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JMA NEWSLETTER ・ 2007,Issue 2 マイオセラピーの歴史的背景 (Ⅵ) 辻井洋一郎 前号では“新たな現象との出会い” と題して,運 動痛の3種として収縮痛,短縮痛および伸張痛の存在を 提示し,その特徴の一つである疼痛抑制姿勢の存在を説 明しました.また筋の解剖学的な特徴として,筋が相互 に連結している筋連結,その筋連結の広がりと筋硬結の 発生機序,羽状筋などの筋の形態と腱炎などとの関係, および筋硬結の経過状況に関わる考え方を述べました. 今回は,臨床で起こったさまざまな現象を説明する のに限界を感じ始めた筋障害説から,より説得力のある 神経障害説に移行した時期について述べます. 6. ミオパシー(筋障害)からニューロパシー(神経 障害)へ-その1 1991 8 月よりマイオセラピーの名称を用い始めま した.マイオセラピーに改称した理由の一つは“筋硬結 は引っ張っても伸びなかった”ということから“伸張法” では誤解を与えると考えたからです.また他方,マイオ セラピーは,その当時アメリカ合衆国で行っていたセミ ナーでも使用できる名称であったからです. さて,そのマイオセラピーの対象としてきた筋硬結の 原因(説)が“筋から神経へ”と大変革するときがきま した.文献的には,筋硬結についての報告は(1)初期 のほとんどを占めるドイツ語文献の流れ,(2)イギリ スより始まった線維性結合組織炎の概念,および(3) 線維筋痛症候群(Fibromyalgia syndrome)と筋筋膜性 疼痛症候群(Myofascial pain syndrome)の概念の 3 つに大別することができます.ドイツの R. Froriep より 1843 年最初に報告されました 1) R. Froriep は“筋 仮骨説”を提唱しましたが,H. Strauss がその 50 年後 1898 年に解剖学的研究により,その仮骨を実証する に至らなかった,と報告しました 2) .また,イギリスで W.R. Gowers 1904 年に線維性結合組織炎 Fibrositis)の名付けの親となり 3) R. Stockman は, この線維性結合組織炎が筋硬結の原因である,と考えま した 4) .その後,感覚神経痛説 5) ,筋リウマチ説 6) ,結 合組織性結節説 7,8) ,筋硬化説 9-12) ,筋感覚神経反射 13) ,筋スパズム説 14) ,筋痛点反射説 15,16) ,反射 性強縮原因説 17) ,神経系機能異常の病態生理学的現象 18) ,浮腫原因説 19) ,自発性機序説 20) ,などが提唱 されました.筋硬化説を唱えた H. Schade は,麻酔下 および死亡直後に存続した筋硬結は神経線維を介した 個々の筋線維の持続的収縮であることは除外される,と 考えました.また彼は,組織学的所見から,結合組織の 沈着などの器質的変化も除外される,と考えました.そ こで彼は,筋硬結は筋のコロイド(膠)質の粘性が増加 した状態であると想定し,それを筋硬化症(筋のゲル化) と呼ぶことを提唱しました 9) S. Rueff も同様に筋硬結 が麻酔下でも存続したことを報告しました 12) .筋硬化 説を唱えた F. Lange は,筋硬結の治療として,鈍器を 用いた外傷性マッサージを勧めました 10) H. Kraus は筋硬結の新たな治療法として,局所麻酔剤である塩化 エチルのスプレーを痛みのある筋に対して,その筋線維 に平行にスプレーし,複数回の治療の間にそれらの筋を ストレッチングする方法を用いました 21,22) .組織学 的所見に関する最初の報告は 1951 年に G. Glogowski & J. Wallraff により行われました 23) .その後,線維性 結合組織炎説 24) ,外傷原因説 25) ,酸素欠乏原因説 26) 2007, Issue 2 JAPANESE MYOTHERAPY R ASSOCIATION 巻 頭 言 JMA newsletter

JMA newsletter 2007, Issue 2 · Ach Phys Med Rehab, 35:23-28, 1974. 28. Kalyan-Raman UMA P, et al.: Muscle pathology in primary fibromyalgia syndrome: a light microscopic, histochemical,

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JMA NEWSLETTER ・ 2007,Issue 2

マイオセラピーの歴史的背景 (Ⅵ)

辻井洋一郎 前号では“新たな現象との出会い” と題して,運

動痛の3種として収縮痛,短縮痛および伸張痛の存在を

提示し,その特徴の一つである疼痛抑制姿勢の存在を説

明しました.また筋の解剖学的な特徴として,筋が相互

に連結している筋連結,その筋連結の広がりと筋硬結の

発生機序,羽状筋などの筋の形態と腱炎などとの関係,

および筋硬結の経過状況に関わる考え方を述べました. 今回は,臨床で起こったさまざまな現象を説明する

のに限界を感じ始めた筋障害説から,より説得力のある

神経障害説に移行した時期について述べます. 6. ミオパシー(筋障害)からニューロパシー(神経

障害)へ-その1 1991 年 8 月よりマイオセラピーの名称を用い始めま

した.マイオセラピーに改称した理由の一つは“筋硬結

は引っ張っても伸びなかった”ということから“伸張法”

では誤解を与えると考えたからです.また他方,マイオ

セラピーは,その当時アメリカ合衆国で行っていたセミ

ナーでも使用できる名称であったからです. さて,そのマイオセラピーの対象としてきた筋硬結の

原因(説)が“筋から神経へ”と大変革するときがきま

した.文献的には,筋硬結についての報告は(1)初期

のほとんどを占めるドイツ語文献の流れ,(2)イギリ

スより始まった線維性結合組織炎の概念,および(3)

線維筋痛症候群(Fibromyalgia syndrome)と筋筋膜性

疼痛症候群(Myofascial pain syndrome)の概念の 3

つに大別することができます.ドイツの R. Froriep に

より 1843 年最初に報告されました1).R. Froriep は“筋

仮骨説”を提唱しましたが,H. Strauss がその 50 年後

の 1898 年に解剖学的研究により,その仮骨を実証する

に至らなかった,と報告しました2).また,イギリスで

は W.R. Gowers が 1904 年に線維性結合組織炎

(Fibrositis)の名付けの親となり3),R. Stockman は,

この線維性結合組織炎が筋硬結の原因である,と考えま

した4).その後,感覚神経痛説5),筋リウマチ説6),結

合組織性結節説7,8),筋硬化説9-12),筋感覚神経反射

説13),筋スパズム説14),筋痛点反射説15,16),反射

性強縮原因説17),神経系機能異常の病態生理学的現象

説18),浮腫原因説19),自発性機序説20),などが提唱

されました.筋硬化説を唱えた H. Schade は,麻酔下

および死亡直後に存続した筋硬結は神経線維を介した

個々の筋線維の持続的収縮であることは除外される,と

考えました.また彼は,組織学的所見から,結合組織の

沈着などの器質的変化も除外される,と考えました.そ

こで彼は,筋硬結は筋のコロイド(膠)質の粘性が増加

した状態であると想定し,それを筋硬化症(筋のゲル化)

と呼ぶことを提唱しました9).S. Rueff も同様に筋硬結

が麻酔下でも存続したことを報告しました12).筋硬化

説を唱えた F. Lange は,筋硬結の治療として,鈍器を

用いた外傷性マッサージを勧めました10).H. Krausは筋硬結の新たな治療法として,局所麻酔剤である塩化

エチルのスプレーを痛みのある筋に対して,その筋線維

に平行にスプレーし,複数回の治療の間にそれらの筋を

ストレッチングする方法を用いました21,22).組織学

的所見に関する最初の報告は 1951 年に G. Glogowski & J. Wallraff により行われました23).その後,線維性

結合組織炎説24),外傷原因説25),酸素欠乏原因説26),

2007, Issue 2

JAPANESE MYOTHERAPY○R ASSOCIATION 巻 頭 言

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炎症説27),慢性筋スパズム・阻血原因説28),結合組織

異常説29),酸素欠乏による筋代謝障害説30),などが提

唱されました.1904 年に始まった線維性結合組織炎は

M. Yunnus らにより新たな診断基準が提唱され,筋痛

症候群と改名されました31).現時点では,筋硬結の組

織学的所見は,浮腫,プロテオグリカン増殖(=浮腫),

エネルギー供給と酸素流入の低下,pH の低下または酸

性化,核の増加,肥満細胞(ヒスタミンの放出)の増加,

筋線維サイズのばらつき,ミトコンドリアの変化,グリ

コーゲンの増加,Regged red および moth-eaten 線維

の出現,収縮フィラメントの溶解と Z バンドの破壊,血

小板(セロトニンの放出)の増加,などであり,それは

阻血による筋ジストロフィー様変化と解され,また局所

の循環障害であろうと考えられています32).(つづく) 文献 1.Froriep R: Ein Beitrag zur Pathologie und

Therapie des Rheumatismus. Weimar, 1843. 2.Strauss H: Uber die ssogenannte “rheumatische

Musckelschwiele”. Klin Wochenschr, 35:89-91, 121-123, 1898.

3.Gowers WR: Lumbago:its lessons and analogues. Brit Med J, 1:117-121, 1904.

4.Stockman R: The causes, pathology and treatment of chronic rheumatism. Edinburgh Med J, 15:107-116, 223-235, 1904.

5.Schmidt A: Noch einmal das Problem des Musckelrheumatismus. Med Klin, 10:673-675, 1914.

6.Grauhan M: Uber den Anatomischen Befund bei einem Fall von Myositis Rheumatica. Cassel, Weber and Weidemeyer. 1912.

7.Muller A: Der Untersuchungsbefund am rheumatisch erkrankten Muskel. Z Klin Med, 74:34-73, 1912.

8.Quincke H: Rheumatismus. Dtsch Med Wochenschr, 43:993-996, 1030-1033, 1917.

9.Schade H: Beitrage zur Umgrenzun und Klarung einer Lehre von der Erkaltung. Z Ges Exp Med, 7:275-375, 1919.

10. Lange F: Die Bedeutung der Musckelharten fur die allgemeine Praxis. Munch Med Wochenschr, 68:418-420, 1921.

11. Lange M: Die Muskelharten (Myogelosen). Muchen J F. Lemann’s Verlag, 1931.

12. Rueff S: Ein Beitrag zurFrage der Myogelosen. Wien Arch Inn Med, 23:139-154, 1932.

13. Reichart A: Reflexschmerzen auf Grund von Myogelosen. Dtsch Med Wochenschr, 64:823-824, 1938.

14. Elliot FA: Tender muscles in sciatica: electromyographic studies. Lancet, 1:47-49, 1944.

15. Kelly M: The nature of fibrositis. Ann Rheum dis, 5:69-77, 1946.

16. Kelly M: the relief of fascial pain by procaine (novacaine) injections. J Am Geriat Soc, 11:586-596, 1963.

17. Bayer H: Die rheumatiscche Muskelharte – ein Eigenreflextetanus. Klin Wochenschr, 27:122-126, 1949.

18. Cooper AL: Trigger-point injection: its place in physical medicine. Arch Phys Med, 42:704-709, 1961.

19. Kraft GH, Johnson EW and LaBan MM: The fibrositis syndrome. Arch Phyus Med, 49:155-162, 1968.

20. Glyn JH: Rheumatic pains: some concepts and hypotheses. Proc R Soc Med, 64:354-360, 1970.

21. Kraus H: Behandlung acuter Musckelharten. Wien Klin Wochenschr, 50:1356-1357, 1937.

22. Kraus H: Treatment of back and neck pain. Neu York, McGraw-Hill, 1970.

23. Glogowski G and Wallraff J: Ein beitrag zur Klinik und Histologie der Musckelharten (Myogelosen). Z Orthop, 80:237-268, 1951.

24. Miehkle K, et al.:Klinishe und experimentalle Untersuchungen zum Fibrostitis syndrome. Z Rheumaforshc, 19:310-330, 1960.

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25. Awad EA: Interstitial myofibrositis: hypothesis of the mechanism. Arch Phys Med, 54:449-453, 1973.

26. Fassbender HG and Wegnere K: Morphologie und Pathogenese des Weichteilrheumatismus. Z Rheumaforsch, 32:355-374, 1973.

27. Ibrahim GA, Awad EA and Kotttke FJ: Interstitial myofibrositis: serum and muscle enzymes and lactate dehydogenase-isoenzymes. Ach Phys Med Rehab, 35:23-28, 1974.

28. Kalyan-Raman UMA P, et al.: Muscle pathology in primary fibromyalgia syndrome: a light microscopic, histochemical, and ultrastructural study. J Rheumat, 11:808-813, 1984.

29. Bartels EM and Danneskiold-Samsoe B: Histological abnormalities in muscle from patients with certain types of fibrositis: Lancet, 1:755-761, 1986.

30. Henriksson K-G: Muscle pain in neuromuscular disorders and primary fibromyalgia. Eur J Appl Physiol, 57:348-352, 1998.

31. Yunus M, Masi AT, Calabro JJ, Miller KA and Feigenbaum SL: Primary fibromyalgia (Fibrositis): Clinical study of 50 patients with matched normal controls. Semi in Arth & Rheumat, 11:151-171, 1981.

32. Awad EA: Histopathological changes in fibrositis. In Fricton JR and Awad EA (Eds.): Myofascial pain and fibromyalgia, Advances in pain research and therapy, Vol.17, Raven Press, New York, 1990, pp.249-258.

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受講資格 マイオセラピスト認定書保持者

日本マイオセラピー協会

Japanese Myotherapy Association

会 長 辻井洋一郎 事務部長 辻井洋一郎 学術部長 石田 和人 教育部長 沖田 実 研修部長 辻井洋一郎 研究部長 肥田 朋子 編集部長 辻井洋一郎 国際部長 辻井洋一郎 監 事 細江 浩典

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編集・発行

日本マイオセラピー協会編集部

部 長 辻井洋一郎 スタッフ 石田 和人

沖田 実 肥田 朋子 東 登志夫 松原 貴子 小林 隼人 川口 景子

〒106-0031 東京都港区西麻布 3-2-13-507 日本マイオセラピー協会事務部 TEL/FAX 03-3470-2688

E-mail:[email protected] http://www.myotherapy.jp/

日本マイオセラピー協会主催 2007 年度 研修会 1.基本治療法研修会 日 時 松阪 平成19年2月25日(日) 10:30~16:00

東京 平成19年8月26日(日) 10:30~16:00 会 場 松阪 マイオセラピー研究所 〒515-0075 三重県松阪市新町 810-1 電話 0598-25-0015 東京 帝京国際センター 〒151-0071 東京都渋谷区本町 6-31-1 電話 03-3377-7220 内 容 脊柱の接診と治療法(実習) 講 師 辻井洋一郎,角谷光雄,

樋口朋弘 定 員 各期 50 名 受講料 会 員 3,000 円 非会員 10,000 円 2.応用治療法研修会 日 時 松阪 平成19年 5 月27 日(日) 10:30~16:00

東京 平成19年 12 月 16 日(日) 10:30~16:00 会 場 松阪 マイオセラピー研究所 〒515-0075 三重県松阪市新町 810-1 電話 0598-25-0015 東京 帝京国際センター 〒151-0071 東京都渋谷区本町 6-31-1 電話 03-3377-7220

内 容 認定マイオセラピストを

目指す方への導入編

講 師 辻井洋一郎,角谷光雄, 樋口朋弘

定 員 各期 50 名 受講料 会 員 3,000 円 非会員 10,000 円 3.基礎医学研修会 日 時 松阪 平成19年9月30日(日) 10:30~12:30

12:40~13:40 東京 平成19年12月9日(日)

10:30~12:30 12:40~13:40

会 場 松阪 マイオセラピー研究所 〒515-0075 三重県松阪市新町 810-1 電話 0598-25-0015 東京 未定 内 容 慢性痛(神経因性疼痛) 講 師 肥田朋子,松原貴子 定 員 各期 50 名 受講料 会 員 2,000 円 非会員 5,000 円 4.認定マイオセラピストワークショップ 日 時 松阪 平成19年4月22日(日) 10:30~12:30 会 場 松阪 マイオセラピー研究所 〒515-0075 三重県松阪市新町 810-1 電話 0598-25-0015

日本マイオセラピー協会 研修会 アナウンスメント

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マイオセラピー研究所主催 2007 年度 マイオセラピーセミナー 日 時

松阪 平成 19年4月 28 日(土) 愛知 平成 18 年 4 月29 日(日)

仙台 平成 19年 7 月 28 日(土) 岩手 平成 18 年7月 29 日(日) 福岡 平成 19年11月 24 日(土) 岩手 平成 18 年7月 25 日(日)

内 容 マイオセラピー入門コース 初めてマイオセラピーを体

験する方を対象にマイオセ ラピーの基本知識から,基 本的な診察法及び治療法の 実習を行います.

定 員 各 50 名

受講料 30,000 円 会 場 松阪 マイオセラピー研究所 〒515-0075 三重県松阪市新町 810-1 電話 0598-25-0015 仙台 東北文化学園大学 〒981-8551 仙台市青葉区国見6丁目 45-1 電話 022-233-3310 (代表) 福岡 福岡リハビリテーション専門学校

〒812-0011 福岡県福岡市博多区

博多駅前 3 丁目 29-17 電話 092-475-1000 (代表)

2007 年度 部分治療法セミナー 日 時 岩手 平成 19年8月5日(日)

内 容 片麻痺の肩手症候群に対する マイオセラピー 定 員 各 40 名 受講料 10,000 円 会 場 岩手 盛岡友愛病院 〒151-0071 岩手県盛岡市永井 12-10 電話 019-638-2222 (代表)

本 の 紹 介

新谷弘実:病気にならない生き方.実践編,サンマーク出版,2007.¥1,600+税 世の中は「健康ブーム」である.裏を返せば,「不健康ブーム」ともいえる.それだけ,不健康な人が増え

ている証拠でもある.近代医学の進歩は目覚ましく,それは予想を遥かに超える勢いで展開している.しか

し,病人は毎年増加の一途を辿っている,とも聞く.保険金の支払も増加しているそうである.アメリカ合

衆国でもそうであり,そうであったように,このような社会的背景のもと,自己の健康を気遣う人が増えて

きた.書店では,健康になるため(?)の“参考書”の特設コーナーが設けられているほどである. ここに紹介する新谷弘実先生による「病気にならない生き方」第 2 弾,「実践編」は,2005 年に出版され

たミリオンセラーの同名書にさらに詳細な説明が加えられたものとなった.新谷弘実先生は,日米で 30 万人

の胃腸を診てきた全米一の胃腸内視鏡外科医である.つまり,直接見てきた方である.新谷先生が撮影した

内視鏡映像のビデオを観たが,長年,胃腸内(体外)を直視してきたことによる説得力は凄い.臨床経験か

ら得られた生活習慣,その中でも特に“食生活”に対する新谷先生の独特な考え方は,健康に関心があるも

のにとっては“試してみよう”という好奇心に駆られるものである.実は,私自身もその一人であり,新谷

先生が薦める食事(新谷法)の一部を1年間ほど実践してきた.本書の推薦理由は,私自身と家族に実際起

こった身体変化によるものである. 新谷弘実先生による他の著書には,「胃腸は語る 胃相腸相からみた健康・長寿法.弘文堂,1998.¥1,890.」,「健康の結論「胃腸は語る」ゴール編.弘文堂,2005.¥1,890」,「「腸」の健康革命「コーヒー・エネマ」(腸

内洗浄)が病気を予防する!胃腸内視鏡の第一人者が語る.日本医療企画,2005,¥1,600」,「胃腸は語る食

卓編レシピ集.弘文堂,2005,¥1,575」などがある. http://www.drshinya.com/ (辻井洋一郎)

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《基本治療テクニック》

1.セラピストの基本姿勢

患者さんの胸椎部の高さがセラピストのおおよそ臍の高さになるように治療台の高さを調節する.セラピス

トは軽く会釈するような姿勢となる(図1). 2.MyoVib 側の手の基本操作 第 2 指は患者さんの皮膚にアンカーし,先端を固定する.拇指と第 3,4 指は軽く先端ユニットに接触させて

おく(図2).それらの 3 本の指を先端ユニットに接触することにより,振幅を調節する(グリップアンドリ

リース・テクニック). 3.非 MyoVib 側の手の基本操作 拇指は棘突起に①アンカーし,②先端ユニットを固定し,③先端ユニットから振動が皮下組織を広がるのを

触知する.他の 4 本の指は患者さんの背にしっかりと固定し,防御的な筋スパズムを触知する(図2).

図1 図2 4.基本治療テクニック

① ピボット・テクニック(pivot technique) 先端ユニットの“先端”の接触点は移動させず,そのユニットの接地角度を変化させる.最初の接触点は

棘突起の“側面”とし,徐々にピボットし(背面に対して立てて),椎弓から横突起の方向に向かう.また,

ピボットは上下(頭尾)方向にも行なう.例えば,お碗の底に対して直角にすべての部位を押すことを想定

すればよい. ② スライディング・テクニック(sliding technique) 慢性期が長期にわたると,皮膚の肥厚などが強くなる.そのような場合,直隣に先端ユニットを置こうと

ワ ン ポ イ ン ト 治 療 メ モ (1)

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すると,既治療部の“へこみ”にその先端が滑り込んでしまう場合がある.そのような時,皮膚の接点を移

動させず,皮膚もろとも筋や結合組織の治療点を移動するテクニックである.皮膚の緩みがないほど慢性化

したケースにこのテクニックを用いることは困難である. ③ プッシュアンドホールド・テクニック(push and hold technique) 治療すべき筋硬結の深度を判断することが困難な場合,先端ユニットの進行が止まる深さまで押し込み,

その先端を,非 MyoVib 側の手を十分に使い(突っ張って),その深さで保持(入りもせず,引きもせず)

するテクニックである.しばらく保持すると,しだいに振幅が大きくなり,先端で感じていた“抵抗感”が

減少する.その“紙一重”の間隔を保持しながら,深部に進む. ④ ノッキング・テクニック(knocking technique) 治療中の先端ユニットの深度が不明になった時,セラピストが全身を使って MyoVib を深層に向かって軽

く押し込むことがある.その時の抵抗感により筋硬結などの深部組織の鑑別を行う.特に,治療の最後に筋

の弛緩度を関節運動の程度(自由度)で調べることもある.この“押し込み”がノッキング・テクニックで

ある. ⑤ グリップアンドリリース・テクニック(grip and release technique)

MyoVib側の手の基本操作である.振幅の程度に変化を与えることで,“先端”の深度を確認した

り,“抵抗感”を新たにしたりするために用いる.拇指,第3,4指で先端ユニットを強くグリップす

ると,振幅は小さくなり,振動はセラピスト側に大きく伝わる.それに軽く触れたりリリースした

りすると,振幅は大きくなり,振動は患者さん側に多く伝わる.そこで,グリップとリリースの程

度を調節する(振幅を調節する)ことで,セラピストの感覚を鋭敏に(リセット)することができ

る.すなわち,筋や結合組織の治療対象組織の硬度を推定することが容易になる.また,そのこと

で,先端ユニットの安定性が調節でき,先端ユニットが筋膜上を滑ることで余計な痛みを誘起する

ことを防ぐ. (辻井洋一郎)

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Hypothermic neuroprotection of peripheral nerve of rats from ischamic-reperfusion injury. Yoshiyuki Mitsui, James D.Schmelzer, Paula J.Zollman, Mikihiro Kihara and A.Low. Brain 122 : 161-169, 1997. (ラットの末梢神経の阻血-再灌流損傷より神経冷却保護)

血管をある時間阻血し再灌流させると神経障害を生ずる.この病理学的研究報告は多い.しかし,この実験モ

デルで神経保護に対する研究報告はわずかである. 本研究の目的は,阻血‐再灌流により生じる神経障害に対し,冷却の神経保護に対する効果を調べることであ

った.48 匹のオスのラットを使用した.麻酔下で,ラットの右下肢の坐骨-脛骨神経に血液を供給する動脈を再

灌流のため解きやすい絹糸で結び阻血した.ラットを阻血時間で 3 時間および 5 時間で2グループに分けた.阻

血後,再灌流前の 2 時間および再灌流後の 2 時間の合計4時間の間,坐骨-脛骨神経周辺の深部温度を,阻血 3時間グループでは 37℃,32℃および 28℃にコントロールし,阻血 5 時間グループでは 36℃,32℃および 28℃にコントロールした(Fig.1).再灌流は一週間行い,その後ラットの右下肢の行動を点数化し評価した.また,筋

電図にて運動(CMAP)および感覚神経(SAP)の電気病理学的評価を行なった.その後,坐骨‐脛骨神経の全体を取

り出し,神経線維を in situ にて固定した.そして,坐骨神経の遠位・近位および脛骨神経の遠位・近位の神経損

傷,神経浮腫を割合で示し,電子顕微鏡にて神経病理学的評価を行った.その結果,両グループの深部温度 36-37℃では右下肢の機能障害(Fig.3)と SAP・CMAP 活動電位の減少が起こり,また著しい神経変性がみられた(Fig.4).阻血 3 時間グループの 28℃の冷却で全ての評価項目で正常値が得られた.しかし,阻血 5 時間グループでは 28℃の冷却においても神経保護効果が低下していた(Fig.4.D, Fig7, Fig.8).また,32℃の軽度な冷却では,阻血 3,5 時

間共に神経保護効果が全ての評価でより低下していた.以上より,四肢の阻血‐再灌流による末梢神経障害に対

し冷却が神経保護に効果的であり,冷却効果は阻血 3 時間が限度であることが分かった.この論文は,実際の臨

床で,例えばスポーツによる捻挫,打撲など受傷直後の急性炎症期にクーリングを行なうが,それを生理的に裏

付ける研究結果であったと思われる.しかし,この研究結果を臨床応用するためには四肢の深部体温を約 10 度下

げなければならず,果たして,ここまで温度を下げようとするのなら,人はその刺激に耐えうるかどうか疑問も

残る. (飯田邦人)

論 文 紹 介

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末梢神経障害における障害神経支配以外の領域に発生した疼痛:損傷していない神経の支配領域の機械的刺激に

よる痛覚過敏とアロディニアについて

Tal M and Bennett G: Extra-territorial pain in rats with a peripheral mononeuropathy: mechano-hyperalgesia and

mechano-allodynia in the territory of an uninjured nerve. Pain, 57:375-382, 1994.

神経損傷モデルにおいて,損傷のない神経の支配領域に異常な自発痛や刺激による痛みが報告されている.外

傷性の神経障害患者に見られるような徴候を示す末梢神経障害モデルが開発されてきた.神経の慢性拘束損傷

(Chronic Constriction Injury; CCI)モデルの一つに坐骨神経損傷ラットがある.坐骨神経の CCI ラットにおい

て,損傷のない伏在神経の支配領域での機械的刺激による痛覚過敏とアロディニアの発生を調べ,その現象が中

枢性感作によるものであるかを検討した報告があるので,紹介する. CCI ラットの足底中央の無毛部(坐骨神経支配領域),足背外側(坐骨・伏在神経支配領域?)及び内側(伏在

神経支配領域)の有毛部の3部位でピン刺激による痛覚過敏を調べた.また,同部位にて,von Frey hair による

触刺激を用いて,アロディニアの有無も調べた(Fig.1Ⓐ).ピンの痛み刺激による下肢の引っ込め反射の持続時

間は,神経損傷前とコントロール(反対肢)のそれと比較して坐骨神経支配領域及び伏在神経支配領域ともに延

長した(Fig.1Ⓑ).また,von Frey hair テストにおいて,術後(POD)4~15 日においても坐骨神経支配領域及

び伏在神経支配領域ともにコントロールと比較して閾値が低下した(Fig.1Ⓒ). さらに,神経損傷処置 18 日後,アロディニアが生じたことを確認して,損傷した坐骨神経及び損傷していない

伏在神経の切断を行った.伏在神経の切断により,内側部は無反応となり,足底中央部はその影響がなかった.

他方,坐骨神経の切断により,足底中央部は無反応となり,内側部はその影響がなかった.この結果は,これら

のアロディニアが末梢神経の活動によることを示唆している(Fig.2).しかし,外側部での反応は複雑なものと

なった(Fig.2).伏在神経切断 2 日後,アロディニアの出現はなく,殆ど正常であったが,切断 4 日後にはアロ

ディニアが再現した.坐骨神経切断 2 日後,外側部での反応は無かったが,切断 4 日後には半数の動物にアロデ

ィニアが出現した.この結果には,外側部での二つの神経の重複支配の存在か,あるいは部分的に損傷した坐骨

神経領域への伏在神経の発芽の可能性が考えられている. 以上より,坐骨神経損傷モデルにおいて,損傷されていない伏在神経の支配領域にも機械的な痛覚過敏とアロ

ディニアが出現することが示された.その現象が中枢性感作によることの確かな証拠は示されなかった. (角田友歌)

論 文 紹 介

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近年,健康志向の時代といわれ,自分自身の健康管理に関心の深い人が多い.そんな中,こんな意見を聞く.

「肉を頻繁に摂るような食事をしていると病気になる」とか「牛乳や乳製品を摂ると腸相が悪くなり,腸の病気

はもちろんのこと,他臓器の病気にも多大な影響がある,とか言われているが本当か?」また,「ある人は,『朝

食は摂らない方が健康になる』と言い,別の人は『三食しっかりと摂らないと病気になる』と言う.どちらの意

見を信用したらよいのか」また,「ある人は『運動をしないと病気になる』と言い,別の人は『いやいや,運動を

やりすぎると不健康になる』と言う.一体,どちらを信じたらよいのか」等など,さらに「どちらの意見を聞い

ても,それに対する責任は取ってくれないでしょ」である.この時代は情報過多であり,物質過多であり,何で

もかんでも多すぎる.だから「自分の責任において,自分を守る」ことが要求されているように思われる. 上の例では,私自身も,肉を食べる回数を少なくし,牛乳と乳製品を摂るのを止めた.その後,3 ヶ月が過ぎ

た頃から,胃腸の調子がよい.たまに外食した時など,乳製品が使われている料理を知らずに食べた後などは胃

が重く,吐き気や下痢が起こった.これらの食品は“自分の体”には毒だと思うようになった.朝食について,

人が朝食を摂りだしてから,それ程時は経っていない.日本で朝食を習慣として摂り始めたのは江戸時代らしい.

人間の歴史が 500 万年であるとすると,それはつい先日の話である.私が,子供の頃でも,農家では,朝食を摂

るのは朝一仕事を終えてからであり,丁度,それは午前 11 時や正午頃であった.朝食は,今の昼食であった.そ

の頃は,今のような病気があったのだろうか.最近の大学生の身体は,私の 30 年間の教師経験から診て,確かに

不健康になっているが,これにも朝食の摂取や食生活が関係しているかもしれないと思うようになった.先日,

アトピー性皮膚炎の赤ちゃんが朝食を止めて完治した話しを聞いた.また,運動に関しては,「運動選手は短命で

ある」とは本当であろうか.日常生活の中での運動では不十分なのであろうか.などなど.どの意見を取り入れ,

どのような行動をとるかは,自分の責任であろう.そのためには,感性が重要であろう.本来,我々に備わって

いた感性を持続するためにも教養を身につけることが望まれる.そのような願望を踏まえて,今号から「本の紹

介」を始めました.会員諸氏からも原稿を募集しています. また,本号より,「ワンポイント治療メモ」を開始しました.日頃の臨床の参考にしてください.

JMA news letter 編集部長 辻井洋一郎

編 集 後 記