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カーボンナノチューブとは 1

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カーボンナノチューブとは

第1章

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カーボンナノチューブ(CNT)はその名の通り、炭素で構成されている直径がナノメートルサイズのチューブ状の物質です(図1-1-1)。CNTは炭素元素のみで構成されているため、密度はアルミの半分程度と非常に軽量でありながら、理論上の最大引張強度は鋼の50倍以上、高電流密度耐性は銅の1000倍、熱伝導性は銅の10倍以上という性質をもっている、正に夢のような材料です。このCNTは1991年に当時日本電気株式会社(NEC)筑波研究所研究員だった飯島澄男氏が発見し、Nature誌に投稿した論文によって、広く知られるようになり、以後世界中で研究されるようになりました。ナノメートルというのは1/1,000,000,000m、すなわち10億分の1mという微小なサイズを表す単位です。10億分の1といっても、すぐにはピンとこないかもしれません。1mの1/1000が1㎜、1㎜の1/1000が1µm(マイクロメートル)、そして1µmをさらに1/1000にすると1nm(ナノメートル)になります。くもの糸の太さ(4-5µm)やヒトの赤血球の直径(6-8µm)程度のスケールがマイクロメートルです。そしてナノメートルは、細胞膜の厚さ(6-10nm)やDNAらせんの直径(2nm)程度のスケールということです(図1-1-2)。現在つくられているCNTは、直径が0.4nm程度のものから40nmのものまでさまざまあります。つまり、人間はDNAらせんの直径より小さいチューブをつくる技術をもっているということです。CNTは、これまで人間がつくったチューブの中で最も小さなチューブなのです。

カーボンナノチューブとは1-01

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第1章 カーボンナノチューブとは

一方、CNTの長さは数mmのものまであり、アスペクト比(縦横比)が非常に大きな物質だということができます。たとえば、直径1nm、長さ1mmのCNTの場合、直径を1mとしたら、長さは1000kmとなり、東京から種子島の距離に相当します(図1-1-3)。CNTがいかに細長いものであるか、おわかりいただけるでしょう。

図 1-1-1 CNT 構造イメージと合成品 1-1-1

構造イメージ

単層CNT合成品

図 1-1-2 サイズの比較 1-1-1

ストローの太さ

鉛筆の芯

釣り糸の太さ

髪の毛の太さ

細菌

CNT直径

くもの糸

ウイルス

100mm 10mm 1mm 100µm 10µm 1µm 100nm 10nm 1nm

炭素繊維

出典:産業技術総合研究所ナノ材料研究部門

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この「アスペクト比」の大きさが、実はとても重要です。というのは、アスペクト比が大きいということはCNT同士がうまく絡まり合いやすく、CNT同士がよく接触して長く伸びているということであり、その方が短いCNTより熱や電気を伝えやすくなるのです。同じ素材でできている同じ太さの短いものと長いものを比べると、長い方が絡まりやすいですね。それでは、同じ長さで太さが異なるものを比較したらどうでしょうか? 同じ長さであれば、細い方が絡まりやすいことも容易に想像できると思います。つまり絡まりやすい形状は細くて長いものということです。この形状の指標となるのがアスペクト比です。細くて長いものは、縦横比が大きくなります。逆に太くて短いものは縦横比が小さくなります。つまり、アスペクト比の大きいCNTほど絡まりやすいので、電気や熱を伝えやすい物性が最も引き出されます。

カーボンナノチューブの特徴①――単層CNTは半導体にも金属にもなる!

カーボンナノチューブ(CNT)の構造について少し考えてみましょう。CNTは、ベンゼン環を平面上にすべて隣り合うように広げたシー

図 1-1-3 CNT のアスペクト比の大きさイメージ

直径1mとしたら、長さ1000km

東京東京

種子島種子島

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第1章 カーボンナノチューブとは

トを、くるっと巻いた、円筒状の構造をしています(図1-1-4)。円筒一層のものが単層CNT(SWCNT:Single-Walled Carbon Nanotube)、径の異なる複数のCNTが同軸で重なり、数層で形成されている構造のものが多層CNT(MWCNT:Multi-Walled Carbon Nanotube)です(図1-1-5)。

図 1-1-4 CNT とグラファイトの構造比較

CNTの構造イメージ グラファイトの構造イメージ

ベンゼン環が並んだシートをくるっと巻いて円筒状になったような構造

ベンゼン環が並んだシートが積み重なった構造

単層CNTの模式図 多層CNTの模式図

図 1-1-5 CNT の模式図

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ちなみに、この平面状シートをいくつも重ねたものは、みなさんご存知のグラファイト(黒鉛)です。グラファイトは鉛筆の芯に広く使われています。鉛筆の芯を見て少し金属光沢があると思ったことがありませんか? 実はグラファイトは金属ではないのに電気を通す少し変わった物質なのです。電気を通す原因は、グラファイトの化学構造にあります。先ほど述べた‘シート’は表面に電子雲が広がっていて、この雲の中を電子は自由に移動することができるのです。そのため、このシートに電圧をかけたとき、電子が移動することができ、電気が流れるわけです。CNTはこのシートを円筒状に巻いた構造ですので、同じようによく電気を通します。一方単層CNTの中には、そのシートの巻き方によって、半導体的な性質をもつものもあります。単層CNTを合成すると、金属的な性質をもつものと半導体的な性質をもつものの混合物になっていますが、分離して半導体的なものだけ取り出すことができます。分離したものは半導体材料となります。一方、多層CNTは半導体的な性質をもたず、すべて金属的な性質となります。

カーボンナノチューブの特徴②――軽い、強い、弾力がある

カーボンナノチューブ(CNT)はカーボンの強固な化学結合で構成されており、化学的にも熱的にもとても安定しています。化学的に安定とは、機械的に強度があり、化学反応しづらく経年変化しづらいことであり、熱的に安定とは、融けにくく、高温下でも元の構造を保つ特徴があることです。密度は1.0~1.3g/㎤で、アルミニウムの約半分。つまり、非常に軽い物質です。機械的な強度も非常に強く、CNTの理論上の最大引張り強度は、