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更新日:2012/3/21
石油調査部:竹原 美佳
東アフリカ LNG を巡る動き -カタールに次ぐ LNG 輸出地域出現か?-
モザンビーク、タンザニアなど東アフリカ深海で大型のガス田発見が相次いでいる。これらのガス田
は日本を含む東アジア向けの LNG 液化事業化が計画されている。計画されている LNG 液化事業
が全て順調に立ち上がった暁には、東アフリカはアフリカ 大の輸出国ナイジェリアを上回り、カタ
ールにつぐ LNG 輸出地域となる可能性がある。
モザンビーク北部沖合Rovuma堆積盆地Area1の上流権益(推定埋蔵量15~30Tcfのガスが発見さ
れ、LNG 液化事業を検討中)を保有する英 Cove Energy の買収を巡り、LNG のリーディングプレイ
ヤーである Shell とタイ PTT やインド ONGC などアジア国営石油企業が競合している。Cove Energy
はアフリカを中心に活動する英中小企業でしている。PTT などアジア国営企業は自国への供給源
確保を、Shell はフロンティア LNG への参画による LNG 事業の拡張を志向していると思われる。
モザンビークやタンザニアでは今後上流権益の売却が続く可能性がある。Area1のオペレーター米
Anadarko は中核事業(北米)の投資案件を抱えており資産を売却する可能性がある。また Cove
Energy のようにアフリカにおける探鉱事業に特化した中小企業がキャピタルゲインを求め資産を売
却する可能性がある。Shell が Cove Energy をはじめとする権益を買い集め、モザンビークの LNG
液化事業のメインプレーヤーとなる可能性がある。
東アフリカ LNG は日本にとり調達多様化、リスク分散につながる供給源の一つと言える。すでに長
期売買契約が結ばれており、一気に多様化を進めることは難しいが、上流参画や“ファウンデーショ
ンバイヤー”(LNG液化事業の投資決定につながるような初期かつ大口の買い手)として供給者と協
調することにより、調達条件の柔軟性や価格低廉化を追求できる可能性がある。
価格低廉化や柔軟な条件を勝ち取るには調達する側の意識の変革と供給者への建設的な提案が
不可欠である。柔軟な受入を可能とする港湾等受け入れ体制の整備も必要であると思われる。東ア
フリカの LNG や米国の LNG が日本の LNG 調達を変える原動力となることが期待されている。
はじめに.アフリカの天然ガス
アフリカにおける天然ガスの主要生産地域はアルジェリアを初めとする北アフリカと西アフリカのナイジ
ェリア、アンゴラであり、現在東アフリカは少量のガスを国内あるいは域内で消費している程度である。ア
フリカの天然ガスは主に欧州向けに輸出されており、これまで日本にとりあまり身近な存在とは言えなか
った。しかし東アフリカにおける大型ガス田発見によりその構図が変わる可能性がある。
Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に
含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら
かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一
切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
図1:アフリカ各国の天然ガス分布
図2:アフリカ天然ガス生産順位ならびに地域別LNG 輸出(2011 年)
CEDIGAZ ならびに BP 統計にもとづき作成
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含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら
かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一
切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
1.大型ガス田発見に沸く東アフリカ深海
(1)東アフリカのガスポテンシャルは日本の LNG 年間消費量の約20 年分に匹敵?!
東アフリカのモザンビーク、タンザニアで大型のガス田発見が相次いでいる。いずれのガス田も現在
評価中で埋蔵量が確定したわけではないが、モザンビーク北部深海ではAnadarkoがオペレーターを務
める Area1鉱区で推定埋蔵量 15~30 兆立法フィート(Tcf)超のガス田が発見され、Area1に隣接する
Area4鉱区(伊 Eni がオペレーター)では推定埋蔵量 30Tcf 規模のガス田が発見された。また、隣国タン
ザニア深海においてもBritish Gas(BG)がオペレーターを務めるBlock1・4ならびにStatoilがオペレータ
ーを務める Block2 でそれぞれ推定埋蔵量 5Tcf 規模のガス田が発見された。モザンビークとタンザニア
の推定埋蔵量を合わせると 70Tcf 規模となる。一般的に埋蔵量 10Tcf で 1,000 万トン/年の LNG を 20
年生産できる規模である。2011 年の日本の LNG 消費量は約 7,800 万トン(3.7Tcf)であり、東アフリカの
天然ガスのポテンシャルは日本の LNG 年間消費量の約20 年分に相当する。
図3:モザンビーク、タンザニアでガス田が発見された主な深海鉱区
「世界LNG: 実現に近づく次世代LNG供給地域・プロジェクト」(JOGMEC石油天然ガス資源情報2012
年1 月)に加筆
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に
含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら
かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一
切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
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含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら
かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一
切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
【モザンビーク Rovuma offshore Area1】
Rovuma offshore Area1はモザンビーク北東沖合、タンザニアとの国境に Rovuma 堆積盆地に位置し、
大水深は 2,500m の大水深鉱区である。
オペレーターの米Anadarko は2006年12月にモザンビーク鉱物資源省と利権契約を締結した。現在
Anadarko は 36.5%の権益を保有している。パートナーは三井物産が 20%(2008 年 2 月に Anadarko から
20%権益を取得)、インドの Videocon と Bharat Petroleum が Anadarko それぞれ 10%(2008 年10 月権益を
取得)、米Cove Energy が 2009 年9 月に権益8.5%を取得した。また国営ENH が 15%権益を保有してい
る。2009 年 12 月から Rovuma 堆積盆地の 7 つの有望構造を対象に掘削キャンペーンを開始、
Windjammer、Barquentine、Lagosta、Tubarao、Camarao 構造でガスを確認した。発見井の Barquentine1
は第 3 紀漸進世と暁新世の良好な砂岩層で計 127m のガス層が確認されている。当初推定埋蔵量は 6
~12Tcf とされたが、その後の発見を受け、現在は 15~30Tcf 超に上方修正された。
【モザンビーク Rovuma offshore Area4】
Anadarko の Area1鉱区の東側で Area1同様 Rovuma 堆積盆地に位置しており、 大水深 2,500m の
大水深鉱区である。
オペレーターの伊Eni は Anadarko と同じ 2006 年12 月にモザンビーク鉱物資源省と利権契約を締結
した。現在Eni は 70%の権益を保有している。パートナーはポルトガル Galp が 10%、韓国Kogas が 10%、
国営 ENH は 10%の権益を保有している。2011 年 10 月に Mamba South、2012 年 2 月に Mamba North
構造(いずれも第 3 系砂岩層)でガスを確認した。発見井の Mamba South1(水深 1,585 m)は第 3 紀の
漸進世で 212m のガス層が確認されている。Mamba 構造の推定埋蔵量は当初15Tcf とされたが、その後
Mamba North-1で良好なガス層が確認されたことなどにより、推定埋蔵量は 30Tcf に上方修正された。
【タンザニア Block1、4】
タンザニア南部沖合Mafia堆積盆地ならびにモザンビークで発見のあったRovuma堆積盆地に位置し
ており、 大水深は 3,000m の大水深鉱区である。米 Ophir が 2005 年 10 月に PS 契約を締結した。BG
が2010年5月に60%参加、オペレーターを務めている。2011年にBlock1のCheza構造ならびにBlock4
の Chewa および Pweza 構造(第3 系砂岩層)でガスを確認した。発見井の Cheza1井は中新世砂岩層で
27mのガス層が確認されている。推定埋蔵量は 5Tcf 程度と見込まれている。
【タンザニア Block2 】
タンザニア南部沖合タンザニア堆積盆地にあり、水深は 1,000~3,000m の大水深鉱区である。オペレ
ーターのノルウェーStatoil は 2007 年4 月に PS 契約を締結した。現在Statoil は 65%の権益を保有してい
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に
含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら
かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一
切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
る。パートナーはExxonMobilで2010年3月にStatoilから35%の権益を取得した。タンザニア国営TPDC
(Tanzania Petroleum Development Corp.)は商業開発の段階で 10%権益を取得する権利を有している。
本鉱区では下部白亜系 Neocomian で複数の有望構造(クロージャーが四方向に下がり、良好な背斜構
造を形成)が確認され、根源岩は中上部ジュラ系と考えられている。2012 年 2 月に Statoil は探鉱井
Zafarani-1(水深約2,500m)で良好なガス貯留層を確認したことを明らかにした。StatoilはZafarani構造の
推定埋蔵量を 大5Tcf と見込んでいる。続いて Lavani 構造を対象に2坑目の掘削を行っている。Statoil
は昨年来バレンツ海、北海、ブラジルと油ガス田の新規・追加発見が続いており、タンザニアの発見に
ついては 5 番目に大きな発見と位置付けている。
(2)東アフリカはカタールに次ぐ LNG 液化輸出地域に?!
今般モザンビークならびにタンザニア深海で発見された天然ガスの一部は国内あるいは域内消費の
可能性があるが(南アフリカなど周辺諸国がパイプライン網整備などにより調達を志向)、事業者ならび
に政府は発見したガスを液化して日本を含む東アジア市場に輸出する LNG 液化事業を検討している。
現在モザンビークとタンザニアを合わせ 2,500~5,000 万トン/年(500 万トン/年×5~10 トレイン)の
LNG 液化事業が計画されている(表1)。Anadarko がオペレーターを務める Rovuma offshore Area1につ
いては KBR と Technip が液化事業のプレ FEED を実施した。500 万トン 2 トレイン計1,000 万トン/年の
液化プラントの建設について 2013 年の投資決定(FID)、2018 年の稼働を目指している。Area1にはイン
ドや日本企業が参加しており、日本を含むアジア地域に販売する構想があると報じられている。また
Area1の液化プラントは将来 6 トレイン 3,000 万トン/年に拡張する構想がある。ただし 6 トレインの建設
には追加探鉱を行う必要がある。
EniのRovuma offshore Area4についても液化事業(500万トン3トレイン計1,500万トン/年)の計画が
ある。Area4 は韓国企業が参加しており、アジア向けの販売計画がある。タンザニアで発見されたガス田
も LNG 液化が可能な規模の発見と見られている。
深海のガス田開発や LNG 液化事業は巨額の投資が必要(Area1の 2 トレイン 1,000 万トン/年のガス
田開発から液化プラント建設までを含めた総事業費は 250 億ドル(約 2 兆円)とされている)であり、販売
先の確保や資金調達を行わなければならず、これらの液化プラントが一斉に立ちあがる訳ではない。し
かし条件が整い、順調に立ち上がった暁には、東アフリカはアフリカ 大の LNG 輸出国ナイジェリア
(2011 年の出荷量約 1,800 万トン)を上回り、カタール(2011 年の出荷量約 5,600 万トン)につぐ LNG 輸
出地域となる可能性がある(図4;豪州は1億トン/年以上、ナイジェリアは5,000万トン/年を超える液化
拡張計画があるが、本稿では現行出荷量ベースで比較を試みた)。
表1:モザンビーク、タンザニアで計画中の主な LNG 液化事業
LNG事業名 Rovma Offshore Area1 Rovma Offshore Area4 Block1、4 Block2
事業者 米Anadarko* 36.5% 伊Eni* 70.0% 英BG* 60% Statoil* 65%*オペレーター 三井物産 20.0% ポルトガルGalp 10.0% 米Ophir Energy 40% ExxonMobil 35%
国営ENH 15.0% 国営ENH 10.0%インドBharat Petroleum 10.0% 韓国Kogas 10.0%インドVideocon 10.0%英Cove Energy 8.5%
鉱区 沖合深海 沖合深海 沖合深海 沖合深海Rovma Offshore Area1 Rovma Offshore Area4 Block1、4 Block2
最大水深 2,500m 2,500m 3,000m 3,000m
ガス田発見 2010年 2011年 2011年 2012年貯留層 第三系砂岩層 第三系砂岩層 第三系砂岩層 下部白亜系砂岩層
投資決定(FID)
2013年
LNG操業 2020年~21年
推定埋蔵量 30Tcf 30Tcf 5Tcf 5Tcf
液化設備能力(想定)
当初 1,000万トン/年(2トレイン)増設 最大3,000万トン/年(6トレイン)
1,500万トン(3トレイン)400~800万トン/年(1~2トレイン)
備考
・ドライガス・液分なし・日本向け500万トン輸出構想(三井物産)・インド向け輸出構想・Cove Energy身売り、Anadarko他の権益売却の可能性
・アジア向け輸出構想・Eni、権益売却の可能性
モザンビーク タンザニア
「世界LNG: 実現に近づく次世代LNG供給地域・プロジェクト」(JOGMEC 石油天然ガス資源情報2012 年1 月)に加筆
図4: LNG 輸出上位国(2011 年)と東アフリカの液化計画量
0
10
20
30
40
50
60
百万トン/年
出所:BP 統計にもとづき作成
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切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
2. モザンビークのガス上流権益を巡るアジア国営石油会社とメジャーズの競合
(1)アジア国営石油会社とメジャーズ Shell が買収に名乗り
英Cove Energy は 2012 年1 月に全株式の売却を表明し、Shell とタイ国営石油企業PTT が正式に買
収を表明している。Cove Energy は 2003 年に設立、2009 年に資産買収により東アフリカ探鉱に乗り出し
た新興の中小石油企業(モザンビーク、タンザニア、ケニアで活動)で英AIM に上場している。生産中資
産はないが、Rovuma 堆積盆地Area1の上流権益8.5%を保有しており、実質的に本資産を巡る買収合戦
が展開されている。2 月22 日に Shell が 16 億ドルを提示、同月24 日にはタイ PTT が 17 億8000 万ドル
を提示した。また、インド国営ONGC・GAILが20億ドル(推計)で買収を検討と伝えられる。モザンビーク
政府が資産譲渡に対し 32%のキャピタルゲイン税をかけようとしていることで速やかな買収成立が難しく
なったかもしれない(ウガンダではキャピタルゲイン税導入により同様の資産売却から新たな PS 契約締
結までに約 2 年を要した)が各社とも買収を撤回していない。それだけモザンビークの資産は魅力的で
あると言えるであろう。Cove Energy はガス田開発ならびに LNG 液化事業(500 万トン×2トレイン)など
今後発生する巨額の拠出負担に耐えられる企業規模ではなく、売却は創業者と株主を利する選択であ
ったと評価されている。
(2)各社の思惑
①Shell
Shell にとり Cove Energy の買収はリーディング LNG プレイヤーとしてフロンティア LNG 案件への参画
によるLNG事業の拡大と東アフリカ上流への進出を図ることが主な目的であると思われる。Shellにとり東
アフリカ LNG は LNG ポートフォリオ上も有効な資産である。
②タイ PTT
タイ PTT にとり Cove Energy の買収は自国への供給源確保が主な目的であると思われる。Cove
Energy の買収(提案)は2度目の大型国外資産買収(2010年加オイルサンド資産 23 億ドル)かつ初の
LNG関連上流資産買収である。タイは東南アジア 大のガス市場で2011年にLNG輸入国に転落した。
PTT はタイで LNG 受入ターミナル 500 万トン/年を操業中(2011 年9 月稼働)である。
③インド ONGC/GAIL
インドONGCやGAILにとりCove Energyの買収は自国への供給源確保が主な目的であると思われる。
インドの天然ガス生産は低迷しており、LNG輸入量が増加傾向にある。なお、モザンビークArea1にはイ
ンド企業Videocon と Bharat Petroleum が参加しており、同LNG 事業はインドを含むアジアを売り先に想
定している。
表2:各社の Cove Energy 買収の主な目的
Shell PTT ONGC/GAIL提示額 16億ドル 17億8000万ドル 20億ドル(推計)
買収の主な目的
フロンティアLNG案件への参画によるLNG事業の拡大と東アフリカ上流への進出
自国への供給源確保
自国への供給源確保
JOGMEC
図5:アフリカの石油ガス探鉱開発における多彩な顔ぶれ
JOGMEC 作成
3.Cove Energy だけでは終わらない?!東アフリカの資産買収ラッシュ
モザンビークやタンザニアでは今後ガス田発見鉱区の上流権益の売却が続く可能性がある。例えば
ガスを発見したオペレーターの米Anadarko(Area1権益36.5%を保有)はLNG液化事業の経験に乏しく、
中核事業は北米(北米外事業の 2011 年売上は 13%)であり、開発投資案件を数多く抱えている。
Anadarko の 2011 年の投資額は 65 億5000 万ドル(約5,200 億円)であり、2012 年の北米外事業への投
資配分は 14%と 1,000 億円に満たない額である。Anadarko の出資比率の場合、Area1の投資決定(2013
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年見込)から液化プラント500万トン2トレインの稼働(2018年見込)まで上流・LNG液化事業への拠出負
担額が年 1000~2000 億円に達すると思われる。したがって Anadarko は一部または全ての権益を売却
する可能性があるという見方がある。また Eni(Area4 権益 70%を保有)についても資産の評価後に権益
を一部売却予定と伝えられる。今後ShellはCove Energyの買収を足がかりにArea1の権益買い増しを図
る可能性がある。AnadarkoがArea1権益の一部または全てを売却しShellがArea1のオペレーターとなる
可能性も否定できない。ShellがCoveをはじめとする権益を買い集め、モザンビークのLNG液化事業の
メインプレーヤーとなる可能性がある。
図6:Anadarko の活動エリア
図7:Anadarko の 2012 年投資配分計画
出所:Anadarko
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切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
現在東アフリカでは 100 社以上が石油・天然ガスの探鉱活動を行っている。アフリカでは Cove Energy
のようにアフリカに特化して探鉱を行う独立系企業(探鉱成功後資産を売却しキャピタルゲインを得る、
英豪籍でロンドン AIM に上場企業が多い)が数多く活動しており、資産・企業買収は良く見られる現象で
ある。過去5 年の間に同様の資産・企業買収が 30 件以上行われたという集計がある。
ちなみに、東アフリカの石油ガス探鉱開発において中国大手国有石油企業の活動はそれほど活発で
はない。CNOOC はケニアで探鉱を行っていたが現在は撤退しており、ウガンダのアルバート湖周辺で
TullowやTotalと開発を行おうとしているがCNPCやSINOPEC等に目立った動きはない。現在彼らの関
心は北米非在来型や南米深海に向いているのかもしれない。
4.東アフリカ LNG と日本 -調達多様化、柔軟性、価格低廉化に向けて-
欧州における北海のガス生産減退、ドイツにおける脱原発の動き、中印等新興 LNG 輸入国の台頭、
中東(ドバイやクウェート)、南米におけるガス需要の増加により、今後天然ガスの需要は世界的に高まる
見通しである。日本は福島第一原子力発電所の事故を受け、原子力発電の代替として火力発電、中でも
天然ガス火力の比率が伸びた。2011 年には LNG7,841 万トンを輸入した。輸入量は通年で前年比 12%
増、震災後で区切ると 21%増加した。仮にこのまま原発が再稼働しない場合、LNG 輸入量は 8,500 万トン
/年程度に増加するという試算がある。LNGの追加需要について2011年は供給余力のあるカタールか
らの調達が主となり(追加調達のほぼ半分はカタールからの調達)、ホルムズ海峡封鎖の懸念がある中、
中東からの調達が高まる結果となっている。
図8:日本の LNG 輸入
0
1,000
2,000
3,000
4,000
5,000
6,000
7,000
8,000
9,000
2010年 2011年
大西洋LNG
北米
東アフリカ
ロシア
中東
豪州
東南アジア
万t/年
JOGMEC 作成
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日本は原油については消費の約 200 日分の備蓄を保有しているが、LNG は 20 日程度の在庫しかな
く、発電燃料の 3 割を中東に依存していることは夏場の電力需要ピーク時の懸念要因となっている。
日本の LNG 輸入価格は原油輸入価格と連動しており、北米はもとより欧州の LNG 輸入価格と比べて
も割高で、震災後は欧州LNGとの価格差が以前より広がっている(図9)。また原油とLNGの輸入金額は
原油高の影響を円高により若干軽減できたが、前年比3兆3000億円増加した。2011年は31年ぶりに貿
易赤字に転落したが、そのほとんどは原油と LNG の輸入金額増によるという指摘がある。
図9:LNG 指標価格・ガス市場価格推移
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
Dec‐10
Jan‐11
Feb‐11
Mar‐11
Apr‐11
May‐11
Jun‐11
Jul‐1
1
Aug
‐11
Sep‐11
Oct‐11
Nov
‐11
Dec‐11
Jan‐12
Feb‐12
Mar‐12
ドル/MMBtu
LNG指標価格、ガス市場価格推移
東アジアLNG
欧州LNG
英国NBP
米国H.H.
出所:Energy Intelligence Group にもとづき作成
アジア LNG 価格が高止まりする中、アジアの事業者達は価格低廉化、柔軟な契約条件を求め積極的
に動いている。例えば 2011 年に中国Sinopec が Australia Pacific LNG(ConocoPhillips・Origin による豪
州の後発のCBM LNG液化事業)について450万トン/年2トレインのうち約9割の760万トン/年を購
入する“ファウンデーションバイヤー”(投資決定につながるような初期かつ大口の買い手)となり、上流
参画や他の案件に比べ大幅に価格低廉化を実現したとされる。また韓国Kogas は 2012 年に米シェニエ
ール(ルイジアナ州サビーンパス)といち早く LNG 売買契約(350 万トン/年)を締結、液化や輸送コスト
を含めても韓国着 10 ドル/MMBtu 以下(日本着の LNG 平均価格は約 16 ドル/MMBtu)という割安な
LNG の購入を実現したのみならず、米政府が輸出抑制に動いた場合のリスクに備えた柔軟な契約条件
を実現した模様である。これまで日本のユーティリティの多くは安定調達を も重要視してきたが、今後
は価格の低廉化や供給の多様化、調達の柔軟性を模索する動きが強まるのではないかと思われる。
Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に
含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら
かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一
切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
表3:価格低廉化、柔軟な契約条件を求めるアジアの事業者達
中国Sinopec 韓国Kogas 日本プロジェクト名 Australia Pacific
LNG(AP LNG)
米メキシコ湾岸Sabine Pass
?
事業者 Origin,Conocophillips
Cheniere ?
LNG購入量(合意時期)
760万トン/年(2011年)
350万トン/年(2012年)
?
供給開始 2015年以降 2017年以降備考 ・上流への参画
・価格低廉化・価格低廉化・柔軟な条件
?
JOGMEC 作成
すでに日本政府は米国内の天然ガス指標価格であるヘンリーハブに準拠したLNG案件を調達できる
よう米政府に働きかけを始めているが、東アフリカの LNG も調達の多様化、リスク分散を図る上で有効で
あると考えられる。東アフリカの LNG は深海で開発したガスを利用し、またインフラも一から立ち上げな
ければならず、価格面では米国の LNG に比べ競争力で劣るかもしれないが、米国の LNG に比べ輸送
距離が短く、カタール同様複数の市場を狙える有望な事業である。上流参画や“ファウンデーションバイ
ヤー”(LNG 液化事業の投資決定につながるような初期かつ大口の買い手)として供給者(特に新興の
LNG 事業者)と協調することにより、豪州やカタール等既存のプロジェクトに比べ価格低廉化や調達条
件の柔軟性を追求できるかもしれない。
日本のLNGはすでに長期売買契約が結ばれており、一気に多様化を進めることは難しいが、2020年
頃の LNG 調達について、米国や東アフリカなどの新たな地域から上述のような供給者との協調を前提と
した戦略的な調達を段階的に増やすことで、価格の低廉化や供給の多様化、調達の柔軟性が得られる
だけでなく、既存の契約交渉にも影響を与える可能性がある。
価格低廉化や柔軟な条件を勝ち取るには調達する側の意識の変革と供給者への建設的な提案が不
可欠である。柔軟な受入を可能とする港湾等受け入れ体制の整備も必要であると思われる。東アフリカ
の LNG や米国の LNG が日本の LNG 調達を変える原動力となることが期待されている。
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図10:2011 年の輸入と 2020 年の調達多様化のイメージ
JOGMEC 作成
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