.

このことから,(E ,F)をhによりpush forwardしたL2(Rd, dx)上の2次形式とRd上の標準ディリクレ形式を,x0の近くである程度比較することができる.実際,G ∈ C∞

c (Rd)

に対して

E(G h, G h) =1

2

d∑i,j=1

∫K

(∂G

∂xi h

)(∂G

∂xj h

)dνhi,hj

(エネルギー測度のderivation propertyより)

=1

2

d∑i=1

∫K

(∂G

∂xi h

)2

dνh ((A2)より)

=1

2

∫Rd

|∇G|2Rd d(h∗νh)

=1

2

∫Rd

|∇G|2Rdρ dx,∫K

(G h)2 dµ =∫

RdG2 d(h∗µ)

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であることから性質 (a)(b)(c)が利用できそうであることが推察できる.Gとして,x0 ∈Rdにおける0次グリーン関数を近似するものをとることにより,もしds < dならばソボレフの不等式 (A1)に矛盾することが示せる.よって,d ≤ dsでなければならない.dはdm以下の任意の自然数だったから,結局dm ≤ dsとなる.

(A1)の代わりに (A1’)を仮定すれば,類似の議論により不等式 d < 2を得,結局dm ≤ 1が従う.以上の議論と命題3.4から,次の主張を得る.

定理 4.5. (1) 条件 (A0), (A1), (A2), (A3)の下で,1 ≤ dm ≤ ds.

(2) 条件 (A0), (A1’), (A2), (A3)の下で,dm = 1.

状態空間に対して「調和座標」をうまく取り,状況をより簡明にするという発想は,生成作用素の表現を標準化する方法として,既に [Sk63]で見ることができる([Ik69]およびその参考文献も参照).ここでのhの導入はそれに類似しているが,hは一般に単射でないので通常の意味での座標系になっているわけではない.ここまでの議論は一般の状態空間における強局所ディリクレ形式について成立する

話である.残された問題は条件 (A2), (A3)をみたす関数族の存在をどう示すかだが,現在のところ自己相似フラクタル(p.c.f.フラクタルまたはSierpinski carpet)上の,第2節で述べたディリクレ形式の場合のみ示せている.このことについて次の小節で紹介する.

4.2. 自己相似性を用いる議論の部分—良い調和写像の構成例2.5の,KがD次元Sierpinski carpetの場合にアイディアを紹介する.この場合(A0)

は問題なく,推移密度関数の評価 (2.3)から,ds > 2ならば (A1)が同じ dsで,ds = 2

なら (A1)でds = 2.01として,ds < 2なら (A1’)が成り立つ.K∂ = ∂([0, 1]D) ∩Kとし,νをエネルギー支配極小測度とする.d ∈ Nとしてd ≤ dmなるものを任意にとる.指数の定義と比較的簡単な議論から,調和関数の組h1, . . . , hdをうまく選んで,

ν

x ∈ K 行列(dνhi,hj

dν(x)

)di,j=1

は正則 > 0

となるようにできる.特に,

νh

x ∈ K 行列(dνhi,hj

dνh

(x)

)di,j=1

は正則 > 0

である.ここから,幾何学的測度論におけるblow-upの議論の類似を行う.ユークリッド空間Rn上のルベーグ可積分関数 fに関しては,殆どすべての点x ∈ Rnはルベーグ点,すなわち

limr→0

∫B(x,r)

|f(y) − f(x)| dy = 0

が成立する.言い換えると,xを中心とする縮小率 rの,Rn上の自然な縮小写像をψrとすれば,fのψrによる引き戻しψ∗

rfは,f → 0のとき(何らかの意味で)定数関数f(x)に近づく.この考えをK上の行列値関数Φh(x) :=

(dνhi,hj

dνh(x))di,j=1に適用する.縮

小写像ψは無論Kを定める縮小写像の合成をとる.このとき,ディリクレ形式の自己

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相似性から,エネルギー測度についての (2.2)に類似した関係式を用いてΦψ∗hをうまくコントロールすることができる.そこで適切な縮小写像の列ψn∞n=1をとって,ψ∗

nh

をFのノルムで正規化したものが,ある非自明な元h′にFの位相で収束すること,およびΦh′がνh′-a.e.で定行列となることを示すことができる.技術的にはこの部分の証明が最も大変で,特に以下のような主張を利用している.

(C1) Hの部分集合でFにおいて有界な集合は,適切な条件をみたす縮小写像で引き戻すとFの相対コンパクト集合になること 13.

(C2) エネルギー測度は集合K∂にmassを持たないこと.

(C1)については,p. c. f.フラクタルの場合のようにHが有限次元であれば自明だが,Sierpinski carpetの場合はHは無限次元なので非自明である.しかし,これについては[Hi05]で本質的に証明をつけており,それを適切に修正すればよい.証明にはディリクレ形式の自己相似性のほか,楕円型ハルナック不等式を用いている.

(C2)についても,[HK06]で付加条件の下,証明に必要な主たる部分は示されている.この付加条件は [HK06]では別の主張を示すために課していたもので,(C2)を示すためには証明を丹念に修正すれば不要となる.Sierpinski carpetの幾何学的構造をかなり用いた組み合わせ論的な議論が主となる証明で,主張の見かけの平易さに反し,込み入ったな議論を行っている.ここまで示せれば,あとはh′に適当な線形変換Tを施すことによりΦTh′がνTh′-a.e.

で単位行列となるようにでき,h = T h′として (A2)が示される.一旦 (A2)が示されれば,hを再度適当な縮小写像で引き戻してそれを改めてhとすることによって,(A2)の性質を保ちつつ (A3)をも成り立たせることができる.以上がSierpinski carpetの場合の証明のストーリーである.例2.4のp. c. f.フラクタ

ルの場合も同様のアイディアが適用できる.この場合は (A0), (A1’)が成り立っている.K∂としては,例 2.3でいうところの V0に相当する有限集合をとる.(A2), (A3)

を示すための上記の性質 (C1), (C2)については,Hが有限次元であるため (C1)は自明で,エネルギー測度はpoint massを持たない 14という強局所ディリクレ形式の一般論から (C2)も成り立つことがわかり,Sierpinski carpetの場合より証明は遥かに易しい.

5. 今後の課題今後考えられる問題について,漠然としたものも含めて列挙する.

• 定理4.1において,マルチンゲール次元の上からの評価は,より精密にできるか?また,下からの非自明な評価は?

• より一般の状態空間における強局所ディリクレ形式に関しても,dm ≤ dsという不等式は成立するか?

• 証明にはユークリッド空間への調和写像を考えることが鍵となったが,より一般のターゲット空間を考えることで,「測度つき距離空間上の調和写像の理論」のようなものは考え得るか?15 また,そういうものを考えることで何か新しい知見が得られるか?

13実際はもう少し強い主張が必要だが,説明が煩雑になるので省略する.14 energy image density propertyからの帰結15筆者の想定しているものと少し方向性が異なるが,K. Th. Sturmらによる研究がある

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• 例 2.4における p. c. f.フラクタルでは結局マルチンゲール次元はすべて 1であるが,拡散過程の「ノイズ」は互いに異なっているだろうと予想される.定式化も含めて,これらを区別できるような,より詳しい指標はあるか?

• 各点指数の「接空間の次元」という解釈を,拡散過程を分類するという目的で利用できないか? その際,各点指数は ν-a.e.でしか定義されていないため,これだけでは情報が不足している.例えば下の図におけるブラウン運動的な拡散過程(spider martingale,Walshのブラウン運動などと呼ばれる)において,分岐点では各点指数は定義されないが,拡散過程の挙動には重要な役割を果たしている.このような点での情報(Barlow–Pitman–Yor [BPY89]による splitting multiplicity

など)をディリクレ形式から引き出す方法は?

参考文献[AH96] D. R. Adams and L. I. Hedberg, Function spaces and potential theory,

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