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技術論文 富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014 89 快適環境フラッグシップ 超静音技術 Noise Reduction Technology—Our Flagship Technology for a Comfortable Environment 富士ゼロックスは、お客様の利便性と環境性能を合 わせ持った、技術・商品・サービスの総称を 「RealGreen ® 」と定義し、このコンセプトに基づく、 真の快適環境技術の開発と、商品導入を進めている。 環境に優しい商品のキーワードとして、「静音」あり、当社は、静音性をさらに追求し、プリント、ス キャン、資料の大量印刷・コピーなど、オフィスのさ まざまなシーンで、圧倒的な静粛性を実現するため に、自動原稿搬送装置、本体、フィニッシャーに対複合機の動作音を低減するさまざまな静音化技術を 新規開発し、ApeosPort-Vシリーズに導入した。 本稿では、これらの静音技術を紹介する。 Abstract Fuji Xerox embodies a concept called RealGreen in its technology, products and services that provide convenience to customers, while maintaining good environmental performance. We are striving to develop technology that achieves true convenience, comfort and environmental compatibility, and launch products that encompass this concept. A product being “quiet” is one of the keys to developing “comfortable” products. In order to achieve very quiet office environments during print, scan and copy operations, even during high-volume operations, we have developed new noise reduction technology that has successfully reduced noise levels generated by the automatic document feeder, the printing unit, and the finisher of multifunction devices, and implemented the technology in our ApeosPort-V series. This paper introduces our noise reduction technology. 執筆者 岡田 正幸(Masayuki Okada*1 粂田 浩一(Kouichi Kumeta*1 中島 由高(Yoshitaka Nakajima*2 磯崎 直樹(Naoki Isozaki*3 山崎 章(Akira Yamazaki*4 *1 デバイス開発本部 デバイスシステムプラットフォーム 開発部 Device System Platform Development, Device Development Group*2 デバイス開発本部 次世代マーキングプラットフォーム 開発部 Advanced Marking Platform Development, Device Development Group*3 モノ作り技術本部 部材技術開発部 Parts & Material Technology and Development, Production Technology Group*4 富士ゼロックスアドバンストテクノロジー株式会社 Fuji Xerox Advanced Technology Co., Ltd.

Noise Reduction Technology—Our Flagship …...technology that has successfully reduced noise levels generated by the automatic document feeder, the printing unit, and the finisher

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技術論文

富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014 89

快適環境フラッグシップ 超静音技術 Noise Reduction Technology—Our Flagship Technology for a Comfortable Environment 要 旨

富士ゼロックスは、お客様の利便性と環境性能を合

わ せ 持 っ た 、 技 術 ・ 商 品 ・ サ ー ビ ス の 総 称 を

「RealGreen®」と定義し、このコンセプトに基づく、

真の快適環境技術の開発と、商品導入を進めている。

環境に優しい商品のキーワードとして、「静音」が

あり、当社は、静音性をさらに追求し、プリント、ス

キャン、資料の大量印刷・コピーなど、オフィスのさ

まざまなシーンで、圧倒的な静粛性を実現するため

に、自動原稿搬送装置、本体、フィニッシャーに対し

複合機の動作音を低減するさまざまな静音化技術を

新規開発し、ApeosPort-Vシリーズに導入した。

本稿では、これらの静音技術を紹介する。

Abstract

Fuji Xerox embodies a concept called RealGreen inits technology, products and services that provideconvenience to customers, while maintaining goodenvironmental performance.

We are striving to develop technology that achievestrue convenience, comfort and environmentalcompatibility, and launch products that encompassthis concept. A product being “quiet” is one of the keysto developing “comfortable” products. In order toachieve very quiet office environments during print,scan and copy operations, even during high-volumeoperations, we have developed new noise reductiontechnology that has successfully reduced noise levelsgenerated by the automatic document feeder, theprinting unit, and the finisher of multifunction devices,and implemented the technology in our ApeosPort-Vseries. This paper introduces our noise reductiontechnology.

執筆者 岡田 正幸(Masayuki Okada)*1 粂田 浩一(Kouichi Kumeta)*1 中島 由高(Yoshitaka Nakajima)*2 磯崎 直樹(Naoki Isozaki)*3 山崎 章(Akira Yamazaki)*4 *1 デバイス開発本部 デバイスシステムプラットフォーム

開発部 (Device System Platform Development, Device

Development Group) *2 デバイス開発本部 次世代マーキングプラットフォーム

開発部 (Advanced Marking Platform Development, Device

Development Group) *3 モノ作り技術本部 部材技術開発部

(Parts & Material Technology and Development, Production Technology Group)

*4 富士ゼロックスアドバンストテクノロジー株式会社 (Fuji Xerox Advanced Technology Co., Ltd.)

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技術論文

快適環境フラッグシップ 超静音技術

90 富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014

1. はじめに

富士ゼロックスは、お客様の利便性と環境性

能を合わせ持った、技術・商品・サービスの総

称を「RealGreen」と定義し、このコンセプト

に基づく、真の快適環境技術の開発と、商品導

入を進めている。

環境に優しい商品のキーワードとして、「静音」

があり、当社は、RealGreenの環境性能の重要

な要素として、「静音」を位置づけ、静音性を追

求した商品開発を行っている。プリント、スキャ

ン、資料の大量印刷・コピーなど、オフィスの

さまざまなシーンで、圧倒的に快適な静粛性を

実現するために、自動原稿搬送装置、本体、フィ

ニッシャー(後処理装置)からの発生音源を、

徹底的に分析し、動作音を低減するさまざまな

静音化技術を新規開発し、ApeosPort-Vシ

リーズに導入した(図1)。本稿では、それらの

静音技術を紹介する。

自動原稿搬送装置では、従来、メカ機構で実

現していたスキュー補正に替わる新たな手段と

して、画像処理による「電子スキュー補正技術」

を開発することで、スキュー補正時に発生して

いた用紙衝撃音を大幅に低減した。また、表面

粗さが小さい機能性樹脂材料の選択や、新規成

型技術によって、用紙摺動音を低減した(「用紙

摺動音低減技術」)。これらについては、第2章

で詳細を述べる。

複合機本体では、低回転・高トルクモーター

SSDM(Slow-Strong DC Motor)によるギ

ア噛合い音低減や、用紙やクラッチの衝突音な

どの動作音低減を行った。また、機内からの音

漏れを防止するため、外装カバーの嵌合部の隙

間シールや、排熱用ルーバーの開口面積を極限

まで縮小した。さらに、ヒートマネージメント

(静音冷却技術)や、低負荷現像技術による発

熱抑制により、遮音密閉化と内部の温度上昇防

止を両立した。本体における、これらの静音技

術のうち、「静音冷却技術」と「低負荷現像技術」

について、第3章で詳しく述べる。

フィニッシャーでは、フィニッシャー固有の

音源(ステープラー・コンパイラー部の騒音、

メカ機構の騒音、駆動系騒音)の静音化を実現

するために、メカ機構やメカトロ部品の静音化

を図った。ステープラーの騒音に対しては、針

綴じ動作制御の 適化や、嵌合部の密閉や用紙

排出部の開口面積の 小化による音漏れ防止を

行った。コンパイラーの騒音などのメカ機構の

騒音に対しては、機構解析シミュレーションを

用いたパラメーター設計により静音化を実現し

た。また、装置の開口部から漏れ出る駆動騒音

に対しては、音響解析により吸音材の 適配置

を行い静音化を実現した。以上の「静音フィニッ

シャー技術」については、第4章で詳しく述べる。

2. 自動両面原稿送り装置の静音技術

従来機の原稿送り装置において、稼働音の各

音源の寄与率を図2に示す。各音源に対してそ

れぞれ対策メニューを導入し静音化を実現した

が、ここでは36%の寄与率があったスキュー補

正音低減について説明する。

スキュー補正音は、原稿先端をローラーに突

きあてて機械的に原稿のスキューを補正すると

きに発生する衝撃音であるが、この音を完全に

なくしてしまうために、スキュー補正機能を機

■電子スキュー補正

■用紙摺動音低減

■静音冷却技術

■低負荷現像技術

・SSDM駆動

・用紙音低減技術

・遮音/吸音技術 ■静音フィニッシャー技術

* ApeosPort-V

C3375 PFS‐PC にフィニッシャーC3

を装着した構成

図1 静音技術と騒音低減効果

Noise reduction technology

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富士ゼロ

械的で

た。つ

補正へ

2.1

従来

れてい

するに

あって

実現す

2.1.1

原稿

紙のエ

に対す

コート

正確な

読み取

トラス

素材自

背面素

1

*1 CH

原稿

ド。

図3

ロックス テクニカ

メカ衝撃音15%

用紙衝撃7%

ではなく画像

まり、メカス

へ機能をそっ

電子スキュ

来のメカ機構

いた、読取画

には、原稿が

ても、精度の

する必要があ

正確に原

稿スキューを

エッジを正確

するロバスト

ト紙などの用

な用紙エッジ

取り画像を明

ストを確保す

自体の改良や

素材に明るい

UTE-CVT(

稿読み取り部背

図2 音源

Nois

3 背景板 Back platen

カルレポート No.2

スキュ

音(用

カ3

DRIVE駆動音37%

撃音用紙摺動音

5%

像処理技術で実

スキュー補正か

くりシフトさ

ュー補正

構によるスキュ

画像のアライメ

がどのような用

の高い原稿スキ

ある。

原稿エッジを検

を正確に検知す

確に検出できる

ト性が求められ

用紙から黒い用

ジ検知のために

明るくし、原稿

する必要がある

や変更が行われ

いプラスチック

(constant ve

背面側に配置さ

源寄与率 se source

*1

23 2014

ュー補正

用紙+メ

カ)

36%

実施すること

から電子スキ

させた。

ュー補正で担

メント性能を

用紙種類や形

キュー検知技

検出する技術

するには、原

るよう、用紙

れる。明度の

用紙の原稿ま

には、原稿背

稿エッジ部の

る。しかし、

れている中、

ク素材を使っ

elocity trans

される用紙搬送

ととし

キュー

担保さ

を保証

形状で

技術を

原稿用

紙種類

の高い

まで、

背面の

のコン

用紙

読取

っても、

sport)

送ガイ

2

搬送

真角

原稿用紙より

た、用紙との

として、背面

パンチ穴や折

画像が残って

そこで、読

和値)以上に

正確に用紙エ

読取背面を飽

素材の反射部

反射光がCC

より、明るい

飽和画像との

誤検知なく用

た、黒背景を

紙欠落部も飽

画像を得られ

2.1.2 原稿

原稿のエッ

の情報からス

図4のような

角形が保証さ

が破損または

ら真のスキュ

角度を求め

ハフ変換を第

法によって原

しっかり把握

用すべき理想

なる。

図4

快適

送方向

真のスキュー角度

りも明るいこ

のコントラス

面に黒い素材

折り曲げ部な

てしまう。

読取背面の明る

にすることでコ

エッジを検知

飽和値とさせ

部材を傾斜さ

CDに入るよう

い用紙の原稿

のエッジを得

用紙エッジを

を採用した場

飽和した画像

れるため、不要

稿スキュー検

ッジを画像処

スキュー角度

な不規則な原

されているわ

は折れている可

ュー角度を算

める方法はい

第一算出方法

原稿の特徴や

握し、後段の

想的な回転角

不規則原稿 Irregular origina

適環境フラッグシッ

ことが保証でき

ストを得る一般

材を使う方法が

など用紙欠落部

るさを読取り

コントラスト

知できる方策を

せるため、背景

させて設け、照

うにした(図3

稿であっても原

得ることが容易

を得ることがで

場合の課題であ

像データ、すな

要な画像を排

検知

処理によって抽

度を算出する。

原稿の外形は必

わけではなく、

可能性もあり

出しなければ

いくつかあるが

法として用いる

や検出角度の

のスキュー補正

角を求めるこ

l

技術論文

ップ 超静音技術

91

きない。ま

般的な方法

があるが、

部に不要な

り上限値(飽

トを確保し、

を取った。

景板に鏡面

照明光の正

3)。これに

原稿以外の

易となり、

できる。ま

あった、用

なわち白の

排除できる。

抽出し、そ

。ただし、

必ずしも四

、コーナー

り、その中か

ばならない。

が、今回は

る。この方

の信頼性を

正処理に適

とが可能に

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技術論文

快適環境フラッグシップ 超静音技術

92 富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014

2.1.3 スキュー画像の補正

検知したスキュー量に応じて、読み取り画像

を回転させて補正する。回転処理による画像の

がたつきや劣化を 小限にするため、読み取り

画像の解像度のまま、回転後の出力座標の周辺

画素による重みづけ係数補間を行いながら回転

処理を行う。

2.2 用紙摺動音低減技術

2.2.1 用紙摺動音の課題

富士ゼロックスでは、用紙が走行するときの

搬送ガイド部材と用紙の摺動により発生する騒

音を「用紙摺動音」と呼んでいる。オフィス向

けプリンティングシステムでは、全体の用紙摺

動音の中で自動原稿送り装置内を用紙が走行す

る際の騒音が大きく、中でもCHUTE-CVTと

いった細長形状部材との摺動音が大きい(図3

参照)。これは機能上必要な細長形状部材に、強

度と精度を持たせる必要があり、材料にガラス

フィラー(以下GF)入りプラスチック材料*2を

使用しているため、部材の表面が粗いことが原

因であった。

用紙摺動音を低減させるには、部材の表面平

滑性を向上させる必要があるが、そのためにGF

入りプラスチック材料*2を使用しないで、強度

と精度(反り寸法)、さらには通常品以上の表面

平滑性を実現することが大きな課題であった。

2.2.2 用紙摺動音低減の具現化

上記課題を要求特性として整理すると、

① GF無し材料で、反りスペック±0.2mmの

達成

② 表面粗さ Rz0.2μm

*2 GF入りプラスチック材料…ガラスフィラーを5

~40%程度混合した強化プラスチック材料

③ 環境試験を含めた荷重試験をクリア

の実現が必要であり、それぞれの具現化アプ

ローチとして次のような施策を行った。

①<反り> GF入り材料では、製品形状・フィ

ラー配向・残留応力等の要因により反りが

発現する。本部品の場合、製品形状に起因

する収縮と、フィラー配向起因で発生する

反りの影響が強く、両者が反対方向の反り

を発現することにより、うまく相殺される

状態となっている。これをGFなし部品に置

き換えると、フィラー配向成分が消え収縮

成分のみとなるため、大きな反りが発生す

る。そこで本活動では、裏面リブの肉厚を

変更することで形状起因の反りを調整し、

さらに 小圧力で形状を作れるガスイン

ジェクション成形を取り込み、残留応力影

響も抑え、反り量を極少に抑えることに成

功した。裏面リブの肉厚変更では厚肉部が

でき製品表面にヒケが発生するが、これも

ガスインジェクション成形を採用すること

により解消させた。

②<表面粗さ> GF入り材料をGFなし材料

に変更するだけでは、目標とする表面粗さ

Rz0.2μmは達成できない。成形条件を調整

することで金型表面を部材へ高転写させる

事は可能だが、その金型はRz0.2μm以下の

型表面を備えている必要がある。この金型

の製作には、機械加工と手磨きを組み合わ

せた6ステップの工程を 適化することで、

短且つ安価で高品質の金型表面を得るこ

とを確認した。

③<強度>対象となる部材は、 大で長手寸

法が336mmにもなるが、反り制御が難し

く、且つ物流環境後も反り寸法をスペック

図5 表面粗さと用紙摺動音の関係 Relation between roughness of the surface and noiseof sliding paper

図6 反り発生メカニズム Mechanism of warping

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技術論文

快適環境フラッグシップ 超静音技術

富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014 93

→温度高

温度改善

集熱板 改善前集熱板 改善後

集熱板

熱移動と熱拡散による放熱促進

→(1)熱源(素子)から集熱板への熱移動(2)集熱板の面内へ熱拡散(3)微風エアフローで冷却(4)機外へ排熱

内に収める必要がある。この要求を満たす

ために、初期状態の強度向上と、荷重によ

る変形と反対方向にあらかじめ変形させた

形状で成形することを実施した。具体的に

は裏面リブの高さを5mmから8mmへ形

状変更と、裏面リブ厚みと成形条件の調整

を実施することで、この課題を解決した。

以上の取り組みにより、用紙摺動音を低減す

るための3つの課題を達成することに成功し、

結果として、自動原稿送り装置の静音化に寄与

できた。

3. 複合機本体の静音技術

3.1 静音冷却技術

複合機本体には、定着器、マーキングエンジ

ン、電源ユニット、モーターなど、さまざまな

熱源が高密度に実装されており、これらから発

生した熱が各機能の信頼性を低下させないよう、

機内の冷却・排熱が必要となる。

富士ゼロックスは、本体の遮音・密閉化と機

内温度上昇の防止を両立させ、プリント時、待

機時の双方の静音化を実現した。機内の温度上

昇の防止は、熱分散と発熱低減、および、エア

フロー改善による「静音冷却技術(ヒートマネー

ジメント)」により実現した(図7)。従来、プ

リントエンジン近くに設置されていた、大きな

熱を発生する電源ユニットを、本体背面下部へ

移動することで熱分散を図った。熱源の分散配

置と、後述する「低負荷現像技術」を導入する

ことで、エンジン周辺の発熱量は従来機に対し

て、約1/3に低減することができた。これによっ

て、エンジン冷却効率が向上し、冷却に要して

いたファンの風量を約1/3に抑えることが可能

となり、ファン騒音も約1/3に低減させること

ができた。また、高発熱源である電源ユニット

に対しては、従来は、2個のファンで強制空冷

を実施しており、大きな騒音源となっていた。

今回、「集熱構造電源」を新たに開発し、冷却効

率を向上させることで、1個のファンによって

広い面積の集熱板に送風し冷却できるようにな

り、ファン騒音も大きく低減できた(図8、図9)。

3.2 低負荷現像技術

3.2.1 駆動トルク低減の狙いと課題

機内にはマグネットロールの駆動で発熱した

現像器を冷却するファンが設置されており、そ

の稼働音低減には現像器の発熱量抑制が必要で

ある。現像器の層形成部磁力を低くすると駆動

トルクが下がり発熱量を抑制できるが、一方で

層形成部近傍の摺擦力が低下し、現像剤の撹拌

性、分散性が悪化する。トルク低減にはこれら

を解決する新たな機能が必要となる。

図7 熱流体解析によるエンジン周辺の効果確認 Analyzing the effectiveness on the engine area using computational fluid dynamics

図8 熱流体解析による集熱電源の集熱板の 適化検討 Optimizing the heat collection plate using computational fluid dynamics

図9 集熱構造電源の構成と騒音低減効果 Structure of heat collecting power unit and the amount of noise reduced

高温

温度(℃)

電源配置 適化

エアフロー 適化

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快適環境フラッグシップ 超静音技術

94 富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014

3.2.2 PS-EPオーガー

PS-EPオーガー(図10)は2枚の搬送羽根を

有し、搬送羽根の位相を変化させた複数のPS部

(Phase Shift部)と、オーガー軸径が部分的

に太い、4カ所のEP部(Enhancing Pressure

部)で構成されている。

PS部は、順搬送される現像剤(実線枠矢印)

と、羽根aから離脱する現像剤(破線枠矢印)

の2つに分流する。羽根aから離脱する現像剤は、

片方の羽根bで順搬送される現像剤(点線枠矢

印)と合流する。この分流/合流の繰り返しに

より、連続した羽根で現像剤を搬送する従来の

オーガーよりも高い攪拌性を実現できる。図11

は色違いのトナーをディスペンスし、トナーの

混合状態を比較した結果である。PS-EPオー

ガーはトナーの混合が従来オーガーよりも優位

であり、攪拌性が向上することがわかった。

EP部は、現像剤の流路を急激に狭めることで

局所的に圧力を高めている。この圧力の変化に

よりトナー同士の凝集を弱め分散性が向上する。

図12は、EP部付近の現像剤に掛かる圧力を測

定した結果であり、EP部直前で現像剤に掛かる

圧力が高くなることがわかる。図13はあらかじ

め軽凝集させたトナーを用いた条件下における、

マグネットロール上に残留した凝集トナーの検

出率である。従来オーガーと比較してPS-EP

オーガーは残留トナーを大幅に低減でき、分散

性向上を実現した。

以上、PS-EPオーガーの採用により、二次障害

なく層形成部磁力を低下でき、駆動トルクを従

来機の55%まで低減することに成功した(図

14)。

図10 PS-EPオーガー PS-EP auger

PS-EPオーガー 従来オーガー

異色トナーの撹拌が不十分のまま搬送されている

異色トナーが良好に混合している

図11 異色トナーを用いた混合状態比較 Comparison of toner mixing capability

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

30 40 50 60 70 80

現像剤に掛かる圧力(kPa)

軸方向位置 [mm]

現像剤流れ方向 EP部

EP部直前

図12 現像剤圧力分布 Distribution of pressure applied to the developer

図13 トナー分散性改善効果 Improvement of toner dispersibility

図14 現像器駆動トルク低減率 Decrease of the driving torque of developing unit

PS部EP部

羽根aから離脱する現像剤

順搬送される現像剤

a

b

b

a

羽根bで順搬送される現像剤

分流 合流

76%

10%0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

従来オーガー PS-EPオーガー

残留

凝集

トナ

ー検

出頻

度(%

)

45%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

ApeosPortⅣ

シリーズ

ApeosPortⅤ

シリーズ

駆動

トル

ク相

対比

率(%

) 55%低減

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快適環境フラッグシップ 超静音技術

富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014 95

28%

29%

33%

10% ステープラー音など

メカ動作音など

駆動騒音など

その他

4. フィニッシャーの静音技術

4.1 概要

フィニッシャーからは、モーター駆動音、用

紙加工音、用紙捌き音など、多様な音が発生し

ている。フィニッシャーの騒音は、図15に示す

とおり、電動ホッチキスの動作時に発生する針

綴じ音(ステープラー音)や、メカ動作音(用

紙揃え音など)の割合が大きく、オフィスなど

特に静かな環境において改善要望があった。

騒音には、音源から直接耳に入る音(直接音)

と、音源の振動が躯体に伝わる音(個体伝播音)

がある。フィニッシャーは多くの部品で構成さ

れており振動伝播経路が複雑なため、個体伝播音

の発音現象を捉えづらく静音化が困難であった。

新たに開発したフィニッシャーでは、ステー

プラユニットの振動が装置の躯体を揺らして増

幅し、パネルから音として放射される現象を、

大規模モーダル解析を用いて解明し静音化した。

また、用紙を揃えるタンパの高速なメカ動作を

シミュレーション分析し静音化を図った。この

2つの事例を紹介する。

4.2 実稼働時の現象把握

ステープラーの動作と音と振動の実稼働デー

タの観察から発音メカニズムを予測した手順を

紹介する。

まず始めに、ステープラー実稼働時の騒音お

よび振動加速度を測定し、振動と騒音に相関が

あることを確認した。次に、ステープラーを柔

軟体で支持し個体伝播を断ち切った状態で周波

数分析し、個体伝播音の発生領域が30Hzから

1KHzであることを確認した。

フィニッシャー構成から、伝達経路を「ステー

プラー(入力)」⇒「取り付け台」⇒「ボックス」

⇒「フレーム」⇒「パネル(騒音を発生)」と仮

定し、この1KHz以下の周波数領域に着目し、

起振源側であるステープラー本体から加振実験

を実施し仮説を検証した(図16)。

経路①取りつけ台は、絶縁による影響把握を

実施したが、支持方法および取りつけ台に騒音

要因は見られなかった。経路②ボックス・フレー

ムは、インパクト加振による共振調査を実施し、

130Hz、200Hz近傍に共振を確認した。補強

による構造変更を施したところ共振が移動し、

評価点音も変化したことから、ステープラーは

ボックスとフレーム構造の共振および剛性の影

響を受けているとわかった(図17)。

経路③は、インパクト加振による共振調査を

実施し、130Hz、200Hz近傍に共振を確認し

た。評価点音と一致するピークがあるパネルを

制振させたときに周波数ピーク成分が変化する

ことを確認した(図18)。

以上から、フレームによりパネルが揺らされ、

音が発生する現象を確認できた。

図15 騒音内訳 Noise source

図17 経路①周波数分析 Frequency analysis of path 1

図18 経路③パネルインパクト加振 Shock vibration test of path 3

経路① 経路② 経路③

ステープラー 取りつけ台 ボックス フレーム パネル 発音

発音図16 個体伝播メカニズム

Sound transmission mechanism

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快適環境フラッグシップ 超静音技術

96 富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014

実稼働音

固有モード

ボックス フレーム パネル118Hz 上下 前開き一次 右パネル136Hz 下膜膜 前開き一次 右パネル175Hz 下面膜 前開き二次 左パネル228Hz 前後開き 前パネル327Hz つぶれ 左パネル503Hz つぶれ 前ねじれ 前パネル

モードの部位

4.3 大規模モーダル解析による発音現象

解明

フィニッシャー全体でのより詳細なモード抽

出を行うため、大規模モーダル解析を行った。

抽出したモードを図19、代表的なパネル発音

モードを図20に示す。

大規模モーダル解析の結果から、ステープラ

ユニットを支持する架台の揺れモードと、ポス

トの開くモードにより、パネルが揺らされてい

る現象を確認した。伝達経路および発音メカニ

ズムの仮定が正しいことを確認した。

ステープラユニットの個体伝播による発音メ

カニズムを図21に示す。

4.4 改善効果とまとめ

ステープラーの振動が、3つの経路で躯体を

伝播しパネルを揺らし発音するメカニズムを大

規模モーダル解析により解明した。その結果か

ら、ステープラー振動が伝播する3つの経路に

ついて以下の改善策を抽出した。

① ゴムマウントにより音源から取り付け台へ

の入力を低減する。

② フレーム構造高剛性化により、フレーム共

振による共振現象の増幅を防止する。

③ ローダンピングパネルを廃止・改善する。

新たに開発したフィニッシャーに改善策を導

入し、静音化を図った。その結果、静音化に加

えて、シャッター音のようなスッキリとした音

質に改善できた。

4.5 ラックピニオン機構の静音化

フィニッシャーでは、紙揃え機構(タンパ機

構)にラックピニオンを採用している。

タンパ機構の動作時に衝撃音が発生するが、非

線形成分(ガタつき要素)を持つことや、ごく

短時間(30ms)に発生する事象であることか

ら、現象の把握が難しく十分な静音化が困難で

あった。新たに開発したフィニッシャーでは、

ラックピニオンを用いたタンパ機構で発生する

衝撃音の発音メカニズムを解明し(図22)、メ

カ機構の挙動を再現可能なシミュレーションモ

デルを構築した(図23)。

まず、実験解析により部品の挙動が、①動作

立ち上げ、②連続動作、③停止の3つの工程を

経て、微小なメカ衝突運動を繰り返しているこ

とを解明した。実験解析とシミュレーションの

結果から、衝突音のレベルを決定するのは、重

心位置、速度、ガタの有無であることを突き止

め、設計ウィンドウ内で 適なパラメーターを

図19 固有モード一覧 List of unique vibration mode shapes

図20 136Hzモードシェイプ 136Hz mode shape

ステープラー 取りつけ台 ボックス フレーム パネル

図21 個体伝播音発音メカニズム Sound transmission mechanism

Page 9: Noise Reduction Technology—Our Flagship …...technology that has successfully reduced noise levels generated by the automatic document feeder, the printing unit, and the finisher

技術論文

快適環境フラッグシップ 超静音技術

富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014 97

導出し静音化を図った。

従来技術では困難だったラックピニオン機構

の現象把握を、実験解析とシミュレーションモ

デルを用いることで、実機を作る前に 適なパ

ラメーター設計を行うことが可能となった。

5. まとめ

以上の静音技術を、新商品のApeosPort-V

C3375+フィニッシャーC3モデルに導入す

ることで、稼働騒音を従来機に対して 大69%

低減でき、業界ダントツの圧倒的な静粛性を実

現できた。今後、富士ゼロックスは本技術群を

他の複合機・プリンターへ展開していく予定で

ある。また、装置の稼働音低減のみならず、用

紙切れなどの報知音や、自動原稿送り装置の開

閉などの操作音に対しても「快適静音」を追及

し、「RealGreen」を具現化していくことで、

お客様に快適なオフィス環境を提供していく。

6. 商標について

RealGreenは、富士ゼロックス株式会社の登

録商標です。

その他、掲載されている会社名、製品名は、

各社の登録商標または商標です。

筆者紹介

岡田 正幸 デバイス開発本部 デバイスシステムプラットフォーム開発部

DSI-1Gに所属

専門分野:静音/エアシステム設計

粂田 浩一 デバイス開発本部 デバイスシステムプラットフォーム開発部

DSI-1Gに所属

専門分野:静音設計

中島 由高 デバイス開発本部 次世代マーキングプラットフォーム開発部 3G

に所属

専門分野:現像技術

磯崎 直樹 モノ作り技術本部 部材技術開発部に所属

専門分野:成型技術

山崎 章 富士ゼロックスアドバンストテクノロジー株式会社に所属

専門分野:原稿搬送技術

図23 解析モデル Analysis model

図22 メカ衝突音発生メカニズム Mechanism of how mechanical percussive sound is made