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2007-EXD 2 平成 19 年度 コンサルタント調査 米国 米国 米国 米国の農業 農業 農業 農業と農業政策 農業政策 農業政策 農業政策の現状 現状 現状 現状 2008 年 2 月 日本貿易振興機構(ジェトロ) 輸出促進・農水産部

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2007-EXD コンサルタント調査 2

平成 19年度 コンサルタント調査

米国米国米国米国のののの農業農業農業農業とととと農業政策農業政策農業政策農業政策のののの現状現状現状現状

2008 年 2 月

日本貿易振興機構(ジェトロ)

輸出促進・農水産部

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はしがき

2007(平成 19)年は、世界的にトウモロコシ、大豆、小麦など穀物・油糧種子の需給が逼迫し、記録的な価格の高騰が続いた。これは、世界各地の天候不順による主産国の生産・輸出量の減少、原油の記録的な価格の高騰に加え、開発途上国の経済発展、エタノールをはじめとする再生可能燃料の生産の増大による需要拡大など構造的要因を背景とするものである。 このような状況の中、世界最大の農業国である米国の穀物、畜産物生産は堅調に推移しており、米国ドルが安値基調で推移していることも相まって、世界各国からの米国産農産物・食品への需要が一層高まっている。この結果、米国の農産物輸出、農家経済はかつてない活況を呈している。 政策面でも、農業政策の柱となっている 2002年農業法が 2007 年 9月末に期限切れを迎え、議会では新農業法の制定に向けた議論が行われている。しかし、大統領・議会選挙を控える中、財源問題やWTOルールとの整合性などをめぐって行政府・議会間、党派間の意見対立が深まり、先行きは不透明な状況となっている。一方、大方の予想に反して、米国民の支持を背景に、再生可能燃料のさらなる生産の増大につながる新エネルギー法が 2007 年 12 月に成立し、今後も穀物需給や価格に大きな影響を与え続けるものと見られている。 米国は、日本に対する最大の食料供給国であるが、このような米国農業に関する実態、政策の動向を踏まえることは、日本にとって、安定的な輸入を確保し、国民への食料の安定供給を図る上で極めて重要である。このような問題意識から、ジェトロ・シカゴセンターでは、2006(平成18)年度コンサルタント調査「米国の農業と農業政策の現状」を改訂し、米国の主要な農産物の需給・貿易・農家経済の動向、農業政策のほか、再生可能燃料(エタノール)の実態、政策の概略を取りまとめた。なお、本報告書の内容は、特に断りのない限り、2008(平成 20)年 2 月 1 日までに得られた情報に基づくものである。 関係各位にご参考頂ければ幸いである。

2008年 2月 日本貿易振興機構(ジェトロ) 輸出促進・農林水産部 農水産調査課

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(要旨) 米国の農業と農業政策の現状

Ⅰ 農業の概要 1. 国民経済等に占める農業の位置付け 米国の 2006年の農業生産額は、957億ドルで、名目 GDPに占める比率は 0.7%。2005年の全就業人口の 1.7%に当たる 291万 4,000人が農業に就業している。

貿易収支において、農産物は、米国の最も重要な輸出商品の一つであり、貴重な黒字分野。2007年度の輸出額は 819億ドル(前年度比 19.4%増)。近年、輸入も増加しており、貿易黒字が縮小傾向にあったが、2007年度は、その傾向に歯止めがかかり、農産物貿易黒字は 73億ドル増の 119億ドルとなった。

世界的に見ると、高い生産性、競争力に支えられて、米国は世界一の農業国の地位を確保。2007/2008 穀物年度において、世界のトウモロコシの 43.3%、小麦の 9.3%、大豆の 31.9%を生産している。また、貿易(輸出)量ではトウモロコシの 66.0%、小麦の 30.6%、大豆の 35.8%、豚肉の 38.8%、鶏肉の 50.9%を占めている(BSE感染牛発見の影響からの回復途上にある牛肉は 10.7%)。

2. 農業構造 米国の農場数は、207.5万戸、農地面積は 9億 3,100万エーカー。いずれも、小規模経営者の経営廃止、大規模農家との経営統合などによって減少しているが、1農場当たりの平均農場面積は、規模拡大が進んでいることにより近年拡大している。また、農場数、農地面積ともに販売額の低い層から高い層へのシフトが進んでいる。

農業経営の 89.7%は家族または個人経営。法人経営は、数は少ないが、規模は大きく、平均年間販売額は、78万 1,920万ドル(個人経営の約 14倍)。

農地の所有形態では、農業経営の 67.1%が全農地を所有しているが、経営する農地面積、平均販売額から見て、部分的農地所有者(一部所有、一部賃借)が米国農業を担っていると言える。

米国の農業経営者のうち、専業は 45.2%。農業を主業とする者は 57.5%であるが、実際の販売額では 82.2%を占めており、米国農業は、農業を主業とする者に支えられている。また、経営者のうち、男性が 88.8%、白人が 97.1%を占める。高齢化が進んでおり、経営者の平均年齢は55.3歳。

3. 主要農産物の概要と需給動向 米国では、広大な国土と多様な環境を活かして、地域ごとに特色ある農畜産業が行われている。主要な農産物を生産額(農家受取額)別に見ると、牛、乳製品、トウモロコシ、ブロイラー、大豆の順となっている。主要な生産州としては、畜産物が、テキサス、アイオワ、ネブラスカ、カリフォルニア、カンザスの順、農産物では、カリフォルニア、アイオワ、イリノイ、テキサス、フロリダの順となっている。

トウモロコシは、エタノール向け需要の急増により、作付面積が大幅に増加している。

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2007/2008 穀物年度の生産量・総供給量は、史上最高となるが、在庫率の減少、エタノール需要のさらなる拡大予測、投機資金のシフトなどにより、価格は高止まりしている。

大豆は、トウモロコシへの作付のシフト、単収の減少によって生産量が減少している一方、需要が堅調であることから、期末在庫が大きく減少している。34 年ぶりの高値を記録するなど価格が高騰している。

小麦は、干ばつの影響から回復し、生産が増加しているものの、需要の増加が供給の増加を上回っていることから、期末在庫は過去 60 年で最低となっている。また、干ばつによるオーストラリアの減産など主産国の減産もあって価格は史上最高となっている。

コメは、原油価格の高騰に伴う燃料・肥料コストの増加などから、作付面積は減少するものの、単収が史上最高となることから、2007/2008穀物年度の生産量は前年度比で増加するものと予測されている。また、オセアニア、中東諸国向けの需要の高まりなどから、輸出も増加が予測されている。

牛肉は、国内消費に翳りが見られるものの、輸出は 2003年 12月の BSE感染牛発見前の約 7割まで回復することが見込まれている。豚肉、鶏肉はいずれも輸出の増加が見込まれている。 遺伝子組換え作物の割合が増加しており、2007年は、大豆の 91%、トウモロコシの 73%、アップランド綿花の 87%が遺伝子組換えを採用している。

有機農産物の生産も増加しており、2005年は、全農業用地の0.5%を占める405万エーカーで生産。2006 年の有機食品の小売販売額は、167億 1,800万ドルで、全食品売上額の 2.80%。2007年は 200億ドルを突破することが見込まれている。

4. 農産物貿易の動向 農産物輸出額は、野菜・果物の需要増、穀物価格の高騰の影響もあり、史上最高額を更新中。2007 年度は 819 億ドル、2008 年度は 910 億ドルとなる見込み。輸出相手国別では、アジア、南北アメリカ大陸向けの割合が大きくなっており、全体の約 8割を占めている。

農産物輸入は、2007年度 700億ドル、2008年度 755億ドルとなる見込み。インフレ圧力の高まりや米国経済の減速から伸びは鈍化している。南北アメリカ、欧州、アジアの 3地域で全体の9割以上を占めている。

2007年度の対日輸出は、96億 9,281万ドル。主要穀物のほか、牛肉輸出解禁などにより肉類が増加しており、前年度比 18.9%増となった。また、2007年度の対日輸入は、前年度比 0.9%減となった。赤身肉は大きく増加したが、前年度に増加したコメ、生鮮野菜は減少した。

5. 農家経済の動向

2006 年の純農業所得は、穀物価格の上昇によって政府からの補助金が減少したこと、原油価格・肥料価格の高騰によって現金支出が増えたことなどを受けて前年より 23.5%減少し、590億ドルとなった。2007 年は、穀物価格の高騰によって作物収入が増加することなどから、875億ドル(前年比 48.3%増)に増加し、史上最高となる見込み。

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2007 年の農場経営者の世帯所得(農業所得+農外所得)は、8 万 3,622 ドル(前年比 7.7%増)と予測されている。2006年段階で農場経営者の世帯所得は、全米の世帯平均より 16.7%高い。

農家の資産、負債、純資産は、記録的な穀物価格の高騰を背景にした順調な農業経営、農業の収益性・将来性に対する期待感もあって、いずれも増加傾向にある。負債の総資産、純資産に対する比率は、ここ数年減少を続けており、1992 年から 2003 年までの平均がそれぞれ14.4%、15.6%であるのに対し、2007年は 10.7%、9.7%となっている。

Ⅱ 農業政策と農業予算 1. 2002年農業法の概要 米国の農業政策は、概ね 5年ごとに見直される、いわゆる農業法を基本にしている。現行の2002年農業法のポイントは、以下のとおり。

○ 作付の自由を保障する(生産調整は行わない)など 96年農業法に基づく農業保護のスキームを基本的に踏襲した上で、単価の引上げ、対象の拡大等による保護水準の引き上げ。 ○ 主要作物(小麦、トウモロコシ、大豆、コメ、綿花等)に対する価格変動対応型支払いの創設。 ○ 環境保全に関する予算の増額。 ○ 肉、果実・野菜、魚、ピーナッツについて原産国表示の義務付け。

2. 新農業法の制定に向けた動き 米国経済・財政状況が厳しさを増し、財政規律を重んじる傾向が強まるとともに、穀物価格の 高騰、米国産農畜産物への需要の増加によって農家経済がかつてない活況を呈する中、新農業法制定は、農業への補助・支援措置に対する厳しい世論に晒されている。また、国際的にも、米国の国内支持は、WTO ルールとの整合性を問われており、カナダ、ブラジルからの提訴を受けている。 2007 年 1 月に、農務省が、過去に例のない詳細な新農業法案を公表し、これを皮切りに新農業法案に関する議論が本格化した。 2007年 7月 27日に下院本会議で下院の新農業法案が賛成 231票、反対 191票で可決・成立した。連邦レベルの収入をベースとする「収入ベースの変動対応型支払い」(RCCP)を選択的に導入している。 下院の新農業法案の成立後、審議の舞台が上院に移るも、ハーキン上院農業委員長の案についての合意が得られず、相殺財源問題も難航したことから、上院農業委員会の審議は当初の予定よりも大幅に遅れた。最終的には、2007年 12月 14日に、賛成 79票、反対 14票で可決・成立した。価格ベースの変動対応型支払いを維持しつつ、2010 年に州レベルの収入をベースとして、作物別の州保証収入を当該年度の州実績収入が下回った場合にその差額を補填する「平均作物収入プログラム」(ACR)を選択的に導入している。

上院案と下院案ともに、2002 年農業法の基本的枠組みを維持するものであると同時に、上院案と下院案が類似していることもあり、改革を掲げる行政府は批判を強めている。特に、最大の課題である相殺財源の確保に関しては、増税を認めない行政府と議会との間の意見の対立

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が深刻化している。なお、2002 年農業法を評価する農業団体は、各論での異論は少なくないものの、総論としては上院案、下院案に対して高い評価を与えている。

今後は、新しい議会予算局(CBO)のベースラインが公表されるとともに、2007年 12月に暫定的に延長された 2002年農業法の期限が切れる 2008年 3月 15日が重要なポイントとなる。しかし、日程的にも厳しさを増しており、膠着状態が続く中、2002 年農業法の単純延長(1~2 年)のほか、恒久法(1933年農業調整法、1949年農業法)の適用の可能性も指摘され始めている。

Ⅲ 米国エタノール事情 1. 米国エタノール生産・利用の現状

2006年のエタノール生産量は 48億 5,500万ガロンで世界一となっており、2007年は 63億ガ ロンに達することが見込まれている。また、2008年 1月末現在、生産工場数(稼動中)は 139、生産能力は 78億 8,840万ガロンとなっている。生産工場の多くは主な原料であるトウモロコシの主産地である中西部に集中している。生産工場には、ウェット・ミルとドライ・ミルの 2 種類があり、ドライ・ミルの方が圧倒的に多くなっている。 2006年のエタノール消費量は、53億 7,700万ガロンとなっており、2007年は 11月時点で既 に 61 億ガロンに達し、昨年を上回っている。燃料用エタノールの代表的なものとしては、エタノールの混合割合によって「E85」、「E10」がある。ガソリン生産量に占めるエタノール混合ガソリンの割合は、2008 年 1 月現在、52.9%に達しており、大都市圏を抱える地域で高い割合となっている。 エタノールの生産・利用によって、農家所得の向上、政府補助金の減少などの好影響が認められる。

2. 米国エタノール政策の現状 米国エタノールの生産・利用は、エネルギー保障、環境対策、農業・農村の活性化と新規需要 の創出など政策的理由を背景として、ブッシュ政権の積極的後押しによって進められている。2005年エネルギー政策法では、再生可能燃料基準(RFS)を定め、エタノール、バイオディーゼルなど再生可能燃料の使用を義務付けており、義務量は 2008 年 54 億ガロン、2012年 75 億ガロンとなっている。この他にも、州レベルでの使用義務付けや連邦レベルでの税制優遇措置・補助金がある。 2007年 12月、それまでの大方の予想に反して、新エネルギー法が成立した。再生可能燃料基準は 2022年までに 360億ガロン(トウモロコシ由来のものは 2015年までに 150億ガロン、バイオディーゼルは 2012年までに 10億ガロン、次世代バイオ燃料は 2022年までに 210億ガロン、うちセルロース系は 160 億ガロン)とされた。これによって、米国のエタノールを含むバイオ燃料政策はさらに加速化することとなるが、関係業界の理解の下に進められようとしているとは言い難い状況にある。

新エネルギー法に基づく政策を進めていく上では、トウモロコシエタノールの限界と需給ギャップ、穀物価格の高騰による食料供給への影響、セルロース系エタノール技術開発の不透明性、E85の需要の伸び悩み、自動車燃料のエタノール濃度とフレックス燃料対応車(FFV)の増加の遅れ、インフラの未整備、環境への悪影響、税制特例・追加関税の延長の取扱い、限定的な DDGS の利用と安全性に対する懸念など極めて多くの課題が明らかになっている。

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2007 年は、エタノール価格が下落し、エタノール工場の多くが厳しい経営状況に陥ったが、今後は、原油価格の高止まりと新規工場の稼動開始による需要の拡大、規制緩和による市場の拡大などもあり、エタノール価格は持ち直し、エタノールの生産・利用がさらに進むものと見られている。しかし、課題は多く、工場の経営が劇的に好転するという状況にはないことから、2007 年にもみられたエタノール業界の再編統合の動きが進むものと見られる。また、石油業界の要望によって盛り込まれた新エネルギー法に基づく適用免除規定の適用可能性も指摘されている。

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目 次 Ⅰ 農業の概要............................................................................................................................... 1 1.国民経済等に占める農業の位置付け............................................................................................... 1 2.農業構造 .......................................................................................................................................... 2 (1)農場数の減少と規模の拡大...................................................................................................... 2 (2)農業経営者 ............................................................................................................................... 5 3.主要農産物の概要と需給動向 ......................................................................................................... 7 (1)米国の農業生産の概要 ............................................................................................................. 7 (2)主要農産物の特徴と需給動向 .................................................................................................11 (3)遺伝子組換え作物の作付状況 ................................................................................................ 25 (4)有機農産物の生産動向 ........................................................................................................... 27 4.農産物貿易の動向.......................................................................................................................... 29 (1)輸出動向 ................................................................................................................................. 29 (2)輸入動向 ................................................................................................................................. 33 (3)対日農産物貿易 ...................................................................................................................... 34 5.農家経済の動向 ............................................................................................................................. 35 (1)農家所得 ................................................................................................................................. 35 (2)農家資産、負債の動向 ........................................................................................................... 38 <コラム 1>大豆先物相場が 34 年ぶりの高値を記録~生産量の減少、堅調な輸出、原油価格高騰等により 11ドルを突破~(2007年 11月~12月).......................................................... 40 <コラム 2>小麦相場が史上最高値を記録~欧州等の減産予測で価格高騰、農産物輸出・農家所得は史上最高に~(2007年 8月~9月) .............................................................................. 44 Ⅱ 農業政策の概要...................................................................................................................... 46 1.2002年農業法の概要 .................................................................................................................... 46 (1)2002年農業法のポイント...................................................................................................... 46 (2)主要作物プログラム............................................................................................................... 48 (3)保全・環境政策 ...................................................................................................................... 54 (4)貿易政策 ................................................................................................................................. 58 (5)栄養 ........................................................................................................................................ 61 (6)農村地域開発.......................................................................................................................... 61 (7)エネルギー ............................................................................................................................. 61 (8)原産国表示規制 ...................................................................................................................... 61 2.新農業法の制定に向けた動き ....................................................................................................... 62 (1)新農業法制定の背景............................................................................................................... 62 (2)行政府の提案.......................................................................................................................... 64 (3)下院農業法案の成立過程 ....................................................................................................... 64 (4)下院農業法案の概要............................................................................................................... 65 (5)上院農業法案の成立過程 ....................................................................................................... 67 (6)上院農業法案の概要............................................................................................................... 70 (7)行政府・主要農業団体の上院・下院の農業法案に対する反応 ............................................. 73 (8)今後の見通し・予定............................................................................................................... 76 Ⅲ 米国エタノール事情............................................................................................................... 78 1.米国エタノールの生産・利用の現状 ............................................................................................... 78 (1)エタノールの生産 .................................................................................................................. 78 (2)エタノールの利用 .................................................................................................................. 80

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(3)エタノールの生産・利用が農業・農村に与える影響............................................................ 81 2.米国エタノール政策の現状 ........................................................................................................... 81 (1)エタノール政策の背景 ........................................................................................................... 81 (2)エタノール政策の概要 ........................................................................................................... 83 (3)新エネルギー法の成立とエタノール政策を進めていく上での課題...................................... 87 (4)今後の見通し.......................................................................................................................... 99 (参考)2007年の米国における食品安全をめぐる動向 ............................................................. 103 <コラム3>中国産品の安全性に対する懸念と米国政府の対応(2007年 7月) ............................... 104 <コラム4>消費者団体が「食品安全の貿易赤字」と題する報告書を発表(2007年 8月) ............. 106 <コラム5>製品の安全性確保に関する中国政府と米国内における動向~両国とも取組強化をアピールも、米国食品業界は冷静な対応~(2007年 8月) ................................................ 109 <コラム6>輸入製品対策のタスク・フォースが中間報告~具体策は 11 月に先送り、業界には規制を求める動きも~(2007年 9月)................................................................................111 <コラム7>史上最大規模の冷凍牛挽肉回収が広げる波紋~次期農業法案、食品安全確保対策の議論への影響~(2007年 9~10月) ...................................................................................114 <コラム8>食品医薬品局(FDA)等の権限強化へ~タスク・フォースが大統領に具体策を提案~(2007年 11月)...............................................................................................................117

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ⅠⅠⅠⅠ 農業農業農業農業のののの概要概要概要概要 1.国民経済等に占める農業の位置付け

米国の 2006年の農業生産額は 957億ドルで、米国 GDP(名目値)に占める比率は 0.7%となっている。1930年に 7.7%、50 年に 6.4%であったこの比率は、工業化、サービス化の進展に伴って低下し、2000年以降は、1.0%を下回る年が多くなっている。2004年は、とうもろこし、大豆が大豊作となった上、上半期に穀物価格が高騰したこともあって、農業生産額は 1,100 億ドルを上回り、GDP 比率も 1.0%となった。2006年は、穀物価格は上昇したものの、大豆を除く主要作物の生産量が減少したほか、GDPも引き続き 6%以上増加したことから、農業生産の GDP比は前年に比べて低下している

(表Ⅰ-1)1。

年 30 50 70 80 90 2000 2004 2005 2006農業生産(A)GDP(B) 91.2 293.8 1,038.5 2,789.5 5,803.1 9,817.0 11,685.9 12,433.9 13,194.7A/B(%) 7.7% 6.4% 2.3% 1.8% 1.3% 0.7% 1.0% 0.8% 0.7%表Ⅰ-1 米国のGDPに占める農業生産の割合(注)農業生産、GDPとも名目値。農業生産は、Farmセクターの生産額。(出所)米国商務省経済分析局7.0 18.7 23.7 51.4 95.776.6 71.5 114.7 100.9(単位:10億ドル)

就業人口の面では、2005年の全就業人口 1億 7,425万人のうち、1.7%の 291万 4,000人が農業に就業している(表Ⅰ‐2)。

年 2002 2003 2004 2005全就業人口 (A) 166,633 167,554 170,513 174,250農業就業人口 (B) 3,077 3,031 2,949 2,914B/A (%) 1.8 1.8 1.7 1.7(単位:千人)表 I-2 米国の全就業者数に占める農業就業者数の割合(注)北米産業分類(NAICS)に基づく推計。農業就業人口は、農業経営者と被用者(パートタイマーを含む)の合計。(出所)米国商務省経済分析局 貿易収支においても、農産物は、米国の最も重要な輸出商品の一つであり、貴重な黒字分野である。 豊作に伴う価格の低迷などから 1996 年度をピークに減少してきた輸出額は、2000 年度以降、主要輸出仕向け国の経済回復、世界各地の天候不順による主産国の生産・輸出量の減少などの中、安定的な国内生産の推移、諸外国からの需要の高まりなどから増加に転じている。2007年度(2006年 10月~2007年 9 月)は、主要穀物価格の高騰などの結果、819億ドルと前年度比で 19.4%と大幅に増加している。総輸出に占めるシェアも、0.4%上昇して 8.1%となっている。また、近年、輸入が増加しており、2007年度も前年度比で 60億ドルの増加となったが、輸出が 133億ドルと大幅に増加し、黒字額が 73 億ドル増加となったことから、農産物貿易収支は米国全体の貿易収支が 8,825 億ドルの大幅な赤字となっている中で 119億ドルの黒字となり、その減少に歯止めがかかった。しかし、それでも、1996年度(273億ドル)の 1/2以下の水準にある(表Ⅰ-3)。 なお、2008年度(2007年 10月~2008年 9月)は、輸出額が 910億ドル、輸入額が 755億ドルで 155億ドルの黒字が予測されている(「4.農産物貿易の動向」参照)。

1 農業と食品産業など関連産業を合わせた生産額の GDP比は、2005年は 4.5%、2006年は 2008年 2月 1日現在未公表(米国農務省経済調査局、http://www.ers.usda.gov/AmberWaves/February08/Indicators/indicators.htm)

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表 I-3 米国の貿易に占める農産物貿易の位置年度(10~9月) 96 2002 2003 2004 2005 2006 2007輸出総額(A) 5,746 6,282 6,372 7,123 7,838 8,956 10,166農産物輸出(B) 598 533 562 624 625 686 819B/A (%) 10.4 8.5 8.8 8.8 8.0 7.7 8.1輸入総額(C) 7,953 11,203 12,243 13,971 16,107 18,243 18,991農産物輸入(D) 324 410 457 527 577 640 700D/C (%) 4.1 3.7 3.7 3.8 3.6 3.5 3.7貿易収支 ▲ 2,206 ▲ 4,921 ▲ 5,871 ▲ 6,848 ▲ 8,269 ▲ 9,287 ▲ 8,825農産物貿易収支 273 123 105 97 48 46 119(出所)米国農務省経済調査局(単位:億ドル)

世界各地の天候不順、諸外国からの需要の高まりなどの中、高い生産性、競争力を有する米国の農業の堅調な生産・輸出動向は、世界の食料市場における地位を一層向上させるとともに、世界一の農業国・食料供給国としての地位を確固たるものとしている。 農務省の 2007/2008 年度の予測によると、米国は、世界の穀物の 19.9%(トウモロコシの 43.3%、小麦の 9.3%)、大豆の 31.9%の生産割合を占めるものと見られている。また、同じく 2007/2008 年度の予測によると、世界の貿易(輸出)量に占める米国の割合は、穀物全体で 41.9%(トウモロコシ 66.0%、小麦 30.6%)、大豆は 35.8%になるものと見られている(農務省「World Agricultural Supply and

Demand Estimates, 2008.1」)。 畜産物でも、農務省の 2008年の予測によると、世界の牛肉の 21.8%、豚肉の 12.2%、鶏肉の 34.5%を生産するものと見られている。貿易(輸出)量では、BSE 感染牛発見の影響からの回復途上にある牛肉が世界の 10.7%(BSE感染牛発見前の 2003年は 22.1%)となっているものの、豚肉が 38.8%、鶏肉が 50.9%に上るものと見られている(農務省「Livestock and Poultry : World Markets and

Trade,2007.11」)。

2.農業構造 (1)農場数の減少と規模の拡大

2007 年の米国の農場(年間農産物販売高 1,000 ドル以上に限る。)数は、207 万 5,510 戸であり、前年に比べ 0.6%減少した。また、2007年の農地面積は、9億 3,092万エーカーであり、前年に比べ0.2%、151万エーカー減少した(2005~2006年は 78万エーカーの減少)。農場数、農地面積の減少は、小規模農場の経営者の経営廃止、大規模農家との経営統合の継続のほか、農場の非農業利用への転用が増加していることを反映しているものである(表Ⅰ-4)。

表 I-4 農場数、農地面積等の推移農場数 農地面積 平均農地面積(1,000戸) (1,000エーカー) (エーカー)97 2,191 956,010 43698 2,192 952,080 43499 2,187 948,460 4342000 2,167 945,080 4362001 2,149 942,070 4382002 2,135 940,300 4402003 2,127 938,650 4412004 2,113 936,295 4432005 2,099 933,210 4452006 2,089 932,430 4462007 2,076 930,920 449(注)プエルトリコのデータ(農場数1万3,500、農地面積60万エーカー、平均農地面積44エーカー)(出所)米国農務省農業統計局、「Farms, Land in Farms, and Livestock Operations 2008.2」 

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長期的に見ると、農場数は 1935 年の 680 万戸をピークとして大きく減少しており、2007 年はピーク時から約 70%の減少となっている。 また、農場数を販売額階層別に見ると、年間農産物販売高 1,000~9,999 ドルの小規模な階層では前年比 1.5%減の 113万 5,304戸となっている一方、50万ドル以上の階層では同 4.5%増の 8万 5096戸となっている。また、年間農産物販売高 10万ドルを境にしてみると、10万ドル未満の階層では前年比 1.2%減、10 万ドル以上の階層では同 2.4%増となっている。販売額階層別の構成比の変化は、経営統合、規模拡大、上昇を続ける農産物価格による収入の増加によって階層が上昇していることによるものであるが、2006~2007 年にかけては、経営統合や規模拡大によらずとも、農産物価格の上昇による収入の増加によって階層が上昇した農場が相当数あったものと見られている。

2007年の農地面積 9億 3,092万エーカーは、米国の国土面積 22億 6,400万エーカー(1エーカー=約 0.4ヘクタール)の約 41.1%を占めている(2002年農業センサスによれば、農場面積の 46.3%が農地(cropland)、42.1%が牧草地、8.1%が林地)。また、ピークである 1954 年の 12 億 600万エーカーから22.8%、1997年の 9億 5,601万エーカーから 2.6%の減少となっている。農場面積も、農場数と同様、販売額階層別に見ると、小規模な階層から大規模な階層へのシフトが進んでおり、年間農産物販売高1,000~9,999ドルの小規模な階層では前年比 1.8%減の 1億 1,264万エーカーとなっている一方、50万ドル以上の階層では同 2.0%増の 2億 1,784万エーカーとなっている。 なお、2007年において、販売額 2万 5,000ドル未満の階層は、農場数としては 67.8%を占めるが、農場面積では 19.6%を占めるに過ぎない。一方、販売額 50万ドル以上の階層は、農場数は 4.1%に止まるが、農場面積は 23.4%を占めている(表Ⅰ-5)。

表 I-5 販売額階層別、農場数・農地面積の構成比および平均農地面積2006年 2007年 2006年 2007年 2006年 2007年1,000~2,499 26.3 26.0 4.1 3.6 70 622,500~4,999 15.2 15.3 3.7 3.3 109 975,000~9,999 13.7 13.4 4.5 5.2 147 17410,000~24,999 11.9 13.1 7.5 7.5 281 25725,000~49,999 8.8 8.4 8.8 7.9 446 42250,000~99,999 7.9 7.1 11.5 12.0 649 759100,000~249,999 8.0 8.1 20.5 20.7 1,144 1,147250,000~499,999 4.3 4.5 16.5 16.4 1,713 1,636500,000~999,999 2.2 2.3 10.9 11.1 2,212 2,1661,000,000~ 1.7 1.8 12.0 12.3 3,152 3,067合計 100.0 100.0 100.0 100.0 446 449(注)販売額には、政府の補助金を含む。(出所)米国農務省農業統計局、「Farms, Land in Farms, and Livestock Operations 2008.2」農場数の構成比(%) 農場面積の構成比(%)平均農地面積(エーカー)販売額階層(ドル)

1農場あたりの平均農地面積は、2007年は 449エーカーと、前年に比べ 3エーカーの増加となった。経営統合、規模拡大などの影響で、2000年以降増加が続いているが、より大規模な階層へのシフトによって、販売額階層のうち、いくつかの階層では減少している。(表Ⅰ‐4、5)。 農業センサスのデータによると、1農場あたりの平均農地面積は、1960 年代から 1970 年代半ばまで大きく拡大、1980 年代後半からペースはやや鈍化したものの、その後再び拡大した。1990 年代後半には、縮小に転じたものの、2002年には再び拡大している(図Ⅰ‐1)。

また、農業センサス 2002 によると、1997 年から 2002 年までにかけて、規模別では 2,000 エーカー以上の階層および 10エーカー以上 50エーカー未満の階層が増加、販売額規模で見ても 50万ドル以上の階層および 2,500ドル未満の階層が増加しており、二極分化が進んでいることがうかがわれる(表Ⅰ-6)。

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なお、農業センサス 2007は、2009年 2月に公表される予定である。 (http://www.nass.usda.gov/census) 図 I-1 1農場あたりの平均農地面積

303 389 487352 440 449 440 462 491 4414312503003504004505005501959 1964 1969 1974 1978 1982 1987 1992 1997 2002(年)

(エーカー)

(注) 農業センサス 2002 において調査方法が変更されたため、2002 年のデータと 1997 年以前のデータとは整合しない。図中の 1997年のデータ(431エーカー)は、2002年との比較のために、農務省(USDA)により推計されたものである。 (出所)米国農務省農業統計局農業センサス 2002

表 I-6 米国農場の主要指標(農業センサス)02年 02年/97年比(%) 97年 97年 97年/92年比(%) 92年農場数(1,000戸) 2,129 ▲ 4 2,216 1,912 ▲ 1 1,925農場面積(1,000エーカー) 938,279 ▲ 2 954,753 931,795 ▲ 1 945,532一農場あたり平均(エーカー) 441 2 431 487 ▲ 1 491農地規模別農場数(1,000戸)1~9エーカー 179 ▲ 13 205 154 ▲ 7 16610~49 564 6 531 411 6 38850~179 659 ▲ 5 694 593 2 584180~499 389 ▲ 9 428 403 ▲ 6 428500~999 162 ▲ 9 179 176 ▲ 5 1861,000~1,999 99 ▲ 4 103 101 ▲ 1 1022,000~ 78 5 74 75 6 71農産物販売額(100万ドル) 200,646 ▲ 0 201,380 196,865 21 162,608一農場あたり平均(ドル) 94,245 4 90,880 102,970 22 84,459販売額別農場数(1,000戸)~2,500ドル 827 19 693 497 17 4232,500~4,999 213 ▲ 20 266 228 ▲ 2 2325,000~9,999 223 ▲ 17 268 238 ▲ 6 25210,000~24,999 256 ▲ 13 294 274 ▲ 9 30225,000~49,999 158 ▲ 12 180 171 ▲ 12 19550,000~99,999 140 ▲ 15 164 158 ▲ 16 188100,000~499,999 241 ▲ 15 282 277 ▲ 3 287500,000~ 71 1 70 69 47 47(注)2002年農業センサスにおいて調査方法が変更されたため、2002年のデータと1997年以前のデータとは整合しない。   図中の2002年と比較している1997年データは2002年との比較のために、農務省により推計されたものである。   農産物販売額には、政府の補助金を含まない。(出所)米国農務省農業統計局農業センサス2002

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(2)農業経営者

① 経営体 米国の農業経営2は、その 89.7%が家族または個人経営によって営まれており、個人共同経営(パートナーシップ) 、法人経営はわずかである。 なお、法人経営の 90.5%は、家族・親族が株式等の過半を所有している家族経営タイプのものとなっている。 家族または個人経営の農場は、農地の 66.3%、農家総販売額の 52.5%を占めている。一方、法人経営の農場は、数としては少ないが、その規模は大きく、平均年間販売額は、78 万 1,920 ドルとなっており、家族又は個人経営の 5 万 7,008 ドルの約 14 倍に相当する。また、個人共同経営(パートナーシップ)の平均年間売上高は、29万 4,934ドルとなっている。農地面積で見ても、個人経営、個人共同経営の農場の平均農地面積がそれぞれ 326 エーカー、1,130 エーカーとなっているのに対し、法人経営はは 1,469エーカーとなっている(表Ⅰ‐7)。

表 I-7 米国の経営形態別農場の概要(2002年) 法人計 家族中心 その他農場数(1,000戸) 2,129 1,910 130 74 67 7 16全農場に占める割合 100.0% 89.7% 6.1% 3.5% 3.1% 0.3% 0.8%農地面積(1,000エーカー) 938,279 621,800 146,462 108,340 99,020 9,320 61,678平均農地面積(エーカー) 441 326 1,130 1,469 1,485 1,315 3,845販売額(百万ドル) 207,192 108,863 38,221 57,668 44,686 12,983 2,440平均販売額(ドル) 97,320 57,008 294,934 781,920 670,281 1,832,396 152,115(注)販売額には、政府の補助金を含む。その他協同組合

(出所)米国農務省農業統計局農業センサス2002総計 個人又は家族 パートナーシップ 法人

② 農地の所有形態 米国の農業経営者3の 67.1%は全農地を所有している。また、農地の一部を所有し、一部を賃借している部分的農地所有者が 25.9%、すべて賃借に依存している全農地賃借者が 7.0%となっている。 平均農地面積(平均経営規模)としては、部分的農地所有者の 898エーカーが最大で、次いで全農地賃借者の 577 エーカーとなる。全農地所有者は、これらを大きく下回る 250 エーカーに過ぎない。 また、部分的農地所有者の農産物販売額(政府補助金を含む。)は全体の 45.8%を占め、経営する農地面積でも 52.8%を占める。部分的農地所有者の平均販売額が 17万 2,064ドル、全農地賃借者の平均販売額が 15万 1,269ドルとなっているのに対し、全農地所有者の平均販売額は、6万 2,822ドルに過ぎない。これらのことから、米国農業の主たる担い手は、農地を賃借して規模の拡大を図っていることが分かる(表Ⅰ‐8)。

2 以下、農業経営者の項では、特に断りがない限り、農業センサス 2002 に基づく 2002 年の数値を用いている。 3 農業センサス 2002における経営者(Principal Operator)とは、各農場での経営判断、日々の営農に責任を持つものをいう。同センサスでは、各農場1人としており、総数は、農場数と一致する。農地の所有形態については、センサスは、経営者単位で把握している建前であるが、実態は農場単位に近い。例えば、法人経営で農地は法人の所有の場合であっても、経営者による全農地保有に分類されている。

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表 I-8 米国の農業経営者の概要(2002年)経営者数 2,129 441 97,320<農地所有形態>全農地所有 1,428 67.1% 250 62,822一部所有一部賃借 551 25.9% 898 172,064全農地賃借 150 7.0% 577 151,269<専業・兼業>専業 962 45.2% - -兼業 1,167 54.8% - -<経営者の主業>農業 1,224 57.5% 630 145,184その他産業 905 42.5% 184 32,552<性別>男性 1,891 88.8% 465 105,419女性 238 11.2% 250 32,910<人種>白人 2,067 97.1% - -黒人 29 1.4% - -アメリカン・インディアン、ネイティブ・アラスカン 15 0.7% - -ハワイその他太平洋諸島の原住民 1 0.0% - -アジア系 8 0.4% - -二人種以上 8 0.4% - -(注)平均販売額には、政府補助金を含む。

平均販売額(ドル)

(出所)米国農務省農業統計局農業センサス2002

経営者数(千人) シェア 平均農地面積(エーカー)

③ 経営者の業態 米国の農業経営者の 54.8%が農業以外に職を持っており、専業は 45.2%。専業の割合は、97 年(37.6%)と比較して 8ポイント近く増加している。農業と他産業のどちらが主業かという観点からは、農業を主業とするものが 57.5%で、こちらも 97年(47.1%)と比較して 10ポイント以上増加している。 農業を主業とするものの平均農地面積は、630エーカーとその他産業を主とするものと比べて大きく、平均販売額も 14万 5,184ドルで、その他産業を主業とするものの 3万 2,552ドルを大きく上回っている。農業を主業とするものの販売額は、全体の 81.7%を占めており、米国農業は、農業を主業とする経営者によって支えられていると言える(表Ⅰ‐8)。 ④ 経営者の性別 経営者の 88.8%が男性。女性経営者は、97年から 28,035人増加したものの、全体の 11.2%に過ぎない。女性経営者の平均農地面積は、250 エーカーと小さく、平均販売額も 3 万 2,910 ドルと全体平均の 3分の 1程度(表Ⅰ‐8)。一部には、夫が死亡・リタイアした後、妻が経営者にならざるを得ないという状況があったものと見られる。 ⑤ 経営者の人種 経営者の人種別では、白人が圧倒的に多く、全体の 97.1%を占める(表Ⅰ‐8)。農業が古くから白人開拓者によって担われてきたという歴史的経緯のほか、多大な初期投資を必要とし、新規参入が難しいという農業の特性も影響しているものと考えられる。一方、労働力の点では、特に野菜、果実農業の分野で移民労働力に頼る傾向も見られ、テキサス、ミシシッピ、アラバマ、ジョージア、ルイジアナなど南部各州では黒人の経営者も多くなっている。 ⑥ 高齢化等 米国の農業経営者の平均年齢は、55.3 歳であり、97 年からの 5 年間で 1.3 歳上昇した。年齢階

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層別にみると、45~54 歳の層が最も多く、全体の約 27%を占める。次に多いのが、65 歳以上の層で全体の約 26%。45~54歳の層では、農業を主業とする者と他産業を主業とする者が近似しているのに対し、65歳以上では農業を主業とする経営者が圧倒的に多く 40万人に達しており、他産業ではリタイアしても、農業だけは続けるという選択が多いものと考えられる。一方、35 歳未満の若年経営者は、極めて少ない(図Ⅰ‐2) 図Ⅰ-2 米国の農業経営者の年齢構成

050100150200250300350400450

25歳以下 25~34 35~44 45~54 55~64 65歳以上

(1,000人)農業を主業他産業を主業

(出所)米国農務省農業統計局農業センサス 2002

3.主要農産物の概要と需給動向 (1)米国の農業生産の概要

米国における地域別の農業生産の特色は、以下のとおり(%は米国全体において当該地域が占める割合)。

(出所)米国農務省 http://www.ers.usda.gov/Briefing/ARMS/ResourceRegions/ers_reg_color.htm

図Ⅰ-3

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①ベイスン アンド レンジ (Basin and Range) 【ワシントン州東部、オレゴン州内陸部、アイダホ州北部、ネバダ州、ユタ州、モンタナ州西部、ワイオミング州西部、コロラド州西部、ニューメキシコ州西部と一部の海岸地帯、アリゾナ州東北・西北部】 非家族型経営農場が最大の割合。全国の農地面積に占める割合は最低。農場の4%、農業生産額4%、農地の4%を占める。牛、小麦、ソルガムが中心。

②ノーザン グレイト プレーン (Northern Great Plains) 【モンタナ州東部、ワイオミング州東部、コロラド州北部、ノースダコタ州、サウスダコタ州、ネブラスカ北西部】 農場の規模は最大、人口は最小。農場の5%、農業生産額は6%、農地は 17%を占める。小麦と牛や羊の畜産物が中心。

③ハートランド(Heartland) 【ミネソタ州南部、アイオワ州、ネブラスカ州北東部、ミズーリ州北中部、イリノイ州、インディアナ州、ケンタッキー州西部、オハイオ州中西部】 農場数が全米最大(22%)。農業生産額も大きく(23%)、農地面積も 27%を占める。穀物、肉用牛農家が中心。

④ノーザン クレセント (Northern Crescent) 【ミネソタ州中部・北部、ウィスコンシン州、ミシガン州、オハイオ州北部、ペンシルバニア州、ニューヨーク州、ニュージャージー州、コネチカット州、マサチューセッツ州、バーモント州、ニューハンプシャー州、メイン州、ロードアイランド州】 人口最大。農場の 15%、農業生産額の 15%、農地面積の9%を占める。酪農、一般作物、穀物が中心。

⑤フルーツフル リム (Fruitful Rim) 【ワシントン州中西部、オレゴン州海岸地帯・北東部、アイダホ州中南部、カリフォルニア州中南部海岸地帯、アリゾナ州南部・北部、テキサス州南部海岸地帯、フロリダ州、ジョージア州南東部海岸地帯、サウスカロライナ州南部海岸地帯】 超大型の家族型経営農場と非家族型経営農場の割合が最大。農場の 10%、農業生産額の 22%、農地の8%を占める。果物、野菜、苗、綿花農家が中心。

⑥プレーリー ゲートウェイ (Prairie Gateway) 【ニューメキシコ州南東部、コロラド州南東部、ネブラスカ州南部、カンザス州、オクラホマ南西部】 小麦、大麦、米、綿花の生産は全米第 2位。農場の 13%、農業生産額の 12%、農地の 17%。肉用牛、小麦、ソルガム、綿花、米農家が中心。

⑦ミシシッピー ポータル (Mississippi Portal) 【ルイジアナ州東北部・海岸地帯、ミシシッピー州中部・北部、テネシー州西部、アーカンソー州東部】 小型・大型経営農場が混在している。農場の5%、農業生産額の4%、農地面積の5%を占める。綿花、米、養鶏、養豚農家が中心。

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⑧サザン シーボード (Southern Seaboard) 【テキサス州東部、ルイジアナ州北西部、アーカンソー州南部、ミシシッピ州南東部海岸地帯、アラバマ州東部・西部、ジョージア州中西部、サウスカロライナ州内陸部、ノースカロライナ州、バージニア州中部・海岸地帯、ワシントン DC、デラウエアー州】 小型・大型農場が混在している。農場の 11%、農業生産額の9%、農地面積の6%を占める。肉用牛の一時飼育、一般作物、養鶏農家が中心。

⑨イースタン アプランズ (Eastern Uplands) 【オクラホマ州東部、ミズーリ州南部、アーカンソー州北中部、アラバマ州北部、テネシー州中東部、ケンタッキー州中東部、ウエストバージニア州、オハイオ州東部、ペンシルバニア州南西部】 どの地域よりも小型経営農場が多い。農場の 15%、農業生産額の5%、農地面積の6%を占める。肉用牛の一時飼育、たばこ、養鶏農家が中心。

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2006年の米国における農畜産物全体の生産額(農家受取額)は、前年を 3億 3,000万ドル以上上回り、2,392 億 7,200 万ドルとなった。主要な農産物について生産額(農家受取金額)別に見ると、牛、乳製品、トウモロコシ、ブロイラー、大豆の順となっている。主要な生産州としては、畜産物がテキサス、アイオワ、ネブラスカ、カリフォルニア、カンザスの順、農産物がカリフォルニア、アイオワ、イリノイ、テキサス、フロリダの順となっている(表Ⅰ-9) 。 表Ⅰ-9 米国の主要農産物の農家受取額ランキング(2006年)(上段:生産州、下段:農家受取金額 (100万ドル))1 2 3 4 5 6 7 8 9 10CA TX IA NE KS MN IL NC FL WI全農畜産物 239,272 31,403 16,027 15,108 12,042 10,336 9,770 8,636 8,199 6,974 6,791TX IA NE CA KS NC WI MN OK CO畜産物 119,320 10,324 7,879 7,683 7,615 6,971 5,274 4,656 4,642 4,120 4,062CA IA IL TX FL MN WA NE IN OH農産物 119,951 23,788 7,229 6,841 5,703 5,669 5,128 4,524 4,359 3,919 3,448TX NE KS CO OK IA SD CA MO MT牛 1 49,148 7,441 6,629 6,247 3,271 2,751 2,546 1,876 1,676 1,228 1,117CA WI NY PA ID MN TX MI NM WA乳製品 2 23,422 4,492 3,075 1,610 1,561 1,282 1,074 947 936 912 686IA IL NE MN IN OH KS WI MO SDトウモロコシ 3 21,716 4,206 3,594 2,403 2,029 1,851 987 861 789 734 731GA AR AL NC MS TX DE CA KY SCブロイラ- 4 18,852 2,731 2,325 2,162 2,088 1,772 1,265 739 629 604 563IA IL MN IN NE OH MO SD AR ND大豆 5 16,921 2,761 2,510 1,676 1,520 1,304 1,164 1,028 696 604 588CA FL TX OR NC MI OH PA NY GA温室・苗木 6 16,892 3,804 1,753 1,496 1,040 1,027 642 604 411 409 400IA NC MN IL NE IN MO OK SD OH豚 7 14,085 4,153 1,917 1,751 803 728 720 581 566 404 395KS ND MT WA SD OK ID MN NE OH小麦 8 7,318 1,273 1,060 688 521 397 384 344 301 257 203TX AR CA GA MS TN LA NC MO AL綿花 9 6,173 1,906 642 604 590 554 335 308 303 250 183CA ID TX OR WA CO PA NM AZ MN牧乾草 10 4,912 620 329 327 274 268 255 207 157 144 136IA GA AR OH AL NC TX PA IN CA鶏卵 11 4,340 407 369 332 287 274 258 254 238 225 213MN NC MO AR VA IN CA SC WI IA七面鳥 12 3,483 569 518 317 304 261 236 197 178 157 123CA WA OR NY PA MI VA NC TX GAぶどう 13 3,332 3,032 144 60 37 21 10 9 5 4 4ID WA WI CA CO FL ND ME OR TXジャガイモ 14 2,930 643 498 212 187 182 145 137 130 116 115CA FL OH VA GA TN PA MI IN NYトマト 15 2,281 1,139 551 126 99 78 50 37 33 31 31WA NY MI CA PA OH OR NC VA WIりんご 16 2,100 1,378 204 105 76 54 31 26 23 22 22CA ー ー ー ー ー ー ー ー ーアーモンド 17 2,040 2,040CA AZ CO NJ ー ー ー ー ー ーレタス 18 2,008 1,608 389 7 5AR CA LA MS MO TX ー ー ー ー米 19 1,773 849 372 210 126 112 105FL CA TX AZ ー ー ー ー ー ーオレンジ 20 1,759 1,205 543 9 2(出所)米国農務省経済調査局(注)AR:ア-カンソ-、AL:アラバマ、AZ:アリゾナ、CA:カリフォルニア、CO:コロラド、FL:フロリダ、GA:ジョ-ジア、ID:アイダホ、IL:イリノイ、IN:インディアナ、IA:アイオワ、KS:カンザス、LA:ルイジアナ、MD:メリ-ランド、ME:メイン、MI:ミシガン、MN:ミネソタ、MO:ミズ-リ、MS:ミシシッピ、MT:モンタナ、NC:ノ-ス・キャロライナ、ND:ノ-ス・ダコタ、NE:ネブラスカ、NJ:ニュ-・ジャ-ジ-、NM:ニュ-メキシコ、NY:ニュ-・ヨ-ク、 OH:オハイオ、OK:オクラホマ、OR:オレゴン、PA:ペンシルバニア、SC:サウス・キャロライナ、SD:サウス・ダコタ、TN:テネシ-、TX:テキサス、VA:ヴァ-ジニア、WA:ワシントン、WI:ウィスコンシン

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(2)主要農産物の特徴と需給動向

① 穀物全般(表Ⅰ‐10) 2006/2007年度の米国の穀物生産は、燃料価格や肥料価格の高騰に伴う投入コストの増大や大豆へのシフトによるトウモロコシの作付面積の減少、カンザスやノースダコタなどの干ばつによる小麦の減産に伴って、3 億 3,567 万トン(前年度比 7.6%減) となった。需要については、小麦、コメ、トウモロコシの減産の影響で輸出が減少したほか、国内消費も減少し、全体で 2億 7,790万トン(同 0.8%減)となった。ただし、トウモロコシのエタノール需要の増加などによって国内消費の減少幅は小さく、需要量が生産量を大きく上回る結果となったことから、期末在庫は 4,985万トン(同 30.5%減)と大幅に減少した。 2007/2008年度の穀物生産については、トウモロコシへの再シフトによって大豆の作付面積は大幅に減少したものの、エタノール需要の増加に伴うトウモロコシの作付面積の大幅な増加、小麦の生産の回復に伴って、4億 1,362万トン(前年度比 23.2%増)となった。需要については、米国ドル安、天候不順などによる主産国の原産などの影響で輸出が大幅に増加し、1億 606万トン(同 23.2%増)となったほか、国内消費も増加し、全体で 3億 1,530万トン(同 13.5%増)となった。このように、前年度に引き続き、需要量が生産量を上回ることから、期末在庫は 4,809万トン(同 3.5%減)とさらに減少することが予測されている(表Ⅰ‐10)。

表 I-10 世界と米国の穀物需給 (単位:百万トン)世界 米国 世界 米国 世界 米国 世界 米国 世界 米国穀物計2005/2006 2,016.82 363.16 2,420.60 442.68 253.43 90.72 2,031.44 280.27 389.16 71.682006/2007 1,991.93 335.67 2,381.09 413.87 255.18 86.12 2,044.66 277.90 336.43 49.852007/2008 2,075.21 413.62 2,411.63 469.45 253.32 106.06 2,102.54 315.30 309.09 48.09小麦2005/2006 621.46 57.28 772.08 74.19 116.16 27.29 624.43 31.36 147.65 15.552006/2007 593.66 49.32 741.31 68.18 110.69 24.73 616.93 31.04 124.38 12.412007/2008 603.00 56.25 727.38 71.11 104.68 31.98 616.45 31.19 110.93 7.94粗粒穀物計2005/2006 977.76 298.76 1,156.19 359.61 107.12 59.77 991.55 245.07 164.64 54.772006/2007 980.63 280.11 1,145.27 337.43 115.24 58.45 1,008.79 242.81 136.48 36.172007/2008 1,051.58 351.06 1,188.07 390.07 119.38 70.59 1,062.45 280.13 125.62 39.36コメ(精米)2005/2006 417.60 7.11 492.33 8.87 30.16 3.66 415.46 3.84 76.87 1.372006/2007 417.64 6.24 494.51 8.26 29.25 2.94 418.95 4.05 75.57 1.272007/2008 420.62 6.31 496.18 8.26 29.26 3.49 423.65 3.99 72.54 0.79トウモロコシ2005/2006 696.37 282.31 827.73 336.23 80.93 54.20 704.03 232.06 123.70 49.972006/2007 703.85 267.60 827.55 317.87 91.77 53.97 720.22 230.79 107.33 33.112007/2008 766.72 332.09 874.05 365.58 94.34 62.23 772.72 266.84 101.33 36.52大豆2005/2006 220.44 83.37 332.00 90.42 63.99 25.58 215.17 52.61 52.83 12.232006/2007 235.57 86.77 288.40 99.25 70.96 30.43 224.66 53.20 61.58 15.622007/2008 220.34 70.36 281.92 85.98 75.54 27.08 235.26 54.30 46.24 4.76(注)1 2006/2007年は見通し。2007/2008年は予測。   2 年度は、それぞれの穀物、地域の市場年度。   3 穀物計は、小麦、粗粒穀物、コメ(精米)の合計。   4 粗粒穀物は、トウモロコシ、ソルガム、大麦、オーツ麦、ライ麦の合計(世界は、雑穀、混合穀物を含む。)(出所)米国農務省「World Agricultural Supply and Demand Estimates 2008.1」

期末在庫生産 供給計 貿易(輸出) 消費

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ア トウモロコシ(表Ⅰ‐11)

1) 概観 米国中西部の主要作物であり、主な生産州はアイオワ、イリノイ、ネブラスカ、ミネソタ、インディアナなどである。生育には、一定量の水分と肥沃な土壌等を必要とするため、この条件に適合した米国中西部のコーンベルト地帯での生産が盛んであるが、近年は品種改良や作付技術の進展等により、近年は比較的乾燥しているコーンベルトの西側へ生産の限界を拡大している。 生産地域は大豆とほぼ重なっており、従来、同じ畑でトウモロコシと大豆を 1 年ごとにローテーションすることが一般的であった4が、最近は、トウモロコシの連作も徐々に増えてきている。 遺伝子組換え技術により害虫耐性の品種が開発されていること、品種改良により干ばつに強くなっていること、作付技術の進展等によって 1エーカー当たりに作付される種子の量が増えていること(密植)などから、近年飛躍的に単収(一定面積当たりの収穫量)が増大している。なお、2007年の遺伝子組換え採用率は、73%である(「(3)遺伝子組換え作物の作付状況」参照)。 需要面では、従来、6 割程度が国内の家畜の飼料用、2 割が食用・産業用(スターチ、甘味料生産等)、2割が輸出用であったが、エタノール原料としての利用が急激に増加しており(Ⅲ 米国エタノール事情参照)、食用・産業需要の割合が年々増加している。輸出は、中国の国内消費の増加に伴う輸出の減少などもあり、米国が世界の輸出量の 7割程度を占める状況となっている。

2) 2006/2007年度(2006年 9月~2007年 8月)の需給見通し

2006 年産トウモロコシの作付面積は、燃料価格と肥料価格の高騰のために、より投入コストの少ない大豆などに作付がシフトしたことから、前年度から 4.3%減の 7,830 万エーカーとなった。コーンベルト西部や大平原地帯で一部乾燥被害があったものの、基本的には順調に成育し、単収が史上第 2位の 149.1ブッシェル(1ブッシェル=25.401㎏) /エーカーとなった結果、生産量は、105億 3,500万ブッシェルとなった。これは、2004年、2005年に次ぐ史上第 3位の生産量であるものの、前年度からは 5.2%の減少。2006/07 年度の総供給量は、125 億 1,400 万ブッシェル(前年度比5.5%減)となった。 一方、2006/2007 年度のトウモロコシの需要は、原油価格の高騰、2012 年のエタノール年間使用目標を 75億ガロン(1ガロン=約 3.79ℓ)とする「2005年エネルギー政策法」(Energy Policy Act of 2005)の成立などを背景に、エタノール工場の建設が続いたことから、産業用需要のうちエタノール需要が 21億 1,700万ブッシェル(前年度比 32.1%増)となった。しかし、飼料用、輸出がいずれも減少したことから、全体では 112億 1,000万ブッシェル(前年度比 0.5%減)となった。飼料需要は、DDGS(Distiller’s Dried Grain with Solubles)5による代替と価格高騰による需要減少が進んだことにより、55 億 9,800 万ブッシェルと減少し、これがエタノールの増加幅を上回ったことから、国内需要全体では前年度比 0.5%減の 90億 8,600万ブッシェルとなった。輸出は、前年度より 0.4%減少したものの、ウクライナの輸出減少、堅調な世界需要などを背景に、21 億 2,500 万ブッシェルと依然として高水準にある。 供給量の減少が、需要量の減少を大きく上回った結果、期末在庫は、前年度末を大幅に下回る 13億 400万ブッシェルに急減し、在庫率も 11.6%とタイトな状況となった。 期末在庫の急減を反映して、価格は上昇傾向で推移し、平均農家受取価格は、年度平均で 3.04ドル/ブッシェルと 1995/1996年度以来の高水準となった。

4 ローテーションにより、それぞれの作物に固有の害虫の発生を抑制できるほか、トウモロコシの生育に必要な窒素分を大豆が空気中から土中に取り込む効果もある。 5 トウモロコシのでん粉質を発酵・蒸留させてエタノールを製造する過程で発生する副産物で、家畜の飼料に用いられる。

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3) 2007/2008年度(2007年 9月~2008年 8月)の需給予測 2007 年産トウモロコシの作付面積は、エタノール需要の大幅な増加のために、大豆からトウモロコシへ作付が再シフトしたことから、前年度から 19.5%増の 9,360万エーカーとなることが予測されている。2007年は、中南部で華氏 100度(摂氏約 37.8度)以上を記録するなど高温が続いたことによる乾燥被害によって、州ごとの状況に差が見られるが、全体としては平年を上回る降水量もあり、収穫面積や単収に大きな影響を与えることはなく、収穫面積は 8,650 万エーカー(前年度比 22.5%増)となった。単収も 2004 年産の 160.4ブッシェル/エーカーには及ばないものの、史上第 2 位であった前年度を上回る 151.1 ブッシェル/エーカーとなることが予測されている。この結果、生産量は史上最高となる 130億 7,400万ブッシェル(同 24.1%増)となり、総供給量も同じく史上最高の 143億 9,300万ブッシェル(同 15.0%増)となることが予測されている。 一方、2007/2008年度のトウモロコシの需要は、高止まりする原油価格に加え、新エネルギー法

(Energy Independence and Security Act of 2007)の成立などによって、新たに多くのエタノール工場の稼動・建設が増加することを踏まえ、エタノール需要が 32 億ブッシェル(前年度比 51.2%増)となることが予測されている(「Ⅲ 米国エタノール事情」参照)。また、食肉、牛乳、鶏卵の増産予測から飼料用が前年度比 6.3%増となるほか、他国の穀物需給の逼迫、米国ドル安による米国産への堅調な需要に加え、2008年 1月 1日から北米自由協定(NAFTA)に基づいてメキシコへの輸出関税が撤廃されたことから輸出が同 15.3%増の 24億 5,000万ブッシェルとなることが予測されている。これは、28 年ぶりに史上最高を更新するものである。この結果、全体では 129 億 5,500 万ブッシェル(同 15.6%増)となることが予測されている。 供給量、需要量ともに増加するが、供給量が需要量を上回る結果、期末在庫は前年度末よりも増加し、14億 3,800万ブッシェル(前年度比 10.3%増)となるものの、2008年 1月の農務省の発表では市場予測の下限を下回る予測となっている。また、エタノールや飼料用需要の増加によって、需要量が前年度比で大きく増加したことから、在庫率は 11.1%となり、前年度を下回ることが予測されている。

表 I-11 米国のトウモロコシの需給2000/ 2001/ 2002/ 2003/ 2004/ 2005/ 2006/ 2007/2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008作付面積(100万エ-カ-) 79.6 75.8 78.9 78.6 80.9 81.8 78.3 93.6収穫面積(100万エ-カ-) 72.4 68.8 69.3 70.9 73.6 75.1 70.6 86.5単収(ブッシェル/エ-カー) 136.9 138.2 129.3 142.2 160.4 148.0 149.1 151.1総供給量(100万ブッシェル)11,639 11,416 10,578 11,190 12,776 13,237 12,514 14,393 期首在庫 1,718 1,899 1,596 1,087 958 2,114 1,967 1,304 生産量 9,915 9,507 8,967 10,089 11,807 11,114 10,535 13,074 輸入 7 10 14 14 11 9 12 15総需要量(100万ブッシェル) 9,740 9,820 9,491 10,232 10,662 11,270 11,210 12,955 国内消費 7,799 7,915 7,903 8,332 8,844 9,136 9,086 10,505  飼料、その他 5,842 5,868 5,563 5,795 6,158 6,155 5,598 5,950  食用、産業用等 1,957 2,046 2,340 2,537 2,686 2,981 3,488 4,555  うちエタノール - - 996 1,168 1,323 1,603 2,117 3,200 輸出 1,941 1,905 1,588 1,900 1,818 2,134 2,125 2,450期末在庫(100万ブッシェル) 1,899 1,596 1,087 958 2,114 1,967 1,304 1,438在庫率(%) 19.5 16.3 11.5 9.4 19.8 17.5 11.6 11.1農家価格(ドル/ブッシェル) 1.85 1.97 2.32 2.42 2.06 2.00 3.04 3.70-4.30(注)1 2006/2007年は見通し。2007/2008年は予測。   2 トウモロコシの穀物年度は、9月1日~8月31日。   3 トウモロコシ1ブッシェル=25.401kg。(出所)米国農務省「World Agricultural Supply and Demand Estimates 2008.1」

年度

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市場予測を下回る期末在庫、在庫率の減少のほか、エタノール需要の中長期的な拡大予測、米国の景気後退への懸念、株式市場から商品市場への投機資金のシフトなどによって、先物価格、現物価格はともに上昇している。2008 年後半には、建設中のエタノール工場の多くが稼動を予定していることもあり、シカゴ商品取引所(CBOT)における先物価格は 2008年 1月 14日に 5.12ドル/ブッシェル(2008 年 3 月限)で取引を終了するなど、1996 年 7 月に記録した史上最高値の 5.54 ドル/ブッシェル(1996 年 7 月限)に迫る勢いで推移しているほか、2008 年の現物価格は 4.25~4.75ドル/ブッシェルという有力な見通しもある。これらのことから、平均農家受取価格は、年度平均で 3.70~4.30ドル/ブッシェルと前年度を大きく上回るものと予測されている。

イ 大豆(表Ⅰ‐12)

1) 概観 米国中西部の主要作物であり、主な生産州はアイオワ、イリノイ、ミネソタ、ネブラスカ、インディアナなどである。 トウモロコシの生産地域と重なる部分が多いが、南部の綿花地帯で綿花に代わって作付けされることがあるほか、コメや麦との輪作も行われていることなどから、作付範囲はトウモロコシよりも広範囲に及ぶ。 古くから作付けされてきたトウモロコシや小麦などと異なり、大豆は、1930 年代頃から、トウモロコシなどの裏作として徐々に導入が進んできた。

90年代後半から、除草剤に耐性をもつ遺伝子組換え品種が導入されており、コスト削減につながっている。2007年の遺伝子組換え採用率は 91%に上る(「(3)遺伝子組換え作物の作付状況」参照)。 需要面では、6割程度が搾油用に供されている。圧搾により、大豆油と大豆粕が生産され、大豆油は食用・加工用に、大豆粕は家畜飼料用に用いられている。近年、大豆油の用途の一つとして、ディーゼルエンジン用の燃料(バイオディーゼル)向けが増加している(2006 年のバイオディーゼル生産量は、約 2億 2,500万ガロンで 2004年の 9倍に上る。2007年の生産量は約 3億 5,000万ガロンと見込まれている)。搾油用以外では、直接食用に用いられる部分はごくわずかで、残りの 4 割程度は輸出される。輸出市場においては、全世界の輸出の 4 割程度を占めているものの、南米(ブラジル、アルゼンチン)産大豆が競争力をつけてきており、シェアは減少傾向にある。

2) 2006/2007年度(2006年 9月~2007年 8月)の需給見通し

2006年産の大豆の作付面積は、燃料価格と肥料価格の高騰によるトウモロコシからのシフトの影響で 7,550万エーカー(前年度比 4.9%増)に増加した。単収は、大平原地域及び南部での高温、乾燥被害の影響で、42.7ブッシェル(1ブッシェル=27.216㎏)/エーカーと前年度に比べわずかに減少したが、作付面積の増加によって生産量は、31億 8,800万ブッシェル(同 4.1%増)となり、これまで最高であった 2004 年を上回る史上最高を記録した。この結果、期首在庫を加えた 2006/07 年度の総供給量は、36億 4,700万ブッシェル(同 9.8%増)となった。 一方、2006/2007年度の需要は、中国の需要拡大などの影響で、輸出が 11億 1,800万ブッシェル(前年度比 18.9%増)と大幅に増加したほか、国内需要も増加したことから、全体では 30億 7,300万ブッシェル(同 7.0%増)となった。 このように、需要が増加したものの、生産の増加がこれを上回ったことから、期末在庫は前年度を 27.8%上回る 5億 7,400万ブッシェルに増加、在庫率も 18.7%と高水準となった。 高水準の在庫にもかかわらず、小麦、トウモロコシの価格高騰に追随する形で価格が上昇し、平均農家受取価格は 6.43 ドル/ブッシェルとローンレート6(5.00 ドル)を上回る水準で推移すると見 6 市場価格がこの価格(ローンレート)を下回った場合、価格支持有志制度の利用により、生産者にはローンレート

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込まれている。

3) 2007/2008年度(2007年 9月~2008年 8月)の需給予測 2007年産の大豆の作付面積は、エタノール需要の大幅な増加のために、大豆からトウモロコシへ作付が大きく再シフトしたことから、前年度比 15.8%減の 6,360万エーカーと予測されている。単収は、サウスダコタ、ミシガン、インディアナ、オハイオで増加したものの、イリノイ、ミネソタ、ネブラスカ、アイオワの減少によって相殺され、41.2 ブッシェル/エーカーとなり、これも前年度に比べ減少した。作付面積、単収ともに前年度に比べて減少したことから、生産量は、25 億

8,500万ブッシェル(前年度比 18.9%減)となり、過去 4年で最小となることが予測されている。この結果、期首在庫を加えた 2007/2008 年度の総供給量は、31 億 6,500 万ブッシェル(同 13.2%減)となった。 一方、2007/2008年度の需要は、輸出が 9億 9,500万ブッシェル(前年度比 11.0%)と予測されている。急激な供給減少にも関わらず、2007年 11月までは中国の旺盛な需要などもあり、記録的なペースであった前年度に比べてもさほど遜色ないペースで輸出が進んだものの、他国の需要が落ち着きを見せ始め、同 12月からペースに翳りが出てきたことから、国内の圧搾高の利ざやによって輸出増加が続いた前年度には及ばないものと見られている。全体では、29 億 9,000 万ブッシェル(同 2.7%減)となることが予測されている。 このように、需要が減少したものの、その幅は小さい一方で、生産・供給が大きく減少したことから、期末在庫は前年度を 69.5%下回る 1億 7,500万ブッシェルとなり、在庫率も 5.9%まで落ち込むことが予測されている。

表 I-12 米国の大豆の需給2000/ 2001/ 2002/ 2003/ 2004/ 2005/ 2006/ 2007/2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008作付面積(100万エ-カ-) 74.3 74.1 74.0 73.4 75.2 72.0 75.5 63.6収穫面積(100万エ-カ-) 72.4 73.0 72.5 72.5 74.0 71.3 74.6 62.8単収(ブッシェル/エ-カー) 38.1 39.6 38.0 33.9 42.2 43.0 42.7 41.2総供給量(100万ブッシェル) 3,052 3,141 2,969 2,638 3,242 3,322 3,647 3,165 期首在庫 290 248 208 178 112 256 449 574 生産量 2,758 2,891 2,756 2,454 3,124 3,063 3,188 2,585 輸入 4 2 5 6 6 3 9 6総需要量(100万ブッシェル) 2,804 2,933 2,791 2,525 2,986 2,873 3,073 2,990 搾油 1,640 1,700 1,615 1,530 1,696 1,739 1,806 1,830 種子 91 90 89 92 88 93 78 86 その他 78 79 42 17 104 101 70 79 輸出 996 1,064 1,044 887 1,097 940 1,118 995期末在庫(100万ブッシェル) 248 208 178 112 256 449 574 175在庫率(%) 8.8 7.1 6.4 4.4 8.6 15.6 18.7 5.9農家価格(ドル/ブッシェル) 4.54 4.38 5.53 7.34 5.74 5.66 6.43 9.90-10.90(注)1 2006/2007年は見通し。2007/2008年は予測。   2 大豆の穀物年度は、9月1日~8月31日。   3 大豆 1ブッシェル=27.216kg。(出所)米国農務省「World Agricultural Supply and Demand Estimates 2008.1」

年度

また、作付面積が大幅に減少したことに伴い、2007年 6月頃から右肩上がりで上昇を続けてきた大豆相場は、同 11 月末にシカゴ商品取引所(CBOT)において、2008 年 1 月限が 34 年ぶりの高値となる 1ブッシェル当たり 11ドル台を突破した(コラム1参照)。2008年に入ってからも、大手 と市場価格の差額が補填される(詳細は、「Ⅱ農業政策 1. 2002年農業法の概要」参照)。

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金融機関の相場水準の予想引き上げ、原油価格の高騰による投機資金の商品市場への流入の活発化などによって、現物、先物価格とも一段と押し上げられた。2008年 1月限が同 1月 11日に 12ドル 86セント/ブッシェルまで上昇して取引を終えたほか、2008年 7月限が同 1月 3日に 1973年 6月に記録した史上最高値 12ドル 90セント/ブッシェルを超える 12ドル 92セント/ブッシェルを記録し、史上最高値を更新した。さらに、2008年 1月 14日には 13ドル 76セント 3/4/ブッシェルまで上昇するなど記録的な価格の高騰が続いている。このような状況を反映して、平均農家受取価格は、年度平均で 9.90~10.90 ドル/ブッシェルと前年度に比べて大幅に上昇し、史上最高となることが予測されている。

ウ 小麦(表Ⅰ‐13、14)

1) 概観 小麦は、開拓時代から米国で生産されてきた代表的作物である。トウモロコシや大豆と比較して少量の雨量で生産可能なため、比較的広範囲で作付けされている。主な産地は、カンザス、ノースダコタ、モンタナ、ワシントン、アイダホなど大平原(グレートプレーンズ)から西の半乾燥地域。コーンベルト地帯でも生産可能であるが、トウモロコシの方が面積当たり価額(単収×価格)が高いこと(2007/2008年度で 2倍程度)もあって、トウモロコシを選択する農家が多く、この地帯では、トウモロコシ、大豆のローテーション補完的作物の域を出ない。 米国産小麦は、作付時期によって春小麦(ノースダコタ、ミネソタ等)、冬小麦(カンザス、ワシントン、モンタナ、オクラホマ、テキサスなど)に分けられる。また、品種(および作付時期)によって、次の 6種類に分類される7。 ① 硬質赤色冬小麦(Hard Red Winter:製粉特性が高く、用途が広い品種。パンの原料のほか、アジア麺の原料、一般の小麦粉、他の品種とのブレンド用にも用いられる。) ② 硬質赤色春小麦(Hard Red Spring:家庭用パン、クロワッサン、ベーグル、ピザ生地の原料のほか、他の品種とのブレンド用に用いられる。タンパク含有量が高い。) ③ 軟質赤色冬小麦(Soft Red Winter:製粉特性が高く用途が広い。パン原料のほか、一般の小麦粉、他の品種とのブレンド用に用いられる。) ④ デュラム小麦(Durum:春小麦。最も硬質で、琥珀色と高グルテン含有が特徴。主にパスタ製品の原料に用いられる。) ⑤ 硬質白色小麦(Hard White:主に冬小麦。新しい品種。アジア麺のほか、全粒(whole wheat)製品に適性がある。) ⑥ 軟質白色小麦(Soft White:主に冬小麦。含有水分が少なく、抽出歩留まりが高い。ケーキ、菓子の原料のほか、アジア麺、中東の平パンの原料にも向いている。) 需要は、国内需要 5割強、輸出 5割弱程度。とうもろこし、大豆と異なり、カナダ、オーストラリア、

EU、アルゼンチン、ロシア、ウクライナなど産地が多く、競争が激しいこと、品種によって用途が異なることもあって、輸出市場において米国が極端に大きな地位を占めている訳ではない。

2) 2006/2007年度(2006年 6月~2007年 5月)の需給見通し

2006年産の小麦の生産は、18億 1,200万ブッシェル(1ブッシェル=27.216㎏)と前年度比 13.9% 7 U.S.Wheat Associatesによる分類。白色品種は、従来、硬軟を区別していなかった(ほとんどが軟質)。近年硬質のものの作付けが増えたこと、硬質と軟質で用途が異なることなどから、両者を区別するようになっている。農務省でも、2005年から両者を区別して生産データを公表しているが、World Agricultural Supply and Demand Estimatesの需給見通しでは、依然として白色品種の硬軟を区別していない。

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の減少となった。冬小麦は、大平原地域、特に主産地であるカンザスの干ばつで、前年度比 13.4%減の 12億 9,800万ブッシェルとなった。デュラム小麦は、作付が大きく減少した上、主産地ノースダコタで高温、乾燥の被害を受けて単収も激減、生産量は前年比 47.1%減の 5,348万ブッシェルとなった。その他春小麦も、同様の高温、乾燥の影響で、生産量は 4 億 6,050 万ブッシェル(前年度比8.7%減)となった。この結果、2006/07年度の期首在庫を含めた総供給量は 25億 500万ブッシェル(同 8.1%減)となった。

2006/2007 年度の需要は、食用、種子用が増加したものの、飼料・その他用が大きく減少した結果、国内消費が 11 億 4,000 万ブッシェル(前年度比 1.0%減)となったほか、輸出についても 9億 900万ブッシェル(同 9.4%減)に減少すると見られることから、全体で 20億 4,900万ブッシェル(同 4.9%減)となった。 この結果、供給量の減少が需要量の減少を上回ることとなり、期末在庫は 4 億 5,600 万ブシェル(前年度比 20.1%減)となり、在庫率は 22.3%となる見込みである。 また、平均農家受取価格は、オーストラリアでの干ばつによる大減産の影響で国際価格が上昇したことも大きく影響し、年度平均で 4.26 ドル/ブッシェルとローンレート(2.80 ドル)を上回る水準となった。

3) 2007/2008年度(2007年 6月~2008年 5月)の需給予測 2007年産の小麦の生産は、作付面積が前年度比 5.4%増の 6,040万エーカー、作付面積が同 9.0%増の 5,100万エーカーとなるほか、単収が 40.5ブッシェル/エーカーと前年度比で 1.8ブッシェル増加することが予測されており、生産量は 20 億 6,700 万ブッシェル(前年度比 14.1%)となることが予測されている。内訳を見ても、冬小麦が 15 億 1,600 万ブッシェル(同 16.8%増)、デュラム小麦が 7,169万ブッシェル(同 34.1%増)、その他春小麦が 4億 7,900万ブッシェル(同 4.0%増)といずれも前年度に比べて増加することが予測されている。 2007/2008 年度の需要は、食用が 9 億 4,500 万ブッシェル(前年度比 1.3%増)となることが予測されている。価格の高騰によって硬質赤色春小麦(HRS)、デュラム小麦の需要が減少するものの、硬質赤色冬小麦(HRW)の需要が増加するものと見込まれている。種子用は硬質赤色冬小麦(HRW)の作付面積が予想を下回ってはいるものの、前年度比では 6.2%増の 8,600 万ブッシェルとなる一方、飼料・その他用は 2007年 9月~11月の需要が予想を下回ったことなどから同 8.0%減となる

1 億 1,500 万ブッシェルとなることが予測されている。輸出は、11 億 7,500 万ブッシェル(前年度比 29.3%増)となることから、国内消費、輸出ともに前年度を上回ることから、需要全体では 23億2,100万ブッシェル(同 13.3%増)となることが予測されている。 この結果、需要量の増加が供給量の増加を上回ることとなり、期末在庫は過去 60年で最低となる2億 9,200万ブッシェル(前年度比 36.0%減)、在庫率は 12.6%となることが予測されている。

価格は、トウモロコシ、大豆と同様の外的要因に加え、主産国の減産、堅調な需要による世界的な需給逼迫、期末在庫の減少、予想を下回る硬質赤色冬小麦(HRW)の作付面積などから、現物、先物ともに記録的な高騰が続いている。2007年 8月末にシカゴ商品取引所(CBOT)において史上最高値となる 7ドル 58セント 1/2/ブッシェル(2007年 12月限)を記録したが(コラム 2参照)、同 10月には 9 ドル 50セント/ブッシェル付近まで上昇した後、同 12 月には 2008 年 3 月限が一時、史上初めて 10ドル/ブッシェルを突破した。このような状況を反映して、農家平均受取価格は年度平均で 6.45~6.85ドル/ブッシェルとなり、これまでの最高であった 1995/1996年度の 4.55ドル/ブッシェルを大幅に上回り、史上最高となることが予測されている。

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表 I-13 米国の小麦の需給2000/ 2001/ 2002/ 2003/ 2004/ 2005/ 2006/ 2007/2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008作付面積(100万エ-カ-) 62.6 59.6 60.3 62.1 59.7 57.2 57.3 60.4収穫面積(100万エ-カ-) 53.1 48.6 45.8 53.1 50.0 50.1 46.8 51.0単収(ブッシェル/エ-カー) 42.0 40.2 35.0 44.2 43.2 42.0 38.7 40.5総供給量(100万ブッシェル) 3,272 2,941 2,460 2,899 2,775 2,726 2,505 2,613 期首在庫 950 876 777 491 546 540 571 456 生産量 2,232 1,957 1,606 2,345 2,158 2,105 1,812 2,067 輸入 90 108 77 63 71 81 122 90総需要量(100万ブッシェル) 2,396 2,164 1,969 2,353 2,235 2,155 2,049 2,321 国内消費 1,334 1,201 1,119 1,194 1,169 1,152 1,140 1,146  食用 950 926 919 912 910 915 933 945  種子 80 84 84 80 78 78 81 86  飼料、その他 304 191 116 203 182 160 125 115 輸出 1,062 962 850 1,158 1,066 1,003 909 1,175期末在庫(100万ブッシェル) 876 777 491 546 540 571 456 292在庫率(%) 36.6 35.9 24.9 23.2 24.2 26.5 22.3 12.6農家価格(ドル/ブッシェル) 2.62 2.78 3.56 3.40 3.40 3.42 4.26 6.45-6.85(注)1 2006/2007年は見通し。2007/2008年は予測。   2 小麦の穀物年度は、6月1日~5月31日。   3 小麦 1ブッシェル=27.216kg。(出所)米国農務省「World Agricultural Supply and Demand Estimates 2008.1」

年度

表 I-14 米国の小麦の種類別需給ハードウィンター ハードスプリング ソフトレッド ホワイト デュラム 合計2006/07年度総供給量 898 614 516 342 135 2,505 期首在庫 215 132 106 78 40 571 生産量 682 432 390 254 53 1,812総需要量 733 497 407 298 114 2,049 国内消費 452 247 261 101 79 1,140 輸出 281 250 146 197 35 909期末在庫 165 117 109 44 22 4562007/08年度総供給量 1,127 603 477 278 128 2,613 期首在庫 165 117 109 44 22 456 生産量 962 449 358 227 72 2,067総需要量 1,006 515 440 251 109 2,321 国内消費 496 240 245 91 74 1,146 輸出 510 275 195 160 35 1,175期末在庫 121 88 37 27 19 292(注)1 2006/2007年は見通し。2007/2008年は予測。   2 総供給量には、輸入を含む。(出所)米国農務省「World Agricultural Supply and Demand Estimates 2008.1」

(百万ブッシェル)

エ コメ(表Ⅰ‐15, 16)

1) 概観 コメは、比較的古い時代(1600 年代後半)から米国で生産されてきた。植民地時代には、サウスカロライナなど東部沿岸諸州で生産されていたが、1800 年代後半に、ルイジアナ、テキサス等南西部諸州で機械化された大規模な商業的稲作が発展した。現在、全米一の生産州であるアーカンソーで生産が開始されたのは、1900 年代に入ってから。カリフォルニアでも、官民共同の試験栽培の後、1912年に初めて商業目的としてのコメの栽培が開始されている。 現在の産地は、アーカンソー、ルイジアナ、ミシシッピ、ミズーリ、テキサスの南西部 5 州とカリフォルニアにほぼ限定される。南西部 5 州では主に長粒種が栽培され、カリフォルニアでは主に中・短粒種が栽培されている。全生産量の 4分の 3程度が長粒種であり、需要は国内消費と輸出が6対 4程度の割合となっている。

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トウモロコシ、大豆、小麦と異なり、世界生産の中で米国の生産量が占める割合はそれほど大きくない(約 1.5%)。しかしながら、ほとんどの国では自国消費が基本となっているため、輸出市場においては、米国産が 1割以上を占める。

2) 2006/2007年度(2006年 8月~2007年 7月)の需給見通し

2006 年産のコメの生産は、前年から大幅に減少し、1 億 9,370 万 cwt(1 ポンド=0.45359 ㎏、1cwt=45.359 ㎏)(前年度比 13.2%減)となった。石油価格の上昇に伴うかんがいコストの増大が要因となって、ミズーリ以外の生産州で、作付面積、収穫面積ともに減少し、全体の収穫面積は、282万エーカー(前年比 16.1%減)と大幅に減少した。一方、単収は、天候に恵まれたこと等もあってミシシッピ、テキサスで史上最高を記録。全体で 6,868ポンド/エーカー(同 3.5%増)となった。品種別に見ると、長粒種は、収穫面積が 219万エーカー(同 19.8%減)、単収が 6,689ポンド/エーカー(同3.0%増)で、生産量は 1 億 4,620 万 cwt(同 17.6%減)となった。中・短粒種は、カリフォルニアでの作付の遅れの影響から、収穫面積が伸び悩んだが、単収が回復した結果、生産量は 4,750万 cwt(同3.9%増)となった(中粒種 4,380万 cwt、短粒種 372万 cwt)。

2006/2007年度の需要面では、国内消費は 1億 2,660万 cwt(前年度比 5.3%増)、輸出は未審査遺伝子組換え米の混入によって長粒種の EU 向けが減少したことなどから 9,140 万 cwt(同 20.5%減)となった。 生産の減少から、当初は大幅な減少が見込まれていた 2006/2007年度の期末在庫は需要も減少したことから、前年度比 8.6%減の 3,930万 cwtに留まり、在庫率も同 0.3%減の 18.0%への低下に留まった。 また、穀物価格の高騰を反映して、平均農家受取価格は、9.74ドル/cwtと、ローンレート(6.50ドル/cwt)を大きく上回る水準となった。

3) 2007/2008年度(2007年 8月~2008年 7月)の需給予測 2007年産のコメの作付面積は 276万エーカー(前年度比 2.8%減)、収穫面積は 275万エーカー(同

2.5%減)と、いずれも前年度に比べて減少することが予測されている。これは、原油価格の高騰に伴う燃料と肥料コストの上昇、他の穀物価格の高騰に伴うコメから他の穀物への作付面積のシフトによるものである。州別に見ると、ルイジアナでは 2005年に発生したハリケーンの深刻な被害からの回復によって、作付面積が 3万エーカー増加するものの、アーカンソー、ミズーリ、テキサスなど南部の各生産州では作付面積が減少し、特にアーカンソーでは、7万 5,000エーカーの減少が予測されている。しかし、テキサスを除く各生産州において、前年度に比べて単収が増加し、アーカンソー、ルイジアナ、ミシシッピ、ミズーリで史上最高となり、全体の単収も 7,185ポンド/エーカー(前年度比 4.6%増)と史上最高となることから、生産量は 1億 9,750万 cwt(前年度比 2.0%増)となることが予測されている。品種別に見ると、長粒種は、収穫面積が 205 万エーカー(前年度比6.4%減)、単収が 6,929ポンド/エーカー(同 3.6%増)で、生産量は 1億 4,220万 cwt(同 2.6%減)となった一方、中・短粒種は、前年度に比べて収穫面積が増加するほか、単収も大きく増加する結果、生産量は 5,530万 cwt(同 16.4%増)となった。また、期首在庫は前年度に比べて減少するものの、輸入は最大の輸入先国であるタイからの上質ジャスミン米(芳香性)などで 2,150万 cwt(同 4.4%増)と史上最高となり(長粒種、中・短粒種ともに史上最高)、総供給量は 2億 5,830万 cwt(同 0.4%増)となることが予測されている。

2006/2007年度の需要面では、国内消費は 1億 2,470万 cwt(前年度比 1.5%減)となるが、輸出が 1億 900万 cwt(同 19.3%増)となることから、総需要量は 2億 3,370万 cwt(同 7.2%増)となることが予測されている。輸出の増加は、前年度のベトナム、インドによる非バスマティ米の輸出禁止措置からの回復のほか、中・短粒種の世界市場において米国の主な競争国であるオーストラリアの大幅な減産、著しい供給の逼迫(2006/2007 年度は観測史上最悪の凶作)によって、オセアニ

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ア、中東諸国向けの需要が高まると見込まれていることによる。 生産量、総供給量の増加にも関わらず、輸出の増加によって総需要量の増加が総供給量の増加を上回ったことから、2006/2007年度の期末在庫は前年度比 37.4%減の 2,460万 cwt、在庫率は 18.0%から 10.5%と、いずれも大きく減少し、在庫率は 1974/1975年度以来、33年ぶりの低水準となることが予測されている。 また、他の穀物や油糧種子の価格高騰、世界的なコメの価格の上昇、米国産への需要の高まりを反映して、平均農家受取価格は、1980/1981年度以来、27年ぶりの高水準となる 10.90~11.40ドル/cwtとなることが予測されている。

表 I-15 米国のコメの需給2000/ 2001/ 2002/ 2003/ 2004/ 2005/ 2006/ 2007/2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008作付面積(100万エ-カ-) 3.06 3.33 3.24 3.02 3.35 3.38 2.84 2.76収穫面積(100万エ-カ-) 3.04 3.31 3.21 3.00 3.33 3.36 2.82 2.75単収(ポンド/エ-カー) 6,281 6,496 6,578 6,670 6,988 6,636 6,868 7,185総供給量(100万cwt) 229.2 256.9 264.8 241.7 269.2 278.1 257.3 258.3 期首在庫 27.5 28.5 39.0 26.8 23.7 37.7 43.0 39.3 生産量 190.9 215.3 221.0 199.9 232.4 223.2 193.7 197.5 輸入 10.9 13.2 14.8 15.0 13.2 17.1 20.6 21.5総需要量(100万cwt) 200.7 218.0 238.0 218.0 231.5 235.1 218.0 233.7 国内消費 117.5 123.3 113.4 115.0 122.7 120.2 126.6 124.7 輸出 83.2 94.7 124.6 103.1 108.8 114.9 91.4 109.0期末在庫(100万cwt) 28.5 39.0 26.8 23.7 37.7 43.0 39.3 24.6在庫率(%) 14.2 17.9 11.3 10.9 16.3 18.3 18.0 10.5農家価格(ドル/cwt) 5.61 4.25 4.49 8.08 7.33 7.65 9.74 10.90-11.40(注)1 2006/2007年は見通し。2007/2008年は予測。   2 コメの穀物年度は、8月1日~7月31日。   3 1ポンド=0.45359kg、1cwt=100ポンド=45.359kg(出所)米国農務省「World Agricultural Supply and Demand Estimates 2008.1」

年度

表 I-16 米国の長/中・短粒種別コメの需給2004/ 2005/ 2006/ 2007/ 2004/ 2005/ 2006/ 2007/2005 2006 2007 2008 2005 2006 2007 2008収穫面積(100万エ-カ-) 2.57 2.73 2.19 2.05 0.75 0.63 0.64 0.70単収(ポンド/エ-カー) 6,630 6,493 6,689 6,929 8,212 7,255 7,484 7,942総供給量(100万cwt) 191.3 212.5 193.1 185.7 76.8 64.7 63.4 71.8 生産量 170.4 177.5 146.2 142.2 61.9 45.7 47.5 55.3総需要量(100万cwt) 168.5 179.8 164.6 174.0 63.0 55.2 53.4 59.7 国内消費 84.7 87.9 91.9 89.0 38.0 32.4 34.7 35.7 輸出 83.8 92.0 72.7 85.0 25.0 22.9 18.7 24.0期末在庫(100万cwt) 22.7 32.7 28.5 11.7 13.8 9.4 10.0 12.1(注)1 2006/2007年は見通し。2007/2008年は予測。(出所)米国農務省「World Agricultural Supply and Demand Estimates 2008.1」長粒種 中・短粒種年度

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② 畜産物(表Ⅰ‐17~19)

ア 牛肉

2006年の牛のと畜頭数については、2003年から 2005年まで低調であった飼養頭数が回復傾向を示したことから、3,370万頭(前年比 4.0%増)に増加した。これを反映して、生産量は 262億5,800万ポンド(同 5.9%増)となった。 輸入は、2005 年 7 月のカナダからの 30 ヶ月齢未満の生体牛輸入解禁を受けて、カナダからの輸入が牛肉から生体牛に移行したことから、前年比 14.3%減の 30億 8,600万ポンドとなった。

2006年の国内消費は、引き続き堅調で、前年比 1.4%増の 281億 3,900万ポンドとなった。輸出は、2 月にメキシコが 30ヶ月齢以下の牛由来の骨付き肉を、7 月には日本が 20ヶ月齢以下の牛由来の肉を、それぞれ輸入解禁したほか、コロンビア、ペルーなども解禁を決定したことなどから、11億 4,600 万ポンド(前年比 64.2%増)となった。しかし、依然として BSE 感染牛確認前の 2003年の水準と比較すると 1/2にも満たない状況となっている。

2007年は、と畜頭数が 3,427万頭(前年比 1.7%増)となり、生産量は 265億 1,500万ポンド(同1.0%増)となることが見込まれている。輸入は、31 億 6,500 万ポンド(前年比 2.6%増)となることが見込まれているものの、と畜頭数の増加、相対的に低調な国内価格、米国ドル安の影響を受け、第 4四半期におけるカナダ、ニュージーランド、ウルグアイからの輸入が前年比で減少するなど年後半にかけて伸び率は低調となった。と畜頭数の増加によって増加した国内生産が、加工用向けに多く用いられている輸入品に置き換わり、国内産の加工用向けの供給が拡大している傾向も見られる。

2007 年の国内消費は、前年をさらに上回ったが、伸びは鈍く、前年比 0.4%増の 282 億 6,000万ポンドとなったため、国内市場は供給過剰基調で推移し、フィードロットや加工業者は厳しい経営を強いられた。輸出は、輸出条件の違反(2007 年7月及び 9 月に、BSE 感染リスクのある特定危険部位(SRM)に該当する脊柱混入が発覚)による韓国への輸出停止という事態が生じたほか、最大の輸出先であるメキシコ向けが減少する見込みとなっている。しかし、と畜頭数の増加、米国ドル安の影響、2007 年夏の南東部の干ばつによって繁殖雌牛の出荷が早まったことなどから、カナダ、日本向けの増加、これまで輸出実績の乏しかったモルドバ、ベトナムなどのような国への小口の輸出増加が減少分を相殺することから、前年比 26.5%増の 14億 5,000万ポンドとなる見込みである。

2008年の生産量は、フィードロットの飼養頭数の多さを反映して前半は増加するものと見込まれている。しかし、飼料価格の上昇による肥育効率を求めた早期出荷の増加や 1頭当たりの枝肉重量の伸び悩み、燃料価格の上昇や一部肥料の供給不足に伴う固定経費の上昇、豚肉と家きん肉の在庫量の増加(競合食肉の供給増加)などによって、年全体では前年比 1.2%減の 262億 500万ポンドと見通されている。小売価格も伸び悩みが見込まれるなど、牛肉の国内市場は前年にも増して厳しいものになると予測されている。一方、輸出は、米国ドル安に加え、2007年 11月のフィリピン、2008年 1月のインドネシアによる輸入月齢制限の撤廃など市場アクセスが改善され、上昇傾向で推移するとの見通しから、前年比 17.9%増の 17億 1,000万ポンドとなり、生産量に占める輸出の割合は 16.2%となる見通しである。また、BSE 感染牛確認前である 2003 年の約 7 割の輸出量まで回復すると見込まれており、日本と韓国と間で続いている輸出協議の動向次第では、さらに増加する可能性もある。

イ 豚肉

2006 年の豚肉の生産は、総飼養頭数(肥育豚、繁殖豚、子豚生産)の増加を反映し、と畜頭数が1.1%増加したことなどから、210億 7,500万ポンド(前年比 1.8%増)となった。 需要面では、国内消費は、減少傾向が続き、前年比 0.2%減となった。輸出は、米国ドルが安値で

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推移したことに加え、ブラジルにおける口蹄疫の発生で各国がブラジルからの豚肉を輸入停止したことなどから、29億 7,400万ポンド(前年比 11.6%増)となった。第 1位の輸出市場である日本向けは前年比で 3.0%減少したものの、メキシコ、カナダ、韓国、香港向けのほか、ブラジルにおける口蹄疫の影響でロシア向けが大幅に増加した。

2007 年の豚肉の生産は、さらなる総飼養頭数の増加に伴い、と畜頭数が前年比で 4.5%増加したほか、第 4四半期の生産が前年を大きく上回ることなどから、219億 5,900万ポンド(前年比 4.2%増)との見通しである。 需要面では、供給の拡大に伴う価格の下落などによって国内消費の減少傾向に歯止めがかかり、前年比 3.6%増の 197億 5,400万ポンドと見通されている。輸出は、トウモロコシや大豆ミールの価格上昇に伴う飼料価格の上昇などによって供給不足に陥っており、豚肉の卸売価格が年間で 50%以上上昇している中国向けの輸出の大幅な増加が見込まれている(年後半に入り、中国向け輸出は急速に増加しており、2007年 11月までの時点で中国向けは既に 2006年の総輸出量を 6,000万トン以上超過している)。また、2007 年 10、11 月は、いずれも月間としては史上最高の輸出額を記録するとともに、2007 年は 16 年連続で黒字となるほか、年間としても史上最高の輸出額となる31億 6,000万ポンド(前年比 6.3%増)となるとの見通しである。 2007 年における飼養・と畜頭数の増加による生産量の拡大、トウモロコシなど飼料価格の高騰に伴う価格の下落(2~4%)、収益が赤字に転換した豚肉生産者の経営状況の悪化は 2008 年に入っても続き、また、飼料価格の上昇によって 1頭当たりの重量が伸び悩むものと見通されている。しかし、2008 年は、2007 年、特に後半の子豚生産頭数の増加がと畜頭数の増加につながるほか、1腹当たりの離乳頭数が増加することから、生産量は前年比 3.7%増の 227億 7,000万ポンドと史上最高となるものと見込まれている。輸出は、豊富な国内供給に伴う価格の下落、引き続く米国ドル安の影響による他国の強い需要などによって、前年比 16.6%増の 36億 8,500万ポンドとなり、輸出依存の構造が強まるものと見られている。

ウ 鶏肉

2006年のブロイラー生産は、価格の低迷などから伸びはやや鈍化したものの、堅調な国内需要を背景に、353億 6,900万ポンド(前年比 1.1%増)となった。 需要面では、国内消費が 303 億 8,900 万ポンド(前年比 2.6%増)となったほか、輸出はロシア、メキシコ向けが減少したものの、香港・中国向けが大幅に増加したことから、前年を辛うじて上回る 52億 500万ポンドとなった。

2007年のブロイラー生産は、国内消費は前年比 1.5%減の 299億 2,100万ポンドとなるものの、ロシア、旧ソ連諸国、香港・中国、カリブ諸国などへの増加によって輸出が前年比 9.5%増の 57億 100万ポンドとなることなどから、生産量は前年比 0.3%増の 354億 9,200万ポンドになるものと見通されている。輸出の増加は、米国ドル安の影響に加え、ロシアをはじめとする輸出相手国の経済成長による需要拡大が要因となっている。年後半に向けて増加傾向を示した輸出と歩調を合わせるように、生産は年後半に向けて緩やかに増加した。なお、2007年第 2四半期以降の卸売・小売価格は、いずれも前年同月を上回って推移している。

2008年は、国内消費が前年比 2.5%増の 306億 6,600万ポンド、輸出が同 1.3%増の 57億 7,500万ポンドとなり、生産量は 2.7%増の 364億 5,600万ポンドとなるとの見通しである。生産、供給計はいずれも増加するものの、2007 年に上昇傾向で推移した価格は 2008 年の第 1 四半期に入っても続くほか、年間を通じての価格も若干上昇するものと見込まれている。

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表 I-17 米国の食肉の需給動向牛肉 2003 691 26,339 3,006 30,036 2,519 518 26,999 64.92004 518 24,650 3,679 28,847 460 637 27,750 66.12005 637 24,787 3,599 29,023 698 571 27,754 65.52006 571 26,258 3,086 29,915 1,146 630 28,139 65.72007 630 26,515 3,165 30,310 1,450 600 28,260 65.42008 600 26,205 3,340 30,145 1,710 600 27,835 63.8豚肉 2005 543 20,705 1,025 22,273 2,665 494 19,114 50.02006 494 21,075 989 22,558 2,974 514 19,070 49.42007 514 21,959 1,001 23,474 3,160 560 19,754 50.62008 560 22,770 985 24,315 3,685 565 20,065 51.0赤身肉計2005 1,187 45,848 4,804 51,839 3,372 1,080 47,387 117.02006 1,080 47,679 4,265 53,024 4,139 1,166 47,720 116.52007 1,166 48,805 4,362 54,333 4,620 1,178 48,535 117.52008 1,178 49,314 4,525 55,017 5,405 1,182 48,430 116.3ブロイラー 2005 713 34,986 34 35,733 5,203 924 29,607 85.72006 924 35,369 47 36,340 5,205 745 30,389 87.12007 745 35,492 61 36,298 5,701 675 29,921 84.92008 675 36,456 60 37,191 5,775 750 30,666 86.2家きん肉計2005 1,005 40,935 42 41,981 5,902 1,132 34,947 103.72006 1,132 41,485 61 42,678 5,911 969 35,799 105.12007 969 41,817 74 42,860 6,433 914 35,513 103.42008 914 42,827 75 43,816 6,530 1,031 36,255 104.5食肉計 2005 2,192 86,783 4,846 93,821 9,274 2,212 82,335 220.72006 2,212 89,164 4,327 95,703 10,049 2,135 83,519 221.62007 2,135 90,622 4,436 97,193 11,053 2,092 84,048 220.92008 2,092 92,141 4,600 98,833 11,935 2,213 84,685 220.8(注)1 2007と2008年は見通し。   2 生産量は、農家生産を含む。   3 赤身肉(牛肉、豚肉、子牛肉、子羊肉、羊肉)の重量は、枝肉ベース。   4 家きん肉(ブロイラー、七面鳥等)の重量は、可食処理ベース。(出所)米国農務省「World Agricultural Supply and Demand Estimates 2008.1」

期首在庫 生産 輸入 国内消費(単位:100万ポンド、ポンド/人)1人当たり消費輸出供給計 期末在庫

エ 生乳

2006年の生乳の生産は、引き続き、高収益を背景とした生産者の乳牛保留意欲の高まりから、前年を上回って推移し、1,818 億ポンド(前年比 2.8%増)となった。生乳の生産の増加により、バター、チーズのほか、脱脂粉乳の生産量も増加した。商業需要についても、引き続き堅調となり、脂肪ベースで 1,841億ポンド(同 2.3%増)となった。

2007年の生乳の生産は、経産牛の飼養頭数が順調に増加したほか、前年比で年初期に伸び悩んでいた 1頭当たりの乳量が年後半にかけて回復基調となり、これが第 4四半期も続いていることから、前年比 2.1%増の 1,856 億ポンドとなることが見込まれている。また、年後半にはバター、脱脂粉乳が前年比で大きく増加することが見込まれている。商業需要も、堅調だった前年をさらに上回り、脂肪ベースで 1,889億ポンド(前年比 2.6%増)となることが見込まれている。なお、2007年の平均乳価は、19.05ドル/ cwt(1ポンド=0.45359㎏、1cwt=45.359㎏)となり、これまで史上最高だった 2004 年の 16.05 ドル/ cwt を 3 ドルも上回っている。乳製品も、チーズ(CBOT 現物価格)が 11月に 2.20ドル/ cwt、脱脂粉乳(工場受渡価格)が 7月に 1.59ドル/ cwt、ホエイが 77.8セント/cwtとそれぞれ史上最高価格を更新している。国際価格も、これら 3品目にバターを加えた主要 4品目で史上最高となっている。また、これら乳製品の輸出額は、開発途上国の需要拡大をはじめ、

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米国ドル安、オーストラリア・アルゼンチンの天候不順、インド・アルゼンチンの輸出規制、EUの生産減少・輸出補助金撤廃などから前年を約 50%上回り、5 年連続で史上最高を更新するものと見込まれている。 2008 年の生産量は、飼料価格の高騰によって事前予測が若干下方修正されてはいるものの、経産牛の飼養頭数、1頭当たりの乳量が前年を大きく上回り、前年第 1四半期比でもこれらが大きく増加することから、前年比 2.4%増の 1,900 億ポンドとなることが予測されている。国内外でのチーズ需要の高まりが、供給拡大による急激な価格下落に歯止めをかけている。

表 I-18 米国の生乳の生産 (億ポンド)2005 2006 2007 2008

生乳生産量 1,769 1,818 1,856 1,900(注) 2007年と2008年は見通し。(出所)米国農務省「World Agricultural Supply and Demand Estimates 2008.1」

オ 鶏卵 2006 年の鶏卵の生産量は、75 億 7,200 万ダース(前年比 0.8%増)となった。孵化用、輸出は減少したものの、国内消費が 63億 9,020万ダース(同 1.2%増)となったことから、総需要量は増加し、これが総供給量の増加を上回ったことから、期末在庫は前年比で 21.9%減少した。

2007 年の鶏卵の生産量は、価格の上昇などから、2 月を除く各月で前年を下回って推移しており、前年比 0.7%減の 75億 1,800万ダースとなることが見込まれている。輸出が 2億 4,560万ダース(前年比 21.5%増)、孵化用が 10億 1,210万ダース(同 1.8%増)となったものの、国内消費が 62億 7,440万ダース(同 1.8%減)となったことから、総供給量 75億 4,510万ダース(同 0.7%減)が総需要量 75億 3,210万ダース(同 0.7%減)を上回った。このため、期末在庫は 4%増加し、1,300 万ケースとなる見込みである。 2008 年の鶏卵は、年上半期を通じ、堅調な需要と記録的な価格の上昇による生産のペースの鈍化によって、価格のさらなる上昇が予測されているものの、国内消費が増加することなどから生産量は前年比 1.4%増の 76億 2,500万ダースとなることが見通されている。

表 I-19 米国の鶏卵の需給年 2005 2006 2007 2008

総供給量 7,536.4 7,598.8 7,545.1 7,652.0

 期首在庫 14.5 16.0 12.5 13.0

 生産量 7,509.0 7,572.0 7,518.0 7,625.0

 輸入 12.9 10.8 14.6 14.0

総需要量 7,520.4 7,586.3 7,532.1 7,640.0

 国内消費 6,317.3 6,390.2 6,274.4 6,380.0

 孵化用 999.8 994.0 1,012.1 1,030.0

 輸出 203.3 202.1 245.6 230.0

期末在庫 16.0 12.5 13.0 12.0

一人当たり消費量(個) 255.3 255.7 248.8 250.6(注) 2007年と2008年は見通し。(出所)米国農務省「World Agricultural Supply and Demand Estimates 2008.1」

(百万ダース)

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(3)遺伝子組換え作物の作付状況 農務省が 2007年 6月に発表した大豆、トウモロコシ及びアップランド綿花についての遺伝子組換え作物の作付状況によれば、2006年 7月の発表に比べ、大豆は 2%、トウモロコシは 12%、アップランド綿花は 4%、それぞれ遺伝子組換えの作付比率が増加している(図Ⅰ‐4、表Ⅰ-20)。 トウモロコシの作付は、2005年は 52%、2006年は 61%が遺伝子組換え品種だったが、2007年は前年より 12%上昇し、73%となった。トウモロコシの遺伝子組換え品種の中には、害虫抵抗性のみを持つもの(Insect Resistant)、除草剤耐性のみを持つもの(Herbicide Resistant)、両方の性質を併せ持つもの(Stacked Gene Varieties、スタック)の 3種類があるが、2006年と 2007年を比べると、害虫抵抗性のみを持つものが 25%から 21%へ減少しているのに対し、除草剤耐性のみを持つものが21%から 24%へと3%、スタック品種が 15%から 28%へと 13%、それぞれ上昇している。特に、スタック品種は、アイオワで 19%、イリノイで 21%、インディアナで 18%など大きな伸びを示しており、これが各州の遺伝子組換えトウモロコシの合計作付比率の上昇につながっている。合計作付比率で見ると、2005年に 36%であったイリノイがこの 2年で 2倍以上となり、2007年は 74%となったほか、同じく 2005年に 26%であったインディアナも 2007年には 59%となるなど急激な伸びを示している。 品種ごとの細分は未公表であるため、これらの原因を詳細に分析することは困難であるが、2003年から実用化されたルートワーム(小さな甲虫の幼虫でトウモロコシの根を侵食する。)に抵抗性を持つ品種の採用が各州で進んだものと見られる。また、再生可能燃料向け需要の増加に対応し、単収を増加させるため、生産者が積極的に新たな技術導入を進めた可能性も指摘されている。 大豆は、2005 年は 87%、2006 年は 89%が遺伝子組換え品種だったが、2007 年は前年より 2%上昇して 91%となった。大豆の遺伝子組換え品種は、除草剤耐性のあるものに限られている。ネブラスカで前年より 6%上昇して 96%となったほか、アイオワが同じく 3%上昇して 94%、ミネソタが同じく 4%上昇して 92%となるなど 100%に近付いており、非遺伝子組換え品種の確保が一層困難になっている状況が伺える。 アップランド綿花は、2005年は 79%、2006年は 83%が遺伝子組換え品種だったが、2007年はさらに 4%上昇して 87%となった。トウモロコシ同様、スタック品種の採用が伸びている州が多い。

図I-4 遺伝子組換え作物作付け割合の推移54 73 76 79 83 8725 26 34 40 45 52 61 738785 918981756861 7169

0102030405060708090100

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007(年)

(%)大豆アップランド綿花トウモロコシ

(出所)米国農務省農業統計局「Acreage 2007.6」

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このほか、2005年の統計によれば、遺伝子組換えパパイヤ(ウィルス耐性のあるもの)が主産地ハワイの作付面積の 55%、遺伝子組換えスクワッシュ(ウィルス耐性のあるもの)が全米の作付面積の 12%、遺伝子組換えカノーラ(除草剤耐性のもの)が主産地ノースダコタの作付面積の 98%、ミネソタの作付面積の 75%を占めている。また、遺伝子組換えアルファルファ(除草剤耐性のあるもの)や遺伝子組換えスウィートコーン(害虫抵抗性のあるもの)の導入も進みつつある。

表 I-20 遺伝子組換え作物の占める割合(2007年産)トウモロコシ 米国全体 21(25) 24(21) 28(15) 73(61)アイオワ 22(32) 19(14) 37(18) 78(64)イリノイ 19(24) 15(12) 40(19) 74(55)ネブラスカ 31(37) 23(24) 25(15) 79(76)ミネソタ 26(28) 32(29) 28(16) 86(73)インディアナ 12(13) 17(15) 30(12) 59(40)大豆 米国全体 -(-) 91(89) -(-) 91(89)アイオワ -(-) 94(91) -(-) 94(91)イリノイ -(-) 88(87) -(-) 88(87)ミネソタ -(-) 92(88) -(-) 92(88)インディアナ -(-) 94(92) -(-) 94(92)ネブラスカ -(-) 96(90) -(-) 96(90)綿花 米国全体 17(18) 28(26) 42(39) 87(83)テキサス 16(18) 36(34) 28(18) 80(70)ジョージア 17(19) 10(13) 68(64) 95(96)ミシシッピ- 16(7) 19(22) 62(69) 97(98)アーカンソー 32(28) 16(21) 47(45) 95(94)ノースカロライナ 13(19) 16(19) 64(60) 93(98)(注) ( )内は、2006年産の作付割合。(出所)米国農務省農業統計局「Acreage 2007.6」

(単位:1,00エーカー、%)害虫に抵抗力 除草剤耐性 害虫抵抗かつ除草剤耐性(スタック) 合計

ミズーリ州のセントルイスに本社を有するモンサント社は、2007年 9月、2010年までに除草剤耐性や害虫抵抗性のある異なった 8つの遺伝形質を組み合わせた新しい遺伝子組換えトウモロコシ(「スマート・スタックス」)の開発・販売を行うことを目的として他社と相互ライセンスの供与に合意したと発表した。また、同じく 9月、ブラジルの遺伝子組換えトウモロコシ種子開発・販売会社アグロエステ・セメンテスの事業資産 100%を買収するなど海外市場の開拓も積極的に行うことにより、現在の同社の遺伝子組換え種子の作付面積 9,500万エーカーを将来的には約 3倍の水準まで増加させるという見通しを発表するなど、トウモロコシ遺伝形質のさらなる普及に力を入れている。さらに、行政当局も、申請に基づく承認作業を進めており、農務省動植物検疫局(USDA/APHIS)は、2007年 12月から、ヨーロッパを中心に生育する害虫への抵抗性があり、モンサント社から申請のあったトウモロコシ用「MON89034」の規則適用除外に向けたパブリック・コメントを実施している。試験研究機関などでは、干ばつ耐性品種、寒冷耐性品種、高付加価値品種(高リシントウモロコシなど栄養価をコントロールした食用・飼料用作物)などの研究開発が進んでいるほか、一部では、薬効成分をもつ品種(殺菌作用をもつタンパク質を合成するコメなど)の開発も進んでいる。

なお、米国コメ連合会(USA Rice Federation)によると、自主検査プログラムの結果、2007年産の長粒種については、95.5%が非遺伝子組換え作物として輸出上問題なし、としている。EU は、未

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審査遺伝子組換え米の混入のため、米国産米の輸入を禁じているが、貿易再開に向け、その許容範囲・レベルに関する協議が続いている。 現在導入されている遺伝子組換え品種の特性のうち、除草剤耐性のものは、雑草管理が容易になり、農薬、労働コストの削減になるとされている。モンサント社が開発した除草剤耐性のある GM 作物「Round‐up Ready®大豆」8などでは、雑草を大幅に減少させ、不耕起栽培の普及につながっているとされている。また、害虫抵抗性のあるものは、害虫被害を防ぐことによって収量の増加にも貢献しているとされている。 米国では、バイオテクノロジーなどの進展によって、各作物の単収が飛躍的に増加している。特に、トウモロコシでは、ここ 10 年、旧来の交配による品種開発技術や作付技術(1 エーカーに植えられる種の密度の増加=密植技術)の進展に、遺伝子組換え技術が加わったことにより、単収の増加の程度が大きくなっている。2007年は、米国全体が 1エーカー151.1ブッシェル、主産地のアイオワ州では同じく 171ブッシェルとなっている(図Ⅰ‐5)。 このような農薬、労働コストの削減、単収の増加などの側面から、米国における遺伝子組換え作物に対しては積極的に賛成する勢力が強いが、実際の作付には農家、消費者などの反対勢力も決して弱くはない。日本では遺伝子組換え作物に対しては、消極的な意見が圧倒的に多いが、米国の関係業界・団体では、新たな遺伝子組換え作物を商業化するに当たっては、予め主要市場国の承認を得ることなどを内容とする「Product Launch Stewardship Policy」に即した行動をとることについての合意が得られている。 図I-5 米国のトウモロコシの単収の推移0501001502001867 1877 1887 1897 1907 1917 1927 1937 1947 1957 1967 1977 1987 1997 2007

単収(ブッシェル/エーカー)アイオワ州 米国全体

(出所)米国農務省農業統計局

(4)有機農産物の生産動向 米国の有機農産物の生産面積、生産農家戸数はいずれも増加しており、2005 年は 405 万エーカー(全農業用地の 0.5%)、8,493戸となっている9。野菜・果実における有機農産物生産の割合が比較的高く、2005 年の有機野菜の生産面積は、9 万 8,525 エーカー(全野菜作付面積の 4.7%)、有機果実の生産面積は、9万 7,277エーカー(全果実作付面積の 2.5%)となっている(表Ⅰ-21)。 また、干草やアルファルファなどの有機飼料の生産面積も、ここ 2 年で約 40%増加しているが、有機生乳市場が年間で 20%以上拡大するなど需要がこれを上回っている。特に、高タンパク大豆については、いくつかの地域で供給不足が生じ、企業によっては中国から輸入せざるを得ない状況に至 8 ブラジルでも作付が進んでおり、その面積シェアは現在約 50%で、95%の目標に向かって順調に進んでいるとされている。 9 2006年の有機農産物の生産面積、生産農家戸数の公表は、当初、2007年 12月の予定であったが、2008年第 1四半期へ延期された。

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っているが、安全面での不安から輸入時の検査負担が増加しているという問題も浮上している(農務省(USDA)は、有機飼料への転換のため、慣行飼料の 20%混入も有機飼料として取り扱う移行措置を講じていたが、この措置は 2007年 6月 9日に失効している) 表 I-21 有機農産物生産面積と農家数の推移年 1992 2002 2003 2004 2005 シェア合計面積 935,450 1,925,534 2,196,874 3,045,109 4,054,429 0.5% 放牧地 532,050 625,902 745,273 1,592,756 2,331,158 0.5% 耕地 403,400 1,299,632 1,451,601 1,452,353 1,723,271 0.5%  うち野菜 - 69,887 78,905 86,822 98,525 4.7%  果物 - 60,693 77,989 80,707 97,277 2.5%有機農産物生産農家 3,587 7,323 8,035 8,021 8,493 -(注)1 有機農産物生産農家には、下請け契約農家を含まない。   2 シェアは、それぞれの全体面積に占める2005年の有機農産物生産面積の割合。(出所) 米国農務省経済調査局

(単位:エーカー、戸)

有機食品の販売額も増加しており、オーガニック取引協会(OTA)によれば、2006 年の有機食品の小売販売額は 167億 1,800万ドル(前年比 20.9%増)で 1997年の 5倍近く、全食品売上額に占める割合も 2.80%となっている(図Ⅰ-6)。2006年の品目別販売額では、果物・野菜が 39.9%、牛乳・乳製品が 16.0%、飲料(乳製品を除く。)が 13.0%、加工食品が 12.0%、パン・穀物が 10.0%を占めている。有機牛乳は、大手小売業者の PB販売の開始、慣行品との価格差の縮小により消費が急増している。 また、今後の見通しとして、有機食品は、2007 年から 2010 年までにかけて、年平均約 18%の増加が予測されており、2007年は 19.7%増の 200億 800万ドルに達するものと見込まれている。

図I-6 オーガニック食品の小売販売額と全食品販売額に占める割合

05,00010,00015,00020,00025,000

1997 98 99 2000 01 02 03 04 05 06 07(年)

(百万ドル)

0.0%0.5%1.0%1.5%2.0%2.5%3.0%(%)

オーガニック食品の売上額 全食品売上額に占める割合 (出所)オーガニック取引協会(OTA) (注)2007年は見通し。

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4.農産物貿易の動向 (1)輸出動向 ① 2007年度(2006年 10月~2007年 9月)の農産物輸出

2007年度の農産物輸出は、史上最高の 819億ドル(前年度比 19.5%増)となった。小麦、トウモロコシなど穀物・飼料、大豆、大豆油など油糧種子の需要増加と記録的な価格高騰が最大の原因である(表Ⅰ‐22,23)。 品目別にみると、小麦については、2006年の国内生産は前年度に比べて13.9%減少したものの、主産国であるオーストラリアが 100 年に一度と言われる大干ばつによって大減産となったため、米国への需要が高まり、輸出量は 2,872万トン(前年度比 14.8%増)となった。また、主産国の不作によって世界需給の逼迫感が強まり、価格が上昇傾向で推移したことから、輸出額は 64億ドル(同48.4%増)と大幅に増加した。 トウモロコシについては、2006年の生産は前年度に比べて 5.2%減少する一方、エタノール向け需要の大幅な増加によって国内需給が逼迫し、期末在庫が減少したことから、輸出余力がやや下落し、輸出量は 5,410 万トン(前年度比 3.5%減)となった。しかし、中国、アルゼンチンは輸出量を伸ばしたものの、その国際競争力は限定的であることから、米国産に対する各国の需要は引き続き堅調に推移した。また、国内での供給拡大のほか、ドル安、中長期的な需給逼迫感もあり、価格が上昇傾向で推移したことから、輸出量の減少にも関わらず、輸出額は 89 億ドル(同 44.2%増)と大幅に増加した。 大豆については、2006年の国内生産が史上最高となった上、南米(アルゼンチン、ブラジル)の生産量の増加も限定的であったことから、輸出量は 3,032万トン(前年度比 14.8%増)となった。価格も、他の穀物価格に下支えされる形で上昇したことから、輸出額は 85 億ドル(同 33.9%増)と大幅に増加した。 コメについては、2006年の国内生産が前年度に比べて 13.2%減少した上、未審査遺伝子組換え米の混入・流出により、EU 向けが減少したことから、輸出量は 332 万トン(前年度比 17.6%減)となった。一方で、価格の上昇から、輸出額は、13億ドルと 1.3%の減少に止まり、ほぼ前年並みとなった。 牛肉については、2006年夏に輸入解禁した日本向けのほか、カナダ、メキシコ向けが増加したことなどから、輸出量は 44万トン(前年度比 28.1%増)、輸出額は 19億ドル(同 35.4%増)となった。しかし、2006年 9月に解禁した韓国向けは、骨付き肉の輸出条件が厳しいほか、2007年7月及び9 月には BSE 感染リスクのある特定危険部位(SRM)に該当する脊柱混入が発覚して検疫中断・輸出停止という事態に陥り、輸出量・額ともに当初の予測を下回った。依然として、BSE 感染牛発覚前の 2003年度の水準(86万トン、30億ドル)の 4~5割の水準に止まっている。豚肉は、飼料価格の上昇などによって、価格が上昇したものの、ドル安などから引き続き競争力を維持し、輸出量は前年度比 1.8%増、輸出額は同 9.1%増となった。鶏肉は、欧州での鶏インフルエンザの発生による前年度の需要減の反動から、輸出量は前年度比 8.8%増、輸出額は同 29.6%増となった。 野菜・果実等園芸作物については、ドル安と世界的な需要増加によって、輸出額は 179億ドル(前年度比 7.4%増)となった。生鮮果実・野菜は、48 億ドル(前年度比 6.8%増)、加工果実・野菜は44億ドル(同 12.2%増)で、いずれも史上最高の輸出額となった。 ② 2008年度(2007年 10月~2008年 9月)の農産物輸出予測 2008年度の農産物輸出は、2007年度を上回る910億ドル(前年度比11.0%増)となる予測である。中国、インドをはじめとする開発途上国の急激な経済成長を背景に、世界的な穀物需要が増加していることに加え、最近のドル安、穀物、油糧種子・製品価格の高騰もあり、輸出量・額は 2007 年

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度を大きく上回るペースで推移するものと見られている10。現に、2008 年度に入ってからの最初 2ヶ月である 2007年 10月・11月で、既に輸出額が輸入額を 65億 8,400万ドル上回っていることが公表されている。 また、2007年末から 2008年初めにかけて、中国、インド、ロシア、インドネシアなどが、自国内の穀物供給の確保、インフレ対策から輸入関税の引き下げ、輸出関税の引き上げを相次いで明らかにした。具体的には、中国が 2007年末までの予定であった大豆の輸入関税の引き下げ(3%→1%)を 2008 年 3 月末までに延長するほか、13%の付加価値税(VAT)の還付金を廃止し、輸出関税を引き上げた(小麦・大麦・オート麦は 25%、トウモロコシ・大豆・コメ・ソルガムは 5%など)。インドは、小麦粉の輸入関税を 36%から 0%に引き下げたほか、ロシアは小麦の輸出関税を 10%から 40%に引き上げた。インドネシアは無期限で大豆の輸入関税を 10%から 0%に引き下げている。この他にも、エジプトが、高騰する国内価格を管理するため、2008年 1月 19日から、コメの輸出を禁止する措置を講じている。このような動きは、これらの国々との関係のみならず、これらの国々の貿易相手国との関係において、米国産農産物への輸出需要が一層高まる可能性をもたらしている。 品目別に見ると、小麦については、主産国であるオーストラリア、EU、ウクライナ、カナダにおいて天候不順による生産量の減少と在庫の減少によって、前年度に引き続き、米国産への需要が堅調となり、輸出量は 2,870万トン(前年度比 0.1%減)との予測されている。輸出額は、2007年 12月 17日に史上初めて 1ブッシェル 10ドル(2008年 3月限)の大台に突入するなど記録的な高値を更新していることを反映し、1トン当たり約 260ドルとの見込みから、75億ドル(同 17.8%増)へと増加する予測されている。 トウモロコシについては、2007年の国内生産が堅調な輸出と国内のエタノール向け需要の増加から、前年度に比べて 25.0%増加し、史上最高となる予測であるほか、EUをはじめとする世界各国の飼料穀物の需要増加が引き続き米国産の輸出を支え、前年度を上回るペースで推移するものと見られている。輸出量は、6,000 万トン(前年度比 10.9%増)となるほか、国内での供給拡大、米国ドル安、中長期的な需給逼迫感は依然として続き価格の高騰も当面続くと見られていることから、輸出額は 102億ドル(同 14.3%増)と予測されている。 大豆については、作付面積がトウモロコシへシフトするため、2007 年の国内生産が前年度より大幅に減少するほか、国内需要が堅調であることから、輸出余力が落ち、2,650 万トン(前年度比12.6%減)となる予測である。一方、中国の記録的な輸入量増加、EUのバイオディーゼル市場の拡大など世界的な需要が増加しているほか、ラニーニャ現象によるアルゼンチン、ブラジルの生産・輸出の先行き不安、在庫の減少などから価格が高騰しており、輸出額は 104 億ドル(同 22.6%増)となり、単価は 1トン当たり 393ドル、又は前年度よりも 40%上昇するものと予測されている。 コメについては、中東やオセアニア諸国への輸出の増加という予測に基づき、輸出量は 380万トン(前年度比 14.6%増)と回復基調となることが予測されている。一方、ベトナム、インドが 2007年 9月に輸出禁止措置を発動したことから、世界的な供給が減少し、価格は上昇傾向にある。このことを反映して、輸出額は 16億ドル(同 25.1%増)と予測されている。 牛肉については、日本、カナダ、メキシコ向けは増加するものの、検疫中断・輸出停止によって韓国向けが減少することから、輸出量は 50万トン(前年度比 13.1%増)と予測されている。輸出額は、上昇傾向にある単価を反映して 24億ドル(同 26.7%増)となり、2003年度の水準の 6割までの回復を見込んでいる。豚肉は、記録的なと畜頭数、引き続く米国ドル安、国内価格の低迷によって、輸出量は史上最高となる 11 万トン(前年度比 9.6%増)、輸出額は 27 億ドル(同 2.9%増)と予測さ

10 この予測は、2007 年 11 月に農務省(USDA)が公表したもの。その後、同 12月に小麦が史上最高値(2008 年 3月限)を記更新したのに続き、2008 年 1月には大豆も 34年半ぶりに史上最高値を更新(2008 年 7月限)するなど、価格がさらに上昇していることや世界の各国が輸出入関税の見直しを公表していることから、農産物輸出額もさらに増加する可能性が高い。

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れている。 鶏肉は、鶏インフルエンザによる需要減退から回復基調を強めた前年度に比べてやや減少し、輸出量が 1.0%減、輸出額が 3.1%減となるが、いずれも 2005・2006年度を上回る水準で推移するものと予測されている。 野菜・果実等園芸作物については、史上最高の 186億ドル(前年度比 3.8%増)と予測されている。輸出額の 3/4を占めるカナダ、日本、メキシコ、EUのうち、EUは前年度並みで推移するものの、他の3ヶ国への輸出額が引き続き上昇傾向で推移するものと見込まれているが、他国の堅調な需要、米国ドル安、他の農産物の価格高騰がこの背景にある。生鮮果実・野菜は 49億ドル(前年度比 2.6%増)、加工果実・野菜は 45億ドル(同 2.2%増)でいずれも史上最高となるものと予測されている。 表 I-22 米国の品目別農産物輸出(金額)とその見通し合計 62,516 68,593 81,947 19.5 91,000 11.0うち穀物・飼料 15,989 18,281 24,175 32.2 27,500 13.8 小麦 4,252 4,289 6,365 48.4 7,500 17.8 コメ 1,240 1,296 1,279 ▲ 1.3 1,600 25.1 粗粒穀物 5,316 6,808 9,794 43.9 11,700 19.5 トウモロコシ 4,742 6,187 8,922 44.2 10,200 14.3 その他の飼料用作物 2,718 3,090 3,489 12.9 3,900 11.8油糧種子・製品 11,001 10,643 13,669 28.4 16,300 19.2 大豆 6,980 6,334 8,483 33.9 10,400 22.6 大豆ミール 1,475 1,599 1,933 20.9 2,200 13.8 大豆油 351 311 611 96.5 700 14.6牛肉 832 1,399 1,894 35.4 2,400 26.7豚肉 2,239 2,405 2,625 9.1 2,700 2.9鶏肉 2,041 1,911 2,477 29.6 2,400 ▲ 3.1乳製品 1,686 1,766 2,459 39.2 2,600 5.7綿花 3,869 4,666 4,294 ▲ 8.0 5,800 35.1種子 926 880 946 7.5 1,000 5.7園芸作物 14,875 16,675 17,911 7.4 18,600 3.8 生鮮果実・野菜 4,126 4,471 4,776 6.8 4,900 2.6 加工果実・野菜 3,493 3,924 4,402 12.2 4,500 2.2(注)1 2008年度は予測。年度は、10月~9月。   2 粗粒穀物には、トウモロコシ、大麦、ソルガム、オーツ麦、ライ麦が含まれる。(出所)米国農務省「Outlook for U.S. Agricultural Trade 2007.11」

年 2005年度 2006年度 2007年度 (単位:100万ドル)2008年度07/06(%) 08/07(%)

表 I-23 米国の品目別農産輸出(数量)とその見通しバルク商品合計 114,306 120,658 124,743 3.4 130,800 4.9小麦(小麦粉を除く) 26,505 25,005 28,718 14.8 28,700 ▲ 0.1コメ 4,258 4,024 3,317 ▲ 17.6 3,800 14.6粗粒穀物 50,538 61,363 59,104 ▲ 3.7 68,000 15.1 トウモロコシ 45,262 56,038 54,095 ▲ 3.5 60,000 10.9その他の飼料用作物 11,008 11,727 11,655 ▲ 0.6 12,100 3.8大豆 29,504 26,418 30,319 14.8 26,500 ▲ 12.6大豆ミール 6,659 7,301 7,971 9.2 7,500 ▲ 5.9大豆油 600 523 857 63.9 700 ▲ 18.3牛肉 204 345 442 28.1 500 13.1豚肉 883 986 1,004 1.8 1,100 9.6鶏肉 2,439 2,321 2,525 8.8 2,500 ▲ 1.0綿花 3,349 3,679 3,104 ▲ 15.6 3,600 16.0(注)1 2008年度は見通し。年度は、10月~9月。   2 バルク商品には、小麦、コメ、祖粒穀物、大豆、綿花、原料たばこが含まれる。   3 粗粒穀物には、トウモロコシ、大麦、ソルガム、オーツ麦、ライ麦が含まれる。(出所)米国農務省「Outlook for U.S. Agricultural Trade 2007.11」

(単位:千トン)2008年度07/06(%) 08/07(%)年 2005年度 2006年度 2007年度

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③ 国別輸出動向 農産物輸出を地域別に見ると、2008年度は、アジア向けが総輸出額の 35.4%、南北アメリカ向けが同じく 40.8%を占める。この比率は、アジア向けが微減、南北アメリカ向けが微増となるものの、前年度とほぼ同様と予測されている。 また、2008年度の輸出額は、前年度に比べて、全体で 91億ドルの増加が予測されているが、内訳としては、アジア向けが 29億ドル、南北アメリカ向けが 40億ドルの増加となっており、欧州を含めた 3地域でその大部分を占めている。 国(地域)別に見ると、第 1位から第 4位まで順にカナダ 147億ドル(前年度比 11.3%増)、メキシコ 137億ドル(同 11.3%増)、日本 104億ドル(同 7.3%増)、EU89億ドル(同 10.5%増)となっている。カナダ向けは、生鮮園芸作物、加工食品、飲料などの高付加価値品が中心であり、米国ドルに比べてカナダドルが強くなっていることから当面は輸出の増加が続くものと見られている。メキシコ向けは、中流階級の急増に伴って幅広い高付加価値品への需要が続くほか、トウモロコシや綿花の需要の伸びが予測されている。日本向けは、アジア通貨危機が発生した 1997 年以来最高となり、大豆、トウモロコシ、小麦、飼料の価格上昇のほか、堅調な日本経済、円高米国ドル安によって赤身肉、園芸作物、加工食品、飲料などの高付加価値品の需要増加が予測されている。この他、経済成長による需要増加と米国ドル安という共通要因に加え、自由貿易協定(FTA)の発効(現在、議会の批准待ち)によってコロンビアが 14億ドル(前年度比 25.6%増)、小麦、トウモロコシ、大豆、飼料の需要増加と価格上昇によって台湾が 33億ドル(同 12.6%増)となるほか、香港(同 20.1%増)、タイ(同27.2%増)、カリブ諸国(同 20.9%増)でも高い増加が予測されている(表Ⅰ‐24)。

表 I-24 米国の輸出先別農産物輸出金額とその見通し2005年度 2006年度 2007年度 07/06(%) 2008年度 08/07(%)合計 62,516 68,593 81,947 19.5 91,000 11.0アジア 22,521 24,937 29,321 17.6 32,200 9.8 日本 7,847 8,155 9,693 18.9 10,400 7.3 中国 5,254 6,613 7,051 6.6 7,800 10.6 香港 885 912 1,082 18.6 1,300 20.1 台湾 2,198 2,416 2,932 21.4 3,300 12.6 韓国 2,187 2,719 3,178 16.9 3,500 10.1 東南アジア 3,439 3,433 4,338 26.4 4,800 10.7 インドネシア 983 1,047 1,375 31.3 1,500 9.1 フィリピン 836 828 950 14.7 1,100 15.8 マレーシア 382 426 508 19.2 600 18.1 タイ 762 640 786 22.8 1,000 27.2 南アジア 697 676 1,031 52.5 1,100 6.7西半球(南北アメリカ) 24,833 28,082 33,145 18.0 37,100 11.9 カナダ 10,386 11,609 13,206 13.8 14,700 11.3 メキシコ 9,253 10,397 12,311 18.4 13,700 11.3 カリブ諸国 1,861 2,038 2,399 17.7 2,900 20.9 中米 1,519 1,744 2,187 25.4 2,400 9.7 ブラジル 222 281 375 33.5 400 6.7 コロンビア 601 802 1,115 39.0 1,400 25.6欧州 8,649 8,597 9,824 14.3 11,000 12.0 EU 7,152 7,181 8,053 12.1 8,900 10.5旧ソ連 1,218 1,090 1,440 32.1 1,700 18.1 ロシア 918 906 1,122 23.8 1,300 15.9中近東 2,866 3,060 4,224 38.0 4,700 11.3アフリカ 2,672 3,052 4,246 39.1 4,700 10.7オセアニア 734 734 899 22.5 1,000 11.2(注)1 2008年度は予測。   2 EUは、2004年5月以降22カ国。その前は15カ国。(出所)米国農務省「Outlook for U.S. Agricultural Trade 2007.11」

(単位:100万ドル)

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(2)輸入動向

2007年度の農産物輸入は、700億ドル(前年度比 9.4%増)となった。2003年度から 2006年度まで 4年連続で二桁の伸びを示していたが、サブプライム問題の影響などから米国経済にやや翳りが出てきたことや原油価格の高騰によるインフレ圧力の高まりなどにより、輸入品に対する需要がやや弱まったことから増加率もやや鈍化した。品目別では、輸入額の半分近くを占める園芸作物のうち生鮮・加工果実がそれぞれ引き続き大きく増加したほか、価格の上昇やオーストラリアの干ばつによって出荷が前倒しで行われた牛肉が前年度比で 4.1%増加した。また、需給逼迫、エネルギー需要の増加などから穀物・飼料が同 21.7%、油糧種子・製品が同 15.7%、それぞれ増加している。

2008年度の農産物輸入は、755億ドル(前年度比 7.8%増)と予測されている。増加傾向は変わらないものの、米国経済の減速、高止まりする原油価格、米国ドル安によって、その伸びは前年度同様、やや鈍化するものと予測されている。引き続き、エタノールやバイオ燃料の原料としてトウモロコシや大豆などの輸入が増加し、代替作物も含めて価格の上昇が見込まれていることから、穀物・飼料が前年度比で 10.1%増、油糧種子・製品が同 19.5%増と予測されている。生体牛は同 6.0%増と予測されているが、これはカナダの包装出荷部門の低調さに加え、カナダが国際獣疫事務局(OIE)によって米国とともに BSE リスクが最小限であるとされたことを踏まえ、飼料規制の実効性が担保されていると判断された 1999年 3月 1日以降に出生した生体牛の米国輸入が解禁されたことなどからカナダからの輸入増加を見込んでいることによるものである。牛肉も前年度に比べ 6.3%増、畜産物等は 2.3%の増となることが予測されている。園芸作物も引き続き強い需要が見込まれており、特に生鮮果実が前年度比 11.0%増、加工果実が同 17.0%増と高い伸びが予測されている。

表 I-25 米国の品目別農産物輸入金額とその見通し2005年度 2006年度 2007年度 07/06(%) 2008年度 08/07(%)合計 57,736 64,026 70,037 9.4 75,500 7.8うち畜産物等 11,051 11,527 12,021 4.3 12,300 2.3 生体牛 714 1,602 1,698 6.0 1,800 6.0 生体豚 590 580 646 11.4 600 ▲ 7.1 牛肉 3,779 3,254 3,386 4.1 3,600 6.3 豚肉 1,327 1,263 1,211 ▲ 4.1 1,200 ▲ 0.9 乳製品 2,508 2,609 2,653 1.7 2,700 1.8園芸作物 26,842 29,142 32,391 11.1 35,200 8.7 果実(生鮮) 4,219 4,687 5,406 15.3 6,000 11.0 果実(加工) 2,343 2,601 3,418 31.4 4,000 17.0 野菜(生鮮) 3,518 3,979 4,165 4.7 4,400 5.6 野菜(加工) 2,621 2,754 3,149 14.3 3,400 8.0 ワイン 3,720 4,043 4,544 12.4 4,800 5.6 モルト飲料 2,978 3,376 3,686 9.2 4,000 8.5穀物・飼料 4,326 4,926 5,993 21.7 6,600 10.1油糧種子・製品 2,979 3,472 4,018 15.7 4,800 19.5砂糖・熱帯製品 11,381 13,593 14,141 4.0 15,000 6.1 コーヒー・製品 2,830 3,206 3,654 14.0 3,800 4.0 ココア、チョコレート 2,593 2,631 2,593 ▲ 1.4 2,700 4.1(注)1 2008年度は予測。(出所)米国農務省「Outlook for U.S. Agricultural Trade 2007.11」

(単位:100万ドル)

輸入先地域別で見ると、カナダ、メキシコ、ブラジルをはじめとする南北アメリカ、欧州、アジアの 3 地域で総輸入額の 90%以上を占めている。2008 年度は、南北アメリカが 52.3%、欧州が21.7%、アジアが 16.7%となっており、アジアは前年度比で 16.5%の高い伸びが予測されている。これは、マレーシア、フィリピン、インドネシアのパーム、ヤシ実油などの価格上昇のほか、マンダリンオレンジ、生鮮野菜、ニンニク、キノコ類など中国からの輸入額の増加によるものと見られている(表-25、26)。

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表 I-26 米国の輸入先国別農産物輸入金額とその見通し2005年度 2006年度 2007年度 07/06(%) 2008年度 08/07(%)合計 57,736 64,026 70,037 9.4 75,500 7.8西半球(南北アメリカ) 29,856 33,756 37,073 9.8 39,500 6.5 カナダ 11,817 13,203 14,701 11.3 15,700 6.8 メキシコ 8,095 9,316 9,916 6.4 10,300 3.9 中米 2,465 2,846 3,112 9.3 3,400 9.3 カリブ諸国 359 443 451 1.8 500 10.9 ブラジル 1,839 2,208 2,525 14.4 2,700 6.9欧州 13,701 14,492 15,544 7.3 16,400 5.5 EU 13,313 14,111 14,987 6.2 15,700 4.8アジア 8,030 9,432 10,813 14.6 12,600 16.5 中国 1,791 2,107 2,800 32.9 3,400 21.4 東南アジア 4,383 5,287 5,834 10.3 6,700 14.8 インド 902 1,012 1,094 8.1 1,200 9.7オセアニア 4,177 4,232 4,399 3.9 4,500 2.3アフリカ 1,330 1,407 1,392 ▲ 1.1 1,600 14.9中近東 641 708 816 15.3 900 10.3(注)1 2008年度は予測。(出所)米国農務省「Outlook for U.S. Agricultural Trade 2007.11」

(単位:100万ドル)

(3)対日農産物貿易 米国の 2007年度(2006年 10月~07年 9月)の対日農産物輸出は、96億 9,281万ドル(前年度比 18.9%増)となった(表Ⅰ‐27)。

表 I-27 米国の対日農産物輸出金額2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 07/06(%)農産物計 8,532,343 7,846,832 8,154,672 9,692,805 18.9 バルク商品計 4,077,401 3,368,797 3,685,176 4,729,673 28.3 うち小麦 518,468 499,511 539,216 711,446 31.9 粗粒穀物 2,008,685 1,761,546 1,972,007 2,665,390 35.2 コメ 175,134 116,586 194,421 163,609 ▲ 15.8 大豆 1,108,430 813,862 844,318 1,014,590 20.2 綿花 99,285 88,052 78,814 103,403 31.2 タバコ 130,232 55,199 8,444 9,621 13.9 中間商品計 1,085,376 1,199,395 1,140,781 1,241,080 8.8 うち小麦粉 676 848 779 681 ▲ 12.6 大豆ミール 70,936 138,147 121,191 117,712 ▲ 2.9 大豆油 3,850 11,956 8,537 14,071 64.8 植物油(大豆油以外) 39,554 40,044 29,306 39,893 36.1 飼料(ペットフードを除く) 434,469 470,132 480,817 530,704 10.4 生きている動物 64,957 57,782 59,449 79,177 33.2 皮革 98,725 84,370 85,843 86,697 1.0 砂糖・甘味料等 69,795 82,679 56,283 60,888 8.2 消費者志向商品計 3,369,566 3,278,640 3,328,715 3,722,052 11.8 うちスナック類 97,226 105,851 108,692 110,813 2.0 シリアル・パンケーキミックス 41,499 33,228 29,867 26,035 ▲ 12.8 赤身肉(牛肉・豚肉等) 1,244,099 1,077,932 1,026,568 1,340,745 30.6 赤身肉製品 47,142 57,763 57,753 74,839 29.6 家きん肉(鶏肉等) 36,957 42,567 46,522 34,542 ▲ 25.8 乳製品 101,741 106,760 109,050 171,586 57.3 鶏卵・同製品 15,451 41,345 36,127 30,422 ▲ 15.8 生鮮果実 362,653 314,670 304,912 358,425 17.6 生鮮野菜 98,077 106,749 102,161 77,519 ▲ 24.1 加工果実・野菜 448,140 476,791 495,027 526,628 6.4 果実・野菜ジュース 97,104 108,097 110,881 123,661 11.5 ナッツ 157,809 181,136 212,969 191,370 ▲ 10.1 ワイン及びビール 81,583 91,571 74,022 61,749 ▲ 16.6 ペットフード 196,846 188,412 234,579 229,554 ▲ 2.1(注)1 年度は、10月~9月。   2 斜体は70年度以来の最高。(出所)米国農務省海外農業局

(単位:1,000ドル)

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品目別では、価格の上昇により、小麦が前年度比 31.9%、粗粒穀物(大部分がトウモロコシ)が同35.2%、大豆油が同 64.8%増加するなど主要穀物の輸出額が大幅に増加した。また、米国での BSE感染牛の確認による対日牛肉輸出禁止措置が 2007 年度に入る直前の 2006 年 7 月に解禁されたこともありら、赤身肉(牛肉・豚肉等)が前年度比 30.6%、赤身肉製品が同 29.6%増加するなど回復基調を示している。

2007年度の対日農産物輸入額は、4億 4,304万ドルとなり、1970年以降最高であった前年度から0.9%減少した(表Ⅰ‐28)。

表 I-28 米国の対日農産物輸入金額2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 07/06(%)農産物計 436,743 416,399 447,188 443,044 ▲ 0.9 バルク商品計 7,951 12,040 20,196 20,804 3.0 うちコメ 197 207 584 501 ▲ 14.2  茶 6,878 10,821 19,185 19,917 3.8 中間商品計 98,862 94,045 94,271 101,881 8.1 うち植物油(大豆油以外) 24,832 23,904 24,814 23,297 ▲ 6.1 飼料(ペットフードを除く) 10,277 9,276 5,791 8,387 44.8 消費者志向商品計 329,930 310,315 332,721 320,359 ▲ 3.7 うちスナック類 57,545 66,877 45,511 43,440 ▲ 4.6 赤身肉(牛肉・豚肉等) 0 0 1,350 7,166 430.8 乳製品 1,312 2,246 2,196 2,340 6.6 生鮮果実 1,514 1,752 1,716 1,583 ▲ 7.8 生鮮野菜 2,072 2,716 4,126 3,457 ▲ 16.2 加工果実・野菜 27,052 28,235 29,087 30,595 5.2 ワイン及びビール 24,497 26,184 29,433 33,681 14.4(注)1 年度は、10月~9月。   2 斜体は70年度以来の最高。(出所)米国農務省海外農業局

(単位:1,000ドル)

2005年 12月から解禁された牛肉の輸入が増加したことなどから赤身肉(牛肉・豚肉等)が前年度比 430.8%の増加となったほか、米国内の飼料需給の逼迫、価格の上昇などから飼料(ペットフードを除く。)が 44.8%増となった。一方、前年度に 77.3%の増加を示し、米国人の健康志向の高まりから日本からの輸出のさらなる増加が期待される緑茶は、前年度比 3.8%増に留まった。また、前年度に 182.1%という高い伸び率を示したコメは 14.2%減、同じく 51.9%増加した生鮮野菜は16.2%減となり、日本産農産物の輸出促進という観点からは厳しい結果となった。

5.農家経済の動向 (1)農家所得 ① 農業所得の状況 2006年の純農業所得の総額は、穀物価格の上昇によって政府直接支払いが大きく減少したこと、原油価格及び肥料価格の上昇によって現金支出が増えたことなどを受けて、前年より 23.5%減少し 590億ドルとなった。2007年については、穀物価格の高騰による政府直接支払いのさらなる減少、原油、飼料及び肥料価格の上昇、労働費の上昇などにより、総支出が 217億ドル増加して 2,542億ドルとなるが、記録的な穀物価格の高騰によって作物収入が大幅に増加し、これを相殺することなどから、純農業所得は前年比 48.3%増の 875 億ドルと予測されている。これは、過去最高であった 2004年の 859億ドルを 16億ドル、1997年から 2006年までの平均純農業所得 574億ドルを

301億ドル上回り、史上最高となるものである。純現金所得については、2006年は 679億ドルとなり、2007年は 857億ドルと予測されている(表Ⅰ‐29)。

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表 I-29 農業所得の推移年 2003 2004 2005 2006 2007 97~06平均1農産物現金収入 215.6 237.3 240.7 239.3 282.2 211.2 作物 109.9 113.7 115.9 120.0 142.6 105.2 畜産 105.6 123.6 124.9 119.3 139.6 106.02政府直接給付 16.5 13.0 24.4 15.8 12.1 16.93農業関連収入 15.7 17.1 16.2 17.5 17.8 15.14現金収入計 1+2+3 247.8 267.4 281.3 272.5 312.1 243.25非現金収入 14.6 17.3 19.3 20.5 23.9 14.46在庫変動評価 -2.4 11.2 -1.1 -1.6 5.8 0.57総収入 4+5+6 260.0 296.0 299.6 291.5 341.7 258.18現金支出 177.6 185.2 195.5 204.7 226.4 177.89総支出 200.3 210.0 222.5 232.5 254.2 200.710純現金所得 4-8 70.2 82.2 85.8 67.9 85.7 65.411純農業所得 7-9 59.7 85.9 77.1 59.0 87.5 57.4(注)1 2007年は予測。   2 作物の現金収入には、CCCによる短期融資を含む。   3 農業関連収入は、機械賃料、レクレーション、林産物販売収入など。(出所)米国農務省経済調査局

(単位:10億ドル)

表 I-30 作物・畜産物収入の推移年 2003 2004 2005 2006 2007作物収入 食用穀物 8.0 8.9 8.6 9.1 12.2 飼料作物 24.7 27.4 24.6 28.0 41.2 油糧作物 18.0 17.9 18.4 18.2 22.6 綿花 6.4 4.8 6.3 6.2 5.9畜産物収入 肉用牛 45.1 47.5 49.3 49.1 50.3 豚肉 10.6 14.3 15.0 14.1 14.5 家禽類・鶏肉 24.0 29.5 28.9 27.5 34.6 ブロイラー 15.2 20.4 20.9 18.9 23.1 乳製品 21.2 27.4 26.7 23.4 35.2(注) 2007年は予測 。(出所)米国農務省経済調査局

(単位:10億ドル)

2006年の作物収入は、年後半にかけて小麦、トウモロコシ、大豆などの主要作物の価格が上昇傾向で推移したこと、大豆の作柄に恵まれたことなどから、前年比 3.5%増の 1,200億ドルとなった。2007 年は記録的な小麦、トウモロコシ、大豆の価格高騰のほか、ソルガム、大麦、オート麦などの価格も上昇すると見込まれていることからさらに増加して、2006年を 226億ドル上回り史上最高となる 1,426 億ドルを記録すると予測されている。2006 年の作物収入の作物別内訳を見ると、小麦など食用穀物は前年比 5 億ドル増の 91 億ドル、トウモロコシなど飼料穀物は同 34 億ドル増の 280億ドル、大豆など油糧作物は同 2億ドル減の 182億ドル、綿花は同 1億ドル減の 62億ドルとなった。2007 年においては、食用穀物は前年比 31 億ドル増の 122 億ドル、飼料穀物は同 132億ドル増の 412億ドル、油糧作物は同 44億ドル増の 226億ドル、綿花は同 3億ドル減の 59億ドルと予測されている。

一方、2006 年の畜産物収入については、豚、ブロイラー、乳製品の収入が減少したことから、前年比 4.5%減の 1,193億ドルとなった。2007年は、肉用牛、豚肉、ブロイラー、家禽類・鶏卵、乳製品など多くの品目の収入が増加する結果、前年比 17.0%増の 1,396億ドルと、5年連続で 1,000

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億ドルを上回るとともに、これまで史上最高であった 2005年の 1,249億ドルを 147億ドル上回り史上最高になると予測されている。特に、家禽類・鶏卵が前年比 25.8%増の 346 億ドル、乳製品が同 50.4%増の 352億ドルと大きく増加すると予測されている(表Ⅰ‐30)。

2006 年の政府直接給付は、穀物価格の上昇により、LDP(Loan Deficiency Payment)、MLG(Marketing Loan Grain)など価格支持融資関連の支払い(制度の詳細は、「Ⅱ 米国の農業政策」参照)が減少したこと、大規模な災害対策予算が組まれなかったこと等から、前年比 35.2%減の 157 億 8,900 万ドルとなった11。2007 年は、穀物価格がさらに上昇し、記録的な高水準で推移していることから、価格支持融資関連に加え、価格変動対応型支払も大きく減少し、全体で前年比23.4%減の 120億 9,900万ドルとなると予測されている(価格変動対応型支払は、2006年の 40億3,600 万ドルから 11 億 8,500 万ドルへ大きく減少し、アップランド綿花とピーナッツのみ受給が見込まれている。(表Ⅰ‐31)。 表 I-31 政府の直接支払の推移 (単位:100万ドル)年 2003 2004 2005 2006 2007政府直接支払合計 16,523.5 12,969.9 24,395.9 15,789.1 12,098.7うち直接固定支払 6,703.6 5,242.4 5,198.8 5,052.0 5,262.4  価格変動対応型支払 2,300.7 1,122.0 4,073.8 4,035.9 1,184.8  LDP 576.4 2,865.1 5,080.3 730.6 67.5  MLG 198.2 131.2 368.7 188.3 6.4  穀物証券による返済差額 556.4 475.7 1,614.0 873.3 932.6  ピーナッツ割当買上 237.6 24.7 22.3 21.2 0.0  生乳収入喪失補償 913.3 205.7 9.6 431.2 90.0  タバコ制度移行支払 0.0 0.0 2,083.1 1,206.3 950.0  保全プログラム支払 2,167.3 2,319.6 2,767.5 2,974.3 3,100.0  緊急対策 3,143.2 582.4 3,168.8 274.5 500.0(注)1 2006年は暫定値、2007年は予測。   2 当該年に農家に支払われた額であり、当該年産の作物に対して支払われたものに限らない。   3 LDP=Loan Deficiency Payment、MLG=Marketing Loan Gain。   4 各支払の詳細は、「Ⅱ 米国の農業政策」参照。(出所) 米国農務省

農家の総現金収入に占める政府直接支払の割合も、2005年は 8.7%であったが、2006年は 5.8%、2007年は 3.9%と減少してきている。 このような結果、総収入は、2006年は 2,915億ドルとなり、2007年は 3,417億ドルと予測されている。 一方、2006年の現金支出は、2006年は、原油、飼料及び肥料価格の上昇の影響で、前年比 4.7%増の 2,047億ドルとなった。2007年は、穀物価格の高騰により飼料コストがさらに上昇するほか、労働費も上昇していることなどから、前年比 10.6%増の 2,264 億ドルとさらに増加すると予測されている。この結果、総支出は、2006 年は前年比 4.5%増の 2,325 億ドル、2007 年は同 9.3%増の 2,542億ドルとなる予測である。なお、前年比 217億ドルの増加は史上最高である。

② 農場経営者世帯所得の状況 2007年の農場経営者世帯の所得(農業所得+農外所得)は、8万 3,622ドル(前年比 7.7%増)と予測されている。これは、2002年から 20006年までの 5年間の平均を 11.4%上回る水準。農業所得は、農作物(作物、畜産物)収入の増加が政府補助金の減少を上回り、1 万 1,159 ドル(前年比

11 価格変動対応型支払いの場合、当年産の穀物に対する支払いのうち 65%は翌年に支払われることから、価格変動による支払い水準の変化は翌年に現れる傾向がある。

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32.8%増、過去 5年間の平均を 14.0%上回る水準)となることが予測されているが、豊作となった2004年、2005年のレベルには達していない。農外所得は、7万 2,463ドル(前年比 4.6%増、過去5年間の平均を 11.1%上回る水準)となっている。2006年の段階で農業経営者の平均世帯所得は、7万 7,654ドルで、全米の世帯平均(6万 6,570ドル)を 16.7%上回るものとなっている(表Ⅰ-32)。 農場経営者世帯の所得について、2007年の予測においては、その 86.7%を農外所得に依存するものとなっているが、農外所得に依存する度合いは、農場のタイプにより大きく異なっている。2007年 12月に公表された 2006年の農業資源・管理調査(Agricultural Resource Management Survey)によると、農場のサイズが大きくなるにつれて農業収入の割合が大きくなり、年間売上が 10 万ドル以上 25 万ドル未満の農場を経営する農業を主業とする農場経営者の世帯所得では、その半分程度を農業収入が占め、年間売上 50万ドル以上の農場になると、経営者世帯所得の 8割程度は農業収入に由来するという従来の傾向は変わっていない。むしろ、経営管理能力、技術力、資金力などを有する大規模経営者への農地の集積が進んでいるほか、農業収入や政府支払いも増加し、このことがさらに農地の集積を進めているという傾向が伺える。

表 I-32 農場経営者の平均世帯所得年 2003 2004 2005 2006 2007農業所得 7,884 14,317 14,860 8,406 11,159農外所得 60,713 67,279 66,738 69,248 72,463所得合計 68,597 81,596 81,599 77,654 83,622(全米世帯平均) 59,067 60,528 63,344 66,570 -(注) 2007年は予測。(出所) 米国農務省経済調査局(単位:ドル/世帯)

(2)農家資産、負債の動向

農家の資産、負債、純資産は、記録的な穀物価格の高騰を背景にした順調な農業経営、これを反映した農地価格の上昇による農地取得費の増加、世界的な食料・燃料需要の増加に基づく農業の収益性・将来性に対する期待感もあって、いずれも増加傾向にある。

2006 年末における農家の総資産額は、その大部分を占める農地等の不動産価格が引き続き上昇したことから、前年比 11.9%増の 1兆 9,791億ドルとなった。2007年末については、農産物(作物、畜産物)収入が大幅に増加するものと見込まれていること、金利が引き下げられていることなどから、農家の総資産額はさらに増加し、前年比 12.3%増の 2兆 2,226億ドルとなるものと予測されている。 一方、農家の負債については、農家が順調な経営を背景にして農地取得(規模拡大)を行っている中、農地価格が前年比で 13.7%上昇していることから増加傾向にある12。2006年末については 2,073億ドル(前年比 7.3%増)となったほか、2007年末については、不動産債務が 1,141億ドル(同 4.7%増)、動産債務が 1,011億ドル(同 2.8%増)となり、負債合計では 2,152億ドル(同 3.8%増)となることが予測されている。これは、4年連続で史上最高を更新するものである。 この結果、農家の純資産については、2006 年末は 1兆 7,718億ドル(前年比 12.4%増)、2007年末は 2兆 75億ドル(同 13.3%増)となることが予測されている。 負債の総資産、純資産に対する比率は、1985年には約 30%となっていたが、ここ数年は総資産の増加が負債の増加を上回って推移していることから減少を続けており、1992年から 2003年までの平均がそれぞれ 14.4%、15.6%であるのに対し、2006年はそれぞれ 11.7%、10.5%となったほか、2007 12 アイオワ州立大学の調査によると、エタノール需要の増加もあってトウモロコシの生産増加で活況を呈するアイオワでは、2006年の 1年間で農地価格が 1エーカー当たり 704ドル、22%上昇し、1976年以来 31年ぶりの高水準となる 3,908ドルとなっている。2000年には 1,857ドルであり、この時点から 100%以上の上昇となっている。

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年はそれぞれ 10.7%、9.7%となると予測されている(表 I‐33)。

表 I-33 農業経済のバランスシート年 2003 2004 2005 2006 2007資産 不動産 1,111.8 1,307.6 1,485.0 1,682.4 1,912.2 動産  家畜 78.5 79.4 81.1 80.7 80.6  機械類 95.9 102.2 105.0 113.1 116.5  穀物在庫 24.4 24.4 24.3 22.7 27.4  購入資材 5.6 5.7 6.5 6.5 7.0  金融資産 62.4 65.5 67.5 73.7 78.8 総資産 1,378.8 1,584.8 1,769.3 1,979.1 2,222.6負債 不動産債務 94.1 96.9 101.5 109.0 114.1 動産債務 81.0 86.1 91.7 98.3 101.1 負債合計 175.1 183.0 193.2 207.3 215.2純資産 1,203.6 1,401.9 1,576.1 1,771.8 2,007.5対資産負債比率 14.6% 13.1% 12.3% 11.7% 10.7%対純資産負債比率 12.7% 11.5% 10.9% 10.5% 9.7%(注)1 2007年は予測。   2 機械類は、農業利用分に限る。(出所) 米国農務省経済調査局

(単位:10億ドル)

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<コラム 1>大豆先物相場が 34 年ぶりの高値を記録~生産量の減少、堅調な輸出、原油価格高騰等により 11 ドルを突破~(2007 年 11 月~12 月) 世界的に主要穀物の需給逼迫が強まる中、大豆の価格が記録的な高値を示している。 2007年 11月 23日のシカゴ商品取引所(CBOT)の大豆先物相場において、2008年 1月限が 1ブッシェル(=27.216kg)当たり 11 ドルを突破する 11 ドル 1/4 を記録した。これは、期近限月としては、

1988年 6月の 10ドル 99セント 1/2を上回り、1973年 6月の 12ドル 90セント以来 34年ぶりの高値となった。2007年 12月以降も高値は続き、12月 26日の CBOTにおける 2008年 1月限は 12ドル 20セント 3/4まで上昇して取引を終えた。 生産量の減少、堅調な輸出をはじめ、強材料が多く、市場では価格の高止まりが当面継続するとの見方が支配的である。

<作付面積の減少による生産量の減少>

2007 年 6 月頃から CBOT における先物価格の上昇傾向が顕著となっている大豆であるが、その原因としては、まず生産量の減少による需給の逼迫が挙げられる。

2007/2008 穀物年度(2007 年 9 月~2008 年 8 月)におけるトウモロコシのエタノール需要が増加した結果、大豆からトウモロコシへ作付面積が大幅にシフトし、大豆の作付・収穫面積、生産量は 2006/2007穀物年度(2006 年 9 月~2007 年 8 月)に比べて大幅な減少が予測されている。2007 年 12 月 11 日に農務省(USDA)が発表した需給見通し(毎月発表)によると、2007/2008穀物年度の大豆の作付面積は6,370万エーカー(1 エーカー=約 0.4ヘクタール)で前穀物年度比 15.6%減、収穫面積は 6,280 万エーカーで同 15.8%減、生産量は 25 億 9,400 万ブッシェルで同 18.6%減となっている。 このように、供給量が前穀物年度に比べて減少する中、需要は堅調に推移しており、2007 年 11 月9 日に USDA が発表した需給見通しと比較しても、圧砕高が 500 万ブッシェル増加して 18 億 3,000万ブッシェル、輸出が 2,000万ブッシェル増加し 9億 9,500万ブッシェルとなり、需要合計は 29億 8,800万ブッシェルとなっている。 これらの需給見通しを 2006/2007 穀物年度と比較すると、供給が 4 億 7,400 万ブッシェル、13.0%の減少となっているのに対し、需要は 8,600 万ブッシェル、3.6%の減少に止まっている。このため、価格に大きな影響を及ぼす期末在庫が、前穀物年度の 5 億 7,300 万ブッシェルから 2007/2008 穀物年度は 1 億 8,500 万ブッシェルへ 3 億 8,800 万ブッシェルもの大幅な減少となり、需給の逼迫がさらに強まる予測となった。 なお、世界の主産国における生産状況については、降雨不足で例年よりも作付けが遅れ、先行きが懸念されているものの、ブラジル、アルゼンチンは現在のところ順調であると予測されている。しかし、中国が主産地の干ばつの影響を受けて 8 年ぶりの低水準となる 1,430 万トン、EU も対前穀物年度比で 30 万トンの減少となる 94 万トンと予測されている。この結果、世界全体の生産量は前穀物年度比で 6.3%減、期末在庫は同じく 20.5%減となっている。

<堅調な輸出~旺盛な中国の需要~> また、生産量の減少に加え、中国向けをはじめとする堅調な輸出も価格高騰に拍車をかける。

2007 年 11 月 23 日に発表された USDA の週間輸出成約高(11 月 9 日~15 日)(「U.S. EXPORT SALES

FOR WEEK ENDING 11/15/2007」)において、メキシコが 7 万 9,900 トン、台湾が 4 万 3,200 トンのほか、中国が 119 万 6,200 トンの買付けを行った結果、全体の成約高が 180 万 8,000 トンと前週より 39%増で市場予測の上限 120 万トンを大きく上回り、今穀物年度における最高成約量となったことが報告された。中国は、その前週にも 91 万 7,000 トンという大きな成約を行っているが、これは進行する国

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内インフレ防止対策として国家備蓄用に米国産大豆の輸入を増加させていることによるものであり、大豆油等を含めて昨年を上回るペースで輸入を行っている。また、2007 年 12 月までとなっていた輸入関税の減率措置(3%→1%)の 2008 年 3 月までの延長のほか、一部報道では大豆・大豆油の輸入付加価値税(13%)の免除の可能性が指摘されている。これらは、米国産大豆の中国向け輸出に一段と弾みをつける可能性が高い。

<原油高・米国ドル安> さらに、原油相場の高騰、米国ドル安も大きな要因となっている。 2007 年 9 月に 1バレル当たり 80 ドルを突破した原油相場は、その後も高騰を続け、100 ドルに限りなく近付いている状況となっている。米国は本格的な冬を控えるとともに、北東部においては平年以下の気温が予報される中、ヒーティング・オイルの需要が高まるにつれ、原油価格が更に上昇する可能性は高い。この原油価格の高騰が、代替燃料であるバイオディーゼルの需要を増加させ、バイオディーゼルの原料の多くを占めている大豆の価格を押し上げるとの見方も今回の高値を後押しした。 加えて、日本円・米国ドル相場で、2007 年 11 月 26 日に一時 107円 26銭までドルが下落したが、日本円のみならず、他の通貨に対しても米国ドル安基調は同様であり、このことも米国産大豆の輸出増加に大きく寄与する結果となっている。

<今後の見通し~生産動向~>

2007年 11月下旬から 12月上旬にかけての CBOTの大豆先物相場は、原油相場が軟調な動きになったこと等から、利益確定売りが先行して、価格上昇もやや落ち着きがみられたが、12月中旬以降、再び 2008年 1月限が 11ドル台に戻り、12月 26日には 12ドル 20セント 3/4まで上昇した。今後、中長期的な価格動向を占う場合には、旺盛な中国の需要、原油高・米国ドル安が当面続くという前提を置きつつ、供給については米国及び世界の主産国の 2008/2009 穀物年度(2008 年 9 月~2009 年 8月)の生産量予測、また、需要についてはバイオディーゼル原料としての取扱いの行方が重要となる。 まず、生産量予測であるが、公式予測は 2008 年 2 月 21・22 日にワシントン DC で開催される USDA主催の農業観測会議(Agricultural Outlook Forum)での発表を待つ必要があるが、2007 年 10 月の下院農業委員会において USDA のキース・コリンズ首席エコノミストは、2008/2009 穀物年度の大豆の作付面積を 7,000 万エーカーと予測している。また、2007 年 12 月 14 日に農業専門誌 Informa economics社も、同じく 7,000 万エーカーと予測している。一部には、大豆価格の上昇に加え、生産コストの高さ、エタノールのロジスティックス(生産・流通システム)の未整備、供給過剰によるエタノール価格の下落とエタノール工場の収益の悪化によってトウモロコシ需要の減少見通しもあることから、トウモロコシから大豆へ大きな再シフトするとの指摘もある。しかし、キース・コリンズ首席エコノミストと Informa economics社の予測は、いずれも、2005/2006 穀物年度(2005 年 9 月~2006 年 8 月)、2006/2007 穀物年度の作付面積に及ばない。これらは、トウモロコシ価格も高止まりを続ける中、トウモロコシと大豆を交互に作付けする伝統的な中西部の生産者は、地代を同じと仮定した場合には、単収が大豆に比べて圧倒的に大きいトウモロコシの方が収入は多くなり、投入コストが相対的に高くても所得も多くなることから、生産者にとっては魅力的な選択となり得るという実情を反映としているものと言える。また、遺伝子組換え技術の進展により、連作障害が減少しているほか、現地の商社によると、大豆よりも長い作付・生産の歴史を持ち、大柄で中西部を代表する作物であるトウモロコシに対する生産者の思い入れは強いものがあるという。 また、2007 年 12 月 11 日の USDAの発表によると、南米における 2007/2008 穀物年度の大豆の生産量は、ここまでの比較的順調な作付けを反映し、ブラジルが 6,200 万トン、アルゼンチンが 4,700万トンとなっており、前穀物年度並み又は増加が予測されている。しかし、両国とも、ペルー沖の太

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平洋赤道付近で海面温度が低下する「ラニーニャ現象」の影響によって冷涼な気候が続いており、ブラジルでは極端に降水量が変化し、特に北東部での降水量不足が深刻になっていることから、発芽時期を迎えた大豆の生育への悪影響が懸念されている。このような状況を反映して、ブラジルの民間コンサルタント Safras&Mercado Co.は 07/08 穀物年度の大豆の生産量を 6,050 万トンと、USDA の予測を下回る数値を発表しているほか、Ag Rural社は同じく 6,240 万トンと、USDA の予測を上回る数値を発表しているものの、同社の前回の発表から 40万トン下方修正している。 このように、今後の大豆の作付・生産に関しては、価格上昇の圧力となる要素が多いのが現状である。

<今後の見通し~バイオディーゼル原料として需要~> 原油価格の高騰によって代替燃料として注目されるバイオディーゼルについては、全米バイオディーゼル評議会(NBB)によると 2007 年 9 月現在、165 工場で 18 億 5,000 万ガロン(1ガロン=約 3.8リットル)の供給能力を有し、その多くが大豆を原料としている。 しかし、ジェトロ・シカゴセンターが行った全国バイオディーゼル評議会(National Biodiesel Board)事務局長のリヘーゲン氏へのインタビューによると、同氏は大豆価格の高騰、供給施設の不足をはじめとするインフラ整備の遅れ等により、需要は伸び悩んでいると言う。また、生産停止に追い込まれる等、中小工場の経営は厳しい状況に置かれており、今後は、原料の生産・流通・消費まで一貫したロジスティックを有する大手工場の市場支配力が高まり、業界再編へ繋がる可能性を示唆した上で、バイオディーゼルの需要拡大に向けては、政府による広報・啓発の強化と使用義務量の引き上げ等政策支援の必要性を指摘している。この点を踏まえると、今回の大豆価格の高騰は、直ちに需要が増加するとの予測を反映したものというよりも、エネルギー法における再生可能燃料基準(RFS)の引き上げ(※)による今後の需要増加、さらなる需給逼迫を見越したものと見ることができる。

※ 2005 年 8 月に大統領が署名し、2006 年 5 月に施行されたエネルギー政策法(Energy Policy Act of 2005)では再生可 能燃料基準(RFS: Renewable Fuels Standard)が定められ、再生可能燃料(エタノール、バイオディーゼル等)使用量の義務付けを行っている。義務量は 2006 年 40 億ガロン、2012 年 75 億ガロンとなっているが、エタノール生産量の急速な増加により、2008 年に 75 億ガロンの義務量達成が予測されている。2007 年 7 月に上院を通過した改正案では 22 年までに 360 億ガロン(穀物原料のものは 150 億ガロン)の義務量を設定していたが、8 月に下院を通過した改正案には義務量は設定されていなかった。しかし、原油価格、ヒーティング・オイル価格が高騰したため、有権者からの要望を踏まえ、感謝際明けの議会において下院民主党の主導によって RFS の引き上げ等を含むエネルギー法改正の議論が進み、12 月 6 日に下院可決後、13 日に上院で可決、18 日に下院で再可決され、22 年までに 360億ガロン(穀物原料のものは 150 億ガロン)のほか、12 年までに 10 億ガロンのバイオディーゼルの使用量を義務付けるエネルギー法改正案が議会を通過した。12 月 20 日にブッシュ大統領もこれに署名した(「Ⅲ 米国エタノール事情」参照)。

<食料をめぐる事情の変化への対応> 1ブッシェル当たり 12ドル 90セントを記録した 34年前の 1973年 6月は、エルニーニョ現象が発生し、ソ連(当時)の穀倉地帯が大規模な干ばつに見舞われていた。ソ連は、CBOTで大量の穀物の買付けを行い、穀物相場が高騰したため、米国は輸出禁止に踏み切った。当時のソ連の人口は、約 2億 4,500万人であるが、現在の中国、インドの人口ははるかにそれを上回る。また、1971年 12月にスミソニアン合意が行われ、日本円・米国ドル相場は 1ドル 308円とされた後、1973年 2月に円が変動相場制に移行された時期とも符合する。

1973 年の食料自給率(カロリーベース)は 55%であったのに対し、現在は 39%となっている等、日本の食料をめぐる状況が大きく変化する中、世界的にも食料や燃料に係る穀物需要の増加、世界各

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地で毎年発生する異常気象はじめ、今後の食料供給に係る懸念材料は多い。大豆を例に取れば、04年において、全輸入量約 441 万トンのうち、実に 318 万トンを米国産に頼っている日本は、食料輸入大国として世界の穀物事情の変化を最も受けやすい立場にある。また、世界の穀物市場が厳しさを増し、原料調達の多様化や製造工程の外部化などコスト縮減に係る日本の食品産業界の自助努力も限界に近づく中、特に、コストを最終製品に転嫁することが難しい食品メーカーは非常に厳しい状況に置かれているのが現状である。縮小する国内市場規模の縮小、増加する安全・安心コストなど状況は一層厳しくなっているが、食料の安定供給の確保、多様で豊かな食生活の維持を図るためには、食品産業界の健全な発展が不可欠である。今後は、行政機関も含めた関係者が、穀物をはじめとするコスト増加要因についての情報発信を行うなど適正価格の確保に向けた努力が一層求められると言えよう。

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<コラム 2>小麦相場が史上最高値を記録~欧州等の減産予測で価格高騰、農産物輸出・農家所得は史上最高に~(2007 年 8 月~9月) シカゴ商品取引所(CBOT)等の米国穀物市場では、ここのところ小麦相場が史上最高値を記録、更新している。主要産地である欧州等の減産予測、依然として強い需要、トウモロコシへの作付けシフトによる需給逼迫予測が原因であるが、予想を超えた価格の高騰により、日本を含む世界の食品産業は販売戦略の見直しが避けられない見通しだ。 一方で、世界の穀物需給の逼迫、小麦を含む主要穀物の価格高騰を背景に、米国の農産物輸出・農家所得は史上最高になるものと予測されている。

<過去最高値を記録後もストップ高> CBOT の小麦相場は、2006年 9月の 1ブッシェル(=25.401kg)当たり 4ドル前後から今年に入ってからは 5ドル前後で推移していたが、農務省(USDA)が毎月発表する 2007/2008 穀物年度(2007年 6 月~2008 年 5 月)の需給見通しでは、世界の小麦の期末在庫は 26年ぶりの低水準になることが予測されている。この需給逼迫予測を受け、CBOTの小麦相場は、2007年 6月頃から上昇傾向を示し、ついに 8月最終週には 1996年 3月に記録したこれまでの最高値である 1ブッシェル当たり 7ドル 50セントを 11年ぶりに上回り、8月 29日は 7ドル 58セント 1/2、30日は 7ドル 84セント 1/2、31日は 7ドル 75セント 1/2を記録した(いずれも 2007年 12月限)。これは、フランス、ドイツにおける収穫期の降雨、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニアにおける長引く高温乾燥により欧州における大幅な減産予測に加え、カナダ、オーストラリア、アルゼンチン等でも高温乾燥による減産予測が伝えられ、需給逼迫予測が改めて確認された結果、先行き不安に拍車をかけたことが要因である。 これに止まらず、2007年 9 月 3 日の祝日(労働祭)が明けてからも、主要産地の減産予測の中、インドによる 79.5万トン、エジプトによる 47万トンの買付けが伝えられる等依然として強い需要が示され、これに応えられる産地としての米国への引き合いが強まったことから、CBOTの小麦相場は、4日は 8ドル 5セント 1/2、5日は 8ドル 35セント 1/2(いずれも 2007年 12月産)と過去最高値を更新してストップ高となったほか、両日とも 2008年 3月産・5月産もストップ高で取引を終了した。

<世界の食料供給への影響の懸念> この価格高騰を受け、今後の見通しが懸念されるが、小麦の主要産地の生産予測動向が不明確であること、依然として強い需要等を考慮すると、価格上昇リスクは当面継続するものと考えられる。日本では既に、2007 年 10 月から政府が輸入小麦の売渡価格を 10%引き上げるほか、大手食品メーカーが一部の商品価格を約 10%の引き上げることが発表されている。予想を超える小麦価格の高騰は、原料調達価格の抑制を一層困難なものとするほか、燃料価格の上昇等によって包装資材や流通経費等他の経費での吸収も限界に達している中、厳しい経営環境が続く我が国食品産業にとって商品価格への転嫁は残された数少ない経営戦略であり、追随するメーカーも出てくるものと考えられる。 また、トウモロコシ、大豆を含めた主要穀物間の供給バランスの問題も考慮する必要がある。 昨年からのエタノール需要の増加によってトウモロコシの作付面積の増加が予測され、価格も上昇傾向で推移しているが、その煽りを受けた形で大豆の作付面積は大幅な減少が予測され、価格は上昇傾向で推移している。米国のある農業専門誌は、トウモロコシ在庫の増加、大豆の需給逼迫による価格上昇により、2008/2009 穀物年度の作付けはトウモロコシから大豆への再シフトが生ずると予測している。これに加えて、大豆と同様に需給逼迫が予測される小麦価格の高騰によって、主要穀物であるトウモロコシ、大豆、小麦間での綱引きが激化することにより、今後の作付面積、収穫予測はさらに不透明感を増している。今後は、主要産地の天候回復による適正生産水準の回復とともに、市場の

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価格シグナルを反映した作付けが行われることにより、日本を含む世界の食糧需給への深刻な影響が回避されることが望まれる。

<農産物輸出、農家所得は過去最高に> 一方で、USDAは、2007年 8月 31日に、農産物輸出が 2007年度は 790億ドル、2008年度は 835億ドルとなり、いずれもこれまで最高であった 2006年度の 686億ドルを上回り、過去最高を記録するとの予測を発表した。2008 年度は、世界各国からの需要が強い穀物をはじめ、油糧種子、綿花、高価な園芸作物や畜産物の輸出の伸びを予測している。併せて、農産物輸入は、2007 年度が 705億ドル、2008年度が 750億ドルで、2008年度の貿易収支は 85億ドルの黒字と予測されている。また、同じく USDAは、8月 30日に、農家経済に関する予測を発表し、2007年度の農家純所得が 871億ドルとなり、2006 年度を 281 億ドル、過去 10 年の平均を 297 億ドルもそれぞれ上回るほか、これまで最高であった 2004 年度の 859 億ドルをも上回り、史上最高を記録するとした。トウモロコシ、大豆、小麦、いずれも価格が上昇している穀物生産価格は 2006年度を 14%上回る 1,362億円、飼料価格と同時に販売価格も上昇している畜産物価格が 18%上回る 1,402 億ドルと史上最高を記録する予測であり、この生産価格の上昇が農家純所得に寄与している結果となっている。特に、穀物平均価格の上昇がここでも目立ち、1年前と比較して、トウモロコシは 62%、大豆は 36%、小麦は 46%の上昇となっている13。 このような空前の農家経済の好調さを示すデータの裏返しとして、政府から農家に対する直接支払い額は、2006年度よりも 14%減少して 136億ドルと予測され、過去最高を記録した 2005年度の 244億ドルよりも 100億ドル以上減少するほか、過去 10年の平均 169億ドルをも大きく下回るものとされている。 休会明けの議会では、上院において、下院を通過した次期農業法案の審議が予定されているが、イラク関係の審議や歳出予算を伴う法案が目白押しで、明確な審議日程の目途は立っていない。しかし、厳しい財政状況の中で歳出増に伴う相殺財源、地域・農家間の公平性の確保が大きな論点となっており、好調な農家経済の動向は、今後の審議を複雑なものにするとともに、農業政策の転換に繋がる可能性もあるものと考えられる。

13 ここでの農産物輸出、農家所得はいずれも 2007 年 8月の農務省(USDA)の発表に基づくもの。その後、同 11月にデータが更新されている(「4 農産物貿易の動向、5農家経済の動向」参照)。

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ⅡⅡⅡⅡ 農業政策農業政策農業政策農業政策のののの概要概要概要概要 1.2002年農業法の概要 米国の農業政策は、大恐慌時に農産物価格の大暴落に対処して価格支持を行った 1933年農業調整法(Agricultural Adjustment Act of 1938)と 49年農業法(Agricultural Act of 1949)(33年農業調整法を再構成)を基本にし、実質的には 5年ごとの時限立法により見直しが行われてきている。

2002 年農業法は、96 年農業法(96 年連邦農業改善改革法) (The Federal Agriculture

Improvement and Reform Act of 1996)に代わるものとして、2002年 5月 13日、ブッシュ大統領の署名によって成立した。ブッシュ政権は、96 年農業法の下での補助金制度は、生産過剰をさらに刺激するとともに、借地料を高騰させ、農業のコストを上昇させるとして批判した。しかし、4年連続で総額約 273億ドルにのぼる緊急対策を実施しなければならなかったほど、穀物価格が低迷する中で、農業サイドからのセーフティネットを求める声は強まった。2002 年が大統領選中間選挙の年であったこともあり、下院・上院ともに、緊急対策を加えた現行制度をベースに農業環境政策を大幅に拡充する方向で議論は進められ、両院協議会での調整を経て、2002年農業法は成立した。 なお、2002年農業法の正式名称は、2002年農場安全保障・農村投資法(The Farm Security and Rural Investment Act of 200214)で、期間は 2002年から 2007年まで 6年間の時限立法である。

(1)2002年農業法のポイント

2002年農業法のポイントは、以下のとおりである。 ① 作付けの自由を保障する(生産調整は行わない)など 96 年農業法に基づく農業保護のスキームを基本的に踏襲した上で、単価の引上げ、対象の拡大等による保護水準の引上げ ② 主要作物(小麦、トウモロコシ、大豆、コメ、綿花等)に対する価格変動対応型支払い(Counter‐Cyclical Payments)の創設 ③ 環境保全に関する予算の増額(96年農業法に基づく措置よりも 8割増) ④ 肉、果実・野菜、魚、ピーナッツについて原産国表示の義務付け(制定から 2 年以内の 2004年 9月 30日までに実施)

14 http://www.nrcs.usda.gov/about/legislative/pdf/PLaw107171.pdf

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表Ⅱ‐1 96年農業法と 2002年農業法における主要政策の比較 96年農業法 2002年農業法 直接固定支払い

不足払い制度の廃止、直接所得保証の導入。 過去5年内に減反計画に参加した生産者を対象に、連邦政府との生産弾力化契約により所得を直接補償。 支払額=契約面積×85%×基準単収×単価

毎年連邦政府と合意を結んだ生産者が対象。 基本的に96年農業法の仕組みを踏襲した上で、対象に大豆その他の油糧種子を追加。 支払額=基準面積×85%×基準単収×単価 単価は、2002年水準で固定。 価格変動対応型支払い

なし 目標価格と実効価格との差額を支払い。実効価格は、ⅰ)全国平均販売価格とローンレートのいずれか高い方とⅱ)直接固定支払いの合計額から算定。 支払額=基準面積×85%×基準単収×単価 単価は、2002/2003 年よりも 2004~2007年の方が高め。 価格支持政策 短期融資の対象は生産弾力化契約締結農家。 *ローンレート水準 小麦、飼料穀物は過去 5年の平均農家受取価格(最大最小除く)の 85%、上限は 95年と同水準のブッシェルあたり小麦$2.58、コーン$1.89。農務長官は最大 15%引下げ可。コメは$6.50/cwt。大豆は過去 5年の平均農家受取価格の 85%。ただし、$4.92~5.26/ブッシェルの間。

直接固定支払いの合意を結んだ生産者が対象。対象に、落花生、羊毛、モヘア、蜂蜜などを追加。 ローンレート水準は、法定。96 年水準に比べ、大豆は引下げ、綿花、コメは変わらず、トウモロコシ、小麦などは引上げ。 一般に、単価は 2002/2003年よりも 2004~2007年の方が低め。 酪農品 1.バター、脱脂粉乳、チーズの買上げによる加工原料乳の価格支持。

2.マーケティングオーダー実施地域を 33 から 11に統合。

1および 2は継続。

3.全国酪農市場損失支払いを創設(2005 年9月末まで)。毎月、ボストン・クラス115と16.94 ドル/ポンドとの差額の 45%を支払い。 輸出促進 1.輸出信用保証計画

2.市場アクセス計画(MAP)

3.輸出奨励計画(EEP)

3.酪農品輸出計画(DEIP)

4.援助輸出

1.継続。

2.段階的に増額。

3~5は継続。

環境政策 1.土壌保全留保計画(CRP)

2.湿地保全計画(WRP)

3.農地保護計画(FPP)

4.野生生物生息地奨励計画(WHIP)

5.環境改善奨励計画(EQIP) 等 1.CRPは最大面積3,640万エーカー→3,920万エーカー。

2.WRP は最大面積 107.5 万エーカー→227.5万エーカー。

3および 4は継続。

5.EQIPは 60%を畜産環境保全に充当。

6.保全保障計画(CSP)、草地保全計画(GRP)を新設。 原産地表示規制

なし 牛肉、羊肉および豚肉、天然の魚介類、生鮮・冷凍野菜および果実等について、小売段階での消費者への原産地表示を求めるもの。 最終的に 2004年 9月末までに義務化の規則制定。 15 ボストン地域の飲用生乳価格。

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(2)主要作物プログラム

2002年農業法における主要作物の価格・所得支持は、①直接固定支払い、②価格変動対応型支払い、③ローン不足払い(価格支持融資)からなる。これらの支払いの関係を示すと図Ⅱ‐1のとおりである。

図Ⅱ‐1 米国の主要穀物の価格・所得支持制度

このうち、ローン不足払いについては、実際の生産高に応じて支払われるが、直接固定支払いおよび価格変動対応型支払いについては、実際にどの穀物をどれだけ生産したかにかかわらず、過去の基準面積などに応じて支払いがなされる。例えば、基準年に小麦のみを作付けしていた農場のすべての農地で大豆が生産されたと仮定すると、ローン不足払いについては大豆の市場価格に基づいて、また直接固定支払いおよび価格変動対応型支払いについては小麦の市場価格に基づいて支給額が算定される。 ① 直接固定支払い(Direct Payments)

96 年農業法では、生産調整の廃止とともに不足払い制度(市場価格が目標価格を下回った場合にその差額を支払う制度)は廃止され、生産者への直接所得補償方式(生産弾力化支払い)が導入された。具体的には、過去 5カ年のうちに 1回以上農産物プログラム(不足払い、短期融資制度とそれにリンクする減反計画)に参加した生産者は、政府と生産弾力化契約を締結すれば、2002 年までの 7年間、市場価格にかかわらず定額の所得補償を受けることができるものであった。

2002 年農業法では、基本的にこの仕組みを踏襲した上で、それまで対象だった小麦、トウモロコシ、大麦、ソルガム、えん麦、アップランド綿花、コメに加え、大豆その他の油糧種子、ピーナッツを対象とした。 支払いを受けるためには、毎年政府と合意を結ぶ必要がある。

ローンレートローンレートローンレートローンレート

市場価格 直接固定支払い

目標目標目標目標価格価格価格価格

市場価格<ローンレート 市場価格>ローンレート 目標価格<固定支払+市場価格

補填(ローン不足払い)

補填(価格変動対応型) 補填(価格変動対応型)

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生産者への支払額は、基準面積の 85%×基準単収×単価により算出される。 基準面積は、ⅰ)96年農業法に基づく直接固定支払いの基準面積16、ⅱ)当該 96年の基準面積に油糧種子の 1998年から 2001年までの 4年間の平均作付面積(災害等により作付けできなかった面積を含む。)を加えた面積、ⅲ)すべての対象品目についての 1998 年から 2001 年までの 4 年間の平均作付面積(災害等により作付けできなかった面積を含む。)のいずれを用いるか、一度だけ選択できる17。 基準単収は、油糧種子を除き、96 年農業法に基づく直接固定支払いの単収(85 年水準)が用いられる。油糧種子については、農場の 1998年から 2001年までの平均単収に 1981年から 1985年までの全国平均単収をかけ、1998年から 2001年までの全国平均単収で割ったものを用いる。 単価は、2000年水準で固定され、別表Ⅱ‐2のとおりである。 直接固定支払いを受け取るために、生産者は対象となる作物を作付ける必要はない。どのような作物(野菜と果物を除く)を作付けても良く、作物を作付けなくても良い。 生産者は、支払いの 50%まで収穫の前年の 12 月 1 日から受け取ることができ、残額を収穫年の10月に受け取ることができる。 直接固定支払いは、生産量や価格の変動に影響されないため、穀物年度ベースの支払いは、各年度約 52億ドルでほぼ一定となっている。会計年度ベースでは、支払い時期の違いなどで若干変動がある(表Ⅱ-2)。2007会計年度の支払いが前年と比べて少ないのは、2005年財政赤字削減法に基づき、一部の前払い率が削減され(50%→22%)、後年度の支払いとなったためである。 作物別では、基準面積が最も大きいトウモロコシが約 4割を占め、次いで小麦が約 2割となっている。

表Ⅱ-2 直接固定支払い支出額(CCCの支出額)2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度総支出額 4,151 5,289 5,235 4,962 4,131 5,249小麦 - 1,146 1,136 1,076 889 1,126トウモロコシ - 2,115 2,101 1,994 1,658 2,109ソルガム - 199 197 188 156 199大麦 - 82 81 76 68 83オーツ麦(えん麦) - 3 3 3 3 3アップランド綿花 - 622 608 575 485 611コメ - 427 424 402 330 425大豆 - 603 596 564 471 603その他油糧種子 - 20 20 19 16 20ピーナッツ - 71 69 66 56 69(注)1 会計年度は10月~9月。例えば、2003年度は2002年10月1日~2003年9月30日。   2 2006年度までは実績。2007年度、2008年度は2008年度予算行政府提案に基づく見積もり。    3 2003年度は、穀物別の内訳の資料を得られなかったため、総支出額のみ記載。(出所)米国農務省商品金融公社(CCC)「Commodity Estimates Book FY 2008 President's Budget」     Output50

(単位:百万ドル)

② 価格変動対応型支払い(Counter‐Cyclical Payments)

96 年農業法では、上述のとおり、生産調整の廃止に伴って、不足払い制度も廃止された。当初は、穀物価格が高位安定していたが、1998年以降、アジア通貨危機の影響もあって穀物価格が下落する 16 基本的に 1995年以前 5年間の作付面積および減反面積の平均。 17 農務省経済分析局によれば、41%の農家が 1998年から 01年までの平均作付面積を用いて基準面積を更新している。35%の農家は 96年の基準面積に 1998年から 2001年までの油糧種子の作付面積を加え、24%は 1996年の基準面積のみを選択している。 http://www.ers.usda.gov/publications/err12/err12.pdf

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と、農家のセーフティーネットを求める声が高まった。この結果、1998年から 2001年まで毎年、市場喪失補償の名目で、直接固定支払いに上乗せする形で、補助金が支払われた。 価格変動対応型支払いは、この市場喪失補償に対応するセーフティーネットとして、2002 年農業法で新たに設けられた制度であり、目標価格(Target Price)と実効価格との差額を支払うものである。実効価格は、ⅰ)全国平均販売価格とローンレートのいずれか高い方とⅱ)直接固定支払いの合計額から求められる。 農場への支払額の計算方法およびその計算に用いられる基準面積は、直接固定支払いと同じである。 基準単収については、直接固定支払いと同じ単収を用いることもできるが、すべての品目について、ⅰ)2000 年の基準単収と 1998 年から 2001 年までの農場の平均単収との差の 70%を基準単収に加える、ⅱ)1998 年から 2001 年までの平均単収の 93.5%を用いる、のいずれかの方法により更新することも可能である。 目標価格の設定は、2002~2003年と 2004~2007年の2本立てとなっており、原則として 2004~2007年の方が高くなっている(表Ⅱ-2)。 直接固定支払いと同様、生産者は、価格変動型支払いを受けるために、特定の作物を作付ける必要はない。 生産者は、収穫年の 10月に予定支払額の 35%まで受け取ることができる。翌年の 2月から追加の35%を受け取ることができ、それぞれの穀物の穀物年度(12ヶ月)が終わった後に残額を受け取る。 価格変動対応型支払いは、価格の変動によって各年度、各穀物の支払額が異なる。会計年度で見ても、2004年度の 8億ドルから 2006年度の 44億ドルまで大きな差が生じている(表Ⅱ-3)。2007年度は、穀物価格が高騰しているため、小麦、大豆など多くの作物で発動が見込まれていない。 穀物別に見ると、アップランド綿花、コメ、ピーナッツは比較的コンスタントに支払いが行われている。一方、大豆は、2002 年農業法の期間を通じて実質的に一度も支払いを受けていないため、大豆生産者の間で、目標価格の見直しを求める声が出ている。なお、前述のように、価格変動対応型支払いは穀物年度終了までに 3回に分けて支払いが行われるが、穀物年度が終了しなければ年間の平均価格が確定せず、支払額も確定しない。このため、穀物年度当初価格が低迷したため見込み額として一定額を支払ったが、最終的には発動基準に達せず、翌年度以降全額を返還させるケースもある(表Ⅱ-3中、マイナスの部分)。 表Ⅱ-3 価格変動対応型支払い支出額(CCCの支出額)2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度総支出額 1,743 809 2,772 4,356 2,803 983小麦 - 28 0 -28 0 0トウモロコシ - 339 906 2,515 1,637 0ソルガム - 4 45 265 0 0大麦 - 0 52 46 0 0オーツ麦(えん麦) - 0 0 0 0 0アップランド綿花 - 217 1,421 1,410 970 843コメ - 124 11 86 61 0大豆 - 0 146 -146 0 0ピーナッツ - 98 191 208 135 140(注)1 会計年度は10月~9月。例えば、2003年度は2002年10月1日~2003年9月30日。   2 2006年度までは実績。2007年度、2008年度は2008年度予算行政府提案に基づく見積もり。    3 2003年度は、穀物別の内訳の資料を得られなかったため、総支出額のみ記載。   4 マイナスは、前の年度の過払い分の返還。 (出所)米国農務省商品金融公社(CCC)「Commodity Estimates Book FY 2008 President's Budget」     Output50

(単位:百万ドル)

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③ 価格支持融資(Marketing Assistance Loan) 農家が農産物を担保に商品金融公社(Comooditiy Credit Corporation。 以下「CCC」)18から短期融資(最大 9ヵ月)を受けられる価格支持融資は、直接固定支払いの合意を結んだ生産者を対象に継続実施される。2002年農業法では、その対象に、ピーナッツ、羊毛、モヘア、蜂蜜、小ヒヨコマメ、ヒラマメ、乾燥えんどう豆が追加された。 この制度は、従来、融資保証価格(ローンレート)と市場価格(コメ、アップランド綿花については、国際市場価格)の関係に応じて農家が担保農産物を CCCから買い戻し(市場価格がローンレートを上回る場合)、または CCCへ引き渡す(市場価格がローンレートを下回る場合)ことを通じて、市場供給量を調整し市場価格を支持する目的を有していた。この場合、ローンレートは市場の最低価格としての機能を持つ。しかしながら、1980 年代に担保農産物の引渡しにより政府在庫が増加し、逆に市場を圧迫するようになると、担保農産物の引渡し以外の返済手法が導入されるなど、政府在庫による市場供給量の調整機能は薄められ、農家の種子、肥料代などの可変コストを補うセーフティーネットとしての意味合いが強くなってきている。

2002年農業法の下では、市場価格がローンレートを下回る場合、農家は以下の 4つのうち一つを選択できる。ⅱ)~ⅳ)については、融資を受ける時点で市場価格がローンレートを下回っている必要はなく、返済(または質流れ)時点で、市場価格がローンレートを下回っていれば、選択できる。

ⅰ) Loan Deficiency Payment(LDP) 農家は、融資を受ける権利を放棄するかわりに、郡単位のローンレート 19と市場価格(PCP:Posted County Prices20またはコメ、アップランド綿花についての国際市場価格)の差額(LDP)21を受け取ることができる。 ⅱ)Marketing Loan Gain(MLG) 融資の返還の際に、元本+利息ではなく、市場価格(PCP または国際市場価格)に相当する額のみを返済する。元本+利息と返済額の差額が農家のメリット(MLG)となる。 ⅲ)Certificate Gain MLGと似ているが、返済に現金ではなく、政府の穀物証券を用いる。農家は、農務省から穀物証券を市場価格(PCPまたは国際市場価格)で購入し、ただちにそれを農務省に融資の返済として引き渡す。MLG と同様、元本+利息と返済額(穀物証券の価格)の差額が農家のメリットとなる。1996年農業法の改正により、2000年から導入された。MLGと異なり、後述する農家の受益上限(価格支持融資によるメリットについては、7万 5,000ドルが上限)の対象外であるため、近年利用が増加している。 ⅳ)担保の引渡し(質流れ) 元々の当該制度の基本スキームであり、農家は返済の代わりに担保である農作物を政府に引き渡す。近年の利用は少ない。

価格支持融資は、ローンレート(保証基準価格)と市場価格の差額を保証する機能のほか、収穫期に資金が必要な農家が、穀物を売らずに資金を調達する手段としても用いられているため、価格に関わらず、毎年度 100億ドル程度の新規融資が実施されている(表Ⅱ-4)。

18 実体的な組織が存在するわけではなく、作物プログラムの給付等を行う名目的機関として農務省内に置かれる。実際の事務は農務省で行われる。 19 法定された全国ベースのローンレートを基に、農務長官が定める郡単位のローンレート。品目ごと、郡単位のローンレートは、http://www.fsa.usda.gov/FSA/webapp?area=home&subject=prsu&topic=lor で参照可能。 20 郡ごとに毎日農務省によって公表される価格。http://www.fsa.usda.gov/FSA/searchPCPData で参照可能。 21 日々の LDPの単価は、http://www.fsa.usda.gov/FSA/displayLDPRates?area=home&subject=prsu&topic=ldp-ldp で参照可能。

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農家への実質的な補助金部分である MLG(Marketing Loan Gain)、LDP(Loan Deficiency Payment)は、穀物価格が下落した 2005年度、2006年度に増加している。また、2000年から導入された穀物証券による融資の返済が近年増加している点にも留意が必要である。この手法によって農家が得たメリット{融資額+利息-返済額(市場価格)}は、広義の MLG に含まれるが、作物プログラムの支払い上限を判定するに当たって、農家の受取額に算入しなくても良いこととされている点も拡大の要因と見られる。

MLGと LDPの比較では、LDPの額が大きい。価格が下がったときに LDPを獲得し、価格の値上がりを待って現物を売りに出すというのが農家の一般的な行動パターンであることが読み取れる。

表Ⅱ-4 価格支持融資(Marketing Assistance Loan)の実績2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度新規融資 - 9,150 12,619 12,014 11,347 10,066現金返済 - 7,904 6,819 6,055 7,986 7,218穀物証券による返済 - 903 5,149 5,127 2,969 2,941MLG - 114 318 280 68 18質流れ - 25 978 128 67 302LDP 693 461 3,856 4,630 238 101LDPの品目別内訳 小麦 - 35 44 14 0 0 トウモロコシ - 108 2,868 4,042 2 0 ソルガム - 10 129 125 1 0 大麦 - 42 52 35 2 0 オーツ麦(えん麦) - 3 0 0 0 0 アップランド綿花 - 23 382 250 162 71 コメ - 202 45 49 0 0 大豆 - 3 286 22 44 0 その他油糧種子 - 4 7 26 0 0 ピーナッツ - 0 0 1 0 0 ヒラマメ 0 2 15 4 3 乾燥えんどう豆 - 19 31 42 13 17 羊毛 - 7 5 7 8 7 モヘア - 5 3 1 2 3(注)1 会計年度は10月~9月。例えば、2003年度は2002年10月1日~2003年9月30日。   2 2006年度までは実績。2007年度、2008年度は2008年度予算行政府提案に基づく見積もり。    3 MLG=Marketing Loan Gain。市場価格で返済した際の融資額+利息と市場価格の差額(農家の      メリット)。この表では、現金返済と穀物証券による返済の両方を含む。   4 LDP=Loan Deficiency Payment。融資を受ける代わりに、郡単位のローンレートと市場価格の     差額を支給。   5 LDPの品目別内訳のうち、小ヒヨコマメ等小額なものは省略。   6 2003年度については、穀物別の内訳など詳細なデータが得られなかった。(出所)米国農務省商品金融公社(CCC)「Commodity Estimates Book FY 2008 President's Budget」     Output50、Output04

(単位:百万ドル)

なお、96 年農業法では、法律の定める範囲内で農務長官がローンレートを定めることとされていたが、2002年農業法では、全国的なローンレートは、すべて法律で定められた。目標価格とローンレートの設定は、2002~2003 年と 2004~2007 年の二本立てとなっており、原則として 2004~2007年の方が低くなっている(表Ⅱ-5)。

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表Ⅱ-5 直接固定支払い単価、価格変動対応型支払い目標価格、ローンレート一覧直接固定支払い支払い単価単位 2002~07 2002~03 2004~07 2002~03 2004~07小麦 $/bu 0.52 3.86 3.92 2.80 2.75トウモロコシ $/bu 0.28 2.60 2.63 1.98 1.95ソルガム $/bu 0.35 2.54 2.57 1.98 1.98大麦 $/bu 0.24 2.21 2.24 1.88 1.85オーツ麦(えん麦) $/bu 0.024 1.40 1.44 1.35 1.33アップランド綿花 $/lb 0.0667コメ $/cwt 2.35大豆 $/bu 0.44その他油糧種子 $/lb 0.008 0.098 0.101 0.096 0.093ピーナッツ $/t 36ELS綿花 $/lb -等級付羊毛 $/lb -等級なし羊毛 $/lb -モヘア $/lb -蜂蜜 $/lb -乾燥えんどう豆 $/cwt - 6.33 6.22ヒラマメ $/cwt - 11.94 11.72小ヒヨコマメ $/cwt - 7.56 7.43(注)1 bu=ブッシェル、cwt=100ポンド、lb=ポンド   2 ローンレートは全国平均 (出所)The Farm Security and Rural Investment Act of 2002 (2002年農業法)0.60

10.50ローンレート

0.404.204955.80--------

0.7241.00

価格変動対応型支払い目標価格

0.79770.526.55.00355

短期融資

④ 酪農品

ア 価格支持制度

CCC がバター、脱脂粉乳およびチーズの買上げを行うことによる加工原料乳の価格支持制度は、96年農業法では、支持価格を毎年 0.15ドルずつ削減し、1996年の 10.35ドルから 1999年には 9.90ドル/100ポンドとした上で、1999年 12月末で廃止、2000年以降は、ローンレートプログラムに移行することとされていた。しかしながら、1999 年の農業不況の状況を踏まえ、農業歳出予算法により 2000年 5月末まで延長されていた。 2002年農業法では、9.90ドル/100ポンドとした上で、継続することとした。

イ マーケティングオーダー制度 飲用牛乳の安定供給と生産者の所得安定等を図る連邦ミルクマーケティングオーダー制度(FMMO:Federal Milk Marketing Order、オーダー地域ごとに用途別の最低価格を設定し、生産者への乳価支払はプール計算により行うもの)については、96年農業法前には 33あったオーダー地域が、11に統合された。

2002年農業法では、96年農業法の規定を継続した。

ウ 生乳所得喪失支払い(MILC: Milk Income Loss Contract Program) 緊急対策での支払いを 2002年農業法に組み込んだものである。生産者は、政府との間で、2005年 9月 30日を終期とする契約を締結する。毎月、ボストン・クラス122の価格が 16.94ドル/ポ 22 ボストン地域の飲用生乳価格。

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ンドを下回る場合に、その差額の 45%が政府から生産者に支払われる。事業所あたりの年間支払い限度は、240万ポンドまでとされている。

2005年 9月 30日で一旦期限が終了したが、2005年財政赤字削減法によって 2007年 9月 30日まで期限が延長された。ただし、支給額は、16.94 ドル/ポンドとボストン・クラス1価格との差額の 34%に減額されている。

⑤ ピーナッツ 国内販売割当制を廃止し、従来の割当保持者に対し、5年間、1ポンドあたり 11セントを支払う。ローンレートは 355ドル/トンに固定し、新たに直接固定支払い、価格変動対応型支払いの対象にする。直接固定支払いの単価は 36 ドル/トン、価格変動対応型支払いにおける目標価格は 495 ドル/トン。

⑥ 砂糖 短期融資制度において、質流れ(③のⅳ)と類似の制度)した場合のさとうきび加工業者への 1セント/ポンド、てんさい加工業者への 1.07 セント/ポンドの罰金制度を廃止。また、96 年農業法では廃止された販売割当制を農務長官による在庫管理という形で復活させている。

⑦ 支払い上限 直接固定支払いの上限は、96年農業法と同水準の 40,000ドルに、価格変動対応型支払いの上限は 65,000 ドルに設定された。短期融資制度による受益は、75,000 ドルが上限(96 年農業法では150,000 ドル)となる。総額で、180,000 ドルが上限となる。支払い上限を実質的に倍増させる 3人格ルール23が存続されたため、実際には、上限がそれぞれ倍になり、総額 360,000ドルが上限となる。

3 年以上にわたって調整後総収入(農業収入については、収入からコストを除いたもの)が 250万ドルを超える生産者は、支払いの対象とならない。ただし、総収入の 75%以上が農業に由来するのでない場合には支払いの対象となる。

(3)保全・環境政策

① 保全留保計画(CRP :Conservation Reserve Program) 保全留保計画は、土壌浸食が起こりやすい土地等を対象に 10~15年の長期間にわたり草地や林地に転換させるために、参加農家に対して対象地の借地料の支払等を行う制度であり、2002 年農業法では、対象面積の上限を 3,640万エーカーから 3,920万エーカーに拡大の上、実施される。

CRPの対象となる土地は、非常に侵食しやすい土地で、2002年までの過去 6年間に 4年以上農作物が作付された土地である。 土壌、水質、野生動植物生息地の保全に反しないのであれば、支払額を減額した上で、牧草地としての利用(バイオマスの収穫も含む)、風車の設置も認められる。 より保全の必要性が強い地域の土地については、州がコストの 20%を負担する保全留保強化計画(CREP : Conservation Reserve Enhancement Program)への参加も可能。 また、2001年農業歳出法によって始まった CRP湿地登録パイロットプログラム(CRP Wetland Enrollment Pilot Program、小規模な湿地およびその緩衝地域を対象とするもの)は、6州で合計

23 他の法人の株主になっていれば、本人個人の場合における半分の限度額の支払いを受けることができる。2法人の株主まで許容される。

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50万エーカーが対象面積の上限だったが、全州に範囲を拡大した上で、100万エーカーが上限となる。ただし、これは、CRPの上限に含まれる。新しい名称は、耕作可能湿地計画(FWP: Farmable Wetland Program)。

CRPは、計画への参加の形態、事業内容によって以下の 4つに分類できる。 ⅰ) 一般登録(General Sign-up) 一定の登録期間内に申請をした土地の中から、保全の必要性が高い順に登録を認めるもの。年に2~4回程度登録期間が設けられる。 ⅱ)継続登録(Continuous Sign-up) 川岸の護岸整備など、より優先度の高い保全措置を採用する土地について、優先的に登録を認めるもの。借地料の支払い等のほか、保全措置について一定のインセンティブを受けるケースが多い。 ⅲ)保全留保強化計画(CREP) 連邦と州の合意(CREP合意)により、保全の必要性の高い地域について、優先的に登録を認めるもの。州が費用の 20%を負担する。借地料等の支払い等のほか、一定のインセンティブを受けるケースが多い。2008年 1月現在、31の州との間で 37の CREP合意が発効している。 ⅳ)耕作可能湿地計画(FWP) 小規模な湿地およびその緩衝地域を対象とするプログラム。100万エーカーの上限がある。

2008年 1月現在、CRPに登録を行っている土地は、3,459万エーカーで、2002年農業法が定める上限(3,920万エーカー)の 88.2%。一般登録のものが多く、全体の 88.8%を占める。平均借地料は、1エーカー当たり 50.48ドルであるが、CREPは、124.19ドル、FWPは 117.46ドルと平均借地料の倍以上の水準となっている(表Ⅱ-6)。

表Ⅱ-6 保全留保計画(CRP)の登録状況契約数 農場数 面積 (エーカー) 百万ドル $/エーカー一般登録 389,471 253,595 30,713,244 1,356 44.16継続登録 292,777 176,896 2,661,940 240 90.08CREP 59,400 39,553 1,041,982 129 124.19FWP 11,374 9,062 176,811 21 117.46CRP全体 753,022 423,757 34,593,977 1,746 50.48(注) 2008年1月現在。年間借地料

(出所)米国農務省農業サービス局「Conservation Reserve Program Monthly Summary, 2007.12」 登録面積の大きい州は、順にテキサス、モンタナ、ノースダコタ、カンザス、コロラドとなっている。いずれも乾燥した土地柄で、作物では小麦の産地が多く、牧畜が盛んな点でも共通点がある(表Ⅱ-7)。 表Ⅱ-7 保全留保計画(CRP)登録面積上位5州 面積(エーカー)①テキサス 3,926,278②モンタナ 3,324,483③カンザス 3,130,943④ノースダコタ 2,996,696⑤コロラド 2,434,578(注) 2008年1月現在。(出所)米国農務省農業サービス局「Conservation Reserve Program Monthly Summary, 2007.12」

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② 湿地保全計画(WRP :Wetlands Reserve Program) 湿地保全計画は、作付けされている湿地や元湿地を対象に、永久または 30年間の地役権を設定し、湿地の復元とその保護を行うものである。政府は、永久地役権の場合には全額、30 年間の地役権の場合には 75%、湿地保全のためのコストを負担する合意を土地所有者と結ぶ。 対象面積の上限は、96年農業法の 107.5万エーカーから 227.5万エーカーに拡大された。

③ 草地保全計画(GRP :Grassland Reserve Program) 草地保全計画は、2002年農業法で新設されたもので、復旧または改良されたか、天然の草地、放牧地、牧草地を対象とし、長期の契約(10年、15年、20年または 30年)の締結または地役権(30年または永久)の設定を行うことにより、土地所有者による草地の復旧や未開草地の保全を支援するものである。対象面積の上限は 200万エーカー。資金の上限は、2003年から 2007年で 2億 5,400万ドル。

④ 農地保護計画(FPP:Farmland Protection Program) 州、部族、地方政府、非営利団体に対して、農地を開発から守ることを目的とする地役権設定のための資金を拠出するもの。

⑤ 野生生物生息地奨励計画(WHIP :Wildlife Habitat Incentives Program) 陸上野生生物、湿地の野生生物、絶滅の危機に瀕する種のための生息地を創設しようとする土地所有者に対して、その費用の一部を負担するもの。

⑥ 環境改善奨励計画(EQIP :Environmental Quality Incentives Program) 政府が生産者と農場での環境保全を図る旨の 1~10年間の契約を結び、技術的支援、費用の一部負担、普及啓発を行うもの。2007 年までに 90 億ドルの資金が供給される予定であり、そのうちの60%が畜産環境保全にあてられる(96年農業法では最低 50%)。 一生産者あたりの年間の支払い限度額はないが、2002~2007年の合計で 45万ドルを超えることはできない。 ⑦ 保全保障計画(CSP :Conservation Security Program) 土壌、水質、野生生物生息地の保全などとの関連で生産者が実施する土地の管理などに対して支払いを行う。 2002年農業法で創設された計画であり、2002年までの 6年間のうち 4年以上作付けされていた全ての農地が対象となる。ただし、CRP、WRP、GRPの対象となる農地は、対象外である。また、家畜の糞尿保管施設、処理施設も、対象外である。 生産者の計画への参加レベルは 3 層に分類され、高い層ほど保全のためのより大きな努力が要請される代わりに、支払額も大きくなっている。

CSPは、2002年農業法で創設された事業で、通常の保全プログラムと異なり、耕作をやめて土地を保全する必要はない。保全の取組みによって参加レベルが三階層に分けられている(表Ⅱ-8)。

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表Ⅱ-8 2002年農業法における保全保障計画(CSP)の参加レベル基礎支払い 補助金(借地料) (コストシェア)階層Ⅰ 農場の一部について少なくとも一つの保全の取組み(農法・作業など)を行う 5年 借地料の5% 20,000ドル階層Ⅱ 農場の全部について少なくとも一つの保全の取組み(農法・作業など) 5~10年 借地料の10% 35,000ドル階層Ⅲ 農場の全部について全ての保全の取組み(農法・作業など) 5~10年 借地料の15% 45,000ドル(注)1 保全の取組みは、土壌、水質、空気など環境資源を保全するための取組み。   2 借地料は、全国の農地借地料の平均。 (出所)The Farm Security and Rural Investment Act of 2002(2002年農業法)コストの75%を上限にコストシェア(補助金支給)新規就農者は、上限を90%に引き上げ

保全の取組み 契約期間 年間支給上限額

2002 年農業法は、2002 年までの 6年間のうち 4 年間作付けされていたすべての土地が対象となり得るプログラムとして制度を構築したが、その後の実施段階では、予算の制約もあり、対象者が極めて限定される形となっている。

まず、予算については、2002年農業法の施行の段階で、議会予算局(CBO)は、今後 10年間にCSPに必要な費用(ベースライン)を 20億ドルと見積もっていた24。2003年に入って CBOは、今後 10年間で CSPに必要な費用を 68 億ドルに上方修正したが、議会はこれを 2003年度統合歳出決議(The FY 2003 Consolidated Resolution)によって、37億ドルに減額し、余剰分(約 20億ドル)を緊急農業災害支援策の財源とした。2004年度統合歳出法(The FY 2004 Consolidated Appropriations Act)は、この 10年間の費用見込みを 68億ドルに戻したが、2004年度の CSPの予算額は 4,140万ドルに限定した。

2004年 3月に CBOは、今後 10年間(2005年~2014年)に CSPに必要な費用を 89億ドルに上方修正した。この見積もりでは、2005年度に必要な額は 2億 8,200万ドルとされている。ところが、2004年 10月、議会は、10年間の CSPの費用額を 60億 3,700万ドルに減額し、再度余剰財源の 29億ドルを緊急農業災害支援策の財源とした。これにより、2005年度統合歳出法(The FY2005 Consolidated Appropriations Act)は、2005年度の CSPの予算額を 2億 240万ドルに限定した。2006年度についても、議会は、CSPの予算額を減額している2526(表Ⅱ-9)。

実際の事業の実施段階では、こうした予算の制約もあって、2002 年農業法には含まれていない条件、制約が付されることになった。CSPの実施を担当する農務省自然資源保全局(NRCS)では、2004年 1月に規則案を、同年 6月に暫定最終規則を公表(2005年 3月に一部修正)しているが、2002年農業法と比較して、以下のような限定が加わっている。

24 CSPは、法律に基づく義務的経費であり、年度ごとの歳出権限法に基づく歳出割当は必要ない。ただし、歳出権限法等によって支出額を制限された場合には、それに従う必要がある。 25 行政府側も、予算提案のたびごとに、CBOのベースラインを下回る額の予算提案を行っている。 26 予算の減額の経緯は、議会調査局(CRS)のレポート「Conservation Security Program: Implementation and Current Issues」http://www.nationalaglawcenter.org/assets/crs/RS21740.pdf を参考にした。

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(ア) 事業の実施地域を流域地域に限定し、かつ、全国 2,264ヶ所の流域地域を保全の必要度に応じてランク付けし、優先度の高いものから順に 2004 年から 2012年までの間で 1 回ずつ新規募集を行う(2004年度 18流域、2005年度 202流域、2006年度 60流域、2007年度 54流域)。

(イ) 2002 年農業法では、保全活動は、少なくとも一つの資源を対象とすればよいことになっていたが、暫定最終規則では、申請の段階で土、水の両者について保全活動を行っていることが条件とされている。

(ウ) 基礎支払いについて、25%~75%の削減率を採用し、借地料補助を削減している。

(エ) 2002年農業法で、保全費用の 75%までとされているコストシェアについて、すでに導入済みの保全の取組みに関しては、借地料補助の 25%まで、新規の保全措置については、保全費用の 50%までという上限を付している。また、新規の保全措置に対する支払いは、一契約あたり10,000ドルまでという上限が付されている。

(オ) 3階層の契約のタイプを優先度等に応じてさらに細分化している。予算は、優先度の高いカテゴリーから順に充当されるため、優先度の低いカテゴリーに分類されれば、十分な支払いを受けられない可能性がある。

CSPは、2004年度から実施に移されているが、限定的な実施にとどまっており(表Ⅱ-9)、議会、農業団体等からは、完全実施を求める声が強まっている。なお、行政府の 2008年度予算提案では、2008年度は新規の募集は行わないとしている。

表Ⅱ-9 保全保障計画(CSP)の実施状況2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度連邦資金額(百万ドル) 0 41 202 257 259 316対象流域数(新規) 0 18 202 60 54 0新規契約数 0 2,188 12,780 4,323 募集未了 0新規契約面積(千エーカー) 0 1,885 9,878 3,648 募集未了 0(注)1 会計年度は、10月~9月。   2 2006年度までは実績。2007年度、2008年度は行政府予算提案に基づくもの。 (出所)米国農務省自然資源保全局ウェブサイト http://www.nrcs.usda.gov/programs/csp/    および同省「FY2008 Budget Summary and Annual Performance Plan」

⑧ その他 このほか、2002 年農業法には、保全・環境対策として環境保全経営技術支援(Conservation Operations; Technical Assistance)、緊急流域プログラム(Emaegency Watershed Program)、緊急保全プログラム(Emergency Conservation Program)、流域・洪水防止活動(Waterashed and Flood Prevention Operation)、資源保全・開発プログラム(Resource Conservation & Development Program)、流域回復プログラム(Watershed Rehabilitation Program)等が含まれる。

(4)貿易政策

① 輸出信用保証計画(Export Credit Guarantee Programs) 輸出信用保証計画は、米国産農産物の輸出を促進するため、開発途上国等が行う商業ベースでの米国産農産物輸入のための借入金について、CCC が信用状発行銀行に対して債務保証を行う制度である。3 年間までの融資を対象とする短期輸出信用保証計画(GSM‐102)と 10 年間までの融資を対象とする中期輸出信用保証計画(GSM‐103)がある。

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② 市場アクセス計画(MAP :Market Access Program) 市場アクセス計画は、米国の生産者および関係農業団体等が行う海外市場における販売促進活動等に対し補助するものである。96 年農業法では、支出上限が 9,000 万ドルに引き下げられていたが、2002年農業法では、2002年度の 1億ドルから段階的に増加し、2006年度、2007年度には 2億ドルとなる。 海外市場開発のためのプログラムとしては、他に外国市場開発計画(FMD :Foreign Market Development Program、MAPと同様に、農業団体等が海外で行った販売促進活動について、後日農務省が払い戻すもの)、新興市場計画(Emerging Markets Program、開発途上国の市場開拓のための技術的支援(マーケティング調査、セミナーの開催など)の実施)がある。

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(参考) 市場アクセス計画補助金交付実績 (2007年度)交付先団体等 交付金額 交付先団体等 交付金額Alaska Seafood Marketing Institute 5,557,794 National Association of State Departments of Agriculture 2,631,337American forest & Paper Association 8,822,028 National Confectioners Association 1,684,263American Peanut Council 2,309,130 National Dry Bean Council 1,028,682American Seed Trade Association 99,403 National Honey Board 151,339American Sheep Industry Association 479,927 National Potato Promotion Board (USA Potato Board) 6,042,938American Soybean Association 7,849,268 National Renderers Association 673,176Blue Diamond Growers/Almond Board of California 2,237,329 National Sunflower Association 1,028,393Brewers Association 156,697 National Watermelon Promotion Board 194,592California Agricultural Export Council/Western Growers Association 981,929 New York Wine and Grape Foundation 233,435California Asparagus Commission 292,736 Northwest Wine Promotion Coalition 926,534California Cherry Advisory Board 459,295 Organic Trade Association 301,525California Cling Peach Board 812,745 Pear Bureau Northwest 3,882,140California Kiwifruit Commission 176,629 Pet Food Institute 1,121,864California Pear Advisory Board 280,452 The Popcorn Board 341,081California Pistachio Commission(第1期補助金のみ) 1,003,723 Raisin Administrative Committee 3,564,358California Prune Board 3,338,691 Southern United States Trade Association 8,220,415California Strawberry Commission 903,472 Sunkist Growers, Inc. 3,499,997California Table Grape Commission 3,334,372 Texas Produce Export Association 162,194California Tomato Commission/Florida Tomato Committee 1,492,216 U.S. Apple Association 817,364California Tree Fruit Agreement 1,904,697 U.S. Dairy Export Council 4,051,416California Walnut Commission 3,502,195 U.S. Grains Council 7,313,245Catfish Institute 338,357 U.S. Highbush Blueberry Council 96,502Cherry Marketing Institute 277,495 U.S. Livestock Genetics, Inc. 1,115,949Cotton Council International 23,661,572 U.S. Meat Export Federation 13,725,552Cranberry Marketing Committee 1,237,602 U.S. Wheat Association 4,176,296Distilled Spirits Council 86,686 USA Dry Pea and Lentil Council 919,206Florida Department of Citrus 8,819,854 USA Poultry and Egg Export Council 4,444,548Food Export USA Northeast 7,032,872 USA Rice Fedaration/U.S. Rice Producers Association 3,799,107Ginseng Board of Wisconsin 110,663 Washington Apple Commission 5,299,376Hawaii Papaya Industry Association 100,309 Washington State Fruit Commission 791,226Hop Growers of America 99,503 Welch's Food 709,235Intertribal Agriculture Council 588,865 Western United States Agricultural Trade Association 11,224,679Mid-America International Agri-Trade Council 8,431,959 Wine Institute 8,450,941Mohair Council of America 146,630 小計 199,550,000予備費 450,000(注)California Pistachio Commission解散のため、同団体への第2期補助金855,495ドルの交付は撤回される。 合計 200,000,000(出所) 米国農務省海外農業局

(単位:ドル)

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③ 輸出奨励計画(EEP :Export Enhancement Program)および酪農品輸出振興計画(DEIP :Dairy Export Incentive Program)

EEPは、1985年、ECの輸出補助金に対抗して導入されたものであり、小麦、小麦粉、大麦、コメ等について、不公正な貿易により競争ができなくなっている輸出業者に対し、特定の国について、輸出業者が購入価格以下で輸出を行う場合に、当該差額相当分を交付するもの(継続)。予算規模は、2007年まで年額 4億 7,800万ドル。

DEIPは、EEPと同様、米国政府が輸出業者に対して値引き相当分を交付する制度である。予算規模は、ウルグァイ・ラウンド農業合意の約束に基づく輸出補助金の上限の枠内。

④ 援助輸出 過剰農産物の処理、飢餓の克服、海外市場開発等の観点から、P.L.480(54年農産物貿易開発および援助法)等に基づき、農産物を低利融資条件で販売し、または贈与するもの。2002年農業法においても同法を修正の上で継続された。

(5)栄養

貧困層に食料と引き換え可能なクーポン券を支給する制度であるフードスタンプ計画については、2002 年農業法では、対象を最低 5 年間以上米国に在住する合法的移民、最低滞在要件を満たさない合法的移民の子供および障害者まで拡大した上で、継続する。 また、食糧銀行や無料食堂を通じて主要食料品を供給する緊急食糧支援計画(The Emergency

Food Assistance Program)については、年間予算を 1億 4,000万ドルに増額。

(6)農村地域開発

96年農業法で創設された農村地域発展計画(Rural Community Advancement Program)を継続。農村地域発展計画は、従来の事業を再編成し、連邦政府の事業効率を高めるとともに、州レベルの意思決定をさらに促すものである。

96年農業法で創設された農業研究と農村開発を目的とした農村地域米国基金(Fund for Rural

America)については延長しないが、資金供与されたプロジェクトは完了させる。

(7)エネルギー

CCC を通じてバイオエネルギーの生産拡大のために農産物の購入量を増加しようとするバイオエネルギー生産者に対して支払いを行うバイオエネルギー計画(Bioenergy Program)を、対象とする農産物に畜産副産物などを追加した上で、継続。 再生エネルギーシステムを購入し、エネルギー効率の改善を図る農場、牧場などに対し、融資、融資保障、助成計画を実施する事業の創設など。

(8)原産国表示規制 原産国表示規制とは、牛肉、羊肉および豚肉、それぞれのひき肉、養殖および天然の魚介類、生鮮・冷凍野菜および果実、そしてピーナッツについて、小売段階での消費者への原産国表示を求めるもので、2002年農業法において創設されたものである。 農務長官は、2002 年 9 月 30 日までに任意の原産国表示のためのガイドラインを作成し、2004年 9月 30日までに原産国表示を義務化する規則を制定することとされていた。しかしながら、議

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会での 2004年度歳出法案の議論の中で、原産国表示制度の義務化は、肉、肉製品、生鮮野菜・果物等については 2006 年 9 月 30 日まで見送られることになった。養殖および野生の魚介類については、農務省の規則制定が遅れ、2005年 4月 1日から実施された。肉、肉製品、生鮮野菜・果物等については、さらに 2008年 9月 30日まで実施を延期する法律が 2005年に制定されている。

2.新農業法の制定に向けた動き (1)新農業法制定の背景 ① 米国内の事情 2002年農業法に基づくプログラムの多くが 2007年 9月末をもって期限切れを迎えたが、新農業法案に向けた本格的な議論の開始は 2005年に遡る。2002年農業法の制定時、また、2005年当時とは政治、経済はじめ農業をめぐる情勢は変化してきているが、2007 年における議会での新農業法に関する議論は、以下のような背景の中で行われた。 まず、厳しさを増す経済・財政状況の中での、予算の制約である。数年来好調を維持してきた米国経済は、2007年に入り、サブプライム問題に端を発して不透明感が強まった。2008年 1月には景気後退(recession)を回避するための緊急経済対策が講じられるに至り、また、米国連邦政府の財政赤字の拡大への懸念が高まる中、財政規律を重んじる傾向が強まった。議会多数党である民主党による「pay-go」原則(新たな歳出増、税収減を伴う施策には、それに見合った財源措置とセットなければ当該施策を講じることができない)のみならず、ブッシュ大統領も 2008年1月 28日の一般教書演説でも、増税を含む法案に対しては拒否権を行使することを明言するなど、大胆な減税で経済を浮揚させてきたという自らの経済政策の貫徹に向け、残りわずかとなった任期中における増税や優遇税制の廃止については厳しい態度を変えていない。 また、エタノール需要の増加などにより最高値の記録を更新し続ける穀物価格、米国ドル安や開発途上国の経済発展による米国産農畜産物への需要の増加など多くの要因によって、農家所得が史上最高を記録するなど米国の農業・農家はかつてない活況を呈している。このため、一部少数の大規模農家、特定の州、特定の農産物への政府支払いの集中、また、農業との関係が薄い受益者への補助・支援措置は世論の厳しい批判を浴びている。議会の議論の過程においても、大新聞を中心に農業法への批判、農政改革へのキャンペーンが繰り広げられ、農業団体と世論との温度差が浮き彫りとなった。

② WTOと国内支持 国際的には、農業法に基づき施策を中心とする米国の農業保護政策が、WTO 交渉進展の阻害要因との見方も多い。 農務省(USDA)と通商代表部(USTR)は、2007年 10月4日、世界貿易機関(WTO)事務局に対して報告が義務付けられている農業国内支持のうち、市場価格支持など最も貿易歪曲的な国内助成に分類される「農業保護相当額(AMS(価格支持相当額+削減対象補助金額)=黄の政策)」補助金の 20002 年から 2005 年までの拠出額を通報、発表した。この中で米国は、「黄の政策」は、2002年は 96億ドル、2003年は 69億ドル、2004年は 116億ドル、2005年は 129億ドルとなっており、ウルグアイ・ラウンド(UR)合意の上限 191 億ドルをいずれも下回っているとした。ただし、2005年の米国提案(AMSを 67%削減)を上限とすると、2003年を除き、いずれも上回ることとなる。 また、貿易を歪めていないか、影響が最小限に止まる「緑の政策」は、2002 年の 583 億ドルから 2005年には 718億ドルへ増加している。これはフードスタンプに係る支出の増加などが理由となっている。さらに、農家への直接支払いのうち特定の要件を充たす「青の政策」、農業生産額の 5%以内の国内支持「デミニミス」、「黄の政策」を加えた貿易歪曲的国内補助金全体「OTDS」は、2002年 163億ドル、2003年 102億ドル、2004年 181億ドル、2005年 189億

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ドルとなっている。ファルコナーWTO 農業交渉議長が 2007 年 7 月にまとめた大枠(モダリティー)合意案では、米国は「OTDS」を 130~164 億ドルに減らす必要がある。これらの通報された政策の分類は、直接固定支払い(Direct Payments)は、「緑の政策」(WTO付属表2の6:生産に関連しない収入支持)で通報するほか、価格変動対応型支払い(Counter-Cyclical Payments)は、プログラム農産物の価格が目標価格を下回った時に支払いが行われるため、商品非特定的な「黄の政策」として通報することとなっている。なお、ドーハ・ラウンド合意が成立すれば、新しい「青の政策」に分類される可能性が高まっている(2005年 12月の香港閣僚宣言における枠組み合意)。 このように、WTO 体制の下においては、国内支持がどのように政策分類されるかが重要な論点となっており、新農業法に基づく国内支持についてもこの点に十分な留意が求められる状況となている。 しかし、米国の議会における新農業法における議論において、この点を踏まえた議論が行われているとは言い難い。このような米国の姿勢は、米国の農業補助金に対する各国の不満を募らせ、挑戦的な姿勢を招来している。ブラジルは米国の農業補助金と輸出信用保証計画がWTOルールに反すると主張しているほか、カナダはトウモロコシなどの農産物に対する米国の国内補助金がWTOルールに違反すると主張している。

具体的には、ブラジル、カナダのWTOへの提訴によって、米国の国内支持は厳しい状況となっている。 ブラジルは、2003年 2月に、米国の綿花の補助金などがウルグアイ・ラウンド(UR)農業協定に違反しているとして WTO に提訴し、2005 年 3 月には、WTO 上級パネルが綿花の補助金(Step2)や LDPを含む価格支持融資、価格変動型対応支払いは、綿花の世界価格を低下させていると認定し、改善措置を勧告した(同時に、直接固定支払いは、綿花の生産を増加させてはいないが、果樹・野菜の作付制限のために、UR農業協定に基づくデカップリングには該当しないと認定された)。そして、その後、2007年 10月 15日には、同パネルが「アメリカの政策対応が適切ではない」と最終的に認定するに至った27。また、2007年 12月 18日には、WTOルールで違反と認定された米国の綿花補助金の改善措置をめぐってブラジルが訴えていた貿易紛争に関し、米国敗訴の判断を下した。パネルは、2005 年の WTO 勧告を踏まえて実施した米国による改善措置が、「補助金協定に基づく義務に整合的ではない」などと指摘し、米国に対して、同協定で禁止された補助金の撤回を早期に実施することなどを勧告している。 また、カナダは、2007 年 1 月に、アメリカのトウモロコシに対する補助金がカナダの農家に損害を与えているとしてWTOに提訴を行い、同 6月 20日には、アメリカの貿易歪曲的な農業補助金(「黄の政策」)の 1999~2005年(2003年を除く)の総額が、ウルグアイ・ラウンド(UR)合意約束水準 191 億ドルを超過しているとして再度提訴を行った(ただし、具体的な数値は提示せず)。カナダは、米国の輸出信用保証計画はWTO協定違反の輸出補助金としつつも、2007年農業法で是正されることを期待して紛争処理小委員会(パネル)設置は求めていなかった。しかし、その後、米国とブラジルの綿花問題に関するWTOの決定を受け、新たな要請を 2007年 11月 8日に発表した。 これを受け、2007年 11月 19日、ブラジルとカナダは、米国の国内支持(直接支払い、価格変動対応型支払いなど)は「黄の政策」に分類されるべき旨主張し、併せて、同 6月 20日の提訴を含めて従来の提訴とは一線を画して、米国の国内支持に限定した紛争パネルの設置要求を表明し、同 27日にWTO紛争処理機関(DSB)会合で正式に要請した。その後、2007年 12月 17

27 ただし、綿花パネル裁定は、平和条項の解釈の中で「緑の政策」に当たらないとしているだけであり、WTO通報に関してはコメントしておらず、世界価格に与える影響や貿易歪曲性は小さいと評価としている。

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日、WTOは紛争処理機関(DSB)会合で、ブラジルとカナダがWTOルール違反と主張する米国の農業補助金に関する紛争処理小委員会(パネル)が設置されることが決定した。 当初、ブラジルとカナダは、個別にパネルの設置を求めていたが、12月 17日の会合でパネルを一本化して今後の審理に臨む方針を明らかにした。カナダは 1999年~2005年に米国内で支給された国内補助金が 2003年を除き、WTOルールで認められた上限を年間数 10億ドル上回っていたと改めて主張。ブラジルも、国内補助金や輸出信用保証計画などの米国の措置によって農業協定でブラジルの得るべき恩恵が損なわれたなどとし、パネルの場で米国補助金の違法性を訴えていく構えを示した。なお、輸出信用保証計画は遵守パネルで決着済みとして対象から除外した上で、補助政策の数を倍増させ、個別政策の分類を精査することとしている。価格変動対応型支払い品目特性、非産品特定デミニミスと灌漑補助金との関係、直接支払いの貿易歪曲性などが論点となっている。価格変動対応型支払いを「緑の政策」分類するのは厳しいと見られている。 これらに対して、米国は、パネルを通じた紛争解決よりもドーハ・ラウンドの早期妥結で農業補助金の問題の解決を目指すべきであり、農産物の輸出拡大を図るとの考えを改めて表明するとともに、今後の審理では米国の補助金に違法性のないことを訴えていく方針を強調している28 このような状況を踏まえ、米国では、今後のWTO交渉に当たっては相当のスタッフが必要と見込まれる中、マンパワーの分散によって交渉の進展に悪影響が及ぶことが懸念されているほか、新農業法に審議に当たっても従来以上にWTOルールの遵守、各国からの提訴を勘案していく必要があるという指摘が強まっている29。

(2)行政府の提案 マイク・ジョハンズ前農務長官30は 2007年 1月 31日に新農業法案に関する行政府提案を発表した。これは過去に例のない詳細なものであったが、この発表に先立っては、同前農務長官の主導によって、全米 48州で新農業法に関するフォーラムが合計 52回開催され、約 4,000件のコメントを受理している(2005年 7~11月)。農務省のエコノミストらは、これらのコメントを 41のペーパーに集約し、5つの主要政策分野(①作物プログラム、②保全・環境政策、③貿易政策、④エネルギー、⑤特別作物(野菜・果実))について、農業フォーラムにおけるコメントなどを分析した。2007 年に行われた議会における審議を含め、新農業法をめぐる議論は、この行政府提案を皮切りに本格化することとなった31。

(3)下院農業法案の成立過程 下院では、2007年 5月 22日から農業委員会の下の小委員会レベルで審議が開始された。同 6月 14日にピーターソン下院農業委員長(民主、ミネソタ)が作物プログラムに関する法案を提出、この作物プログラムに関する審議を小委員会で行い、同 6月 19日に農業委員長案に対する修正案として、2002年農業法案の作物プログラムの「単純延長」を全会一致(賛成 18-反対 0)で可決した。 その後、2007年 7月 19日に下院農業委員会で、作物プログラムに基づく支払い上限の制限強化などの修正が加えられ、農業委員会案が全会一致で可決された。同 7月 27日には、下院本会議で、栄養プログラム(フードスタンプ)などに関する追加的な財源確保に関する修正を加えた農 28 パネルには、欧州連合(EU)、日本、インドなど 13の国・地域が第 3者の立場で参加することとなっている。パネルの裁定は、2008年のいずれかの時期に出される見込みであるが、パネル紛争については数年という期間を要することもあり、この間に当該国に対して国内措置の是正が命じられるほか当該国が報復措置に直面することもある。 29 米国内の国内事情、WTOと国内支持を含めた新農業法の制定に当たっての主な論点は、平成 18年度コンサルタント調査「米国の農業と農業政策の現状」P59~64参照。 30 2007年 9月に辞任。その後、今期限りでの引退を表明しているチャック・ヘーゲ上院議員(共和、ネブラスカ)の後継候補として、2008年 11の上院議員選挙に立候補することを明らかにしている。 31 新農業法に関する行政府提案は、平成18年度コンサルタント調査「米国の農業と農業政策の現状」P65~70参照。

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業法案が賛成多数(賛成231-反対191)で可決された。下院農業法案(H.R.2419)の正式名称は「2007年農業・栄養・バイオエネルギー法」(Farm, Nutrition, and Bioenergy Act of 2007)である。

(4)下院農業法案の概要 下院農業法案には、収入ベースの変動対応型支払い(RCCP:Revenue-based Counter-Cyclical

Payments)の選択的導入や支払要件の厳格化(支払い上限と収入による受給制限の見直し)が盛り込まれる一方で、一部作物に関する価格ベースの変動対応型支払い(CCP:Counter-Cyclical

Payment)の目標価格、ローンレート(融資保証価格)の引き上げ、直接固定支払いの受給要件としての野菜・果実の作付制限の維持などが規定された。また、最大の焦点となっている支払要件の厳格化については、総収入が 100 万ドル以上の生産者は政府支払いの対象外(総収入が 50万ドル以上の生産者は、農業からの収入の割合が 2/3未満であれば、政府支払いの対象外)とされている。

下院農業法案の主な内容の概要、2002年農業法との比較は以下の通りである(表Ⅱ-10)。

(表Ⅱ-10) 2002年農業法と 2007年下院農業法案における主要政策の比較

2002年農業法 2007年上院農業法案 Ⅰ.直接固定支払い

毎年連邦政府と合意を結んだ生産者が対象。基本的に 96年農業法の仕組みを踏襲した上で、対象に大豆その他の油糧種子を追加。 支払額=基準面積×85%×基準単収×単価。 単価は、2002年水準で固定。

支払い単価を現状維持とした上で継続。 野菜・果実の作付制限を維持。

Ⅱ.変動対応型支払い

目標価格と実効価格との差額を支払い。実効価格は、ⅰ)全国平均販売価格とローンレートのいずれか高い方とⅱ)直接固定支払いの合計額から算定。 支払額=基準面積×85%×基準単収×単価。 単価は、2002/2003 年よりも 2004~2007年の方が低め。

価格ベースの変動対応型支払いを維持しつつ、目標価格を引上げ(小麦、大豆など)。

2008 年に連邦レベルの収入をベースとする「収入ベースの変動対応型支払い」(RCCP)を導入。 生産者は 2008 年に価格ベースの変動対応型支払いと収入ベースの変動対応型支払いのどちらか一方を選択(事後変更なし)。 単位面積当たりの全国平均収入が全国目標収入を下回った場合に差額を補填する。 Ⅲ.価格支持融資

直接固定支払いの合意を結んだ生産者が対象。対象に、落花生、羊毛、モヘア、蜂蜜などを追加。ローンレート水準は法定。96年水準と比べ、大豆は引下げ、綿花、コメは変わらず、トウモロコシ、小麦などは引上げ。 一般に、単価は 2002/2003 年よりも 2004~2007年の方が低め。

継続。 ローンレートを変更し、小麦、大麦、大豆は引上げ、トウモロコシ、コメは変わらず、綿花は引下げなど。 コメを長粒種と中・短粒種、大麦をモルトと飼料用に分けてローンレートを設定。 Ⅳ.支払上限 直接固定支払い 4 万ドル、価格ベースの変動対応型支払い 6.5 万ドル、7.5 万ドルで18 万ドル、3 人格ルールの適用により合計36万ドル。 調整後総収入(AGI)250万ドル(農業収入の割合が 75%以上の場合は上限なし)。

直接固定支払い 6万ドル、変動対応型支払い6.5万ドルで12.5万ドル×2(couple)で合計25万ドル。価格支持融資は制限なし。3 人格ルールは廃止。 調整後総収入(AGI)100 万ドル(絶対上限)、50万ドル(農業収入が 2/3未満の者)。

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2002年農業法 2007年上院農業法案 Ⅴ.酪農品 1.連邦ミルクマーケティングオーダー制度(FMMO)により最低乳価設定。バター、脱脂粉乳、チーズの政府買上げによる加工原料乳の価格支持。加工原料乳の支持価格は9.90ドル/100 ポンド。 2.連邦マーケティングオーダー制度(FMMO)実施地域を 33から 11に統合。 生乳所得喪失支払い (MILC) 目標価格($16.94)と市場価格の差額の 34%。支払上限量は年間 240万ポンド。

1.継続。

2.継続。

Ⅵ.輸出促進 1.輸出信用保証計画 : 農産物輸出の信用保証

2.輸出市場開発と輸出補助金 ①市場アクセス計画(MAP): 輸出市場開発 ②海外市場開発計画(FMDP) ③途上市場計画(EMP) ④輸出奨励計画(EEP): 直接輸出補助金 ⑤酪農品輸出計画(DEIP): 直接輸出補助金

3.米国農産品輸出に対する衛生植物検疫(SPS)特殊作物の技術的支援(TASC)

1.短期輸出信用保証計画(GSM-102)(6 ヶ月~3 年 )保証は継続。中期信用保証計画(GSM-103)(3~10年)は、WTOルールとの整合性を図るため廃止。

2.①~⑤継続。有機食品も市場アクセス計画(MAP)対象とし、5 年間で 1億 2,500 万ドル増額する。

3.継続。2008 年に 400 万ドル、その後 2011年の 1000万ドルまで増加させる。 Ⅶ.環境政策 1.利用農地計画(Working Lands Program) ①環境改善奨励計画 (EQIP) ②保全保障計画(CSP)

2. 農 地 休 耕 計 画 (Land Retirement Programs) ①土壌保全留保計画(CRP) ②湿地保全計画(WRP) ③草地保全計画(GRP) 3.農地保護計画(FPP)

4.流域保護計画 5.保全イノベーション補助金プログラム 6.保全プログラムの支払上限

7.私有牧草地保全計画、農家継続性計画(FVP)、農業管理補助計画など

1.①拡充。森林管理を追加。 ②既存分を他プログラムに移行。新規は廃止。

2.①~③拡充。

3.農地牧場保護計画(FRPP)に改名し拡充。

4.地域流域強化計画(RWEP)を新設。地下水・地表水の保護。 5.拡充。チェサピーク湾流域パイロット計画。果実・野菜・有機商品生産者支援。大気質プログラム。 6.各計画 6万ドル、合計 12.5万ドル(WRP、FRPP、GRPを除く。)

7.継続。 Ⅷ.原産国表示(COOL) 牛肉、羊肉および豚肉、天然の魚介類、生鮮・冷凍野菜および果実などについて、小売段階での消費者への原産地表示を要求。 最終的に2008年9月末までに義務化の規則制定。

継続。ただし、赤身肉に限り、簡便化のため新表示カテゴリーを創設。山羊肉を対象に追加。

(参考) 肉に関して 3つの表示オプションを提供 ・米国内で出産、肥育、加工された家畜に対する原産国表示 ・複数の原産国が存在する場合における複数の原産国表示 ・外国から輸入したものに対する輸入表示

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2002年農業法 2007年上院農業法案 Ⅸ.エネルギー

1.バイオベース製品の連邦調達 2.バイオ精製所開発計画、開発費用の支援 3.バイオディーゼル燃料教育計画

4. 再生可能エネルギーシステム 5. システムエネルギー監査・再生可能エネルギー開発計画

6.バイオマス研究開発法 7.バイオエネルギー計画(生産者への原料購入補助)

1.継続。

2.継続。1億ドル以下と 2.5億ドルまでのローンにそれぞれ 50%。 3.継続。

4.継続。 5. 「米国農村エネルギー計画」に改称。ローン保証は 2500万ドル、75%まで。

6.継続。 7.継続。 税制措置なし

(5)上院農業法案の成立過程 ① 上院における農業法案審議のポイント 2007年 7月 27日に下院本会議で下院農業法案が可決されたが、これに対して行政府は厳しい反応を示し、この後続くこととなる内容をめぐる意見の対立、審議の停滞を示唆するものとなった。行政府の批判対象となったのは、作物プログラムの支払い上限、価格変動対応型支払い(CCP)の目標価格やローンレートの引き上げ、相殺(Offset)財源の確保(増税条項)、果実・野菜の作付制限の継続などであった(「(7)行政府・主要農業団体の上院・下院の農業法案に対する反応 ①行政府の反応」参照。)。このため、行政府は、上院での審議に自らの提案を反映させるべく、支払要件の厳格化(支払い上限、受給資格)への対応、収入ベースの変動対応型支払い(RCCP)、相殺財源の確保などのほか、栄養プログラム(フードスタンプ)、環境・保全政策、エネルギー、農村開発、特別作物(果実・野菜)への助成などについて関係方面への働き掛けを行った。また、ハーキン農業委員長(民主、アイオワ)が強くこだわる保全保障計画(CSP)の拡充もポイントとなった。さらに、下院では、相殺財源の確保に関して、これに反対する共和党と賛成する民主党の対立が生じ、農業法の審議において従来守られてきた超党派での審議、可決の慣習が崩れることとなった。このため、上院での審議については、超党派での合意が得られるか否かにも注目が集まることとなった。

② 農業委員会の審議入りの遅れ

2007年 9月 4日、ハーキン農業委員長が上院農業法案の草案(農産物プログラム部分)を提示し、その後、何度も農業委員会での審議に入ろうと試みたが、委員の合意が得られず、農業委員会の開催は大幅に遅れ、水面下での調整が続いた。特に、相殺財源の確保問題の難航が繰り返し伝えられた。 一方、農業委員会での審議が暗礁に乗り上げる中、2007年 10月 4日、ボーカス上院議員(民主、モンタナ)が委員長を務める財政委員会が、農業法に対して約 160億ドルの追加予算を認める税制改正法案を可決した。この法案には、ボーカス財政委員長やコンラッド予算委員長(民主、ノースダコタ)がかねてから提唱していた恒久的農業災害援助信託基金の創設(51億ドル)が盛り込まれた。 当初、2007年 9月 17日の週に予定されていたハーキン農業委員長の上院農業法案の全体草案の提示は、1ヶ月以上遅れ、10月 23日までずれ込んだが、この時点で、ハーキン農業委員長とチャンブリス筆頭委員(共和、ジョージア)、コンラッド上院予算委員長との間で法案の内容に関する基本的合意が成立したことから、10月 24~25日にようやく農業委員会が開催され、ハーキン委員長が提示した上院農業法案の全体草案の審議に入るに至った。なお、ハーキ

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ン農業委員長は、財政委員会の税制改正法案に盛り込まれた恒久的農業災害援助信託基金の創設には消極的で、自らが 2002 年農業法の制定時にその創設に深く関与した保全保障計画(CSP)をはじめとする保全・環境政策への助成拡大の意思を変えなかったため、この頃から、相殺財源の確保に加え、政策の優先順位が新たな論点として加わることとなった。

③ 農業委員会案のポイント

2007年 10月 25日、農業委員会は、ハーキン農業委員長が提出した上院農業法案に関する一括修正提案などを採択し、全会一致で同法案を修正・可決した。上院農業法案のうち、作物プログラムに関する主な内容のポイントは以下の通りである。 上院農業委員会案の大きな特徴は、平均作物収入プログラム(ACR:Average Crop Revenue)の創設・導入である。ダービン院内幹事(民主、イリノイ)とブラウン議員(民主、オハイオ)の提案の提案に準拠したものであるが、下院農業委員会案の収入ベースの変動対応型支払い(RCCP)の選択的導入案と合わせ、収入に着目したプログラムは、今後の議論においても重要な論点になるものとみられている。

ア 直接固定支払いの延長 ・ 2002年農業法に基づく直接固定支払いを 2012年度(作物年度)まで延長する。 ・ 基本面積は現状維持とし、また、野菜・果実の作付制限を維持する。

イ 価格変動対応型支払いの延長 ・ 2002年農業法に基づく価格変動対応型支払いを 2012年度(作物年度)まで延長する。 ・ 基本面積は現状維持とする。 ・ 小麦、大麦、オート麦、大豆などの目標価格の再設定(リバランシング)を実施する。

ウ 価格支持融資の延長 ・ 2002年農業法に基づく価格支持融資を 2012年度(作物年度)まで延長する。 ・ 小麦、大麦、オート麦、大豆などのローンレートの再設定(リバランシング)を実施する。

エ 平均作物収入プログラム(ACR)の創設・導入 ・ 平均作物収入プログラムを創設・導入し、2010年から適用する。2002農業法に基づくプログラムとの関係については、2010年にいずれか一方を選択することとする。 ・ 平均作物収入プログラムを選択した農業者には、共通作物単価として 1 エーカー当たり 15ドルの直接固定支払いがなされるとともに、2002 年農業法の基準面積(100%)に基づくものとする(支払額=15 ドル×基準面積×100%)。また、野菜・果実の作付制限を試験的に廃止する。 ・ 変動対応型支払いは、対象作物の州保証収入を当該年度の州実績収入が下回った場合に、その差額補填を受け取ることができる。 (具体的計算方法) 州保証収入=州平均単収×収入保険作付前価格(3 年平均)×90%、州実績収入=州実績単収×収入保険収穫時価格、州保証収入が州実績収入を上回る場合の支払額=90%×(州保証収入―州実績収入)×(農業者の農業保険基準単収÷州平均単収)×基準面積×85%

・ 価格支持融資は、一般の償還請求権付(recourse loan)とする。 ・ 農家は、2010年時点において、2002年農業法に基づく作物プログラムである「直接固定支払い、価格ベースの変動対応型支払い、価格支持融資の組み合わせ」か、「平均作物収入プ

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ログラム、新たな直接固定支払い(共通作物単価 1 エーカー15 ドル)、一般の償還請求権付価格支持融資」のいずれかを選択する。 ・ 平均作物収入プログラムと作物保険が同一損失に対して重複して支払われないよう、作物保険料を再設定(平均作物収入プログラムと農業保険とのセットでの加入を想定し、州レベルでの大きな収入変動を前者、農家レベルの収入変動を後者の機能として整理)。 ・ 受給要件は、調整後総収入が現行の 250万ドルから 2009年 100万ドル、2010年 75万ドルに強化。また、現行では、農業収入が 75%以上であれば上限額を超えていても受給資格を喪失しないが、その割合を 2/3に変更する。 ・ 支払い上限は、3人格ルールを廃止するとともに、直接固定支払いの上限が 4万ドル、変動対応型支払いの上限が 6万ドルとされ、価格支持融資に関する上限及び作物証券は撤廃。

④ 本会議での議論 2007年 11月 5日に上院本会議がスタートしたが、上程後も修正案の数、審議の範囲・タイミングなどで両党間の合意が得られず、11 月末からの感謝際(Thanksgiving)休会が迫る中、審議が行われない状況が続いた。リード院内総務(民主、ネバダ)を中心とした協議が続いたが、この間、260~280 本にも及ぶ修正案が両党から乱発され、その内容も、不法移民への自動車運転免許発給停止、メキシコ湾への原油流出・汚濁問題、不動産税制の創設など農業と直接関わりのないものも多数含まれていた。リード院内総務は審議促進、早期成立の立場から修正案を減らすことを求めるものの、マコーネルは 2002 年農業制定時には 300 あまりの修正案が提出されたが、その多くが民主党によるものであり、かつ、ハーキン農業委員長だけで 35 の修正を出したと反論し、結果的にリード院内総務の修正案抑制の動きが混乱に拍車をかけ、両党間の対立が深まることとなった。この事態を打開すべく、リード院内総務は、審議打ち切り動議(cloture)を提案するに至った。 動議可決には 60 人の賛成が必要とされたが、仮にこれが可決されれば、修正案の範囲は真に農業に関係するもの(germane)に限定し、審議時間も 30時間以内とされるが、逆に否決されれば、

2週間の感謝祭休会明けの 12月 3日まで再度協議とされた。このような中で 11月 16日にリード院内総務が提出した審議打ち切り動機が採決にかけられたが、賛成 55票、反対 42票で可決まで 5票足りずに否決されることとなった。共和党からも 4人が賛成に回ったものの、この後、2週間の休会に入った。 ハーキン委員長は、修正リストを作成し、繰り返し修正案を抑制する方向で審議を進めたい意向を示しつつ調整を図るも、チャンブリス筆頭委員(共和、ジョージア)などがこれを認めず、民主党は「共和党は農業法を殺そうとしている」、共和党は「民主党は、提案されている修正条項を厳しく制限しようとしている」と非難合戦がエスカレートした。行政府が拒否権発動をちらつかせ、審議促進を強く求めるとともに、農業団体も早期の農業法成立を求める中、下院農業委員会には、同委員会委員 13人を含む 23人の議員が、2002年農業法の 1年延長を内容とする法案を提出した。 依然として修正案の数の調整がつかない状況が続いたが、2007年 12月 5日にリード院内総務が同 12月 7日の本会議に審議打ち切り再度動議を提出することを明らかにしたことを契機に、12月 6日に両党の修正案の数を 20本ずつとすることなどで暫定合意が急遽成立して動議を回避した。

2007年 12月 7日から上院本会議での農業法案の修正審議が始まった。修正案として提出されたものの主なものの内容と採決の結果は以下の通りである。なお、上院本会議では、支払い上限改革で大きな影響を受けるコメ、綿花農家を地元に抱えるリンカーン議員(民主、アーカンソー)、チャンブリス筆頭委員(共和、ジョージア)らの議事妨害(filibuster)を回避するため、幹部間で修正案可決には賛成 60票を要するとの事前合意がなされた。

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ア 支払い上限の厳格化 支払い上限額をそれぞれ、直接固定支払い 2万ドル、価格変動対応支払いを 3万ドル、価格支持融資 7万 5,000ドルで 1人計 12万 5,000ドル、そして夫婦(couple)分としてその 2倍である 25万ドルを支払い上限とするもの。ドーガン議員(民主、ノースダコタ)、グラスリー議員(共和、アイオワ)から提出された。賛成 56票、反対 43票で否決。 また、調整後総収入(AGI)について、フルタイム労働者は 75万ドル、パートタイム労働者は25 万ドル(いずれも年間当たり)に制限するもの。クロバチャー議員(民主、ミネソタ)から提案され、ピーターソン下院農業委員長も支持する考えを示した。賛成 48票、反対 47票で否決。コナー農務長官代理はこれに対して失望を表明した。

イ 作物保険によるセーフティネット 郡単位の作物保険(収入、収量)を作物プログラム対象作物に対して保険料負担なく提供するとともに、園芸作物や畜産にも農家単位の保険を補助付で提供することとする。2002 年農業法に基づく作物プログラムのうち、直接固定支払いは段階的に、価格変動対応型支払いと価格支持融資のうち LDPは直ちに廃止するもの。ルーガー議員(共和、インディアナ)、ローテンバーグ議員(民主、ニュージャージー)から提出され、改革に値する案として農業分野以外から高く評価されたが、賛成 38票、反対 58票で否決。

ウ 作物保険助成の大幅な削減 農家への保険料補助や民間保険会社への運営費補助を 20 億ドル以上削減し、これを財源として栄養、保全・環境政策などのプログラムを拡充するほか、連邦政府の赤字財政赤字を補填しようとするもの。ブラウン議員(民主、オハイオ)、スヌーヌ議員(共和、ニューハンプシャー)から提出された。賛成 32票、反対 63票で否決。

これら以外にも、故人への支払いの制限、農業災害救済信用基金に基づく支払いと作物プログラムに基づく支払いの重複受領の禁止、再生可能燃料基準の使用義務付け、食品安全組織の見直し、低所得者への冬期暖房費の補助、さらに学校栄養基準の見直し(飲食料品の自動販売機、学校売店などの規制)、農村地域における産婦人科医療の改善など広範な修正案が審議、採決された。 このような経緯を経て、2007 年 12 月 14 日、賛成 79 票、反対 14 票と大統領拒否権を拒否(override)することができるとともに、1973年以来の票差で上院農業法案が可決された。上院農.業法案(S.2302)の正式名称は「2007年食料・エネルギー・安全保障法」(Food, Energy, Security Act of 2007)である。

(6)上院農業法案の概要 上院農業法案の主な内容の概要、2002年農業法との比較は以下の通りである(表Ⅱ-11)。

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(表Ⅱ-11) 2002年農業法と 2007年上院農業法案における主要政策の比較

2002年農業法 2007年上院農業法案 Ⅰ.直接固定支払い

毎年連邦政府と合意を結んだ生産者が対象。基本的に 96年農業法の仕組みを踏襲した上で、対象に大豆その他の油糧種子を追加。 支払額=基準面積×85%×基準単収×単価。 単価は、2002年水準で固定。

支払い単価を現状維持とした上で継続。 野菜・果実の作付制限を維持。 (Ⅱにおける「平均作物収入プログラム」選択者を除く。) Ⅱ.変動対応型支払い

目標価格と実効価格との差額を支払い。実効価格は、ⅰ)全国平均販売価格とローンレートのいずれか高い方とⅱ)直接固定支払いの合計額から算定。 支払額=基準面積×85%×基準単収×単価。 単価は、2002/2003年よりも 2004~2007年の方が低め。

価格ベースの変動対応型支払いを維持しつつ、 2010 年に州レベルの収入をベースとする「平均作物収入プログラム」(ACR)を導入。作物別の州保証収入を当該年度の州実績収入が下回った場合にその差額を補填。 生産者は、従来型の「直接固定支払い+価格ベースの変動対応型支払い+価格支持融資(償還請求権なし)」、または、「平均作物収入プログラムによる支払い+新しい直接固定支払い(共通作物単価 1 エーカー当たり 15 ドル)+価格支持融資(償還請求権付ローン)」のどちらか一方を選択(事後変更なし)。 目標価格を引上げ(小麦、大麦、大豆など)。 対象品目を追加(乾燥豆、レンズ豆、ひよこ豆など) Ⅲ.価格支持融資

直接固定支払いの合意を結んだ生産者が対象。対象に、落花生、羊毛、モヘア、蜂蜜などを追加。ローンレート水準は法定。96 年水準と比べ、大豆は引下げ、綿花、コメは変わらず、トウモロコシ、小麦などは引上げ。 一般に、単価は 2002/2003 年よりも 2004~2007年の方が低め。

継続。(Ⅱにおける「平均作物収入プログラム」選択者を除く。) ローンレートを変更し、小麦、大麦などを引上げ。 対象品目を追加(大粒ひよこ豆など)。 Ⅳ.支払い上限、支払い対象外 直接固定支払い 4 万ドル、価格ベースの変動対応型支払い 6.5 万ドル、7.5 万ドルで 18 万ドル、3人格ルールの適用により合計 36万ドル。 調整後総収入(AGI)250万ドル以上(農業収入の割合が 3/4未満の者)。

直接固定支払い 4万ドル、変動対応型支払い 6万ドルで 10万ドル×2(couple)で合計20 万ドル。価格支持融資は制限なし。3人格ルールは廃止。 調整後総収入(AGI)2008 年 250 万ドル以上(農業収入が 3/4未満の者)、2009年 100万ドル以上(農業収入が 2/3 未満の者)、2010 年 75 万ドル以上(農業収入が 3/4 未満の者)。 Ⅴ.酪農品 1.連邦ミルクマーケティングオーダー制度

(FMMO)により最低乳価設定。バター、脱脂粉乳、チーズの政府買上げによる加工原料乳の価格支持。加工原料乳の支持価格は 9.90 ドル/100ポンド。 2.連邦マーケティングオーダー制度(FMMO)実施地域を 33から 11に統合。 生乳所得喪失支払い (MILC) 目標価格($16.94)と市場価格の差額の 34%。支払い上限は年間 240万ポンド。

1.継続。 2.継続。目標価格と市場価格の差額を 45%に増 額。支払い上限は年間 415万ポンド。

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2002年農業法 2007年上院農業法案 Ⅵ.輸出促進 1.輸出信用保証計画 : 農産物輸出の信用保証 2.輸出市場開発と輸出補助金 ①市場アクセス計画(MAP): 輸出市場開発 ②海外市場開発計画(FMDP) ③途上市場計画(EMP) ④輸出奨励計画(EEP): 直接輸出補助金 ⑤酪農品輸出計画(DEIP): 直接輸出補助金 3.米国農産品輸出に対する衛生植物検疫(SPS)特殊作物の技術的支援(TASC)

1.短期輸出信用保証計画(GSM-102)(6 ヶ月~3 年)保証は継続。中期信用保証計画(GSM-103)(3~10 年)は、WTO ルールとの整合性を図るため廃止。信用ローン総額上限を 5億ドル減額。 2.①~③、⑤継続。有機食品も市場アクセス計画(MAP)対象とし、5年間で1億1,850万ドル増額する。④は廃止。 3.継続。年間 680 万ドルの増額(2008~2011年度)。 Ⅶ.環境政策 1.利用農地計画(Working Lands Program) ①環境改善奨励計画 (EQIP) ②保全保障計画(CSP)

2.農地休耕計画(Land Retirement Programs) ①土壌保全留保計画(CRP) ②湿地保全計画(WRP) ③草地保全計画(GRP) 3.農地保護計画(FPP) 4.流域保護計画 5.保全イノベーション補助金プログラム 6.保全プログラムの支払上限 7.私有牧草地保全計画、農家継続性計画(FVP)、農業管理補助計画など

1. ①継続。森林管理を追加。 ②既存分を継続。新規分は保全保障計画(CSP)に移行。 2. ①拡充。湿地留保拡大計画(WREP)を追加。 ②継続(年間 25 万エーカー)。土地所有者への支払額算出方法を明確化。 ③継続。 3.継続。事業主体の役割と責任を明確化。 4.継続。チェサピーク湾流域を追加。 5.継続。 6.継続。 7.継続。自然災害地に対する「緊急地形復旧計画(ELRP)」を導入。 Ⅷ.原産国表示(COOL) 牛肉、羊肉および豚肉、天然の魚介類、生鮮・冷凍野菜および果実などについて、小売段階での消費者への原産地表示を要求。 最終的に 2008年 9月末までに義務化の規則制定。 継続。ただし、赤身肉に限り、簡便化のため新表示カテゴリーを創設。鶏肉などを対象に追加。 Ⅸ.エネルギー

1.バイオベース製品の連邦調達 2.バイオ精製所開発計画、開発費用の支援 3.バイオディーゼル燃料教育計画 4. 再生可能エネルギーシステム 5. システムエネルギー監査・再生可能エネルギー開発計画 6.バイオマス研究開発法 7.バイオエネルギー計画(生産者への原料購入補助)

1.継続。 2.「バイオ精製所再強化補助計画」と改称。セルロース系エタノール生産に重点。 3.継続 4.5.「米国農村エネルギー計画」として合体。補助金は計画費用の 25%まで、ローン保証は 75%まで。 6.継続。 7.バイオ燃料生産税額補助との併用不可。 8.各種税制措置の導入・延長 住宅風力発電税額控除(住宅風力発電資産の 30%)、セルロース系アルコールの小規模(年間 6,000ガロン以下)生産者税額控

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2002年農業法 2007年上院農業法案

除(1.25ドル/ガロン)、セルロース系エタノール施設に対する経費計上の拡充(木質系、植物細胞壁系などを含める。)、小規模エタノール生産者税額控除の 2 年延長(10セント/1ガロン、2012年12月末まで)、化石燃料フリーのアルコール生産者税額控除(10セント/1ガロン)、バイオディーゼル燃料税額控除の 2年延長(1.5ドル、2010年 12月末まで)、再生可能バイオディーゼル燃料優遇税制の 2 年延長(1 ドル、2010年 12月末まで)、代替燃料補給所税額控除(資産税、30%控除)、省エネモーター税額控除(農業向け、15ドル/1馬力)、 エタノール税額控除の 5 セント引下げ(国内のエタノール生産量が 75億ガロンに到達した翌年から)、輸入エタノール関税の 2年延長(2010年 12月末まで)、アルコール燃料税額控除から変性剤を除外 (5%まで)、アルコール燃料・倍―ディーゼル混合物も課税燃料とみなす など。

(7)行政府・主要農業団体の上院・下院の農業法案に対する反応 ① 行政府の反応 新農業法に関する行政府の提案と上下両院案の間には、内容的に隔たりがあることから、上下両院案に対する行政府の反応は非常に厳しいものとなっている。 まず、下院農業法案については、大きな焦点となった作物プログラムの支払い上限について、調整後総収入(AGI)が 100 万ドル以上(総収入が 50 万ドル以上の生産者は、農業からの収入の割合が 2/3未満であれば、政府支払いの対象外)の生産者は、政府支払いの対象外とされている。しかし、調整後総収入が 20 万ドル以上の生産者は、政府支払いの対象外とする提案を示している行政府は、100万ドル以上では不十分であり、支払い対象をさらに限定すべきであるとの見解を示した。また、この後、政府支払いの調整後総収入の引き下げが上院案に盛り込まれるよう強く働き掛けを行うこととなった。また、相殺(Offset)財源の確保に関して、テクニカルな処理を行っているほか、農業分野以外の財源に依拠していることは問題であるとし、農業以外の分野への増税には強い反対を示している。特に、下院審議の最終段階で挿入された外国企業への課税強化を繰り返し問題視している。さらに、価格変動対応型支払い(CCP)の目標価格やローンレートの引き上げは、生産者の作付けに関する意思決定に影響を与えるおそれがあるほか、野菜・果実の作付制限の継続とともに、WTO 協定上問題があり、各国からの挑戦(challenge)を受ける可能性があるとして、厳しい反応を示した。 また、行政府は、上院農業案に対しても、厳しい反応を示しており、ジョハンズ前農務長官の辞任を受けて新農業法の議論において中心的役割を果たしているコナー農務長官代理(当時、現農務副長官)は、上院農業委員会通過案に対して、「まがい物(mockery)、不誠実(dishonesty)、からくり(gimmickery)」という極めて厳しい表現を用いつつ、下院農業法案と合わせて大統領の拒否権行使の可能性について繰り返し言及している。

上院農業法案に対する行政府の批判内容は、下院農業法案に対するものと類似しており、作物プログラムに基づく政府支払いの上限と収入による受給制限が不十分であること、相殺財源確保のために支払い時期の延期や増税を含んでいること、また、価格変動対応型支払い(CCP)

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の目標価格やローンレートの引き上げのほか、野菜・果実の作付制限の維持についての WTO協定との関係に懸念を示している。上院本会議で可決された前日の 2007 年 12 月 14 日にも、コナー農務長官代理は、両院での議論は、誤った方向(on the wrong track)に進んでおり、相殺財源の確保に関しては、再び、増税、予算上の「ごまかし」は問題であると指摘し、目標価格、ローンレートの引き上げも貿易政策上大きな問題になるとしたほか、支払い上限の改革も不十分であることを強調した。また、行政府提案の支払い上限 20万ドルは約 38,000人に影響を与えるものの、これらの人々は、上位 2%の富裕層である高額納税者であり支払い対象とする必要はないとして、その改革の方向性に改めて自信を示した。 なお、全般的に厳しい反応ではあるものの、行政府提案にも含まれている収入ベースの変動対応型支払いの導入、野菜・果実など特別作物への支援、栄養プログラム、保全・環境政策については一定の評価をしている。

② 農業団体の反応 農業団体の意向は、農業州選出議員への要請、ロビー活動などを通じて政策決定に大きな影響を及ぼす。2002 年農業法は、価格変動対応型支払いを創設するなど、農家のセーフティーネットを充実させたものであるほか、制定時点から現在までの間に、記録的な豊作、再生可能燃料需要の増加、米国ドル安による輸出の増加などによって農家の経済状況が大きく改善したこともあって、農業団体の評価は高い。次期農業法案の制定に当たっても、収入(所得)をベースとしたプログラムへの変更を主張している全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)を除くほとんどの農業団体は、2002 年農業法に基づく作物プログラムの枠組みの継続を望んでいる。上院・下院案には、選択的に収入をベースとしたプログラムのほか、ローンレートの見直しも盛り込まれているため、支払い上限の変更、受給資格の所得上限の引き下げなど各論では異論も少なくないものの、全米トウモロコシ生産者協会はもとより、米国大豆協会、全国小麦生産者協会など各農業団体は、上院・下院案に対して、総論としてはいずれも高い評価を与えている。32

ア アメリカン・ファーム・ビューロー・フェデレーション(AFBF)、ボブ・ストールマン会長 「下院の農業法案は、我が国のみならず世界に向け、安全かつ十分な食料や繊維を供給し、農場や牧場を経営する家族に対して、合理的なバランスを保ちながら利益を分配しているものと言える。 上院の農業法案は、野菜・果実の消費を促進するマーケティングプログラムの拡大、農場や牧場経営を始めたばかりの人々に対するインセンティブ、国内で生産された再生可能燃料の生産を促進するための規定などを含んでおり、農業に関係する部門全てに関する重要な規定が盛り込まれている。」

32 上院案の平均作物収入プログラムについては、同プログラムを提案した全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)を除き、否定的な見解が多い。アメリカン・ファーム・ビューロー・フェデレーション(AFBF)は、価格支持融資が廃止されること、1エーカー15ドルの直接固定支払い単価は作物で有利不利が生じること、WTO協定違反のおそれがあることなどから反対姿勢を明確にしている。また、作物保険業界もビジネスチャンスを奪われるとして反対している。全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)は、2002年農業法は、現在のように価格が高い場合であっても、収穫、収入が減った場合に機能しないとして収入ベースのプログラムをかねてから主張している。各論では、平均作物収入プログラムの計算について、州単位の収入ではなく、郡単位の収入を基礎とすることを求めている。

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イ ナショナル・ファーマーズ・ユニオン(NFU)、トム・ブイス会長 「下院の農業法案は良い内容となっている。重要な改革を進めながら、農場や牧場を経営している家族に対するセーフティネットが維持されている。保全・環境対策への支出は 46 億ドル、栄養プログラムへの支出は 40億ドル、再生可能エネルギーへの取組みは 25億ドルそれぞれ増加されているほか、初めて野菜・果実の生産者に対して 16 億ドルの支援が盛り込まれた。農業法の成功については、しっかりしたセーフティネットが決定的に重要である。過去の経験上、どのような農業法であっても農産物価格が良い年は機能するが、その機能が真に必要とされるのは価格が良くない年である。上院の農業法案は、農産物価格が良い年も悪い年も生産者に対して有効に機能するだろう。」 ウ 全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)、ケン・マッカウレイ議長、ロン・リッテラー会長 「農業法案の可決は永続的に変化し続ける立法プロセスの一環である。下院の農業法案は、セーフティネットを提供しつつ、立法プロセスを前進させる内容であると考えている。ピーターソン下院農業委員長や下院農業委員会のメンバーは、議論を通じて収入ベースの変動対応型支払いに関するプロまた、上院が超党派でクリスマス休会前に農業法案を可決したことを賞賛したい。全国のトウモロコシ生産者は、収入ベースのセーフティネットを前進させたことについて満足しているだろう。」 エ 米国大豆協会(ASA)、ジョン・ホフマン会長 「この重要な法案は 2002 年農業法を改善し、大豆生産者に対して収入のセーフティネットを強化することにより、国内の大豆生産者が大豆を原料とするバイオディーゼル生産の助長につながる良質な油糧種子の確保の促進や McGovern-Dole Food 教育プログラム支援金による助成の増加につながる新たなプログラムである。大豆生産者は、上院で包括法案を可決した超党派の努力を評価している。農業法案がタイムリーに最終的に成立するよう、上下両院に対して今後とも前向きに働き掛けていきたい。」 オ 全国小麦生産者協会(NAWG)、ジョン・テーマート会長 「我々が求めていた要件は全て満たされてはいないものの、農業法案に取り組んだ下院の全員を評価している。特に、農業委員会におけるプロセスにおいては、オープンかつ透明性の高い手続が取られていたことを評価したい。この重要な立法を小麦生産者は長い間待っていた。また、上院がいくつかの好ましくない改訂条項を拒否しつつ、直接固定支払いの継続、災害支援プログラムを含む農業法案を可決したことを大変嬉しく思っている。」 カ 米国コメ連合会(USA Rice Federation)、ポール・T・コームス会長 「上院で可決された農業法案は、我々、米国コメ連合会にとってのみならず、農業全体、また、究極的には米国の消費者にとって歓迎すべき内容である。それは、米国の消費者が継続的に、最も安価ではないかもしれないが、世界で最も安全な食料の供給を受けることが確約されるという観点からである。同様に、コメの生産者は上院議員が勇敢に、かつ声高に我々の業界を支持したことに対して満足しているであろう。」

キ 全国生乳生産者連合会(NMPF)、ジェリー・コザック会長 「農業法案は、活気に充ちて多様化している酪農業界の状況を反映して、多くの重要事項が網羅されているものであるが、これを確固たる信念で推し進めて可決に至ったのは数ヶ月にも及ぶメンバーによる努力による賜物である。酪農品項目に関しては、上院では他の項目と比較してみても、支払い制限など含めて多少の異論があるものであった。上院の法案は、酪農品価格支持制

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度における下院の法案を大幅に改定したものである。ただし、全体として、現時点では好意的に受け止めており、新農業法に関しても約 1年前にNMPFが概要を記した内容33が反映されることを期待している。」 (8)今後の見通し・予定 2007 年 12 月末までに上下両院案が可決・成立しているため、今後は、両院協議会を開催し、両案の調整を図ることとなる。また、その後、両院協議会で合意を形成し、合意された案に大統領が署名を行うことによって新農業法が成立することとなる。両院協議会では、上院と下院の農業委員長が交互に議長を務めることが慣例となっており、今回は上院のハーキン農業委員長が議長を務めることとなる。しかし、2008 年 1 月末現在、両院協議会開催の具体的開催日は決まっていない。これは、景気刺激策の取りまとめのほか、財政支出を伴う重要事項の審議が立て込んでいるという議会スケジュールが一つの理由である。また、相殺財源の確保が依然として最大の課題となっており、行政府と議会の調整が続いているものの、まとまる兆しは見られない。記録的な穀物価格の水準が続く中、恒久的農業災害援助信託基金の取扱い、作物プログラムの一律削減、直接固定支払いの削減などが浮上しているが、両院農業委員長同士をはじめ関係者の意見の対立がある。上院案では最も歳入増が見込まれるのは「経済 Substance ドクトリン」(5 年間で

37億ドル、10年間で 100億ドル以上)であるが、米国納税者の経済取引に直接関わらない形で生み出される定義の変更による税収増と見る向きもあるが、税額控除のカット、すなわち増税としてブッシュ政権は拒否権行使の姿勢を強めており、混乱は必至と見られている34。2008 年 1 月28日に正式に任命されたシェーファー新農務長官(元ノースダコタ州知事)は、ブッシュ大統領から早期に新農業法へ署名する意思を伝えられたことを明らかにし、事態の打開に意欲を見せているが、今後の審議においても引き続きコナー農務副長官が重要な役割を果たすことになると見られている。

今後の審議について、当面は、2008年 3月 15日が重要なポイントとなる。理由としては、まず、この時期に、新しい議会予算局(CBO)ベースラインが公表されることが挙げられる。この公表により、栄養プログラム、フードスタンプによる予算増加のほか、穀物価格が上昇し続けていることによって、予算のベースラインが下がることが見込まれている。多くの議員や農業団体は、現在のベースラインでの新農業法の成立を望んでおり、これが審議促進のインセンティブになることが期待されている。もう一つは、2007年 12月に暫定的に延長された 2002年農業法の期限切れが 2008 年 3 月 15 日となっていることによる。これを経過すると、作物プログラムなどに大きな影響が生じることとなる。2008 年 1 月に、農業団体は合同で、ブッシュ大統領が任期中に行った減税措置が 2010年に期限切れとなるが、これを代替、継続するためには総額で約 2兆ドルの予算が必要となることを公表、指摘して、早期の新農業法成立を求めた。これによると、代替ミニマム税制、社会保障システムの改革、健康保険のコスト増加(ベビーブーム世代 7,800万人の退職に伴うもの)などの煽りを受けて、農業予算の大幅削減は避けられない上、現在の穀物価格がさらなる削減圧力となることを懸念している。 また、内容はもとより、日程的にも厳しい状況になってきている。2008年 2月 18~22日は大統領誕生日(President’s Day)で議会は休会となるなど制約が多く、3 月 17 日のイースター祭前の成立が急がれている。しかし、膠着状態が続く中、2002年農業法の単純延長(1~2年)のほか、 33 全国生乳生産者連合会(NMPF)は、2007年 1月 31日に発表された次期農業法案の行政府提案に対して、何らかの形での直接固定支払い、農場での再生可能エネルギーの開発へのインセンティブ、複数のセーフティネットプログラムを包含する複合的なアプローチを採用することを求めていた。 34 ブッシュ大統領は、2008年 1月 28日に行った一般教書演説において、「増税を伴う法案には拒否権を発動する」と明言し、それまでの考えに変化がないことを強調した。

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恒久法(1933 年農業調整法、1949 年農業法)の適用の可能性も指摘され始めているが、行政府、議会ともこれについては否定的な立場を崩していない35。1996 年農業法は 1996 年 4 月に成立(1990 年農業法は 1995 年 9 月末が期限)したほか、2002 年農業法は両院協議会での調整に約 3ヶ月を要したという前例があるが、特に農業州選出議員は新農業法の成立を急いでおり、2002年農業法の単純延長には強く反対している。2008 年は大統領・議会選挙もあるため、審議の遅延、新農業法に対する大統領の拒否権の行使が、農業・農村重視として評価されるのか、また、財政規律重視として評価されるのか、共和党と民主党の政治的思惑も絡み合い、事態は一層複雑な様相を呈している。

なお、大統領が農業法案に署名した場合であっても、その後直ちに施行される訳ではなく、農務省は、費用対効果の分析(120日以内)、規則案の作成・検討(約 90日)、行政管理予算局(OMB)の審査、官報掲載などの手続を経なければならない。また、農務省農業サービス庁(FSA)は、2,300人の本庁メンバー、12,000人の地方事務所スタッフ、9,000人の地方メンバーを対象に農業法の内容に関する研修を行うこととなっており、これらを全て合わせると施行までには 6~8 ヶ月を要すると見られている。3月 15日はもとより、2007年の作物年度の収穫期が迫る中、時間的制約は一層大きなものとなってきている。

35 2002年農業法は、6年間の時限立法であり、2007年作物年度に収穫される作物を対象として支払いが行われる。このため、多くのプログラムが失効した 2007年 9月 30日以降であっても農家は支払いを受ける権利を失わない。2008年 1月末現在、新農業法の成立の目途は立っていないが、既に作付が終わり、収穫期が早い冬小麦以外の多くの農家は、支払い額が未確定のままであるという点を除き、大きな影響を受けない。ただし、2008年の収穫期になっても新農業法が成立せず、2002年農業法の延長もなされない場合は、恒久法が適用される。

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ⅢⅢⅢⅢ 米国米国米国米国エタノールエタノールエタノールエタノール事情事情事情事情 1.米国エタノールの生産・利用の現状 (1)エタノールの生産 ① エタノールの生産量 米国の 2006年におけるエタノール生産量は、48億 5,500万ガロン(1ガロン=約 3.8リットル)となっており、39 億 400 万ガロンであった 2005 年に比べて 24.4%増加した(図Ⅲ-1)。2007 年は、11月までの時点において 58 億 4,900 万ガロンと前年を既に上回っており、最終的には 63 億ガロン程度になるものと見込まれている。 また、米国のエタノール生産量は、2005年にブラジルを抜いて世界第 1位となったが、2006年もブラジルとの差を広げて世界第 1位となっている。2006年の第 2位以下は、ブラジル(44億 9,100万ガロン)、中国(10億 1,700万ガロン)、インド(5億 200万ガロン)、フランス(2億 5,100万ガロン)となっている。

図III-1 米国のエタノール生産量

05001,0001,5002,0002,5003,0003,5004,0004,5005,0005,5006,000

1980 1985 1990 1995 2000 2005(出所)再生可能燃料協会(RFA)

② エタノールの生産工場数と生産能力 2008年 1月末現在、米国では 139工場が稼動しており、生産能力は 78億 8,840万ガロンとなっている(図Ⅲ-2)。工場の一部には、マイロ(ソルガムの一種で家畜飼料となるもの)、大麦、サトウキビの茎、スターチなどを原料とするものもあるが、圧倒的多くはトウモロコシを原料としている。 このほか、61工場が建設中、7工場が拡張中となっており、これらの生産能力は合わせて 55億3,600 ガロンとなっている。仮に、これら建設・拡張中の工場が全て稼動したとすると、米国のエタノール生産能力は、134億 2,440万ガロンに達するものと見込まれている。

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図III-2 米国のエタノール工場数と生産能力(各年1月)

01,0002,0003,0004,0005,0006,0007,0008,0009,000

99 00 01 02 03 04 05 06 07

ガロン(100万)

020406080100120140160工場数エタノール生産能力 エタノール工場数

(注) 2008年 1月末現在。 (出所)再生可能燃料協会(RFA)

③ エタノールの生産工場の分布 エタノールの生産工場は、主な原料であるトウモロコシの主産地である中西部に集中しており、2006年におけるトウモロコシ生産上位 3州がエタノール生産量上位 3州となっている(図Ⅲ-3)。 また、生産工場の所在州は、第 1位から第 5 位まで順に、アイオワ、ネブラスカ、ミネソタ、サウスダコタ、カンザスとなっている(図Ⅲ-4)。

図III-3 米国のエタノール生産量上位5州(単位:百万ガロン)順位 州 生産量

1 アイオワ 3,357.5

2 ネブラスカ 1,745.5

3 イリノイ 1,172.0

4 ミネソタ 1,102.1

5 サウスダコタ 985.0(出所)ネブラスカ州政府(注)2007年11月6日現在。建設・拡張中の工場の生産量を含む。

④ エタノールの生産工場の種類 ア ウェット・ミル(Wet Mill) 亜硫酸水への浸漬などを経て、トウモロコシをでん粉、グルテン、コーン油などに分離し、このうち、でん粉のみを発酵、蒸留してエタノールを生産する。エタノールのほか、スターチ、糖化製品などでん粉由来製品を需要に応じて、弾力的に生産できるほか、グルテンミール、コーン油など多様な副産物を生産することができる。しかし、初期投資が大きくなるため、近年割合は減少している(2007年 1月現在、米国の生産能力の 18%)。ADM(Archer Daniels Midland)など

図III-4 米国のエタノール工場数上位5州(単位:件)順位 州 工場数

1 アイオワ 40

2 ネブラスカ 24

3 ミネソタ 22

4 サウスダコタ 16

5 カンザス 13

米国総合計 207(139)(出所)再生可能燃料協会(RFA)(注)2008年1月末現在。建設・拡張中のものを含む。米国総合計の()内は、稼動中工場。(注)2008年 1月末現在。建設・拡張中のものを含む。米国総合計の()内は、稼動中工場。 (出所)再生可能燃料協会(RFA)

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伝統的なスターチメーカーがこの生産方式を採用している。 イ ドライ・ミル(Dry Mill) トウモロコシを生産工場に搬入、粉砕して、水、アンモニアや酵素と混合した後、高温蒸気で調整する。その後、酵素を混合して液状化し、酵素、イースト、尿素などを混合して発酵させる。発酵後、蒸留し、分子ふるい機による脱水、ガソリン 5%を混合してエタノールを生産する。蒸留後、残留物の一部はそのまま牛の飼料(wet cake)として利用するほか、遠心分離して乾燥させたものは DDGS(Distiller’s Dried Grain with Solubles)として家畜飼料に利用する。基本的に、エタノールと DDGSのみが生産される。初期投資が、ウェット・ミル(Wet Mill)と比較して小さいため、近年増加傾向にある(2007年 1月現在、米国の生産能力の 82%)。

(2)エタノールの利用 2006年におけるエタノール消費量は、53億 7,700万ガロンとなっており、40億 4,900万ガロンであった 2005年に比べて 32.8%増加している。2007年は、11月時点において既に 61 億 7,200 万ガロンに達しており、生産量と同様、既に前年を上回っている。 燃料用エタノールは、ガソリンへの混合・添加比率によって、現在のところ、代表的なものとして「E10」と「E85」がある。 「E10」は、ガソリンへの 10%以内の添加のものを指し、オクタン価向上、ノッキング防止のほか、大気浄化法(Clean Air Act )に基づく含酸素成分として用いられることにより、CO2などの排出抑制に資するものとされている。ほとんどの自動車が対応可能である。2004 年の添加量はガソリン換算で 20.5億ガロンとなっている。 「E85」は、エタノール 85%、ガソリン 15%の混合比率の燃料を指す。これを利用するためには、エンジン、タンクなどに専用の部品を装備したフレックス燃料対応車(FFV)でなければならない。2004年の消費量は、ガソリン換算で 2,241万ガロンとなっている。 これらの混合・添加は、石油会社系ターミナル又は独立系ブレンダーによって行われる。ガソリンはパイプラインによって石油会社系ターミナル又は独立系ブレンダーの下へ運ばれるのに対し、エタノールは主に陸路(鉄道、トラック)によってエタノール工場から(一部はエタノールターミナルを経て)石油会社系ターミナル又は独立系ブレンダーの下へ運ばれる。

1990年大気浄化法に基づいて 1995年に施行された「クリーン燃料プログラム」によって、改質ガソリン(RFG:Reformulated Gasoline)の使用が促進されたが、このほとんどが含酸素剤としてエタノールを混合したことから(図Ⅲ-5)、1996年に約 11%であったガソリン生産量に占めるエタノール混合ガソリンの割合は、2008年 1月現在、52.9%に達している(図Ⅲ-5)。大都市圏を抱える東部が75.7%、中西部が 86.0%、西海岸が 89.4%と高い割合となっている。なお、改質ガソリン全体のうち、エタノール混合のものの割合は、改質ガソリンそのものが使用されていない山岳部を除き、東部、中西部、南部、西海岸のいずれでも 100%となっている

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(3)エタノールの生産・利用が農業・農村に与える影響 近年、エタノールの生産・利用の急激な拡大については、後述するように様々な課題を惹起しているが、農業・農村に対する好影響として以下のような数値などが明らかにされている。ア、イについては、エタノール生産・利用だけが原因ではないが、これが大きく作用していることはほぼ間違いがないと考えられている。

ア 農家所得の向上 2005年に 1,159億ドルだった全米農家の作物収入は、2006年は前年比 3.5%増の 1,200億ドル、2007年は同 18.8%の 1,426億ドルとなっている(「5.農家経済の動向(1)農家所得①農家所得の状況」参照)。

イ 政府補助金の減少 2005年に 244億ドルだった政府直接支払いは、2006年は前年比 35.2%減の 158億ドル、2007年は同 23.4%減の 121億ドルとなっており、2007年は 2005年の半分以下となっている(「5.農家経済の動向(1)農家所得①農家所得の状況」参照)。

ウ エタノール産業の米国経済への貢献 民間調査分析会社の LECG、LLCによると、エタノール産業は、231億ドルの GDP引き上げ(名目 GDPの 0.17%)、16万 3,034人の雇用創出のほか、67億ドルの家計所得の追加をもたらしたとしている。

エ エタノール工場からの配当 農家が出資するエタノール工場が約 1/3であることから、エタノール工場の収益によって農家が配当を得ているほか、出資者である農家は優先的に原料(トウモロコシなど)を納入することができ安定的な販路確保などのメリットを得ている。

2.米国エタノール政策の現状 (1)エタノール政策の背景 米国におけるエタノールをはじめとするバイオ燃料の生産・利用の拡大には、連邦政府、州政府による積極的な政策の後押しが大きく寄与しているが、これには以下のような背景がある。

図III-5 ガソリン生産量に占めるエタノール混合ガソリンの割合 (1,000バレル)東部 中西部 南部 山岳部 西海岸 全米生産量改質ガソリン(エタノール混合) 33,481 11,834 10,383 0 32,989 88,687従来型ガソリン(エタノール混合) 2,573 30,341 1,305 3,533 5,983 43,735エタノール混合ガソリン   合計(A) 36,054 42,175 11,688 3,533 38,972 132,422ガソリン生産量合計(B) 47,636 49,066 101,166 8,892 43,611 250,371A/B 75.7 86.0 11.6 39.7 89.4 52.9(%) (%) (%) (%) (%) (%) (%)(出所)米国エネルギー省(EIA)

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① エネルギー保障 ここ数年、原油価格の上昇傾向で推移してきたが、2007 年は米国ドル安が進んだことも相まって、原油価格は高騰し続け、2008年 1月 2日には史上初めて一時 1バレル 100ドルを突破した。これと歩調を合わせるように、ガソリン価格も高騰し、2007 年 5月に月間平均価格 1ガロン 3ドルを超えた後も高止まりを続け、2008年 11月は 3ドル 8セント、12月は 3ドル 1.8セントとなっている(図Ⅲ-6)。このような中、原油の多くを中東諸国ほか、ベネズエラなど政治的に反米色の強い国に依存している体制から脱却することが大きな動機となっている。 図III-6 米国のガソリンの小売価格(全米平均レギュ-ラー)

1.001.502.002.503.003.50

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007(出所)米国エネルギー省 (EIA)

$/ガロン

② 環境対策 含酸素剤MTBE36に発ガン性が認められたほか、老朽化した地下ガソリンタンクからの漏出による地下水汚染が表面化して問題となったことから、カリフォルニア州が 2005 年 4 月からMTBEの使用を禁止した。また、同じく 2007年 4月に環境庁が、2014年 12月 31日以降、全面的にMTBEの使用を禁止することを決定した。さらに、2005年 8月に大統領が署名した 2005年エネルギー政策法(Energy Policy Act of 2005)は、改質ガソリンへの含酸素成分の添加義務を廃止した(2006 年 5 月施行)。これに際して、業界は、MTBE 利用会社の訴訟免責条項を盛り込むことを要望したが、これは受け入れられなかった。このため、2006 年夏以降、主要石油会社がMTBEの国内使用を中止し、この代替としてエタノール(E10)の使用が急激に進んだ(図Ⅲ-7)。 なお、米国、ブッシュ政権は、産業界への配慮から、京都議定書への批准を拒否するなど二酸化炭素削減には消極的な側面も見せるが、ニューヨーク州など北東部 7州、カリフォルニア州など西部 5州のほか、イリノイ、ウィスコンシン州など中西部 6州で二酸化炭素などの温室効果ガス排出削減に取り組むため、独自の排出削減協定・計画を策定するなど州レベルでの環境対策に

36 メチル・ターシャリー・ブチル・エーテル。エーテルに分類される有機化合物。日本では消防法において危険物(第四類、引火性液体、第一石油類)に指定されている。引火点マイナス 28度、沸点 55.2度。ガソリンに添加することで、①オクタン価の向上、②排気中の一酸化炭素削減(分子中の酸素による助燃効果)が得られる。

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係る積極的な取組みが広がっている。中西部 6州の協定では、温室効果ガスの排出枠を各企業に割り当て、その過不足分を市場で売買する「キャップ・アンド・トレード」の導入計画を策定することとしているが、同時にエタノールの利用を推進するため、E85を販売するガソリンスタンドを 2015年までに中西部のガソリンスタンド全体の 15%に当たる 4,400ヶ所とするなど、地域の特性を活かした再生可能燃料の生産拡大を図ることとしており、環境対策としてのエタノール利用が広がりを見せている。 図III-7 米国のMTBEと燃料用エタノールの使用量

02,0004,0006,0008,00010,00012,00014,0002000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007

MTBE 燃料用エタノール(1,000 バレル)

(出所)米国エネルギー省 (EIA)

③ 農業・農村の活性化と新規需要の創出 再生可能燃料はエタノールの原料となるトウモロコシ、バイオディーゼルの原料となる大豆・大豆油など農産物を原料としているが、この再生可能燃料需要の増加は米国ドル安や世界各国の天候不順、穀物の生産量の減少に伴う米国産農産物輸出の増加と相まって、米国農業・農村に記録的な好況をもたらしている。トウモロコシ需要の増加は、価格の高騰、農家収入の増加につながったが、作付面積・生産が減少して供給が大きく減少した大豆についても、その需要は急激には減少しなかったため、在庫が大きく減少し、価格の高騰が顕著となっている。これらの状況が、1 の(3)で述べたような農家所得の向上など国内農業・農村に対する好影響へとつながっている。また、このような経済効果が有権者である農業団体、農村地域住民などの関心をさらに高め、政治的な支持、圧力へとつながっている側面もある。

このような背景の中、米国政府、ブッシュ大統領は、2006年 1月の一般教書演説において「先進エネルギー構想」を提唱し、エタノールをはじめとする新技術を活用した代替エネルギー、再生可能燃料の開発・利用を促進することにより、2025年までに中東諸国からの原油輸入を 75%以上削減することとした。また、2007 年 1 月の同じく一般教書演説においては、トウモロコシを中心とする再生可能燃料の生産・利用を 350 億ガロンまで拡大することなどにより、10 年後の 2017年までにガソリン消費量を 20%削減する政策提案(「“20 in 10”イニシアティブ」)を明らかにした。

(2)エタノール政策の概要 米国におけるエタノール振興施策は、州レベルのものまで含めると多岐に渡るが、主なものとしては、再生可能燃料基準の設定(全国ベースでの使用義務付け)、州レベルでの使用義務付け、税制

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優遇措置・補助金がある。

① 再生可能燃料基準(RFS) 2005年エネルギー政策法では、再生可能燃料基準(RFS:Renewable Fuels Standard)を定め、 エタノール、バイオディーゼルなど再生可能燃料の使用量の義務付けを行っている。 義務量は、2006 年 40 億ガロン、2007 年 47 億ガロン、2008 年 54 億ガロンで、最終的には2012年 75億ガロンとなっている(図Ⅲ-8)。2007年 9月からは、個々のガソリン製造業者に個別の義務量が設定され、現場において本格的な取組みが開始されたところである。

図III-8 再生可能燃料基準(2005年エネルギー政策法)(億ガロン)年 総義務量2006 402007 472008 542009 612010 682011 742012 75 再生可能燃料の義務付け対象者は、ハワイ、アラスカを除く 48 州のガソリン製造業者、輸入業者である(エタノールのみをブレンドするブレンダーを除く)。事業者は、それぞれのガソリン製造量(輸入量)に一定の割合(全国ベースの義務量に応じて毎年設定)を乗じた数量の再生可能燃料を使用する義務を負うこととなる。2007年の割合は、4.02%となっている。 <例> 年間(2007年の場合は 9月~12月)10億ガロンのガソリンを製造する A社は、10億×

0.0402=4,020万ガロンの再生可能燃料を使用する義務を負う。

この再生可能燃料の義務付けに関しては、ガソリン製造業者、輸入業者の裁量の余地を残すため、 クレジット取引システムが設けられており、再生可能燃料製造業者(輸入業者)は、製造(輸入)した再生可能燃料に、ガロンごとに RIN(Renewable Identification Number)を割り当てることとなっている。割り当てることができる RIN クレジットの量は、同じ 1 ガロンであっても再生可能燃料の種類ごとに異なっており、エタノールは 1.0 ガロン-RINs、セルロース系エタノールは 2.5ガロン-RINs、バイオディーゼルは 1.5ガロン-RINsとなっている。 RINは、原則として再生可能燃料と一体的に流通しなければならない。 ただし、 ・ セルロース系エタノール 2.5 ガロン-RINs のうち、1.5 ガロン-RINs については、単独で流通させることができる ・ 流通業者は、再生可能燃料の販売と同時に移転する RINの量を一定の範囲で変動させることができる(ただし、再生可能燃料の移転をせず、RINのみを移転することはできない) ・ ブレンダー、ガソリン製造業者などが、再生可能燃料(又は RIN)を取得した後は、RINを単独で流通させることができる という例外が認められている。

ガソリンの製造業者、輸入業者は、義務付けられた数量に対応する RIN クレジットを獲得することで義務を達成することとなる。具体的には、 ・ 再生可能燃料を購入することで、それに付随する RINクレジットを取得する

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・ 単独で流通する RINクレジットを購入・取得する ・ 前年の繰越 RINクレジットを義務量の一部として換算する(義務量の 20%まで) <例> 年間(2007年の場合は 9月~12月)10億ガロンのガソリンを製造する A社は、10億×0402 =4,020万ガロンの再生可能燃料を使用する義務を負う。この義務を履行するため、A社は、 ① 2,000万ガロンのエタノールを購入して、2,000万ガロン-RINsを取得 ② 2,020万ガロン-RINsを市場から購入 という方法を用いた。

② 州レベルでの使用義務付け 州レベルにおいても、ガソリンへのエタノールをはじめとする再生可能燃料の混合を義務付け、 その利用拡大を図っている(図Ⅲ-9)。

ミネソタ  10%(97年~)20%(13年8月~)ハワイ 10%(06年4月~)モンタナ 10%(生産量が一定量を超えた後)アイオワ 10%(09年~)ミズーリ 10%(08年~)ワシントン 2%(08年12月~)ルイジアナ 2%(生産量が一定量を超えた後)図III-9 州ごとのエタノール使用義務付け

(出所)米国エタノール連合(ACE)(2007年 12月現在)

(注)「エタノール使用義務付けの州」は、以上の地図で少し色の濃い部分。地図中左下の島はハワイ州。

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③ 税制優遇措置・補助金 米国では、ガソリンへのエタノールの混合を促進するため、2010 年末まで、ガソリンへエタノールを混合するブレンダーを対象に、エタノール 1ガロン当たり 51セントのガソリン消費税控除措置を設けている(連邦ガソリン税から混合するエタノール 1 ガロン当たり 51 セントを控除)。E10 では、ガソリン消費税が 1 ガロン当たり 5.1 セント控除されることとなる。このことにより、エタノールとガソリンの価格差を埋め、エタノール需要を創出する効果を果たしている(図Ⅲ-10)。 図III-10 エタノールとガソリンの卸売価格の推移

0.000.501.001.502.002.503.003.504.002000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007

エタノール ガソリン(ネブラスカ州・オマハ・FOB価格)

(出所)ネブラスカ州政府

この優遇税制措置は、エタノールの生産国を限定していないため、外国産エタノールであっても優遇措置の対象となる。このため、米国は、エタノールの輸入に際しては、2.5%の従価税(変性アルコールの場合 1.9%)が関税として課されることとなっているが、実際にはこれに加えて、1 ガロン当たり 54 セントが事実上の関税として課されている。これは、エタノール 1 ガロン当たり 51 セントのガソリン消費税控除措置の効果が、外国産エタノールに及ぶことを避ける目的で 1980年に導入され、その後延長を重ねて現在に至っている。原油価格高騰が続く中、エタノール関税を撤廃して輸入を増やすべきとの意見も強い一方で、エタノール生産者や農業者は強く反対しており、その存続については賛否両論がある。最近でも、2007 年 9 月の期限が切れる予定であったが、エタノール生産者や農業者の反対もあり、2006年 12月に成立した包括税制法において 2008年 12月までの延長が行われた。 このほか、以下のような優遇税制措置、補助金などの振興策が講じられている。 <優遇税制措置> ・ 小規模工場(年産 6,000 万ガロン以下)の連邦所得税から 1ガロン当たり 10セント(最大 150万ドル)を控除 ・ E85ガソリン給油施設設置費用の 30%(最大 3万ドル)を連邦所得税から控除 ・ セルロース系エタノール工場の生産初年について設備投資の 50%の特別償却 ・ 各州レベルにおけるエタノール混合ガソリンの売上税減免措置 など <補助金> ・ エタノール工場の建設に対し、費用の最大 25%補助、最大 50%貸付け、債務保証などを実施(連邦農務省) ・ エタノール生産の実現可能性の検証などに最大 50万ドルを補助(連邦農務省)

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・ 実証プラントを含むバイオマスの開発、セルロース系エタノール工場への補助など(連邦エネルギー省) ・ 各州レベルにおけるエタノール生産施設、E85関連施設建設費などへの補助 など (3)新エネルギー法の成立とエタノール政策を進めていく上での課題 ブッシュ大統領が、2007年 1月の一般教書演説において、「“20 in 10”イニシアティブ」を明らかにしたことを契機に、米国議会では再生可能燃料基準(RFS)拡大化に関して、2005 年エネルギー政策法に基づく義務量の見直しを中心に議論されてきた。2007年 12月 19日のブッシュ大統領の署名をもって、長時間に渡る議論の終結を迎え、新エネルギー法(Energy Independence and

Security Act of 2007)に基づいて米国の再生可能燃料、エネルギー政策が加速化されることとなった。しかし、野心的なバイオ燃料使用義務量の拡大に関しては、関係業界の理解の下で官民一体となって進められようとしているとは言い難く、また、エタノールの生産・利用の現状などを考慮した場合、残された課題は依然として大きく、重いものとなっている。

① 新エネルギー法の成立に至るまでの過程 議会での議論が続いていた新エネルギー法案は、2007 年 7月と 8月にそれぞれ上院と下院案が可決されたものの、再生可能燃料基準の拡大、自動車燃費(新車の平均燃費)基準強化、石油・ガス業界への優遇税制措置の廃止、電力業界への再生可能燃料由来の電力生産割合の増加義務など幅広い内容を包括しているほか、上院が再生可能燃料基準の拡大を盛り込む一方、下院はこれを盛り込まずに現状維持とするなど内容的な隔たりが大きく、早期の決着、少なくとも 2007年内の成立は困難であるとの見方が大勢を占めていた。また、そもそも議会を通る可能性が低い上、仮に、議会を通過したとしても、石油業界に極めて近いブッシュ大統領が現職の間は、石油業界への優遇税制措置の廃止を含む法案には拒否権が発動されるため、新エネルギー法が成立する可能性は極めて低いものと見られていた。

このような状況にも関わらず、一気に新エネルギー法の成立にまで至った背景には、2007 年におけるエタノール業界の停滞、不調に端を発した関係業界のロビー活動の強化と潜在的な国民の支持がある。 エネルギー、環境、農業・農村対策に基づくブッシュ大統領の強力な梃入れもあり、米国各地はエタノール工場の建設ラッシュに沸いたが、2007 年の初夏から秋にかけては、原油価格が高騰しているにも関わらず、建設の延期・中止、操業停止などが相次いで発表され、エタノールブームに翳りが見え始めた。農務省も毎月発表する需給予測において、ここ数年一貫して増加してきたトウモロコシのエタノール需要を、9月と 10月の 2ヶ月連続で 1億ブッシェルずつ下方修正した。農産物の需給予測統計は、供給不足が生じないように「需要は大きめに、供給は少なめに」とされるのが通常であるため、この修正は関係者を驚かせるとともに、エタノール市場が供給過剰になっているという急激な変化を広く内外に示すものとなった。 これは、「③新エネルギー法に基づくエタノール政策を進めていく上での課題」で述べるように、エタノール工場の増加により供給が急激に増加したにも関わらず、インフラ整備、輸送・処理能力の不足などから、需要が追い付いていないことが最大の要因であった37。この供給過剰がエタノール価格の下落につながり、ネブラスカ州政府の発表によると、2006年 6月に月平均 1ガロン当たり 3ドル 58セントだったエタノールの卸売価格は、2007年 10月はその 1/2の 1ドル 79

37 現在、米国のエタノール工場の多くがドライ・ミル方式でエタノールを生産しているが、この方式では、基本的にエタノールと DDGSのみしか生産できず、他の生産に転換することができないため、供給過剰に拍車をかけたものと考えられる。この点、大豆を原料とする圧搾・搾油用施設とバイオーディーゼル用施設との関係で、比較的容易に機能を転換させることが可能となっている。

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セントまで下落した(図Ⅲ-11)。しかし、トウモロコシ価格は高止まりが続いているため、エタノール工場の利ざやは急激に縮小し、利益を圧迫することとなった。このような状況の中で、2007年秋以降、エタノール業界やトウモロコシ関係業界は、エタノール需要の拡大策を求めて、議会などへのロビー活動の強化を図っていった。畜産業界、食品産業界、石油業界、一部環境団体など関係業界・団体の間では再生可能燃料基準の急激な拡大に対する異論も多いが、エネルギー保障の考え方に対する米国民の支持は強く、大統領、議会を動かす大きな力になったと見られている。 図III-11 エタノールの卸売価格の推移

0.000.501.001.502.002.503.003.504.002000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007

(ネブラスカ州・オマハ・FOB価格)

(出所)ネブラスカ州政府

また、2007年 11月下旬から 12月上旬までにかけての感謝祭(Thanksgiving)による議会休会時期も大きな転換点となった。この期間に地元各州へ戻った議員、特に下院民主党議員は、北東部を中心に例年以下の気温になるとの予報に加え、折りからの原油価格高騰もあり、地元有権者から暖房油(heating oil)の価格対策等を強く求められた。これを契機に、休会明けの 12月上旬から両党による精力的な水面下での調整が続いた結果、民主党が、当初の下院案に盛り込まれていたものの、共和党が反対していた「石油・ガス業界への優遇税制措置」と「電力業界への再生可能燃料由来の電力生産割合の増加義務」に関する条項を削除することに合意し、関係条項を削除した修正案を呑む形で両党の合意が成立した。このことにより、2007年 12月 13日、それまでの大方の予想に反して、賛成 86票、反対 8票の圧倒的大差をもって新エネルギー法案が上院を通過した。この上院案には、2022 年までに 360 億ガロンの再生可能燃料(トウモロコシ由来のものは 2015年までに 150億ガロン、バイオディーゼルは 2012年までに 10億ガロン)の利用を義務付ける条項が盛り込まれたほか、2020 年までに乗用車などの自動車平均燃費(CAFE)を 35マイル/ガロン以上とする条項38が残されたが、この法案が 2007年 12月 18日に、下院でも賛成 314票、反対 100票の圧倒的大差で可決された後、翌 19日にブッシュ大統領によって署名され、新エネルギー法の成立となった。再生可能燃料基準は、2005 年エネルギー政策法に基づくものと比べて、約 5倍の水準となったが、2008年の早い段階で同法が求める 75億ガロン(2012年まで)に達するものと見込まれていることから、このような拡大につながった側面も大きい。新エネルギー法では、トウモロコシ由来、バイオディーゼルのほか、次世代バイオ燃料(advanced

38 これまでは、自動車メーカーに対して、乗用車は 1ガロン当たり 27.5マイル、スポーツ用多目的者(SUV)など小型トラックは同 22.2マイルとなっており、違反に対しては 1ガロン当たり 0.1マイルごとに 5.5ドルの罰金が科されることとなっていた。新エネルギー法では、1975年以来 32年ぶりにこれらを約 40%強化するとともに、車種ごとの規制を一本化し、2020年までに 1ガロン当たり 35マイルとすることを義務付けた。これにより、米国の原油需要 1日当たり 110万バレル削減する効果があるとされている。

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biofuels) を 2022 年までに 210 億ガロン、うちセルロース系を 160 億ガロン利用することを義務付けている(図Ⅲ-12)。

② 関係業界の反応 新エネルギー法成立の議論の過程において、結果として、石油・ガス業界への優遇税制措置の廃止条項を法案から削除する代わりに、再生可能燃料基準の拡大を法案に残す形となった。 エタノール業界は、当然のごとく、新エネルギー法の成立を高く評価しており、同法成立直後の 2007年 12月、アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)は「エネルギー保障の向上、農村地域経済の活性化、自然環境の改善において再生可能燃料の果たす役割が拡大する」、ベラサン・エナジーは「再生可能燃料基準の拡大は、新技術開発、インフラ整備への投資拡大に向け、市場に対して明確で積極的なサインを送るものであり、エタノール業界の成長を下支えする」と、それぞれ歓迎する声明を発表した。 また、農業関係団体のうち、トウモロコシ関係業界は、これを歓迎しているものの、トウモロコシを飼料として利用する畜産業界、トウモロコシ・シロップを甘味料として利用する飲料メーカー、スターチ製造業界などにとっては、トウモロコシの需給がさらに逼迫し、その価格の上昇が飼料・原料などコスト増加の要因になることから、再生可能燃料基準の拡大に一貫して強い懸念を表明している。 さらに、石油業界は、新エネルギー法のエネルギー保障という考え方を一定の理解を示しつつ、優遇税制措置の廃止に関する条項を削除したことについては評価をしている。しかし、再生可能燃料基準の拡大については、非現実的であるとしてこれを批判、反対しているほか、セルロース系の技術が未開発であることなどへの懸念も表明している。加えて、新エネルギー法は、そもそも、石油の生産・利用に資するものではないという認識の下で、エネルギー保障、消費者の利便性の観点からもマイナスであるとする団体もあるなど、急速な議論の展開もあり、業界内での足並みは必ずしも揃っていない。米国石油化学・精製協会(NPRA)は、「年々増加するエネルギー需要に合わせて、国内の石油やガスの生産・精製への投資を促進すべきであり、重荷となる増税を通じて投資を阻害するべきではない。」とするという声明を発表し、引き続き、石油・ガスという伝統的な燃料への投資が必要だと主張している。

図III-12 再生可能燃料基準(新エネルギー法) (億ガロン)合計 セルロース系エタノール バイオディーゼル2008 90.0 90.0 0.0 0.0 0.02009 111.0 105.0 6.0 0.0 5.02010 129.5 120.0 9.5 1.0 6.52011 139.5 126.0 13.5 2.5 8.02012 152.0 132.0 20.0 5.0 10.02013 165.5 138.0 27.5 10.0 -2014 181.5 144.0 37.5 17.5 -2015 205.0 150.0 55.0 30.0 -2016 222.5 150.0 72.5 42.5 -2017 240.0 150.0 90.0 55.0 -2018 260.0 150.0 110.0 70.0 -2019 280.0 150.0 130.0 85.0 -2020 300.0 150.0 150.0 105.0 -2021 330.0 150.0 180.0 135.0 -2022 360.0 150.0 210.0 160.0 -

次世代バイオ燃料トウモロコシ由来のエタノール年 総義務量

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原油価格の高騰による暖房油の高価格化対応や地球温暖化政策推進への世論の後押し、また、2008 年1月から始まった大統領選挙キャンペーンの材料という政治的背景が大きく作用して、わずか 1週間足らずという驚異的なスピードで議会通過、大統領署名となった新エネルギー法であるが、関係業界の中には依然として強い反対、懸念が残っており、関係者間において、十分なコンセンサスが得られているとは言い難い。また、実践に向けた準備も整っておらず、今後の運用に大きな不安を残していることは否めない。 ③ 新エネルギー法に基づくエタノール政策を進めていく上での課題

再生可能燃料基準の拡大をはじめ、急速な展開を見せて可決・成立した新エネルギー法は、2008年に施行される 90億ガロンの再生可能燃料基準を除き、2009年 1月 1日から施行される予定となっている。今後は、これに基づき、エタノール政策の推進が一層加速化されることとなるが、2022 年までに 360 億ガロンの再生可能燃料を生産・利用するという義務の履行は容易なものではなく、米国におけるエタノールの現状、関係業界や団体、科学的見地に基づく専門家からの指摘などによって、以下のような数多くの大きな課題が明らかとなっている。

ア トウモロコシ系エタノールの限界と需給ギャップ 現在、米国で普及しているエタノールはほとんどがトウモロコシを原料としていることから、エタノール向けのトウモロコシ需要は大きく増加しており、2006/07穀物年度(2006年 9月~2007年 8月)は生産量全体の 20.1%、2007/2008穀物年度(2007年 9月~2008年 8月)は同じく 24.5%を占めるに至っている(図Ⅲ-13)。農務省は 2007年 2月に公表した長期見通しにおいて、10年後の 2016/2017穀物年度(2016年 9月~2017年 8月)のエタノール生産量は 120億ガロン強と予測している。ドライ・ミル方式では、トウモロコシ 1ブッシェル当たり約 2.8ガロンのエタノールが生産されることから、120 億ガロン強のエタノール生産を賄うためには、約 43億 5,000万ブッシェルのトウモロコシが必要となり、生産量全体の 3割以上を占めることとなる。新エネルギー法に基づくトウモロコシを原料とする再生可能燃料基準 150億ガロンを賄うに至っては、約 53 億 5,000 万ブッシェルのトウモロコシが必要となり、これは現在の飼料用向けトウモロコシに匹敵する量となる。 また、エネルギー省の長期見通しでは、トウモロコシを原料とするエタノール生産は 2030年に 136億ガロン、関係業界では最大で 140~160億ガロンと見込まれている。新エネルギー法は、トウモロコシを原料とするエタノール生産量の限界(又はそれに近い)と言われている150億ガロンの使用を、農務省やエネルギー省の長期見通しよりも早い時期、わずか 7年後の2015年までに義務付けた。このため、農家は、トウモロコシの生産をさらに増加させるため、大豆との作付ローテーションの変更による作付面積の増加、遺伝子組換え種子のさらなる導入や密植(単位面積当たりにより多くの作付けを行うこと)による単収の増加などを組み合わせ、エタノールの急激な供給(生産)拡大に対応していかなければならない39。単州を例にとれば、150 億ガロンのエタノール必要なトウモロコシ約 53 億 5,000 万ブッシェルを生産するためには、現在の 151.1 ブッシェル/エーカー(2007/2008 穀物年度の予測)から 2015 年までに毎年

39 中長期的には、農家自身による取組みとして作付面積と単収の増加が必要となるが、政策的な対応としては、現在、農業法に基づく保全留保計画(CRP :Conservation Reserve Program)で補助金を支払って休耕している農地の一部復活の必要性を指摘する向きもある。農務省によると、CRPに参加している土地(上限 3,920万エーカー)のうち、2,700万エーカーは耕作に適する土地である。穀物の需給逼迫、記録的な価格高騰のため、2007年は、一時的に罰金なしで CRPの保全義務、作付制限を解除する必要があるという議論が繰り返し行われた。農務省は、2007年 9 月には前向きに検討する姿勢を見せ、2008 年産の作付、作柄の状況、価格の市場動向を監視の上で判断したいとの基本的考えを示していたが、コナー農務長官代理は、2008年 1月 13日、2008年の作付に対する解除は時期的に遅すぎる上、CRPは休耕事業ではないため、穀物需給に左右されることはないとの理由から、ペナルティなしの契約解除には応じないという考えを示した。

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1.5%以上増加させ、20~30ブッシェル増加させる必要がある。仮に、これが実現できない場合は、飼料用向け、食料用向け、輸出向けへの供給が減少し、トウモロコシ価格が 1ブッシェル当たり 6~7ドル、ひいては 10ドルなどという水準にまで達してしまい、高価格であるエタノールの使用が義務付けられるという悪循環に陥ってしまう。また、トウモロコシの生産拡大が実現したとしても、その急激な拡大に需要が追い付かないことも懸念されている。

2005/06 2006/07 2007/08作付面積(百万エーカー) 81.8 78.3 93.6 37.4 百万ha収穫面積(百万エーカー) 75.1 70.6 86.5 34.6 百万ha単収(ブッシェル/エーカー) 148.0 149.1 151.1 9,595.2 Kg/ha期首在庫 2,114 1,967 1,304 33.1 百万㌧生産 11,114 10,535 13,074 332.1 百万㌧輸入 9 12 15 0.4 百万㌧供給合計 13,237 12,514 14,393 365.6 百万㌧飼料・その他 6,155 5,598 5,950 151.1 百万㌧食用・種子用・その他産業用 2,981 3,488 4,555 115.7 百万㌧   うちエタノール 1,603 2,117 3,200 81.3 百万㌧輸出 2,134 2,125 2,450 62.2 百万㌧需要合計 11,270 11,210 12,955 329.1 百万㌧期末在庫 1,967 1,304 1,438 36.5 百万㌧期末在庫率(%) 17.5 11.6 11.1 11.1 %農家平均価格($/ブッシェル 2.00 3.04 3.70-4.30

図III-13 米国のトウモロコシの需給と農家平均価格(特に断りの無い限り、単位は百万ブッシェル)07/08年度 換算

   5 トウモロコシ1ブッシェル=25.401キログラム(出所)米国農務省 「World Agricultural Supply and Demand Estimates 2008.1」(注)1 年度は9月1日~8月31日   2 2006/07は見通し、2007/08は予測。   3 ラウンドの関係で合計値が合わない場合がある。   4 1エーカー=約0.4ヘクタール

イ 穀物価格の高騰による食料供給への影響 主要穀物(トウモロコシ、小麦、大豆)の価格はいずれも記録的な高騰を続けている。また、穀物を飼料とする畜産物の価格も上昇しており、消費者物価の上昇率は食品全体を上回って推移しているものが多い。2006年 12月から 2007年 12月までの消費者物価の上昇率を見ると、全体の 4.1%に対し、食品・飲料全体はこれを上回る 4.8%、また、食品全体も 4.9%となり、1990年以降で最大の上昇率となった。食品のうち、卵が 32.6%、牛乳が 19.3%、チーズが 13.0%、パンが 10.5%、鶏肉が 6.3%、シリアル・ベーカリーが 5.4%、牛肉が 5.0%の上昇などとなっている (図Ⅲ-14)40ほか、2007 年の飲食料品店総売上額は前年比で 5.7%増、食料品店総売上額は同 5.5%増となっており、穀物・畜産物価格の上昇がこの一因になっているとの見方も有力である。これらの原因究明のためには、詳細かつ慎重な分析が必要であり、また、米国ドル安、原油価格の高騰による製造・輸送コストなどの増加、天候不順による主産国の凶作、開発途上国の需要拡大、在庫水準の大幅な低下なども大きく作用しているものであることから、単

40 飼料価格の高騰から、鶏卵業界第 2位のピルグリム・プライド社が 2007年 1月から減産率を 3%から 5%に高めたほか、生産者の任意の取組みである酪農共同事業(CWT)として、2007年 2月~3月にかけては 5万頭以上の乳牛が淘汰され、10億ポンドの搾乳量を削減するなど米国の畜産業界では、2007年当初は調整の動きが強まった。しかし、堅調な需要などから、鶏肉の生産量は 6月以降各月で前年を上回り、生乳の生産量も 1月以降各月で前年を上回るなど生産そのものは減少していない。なお、鶏卵は、1月以降 2月を除く各月で生産量が減少している。

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にエタノール需要の増加の影響によるものとすることは早計である。2007年 12月に農業専門誌 Informa economics社は「トウモロコシ価格の上昇は食品価格の主要因ではない」とする論文を発表しているが、この中で、シャー社長は食品価格に占める原材料費は 19%に過ぎず、また、消費支出に占める食品部門の比率も 12%(うち家計は 7%)のみであり、統計的にトウモロコシ価格と食品価格との相関関係は見られないと解説している。

しかし、エタノール需要の増加がトウモロコシ需給の逼迫、価格の高騰を招き、また、堅調な大豆需要の中、大豆からトウモロコシへの大幅な作付面積のシフトが大豆の生産量・在庫量を減少させ、価格高騰の一因になっていることは間違いない。原料であるトウモロコシの生産の増加が飼料、輸出など他のトウモロコシ需要、他の作物生産・価格、開発途上国への食料供給に及ぼす影響などについては、極めて多くの懸念、批判が示されており、連日のように至るところで「食料 vs 燃料」に関する問題が取り上げられている。論争は、原料、飼料価格の高騰が経営を圧迫しているとして、これ以上トウモロコシを原料とするエタノール生産に反対している食品業界や畜産業界、研究者だけに止まらず、国際通貨基金(IMF)、経済協力開発機構(OECD)などの国際関係機関も、米国の再生可能燃料振興策を「保護主義的」であり、食料の不足と価格上昇、開発途上国の貧困に拍車をかけるものとの否定的な見解を示している。新エネルギー法の成立直後の 2007年 12月 17日には、国連食糧農業機関(FAO)が、やはり開発途上国への食料供給に対する懸念を強調した41。 また、農務省は、国内需要の高まりから、米国のトウモロコシ在庫率(総需要量に対する期末在庫の割合)は低水準で推移し、需給逼迫基調が中長期的に続くため、農家受取価格は高止まりするとの予測を示している(図Ⅲ-15)。また、輸出は一時的には減少し、その後現行水準にまで回復することとされているが、現在約 7割である輸出市場における米国のシェアは、6割程度にまで下落するものと見通している。2006 年に、米国から 1,634 万 1,000 トンのトウモロコシ(全輸入量 1,688万 3,000トンの 96.8%)を輸入している日本にとっても、安定的な供給の確保が極めて重要な課題になるものと考えられる。特に、農家は、栽培管理が容易であり、かつ、高収量が得られる遺伝子組換え種子への作付転換を進めており(「Ⅰ農業の概要 3.主要農産物の概要と需給動向 (3)遺伝子組換え作物の作付状況」参照)、遺伝子組換え作物に対して極めて強い抵抗感を有する日本の消費者にとっては、非遺伝子組換え作物の入手が現状よりも厳しい状況となる可能性も生じている42。

41 2007年 8月、国連人権委員会のジャン・ジーグラー氏(食料確保の権利に関する特別報告者)は、国連総会に報告書を提出し、再生可能燃料の生産が食料と燃料の間の原料争奪戦を生じさせ、開発途上国の貧困と飢餓に拍車をかけると厳しく批判したほか、10月には再生可能燃料の生産を「人類への犯罪」とまで表現し、5年間の生産停止を求めた。米国再生可能燃料協会などは、これに激しく反発し、科学的な論証を求めたほか、貧困と飢餓の原因は低所得であり、食料価格の高騰は原油価格の高騰であるなどと反論した。 42 このような懸念に対し、2008年 1月にジェトロ・シカゴセンターが行ったインタビューにおいて、全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)のトールマン CEOは、単収の増加などから 2015年において 150億ブッシェルのトウモロコシ生産は十分可能である上、需要は飼料向け 58億ブッシェル、エタノールを含む産業向け 69億ブッシェル、輸出向け 23.7億ブッシェルとなるという見通しを示し、期末在庫を含めれば、日本向けの輸出を含めたこれらの需要は十分賄うことができると述べている。

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    品目  上昇率全体 4.1%食品・飲料 4.8%食品 4.9%卵 32.6%牛乳 19.3%チーズ 13.0%パン 10.5%鶏肉 6.3%果実・野菜 5.9%シリアル・ベーカリー 5.4%牛肉 5.0%豚肉 1.4%(参考)トウモロコシの農家受取価格 28.9%(出所)米国労働省労働統計局。米国農務省農業統計局

(2006年12月と2007年12月の比較)図III-14 主な品目の過去一年間における消費者物価の上昇率

図III-15 米国のトウモロコシの期末在庫率と農家受取価格の推移

010203040506070

1980/1981 1985/1986 1990/1991 1995/1996 2000/2001 2005/2006 2010/2011 2015/2016

%

00.511.522.533.54 ドル/ブッシェル期末在庫率期末在庫率 (長期見通し)農家受取価格農家受取価格 (長期見通し)

(出所)米国農務省 「World Agricultural Supply and Demand Estimates 2008.1」

ウ セルロース系エタノール技術開発の不透明性 2005年エネルギー政策法は 2013年以降、植物葉・茎、木材チップなどセルロース系エタノールを毎年少なくとも 2.5億ガロン利用することを求めていたが、新エネルギー法ではこれを飛躍的に拡大させ、2022年までに210億ガロンの次世代バイオ燃料の利用を義務付けており、このうち 160億ガロンをセルロース系とすることを義務付けている。しかし、2008年 1月現在、米国内にセルロース系エタノールを商業ベースで生産する工場は存在しない。セルロース

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系エタノール生産を飛躍的に拡大させ、利用義務の達成を図るためには、短期間のうちに糖化・発酵技術、原料作物の作付技術などの基礎・生産技術を確立する必要がある。エネルギー省は、2006年 7月に公表したロードマップ(工程表)において、今後 15年間で研究開発・実証・システム化を実現することとしているが、この進展の加速化が急務となる。エネルギー省(National Renewable Energy Laboratory)、農務省 (National Center for Agriculture

Utilization Reserch)など国の研究機関、各州の大学、Monsantoや Dupontなどの民間企業では、セルロース系原料の糖化・発酵技術の開発・効率化、スイッチグラスなど再生可能燃料の原料作物の栽培技術、効率的なバイオマス収集システムなどの研究が行われている。 また、エネルギー省は、新技術を用いたセルロース系エタノール生産実証施設に対する補助(2007年から 5年間で総額 2億ドル)も行っているほか、既存の技術を活用した商業化を目指す6 つのセルロース系エタノール工場に対して、2007 年から 4 年間で総額 3 億 8,500 万ドルの補助を行っている(図Ⅲ-16)。新エネルギー法においても、引き続き、スイッチグラス(多年生イネ科植物)などをエタノールに転換する先端的研究への投資を拡大することとされている43。 ただし、これらについても、商業ベースでの生産に至るまでには生産コスト、エネルギー含有量、他の作物との作付面積の競合の中での原料確保などの課題は多く、実用化への道のりに関しては不透明感が拭えない。このため、他の再生可能燃料の生産拡大・研究開発も急がれる。主に大豆油を原料とするバイオディーゼルについては、生産が拡大してきているものの、18 億5,000 万ガロンの生産能力に対して 2006 年の生産量は 2 億 2,500 万ガロンに止まっている。これは、米国では欧州などと比べてディーゼルエンジン車の割合が高くないこと、大豆・大豆油の歴史的な価格高騰もありコストが高く価格競争力に乏しいこと、給油所などのインフラが整っていないことなどから、大きな需要の伸びは厳しいものと見込まれており、2007 年 2月の農務省の長期見通しでは、2016/17穀物年度(2016 年 9月~2017 年 8月)のバイオディーゼル生産量は 7 億ガロンとなっていた。しかし、新エネルギー法では、2012 年までに 10 億ガロンのバイオディーゼルの利用を義務付けており、この目標達成に向けても多くの困難に直面することが予想される。

生産量 補助額(万ガロン)(万ドル)Abengoa カンザス トウモロコシの茎、葉、麦わら、スィッチグラス等 1,140 7,600ALICO, Inc フロリダ 植木・街路樹の残材、建設残材、植物残さ等 1,390 3,300BlueFire カリフォルニア 植物性の廃棄物、建設廃材等 1,900 4,000Poet アイオワ トウモロコシの繊維、トウモロコシの芯、茎 12,500 8,000Iogen アイダホ 麦わら、トウモロコシの茎、スィッチグラス、稲わら 1,800 8,000Range ジョージア 残材、木質エネルギー作物 4,000 7,600(出所)米国エネルギー省(EIA)会社名 建設予定州 原料図III-16 米国のセルロース系エタノール工場の例

なお、商務省のレポートによると、セルロース系エタノールを商業ベースに乗せていくためには、エネルギー省の目標である 1ガロン当たり 1 ドル 7 セント、年間当たりの生産量が 195 億ガロンに達すれば、燃料の国内コスト、世界的な原油価格の低下につなげることができるとともに、2020年において原油輸入量を 4.1%、又は、1日当たり 46万ガロン、年間当たり 1億 6,790

43 2008年 1月 7日に米国科学アカデミー(National Academy of of Sciences)が発表したネブラスカ・リンカーン大学の研究(5年間、ネブラスカ、ノースダコタ、サウスダコタの 10農家を対象)スイッチグラスを原料とするエタノールのエネルギー・ゲイン(energy gain :原料栽培、精製の過程で消費されるエネルギーと供給されるエネルギーを比較したもの)が 540%に達する(供給されるエネルギーが 5倍以上)とする一方、トウモロコシを原料とするエタノールは 130~140%とされている。また、スイッチグラスを原料とするエタノールの温室効果ガスの排出量は、ガソリンよりも 94%低いとされており、スイッチグラスの将来性、可能性に期待が寄せられている。ただし、工場への運搬コストなど課題も多い。

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万バレル削減する効果があるとされている。これらはいずれも、セルロース系エタノールの生産コストをどこまで下げられるかにかかっているが、仮に、エネルギー省の目標に届かなかった場合でも関連産業から生じる経済効果は大きいという楽観的な見方もある。

エ E85の需要の伸び悩み E85はエタノール業界などからの期待が大きく、政策的後押しを受けているものの、これまでのところ大きな消費の伸びは見られない。この要因の一つには、まず、E 85 の給油所の数が少ないことが挙げられる。2008年 1月現在、E85の給油所数は全国で 1,348ヶ所となっており、給油所全体のわずか 0.8%に過ぎない。背景には、石油ビジネスを優先し、エタノール消費量の急激な拡大には慎重である大手石油会社や専用タンクや給油機の設置に要する投資(2万~20万ドル)を躊躇する中小・零細企業である給油所経営者の消極的姿勢が指摘されている。給油所の数のほか、地域的な偏在も全体の消費の底上げを阻害している。地域別の給油所の所在を見ると、イリノイが 162、ミネソタが 322など中西部 12州で全体の 77.4%を占める一方、25 万台以上のフレックス燃料車が存在しているカリフォルニアに 6 ヶ所しか給油所がないほか、ニューヨーク州で 8 ヶ所、ワシントン D.C.で 7 ヶ所となっており、マサチューセッツ、ニュージャージーなど 8 州には給油所が存在しない。また、米国における E85 対応のフレックス燃料対応車(FFV)は約 600万台と言われており、総自動車台数 2億 4,000万台のうちの約 3%に止まっているほか、自分の所有車がフレックス対応車であるかどうか、また、E 85の給油所がどこにあるかなどを認識していない消費者が多いなど消費者の理解も進んでいない。エタノールをガソリンと混合し、販売・利用するのは石油業界・自動車業界、消費者であり、いわゆる川下の理解の促進が求められる。 さらに、E 85 は、一般的にレギュラーガソリンに比べて安価であるが、エネルギー含有量が小さいため、1ガロン当たりの走行距離が短くなるという燃費効率に関する課題も浮上している。 このような中、新エネルギー法では E85 対応車の最適化に関する研究への助成措置を盛り込んだほか、ミズーリでは 2008年 1月からの E10導入の義務付けに加え、さらなるエタノール消費の増加、フレックス燃料対応車(FFV)の販売促進のため、給油所など E85供給対応に必要な施設整備のための優遇税制措置(200万ドル)、E 85購入者に対する年間 500ドルの税制控除措置、ハイブリッド車・再生可能燃料対応車の購入者に対する 10%又は 1,500 ドルの所得税控除措置などを講じる方針を明らかにしている。

オ 自動車燃料のエタノール濃度とフレックス燃料対応車(FFV)の増加の遅れ 現在、米国において比較的広く利用されているのは E10であるが、E 85はもとより、E 10についても全ての州で利用されている訳ではなく、一部の州に限定されている。現在、米国のガソリン消費量は年間約 1,400 億ガロンであり、仮に E10 が完全に導入されたとしてもエタノールの年間消費量は 140億ガロンに止まる。このため、新エネルギー法に盛り込まれた再生可能燃料の使用量の義務付けに基づくと、2022年までには少なくとも 15~20%、あるいはそれ以上のエタノール濃度(E25、E 30など)の導入が必要となる。E10 までは現状でも多くの自動車が対応可能であるが、それ以上になると自動車の改造が必要となるため、現在、公道を走っている自動車への適用可否確認などの技術的な課題も浮上する。 エネルギー省は、代替燃料車に利用される基礎技術として、プラグイン・ハイブリッド電気自動車用バッテリ技術開発に 1,400 万ドル、E85 対応エンジンの効率改善技術開発に 300 万ドルの資金を拠出することを発表した。また、米国の自動車業界、デトロイト 3 も、ダイムラークライスラーが 2007年に 6車種を導入しフレックス燃料車 24車種、GMが同じく 2007年に9車種を導入しフレックス燃料車 16車種、フォードは 2007年に 4.6~5.4ℓの大型エンジン車

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を商品化してフレックス燃料車 13種とするなど、2012年までに 3社の年間生産車数の約半数を再生可能燃料車又はバイオディーゼル対応車とする考えを表明している。しかし、エでも述べたように、現時点において、フレックス燃料車の普及率は全体の約 3%に過ぎず、消費者の認知度も低いほか、代替燃料車の基礎技術の多くはまだ研究開発段階であることから、その普及までの道のりは遠く、険しいものとなっている。

カ インフラの未整備 工場で生産されたエタノールは、石油会社系ターミナル又は独立系ブレンダーによってガソリンに混合・添加され、給油所に輸送される。米国においては、エタノール工場、E85の給油所ともに、原料となるトウモロコシの産地である中西部に多く存在している一方、ガソリンの大消費地はここから遠く離れた東西海岸であるため、今後のエタノールの利用拡大のためには、エタノール工場とブレンダー、特に石油会社系ターミナルとのミスマッチを解消し、大消費地まで効率的な輸送をすることが重要となってくる。現在の輸送手段は、約 60%が鉄道、約 30%がトラック、約 10%が河川(barge)となっているが、長距離輸送するタンクローリーの数が不足しているなど輸送能力不足が深刻となっており、今後、エタノール輸送能力を大きく増強し、効率的に給油所へ輸送するに当たっては、石油、ガソリンと同様、パイプラインを用いることが必要になってくると考えられる。しかし、現在、石油、ガソリンの輸送に用いられているパイプラインは、エタノールの属性から腐食などの問題が発生するため、併用することができない。このため、エタノール専用のパイプラインを敷設しなければならないが、これには巨額の費用と 10年単位の建設期間が必要となってくる。 また、2007/2008穀物年度のトウモロコシの生産量は史上最高となることが予測されているが、生産現場でのトウモロコシの保管場所の確保や簡易保管施設での災害防除、品質劣化の対策の必要性が指摘されているほか、関係者の間ではエタノール工場の建設適地(水や原料の調達、エタノール輸送の利便性など)の減少や州政府による土地利用許可の厳格化なども指摘されている。さらに、エタノールを受け入れるブレンダー側でも、限界に達していると言われている処理能力を拡充するため、エタノールの油槽所の専用タンクを拡充していくことなどが必要になるが、この際にも土地利用の制約や建築許可期間の長期化などの課題が生じている。

キ 環境への悪影響 エタノール生産の増加に伴う効果として、多くの関係者から、食料価格の上昇とともに、環境への影響の懸念が示されている。その内容は、極めて広範囲かつ多数に上るが、いくつか例を挙げると、まず、水の大量消費に関するものがある。エタノール生産の過程では、原料のトウモロコシの栽培、エタノールの製造、残さの処理などで大量の水を使用するが、小規模なエタノール工場でも、その使用量は人口 1万人規模の町に匹敵すると言われている。米国国家研究評議会(NRS:National Research Council)は、今後の 5~10年で大きな変化が生じる可能性は低いとしながらも、過去 60年でテキサスからワイオミングまでの帯水層(aquifer)が 100フィート以上沈下しており、このままエタノール工場が増加し、現在の水の消費が続けられれば、さらに沈下が進むなど人間の生活のほか、動植物の生息にも深刻な影響をもたらす可能性あると警鐘を鳴らしている。また、トウモロコシの生産を増加させる過程では、作付面積の拡大に伴って肥料も大量に投入する必要があるが、中西部のコーンベルトからミシシッピ川を経由してメキシコ湾に流れ込む流出物が同湾の環境を著しく悪化させているとの報告がある。このため、肥料投入規制や緩衝帯の設定などの案も浮上している。さらに、2007 年の中盤以降は、エタノール工場の建設・稼動について、他の迷惑施設(製紙工場、ゴミ処理施設など)と同様、騒音、交通量増加、悪臭、廃棄物排出、大量の水消費などを理由に地元住民からの反対運動が顕在化した。このため、いくつかの工場では、反対訴訟、建設延期、計画撤回を余儀なくされ

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たところも出た。加えて、科学的見地から、トウモロコシの生産からエタノールの製造までの過程(ライフサイクル)を考慮した場合、コスト効率が悪く、必ずしもカーボンニュートラル(排出する二酸化炭素と吸収する二酸化炭素が同量であること)とはならないだけではなく、温室効果ガス削減効果も石油との比較において大差ないとする指摘も多く、原料確保の多角化、環境負荷の少ないエタノール製造技術の開発なども課題となっている44。

ク 税制特例・追加関税の延長の取扱い エタノール 1 ガロン当たり 51 セントのガソリン消費税控除措置(2010 年 12 月まで)、輸入エタノール 1 ガロン当たり 54セントの追加関税(2008 年 12月まで)の延長措置は、新エネルギー法には盛り込まれなかった。これは、優遇税制措置の廃止を含む増税や歳出増加に対して一貫して否定的な立場貫くブッシュ政権からの拒否権を回避するため、他の税制措置と同様に議論の過程で削除されたことによるものである。これらの規定は、農業法の上院案に盛り込まれ、今後、議会での議論、ブッシュ大統領の判断を待つこととなっている45。 課題が山積する中、新エネルギー法が求める 2022年までに 360億ガロンの再生可能燃料基準の達成に向けては、米国内だけでは供給量が確保できない可能性が高く、国外からの再生可能燃料の確保を視野に入れなければならないとの指摘も多い。このような観点からは、優遇税制措置の延長が必要になり、現に、カリブ海諸国などからのエタノール輸入は近年増加している(図Ⅲ-17)46。

図III-17 米国の国別エタノール輸入量2002 2003 2004 2005 2006ブラジル 0.0 14.7 90.3 31.2 433.7コスタリカ 12.0 14.7 25.4 33.4 35.9エルサルバドル 4.5 6.9 5.7 23.7 38.5ジャマイカ 29.0 39.3 36.6 36.3 66.8トリニダード・トバコ 0.0 0.0 0.0 10.0 24.8総合計 45.5 60.9 159.9 135.0 653.3(出所)再生可能燃料協会(RFA)(単位:100万ガロン)

穀物・飼料価格の上昇に苦しむ畜産業界などは、税制特例・追加関税の延長に反対しており、エネルギー省のサミュエル・ボドマン長官も、2008年 1月 29日、「国からの補助や関税に保護されてきたエタノール産業は、次のステップに進むべきであり、独り立ちが可能な時期が近付いている」と述べ、これらを廃止すべきとの考えを示唆した。これに対して、最大のエタノール生産州であるアイオワ選出のグラスリー上院財政委員会野党(共和党)筆頭理事、再生可能燃料協会(RFA)は、即座に、消費税控除措置を廃止するとサトウキビを原料とするブラジルの低コストの

44 米国のトウモロコシとブラジルのサトウキビを原料とするエタノールの比較については、研究の試算値に大きなばらつきがあるが、米国農務省経済調査局、ブラジルの民間企業・コンサルタントなどの報告によると、トウモロコシの方がサトウキビよりも、生産コストで 10~30%強、二酸化炭素排出量でも 7倍以上上回るとされている。2007年 7月、国際エネルギー機関(IEA)のマンディル事務局長は、「現在の技術水準において、コスト効率、温室効果ガスに関する課題に唯一対応しているのは、ブラジルのサトウキビを原料とするエタノールだ」、米国のエタノールに対する補助、トウモロコシを原料とするエタノール生産に対する厳しい見方を示している。 45 ガソリン消費税控除措置は、75億ガロンのエタノール生産量を達成した翌年度から 1ガロン当たり 5セント減額して 46セントとし、10年間で 8億 5,400万ドルの予算措置がなされているほか、輸入エタノールの追加関税は 2010年 12月まで 2年間延長し、2,500万ドルの予算措置を盛り込む内容となっている。 46 カリブ海沿岸イニシアティブ(CBI)に基づき、カリブ海諸国からのエタノール輸入については、これらの国原産の原料を利用する場合は全量無税、域外産の原料を利用する場合でもこれらの国で加工するときは、米国内の消費の 7%まで無税となっている。

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エタノールとの競争に勝てないこと、追加関税を廃止するとブラジルのエタノールにも消費税控除措置効果が及び米国納税者の負担でブラジルのエタノール利用を促進することになってしまうことなどを理由に挙げ、ボドマン長官に反論している。 新エネルギー法の正式名称「Energy Independence and Security Act of 2007」が表すように、 再生可能燃料基準は、世界最大のエネルギー消費国である米国のエネルギーの自給、諸外国からの依存脱却、そして、究極的には消費量抑制を目的とするものである。現実目標と最終目標との間で今後の議論の行方が注目される。

ケ 限定的な DDGS の利用と安全性に対する懸念 米国のエタノール工場の 82%を占めるドライ・ミル方式(トウモロコシをすり潰してスターチ分を取り出し、発酵させる製法)の工場では、 DDGS(Distiller’s Dried Grains with Solubles) と呼ばれるエタノール生産の副産物が生産される。DDGSは、トウモロコシなど穀物由来の飼料の代替として、エネルギー投入や輸送コストの削減、生産者にとっての新たな市場の創出に寄与することが期待されている。再生可能燃料協会(RFA)によると、エタノール生産の増加に伴い、2003年に約 580万トンであった生産量は 2006年には 2倍以上の約 1,200万トンに達している。また、2005年エネルギー政策法に基づく再生可能燃料基準(RFS、2012年までに 75億ガロンの使用量義務付け)の下では、2012年までに 2,000万トンに達するものと見込まれていたが、新エネルギー法の成立によって、さらにその生産量が加速化することとなる。しかし、今後の利用拡大に向けて、現状ではいくつかの課題が指摘されている。

まず、DDGS は、繊維質が多いため、給餌対象、用途が限定されてしまうことが挙げられる、現状、反すう動物である牛は問題ないとされているが、胃が単一である豚、鶏への給餌は増えていない。再生可能燃料協会(RFA)が公表している Commodity Specialists Co.の統計によると、2006年の畜種別の給餌割合は、牛 88%(酪農牛 46%、肉用牛 42%)、豚 9%、鶏 3%となっている。今後は、鶏、豚への給餌技術の開発と知見の収集のほか、肥料、包装資材、食料用など飼料向け以外への需要拡大が課題とされている。需要拡大という点に関しては、海外市場の開拓も課題である。主な輸出先は、ヨーロッパ、メキシコ、カナダ、台湾などであり、2007 年は日本向けの輸出も大きく増加したが、輸出向けの割合は需要の 1割程度しかなく、現在は大半が国内向けとなっている。 また、流通過程における品質の標準化も大きな課題となっている。DDGSは、湿度、たんぱく質、脂肪、繊維質、必須アミノ酸の一種であるリジンの含有量など、生産される工場によって品質にばらつきがあるほか、粉状が多い形状、品質保持期間にも課題を抱えている。生産者、市場関係者、栄養関係者による円滑な取引を通じ、実需サイドである畜産農家が安定的に利用するためには、一定の品質のものが必要であるが、現状では標準化は進んでいない。特に、大きなロットを必要とする大規模畜産農家や企業経営の場合には、品質の標準化が一層重要となってくる。DDGS の供給サイドである再生可能燃料協会(RFA)や全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)などは、標準規格の欠如による混乱の回避、DDGS市場のさらなる構築に向け、標準規格の統一を求めており、調査・分析に基づくガイドラインを公表するなどしている(2007 年 2 月)47。しかし、全米穀物飼料協会(NGFA)は、農務省に対して、DDGSの流通は、現行の規制と団体が自主的に設定している独自の規格との組み合わせで十分であり、現時点で新たな規格の設定や規制の強化は、技術革新の妨げになるとして強い反対を申し入れている(2008年 1月)。 さらに、エタノールと同様、輸送上の課題がある。現在、エタノール工場は中西部のコーンベ

47 再生可能燃料協会(RFA) http://www.ethanolrfa.org/industry/resources/coproducts/documents/ddgs_final_report_and_recommendations2-07.pdf 参照。

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ルト地帯に集中していることから、DDGSの生産もこの地域に集中しており、近郊の農場では比較的早くから DDGSの利用が進んできた。しかし、DDGSの利用を全国に拡大し、さらなる需要の拡大を図るためには、入手が困難であることを理由として利用に至っていない畜産農家への供給ルートを確立し、中西部から畜産の盛んな南部、西部への輸送の円滑化を図ることが重要となる。DDGSは輸送中に乾燥して固まってしまうという特性があるため、輸送時間を要するバージではなく、陸路(専用貨車の確保など)の輸送施設を整備する必要がある。抜本的には、エタノール工場と畜産農家との距離を縮めることが解決策となるが、今後の新規工場建設に当たっては、エタノールのみならず、DDGSの輸送を考慮した立地の検討が必要となってくるものと考えられる。

加えて、DDGSの安全性に関する問題が注目を集めつつある。

2007年は、大腸菌O157に感染したことが疑われる牛肉の回収騒動が相次ぎ、その数量は 3,340万ポンドに達した。これは 2006 年の 18 万 1,900 ポンドを大きく上回るほか、これまで最高であった 1997年の 2,560万ポンドをも上回る史上最高のものであった。このような中、カンザス州立大など2つの大学の研究により、エタノールの増産に伴う DDGS の増産、家畜への給餌が大腸菌 O157 の増加、蓄積につながっている可能性が指摘されている。これを受け、農務省は、ネブラスカにある畜産技術センターにおいて、その因果関係について本格的な調査研究を行っており、2008 年末までに結論を出すこととなっている。農務省のリチャード・レイモンド氏は、DDGSの増産、家畜への給餌の増加が、大腸菌 O157の増加に関する複数の要素の 1つであるとの考えを示しているが、農務省の調査研究の結果によっては、今後の需要に大きな影響が生じる可能性もある。

(4)今後の見通し

2007 年のエタノール市場は、需要の伸び悩みによって供給過剰傾向が顕著となり、エタノール価格は大きく下落した。一方で、トウモロコシ価格は高止まりが続いたため、エタノール工場の採算性が悪化し、ブッシュ政権や議会の後押し、国民の支持などによって急速な展開を見せてきたエタノールを巡る状況には一時悲観的な見方が広がり、有力紙をはじめとするメディアでもエタノール批判が連日のように報道されるという状況に至った。

しかし、大きく下落したエタノール価格は 2007年 10月以降、急反発を見せている。これは、当面、原油価格が高止まりすることが予測されているほか、南東部各州における規制緩和の動きがあり、エタノール需要が拡大に向かっていることによるものと見られている。また、新エネルギー法の成立による再生可能燃料基準の拡大に止まらず、民主党の一部議員の間には、新エネルギー法の議論の過程において要望しつつも最終的には同法に盛り込まれなかった措置(石油・ガス業界への優遇税制措置の廃止、電力業界への再生可能燃料由来の電力生産割合の増加義務など)を追加的に制度上位置付けることを求める動きも見られる。そして、これらの議員は、再生可能燃料の利用拡大をはじめとするエネルギー政策にかかる議論を継続させ、2008 年の早い段階で新たな結論を出したいという貪欲な姿勢を示している。ブッシュ大統領も、2008年 1月 28日に行われた自身最後の一般教書演説において、新エネルギー法の成立について議会に対する謝意とともに、次のステップに進むため、「温室効果ガス排出を抑制しながらエネルギーを生産する新技術への投資が必要である。また、温室効果ガス排出ガスのない再生可能燃料及び原子力発電の生産・使用を増加させる。自動車の燃料として使用できる高性能バッテリーと再生可能燃料の開発のため、今後も持続的な投資が必要である。」と述べ、代替エネルギーの使用を増加させるほか、将来における自動車向けの代替エネルギーへの投資を促進することを改めて表明した。このような政治的後押しも弱まる気配はない。

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これらの動きから、2008 年以降、エタノール価格は再び持ち直し、エタノールの生産・利用はさらに進むものと見られている。 しかし、現在のエタノール市場は、政策主導で形成されている側面が強く、優遇措置への依存度が高い。税制特例・追加関税の延長の取扱いも不透明である中、新エネルギー法に基づく再生可能燃料基準の使用義務の履行に向けては、エタノール原料となるトウモロコシの確保、供給過剰構造の改善など、残されている課題は依然として大きい。これらの課題は、一朝一夕に解消され得るものではなく、また、トウモロコシ価格の高止まりが当面継続し、エタノール工場の採算性が劇的に好転するという状況にもないことから、2007 年に見られた業界の再編統合の動きが2008 年以降も継続するものと見込まれている。さらに、野心的な新エネルギー法に基づく再生可能燃料基準については、インフラ整備などを通じた需要拡大に関する調査(studies)のほか、適用免除(waiver)に関する規定が盛り込まれており、関係者からは早くもこの規定が適用される可能性も指摘されている。

① 原油価格の高止まりと新規工場の稼動開始による需要の拡大

2008 年 1月 8日にエネルギー省エネルギー情報局(EIA)が発表した「短期エネルギー見通し」(「Short-term Energy Outlook」)によると、原油価格は 2008年 1月の平均が1バレル当たり平均 94ドル、2008年の年平均が同 87ドルと見込まれている。2009年の年平均は、増産によって需給逼迫がやや緩和されるものの、同 82 ドルと依然として高止まりするとの見通しである。 また、2008年の年平均は、レギュラーガソリンが 1ガロン当たり 3ドル 14セント、ディーゼル燃料が同 3ドル 29セント、ヒーティング・オイルが同 3ドル 19セントと見込まれている。2009年の年平均は、レギュラーガソリンが 1ガロン当たり 3ドル 3セント、ディーゼル燃料が同 3 ドル 15セント、ヒーティング・オイルが同 3 ドル 1セントとなるものと見込まれている。 このような状況の中、エタノール生産能力の増加は最盛期を迎えている。現在、建設中のエタノール工場の多くが 2008 年第 1 四半期までの間に稼動を開始する予定であるが、これらの生産能力の増加は 2009年末までに予定されている生産能力の増加分の約 1/2を占める。 このため、2007 年は急激な生産の拡大によって供給過剰とエタノール市場であるが、原油価格の高止まり、新エネルギー法に基づく再生可能燃料基準の拡大による需要の増加が予測されることから、需給は相対的には改善に向かい、エタノール価格も軟調基調を脱して中長期的には堅調に推移するとの見通しが有力となっている。

② 規制緩和による市場の拡大 ガソリンへのエタノールをはじめとする再生可能燃料の混合を義務付け、その利用拡大を図っている州があることは既に述べたが、これまでほとんど混合されてこなかった南東部各州において規制緩和が行われ、エタノール市場が拡大することが見込まれている。 夏場に気温が上昇する南東部各州では、ガソリンを混合する際の蒸気圧によるエタノールの発散などの問題から、ガソリンの品質基準が比較的厳格に定められていたほか、エタノール工場から遠距離にあることなども阻害要因となり、エタノール混合率が低くなっていた。インフラの未整備をはじめ、輸送には依然として課題は残るものの、最近になって、フロリダなど南東部各州において規制緩和の動きが出てきており、フロリダ、ジョージア、ノースカロライナ、テネシーなどにおいてガソリンの品質基準が緩和され、E10の導入が進む目途が立ちつつある。また、これまで混合率が 6%に止まっていたカリフォルニアでも E10の導入に向けた動きが出始めているなどエタノールの利用に関する州政府の取組みが全国に広がり、エタノール市場がさらに拡大することが見込まれている。

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③ エタノール業界の再編統合 現在のエタノール工場は、株式を上場しているポエット(POET、2007 年 3 月 に Broinから社名変更)、ADM(Archer Daniels Midland)、ベラサン・エナジー(VeraSun Energy

Corporation)、USバイオエナジー(US Bioenergy Corporation)などエタノール生産のみならず、工場の企画・建設、副産物の流通・販売までを手がける総合的な大手エタノール企業が経営するもののほか、カーギル社(Cargill,Inc.)(非上場企業)など穀物メジャーが経営するものがある。再生可能燃料協会(RFA)によると、2008年 1月現在、米国全体のエタノール生産能力(稼働中)は年間 78億 8,840万ガロンとなっているが、この内訳としては、ポエットが12億 800万ガロン、ADMが 10億 7,000万ガロン、ベラサン・エナジーが 5億 6,000万ガロン、USバイオエネジー3億 1,000万ガロンとなっており、4社で 31億 4,800万ガロンと米国全体の生産能力の約 40%を占めるに至っている。しかし、工場単位で見ると、その多くは中小企業や農家などが出資する中小規模のものであり、農家などが出資する小規模工場を含む中小規模の工場のエタノール生産能力は米国全体の生産能力の約 1/3を占める。これらは、地域での経営展開を中心とするものとなっており、必ずしも独自の流通網を持っているものばかりではなく、大手エタノール企業や他の流通業者にエタノールの流通・販売を委託しているケースも多い。 このような業界構造の中、エタノール価格が大きく下落し、供給過剰傾向が顕著となった2007 年は大手エタノール企業による業界再編のほか、他業種との連携や海外での事業展開の動きが見られた。 業界再編に関しては、2007 年 11月 29日に、ベラサン・エナジーが USバイオエナジーを買収して合併することを発表した。買収総額は発表時の終値ベースで約 6億 8,600万ドル相当となっており、2008年第 1四半期中の手続完了を目指している。合併後の生産能力(稼動中)は合計 8億 7,000万ガロンとなり、ポエット、ADMに匹敵する規模になる。 また、他業種との連携に関しては、ベラサン・エナジーが、北米最大のレンタカー企業であるエンタープライズ・レンタカーと連携して、E85の販売とフレックス燃料対応車(FFV)の配備をマッチングさせ、E85の利用拡大を図ることや、小売大手のクローガーと連携して、コンビニエンスストアに併設されているガソリンスタンドで E85 を販売することを発表したほか、セルロース系エタノールの生産で独自技術を有するベンチャー企業サンエタノール(マサチューセッツ州)に資本参加することを発表した。さらに、ポエットやカーギルが、工場の稼動開始や生産能力の増加などを発表したほか、ADM がブラジルのサトウキビを原料とするエタノール生産への進出やブラジルのエタノール企業の買収を検討していることなどが報じられた。このような大手企業による積極的な買収、事業展開などの一方で、採算性の悪化した中小規模の工場では稼動停止、建設の中止・延期に追い込まれるものも少なくなかった。

2008/2009穀物年度におけるトウモロコシの作付面積の公式予測は、2008年 2月 21・22日の農務省の発表(Agricultural Outlook Forum 2008;農業観測フォーラム 2008)によって明らかにされるが、複数の民間調査機関やエコノミストなどは、記録的な価格高騰が続く大豆への再シフト、投入コストの増加などによって、2007/2008穀物年度の作付面積 9,360万エーカーよりも約 4~7%減少して 8,700~9,000万エーカーとなるものと予測している。一方、国内外での需要は堅調であることから、需給の逼迫傾向が続き、トウモロコシの価格は高止まりが続くものとの見方が有力である。また、改善に向かうと見られてはいるものの、潜在的な供給過剰傾向を一気に解消するまでには至らないほか、ブラジルをはじめ中南米・カリブ海諸国産エタノールの輸入も増加している。このため、最も厳しい時期は

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過ぎたものの、今後のエタノール工場の採算性には依然として厳しい見方も多い。パデュー大学による調査では、現在の米国におけるエタノール処理能力は 120 億ガロンが限界である一方、現在、建設・拡張中のエタノール工場が全て稼動を開始した場合の生産能力は130億ガロンを超えることから、再度エタノール価格の低下、エタノール工場の生産縮小・稼動停止、また、国外市場への輸出を余儀なくされる可能性があることを予測している。 このようなことから、エタノール資産は買い手市場となり、企業の寡占化によって、原料生産からエタノール製造・流通までの垂直統合の動きが進んでいくものと見られている。また、農家などが出資する小規模工場が大手企業の傘下に入るなど、2008年以降も、大手企業を中心とした業界の再編統合の動きは、緩やかに継続するものと見られている。

④ 新エネルギー法の規定に基づく適用免除(waiver)の適用可能性 野心的な再生可能燃料基準を定めた新エネルギー法であるが、エタノール市場の実態を考慮して、同法には、調査(studies)、適用免除(waiver)などの調整規定が盛り込まれている。 まず、調査に関しては、米国科学アカデミー(National Academy of of Sciences)が、再生可能燃料基準の拡大が、飼料穀物、畜産、食料、林産物、エネルギーに関わるそれぞれの産業や環境に与える影響を調査することを義務付けた(Sec.203)48。

また、適用免除規定に関しては、 ・ 環境保護庁長官(EPA Administrator)に対して、同長官自身、1又は複数の州、エタノール精製業者・ブレンダーは、再生可能燃料基準の使用義務の免除を要請することができる。この後、公告・意見聴取手続を経て、環境保護庁長官が、基準の遵守が著しく経済や環境に悪影響を及ぼすか、また、使用義務基準を充たす再生可能燃料の供給が確保されないと判断した場合は、基準の使用義務が免除される。 ・ セルロース系再生可能燃料の使用義務基準を充たすことができない場合は、当該義務部分を分離して取り扱うことができる。長官は、セルロース系再生可能燃料基準の使用義務の削減を行うとともに、「1ガロン 25セント」又は「米国におけるガソリン 1ガロン当たりの卸売価格を超え、1 ガロン当たり 3 ドルを上限とする価格」のいずれか高い方をセルロース系再生可能燃料クレジットとして販売することができる。(ガソリンが 1ガロン 2ドル 75セント以上の場合は前者、以下の場合は後者の価格で販売することができる)。 ・ 2017年を初年度として、長官は、少なくとも 2年連続で 20%、または、1年で 50%の使用義務の免除を行った場合は、2022 年までの残りの期間における再生可能燃料基準の使用義務の変更を行うことができる。(以上、Sec.202)

などとなっている。

ジェトロ・シカゴセンターが 2008年 1月に行ったインタビューにおいて、全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)、米国石油協会(API)、米国石油化学・精製協会(NPRA)などは、2022年までに次世代バイオ燃料(advanced biofuels) を 210億ガロン、うちセルロース系を 160億ガロンと定めた再生可能燃料基準の使用義務付けを含む新エネルギー法について、現状では不確実な要素が多いことを一様に指摘している。全米トウモロコシ生産者協会は、新エネルギー法の規定に基づく適用免除(waiver)の規定が審議の過程において石油業界の要請で盛り込まれた経緯を明らかにしつつ、この規定が有する意義のほか、適用が現実のものになる可能性が高いことを指摘している。

48 この他、調査に関する規定としては、エタノール専用パイプラインの建設可能性調査(Sec.243)、燃費向上のための E85使用によるフレックス燃料対応車(FFV)の効率性調査(Sec.225)(以上、エネルギー省)、国内産再生可能燃料の鉄道輸送の妥当性調査(Sec.245)(エネルギー省、運輸省)などがある。

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((((参考参考参考参考))))2007200720072007年年年年のののの米国米国米国米国におけるにおけるにおけるにおける食品安全食品安全食品安全食品安全をめぐるをめぐるをめぐるをめぐる動向動向動向動向 2007年は、米国内においても、食品安全に関する問題が相次いで発生し、大きな注目を集めた。 ペットフード、水産物など中国産品をはじめとする輸入品のみならず、食肉など国内産にも問題が拡大したが、致死量の病原性大腸菌 O157に汚染されているものを含め牛肉の回収量は 3,000万ポンド以上に及び、史上最高となった。この中には、2,170 万ポンドという史上最大規模の回収騒動を起こし、その後廃業を余儀なくされたトップスミート社の問題を含む。

ブッシュ大統領は、輸入品対策として、ホワイトハウスに閣僚級から成るタスク・フォース(作業部会)を設置し、対策を取りまとめた。また、上院農業法案には、超党派から成る食品安全委員会を議会に設立し、食品安全の確保に向けた調査の実施のほか、予防を中心とするリスク評価、科学的知見を活用した政策資源の配分の見直しに関する規定も盛り込まれている。これらの背景には、食品安全に間する問題の発生に際して、警告、是正措置の遅れなど農務省(USDA)や食品医薬品局(FDA)の対応の拙さが指摘されたという事実がある。デローロ議員(民主、コネチカット)ら民主党議員を中心とする一部議員は、現在の食品安全を担当する行政組織における人員、データ、管理能力、リスク特定の技術力などの不足・欠如、また、日常の検査体制の甘さや繰り返しの法令違反への対応マニュアルの未整備などへの批判を強めており、組織再編も含めた議論につながっている。

また、中国との関係においては、米中両政府間において、2007年 12月に食品などの安全性に関する覚書に調印した。この覚書は、中国政府が対米輸出業者の登録制度を導入するほか、食品関係で健康被害が発生した場合には 48 時間以内に米国側へ通報することを義務付けることなどを柱としている。このほか、中国側は、米国検査官の受入・駐在、生産から輸出までのトレーサビリティ電算システムの開発なども承諾しており、今後、作業部会で具体的な実行計画が策定されることとなっている。高まる中国産品の安全性への懸念から、米国政府は、覚書を遵守しなかった場合は、輸入停止など厳しい姿勢で臨むことを明らかにしている。

2008年の大統領・議会選挙を控え、民主党候補には保護主義の色彩が濃い主張も見受けられる中、自由貿易の推進との関係も含め、食品安全に関する今後の議論が改めて注目される。

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<コラム3>中国産品の安全性に対する懸念と米国政府の対応(2007 年 7月)

2007 年 3月に米国において発生した中国産原料に由来するペットフードの回収事件は、日本でも大きく報道され、世界中の注目・関心を集めたが、中国産品の安全性に関する問題はこれに止まらず、それ以降も発生し、対象も数多くの産品に及んでいる。ブッシュ政権は、高まる国内世論に応え、輸入食品及びその他の製品の安全性を確保することを目的として、閣僚級から成るハイレベルのタスク・フォースを立ち上げた。

<米国内における主な発生事件と FDA の対応>

2007 年 3月、ペットフードを食べた犬や猫が相次いで死亡する事故が発生したため、食品医薬品局(FDA)が調査したところ、原料として使用された中国産小麦グルテンから、メラニンが検出された。これを受け、FDA は、中国産の小麦製品に輸入時検査を課し、その安全性が確認されない場合には輸入を差し止めることとした。 また、2007 年 6月には、毒性物質であるジエチレングリコール(DEG)が混入した中国製練り歯磨き粉の輸入販売を FDA が確認した。当初、この販売は、ディスカウントストアにおいてのみ行われているとされていたが、後に病院(精神科)、刑務所等での使用が明らかになった。現在のところ被害は報告されておらず、また、歯磨き粉は体内に摂取するものではないが、DEG は肝臓や腎臓障害を引き起こすものであり、小児等が誤飲する懸念もあることから、FDA は、当該歯磨き粉の使用禁止・回収を呼びかけ、商品名、メーカーを明らかにするほか、商品の詳細な情報を公表している。 さらに、同じく 6 月には、中国産養殖のウナギ、ナマズ、バサ(ナマズの一種)、ディス(コイの一種)、エビの 5種の水産物について抗菌性物質に着目した輸入規制を強化した。これは、2006 年 10月から 2007月 5月までに行われた検査において、米国内で使用が禁止されている抗菌性物質 4種(ニトロフラン、マラカイト・グリーン、ゲンチアン・バイオレット、フルオロキノロン)により中国産養殖水産物が汚染されていた事実が繰り返し発見されたことによるものである。検出された薬剤の残留量は極めて微量であり、摂取することによって直ちに被害が発生するものではないことから、FDAは回収・廃棄を求めてはいないが、長期的な摂取への懸念もあることから、歯磨き粉と同様、詳細な情報を公表している。(一部には、5種の養殖水産物について「輸入禁止」という報道もあるが、抗菌性物質 4種がいずれも存在しないこと等が証明されれば、輸入は認められる。) なお、これら以外にも、スナック菓子等の食品のほか、機関車の玩具、タイヤ、調理玩具、芝刈り機、コーヒーメーカー等中国産品に対するリコール報道が相次いでいる。 ただし、これらの動きは、今に始まったものではなく、中国産養殖水産物については 2001 年から使用が禁止されている物質への警告が発せられていた経緯があるほか、中国産品に対するリコールはこれまでにも多くの事例があり、ここへ来て急増している訳ではない。 消費者製品安全委員会(CPSC)が公表している近年の中国のリコール件数は、年間数 100 件にも達しているほか、有害物質が発見され輸入が差し止められた輸入水産物の件数も既に 2006 年において中国が他国を引き離して圧倒的に多かった。ペットである犬、猫が大量死するというショッキングな事件を契機に、食品や他の製造品の安全性への関心が高まったという状況である。

<閣僚級から成るタスク・フォースの立ち上げ> このような状況を踏まえ、ブッシュ政権は、行政命令により、2007 年 7月 18日に閣僚級から成るタスク・フォースを立ち上げ、議長には保健社会福祉省(HHS)のマイケル・リービット長官が就任した。タスク・フォースは、輸入製品の安全性を求める世の中のニーズに対応し、60日以内に骨格となる戦略をブッシュ大統領に報告するほか、6 ヶ月かけて、現在の国内の制度・手続等が安全性に問

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題のある輸入食品その他の製品から消費者を守るのに十分であるかどうか検討することとしている。声明の中でブッシュ大統領は、食品を含む製品の安全性の確保は極めて重要な問題であり、消費者の信頼を確かなものにするために取組みを継続する強い意思を示した上で、議論の対象は輸入に関する制度・手続のみならず、食品その他の製品の安全性に関わる国内の制度・手続のほか、米国の求める高い基準を他国、輸入業者が遵守状況も確認していきたい等とする声明を発表した。なお、ホワイト・ハウスは、現在、150 を超える国から食品を輸入している現状を説明した上で、タスク・フォースの立ち上げは中国のみを対象にしたものではないとしている。 このブッシュ大統領の声明は、議会でのヒアリングと同日に発表されたが、議会での議論も活発化している。 2007 年 7月 17、18日には上院、下院でこの問題についての公聴会が行われたが、下院エネルギー商業委員会のジョン・ディンゲル議長(民主党、ミシガン州)は、FDA にさらなる政策資源と権限を与え、米国内に輸入される食品・医薬の水際での検査を厳しくすることを内容とする法案を提出するとしているほか、他の民主党議員も輸入業者から費用徴収し、これを FDA の検査費用に充てること、全ての輸入食品に輸入国政府の安全確認証を求めること等を内容とする法案を提出している。共和党も一連の事件に対する対応の必要性という点で認識を共有しており、今国会で 2党間の合意により食品安全に関する法案が成立する可能性がある。 このような議論が行われる背景には、従来から指摘されている FDA の強化に対する問題意識がある。農務省(USDA)が肉類等の食品に関して国外の施設を検査する等の権限を有しているのに対して、FDA は輸入品を監視することができておらず、また、今般、国内にある 13 ヶ所の検査施設を 7ヶ所に削減することとしており、食品の安全性の確保が一層困難になることが危惧されている。FDAは削減しても検査機能は充分であると主張するが、CPSC も世界各国由来の製品を監視すべき自らの機能が現実に照らして十分でないことを認めており、消費者の不安を募らせる一因となっている。先の公聴会でも、多くの出席者が輸入製品に対する FDA の体制に不備がある旨の指摘がなされたことを明らかにされている。 このように、中国製品の安全性をめぐる問題は、中国製品に対する消費者の信頼性の問題だけではなく、製品の安全性の確保に関する米国内の体制が十分であるのかどうか、という議論を惹起している。タスク・フォースでの検討とあわせ、2007 年 7月 31日から、北京において、5日間にわたる米中 2 国間協議が行われる予定となっているが、両国とも中国製品に対して高まる懸念の解消に向けた対応の必要性については認識が一致しており、協議の内容が注目される。

<消費者・食品企業の動き> これら一連の動向に関し、CPSC や消費者団体は、ブッシュ政権が問題解決に向けて積極的に取り組む姿勢を「重要な一歩」として評価する一方で、現在、議論されている法案の内容については、水際での検査が厳しくされることにより、輸入業者のみならず国内業者も負担が大きくなるほか、規制が強化され、負担増となる企業から査察官が給料を受け取るような結果になること等から、輸入業者からの費用徴収については慎重な姿勢を示している。 また、食品企業については、「健康」を旗印にサプリメント食品を提供する企業が、国内由来の原料を用いていることや責任を持ってサプライチェーンを監視していることを宣伝するほか、無添加の有機食品のネット販売を手がける企業が「チャイナ・フリー」の表示を行うこととしたことが話題として報告されている。FDA は、水産物についてはその原産地表示を求めているものの、業界が反対した経緯から、食肉等の食品についてはその表示を任意としていることもあり、政府、消費者、業界が議論を進める中で、大手企業を含め、今後このような動きに追随するグループが出てくるかどうか注視していく必要があろう。

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<コラム4>消費者団体が「食品安全の貿易赤字」と題する報告書を発表(2007 年 8 月) 中国からの輸入食品及びその他の製品の安全性を確保することを目的として、ブッシュ政権は、2007 年 7月 18日に閣僚級から成るハイレベルのタスク・フォースを立ち上げた。また、8月 1日からは、中国当局との実務レベル協議に臨み、さらなる安全性の確保に向けた対策の強化を求め、連携・協力を推進していくことで一致した。 このような中、反グローバリゼーションの立場をとる消費者団体(Public Citizen)は、2007 年 7月25日に「食品安全の貿易赤字」(「TRADE DEFICIT IN FOOD SAFETY」) と題する報告書を発表し、この中で、豊富なデータを示しつつ、さらなる自由貿易体制への移行が輸入食品の安全性に脅威を与えることを強調している。(http://www.citizen.org/documents/FoodSafetyReportFINAL.pdf)

<さらなる自由貿易体制への移行に伴う輸入食品の増加> この報告書は、北米自由協定(NAFTA)、自由貿易協定(FTA)、世界貿易機関(WTO)のラウンド交渉等の結果、輸入食品が増加し続けるとともに、水際での安全対策の不備、協定による制約(検査・衛生要件)により、消費者の食卓に上る食品、特に水産物を原因とする事故の増加の危険性を指摘している。また、ブッシュ政権が議会に承認を求めているペルー、コロンビア、パナマ、韓国との FTAが批准・発効されれば、この危険性はより切迫したものになるとし、グローバリゼーション、さらなる自由貿易体制への移行に警鐘を鳴らしている。 報告書によると、今日の米国の食品輸入額は約 650 億ドルとなっており、1994 年の NAFTA 発効、1995 年の WTO 発足以降の 10 年強で米国の食品輸入は倍増するとともに、米国内で消費する水産物の 80%が輸入品であり、また、1995~2005 年で水産物の輸入は 65%増加するとともに、エビの輸入は 95%も増加している。これらの結果、世界の食料輸出国として知られた米国は、2005 年、初めて食料輸入超過国になり、3 億 7,000 万ドルの食品に係る貿易赤字を記録するに至った。

<検査体制の不備> また、報告書によると、食品医薬品局(FDA)は、現在でも輸入野菜、果物、水産物、穀物、乳製品、飼料のうち 0.6%、2006 年における輸入水産物については 1.93%しか検査を実施しておらず、85万 9,357 あった入荷船による水産物輸入のうち安全性が確保されていないとして拒絶したものはわずか 0.16%に過ぎない。(農務省(USDA)も、その所管物資である輸入肉類(牛、豚、鶏)の 11%を検査したのみである(2007 年1~6月)。 検査を受けないものは、スーパーマーケットの棚から食卓へ並ぶこととなるが、疾病管理予防センター(CDCP)によると、2006 年に食品に由来する疾病が 1 万 7,252 件発生しているが、このうち 6,655件はエビや他の水産物に関連の深いサルモネラ菌を原因とするものであり、水産物に関連の深いビブリオ菌への感染による下痢は、1996~2006 年において 78%増加している。さらに、報告書は、科学的検査によらず、色彩、臭い等の感覚検査による現状についても、欧州と比較しつつ極めて脆弱であるとし、食品の安全性を確保するため、水際の検査官の確保、検査体制・組織の充実・強化を強く求めている。

<FTA 等に与える影響> 現在、ブッシュ政権は、ペルー、コロンビア、パナマ、韓国との FTA について、議会の承認を求めている。これが批准・発効されれば、当然のごとくこれらの国々からの食品の輸入は増加するものと考えられる。特に、報告書の中でも再三に亘って問題視されている水産物について、ペルー、パナマ、コロンビアの 3 カ国は、エビの米国市場への輸出上位 20 カ国に名を連ねているほか、パナマの輸出

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の半分が水産物であること、ペルーが中国に次ぐ世界第 2 位の漁業生産高を誇ること等を考えれば、その可能性は極めて高く、現実のものになると考えられる。 しかし、NPO の「Food & water Watch」が、FDA から入手したデータによると、1997~2006 年にかけて、パナマは 207、ペルーは 182 の入荷船による水産物輸入が、不潔、粗悪品・毒物・病原菌混入、偽装表示等を理由に拒絶されたことが明らかにされている。(件数のみで、金額、数量については明らかにされず。)また、FDA は、水産物以外についても、輸入野菜への違法残留農薬が国産野菜の 3倍以上の比率であることを示しつつ、ペルーについては、野菜・果実への違法残留農薬、未承認薬剤・危険な着色添加物の使用等も報告されている。 Public Citizen は、これらの事態を重視し、今後、ブッシュ政権が進める FTA に関しては、食品の安全性に関する条項を設け、これが盛り込まれない場合、議会は承認すべきではないとしている。これは、現在進められている FTA が、非関税障壁を撤廃するという観点から、検査・衛生要件に制限を課しており、輸入国である米国ではなく輸出国の要件、体制に依拠せざるを得ない一方で、輸出国の要件・体制が極めて脆弱であるという問題意識に基づくものである。これに留まらず、Public Citizen は、NAFTA によって、カナダの牛肉生産者が米国による BSE 発生に伴う輸入停止に対して、2 億 3,500万ドルの補償を求めていることを引き合いに出し、FTA の批准・発効によって、輸出国の食品輸出業者(ペルー2,296、コロンビア 2,826、パナマ 575、韓国 4,800)は、米国の食品検査・衛生要件に対する攻撃を開始するだろうとしている。 これまで、民主党は、FTA を始めとする通商交渉において、相手国がより緩やかな基準を適用して米国に対して競争上優位な地位を得ることを忌避するため、労働・環境に関する条項を盛り込むことを求めてきたが、今回の報告書はこれらに加えて、食品の安全性に関する条項を追加させようとするものである。現に、ブラウン上院議員(民主党、オハイオ州)はこの報告書に全面的に賛同するとともに、ドーガン上院議員(民主党、ノースダコタ州)と輸入食品の安全性確保に関する法案の提出を検討しているとしている。また、次期大統領の有力候補とされるクリントン上院議員は、大統領候補の中でいち早く食品の安全性の問題に言及し、「FDA、USDA に輸入品を始めとする適切な食品安全プログラムの創設を強く求める」とし、この問題への関心の高さをアピールしている。さらに、ブッシュ政権は、FTA の促進に不可欠なものとして、議会に対し 2007 年 7月 1日に失効した貿易促進権限(TPA)の更新を求めているが、ここでも民主党が、FTA と同様、食品の安全性に関する条項を盛り込むよう要求する可能性も考えられる。

<背景にブッシュ政権と議会の緊張関係も> 食品は、生命・健康の維持・増進に必要不可欠なものであり、その安全性に関する問題は、消費者を始めとする世間の関心も高く、極めて重要な問題である。この点において、Public Citizen の報告書は、綿密な調査に基づく豊富なデータを示しており、読者に対して一定の説得力を持つ。特に、従来から指摘されている FDA や USDA の検査体制の充実・強化は傾聴に値すると言えよう。 一方で、昨年の中間選挙で上院・下院両院ともに多数党となった民主党がブッシュ政権の通商政策、グローバリゼーションに批判的な立場をとっており、イラク戦争への対応等を巡って政権と議会との関係が悪化していること、また、大統領選挙を翌年に控え、ブッシュ政権の「成果」と評される可能性がある政策に対して全面的に賛同しにくいという政治状況を考慮する必要もあろう。WTO のラウンド交渉も順調とは言い難く、FTA や TPA によって民主党、議会として得られるメリットが感じにくいという側面もある。

FTA を始めとする自由貿易体制への移行を強く批判することは保護主義と表裏一体であるため、民主党内にも各国が 2 国間交渉を本格化させる中で、「米国が取り残されてしまうのではないか」という指摘がある。また、ブッシュ政権も自由貿易の恩恵を受け、経済成長を維持していくために FTA は

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極めて重要であるとして強気の姿勢を崩しておらず、「自由貿易が恩恵より負担をもたらしているという見解が強まっている」(ポールソン財務長官)と保護主義の動きを牽制している。 今後、FTA、TPA の議会承認のためには、通商政策、グローバリゼーションに関する議論を通じ、党派的対立を解消し、新たな合意形成が必要不可欠であるが。この過程においては、自由貿易主義か、保護貿易主義か、という二者択一ではなく、食品の安全性に係る問題の取扱いを含め、多岐に渡る論点について評価・分析していくことが必要であろう。

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<コラム5>製品の安全性確保に関する中国政府と米国内における動向~両国とも取組強化をアピールも、米国食品業界は冷静な対応~(2007 年 8 月)

2007 年 8月以降も連日のように、中国製品の安全性に関するマスコミの報道が行われているが、中国政府は食品を始めとする製品の安全性確保に関する体制整備、取組強化のアピールに努めている。 一方、米国では、7 月に立ち上げられた閣僚級から成るタスク・フォース(特別作業部会)での検討が進められているほか、民主党議員を中心に輸入検査体制、原産地表示(COOL)の義務化等を求める動きも出てきている。

<中国政府による製品の安全性のアピール>

2007 年 8月 17日、中国政府は「食品品質安全状況」白書を公表するとともに、呉儀副首相を責任者とする「国務院製品品質・食品安全指導小組」を政府内に発足させたことを発表した。 白書は、中国政府が、食品の安全性に関係する多くのデータ・図表を引用しつつ、生産・製造と品質の状況、監督管理・技術サポートシステム、国際協力等の内容を盛り込み、初めて包括的報告を取りまとめたもの。これによると、引用しているデータは学識者の研究成果とほぼ一致しており説得力があるとした上で、食品サンプル検査の平均合格率は、2001 年の 60.3%から 2006 年には 77.9%に上昇するとともに、2007 年上半期は 85.1%に達しているとしている。また、肉類・飲料等主要 9 品目は90%以上、野菜の残留農薬は 93.6%、米国・欧州・日本の基準を充たしている輸出食品は 99%以上等各種データを示している。このように、白書は、中国が発展途上国であり食品の安全性のレベルには先進国と一定の差があることを認めつつも、全体レベルの安定的な向上、状況の改善を強調している。 また、2007 年 8月 22日、中国政府は、米国産の大豆について、殺虫剤、除草剤等が混入する等品質に多くの問題が確認されたため、米国政府に対して原因究明と再発防止に向けた改善策を求めたことを明らかにした。しかし、具体的な出荷や企業を特定していないほか、輸入停止措置についても言及していない。これに対して、米国政府は、中国政府からの公式な訴えはなく、問題が生じた場合の通常の手続が講じられていないとしている。 これらの動きは、2008 年 8月に北京五輪を控え、国際社会から中国製品の安全性に対する懸念が高まる中、中国政府としての体制整備、取組強化をアピールする狙いがあるものと見られている。

<米国内における議員立法の動き> 米国では、ブッシュ大統領の行政命令によって 7月に立ち上げられた閣僚級から成るタスク・フォース(特別作業部会)によって、食品その他の製品の安全性に係る確保対策の検討が進められているが、議長である保健社会福祉省(HHS)のマイケル・リービット長官は 2007 年 9月 17日に大まかなレポートを取りまとめ、同 11 月中旬に詳細な勧告をブッシュ大統領に提出する予定を明らかにしている。 また、2007 年 9月 7日から豪州シドニーで開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)で担当大使を務める国務省のパトリシア・ハスラク氏は、食品の安全性の確保に関する議論が行われる可能性に言及している。 これらの動きについて、従来から、米国政府は中国だけを対象としたものではないとしているが、マイケル・リービット長官は今年中に 2 度中国を訪れ、協議する意向を明らかにしているように、主たる目的が中国製品の安全性の確保に関するものであることは間違いない。 このような中、民主党からは引き続き、この問題に対する立法措置を求める動きがある。エネルギー・商業委員会の議長を務めるジョン・ディンゲル下院議員(民主党、ミシガン州)は、10 年前と比べて食品の輸入が 2倍になっているにも関わらず、食品医薬品局(FDA)の検査率が 1%にも満たない

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ことを指摘しつつ、輸入される食品や医薬品について費用を徴収し、これを検査官、検査施設、サンプル、調査、検査技術の増強等に活用し、危険なものの輸入を防止するとしている。 具体的には、 ・ 原産国表示、色彩に影響を与える一酸化炭素を含む肉類・魚介類の表示の義務化 ・ 特別安全確保ガイドラインを遵守した自主プログラムを策定した輸入企業に対する輸 入促進措置 ・ 輸入・製造事業者に対する罰則の強化(個人 10 万ドル、企業 50 万ドル) ・ 全ての輸入食品に対する類似米国製品と同一基準の遵守 ・ 米国へ輸入される食品に係る外国の施設に対する HHS の認証(全ての米国の基準を充 たすことが必要) 等を内容とし、ジョン・ディンゲル下院議員は夏期休会明けの 9月にこの立法措置を提案したいとしている。このうち、原産国表示は、7月末まで下院で議論されていた 2007 年農業法案においても議論となっており、推進派と反対派による調整の結果、表示の表現方法による妥協により下院を通過した経緯がある。今年に入って行われた消費者団体によるアンケートによると 80~90%が原産国表示に賛成しているとされるが、加工業者、包装出荷業者、流通業者等の反対も依然として強い中、ジョン・ディンゲル法案の行方と併せ、今後上院での議論が注目される。

<食品業界の動き> このような米中両国政府・議会による取組強化のアピールの一方で、米国食品業界は比較的冷静に対応しているように見える。これは、食品(原材料の使用を含む)に起因する健康被害・事故は多くない(7~8 月にかけても消費者製品安全委員会(CPSC)リコールリストに食品はない)こと、6 月に問題となった水産物についても FDA の検査によって安全性が確認されれば摂取可能であること、多くの食品企業は従来からリスク管理を行ってきていること等が理由として考えられる。 ジェトロ・シカゴセンターが行ったインタビューにおいても、食品卸・小売業者は、いずれも大きな影響は出ていないとしているほか、従来から、明確な指示を出した上で中国での生産・製造を行っていること、生産・製造のみならず出荷の段階においても現地へ出向いて確認を行っていること等、直接健康被害につながる可能性のある食品のリスク管理に十分配慮してきていることを述べている。 中国政府自ら認めているように、安全・衛生管理の面において、中国国内の生産・製造体制に問題が多いことやコスト削減を目的とした悪質なケースが含まれていることは事実である。しかし、開発輸入(生産・製造委託)によるケースをはじめ、最終的に消費者に安全な製品を供給する責務は、中国側だけではなく、米国の食品企業を含め各々が等しく責務を有していると言える。比較的冷静に見える米国食品企業の対応は、このことを認識している証であると言えるのではないか。

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<コラム6>輸入製品対策のタスク・フォースが中間報告~具体策は 11月に先送り、業界には規制を求める動きも~(2007 年 9 月) ブッシュ政権は、7月 18日に閣僚級から成るタスク・フォース(特別作業部会)を立ち上げ、輸入食品及びその他の製品の安全性確保を図るための対策を検討している。議長である保健社会福祉省(HHS)のマイケル・リービット長官は、60日以内に骨格となる戦略をブッシュ大統領に報告するとされていたことを受け、9月 10日に中間報告(「Protecting American Every Step of the Way」)を取りまとめ、同大統領に提出した。

<中間報告の概要> リービット長官からブッシュ大統領への書簡から始まるこの中間報告は 6 部構成で全 20 ページから成る(http://www.importsafety.gov/report/index.htm)。 まず、報告書は、国土安全保障省(DHS)、農務省(USDA)、食品医薬品局(FDA)等による輸入品の安全性確保のシステムは、消費者保護の観点から、世界的に見ても最も高い基準に基づくものであるとしつつも、06 年時点で 150ヶ国以上から約 2兆円の製品輸入を行っており、15 年までに 3倍に増加するという予測がある中で、既存のシステムでは対応が困難になっていることを認めている。この上で、現行の水際での抜き打ち検査(snapshot)から製品の輸入から流通・消費、最終消費までを通じたライフサイクルの最適点においてリスクの高い製品を特定、除去する方法(video)に切り替えられるべきことを強調している。 また、これらを実行するための全体の枠組みとして、「継続的な輸入製品の安全性の改善」というビジョン、「製品のライフサイクル全体を通じて重点を介入から予防へ転換」という戦略とともに、初期段階での「予防」、リスクが特定された際の「介入」、リスクが顕在化した際の迅速な「対応」を指針として示している。 さらに、これを具体化するための措置として、米国及び他国の政府関係機関、食品業者、輸入業者等の関係者は、①ビジョンの共有の促進、②説明責任・執行・抑止の強化、③輸入製品の製造から最終消費までのライフサイクルに焦点を合わせたリスク重視、④相互情報交換が可能なコンピューターシステムの構築、⑤輸入関係機関の連携強化、透明性の確保、⑥輸入検査効率向上技術革新・新技術導入の促進を位置付けている。 このようなシステムの転換を図るためには、政府は、官民の情報源からデータを収集した上で、ライフサイクル全体を見渡し、輸入手続の初期の段階でリスクを特定・管理することが必要となるが、これに適応したデータベースは現在開発中であり、2009 年までに実用化される見込みとなっている。 なお、リスクの特定・管理を行おうという発想は新しいものではなく、2002 年に FDA が輸入製品の安全性確保を目的として類似のシステムを提案したことがある。この時点では、財源不足が要因となって構想は棚上げされたが、今年に入ってからの一連の動向を踏まえ、再び当時の構想が浮上してきた格好だ。

<具体策は先送り> タスク・フォースの立ち上げに際しては、ブッシュ大統領が食品を含む製品の安全性の確保は極めて重要な問題であることを強調して幅広い検討課題を挙げたほか、輸入業者からの費用徴収によるFDA機能の強化等の提案について民主党と共和党議員の一部が同調する動きを見せていた。このため、抜本的な改革に向け、踏み込んだ提言が出される可能性も考えられたが、中間報告は、リスクのある輸入製品に焦点を合わせたシステムへの転換を提言しつつ、国際貿易への過重負担の忌避や費用対効果の観点から、消費者に有害である可能性のあるものに幅広く網をかけ、一律に検査を厳格化するこ

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とに関しては否定的な立場をとっている。 また、輸入製品の安全性に関わる組織の拡充、予算措置、特別措置等の具体策への言及はなく、消費者製品安全委員会(CPSC)が所管し、自主回収した製品の販売を禁止していない消費者製品安全法(CPSA)の修正に触れていること等一部を除き抜本的な制度の変さらを求めるものでもない。全般的に総花的・抽象的で分かりにくい印象は否めず、明確なビジョンを示したものとは言い難い。 最終報告は、輸入製品の安全性の改善に向けた取組みを短期的・中長期的なものに分け、これをロード・マップに反映させた「アクション・プラン」として 2007 年 11月中旬に提示される予定であり、タスク・フォースは、今後も官民の関係機関からのヒアリング等を含めた検討を行うことしている。しかし、自由貿易主義、財政再建を錦の御旗にするブッシュ政権の基本スタンスに加え、政権・共和党内には輸入製品の安全性確保の強化を求める民主党議員の一部の主張が保護貿易的発想に依拠したものであることへの反発もある中、どこまで踏み込んだ内容が「アクション・プラン」に盛り込まれるかは不透明となっている。

<規制を求める業界の動きと真意> このような動きの中、2007 年 9月 18日、クラフトフーズ、ネスレ、コカ・コーラ等最大手から家族経営までの企業を会員とし、売上高 2兆 1,000 億ドル、従業員 1,400 万人を数える世界最大の食品団体である食料製造業者協会(GMA)は、官民連携の下での製品検査、外国事業者の確認等食品の安全性を確保するためのシステムの構築、強化を求める提案を公表した。 (http://www.gmabrands.com/news/docs/NewsRelease.cfm?DocID=1772&) この提案は 4 本柱(①外国納入業者品質保証プログラム(義務)、②認定輸入業者食品安全プログラム(任意)、③外国政府キャパシティ・ビルディング、④FDA キャパシティ・ビルディング)から構成されているが、国内外の食品企業、外国政府等に対して FDA の安全基準の遵守を求め、FDA の機能を強化・充実させようとするものである。GMA は、規制モデルの策定に向け、議会、政府機関等へのロビー活動を行っているが、キャル・ドーリー会長は、「強力な FDA を望んでおり、食品に対する消費者の信頼を得る必要がある」と述べている。 水産団体も、水産物の輸入業者に対して政府への事前登録・承認に係る法律の制定とともに、検査官が海外工場を検査できるよう 2 億ドルに上る新年度の FDA 予算を要求するロビー活動を展開している。 健康、安全、環境を目的とした新たな規制を求める動きは、自動車、玩具、花火、タバコ等他の業界にも見られるが、これらの動向は、従来、規制強化に反対の立場をとってきた業界の変節とも言える。背景には、今年に入ってからの輸入食品の安全性に関わる問題を踏まえ、これがエスカレートした場合には消費者の信頼を揺るがし、また、全体の売上げの低下につながりかねないという経営者側の懸念があるものと見られている。すなわち、コストを要し、過度な規制につながるものとして規制緩和を求めてきた結果、安全基準を充たさない安価な輸入製品の増加や過当競争を招き、自らを厳しい立場に追い込んだという考えに基づくものである。 また、来年の大統領・議会選挙を控える中、ブッシュ政権・共和党との対決姿勢を鮮明にし、輸入製品の安全性の問題に強硬な姿勢を示している民主党が勢力を伸ばした場合に備え、先回りして自らにとって負担の少ない規制を求めているという専門家の指摘もある。 <日本の食品業界> 日本の食品業界では、中長期的な国内市場の縮小傾向の中、国際穀物相場の大幅な高騰による原料調達コストや原油価格の高騰に伴う製造・輸送コストの増加に加え、原料の多くを海外に依存し、過当競争に陥り易い等の業界構造等が経営を圧迫している現状の中、自ら規制強化を求める活動を行うことは考えにくい。

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しかし、偽装表示問題やコンプライアンスの欠如に起因し、消費者からの信頼を失うトラブルは後を絶たない。圧倒的大多数の企業が、安全、高品質、低価格という消費者ニーズに対応した懸命の経営努力を続ける中、一部企業が起こした不祥事が世論の規制強化の流れを後押しすることとなってしまう。 消費者と食品業界とのWIN-WINの関係を構築するためには、排他主義、保護主義に陥らずとも、消費者が求める安全で安心な食品(製品)の提供を通じた企業ブランドの維持・向上が肝要であることは日米両国ともに共通であると言えよう。

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<コラム7>史上最大規模の冷凍牛挽肉回収が広げる波紋~次期農業法案、食品安全確保対策の議論への影響~(2007 年 9~10 月) 米国内で流通しているハンバーガー用の冷凍牛挽肉が、病原性大腸菌O157 に感染している恐れがあることが判明し、肉類では米国市場最大規模の回収が進められている。 輸入食品の安全性に関する問題が大きく取り上げられている中、足元からも問題が発生したことにより、2007 年農業法案や閣僚級から成るタスク・フォース(特別作業部会)における食品の安全性確保対策の議論にも波紋を広げている。

<史上最大規模の回収事件の概要> 2007 年 9月 29日、ニュージャージー州エリザベスに本社を置くトップス・ミート社は、ハンバーガー用に出荷した冷凍牛挽肉が病原性大腸菌O157 に感染している恐れがあるとして、2,170 万ポンド(約 9,850 トン)の自主回収を発表した。同社は、これに先立つ同 25日に 33 万 2,000 ポンド(約 150トン)の自主回収を発表していたが、4 日後に「消費者の健康と安全が最優先である」として回収規模を大幅に増大させた。農務省(USDA)によると、コネチカット、フロリダ、インディアナ、メイン、ニュージャージー、ニューヨーク、オハイオ、ペンシルベニアの計 8 州において、これまでに少なくとも 30人の健康被害、10人の入院が確認されている。トップス・ミート社は 1942 年の創業以来、初の自主回収であるとしているが、牛肉に関する過去の事例の中では、1997 年にハドソン・フーズ社が 2,500 万ポンド(約 1 万 1,350 トン)を回収したものに次ぐ規模となっている。 この冷凍牛挽肉は 2006 年 9月から 2007 年 9月までの 1 年間生産され、販売期限は 1 年間とされている。初めて回収が発表された同 9月 25 日から 1 年以内に全ての商品の販売期限又は賞味期限が到来することとなるが、トップス・ミート社、USDAでは、健康被害の拡大防止を図るため、生産中止のほか、包装に記されている商品番号(「EST9748」)の周知、全国約 1,500 の工場の点検、原因究明調査等を行っている。

<USDAの初動の遅れに関する指摘> この回収に関しては、USDAの初動が遅れたとの指摘がある。 これは、シカゴ・トリビューン紙によって明らかにされたが、2007 年 9 月 25 日の自主回収より18日も前にUSDAがトップス・ミート社の冷凍牛挽肉が病原性大腸菌O157 に感染している可能性があることを知りながら、直ちに自主回収を勧告しなかったというものである。 同紙によると、USDA傘下の食品安全検査局(FSIS)の担当官が、2007 年 9月 7日に、ハンバーガーを食べ健康被害を受けたフロリダの 15 歳の少年側弁護士に対し、検査の結果、当該牛挽肉に病原性大腸菌O157 に感染していることをEメールで既に報告していたとしている。USDA高官は、自主回収の勧告を行うためにはさらなる検査や確認の必要性があり、フロリダ州以外にニューヨーク州でも健康被害が 2 件確認されたのが 9月 14 日であったため、これを契機に自主回収の勧告に踏み切ったと反論している。 しかし、健康被害の拡大防止という極めて急を要する対応やリスク・マネジメントの必要性を考慮した場合、仮にトップス・ミート社の主張が事実であったとしても、9 月 14 日~25 日の 11 日間の空白期間に対しては、やはり強い疑問が残る。これに気付いたのか、10 月 4 日になってから、USDAは、初動の遅れ、より迅速な対応が可能であったことを認め、再発防止のための取組みを表明した。 <食品安全行政の一元化等を求める声のさらなる高まり> 輸入食品の安全性確保に関する問題が注目される中、このような回収事件の発生、USDAの対応

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は、民主党議員を中心に、現行の食品安全行政への批判をさらに勢い付かせる結果となっている。 従来から食品安全行政の一元化を主張するダービン上院議員(民主党、イリノイ州)は、食品安全を巡る問題は輸入品のみならず国産品も同様であり、これ以上の混乱は消費者を不安に陥れるとの見解を示しつつ、現行の行政組織は無駄な重複が多く、組織間に隙間が生じて見落しの危険性も高い上、人員・財源も不足し、「破綻」していると断じている。このため、十分な政策資源を付与することを前提に、2年かけて 12に分かれている行政組織を1つに再編したいとする計画を明らかにしている。これによると、初年度は具体的計画案を練り、次年度に新大統領の下でこれを実行に移すとしており、これらの内容を農業法案に反映させたいとしている。 また、ダービン議員と共同で検討を行っているデローロ下院議員(民主党、コネチカット州)は、閣僚級から成るタスク・フォース(特別作業部会)の中間報告(ブッシュ大統領への報告、9 月 25日記事・通商弘報№48958)で示されたリスクの特定・管理に基づく検査体制への移行に関し、現行の農務省(USDA)はこの前提となる基礎データを有していないため、このまま新体制に移行するようなことがあれば、むしろリスクを顕在化する可能性を高めかねないとして強い懸念を示している。同時に、将来的な食品安全行政組織の一元化を志向しつつも、当面は食品医薬品局(FDA)の機能を「食品関係」と「医薬品関係」に分けた上で、専任の局長を置く等大統領の指揮下に置かれる2つの組織の機能を充実させること等を提案している。 さらに、同じく民主党のカード-ザ下院議員(カリフォルニア州)は、03 年にブッシュ大統領が国土安全保障省(DHS)を設立し、FSISとともにUSDA傘下にあった動植物検査局(APHIS)をDHSに移管したことに批判の目を向けている。 ブッシュ大統領は、2001 年 9 月 11 日の同時多発テロ、炭疽菌事件の対応として、防衛充当法案(Defense Appropriations Bill)※1やバイオテロ法(Public Health Security and Bioterrorism

Preparedness and Response Act of 2002)※2の制定のほか、「国境・運輸の安全保障」、「緊急事態への準備と対応」、「化学・生物・放射線・核対策」、「情報分析と社会資本保護」を 4本柱とするDHSを設立、APHISの 2億 2,599万 7,000ドルの予算と 2,684人の人員(04 年度)を継承させた。これに関し、下院農業委員会の調査は、拳銃検査等テロリスト対策が重視されるDHSにあって、APHIS職員は軽んじられた結果、人員不足も相まって士気が低下し、病害虫の蔓延によって農業・食品に脅威を与える恐れが顕在化しているとしている。カードーザ議員は、10 月 3 日の下院公聴会において、訓練、組織・設備の充実のため、APHISの職員をUSDAに復帰させることを提案したが、与野党の議員ほか関係者からも同意する声が出ている。(同議員等は、今年初めの下院農業法案での審議に際しても同様の提案を行い、下院農業委員会の承認は得たものの、ブッシュ政権の強硬な反対に遭ったほか、上院で拒否される可能性から、下院での採択前に関係条項が削除された経緯がある。) なお、タスク・フォース(特別作業部会)の議長である保健社会福祉省(HHS)のマイケル・リービット長官は、全ての製品の検査を行うことは不可能であり、かつ、行うべきでもないとした上で、検査手続の改善、官民セクションや米国政府と他国政府との連携強化を重視する考えを改めて強調した。同時に、検査の厳格化が国際貿易の停滞に繋がる可能性にも言及しており、中間報告時と同様、従来の立場に変化がないことを示唆している。

※1 USDAの食料安全強化計画、病害虫保護、研究への取組み等のバイオセキュリティへの取組みを支援するため、3億 6,700万ドルの予算を措置。2002年 1月 10日ブッシュ大統領署名。 ※2 バイオテロリズムや他の公衆衛生上の緊急時に対し、予防、準備、対処するための国の能力を改善することを目的とし、食品関連施設の登録、記録の整備・保持、食品輸入の事前通告、行政による留置等を。2002 年 6 月12日ブッシュ大統領署名。

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<食肉検査体制の見直し案の行方> 加えて、今回の回収事件は、下院農業委員会で採択された農業法案に基づく食肉検査のあり方の見直しについても議論を呼んでいる。 2007年 7月 27日に下院農業委員会が採択した農業法案には、州政府による検査を受けた食肉の他州の販売を認める条項が盛り込まれた。これによって、中小の食肉加工会社は、連邦政府の検査を受けなくとも他州への食肉の出荷が可能とされた。これは、下院農業委員会のピーターソン委員長(民主党、ミネソタ州)主導によるものとされているが、消費者団体の一部や連邦の検査関係団体からは、州政府の検査基準は緩く曖昧であるため、食品安全を確保する観点からは連邦政府の検査が必要であるとして反対の声が挙がっていた。大手食肉加工会社は、従来は、緩い州政府の検査に合格しただけで全国流通を認めるならば、厳しい連邦政府の検査を受けなければならない大手が不利になるとして、このような動きに反対してきたが、州政府の検査レベルが向上しているとして妥協した経緯がある。今回の回収事件を受けて、より厳しい検査を求める声が強まることが予想されるが、既にボクサー上院議員(民主党、カリフォルニア州)は、下院農業委員会が採択した農業法案は、中小の食肉加工会社が連邦政府の検査から逃れ、州検査の方へ流れることを容認してしまうため、上院農業法案に当該条項が含まれることを阻止すると述べている。上院農業委員会のハーキン委員長(民主党、アイオワ州)も、中小の食肉加工会社の流通拡大を支援することは重要であるとしつつも、「州政府と連邦政府の検査が同等であるならば連邦政府の検査を受ければ良い」とし、上院農業法案には州政府による検査を受けた食肉の他州の販売を認める条項は含めない考えを示している。 なお、上院の農業法案の審議は、2007年 10月 4日に財政委員会で農業税制法案に関する審議が行われたが、農業委員会の審議は、10月 22日以降になる見込みである。

<政権末期における駆け引き> このように、民主党は、ここでも保護貿易主義、地域主義の気配を漂わせながら、食品安全行政に対する厳しい批判を加え、議会における主導権を握ろうとする動きを見せている。 一方、ブッシュ政権、共和党は、自由貿易主義のほか、増税に依拠しない形で過去 6年続く財政赤字、拡大する連邦政府支出の切り詰めを図りたいという強い意向を示すが、残りの任期が約 1年となり、求心力の低下が伝えられるブッシュ大統領は、これまでの実績、歴史的評価を睨みながら政権運営を行っているようにも見え、これらを否定する民主党の動きに対しては妥協ではなく、対峙する姿勢を明らかにしつつある。 しかし、従来の政党間対立という構図ではなく、児童保険プログラム拡大計画に対する拒否権行使、FTAをはじめとする自由貿易主義の積極的推進、富裕層への優遇税制等については、共和党内も必ずしも一枚岩ではない。過去においては、政党間対立よりも、現下の問題への対処を優先してきた農業法、食品安全の問題が、近づく大統領・議会選挙を前にして、基本的な政党間対立の構図を維持したまま進むのか、それとも、政党の枠組みが流動化して共和党と民主党の連携によってブッシュ政権の一層の地盤沈下が進むのか、議論の行方が改めて注目される。

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<コラム8>食品医薬品局(FDA)等の権限強化へ~タスク・フォースが大統領に具体策を提案~(2007 年 11 月)

2007 年 7 月 18 日に閣僚級から成るタスク・フォース(特別作業部会)を立ち上げ、輸入食品及びその他の製品の安全性確保を図るための対策を検討してきたブッシュ政権は、タスク・フォースからの提案に基づき、11月 6日、食品医薬品局(FDA)の権限強化を柱とする対策を発表した。

<対策の概要> 議長である保健社会福祉省(HHS)のマイケル・リービット長官からブッシュ大統領に提案された対策「Action Plan for Import Safety」は、全 14項目と 50 の実践措置から構成され、全 80ページに及ぶ。(http://www.importsafety.gov/report/actionplan.pdf)

2007 年 9月 10日に発表された中間報告(コラム 6参照)をさらに具体化したこの提案は、 ・ 特定の国における危険性の高い食品等の生産・製造業者に対して、FDA が定める安全基準の充足を求めるとともに、厳格な認証手続を創設し、当該権限を FDA に付与する ・ 義務検査を忌避し、又は対応が遅れた生産・製造業者、輸入業者による危険性の高い食品等の回収命令を FDA に付与する ・ 高度な安全確保対策措置を講じ、また、的確な流通履歴を保有する優良な輸入業者の取組みに対して新たなインセンティブを付与する ・ 認証された生産・製造業者、輸入業者等の名称を公にして透明性を向上させる ・ 個別の輸入手続に際して、食品・製品や基準の充足等に関するデータを交換し、基準の充足性を明らかにするか、又は輸入を拒絶する ・ 海外における米国の検査官の駐在を増加させるとともに、外国の検査機関における訓練を増加させ、サプライチェーンの初期段階から安全確保策を講じる ・ 米国の安全基準に違反した輸入業者、輸入食品に対する罰則を強化する こと等がポイントとなっている。 また、同じ 11月 6日、FDA は、「予防」(Prevention)、「介入」(Intervention)、「対応」(Response)を柱とする「Food Protection Plan」を発表した。これは、輸入品のみならず、米国産品を対象としており、「Action Plan for Import Safety」や疾病管理予防センター(CDCP)、農務省食品安全検査局(U

SDA・FSIS)、消費者製品安全委員会(CPSC)等の関係機関と連携しつつ、科学技術を活用したリスクに基づく安全確保対策を確立することを明らかにしている。(http://www.fda.gov/oc/initiatives/advanc

e/food/plan.html)

<予算措置は 2009 年度に> 今回の提案には、詳細かつ厳格な内容が盛り込まれており、米国産を含めて大きく揺らいだ消費者の信頼回復、安全性確保のためには、その着実な実施が求められる。 しかし、今回の提案には、対策の実施に必要となる具体的なコストの見積もり、予算措置までは含まれていない。必要な予算措置は、2009 年度から手当てすることとされている。 対策の実施に向けては、制度改正も必要となり、予算措置と合わせ、議会での審議が重要となる。一連の安全性の問題に関して、議会与党である民主党は、FDA、CPSC 等関係機関の予算・人員不足、組織のあり方等ブッシュ政権の消費者保護対策に係る不備への批判を強めており、その権限強化、組織の一元化等を主張している。現在、上院本会議に舞台を移して審議が行われようとしている 07 年農業法案(Food and Energy Security Act of 2007)においても、民主党は原則として「pay-go」原則(新たな歳出増、税収減を伴う施策にはそれに見合う財源が必要)との立場を維持しているほか、行政府

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も財政再建を旗印として歳出増には極めて厳しい態度で臨んでいる。このような中、相殺財源の確保を含め、新たな消費者保護対策をどのように実施に移すかが今後の大きな課題となる。

<日本企業、日本食品への影響> 約 4ヶ月に渡るタスク・フォースでの検討の過程においては、議会公聴会も行われたが、輸出国の監視、輸出国の企業の事前確認をはじめとする日本の水際対策が紹介される等、改めて日本産品の安全性についての評価が高いことが証明された。価格競争ではなく品質競争をモットーとしつつ、相対的に高価である反面、関係企業等の収入保証、生産・製造過程の透明化等を通じて消費者の信頼確保を図る日本のシステムは、従来、米国から貿易の非関税障壁との批判も受けてきたが、相次ぐ回収騒動によって米国もスタンスを変えつつあるように見える。 ジェトロ・シカゴセンターが取材した当地の食品卸業者によると、中国産品の安全性が問題になった今春以降、ロサンゼルス港、ロングビーチ港等における中国産品に対する FDA のチェックが厳しくなっており、その煽りを受けて日本産品の流通も以前より時間を要するようになっているという。 今後、日本産品の米国輸出拡大を図っていく上で、検査に要する時間、コストの縮減は大きな課題であるが、今回発表された対策が実施に移された場合、「時間がかかりすぎる」と関係者の不満が大きい FDA の検査に関し、その予算・人員の増強によって迅速な検査の実現が強く期待される。その反面、日本企業に対してもより厳しい検査が実施されることも考えられる。一旦、違反が発見されれば、同一業者はもとより、同一の品種や同一の輸出先国の検査率が上がることもあり、損害の範囲が広がる可能性も指摘されている。

2009 年度からの予算措置は、来年の大統領選挙以降、次期政権での具体化を意味するが、一部で選挙戦の優位が伝えられる民主党政権が誕生した場合、さらに保護貿易的な流れが強まる可能性も否定できない。現に、11月 8日に下院本会議を通過した米国・ペルーの自由貿易協定(FTA)においても、反対票 132票のうち民主党議員のものが 116票を占めた。 米国においても、安全性の確保に向けた取組みが強化される中、安全性のみならず表示を含めた高いコンプライアンスを遵守してきた日本企業・日本食品の評価をさらに高める取組みを通じ、他国との比較優位性を維持していくことが一層重要になっていると言えよう。

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<参考資料> 関係団体、参考となるウェブサイト

○ 政府機関 農務省(USDA)

http://www.usda.gov 農務省農業マーケティング局(AMS)

http://www.ams.usda.gov/ 農務省農業研究局(ARS)

http://www.ars.usda.gov/main/main.htm 農務省動植物検疫局(APHIS)

http://www.aphis.usda.gov/ 農務省経済調査局(ERS)

http://www.ers.usda.gov/ 農務省農業サービス局(FSA)

http://www.fsa.usda.gov 農務省食品栄養局(FNS)

http://www.fns.usda.gov/fns/default.htm 農務省食品安全検査局(FSIS)

http://www.fsis.usda.gov/ 農務省海外農業局(FAS)

http://www.fas.usda.gov/ 農務省農業統計局(NASS)

http://www.nass.usda.gov/ 農務省自然資源保全局 http://www.nrcs.usda.gov/ 連邦上院 http://www.senate.gov/ 連邦下院 http://www.house.gov/ 議会調査局(レポート集)

http://www.nationalaglawcenter.org/crs/

○ 農業団体・業界団体 アメリカン・ファーム・ビューロー・フェデレーション(AFBF)

http://www.fb.org/ ナショナル・ファーマーズ・ユニオン(NFU)

http://www.nfu.org/ 全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)

http://www.ncga.com/ 米国大豆協会(ASA)

http://www.soygrowers.com/ 全国小麦生産者協会(NAWG)

http://www.wheatworld.org/ 米国コメ連合会(USA Rice Federation)

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http://www.usarice.com/ 全国生乳生産者連合会(NMPF)

http://www.nmpf.org/ 米国砂糖連盟(ASA)

http://www.sugaralliance.org/ 全国肉用牛生産者牛肉協会(NCBA)

http://www.beefusa.org/ 全国養豚協会(NPPC)

http://www.nppc.org/ 再生可能燃料協会(RFA)

http://www.ethanolrfa.org/ 全国バイオディーゼル評議会 http://www.biodiesel.org/

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平成 19年度 コンサルタント調査 米国の農業と農業政策の現状 発行 2008年 2月 発行所 日本貿易振興機構(ジェトロ) 輸出促進・農水産部 農水産調査課 東京都港区赤坂 1-12-32 電話 03(3582)5186

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