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NTT技術ジャーナル 2017.842
MAGONIAの展開NTTネットワークサービスシステム研
究所では,2015年 2 月に発表した新しいキャリアネットワークのあり方を変革するR&Dコンセプト「NetroSphere構想
(1)」の一環として,サービスの早期創出や開発 ・ 運用コストの抜本的な削減に向けた新たなサーバアーキテクチャ
「MAGONIA」の研究開発に取り組んでいます.
MAGONIAは,それぞれのアプリケーションが利用できる部品(基盤)として,分散処理基盤(2),(3),機能間高速連携技術(SPP)(4),そして仮想マシン(VM)の管理技術を実現しており,ここではVM管理技術について紹介します.
転送系サービス機能の� �仮想化における課題
ETSI(European Telecommunications Standards Institute:欧州電気通信標準化機構)NFV ISG(Network Function Virtualizations Industry Specification Group)では,NFVの仕様の検討が進められています.NFVとは,専用のハードウェアアプライアンスで提供されたネットワーク機能をソフトウェア化 ・ 仮想化することにより,汎用サーバ上でVMを動作させ,さまざまなサービスを柔軟かつ迅速に提供する取り組みです.
仮想化することで, 1 台のハードウェア上に仮想的につくり上げた複数のマシンを稼動させることができます.これにより,状況に応じて必要なサイズのVMを動的に作成することができます.
ETSI NFVのアーキテクチャは,NFVI(NFV Infrastructure)・VNF(Virtual Network Function)・MANO(Management and Orchestration)の 3 つに大きく分かれています(図 1 ).NFVIは,VNFを動作させるための物理的なリソースと仮想化機能の領域で,代表的なものとしてKVM(Kernel-based VM)がありま
すが,ハイパーバイザと呼ばれる,物理サーバ上に複数の仮想サーバを生成する機能を実現します.VNFはソフトウェアで実装されたネットワーク機能を指します.MANOは,運用自動化の中心的な役割を持ち,VIM(Virtualized Infra-structure Manager),VNFM(VNF Manager),NFV Orchestratorからなります.VIMはNFVIを管理しVMを払い出す役割を,VNFMはVNFを管理する役割を,NFV Orchestratorはネットワークサービスとリソースを統合的に管理 ・制御し最適化する役割をそれぞれ担い
Vn-Nf
MANO NFV Management and Orchestration
NFVOrchestrator
VNFManager(s)
Service, VNF andInfrastructureDescription
VirtualisedInfrastructureManager(s)
Os-Ma
Ve-Vnfm
Nf-Vi Or-Vi
OSS/BSS
EM1
NFVI
Or-Vnfm
Vi-Vnfm
VI-Ha
VNF1
VirtualComputing
ComputingHardware
EM2
VNF2
Virtualisation Layer
Execution reference points Other reference points Main NFV reference points
VirtualStorage
StorageHardware
EM3
VNF3
Hardware resources
VirtualNetwork
NetworkHardware
NFVI
VNF
図 1 ETSI NFVアーキテクチャ
転送系ソフトウェアの仮想化環境上での運用を実現するVM管理技術NTTネットワークサービスシステム研究所
浜は ま だ
田 信まこと
/岩い わ さ
佐 絵え
里り
子こ
/栗く り う
生 敬け い こ
子
NTTネットワークサービスシステム研究所では,安心 ・安全なサービスを支えるネットワーク制御基盤の具現化をめざし,仮想化された転送系サービス機能の運用を可能とする基盤技術の確立とサービス適用に向けた取り組みを進めています.ここでは,仮想化環境でハードウェア資源を共有し,OpenStackと連携して柔軟に転送系サービス機能を構築 ・運用する仮想マシン(VM)管理技術を紹介します.
R&D
MAGONIA VM管理 NFV
NTT技術ジャーナル 2017.8 43
R&Dホットコーナー
ます.VIMにおいては,OpenStackがデファクトスタンダードとなっており,世の中で利用されているNFVプラットフォーム製品は,OpenStackをベースにベンダが独自の開発を加えています.各通信キャリアはNFVアーキテクチャの大規模な通信網への適用に注目しており,中でも,転送系サービス機能を実現するための課題の解決が重要となり ます.
転送系サービス機能の� �仮想化における課題
ファイアウォールや,NAT(Network Address Translation)に代表されるネットワークの転送系サービス機能は,受信したすべてのパケットの内容を確認し処理する機能であり,大量のパケットを可能な限り低遅延で処理する必要があります.これらの転送系サービス機能は,その厳しい性能要件を満たすために,専 用 の 装 置 で 実 現 し て い ま し た.MAGONIAでは,このような専用の装置で実現されていた機能をソフトウェア化し(転送系ソフトウェア),仮想化技術をベースとした共通のプラットフォーム上で運用することで,CAPEX(Capital Expenditure) ・ OPEX(Operating Expense)の削減やサービス開発の活性化をめざしています.
転送系サービス機能を仮想化するには,いくつかの課題があります.仮想化技術は, 1 つのハードウェア上に複数のVMを実現するため,VMどうしが相互に干渉し合い,処理遅延が発生し,スループットが安定しません.仮想化技術がターゲットとしていたWebサービス
などのサーバ系システムでは,レイテンシに対する要件は厳しくなく,またスループットが安定しなくても,処理能力不足が生じたときに,その都度ハードウェアを増設するようなシステムを構成することが可能でした.しかしながら,転送系サービス機能の場合は,処理するパケット量が多く,処理遅延が許容されないことに加えて,既存の通信網は,各装置で処理するユーザ数をあらかじめ定めた収容分散型のアーキテクチャで構築されていることが多く,Webサーバのようにハードウェアを増設して性能を保持することができません.そのため,転送系ソフトウェアをNFVアーキテクチャで実現する際にも,収容分散型アーキテクチャを前提に,仮想化したサービス機能の性能を保証する必要があり ます.
また,既存の通信網の装置は,実行系サーバ(ACTサーバ)と待機系サーバ(SBYサーバ)で構成されており,ACTサーバで障害が発生すると,SBYサーバでACTサーバの処理を引き継ぐフェイルオーバーの仕組みがあります.したがって,仮想化環境下では,冗長構成の仕組みを有するシステムを考慮したVMの配置制御が求められます.MAGONIAのVM管理技術は,このようなネットワークサービスを仮想化環境に適用するうえでの課題を解決する機能を実現します.
VM管理技術が実現する機能MAGONIAのVM管理技術が実現する
機能を図 2 に示します.①CPUコア割当て機能は,KVMが持つCPUコアに
VMの処理プロセスを割り当てる処理を実現します.この機能により,例えば高速な処理を要求するプロセスにCPUコアを占有して割り付けることで,処理遅延の低減とスループットの安定化を実現できます.また,②ACT ・ SBYサーバ構成を考慮したVM配置機能によって,冗長構成を持つシステムについて,最適なハードウェアにVMを配置することができます.そのほかにも,③ハードウェア故障時のオートヒーリング機能,④ネットワークスイッチへの設定投入機能,⑤VMの配置変更機能,そして⑥VMとハードウェアとの連携監視機能を実現することで,ハードウェアの故障や障害発生時のフェイルオーバー処理やライフサイクル管理作業を支援します.
MAGONIA�VM管理技術の� �CPUコア割当て機能
CPUのコア割当て機能の仕組みを図3 に示します.MAGONIAのVM管理機能が提供するCPUのコア割当て機能は,3 つの機能を具備しています.
1 番目は,VM内の 1 つの仮想CPUの処理を, 1 つの物理CPUに割り当てる機能です.これにより,例えば高負荷な処理を実行する仮想CPUに対して占有して物理CPUのコアを割り当てられるため,仮想CPUの処理性能を維持することができます.
2 番目は,複数の仮想CPUをまとめて 1 つの物理CPUのコアに占有して割り当てる機能です.マシンへの負荷が軽い処理を実行する複数の仮想CPUに本機能を適用することで,物理CPUのリソースを有効かつ処理時間を担保し
NTT技術ジャーナル 2017.844
て実現することができます.3 番目は,仮想CPUに割り当てる物
理CPUのコア番号を指定する機能です.CPUコ ア の 接 続 す るNIC(Network
Interface Card)や対応するソケットによってコアごとに性能差が生じますが,
(a) コア割当て機能の仕組み
VM 1物理CPUのコア番号を指定
重い処理はコアを占有して割当て
処理性能を維持
重い 軽い1プロセス当りの処理量
リソースの利用効率を向上
軽い処理は複数のコアでオーバーコミットして割当て
VM 2
vCPU vCPU … …vCPU vCPU vCPU vCPU
CPU 1
コア 1
1 つの仮想CPUに1つの物理CPUを割り当てる
複数の仮想CPUで1つの物理CPUを指定
コア 2 コア 3 コア 4 コア 1 コア 2 コア 3 コア 4
CPU 2
(b) コア割当て機能による効果
CPU
コア 1 コア 2 コア 3 コア 4
図 3 CPUのコア割当て機能
VM
Compute Compute
L 2 スイッチ
Compute
APL(ACT)
APL(ACT)
APL(SBY)
VM VM
APL(SBY)
VM
APL(ACT)
VM
APL(ACT)
VM
APL(ACT)
VM
APL(SBY)
VM
運用担当者
VM管理機能
OpenStack
⑥
①
②
④③
⑤
図 2 VM管理技術が実現する機能
NTT技術ジャーナル 2017.8 45
R&Dホットコーナー
コア番号を指定することにより,要求性能を考慮した割当てができるため,割り当てられた仮想CPUの処理性能を維持したり,OSの処理の割り込みによる性能劣化を避けたりすることができます.
本機能を実現するためには,VMを生成する際にKVMに設定する必要があり, VIMの役割となります.しかしながら,VIMのデファクトスタンダードであるOpenStackでは,KVMで設定できるような粒度のCPUのコア割当て機能が存在しません.そこでVM管理機能は,OpenStackをVIMとして利用し,その上で転送系サービス機能を動作させるために必要なCPUのコアを割り当てる機能を実現します.
VM管理技術による効果VM管理技術によって生成したVMに
対して,大量のパケットを与えながらVMを増やし,正常に処理されたパケット数を測定した結果を図 4 に示します.
グラフが示すように,VM管理技術を適用した場合は, VM数を増やすごとにスループットの性能がリニアに向上しています.コア割当て機能を適用することにより,性能が担保されたVMが生成されていることが分かります.
また,ACT ・ SBY構成や,ハードウェア故障時のオートヒーリング時に使用されるVMに対しても,必要とされる量のCPUコアを割り当てることが可能となり,復旧直後も安定してサービスを提供することができます.
今後の展開MAGONIAのVM管理技術は,転送系
サービス機能のように,レイテンシに厳しく安定したスループットを必要とする機能の仮想化に有用と考えられます.将来のサーバインフラを支える共通機能になることをめざし,対応するアプリケーションの拡大やOpenStackをはじめとするオープンソースソフトウェア
(OSS)コミュニティへの提案活動に取り組んでいきます.
■参考文献(1) 伊東:“NetroSphere実現に向けた実証 ・ 普及
の加速,” NTT技術ジャーナル,Vol.28,No.8,pp.6-10,2016.
(2) 小林 ・ 北野 ・ 岡本 ・ 福元:“MAGONIA(分散処理基盤):渋滞予測 ・ 信号制御システムへの適用,” NTT技術ジャーナル,Vol.28,No.8,pp.28-30,2016.
(3) http://www.ntt.co.jp/inlab/blabo/forum/pdf/E-01.pdf
(4) http://www.dpdk.org/browse/apps/spp/
VM管理技術によるCPUコア割当て機能を適用した場合
ホストOSスケジューラによるCPUコア割当てを適用した場合
(万pps)
01 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
仮想マシン数
正常に処理されたパケット数 50
100
150
200
250
300
350
図 4 VM管理技術によるスループットの一例
(左から) 浜田 信/ 岩佐 絵里子/ 栗生 敬子
NetroSphere構 想 の実現に向けて,MAGONIAの提供する基盤機能をより充実させ,事業導入をめざしていきます.
◆問い合わせ先NTTネットワークサービスシステム研究所 ネットワーク制御基盤プロジェクト
TEL 0422-59-3148FAX 0422-59-5631E-mail vm-mgmtsys lab.ntt.co.jp