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ICS-UNIDO(イタリア)滞在記 東海化学工業会会報 No.232 2002 9 月号)pp.13-19 掲載 宇敷建一 はじめに イタリアのトリエステ市は、須賀敦子さんの「トリエステの坂道」(み すず書房 1995 年、新潮文庫 1998 年)に登場し、「地球の歩き方」など のガイドブックにも何ページか記載されている海辺の観光都市です。し かし、普段自分の専門分野の本以外読まなかった私は、自分がそこへ 2 年間赴任することになるまで、まったく知りませんでした。平成 12 5 28 日に関西空港を発ち、平成 14 5 月1日に帰国するまで、あしか 2 年間、通産省(現経済産業省)の要請によって、当時勤務していた 名古屋工業技術研究所(現産業技術総合研究所中部センター)から美し い港町トリエステ市へ派遣されました。トリエステでは国連職員として 同市の郊外にある ICS-UNIDO に滞在しましたが、その ICS-UNIDO にて ハイテクノロジー・新材料部門長(Director of High Technology and New Materials Area)として同部門のプログラムの計画と実行の指揮と総括を 行いました。私の派遣先の ICS-UNIDO は、UNIDO 本部では UNIDO-ICS と表記します。 2.組織概要 国連には発展途上国の生活環境・社会の発展に寄与するための組織が いくつか有り、その達成に貢献していますが、それらの内、発展途上国 の工業開発に専ら貢献している機関が、UNIDO(国連工業開発機構)で あり、30 余年の実績を有しています。 UNIDO には世界に 10 のインターナショナルテクノロジーセンターが あり(表 1)、UNIDO プロジェクトの枠組みの中で、各国の発展段階に応 じ、それぞれのワークプログラムを実行しています。 1 UNIDO のインターナショナルテクノロジーセンター オーストラリア The International Center for Application of Solar Energy (CASE) ブラジル The International Materials Assessment and Application Centre (IMAAC) インド International Centre for Advancement of Manufacturing Technology

ICS-UNIDO(イタリア)滞在記ICS-UNIDO(イタリア)滞在記 東海化学工業会会報 No.232 号(2002 年9 月号)pp.13-19 掲載 宇敷建一 はじめに イタリアのトリエステ市は、須賀敦子さんの「トリエステの坂道」(み

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ICS-UNIDO(イタリア)滞在記東海化学工業会会報 No.232 号 (2002 年 9 月号)pp.13-19 掲載

宇敷建一

はじめに

イタリアのトリエステ市は、須賀敦子さんの「トリエステの坂道」(み

すず書房 1995 年、新潮文庫 1998 年)に登場し、「地球の歩き方」など

のガイドブックにも何ページか記載されている海辺の観光都市です。し

かし、普段自分の専門分野の本以外読まなかった私は、自分がそこへ 2年間赴任することになるまで、まったく知りませんでした。平成 12 年 5月 28 日に関西空港を発ち、平成 14 年 5 月1日に帰国するまで、あしか

け 2 年間、通産省(現経済産業省)の要請によって、当時勤務していた

名古屋工業技術研究所(現産業技術総合研究所中部センター)から美し

い港町トリエステ市へ派遣されました。トリエステでは国連職員として

同市の郊外にある ICS-UNIDO に滞在しましたが、その ICS-UNIDO にて

ハイテクノロジー・新材料部門長(Director of High Technology and NewMaterials Area)として同部門のプログラムの計画と実行の指揮と総括を

行いました。私の派遣先の ICS-UNIDO は、UNIDO 本部では UNIDO-ICSと表記します。

2.組織概要

国連には発展途上国の生活環境・社会の発展に寄与するための組織が

いくつか有り、その達成に貢献していますが、それらの内、発展途上国

の工業開発に専ら貢献している機関が、UNIDO(国連工業開発機構)で

あり、30 余年の実績を有しています。

UNIDO には世界に 10 のインターナショナルテクノロジーセンターが

あり(表 1)、UNIDO プロジェクトの枠組みの中で、各国の発展段階に応

じ、それぞれのワークプログラムを実行しています。

表 1 UNIDO のインターナショナルテクノロジーセンター

オーストラリア The International Center for Application of Solar Energy(CASE)ブラジル The International Materials Assessment and Application Centre(IMAAC)インド International Centre for Advancement of Manufacturing Technology

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(ICAMT)イタリア International Centre for Science and High Technology (ICS-UNIDO)

中国 The International Centre for Small Hydro Power (ICSHP)Shenzhen International Technology Promotion Centre(ITPC)Shanghai Information Technology Promotion Centre(SITPC)The International Center for Materials Technology Promotion (ICM)

ロシア International Centre of Medicine Biotechnology (ICMB)韓国 International Centre for Materials Evaluation Technology(ICMET)

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

UNIDO と協力し、UNIDO の統合化されたプログラムの一端を担って

いるインターナショナル/ナショナルテクノロジーセンターがオーストリ

ア、イタリア、ベラルース、ロシア、およびウクライナの各国に有りま

す。

私が滞在したイタリアの ICS-UNIDO は、1988 年の設立当初はトリエ

ステ市の海辺にあったのですが、手狭になったので、拡張のため 1998年にトリエステ市郊外の岡の中腹にある、市内から車で 30 分程離れた

エリアサイエンスパークの中に移転しました。本エリアサイエンスパー

クはヨーロッパでも有数のサイエンスパークであり、域内には 70 余の

企業、センター、研究所があります。エリアサイエンスパークでは、現

在 1500 人以上が R&D、技術移転、トレーニングなどに携わっています。

3.トリエステ市

トリエステ市はフリウリ・ヴェネチィア・ジュリア州の州都であり、

さほど大きくはありませんが、Central European Initiative (CEI), UNESCOの下部組織である The abdus salam international centre for theoretical physics( ICTP)、UNIDO の協力機関である International Centre for GeneticEngineering and Biotechnology(ICGEB)など多くの国際機関やチェントロ

マルコーニーなど有力企業の研究所やトリエステ大学などが集まってい

る国際的な学研都市です。またイタリア有数の港湾都市であり、古くか

ら貿易で栄えた町で、近年まで日本からの貨物船も多く出入りしていた

そうです。私も2人、元船員で日本(神戸等)へ行ったことのある人々

と出会いました。

前述の CEI の本拠がトリエステ市にあるため、昨年 CEI サミットミー

ティングがトリエステ市で開かれ、イタリア、オーストリア、および中

欧・東欧諸国計 15 ケ国の首脳が一同に会しました。同じビルで同時に産

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官の CEI 国際ワークショップも開催されました。その国際ワークショッ

プは、会場周辺と入り口は武器を持った多数の警官によって厳重に警備

され、私も参加いたしましたが、首にはがき大の写真入りの許可証を首

からぶら下げねばなりませんでした。ICS-UNIDO も共催団体の一つでし

たが、参加者は各国から 1,500 人におよぶ盛大なもので、各国の大臣も

同時開催のサミットの流れで多数参加しました。

4.ICS-UNIDO の活動

ICS-UNIDO は、イタリア政府からの年間約 350 万 US ドルのトラスト

ファンドによって運営されており、UNIDO の指導・庇護の下、発展途

上国および準工業国の工業化を促進することを目的として、ノウハウや

技術移転を行うことを業務としています。移転する技術情報やノウハウ

は、主に上述のサイエンスパーク内の企業の研究所や地元のトリエステ

大学、イタリアおよび西欧、アメリカ等先進国の企業や大学に属するも

のをアウトソースします。これらのノウハウや技術情報の移転先は、東

欧を中心とした、アフリカ、アジア、南米を含む世界各地の発展途上国

および準工業国です。

ICS-UNIDO は3つのテクノロジカル部門(設立時は Institute, 最近では

Area と呼んでいる)とそれらを支援する3つのユニットおよび事務室が

あります。経理や人事等の本格的な事務はウィーンの UNIDO 本部でお

こなっており、そことファックスで絶えずやりとりし、ICS-UNIDO には

3人の事務員のみがいます。

3つのテクノロジカル部門には、触媒および薬物の設計、汚染修復、

分解性プラスチックなどを事業内容とする「純粋および応用化学部門」、

敷地計画、沿岸水域マネジメントなどを事業内容とする「地球、環境お

よび海洋科学技術部門」、ならびに、レーザー技術、新素材設計、太陽

電池技術、およびワイヤレスインターネットなどを事業内容とする「ハ

イテクノロジー・新材料部門」があります。

これらの 3 つのテクノロジカル部門は、「プロジェクトフォーミュレー

ション・ファンディング」、「情報システム」、および「技術マネジメン

ト・移転」の3ユニットによって横断的に支援されています。

ICS-UNIDO の構成員は常勤職員が約 20 名、インターナショナルコン

サルタントが約 20 名、およびフェローが約 20 名で、計約 60 名です。

「インターナショナルコンサルタント」とは、イタリアへ在住してい

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る開発途上国および準工業国の人がなる場合もありますが、イタリアそ

の他先進国の大学のボス教授や会社の技術担当役員などの知名度のある

大物である場合も多く、Area Director (部門長)の指揮と助言により、各

部門のワークプログラムを実施する際に中心となって働きます。これと

は別に、開発途上国および準工業国の大学教授や企業、官庁の技術者を、

プロジェクトの事前調査やワークショップの準備などのため、スポット

的に雇う「ナショナルコンサルタント」が 10 人程度います。ナショナ

ルコンサルタントは現地で働きますので、この名が用いられます。

フェローシップ制度は発展途上国や準工業国からの若い研究者・技術

者を ICS-UNIDO に滞在させ、その技術知識・能力を向上させるためも

のですが、実際にはインターナショナルコンサルタントの助手のような

働きをします。

5.ハイテクノロジー・新材料部門の紹介

私がいた「ハイテクノロジー・新材料部門」では、効率良く働く若い 2人の美人秘書(2 人ともオーストラリア英語およびイタリア語が母国語

で、フランス語やドイツ語も堪能)、9 人のインターナショナルコンサル

タント(8 人はイタリア、1 人はスイスから)および 5 人のフェロー(東

欧、南米およびアフリカから)が部門の仕事をサポートしてくれました。

ハイテクノロジー・新材料部門は 1.レーザー応用技術、2.新材料技

術、3.太陽電池とその応用システム技術、および 4.衛星通信を含むワ

イヤレスインターネット技術の 4 つのプログラムを有します。

5.1 レーザー応用技術: 先進国では、レーザー技術は材料の切削加工

や溶接、コンピューター通信、光通信、CD の読みとりやバーコードの

読み取り、医療や美容、化学分析、および環境モニタリングなど多岐に

わたる産業分野でもちいられており、その発展途上国や準工業国への技

術移転は意義深いと考えられます。

とくに中東やアフリカでは、工業的には小規模にレーザー切断機が用

いられている程度で、他の応用は手つかずの状態で、研究室等で用いら

れているだけに過ぎません。ピラミッドでは知られているエジプトでも、

民間の製造技術力はまだ強くなく、ようやく 2000 年 6 月から電気洗濯

機やテレビ組み立てを、国産技術で行う第一号の民間会社が出現したと

ころです。

レーザー応用技術の内、材料加工は新材料技術に含まれるため、本プ

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ログラムはそれ以外のレーザー応用技術分野を扱います。

ノウハウや技術知識の移転方法は各種ありますが、その 1 つの方法と

して、相手国の設備等も相対的に優れた研究機関をパートナーと定め、

その地域の各国の企業や大学の技術者や研究者を集めてその設備を利用

してレーザー応用技術のトレーニングを行う方法を採っています。これ

は相手国の民間の技術レベルや担当インターナショナルコンサルタント

が大学教授であるなどを考慮して、少しロングスパンで目標設定してい

るからです。何度か繰り返してその研究機関をレーザー応用技術のトレ

ーニングに用いることにより、その研究機関をその地域のリファレンス

センターとして育て、一方各国からの参加技術者・研究者はセカンドソ

ースとなり自国においてその知識情報の拡散に勤める仕組みです。

さらに、年に 1 度はトリエステの ICS-UNIDO で、同じトリエステの

ICTP のレーザー基礎科学をテーマとするセミナーに続けてレーザー応

用技術についてのトレーニングコースを開催し、世界各地域のリファレ

ンスセンターからの技術者・研究者を参加させる方式をとっています。

各トレーニングコースの講師は主にイタリアその他の先進国から送り込

みます。

本プログラムでは単にトレーニングコースをおこなうのみでなく、

ICS-UNIDO において若手コンサルタントおよびフェローにより、独自に

マイクロチップレーザーの開発とそれを利用した廉価な環境測定装置の

開発も行っています。さらに、開発途上国におけるレーザー関係の国立

研究所の設置等に協力するプロジェクトも行っています。

5.2 新材料技術: 前節で述べたように、レーザー材料加工技術は本プ

ログラムで取り上げられてますが、その他、セラミックスや天然樹脂、

ポリマーをマトリクスとした材料複合化技術や、そのリサイクル技術や

新建材への応用も本プログラムの課題です。

レーザープロトタイピングやインクジェットプリンタを用いた 3 次元

成形技術などのコンピューター支援材料成形技術が本プログラムの最も

新しい柱です。レーザープロトタイピングの技術はエリアサイエンスパ

ーク内の企業(TENDER S.p.A., AREA Science park, Basovizza(Trieste))が有しており、同企業の協力を得ながら、中央および東ヨーロッパへの

同技術の普及を目的の 1 つとしてワークショップやトレーニングコース

を開催しています。同ワークショップやトレーニングコースではリソー

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スピープルとして、ヨーロッパ各国の企業や大学の人々に参加していた

だきますが、2001 年 11 月にエキスパートグループミーティングをトリ

エステで開催した折りには、同分野で活発にご活躍されている、小坂田

教授(大阪大学)にもはるばる日本からご参加いただきました。

建設産業はいずれの国においても基本・戦略分野であり、投資と雇用

を促進する経済発展の基礎となる産業分野です。開発途上国では収入が

低くかつ高スピートで都市化が進行しているため、低コスト高品質の建

築材料についてはかなり強い需要があります。多くの開発途上国は、自

国の生産技術を高めてきましたが、さらに多くの広範な技術革新が必要

です。中国は活発に工業生産をおこなっていますが、タイルの輸入量は

年々増加中です。ブラジルは十分なタイル生産力がありますが、品質上

の問題で国際的には競争力がありません。本プログラムでは、入手可能

な最も優れたセラミックス等の技術知識を開発途上国へ供給することを

めざしています。

鉱工業、林業、農業、農業関連産業、天然繊維、植物製品の副産物を

利用した複合建設材料の設計、製造および評価・測定技術およびコスト

-利益分析の技術知識移転もプログラムの 1 つのテーマですが、これら

について異なる地域の開発途上国間での協力プログラムを始めていま

す。

5.3 太陽電池とその応用システム技術: 開発途上国では多くの人々

が都市から離れた地域に住んでおり、約 20 億もの人々が電気の無い前

近代的な生活を強いられています。

この様な電気グリッドから離れた地域は太陽光の強いトロピカルエリ

アに多く、太陽電池発電技術の同地域の開発途上国への移転は大変有意

義です。また、良く知られているように太陽電池発電は温室ガスや NOx、SOx 等の有害ガスや騒音を生じないなど、環境に負荷をかけない発電シ

ステムであるので、環境調和型産業開発の一つとして本プログラムが用

意されています。

本プログラムでは、最新の太陽電池発電に関する情報の開発途上国へ

の普及とジョイントベンチャーを通した技術移転による国際協力の促進

を行っています。

5.4 衛星通信を含むワイヤレスインターネット技術: コミュニケー

ションネットワークはその国の産業のバックボーンです。現在では、イ

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ンターネットインフラストラクチャーの普及は直ちにその国の生産力に

直結しています。ワイヤレスインターネットは、設備コストが少なく、

かつ短期間で設置可能なので、大都市から離れた地域の多い開発途上国

には特別魅力のあるシステムです。また、最近では会話中心の携帯電話

がモバイルネットワークへと変貌しつつあります。しかし、インフラス

トラクチャーもさることながら、多くの人が経験されているようにイン

ターネット等は絶えずシステムダウンを伴うものであって、そのシステ

ムを維持管理でき、トラブルシュートのできる人材の養成が開発途上国

・準工業国へのインターネット等の普及の一つのネックとなっていま

す。

本プログラムでは国際投資銀行やドナーとなりうる国際機関へのプロ

ジェクト申請を目的としたインフラ中心のプロジェクト立ち上げ準備や

ワークショップの開催のみでなく、併せてワイヤレスインターネット技

術の重要性の認識の向上や、専門家の知識の更新を目指したトレーニン

グも行います。

中央・東ヨーロッパの SMEs とイタリアの企業との電子取引(E-Trade)を目的としたワイヤレスインターネットの構築と運用を目的としたプロ

ジェクトやインテリジェントトランスポーテーションを目指したプロジ

ェクトの準備がおこなわれています。東アフリカ地域では、E-Government等に利用できるプロジェクトの立ち上げが検討されています。

6.各国訪問

ICS-UNIDO にはイタリアの閣僚や外務省の要人が当然訪れますが、

国際機関であるため、世界各国の在イタリア大使館から、あるいは直接

各国からの政府要人(閣僚を含む)がしばしば訪れます。小柄な方が突然

私のオフィスへ入ってこられ、何か威張った感じの人だと思っていたら、

いただいた名刺には文部大臣と書いてあり驚いたこともあります。図 1は、中国の特命全権国連大使が訪問された時の写真です。偶然ですが、

閣下には後日休暇中にオーストリア内の観光地で後ろから突然声をお掛

けいただき驚いたことがありました。また、ICS-UNIDO で絶えず各種国

際会議が開かれており、産官学における種々のレベルの外国人の訪問が

あります。

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図 1 中国特命全権国連大使 Zhang Yishan閣下が ICS-UNIDOを訪問され

た際の写真

一方、業務上 UNIDO 本部のあるオーストリアのウィーンはもちろん、

東欧やアラブあるいはブラックアフリカの各国も訪問する機会がありま

した。ルーマニアでワイヤレス E-trade 関係のワークショップを開いた

折りには、国会議員や大臣のアドバイザー、UNCECE 代表なども参加さ

れ盛会でしたが、夜までスケジュールが過密で観光する時間がありませ

んでした。図 2 は最後にイタリアへ帰るために飛行場へ向かう途中で、

つかの間に世界で 2 番目に大きい建物(最大はペンタゴン)であるルー

マニアの国会議事堂前で記念撮影してもらったものです。隣の人はベネ

ゼラ出身の研究者で、私の下で ICS フェローとして当時働いておりまし

た。同分野の学位を有しており、この時はイタリアからその仕事内容の

プレゼンのため参加してもらいました。

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図 2 ルーマニアの国会議事堂前でフェローの一人と撮影した写真

図 3 は、エジプトのカイロでテレメディシン関係のワークショップを

ITU および WHO と共催した時のオープニングの写真で、私の隣は ITUおよび WHO の代表達です。2 日目にはエジプトの厚生大臣も議論に参

加していただき、たいへん盛会となりました。

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図 3 ITU および WHO と共催で、テレメディシンのワークショップをカイ

ロで開いた際のオープニングの写真。約 150名が参加した。

図 4 は、同じくカイロで太陽電池関係のワークショップを Ainsham 大

学で開催した際のオープニングの写真です。Ainsham 大学は学生数 11万人規模の巨大な大学ですが、オープニングには学長、副学長、理学部

長、および副理学部長も出席されました。写真には後ろにテレビカメラ

のライトやカメラのフラッシュが写っているように報道関係者が多数入

り込み、緊張しながらオープニングの挨拶やパワーポイントによるデー

ターショウを行いました。

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図 4 太陽電池利用システムのワークショップをカイロのアインシャム大学

で開いた際のオープニングの写真

世界には、年収わずか 300 ドルで生活している人々がたくさんいます。

ブラックアフリカもそのような地域ですが、外部の支援を最も必要とし

ている地域です。このような地域で産業の促進を行うことは、社会的な

視点から意義深いことです。しかし、先進国で育った私は免疫が無く、

各種ワクチンや予防薬を用い、防虫スプレーや携帯用湯沸かしを携えて、

決死の覚悟で、西アフリカのガンビアで同国政府と共同で開催した太陽

電池システムのトレーニングコースに参加しました。

図 5 はその際の写真で、私の左は同国の通産大臣、右の女性は同副大

臣で、オープニングに参加していただきました。さらに同省 No.3、No.4の方にはトレーニングコースの討論にも参加していただきました。討論

は熱気溢れるもので、予定していた時間はあっという間に過ぎました。

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図 5 太陽電池発電システムのトレーニングコースを西アフリカのガンビア

政府と共催した際のオープニング後の写真

7.あとがき

以上、ICS-UNIDO とそのプログラム、ならびにそこにおける私の 2年間の経験を報告しました。若い頃ポスドクとしてアメリカのニーヨー

ク州のシラキュウス大学で研究活動に専念したことがありましたが、今

回はそれとはかなり異なる身分立場で、かつ広汎に世界の国々の技術・

経済・政治の各状況を知ることができたことは、たいへん有益だったと

思います。

忙しい仕事の合間をぬってイタリア各地やオーストリア、ノルウェイ、

スペインなどにも知識・教養を深めるため観光に行きました。それらも

有意義な経験ですが、今回は熟年旅行記については割愛させていただき

ました。