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日本における循環型農業の産業化 誌名 誌名 農業および園芸 = Agriculture and horticulture ISSN ISSN 03695247 巻/号 巻/号 878 掲載ページ 掲載ページ p. 801-812 発行年月 発行年月 2012年8月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

日本における循環型農業の産業化 · 日本における循環型農業の産業化 誌名 農業および園芸 = Agriculture and horticulture ISSN 03695247 巻/号 878

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日本における循環型農業の産業化

誌名誌名 農業および園芸 = Agriculture and horticulture

ISSNISSN 03695247

巻/号巻/号 878

掲載ページ掲載ページ p. 801-812

発行年月発行年月 2012年8月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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801

日本における舘環型農業の産業化

環境経済学の視点から

〔キーワード):循環型農業, 3R原則 (Reduce,Reuse,

Recycle), 3S循環 (Small,Short,

Slow) ,循環条件(物質条件,技術

条件,資金条件),循環システム(肥

料と飼料の牽引車役)

概要

IJ、論は環境経済学の視点から,循環製農業の原

点・理論と夜業化について議論を展開し,化学日巴料

と農薬の大量使用による耕地土壌の疲弊(環境負

荷)を軽減するために,循環型農業の産業化を障る

必要があると論じる.

}の循環型農業の産業化は日本で展開できると

提案する.民本農業における高齢{ヒ,過疎化と

の土地離れ問題は農業における産業権造の時代連

れと政府が立てる農業政策の額向に開題があり,そ

れを改革するには循環型農業の農業化が必要であ

る.t旦い手は l社の政策会社である.その会社によ

る産業構造の再編成と大規模化経営によって達成

できる. 3R源問 1) と 3S循環浅 2)のもとで家高飼

育斎藤業に銅料供給を,野菜と果樹栽培にバイオ堆

肥を提供するシステムを作り出す.このシステムを

支えるのは全国に散在している原料の自給自足供

(物質条件)とバイオ技術(技術条件)である.

このバイオ技能を代表する現代農業技術と原材

料供給は悶本関内で 100%確保できる.要点はこの

2つの条件を生かした資金の運用(既存の補勃金脱

皮を改革)に合理化に取り組む政策会社の出現であ

る.この政策会社のネ期出現を促すために,中国江

蘇省蘇州市で行われている循環型農業の実践一生

態農業安紹介する.中国流の「政府搭台企業唱戯j

という f舞台Jをつくって念業に演技をさせるフ

レームワークを日本ではより完警なものが創出で

き,競争力のある臼本農業の生まれ変わりが循環型

農業の産業化にかかり,おヌドにおける f新農業革命J

となる.

~NPO 法人民中交綴開発協会 (WangYu)

1.環境経済学からみた循環型農業

H.循環型農業の原点

循環型農業は,農水省の定義によれば f農業のも

つ物質循環機能を生かし, との調和などに留

しつつ,土づくり等を通じて化学肥料,農薬の使

用等による環境負荷の軽減に配慮、した持続的な農

注めという.これはこれまでイヒ学肥料や農薬な

どを使いすぎ¥耕地に連作障害と

をもたらして,農業が持続できなくなったことへの

ろう.

循環型農業は現代農業技術をもって昔ながらの

農業へ箆帰するともいえよう.背の農業は化学把料

のない時代で,肥料として草,木の芽,E疋,

菜種粕,大主主粕, ,こしん,石炭などを潟いた.すな

わち,肥料の原材料は周辺で諦遼できるものであり,

その土地の事情に請したもの,あるものと合うもの

を採用することである.コストもあまりかからなく

て済む.このような原材料を使って肥料にして,そ

の肥料を耕地に撒いて,作物が育つ.毎年間じ作業

を繰り返し,土地に大きな障害は起こらなかった.

この背の農業を現代詩で解釈すると, 3R原貝せと

3S循環にあたる.3Rとは, Reduce, Reuse, Recycle

のことである.Reduceは投入する原料を削減し,使

えるものならできるだ、け{安う.Recycleできるもの

なら Recycleし,もう一度使えるものなら得手IJffl

(Reuse)する.この際にある程度の加工を加える

場合が多い.たとえば,家禽家奮の糞尿や人棄など

はそれに当たる.バイオ処理を経て資源、(養分とエ

ネルギー),こ戻すーそれを草,わら,食べ残しなど

に混ぜ合わせて堆肥化する.野菜や染物の栽培に使

われる.化学肥料を代替する.この 1つのサイクル

で,いらないものを廃棄せず,使い道を考えたこと

で全体の投入量の減少を達成する.

3S循環はこうである. Small, Short, Slow

の頭文学をとっておと略している.麗楽物の発生

0369-5247/10/'i500/1論文/JCopy

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802 j繋業およびi議法 第 87老会 第8号 (2012年)

抑制 (Reduce)によって循環最を小さくすることは

Small循環である.この Small循環のもとで,足り

ない原材料の調達はできるだけ地域内で行い,調達

に伴う空調的移動距離を短縮することは Short循環

になる また,循環に伴う形態変化の降一素材の再

利用(わら,フスマ,オカラなど)や,街単な処理

による再使用(家禽家遂の糞尿や人糞などのバイオ

加工処理)が,エネルギー節約になり, Slow循環

である.この 3S循環は廃棄物(原材料になるもの)

と「走りないものjの調達の際の空間移動の旅と形

態変化の旅をできるだけ少なく,短くすることで旅

のコスト(1外部コスト J) を削減することができ,

自分だけでなく,社会の節約(長い旅による交通渋

滞の可能性,道路の寿命){こもつながり,環境調和

型・循環摂社会づくりに貢献できる.

1-2 循環型農業の理論

循環型農業の理論化は200年前にドイツ

テーア (AlbrechtDaniel Thaer‘;1752年5月 14S-1828

年 2Jl 28β) i!: 4) によって舎かれた f合理的農業の

原理Jにその控史が辿ることができる.マルサス

(Thomas Robert Malthus ; 1766 年 2 月 14 日 ~1834

年 12月 23日)とほぼ問時期に異なる分野で活躍し

ていた農学者である.

マルサスの f人口論jの約 10年後合理的農業

の原王型u(全 4 巻)が 1809~1812 年にかけて刊行さ

れた.その当時,イギリスでは農業が先進的に展開

していた.テーアがこれを絶賛し, rイギリス

入門j を書いた.イギリスの農業を学び, ドイツの

状況を調べ, ドイツ農業の向かうべき方向を f合深

的農業の原理jにまとめた.これは近代農学の方向

であると示唆した.テーアによれば,合理とは「計

熟考, ~裂性,本質, 言十菌j である.

当時マノレサスは「幾何百及数約lこ増加する人口と算

数級数的に増加する食糧の差により人口過剰,すな

わち貧困が発生するjという悲観的な論調を出して

ヨーロッパに衝繋を与えた.

その一方,テーアは約 300haの農場を購入して実

践する.横物の栄養は Humus(腐植)であると証明

し,腐棋を地力の目安に輪作や,有機物の施用

施把)の原理を組み立てるだけではなく,一

穀草式→輪栽式(ノーフォーク式)の輪作(農法)

の発展段階を明らかにする.貧悶恐慌論のなかで輪

栽式が地力再生産,生産力を飛躍的に高めることが

できると証明し人口論j の悲観を払拭すること

に役立てた • 1奨学を科学として体系化した.後に f農

学の父j と呼ばれるようになった.

その後,テーアの弟子チューネン(JohannHeinrich

von Thunen, 1783年 6Jl 24符-1850年 9月 22日)

浅 5)は,数学的に厳密な方法で限界生産力環論の基

縫を開発し,農地モデ、ノレを作り出した. 1つの丹形

のモデルである.中央は都市,剖りは酪農と

業,それぞれ黒点と白点告とつける.その外は林業と

である.そして穀作と畑作農業は

f黄色j のゾーンで,牧畜は f紅色j のエリアであ

る.この色付けでや央と周辺,各業穏の重要度)1慎で

円形のモデルが形成する.丹外にいくと採算['I~主に合

わない農業原野になる.これを rlつの土地の手Ijffl

法Jとする.これによると,市場への輸送費と,農

民が支払いうる地代との謂数が決められる.チュー

ネンのいう地代は資源の空間的変化や位置によっ

て生み出された経済的地代である.それは「生産の

限界で得られる物の上に得られる物j である.

この限界生産力現論とテーアの f合潔的農業の原

理j をあわせてみると「循環型農業jの理論になる

であろう.

200年前にマノレサスの「人口論j が指摘した貧困

と農業恐器論は, 200年以後の今も続いている.一

方,テーアとチューネンの f彼環型農業jの理論は

200年の鴎,とくに戦後の農業高度発展期において

は忘れられてしまったか,軽視された.

人口の増加に追い付くように化学肥料の

が行われたので、ある.

この化学杷料の発見者はテ…アとチューネンと

同時代のドイツ人で 2人と名を並べるリーピッヒ

(Justus Freiherr von Liebig ; 1803年 5月 12お-1873

4 Jl 18臼)注 6)である. リーどツヒは 1837年以

後応用化学に研究分野を置き始め,成酸の研究と

機化合物の元素分析の改良を行った.1840年には植

物の成長に対する腐葉土の重要性を否定し(

化学の農業および生顔学への応fflJ),1841年には土

の中のカリウムやリンが植物の成長に必須である

ことを明らかにしたリーピッヒの最少律j を形

成したのである.すなわち,植物の生育に関する

素・リン酸・カリウムの三重喜素説を析出し,化学sE

した理論を創出した.後に「農

芸化学の父」とも称される.

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三五:日本における綴環型農業の康業化 803

この理論に基づき,化学肥料を大量生産して大量

使用した結果,先進国では,需要を超過した穀物の

生産が行われ,土地の疲弊(連作障害と硝綾態窒素

の過剰)と環境持染がもたらされた.開発途上国に

おいても陪じ現象が起きている.マノレサス f人口論j

の恐れが依然として影響が残っているかのように,

農耕地土壌に対する f搾取と略奪的なj資本主義の

やり方(マルクスの「資本論J) の後遺症がもっと

大きい.

この後遺症は農耕地土壌の疲弊と環境持染であ

る.循環型農業の提起はその後遺症を軽減し,無く

す呼びかけである.新しい概念ではなく,

しいだけで,人類自らが犯した f過ちj に対する反

省・是正の表れである.もともとテーアとチューネ

ンの理論に基づくならば,農業は持続可能なはずで

あったが,リーピツヒの f最少律j に対する「過来日

使熊」の末,持続不可能な農業になってしまった.

この反省・是正はテーアとチューネンの理論を

とし,リーピッヒの理論を「補j とする位農づけに

つながると考えられる.

1-3.環境経済学からみた徳環型農業

環境経済学は, 1960年代に入ってから経済成長が

もたらした環境汚染問題に対応し,解決可能な方法

を探る学問である.環境経済学においては,環境問

題を外部不経済の一穏ととらえ,その内部化を図る

ことを基本とし,その手段として経済的手法を活用

する.たとえば,農業分野においては,

排出による環境汚染(空気,水質など)在考えると,

この汚染物質に限界環境被害額と同額の金を与え

を処理してi倒巴の原料にすることで環境被

の内部化をはかることは補助金制度であ

る.この補助金制震は経済的手法である.

環境経済学は経済学の研究する範期を拡大した

学問ともいえる.経済学の「外部性Jを内部化し,

その f不備j を補う形を取っている.

たとえば,周知のように 20世紀に入ってからの

ピグー・ケインズ論争は有名である.ケインズの有

効需要論は, 1929年の大恐慌に苦しむアメリカの

/レーズベルト大統領によるニューディール政策の

強力な後ろ盾となった.それがあったかゆえに,ヒ。

グーの f厚生経済学J,ピグー税・補助金などの論

説は忘れられ,軽視・無視されたのである.

しかし, 1960年代に入って高箆経済成長によって

もたらされた産業公答→病気→賠償問題が深刻化

してから,やっとピグーが再発見・再認識されたの

である.テーアとチューネンと同じ遭遇ではなかっ

たか.

その時代の農業では, リーピッヒの説いた

素・リン鍛・カリウムJは農業生産拡大の動力となっ

て化学目肥料の大量生産と大量使用をもたらし,牽引

となった.また,世界はマノレサスの「人口論J{こ

見られた戦争時代を経て,戦争の遺物である毒ガス

を応用して農薬が作られ,化学肥料とともに戦後各

国で農業高度成長を迎える武器となった.

この農業高度成長の副産物である農耕地土壌の

疲弊(環境汚染の lつ)は外部不経済をもたらして

きた.経済学の陪わない分野で、あった.これを経済

学の中に取り入れようとした結果,環境経済学など

が現れるようになった.

そのアプローチは化学肥料,農薬の使用等による

環境負荷の軽減を取り組む内部化である.1960年代

初の潔境汚染が人類に f自然の価値jが「資本の価

値j と「社会の価値j と同じように大事なものであ

るという認識を持つようになった捻 7) テーアと

チューネン・リーピッヒの理論から実に 200年の歳

月がかかったということである.

この200年開にわたって続いた「市場の失敗Jは,

土地の「自然の価値j としづ外部性,外部効果を軽

視・無視した結果(認識の眼界による)である.

間分野の分断(経済学の不備,学問問の相関性の欠

如など)による認識の眼界,そしてそれによっても

たらされた「情報の不完全性Jは結局,政策判断の

「過ちJにつながった.

循環型農業への復帰とその産業化は環境経液学

のいう望ましい,合潔的な資、源、配分(パレート最適)

の結果につながるものとして考えられる.

2 日本における循環型農業の産業化は

「新農業革命Jになる

循環型農業はお本において産業化が可能かどう

か.という質問を提起する.この背景には,まず,

1960年代に日本では緩業公害→病気→鯖償問題が

深刻化して,そして「減農薬減肥jが行われるのと

パラレルに循環型農業が始まった.技術の面では,

数多くの成果がもたらされてきた.とくにバイオ技

術の開発と応用が土壌改良と生産高の維持に貢献

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804 幾業および陶芸第 87巻第8号 (2012年)

をしている.さらに重要なのは,いま,沼本におけ

る農村の過疎化,高齢化 (2008年で 298万人,その

うち 70歳以上の高齢者が 140万人),それに若者の

農村離れと農業後継者 (20年後になると 39歳以下

の農業就業人口は 35万人)の減少という臼本農業

問題の軽減→解決に循環型農業の産業化が喫緊の

課題であるということである.

w の臼本農業関題の軽減と解決は,循環型農業の

産業化によってどのように実現されるか以下検討

する.

2-1. 日本の農業開題

臼本の農業問題は, TPP交渉参加に関して議論さ

れているが,ここでは次の 4つに整理した.

(1) r農業政策の問題点J

日本政府の農業政策は,農家,農協,農業関係者

など底接利害関係のある人々,間体,会社などの利

益に反しないように立案されて,消費'者の利益が軽

視されている.この状況を改めなければ,農産物の

轍入自由化が促進されるであろう.

(2) r農業の摺題点、j

ウルグアイ・ラウン F吋 WTOなど,世界は自由

貿易に向かっているが,日本の農業は政時の保護政

策により,産業としての自立が難しくなっている.

補助金や農家への所得補償ではなく,産業として自

立できるように予算を使うべきである.

(3) r農家の問題点J

高齢者が土器加している.近代的な産業として自立

するには,経済の変化や農業技術の進化についてい

かなければならない.高齢者の農家にとっては,

業は儲からなし、から,補劫金を使って農家を援助し

よう j との政策で、あってほしいはず.農業が儲かる

ならば,補助金が削られてしまう.

(4) r食纏自給率が40%未満J

主要先進臨の中では最も抵いという.いま,コメ

の自給率は事実上 100%である.いくらコメの生産

を増やしても自給率は向上しない.現在の自給率は

コメ 100%,コムギ 13%,ダイズ 5%,野菜 79%,

果実 39%,牛肉 43%,豚肉 52%,鶏肉 69%,銅料

25%である.

TPP交渉参加反対意見主主7)は,

CD白木の国土が狭く,平均経営面積は1.2haにすぎ

ず,アメリカの200haとは比較にならない.したがっ

て, 日本の農業は競争力に欠ける.

②日本のように労賃が高い罰では農業が衰退し続

ける.農業貿易が自由化されれば,日本の農産物は

ひとたまりもない.

③小規模な兼業農家が多すぎて (67.1%),労働生

産性が上がらない.それなのに彼らが手厚く保護さ

れている.農業の集約・大競模化が進まない原因と

なっている.

に集中している.

賛成の意見制}は,この TPP交渉参加によっ

て,日本農業の大規模経営 (20~30ha) の早期達成,

医諮競争力のある農業を育成し農産物輸出を強化,

拡大することに集まっている.

賛否両論を簡単に要約すると,こうなる.

農業政策は不合理であり,補助金の使い方は間

違っているから,農業が儲からなくなり,農家が減

る一方.その結果,食料の自給率が 40%未満となっ

た.一定の圧力 (TPP参加)があると,臼本農業が

活性化される.

では, 200年前のテーアとチューネンの時代を考

える.当時,自給自足は農業の基本で、あった.輸送

手段(道路と機械)の未発達により,工業製品のよ

うに貿易を通して地域間で不足する農産品を交換

すること(リカー!っは不可能で、あった.

日本は鳥田なので,農産物の生産は国内頼りで

あった.戦後,経済高度成長期を経て,生活が豊か

になるにつれ,ライフスタイルが変化した.以前は

コメを中心としていた食生活が,小麦や向などの商

洋食構造へ傾斜していった.その結来,国内であま

り生産のできない小麦や家畜の餌料などの輸入が

士替えた.これは上記の食糧輸入構造の内訳にはっき

り反映されている.

現在ではコメの閣内自給が 100%可能なので,食

還の自給率を言語められる部分は館料,小麦と大立の

部分だと考えられる.

現状をみると,輸入大豆のかなりの部分が配合銅

料の生産に使われている.牛,豚と鶏i勾の自給率を

高めると,大豆の輸入をさらに増やさなければなら

ない.また,銅料輸入率も高めなければならない.

このようにみると,音のコメを中心とする食生活に

戻らないと,食糧の自給率を上げることが不可能で

あるという結論に歪らざるを得ない.

実際には,いま,日本鹿内では,荒廃農地が 60

万 haに上っている.極端な話,この箇積の部分だ

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三五:日本における循環裂農業の産業化 805

け家漢の館予ぎを増やすと,牛肉,豚肉と鶏肉の自給

どれくらい高められるかすぐ解答が出てくる.

家畜の糞鼠を回収して堆肥化し,野菜や果物,そし

て牧草地に施すと,増援した分だけ輪入が減ると

えられる.また,魚の養殖を増やすことも考えられ

る.パイヌ「発酵した肥料と牧草を与えると,魚、は成

長するのである.この養殖魚は輸入大豆の植物たん

ぱく質を代替する部分になる浅川.

各地域では説存の農業構造を生かして,資源を合

理的に配分すると,農業の生渡性が向上で、きる.と

くに,家畜の銅育と館料供給を構造的に改革すると,

館料の輸入を減らすことができる.ここでは日本の

バイオ技術を活用できる.たとえば,米ぬか,もみ

がらなど,さらにビール粕を利用し,発酵を通じて

できた fボカシ」を家畜の棟物部分のたんぱく質と

することができる訟ω 家畜の動物たんぱく

質は魚養殖の方法で補う.とすると,この部分の輸

入代替率がかなり上がってくる.

2-2. B本の農業問題の解決一億環型農業の産業化

循環製農業はいつでもできるが,問題はその生漆

性である.生産性を上げるためには,技術と大競模

生産に頼らなくてはならない.

技術については,筆者が日本のバイオ技術を使っ

て中国で実践済みである.前節に触れたように「ボ

カシj による大豆粕の代務部分,魚の養殖に

養綜にも確かな結果(消化吸収率増)が出ている.

要は記合館料のレシピと発欝加工部分である.それ

には原材料の調達,そして機保がで

きるかどうかにかかっている.

原料については,平成 17年 6月 23日付で発表さ

れた日本学術会議循環型社会と環境際題特別委員

会の報告「循潔型社会形成への課題…“もの活かし

大関"に向けて-Jの中のデータをつかつて説明す

る.

f我が国は年間 5億 t近い箆棄物を排出している

が,このうち下水汚泥や家善言葉尿を含む生物系廃棄

物は 57%にあたる 2億 8千万 tに及ぶ.平成8年度

の生物系箆棄物を肥料に換算すると,窒素 132ヌゴt,

リン駿 62万 t,カリウム 85万 tに相当し,間年度

の化学肥料消費量に対して,窒素で 260%,リン畿

で 102%,カリウムで 193%に相当する.J

このデータが示唆しているのは,日本器内で機肥

を製造するなら,必要な窒素,リン畿とカリウムが

沼本酪内で 100%調達でき,化学肥料を 100%代殺

できることである.また,コメの 100%国内自給が

できるので,稲薬も確保できる.さらに,森林の活

性化のためには,枯れた木を伐採して,新たに植樹

する必要性があると考えると,この枯れた木を李Uffl

して,稲葉と家寵の糞尿などといっしょに発欝して

Humus (腐植)を作ることもできる.これらの原材

料は全閣の各地に f散在」しているから, 3R原則

と3S筏療に基づいて行われる条件が撃っている.

技術条件と原料条件がそろったら,循環型農業の

産業化を担う企業が必要となってくる.

と沼本農業開題の解決とを結び付ーけ

て検討しているので,この企業は以下の条件を満た

さなければならない.

1)耕作放棄の荒廃農地を統合して使うカを有する.

2)小規模な兼業農家の土地を吸収合併するカを有

する.土地を農家から買うこともできれば,農家を

株主として企業に吸収することもできる.これはい

ま中国で行われている農業改革の一部である(第 3

寧参照).

3) (1)と (2)の実行に必要な法的整備,改正,お

よび循環提農業促進法の策定により与えら

行力を有する.

4)資金力(調達力)を有する.

これら 4つの条件右満たす企業は,政府の政策企

業でなければならない.その理由は次の通りである.

1)この企業は農業と資産を全般に統合して,

物栽培から加工までの一括計画,研究開発,

販売を統括する (MichaelE. Porterの f競争の戦略j

(Competitive Strategy: Techniques for Analyzing

lndustries and Competitors 1980) などの産業の価値

連鎖 (ValueChain)に参照)を記殻(既存の構造を

改革)する.

2)労働生産性を考慮し,家叢の餌育場,肥料工場,

そして銅料工場の位霞(チューネンの眼界生産力理

論に基づいた開発モデル)を決定する. 31ミの原則

と 3Sの循環のもとで,循環型農業の産業化をけん

引車とする肥料と飼料の生産と販売のチェーンを

作り出す.

3)政府の補助金を有効に使う.小規模な兼業農家

向けをやめて,効率の良い生渡部門へ投下する.株

主となった小規模な兼業農家はもうかつている

家から配当を受け数る(第 3筆中国蘇外!のケースを

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806 燦業および殴装第87巻第8号 (2012生存)

参照).足りない場合,将来の生藤'性と収益性を持っ

て資金を調達する.

4) 燐接する地域間の補完性を考癒し,地域向けの

と供給を調整する.できるだけ自給率をあげる.

この 4点は農業とその加工藤業の再編成である.

農家は工場と向様に従業員制度を導入する. した

がって,農村の過疎化,高齢化および若者の土地離

れといった農業問題は大企業化経営によって解消

できる.

地域農業iこ適した複数のそテツレを作り上げて,全

閣に広げていく.そしてや国をはじめ,アジア,南

米などの間々へ輸出する.ソニーやパナソニックの

ような大手企業の海外進出と陪様の農業企業の海

外進出である.グ、ロ

する.国内不足分(小麦,

ーンを作成

ど)を調達する.

この課遣は企業内貿易 CIntra-firmtrade) を通じて

完成する.

縮からない産業である農業を儲かるようにする

のである.活力のある産業への生まれ変りが期待さ

れる.これは農業革命である.革命であるから,痛

みも伴う.そこでし、かにその痛みを最小化にするか

はポイントになるであろう.

2-3 政府の農業政策による介入

200年の農業発展史は痛みが伴ったもので、あった.

それは農耕地土壌の疲弊にもたらされた痛みであ

る.この痛みを取り戻すためには, 200年前にテー

アのいう合理的農業,すなわち,現代の言葉でいう

循環型農業に部帰することである. 200年前にでき

る合理的農業は200年後の現在ではできないはずが

ない.人口増加した分は技指の進歩と生産性の高め

によって補うことができる. 日本の場合は,また,

循環型農業の夜業化が臼本農業問題の解決につな

がると思われる.

技術と物質の条件はそろっている.組織力,企闘

カと経済運営カをもっ企業の創出は政府の農業政

による介入で解決できる.

政府のこの政策介入は容易なことではない.いま

までは釘本の農業政策は農家,農協,農業関係者な

ど夜接利害関係のある人,団体,会社などの利益に

領斜している.新しい政策企業の設立案には,それ

らの利議関係者の利誌に相反するところがかなり

あって,彼らから反発が必ずくると想定される.要

はこの政策企業がそれらの利益関係者としゅ斗こ協

識し,既存の農協を改革して上記の役割を巣たさせ,

後者の損失を最小限に抑えるか,そして,利益を政

策企業のこれからの成長の中から保証するか,とい

う仕組みを作り出すことがキーとなる.このキーは

既存の農業政策の改定,関係農業法および経済法の

改正にある.

そのプロセスはまずこの政策企業の実行可能性

をシミュレートするものである.シミュレーション

の作成は政府の経済部門,政策部門のグ、ノレーフ。によ

るものであり,このグ、ノレ…プはエリート中のエリ

トからなっている.かれらは「経済理論・経済政策j

はもちろん,経済学の基礎的な理論を把擢できると

同時に,経済の実賎も察知し具体的な経済政策の立

-評価についても堪能であるに違いない.しかし,

肝心なところは「外部性Jvs 1"内部役j の天秤であ

る.各々の経済部門や政策部門が作った政策が部門

内からみれば利益最大化ができるが,この部門内の

利益最大化が外部の不経済を生じさせる可能性が

あり,全体の手IJ主主を犠牲にして達成する結果すらあ

る.したがって,この部門間の調整は利益調整その

ものになり,シミュレーション化したものは数字化

データ化のものであり,既存利援の一時的な犠牲は,

近い将来のより大きな手Ij誌の獲得するものであり,

そのどションを持たせなければならない.

環境経済学的に解釈すると,これはデータサイエ

ンスのことで,

Analysis一分析・解析・評価

Cost-費用・負担

Benefit-{受益・手Ij主主

Effect-効果

Multi-多次元

Cr悦 ria一基準・尺度

という部分からなる.

農業の持続可能性を重要摂することで,綿密な計

と計画のもとで行われたこのシミュレーション

は,国民の理解と賛成を得られるであろう.

これは実行が可能となれば新農業革命」と名

付けることができる.

3. 中国江蘇省蘇州市における農業改議の実践

蘇ーチト|注ゅは中国鹿内において現代農業改革の先頭

を走っている都市である.ここでは,中国蘇州で行

われている循環型農業の実践を紹介する.第 1節で

Page 8: 日本における循環型農業の産業化 · 日本における循環型農業の産業化 誌名 農業および園芸 = Agriculture and horticulture ISSN 03695247 巻/号 878

五 日本における1m‘潔慰農業の立を業化 807

は循環型農業の規接的展開に必要となる政府によ

る介入例として太倉現代農業閤区を紹介する.第 2

節では具体例を取り上げて,蘇州市相城区新こう

(土へんに更)村という村での循環型農業の実践を

紹介する.第 3節では綴潔型農業の発展に必要とな

る農業政策をみる.

3-1.蘇州市の農村改革 その 1太倉現代農業欝

蘇州、1mの農村改革は都市北が進んで、いる中で行

われている.すなわち,都市化と照時進行である.

農村改革は新農村建設を指す.制度の簡では,

村コミュニティー株式会作制Jr土地株式合作制j

f専業株式合作制Jという経済組織上の三大会作改

革を実行するものである.

1980年代初期に導入された農村生産責任制の限

界が見えてきた.土地を一戸一戸に分散して経営す

ると,生産性が悪く中閣の WTO加盟後の市場ニー

ズに合わなくなった

この一戸一戸に分散した農地を小農家から回収

して 1人の経営者,または 1社の大手農業企業に任

せば(中沼語で f流転」という),規模の経営がで

ガラス展示館

レストラン

i濁1 太食現代農業関

きるという計算のもとで, 21世紀に入ってから蘇外|

周辺の農村で展開し始めた.回収した土地に対し地

元の政府は毎年その小農家に一定の地代(今の棺場

は約 1000元/畝(約 667m2))を支払う(平成 24

6月末持点で l元今12.5円).この地代は大規模経

営の農家が出して地元政府を経由して小農家の手

に入る仕組みとなっている.

2表者が経営に参加した,上海ガニのメッカである

陽澄湖沿いのある農場の街積は当初, 60畝(約 4ha)

で、あったが,今は倍以上に拡大しつつある.農場の

経営が改善されると,その周辺の農地を全て地元政

府経由で租借することができる.小農家は土地を失

うことはなく,自ら耕作しなくなるだけである.従

として麗われ,農業に従事して給料を貰うこと

もできれば,街へ出てほかの仕事に就くこともでき

る.これにより,収入は地代十給料という形になる

ので,収入が増える.そうすると,これらの小農家

は土地(農地,以下問じ)を政府に貸し出す際に抵

抗がなくなる.新たな選択肢が提示されたと震える.

また,経営能力のある村(たとえば,新こう村,

出資殺を表示する策委主の看板

パラ殴

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808 農業および劉芸第 87宅金第8号 (2012年)

次節で結介)は合作社を設立して,小農家からこl:地

を集めて,この土地を出資金として,土地代を保証

するほか,年末にボーナスも出す.

大手鍋人経営者,農業構発公司(会社)のやには

もあれば,主に観光やレジャーを閥的とし

もある.

一時話題念呼んだ大型観光農躍である太倉現代

を紹介する.

2004年に企顕して面積は 60000畝(約 4000ha),

そのうち,流i[去土地(小農家から提供)は 6000畝

(約 400ha)であり,先にレジャー観光区を 5000

歓(約 330ha)規模で建設する.政府が 6鐙元(約

75 {;意向)を投下する.レジャー観光区は豆大ガラス

展示館 (0.4ha) (現代農業技術,農産品,レストラ

ン,喫茶など), 5つ息ホテル(建設中),パラ公園,

湿地公醸(建設中)からなる.農産物の栽培と加工

類のプロジェクトを合わせると事業数が 25伺に上

る,政府投資とはいうが,実際の出資者は各企業,

個人である.たとえば,展示包に出展している農産

品は蘇州地域,とくに太倉照辺の村のものである.

また,おj商務な喫茶区域の建設費,維持費も出展者

持ちである.水耕栽崎区でも,その維持費が出展者

なる.

この臣大農業閣の狙いはレジャ

の収入源とするほか,現代農業,とく

規模経営,その競品の加工と販売を集中させること

にある.中間流の言い方では「政府搭台企業唱戯j

になる.すなわち,政府が演技を展示する舞台を提

供し,企業がその舞台を借りて各自の得意技を演じ

ることである.会業が自らのカでこれほどの大規摸

な研究・開発・生産・加工・販売・レジャーを一体

した施設を作ることができるはずがない.この欠陥

を補うために,政R守が組織力を発擬して f見えざる

手J告と動かしたのである.これも政府による介入方

法の lつである.

3-2 その 2 蘇州新こう村の生態補鐙プログラム

新こう(土偏に吏)村は蘇州市の西部にある

河(太湖と揚子江をつなぐ)に臨む村である.

は 4.8km2で,耕地面積は 4950畝(約 3.3km2) の

とする農村である.人口は 1574樹:帯,

5395人である.

村には2005年から 3つの農設専門合作社(野菜,

葡萄,シイタケの生康と販売)を設立した.基本状

表 1 新こう村の基本状況

罰綴

人口 5395人(1574世帯)

焔 1700畝

限んぽ 500畝(稲作)

葡街:上倒 的数

シイタケ 200畝

乳牛 400頭

豚 2000頭

況を表 lにまとめた.

こう村の生態農業建設に携わったきっ

かけは蘇州市中日域区科学技術局の紹介注ωであった.

2008年上半期,最初は盟虞河の寓栄養イヒ(養牛場が

河沿いにある)の軽減,村の牛の糞尿処現,散夜し

た村誌の生活汚水の処理・再利用に臨して村の書記

長,呉 銭明氏と懇談する事から始まった.数回に

わたって汚水処理案を含む全般的な解決方法渋川を

提案し,日本の専門家を伴い視察した経緯もあった.

資金計画がまだ落務していなかったの

れた.最初はi添付Ir行政清からの融資額は 100万元で

あったが,その後, 2009年の上半期に中間と Eじの

農業生態補{員共同ブ。ロジェクトの lっとして選ばれ

て資余計画も落着した(中国国内では 4つ,異なる

実験内容注ので全面的な実験がスター卜したの

で、ある.

とは生態環境 し入院と自然

の調和を隈る目的とし,生態系サービス価値に基づ

いて,生態保護のコスト,経済発展のチャンスとコ

ストを行政と市場経済のやり方で総合的iこ調整し

て,生態系保護と経済発展の棺互関における利益関

係を講じる環境経済政策の 1つである.一定の地域

における生態保護と環境汚染防止合間立する手段

で,経済的刺激策 (Stimulus)を導入する汚染者

負担j の原則と並べながら受益者負担と破壊者

負担Jを併存させる原則を採汚した,新しい試みで

ある.新こう村は農作物栽培と養殖を過して,

とリン畿を吸収・消化するシステムーフィルター・

システムをつくって,太i制定域の富栄養化を軽減し

て,水質保護の図的に達成する実験である.その保

と生産から利益がでると見込んでいるので,その

費用は受読者である村の負担となる.

1)生活汚水処理場を建設する 散在した村民の家

から汚水処理場までの下水道を敷く.簡単な処現を

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:=E : 13本における綴潔裂幾業の産業化 809

経て濯瓶水として李Jj浴する

2) 窒棄とリンを吸収消化する用水をつくる.用水

は野菜ノ¥ウスとハウスの間に置く.底には蛇裂の

フィルター箱を設置する.箱の臨聞には穴を開く.

用水の全長は 5310mである.各iK域に7.1<を遮断で、

きるパノレブをつける.i益れ出る水を生態プーノレに導

入する.その箱の上にマコモ,芹,蓮根と地元特産

の水生野菜を植える.用水部例jの斜面には大立を植

える.

3)鉄筋ノ¥ウスを 650畝,鉄筋コンクリートハウス

100畝,連体ハウス 6670m2をそれぞれ建設する.中

lこ点滴濯説施設を脱穀して水を節約する.

4)ハウスの入り口に太鼓エネルギーで作動する紡

EluTと防虫絹を 400畝に設援する.

5)生態プールを 9つ造成する.約 30畝の大きさに

わたる.中には水生野菜を植える.

6) 牛の議と稲認で、ミミズを養殖する.豚と鶏糞を

シイタケの廃蕗床(残夜)に混ぜて堆肥化する.

7)発酵沫n家舎をつくる.

8) イチゴと水稲の輪作を試験する.

とリンを消化・吸収するブイノレター・システ

ムの働き方は次の通りである.

水田から水を潟水に引き込む.水を遮断で与るパ

ノレブ、で、7.1<の流れスピードを調部し水中の窒素とリ

ンが水生野菜に吸収されてから流れ出す.余る水を

生態プーノレに誘導していく.そこにも水生野菜が植

えてある.このようにして水の中の窒素とリンが十

分に吸収されるようになる.野菜栽培に使う上,7.1<

浄化の限的にも達成する.

実験を経て次の成果が得られた.

1) 71<回から流れ込んだ、7.1<から 600kgの窒素と 108kg

のリンを吸収、できた.蜜索とりンの吸収率はそれぞ

れ 56%と 59%に達した.その結果を受けて村の

1700畝の面騒に普及させた.これにより,年間 50t

の化学肥料を節約できた.

2) ハウスの謹瓶には通常年間 1000~1200t の水を

使用する.点滴j護j統に変えると,平均 500~600t へ

と半減された.これにより,年間 85万 tの水が節

約できた.

3) 2010年に農業合作社の l社である虞河読菜産鎗

専業合作社は有機野菜を 3510t生援・販売し,

は726万元となった.

この結来を受けて, 2011年 3fl 23 S

とEじ農業と農村開発署が蘇外1$で、試験フ。ロジェク

トのまとめおよび普及セミナーを共催した

( EU輸 China Cooperation Activity on Ecological

Compensation in Agriculture, Summary and

Dissemination Seminar).中国農業部副部長張桃林と

EU農業委員会の DacianCiolo氏が参加した.江蘇

省高IJ省長と蘇州市のトップも出席注 16) した.新こう

村の実験がもたらした,明らかな環境効果と経済効

果が賞賛され,中国で農業生態補償システムの橋立

に技討す的なパックアップができたと評価された.

また,イチゴと水稲の輪作試験も大成功を収め,

技術者の林亜深さんは 2011年 11月の第3間江蘇

省農村青年創業コンテスト 1 した法 17)

イチゴと水稲の輪作 (20畝)の収穫量が 54万元の

もたらし, 20万元の利益がでる試算となる.

3-3.蘇州市が目指す農業生態(環境保全)自標

(2011 年~2015 年までの五ヵ

計画)現代農-業発展計画渋川によると,蘇州市の農

業現代化釘擦は,工業化と都市化が発展・深化する

とともに,農業の規模化,施設の標準化,生態の永

続イヒ,科学技術の集約化,経営販売の現代化,サー

ビスの社会イヒと農民職業化水準の高度化を目指す.

農業現代化システムの樹立,生態化の突き見,バイオ

産業の集中化,各産業開のバランスイヒ,農耕文化の

継承に向けて新しい局部を作り出すことに先駆け

る.これを都市農村一体化のシンボルにし米と

;魚の故郷jの魅力を再現して,都市と農村の住民に

より幸せの生活をもたらす詳細は次の通りである.

1)産業規模化において

土地の流動(中国語:流転)を集中し,思域化と

閤E主化,組織合作イヒ,経営農場化に向けて,

を高め,第十二・五計画が終わると

きに農業の大規模化の経営比重は 90%以上,現代農

区の完成函績は 100万畝以上,効率化農業(漁

業を含む)は耕地商積の 65%以上,その中iこ畝当た

りの平均収益が 5000元以上に達する面積が 50%以

206.6億元に達することである.

2)施設の標準化について

した農地水利施設はほぼ全面的に完成

し,農業設備水準は基本的に現代化に到達する.高

基準化する農地は 60万畝を新たに齢出し,

化する養殖池は 30万畝を土器加する.

画期末に高基準化する農地が耕地面積の 75%を占

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810 農業および劉主主第 87巻第8号 (2012年)

め,農業総合機械化率を 85%以上にし,農業機械化

を全部的に実現する.

3)科学技術化について

農業生産にバイオ技術の応用を強調し,効率が高

く,低炭素生態型産業チェーンの形成を加速化し,

蘇州市にバイオ農業,機能化農業のモデル窓口と

婆な産業集積区を造成する.第十二・五計画期末に

農業科学技術の貢献率を 70%まで上げる.

4)生態永続化関標

5年間にわたって 30万畝以上の林業縁地を増や

し, r三品J(有機,縁色,無公害)といった農産品

の数が毎年平均的に 10%以上増える.

菌期末に陵地に森林が覆う磁積は 27%に達し,無公

の生産面積が耕地蔚穣に 90%以

上を占め,農産品の検品合格率が 98%以上に達する.

重大農産品事故が発生しないことを保証する.

5)経営販売の現代化

1, 2, 3次産業の調和がとれた発展に注目し,農

業の専門組織を発展させ,現代農業販売モデルをつ

くり,農産品の物流システム,備蓄システムを建設

し,市場化経営水準を高める.現代農業である市場

主体を育てて,農業関係の上場念業在育成する.第

十こ・五計翻期末に県レベル以上の農業主力企業の

年間平均販売は 10%以上,一定規模以上の「三資J

(資金,資産,資掠)プロジェクト向けの投資を年

間平均 5%以上増加させる.

6)サービスの社会化について

農業サービス・システムの建設を重要視し,各種

の専門合作組織を積撞的に取り入れ,政府公共サー

ビスを早急に形成するとともに社会化専門サービ

スと結合したサービス・システムを形成させる.物

流ネットワークを活用し,農業情報化サービス・プ

ラットホームを建設し,サービスの効率を高める.

二・五言十闘期末に社会イヒ,専門化のサービス組

織が 80%以上に達し,鎮レベルまたは思域農業公共

サービス・システムの健全化率は 97%以上,新型農

業情報化サービスは 97%まで上昇させる.

7)農民の職業化について

・五言十間期末に,プロの農家の農業労働力

に占める割合は 35%を罰撮す.

結び

現代農学の基礎をなす3人のドイツ人が 200年前

に論じた農業論を200年後の現在で再読すると, r循環型農業Jの菅版は「合理的農業jで、あって,化学

肥料の原点、は「リーどツヒの最少律jに辿りつくと

わかる.この 200年間に行われた農業の実践(人類

を養う)をみれば,農業の大量生産を可能にした化

学杷料はその大量使用による環境負荷である農耕

地土壌の疲弊(連作障害,硝駿態窒素の過期など)

の結果をもたらした.先進障においても途上国(農

業生産に適していない留を除く)においてもこれが

実験済みで,化学肥料の大量使用による穀物生産の

過剰化も起きている. らの環境負荷が生じ,

穀物の生産鵠撃が必要となってきている.農業から

の環境負荷を軽減するために循環型農業Jとい

う3R原則, 3S循環の抵投入持続可能な農業や有機

農業が提唱されている.しかし,この f循環型農業j

の原点はテーアの「合理的農業jで論じたものであ

る. 200年前にすでに我々の人類に提示されたので

あるが,重視されなかっただけである.

考えてみれば,人類を養うのに必要な穀物の生産

は,ライフスタイルの変化があったとしても人

当たりの消費量は背の人より多くないといえるが,

問揺はこのライフスタイルの変化に対応するため

に,または消費領向を誘導するために新しい食品の

生産に浪費した原材料が増えていることである.こ

の浪費分はこれから原材料として Reuseが可能で、,

館料化と肥料化することが極めて重要となってく

る.この前援を設けて人当たりの食料必要分を

してつの地域を単位にする穀物生産計闘が

作り出され,自給率がわかってくる. 200年前に

チューネンはすでに我々に計算してくれた.当然,

現在の人口は昔と比べると,大幅に増加した.しか

し,現在の農業技術も昔よりはるかに進歩している.

単位函積当たりの作付け生産高はかなり増えてき

ている.この人口場加した分を補うためには,農業

技術の進歩に頼ればよい.生物系廃棄物,家蓄の糞

尿を基本にしつつ,徳環しきれない場合,不足する

栄養分は化学肥料で補う,とし、う計算である.バイ

オ堆肥を主とし,化学肥料,を捕とする道へ是正する

のはわれわれ人類の道ではないか.これはまさに

テーアとチューネンへの再認識といえる.

小論はこのテーアとチューネンへの再認識を提

唱し,院本農業の問題解決には理論的パックアップ

があると訴える.理論だけではなく,問題の解決に

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I:臼本における循環主主燦芸誌の滋業化 811

必要な技術条件と物費条件もそろっている.日本で

「新農業事命Jを起こす好機となっている東風j

(政府政策の早期決断)が欠けているだけである.

早期決断を呼び掛けるために,中関江蘇省蘇州市

の農業改革の実例を紹介した.中国は改革環放当時,

「先発展後治理J(先に発展し汚染処理は後四す)

という f過ちj を是正するために,生態農業(循環

型農業)を急、ピッチで、行っている.政府の主導下に

援かれている. r政府搭台企業唱戯j としづ循環型

農業の発展に必要な「舞台」をつくって企業に演技

をさせるフレームワークを整備するだけではなく,

必要な資金を提供したり,融資のノレートを探したり

している.

中屈でこの循環型農業への回帰の試みは日本に

おいても可能であるはずである.岡本では,循環型

農業の実賎は偶人レベノレでかなり以前にスタート

し,各地域では政府の支援もあって企業レベルでか

なり展開されている.バイオ技術にしても中館より

はるかに進んでいるー全国的に循環援農業の基礎が

ほぼできている.また,農業条件にしても中国より

れている. r新農業革命j を起こすことによっ

て競争力のある循環型農業が期待できるー

ff.:

1)平成 17年 6月 23日のお付で発表された R

術会議循環型社会と環境問題特別委員会の報告 f循

環型社会形成への課題一“もの活かし大国"に向け

て-J

2) 関上

3) http://kotobank.jp/word/%E7%92%BO%E5%A2%8

3%E4%BF%9D%E5%85%A8%E5%9E%8B%E8%B

E%B2%E6%A5%AD

4) h託p://www.ruralnet.or.jplzensyu/thaer/

5) http:/,なa.wikipedia.org!wiki/%E3%83%A8%E3%83%

8F%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%8

2%A4%E3%83%B3%E3%83%AA %E3%83%92%E

3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%B3%

E3 %83 %BB%E3 %83 %81 %E3%83 %A5%E3 %83 %B

C%E3%83%8D%E3%83%B3

6) http:/,与a.wikipedia.org!wiki/%E3%83%A6%E3%82%

B9%E3%83%88%E3%82%A5%E3%82%B9%E3%8

3%BB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%B3%E3%

83%BB%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%93%E

3%83%83%E3%83%92

7)生態系と生物多様性の経済学(中間報告), P.4,

翻訳/発行:住友信託銀行/(株)日本総合研究所/

財団法人日本生態系協会

8) 日本農業の現状と課題, http://kobayashi.cle¥ぽ '.me

page.jp/aguri/nougyou.html, http://www.kyushu.meti.g

o.jp/action -p1an!sinthoku/nougyoul11 0406_ 5.pdf,その

他複数の意見

9) 同j二.

10)筆者の館料工場ではフスマ,オカラなどに;魚粉

を入れて有効微生物と一緒に発酵したものが

の粕を代替している.

11)

12)蘇州 (揚子江)の下流地帯,いわゆる

長江デルタに位置している.その関積は 8848km2

平方であり ,r$[RJ 1650km2を全市面積から悲し引

くと 6838km2が「郊外Jr農村地底j などである.

13) r尖子剖立都市型循汚衣.¥lk示箔基地的i'iJ行性援

以生恋情料和有机1肥料均主的没展家守i方式-J

(都市循環型農業モデル基地を創出する実狩可能

バイオ館料と有機肥料を牽引車として

)王宝.

を新こう村の書記長呉鉦暁氏に紹介

した.

14)2008年 5月に蘇州市棺城区科学技術局に助成金

を申請した「栄子超級腐殖土在中国的研究和芥友J

u中国におけるスーパー腐植を研究開発につい

てJ)が許可されたすぐ後で、あった.

15)蘇州市新こう村以外の 3つ:

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812 j没業および園芸芸第 87巻議:e;8号 (2012年)

1)天津市宝士まじ互における野菜と果物の残涜を資源、

化する技術,四位一体化した立体栽培と家資飼育の

技術,メタンガスの利用技術と省エネ,減農薬減目巴

などの環境友好型プロジェクト, 2) 安{設省の楠城

における穀物の茎を堆把化する技術,荒蕗農地に草

を植えて縁隠にする技術,合鴨1禁法などの土壌有機

質を高めるプロジェクト, 3) 雲南省大理における

栽培と議産業の合理化配置,土壌を測って施肥する

技術,畜産業の糞尿を資源fじする技術などのブ。ロ

ジェクト.一中国農業科学院環境保護科研監測所

16)会場写真.提供者:中国農業科学院環境保護科

研監測所, 2011年 4Jl213.

17) 蘇州臼報 2011年 11月 30臼

18) 蘇外!日報 2011年 12Jl 31日

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