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LTE 向けセル間 電波干渉制御技術 干渉を自動制御し安定した高速モバイル通信を実現 スマートフォンの急速な普及に伴い、モバイル通信量が増大しています。富士通研究所は、 最新のモバイル通信方式「LTE 」において課題であった基地局のセル 境界部で発生 する電波干渉 を低減し、サービスエリア全体で安定した通信品質を提供するための制 御技術を開発しました。 スマートフォンの急速な普及に伴い、モバ イル通信量は増加の一途をたどっています。 総務省の情報通信審議会が2008 年に発表 した推計では、2007 年のモバイル通信量を 基準とすると、2012 年には約 16 倍、さらに 2017年には約 220 倍にまで拡大すると予測 されています 。こうしたモバイル通信の需 要を支える技術として WiMAX と並んで期 待されているのが、最高150Mbps の高速伝 送が可能な LTE です。 LTEのように、多数の基地局のセルが集 まって広域のサービスエリアを形成する場 合、隣接するセル同士が重なりあうセル間 では電波干渉が起こります。そのため、通信 品質が劣化し、データのダウンロードが遅く なったり、動画コンテンツの再生が途切れた りすることがあります。通信量が急増する中 で安定したモバイルサービスを提供するに は、こうしたセル間の電波干渉を低減する 技術が重要です。 従来の電波干渉制御技術としては、周波 数帯域 を分割する「周波数繰り返し 」が あります。これは、セル間で異なる周波数を 使用できる代わりに、各セルは割り当てられ た周波数しか使用できないため周波数帯域 は狭くなり、通信速度は逆に低下します。 そこで、基地局から遠いエリア(セル端) と近いエリア(セル中心)で帯域割り当て を分離し、部分的に周波数繰り返しを行う 「FFR」 (Fractional Frequency Reuse)が LTE 技術者の間で検討されるようになりました。 FFR は、電波干渉が起こりやすいセル端では 周波数繰り返しを行って送信電力は大きく ❶ LTE Long Term Evolution。 国 際 標 準 化 団 体 3GPP (3rd Generation Partnership Project)で 仕様作成された最新の 移動通信方式。NTTド コモの「Xi (クロッシィ)」 も LTE を採用している。 ❸電波干渉 同じ周波数の電波が互 いに影響しあうことでモ バイル端末が余計な信 号(干渉信号)を受信し、 通信に支障が出ること。 干渉信号の電波が強い (送信電力が大きい)ほ ど干渉は大きくなる。 ❺WiMAX IEEE802.16e に準拠した モバイル無線標準規格。 ❷セル モバイル通信システムの 基地局から発信する電 波 が届くエリア。小さな エリアが集まって広域の サービスエリアを構成 する様子を生物の細胞 (cell)に見立ててこう呼 ばれる。 総務省 情報通信審議会 情報通信技術分科会 「平成20年 携帯電話等 周波数有効利用方策委 員会報告」を参考。 ❻周波数帯域 伝送に用いる一定の幅 を持った周波数範囲の こと。一番低い周波数と 一番高い周波数の範囲 を「帯域 幅 」と呼ぶ。周 波数帯域の帯域幅が広 いほど伝送容量が大き くなる。 ❼周波数繰り返し Frequency Reuse。基地 局で使用できる周波数 帯域を分割し、隣接する セル同士の周波数が異 なるように各セルに周 波数を割り当てる方式。 モバイル通信量の 増大を支えるLTE セル端の固定的な 帯域割り当てに課題 図1 従来のセル間電波干渉制御技術(FFR) セル #2 セル #3 基地局 セル #1 セル #1 基地局 基地局 周波数 セル端の帯域 各基地局で 3 つのセルを構成した場合の周波数帯域の割り当て セル #3 セル #2

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Page 1: LTE 向けセル間 電波干渉制御技術 - Fujitsu Japanjp.fujitsu.com/journal/publication_number/341/journal341...LTE向けセル間 電波干渉制御技術 干渉を自動制御し安定した高速モバイル通信を実現

LTE向けセル間電波干渉制御技術干渉を自動制御し安定した高速モバイル通信を実現

スマートフォンの急速な普及に伴い、モバイル通信量が増大しています。富士通研究所は、

最新のモバイル通信方式「LTE❶」において課題であった基地局のセル❷境界部で発生

する電波干渉❸を低減し、サービスエリア全体で安定した通信品質を提供するための制

御技術を開発しました。

 スマートフォンの急速な普及に伴い、モバ

イル通信量は増加の一途をたどっています。

総務省の情報通信審議会が2008 年に発表

した推計では、2007年のモバイル通信量を

基準とすると、2012 年には約16 倍、さらに

2017年には約220 倍にまで拡大すると予測

されています❹。こうしたモバイル通信の需

要を支える技術としてWiMAX❺と並んで期

待されているのが、最高150Mbpsの高速伝

送が可能なLTEです。

 LTEのように、多数の基地局のセルが集

まって広域のサービスエリアを形成する場

合、隣接するセル同士が重なりあうセル間

では電波干渉が起こります。そのため、通信

品質が劣化し、データのダウンロードが遅く

なったり、動画コンテンツの再生が途切れた

りすることがあります。通信量が急増する中

で安定したモバイルサービスを提供するに

は、こうしたセル間の電波干渉を低減する

技術が重要です。

 従来の電波干渉制御技術としては、周波

数帯域 ❻を分割する「周波数繰り返し❼」が

あります。これは、セル間で異なる周波数を

使用できる代わりに、各セルは割り当てられ

た周波数しか使用できないため周波数帯域

は狭くなり、通信速度は逆に低下します。

 そこで、基地局から遠いエリア(セル端)

と近いエリア(セル中心)で帯域割り当て

を分離し、部分的に周波数繰り返しを行う

「FFR」(Fractional Frequency Reuse)が LTE

技術者の間で検討されるようになりました。

FFRは、電波干渉が起こりやすいセル端では

周波数繰り返しを行って送信電力は大きく

❶LTELong Term Evolution。国 際 標 準 化 団 体 3GPP

( 3 r d G e n e r a t i o n Partnership Project)で仕様作成された最新の移動 通 信 方式。NTTドコモの「Xi(クロッシィ)」もLTEを採用している。

❸電波干渉同じ周波数の電波が互いに影響しあうことでモバイル端末が余計な信号(干渉信号)を受信し、通信に支障が出ること。干渉信号の電波が強い

(送信電力が大きい)ほど干渉は大きくなる。

❺WiMAXIEEE802.16e に準拠したモバイル無線標準規格。

❷セルモバイル通信システムの基地局から発信する電波が届くエリア。小さなエリアが集まって広域のサービスエリアを構成する様子を生物の細胞

(cell)に見立ててこう呼ばれる。

❹総務省 情報通信審議会情 報 通 信 技 術 分 科 会

「平成 20 年 携帯電話等周波数有効利用方策委員会報告」を参考。

❻周波数帯域伝送に用いる一定の幅を持った周波数範囲のこと。一番低い周波数と一番高い周波数の範囲を「帯域 幅 」と呼ぶ。周波数帯域の帯域幅が広いほど伝送容量が大きくなる。

❼周波数繰り返しFrequency Reuse。基地局で使用できる周波数帯域を分割し、隣接するセル同士の周波数が異なるように各セルに周波数を割り当てる方式。

モバイル通信量の増大を支えるLTE

セル端の固定的な帯域割り当てに課題

■ 図1 従来のセル間電波干渉制御技術(FFR)

セル #2

セル #3

基地局

セル #1セル #1

送信電力基地局

基地局

周波数

セル端の帯域

各基地局で 3つのセルを構成した場合の周波数帯域の割り当て

セル #3

セル #2

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先端テクノロジー / FUJITSU JOURNAL / SEP.2011

す)。これによって、最も電波干渉の問題が大

きかったセル間の電波干渉が低減され、自

セル内で電波干渉の影響を受けるユーザー

数を最小限に抑えることができます(図2)。

 帯域変更の情報は、LTEで規定されたイ

ンターフェースを用いて隣接するセルへ通

知、この一連の制御アルゴリズムをセル間

で繰り返し行うことで、時間的なユーザー分

布の変動にも追従しながら、システム全体

のセル端の帯域を最適に割り当てることが

可能となります。

 

 本技術をシミュレーションによって評価

した結果、セル端におけるユーザー端末の

通信速度が、従来のFFR 方式と比較して約

1.5倍、電波干渉制御を行わない場合と比較

して約2倍に向上しました❽。これにより、セ

ル境界近辺にユーザーが集中している場合

でも、高品質な動画配信等を楽しむことが

できるようになります。

 本技術の詳細は、ハンガリー・ブダペスト

で開催された「VTC2011-Spring❾」にて発表

し、国内外の技術者から多くの注目を集め

ました。富士通研究所では、快適なモバイル

ブロードバンドサービスの実現に向けて、本

技術をLTE 基地局に適用するための検討を

進め、2年から3年後の実用化を目指します。

し、電波干渉がそれほど問題にならないセ

ル中心では周波数繰り返しを行わず全ての

セル中心で同一の周波数を使用して送信電

力は小さくします(図1)。

 FFRであれば、周波数帯域の利用効率を

犠牲にせずに、セル間の電波干渉を低減で

きますが、「均一なセル形状」でない場合に

その効果が劣化する可能性があります。現

実には、ビルによって電波が遮られることも

あれば、逆に遮る物が何もなく遠くまで届い

たりすることもあり、セル端の帯域を固定的

に割り当てるFFRでは、電波干渉を効果的

に低減することは困難です。

 富士通研究所では、セル間におけるユー

ザー分布の偏りにも注目し、独自のアルゴリ

ズムによってセル端の帯域を自律分散的に最

適化する電波干渉制御技術を開発しました。

 本技術はまず、隣接するセルと重なりあ

うセル境界近辺のユーザー数を調べ、隣接

セル毎の電波干渉の度合いを計算します。

そして計算結果から自セルに対して最も電

波干渉の問題が小さい隣接セルを特定し、

特定したセル端の帯域と同じ帯域に、自セ

ルのセル端の帯域を変更します(隣接セル

で使用されていないセル端の帯域が存在す

る場合には、その帯域をセル端帯域としま

ユーザー分布に応じて帯域を自動変更

快適なモバイルブロードバンドサービスの実現へ

❽富士通研究所のシミュレーション結果による。向上度はユーザーの分布条件に依存する。

❾VTC2011-Spring2011 IEEE 73rd Vehicular Technology Conference。IEEE(電気・電子分野における世界最大の学会)によるワイヤレス通信分野の国際会議。

■ 図 2 開発したセル間電波干渉制御技術の特長

※セルの色はセル端の帯域を表す干渉が大きいセル間本技術適用前

干渉が小さいセル間 干渉が低減する

干渉が増大するが、ユーザーが存在せず問題とならない

本技術適用後

セル端の帯域変更