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安藤建設技術研究所報 Vol.14 2008 85 1.はじめに 超高層集合住宅の構造形式として,建物平面の中 央付近に連層の立体壁を設け,建物の外周部を柱と 梁によるチューブ構造とし,立体壁に多くの地震力 を負担させる方法がある。この立体壁は建物の芯材 として軸力を負担すると共に,下層階では大きな曲 げ応力を負担する。そのため,多くの圧縮力を負担 する部分には横補強筋による拘束域を設け,圧縮靱 性を確保する必要がある。 拘束域を設けた立体壁の構造性能を確認する目的 で,文献[1]ではコ形断面の立体壁について,約1/8 の縮尺模型試験体を製作し,せん断力の加力方向を 0°,90°,45°と変化させた構造実験を実施している。 この実験ではコ形断面の曲げせん断応力時の構造性 能の把握を目的としていたため,せん断力の方向と 直交する方向の変形を油圧ジャッキで拘束しながら, 図心位置に軸力とせん断力を載荷し,ねじり変形を 拘束した時の構造性能を実験により明らかにしてい る。 このような立体壁は建物の平面が整形で,かつ建 物の重心位置と立体壁の剛心位置が一致しているこ とが望ましい。しかし,平面計画の自由度や立体壁 の配置によっては,立体壁にねじりモーメントが作 用することがある。また,立体壁の断面形状によっ キーワード:立体壁/超高層住宅/曲げ耐力/ねじり/非線形 FEM 解析 Nonlinear FEM Analysis of Core Wall Subject to Lateral Load and Torsional Moment 曲げモーメントとねじりモーメントを受ける立体壁の非線形FEM解析 超高層集合住宅を対象とした連層立体壁の構造性能を確認する目的で,立体壁をモデル化し た三次元非線形有限要素法解析を行った。この FEM 解析によって,既往の構造実験における試 験体の荷重変形関係,ひび割れ性状,および破壊性状を概ね再現できた。同じ解析モデルを使 用して,水平力と同時にねじりモーメントが作用する時の立体壁の構造性能を検証した。ねじ りモーメントが作用することで曲げ剛性と断面の曲げ耐力が低下することが確認された。また 立体壁の断面形状や配置を変えることで,ねじりモーメントによる曲げ耐力の低下を抑制でき る可能性が示された。 Abstract For the purpose of investigating the structural performance of the RC core wall for super high-rise RC housing, nonlinear FEM analysis was carried out. Past test results, namely, the nature of deformation and failure, were reproduced by FEM analysis. The structural performance of the RC core wall was verified using the same analysis model, when both bending moment and torsional moment act on the base of the wall. It became clear that both the bending strength and the stiffness decreased owing to torsional moment. To change the section and the layout of the core wall, the influence of torsional moment was reduced. 鈴木 英之* 西原 寛* by Hideyuki SUZUKI and Hiroshi NISHIHARA * 技術研究所構造研究室

Nonlinear FEM Analysis of Core Wall Subject to …Nonlinear FEM Analysis of Core Wall Subject to Lateral Load and Torsional Moment 曲げモーメントとねじりモーメントを受ける立体壁の非線形FEM解析

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安藤建設技術研究所報 Vol.14 2008

85

1.はじめに 超高層集合住宅の構造形式として,建物平面の中

央付近に連層の立体壁を設け,建物の外周部を柱と

梁によるチューブ構造とし,立体壁に多くの地震力

を負担させる方法がある。この立体壁は建物の芯材

として軸力を負担すると共に,下層階では大きな曲

げ応力を負担する。そのため,多くの圧縮力を負担

する部分には横補強筋による拘束域を設け,圧縮靱

性を確保する必要がある。 拘束域を設けた立体壁の構造性能を確認する目的

で,文献[1]ではコ形断面の立体壁について,約1/8の縮尺模型試験体を製作し,せん断力の加力方向を

0°,90°,45°と変化させた構造実験を実施している。 この実験ではコ形断面の曲げせん断応力時の構造性

能の把握を目的としていたため,せん断力の方向と

直交する方向の変形を油圧ジャッキで拘束しながら,

図心位置に軸力とせん断力を載荷し,ねじり変形を

拘束した時の構造性能を実験により明らかにしてい

る。 このような立体壁は建物の平面が整形で,かつ建

物の重心位置と立体壁の剛心位置が一致しているこ

とが望ましい。しかし,平面計画の自由度や立体壁

の配置によっては,立体壁にねじりモーメントが作

用することがある。また,立体壁の断面形状によっ

キーワード:立体壁/超高層住宅/曲げ耐力/ねじり/非線形 FEM 解析

Nonlinear FEM Analysis of Core Wall Subject to Lateral Load and Torsional Moment

曲げモーメントとねじりモーメントを受ける立体壁の非線形FEM解析

要 旨 超高層集合住宅を対象とした連層立体壁の構造性能を確認する目的で,立体壁をモデル化し

た三次元非線形有限要素法解析を行った。この FEM 解析によって,既往の構造実験における試

験体の荷重変形関係,ひび割れ性状,および破壊性状を概ね再現できた。同じ解析モデルを使

用して,水平力と同時にねじりモーメントが作用する時の立体壁の構造性能を検証した。ねじ

りモーメントが作用することで曲げ剛性と断面の曲げ耐力が低下することが確認された。また

立体壁の断面形状や配置を変えることで,ねじりモーメントによる曲げ耐力の低下を抑制でき

る可能性が示された。

Abstract For the purpose of investigating the structural performance of the RC core wall for super high-rise RC

housing, nonlinear FEM analysis was carried out. Past test results, namely, the nature of deformation and failure, were reproduced by FEM analysis. The structural performance of the RC core wall was verified using the same analysis model, when both bending moment and torsional moment act on the base of the wall. It

became clear that both the bending strength and the stiffness decreased owing to torsional moment. To change the section and the layout of the core wall, the influence of torsional moment was reduced.

鈴木 英之* 西原 寛*

by Hideyuki SUZUKI and Hiroshi NISHIHARA

* 技術研究所構造研究室

安藤建設技術研究所報 Vol.14 2008

86

ては,その断面の図心位置に外力が作用しても,ね

じれが生じることがある。例えば,コ形断面の立体

壁が単独で設けられた場合は,強軸方向加力時の図

心位置とせん断中心の位置が一致していないため,

図心を通る線上に加力すると,弾性状態においても

ねじり変形が生じる。

一般に部材にねじりモーメントが生じると曲げ耐

力が低下する。本報では,まず文献[1]の実験結果

を再現する目的でコ形断面の立体耐震壁の3次元非

線形有限要素法解析を行った。その結果を踏まえて,

立体耐震壁に曲げせん断力と同時にねじりモーメン

トを作用させた時の,ねじりモーメントと曲げ耐力

の相関関係を求めることを目的とした。

2.試験体モデルのFEM解析

2.1 解析方法

解析モデルの妥当性を検証する目的で,文献[1]に示した3試験体をモデル化した非線形FEM解析を

行った。解析ソフトはATENA3Dを使用した。表1に

解析ケースの一覧,図1に解析モデルの形状図を示

す。FCW-0,FCW-45,FCW-90はそれぞれ文献[1]の試験体CW-0,CW-45,CW-90に対応している。各

解析ケースとも断面の形状,使用材料の特性は同じ

であり,曲げせん断力の加力方向を3種類とした。

ここで加力方向の角度は,コ形断面の長辺方向(加

力方向の壁が1枚となる方向)を0°,短辺方向(加

力方向の壁が2枚となる方向)を90°とし,その中

間の方向を45°とした。 FCW-0は壁全断面の軸方向応力度が0.07cσBの一

定軸力,FCW-45とFCW-90は軸方向応力度が0~

0.25 cσBの範囲で変動軸力とした。 解析ステップは変動軸力の範囲では図2の軸力-

水平力相関関係に基づき,軸力とせん断力の荷重増

表 1 構造実験検証用の解析ケース一覧

解析ケース FCW-0 FCW-45 FCW-90水平力方向 0° 45° 90°

軸方向応力度 0.07cσB 0~0.25cσB 0~0.25cσB

文献[1]対応試験体 CW-0 CW-45 CW-90

-1000

-800

-600

-400

-200

0

200

400

600

800

1000

-10000 -5000 0 5000 10000

ε(μ)

σ

主筋D13壁縦筋D10壁横筋D6拘束筋D10

(N/mm2)

0

5

10

15

20

0 0.01 0.02 0.03

δslip(mm)

τbond (N/mm2)

a.コンクリートモデル b.鉄筋モデル c.鉄筋付着モデル

図 3 解析に使用した材料モデル

図 2 軸力-水平力相関関係

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

-500 -400 -300 -200 -100 0 100 200 300 400 500

N=0.07Fc・Aw

N=0.25Fc・Aw

N=15P+0.07Fc・Aw

N=0

軸力N(kN)

水平力P(kN)

FCW45,FCW90

FCW0

a.FCW-0,FCW-90 b.FCW-45

図 1 構造実験検証用の解析モデル形状

FCW-90 FCW-0 FCW-45

1300 1800

740 930

N=0.07・cσB・Aw(FCW-0)

図心位置

P1 水平力(FCW-45)

1500 1800

100

N=(0~0.25)・cσB・Aw(FCW-90) N=(0~0.25)・cσB・Aw(FCW-45)

P2水平力(FCW-0)

P1 P2

P1

水平力(FCW-90)

P2

P3

P4

図心位置

740

B

B’A A’ C C’

D

D’

A-A’矢視図 B-B’矢視図 C-C’矢視図 D-D’矢視図

+-

+-

+

-

+

-

+-

+ -

+-

曲げモーメントとねじりモーメントを受ける立体壁の非線形 FEM 解析

87

分とし,定軸力の範囲では正負ともに上部スタブへ

の一方向の変位増分とした。せん断力の方向と直交

する方向への変形が生じないように,上部スタブに

は面外変形の拘束を設けた。下部スタブは完全固定

とした。 図3に使用したコンクリートモデルと鉄筋モデル

のσ-ε関係,および鉄筋とコンクリート間の付着

モデルを示す。コンクリートのσ-ε関係は横補強

筋による拘束域と非拘束域で変化させた。鉄筋のσ

-ε関係はバイリニア形とした。主筋と壁の縦筋は

2次元線要素とし,鉄筋とコンクリート間の付着は

CEB-FIPモデルを使用した。横補強筋はsmearedモ

デルとした。

2.2 解析結果

図4に各解析ケースのせん断力-層間変形角関係 を,それに対応する実験結果と共に示す。ここで,

層間変形角はスタブ間の相対変位を試験区間長

1850mmで除した値とした。図4によると,45°載

荷の負加力以外は解析結果の方が,若干剛性が高か

った。また,最大耐力は90°載荷の正加力を除いて

解析値の方が実験値を上回る傾向があった。実験値

と解析値では多少剛性や耐力が異なるものの,実験

結果の包絡線と解析結果の傾向は概ね一致していた。

-1000

-800

-600

-400

-200

0

200

400

600

800

1000

-30 -20 -10 0 10 20 30 40

R(x1/1000rad.)

Q(kN)

CW-0実験結果

FCW-0解析結果

-1000

-800

-600

-400

-200

0

200

400

600

800

1000

-30 -20 -10 0 10 20 30 40

R(1/1000rad)

Q(kN)

CW-90実験値

FCW-90解析結果

-1000

-800

-600

-400

-200

0

200

400

600

800

1000

-30 -20 -10 0 10 20 30 40

R(1/1000rad)

Q(kN)

CW-45実験結果FCW-45解析結果

a.0 度加力 b.45 度加力 c.90 度加力 図 4 せん断力-スタブ間変形角関係

表面 裏面 正加力(軸力比 0.25) 負加力(軸力比 0)

a.FCW-0(正加力) b.FCW-45

N=0.07・cσB・Aw N=025・cσB・Aw

(正加力) N=0(負加力)

正加力(軸力比 0.25) 負加力(軸力比 0) c.FCW-90

図 5 最大耐力時のひび割れ図と最小主応力度

単位(N/mm2) N=0(負加力) N=025・cσB・Aw(正加力)

安藤建設技術研究所報 Vol.14 2008

88

図5に最大耐力時のひび割れ状況を示す。なお,

解析では回転ひび割れモデルを使用しているが,こ

こでは各要素で最初に発生したひび割れを図示して

いる。解析結果を見ると0°載荷と45°載荷は曲げ

降伏直後のせん断破壊,90°載荷は曲げ破壊である

と推測され,解析による破壊の判定と実験時の破壊

形式は概ね一致していた。 同図中に最大耐力時における最小主応力分布のコ

ンター図を示す。拘束域の範囲で圧縮応力が大きく

なっており,拘束域の設定が良好であったことがわ

かる。

図6に0°加力時の面外方向の油圧ジャッキに取り

付けたロードセルで計測された面外拘束力と,解析

から得られた拘束節点における反力の比較を示す。

ひび割れが発生する前は,実験時の面外拘束力と

FEMによる解析結果とほぼ一致していた。ひび割

れ発生後は,解析値の拘束反力の方が小さくなった

が,大略の傾向は類似していた。

3.ねじりモーメントが作用する立体壁の

FEM解析

3.1 解析方法

2章に示した解析結果より,今回使用した解析ソ

フトと解析モデルによって,実験結果を概ね再現で

きると考えられる。この解析モデルを用いて,立体

壁における,ねじりモーメントと曲げ耐力の相関関

係を検証する。 2章の解析モデルでは,加力方向と直交する方向

の変形を拘束していたが,ここでは曲げモーメント

とねじりモーメントが同時に作用する条件下での立

体壁の挙動を調べる。 表2に解析ケースの一覧,図7に解析モデルの形状

図 6 面外方向拘束反力の比較 -400

-300

-200

-100

0

100

200

300

400

0 10 20

R(x1/1000rad.)

拘束反力P(kN)

実験結果(Pc1)実験結果(Pc2)解析結果

表 2 コ形断面壁の解析ケース一覧

解析ケース 断面形状 加力方向 軸力比

C0-T-00 0

C0-T-07 0.07

C0-T-25 0.25

C90-T-00 0

C90-T-07 0.07

C90-T-25 0.25

0度

90度

コ形

コ形

a.C0-T b.C90-T 図 8 各解析ケースに作用させた

水平力モーメントとねじりモーメントの比率

0

0.5

1

-1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5水平力モーメント

ねじりモーメント

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

0 0.5 1

水平力

モーメント

ねじ

りモ

ーメ

ント

A

C

B

a.hM:tM=1:0 b.hM:tM=0:1 c.hM:tM=0.7:0.3

図 9 水平力モーメントとねじりモーメントの載荷例

A-A’矢視図 B-B’矢視図 C-C’矢視図 D-D’矢視図

a.C0-T(0 度) b.C90-T(90 度) 図 7 コ形断面解析モデルの形状図

740

1600 1600

930100

1800 1300

+P2

図心位置

-P1

-P2

740

100 図心位置+

P2P1

1300 1800

1600 1600-

軸力比0,0.0,0.25P2

740

軸力比0,0.0,0.25

A A’ C C’

B

B’

D

D’

t M=0

1. 0P

1. 0P

2.0P

hM=2PH

-1. 0P

1. 0P

0P

hM=0

0. 4P

1. 0P

1.4 P

hM=1. 4PH

LtM=2P t M=0.6PL

曲げモーメントとねじりモーメントを受ける立体壁の非線形 FEM 解析

89

図を示す。壁の断面形状は2章に示したコ形断面で

あり,配筋と材料定数は同じとした。上部のスタブ

に,加力方向に対して両側に載荷点を設け,水平力

と偶力を作用させ,立体壁の脚部に曲げモーメント

とねじりモーメントを作用させた。せん断力の方向

は加力方向の壁面が1枚となる0°方向と,それと直

交する90°方向の2種類とした。壁部分に対する軸

力比は0,0.07,0.25の3種類とした。 図8に各解析ケースに与えた水平力モーメントと

ねじりモーメントの関係,図9に水平力とねじりモ

ーメントの載荷例を示す。図8中の各点はそれぞれ

の解析ケースにおける最大水平力モーメントと最大

ねじりモーメントで基準化している。つまり,図8

中のA点は水平力モーメントが1,ねじりモーメン

トが0なので図9aの状態であり,図8中のB点は水平

力モーメントが0,ねじりモーメントが1なので,図

9bの状態となる。同様に図8中のC点は水平力モー

メントが0.7,ねじりモーメントが0.3であり,図9c

の状態となる。 試験区間の上下にスタブを設け,コ形断面の図心

位置に軸力を作用させ,水平力は図心から等距離の

2カ所で作用させた。 解析ステップは水平力による曲げモーメントとね

じりモーメントの比率を保つために,節点への荷重

増分とし,一方向単調載荷とした。

3.2 解析結果

a. 曲げモーメント-層間変形角関係 図10に一例としてC0-T-07の水平力による曲げモ

ーメント(hM)-層間変形角(R)関係を示す。この解

析ケースの載荷方向は,0度方向であり,弾性状態

においてせん断中心と水平力の中心位置が一致して

いないため,ねじりモーメントが作用していない場

合でも初期からねじり変形が発生していた。

hM:tM tMθ

a.順ねじり方向 b.逆ねじり方向

図 11 ねじりモーメント(tM)-回転角(θ)関係

0

100

200

300

400

500

600

700

0 50 100 150 200

θ(1/1000rad.)

tM(kN・m) 0:1

0.9:0.1

0.8:0.2

0.7:0.3

0.6:0.4

0.5:0.5↓↑0.35:0.65

0.2:0.8

C0-T-07

-700

-600

-500

-400

-300

-200

-100

0

-200 -150 -100 -50 0 50

θ(1/1000rad.)

tM(kN・m)

0.9:-0.1

0.8:-0.2

0.7:-0.3

0.6:-0.4

0.5:-0.50.35:-0.65

0:-10.2:-0.8

C0-T-07

hM:tM

a.順ねじり方向 b.逆ねじり方向

図 10 曲げモーメント(hM)-層間変形角(R)関係

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

0 10 20 30 40

R(1/1000rad.)

hM(kN・m)

1:0

0.9:0.1

0.8:0.2

0.7:0.3

0.6:0.4

0.5:0.5

0.35:0.65

0.2:0.8

C0-T-07

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

-30 -20 -10 0 10 20 30

R(1/1000rad.)

hM(kN・m)

1:0

0.9:-0.10.8:-0.2

0.7:-0.3

0.6:-0.4

0.5:-0.5

0.35:-0.65

0.2:-0.8

C0-T-07hM:tM

hM:tM

安藤建設技術研究所報 Vol.14 2008

90

同図aは図心位置に水平力を作用させた時にねじ

り回転が生じる方向(以下,順ねじり方向)にねじ

りモーメントを作用させた場合,同図bはその逆方

向(以下,逆ねじり方向)にねじりモーメントを作

用させながら水平力を増分させた場合である。まず,

順方向にねじりモーメントを作用させた場合は,曲

げひび割れやせん断ひび割れの発生によって,部材

の水平剛性が低下し,主筋と壁筋の降伏,およびコ

ンクリートの圧縮破壊によって,剛性が大きく低下

し,荷重が横ばいになった。ねじりモーメントの比

率が大きくなるにつれ曲げ剛性が低くなり,曲げ耐

力も低下した。

一方,逆方向にねじりモーメントを作用させた場

合は,この解析ケースではhM:tMが0.7:-0.3まで

は水平剛性が高くなり,それ以上にねじりモーメン

トの比率が大きくなると水平力が作用する方向と逆

方向に変形するようになった。また,hM: tMが

0.9:-0.1,および0.8:-0.2の時の曲げ耐力は,ねじ

りモーメントが零の時よりも大きくなった。

b. ねじりモーメント-回転角関係 図11にねじりモーメント-回転角関係の一例を示

す。同図aは順方向にねじりモーメントを作用させ

た場合であり,ねじりモーメントの比率が大きい程,

ねじり耐力および剛性が高くなった。一方,同図b

は逆方向にねじりモーメントを作用させた場合であ

る。この場合は,順方向と比較してねじり剛性の差

が少なく,特にhM:tM=0.6:-0.4よりもねじりモー

メントの比率が大きい場合は剛性や耐力の差がほと

んど無かった。

c. 水平力モーメント-ねじりモーメント相関関係 図12に部材が降伏した時の,水平力による壁脚部

の曲げモーメントとねじりモーメントの相関関係を

示す。ここで,部材の降伏点は図10に示した曲げモ

ーメント-層間変形角関係において剛性が大きく低

下する直前の点とした。この時点で,いずれの解析

ケースにおいても主筋の降伏は確認されている。 軸力比0.25までの範囲では正加力,負加力共に軸

力比が大きいほど曲げ耐力,ねじり耐力共に大きく

なっていた。同図aは0度加力のC0-Tである。ここ

で,縦軸の正方向は順方向ねじり,負方向は逆方向

ねじりが作用している。前述の通り,C0-Tでは図

心位置で水平力を載荷しているため,ねじりモーメ

ントが零の場合でも,ねじり回転が生じる。 同図bは90度加力のC90-Tであり,短辺の2枚壁が

引張となる方向が正加力である。

図 13 にねじりモーメントが零の時の水平力モー

メントを 1 とした基準化曲げモーメントとねじりモ

ーメント比率 tM/(hM+tM)関係を示す。

C0-Tは,順方向ねじりモーメントが作用する正

方向ではねじりモーメントによって曲げ耐力が急激

に低下していた。一方,負方向では,逆方向ねじり

モーメントが若干作用した時に,曲げモーメントが

最大となっており,それ以上にねじりモーメントが

大きくなると曲げ耐力は急激に低下していた。 C90-Tは,ねじりモーメントの増加と共に曲げ耐

力が低下したが,ねじりモーメントが小さい領域で

0

100

200

300

400

500

600

700

800

-3000 -2000 -1000 0 1000 2000 3000

hM(kN・m)

tM(kN・m)

η=0

η=0.07

η=0.25

-1000

-800

-600

-400

-200

0

200

400

600

800

0 1000 2000 3000 4000

η=0

η=0.07

η=0.25

tM(kN・m)

hM(kN・m)

a.C0-T(0 度加力) b.C90-T(90 度加力)

図 12 水平力モーメント-ねじりモーメント相関関係

+hM/H

-hM/H

+tM

曲げモーメントとねじりモーメントを受ける立体壁の非線形 FEM 解析

91

は,いずれも軸力比が大きい方が曲げ耐力低下の割

合が小さかった。また,正加力と負加力で大きな差

異は認められなかった。 図14に曲げ耐力が90%まで低下した時のねじりモ

ーメントの比率を示す。 文献[2]では,ねじりモーメントが純ねじり耐力

の30~50%以下なら立体壁の水平方向曲げ耐力はほ

とんど低下しないとしているが,今回の解析による

と,コ形断面の0度方向に載荷した場合は,ねじり

モーメントの比率が3~5%程度作用しただけで曲げ

耐力が90%まで低下していた。

4.断面形状および組み合わせの影響

コ形断面の立体壁は二つ組み合わせて配置される

ことがある。また,立体壁の断面形状はコ形以外も

考えられる。ここでは,コ形断面を向かい合わせた

形状およびH形断面の立体壁について,前章と同様

にねじりモーメントと同時に水平力を作用させ,ね

じりモーメントと曲げ耐力の相関関係を検証する。

4.1 解析方法

表3に解析ケース,図15に解析モデルの形状図を

示す。2C-T-07はコ形断面の立体壁の間に間隔を設

け,向かい合わせたケースであり,HW-T-07はフラ

ンジ長とウェブ長が等しいH形断面である。軸力比

はいずれも0.07とし,使用した材料定数は前章と同

様である。作用させた水平力モーメントとねじりモ

ーメントの比率の関係は断面の対称性を考え,図16

に示すように一方向のみとした。

4.2 解析結果

図17に部材が降伏した時の,水平力による壁脚部

の曲げモーメントとねじりモーメントの相関関係を

示す。ここでは,XY軸共に最大モーメントを1とし

基準化している。また,図18にねじりモーメントが

零の時の水平力モーメントを1とした基準化曲げモ

ーメントとねじりモーメント比率関係を示す。これ

によると,コ形断面を組み合わせることで,ねじり

モーメントが小さい領域では,ねじりモーメントに

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

η=0η=0.07

η=0.25

C0-T 順方向ねじり

基準

化曲

げモ

ーメ

ント

tM/(tM+hM)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

η=0η=0.07

η=0.25

C0-T 逆方向ねじり

tM/(tM+hM)

基準

化曲

げモ

ーメ

ント

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

η=0

η=0.07

η=0.25

C90-T 負加力

tM/(tM+hM)

基準

化曲

げモ

ーメ

ント

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

η=0

η=0.07

η=0.25

C90-T 正加力

tM/(tM+hM)

基準

化曲

げモ

ーメ

ント

a.C0-T(0 度加力) b.C90-T(90 度加力) 図 13 基準化曲げモーメント-ねじりモーメント比率関係

a.C0-T b.C90-T

図 14 曲げ耐力 90%時のねじりモーメント比率

0

5

10

15

20

25

30

0 0.1 0.2 0.3

負加力

正加力

軸力比η

tM/(tM+hM)

(%)

0

5

10

15

20

25

30

0 0.1 0.2 0.3

順方向ねじり

逆方向ねじり

軸力比η

tM/(tM+hM)

(%)

安藤建設技術研究所報 Vol.14 2008

92

よる曲げ耐力の低下を抑制できることがわかる。ま

た,H形断面に弱軸方向へ曲げモーメントを作用さ

せた場合は,さらにねじりモーメントによる曲げ耐

力の低下を抑制できることがわかる。曲げ耐力が

90%まで低下した時のねじりモーメント比率は,コ

形断面を組み合わせた2C-T-07が20%,H形弱軸方向

が30%となった。

5.まとめ

1)非線形三次元FEM解析によって,立体壁の構造実

験の結果を再現することが可能であった。 2)試験体と同じ解析モデルを使用して,ねじりモー

メントと曲げ耐力相関関係を求めた。コ形断面の

立体壁は,その加力方向によっては,ねじりモー

メントによる曲げ耐力の低下が大きいことが明ら

かとなった。 3)立体壁の形状および配置によって,曲げ耐力に及

ぼすねじりモーメントの影響は変化する。よって,

高層建物に連層の立体壁を設ける場合は,その配

置や組み合わせを考慮する必要がある。

参考文献 [1]松本智夫,西原寛,藤本利昭,根本恒:コア壁

を用いたRC超高層住宅の開発,安藤建設技術研

究所報,Vol.13,pp.55-62,2007.10 [2]鈴木紀雄,丸田誠,宮下丘,高橋元美:曲げと

ねじりを同時に受ける立体壁のパラメトリック解

析,コンクリート工学年次論文集,Vol.23,No.3,pp.451-456,2001.6

0

0.5

1

0 0.5 1

水平力

モーメント

ねじりモーメント

348

740

18003000

740348

100

+P2

-P1

1600 1600

軸力比0.07

+P2

740740 930

1800

100

930

100 100

9301035

3000

1035

+P2

-P1

1600 1600

軸力比0.07

+P2

100

解析ケース 断面形状 加力方向 軸力比

2C-T-07 2xコ形 0度 0.07

HW-T-07 H形 弱軸 0.07

表 3 解析ケース一覧

図 16 水平力モーメントとねじり

モーメントの比率

a.2C-T-07 b.HW-T-07

図 15 解析モデルの形状図

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

hM0

tM0

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

tM/(tM+hM)

基準

化曲

げモ

ーメ

ント 90%

0.2 0.3

図 18 基準化曲げモーメント

-ねじりモーメント比率関係

HW-T-07

2C-T-07

図 17 基準化水平力モーメント

-基準化ねじりモーメント相関関係

HW-T-07

2C-T-07