45
PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中 心とした入札(オークション)制度と学術研究の紹介― 財務省財務総合政策研究所客員研究員 石田 良 財務省財務総合政策研究所研究員 服部 孝洋 2020 6 財務省財務総合政策研究所総務研究部 1008940 千代田区霞が関 311 TEL 0335814111 (内線 5489本論文の内容は全て執筆者の個人的見解であ り、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式 見解を示すものではありません。

日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

  • Upload
    others

  • View
    4

  • Download
    1

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

PRI Discussion Paper Series (No20A-06)

日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

心とした入札(オークション)制度と学術研究の紹介―

財務省財務総合政策研究所客員研究員

石田 良

財務省財務総合政策研究所研究員

服部 孝洋

2020 年 6 月

財務省財務総合政策研究所総務研究部

100-8940 千代田区霞が関 3-1-1

TEL 03-3581-4111 (内線 5489)

本論文の内容は全て執筆者の個人的見解であ

り財務省あるいは財務総合政策研究所の公式

見解を示すものではありません

1

本国債―ダッチ式とコンベンショナル式を中とした

札(オークション)制度と学術研究の紹介―1

良dagger

服部孝洋Dagger

要旨 本稿は国債発に係る札(オークション)の仕組みについて特に学術的な側から紹介することを的としています本における国債発は以前は引受が中でしたが現在ではオークションが宗を占めています本稿では我が国における国債発の仕組みについて時系列を追って整理した後主要なオークション式であるコンベンショナル式とダッチ式の解説をいますその上でオークション理論の概要を説明しこれらの式に係る学術的な理論研究を紹介します最後に国債のオークションの実証研究の成果を解説します JEL 区分D44E58G18 キーワード本国債オークションコンベンショナル式ダッチ式

1 本稿の意に係る部分は筆者らの個的解であり筆者らの所属する組織の解を表すものではありません本稿の記述における誤りは全て筆者らによるものですまた本稿は本稿で紹介する論の正確性について何ら保証するものではありません植健准教授坂井豊貴教授財務省関係者など本稿につきコメントをくださった多くの々に感謝申し上げます dagger 財務省財務総合政策研究所客員研究員 Dagger 財務省財務総合政策研究所研究員

2

1 はじめに オークションの歴史は古く記録に残るだけでも紀元前 500 年のバビロニアまで遡るこ

とができます(Schneider 2010)にもかかわらずオークションの理論的分析が始まったのはウィリアムヴィックリー教授の 1961 年の論(Vickrey 1961)からであり学問分野としては々60 年ほどの歴史しかありませんもっともその間に当のヴィックリー教授が 1996 年にノーベル経済学賞を受賞した他オークション理論の発展にも貢献したレオニードハーヴィッツ教授エリックマスキン教授ロジャーマイヤーソン教授が 2007年にノーベル経済学賞を受賞しており更には近年のウェブ上でのオークションの発展とも相俟って学など他分野との連携も深化させながら益々注度が増している分野となっています

本では財政を取り巻く厳しい状況等も反映し年間の国債発額がおよそ 150 兆円となっておりこの規模な国債の宗がオークションによって発されています本ではいわば最級ともいえる規模のオークションが毎週のようにわれているわけですではそもそもなぜ国債を発するうえでオークションをいるのでしょうか歴史的にれば国債は必ずしもオークションによって発されていたわけではありません現在でも株式や社債を始め多くの有価証券は引受式と呼ばれるオークション以外の法で発されています国債も従来は国債募集引受団引受式(シ団引受式)などをいて発されていましたがシ団引受式は 2005 年度を以って廃となり現在は概ねオークションにより発されるようになっています

アメリカのアルゴア元副統領がいうとおりオークションとはオークションに掛けられているものを最もく評価する者を落札者とする仕組みです2その意味でオークションをいて国債を発することは公平かつ簡明な制度をいているとも評価できますもっとも公平かつ簡明とはいっても実はオークションには様々な式があり式の巧拙により結果も変わってきてしまいますどのような式を採すれば本政府や市場参加者などにとって最善なのでしょうか

オークションの理論は経済学の中でも数理的な展開が多いこともあり国債の札にかかる学術研究の成果は国債市場における政策担当者や実務家の間でさほど浸透していません本国債の場合オークション理論の語と実務の語に乖離がられることもその因でしょう例えば本国債のオークションでは基本的にはコンベンショナル式がいられており40 年国債や物価連動国債といった部の国債についてはダッチ式がいられていますしかしオークション理論やミクロ経済学の教科書を開いても必ずしもこれらの語をみつけることはできないことからこれらの知を実際の実務にかすことは容易ではありませんそこで本稿はできる限り平易な葉でオークション理論の研究成果を解説するとともに実務的な論点との関連付けをうことを通じて国債市場の実務家

2 原rdquoputting licenses into the hands of those who value them mostrdquo(Milgrom 2004 p4)

3

にとってオークション理論を近にすることひいては政策的な議論に資することを指します

前述のとおり本国債のオークションではコンベンショナル式とダッチ式が併されていますがどちらも応札された札について落札合計額が発標額に達するまでい価格から順番に落札しますもっともコンベンショナル式では落札となった各札の応札価格がそのまま各札の落札価格となるダッチ式では発標額に達した最後の札の応札価格すなわち最も低い落札価格が全ての落札者の落札価格に適され全銘柄律の価格で発されますこのことに鑑みるとコンベンショナル式ではい価格で応札された国債についてい価格で発できることから発体にとってメリットがあるように思われるかも知れません

オークション理論のい点は必ずしもこのような直観的な帰結が得られない可能性がある点です例えば札に参加する市場参加者からみればコンベンショナル式であると値で応札した札がその価格で落札されてしまうため結果的に割で掴まされてしまうかもしれませんこのようなな帰結を「勝者の呪い」といいますいわばオークションの勝者には「敗者」となる呪いがかけられているわけですしたがってコンベンショナル式では市場参加者が値で掴まされることを忌避し消極的に応札することで却って発価格が下がり(調達コストが上昇し3)発体にとってデメリットとなる可能性もありますダッチ式では分が札をれた価格ではなく標額に達する最低落札価格で購できますから多くの投資家が積極的に応札することで結果的に発価格が上がることを通じ発体にメリットがある可能性もありますこの例をてもどちらの式のが発体等にとってメリットがあるかどうかは必ずしも定かではありません

このようにオークションに参加する投資家は互いの動を予測して動するためゲーム理論の葉を借りれば戦略的関係にあるといえます国債のオークションにかかる理論研究ではゲーム理論などを援しながら理論的にどういう帰結がまれるかの予測を提します詳細は次節以降で議論しますが残念ながら望ましいオークションの仕組みは般的に簡明な結果が得られているわけではなく投資家の属性や市場の状況などに依るところが少なくありませんもっとも例えば買い占めや共謀など市場の置かれている問題点がはっきりしている条件下ではどのようなオークション式が良いのかについて定の理論的回答は得られています慶應義塾学の坂井豊貴先の葉を借りれば「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」ものとして機能しているとみることもできます4

3 債券価格と利(調達コスト)は逆の動きをします債券(固定利付債)の場合クーポン(キャッシュフロー)が固定されていますから価格が上昇するとその債券のリターン(利)は低下します(他の条件を定にすれば)購する価格が上がればリターンが低下することは株式や不動産などすべての資産について共通していえることです 4 坂井(2013 p 211)を参照してください

4

このことはオークションの実証研究についても当てはまります本稿では多数の実証研究を紹介しますが残念ながら実証研究について必ずしも統的な結果が得られているとはえません例えば本稿で紹介する Hortaccedilsu and McAdams (2010)はオークション式の変更によってさほどきな差をまない可能性を指摘していますすなわち学術的にい評価を受けた論ですら特定のオークションを持しているとはいえないのです図1 は諸外国の国債の種類と発式をまとめていますが国ではダッチ式を活している欧州では主にコンベンショナル式がいられているなど先進国の制度においてもオークションの式に統性はみられていません 図 1 諸外国の国債の種類と発式

(出所)財務省「債務管理リポート 2019」(p51)より抜粋

各国の発当局はその時々で望ましいと考えられる札式を選択してきましたかつ

て国ではコンベンショナル式をいていましたがダッチ式への移は 1960 年代に既にノーベル賞受賞者のミルトンフリードマン教授が提案していました5国では 1991年に起こった国投資銀ソロモンブラザーズによる国債買い占めのスキャンダル等をうけダッチ式へ舵を切ります国ではこの制度変更に伴い国財務省連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board FRB)国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission SEC)はオークション式を含めた国債市場に関する包括的な調査6を実施

5 ハバードパーシュ(2017)などを参照してくださいもっとも坂井(2013)では「1991 年に経済学者ミルトンフリードマンとマートンミラーが新聞上で次点価格オークションが耐戦略性を満たすといった内容の発をしビット払いオークションから次点価格オークションへの変更を勧めて」(p209-p210)いたものの次点価格オークション(ダッチオークション)は理論的に耐戦略性(札者が分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる性質)を満たさないことから「おそらく誤解があった」と指摘しています 6 詳しくはDepartment of the Treasury Securities and Exchange Commission Board of Governors of the Federal Reserve System (1992) rdquoJoint Report on the Government Securities Marketrdquoを参照してください

5

しています オークション式の変更は国にとどまりません例えばフランスではダッチ式から

コンベンショナル式へ変更がなされており我が国でも 30 年国債を 2007 年にダッチ式からコンベンショナル式に変更していますこのように実際に各国の発当局が札式を変更してきた歴史があることから今後もその時々の状況に鑑み政府が適切な札な式を考えていく必要性があるのです

本稿の構成は以下のとおりです2章では本における国債のオークションの実態や歴史的変遷を振り返ります3章ではオークション理論の観点から4章ではオークションに係る実証的研究の観点から国債オークションを分析します5章はまとめです 2本国債のオークションの概要 21 国債と本の資本市場 融の重要な役割のつは政府や企業など資を持っていない主体(字主体)と家計など資を持っている主体(字主体)を繋ぐことで経済を効率的に回すことです字主体が株式や債券などを発し字主体がそれを購することを通じて資融通をうことを直接融という銀等を経由して字主体と字主体を繋ぐことを間接融といいます我が国家計融資産の半数程度が預であることから我が国は間接融主体の融システムを有していますが本国債については他の先進国と同様直接融を通じて資融通がなされています具体的には本政府が発した国債を銀や保険会社などが購することを通じて本政府は資調達をっています 上記のように国債を通じた政府による資調達は直接融に基づきますが国債などの有価証券が取引される市場は発市場(プライマリー市場)と流通市場(セカンダリー市場)で構成されます発市場とは財務省が新規に債券を発して資調達をする市場であり流通市場とは既に発された国債を売買する市場です国債のような債券の流通市場では証券会社が債券を在庫として保有し価格を提することで市場を形成していることが特徴です本国債の場合例えば10 年利付国債を新規に発するとしても既に市場では 10 年利付国債に類似した国債(例えば3 か前に発した 10 年利付国債など)が流通していますから流通市場で形成された価格は国債の新規発にきな影響をもたらします7 本稿では発市場における国債発価格がオークションを通じて決定される点を深堀りしていきますが実は有価証券の発において札という形式が採られているケースは我が国では国債や部の債券など8に限られます株式や社債などの多くの有価証券では引 7 現在では銘柄統合(リオープン)が拡充されているため既に発されている国債と同の国債が札で追加発されるケースも少なくありません 8 例えば本速道路保有債務返済機構や兵庫県の起債に際しイールドダッチ式が活されることがあるなど国債以外の債券でもオークションがいられるケースがあります

6

受式(アンダーライティング)が採られています引受式では証券会社が発体と投資家との間にち両者が合意できる価格を探ることで有価証券が発されています(詳細はBOX 1 を参照してください)もっとも原理的には株式や社債についてもオークションで発することは可能です事実Google はオークションで新規株式公開をしましたし9本の株式市場でもかつては札式で発されていました10 22 国債市場における競争札導の歴史的経緯

冒頭で記載したとおり国債についても以前は引受式に類する式で発されていました具体的には戦後国債が発されてから永らくシ団引受と資運部引受の 2 式が採られていましたシ団引受とは具体的には 1000 を超える融機関により国債引受のための団体(これをシンジケート団(いわゆるシ団)といいます)を作り発された国債をシ団が引き受ける形を指します(図 2 を参照)資運部引受とは旧蔵省(現財務省)における資運部資による国債の引受のことです戦後国債の発がなされてから永らく引受式による発が主要な役割を果たしていました

図 2 シ団引受の仕組み

出所財務省「債務管理リポート 2006」(p46)より抜粋 9 Google のオークションをいた上場についてはシュミット(2011)などを参照ください 10 我が国では 1997 年にブックビルディング式が導されて以降札式は活されていません(池 2015)株式の発に際してブックビルディング式とオークションのどちらが望ましいかについてはKutsuna and Smith (2004)や池(2015)などを参照してください

7

その後「債務管理リポート 2006」にもあるとおり市場参加者の意なども踏まえ1978 年には公募札が導されたほか1989 年にはシ団引受に部分的競争札が導されました同レポートによれば部分的競争札については「①導後も国債の札は引き続き順調にわれまた流通市場も較的落ち着いた動きをせていること②国の債務管理の在りに関する懇談会国債市場特別参加者会合国債投資家懇談会等において意を聴取したところ同制度の国債安定消化機能は導当初に期待された効果をあげておりシ団を廃しても問題ないとの解で概ね致をたことから平成 17 年度末をもってシ団引受をわないこととしました」(p47 より抜粋)とあります図 3 はシ団引受のシェアの推移をしていますが徐々に競争札による発の割合が増えていくことが確認できますシ団による発は 2006 年 3 に完全に廃されています11

図 3 シ団引受のシェアの推移

出所財務省「債務管理リポート 2006」(p47)より抜粋

11 幸(2000)は 2000 年前後の国債札制度の変遷について説の形式で記載しています

8

23 本国債のオークションの詳細コンベンショナル式とダッチ式

現在の国債市場では償還年限が1年以下の短期国債に加え2 年5 年10 年20 年30 年40 年債及び物価連動国債が発されていますがこれらの発条件はオークションによって定められます般的に発側は国債を安定的に消化しつつい値段で発したい(低い利で調達したい)と考えますが投資家側は出来る限り安く買いたい(い利で運したい)と考えています国債の発価格や利はその綱引きで決まるのですが現在いられている具体的な発法は40 年債と物価連動国債を除き「コンベンショナル式」と呼ばれる法がいられています40 年債と物価連動国債については「ダッチ式」と呼ばれる法で発されていますこれらのオークション式の違いの詳細は後述しますが部の国債についてダッチ式がいられている要因として相対的に流動性に懸念があるほか投資家が限定的であることなどが挙げられます12

財務省は市場関係者とも対話をしつつその時々で望ましいオークションの法をいています歴史的には中期債の発当初(1978~79 年)はダッチ式が採されましたが1979 年7にコンベンショナル式に改められ10 年債や 20 年債の競争札でもコンベンショナル式が採されました13ダッチ式については 1999 年に導された 30 年債や 2000 年に発が開始された 15 年変動利付債(現在は発が停)の発14で再び採されますもっとも30 年債の発については 2007 年 4 からダッチからコンベンショナ

12 財務省は 40 年国債についてダッチ式がいられている理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「40 年債の札式についてはこれまで当局としては投資家層の拡がりが限定的で他の年限と較して遜ない程度の流動性がられていないなどマーケットの成熟が確認されていないため利回りダッチ式の継続が適当ではないかとしてきたところ」「価格コンベンショナル式に移すべきという御意も定程度あったが国債市場特別参加者の数落札シェアのいずれでみても利回りダッチ式を維持すべきという御意が多数」としています 13 ここでの記述は副島花尻嶋(2001)などを参照しています 14 札での発開始は 2000 年 6 (第 8 回)ですが発体は私募で 1983 年2から開始されています

BOX 1 引受式(アンダーライティング)とは 引受式(アンダーライティング)では証券会社が発体と投資家との間にり発価格を調整していきます例えばある会社が新規株式を発することを決めた場合引受をう証券会社は投資家に当該株式を購しても良いと考える価格と数量をヒアリングしますその内容を証券会社は発体にフィードバックするという形で価格調整をしていきますこのような式を特にブックビルディング式といい現在本における株式や社債など多くの有価証券がこの法に基づき発されています

9

ル式に移しています15 国債のオークションに際しオークションの参加者は価格や利を提することで応札

するのですがコンベンショナル式では発体からみてメリットがある札(すなわちい価格や低い利で応札された札)から順番に落札していきますオークションには発標額があるため標額に達することとなる札までを落札とし落札最低価格未満の価格や落札最利を上回る利で応札した注は落札できないという形式を採っています例えば3000 億円の国債を札で発する際1 兆円の応札があったとしますこの場合発体はい価格で応札された札から順番に落札していきちょうど落札合計額が 3000 億円に達する価格まで落札することになります参加者が異なる価格で同じ財を購する点がコンベンショナル式の特徴です(数値例については BOX 2 を参照してください)

ダッチ式では同じように参加者が応札するのですが発体が標とする発額に達する価格で全員が購します前述のように 3000 億円の国債の発に対して1 兆円の応札があった際い価格から順番に落札していき落札合計額が標額である 3000 億円に達することとなる札までを落札としますがこの式では 3000 億円にちょうど達することとなった札の価格で皆律に購しますすなわちコンベンショナル式とは異なりダッチ式では落札できた国債について応札者が全員同じ価格で国債を購する点が特徴です

なおこのように国債の発価格は主にコンベンショナル式あるいはダッチ式で決定されますが価格競争札と呼ばれる競争札に基づかない式でも部発がなされています価格競争札は通常の競争札と同じタイミングで実施される第Ⅰ価格競争札と札後に実施される第Ⅱ価格競争札で構成されますが両者とも後述するプライマリーディーラーのみが参加できます16同札ではプライマリーディーラーは価格競争札においてオークションで決められた平均価格で国債を購できる権利を有しますがこれは後述する応札や落札義務などプライマリーディーラーが課された責任の対価と解釈可能です

15 財務省はダッチ式からコンベンショナル式へ変更した理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「市場の成熟」について指摘しており「40 年債の流動性は徐々にまっていると認識しているものの例えばP4 にしたグラフの通り30 年債の札式を価格コンベンショナル式に移した頃の業者間出来を現在の 40 年債はまだ超えていないことなどから当局としては未だ成熟しているとはい難い状況であると認識」とコメントしています 16 第Ⅰ価格競争札第Ⅱ価格競争札とは過去の落札実績(第Ⅰ)応札実績(第Ⅱ)等に基づき個社ごとに定められた限度額内で競争札の平均落札価格により国債を取得できる札です第Ⅰ価格競争札は 2005 年 4 第Ⅱ価格競争札は 2004 年 10 に導されています

10

BOX 2 コンベンショナル式とダッチ式のイメージ ここではコンベンショナル式とダッチ式を理解するために具体的な数値例を

い両式がどのような違いをもたらすのかについて考えてみましょう図 4 にしているとおり財務省が 1000 億円分の国債を札で発しようと考えておりプライマリーディーラーである A と B が応札するとしますこの際現在のマーケット環境に鑑みプライマリーディーラーA は 200 億円を 102 円101 円100 円99 円で応札するプライマリーディーラーB は 200 億円を 101 円100 円99 円で応札しているとしましょう

この場合1000 億円に達するまで財務省はらにとって利益のあるい価格から落札していきますこの例では 100 円のところでプライマリーディーラーA と B の応札額合計が 1000 億円に達するため100 円までの札が落札されますプライマリーディーラーA と B は 99 円で 200 億円ずつ応札していますがこの札は発額である 1000 億円を超過しているため落札されませんここまではコンベンショナル式もダッチ式も同じです

図 4 コンベンショナル式とダッチ式

注ここではわかりやすさを重視した図になっています実際のオークションではプライマリーディーラーが 3 社

以上存在する点などは捨象しています

1000億円の国債を発行

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円99円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円99円 200億円

応札

応札

互いの札は見えません

国債発行に際し入札を実施

<オークションの結果>1コンベンショナル方式(応札した価格で落札)

2ダッチ方式(1000億円に達した入札金額である100円で落札)

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーA100円 600億円

プライマリーディーラーB100円 400億円

財務省

11

コンベンショナル式とダッチ式の異なる点は購する価格ですコンベンショナル式の場合プライマリーディーラーA と B はそれぞれ分が応札した価格で落札しますすなわちプライマリーディーラーA は 102 円101 円100 円でそれぞれ 200 億円ずつ落札しプライマリーディーラーB は 101 円100 円で 200 億円ずつ落札しますダッチ式では1000 億円に達する価格すなわちそれぞれ落札できた額分(プライマリーディーラーA は 600 億円プライマリーディーラーB は 400 億円)をすべて律の価格である 100 円で落札します

なおこの例では応札額がちょうど 1000 億円になる事例にしていますが実際には発額を超過することがあります例えばこのケースにおいてプライマリーディーラーA が 100 円で(200 億円でなく)300 億円を応札していた場合応札額は 101 円の累計(600 億円)では 1000 億円に達しませんが100 円では応札額(累計)が 1100 億円となり発額である 1000 億円を超過しますこのようなケースでは超過した分が発額に収まるようにするため「『オファー額』と『案分価格帯の段上までの累計』との差分」を「案分価格帯に応札した額」で除することによって率(案分率)を作りますこの場合100 円で応札したAの 300 億円とBの 200 億円の合計(500 億円)が残り 400 億円に収まるようにするため「400500=08」が案分率となります

案分率の計算法(オファー額minus第Ⅰ競争minus切り価格の段上の応札額累計額)divide切り価格の応札額times100

BOX 3 イールドダッチ式 2〜30 年の利付国債についてはコンベンショナル式で発されていますがこれらは

札当の 10 時 30 分に利率(クーポン)が決定され価格で応札します現在40 年債は年度で 1 銘柄発されていますが年度最初のオークションの前には利率が定まっておらず複利利回りで応札するイールドダッチ式が採されていますこれは40 年債においてもしクーポンを定めてから価格で応札した場合デュレーション(利が変化した際の国債の価格感応度)がきいためオークションの結果単価が 100 円からきく乖離する可能性があるからです例えば100 円以下(以上)の価格で国債が発された場合発当局が当初予定した額より少なく(多く)調達することになるという問題を有しますその複利で応札してから利率を定めるイールドダッチ式であれば100 円(パー)に近い発が可能となり発体からみれば安定的な調達が可能になります

12

24 プライマリーディーラーの役割

現在の国債発に際しては主に証券会社で構成される国債市場特別参加者制度(いわゆるプライマリーディーラー制度)が重要な役割を果たしていますプライマリーディーラーとは証券会社などを中に国によって指定された業者のことで国債に関する札や落札の義務を負うで定の優遇措置を受けます先ほど及した価格競争札もプライマリーディーラーに認められた権利になります

BOX 4 市場参加者による札結果の解釈 財務省は国債の札結果として「応募額」「募決定額」「募最低価格」「募最低価

格における案分率」「募平均価格」を発表しています市場参加者はその札の結果を解釈する際しばしば「テール」や「応募倍率」などをいます

「テール」とは「平均価格」と「最低価格」の差になりますオークションに際し投資家が応札した札の分布(横軸に応札価格縦に応札した額)がありますが財務省は分布そのものを公表しないため市場参加者は「平均価格」と「最低価格」から分布を推測しますもし投資家の意が似通っていれば多くの札が分布の中付近に集まりますこの場合テールはさく証券会社及び投資家の意に相違が少ない札であると解釈可能です分布が中に寄っていない場合分布の平均からきく外れた札も落札されることからテールはきくなりますこの結果は証券会社及び投資家の意に相違がきかった札と解釈できます(しばしば市場参加者はテールがきい札を「札結果が流れた」と表現し札結果が不調であった可能性を考える傾向があります)

また「応募倍率」は「応募額」「募決定額」で計算し発額(募決定額)に対してどの程度応募があったかをみるもので数量のでどれくらい投資家が積極的にオークションに参加したのかを把握することができますこれ以外にも例えばBloomberg などが証券会社などの予測値を事前に公表しているためその予測値との乖離をいて札の結果を評価するなど投資家は様々な形でオークションの結果を解釈していますちなみにプライマリーディーラーなど各融機関がいくら落札したかについて財務省は公表していませんが間のベンダーが業者に落札額をヒアリングしています(もっともすべての融機関をカバーしているわけではないため「落札者不明分」が存在します)

なおダッチ式では本で記載したとおり参加者が律の価格で購するため募平均価格に相当する概念がなくテールは計算できません現在の 40 年債の札は利に基づくダッチ式であり「募最利回り」が公表されています

13

実際の国債の札ではプライマリーディーラーが多くの投資家から注を募ることなどを通じて投資家の需要を集めます例えばプライマリーディーラーでない融機関が札で国債の購をおうと考える際多くの場合分が買いたい値段(指値注)で証券会社に注することなどにより札に参加しますプライマリーディーラーはその札を集約して応札することになります

なお現在の制度ではプライマリーディーラー以外も定の条件で札に参加できる形になっています前述のとおり国では 1991 年にソロモンブラザーズが他名義をいて不正に国債の買い占め(スクイーズ)をったのですが国政府はそのようなスクイーズを防ぐことなどを的にプライマリーディーラー以外も札に参加できるように制度を改正しました(国債の札の詳細は BOX 7 を参照してくださいまたスクイーズの詳細は3節で説明します) 3国債のオークション理論 31 国債のオークションと情報の対称性 前章では本国債にかかるオークションの制度を中に議論を進めましたが本章ではオークションを実施する意味について考えていきます国債の発においてオークションをう本質的な理由は本政府側からみれば国債の買いが有する情報を分に把握していないつまり経済学の葉でいうと「情報の対称性」17があるからですそもそもオークションとは財やサービスを売る際買い側からのアクション等を踏まえて値決めをう仕組みですもし売りが買いの情報を全て知っていたのであればわざわざオークションなどせずとも最もい値段で買ってくれるであろう買いのところにって直接財やサービスを売れば良いわけですあるいは最もい値段で買ってくれるであろう買いを想定しその買いがギリギリ買ってくれるであろう値段を付けて売り出すことができるはずですそれをしないでオークションをうのは売りが買いの情報を全て知っているわけではなくむしろオークションという法を通じて買いの有する情報を札価格という形で発的に開してもらいそれを通じて売りが値決めをおうと考えているからに他なりません

売りよりも買いのがその商品の価値を熟知していたとしても全く不思議ではありません国債の札に際してはマーケットの現場にいるプライマリーディーラーや投資家のほうが発体である政府より国債の価値を理解している可能性はいとみることもできますこの状況は前述した情報の対称性が問題になっている局といえましょうそのため政府は投資家が有する情報を発的に開してもらうという意味でオークションをうまく設計する必要があるわけです

切なのはオークションによって投資家が分の情報を発的に開してくれるかど

17 情報の対称性とは買いと売りの間に情報の格差があることをす経済学の専語です

14

うかはその仕組みの巧拙にきく依存する点です極端な例ですが財務省が国債を発する際投資家が1しかいないことが予め投資家には分かっていたとしましょうそしてオークションでは単価ベースで 1 銭から札できるとしますもし買いが内では国債に 100 円払っても良いと思っていたとしてもこの状況下では投資家は最低価格である 1銭で札し落札することになるでしょうこうなると発体である財務省は本来であれば買いの評価額付近の価格で発することにより多くの資調達をできる可能性があったのにもかかわらずその資が調達できないことになります

32 「私的価値」をいたオークション理論の基礎

上記のような例を考えても政府にとってはオークションをうまく設計することで投資家やプライマリーディーラーにうまく情報を開してもらうことが肝要ですここからは国債のオークションにおいて投資家がどのように価格を開していくかを考えるためオークションの仕組みについて具体的に考えていきます我々がにする典型的なオークションは1つの財に対して複数の参加者が札し最も値をれた者が落札するような仕組みですこのようなオークションを「単財オークション」といいます ここからは単財オークションについて考えていきますがまずオークションの参加者個々がある財に対して有するそれぞれの評価額に基づき意思決定すると想定しますこのような評価を「私的価値(private value)」といいます例えばオークションでコンサートのチケットを 1 枚販売するケースにおいて参加者が私的価値に基づき評価しているとしましょうこの場合このオークションの参加者の中にはチケットを常に欲しているやあまり欲しいと思わないなど当該チケットに対して異なる評価をする達がいる(チケットという財に対する評価が分かれている)状況を想定しています

ここで財務省が 10 年債 1 銘柄をオークションにより発する場合(すなわち単財オークションを実施する場合)市場参加者が私的価値に基づくとするとどのような結果が得られるかを考えるため次のような設定を考えますすなわち財務省が発する1銘柄に対して異なる評価を持つ4社の投資家が札に参加するケースを取り上げますこの 10年債についてはA社は 101 円までなら払って良いと内考えているとします同様にB社は 100 円までならC社は 99 円までならD社は 98 円までなら払って良いと考えているとしましょうみな分が幾らまでなら払って良いかは分かっているのですが他社のの内は分かりませんここでは他社の評価額が幾らであっても分の評価額は変わらないことを前提とします 第価格札式 札者は各々応札価格を決めて封をして提出し18番値で応札した投資家が落札し

18 このように封をして他の参加者の札が分からないオークションを「封印型オークション(sealed bid

15

その応札価格を払うとしましょうこのような札法を「第価格札式」といいますがA 社にとって望ましい応札価格は幾らでしょうか当然分の評価額である 101 円を上回る価格では札しないでしょうそんな価格で落札してしまったら却って損してしまいますまた101 円丁度で札して落札しても利得は 0 円ですからうまみはありませんしたがってA 社は 101 円を下回る価格で札することが予想されるわけですが安い価格で落札できたが得する応札価格が低ければ低いほど落札確率が下がってしまいます

経済学ではこのように意思決定者が不確実性に直した場合確率をいることで意思決定者がどのように動するかについて分析をいます例えばここでは 4 社の評価額が 97 円以上102 円以下の範囲でランダム19に分布していることが公知であったとしましょう4社は相の応札価格を想像しながら分の応札価格を決めていく必要がありますが実は定の想定の下で A 社の最適な戦略を呈することができます意思決定者がその不確実性を考慮したリターンすなわち期待利得(落札確率times利得)が最になるように応札価格を決めることを想定すると20最低額(ここでは 97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札することが最適な戦略であることを証明できます21(証明の詳細は BOX 5 を参照してください)具体的にはA 社にとってこのケースでは 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円で応札することが最適な戦略になります同様に B~D 社についても最適な応札価格を計算できますがA 社の評価額が番いことから A 社が落札するため発体は A 社の応札価格である 100 円で国債を売ることができます22(図5参照)

auction)」といいますオークションの価格を参加者が把握可能なオークションを「公開型オークション(open bid auction)」といいます 19 専的にいえば様分布であるといいます 20 もっともリスク回避的であることを仮定する場合など必ずしも期待利得を最化するように動しない投資家を想定することもありますが本稿では簡明な説明のため期待利得最化の場合のみを紹介します 21 専的にいえばベイジアン=ナッシュ均衡であるといいます分以外の皆が最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札するという戦略を採るのであれば分も同じ戦略を採ることにより落札確率times利得を最化することができますもっとも分以外の者が必ずしもこのような合理的な戦略を採らないのであればこのような戦略に拘らないが落札確率times利得を最化することができるかもしれませんそのためここで挙げた最適戦略とはあくまで分以外の者も合理的に動すると仮定した場合の最適戦略ということができます 22 般的にこのような場合評価額が番いの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times =97 円+5 円times =101 円となるので発体の期待収は 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円となります

16

図 5 第価格札式の例

上記の結果は札参加者が4であることに依存しています般的に札参加者が であれば札者は最低額(97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格で応札することが最適な戦略になることもすことができます例えば札者が2であれば最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の半分を加算した価格が最適な戦略です 第価格札式 ここまで私的価値に基づく単財オークションについて落札者が応札価格と同額を払う第価格札式を考えてきましたもっとも最近インターネットにおけるオークションなどでは「第価格札式」という式も使われるようになってきています23各々応札価格を決めて封をして提出した上で番値で応札したが落札するところまでは第価格札式と同じです第価格札式がい点はそのの払額が番に値で応札したの応札価格に基づく点であり理論的24に札者は分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる点です25(これを「耐戦略性」といいますまたこの法が最適な戦略となる直感的な解説については BOX 6 を参照してください)

先ほど挙げた国債の札において今度は発体が第価格札式に基づき実施したとします各社の最適な動は素直に分の評価額を表明することですからA 社は分の

23 例えばインターネットオークションを運営する eBay ではこのような式がいられています但し参加者の付け値が時間が経つにつれて明らかになるところが通常の封印型の第価格札式と異なります(キシテイニー 2018) 24 共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります 25 ここでは第価格札式の場合とは異なり分以外の者がどんな戦略をててきても分は分の評価額を札することにより落札確率times利得を最化することができるので分の評価額を札することが配戦略ということになります

評価額 入札額 利得A社 101円 100円 1円

B社 100円 925円 075円

C社 99円 985円 05円

D社 98円 9775円 025円

財務省

17

評価額である 101 円で応札しB 社も分の評価額である 100 円で応札します結果的にA 社は落札に成功しB 社の応札価格である 100 円を払うことになります26 収同値定理 私的価値に基づく単財オークションについて第価格札式と第価格札式を考えてきましたが我々が気になる点はこのつの式のどちらが発体にとって優れているかです驚くべき点は実は定の条件27の下どのようなオークションをっても発体が期待できる収額は定であることが証明できることですこれを「収同値定理」(Revenue Equivalence Theorem)といいます(Myerson 1981 Riley and Samuelson 1981)これはオークション理論における字塔的な定理といえましょうこの定理によれば発体は少なくとも期待できる収額の点からはオークションの仕組みについて殆ど気にしないで良いことが分かります実際上記の例をみればどちらの式でも発価格が 100円になっており売りの収は同じになっていることが確認できます

無論オークションの仕組みを検討する際には期待できる収額以外にも留意すべき点は多々あります例えばどのくらいの札者を込めるか或いはどのような不正が起こり得るかなども看過できずこれらはオークションの仕組みによって異なり得ますしかしオークションは分が有する財を売るために実施しているわけですから期待できる収額が重要な点であることには変わりありません国債の場合発体からみれば「期待できる収」とは「調達コストを抑えること」に相当するため収同値定理は発体にとっても重要な定理であるといえます 33 共通価値(common value) これまで個々が財に対して異なる評価額を有することを前提とする「私的価値」に基づ

き議論を進めてきましたが国債のオークションでは「共通価値(common value)」に基づいて理論が構築されることもあります28「共通価値」とは全ての札者がオークションの対象となる財の価値を同じように評価するという仮定です例えばべ物のように々

26 般的にこのような場合評価額が番にいの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times

=97 円+5 円times =100 円となるので発体の期待収も 100 円となります 27 収同値定理が成するためには①全ての札者はリスク中的②共通した分布関数から互いに独に私的価値を得る③最もい私的価値を持つ者が落札し最も低い私的価値を持つ者の期待利得はゼロであるといった前提条件が置かれていますこの中で最も強い前提は「互いに独に私的価値」の部分でありしたがって転売などを念頭に置いているオークションの場合は他の評価額によって分の評価額も影響を受けざるを得ないため必ずしも収同値定理は成しません国債を始めとする有価証券のオークションの場合にも当然に転売も念頭に置かれていると考えられるため般的にこの収同値定理の前提条件が満たされているとは考え難いです 28 共通価値についてより詳細を知りたいは上(2010)などを参照してください

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 2: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

1

本国債―ダッチ式とコンベンショナル式を中とした

札(オークション)制度と学術研究の紹介―1

良dagger

服部孝洋Dagger

要旨 本稿は国債発に係る札(オークション)の仕組みについて特に学術的な側から紹介することを的としています本における国債発は以前は引受が中でしたが現在ではオークションが宗を占めています本稿では我が国における国債発の仕組みについて時系列を追って整理した後主要なオークション式であるコンベンショナル式とダッチ式の解説をいますその上でオークション理論の概要を説明しこれらの式に係る学術的な理論研究を紹介します最後に国債のオークションの実証研究の成果を解説します JEL 区分D44E58G18 キーワード本国債オークションコンベンショナル式ダッチ式

1 本稿の意に係る部分は筆者らの個的解であり筆者らの所属する組織の解を表すものではありません本稿の記述における誤りは全て筆者らによるものですまた本稿は本稿で紹介する論の正確性について何ら保証するものではありません植健准教授坂井豊貴教授財務省関係者など本稿につきコメントをくださった多くの々に感謝申し上げます dagger 財務省財務総合政策研究所客員研究員 Dagger 財務省財務総合政策研究所研究員

2

1 はじめに オークションの歴史は古く記録に残るだけでも紀元前 500 年のバビロニアまで遡るこ

とができます(Schneider 2010)にもかかわらずオークションの理論的分析が始まったのはウィリアムヴィックリー教授の 1961 年の論(Vickrey 1961)からであり学問分野としては々60 年ほどの歴史しかありませんもっともその間に当のヴィックリー教授が 1996 年にノーベル経済学賞を受賞した他オークション理論の発展にも貢献したレオニードハーヴィッツ教授エリックマスキン教授ロジャーマイヤーソン教授が 2007年にノーベル経済学賞を受賞しており更には近年のウェブ上でのオークションの発展とも相俟って学など他分野との連携も深化させながら益々注度が増している分野となっています

本では財政を取り巻く厳しい状況等も反映し年間の国債発額がおよそ 150 兆円となっておりこの規模な国債の宗がオークションによって発されています本ではいわば最級ともいえる規模のオークションが毎週のようにわれているわけですではそもそもなぜ国債を発するうえでオークションをいるのでしょうか歴史的にれば国債は必ずしもオークションによって発されていたわけではありません現在でも株式や社債を始め多くの有価証券は引受式と呼ばれるオークション以外の法で発されています国債も従来は国債募集引受団引受式(シ団引受式)などをいて発されていましたがシ団引受式は 2005 年度を以って廃となり現在は概ねオークションにより発されるようになっています

アメリカのアルゴア元副統領がいうとおりオークションとはオークションに掛けられているものを最もく評価する者を落札者とする仕組みです2その意味でオークションをいて国債を発することは公平かつ簡明な制度をいているとも評価できますもっとも公平かつ簡明とはいっても実はオークションには様々な式があり式の巧拙により結果も変わってきてしまいますどのような式を採すれば本政府や市場参加者などにとって最善なのでしょうか

オークションの理論は経済学の中でも数理的な展開が多いこともあり国債の札にかかる学術研究の成果は国債市場における政策担当者や実務家の間でさほど浸透していません本国債の場合オークション理論の語と実務の語に乖離がられることもその因でしょう例えば本国債のオークションでは基本的にはコンベンショナル式がいられており40 年国債や物価連動国債といった部の国債についてはダッチ式がいられていますしかしオークション理論やミクロ経済学の教科書を開いても必ずしもこれらの語をみつけることはできないことからこれらの知を実際の実務にかすことは容易ではありませんそこで本稿はできる限り平易な葉でオークション理論の研究成果を解説するとともに実務的な論点との関連付けをうことを通じて国債市場の実務家

2 原rdquoputting licenses into the hands of those who value them mostrdquo(Milgrom 2004 p4)

3

にとってオークション理論を近にすることひいては政策的な議論に資することを指します

前述のとおり本国債のオークションではコンベンショナル式とダッチ式が併されていますがどちらも応札された札について落札合計額が発標額に達するまでい価格から順番に落札しますもっともコンベンショナル式では落札となった各札の応札価格がそのまま各札の落札価格となるダッチ式では発標額に達した最後の札の応札価格すなわち最も低い落札価格が全ての落札者の落札価格に適され全銘柄律の価格で発されますこのことに鑑みるとコンベンショナル式ではい価格で応札された国債についてい価格で発できることから発体にとってメリットがあるように思われるかも知れません

オークション理論のい点は必ずしもこのような直観的な帰結が得られない可能性がある点です例えば札に参加する市場参加者からみればコンベンショナル式であると値で応札した札がその価格で落札されてしまうため結果的に割で掴まされてしまうかもしれませんこのようなな帰結を「勝者の呪い」といいますいわばオークションの勝者には「敗者」となる呪いがかけられているわけですしたがってコンベンショナル式では市場参加者が値で掴まされることを忌避し消極的に応札することで却って発価格が下がり(調達コストが上昇し3)発体にとってデメリットとなる可能性もありますダッチ式では分が札をれた価格ではなく標額に達する最低落札価格で購できますから多くの投資家が積極的に応札することで結果的に発価格が上がることを通じ発体にメリットがある可能性もありますこの例をてもどちらの式のが発体等にとってメリットがあるかどうかは必ずしも定かではありません

このようにオークションに参加する投資家は互いの動を予測して動するためゲーム理論の葉を借りれば戦略的関係にあるといえます国債のオークションにかかる理論研究ではゲーム理論などを援しながら理論的にどういう帰結がまれるかの予測を提します詳細は次節以降で議論しますが残念ながら望ましいオークションの仕組みは般的に簡明な結果が得られているわけではなく投資家の属性や市場の状況などに依るところが少なくありませんもっとも例えば買い占めや共謀など市場の置かれている問題点がはっきりしている条件下ではどのようなオークション式が良いのかについて定の理論的回答は得られています慶應義塾学の坂井豊貴先の葉を借りれば「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」ものとして機能しているとみることもできます4

3 債券価格と利(調達コスト)は逆の動きをします債券(固定利付債)の場合クーポン(キャッシュフロー)が固定されていますから価格が上昇するとその債券のリターン(利)は低下します(他の条件を定にすれば)購する価格が上がればリターンが低下することは株式や不動産などすべての資産について共通していえることです 4 坂井(2013 p 211)を参照してください

4

このことはオークションの実証研究についても当てはまります本稿では多数の実証研究を紹介しますが残念ながら実証研究について必ずしも統的な結果が得られているとはえません例えば本稿で紹介する Hortaccedilsu and McAdams (2010)はオークション式の変更によってさほどきな差をまない可能性を指摘していますすなわち学術的にい評価を受けた論ですら特定のオークションを持しているとはいえないのです図1 は諸外国の国債の種類と発式をまとめていますが国ではダッチ式を活している欧州では主にコンベンショナル式がいられているなど先進国の制度においてもオークションの式に統性はみられていません 図 1 諸外国の国債の種類と発式

(出所)財務省「債務管理リポート 2019」(p51)より抜粋

各国の発当局はその時々で望ましいと考えられる札式を選択してきましたかつ

て国ではコンベンショナル式をいていましたがダッチ式への移は 1960 年代に既にノーベル賞受賞者のミルトンフリードマン教授が提案していました5国では 1991年に起こった国投資銀ソロモンブラザーズによる国債買い占めのスキャンダル等をうけダッチ式へ舵を切ります国ではこの制度変更に伴い国財務省連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board FRB)国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission SEC)はオークション式を含めた国債市場に関する包括的な調査6を実施

5 ハバードパーシュ(2017)などを参照してくださいもっとも坂井(2013)では「1991 年に経済学者ミルトンフリードマンとマートンミラーが新聞上で次点価格オークションが耐戦略性を満たすといった内容の発をしビット払いオークションから次点価格オークションへの変更を勧めて」(p209-p210)いたものの次点価格オークション(ダッチオークション)は理論的に耐戦略性(札者が分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる性質)を満たさないことから「おそらく誤解があった」と指摘しています 6 詳しくはDepartment of the Treasury Securities and Exchange Commission Board of Governors of the Federal Reserve System (1992) rdquoJoint Report on the Government Securities Marketrdquoを参照してください

5

しています オークション式の変更は国にとどまりません例えばフランスではダッチ式から

コンベンショナル式へ変更がなされており我が国でも 30 年国債を 2007 年にダッチ式からコンベンショナル式に変更していますこのように実際に各国の発当局が札式を変更してきた歴史があることから今後もその時々の状況に鑑み政府が適切な札な式を考えていく必要性があるのです

本稿の構成は以下のとおりです2章では本における国債のオークションの実態や歴史的変遷を振り返ります3章ではオークション理論の観点から4章ではオークションに係る実証的研究の観点から国債オークションを分析します5章はまとめです 2本国債のオークションの概要 21 国債と本の資本市場 融の重要な役割のつは政府や企業など資を持っていない主体(字主体)と家計など資を持っている主体(字主体)を繋ぐことで経済を効率的に回すことです字主体が株式や債券などを発し字主体がそれを購することを通じて資融通をうことを直接融という銀等を経由して字主体と字主体を繋ぐことを間接融といいます我が国家計融資産の半数程度が預であることから我が国は間接融主体の融システムを有していますが本国債については他の先進国と同様直接融を通じて資融通がなされています具体的には本政府が発した国債を銀や保険会社などが購することを通じて本政府は資調達をっています 上記のように国債を通じた政府による資調達は直接融に基づきますが国債などの有価証券が取引される市場は発市場(プライマリー市場)と流通市場(セカンダリー市場)で構成されます発市場とは財務省が新規に債券を発して資調達をする市場であり流通市場とは既に発された国債を売買する市場です国債のような債券の流通市場では証券会社が債券を在庫として保有し価格を提することで市場を形成していることが特徴です本国債の場合例えば10 年利付国債を新規に発するとしても既に市場では 10 年利付国債に類似した国債(例えば3 か前に発した 10 年利付国債など)が流通していますから流通市場で形成された価格は国債の新規発にきな影響をもたらします7 本稿では発市場における国債発価格がオークションを通じて決定される点を深堀りしていきますが実は有価証券の発において札という形式が採られているケースは我が国では国債や部の債券など8に限られます株式や社債などの多くの有価証券では引 7 現在では銘柄統合(リオープン)が拡充されているため既に発されている国債と同の国債が札で追加発されるケースも少なくありません 8 例えば本速道路保有債務返済機構や兵庫県の起債に際しイールドダッチ式が活されることがあるなど国債以外の債券でもオークションがいられるケースがあります

6

受式(アンダーライティング)が採られています引受式では証券会社が発体と投資家との間にち両者が合意できる価格を探ることで有価証券が発されています(詳細はBOX 1 を参照してください)もっとも原理的には株式や社債についてもオークションで発することは可能です事実Google はオークションで新規株式公開をしましたし9本の株式市場でもかつては札式で発されていました10 22 国債市場における競争札導の歴史的経緯

冒頭で記載したとおり国債についても以前は引受式に類する式で発されていました具体的には戦後国債が発されてから永らくシ団引受と資運部引受の 2 式が採られていましたシ団引受とは具体的には 1000 を超える融機関により国債引受のための団体(これをシンジケート団(いわゆるシ団)といいます)を作り発された国債をシ団が引き受ける形を指します(図 2 を参照)資運部引受とは旧蔵省(現財務省)における資運部資による国債の引受のことです戦後国債の発がなされてから永らく引受式による発が主要な役割を果たしていました

図 2 シ団引受の仕組み

出所財務省「債務管理リポート 2006」(p46)より抜粋 9 Google のオークションをいた上場についてはシュミット(2011)などを参照ください 10 我が国では 1997 年にブックビルディング式が導されて以降札式は活されていません(池 2015)株式の発に際してブックビルディング式とオークションのどちらが望ましいかについてはKutsuna and Smith (2004)や池(2015)などを参照してください

7

その後「債務管理リポート 2006」にもあるとおり市場参加者の意なども踏まえ1978 年には公募札が導されたほか1989 年にはシ団引受に部分的競争札が導されました同レポートによれば部分的競争札については「①導後も国債の札は引き続き順調にわれまた流通市場も較的落ち着いた動きをせていること②国の債務管理の在りに関する懇談会国債市場特別参加者会合国債投資家懇談会等において意を聴取したところ同制度の国債安定消化機能は導当初に期待された効果をあげておりシ団を廃しても問題ないとの解で概ね致をたことから平成 17 年度末をもってシ団引受をわないこととしました」(p47 より抜粋)とあります図 3 はシ団引受のシェアの推移をしていますが徐々に競争札による発の割合が増えていくことが確認できますシ団による発は 2006 年 3 に完全に廃されています11

図 3 シ団引受のシェアの推移

出所財務省「債務管理リポート 2006」(p47)より抜粋

11 幸(2000)は 2000 年前後の国債札制度の変遷について説の形式で記載しています

8

23 本国債のオークションの詳細コンベンショナル式とダッチ式

現在の国債市場では償還年限が1年以下の短期国債に加え2 年5 年10 年20 年30 年40 年債及び物価連動国債が発されていますがこれらの発条件はオークションによって定められます般的に発側は国債を安定的に消化しつつい値段で発したい(低い利で調達したい)と考えますが投資家側は出来る限り安く買いたい(い利で運したい)と考えています国債の発価格や利はその綱引きで決まるのですが現在いられている具体的な発法は40 年債と物価連動国債を除き「コンベンショナル式」と呼ばれる法がいられています40 年債と物価連動国債については「ダッチ式」と呼ばれる法で発されていますこれらのオークション式の違いの詳細は後述しますが部の国債についてダッチ式がいられている要因として相対的に流動性に懸念があるほか投資家が限定的であることなどが挙げられます12

財務省は市場関係者とも対話をしつつその時々で望ましいオークションの法をいています歴史的には中期債の発当初(1978~79 年)はダッチ式が採されましたが1979 年7にコンベンショナル式に改められ10 年債や 20 年債の競争札でもコンベンショナル式が採されました13ダッチ式については 1999 年に導された 30 年債や 2000 年に発が開始された 15 年変動利付債(現在は発が停)の発14で再び採されますもっとも30 年債の発については 2007 年 4 からダッチからコンベンショナ

12 財務省は 40 年国債についてダッチ式がいられている理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「40 年債の札式についてはこれまで当局としては投資家層の拡がりが限定的で他の年限と較して遜ない程度の流動性がられていないなどマーケットの成熟が確認されていないため利回りダッチ式の継続が適当ではないかとしてきたところ」「価格コンベンショナル式に移すべきという御意も定程度あったが国債市場特別参加者の数落札シェアのいずれでみても利回りダッチ式を維持すべきという御意が多数」としています 13 ここでの記述は副島花尻嶋(2001)などを参照しています 14 札での発開始は 2000 年 6 (第 8 回)ですが発体は私募で 1983 年2から開始されています

BOX 1 引受式(アンダーライティング)とは 引受式(アンダーライティング)では証券会社が発体と投資家との間にり発価格を調整していきます例えばある会社が新規株式を発することを決めた場合引受をう証券会社は投資家に当該株式を購しても良いと考える価格と数量をヒアリングしますその内容を証券会社は発体にフィードバックするという形で価格調整をしていきますこのような式を特にブックビルディング式といい現在本における株式や社債など多くの有価証券がこの法に基づき発されています

9

ル式に移しています15 国債のオークションに際しオークションの参加者は価格や利を提することで応札

するのですがコンベンショナル式では発体からみてメリットがある札(すなわちい価格や低い利で応札された札)から順番に落札していきますオークションには発標額があるため標額に達することとなる札までを落札とし落札最低価格未満の価格や落札最利を上回る利で応札した注は落札できないという形式を採っています例えば3000 億円の国債を札で発する際1 兆円の応札があったとしますこの場合発体はい価格で応札された札から順番に落札していきちょうど落札合計額が 3000 億円に達する価格まで落札することになります参加者が異なる価格で同じ財を購する点がコンベンショナル式の特徴です(数値例については BOX 2 を参照してください)

ダッチ式では同じように参加者が応札するのですが発体が標とする発額に達する価格で全員が購します前述のように 3000 億円の国債の発に対して1 兆円の応札があった際い価格から順番に落札していき落札合計額が標額である 3000 億円に達することとなる札までを落札としますがこの式では 3000 億円にちょうど達することとなった札の価格で皆律に購しますすなわちコンベンショナル式とは異なりダッチ式では落札できた国債について応札者が全員同じ価格で国債を購する点が特徴です

なおこのように国債の発価格は主にコンベンショナル式あるいはダッチ式で決定されますが価格競争札と呼ばれる競争札に基づかない式でも部発がなされています価格競争札は通常の競争札と同じタイミングで実施される第Ⅰ価格競争札と札後に実施される第Ⅱ価格競争札で構成されますが両者とも後述するプライマリーディーラーのみが参加できます16同札ではプライマリーディーラーは価格競争札においてオークションで決められた平均価格で国債を購できる権利を有しますがこれは後述する応札や落札義務などプライマリーディーラーが課された責任の対価と解釈可能です

15 財務省はダッチ式からコンベンショナル式へ変更した理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「市場の成熟」について指摘しており「40 年債の流動性は徐々にまっていると認識しているものの例えばP4 にしたグラフの通り30 年債の札式を価格コンベンショナル式に移した頃の業者間出来を現在の 40 年債はまだ超えていないことなどから当局としては未だ成熟しているとはい難い状況であると認識」とコメントしています 16 第Ⅰ価格競争札第Ⅱ価格競争札とは過去の落札実績(第Ⅰ)応札実績(第Ⅱ)等に基づき個社ごとに定められた限度額内で競争札の平均落札価格により国債を取得できる札です第Ⅰ価格競争札は 2005 年 4 第Ⅱ価格競争札は 2004 年 10 に導されています

10

BOX 2 コンベンショナル式とダッチ式のイメージ ここではコンベンショナル式とダッチ式を理解するために具体的な数値例を

い両式がどのような違いをもたらすのかについて考えてみましょう図 4 にしているとおり財務省が 1000 億円分の国債を札で発しようと考えておりプライマリーディーラーである A と B が応札するとしますこの際現在のマーケット環境に鑑みプライマリーディーラーA は 200 億円を 102 円101 円100 円99 円で応札するプライマリーディーラーB は 200 億円を 101 円100 円99 円で応札しているとしましょう

この場合1000 億円に達するまで財務省はらにとって利益のあるい価格から落札していきますこの例では 100 円のところでプライマリーディーラーA と B の応札額合計が 1000 億円に達するため100 円までの札が落札されますプライマリーディーラーA と B は 99 円で 200 億円ずつ応札していますがこの札は発額である 1000 億円を超過しているため落札されませんここまではコンベンショナル式もダッチ式も同じです

図 4 コンベンショナル式とダッチ式

注ここではわかりやすさを重視した図になっています実際のオークションではプライマリーディーラーが 3 社

以上存在する点などは捨象しています

1000億円の国債を発行

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円99円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円99円 200億円

応札

応札

互いの札は見えません

国債発行に際し入札を実施

<オークションの結果>1コンベンショナル方式(応札した価格で落札)

2ダッチ方式(1000億円に達した入札金額である100円で落札)

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーA100円 600億円

プライマリーディーラーB100円 400億円

財務省

11

コンベンショナル式とダッチ式の異なる点は購する価格ですコンベンショナル式の場合プライマリーディーラーA と B はそれぞれ分が応札した価格で落札しますすなわちプライマリーディーラーA は 102 円101 円100 円でそれぞれ 200 億円ずつ落札しプライマリーディーラーB は 101 円100 円で 200 億円ずつ落札しますダッチ式では1000 億円に達する価格すなわちそれぞれ落札できた額分(プライマリーディーラーA は 600 億円プライマリーディーラーB は 400 億円)をすべて律の価格である 100 円で落札します

なおこの例では応札額がちょうど 1000 億円になる事例にしていますが実際には発額を超過することがあります例えばこのケースにおいてプライマリーディーラーA が 100 円で(200 億円でなく)300 億円を応札していた場合応札額は 101 円の累計(600 億円)では 1000 億円に達しませんが100 円では応札額(累計)が 1100 億円となり発額である 1000 億円を超過しますこのようなケースでは超過した分が発額に収まるようにするため「『オファー額』と『案分価格帯の段上までの累計』との差分」を「案分価格帯に応札した額」で除することによって率(案分率)を作りますこの場合100 円で応札したAの 300 億円とBの 200 億円の合計(500 億円)が残り 400 億円に収まるようにするため「400500=08」が案分率となります

案分率の計算法(オファー額minus第Ⅰ競争minus切り価格の段上の応札額累計額)divide切り価格の応札額times100

BOX 3 イールドダッチ式 2〜30 年の利付国債についてはコンベンショナル式で発されていますがこれらは

札当の 10 時 30 分に利率(クーポン)が決定され価格で応札します現在40 年債は年度で 1 銘柄発されていますが年度最初のオークションの前には利率が定まっておらず複利利回りで応札するイールドダッチ式が採されていますこれは40 年債においてもしクーポンを定めてから価格で応札した場合デュレーション(利が変化した際の国債の価格感応度)がきいためオークションの結果単価が 100 円からきく乖離する可能性があるからです例えば100 円以下(以上)の価格で国債が発された場合発当局が当初予定した額より少なく(多く)調達することになるという問題を有しますその複利で応札してから利率を定めるイールドダッチ式であれば100 円(パー)に近い発が可能となり発体からみれば安定的な調達が可能になります

12

24 プライマリーディーラーの役割

現在の国債発に際しては主に証券会社で構成される国債市場特別参加者制度(いわゆるプライマリーディーラー制度)が重要な役割を果たしていますプライマリーディーラーとは証券会社などを中に国によって指定された業者のことで国債に関する札や落札の義務を負うで定の優遇措置を受けます先ほど及した価格競争札もプライマリーディーラーに認められた権利になります

BOX 4 市場参加者による札結果の解釈 財務省は国債の札結果として「応募額」「募決定額」「募最低価格」「募最低価

格における案分率」「募平均価格」を発表しています市場参加者はその札の結果を解釈する際しばしば「テール」や「応募倍率」などをいます

「テール」とは「平均価格」と「最低価格」の差になりますオークションに際し投資家が応札した札の分布(横軸に応札価格縦に応札した額)がありますが財務省は分布そのものを公表しないため市場参加者は「平均価格」と「最低価格」から分布を推測しますもし投資家の意が似通っていれば多くの札が分布の中付近に集まりますこの場合テールはさく証券会社及び投資家の意に相違が少ない札であると解釈可能です分布が中に寄っていない場合分布の平均からきく外れた札も落札されることからテールはきくなりますこの結果は証券会社及び投資家の意に相違がきかった札と解釈できます(しばしば市場参加者はテールがきい札を「札結果が流れた」と表現し札結果が不調であった可能性を考える傾向があります)

また「応募倍率」は「応募額」「募決定額」で計算し発額(募決定額)に対してどの程度応募があったかをみるもので数量のでどれくらい投資家が積極的にオークションに参加したのかを把握することができますこれ以外にも例えばBloomberg などが証券会社などの予測値を事前に公表しているためその予測値との乖離をいて札の結果を評価するなど投資家は様々な形でオークションの結果を解釈していますちなみにプライマリーディーラーなど各融機関がいくら落札したかについて財務省は公表していませんが間のベンダーが業者に落札額をヒアリングしています(もっともすべての融機関をカバーしているわけではないため「落札者不明分」が存在します)

なおダッチ式では本で記載したとおり参加者が律の価格で購するため募平均価格に相当する概念がなくテールは計算できません現在の 40 年債の札は利に基づくダッチ式であり「募最利回り」が公表されています

13

実際の国債の札ではプライマリーディーラーが多くの投資家から注を募ることなどを通じて投資家の需要を集めます例えばプライマリーディーラーでない融機関が札で国債の購をおうと考える際多くの場合分が買いたい値段(指値注)で証券会社に注することなどにより札に参加しますプライマリーディーラーはその札を集約して応札することになります

なお現在の制度ではプライマリーディーラー以外も定の条件で札に参加できる形になっています前述のとおり国では 1991 年にソロモンブラザーズが他名義をいて不正に国債の買い占め(スクイーズ)をったのですが国政府はそのようなスクイーズを防ぐことなどを的にプライマリーディーラー以外も札に参加できるように制度を改正しました(国債の札の詳細は BOX 7 を参照してくださいまたスクイーズの詳細は3節で説明します) 3国債のオークション理論 31 国債のオークションと情報の対称性 前章では本国債にかかるオークションの制度を中に議論を進めましたが本章ではオークションを実施する意味について考えていきます国債の発においてオークションをう本質的な理由は本政府側からみれば国債の買いが有する情報を分に把握していないつまり経済学の葉でいうと「情報の対称性」17があるからですそもそもオークションとは財やサービスを売る際買い側からのアクション等を踏まえて値決めをう仕組みですもし売りが買いの情報を全て知っていたのであればわざわざオークションなどせずとも最もい値段で買ってくれるであろう買いのところにって直接財やサービスを売れば良いわけですあるいは最もい値段で買ってくれるであろう買いを想定しその買いがギリギリ買ってくれるであろう値段を付けて売り出すことができるはずですそれをしないでオークションをうのは売りが買いの情報を全て知っているわけではなくむしろオークションという法を通じて買いの有する情報を札価格という形で発的に開してもらいそれを通じて売りが値決めをおうと考えているからに他なりません

売りよりも買いのがその商品の価値を熟知していたとしても全く不思議ではありません国債の札に際してはマーケットの現場にいるプライマリーディーラーや投資家のほうが発体である政府より国債の価値を理解している可能性はいとみることもできますこの状況は前述した情報の対称性が問題になっている局といえましょうそのため政府は投資家が有する情報を発的に開してもらうという意味でオークションをうまく設計する必要があるわけです

切なのはオークションによって投資家が分の情報を発的に開してくれるかど

17 情報の対称性とは買いと売りの間に情報の格差があることをす経済学の専語です

14

うかはその仕組みの巧拙にきく依存する点です極端な例ですが財務省が国債を発する際投資家が1しかいないことが予め投資家には分かっていたとしましょうそしてオークションでは単価ベースで 1 銭から札できるとしますもし買いが内では国債に 100 円払っても良いと思っていたとしてもこの状況下では投資家は最低価格である 1銭で札し落札することになるでしょうこうなると発体である財務省は本来であれば買いの評価額付近の価格で発することにより多くの資調達をできる可能性があったのにもかかわらずその資が調達できないことになります

32 「私的価値」をいたオークション理論の基礎

上記のような例を考えても政府にとってはオークションをうまく設計することで投資家やプライマリーディーラーにうまく情報を開してもらうことが肝要ですここからは国債のオークションにおいて投資家がどのように価格を開していくかを考えるためオークションの仕組みについて具体的に考えていきます我々がにする典型的なオークションは1つの財に対して複数の参加者が札し最も値をれた者が落札するような仕組みですこのようなオークションを「単財オークション」といいます ここからは単財オークションについて考えていきますがまずオークションの参加者個々がある財に対して有するそれぞれの評価額に基づき意思決定すると想定しますこのような評価を「私的価値(private value)」といいます例えばオークションでコンサートのチケットを 1 枚販売するケースにおいて参加者が私的価値に基づき評価しているとしましょうこの場合このオークションの参加者の中にはチケットを常に欲しているやあまり欲しいと思わないなど当該チケットに対して異なる評価をする達がいる(チケットという財に対する評価が分かれている)状況を想定しています

ここで財務省が 10 年債 1 銘柄をオークションにより発する場合(すなわち単財オークションを実施する場合)市場参加者が私的価値に基づくとするとどのような結果が得られるかを考えるため次のような設定を考えますすなわち財務省が発する1銘柄に対して異なる評価を持つ4社の投資家が札に参加するケースを取り上げますこの 10年債についてはA社は 101 円までなら払って良いと内考えているとします同様にB社は 100 円までならC社は 99 円までならD社は 98 円までなら払って良いと考えているとしましょうみな分が幾らまでなら払って良いかは分かっているのですが他社のの内は分かりませんここでは他社の評価額が幾らであっても分の評価額は変わらないことを前提とします 第価格札式 札者は各々応札価格を決めて封をして提出し18番値で応札した投資家が落札し

18 このように封をして他の参加者の札が分からないオークションを「封印型オークション(sealed bid

15

その応札価格を払うとしましょうこのような札法を「第価格札式」といいますがA 社にとって望ましい応札価格は幾らでしょうか当然分の評価額である 101 円を上回る価格では札しないでしょうそんな価格で落札してしまったら却って損してしまいますまた101 円丁度で札して落札しても利得は 0 円ですからうまみはありませんしたがってA 社は 101 円を下回る価格で札することが予想されるわけですが安い価格で落札できたが得する応札価格が低ければ低いほど落札確率が下がってしまいます

経済学ではこのように意思決定者が不確実性に直した場合確率をいることで意思決定者がどのように動するかについて分析をいます例えばここでは 4 社の評価額が 97 円以上102 円以下の範囲でランダム19に分布していることが公知であったとしましょう4社は相の応札価格を想像しながら分の応札価格を決めていく必要がありますが実は定の想定の下で A 社の最適な戦略を呈することができます意思決定者がその不確実性を考慮したリターンすなわち期待利得(落札確率times利得)が最になるように応札価格を決めることを想定すると20最低額(ここでは 97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札することが最適な戦略であることを証明できます21(証明の詳細は BOX 5 を参照してください)具体的にはA 社にとってこのケースでは 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円で応札することが最適な戦略になります同様に B~D 社についても最適な応札価格を計算できますがA 社の評価額が番いことから A 社が落札するため発体は A 社の応札価格である 100 円で国債を売ることができます22(図5参照)

auction)」といいますオークションの価格を参加者が把握可能なオークションを「公開型オークション(open bid auction)」といいます 19 専的にいえば様分布であるといいます 20 もっともリスク回避的であることを仮定する場合など必ずしも期待利得を最化するように動しない投資家を想定することもありますが本稿では簡明な説明のため期待利得最化の場合のみを紹介します 21 専的にいえばベイジアン=ナッシュ均衡であるといいます分以外の皆が最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札するという戦略を採るのであれば分も同じ戦略を採ることにより落札確率times利得を最化することができますもっとも分以外の者が必ずしもこのような合理的な戦略を採らないのであればこのような戦略に拘らないが落札確率times利得を最化することができるかもしれませんそのためここで挙げた最適戦略とはあくまで分以外の者も合理的に動すると仮定した場合の最適戦略ということができます 22 般的にこのような場合評価額が番いの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times =97 円+5 円times =101 円となるので発体の期待収は 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円となります

16

図 5 第価格札式の例

上記の結果は札参加者が4であることに依存しています般的に札参加者が であれば札者は最低額(97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格で応札することが最適な戦略になることもすことができます例えば札者が2であれば最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の半分を加算した価格が最適な戦略です 第価格札式 ここまで私的価値に基づく単財オークションについて落札者が応札価格と同額を払う第価格札式を考えてきましたもっとも最近インターネットにおけるオークションなどでは「第価格札式」という式も使われるようになってきています23各々応札価格を決めて封をして提出した上で番値で応札したが落札するところまでは第価格札式と同じです第価格札式がい点はそのの払額が番に値で応札したの応札価格に基づく点であり理論的24に札者は分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる点です25(これを「耐戦略性」といいますまたこの法が最適な戦略となる直感的な解説については BOX 6 を参照してください)

先ほど挙げた国債の札において今度は発体が第価格札式に基づき実施したとします各社の最適な動は素直に分の評価額を表明することですからA 社は分の

23 例えばインターネットオークションを運営する eBay ではこのような式がいられています但し参加者の付け値が時間が経つにつれて明らかになるところが通常の封印型の第価格札式と異なります(キシテイニー 2018) 24 共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります 25 ここでは第価格札式の場合とは異なり分以外の者がどんな戦略をててきても分は分の評価額を札することにより落札確率times利得を最化することができるので分の評価額を札することが配戦略ということになります

評価額 入札額 利得A社 101円 100円 1円

B社 100円 925円 075円

C社 99円 985円 05円

D社 98円 9775円 025円

財務省

17

評価額である 101 円で応札しB 社も分の評価額である 100 円で応札します結果的にA 社は落札に成功しB 社の応札価格である 100 円を払うことになります26 収同値定理 私的価値に基づく単財オークションについて第価格札式と第価格札式を考えてきましたが我々が気になる点はこのつの式のどちらが発体にとって優れているかです驚くべき点は実は定の条件27の下どのようなオークションをっても発体が期待できる収額は定であることが証明できることですこれを「収同値定理」(Revenue Equivalence Theorem)といいます(Myerson 1981 Riley and Samuelson 1981)これはオークション理論における字塔的な定理といえましょうこの定理によれば発体は少なくとも期待できる収額の点からはオークションの仕組みについて殆ど気にしないで良いことが分かります実際上記の例をみればどちらの式でも発価格が 100円になっており売りの収は同じになっていることが確認できます

無論オークションの仕組みを検討する際には期待できる収額以外にも留意すべき点は多々あります例えばどのくらいの札者を込めるか或いはどのような不正が起こり得るかなども看過できずこれらはオークションの仕組みによって異なり得ますしかしオークションは分が有する財を売るために実施しているわけですから期待できる収額が重要な点であることには変わりありません国債の場合発体からみれば「期待できる収」とは「調達コストを抑えること」に相当するため収同値定理は発体にとっても重要な定理であるといえます 33 共通価値(common value) これまで個々が財に対して異なる評価額を有することを前提とする「私的価値」に基づ

き議論を進めてきましたが国債のオークションでは「共通価値(common value)」に基づいて理論が構築されることもあります28「共通価値」とは全ての札者がオークションの対象となる財の価値を同じように評価するという仮定です例えばべ物のように々

26 般的にこのような場合評価額が番にいの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times

=97 円+5 円times =100 円となるので発体の期待収も 100 円となります 27 収同値定理が成するためには①全ての札者はリスク中的②共通した分布関数から互いに独に私的価値を得る③最もい私的価値を持つ者が落札し最も低い私的価値を持つ者の期待利得はゼロであるといった前提条件が置かれていますこの中で最も強い前提は「互いに独に私的価値」の部分でありしたがって転売などを念頭に置いているオークションの場合は他の評価額によって分の評価額も影響を受けざるを得ないため必ずしも収同値定理は成しません国債を始めとする有価証券のオークションの場合にも当然に転売も念頭に置かれていると考えられるため般的にこの収同値定理の前提条件が満たされているとは考え難いです 28 共通価値についてより詳細を知りたいは上(2010)などを参照してください

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 3: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

2

1 はじめに オークションの歴史は古く記録に残るだけでも紀元前 500 年のバビロニアまで遡るこ

とができます(Schneider 2010)にもかかわらずオークションの理論的分析が始まったのはウィリアムヴィックリー教授の 1961 年の論(Vickrey 1961)からであり学問分野としては々60 年ほどの歴史しかありませんもっともその間に当のヴィックリー教授が 1996 年にノーベル経済学賞を受賞した他オークション理論の発展にも貢献したレオニードハーヴィッツ教授エリックマスキン教授ロジャーマイヤーソン教授が 2007年にノーベル経済学賞を受賞しており更には近年のウェブ上でのオークションの発展とも相俟って学など他分野との連携も深化させながら益々注度が増している分野となっています

本では財政を取り巻く厳しい状況等も反映し年間の国債発額がおよそ 150 兆円となっておりこの規模な国債の宗がオークションによって発されています本ではいわば最級ともいえる規模のオークションが毎週のようにわれているわけですではそもそもなぜ国債を発するうえでオークションをいるのでしょうか歴史的にれば国債は必ずしもオークションによって発されていたわけではありません現在でも株式や社債を始め多くの有価証券は引受式と呼ばれるオークション以外の法で発されています国債も従来は国債募集引受団引受式(シ団引受式)などをいて発されていましたがシ団引受式は 2005 年度を以って廃となり現在は概ねオークションにより発されるようになっています

アメリカのアルゴア元副統領がいうとおりオークションとはオークションに掛けられているものを最もく評価する者を落札者とする仕組みです2その意味でオークションをいて国債を発することは公平かつ簡明な制度をいているとも評価できますもっとも公平かつ簡明とはいっても実はオークションには様々な式があり式の巧拙により結果も変わってきてしまいますどのような式を採すれば本政府や市場参加者などにとって最善なのでしょうか

オークションの理論は経済学の中でも数理的な展開が多いこともあり国債の札にかかる学術研究の成果は国債市場における政策担当者や実務家の間でさほど浸透していません本国債の場合オークション理論の語と実務の語に乖離がられることもその因でしょう例えば本国債のオークションでは基本的にはコンベンショナル式がいられており40 年国債や物価連動国債といった部の国債についてはダッチ式がいられていますしかしオークション理論やミクロ経済学の教科書を開いても必ずしもこれらの語をみつけることはできないことからこれらの知を実際の実務にかすことは容易ではありませんそこで本稿はできる限り平易な葉でオークション理論の研究成果を解説するとともに実務的な論点との関連付けをうことを通じて国債市場の実務家

2 原rdquoputting licenses into the hands of those who value them mostrdquo(Milgrom 2004 p4)

3

にとってオークション理論を近にすることひいては政策的な議論に資することを指します

前述のとおり本国債のオークションではコンベンショナル式とダッチ式が併されていますがどちらも応札された札について落札合計額が発標額に達するまでい価格から順番に落札しますもっともコンベンショナル式では落札となった各札の応札価格がそのまま各札の落札価格となるダッチ式では発標額に達した最後の札の応札価格すなわち最も低い落札価格が全ての落札者の落札価格に適され全銘柄律の価格で発されますこのことに鑑みるとコンベンショナル式ではい価格で応札された国債についてい価格で発できることから発体にとってメリットがあるように思われるかも知れません

オークション理論のい点は必ずしもこのような直観的な帰結が得られない可能性がある点です例えば札に参加する市場参加者からみればコンベンショナル式であると値で応札した札がその価格で落札されてしまうため結果的に割で掴まされてしまうかもしれませんこのようなな帰結を「勝者の呪い」といいますいわばオークションの勝者には「敗者」となる呪いがかけられているわけですしたがってコンベンショナル式では市場参加者が値で掴まされることを忌避し消極的に応札することで却って発価格が下がり(調達コストが上昇し3)発体にとってデメリットとなる可能性もありますダッチ式では分が札をれた価格ではなく標額に達する最低落札価格で購できますから多くの投資家が積極的に応札することで結果的に発価格が上がることを通じ発体にメリットがある可能性もありますこの例をてもどちらの式のが発体等にとってメリットがあるかどうかは必ずしも定かではありません

このようにオークションに参加する投資家は互いの動を予測して動するためゲーム理論の葉を借りれば戦略的関係にあるといえます国債のオークションにかかる理論研究ではゲーム理論などを援しながら理論的にどういう帰結がまれるかの予測を提します詳細は次節以降で議論しますが残念ながら望ましいオークションの仕組みは般的に簡明な結果が得られているわけではなく投資家の属性や市場の状況などに依るところが少なくありませんもっとも例えば買い占めや共謀など市場の置かれている問題点がはっきりしている条件下ではどのようなオークション式が良いのかについて定の理論的回答は得られています慶應義塾学の坂井豊貴先の葉を借りれば「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」ものとして機能しているとみることもできます4

3 債券価格と利(調達コスト)は逆の動きをします債券(固定利付債)の場合クーポン(キャッシュフロー)が固定されていますから価格が上昇するとその債券のリターン(利)は低下します(他の条件を定にすれば)購する価格が上がればリターンが低下することは株式や不動産などすべての資産について共通していえることです 4 坂井(2013 p 211)を参照してください

4

このことはオークションの実証研究についても当てはまります本稿では多数の実証研究を紹介しますが残念ながら実証研究について必ずしも統的な結果が得られているとはえません例えば本稿で紹介する Hortaccedilsu and McAdams (2010)はオークション式の変更によってさほどきな差をまない可能性を指摘していますすなわち学術的にい評価を受けた論ですら特定のオークションを持しているとはいえないのです図1 は諸外国の国債の種類と発式をまとめていますが国ではダッチ式を活している欧州では主にコンベンショナル式がいられているなど先進国の制度においてもオークションの式に統性はみられていません 図 1 諸外国の国債の種類と発式

(出所)財務省「債務管理リポート 2019」(p51)より抜粋

各国の発当局はその時々で望ましいと考えられる札式を選択してきましたかつ

て国ではコンベンショナル式をいていましたがダッチ式への移は 1960 年代に既にノーベル賞受賞者のミルトンフリードマン教授が提案していました5国では 1991年に起こった国投資銀ソロモンブラザーズによる国債買い占めのスキャンダル等をうけダッチ式へ舵を切ります国ではこの制度変更に伴い国財務省連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board FRB)国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission SEC)はオークション式を含めた国債市場に関する包括的な調査6を実施

5 ハバードパーシュ(2017)などを参照してくださいもっとも坂井(2013)では「1991 年に経済学者ミルトンフリードマンとマートンミラーが新聞上で次点価格オークションが耐戦略性を満たすといった内容の発をしビット払いオークションから次点価格オークションへの変更を勧めて」(p209-p210)いたものの次点価格オークション(ダッチオークション)は理論的に耐戦略性(札者が分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる性質)を満たさないことから「おそらく誤解があった」と指摘しています 6 詳しくはDepartment of the Treasury Securities and Exchange Commission Board of Governors of the Federal Reserve System (1992) rdquoJoint Report on the Government Securities Marketrdquoを参照してください

5

しています オークション式の変更は国にとどまりません例えばフランスではダッチ式から

コンベンショナル式へ変更がなされており我が国でも 30 年国債を 2007 年にダッチ式からコンベンショナル式に変更していますこのように実際に各国の発当局が札式を変更してきた歴史があることから今後もその時々の状況に鑑み政府が適切な札な式を考えていく必要性があるのです

本稿の構成は以下のとおりです2章では本における国債のオークションの実態や歴史的変遷を振り返ります3章ではオークション理論の観点から4章ではオークションに係る実証的研究の観点から国債オークションを分析します5章はまとめです 2本国債のオークションの概要 21 国債と本の資本市場 融の重要な役割のつは政府や企業など資を持っていない主体(字主体)と家計など資を持っている主体(字主体)を繋ぐことで経済を効率的に回すことです字主体が株式や債券などを発し字主体がそれを購することを通じて資融通をうことを直接融という銀等を経由して字主体と字主体を繋ぐことを間接融といいます我が国家計融資産の半数程度が預であることから我が国は間接融主体の融システムを有していますが本国債については他の先進国と同様直接融を通じて資融通がなされています具体的には本政府が発した国債を銀や保険会社などが購することを通じて本政府は資調達をっています 上記のように国債を通じた政府による資調達は直接融に基づきますが国債などの有価証券が取引される市場は発市場(プライマリー市場)と流通市場(セカンダリー市場)で構成されます発市場とは財務省が新規に債券を発して資調達をする市場であり流通市場とは既に発された国債を売買する市場です国債のような債券の流通市場では証券会社が債券を在庫として保有し価格を提することで市場を形成していることが特徴です本国債の場合例えば10 年利付国債を新規に発するとしても既に市場では 10 年利付国債に類似した国債(例えば3 か前に発した 10 年利付国債など)が流通していますから流通市場で形成された価格は国債の新規発にきな影響をもたらします7 本稿では発市場における国債発価格がオークションを通じて決定される点を深堀りしていきますが実は有価証券の発において札という形式が採られているケースは我が国では国債や部の債券など8に限られます株式や社債などの多くの有価証券では引 7 現在では銘柄統合(リオープン)が拡充されているため既に発されている国債と同の国債が札で追加発されるケースも少なくありません 8 例えば本速道路保有債務返済機構や兵庫県の起債に際しイールドダッチ式が活されることがあるなど国債以外の債券でもオークションがいられるケースがあります

6

受式(アンダーライティング)が採られています引受式では証券会社が発体と投資家との間にち両者が合意できる価格を探ることで有価証券が発されています(詳細はBOX 1 を参照してください)もっとも原理的には株式や社債についてもオークションで発することは可能です事実Google はオークションで新規株式公開をしましたし9本の株式市場でもかつては札式で発されていました10 22 国債市場における競争札導の歴史的経緯

冒頭で記載したとおり国債についても以前は引受式に類する式で発されていました具体的には戦後国債が発されてから永らくシ団引受と資運部引受の 2 式が採られていましたシ団引受とは具体的には 1000 を超える融機関により国債引受のための団体(これをシンジケート団(いわゆるシ団)といいます)を作り発された国債をシ団が引き受ける形を指します(図 2 を参照)資運部引受とは旧蔵省(現財務省)における資運部資による国債の引受のことです戦後国債の発がなされてから永らく引受式による発が主要な役割を果たしていました

図 2 シ団引受の仕組み

出所財務省「債務管理リポート 2006」(p46)より抜粋 9 Google のオークションをいた上場についてはシュミット(2011)などを参照ください 10 我が国では 1997 年にブックビルディング式が導されて以降札式は活されていません(池 2015)株式の発に際してブックビルディング式とオークションのどちらが望ましいかについてはKutsuna and Smith (2004)や池(2015)などを参照してください

7

その後「債務管理リポート 2006」にもあるとおり市場参加者の意なども踏まえ1978 年には公募札が導されたほか1989 年にはシ団引受に部分的競争札が導されました同レポートによれば部分的競争札については「①導後も国債の札は引き続き順調にわれまた流通市場も較的落ち着いた動きをせていること②国の債務管理の在りに関する懇談会国債市場特別参加者会合国債投資家懇談会等において意を聴取したところ同制度の国債安定消化機能は導当初に期待された効果をあげておりシ団を廃しても問題ないとの解で概ね致をたことから平成 17 年度末をもってシ団引受をわないこととしました」(p47 より抜粋)とあります図 3 はシ団引受のシェアの推移をしていますが徐々に競争札による発の割合が増えていくことが確認できますシ団による発は 2006 年 3 に完全に廃されています11

図 3 シ団引受のシェアの推移

出所財務省「債務管理リポート 2006」(p47)より抜粋

11 幸(2000)は 2000 年前後の国債札制度の変遷について説の形式で記載しています

8

23 本国債のオークションの詳細コンベンショナル式とダッチ式

現在の国債市場では償還年限が1年以下の短期国債に加え2 年5 年10 年20 年30 年40 年債及び物価連動国債が発されていますがこれらの発条件はオークションによって定められます般的に発側は国債を安定的に消化しつつい値段で発したい(低い利で調達したい)と考えますが投資家側は出来る限り安く買いたい(い利で運したい)と考えています国債の発価格や利はその綱引きで決まるのですが現在いられている具体的な発法は40 年債と物価連動国債を除き「コンベンショナル式」と呼ばれる法がいられています40 年債と物価連動国債については「ダッチ式」と呼ばれる法で発されていますこれらのオークション式の違いの詳細は後述しますが部の国債についてダッチ式がいられている要因として相対的に流動性に懸念があるほか投資家が限定的であることなどが挙げられます12

財務省は市場関係者とも対話をしつつその時々で望ましいオークションの法をいています歴史的には中期債の発当初(1978~79 年)はダッチ式が採されましたが1979 年7にコンベンショナル式に改められ10 年債や 20 年債の競争札でもコンベンショナル式が採されました13ダッチ式については 1999 年に導された 30 年債や 2000 年に発が開始された 15 年変動利付債(現在は発が停)の発14で再び採されますもっとも30 年債の発については 2007 年 4 からダッチからコンベンショナ

12 財務省は 40 年国債についてダッチ式がいられている理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「40 年債の札式についてはこれまで当局としては投資家層の拡がりが限定的で他の年限と較して遜ない程度の流動性がられていないなどマーケットの成熟が確認されていないため利回りダッチ式の継続が適当ではないかとしてきたところ」「価格コンベンショナル式に移すべきという御意も定程度あったが国債市場特別参加者の数落札シェアのいずれでみても利回りダッチ式を維持すべきという御意が多数」としています 13 ここでの記述は副島花尻嶋(2001)などを参照しています 14 札での発開始は 2000 年 6 (第 8 回)ですが発体は私募で 1983 年2から開始されています

BOX 1 引受式(アンダーライティング)とは 引受式(アンダーライティング)では証券会社が発体と投資家との間にり発価格を調整していきます例えばある会社が新規株式を発することを決めた場合引受をう証券会社は投資家に当該株式を購しても良いと考える価格と数量をヒアリングしますその内容を証券会社は発体にフィードバックするという形で価格調整をしていきますこのような式を特にブックビルディング式といい現在本における株式や社債など多くの有価証券がこの法に基づき発されています

9

ル式に移しています15 国債のオークションに際しオークションの参加者は価格や利を提することで応札

するのですがコンベンショナル式では発体からみてメリットがある札(すなわちい価格や低い利で応札された札)から順番に落札していきますオークションには発標額があるため標額に達することとなる札までを落札とし落札最低価格未満の価格や落札最利を上回る利で応札した注は落札できないという形式を採っています例えば3000 億円の国債を札で発する際1 兆円の応札があったとしますこの場合発体はい価格で応札された札から順番に落札していきちょうど落札合計額が 3000 億円に達する価格まで落札することになります参加者が異なる価格で同じ財を購する点がコンベンショナル式の特徴です(数値例については BOX 2 を参照してください)

ダッチ式では同じように参加者が応札するのですが発体が標とする発額に達する価格で全員が購します前述のように 3000 億円の国債の発に対して1 兆円の応札があった際い価格から順番に落札していき落札合計額が標額である 3000 億円に達することとなる札までを落札としますがこの式では 3000 億円にちょうど達することとなった札の価格で皆律に購しますすなわちコンベンショナル式とは異なりダッチ式では落札できた国債について応札者が全員同じ価格で国債を購する点が特徴です

なおこのように国債の発価格は主にコンベンショナル式あるいはダッチ式で決定されますが価格競争札と呼ばれる競争札に基づかない式でも部発がなされています価格競争札は通常の競争札と同じタイミングで実施される第Ⅰ価格競争札と札後に実施される第Ⅱ価格競争札で構成されますが両者とも後述するプライマリーディーラーのみが参加できます16同札ではプライマリーディーラーは価格競争札においてオークションで決められた平均価格で国債を購できる権利を有しますがこれは後述する応札や落札義務などプライマリーディーラーが課された責任の対価と解釈可能です

15 財務省はダッチ式からコンベンショナル式へ変更した理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「市場の成熟」について指摘しており「40 年債の流動性は徐々にまっていると認識しているものの例えばP4 にしたグラフの通り30 年債の札式を価格コンベンショナル式に移した頃の業者間出来を現在の 40 年債はまだ超えていないことなどから当局としては未だ成熟しているとはい難い状況であると認識」とコメントしています 16 第Ⅰ価格競争札第Ⅱ価格競争札とは過去の落札実績(第Ⅰ)応札実績(第Ⅱ)等に基づき個社ごとに定められた限度額内で競争札の平均落札価格により国債を取得できる札です第Ⅰ価格競争札は 2005 年 4 第Ⅱ価格競争札は 2004 年 10 に導されています

10

BOX 2 コンベンショナル式とダッチ式のイメージ ここではコンベンショナル式とダッチ式を理解するために具体的な数値例を

い両式がどのような違いをもたらすのかについて考えてみましょう図 4 にしているとおり財務省が 1000 億円分の国債を札で発しようと考えておりプライマリーディーラーである A と B が応札するとしますこの際現在のマーケット環境に鑑みプライマリーディーラーA は 200 億円を 102 円101 円100 円99 円で応札するプライマリーディーラーB は 200 億円を 101 円100 円99 円で応札しているとしましょう

この場合1000 億円に達するまで財務省はらにとって利益のあるい価格から落札していきますこの例では 100 円のところでプライマリーディーラーA と B の応札額合計が 1000 億円に達するため100 円までの札が落札されますプライマリーディーラーA と B は 99 円で 200 億円ずつ応札していますがこの札は発額である 1000 億円を超過しているため落札されませんここまではコンベンショナル式もダッチ式も同じです

図 4 コンベンショナル式とダッチ式

注ここではわかりやすさを重視した図になっています実際のオークションではプライマリーディーラーが 3 社

以上存在する点などは捨象しています

1000億円の国債を発行

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円99円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円99円 200億円

応札

応札

互いの札は見えません

国債発行に際し入札を実施

<オークションの結果>1コンベンショナル方式(応札した価格で落札)

2ダッチ方式(1000億円に達した入札金額である100円で落札)

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーA100円 600億円

プライマリーディーラーB100円 400億円

財務省

11

コンベンショナル式とダッチ式の異なる点は購する価格ですコンベンショナル式の場合プライマリーディーラーA と B はそれぞれ分が応札した価格で落札しますすなわちプライマリーディーラーA は 102 円101 円100 円でそれぞれ 200 億円ずつ落札しプライマリーディーラーB は 101 円100 円で 200 億円ずつ落札しますダッチ式では1000 億円に達する価格すなわちそれぞれ落札できた額分(プライマリーディーラーA は 600 億円プライマリーディーラーB は 400 億円)をすべて律の価格である 100 円で落札します

なおこの例では応札額がちょうど 1000 億円になる事例にしていますが実際には発額を超過することがあります例えばこのケースにおいてプライマリーディーラーA が 100 円で(200 億円でなく)300 億円を応札していた場合応札額は 101 円の累計(600 億円)では 1000 億円に達しませんが100 円では応札額(累計)が 1100 億円となり発額である 1000 億円を超過しますこのようなケースでは超過した分が発額に収まるようにするため「『オファー額』と『案分価格帯の段上までの累計』との差分」を「案分価格帯に応札した額」で除することによって率(案分率)を作りますこの場合100 円で応札したAの 300 億円とBの 200 億円の合計(500 億円)が残り 400 億円に収まるようにするため「400500=08」が案分率となります

案分率の計算法(オファー額minus第Ⅰ競争minus切り価格の段上の応札額累計額)divide切り価格の応札額times100

BOX 3 イールドダッチ式 2〜30 年の利付国債についてはコンベンショナル式で発されていますがこれらは

札当の 10 時 30 分に利率(クーポン)が決定され価格で応札します現在40 年債は年度で 1 銘柄発されていますが年度最初のオークションの前には利率が定まっておらず複利利回りで応札するイールドダッチ式が採されていますこれは40 年債においてもしクーポンを定めてから価格で応札した場合デュレーション(利が変化した際の国債の価格感応度)がきいためオークションの結果単価が 100 円からきく乖離する可能性があるからです例えば100 円以下(以上)の価格で国債が発された場合発当局が当初予定した額より少なく(多く)調達することになるという問題を有しますその複利で応札してから利率を定めるイールドダッチ式であれば100 円(パー)に近い発が可能となり発体からみれば安定的な調達が可能になります

12

24 プライマリーディーラーの役割

現在の国債発に際しては主に証券会社で構成される国債市場特別参加者制度(いわゆるプライマリーディーラー制度)が重要な役割を果たしていますプライマリーディーラーとは証券会社などを中に国によって指定された業者のことで国債に関する札や落札の義務を負うで定の優遇措置を受けます先ほど及した価格競争札もプライマリーディーラーに認められた権利になります

BOX 4 市場参加者による札結果の解釈 財務省は国債の札結果として「応募額」「募決定額」「募最低価格」「募最低価

格における案分率」「募平均価格」を発表しています市場参加者はその札の結果を解釈する際しばしば「テール」や「応募倍率」などをいます

「テール」とは「平均価格」と「最低価格」の差になりますオークションに際し投資家が応札した札の分布(横軸に応札価格縦に応札した額)がありますが財務省は分布そのものを公表しないため市場参加者は「平均価格」と「最低価格」から分布を推測しますもし投資家の意が似通っていれば多くの札が分布の中付近に集まりますこの場合テールはさく証券会社及び投資家の意に相違が少ない札であると解釈可能です分布が中に寄っていない場合分布の平均からきく外れた札も落札されることからテールはきくなりますこの結果は証券会社及び投資家の意に相違がきかった札と解釈できます(しばしば市場参加者はテールがきい札を「札結果が流れた」と表現し札結果が不調であった可能性を考える傾向があります)

また「応募倍率」は「応募額」「募決定額」で計算し発額(募決定額)に対してどの程度応募があったかをみるもので数量のでどれくらい投資家が積極的にオークションに参加したのかを把握することができますこれ以外にも例えばBloomberg などが証券会社などの予測値を事前に公表しているためその予測値との乖離をいて札の結果を評価するなど投資家は様々な形でオークションの結果を解釈していますちなみにプライマリーディーラーなど各融機関がいくら落札したかについて財務省は公表していませんが間のベンダーが業者に落札額をヒアリングしています(もっともすべての融機関をカバーしているわけではないため「落札者不明分」が存在します)

なおダッチ式では本で記載したとおり参加者が律の価格で購するため募平均価格に相当する概念がなくテールは計算できません現在の 40 年債の札は利に基づくダッチ式であり「募最利回り」が公表されています

13

実際の国債の札ではプライマリーディーラーが多くの投資家から注を募ることなどを通じて投資家の需要を集めます例えばプライマリーディーラーでない融機関が札で国債の購をおうと考える際多くの場合分が買いたい値段(指値注)で証券会社に注することなどにより札に参加しますプライマリーディーラーはその札を集約して応札することになります

なお現在の制度ではプライマリーディーラー以外も定の条件で札に参加できる形になっています前述のとおり国では 1991 年にソロモンブラザーズが他名義をいて不正に国債の買い占め(スクイーズ)をったのですが国政府はそのようなスクイーズを防ぐことなどを的にプライマリーディーラー以外も札に参加できるように制度を改正しました(国債の札の詳細は BOX 7 を参照してくださいまたスクイーズの詳細は3節で説明します) 3国債のオークション理論 31 国債のオークションと情報の対称性 前章では本国債にかかるオークションの制度を中に議論を進めましたが本章ではオークションを実施する意味について考えていきます国債の発においてオークションをう本質的な理由は本政府側からみれば国債の買いが有する情報を分に把握していないつまり経済学の葉でいうと「情報の対称性」17があるからですそもそもオークションとは財やサービスを売る際買い側からのアクション等を踏まえて値決めをう仕組みですもし売りが買いの情報を全て知っていたのであればわざわざオークションなどせずとも最もい値段で買ってくれるであろう買いのところにって直接財やサービスを売れば良いわけですあるいは最もい値段で買ってくれるであろう買いを想定しその買いがギリギリ買ってくれるであろう値段を付けて売り出すことができるはずですそれをしないでオークションをうのは売りが買いの情報を全て知っているわけではなくむしろオークションという法を通じて買いの有する情報を札価格という形で発的に開してもらいそれを通じて売りが値決めをおうと考えているからに他なりません

売りよりも買いのがその商品の価値を熟知していたとしても全く不思議ではありません国債の札に際してはマーケットの現場にいるプライマリーディーラーや投資家のほうが発体である政府より国債の価値を理解している可能性はいとみることもできますこの状況は前述した情報の対称性が問題になっている局といえましょうそのため政府は投資家が有する情報を発的に開してもらうという意味でオークションをうまく設計する必要があるわけです

切なのはオークションによって投資家が分の情報を発的に開してくれるかど

17 情報の対称性とは買いと売りの間に情報の格差があることをす経済学の専語です

14

うかはその仕組みの巧拙にきく依存する点です極端な例ですが財務省が国債を発する際投資家が1しかいないことが予め投資家には分かっていたとしましょうそしてオークションでは単価ベースで 1 銭から札できるとしますもし買いが内では国債に 100 円払っても良いと思っていたとしてもこの状況下では投資家は最低価格である 1銭で札し落札することになるでしょうこうなると発体である財務省は本来であれば買いの評価額付近の価格で発することにより多くの資調達をできる可能性があったのにもかかわらずその資が調達できないことになります

32 「私的価値」をいたオークション理論の基礎

上記のような例を考えても政府にとってはオークションをうまく設計することで投資家やプライマリーディーラーにうまく情報を開してもらうことが肝要ですここからは国債のオークションにおいて投資家がどのように価格を開していくかを考えるためオークションの仕組みについて具体的に考えていきます我々がにする典型的なオークションは1つの財に対して複数の参加者が札し最も値をれた者が落札するような仕組みですこのようなオークションを「単財オークション」といいます ここからは単財オークションについて考えていきますがまずオークションの参加者個々がある財に対して有するそれぞれの評価額に基づき意思決定すると想定しますこのような評価を「私的価値(private value)」といいます例えばオークションでコンサートのチケットを 1 枚販売するケースにおいて参加者が私的価値に基づき評価しているとしましょうこの場合このオークションの参加者の中にはチケットを常に欲しているやあまり欲しいと思わないなど当該チケットに対して異なる評価をする達がいる(チケットという財に対する評価が分かれている)状況を想定しています

ここで財務省が 10 年債 1 銘柄をオークションにより発する場合(すなわち単財オークションを実施する場合)市場参加者が私的価値に基づくとするとどのような結果が得られるかを考えるため次のような設定を考えますすなわち財務省が発する1銘柄に対して異なる評価を持つ4社の投資家が札に参加するケースを取り上げますこの 10年債についてはA社は 101 円までなら払って良いと内考えているとします同様にB社は 100 円までならC社は 99 円までならD社は 98 円までなら払って良いと考えているとしましょうみな分が幾らまでなら払って良いかは分かっているのですが他社のの内は分かりませんここでは他社の評価額が幾らであっても分の評価額は変わらないことを前提とします 第価格札式 札者は各々応札価格を決めて封をして提出し18番値で応札した投資家が落札し

18 このように封をして他の参加者の札が分からないオークションを「封印型オークション(sealed bid

15

その応札価格を払うとしましょうこのような札法を「第価格札式」といいますがA 社にとって望ましい応札価格は幾らでしょうか当然分の評価額である 101 円を上回る価格では札しないでしょうそんな価格で落札してしまったら却って損してしまいますまた101 円丁度で札して落札しても利得は 0 円ですからうまみはありませんしたがってA 社は 101 円を下回る価格で札することが予想されるわけですが安い価格で落札できたが得する応札価格が低ければ低いほど落札確率が下がってしまいます

経済学ではこのように意思決定者が不確実性に直した場合確率をいることで意思決定者がどのように動するかについて分析をいます例えばここでは 4 社の評価額が 97 円以上102 円以下の範囲でランダム19に分布していることが公知であったとしましょう4社は相の応札価格を想像しながら分の応札価格を決めていく必要がありますが実は定の想定の下で A 社の最適な戦略を呈することができます意思決定者がその不確実性を考慮したリターンすなわち期待利得(落札確率times利得)が最になるように応札価格を決めることを想定すると20最低額(ここでは 97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札することが最適な戦略であることを証明できます21(証明の詳細は BOX 5 を参照してください)具体的にはA 社にとってこのケースでは 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円で応札することが最適な戦略になります同様に B~D 社についても最適な応札価格を計算できますがA 社の評価額が番いことから A 社が落札するため発体は A 社の応札価格である 100 円で国債を売ることができます22(図5参照)

auction)」といいますオークションの価格を参加者が把握可能なオークションを「公開型オークション(open bid auction)」といいます 19 専的にいえば様分布であるといいます 20 もっともリスク回避的であることを仮定する場合など必ずしも期待利得を最化するように動しない投資家を想定することもありますが本稿では簡明な説明のため期待利得最化の場合のみを紹介します 21 専的にいえばベイジアン=ナッシュ均衡であるといいます分以外の皆が最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札するという戦略を採るのであれば分も同じ戦略を採ることにより落札確率times利得を最化することができますもっとも分以外の者が必ずしもこのような合理的な戦略を採らないのであればこのような戦略に拘らないが落札確率times利得を最化することができるかもしれませんそのためここで挙げた最適戦略とはあくまで分以外の者も合理的に動すると仮定した場合の最適戦略ということができます 22 般的にこのような場合評価額が番いの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times =97 円+5 円times =101 円となるので発体の期待収は 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円となります

16

図 5 第価格札式の例

上記の結果は札参加者が4であることに依存しています般的に札参加者が であれば札者は最低額(97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格で応札することが最適な戦略になることもすことができます例えば札者が2であれば最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の半分を加算した価格が最適な戦略です 第価格札式 ここまで私的価値に基づく単財オークションについて落札者が応札価格と同額を払う第価格札式を考えてきましたもっとも最近インターネットにおけるオークションなどでは「第価格札式」という式も使われるようになってきています23各々応札価格を決めて封をして提出した上で番値で応札したが落札するところまでは第価格札式と同じです第価格札式がい点はそのの払額が番に値で応札したの応札価格に基づく点であり理論的24に札者は分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる点です25(これを「耐戦略性」といいますまたこの法が最適な戦略となる直感的な解説については BOX 6 を参照してください)

先ほど挙げた国債の札において今度は発体が第価格札式に基づき実施したとします各社の最適な動は素直に分の評価額を表明することですからA 社は分の

23 例えばインターネットオークションを運営する eBay ではこのような式がいられています但し参加者の付け値が時間が経つにつれて明らかになるところが通常の封印型の第価格札式と異なります(キシテイニー 2018) 24 共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります 25 ここでは第価格札式の場合とは異なり分以外の者がどんな戦略をててきても分は分の評価額を札することにより落札確率times利得を最化することができるので分の評価額を札することが配戦略ということになります

評価額 入札額 利得A社 101円 100円 1円

B社 100円 925円 075円

C社 99円 985円 05円

D社 98円 9775円 025円

財務省

17

評価額である 101 円で応札しB 社も分の評価額である 100 円で応札します結果的にA 社は落札に成功しB 社の応札価格である 100 円を払うことになります26 収同値定理 私的価値に基づく単財オークションについて第価格札式と第価格札式を考えてきましたが我々が気になる点はこのつの式のどちらが発体にとって優れているかです驚くべき点は実は定の条件27の下どのようなオークションをっても発体が期待できる収額は定であることが証明できることですこれを「収同値定理」(Revenue Equivalence Theorem)といいます(Myerson 1981 Riley and Samuelson 1981)これはオークション理論における字塔的な定理といえましょうこの定理によれば発体は少なくとも期待できる収額の点からはオークションの仕組みについて殆ど気にしないで良いことが分かります実際上記の例をみればどちらの式でも発価格が 100円になっており売りの収は同じになっていることが確認できます

無論オークションの仕組みを検討する際には期待できる収額以外にも留意すべき点は多々あります例えばどのくらいの札者を込めるか或いはどのような不正が起こり得るかなども看過できずこれらはオークションの仕組みによって異なり得ますしかしオークションは分が有する財を売るために実施しているわけですから期待できる収額が重要な点であることには変わりありません国債の場合発体からみれば「期待できる収」とは「調達コストを抑えること」に相当するため収同値定理は発体にとっても重要な定理であるといえます 33 共通価値(common value) これまで個々が財に対して異なる評価額を有することを前提とする「私的価値」に基づ

き議論を進めてきましたが国債のオークションでは「共通価値(common value)」に基づいて理論が構築されることもあります28「共通価値」とは全ての札者がオークションの対象となる財の価値を同じように評価するという仮定です例えばべ物のように々

26 般的にこのような場合評価額が番にいの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times

=97 円+5 円times =100 円となるので発体の期待収も 100 円となります 27 収同値定理が成するためには①全ての札者はリスク中的②共通した分布関数から互いに独に私的価値を得る③最もい私的価値を持つ者が落札し最も低い私的価値を持つ者の期待利得はゼロであるといった前提条件が置かれていますこの中で最も強い前提は「互いに独に私的価値」の部分でありしたがって転売などを念頭に置いているオークションの場合は他の評価額によって分の評価額も影響を受けざるを得ないため必ずしも収同値定理は成しません国債を始めとする有価証券のオークションの場合にも当然に転売も念頭に置かれていると考えられるため般的にこの収同値定理の前提条件が満たされているとは考え難いです 28 共通価値についてより詳細を知りたいは上(2010)などを参照してください

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 4: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

3

にとってオークション理論を近にすることひいては政策的な議論に資することを指します

前述のとおり本国債のオークションではコンベンショナル式とダッチ式が併されていますがどちらも応札された札について落札合計額が発標額に達するまでい価格から順番に落札しますもっともコンベンショナル式では落札となった各札の応札価格がそのまま各札の落札価格となるダッチ式では発標額に達した最後の札の応札価格すなわち最も低い落札価格が全ての落札者の落札価格に適され全銘柄律の価格で発されますこのことに鑑みるとコンベンショナル式ではい価格で応札された国債についてい価格で発できることから発体にとってメリットがあるように思われるかも知れません

オークション理論のい点は必ずしもこのような直観的な帰結が得られない可能性がある点です例えば札に参加する市場参加者からみればコンベンショナル式であると値で応札した札がその価格で落札されてしまうため結果的に割で掴まされてしまうかもしれませんこのようなな帰結を「勝者の呪い」といいますいわばオークションの勝者には「敗者」となる呪いがかけられているわけですしたがってコンベンショナル式では市場参加者が値で掴まされることを忌避し消極的に応札することで却って発価格が下がり(調達コストが上昇し3)発体にとってデメリットとなる可能性もありますダッチ式では分が札をれた価格ではなく標額に達する最低落札価格で購できますから多くの投資家が積極的に応札することで結果的に発価格が上がることを通じ発体にメリットがある可能性もありますこの例をてもどちらの式のが発体等にとってメリットがあるかどうかは必ずしも定かではありません

このようにオークションに参加する投資家は互いの動を予測して動するためゲーム理論の葉を借りれば戦略的関係にあるといえます国債のオークションにかかる理論研究ではゲーム理論などを援しながら理論的にどういう帰結がまれるかの予測を提します詳細は次節以降で議論しますが残念ながら望ましいオークションの仕組みは般的に簡明な結果が得られているわけではなく投資家の属性や市場の状況などに依るところが少なくありませんもっとも例えば買い占めや共謀など市場の置かれている問題点がはっきりしている条件下ではどのようなオークション式が良いのかについて定の理論的回答は得られています慶應義塾学の坂井豊貴先の葉を借りれば「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」ものとして機能しているとみることもできます4

3 債券価格と利(調達コスト)は逆の動きをします債券(固定利付債)の場合クーポン(キャッシュフロー)が固定されていますから価格が上昇するとその債券のリターン(利)は低下します(他の条件を定にすれば)購する価格が上がればリターンが低下することは株式や不動産などすべての資産について共通していえることです 4 坂井(2013 p 211)を参照してください

4

このことはオークションの実証研究についても当てはまります本稿では多数の実証研究を紹介しますが残念ながら実証研究について必ずしも統的な結果が得られているとはえません例えば本稿で紹介する Hortaccedilsu and McAdams (2010)はオークション式の変更によってさほどきな差をまない可能性を指摘していますすなわち学術的にい評価を受けた論ですら特定のオークションを持しているとはいえないのです図1 は諸外国の国債の種類と発式をまとめていますが国ではダッチ式を活している欧州では主にコンベンショナル式がいられているなど先進国の制度においてもオークションの式に統性はみられていません 図 1 諸外国の国債の種類と発式

(出所)財務省「債務管理リポート 2019」(p51)より抜粋

各国の発当局はその時々で望ましいと考えられる札式を選択してきましたかつ

て国ではコンベンショナル式をいていましたがダッチ式への移は 1960 年代に既にノーベル賞受賞者のミルトンフリードマン教授が提案していました5国では 1991年に起こった国投資銀ソロモンブラザーズによる国債買い占めのスキャンダル等をうけダッチ式へ舵を切ります国ではこの制度変更に伴い国財務省連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board FRB)国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission SEC)はオークション式を含めた国債市場に関する包括的な調査6を実施

5 ハバードパーシュ(2017)などを参照してくださいもっとも坂井(2013)では「1991 年に経済学者ミルトンフリードマンとマートンミラーが新聞上で次点価格オークションが耐戦略性を満たすといった内容の発をしビット払いオークションから次点価格オークションへの変更を勧めて」(p209-p210)いたものの次点価格オークション(ダッチオークション)は理論的に耐戦略性(札者が分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる性質)を満たさないことから「おそらく誤解があった」と指摘しています 6 詳しくはDepartment of the Treasury Securities and Exchange Commission Board of Governors of the Federal Reserve System (1992) rdquoJoint Report on the Government Securities Marketrdquoを参照してください

5

しています オークション式の変更は国にとどまりません例えばフランスではダッチ式から

コンベンショナル式へ変更がなされており我が国でも 30 年国債を 2007 年にダッチ式からコンベンショナル式に変更していますこのように実際に各国の発当局が札式を変更してきた歴史があることから今後もその時々の状況に鑑み政府が適切な札な式を考えていく必要性があるのです

本稿の構成は以下のとおりです2章では本における国債のオークションの実態や歴史的変遷を振り返ります3章ではオークション理論の観点から4章ではオークションに係る実証的研究の観点から国債オークションを分析します5章はまとめです 2本国債のオークションの概要 21 国債と本の資本市場 融の重要な役割のつは政府や企業など資を持っていない主体(字主体)と家計など資を持っている主体(字主体)を繋ぐことで経済を効率的に回すことです字主体が株式や債券などを発し字主体がそれを購することを通じて資融通をうことを直接融という銀等を経由して字主体と字主体を繋ぐことを間接融といいます我が国家計融資産の半数程度が預であることから我が国は間接融主体の融システムを有していますが本国債については他の先進国と同様直接融を通じて資融通がなされています具体的には本政府が発した国債を銀や保険会社などが購することを通じて本政府は資調達をっています 上記のように国債を通じた政府による資調達は直接融に基づきますが国債などの有価証券が取引される市場は発市場(プライマリー市場)と流通市場(セカンダリー市場)で構成されます発市場とは財務省が新規に債券を発して資調達をする市場であり流通市場とは既に発された国債を売買する市場です国債のような債券の流通市場では証券会社が債券を在庫として保有し価格を提することで市場を形成していることが特徴です本国債の場合例えば10 年利付国債を新規に発するとしても既に市場では 10 年利付国債に類似した国債(例えば3 か前に発した 10 年利付国債など)が流通していますから流通市場で形成された価格は国債の新規発にきな影響をもたらします7 本稿では発市場における国債発価格がオークションを通じて決定される点を深堀りしていきますが実は有価証券の発において札という形式が採られているケースは我が国では国債や部の債券など8に限られます株式や社債などの多くの有価証券では引 7 現在では銘柄統合(リオープン)が拡充されているため既に発されている国債と同の国債が札で追加発されるケースも少なくありません 8 例えば本速道路保有債務返済機構や兵庫県の起債に際しイールドダッチ式が活されることがあるなど国債以外の債券でもオークションがいられるケースがあります

6

受式(アンダーライティング)が採られています引受式では証券会社が発体と投資家との間にち両者が合意できる価格を探ることで有価証券が発されています(詳細はBOX 1 を参照してください)もっとも原理的には株式や社債についてもオークションで発することは可能です事実Google はオークションで新規株式公開をしましたし9本の株式市場でもかつては札式で発されていました10 22 国債市場における競争札導の歴史的経緯

冒頭で記載したとおり国債についても以前は引受式に類する式で発されていました具体的には戦後国債が発されてから永らくシ団引受と資運部引受の 2 式が採られていましたシ団引受とは具体的には 1000 を超える融機関により国債引受のための団体(これをシンジケート団(いわゆるシ団)といいます)を作り発された国債をシ団が引き受ける形を指します(図 2 を参照)資運部引受とは旧蔵省(現財務省)における資運部資による国債の引受のことです戦後国債の発がなされてから永らく引受式による発が主要な役割を果たしていました

図 2 シ団引受の仕組み

出所財務省「債務管理リポート 2006」(p46)より抜粋 9 Google のオークションをいた上場についてはシュミット(2011)などを参照ください 10 我が国では 1997 年にブックビルディング式が導されて以降札式は活されていません(池 2015)株式の発に際してブックビルディング式とオークションのどちらが望ましいかについてはKutsuna and Smith (2004)や池(2015)などを参照してください

7

その後「債務管理リポート 2006」にもあるとおり市場参加者の意なども踏まえ1978 年には公募札が導されたほか1989 年にはシ団引受に部分的競争札が導されました同レポートによれば部分的競争札については「①導後も国債の札は引き続き順調にわれまた流通市場も較的落ち着いた動きをせていること②国の債務管理の在りに関する懇談会国債市場特別参加者会合国債投資家懇談会等において意を聴取したところ同制度の国債安定消化機能は導当初に期待された効果をあげておりシ団を廃しても問題ないとの解で概ね致をたことから平成 17 年度末をもってシ団引受をわないこととしました」(p47 より抜粋)とあります図 3 はシ団引受のシェアの推移をしていますが徐々に競争札による発の割合が増えていくことが確認できますシ団による発は 2006 年 3 に完全に廃されています11

図 3 シ団引受のシェアの推移

出所財務省「債務管理リポート 2006」(p47)より抜粋

11 幸(2000)は 2000 年前後の国債札制度の変遷について説の形式で記載しています

8

23 本国債のオークションの詳細コンベンショナル式とダッチ式

現在の国債市場では償還年限が1年以下の短期国債に加え2 年5 年10 年20 年30 年40 年債及び物価連動国債が発されていますがこれらの発条件はオークションによって定められます般的に発側は国債を安定的に消化しつつい値段で発したい(低い利で調達したい)と考えますが投資家側は出来る限り安く買いたい(い利で運したい)と考えています国債の発価格や利はその綱引きで決まるのですが現在いられている具体的な発法は40 年債と物価連動国債を除き「コンベンショナル式」と呼ばれる法がいられています40 年債と物価連動国債については「ダッチ式」と呼ばれる法で発されていますこれらのオークション式の違いの詳細は後述しますが部の国債についてダッチ式がいられている要因として相対的に流動性に懸念があるほか投資家が限定的であることなどが挙げられます12

財務省は市場関係者とも対話をしつつその時々で望ましいオークションの法をいています歴史的には中期債の発当初(1978~79 年)はダッチ式が採されましたが1979 年7にコンベンショナル式に改められ10 年債や 20 年債の競争札でもコンベンショナル式が採されました13ダッチ式については 1999 年に導された 30 年債や 2000 年に発が開始された 15 年変動利付債(現在は発が停)の発14で再び採されますもっとも30 年債の発については 2007 年 4 からダッチからコンベンショナ

12 財務省は 40 年国債についてダッチ式がいられている理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「40 年債の札式についてはこれまで当局としては投資家層の拡がりが限定的で他の年限と較して遜ない程度の流動性がられていないなどマーケットの成熟が確認されていないため利回りダッチ式の継続が適当ではないかとしてきたところ」「価格コンベンショナル式に移すべきという御意も定程度あったが国債市場特別参加者の数落札シェアのいずれでみても利回りダッチ式を維持すべきという御意が多数」としています 13 ここでの記述は副島花尻嶋(2001)などを参照しています 14 札での発開始は 2000 年 6 (第 8 回)ですが発体は私募で 1983 年2から開始されています

BOX 1 引受式(アンダーライティング)とは 引受式(アンダーライティング)では証券会社が発体と投資家との間にり発価格を調整していきます例えばある会社が新規株式を発することを決めた場合引受をう証券会社は投資家に当該株式を購しても良いと考える価格と数量をヒアリングしますその内容を証券会社は発体にフィードバックするという形で価格調整をしていきますこのような式を特にブックビルディング式といい現在本における株式や社債など多くの有価証券がこの法に基づき発されています

9

ル式に移しています15 国債のオークションに際しオークションの参加者は価格や利を提することで応札

するのですがコンベンショナル式では発体からみてメリットがある札(すなわちい価格や低い利で応札された札)から順番に落札していきますオークションには発標額があるため標額に達することとなる札までを落札とし落札最低価格未満の価格や落札最利を上回る利で応札した注は落札できないという形式を採っています例えば3000 億円の国債を札で発する際1 兆円の応札があったとしますこの場合発体はい価格で応札された札から順番に落札していきちょうど落札合計額が 3000 億円に達する価格まで落札することになります参加者が異なる価格で同じ財を購する点がコンベンショナル式の特徴です(数値例については BOX 2 を参照してください)

ダッチ式では同じように参加者が応札するのですが発体が標とする発額に達する価格で全員が購します前述のように 3000 億円の国債の発に対して1 兆円の応札があった際い価格から順番に落札していき落札合計額が標額である 3000 億円に達することとなる札までを落札としますがこの式では 3000 億円にちょうど達することとなった札の価格で皆律に購しますすなわちコンベンショナル式とは異なりダッチ式では落札できた国債について応札者が全員同じ価格で国債を購する点が特徴です

なおこのように国債の発価格は主にコンベンショナル式あるいはダッチ式で決定されますが価格競争札と呼ばれる競争札に基づかない式でも部発がなされています価格競争札は通常の競争札と同じタイミングで実施される第Ⅰ価格競争札と札後に実施される第Ⅱ価格競争札で構成されますが両者とも後述するプライマリーディーラーのみが参加できます16同札ではプライマリーディーラーは価格競争札においてオークションで決められた平均価格で国債を購できる権利を有しますがこれは後述する応札や落札義務などプライマリーディーラーが課された責任の対価と解釈可能です

15 財務省はダッチ式からコンベンショナル式へ変更した理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「市場の成熟」について指摘しており「40 年債の流動性は徐々にまっていると認識しているものの例えばP4 にしたグラフの通り30 年債の札式を価格コンベンショナル式に移した頃の業者間出来を現在の 40 年債はまだ超えていないことなどから当局としては未だ成熟しているとはい難い状況であると認識」とコメントしています 16 第Ⅰ価格競争札第Ⅱ価格競争札とは過去の落札実績(第Ⅰ)応札実績(第Ⅱ)等に基づき個社ごとに定められた限度額内で競争札の平均落札価格により国債を取得できる札です第Ⅰ価格競争札は 2005 年 4 第Ⅱ価格競争札は 2004 年 10 に導されています

10

BOX 2 コンベンショナル式とダッチ式のイメージ ここではコンベンショナル式とダッチ式を理解するために具体的な数値例を

い両式がどのような違いをもたらすのかについて考えてみましょう図 4 にしているとおり財務省が 1000 億円分の国債を札で発しようと考えておりプライマリーディーラーである A と B が応札するとしますこの際現在のマーケット環境に鑑みプライマリーディーラーA は 200 億円を 102 円101 円100 円99 円で応札するプライマリーディーラーB は 200 億円を 101 円100 円99 円で応札しているとしましょう

この場合1000 億円に達するまで財務省はらにとって利益のあるい価格から落札していきますこの例では 100 円のところでプライマリーディーラーA と B の応札額合計が 1000 億円に達するため100 円までの札が落札されますプライマリーディーラーA と B は 99 円で 200 億円ずつ応札していますがこの札は発額である 1000 億円を超過しているため落札されませんここまではコンベンショナル式もダッチ式も同じです

図 4 コンベンショナル式とダッチ式

注ここではわかりやすさを重視した図になっています実際のオークションではプライマリーディーラーが 3 社

以上存在する点などは捨象しています

1000億円の国債を発行

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円99円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円99円 200億円

応札

応札

互いの札は見えません

国債発行に際し入札を実施

<オークションの結果>1コンベンショナル方式(応札した価格で落札)

2ダッチ方式(1000億円に達した入札金額である100円で落札)

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーA100円 600億円

プライマリーディーラーB100円 400億円

財務省

11

コンベンショナル式とダッチ式の異なる点は購する価格ですコンベンショナル式の場合プライマリーディーラーA と B はそれぞれ分が応札した価格で落札しますすなわちプライマリーディーラーA は 102 円101 円100 円でそれぞれ 200 億円ずつ落札しプライマリーディーラーB は 101 円100 円で 200 億円ずつ落札しますダッチ式では1000 億円に達する価格すなわちそれぞれ落札できた額分(プライマリーディーラーA は 600 億円プライマリーディーラーB は 400 億円)をすべて律の価格である 100 円で落札します

なおこの例では応札額がちょうど 1000 億円になる事例にしていますが実際には発額を超過することがあります例えばこのケースにおいてプライマリーディーラーA が 100 円で(200 億円でなく)300 億円を応札していた場合応札額は 101 円の累計(600 億円)では 1000 億円に達しませんが100 円では応札額(累計)が 1100 億円となり発額である 1000 億円を超過しますこのようなケースでは超過した分が発額に収まるようにするため「『オファー額』と『案分価格帯の段上までの累計』との差分」を「案分価格帯に応札した額」で除することによって率(案分率)を作りますこの場合100 円で応札したAの 300 億円とBの 200 億円の合計(500 億円)が残り 400 億円に収まるようにするため「400500=08」が案分率となります

案分率の計算法(オファー額minus第Ⅰ競争minus切り価格の段上の応札額累計額)divide切り価格の応札額times100

BOX 3 イールドダッチ式 2〜30 年の利付国債についてはコンベンショナル式で発されていますがこれらは

札当の 10 時 30 分に利率(クーポン)が決定され価格で応札します現在40 年債は年度で 1 銘柄発されていますが年度最初のオークションの前には利率が定まっておらず複利利回りで応札するイールドダッチ式が採されていますこれは40 年債においてもしクーポンを定めてから価格で応札した場合デュレーション(利が変化した際の国債の価格感応度)がきいためオークションの結果単価が 100 円からきく乖離する可能性があるからです例えば100 円以下(以上)の価格で国債が発された場合発当局が当初予定した額より少なく(多く)調達することになるという問題を有しますその複利で応札してから利率を定めるイールドダッチ式であれば100 円(パー)に近い発が可能となり発体からみれば安定的な調達が可能になります

12

24 プライマリーディーラーの役割

現在の国債発に際しては主に証券会社で構成される国債市場特別参加者制度(いわゆるプライマリーディーラー制度)が重要な役割を果たしていますプライマリーディーラーとは証券会社などを中に国によって指定された業者のことで国債に関する札や落札の義務を負うで定の優遇措置を受けます先ほど及した価格競争札もプライマリーディーラーに認められた権利になります

BOX 4 市場参加者による札結果の解釈 財務省は国債の札結果として「応募額」「募決定額」「募最低価格」「募最低価

格における案分率」「募平均価格」を発表しています市場参加者はその札の結果を解釈する際しばしば「テール」や「応募倍率」などをいます

「テール」とは「平均価格」と「最低価格」の差になりますオークションに際し投資家が応札した札の分布(横軸に応札価格縦に応札した額)がありますが財務省は分布そのものを公表しないため市場参加者は「平均価格」と「最低価格」から分布を推測しますもし投資家の意が似通っていれば多くの札が分布の中付近に集まりますこの場合テールはさく証券会社及び投資家の意に相違が少ない札であると解釈可能です分布が中に寄っていない場合分布の平均からきく外れた札も落札されることからテールはきくなりますこの結果は証券会社及び投資家の意に相違がきかった札と解釈できます(しばしば市場参加者はテールがきい札を「札結果が流れた」と表現し札結果が不調であった可能性を考える傾向があります)

また「応募倍率」は「応募額」「募決定額」で計算し発額(募決定額)に対してどの程度応募があったかをみるもので数量のでどれくらい投資家が積極的にオークションに参加したのかを把握することができますこれ以外にも例えばBloomberg などが証券会社などの予測値を事前に公表しているためその予測値との乖離をいて札の結果を評価するなど投資家は様々な形でオークションの結果を解釈していますちなみにプライマリーディーラーなど各融機関がいくら落札したかについて財務省は公表していませんが間のベンダーが業者に落札額をヒアリングしています(もっともすべての融機関をカバーしているわけではないため「落札者不明分」が存在します)

なおダッチ式では本で記載したとおり参加者が律の価格で購するため募平均価格に相当する概念がなくテールは計算できません現在の 40 年債の札は利に基づくダッチ式であり「募最利回り」が公表されています

13

実際の国債の札ではプライマリーディーラーが多くの投資家から注を募ることなどを通じて投資家の需要を集めます例えばプライマリーディーラーでない融機関が札で国債の購をおうと考える際多くの場合分が買いたい値段(指値注)で証券会社に注することなどにより札に参加しますプライマリーディーラーはその札を集約して応札することになります

なお現在の制度ではプライマリーディーラー以外も定の条件で札に参加できる形になっています前述のとおり国では 1991 年にソロモンブラザーズが他名義をいて不正に国債の買い占め(スクイーズ)をったのですが国政府はそのようなスクイーズを防ぐことなどを的にプライマリーディーラー以外も札に参加できるように制度を改正しました(国債の札の詳細は BOX 7 を参照してくださいまたスクイーズの詳細は3節で説明します) 3国債のオークション理論 31 国債のオークションと情報の対称性 前章では本国債にかかるオークションの制度を中に議論を進めましたが本章ではオークションを実施する意味について考えていきます国債の発においてオークションをう本質的な理由は本政府側からみれば国債の買いが有する情報を分に把握していないつまり経済学の葉でいうと「情報の対称性」17があるからですそもそもオークションとは財やサービスを売る際買い側からのアクション等を踏まえて値決めをう仕組みですもし売りが買いの情報を全て知っていたのであればわざわざオークションなどせずとも最もい値段で買ってくれるであろう買いのところにって直接財やサービスを売れば良いわけですあるいは最もい値段で買ってくれるであろう買いを想定しその買いがギリギリ買ってくれるであろう値段を付けて売り出すことができるはずですそれをしないでオークションをうのは売りが買いの情報を全て知っているわけではなくむしろオークションという法を通じて買いの有する情報を札価格という形で発的に開してもらいそれを通じて売りが値決めをおうと考えているからに他なりません

売りよりも買いのがその商品の価値を熟知していたとしても全く不思議ではありません国債の札に際してはマーケットの現場にいるプライマリーディーラーや投資家のほうが発体である政府より国債の価値を理解している可能性はいとみることもできますこの状況は前述した情報の対称性が問題になっている局といえましょうそのため政府は投資家が有する情報を発的に開してもらうという意味でオークションをうまく設計する必要があるわけです

切なのはオークションによって投資家が分の情報を発的に開してくれるかど

17 情報の対称性とは買いと売りの間に情報の格差があることをす経済学の専語です

14

うかはその仕組みの巧拙にきく依存する点です極端な例ですが財務省が国債を発する際投資家が1しかいないことが予め投資家には分かっていたとしましょうそしてオークションでは単価ベースで 1 銭から札できるとしますもし買いが内では国債に 100 円払っても良いと思っていたとしてもこの状況下では投資家は最低価格である 1銭で札し落札することになるでしょうこうなると発体である財務省は本来であれば買いの評価額付近の価格で発することにより多くの資調達をできる可能性があったのにもかかわらずその資が調達できないことになります

32 「私的価値」をいたオークション理論の基礎

上記のような例を考えても政府にとってはオークションをうまく設計することで投資家やプライマリーディーラーにうまく情報を開してもらうことが肝要ですここからは国債のオークションにおいて投資家がどのように価格を開していくかを考えるためオークションの仕組みについて具体的に考えていきます我々がにする典型的なオークションは1つの財に対して複数の参加者が札し最も値をれた者が落札するような仕組みですこのようなオークションを「単財オークション」といいます ここからは単財オークションについて考えていきますがまずオークションの参加者個々がある財に対して有するそれぞれの評価額に基づき意思決定すると想定しますこのような評価を「私的価値(private value)」といいます例えばオークションでコンサートのチケットを 1 枚販売するケースにおいて参加者が私的価値に基づき評価しているとしましょうこの場合このオークションの参加者の中にはチケットを常に欲しているやあまり欲しいと思わないなど当該チケットに対して異なる評価をする達がいる(チケットという財に対する評価が分かれている)状況を想定しています

ここで財務省が 10 年債 1 銘柄をオークションにより発する場合(すなわち単財オークションを実施する場合)市場参加者が私的価値に基づくとするとどのような結果が得られるかを考えるため次のような設定を考えますすなわち財務省が発する1銘柄に対して異なる評価を持つ4社の投資家が札に参加するケースを取り上げますこの 10年債についてはA社は 101 円までなら払って良いと内考えているとします同様にB社は 100 円までならC社は 99 円までならD社は 98 円までなら払って良いと考えているとしましょうみな分が幾らまでなら払って良いかは分かっているのですが他社のの内は分かりませんここでは他社の評価額が幾らであっても分の評価額は変わらないことを前提とします 第価格札式 札者は各々応札価格を決めて封をして提出し18番値で応札した投資家が落札し

18 このように封をして他の参加者の札が分からないオークションを「封印型オークション(sealed bid

15

その応札価格を払うとしましょうこのような札法を「第価格札式」といいますがA 社にとって望ましい応札価格は幾らでしょうか当然分の評価額である 101 円を上回る価格では札しないでしょうそんな価格で落札してしまったら却って損してしまいますまた101 円丁度で札して落札しても利得は 0 円ですからうまみはありませんしたがってA 社は 101 円を下回る価格で札することが予想されるわけですが安い価格で落札できたが得する応札価格が低ければ低いほど落札確率が下がってしまいます

経済学ではこのように意思決定者が不確実性に直した場合確率をいることで意思決定者がどのように動するかについて分析をいます例えばここでは 4 社の評価額が 97 円以上102 円以下の範囲でランダム19に分布していることが公知であったとしましょう4社は相の応札価格を想像しながら分の応札価格を決めていく必要がありますが実は定の想定の下で A 社の最適な戦略を呈することができます意思決定者がその不確実性を考慮したリターンすなわち期待利得(落札確率times利得)が最になるように応札価格を決めることを想定すると20最低額(ここでは 97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札することが最適な戦略であることを証明できます21(証明の詳細は BOX 5 を参照してください)具体的にはA 社にとってこのケースでは 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円で応札することが最適な戦略になります同様に B~D 社についても最適な応札価格を計算できますがA 社の評価額が番いことから A 社が落札するため発体は A 社の応札価格である 100 円で国債を売ることができます22(図5参照)

auction)」といいますオークションの価格を参加者が把握可能なオークションを「公開型オークション(open bid auction)」といいます 19 専的にいえば様分布であるといいます 20 もっともリスク回避的であることを仮定する場合など必ずしも期待利得を最化するように動しない投資家を想定することもありますが本稿では簡明な説明のため期待利得最化の場合のみを紹介します 21 専的にいえばベイジアン=ナッシュ均衡であるといいます分以外の皆が最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札するという戦略を採るのであれば分も同じ戦略を採ることにより落札確率times利得を最化することができますもっとも分以外の者が必ずしもこのような合理的な戦略を採らないのであればこのような戦略に拘らないが落札確率times利得を最化することができるかもしれませんそのためここで挙げた最適戦略とはあくまで分以外の者も合理的に動すると仮定した場合の最適戦略ということができます 22 般的にこのような場合評価額が番いの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times =97 円+5 円times =101 円となるので発体の期待収は 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円となります

16

図 5 第価格札式の例

上記の結果は札参加者が4であることに依存しています般的に札参加者が であれば札者は最低額(97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格で応札することが最適な戦略になることもすことができます例えば札者が2であれば最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の半分を加算した価格が最適な戦略です 第価格札式 ここまで私的価値に基づく単財オークションについて落札者が応札価格と同額を払う第価格札式を考えてきましたもっとも最近インターネットにおけるオークションなどでは「第価格札式」という式も使われるようになってきています23各々応札価格を決めて封をして提出した上で番値で応札したが落札するところまでは第価格札式と同じです第価格札式がい点はそのの払額が番に値で応札したの応札価格に基づく点であり理論的24に札者は分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる点です25(これを「耐戦略性」といいますまたこの法が最適な戦略となる直感的な解説については BOX 6 を参照してください)

先ほど挙げた国債の札において今度は発体が第価格札式に基づき実施したとします各社の最適な動は素直に分の評価額を表明することですからA 社は分の

23 例えばインターネットオークションを運営する eBay ではこのような式がいられています但し参加者の付け値が時間が経つにつれて明らかになるところが通常の封印型の第価格札式と異なります(キシテイニー 2018) 24 共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります 25 ここでは第価格札式の場合とは異なり分以外の者がどんな戦略をててきても分は分の評価額を札することにより落札確率times利得を最化することができるので分の評価額を札することが配戦略ということになります

評価額 入札額 利得A社 101円 100円 1円

B社 100円 925円 075円

C社 99円 985円 05円

D社 98円 9775円 025円

財務省

17

評価額である 101 円で応札しB 社も分の評価額である 100 円で応札します結果的にA 社は落札に成功しB 社の応札価格である 100 円を払うことになります26 収同値定理 私的価値に基づく単財オークションについて第価格札式と第価格札式を考えてきましたが我々が気になる点はこのつの式のどちらが発体にとって優れているかです驚くべき点は実は定の条件27の下どのようなオークションをっても発体が期待できる収額は定であることが証明できることですこれを「収同値定理」(Revenue Equivalence Theorem)といいます(Myerson 1981 Riley and Samuelson 1981)これはオークション理論における字塔的な定理といえましょうこの定理によれば発体は少なくとも期待できる収額の点からはオークションの仕組みについて殆ど気にしないで良いことが分かります実際上記の例をみればどちらの式でも発価格が 100円になっており売りの収は同じになっていることが確認できます

無論オークションの仕組みを検討する際には期待できる収額以外にも留意すべき点は多々あります例えばどのくらいの札者を込めるか或いはどのような不正が起こり得るかなども看過できずこれらはオークションの仕組みによって異なり得ますしかしオークションは分が有する財を売るために実施しているわけですから期待できる収額が重要な点であることには変わりありません国債の場合発体からみれば「期待できる収」とは「調達コストを抑えること」に相当するため収同値定理は発体にとっても重要な定理であるといえます 33 共通価値(common value) これまで個々が財に対して異なる評価額を有することを前提とする「私的価値」に基づ

き議論を進めてきましたが国債のオークションでは「共通価値(common value)」に基づいて理論が構築されることもあります28「共通価値」とは全ての札者がオークションの対象となる財の価値を同じように評価するという仮定です例えばべ物のように々

26 般的にこのような場合評価額が番にいの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times

=97 円+5 円times =100 円となるので発体の期待収も 100 円となります 27 収同値定理が成するためには①全ての札者はリスク中的②共通した分布関数から互いに独に私的価値を得る③最もい私的価値を持つ者が落札し最も低い私的価値を持つ者の期待利得はゼロであるといった前提条件が置かれていますこの中で最も強い前提は「互いに独に私的価値」の部分でありしたがって転売などを念頭に置いているオークションの場合は他の評価額によって分の評価額も影響を受けざるを得ないため必ずしも収同値定理は成しません国債を始めとする有価証券のオークションの場合にも当然に転売も念頭に置かれていると考えられるため般的にこの収同値定理の前提条件が満たされているとは考え難いです 28 共通価値についてより詳細を知りたいは上(2010)などを参照してください

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 5: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

4

このことはオークションの実証研究についても当てはまります本稿では多数の実証研究を紹介しますが残念ながら実証研究について必ずしも統的な結果が得られているとはえません例えば本稿で紹介する Hortaccedilsu and McAdams (2010)はオークション式の変更によってさほどきな差をまない可能性を指摘していますすなわち学術的にい評価を受けた論ですら特定のオークションを持しているとはいえないのです図1 は諸外国の国債の種類と発式をまとめていますが国ではダッチ式を活している欧州では主にコンベンショナル式がいられているなど先進国の制度においてもオークションの式に統性はみられていません 図 1 諸外国の国債の種類と発式

(出所)財務省「債務管理リポート 2019」(p51)より抜粋

各国の発当局はその時々で望ましいと考えられる札式を選択してきましたかつ

て国ではコンベンショナル式をいていましたがダッチ式への移は 1960 年代に既にノーベル賞受賞者のミルトンフリードマン教授が提案していました5国では 1991年に起こった国投資銀ソロモンブラザーズによる国債買い占めのスキャンダル等をうけダッチ式へ舵を切ります国ではこの制度変更に伴い国財務省連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board FRB)国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission SEC)はオークション式を含めた国債市場に関する包括的な調査6を実施

5 ハバードパーシュ(2017)などを参照してくださいもっとも坂井(2013)では「1991 年に経済学者ミルトンフリードマンとマートンミラーが新聞上で次点価格オークションが耐戦略性を満たすといった内容の発をしビット払いオークションから次点価格オークションへの変更を勧めて」(p209-p210)いたものの次点価格オークション(ダッチオークション)は理論的に耐戦略性(札者が分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる性質)を満たさないことから「おそらく誤解があった」と指摘しています 6 詳しくはDepartment of the Treasury Securities and Exchange Commission Board of Governors of the Federal Reserve System (1992) rdquoJoint Report on the Government Securities Marketrdquoを参照してください

5

しています オークション式の変更は国にとどまりません例えばフランスではダッチ式から

コンベンショナル式へ変更がなされており我が国でも 30 年国債を 2007 年にダッチ式からコンベンショナル式に変更していますこのように実際に各国の発当局が札式を変更してきた歴史があることから今後もその時々の状況に鑑み政府が適切な札な式を考えていく必要性があるのです

本稿の構成は以下のとおりです2章では本における国債のオークションの実態や歴史的変遷を振り返ります3章ではオークション理論の観点から4章ではオークションに係る実証的研究の観点から国債オークションを分析します5章はまとめです 2本国債のオークションの概要 21 国債と本の資本市場 融の重要な役割のつは政府や企業など資を持っていない主体(字主体)と家計など資を持っている主体(字主体)を繋ぐことで経済を効率的に回すことです字主体が株式や債券などを発し字主体がそれを購することを通じて資融通をうことを直接融という銀等を経由して字主体と字主体を繋ぐことを間接融といいます我が国家計融資産の半数程度が預であることから我が国は間接融主体の融システムを有していますが本国債については他の先進国と同様直接融を通じて資融通がなされています具体的には本政府が発した国債を銀や保険会社などが購することを通じて本政府は資調達をっています 上記のように国債を通じた政府による資調達は直接融に基づきますが国債などの有価証券が取引される市場は発市場(プライマリー市場)と流通市場(セカンダリー市場)で構成されます発市場とは財務省が新規に債券を発して資調達をする市場であり流通市場とは既に発された国債を売買する市場です国債のような債券の流通市場では証券会社が債券を在庫として保有し価格を提することで市場を形成していることが特徴です本国債の場合例えば10 年利付国債を新規に発するとしても既に市場では 10 年利付国債に類似した国債(例えば3 か前に発した 10 年利付国債など)が流通していますから流通市場で形成された価格は国債の新規発にきな影響をもたらします7 本稿では発市場における国債発価格がオークションを通じて決定される点を深堀りしていきますが実は有価証券の発において札という形式が採られているケースは我が国では国債や部の債券など8に限られます株式や社債などの多くの有価証券では引 7 現在では銘柄統合(リオープン)が拡充されているため既に発されている国債と同の国債が札で追加発されるケースも少なくありません 8 例えば本速道路保有債務返済機構や兵庫県の起債に際しイールドダッチ式が活されることがあるなど国債以外の債券でもオークションがいられるケースがあります

6

受式(アンダーライティング)が採られています引受式では証券会社が発体と投資家との間にち両者が合意できる価格を探ることで有価証券が発されています(詳細はBOX 1 を参照してください)もっとも原理的には株式や社債についてもオークションで発することは可能です事実Google はオークションで新規株式公開をしましたし9本の株式市場でもかつては札式で発されていました10 22 国債市場における競争札導の歴史的経緯

冒頭で記載したとおり国債についても以前は引受式に類する式で発されていました具体的には戦後国債が発されてから永らくシ団引受と資運部引受の 2 式が採られていましたシ団引受とは具体的には 1000 を超える融機関により国債引受のための団体(これをシンジケート団(いわゆるシ団)といいます)を作り発された国債をシ団が引き受ける形を指します(図 2 を参照)資運部引受とは旧蔵省(現財務省)における資運部資による国債の引受のことです戦後国債の発がなされてから永らく引受式による発が主要な役割を果たしていました

図 2 シ団引受の仕組み

出所財務省「債務管理リポート 2006」(p46)より抜粋 9 Google のオークションをいた上場についてはシュミット(2011)などを参照ください 10 我が国では 1997 年にブックビルディング式が導されて以降札式は活されていません(池 2015)株式の発に際してブックビルディング式とオークションのどちらが望ましいかについてはKutsuna and Smith (2004)や池(2015)などを参照してください

7

その後「債務管理リポート 2006」にもあるとおり市場参加者の意なども踏まえ1978 年には公募札が導されたほか1989 年にはシ団引受に部分的競争札が導されました同レポートによれば部分的競争札については「①導後も国債の札は引き続き順調にわれまた流通市場も較的落ち着いた動きをせていること②国の債務管理の在りに関する懇談会国債市場特別参加者会合国債投資家懇談会等において意を聴取したところ同制度の国債安定消化機能は導当初に期待された効果をあげておりシ団を廃しても問題ないとの解で概ね致をたことから平成 17 年度末をもってシ団引受をわないこととしました」(p47 より抜粋)とあります図 3 はシ団引受のシェアの推移をしていますが徐々に競争札による発の割合が増えていくことが確認できますシ団による発は 2006 年 3 に完全に廃されています11

図 3 シ団引受のシェアの推移

出所財務省「債務管理リポート 2006」(p47)より抜粋

11 幸(2000)は 2000 年前後の国債札制度の変遷について説の形式で記載しています

8

23 本国債のオークションの詳細コンベンショナル式とダッチ式

現在の国債市場では償還年限が1年以下の短期国債に加え2 年5 年10 年20 年30 年40 年債及び物価連動国債が発されていますがこれらの発条件はオークションによって定められます般的に発側は国債を安定的に消化しつつい値段で発したい(低い利で調達したい)と考えますが投資家側は出来る限り安く買いたい(い利で運したい)と考えています国債の発価格や利はその綱引きで決まるのですが現在いられている具体的な発法は40 年債と物価連動国債を除き「コンベンショナル式」と呼ばれる法がいられています40 年債と物価連動国債については「ダッチ式」と呼ばれる法で発されていますこれらのオークション式の違いの詳細は後述しますが部の国債についてダッチ式がいられている要因として相対的に流動性に懸念があるほか投資家が限定的であることなどが挙げられます12

財務省は市場関係者とも対話をしつつその時々で望ましいオークションの法をいています歴史的には中期債の発当初(1978~79 年)はダッチ式が採されましたが1979 年7にコンベンショナル式に改められ10 年債や 20 年債の競争札でもコンベンショナル式が採されました13ダッチ式については 1999 年に導された 30 年債や 2000 年に発が開始された 15 年変動利付債(現在は発が停)の発14で再び採されますもっとも30 年債の発については 2007 年 4 からダッチからコンベンショナ

12 財務省は 40 年国債についてダッチ式がいられている理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「40 年債の札式についてはこれまで当局としては投資家層の拡がりが限定的で他の年限と較して遜ない程度の流動性がられていないなどマーケットの成熟が確認されていないため利回りダッチ式の継続が適当ではないかとしてきたところ」「価格コンベンショナル式に移すべきという御意も定程度あったが国債市場特別参加者の数落札シェアのいずれでみても利回りダッチ式を維持すべきという御意が多数」としています 13 ここでの記述は副島花尻嶋(2001)などを参照しています 14 札での発開始は 2000 年 6 (第 8 回)ですが発体は私募で 1983 年2から開始されています

BOX 1 引受式(アンダーライティング)とは 引受式(アンダーライティング)では証券会社が発体と投資家との間にり発価格を調整していきます例えばある会社が新規株式を発することを決めた場合引受をう証券会社は投資家に当該株式を購しても良いと考える価格と数量をヒアリングしますその内容を証券会社は発体にフィードバックするという形で価格調整をしていきますこのような式を特にブックビルディング式といい現在本における株式や社債など多くの有価証券がこの法に基づき発されています

9

ル式に移しています15 国債のオークションに際しオークションの参加者は価格や利を提することで応札

するのですがコンベンショナル式では発体からみてメリットがある札(すなわちい価格や低い利で応札された札)から順番に落札していきますオークションには発標額があるため標額に達することとなる札までを落札とし落札最低価格未満の価格や落札最利を上回る利で応札した注は落札できないという形式を採っています例えば3000 億円の国債を札で発する際1 兆円の応札があったとしますこの場合発体はい価格で応札された札から順番に落札していきちょうど落札合計額が 3000 億円に達する価格まで落札することになります参加者が異なる価格で同じ財を購する点がコンベンショナル式の特徴です(数値例については BOX 2 を参照してください)

ダッチ式では同じように参加者が応札するのですが発体が標とする発額に達する価格で全員が購します前述のように 3000 億円の国債の発に対して1 兆円の応札があった際い価格から順番に落札していき落札合計額が標額である 3000 億円に達することとなる札までを落札としますがこの式では 3000 億円にちょうど達することとなった札の価格で皆律に購しますすなわちコンベンショナル式とは異なりダッチ式では落札できた国債について応札者が全員同じ価格で国債を購する点が特徴です

なおこのように国債の発価格は主にコンベンショナル式あるいはダッチ式で決定されますが価格競争札と呼ばれる競争札に基づかない式でも部発がなされています価格競争札は通常の競争札と同じタイミングで実施される第Ⅰ価格競争札と札後に実施される第Ⅱ価格競争札で構成されますが両者とも後述するプライマリーディーラーのみが参加できます16同札ではプライマリーディーラーは価格競争札においてオークションで決められた平均価格で国債を購できる権利を有しますがこれは後述する応札や落札義務などプライマリーディーラーが課された責任の対価と解釈可能です

15 財務省はダッチ式からコンベンショナル式へ変更した理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「市場の成熟」について指摘しており「40 年債の流動性は徐々にまっていると認識しているものの例えばP4 にしたグラフの通り30 年債の札式を価格コンベンショナル式に移した頃の業者間出来を現在の 40 年債はまだ超えていないことなどから当局としては未だ成熟しているとはい難い状況であると認識」とコメントしています 16 第Ⅰ価格競争札第Ⅱ価格競争札とは過去の落札実績(第Ⅰ)応札実績(第Ⅱ)等に基づき個社ごとに定められた限度額内で競争札の平均落札価格により国債を取得できる札です第Ⅰ価格競争札は 2005 年 4 第Ⅱ価格競争札は 2004 年 10 に導されています

10

BOX 2 コンベンショナル式とダッチ式のイメージ ここではコンベンショナル式とダッチ式を理解するために具体的な数値例を

い両式がどのような違いをもたらすのかについて考えてみましょう図 4 にしているとおり財務省が 1000 億円分の国債を札で発しようと考えておりプライマリーディーラーである A と B が応札するとしますこの際現在のマーケット環境に鑑みプライマリーディーラーA は 200 億円を 102 円101 円100 円99 円で応札するプライマリーディーラーB は 200 億円を 101 円100 円99 円で応札しているとしましょう

この場合1000 億円に達するまで財務省はらにとって利益のあるい価格から落札していきますこの例では 100 円のところでプライマリーディーラーA と B の応札額合計が 1000 億円に達するため100 円までの札が落札されますプライマリーディーラーA と B は 99 円で 200 億円ずつ応札していますがこの札は発額である 1000 億円を超過しているため落札されませんここまではコンベンショナル式もダッチ式も同じです

図 4 コンベンショナル式とダッチ式

注ここではわかりやすさを重視した図になっています実際のオークションではプライマリーディーラーが 3 社

以上存在する点などは捨象しています

1000億円の国債を発行

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円99円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円99円 200億円

応札

応札

互いの札は見えません

国債発行に際し入札を実施

<オークションの結果>1コンベンショナル方式(応札した価格で落札)

2ダッチ方式(1000億円に達した入札金額である100円で落札)

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーA100円 600億円

プライマリーディーラーB100円 400億円

財務省

11

コンベンショナル式とダッチ式の異なる点は購する価格ですコンベンショナル式の場合プライマリーディーラーA と B はそれぞれ分が応札した価格で落札しますすなわちプライマリーディーラーA は 102 円101 円100 円でそれぞれ 200 億円ずつ落札しプライマリーディーラーB は 101 円100 円で 200 億円ずつ落札しますダッチ式では1000 億円に達する価格すなわちそれぞれ落札できた額分(プライマリーディーラーA は 600 億円プライマリーディーラーB は 400 億円)をすべて律の価格である 100 円で落札します

なおこの例では応札額がちょうど 1000 億円になる事例にしていますが実際には発額を超過することがあります例えばこのケースにおいてプライマリーディーラーA が 100 円で(200 億円でなく)300 億円を応札していた場合応札額は 101 円の累計(600 億円)では 1000 億円に達しませんが100 円では応札額(累計)が 1100 億円となり発額である 1000 億円を超過しますこのようなケースでは超過した分が発額に収まるようにするため「『オファー額』と『案分価格帯の段上までの累計』との差分」を「案分価格帯に応札した額」で除することによって率(案分率)を作りますこの場合100 円で応札したAの 300 億円とBの 200 億円の合計(500 億円)が残り 400 億円に収まるようにするため「400500=08」が案分率となります

案分率の計算法(オファー額minus第Ⅰ競争minus切り価格の段上の応札額累計額)divide切り価格の応札額times100

BOX 3 イールドダッチ式 2〜30 年の利付国債についてはコンベンショナル式で発されていますがこれらは

札当の 10 時 30 分に利率(クーポン)が決定され価格で応札します現在40 年債は年度で 1 銘柄発されていますが年度最初のオークションの前には利率が定まっておらず複利利回りで応札するイールドダッチ式が採されていますこれは40 年債においてもしクーポンを定めてから価格で応札した場合デュレーション(利が変化した際の国債の価格感応度)がきいためオークションの結果単価が 100 円からきく乖離する可能性があるからです例えば100 円以下(以上)の価格で国債が発された場合発当局が当初予定した額より少なく(多く)調達することになるという問題を有しますその複利で応札してから利率を定めるイールドダッチ式であれば100 円(パー)に近い発が可能となり発体からみれば安定的な調達が可能になります

12

24 プライマリーディーラーの役割

現在の国債発に際しては主に証券会社で構成される国債市場特別参加者制度(いわゆるプライマリーディーラー制度)が重要な役割を果たしていますプライマリーディーラーとは証券会社などを中に国によって指定された業者のことで国債に関する札や落札の義務を負うで定の優遇措置を受けます先ほど及した価格競争札もプライマリーディーラーに認められた権利になります

BOX 4 市場参加者による札結果の解釈 財務省は国債の札結果として「応募額」「募決定額」「募最低価格」「募最低価

格における案分率」「募平均価格」を発表しています市場参加者はその札の結果を解釈する際しばしば「テール」や「応募倍率」などをいます

「テール」とは「平均価格」と「最低価格」の差になりますオークションに際し投資家が応札した札の分布(横軸に応札価格縦に応札した額)がありますが財務省は分布そのものを公表しないため市場参加者は「平均価格」と「最低価格」から分布を推測しますもし投資家の意が似通っていれば多くの札が分布の中付近に集まりますこの場合テールはさく証券会社及び投資家の意に相違が少ない札であると解釈可能です分布が中に寄っていない場合分布の平均からきく外れた札も落札されることからテールはきくなりますこの結果は証券会社及び投資家の意に相違がきかった札と解釈できます(しばしば市場参加者はテールがきい札を「札結果が流れた」と表現し札結果が不調であった可能性を考える傾向があります)

また「応募倍率」は「応募額」「募決定額」で計算し発額(募決定額)に対してどの程度応募があったかをみるもので数量のでどれくらい投資家が積極的にオークションに参加したのかを把握することができますこれ以外にも例えばBloomberg などが証券会社などの予測値を事前に公表しているためその予測値との乖離をいて札の結果を評価するなど投資家は様々な形でオークションの結果を解釈していますちなみにプライマリーディーラーなど各融機関がいくら落札したかについて財務省は公表していませんが間のベンダーが業者に落札額をヒアリングしています(もっともすべての融機関をカバーしているわけではないため「落札者不明分」が存在します)

なおダッチ式では本で記載したとおり参加者が律の価格で購するため募平均価格に相当する概念がなくテールは計算できません現在の 40 年債の札は利に基づくダッチ式であり「募最利回り」が公表されています

13

実際の国債の札ではプライマリーディーラーが多くの投資家から注を募ることなどを通じて投資家の需要を集めます例えばプライマリーディーラーでない融機関が札で国債の購をおうと考える際多くの場合分が買いたい値段(指値注)で証券会社に注することなどにより札に参加しますプライマリーディーラーはその札を集約して応札することになります

なお現在の制度ではプライマリーディーラー以外も定の条件で札に参加できる形になっています前述のとおり国では 1991 年にソロモンブラザーズが他名義をいて不正に国債の買い占め(スクイーズ)をったのですが国政府はそのようなスクイーズを防ぐことなどを的にプライマリーディーラー以外も札に参加できるように制度を改正しました(国債の札の詳細は BOX 7 を参照してくださいまたスクイーズの詳細は3節で説明します) 3国債のオークション理論 31 国債のオークションと情報の対称性 前章では本国債にかかるオークションの制度を中に議論を進めましたが本章ではオークションを実施する意味について考えていきます国債の発においてオークションをう本質的な理由は本政府側からみれば国債の買いが有する情報を分に把握していないつまり経済学の葉でいうと「情報の対称性」17があるからですそもそもオークションとは財やサービスを売る際買い側からのアクション等を踏まえて値決めをう仕組みですもし売りが買いの情報を全て知っていたのであればわざわざオークションなどせずとも最もい値段で買ってくれるであろう買いのところにって直接財やサービスを売れば良いわけですあるいは最もい値段で買ってくれるであろう買いを想定しその買いがギリギリ買ってくれるであろう値段を付けて売り出すことができるはずですそれをしないでオークションをうのは売りが買いの情報を全て知っているわけではなくむしろオークションという法を通じて買いの有する情報を札価格という形で発的に開してもらいそれを通じて売りが値決めをおうと考えているからに他なりません

売りよりも買いのがその商品の価値を熟知していたとしても全く不思議ではありません国債の札に際してはマーケットの現場にいるプライマリーディーラーや投資家のほうが発体である政府より国債の価値を理解している可能性はいとみることもできますこの状況は前述した情報の対称性が問題になっている局といえましょうそのため政府は投資家が有する情報を発的に開してもらうという意味でオークションをうまく設計する必要があるわけです

切なのはオークションによって投資家が分の情報を発的に開してくれるかど

17 情報の対称性とは買いと売りの間に情報の格差があることをす経済学の専語です

14

うかはその仕組みの巧拙にきく依存する点です極端な例ですが財務省が国債を発する際投資家が1しかいないことが予め投資家には分かっていたとしましょうそしてオークションでは単価ベースで 1 銭から札できるとしますもし買いが内では国債に 100 円払っても良いと思っていたとしてもこの状況下では投資家は最低価格である 1銭で札し落札することになるでしょうこうなると発体である財務省は本来であれば買いの評価額付近の価格で発することにより多くの資調達をできる可能性があったのにもかかわらずその資が調達できないことになります

32 「私的価値」をいたオークション理論の基礎

上記のような例を考えても政府にとってはオークションをうまく設計することで投資家やプライマリーディーラーにうまく情報を開してもらうことが肝要ですここからは国債のオークションにおいて投資家がどのように価格を開していくかを考えるためオークションの仕組みについて具体的に考えていきます我々がにする典型的なオークションは1つの財に対して複数の参加者が札し最も値をれた者が落札するような仕組みですこのようなオークションを「単財オークション」といいます ここからは単財オークションについて考えていきますがまずオークションの参加者個々がある財に対して有するそれぞれの評価額に基づき意思決定すると想定しますこのような評価を「私的価値(private value)」といいます例えばオークションでコンサートのチケットを 1 枚販売するケースにおいて参加者が私的価値に基づき評価しているとしましょうこの場合このオークションの参加者の中にはチケットを常に欲しているやあまり欲しいと思わないなど当該チケットに対して異なる評価をする達がいる(チケットという財に対する評価が分かれている)状況を想定しています

ここで財務省が 10 年債 1 銘柄をオークションにより発する場合(すなわち単財オークションを実施する場合)市場参加者が私的価値に基づくとするとどのような結果が得られるかを考えるため次のような設定を考えますすなわち財務省が発する1銘柄に対して異なる評価を持つ4社の投資家が札に参加するケースを取り上げますこの 10年債についてはA社は 101 円までなら払って良いと内考えているとします同様にB社は 100 円までならC社は 99 円までならD社は 98 円までなら払って良いと考えているとしましょうみな分が幾らまでなら払って良いかは分かっているのですが他社のの内は分かりませんここでは他社の評価額が幾らであっても分の評価額は変わらないことを前提とします 第価格札式 札者は各々応札価格を決めて封をして提出し18番値で応札した投資家が落札し

18 このように封をして他の参加者の札が分からないオークションを「封印型オークション(sealed bid

15

その応札価格を払うとしましょうこのような札法を「第価格札式」といいますがA 社にとって望ましい応札価格は幾らでしょうか当然分の評価額である 101 円を上回る価格では札しないでしょうそんな価格で落札してしまったら却って損してしまいますまた101 円丁度で札して落札しても利得は 0 円ですからうまみはありませんしたがってA 社は 101 円を下回る価格で札することが予想されるわけですが安い価格で落札できたが得する応札価格が低ければ低いほど落札確率が下がってしまいます

経済学ではこのように意思決定者が不確実性に直した場合確率をいることで意思決定者がどのように動するかについて分析をいます例えばここでは 4 社の評価額が 97 円以上102 円以下の範囲でランダム19に分布していることが公知であったとしましょう4社は相の応札価格を想像しながら分の応札価格を決めていく必要がありますが実は定の想定の下で A 社の最適な戦略を呈することができます意思決定者がその不確実性を考慮したリターンすなわち期待利得(落札確率times利得)が最になるように応札価格を決めることを想定すると20最低額(ここでは 97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札することが最適な戦略であることを証明できます21(証明の詳細は BOX 5 を参照してください)具体的にはA 社にとってこのケースでは 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円で応札することが最適な戦略になります同様に B~D 社についても最適な応札価格を計算できますがA 社の評価額が番いことから A 社が落札するため発体は A 社の応札価格である 100 円で国債を売ることができます22(図5参照)

auction)」といいますオークションの価格を参加者が把握可能なオークションを「公開型オークション(open bid auction)」といいます 19 専的にいえば様分布であるといいます 20 もっともリスク回避的であることを仮定する場合など必ずしも期待利得を最化するように動しない投資家を想定することもありますが本稿では簡明な説明のため期待利得最化の場合のみを紹介します 21 専的にいえばベイジアン=ナッシュ均衡であるといいます分以外の皆が最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札するという戦略を採るのであれば分も同じ戦略を採ることにより落札確率times利得を最化することができますもっとも分以外の者が必ずしもこのような合理的な戦略を採らないのであればこのような戦略に拘らないが落札確率times利得を最化することができるかもしれませんそのためここで挙げた最適戦略とはあくまで分以外の者も合理的に動すると仮定した場合の最適戦略ということができます 22 般的にこのような場合評価額が番いの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times =97 円+5 円times =101 円となるので発体の期待収は 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円となります

16

図 5 第価格札式の例

上記の結果は札参加者が4であることに依存しています般的に札参加者が であれば札者は最低額(97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格で応札することが最適な戦略になることもすことができます例えば札者が2であれば最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の半分を加算した価格が最適な戦略です 第価格札式 ここまで私的価値に基づく単財オークションについて落札者が応札価格と同額を払う第価格札式を考えてきましたもっとも最近インターネットにおけるオークションなどでは「第価格札式」という式も使われるようになってきています23各々応札価格を決めて封をして提出した上で番値で応札したが落札するところまでは第価格札式と同じです第価格札式がい点はそのの払額が番に値で応札したの応札価格に基づく点であり理論的24に札者は分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる点です25(これを「耐戦略性」といいますまたこの法が最適な戦略となる直感的な解説については BOX 6 を参照してください)

先ほど挙げた国債の札において今度は発体が第価格札式に基づき実施したとします各社の最適な動は素直に分の評価額を表明することですからA 社は分の

23 例えばインターネットオークションを運営する eBay ではこのような式がいられています但し参加者の付け値が時間が経つにつれて明らかになるところが通常の封印型の第価格札式と異なります(キシテイニー 2018) 24 共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります 25 ここでは第価格札式の場合とは異なり分以外の者がどんな戦略をててきても分は分の評価額を札することにより落札確率times利得を最化することができるので分の評価額を札することが配戦略ということになります

評価額 入札額 利得A社 101円 100円 1円

B社 100円 925円 075円

C社 99円 985円 05円

D社 98円 9775円 025円

財務省

17

評価額である 101 円で応札しB 社も分の評価額である 100 円で応札します結果的にA 社は落札に成功しB 社の応札価格である 100 円を払うことになります26 収同値定理 私的価値に基づく単財オークションについて第価格札式と第価格札式を考えてきましたが我々が気になる点はこのつの式のどちらが発体にとって優れているかです驚くべき点は実は定の条件27の下どのようなオークションをっても発体が期待できる収額は定であることが証明できることですこれを「収同値定理」(Revenue Equivalence Theorem)といいます(Myerson 1981 Riley and Samuelson 1981)これはオークション理論における字塔的な定理といえましょうこの定理によれば発体は少なくとも期待できる収額の点からはオークションの仕組みについて殆ど気にしないで良いことが分かります実際上記の例をみればどちらの式でも発価格が 100円になっており売りの収は同じになっていることが確認できます

無論オークションの仕組みを検討する際には期待できる収額以外にも留意すべき点は多々あります例えばどのくらいの札者を込めるか或いはどのような不正が起こり得るかなども看過できずこれらはオークションの仕組みによって異なり得ますしかしオークションは分が有する財を売るために実施しているわけですから期待できる収額が重要な点であることには変わりありません国債の場合発体からみれば「期待できる収」とは「調達コストを抑えること」に相当するため収同値定理は発体にとっても重要な定理であるといえます 33 共通価値(common value) これまで個々が財に対して異なる評価額を有することを前提とする「私的価値」に基づ

き議論を進めてきましたが国債のオークションでは「共通価値(common value)」に基づいて理論が構築されることもあります28「共通価値」とは全ての札者がオークションの対象となる財の価値を同じように評価するという仮定です例えばべ物のように々

26 般的にこのような場合評価額が番にいの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times

=97 円+5 円times =100 円となるので発体の期待収も 100 円となります 27 収同値定理が成するためには①全ての札者はリスク中的②共通した分布関数から互いに独に私的価値を得る③最もい私的価値を持つ者が落札し最も低い私的価値を持つ者の期待利得はゼロであるといった前提条件が置かれていますこの中で最も強い前提は「互いに独に私的価値」の部分でありしたがって転売などを念頭に置いているオークションの場合は他の評価額によって分の評価額も影響を受けざるを得ないため必ずしも収同値定理は成しません国債を始めとする有価証券のオークションの場合にも当然に転売も念頭に置かれていると考えられるため般的にこの収同値定理の前提条件が満たされているとは考え難いです 28 共通価値についてより詳細を知りたいは上(2010)などを参照してください

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 6: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

5

しています オークション式の変更は国にとどまりません例えばフランスではダッチ式から

コンベンショナル式へ変更がなされており我が国でも 30 年国債を 2007 年にダッチ式からコンベンショナル式に変更していますこのように実際に各国の発当局が札式を変更してきた歴史があることから今後もその時々の状況に鑑み政府が適切な札な式を考えていく必要性があるのです

本稿の構成は以下のとおりです2章では本における国債のオークションの実態や歴史的変遷を振り返ります3章ではオークション理論の観点から4章ではオークションに係る実証的研究の観点から国債オークションを分析します5章はまとめです 2本国債のオークションの概要 21 国債と本の資本市場 融の重要な役割のつは政府や企業など資を持っていない主体(字主体)と家計など資を持っている主体(字主体)を繋ぐことで経済を効率的に回すことです字主体が株式や債券などを発し字主体がそれを購することを通じて資融通をうことを直接融という銀等を経由して字主体と字主体を繋ぐことを間接融といいます我が国家計融資産の半数程度が預であることから我が国は間接融主体の融システムを有していますが本国債については他の先進国と同様直接融を通じて資融通がなされています具体的には本政府が発した国債を銀や保険会社などが購することを通じて本政府は資調達をっています 上記のように国債を通じた政府による資調達は直接融に基づきますが国債などの有価証券が取引される市場は発市場(プライマリー市場)と流通市場(セカンダリー市場)で構成されます発市場とは財務省が新規に債券を発して資調達をする市場であり流通市場とは既に発された国債を売買する市場です国債のような債券の流通市場では証券会社が債券を在庫として保有し価格を提することで市場を形成していることが特徴です本国債の場合例えば10 年利付国債を新規に発するとしても既に市場では 10 年利付国債に類似した国債(例えば3 か前に発した 10 年利付国債など)が流通していますから流通市場で形成された価格は国債の新規発にきな影響をもたらします7 本稿では発市場における国債発価格がオークションを通じて決定される点を深堀りしていきますが実は有価証券の発において札という形式が採られているケースは我が国では国債や部の債券など8に限られます株式や社債などの多くの有価証券では引 7 現在では銘柄統合(リオープン)が拡充されているため既に発されている国債と同の国債が札で追加発されるケースも少なくありません 8 例えば本速道路保有債務返済機構や兵庫県の起債に際しイールドダッチ式が活されることがあるなど国債以外の債券でもオークションがいられるケースがあります

6

受式(アンダーライティング)が採られています引受式では証券会社が発体と投資家との間にち両者が合意できる価格を探ることで有価証券が発されています(詳細はBOX 1 を参照してください)もっとも原理的には株式や社債についてもオークションで発することは可能です事実Google はオークションで新規株式公開をしましたし9本の株式市場でもかつては札式で発されていました10 22 国債市場における競争札導の歴史的経緯

冒頭で記載したとおり国債についても以前は引受式に類する式で発されていました具体的には戦後国債が発されてから永らくシ団引受と資運部引受の 2 式が採られていましたシ団引受とは具体的には 1000 を超える融機関により国債引受のための団体(これをシンジケート団(いわゆるシ団)といいます)を作り発された国債をシ団が引き受ける形を指します(図 2 を参照)資運部引受とは旧蔵省(現財務省)における資運部資による国債の引受のことです戦後国債の発がなされてから永らく引受式による発が主要な役割を果たしていました

図 2 シ団引受の仕組み

出所財務省「債務管理リポート 2006」(p46)より抜粋 9 Google のオークションをいた上場についてはシュミット(2011)などを参照ください 10 我が国では 1997 年にブックビルディング式が導されて以降札式は活されていません(池 2015)株式の発に際してブックビルディング式とオークションのどちらが望ましいかについてはKutsuna and Smith (2004)や池(2015)などを参照してください

7

その後「債務管理リポート 2006」にもあるとおり市場参加者の意なども踏まえ1978 年には公募札が導されたほか1989 年にはシ団引受に部分的競争札が導されました同レポートによれば部分的競争札については「①導後も国債の札は引き続き順調にわれまた流通市場も較的落ち着いた動きをせていること②国の債務管理の在りに関する懇談会国債市場特別参加者会合国債投資家懇談会等において意を聴取したところ同制度の国債安定消化機能は導当初に期待された効果をあげておりシ団を廃しても問題ないとの解で概ね致をたことから平成 17 年度末をもってシ団引受をわないこととしました」(p47 より抜粋)とあります図 3 はシ団引受のシェアの推移をしていますが徐々に競争札による発の割合が増えていくことが確認できますシ団による発は 2006 年 3 に完全に廃されています11

図 3 シ団引受のシェアの推移

出所財務省「債務管理リポート 2006」(p47)より抜粋

11 幸(2000)は 2000 年前後の国債札制度の変遷について説の形式で記載しています

8

23 本国債のオークションの詳細コンベンショナル式とダッチ式

現在の国債市場では償還年限が1年以下の短期国債に加え2 年5 年10 年20 年30 年40 年債及び物価連動国債が発されていますがこれらの発条件はオークションによって定められます般的に発側は国債を安定的に消化しつつい値段で発したい(低い利で調達したい)と考えますが投資家側は出来る限り安く買いたい(い利で運したい)と考えています国債の発価格や利はその綱引きで決まるのですが現在いられている具体的な発法は40 年債と物価連動国債を除き「コンベンショナル式」と呼ばれる法がいられています40 年債と物価連動国債については「ダッチ式」と呼ばれる法で発されていますこれらのオークション式の違いの詳細は後述しますが部の国債についてダッチ式がいられている要因として相対的に流動性に懸念があるほか投資家が限定的であることなどが挙げられます12

財務省は市場関係者とも対話をしつつその時々で望ましいオークションの法をいています歴史的には中期債の発当初(1978~79 年)はダッチ式が採されましたが1979 年7にコンベンショナル式に改められ10 年債や 20 年債の競争札でもコンベンショナル式が採されました13ダッチ式については 1999 年に導された 30 年債や 2000 年に発が開始された 15 年変動利付債(現在は発が停)の発14で再び採されますもっとも30 年債の発については 2007 年 4 からダッチからコンベンショナ

12 財務省は 40 年国債についてダッチ式がいられている理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「40 年債の札式についてはこれまで当局としては投資家層の拡がりが限定的で他の年限と較して遜ない程度の流動性がられていないなどマーケットの成熟が確認されていないため利回りダッチ式の継続が適当ではないかとしてきたところ」「価格コンベンショナル式に移すべきという御意も定程度あったが国債市場特別参加者の数落札シェアのいずれでみても利回りダッチ式を維持すべきという御意が多数」としています 13 ここでの記述は副島花尻嶋(2001)などを参照しています 14 札での発開始は 2000 年 6 (第 8 回)ですが発体は私募で 1983 年2から開始されています

BOX 1 引受式(アンダーライティング)とは 引受式(アンダーライティング)では証券会社が発体と投資家との間にり発価格を調整していきます例えばある会社が新規株式を発することを決めた場合引受をう証券会社は投資家に当該株式を購しても良いと考える価格と数量をヒアリングしますその内容を証券会社は発体にフィードバックするという形で価格調整をしていきますこのような式を特にブックビルディング式といい現在本における株式や社債など多くの有価証券がこの法に基づき発されています

9

ル式に移しています15 国債のオークションに際しオークションの参加者は価格や利を提することで応札

するのですがコンベンショナル式では発体からみてメリットがある札(すなわちい価格や低い利で応札された札)から順番に落札していきますオークションには発標額があるため標額に達することとなる札までを落札とし落札最低価格未満の価格や落札最利を上回る利で応札した注は落札できないという形式を採っています例えば3000 億円の国債を札で発する際1 兆円の応札があったとしますこの場合発体はい価格で応札された札から順番に落札していきちょうど落札合計額が 3000 億円に達する価格まで落札することになります参加者が異なる価格で同じ財を購する点がコンベンショナル式の特徴です(数値例については BOX 2 を参照してください)

ダッチ式では同じように参加者が応札するのですが発体が標とする発額に達する価格で全員が購します前述のように 3000 億円の国債の発に対して1 兆円の応札があった際い価格から順番に落札していき落札合計額が標額である 3000 億円に達することとなる札までを落札としますがこの式では 3000 億円にちょうど達することとなった札の価格で皆律に購しますすなわちコンベンショナル式とは異なりダッチ式では落札できた国債について応札者が全員同じ価格で国債を購する点が特徴です

なおこのように国債の発価格は主にコンベンショナル式あるいはダッチ式で決定されますが価格競争札と呼ばれる競争札に基づかない式でも部発がなされています価格競争札は通常の競争札と同じタイミングで実施される第Ⅰ価格競争札と札後に実施される第Ⅱ価格競争札で構成されますが両者とも後述するプライマリーディーラーのみが参加できます16同札ではプライマリーディーラーは価格競争札においてオークションで決められた平均価格で国債を購できる権利を有しますがこれは後述する応札や落札義務などプライマリーディーラーが課された責任の対価と解釈可能です

15 財務省はダッチ式からコンベンショナル式へ変更した理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「市場の成熟」について指摘しており「40 年債の流動性は徐々にまっていると認識しているものの例えばP4 にしたグラフの通り30 年債の札式を価格コンベンショナル式に移した頃の業者間出来を現在の 40 年債はまだ超えていないことなどから当局としては未だ成熟しているとはい難い状況であると認識」とコメントしています 16 第Ⅰ価格競争札第Ⅱ価格競争札とは過去の落札実績(第Ⅰ)応札実績(第Ⅱ)等に基づき個社ごとに定められた限度額内で競争札の平均落札価格により国債を取得できる札です第Ⅰ価格競争札は 2005 年 4 第Ⅱ価格競争札は 2004 年 10 に導されています

10

BOX 2 コンベンショナル式とダッチ式のイメージ ここではコンベンショナル式とダッチ式を理解するために具体的な数値例を

い両式がどのような違いをもたらすのかについて考えてみましょう図 4 にしているとおり財務省が 1000 億円分の国債を札で発しようと考えておりプライマリーディーラーである A と B が応札するとしますこの際現在のマーケット環境に鑑みプライマリーディーラーA は 200 億円を 102 円101 円100 円99 円で応札するプライマリーディーラーB は 200 億円を 101 円100 円99 円で応札しているとしましょう

この場合1000 億円に達するまで財務省はらにとって利益のあるい価格から落札していきますこの例では 100 円のところでプライマリーディーラーA と B の応札額合計が 1000 億円に達するため100 円までの札が落札されますプライマリーディーラーA と B は 99 円で 200 億円ずつ応札していますがこの札は発額である 1000 億円を超過しているため落札されませんここまではコンベンショナル式もダッチ式も同じです

図 4 コンベンショナル式とダッチ式

注ここではわかりやすさを重視した図になっています実際のオークションではプライマリーディーラーが 3 社

以上存在する点などは捨象しています

1000億円の国債を発行

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円99円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円99円 200億円

応札

応札

互いの札は見えません

国債発行に際し入札を実施

<オークションの結果>1コンベンショナル方式(応札した価格で落札)

2ダッチ方式(1000億円に達した入札金額である100円で落札)

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーA100円 600億円

プライマリーディーラーB100円 400億円

財務省

11

コンベンショナル式とダッチ式の異なる点は購する価格ですコンベンショナル式の場合プライマリーディーラーA と B はそれぞれ分が応札した価格で落札しますすなわちプライマリーディーラーA は 102 円101 円100 円でそれぞれ 200 億円ずつ落札しプライマリーディーラーB は 101 円100 円で 200 億円ずつ落札しますダッチ式では1000 億円に達する価格すなわちそれぞれ落札できた額分(プライマリーディーラーA は 600 億円プライマリーディーラーB は 400 億円)をすべて律の価格である 100 円で落札します

なおこの例では応札額がちょうど 1000 億円になる事例にしていますが実際には発額を超過することがあります例えばこのケースにおいてプライマリーディーラーA が 100 円で(200 億円でなく)300 億円を応札していた場合応札額は 101 円の累計(600 億円)では 1000 億円に達しませんが100 円では応札額(累計)が 1100 億円となり発額である 1000 億円を超過しますこのようなケースでは超過した分が発額に収まるようにするため「『オファー額』と『案分価格帯の段上までの累計』との差分」を「案分価格帯に応札した額」で除することによって率(案分率)を作りますこの場合100 円で応札したAの 300 億円とBの 200 億円の合計(500 億円)が残り 400 億円に収まるようにするため「400500=08」が案分率となります

案分率の計算法(オファー額minus第Ⅰ競争minus切り価格の段上の応札額累計額)divide切り価格の応札額times100

BOX 3 イールドダッチ式 2〜30 年の利付国債についてはコンベンショナル式で発されていますがこれらは

札当の 10 時 30 分に利率(クーポン)が決定され価格で応札します現在40 年債は年度で 1 銘柄発されていますが年度最初のオークションの前には利率が定まっておらず複利利回りで応札するイールドダッチ式が採されていますこれは40 年債においてもしクーポンを定めてから価格で応札した場合デュレーション(利が変化した際の国債の価格感応度)がきいためオークションの結果単価が 100 円からきく乖離する可能性があるからです例えば100 円以下(以上)の価格で国債が発された場合発当局が当初予定した額より少なく(多く)調達することになるという問題を有しますその複利で応札してから利率を定めるイールドダッチ式であれば100 円(パー)に近い発が可能となり発体からみれば安定的な調達が可能になります

12

24 プライマリーディーラーの役割

現在の国債発に際しては主に証券会社で構成される国債市場特別参加者制度(いわゆるプライマリーディーラー制度)が重要な役割を果たしていますプライマリーディーラーとは証券会社などを中に国によって指定された業者のことで国債に関する札や落札の義務を負うで定の優遇措置を受けます先ほど及した価格競争札もプライマリーディーラーに認められた権利になります

BOX 4 市場参加者による札結果の解釈 財務省は国債の札結果として「応募額」「募決定額」「募最低価格」「募最低価

格における案分率」「募平均価格」を発表しています市場参加者はその札の結果を解釈する際しばしば「テール」や「応募倍率」などをいます

「テール」とは「平均価格」と「最低価格」の差になりますオークションに際し投資家が応札した札の分布(横軸に応札価格縦に応札した額)がありますが財務省は分布そのものを公表しないため市場参加者は「平均価格」と「最低価格」から分布を推測しますもし投資家の意が似通っていれば多くの札が分布の中付近に集まりますこの場合テールはさく証券会社及び投資家の意に相違が少ない札であると解釈可能です分布が中に寄っていない場合分布の平均からきく外れた札も落札されることからテールはきくなりますこの結果は証券会社及び投資家の意に相違がきかった札と解釈できます(しばしば市場参加者はテールがきい札を「札結果が流れた」と表現し札結果が不調であった可能性を考える傾向があります)

また「応募倍率」は「応募額」「募決定額」で計算し発額(募決定額)に対してどの程度応募があったかをみるもので数量のでどれくらい投資家が積極的にオークションに参加したのかを把握することができますこれ以外にも例えばBloomberg などが証券会社などの予測値を事前に公表しているためその予測値との乖離をいて札の結果を評価するなど投資家は様々な形でオークションの結果を解釈していますちなみにプライマリーディーラーなど各融機関がいくら落札したかについて財務省は公表していませんが間のベンダーが業者に落札額をヒアリングしています(もっともすべての融機関をカバーしているわけではないため「落札者不明分」が存在します)

なおダッチ式では本で記載したとおり参加者が律の価格で購するため募平均価格に相当する概念がなくテールは計算できません現在の 40 年債の札は利に基づくダッチ式であり「募最利回り」が公表されています

13

実際の国債の札ではプライマリーディーラーが多くの投資家から注を募ることなどを通じて投資家の需要を集めます例えばプライマリーディーラーでない融機関が札で国債の購をおうと考える際多くの場合分が買いたい値段(指値注)で証券会社に注することなどにより札に参加しますプライマリーディーラーはその札を集約して応札することになります

なお現在の制度ではプライマリーディーラー以外も定の条件で札に参加できる形になっています前述のとおり国では 1991 年にソロモンブラザーズが他名義をいて不正に国債の買い占め(スクイーズ)をったのですが国政府はそのようなスクイーズを防ぐことなどを的にプライマリーディーラー以外も札に参加できるように制度を改正しました(国債の札の詳細は BOX 7 を参照してくださいまたスクイーズの詳細は3節で説明します) 3国債のオークション理論 31 国債のオークションと情報の対称性 前章では本国債にかかるオークションの制度を中に議論を進めましたが本章ではオークションを実施する意味について考えていきます国債の発においてオークションをう本質的な理由は本政府側からみれば国債の買いが有する情報を分に把握していないつまり経済学の葉でいうと「情報の対称性」17があるからですそもそもオークションとは財やサービスを売る際買い側からのアクション等を踏まえて値決めをう仕組みですもし売りが買いの情報を全て知っていたのであればわざわざオークションなどせずとも最もい値段で買ってくれるであろう買いのところにって直接財やサービスを売れば良いわけですあるいは最もい値段で買ってくれるであろう買いを想定しその買いがギリギリ買ってくれるであろう値段を付けて売り出すことができるはずですそれをしないでオークションをうのは売りが買いの情報を全て知っているわけではなくむしろオークションという法を通じて買いの有する情報を札価格という形で発的に開してもらいそれを通じて売りが値決めをおうと考えているからに他なりません

売りよりも買いのがその商品の価値を熟知していたとしても全く不思議ではありません国債の札に際してはマーケットの現場にいるプライマリーディーラーや投資家のほうが発体である政府より国債の価値を理解している可能性はいとみることもできますこの状況は前述した情報の対称性が問題になっている局といえましょうそのため政府は投資家が有する情報を発的に開してもらうという意味でオークションをうまく設計する必要があるわけです

切なのはオークションによって投資家が分の情報を発的に開してくれるかど

17 情報の対称性とは買いと売りの間に情報の格差があることをす経済学の専語です

14

うかはその仕組みの巧拙にきく依存する点です極端な例ですが財務省が国債を発する際投資家が1しかいないことが予め投資家には分かっていたとしましょうそしてオークションでは単価ベースで 1 銭から札できるとしますもし買いが内では国債に 100 円払っても良いと思っていたとしてもこの状況下では投資家は最低価格である 1銭で札し落札することになるでしょうこうなると発体である財務省は本来であれば買いの評価額付近の価格で発することにより多くの資調達をできる可能性があったのにもかかわらずその資が調達できないことになります

32 「私的価値」をいたオークション理論の基礎

上記のような例を考えても政府にとってはオークションをうまく設計することで投資家やプライマリーディーラーにうまく情報を開してもらうことが肝要ですここからは国債のオークションにおいて投資家がどのように価格を開していくかを考えるためオークションの仕組みについて具体的に考えていきます我々がにする典型的なオークションは1つの財に対して複数の参加者が札し最も値をれた者が落札するような仕組みですこのようなオークションを「単財オークション」といいます ここからは単財オークションについて考えていきますがまずオークションの参加者個々がある財に対して有するそれぞれの評価額に基づき意思決定すると想定しますこのような評価を「私的価値(private value)」といいます例えばオークションでコンサートのチケットを 1 枚販売するケースにおいて参加者が私的価値に基づき評価しているとしましょうこの場合このオークションの参加者の中にはチケットを常に欲しているやあまり欲しいと思わないなど当該チケットに対して異なる評価をする達がいる(チケットという財に対する評価が分かれている)状況を想定しています

ここで財務省が 10 年債 1 銘柄をオークションにより発する場合(すなわち単財オークションを実施する場合)市場参加者が私的価値に基づくとするとどのような結果が得られるかを考えるため次のような設定を考えますすなわち財務省が発する1銘柄に対して異なる評価を持つ4社の投資家が札に参加するケースを取り上げますこの 10年債についてはA社は 101 円までなら払って良いと内考えているとします同様にB社は 100 円までならC社は 99 円までならD社は 98 円までなら払って良いと考えているとしましょうみな分が幾らまでなら払って良いかは分かっているのですが他社のの内は分かりませんここでは他社の評価額が幾らであっても分の評価額は変わらないことを前提とします 第価格札式 札者は各々応札価格を決めて封をして提出し18番値で応札した投資家が落札し

18 このように封をして他の参加者の札が分からないオークションを「封印型オークション(sealed bid

15

その応札価格を払うとしましょうこのような札法を「第価格札式」といいますがA 社にとって望ましい応札価格は幾らでしょうか当然分の評価額である 101 円を上回る価格では札しないでしょうそんな価格で落札してしまったら却って損してしまいますまた101 円丁度で札して落札しても利得は 0 円ですからうまみはありませんしたがってA 社は 101 円を下回る価格で札することが予想されるわけですが安い価格で落札できたが得する応札価格が低ければ低いほど落札確率が下がってしまいます

経済学ではこのように意思決定者が不確実性に直した場合確率をいることで意思決定者がどのように動するかについて分析をいます例えばここでは 4 社の評価額が 97 円以上102 円以下の範囲でランダム19に分布していることが公知であったとしましょう4社は相の応札価格を想像しながら分の応札価格を決めていく必要がありますが実は定の想定の下で A 社の最適な戦略を呈することができます意思決定者がその不確実性を考慮したリターンすなわち期待利得(落札確率times利得)が最になるように応札価格を決めることを想定すると20最低額(ここでは 97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札することが最適な戦略であることを証明できます21(証明の詳細は BOX 5 を参照してください)具体的にはA 社にとってこのケースでは 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円で応札することが最適な戦略になります同様に B~D 社についても最適な応札価格を計算できますがA 社の評価額が番いことから A 社が落札するため発体は A 社の応札価格である 100 円で国債を売ることができます22(図5参照)

auction)」といいますオークションの価格を参加者が把握可能なオークションを「公開型オークション(open bid auction)」といいます 19 専的にいえば様分布であるといいます 20 もっともリスク回避的であることを仮定する場合など必ずしも期待利得を最化するように動しない投資家を想定することもありますが本稿では簡明な説明のため期待利得最化の場合のみを紹介します 21 専的にいえばベイジアン=ナッシュ均衡であるといいます分以外の皆が最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札するという戦略を採るのであれば分も同じ戦略を採ることにより落札確率times利得を最化することができますもっとも分以外の者が必ずしもこのような合理的な戦略を採らないのであればこのような戦略に拘らないが落札確率times利得を最化することができるかもしれませんそのためここで挙げた最適戦略とはあくまで分以外の者も合理的に動すると仮定した場合の最適戦略ということができます 22 般的にこのような場合評価額が番いの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times =97 円+5 円times =101 円となるので発体の期待収は 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円となります

16

図 5 第価格札式の例

上記の結果は札参加者が4であることに依存しています般的に札参加者が であれば札者は最低額(97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格で応札することが最適な戦略になることもすことができます例えば札者が2であれば最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の半分を加算した価格が最適な戦略です 第価格札式 ここまで私的価値に基づく単財オークションについて落札者が応札価格と同額を払う第価格札式を考えてきましたもっとも最近インターネットにおけるオークションなどでは「第価格札式」という式も使われるようになってきています23各々応札価格を決めて封をして提出した上で番値で応札したが落札するところまでは第価格札式と同じです第価格札式がい点はそのの払額が番に値で応札したの応札価格に基づく点であり理論的24に札者は分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる点です25(これを「耐戦略性」といいますまたこの法が最適な戦略となる直感的な解説については BOX 6 を参照してください)

先ほど挙げた国債の札において今度は発体が第価格札式に基づき実施したとします各社の最適な動は素直に分の評価額を表明することですからA 社は分の

23 例えばインターネットオークションを運営する eBay ではこのような式がいられています但し参加者の付け値が時間が経つにつれて明らかになるところが通常の封印型の第価格札式と異なります(キシテイニー 2018) 24 共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります 25 ここでは第価格札式の場合とは異なり分以外の者がどんな戦略をててきても分は分の評価額を札することにより落札確率times利得を最化することができるので分の評価額を札することが配戦略ということになります

評価額 入札額 利得A社 101円 100円 1円

B社 100円 925円 075円

C社 99円 985円 05円

D社 98円 9775円 025円

財務省

17

評価額である 101 円で応札しB 社も分の評価額である 100 円で応札します結果的にA 社は落札に成功しB 社の応札価格である 100 円を払うことになります26 収同値定理 私的価値に基づく単財オークションについて第価格札式と第価格札式を考えてきましたが我々が気になる点はこのつの式のどちらが発体にとって優れているかです驚くべき点は実は定の条件27の下どのようなオークションをっても発体が期待できる収額は定であることが証明できることですこれを「収同値定理」(Revenue Equivalence Theorem)といいます(Myerson 1981 Riley and Samuelson 1981)これはオークション理論における字塔的な定理といえましょうこの定理によれば発体は少なくとも期待できる収額の点からはオークションの仕組みについて殆ど気にしないで良いことが分かります実際上記の例をみればどちらの式でも発価格が 100円になっており売りの収は同じになっていることが確認できます

無論オークションの仕組みを検討する際には期待できる収額以外にも留意すべき点は多々あります例えばどのくらいの札者を込めるか或いはどのような不正が起こり得るかなども看過できずこれらはオークションの仕組みによって異なり得ますしかしオークションは分が有する財を売るために実施しているわけですから期待できる収額が重要な点であることには変わりありません国債の場合発体からみれば「期待できる収」とは「調達コストを抑えること」に相当するため収同値定理は発体にとっても重要な定理であるといえます 33 共通価値(common value) これまで個々が財に対して異なる評価額を有することを前提とする「私的価値」に基づ

き議論を進めてきましたが国債のオークションでは「共通価値(common value)」に基づいて理論が構築されることもあります28「共通価値」とは全ての札者がオークションの対象となる財の価値を同じように評価するという仮定です例えばべ物のように々

26 般的にこのような場合評価額が番にいの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times

=97 円+5 円times =100 円となるので発体の期待収も 100 円となります 27 収同値定理が成するためには①全ての札者はリスク中的②共通した分布関数から互いに独に私的価値を得る③最もい私的価値を持つ者が落札し最も低い私的価値を持つ者の期待利得はゼロであるといった前提条件が置かれていますこの中で最も強い前提は「互いに独に私的価値」の部分でありしたがって転売などを念頭に置いているオークションの場合は他の評価額によって分の評価額も影響を受けざるを得ないため必ずしも収同値定理は成しません国債を始めとする有価証券のオークションの場合にも当然に転売も念頭に置かれていると考えられるため般的にこの収同値定理の前提条件が満たされているとは考え難いです 28 共通価値についてより詳細を知りたいは上(2010)などを参照してください

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 7: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

6

受式(アンダーライティング)が採られています引受式では証券会社が発体と投資家との間にち両者が合意できる価格を探ることで有価証券が発されています(詳細はBOX 1 を参照してください)もっとも原理的には株式や社債についてもオークションで発することは可能です事実Google はオークションで新規株式公開をしましたし9本の株式市場でもかつては札式で発されていました10 22 国債市場における競争札導の歴史的経緯

冒頭で記載したとおり国債についても以前は引受式に類する式で発されていました具体的には戦後国債が発されてから永らくシ団引受と資運部引受の 2 式が採られていましたシ団引受とは具体的には 1000 を超える融機関により国債引受のための団体(これをシンジケート団(いわゆるシ団)といいます)を作り発された国債をシ団が引き受ける形を指します(図 2 を参照)資運部引受とは旧蔵省(現財務省)における資運部資による国債の引受のことです戦後国債の発がなされてから永らく引受式による発が主要な役割を果たしていました

図 2 シ団引受の仕組み

出所財務省「債務管理リポート 2006」(p46)より抜粋 9 Google のオークションをいた上場についてはシュミット(2011)などを参照ください 10 我が国では 1997 年にブックビルディング式が導されて以降札式は活されていません(池 2015)株式の発に際してブックビルディング式とオークションのどちらが望ましいかについてはKutsuna and Smith (2004)や池(2015)などを参照してください

7

その後「債務管理リポート 2006」にもあるとおり市場参加者の意なども踏まえ1978 年には公募札が導されたほか1989 年にはシ団引受に部分的競争札が導されました同レポートによれば部分的競争札については「①導後も国債の札は引き続き順調にわれまた流通市場も較的落ち着いた動きをせていること②国の債務管理の在りに関する懇談会国債市場特別参加者会合国債投資家懇談会等において意を聴取したところ同制度の国債安定消化機能は導当初に期待された効果をあげておりシ団を廃しても問題ないとの解で概ね致をたことから平成 17 年度末をもってシ団引受をわないこととしました」(p47 より抜粋)とあります図 3 はシ団引受のシェアの推移をしていますが徐々に競争札による発の割合が増えていくことが確認できますシ団による発は 2006 年 3 に完全に廃されています11

図 3 シ団引受のシェアの推移

出所財務省「債務管理リポート 2006」(p47)より抜粋

11 幸(2000)は 2000 年前後の国債札制度の変遷について説の形式で記載しています

8

23 本国債のオークションの詳細コンベンショナル式とダッチ式

現在の国債市場では償還年限が1年以下の短期国債に加え2 年5 年10 年20 年30 年40 年債及び物価連動国債が発されていますがこれらの発条件はオークションによって定められます般的に発側は国債を安定的に消化しつつい値段で発したい(低い利で調達したい)と考えますが投資家側は出来る限り安く買いたい(い利で運したい)と考えています国債の発価格や利はその綱引きで決まるのですが現在いられている具体的な発法は40 年債と物価連動国債を除き「コンベンショナル式」と呼ばれる法がいられています40 年債と物価連動国債については「ダッチ式」と呼ばれる法で発されていますこれらのオークション式の違いの詳細は後述しますが部の国債についてダッチ式がいられている要因として相対的に流動性に懸念があるほか投資家が限定的であることなどが挙げられます12

財務省は市場関係者とも対話をしつつその時々で望ましいオークションの法をいています歴史的には中期債の発当初(1978~79 年)はダッチ式が採されましたが1979 年7にコンベンショナル式に改められ10 年債や 20 年債の競争札でもコンベンショナル式が採されました13ダッチ式については 1999 年に導された 30 年債や 2000 年に発が開始された 15 年変動利付債(現在は発が停)の発14で再び採されますもっとも30 年債の発については 2007 年 4 からダッチからコンベンショナ

12 財務省は 40 年国債についてダッチ式がいられている理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「40 年債の札式についてはこれまで当局としては投資家層の拡がりが限定的で他の年限と較して遜ない程度の流動性がられていないなどマーケットの成熟が確認されていないため利回りダッチ式の継続が適当ではないかとしてきたところ」「価格コンベンショナル式に移すべきという御意も定程度あったが国債市場特別参加者の数落札シェアのいずれでみても利回りダッチ式を維持すべきという御意が多数」としています 13 ここでの記述は副島花尻嶋(2001)などを参照しています 14 札での発開始は 2000 年 6 (第 8 回)ですが発体は私募で 1983 年2から開始されています

BOX 1 引受式(アンダーライティング)とは 引受式(アンダーライティング)では証券会社が発体と投資家との間にり発価格を調整していきます例えばある会社が新規株式を発することを決めた場合引受をう証券会社は投資家に当該株式を購しても良いと考える価格と数量をヒアリングしますその内容を証券会社は発体にフィードバックするという形で価格調整をしていきますこのような式を特にブックビルディング式といい現在本における株式や社債など多くの有価証券がこの法に基づき発されています

9

ル式に移しています15 国債のオークションに際しオークションの参加者は価格や利を提することで応札

するのですがコンベンショナル式では発体からみてメリットがある札(すなわちい価格や低い利で応札された札)から順番に落札していきますオークションには発標額があるため標額に達することとなる札までを落札とし落札最低価格未満の価格や落札最利を上回る利で応札した注は落札できないという形式を採っています例えば3000 億円の国債を札で発する際1 兆円の応札があったとしますこの場合発体はい価格で応札された札から順番に落札していきちょうど落札合計額が 3000 億円に達する価格まで落札することになります参加者が異なる価格で同じ財を購する点がコンベンショナル式の特徴です(数値例については BOX 2 を参照してください)

ダッチ式では同じように参加者が応札するのですが発体が標とする発額に達する価格で全員が購します前述のように 3000 億円の国債の発に対して1 兆円の応札があった際い価格から順番に落札していき落札合計額が標額である 3000 億円に達することとなる札までを落札としますがこの式では 3000 億円にちょうど達することとなった札の価格で皆律に購しますすなわちコンベンショナル式とは異なりダッチ式では落札できた国債について応札者が全員同じ価格で国債を購する点が特徴です

なおこのように国債の発価格は主にコンベンショナル式あるいはダッチ式で決定されますが価格競争札と呼ばれる競争札に基づかない式でも部発がなされています価格競争札は通常の競争札と同じタイミングで実施される第Ⅰ価格競争札と札後に実施される第Ⅱ価格競争札で構成されますが両者とも後述するプライマリーディーラーのみが参加できます16同札ではプライマリーディーラーは価格競争札においてオークションで決められた平均価格で国債を購できる権利を有しますがこれは後述する応札や落札義務などプライマリーディーラーが課された責任の対価と解釈可能です

15 財務省はダッチ式からコンベンショナル式へ変更した理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「市場の成熟」について指摘しており「40 年債の流動性は徐々にまっていると認識しているものの例えばP4 にしたグラフの通り30 年債の札式を価格コンベンショナル式に移した頃の業者間出来を現在の 40 年債はまだ超えていないことなどから当局としては未だ成熟しているとはい難い状況であると認識」とコメントしています 16 第Ⅰ価格競争札第Ⅱ価格競争札とは過去の落札実績(第Ⅰ)応札実績(第Ⅱ)等に基づき個社ごとに定められた限度額内で競争札の平均落札価格により国債を取得できる札です第Ⅰ価格競争札は 2005 年 4 第Ⅱ価格競争札は 2004 年 10 に導されています

10

BOX 2 コンベンショナル式とダッチ式のイメージ ここではコンベンショナル式とダッチ式を理解するために具体的な数値例を

い両式がどのような違いをもたらすのかについて考えてみましょう図 4 にしているとおり財務省が 1000 億円分の国債を札で発しようと考えておりプライマリーディーラーである A と B が応札するとしますこの際現在のマーケット環境に鑑みプライマリーディーラーA は 200 億円を 102 円101 円100 円99 円で応札するプライマリーディーラーB は 200 億円を 101 円100 円99 円で応札しているとしましょう

この場合1000 億円に達するまで財務省はらにとって利益のあるい価格から落札していきますこの例では 100 円のところでプライマリーディーラーA と B の応札額合計が 1000 億円に達するため100 円までの札が落札されますプライマリーディーラーA と B は 99 円で 200 億円ずつ応札していますがこの札は発額である 1000 億円を超過しているため落札されませんここまではコンベンショナル式もダッチ式も同じです

図 4 コンベンショナル式とダッチ式

注ここではわかりやすさを重視した図になっています実際のオークションではプライマリーディーラーが 3 社

以上存在する点などは捨象しています

1000億円の国債を発行

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円99円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円99円 200億円

応札

応札

互いの札は見えません

国債発行に際し入札を実施

<オークションの結果>1コンベンショナル方式(応札した価格で落札)

2ダッチ方式(1000億円に達した入札金額である100円で落札)

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーA100円 600億円

プライマリーディーラーB100円 400億円

財務省

11

コンベンショナル式とダッチ式の異なる点は購する価格ですコンベンショナル式の場合プライマリーディーラーA と B はそれぞれ分が応札した価格で落札しますすなわちプライマリーディーラーA は 102 円101 円100 円でそれぞれ 200 億円ずつ落札しプライマリーディーラーB は 101 円100 円で 200 億円ずつ落札しますダッチ式では1000 億円に達する価格すなわちそれぞれ落札できた額分(プライマリーディーラーA は 600 億円プライマリーディーラーB は 400 億円)をすべて律の価格である 100 円で落札します

なおこの例では応札額がちょうど 1000 億円になる事例にしていますが実際には発額を超過することがあります例えばこのケースにおいてプライマリーディーラーA が 100 円で(200 億円でなく)300 億円を応札していた場合応札額は 101 円の累計(600 億円)では 1000 億円に達しませんが100 円では応札額(累計)が 1100 億円となり発額である 1000 億円を超過しますこのようなケースでは超過した分が発額に収まるようにするため「『オファー額』と『案分価格帯の段上までの累計』との差分」を「案分価格帯に応札した額」で除することによって率(案分率)を作りますこの場合100 円で応札したAの 300 億円とBの 200 億円の合計(500 億円)が残り 400 億円に収まるようにするため「400500=08」が案分率となります

案分率の計算法(オファー額minus第Ⅰ競争minus切り価格の段上の応札額累計額)divide切り価格の応札額times100

BOX 3 イールドダッチ式 2〜30 年の利付国債についてはコンベンショナル式で発されていますがこれらは

札当の 10 時 30 分に利率(クーポン)が決定され価格で応札します現在40 年債は年度で 1 銘柄発されていますが年度最初のオークションの前には利率が定まっておらず複利利回りで応札するイールドダッチ式が採されていますこれは40 年債においてもしクーポンを定めてから価格で応札した場合デュレーション(利が変化した際の国債の価格感応度)がきいためオークションの結果単価が 100 円からきく乖離する可能性があるからです例えば100 円以下(以上)の価格で国債が発された場合発当局が当初予定した額より少なく(多く)調達することになるという問題を有しますその複利で応札してから利率を定めるイールドダッチ式であれば100 円(パー)に近い発が可能となり発体からみれば安定的な調達が可能になります

12

24 プライマリーディーラーの役割

現在の国債発に際しては主に証券会社で構成される国債市場特別参加者制度(いわゆるプライマリーディーラー制度)が重要な役割を果たしていますプライマリーディーラーとは証券会社などを中に国によって指定された業者のことで国債に関する札や落札の義務を負うで定の優遇措置を受けます先ほど及した価格競争札もプライマリーディーラーに認められた権利になります

BOX 4 市場参加者による札結果の解釈 財務省は国債の札結果として「応募額」「募決定額」「募最低価格」「募最低価

格における案分率」「募平均価格」を発表しています市場参加者はその札の結果を解釈する際しばしば「テール」や「応募倍率」などをいます

「テール」とは「平均価格」と「最低価格」の差になりますオークションに際し投資家が応札した札の分布(横軸に応札価格縦に応札した額)がありますが財務省は分布そのものを公表しないため市場参加者は「平均価格」と「最低価格」から分布を推測しますもし投資家の意が似通っていれば多くの札が分布の中付近に集まりますこの場合テールはさく証券会社及び投資家の意に相違が少ない札であると解釈可能です分布が中に寄っていない場合分布の平均からきく外れた札も落札されることからテールはきくなりますこの結果は証券会社及び投資家の意に相違がきかった札と解釈できます(しばしば市場参加者はテールがきい札を「札結果が流れた」と表現し札結果が不調であった可能性を考える傾向があります)

また「応募倍率」は「応募額」「募決定額」で計算し発額(募決定額)に対してどの程度応募があったかをみるもので数量のでどれくらい投資家が積極的にオークションに参加したのかを把握することができますこれ以外にも例えばBloomberg などが証券会社などの予測値を事前に公表しているためその予測値との乖離をいて札の結果を評価するなど投資家は様々な形でオークションの結果を解釈していますちなみにプライマリーディーラーなど各融機関がいくら落札したかについて財務省は公表していませんが間のベンダーが業者に落札額をヒアリングしています(もっともすべての融機関をカバーしているわけではないため「落札者不明分」が存在します)

なおダッチ式では本で記載したとおり参加者が律の価格で購するため募平均価格に相当する概念がなくテールは計算できません現在の 40 年債の札は利に基づくダッチ式であり「募最利回り」が公表されています

13

実際の国債の札ではプライマリーディーラーが多くの投資家から注を募ることなどを通じて投資家の需要を集めます例えばプライマリーディーラーでない融機関が札で国債の購をおうと考える際多くの場合分が買いたい値段(指値注)で証券会社に注することなどにより札に参加しますプライマリーディーラーはその札を集約して応札することになります

なお現在の制度ではプライマリーディーラー以外も定の条件で札に参加できる形になっています前述のとおり国では 1991 年にソロモンブラザーズが他名義をいて不正に国債の買い占め(スクイーズ)をったのですが国政府はそのようなスクイーズを防ぐことなどを的にプライマリーディーラー以外も札に参加できるように制度を改正しました(国債の札の詳細は BOX 7 を参照してくださいまたスクイーズの詳細は3節で説明します) 3国債のオークション理論 31 国債のオークションと情報の対称性 前章では本国債にかかるオークションの制度を中に議論を進めましたが本章ではオークションを実施する意味について考えていきます国債の発においてオークションをう本質的な理由は本政府側からみれば国債の買いが有する情報を分に把握していないつまり経済学の葉でいうと「情報の対称性」17があるからですそもそもオークションとは財やサービスを売る際買い側からのアクション等を踏まえて値決めをう仕組みですもし売りが買いの情報を全て知っていたのであればわざわざオークションなどせずとも最もい値段で買ってくれるであろう買いのところにって直接財やサービスを売れば良いわけですあるいは最もい値段で買ってくれるであろう買いを想定しその買いがギリギリ買ってくれるであろう値段を付けて売り出すことができるはずですそれをしないでオークションをうのは売りが買いの情報を全て知っているわけではなくむしろオークションという法を通じて買いの有する情報を札価格という形で発的に開してもらいそれを通じて売りが値決めをおうと考えているからに他なりません

売りよりも買いのがその商品の価値を熟知していたとしても全く不思議ではありません国債の札に際してはマーケットの現場にいるプライマリーディーラーや投資家のほうが発体である政府より国債の価値を理解している可能性はいとみることもできますこの状況は前述した情報の対称性が問題になっている局といえましょうそのため政府は投資家が有する情報を発的に開してもらうという意味でオークションをうまく設計する必要があるわけです

切なのはオークションによって投資家が分の情報を発的に開してくれるかど

17 情報の対称性とは買いと売りの間に情報の格差があることをす経済学の専語です

14

うかはその仕組みの巧拙にきく依存する点です極端な例ですが財務省が国債を発する際投資家が1しかいないことが予め投資家には分かっていたとしましょうそしてオークションでは単価ベースで 1 銭から札できるとしますもし買いが内では国債に 100 円払っても良いと思っていたとしてもこの状況下では投資家は最低価格である 1銭で札し落札することになるでしょうこうなると発体である財務省は本来であれば買いの評価額付近の価格で発することにより多くの資調達をできる可能性があったのにもかかわらずその資が調達できないことになります

32 「私的価値」をいたオークション理論の基礎

上記のような例を考えても政府にとってはオークションをうまく設計することで投資家やプライマリーディーラーにうまく情報を開してもらうことが肝要ですここからは国債のオークションにおいて投資家がどのように価格を開していくかを考えるためオークションの仕組みについて具体的に考えていきます我々がにする典型的なオークションは1つの財に対して複数の参加者が札し最も値をれた者が落札するような仕組みですこのようなオークションを「単財オークション」といいます ここからは単財オークションについて考えていきますがまずオークションの参加者個々がある財に対して有するそれぞれの評価額に基づき意思決定すると想定しますこのような評価を「私的価値(private value)」といいます例えばオークションでコンサートのチケットを 1 枚販売するケースにおいて参加者が私的価値に基づき評価しているとしましょうこの場合このオークションの参加者の中にはチケットを常に欲しているやあまり欲しいと思わないなど当該チケットに対して異なる評価をする達がいる(チケットという財に対する評価が分かれている)状況を想定しています

ここで財務省が 10 年債 1 銘柄をオークションにより発する場合(すなわち単財オークションを実施する場合)市場参加者が私的価値に基づくとするとどのような結果が得られるかを考えるため次のような設定を考えますすなわち財務省が発する1銘柄に対して異なる評価を持つ4社の投資家が札に参加するケースを取り上げますこの 10年債についてはA社は 101 円までなら払って良いと内考えているとします同様にB社は 100 円までならC社は 99 円までならD社は 98 円までなら払って良いと考えているとしましょうみな分が幾らまでなら払って良いかは分かっているのですが他社のの内は分かりませんここでは他社の評価額が幾らであっても分の評価額は変わらないことを前提とします 第価格札式 札者は各々応札価格を決めて封をして提出し18番値で応札した投資家が落札し

18 このように封をして他の参加者の札が分からないオークションを「封印型オークション(sealed bid

15

その応札価格を払うとしましょうこのような札法を「第価格札式」といいますがA 社にとって望ましい応札価格は幾らでしょうか当然分の評価額である 101 円を上回る価格では札しないでしょうそんな価格で落札してしまったら却って損してしまいますまた101 円丁度で札して落札しても利得は 0 円ですからうまみはありませんしたがってA 社は 101 円を下回る価格で札することが予想されるわけですが安い価格で落札できたが得する応札価格が低ければ低いほど落札確率が下がってしまいます

経済学ではこのように意思決定者が不確実性に直した場合確率をいることで意思決定者がどのように動するかについて分析をいます例えばここでは 4 社の評価額が 97 円以上102 円以下の範囲でランダム19に分布していることが公知であったとしましょう4社は相の応札価格を想像しながら分の応札価格を決めていく必要がありますが実は定の想定の下で A 社の最適な戦略を呈することができます意思決定者がその不確実性を考慮したリターンすなわち期待利得(落札確率times利得)が最になるように応札価格を決めることを想定すると20最低額(ここでは 97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札することが最適な戦略であることを証明できます21(証明の詳細は BOX 5 を参照してください)具体的にはA 社にとってこのケースでは 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円で応札することが最適な戦略になります同様に B~D 社についても最適な応札価格を計算できますがA 社の評価額が番いことから A 社が落札するため発体は A 社の応札価格である 100 円で国債を売ることができます22(図5参照)

auction)」といいますオークションの価格を参加者が把握可能なオークションを「公開型オークション(open bid auction)」といいます 19 専的にいえば様分布であるといいます 20 もっともリスク回避的であることを仮定する場合など必ずしも期待利得を最化するように動しない投資家を想定することもありますが本稿では簡明な説明のため期待利得最化の場合のみを紹介します 21 専的にいえばベイジアン=ナッシュ均衡であるといいます分以外の皆が最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札するという戦略を採るのであれば分も同じ戦略を採ることにより落札確率times利得を最化することができますもっとも分以外の者が必ずしもこのような合理的な戦略を採らないのであればこのような戦略に拘らないが落札確率times利得を最化することができるかもしれませんそのためここで挙げた最適戦略とはあくまで分以外の者も合理的に動すると仮定した場合の最適戦略ということができます 22 般的にこのような場合評価額が番いの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times =97 円+5 円times =101 円となるので発体の期待収は 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円となります

16

図 5 第価格札式の例

上記の結果は札参加者が4であることに依存しています般的に札参加者が であれば札者は最低額(97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格で応札することが最適な戦略になることもすことができます例えば札者が2であれば最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の半分を加算した価格が最適な戦略です 第価格札式 ここまで私的価値に基づく単財オークションについて落札者が応札価格と同額を払う第価格札式を考えてきましたもっとも最近インターネットにおけるオークションなどでは「第価格札式」という式も使われるようになってきています23各々応札価格を決めて封をして提出した上で番値で応札したが落札するところまでは第価格札式と同じです第価格札式がい点はそのの払額が番に値で応札したの応札価格に基づく点であり理論的24に札者は分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる点です25(これを「耐戦略性」といいますまたこの法が最適な戦略となる直感的な解説については BOX 6 を参照してください)

先ほど挙げた国債の札において今度は発体が第価格札式に基づき実施したとします各社の最適な動は素直に分の評価額を表明することですからA 社は分の

23 例えばインターネットオークションを運営する eBay ではこのような式がいられています但し参加者の付け値が時間が経つにつれて明らかになるところが通常の封印型の第価格札式と異なります(キシテイニー 2018) 24 共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります 25 ここでは第価格札式の場合とは異なり分以外の者がどんな戦略をててきても分は分の評価額を札することにより落札確率times利得を最化することができるので分の評価額を札することが配戦略ということになります

評価額 入札額 利得A社 101円 100円 1円

B社 100円 925円 075円

C社 99円 985円 05円

D社 98円 9775円 025円

財務省

17

評価額である 101 円で応札しB 社も分の評価額である 100 円で応札します結果的にA 社は落札に成功しB 社の応札価格である 100 円を払うことになります26 収同値定理 私的価値に基づく単財オークションについて第価格札式と第価格札式を考えてきましたが我々が気になる点はこのつの式のどちらが発体にとって優れているかです驚くべき点は実は定の条件27の下どのようなオークションをっても発体が期待できる収額は定であることが証明できることですこれを「収同値定理」(Revenue Equivalence Theorem)といいます(Myerson 1981 Riley and Samuelson 1981)これはオークション理論における字塔的な定理といえましょうこの定理によれば発体は少なくとも期待できる収額の点からはオークションの仕組みについて殆ど気にしないで良いことが分かります実際上記の例をみればどちらの式でも発価格が 100円になっており売りの収は同じになっていることが確認できます

無論オークションの仕組みを検討する際には期待できる収額以外にも留意すべき点は多々あります例えばどのくらいの札者を込めるか或いはどのような不正が起こり得るかなども看過できずこれらはオークションの仕組みによって異なり得ますしかしオークションは分が有する財を売るために実施しているわけですから期待できる収額が重要な点であることには変わりありません国債の場合発体からみれば「期待できる収」とは「調達コストを抑えること」に相当するため収同値定理は発体にとっても重要な定理であるといえます 33 共通価値(common value) これまで個々が財に対して異なる評価額を有することを前提とする「私的価値」に基づ

き議論を進めてきましたが国債のオークションでは「共通価値(common value)」に基づいて理論が構築されることもあります28「共通価値」とは全ての札者がオークションの対象となる財の価値を同じように評価するという仮定です例えばべ物のように々

26 般的にこのような場合評価額が番にいの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times

=97 円+5 円times =100 円となるので発体の期待収も 100 円となります 27 収同値定理が成するためには①全ての札者はリスク中的②共通した分布関数から互いに独に私的価値を得る③最もい私的価値を持つ者が落札し最も低い私的価値を持つ者の期待利得はゼロであるといった前提条件が置かれていますこの中で最も強い前提は「互いに独に私的価値」の部分でありしたがって転売などを念頭に置いているオークションの場合は他の評価額によって分の評価額も影響を受けざるを得ないため必ずしも収同値定理は成しません国債を始めとする有価証券のオークションの場合にも当然に転売も念頭に置かれていると考えられるため般的にこの収同値定理の前提条件が満たされているとは考え難いです 28 共通価値についてより詳細を知りたいは上(2010)などを参照してください

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 8: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

7

その後「債務管理リポート 2006」にもあるとおり市場参加者の意なども踏まえ1978 年には公募札が導されたほか1989 年にはシ団引受に部分的競争札が導されました同レポートによれば部分的競争札については「①導後も国債の札は引き続き順調にわれまた流通市場も較的落ち着いた動きをせていること②国の債務管理の在りに関する懇談会国債市場特別参加者会合国債投資家懇談会等において意を聴取したところ同制度の国債安定消化機能は導当初に期待された効果をあげておりシ団を廃しても問題ないとの解で概ね致をたことから平成 17 年度末をもってシ団引受をわないこととしました」(p47 より抜粋)とあります図 3 はシ団引受のシェアの推移をしていますが徐々に競争札による発の割合が増えていくことが確認できますシ団による発は 2006 年 3 に完全に廃されています11

図 3 シ団引受のシェアの推移

出所財務省「債務管理リポート 2006」(p47)より抜粋

11 幸(2000)は 2000 年前後の国債札制度の変遷について説の形式で記載しています

8

23 本国債のオークションの詳細コンベンショナル式とダッチ式

現在の国債市場では償還年限が1年以下の短期国債に加え2 年5 年10 年20 年30 年40 年債及び物価連動国債が発されていますがこれらの発条件はオークションによって定められます般的に発側は国債を安定的に消化しつつい値段で発したい(低い利で調達したい)と考えますが投資家側は出来る限り安く買いたい(い利で運したい)と考えています国債の発価格や利はその綱引きで決まるのですが現在いられている具体的な発法は40 年債と物価連動国債を除き「コンベンショナル式」と呼ばれる法がいられています40 年債と物価連動国債については「ダッチ式」と呼ばれる法で発されていますこれらのオークション式の違いの詳細は後述しますが部の国債についてダッチ式がいられている要因として相対的に流動性に懸念があるほか投資家が限定的であることなどが挙げられます12

財務省は市場関係者とも対話をしつつその時々で望ましいオークションの法をいています歴史的には中期債の発当初(1978~79 年)はダッチ式が採されましたが1979 年7にコンベンショナル式に改められ10 年債や 20 年債の競争札でもコンベンショナル式が採されました13ダッチ式については 1999 年に導された 30 年債や 2000 年に発が開始された 15 年変動利付債(現在は発が停)の発14で再び採されますもっとも30 年債の発については 2007 年 4 からダッチからコンベンショナ

12 財務省は 40 年国債についてダッチ式がいられている理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「40 年債の札式についてはこれまで当局としては投資家層の拡がりが限定的で他の年限と較して遜ない程度の流動性がられていないなどマーケットの成熟が確認されていないため利回りダッチ式の継続が適当ではないかとしてきたところ」「価格コンベンショナル式に移すべきという御意も定程度あったが国債市場特別参加者の数落札シェアのいずれでみても利回りダッチ式を維持すべきという御意が多数」としています 13 ここでの記述は副島花尻嶋(2001)などを参照しています 14 札での発開始は 2000 年 6 (第 8 回)ですが発体は私募で 1983 年2から開始されています

BOX 1 引受式(アンダーライティング)とは 引受式(アンダーライティング)では証券会社が発体と投資家との間にり発価格を調整していきます例えばある会社が新規株式を発することを決めた場合引受をう証券会社は投資家に当該株式を購しても良いと考える価格と数量をヒアリングしますその内容を証券会社は発体にフィードバックするという形で価格調整をしていきますこのような式を特にブックビルディング式といい現在本における株式や社債など多くの有価証券がこの法に基づき発されています

9

ル式に移しています15 国債のオークションに際しオークションの参加者は価格や利を提することで応札

するのですがコンベンショナル式では発体からみてメリットがある札(すなわちい価格や低い利で応札された札)から順番に落札していきますオークションには発標額があるため標額に達することとなる札までを落札とし落札最低価格未満の価格や落札最利を上回る利で応札した注は落札できないという形式を採っています例えば3000 億円の国債を札で発する際1 兆円の応札があったとしますこの場合発体はい価格で応札された札から順番に落札していきちょうど落札合計額が 3000 億円に達する価格まで落札することになります参加者が異なる価格で同じ財を購する点がコンベンショナル式の特徴です(数値例については BOX 2 を参照してください)

ダッチ式では同じように参加者が応札するのですが発体が標とする発額に達する価格で全員が購します前述のように 3000 億円の国債の発に対して1 兆円の応札があった際い価格から順番に落札していき落札合計額が標額である 3000 億円に達することとなる札までを落札としますがこの式では 3000 億円にちょうど達することとなった札の価格で皆律に購しますすなわちコンベンショナル式とは異なりダッチ式では落札できた国債について応札者が全員同じ価格で国債を購する点が特徴です

なおこのように国債の発価格は主にコンベンショナル式あるいはダッチ式で決定されますが価格競争札と呼ばれる競争札に基づかない式でも部発がなされています価格競争札は通常の競争札と同じタイミングで実施される第Ⅰ価格競争札と札後に実施される第Ⅱ価格競争札で構成されますが両者とも後述するプライマリーディーラーのみが参加できます16同札ではプライマリーディーラーは価格競争札においてオークションで決められた平均価格で国債を購できる権利を有しますがこれは後述する応札や落札義務などプライマリーディーラーが課された責任の対価と解釈可能です

15 財務省はダッチ式からコンベンショナル式へ変更した理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「市場の成熟」について指摘しており「40 年債の流動性は徐々にまっていると認識しているものの例えばP4 にしたグラフの通り30 年債の札式を価格コンベンショナル式に移した頃の業者間出来を現在の 40 年債はまだ超えていないことなどから当局としては未だ成熟しているとはい難い状況であると認識」とコメントしています 16 第Ⅰ価格競争札第Ⅱ価格競争札とは過去の落札実績(第Ⅰ)応札実績(第Ⅱ)等に基づき個社ごとに定められた限度額内で競争札の平均落札価格により国債を取得できる札です第Ⅰ価格競争札は 2005 年 4 第Ⅱ価格競争札は 2004 年 10 に導されています

10

BOX 2 コンベンショナル式とダッチ式のイメージ ここではコンベンショナル式とダッチ式を理解するために具体的な数値例を

い両式がどのような違いをもたらすのかについて考えてみましょう図 4 にしているとおり財務省が 1000 億円分の国債を札で発しようと考えておりプライマリーディーラーである A と B が応札するとしますこの際現在のマーケット環境に鑑みプライマリーディーラーA は 200 億円を 102 円101 円100 円99 円で応札するプライマリーディーラーB は 200 億円を 101 円100 円99 円で応札しているとしましょう

この場合1000 億円に達するまで財務省はらにとって利益のあるい価格から落札していきますこの例では 100 円のところでプライマリーディーラーA と B の応札額合計が 1000 億円に達するため100 円までの札が落札されますプライマリーディーラーA と B は 99 円で 200 億円ずつ応札していますがこの札は発額である 1000 億円を超過しているため落札されませんここまではコンベンショナル式もダッチ式も同じです

図 4 コンベンショナル式とダッチ式

注ここではわかりやすさを重視した図になっています実際のオークションではプライマリーディーラーが 3 社

以上存在する点などは捨象しています

1000億円の国債を発行

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円99円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円99円 200億円

応札

応札

互いの札は見えません

国債発行に際し入札を実施

<オークションの結果>1コンベンショナル方式(応札した価格で落札)

2ダッチ方式(1000億円に達した入札金額である100円で落札)

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーA100円 600億円

プライマリーディーラーB100円 400億円

財務省

11

コンベンショナル式とダッチ式の異なる点は購する価格ですコンベンショナル式の場合プライマリーディーラーA と B はそれぞれ分が応札した価格で落札しますすなわちプライマリーディーラーA は 102 円101 円100 円でそれぞれ 200 億円ずつ落札しプライマリーディーラーB は 101 円100 円で 200 億円ずつ落札しますダッチ式では1000 億円に達する価格すなわちそれぞれ落札できた額分(プライマリーディーラーA は 600 億円プライマリーディーラーB は 400 億円)をすべて律の価格である 100 円で落札します

なおこの例では応札額がちょうど 1000 億円になる事例にしていますが実際には発額を超過することがあります例えばこのケースにおいてプライマリーディーラーA が 100 円で(200 億円でなく)300 億円を応札していた場合応札額は 101 円の累計(600 億円)では 1000 億円に達しませんが100 円では応札額(累計)が 1100 億円となり発額である 1000 億円を超過しますこのようなケースでは超過した分が発額に収まるようにするため「『オファー額』と『案分価格帯の段上までの累計』との差分」を「案分価格帯に応札した額」で除することによって率(案分率)を作りますこの場合100 円で応札したAの 300 億円とBの 200 億円の合計(500 億円)が残り 400 億円に収まるようにするため「400500=08」が案分率となります

案分率の計算法(オファー額minus第Ⅰ競争minus切り価格の段上の応札額累計額)divide切り価格の応札額times100

BOX 3 イールドダッチ式 2〜30 年の利付国債についてはコンベンショナル式で発されていますがこれらは

札当の 10 時 30 分に利率(クーポン)が決定され価格で応札します現在40 年債は年度で 1 銘柄発されていますが年度最初のオークションの前には利率が定まっておらず複利利回りで応札するイールドダッチ式が採されていますこれは40 年債においてもしクーポンを定めてから価格で応札した場合デュレーション(利が変化した際の国債の価格感応度)がきいためオークションの結果単価が 100 円からきく乖離する可能性があるからです例えば100 円以下(以上)の価格で国債が発された場合発当局が当初予定した額より少なく(多く)調達することになるという問題を有しますその複利で応札してから利率を定めるイールドダッチ式であれば100 円(パー)に近い発が可能となり発体からみれば安定的な調達が可能になります

12

24 プライマリーディーラーの役割

現在の国債発に際しては主に証券会社で構成される国債市場特別参加者制度(いわゆるプライマリーディーラー制度)が重要な役割を果たしていますプライマリーディーラーとは証券会社などを中に国によって指定された業者のことで国債に関する札や落札の義務を負うで定の優遇措置を受けます先ほど及した価格競争札もプライマリーディーラーに認められた権利になります

BOX 4 市場参加者による札結果の解釈 財務省は国債の札結果として「応募額」「募決定額」「募最低価格」「募最低価

格における案分率」「募平均価格」を発表しています市場参加者はその札の結果を解釈する際しばしば「テール」や「応募倍率」などをいます

「テール」とは「平均価格」と「最低価格」の差になりますオークションに際し投資家が応札した札の分布(横軸に応札価格縦に応札した額)がありますが財務省は分布そのものを公表しないため市場参加者は「平均価格」と「最低価格」から分布を推測しますもし投資家の意が似通っていれば多くの札が分布の中付近に集まりますこの場合テールはさく証券会社及び投資家の意に相違が少ない札であると解釈可能です分布が中に寄っていない場合分布の平均からきく外れた札も落札されることからテールはきくなりますこの結果は証券会社及び投資家の意に相違がきかった札と解釈できます(しばしば市場参加者はテールがきい札を「札結果が流れた」と表現し札結果が不調であった可能性を考える傾向があります)

また「応募倍率」は「応募額」「募決定額」で計算し発額(募決定額)に対してどの程度応募があったかをみるもので数量のでどれくらい投資家が積極的にオークションに参加したのかを把握することができますこれ以外にも例えばBloomberg などが証券会社などの予測値を事前に公表しているためその予測値との乖離をいて札の結果を評価するなど投資家は様々な形でオークションの結果を解釈していますちなみにプライマリーディーラーなど各融機関がいくら落札したかについて財務省は公表していませんが間のベンダーが業者に落札額をヒアリングしています(もっともすべての融機関をカバーしているわけではないため「落札者不明分」が存在します)

なおダッチ式では本で記載したとおり参加者が律の価格で購するため募平均価格に相当する概念がなくテールは計算できません現在の 40 年債の札は利に基づくダッチ式であり「募最利回り」が公表されています

13

実際の国債の札ではプライマリーディーラーが多くの投資家から注を募ることなどを通じて投資家の需要を集めます例えばプライマリーディーラーでない融機関が札で国債の購をおうと考える際多くの場合分が買いたい値段(指値注)で証券会社に注することなどにより札に参加しますプライマリーディーラーはその札を集約して応札することになります

なお現在の制度ではプライマリーディーラー以外も定の条件で札に参加できる形になっています前述のとおり国では 1991 年にソロモンブラザーズが他名義をいて不正に国債の買い占め(スクイーズ)をったのですが国政府はそのようなスクイーズを防ぐことなどを的にプライマリーディーラー以外も札に参加できるように制度を改正しました(国債の札の詳細は BOX 7 を参照してくださいまたスクイーズの詳細は3節で説明します) 3国債のオークション理論 31 国債のオークションと情報の対称性 前章では本国債にかかるオークションの制度を中に議論を進めましたが本章ではオークションを実施する意味について考えていきます国債の発においてオークションをう本質的な理由は本政府側からみれば国債の買いが有する情報を分に把握していないつまり経済学の葉でいうと「情報の対称性」17があるからですそもそもオークションとは財やサービスを売る際買い側からのアクション等を踏まえて値決めをう仕組みですもし売りが買いの情報を全て知っていたのであればわざわざオークションなどせずとも最もい値段で買ってくれるであろう買いのところにって直接財やサービスを売れば良いわけですあるいは最もい値段で買ってくれるであろう買いを想定しその買いがギリギリ買ってくれるであろう値段を付けて売り出すことができるはずですそれをしないでオークションをうのは売りが買いの情報を全て知っているわけではなくむしろオークションという法を通じて買いの有する情報を札価格という形で発的に開してもらいそれを通じて売りが値決めをおうと考えているからに他なりません

売りよりも買いのがその商品の価値を熟知していたとしても全く不思議ではありません国債の札に際してはマーケットの現場にいるプライマリーディーラーや投資家のほうが発体である政府より国債の価値を理解している可能性はいとみることもできますこの状況は前述した情報の対称性が問題になっている局といえましょうそのため政府は投資家が有する情報を発的に開してもらうという意味でオークションをうまく設計する必要があるわけです

切なのはオークションによって投資家が分の情報を発的に開してくれるかど

17 情報の対称性とは買いと売りの間に情報の格差があることをす経済学の専語です

14

うかはその仕組みの巧拙にきく依存する点です極端な例ですが財務省が国債を発する際投資家が1しかいないことが予め投資家には分かっていたとしましょうそしてオークションでは単価ベースで 1 銭から札できるとしますもし買いが内では国債に 100 円払っても良いと思っていたとしてもこの状況下では投資家は最低価格である 1銭で札し落札することになるでしょうこうなると発体である財務省は本来であれば買いの評価額付近の価格で発することにより多くの資調達をできる可能性があったのにもかかわらずその資が調達できないことになります

32 「私的価値」をいたオークション理論の基礎

上記のような例を考えても政府にとってはオークションをうまく設計することで投資家やプライマリーディーラーにうまく情報を開してもらうことが肝要ですここからは国債のオークションにおいて投資家がどのように価格を開していくかを考えるためオークションの仕組みについて具体的に考えていきます我々がにする典型的なオークションは1つの財に対して複数の参加者が札し最も値をれた者が落札するような仕組みですこのようなオークションを「単財オークション」といいます ここからは単財オークションについて考えていきますがまずオークションの参加者個々がある財に対して有するそれぞれの評価額に基づき意思決定すると想定しますこのような評価を「私的価値(private value)」といいます例えばオークションでコンサートのチケットを 1 枚販売するケースにおいて参加者が私的価値に基づき評価しているとしましょうこの場合このオークションの参加者の中にはチケットを常に欲しているやあまり欲しいと思わないなど当該チケットに対して異なる評価をする達がいる(チケットという財に対する評価が分かれている)状況を想定しています

ここで財務省が 10 年債 1 銘柄をオークションにより発する場合(すなわち単財オークションを実施する場合)市場参加者が私的価値に基づくとするとどのような結果が得られるかを考えるため次のような設定を考えますすなわち財務省が発する1銘柄に対して異なる評価を持つ4社の投資家が札に参加するケースを取り上げますこの 10年債についてはA社は 101 円までなら払って良いと内考えているとします同様にB社は 100 円までならC社は 99 円までならD社は 98 円までなら払って良いと考えているとしましょうみな分が幾らまでなら払って良いかは分かっているのですが他社のの内は分かりませんここでは他社の評価額が幾らであっても分の評価額は変わらないことを前提とします 第価格札式 札者は各々応札価格を決めて封をして提出し18番値で応札した投資家が落札し

18 このように封をして他の参加者の札が分からないオークションを「封印型オークション(sealed bid

15

その応札価格を払うとしましょうこのような札法を「第価格札式」といいますがA 社にとって望ましい応札価格は幾らでしょうか当然分の評価額である 101 円を上回る価格では札しないでしょうそんな価格で落札してしまったら却って損してしまいますまた101 円丁度で札して落札しても利得は 0 円ですからうまみはありませんしたがってA 社は 101 円を下回る価格で札することが予想されるわけですが安い価格で落札できたが得する応札価格が低ければ低いほど落札確率が下がってしまいます

経済学ではこのように意思決定者が不確実性に直した場合確率をいることで意思決定者がどのように動するかについて分析をいます例えばここでは 4 社の評価額が 97 円以上102 円以下の範囲でランダム19に分布していることが公知であったとしましょう4社は相の応札価格を想像しながら分の応札価格を決めていく必要がありますが実は定の想定の下で A 社の最適な戦略を呈することができます意思決定者がその不確実性を考慮したリターンすなわち期待利得(落札確率times利得)が最になるように応札価格を決めることを想定すると20最低額(ここでは 97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札することが最適な戦略であることを証明できます21(証明の詳細は BOX 5 を参照してください)具体的にはA 社にとってこのケースでは 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円で応札することが最適な戦略になります同様に B~D 社についても最適な応札価格を計算できますがA 社の評価額が番いことから A 社が落札するため発体は A 社の応札価格である 100 円で国債を売ることができます22(図5参照)

auction)」といいますオークションの価格を参加者が把握可能なオークションを「公開型オークション(open bid auction)」といいます 19 専的にいえば様分布であるといいます 20 もっともリスク回避的であることを仮定する場合など必ずしも期待利得を最化するように動しない投資家を想定することもありますが本稿では簡明な説明のため期待利得最化の場合のみを紹介します 21 専的にいえばベイジアン=ナッシュ均衡であるといいます分以外の皆が最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札するという戦略を採るのであれば分も同じ戦略を採ることにより落札確率times利得を最化することができますもっとも分以外の者が必ずしもこのような合理的な戦略を採らないのであればこのような戦略に拘らないが落札確率times利得を最化することができるかもしれませんそのためここで挙げた最適戦略とはあくまで分以外の者も合理的に動すると仮定した場合の最適戦略ということができます 22 般的にこのような場合評価額が番いの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times =97 円+5 円times =101 円となるので発体の期待収は 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円となります

16

図 5 第価格札式の例

上記の結果は札参加者が4であることに依存しています般的に札参加者が であれば札者は最低額(97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格で応札することが最適な戦略になることもすことができます例えば札者が2であれば最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の半分を加算した価格が最適な戦略です 第価格札式 ここまで私的価値に基づく単財オークションについて落札者が応札価格と同額を払う第価格札式を考えてきましたもっとも最近インターネットにおけるオークションなどでは「第価格札式」という式も使われるようになってきています23各々応札価格を決めて封をして提出した上で番値で応札したが落札するところまでは第価格札式と同じです第価格札式がい点はそのの払額が番に値で応札したの応札価格に基づく点であり理論的24に札者は分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる点です25(これを「耐戦略性」といいますまたこの法が最適な戦略となる直感的な解説については BOX 6 を参照してください)

先ほど挙げた国債の札において今度は発体が第価格札式に基づき実施したとします各社の最適な動は素直に分の評価額を表明することですからA 社は分の

23 例えばインターネットオークションを運営する eBay ではこのような式がいられています但し参加者の付け値が時間が経つにつれて明らかになるところが通常の封印型の第価格札式と異なります(キシテイニー 2018) 24 共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります 25 ここでは第価格札式の場合とは異なり分以外の者がどんな戦略をててきても分は分の評価額を札することにより落札確率times利得を最化することができるので分の評価額を札することが配戦略ということになります

評価額 入札額 利得A社 101円 100円 1円

B社 100円 925円 075円

C社 99円 985円 05円

D社 98円 9775円 025円

財務省

17

評価額である 101 円で応札しB 社も分の評価額である 100 円で応札します結果的にA 社は落札に成功しB 社の応札価格である 100 円を払うことになります26 収同値定理 私的価値に基づく単財オークションについて第価格札式と第価格札式を考えてきましたが我々が気になる点はこのつの式のどちらが発体にとって優れているかです驚くべき点は実は定の条件27の下どのようなオークションをっても発体が期待できる収額は定であることが証明できることですこれを「収同値定理」(Revenue Equivalence Theorem)といいます(Myerson 1981 Riley and Samuelson 1981)これはオークション理論における字塔的な定理といえましょうこの定理によれば発体は少なくとも期待できる収額の点からはオークションの仕組みについて殆ど気にしないで良いことが分かります実際上記の例をみればどちらの式でも発価格が 100円になっており売りの収は同じになっていることが確認できます

無論オークションの仕組みを検討する際には期待できる収額以外にも留意すべき点は多々あります例えばどのくらいの札者を込めるか或いはどのような不正が起こり得るかなども看過できずこれらはオークションの仕組みによって異なり得ますしかしオークションは分が有する財を売るために実施しているわけですから期待できる収額が重要な点であることには変わりありません国債の場合発体からみれば「期待できる収」とは「調達コストを抑えること」に相当するため収同値定理は発体にとっても重要な定理であるといえます 33 共通価値(common value) これまで個々が財に対して異なる評価額を有することを前提とする「私的価値」に基づ

き議論を進めてきましたが国債のオークションでは「共通価値(common value)」に基づいて理論が構築されることもあります28「共通価値」とは全ての札者がオークションの対象となる財の価値を同じように評価するという仮定です例えばべ物のように々

26 般的にこのような場合評価額が番にいの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times

=97 円+5 円times =100 円となるので発体の期待収も 100 円となります 27 収同値定理が成するためには①全ての札者はリスク中的②共通した分布関数から互いに独に私的価値を得る③最もい私的価値を持つ者が落札し最も低い私的価値を持つ者の期待利得はゼロであるといった前提条件が置かれていますこの中で最も強い前提は「互いに独に私的価値」の部分でありしたがって転売などを念頭に置いているオークションの場合は他の評価額によって分の評価額も影響を受けざるを得ないため必ずしも収同値定理は成しません国債を始めとする有価証券のオークションの場合にも当然に転売も念頭に置かれていると考えられるため般的にこの収同値定理の前提条件が満たされているとは考え難いです 28 共通価値についてより詳細を知りたいは上(2010)などを参照してください

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 9: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

8

23 本国債のオークションの詳細コンベンショナル式とダッチ式

現在の国債市場では償還年限が1年以下の短期国債に加え2 年5 年10 年20 年30 年40 年債及び物価連動国債が発されていますがこれらの発条件はオークションによって定められます般的に発側は国債を安定的に消化しつつい値段で発したい(低い利で調達したい)と考えますが投資家側は出来る限り安く買いたい(い利で運したい)と考えています国債の発価格や利はその綱引きで決まるのですが現在いられている具体的な発法は40 年債と物価連動国債を除き「コンベンショナル式」と呼ばれる法がいられています40 年債と物価連動国債については「ダッチ式」と呼ばれる法で発されていますこれらのオークション式の違いの詳細は後述しますが部の国債についてダッチ式がいられている要因として相対的に流動性に懸念があるほか投資家が限定的であることなどが挙げられます12

財務省は市場関係者とも対話をしつつその時々で望ましいオークションの法をいています歴史的には中期債の発当初(1978~79 年)はダッチ式が採されましたが1979 年7にコンベンショナル式に改められ10 年債や 20 年債の競争札でもコンベンショナル式が採されました13ダッチ式については 1999 年に導された 30 年債や 2000 年に発が開始された 15 年変動利付債(現在は発が停)の発14で再び採されますもっとも30 年債の発については 2007 年 4 からダッチからコンベンショナ

12 財務省は 40 年国債についてダッチ式がいられている理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「40 年債の札式についてはこれまで当局としては投資家層の拡がりが限定的で他の年限と較して遜ない程度の流動性がられていないなどマーケットの成熟が確認されていないため利回りダッチ式の継続が適当ではないかとしてきたところ」「価格コンベンショナル式に移すべきという御意も定程度あったが国債市場特別参加者の数落札シェアのいずれでみても利回りダッチ式を維持すべきという御意が多数」としています 13 ここでの記述は副島花尻嶋(2001)などを参照しています 14 札での発開始は 2000 年 6 (第 8 回)ですが発体は私募で 1983 年2から開始されています

BOX 1 引受式(アンダーライティング)とは 引受式(アンダーライティング)では証券会社が発体と投資家との間にり発価格を調整していきます例えばある会社が新規株式を発することを決めた場合引受をう証券会社は投資家に当該株式を購しても良いと考える価格と数量をヒアリングしますその内容を証券会社は発体にフィードバックするという形で価格調整をしていきますこのような式を特にブックビルディング式といい現在本における株式や社債など多くの有価証券がこの法に基づき発されています

9

ル式に移しています15 国債のオークションに際しオークションの参加者は価格や利を提することで応札

するのですがコンベンショナル式では発体からみてメリットがある札(すなわちい価格や低い利で応札された札)から順番に落札していきますオークションには発標額があるため標額に達することとなる札までを落札とし落札最低価格未満の価格や落札最利を上回る利で応札した注は落札できないという形式を採っています例えば3000 億円の国債を札で発する際1 兆円の応札があったとしますこの場合発体はい価格で応札された札から順番に落札していきちょうど落札合計額が 3000 億円に達する価格まで落札することになります参加者が異なる価格で同じ財を購する点がコンベンショナル式の特徴です(数値例については BOX 2 を参照してください)

ダッチ式では同じように参加者が応札するのですが発体が標とする発額に達する価格で全員が購します前述のように 3000 億円の国債の発に対して1 兆円の応札があった際い価格から順番に落札していき落札合計額が標額である 3000 億円に達することとなる札までを落札としますがこの式では 3000 億円にちょうど達することとなった札の価格で皆律に購しますすなわちコンベンショナル式とは異なりダッチ式では落札できた国債について応札者が全員同じ価格で国債を購する点が特徴です

なおこのように国債の発価格は主にコンベンショナル式あるいはダッチ式で決定されますが価格競争札と呼ばれる競争札に基づかない式でも部発がなされています価格競争札は通常の競争札と同じタイミングで実施される第Ⅰ価格競争札と札後に実施される第Ⅱ価格競争札で構成されますが両者とも後述するプライマリーディーラーのみが参加できます16同札ではプライマリーディーラーは価格競争札においてオークションで決められた平均価格で国債を購できる権利を有しますがこれは後述する応札や落札義務などプライマリーディーラーが課された責任の対価と解釈可能です

15 財務省はダッチ式からコンベンショナル式へ変更した理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「市場の成熟」について指摘しており「40 年債の流動性は徐々にまっていると認識しているものの例えばP4 にしたグラフの通り30 年債の札式を価格コンベンショナル式に移した頃の業者間出来を現在の 40 年債はまだ超えていないことなどから当局としては未だ成熟しているとはい難い状況であると認識」とコメントしています 16 第Ⅰ価格競争札第Ⅱ価格競争札とは過去の落札実績(第Ⅰ)応札実績(第Ⅱ)等に基づき個社ごとに定められた限度額内で競争札の平均落札価格により国債を取得できる札です第Ⅰ価格競争札は 2005 年 4 第Ⅱ価格競争札は 2004 年 10 に導されています

10

BOX 2 コンベンショナル式とダッチ式のイメージ ここではコンベンショナル式とダッチ式を理解するために具体的な数値例を

い両式がどのような違いをもたらすのかについて考えてみましょう図 4 にしているとおり財務省が 1000 億円分の国債を札で発しようと考えておりプライマリーディーラーである A と B が応札するとしますこの際現在のマーケット環境に鑑みプライマリーディーラーA は 200 億円を 102 円101 円100 円99 円で応札するプライマリーディーラーB は 200 億円を 101 円100 円99 円で応札しているとしましょう

この場合1000 億円に達するまで財務省はらにとって利益のあるい価格から落札していきますこの例では 100 円のところでプライマリーディーラーA と B の応札額合計が 1000 億円に達するため100 円までの札が落札されますプライマリーディーラーA と B は 99 円で 200 億円ずつ応札していますがこの札は発額である 1000 億円を超過しているため落札されませんここまではコンベンショナル式もダッチ式も同じです

図 4 コンベンショナル式とダッチ式

注ここではわかりやすさを重視した図になっています実際のオークションではプライマリーディーラーが 3 社

以上存在する点などは捨象しています

1000億円の国債を発行

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円99円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円99円 200億円

応札

応札

互いの札は見えません

国債発行に際し入札を実施

<オークションの結果>1コンベンショナル方式(応札した価格で落札)

2ダッチ方式(1000億円に達した入札金額である100円で落札)

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーA100円 600億円

プライマリーディーラーB100円 400億円

財務省

11

コンベンショナル式とダッチ式の異なる点は購する価格ですコンベンショナル式の場合プライマリーディーラーA と B はそれぞれ分が応札した価格で落札しますすなわちプライマリーディーラーA は 102 円101 円100 円でそれぞれ 200 億円ずつ落札しプライマリーディーラーB は 101 円100 円で 200 億円ずつ落札しますダッチ式では1000 億円に達する価格すなわちそれぞれ落札できた額分(プライマリーディーラーA は 600 億円プライマリーディーラーB は 400 億円)をすべて律の価格である 100 円で落札します

なおこの例では応札額がちょうど 1000 億円になる事例にしていますが実際には発額を超過することがあります例えばこのケースにおいてプライマリーディーラーA が 100 円で(200 億円でなく)300 億円を応札していた場合応札額は 101 円の累計(600 億円)では 1000 億円に達しませんが100 円では応札額(累計)が 1100 億円となり発額である 1000 億円を超過しますこのようなケースでは超過した分が発額に収まるようにするため「『オファー額』と『案分価格帯の段上までの累計』との差分」を「案分価格帯に応札した額」で除することによって率(案分率)を作りますこの場合100 円で応札したAの 300 億円とBの 200 億円の合計(500 億円)が残り 400 億円に収まるようにするため「400500=08」が案分率となります

案分率の計算法(オファー額minus第Ⅰ競争minus切り価格の段上の応札額累計額)divide切り価格の応札額times100

BOX 3 イールドダッチ式 2〜30 年の利付国債についてはコンベンショナル式で発されていますがこれらは

札当の 10 時 30 分に利率(クーポン)が決定され価格で応札します現在40 年債は年度で 1 銘柄発されていますが年度最初のオークションの前には利率が定まっておらず複利利回りで応札するイールドダッチ式が採されていますこれは40 年債においてもしクーポンを定めてから価格で応札した場合デュレーション(利が変化した際の国債の価格感応度)がきいためオークションの結果単価が 100 円からきく乖離する可能性があるからです例えば100 円以下(以上)の価格で国債が発された場合発当局が当初予定した額より少なく(多く)調達することになるという問題を有しますその複利で応札してから利率を定めるイールドダッチ式であれば100 円(パー)に近い発が可能となり発体からみれば安定的な調達が可能になります

12

24 プライマリーディーラーの役割

現在の国債発に際しては主に証券会社で構成される国債市場特別参加者制度(いわゆるプライマリーディーラー制度)が重要な役割を果たしていますプライマリーディーラーとは証券会社などを中に国によって指定された業者のことで国債に関する札や落札の義務を負うで定の優遇措置を受けます先ほど及した価格競争札もプライマリーディーラーに認められた権利になります

BOX 4 市場参加者による札結果の解釈 財務省は国債の札結果として「応募額」「募決定額」「募最低価格」「募最低価

格における案分率」「募平均価格」を発表しています市場参加者はその札の結果を解釈する際しばしば「テール」や「応募倍率」などをいます

「テール」とは「平均価格」と「最低価格」の差になりますオークションに際し投資家が応札した札の分布(横軸に応札価格縦に応札した額)がありますが財務省は分布そのものを公表しないため市場参加者は「平均価格」と「最低価格」から分布を推測しますもし投資家の意が似通っていれば多くの札が分布の中付近に集まりますこの場合テールはさく証券会社及び投資家の意に相違が少ない札であると解釈可能です分布が中に寄っていない場合分布の平均からきく外れた札も落札されることからテールはきくなりますこの結果は証券会社及び投資家の意に相違がきかった札と解釈できます(しばしば市場参加者はテールがきい札を「札結果が流れた」と表現し札結果が不調であった可能性を考える傾向があります)

また「応募倍率」は「応募額」「募決定額」で計算し発額(募決定額)に対してどの程度応募があったかをみるもので数量のでどれくらい投資家が積極的にオークションに参加したのかを把握することができますこれ以外にも例えばBloomberg などが証券会社などの予測値を事前に公表しているためその予測値との乖離をいて札の結果を評価するなど投資家は様々な形でオークションの結果を解釈していますちなみにプライマリーディーラーなど各融機関がいくら落札したかについて財務省は公表していませんが間のベンダーが業者に落札額をヒアリングしています(もっともすべての融機関をカバーしているわけではないため「落札者不明分」が存在します)

なおダッチ式では本で記載したとおり参加者が律の価格で購するため募平均価格に相当する概念がなくテールは計算できません現在の 40 年債の札は利に基づくダッチ式であり「募最利回り」が公表されています

13

実際の国債の札ではプライマリーディーラーが多くの投資家から注を募ることなどを通じて投資家の需要を集めます例えばプライマリーディーラーでない融機関が札で国債の購をおうと考える際多くの場合分が買いたい値段(指値注)で証券会社に注することなどにより札に参加しますプライマリーディーラーはその札を集約して応札することになります

なお現在の制度ではプライマリーディーラー以外も定の条件で札に参加できる形になっています前述のとおり国では 1991 年にソロモンブラザーズが他名義をいて不正に国債の買い占め(スクイーズ)をったのですが国政府はそのようなスクイーズを防ぐことなどを的にプライマリーディーラー以外も札に参加できるように制度を改正しました(国債の札の詳細は BOX 7 を参照してくださいまたスクイーズの詳細は3節で説明します) 3国債のオークション理論 31 国債のオークションと情報の対称性 前章では本国債にかかるオークションの制度を中に議論を進めましたが本章ではオークションを実施する意味について考えていきます国債の発においてオークションをう本質的な理由は本政府側からみれば国債の買いが有する情報を分に把握していないつまり経済学の葉でいうと「情報の対称性」17があるからですそもそもオークションとは財やサービスを売る際買い側からのアクション等を踏まえて値決めをう仕組みですもし売りが買いの情報を全て知っていたのであればわざわざオークションなどせずとも最もい値段で買ってくれるであろう買いのところにって直接財やサービスを売れば良いわけですあるいは最もい値段で買ってくれるであろう買いを想定しその買いがギリギリ買ってくれるであろう値段を付けて売り出すことができるはずですそれをしないでオークションをうのは売りが買いの情報を全て知っているわけではなくむしろオークションという法を通じて買いの有する情報を札価格という形で発的に開してもらいそれを通じて売りが値決めをおうと考えているからに他なりません

売りよりも買いのがその商品の価値を熟知していたとしても全く不思議ではありません国債の札に際してはマーケットの現場にいるプライマリーディーラーや投資家のほうが発体である政府より国債の価値を理解している可能性はいとみることもできますこの状況は前述した情報の対称性が問題になっている局といえましょうそのため政府は投資家が有する情報を発的に開してもらうという意味でオークションをうまく設計する必要があるわけです

切なのはオークションによって投資家が分の情報を発的に開してくれるかど

17 情報の対称性とは買いと売りの間に情報の格差があることをす経済学の専語です

14

うかはその仕組みの巧拙にきく依存する点です極端な例ですが財務省が国債を発する際投資家が1しかいないことが予め投資家には分かっていたとしましょうそしてオークションでは単価ベースで 1 銭から札できるとしますもし買いが内では国債に 100 円払っても良いと思っていたとしてもこの状況下では投資家は最低価格である 1銭で札し落札することになるでしょうこうなると発体である財務省は本来であれば買いの評価額付近の価格で発することにより多くの資調達をできる可能性があったのにもかかわらずその資が調達できないことになります

32 「私的価値」をいたオークション理論の基礎

上記のような例を考えても政府にとってはオークションをうまく設計することで投資家やプライマリーディーラーにうまく情報を開してもらうことが肝要ですここからは国債のオークションにおいて投資家がどのように価格を開していくかを考えるためオークションの仕組みについて具体的に考えていきます我々がにする典型的なオークションは1つの財に対して複数の参加者が札し最も値をれた者が落札するような仕組みですこのようなオークションを「単財オークション」といいます ここからは単財オークションについて考えていきますがまずオークションの参加者個々がある財に対して有するそれぞれの評価額に基づき意思決定すると想定しますこのような評価を「私的価値(private value)」といいます例えばオークションでコンサートのチケットを 1 枚販売するケースにおいて参加者が私的価値に基づき評価しているとしましょうこの場合このオークションの参加者の中にはチケットを常に欲しているやあまり欲しいと思わないなど当該チケットに対して異なる評価をする達がいる(チケットという財に対する評価が分かれている)状況を想定しています

ここで財務省が 10 年債 1 銘柄をオークションにより発する場合(すなわち単財オークションを実施する場合)市場参加者が私的価値に基づくとするとどのような結果が得られるかを考えるため次のような設定を考えますすなわち財務省が発する1銘柄に対して異なる評価を持つ4社の投資家が札に参加するケースを取り上げますこの 10年債についてはA社は 101 円までなら払って良いと内考えているとします同様にB社は 100 円までならC社は 99 円までならD社は 98 円までなら払って良いと考えているとしましょうみな分が幾らまでなら払って良いかは分かっているのですが他社のの内は分かりませんここでは他社の評価額が幾らであっても分の評価額は変わらないことを前提とします 第価格札式 札者は各々応札価格を決めて封をして提出し18番値で応札した投資家が落札し

18 このように封をして他の参加者の札が分からないオークションを「封印型オークション(sealed bid

15

その応札価格を払うとしましょうこのような札法を「第価格札式」といいますがA 社にとって望ましい応札価格は幾らでしょうか当然分の評価額である 101 円を上回る価格では札しないでしょうそんな価格で落札してしまったら却って損してしまいますまた101 円丁度で札して落札しても利得は 0 円ですからうまみはありませんしたがってA 社は 101 円を下回る価格で札することが予想されるわけですが安い価格で落札できたが得する応札価格が低ければ低いほど落札確率が下がってしまいます

経済学ではこのように意思決定者が不確実性に直した場合確率をいることで意思決定者がどのように動するかについて分析をいます例えばここでは 4 社の評価額が 97 円以上102 円以下の範囲でランダム19に分布していることが公知であったとしましょう4社は相の応札価格を想像しながら分の応札価格を決めていく必要がありますが実は定の想定の下で A 社の最適な戦略を呈することができます意思決定者がその不確実性を考慮したリターンすなわち期待利得(落札確率times利得)が最になるように応札価格を決めることを想定すると20最低額(ここでは 97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札することが最適な戦略であることを証明できます21(証明の詳細は BOX 5 を参照してください)具体的にはA 社にとってこのケースでは 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円で応札することが最適な戦略になります同様に B~D 社についても最適な応札価格を計算できますがA 社の評価額が番いことから A 社が落札するため発体は A 社の応札価格である 100 円で国債を売ることができます22(図5参照)

auction)」といいますオークションの価格を参加者が把握可能なオークションを「公開型オークション(open bid auction)」といいます 19 専的にいえば様分布であるといいます 20 もっともリスク回避的であることを仮定する場合など必ずしも期待利得を最化するように動しない投資家を想定することもありますが本稿では簡明な説明のため期待利得最化の場合のみを紹介します 21 専的にいえばベイジアン=ナッシュ均衡であるといいます分以外の皆が最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札するという戦略を採るのであれば分も同じ戦略を採ることにより落札確率times利得を最化することができますもっとも分以外の者が必ずしもこのような合理的な戦略を採らないのであればこのような戦略に拘らないが落札確率times利得を最化することができるかもしれませんそのためここで挙げた最適戦略とはあくまで分以外の者も合理的に動すると仮定した場合の最適戦略ということができます 22 般的にこのような場合評価額が番いの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times =97 円+5 円times =101 円となるので発体の期待収は 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円となります

16

図 5 第価格札式の例

上記の結果は札参加者が4であることに依存しています般的に札参加者が であれば札者は最低額(97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格で応札することが最適な戦略になることもすことができます例えば札者が2であれば最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の半分を加算した価格が最適な戦略です 第価格札式 ここまで私的価値に基づく単財オークションについて落札者が応札価格と同額を払う第価格札式を考えてきましたもっとも最近インターネットにおけるオークションなどでは「第価格札式」という式も使われるようになってきています23各々応札価格を決めて封をして提出した上で番値で応札したが落札するところまでは第価格札式と同じです第価格札式がい点はそのの払額が番に値で応札したの応札価格に基づく点であり理論的24に札者は分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる点です25(これを「耐戦略性」といいますまたこの法が最適な戦略となる直感的な解説については BOX 6 を参照してください)

先ほど挙げた国債の札において今度は発体が第価格札式に基づき実施したとします各社の最適な動は素直に分の評価額を表明することですからA 社は分の

23 例えばインターネットオークションを運営する eBay ではこのような式がいられています但し参加者の付け値が時間が経つにつれて明らかになるところが通常の封印型の第価格札式と異なります(キシテイニー 2018) 24 共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります 25 ここでは第価格札式の場合とは異なり分以外の者がどんな戦略をててきても分は分の評価額を札することにより落札確率times利得を最化することができるので分の評価額を札することが配戦略ということになります

評価額 入札額 利得A社 101円 100円 1円

B社 100円 925円 075円

C社 99円 985円 05円

D社 98円 9775円 025円

財務省

17

評価額である 101 円で応札しB 社も分の評価額である 100 円で応札します結果的にA 社は落札に成功しB 社の応札価格である 100 円を払うことになります26 収同値定理 私的価値に基づく単財オークションについて第価格札式と第価格札式を考えてきましたが我々が気になる点はこのつの式のどちらが発体にとって優れているかです驚くべき点は実は定の条件27の下どのようなオークションをっても発体が期待できる収額は定であることが証明できることですこれを「収同値定理」(Revenue Equivalence Theorem)といいます(Myerson 1981 Riley and Samuelson 1981)これはオークション理論における字塔的な定理といえましょうこの定理によれば発体は少なくとも期待できる収額の点からはオークションの仕組みについて殆ど気にしないで良いことが分かります実際上記の例をみればどちらの式でも発価格が 100円になっており売りの収は同じになっていることが確認できます

無論オークションの仕組みを検討する際には期待できる収額以外にも留意すべき点は多々あります例えばどのくらいの札者を込めるか或いはどのような不正が起こり得るかなども看過できずこれらはオークションの仕組みによって異なり得ますしかしオークションは分が有する財を売るために実施しているわけですから期待できる収額が重要な点であることには変わりありません国債の場合発体からみれば「期待できる収」とは「調達コストを抑えること」に相当するため収同値定理は発体にとっても重要な定理であるといえます 33 共通価値(common value) これまで個々が財に対して異なる評価額を有することを前提とする「私的価値」に基づ

き議論を進めてきましたが国債のオークションでは「共通価値(common value)」に基づいて理論が構築されることもあります28「共通価値」とは全ての札者がオークションの対象となる財の価値を同じように評価するという仮定です例えばべ物のように々

26 般的にこのような場合評価額が番にいの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times

=97 円+5 円times =100 円となるので発体の期待収も 100 円となります 27 収同値定理が成するためには①全ての札者はリスク中的②共通した分布関数から互いに独に私的価値を得る③最もい私的価値を持つ者が落札し最も低い私的価値を持つ者の期待利得はゼロであるといった前提条件が置かれていますこの中で最も強い前提は「互いに独に私的価値」の部分でありしたがって転売などを念頭に置いているオークションの場合は他の評価額によって分の評価額も影響を受けざるを得ないため必ずしも収同値定理は成しません国債を始めとする有価証券のオークションの場合にも当然に転売も念頭に置かれていると考えられるため般的にこの収同値定理の前提条件が満たされているとは考え難いです 28 共通価値についてより詳細を知りたいは上(2010)などを参照してください

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 10: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

9

ル式に移しています15 国債のオークションに際しオークションの参加者は価格や利を提することで応札

するのですがコンベンショナル式では発体からみてメリットがある札(すなわちい価格や低い利で応札された札)から順番に落札していきますオークションには発標額があるため標額に達することとなる札までを落札とし落札最低価格未満の価格や落札最利を上回る利で応札した注は落札できないという形式を採っています例えば3000 億円の国債を札で発する際1 兆円の応札があったとしますこの場合発体はい価格で応札された札から順番に落札していきちょうど落札合計額が 3000 億円に達する価格まで落札することになります参加者が異なる価格で同じ財を購する点がコンベンショナル式の特徴です(数値例については BOX 2 を参照してください)

ダッチ式では同じように参加者が応札するのですが発体が標とする発額に達する価格で全員が購します前述のように 3000 億円の国債の発に対して1 兆円の応札があった際い価格から順番に落札していき落札合計額が標額である 3000 億円に達することとなる札までを落札としますがこの式では 3000 億円にちょうど達することとなった札の価格で皆律に購しますすなわちコンベンショナル式とは異なりダッチ式では落札できた国債について応札者が全員同じ価格で国債を購する点が特徴です

なおこのように国債の発価格は主にコンベンショナル式あるいはダッチ式で決定されますが価格競争札と呼ばれる競争札に基づかない式でも部発がなされています価格競争札は通常の競争札と同じタイミングで実施される第Ⅰ価格競争札と札後に実施される第Ⅱ価格競争札で構成されますが両者とも後述するプライマリーディーラーのみが参加できます16同札ではプライマリーディーラーは価格競争札においてオークションで決められた平均価格で国債を購できる権利を有しますがこれは後述する応札や落札義務などプライマリーディーラーが課された責任の対価と解釈可能です

15 財務省はダッチ式からコンベンショナル式へ変更した理由の因として国債市場特別参加者会合(第 85 回令和 2 年 3 23 開催)において「市場の成熟」について指摘しており「40 年債の流動性は徐々にまっていると認識しているものの例えばP4 にしたグラフの通り30 年債の札式を価格コンベンショナル式に移した頃の業者間出来を現在の 40 年債はまだ超えていないことなどから当局としては未だ成熟しているとはい難い状況であると認識」とコメントしています 16 第Ⅰ価格競争札第Ⅱ価格競争札とは過去の落札実績(第Ⅰ)応札実績(第Ⅱ)等に基づき個社ごとに定められた限度額内で競争札の平均落札価格により国債を取得できる札です第Ⅰ価格競争札は 2005 年 4 第Ⅱ価格競争札は 2004 年 10 に導されています

10

BOX 2 コンベンショナル式とダッチ式のイメージ ここではコンベンショナル式とダッチ式を理解するために具体的な数値例を

い両式がどのような違いをもたらすのかについて考えてみましょう図 4 にしているとおり財務省が 1000 億円分の国債を札で発しようと考えておりプライマリーディーラーである A と B が応札するとしますこの際現在のマーケット環境に鑑みプライマリーディーラーA は 200 億円を 102 円101 円100 円99 円で応札するプライマリーディーラーB は 200 億円を 101 円100 円99 円で応札しているとしましょう

この場合1000 億円に達するまで財務省はらにとって利益のあるい価格から落札していきますこの例では 100 円のところでプライマリーディーラーA と B の応札額合計が 1000 億円に達するため100 円までの札が落札されますプライマリーディーラーA と B は 99 円で 200 億円ずつ応札していますがこの札は発額である 1000 億円を超過しているため落札されませんここまではコンベンショナル式もダッチ式も同じです

図 4 コンベンショナル式とダッチ式

注ここではわかりやすさを重視した図になっています実際のオークションではプライマリーディーラーが 3 社

以上存在する点などは捨象しています

1000億円の国債を発行

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円99円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円99円 200億円

応札

応札

互いの札は見えません

国債発行に際し入札を実施

<オークションの結果>1コンベンショナル方式(応札した価格で落札)

2ダッチ方式(1000億円に達した入札金額である100円で落札)

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーA100円 600億円

プライマリーディーラーB100円 400億円

財務省

11

コンベンショナル式とダッチ式の異なる点は購する価格ですコンベンショナル式の場合プライマリーディーラーA と B はそれぞれ分が応札した価格で落札しますすなわちプライマリーディーラーA は 102 円101 円100 円でそれぞれ 200 億円ずつ落札しプライマリーディーラーB は 101 円100 円で 200 億円ずつ落札しますダッチ式では1000 億円に達する価格すなわちそれぞれ落札できた額分(プライマリーディーラーA は 600 億円プライマリーディーラーB は 400 億円)をすべて律の価格である 100 円で落札します

なおこの例では応札額がちょうど 1000 億円になる事例にしていますが実際には発額を超過することがあります例えばこのケースにおいてプライマリーディーラーA が 100 円で(200 億円でなく)300 億円を応札していた場合応札額は 101 円の累計(600 億円)では 1000 億円に達しませんが100 円では応札額(累計)が 1100 億円となり発額である 1000 億円を超過しますこのようなケースでは超過した分が発額に収まるようにするため「『オファー額』と『案分価格帯の段上までの累計』との差分」を「案分価格帯に応札した額」で除することによって率(案分率)を作りますこの場合100 円で応札したAの 300 億円とBの 200 億円の合計(500 億円)が残り 400 億円に収まるようにするため「400500=08」が案分率となります

案分率の計算法(オファー額minus第Ⅰ競争minus切り価格の段上の応札額累計額)divide切り価格の応札額times100

BOX 3 イールドダッチ式 2〜30 年の利付国債についてはコンベンショナル式で発されていますがこれらは

札当の 10 時 30 分に利率(クーポン)が決定され価格で応札します現在40 年債は年度で 1 銘柄発されていますが年度最初のオークションの前には利率が定まっておらず複利利回りで応札するイールドダッチ式が採されていますこれは40 年債においてもしクーポンを定めてから価格で応札した場合デュレーション(利が変化した際の国債の価格感応度)がきいためオークションの結果単価が 100 円からきく乖離する可能性があるからです例えば100 円以下(以上)の価格で国債が発された場合発当局が当初予定した額より少なく(多く)調達することになるという問題を有しますその複利で応札してから利率を定めるイールドダッチ式であれば100 円(パー)に近い発が可能となり発体からみれば安定的な調達が可能になります

12

24 プライマリーディーラーの役割

現在の国債発に際しては主に証券会社で構成される国債市場特別参加者制度(いわゆるプライマリーディーラー制度)が重要な役割を果たしていますプライマリーディーラーとは証券会社などを中に国によって指定された業者のことで国債に関する札や落札の義務を負うで定の優遇措置を受けます先ほど及した価格競争札もプライマリーディーラーに認められた権利になります

BOX 4 市場参加者による札結果の解釈 財務省は国債の札結果として「応募額」「募決定額」「募最低価格」「募最低価

格における案分率」「募平均価格」を発表しています市場参加者はその札の結果を解釈する際しばしば「テール」や「応募倍率」などをいます

「テール」とは「平均価格」と「最低価格」の差になりますオークションに際し投資家が応札した札の分布(横軸に応札価格縦に応札した額)がありますが財務省は分布そのものを公表しないため市場参加者は「平均価格」と「最低価格」から分布を推測しますもし投資家の意が似通っていれば多くの札が分布の中付近に集まりますこの場合テールはさく証券会社及び投資家の意に相違が少ない札であると解釈可能です分布が中に寄っていない場合分布の平均からきく外れた札も落札されることからテールはきくなりますこの結果は証券会社及び投資家の意に相違がきかった札と解釈できます(しばしば市場参加者はテールがきい札を「札結果が流れた」と表現し札結果が不調であった可能性を考える傾向があります)

また「応募倍率」は「応募額」「募決定額」で計算し発額(募決定額)に対してどの程度応募があったかをみるもので数量のでどれくらい投資家が積極的にオークションに参加したのかを把握することができますこれ以外にも例えばBloomberg などが証券会社などの予測値を事前に公表しているためその予測値との乖離をいて札の結果を評価するなど投資家は様々な形でオークションの結果を解釈していますちなみにプライマリーディーラーなど各融機関がいくら落札したかについて財務省は公表していませんが間のベンダーが業者に落札額をヒアリングしています(もっともすべての融機関をカバーしているわけではないため「落札者不明分」が存在します)

なおダッチ式では本で記載したとおり参加者が律の価格で購するため募平均価格に相当する概念がなくテールは計算できません現在の 40 年債の札は利に基づくダッチ式であり「募最利回り」が公表されています

13

実際の国債の札ではプライマリーディーラーが多くの投資家から注を募ることなどを通じて投資家の需要を集めます例えばプライマリーディーラーでない融機関が札で国債の購をおうと考える際多くの場合分が買いたい値段(指値注)で証券会社に注することなどにより札に参加しますプライマリーディーラーはその札を集約して応札することになります

なお現在の制度ではプライマリーディーラー以外も定の条件で札に参加できる形になっています前述のとおり国では 1991 年にソロモンブラザーズが他名義をいて不正に国債の買い占め(スクイーズ)をったのですが国政府はそのようなスクイーズを防ぐことなどを的にプライマリーディーラー以外も札に参加できるように制度を改正しました(国債の札の詳細は BOX 7 を参照してくださいまたスクイーズの詳細は3節で説明します) 3国債のオークション理論 31 国債のオークションと情報の対称性 前章では本国債にかかるオークションの制度を中に議論を進めましたが本章ではオークションを実施する意味について考えていきます国債の発においてオークションをう本質的な理由は本政府側からみれば国債の買いが有する情報を分に把握していないつまり経済学の葉でいうと「情報の対称性」17があるからですそもそもオークションとは財やサービスを売る際買い側からのアクション等を踏まえて値決めをう仕組みですもし売りが買いの情報を全て知っていたのであればわざわざオークションなどせずとも最もい値段で買ってくれるであろう買いのところにって直接財やサービスを売れば良いわけですあるいは最もい値段で買ってくれるであろう買いを想定しその買いがギリギリ買ってくれるであろう値段を付けて売り出すことができるはずですそれをしないでオークションをうのは売りが買いの情報を全て知っているわけではなくむしろオークションという法を通じて買いの有する情報を札価格という形で発的に開してもらいそれを通じて売りが値決めをおうと考えているからに他なりません

売りよりも買いのがその商品の価値を熟知していたとしても全く不思議ではありません国債の札に際してはマーケットの現場にいるプライマリーディーラーや投資家のほうが発体である政府より国債の価値を理解している可能性はいとみることもできますこの状況は前述した情報の対称性が問題になっている局といえましょうそのため政府は投資家が有する情報を発的に開してもらうという意味でオークションをうまく設計する必要があるわけです

切なのはオークションによって投資家が分の情報を発的に開してくれるかど

17 情報の対称性とは買いと売りの間に情報の格差があることをす経済学の専語です

14

うかはその仕組みの巧拙にきく依存する点です極端な例ですが財務省が国債を発する際投資家が1しかいないことが予め投資家には分かっていたとしましょうそしてオークションでは単価ベースで 1 銭から札できるとしますもし買いが内では国債に 100 円払っても良いと思っていたとしてもこの状況下では投資家は最低価格である 1銭で札し落札することになるでしょうこうなると発体である財務省は本来であれば買いの評価額付近の価格で発することにより多くの資調達をできる可能性があったのにもかかわらずその資が調達できないことになります

32 「私的価値」をいたオークション理論の基礎

上記のような例を考えても政府にとってはオークションをうまく設計することで投資家やプライマリーディーラーにうまく情報を開してもらうことが肝要ですここからは国債のオークションにおいて投資家がどのように価格を開していくかを考えるためオークションの仕組みについて具体的に考えていきます我々がにする典型的なオークションは1つの財に対して複数の参加者が札し最も値をれた者が落札するような仕組みですこのようなオークションを「単財オークション」といいます ここからは単財オークションについて考えていきますがまずオークションの参加者個々がある財に対して有するそれぞれの評価額に基づき意思決定すると想定しますこのような評価を「私的価値(private value)」といいます例えばオークションでコンサートのチケットを 1 枚販売するケースにおいて参加者が私的価値に基づき評価しているとしましょうこの場合このオークションの参加者の中にはチケットを常に欲しているやあまり欲しいと思わないなど当該チケットに対して異なる評価をする達がいる(チケットという財に対する評価が分かれている)状況を想定しています

ここで財務省が 10 年債 1 銘柄をオークションにより発する場合(すなわち単財オークションを実施する場合)市場参加者が私的価値に基づくとするとどのような結果が得られるかを考えるため次のような設定を考えますすなわち財務省が発する1銘柄に対して異なる評価を持つ4社の投資家が札に参加するケースを取り上げますこの 10年債についてはA社は 101 円までなら払って良いと内考えているとします同様にB社は 100 円までならC社は 99 円までならD社は 98 円までなら払って良いと考えているとしましょうみな分が幾らまでなら払って良いかは分かっているのですが他社のの内は分かりませんここでは他社の評価額が幾らであっても分の評価額は変わらないことを前提とします 第価格札式 札者は各々応札価格を決めて封をして提出し18番値で応札した投資家が落札し

18 このように封をして他の参加者の札が分からないオークションを「封印型オークション(sealed bid

15

その応札価格を払うとしましょうこのような札法を「第価格札式」といいますがA 社にとって望ましい応札価格は幾らでしょうか当然分の評価額である 101 円を上回る価格では札しないでしょうそんな価格で落札してしまったら却って損してしまいますまた101 円丁度で札して落札しても利得は 0 円ですからうまみはありませんしたがってA 社は 101 円を下回る価格で札することが予想されるわけですが安い価格で落札できたが得する応札価格が低ければ低いほど落札確率が下がってしまいます

経済学ではこのように意思決定者が不確実性に直した場合確率をいることで意思決定者がどのように動するかについて分析をいます例えばここでは 4 社の評価額が 97 円以上102 円以下の範囲でランダム19に分布していることが公知であったとしましょう4社は相の応札価格を想像しながら分の応札価格を決めていく必要がありますが実は定の想定の下で A 社の最適な戦略を呈することができます意思決定者がその不確実性を考慮したリターンすなわち期待利得(落札確率times利得)が最になるように応札価格を決めることを想定すると20最低額(ここでは 97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札することが最適な戦略であることを証明できます21(証明の詳細は BOX 5 を参照してください)具体的にはA 社にとってこのケースでは 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円で応札することが最適な戦略になります同様に B~D 社についても最適な応札価格を計算できますがA 社の評価額が番いことから A 社が落札するため発体は A 社の応札価格である 100 円で国債を売ることができます22(図5参照)

auction)」といいますオークションの価格を参加者が把握可能なオークションを「公開型オークション(open bid auction)」といいます 19 専的にいえば様分布であるといいます 20 もっともリスク回避的であることを仮定する場合など必ずしも期待利得を最化するように動しない投資家を想定することもありますが本稿では簡明な説明のため期待利得最化の場合のみを紹介します 21 専的にいえばベイジアン=ナッシュ均衡であるといいます分以外の皆が最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札するという戦略を採るのであれば分も同じ戦略を採ることにより落札確率times利得を最化することができますもっとも分以外の者が必ずしもこのような合理的な戦略を採らないのであればこのような戦略に拘らないが落札確率times利得を最化することができるかもしれませんそのためここで挙げた最適戦略とはあくまで分以外の者も合理的に動すると仮定した場合の最適戦略ということができます 22 般的にこのような場合評価額が番いの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times =97 円+5 円times =101 円となるので発体の期待収は 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円となります

16

図 5 第価格札式の例

上記の結果は札参加者が4であることに依存しています般的に札参加者が であれば札者は最低額(97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格で応札することが最適な戦略になることもすことができます例えば札者が2であれば最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の半分を加算した価格が最適な戦略です 第価格札式 ここまで私的価値に基づく単財オークションについて落札者が応札価格と同額を払う第価格札式を考えてきましたもっとも最近インターネットにおけるオークションなどでは「第価格札式」という式も使われるようになってきています23各々応札価格を決めて封をして提出した上で番値で応札したが落札するところまでは第価格札式と同じです第価格札式がい点はそのの払額が番に値で応札したの応札価格に基づく点であり理論的24に札者は分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる点です25(これを「耐戦略性」といいますまたこの法が最適な戦略となる直感的な解説については BOX 6 を参照してください)

先ほど挙げた国債の札において今度は発体が第価格札式に基づき実施したとします各社の最適な動は素直に分の評価額を表明することですからA 社は分の

23 例えばインターネットオークションを運営する eBay ではこのような式がいられています但し参加者の付け値が時間が経つにつれて明らかになるところが通常の封印型の第価格札式と異なります(キシテイニー 2018) 24 共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります 25 ここでは第価格札式の場合とは異なり分以外の者がどんな戦略をててきても分は分の評価額を札することにより落札確率times利得を最化することができるので分の評価額を札することが配戦略ということになります

評価額 入札額 利得A社 101円 100円 1円

B社 100円 925円 075円

C社 99円 985円 05円

D社 98円 9775円 025円

財務省

17

評価額である 101 円で応札しB 社も分の評価額である 100 円で応札します結果的にA 社は落札に成功しB 社の応札価格である 100 円を払うことになります26 収同値定理 私的価値に基づく単財オークションについて第価格札式と第価格札式を考えてきましたが我々が気になる点はこのつの式のどちらが発体にとって優れているかです驚くべき点は実は定の条件27の下どのようなオークションをっても発体が期待できる収額は定であることが証明できることですこれを「収同値定理」(Revenue Equivalence Theorem)といいます(Myerson 1981 Riley and Samuelson 1981)これはオークション理論における字塔的な定理といえましょうこの定理によれば発体は少なくとも期待できる収額の点からはオークションの仕組みについて殆ど気にしないで良いことが分かります実際上記の例をみればどちらの式でも発価格が 100円になっており売りの収は同じになっていることが確認できます

無論オークションの仕組みを検討する際には期待できる収額以外にも留意すべき点は多々あります例えばどのくらいの札者を込めるか或いはどのような不正が起こり得るかなども看過できずこれらはオークションの仕組みによって異なり得ますしかしオークションは分が有する財を売るために実施しているわけですから期待できる収額が重要な点であることには変わりありません国債の場合発体からみれば「期待できる収」とは「調達コストを抑えること」に相当するため収同値定理は発体にとっても重要な定理であるといえます 33 共通価値(common value) これまで個々が財に対して異なる評価額を有することを前提とする「私的価値」に基づ

き議論を進めてきましたが国債のオークションでは「共通価値(common value)」に基づいて理論が構築されることもあります28「共通価値」とは全ての札者がオークションの対象となる財の価値を同じように評価するという仮定です例えばべ物のように々

26 般的にこのような場合評価額が番にいの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times

=97 円+5 円times =100 円となるので発体の期待収も 100 円となります 27 収同値定理が成するためには①全ての札者はリスク中的②共通した分布関数から互いに独に私的価値を得る③最もい私的価値を持つ者が落札し最も低い私的価値を持つ者の期待利得はゼロであるといった前提条件が置かれていますこの中で最も強い前提は「互いに独に私的価値」の部分でありしたがって転売などを念頭に置いているオークションの場合は他の評価額によって分の評価額も影響を受けざるを得ないため必ずしも収同値定理は成しません国債を始めとする有価証券のオークションの場合にも当然に転売も念頭に置かれていると考えられるため般的にこの収同値定理の前提条件が満たされているとは考え難いです 28 共通価値についてより詳細を知りたいは上(2010)などを参照してください

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 11: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

10

BOX 2 コンベンショナル式とダッチ式のイメージ ここではコンベンショナル式とダッチ式を理解するために具体的な数値例を

い両式がどのような違いをもたらすのかについて考えてみましょう図 4 にしているとおり財務省が 1000 億円分の国債を札で発しようと考えておりプライマリーディーラーである A と B が応札するとしますこの際現在のマーケット環境に鑑みプライマリーディーラーA は 200 億円を 102 円101 円100 円99 円で応札するプライマリーディーラーB は 200 億円を 101 円100 円99 円で応札しているとしましょう

この場合1000 億円に達するまで財務省はらにとって利益のあるい価格から落札していきますこの例では 100 円のところでプライマリーディーラーA と B の応札額合計が 1000 億円に達するため100 円までの札が落札されますプライマリーディーラーA と B は 99 円で 200 億円ずつ応札していますがこの札は発額である 1000 億円を超過しているため落札されませんここまではコンベンショナル式もダッチ式も同じです

図 4 コンベンショナル式とダッチ式

注ここではわかりやすさを重視した図になっています実際のオークションではプライマリーディーラーが 3 社

以上存在する点などは捨象しています

1000億円の国債を発行

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円99円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円99円 200億円

応札

応札

互いの札は見えません

国債発行に際し入札を実施

<オークションの結果>1コンベンショナル方式(応札した価格で落札)

2ダッチ方式(1000億円に達した入札金額である100円で落札)

プライマリーディーラーA102円 200億円101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーB101円 200億円100円 200億円

プライマリーディーラーA100円 600億円

プライマリーディーラーB100円 400億円

財務省

11

コンベンショナル式とダッチ式の異なる点は購する価格ですコンベンショナル式の場合プライマリーディーラーA と B はそれぞれ分が応札した価格で落札しますすなわちプライマリーディーラーA は 102 円101 円100 円でそれぞれ 200 億円ずつ落札しプライマリーディーラーB は 101 円100 円で 200 億円ずつ落札しますダッチ式では1000 億円に達する価格すなわちそれぞれ落札できた額分(プライマリーディーラーA は 600 億円プライマリーディーラーB は 400 億円)をすべて律の価格である 100 円で落札します

なおこの例では応札額がちょうど 1000 億円になる事例にしていますが実際には発額を超過することがあります例えばこのケースにおいてプライマリーディーラーA が 100 円で(200 億円でなく)300 億円を応札していた場合応札額は 101 円の累計(600 億円)では 1000 億円に達しませんが100 円では応札額(累計)が 1100 億円となり発額である 1000 億円を超過しますこのようなケースでは超過した分が発額に収まるようにするため「『オファー額』と『案分価格帯の段上までの累計』との差分」を「案分価格帯に応札した額」で除することによって率(案分率)を作りますこの場合100 円で応札したAの 300 億円とBの 200 億円の合計(500 億円)が残り 400 億円に収まるようにするため「400500=08」が案分率となります

案分率の計算法(オファー額minus第Ⅰ競争minus切り価格の段上の応札額累計額)divide切り価格の応札額times100

BOX 3 イールドダッチ式 2〜30 年の利付国債についてはコンベンショナル式で発されていますがこれらは

札当の 10 時 30 分に利率(クーポン)が決定され価格で応札します現在40 年債は年度で 1 銘柄発されていますが年度最初のオークションの前には利率が定まっておらず複利利回りで応札するイールドダッチ式が採されていますこれは40 年債においてもしクーポンを定めてから価格で応札した場合デュレーション(利が変化した際の国債の価格感応度)がきいためオークションの結果単価が 100 円からきく乖離する可能性があるからです例えば100 円以下(以上)の価格で国債が発された場合発当局が当初予定した額より少なく(多く)調達することになるという問題を有しますその複利で応札してから利率を定めるイールドダッチ式であれば100 円(パー)に近い発が可能となり発体からみれば安定的な調達が可能になります

12

24 プライマリーディーラーの役割

現在の国債発に際しては主に証券会社で構成される国債市場特別参加者制度(いわゆるプライマリーディーラー制度)が重要な役割を果たしていますプライマリーディーラーとは証券会社などを中に国によって指定された業者のことで国債に関する札や落札の義務を負うで定の優遇措置を受けます先ほど及した価格競争札もプライマリーディーラーに認められた権利になります

BOX 4 市場参加者による札結果の解釈 財務省は国債の札結果として「応募額」「募決定額」「募最低価格」「募最低価

格における案分率」「募平均価格」を発表しています市場参加者はその札の結果を解釈する際しばしば「テール」や「応募倍率」などをいます

「テール」とは「平均価格」と「最低価格」の差になりますオークションに際し投資家が応札した札の分布(横軸に応札価格縦に応札した額)がありますが財務省は分布そのものを公表しないため市場参加者は「平均価格」と「最低価格」から分布を推測しますもし投資家の意が似通っていれば多くの札が分布の中付近に集まりますこの場合テールはさく証券会社及び投資家の意に相違が少ない札であると解釈可能です分布が中に寄っていない場合分布の平均からきく外れた札も落札されることからテールはきくなりますこの結果は証券会社及び投資家の意に相違がきかった札と解釈できます(しばしば市場参加者はテールがきい札を「札結果が流れた」と表現し札結果が不調であった可能性を考える傾向があります)

また「応募倍率」は「応募額」「募決定額」で計算し発額(募決定額)に対してどの程度応募があったかをみるもので数量のでどれくらい投資家が積極的にオークションに参加したのかを把握することができますこれ以外にも例えばBloomberg などが証券会社などの予測値を事前に公表しているためその予測値との乖離をいて札の結果を評価するなど投資家は様々な形でオークションの結果を解釈していますちなみにプライマリーディーラーなど各融機関がいくら落札したかについて財務省は公表していませんが間のベンダーが業者に落札額をヒアリングしています(もっともすべての融機関をカバーしているわけではないため「落札者不明分」が存在します)

なおダッチ式では本で記載したとおり参加者が律の価格で購するため募平均価格に相当する概念がなくテールは計算できません現在の 40 年債の札は利に基づくダッチ式であり「募最利回り」が公表されています

13

実際の国債の札ではプライマリーディーラーが多くの投資家から注を募ることなどを通じて投資家の需要を集めます例えばプライマリーディーラーでない融機関が札で国債の購をおうと考える際多くの場合分が買いたい値段(指値注)で証券会社に注することなどにより札に参加しますプライマリーディーラーはその札を集約して応札することになります

なお現在の制度ではプライマリーディーラー以外も定の条件で札に参加できる形になっています前述のとおり国では 1991 年にソロモンブラザーズが他名義をいて不正に国債の買い占め(スクイーズ)をったのですが国政府はそのようなスクイーズを防ぐことなどを的にプライマリーディーラー以外も札に参加できるように制度を改正しました(国債の札の詳細は BOX 7 を参照してくださいまたスクイーズの詳細は3節で説明します) 3国債のオークション理論 31 国債のオークションと情報の対称性 前章では本国債にかかるオークションの制度を中に議論を進めましたが本章ではオークションを実施する意味について考えていきます国債の発においてオークションをう本質的な理由は本政府側からみれば国債の買いが有する情報を分に把握していないつまり経済学の葉でいうと「情報の対称性」17があるからですそもそもオークションとは財やサービスを売る際買い側からのアクション等を踏まえて値決めをう仕組みですもし売りが買いの情報を全て知っていたのであればわざわざオークションなどせずとも最もい値段で買ってくれるであろう買いのところにって直接財やサービスを売れば良いわけですあるいは最もい値段で買ってくれるであろう買いを想定しその買いがギリギリ買ってくれるであろう値段を付けて売り出すことができるはずですそれをしないでオークションをうのは売りが買いの情報を全て知っているわけではなくむしろオークションという法を通じて買いの有する情報を札価格という形で発的に開してもらいそれを通じて売りが値決めをおうと考えているからに他なりません

売りよりも買いのがその商品の価値を熟知していたとしても全く不思議ではありません国債の札に際してはマーケットの現場にいるプライマリーディーラーや投資家のほうが発体である政府より国債の価値を理解している可能性はいとみることもできますこの状況は前述した情報の対称性が問題になっている局といえましょうそのため政府は投資家が有する情報を発的に開してもらうという意味でオークションをうまく設計する必要があるわけです

切なのはオークションによって投資家が分の情報を発的に開してくれるかど

17 情報の対称性とは買いと売りの間に情報の格差があることをす経済学の専語です

14

うかはその仕組みの巧拙にきく依存する点です極端な例ですが財務省が国債を発する際投資家が1しかいないことが予め投資家には分かっていたとしましょうそしてオークションでは単価ベースで 1 銭から札できるとしますもし買いが内では国債に 100 円払っても良いと思っていたとしてもこの状況下では投資家は最低価格である 1銭で札し落札することになるでしょうこうなると発体である財務省は本来であれば買いの評価額付近の価格で発することにより多くの資調達をできる可能性があったのにもかかわらずその資が調達できないことになります

32 「私的価値」をいたオークション理論の基礎

上記のような例を考えても政府にとってはオークションをうまく設計することで投資家やプライマリーディーラーにうまく情報を開してもらうことが肝要ですここからは国債のオークションにおいて投資家がどのように価格を開していくかを考えるためオークションの仕組みについて具体的に考えていきます我々がにする典型的なオークションは1つの財に対して複数の参加者が札し最も値をれた者が落札するような仕組みですこのようなオークションを「単財オークション」といいます ここからは単財オークションについて考えていきますがまずオークションの参加者個々がある財に対して有するそれぞれの評価額に基づき意思決定すると想定しますこのような評価を「私的価値(private value)」といいます例えばオークションでコンサートのチケットを 1 枚販売するケースにおいて参加者が私的価値に基づき評価しているとしましょうこの場合このオークションの参加者の中にはチケットを常に欲しているやあまり欲しいと思わないなど当該チケットに対して異なる評価をする達がいる(チケットという財に対する評価が分かれている)状況を想定しています

ここで財務省が 10 年債 1 銘柄をオークションにより発する場合(すなわち単財オークションを実施する場合)市場参加者が私的価値に基づくとするとどのような結果が得られるかを考えるため次のような設定を考えますすなわち財務省が発する1銘柄に対して異なる評価を持つ4社の投資家が札に参加するケースを取り上げますこの 10年債についてはA社は 101 円までなら払って良いと内考えているとします同様にB社は 100 円までならC社は 99 円までならD社は 98 円までなら払って良いと考えているとしましょうみな分が幾らまでなら払って良いかは分かっているのですが他社のの内は分かりませんここでは他社の評価額が幾らであっても分の評価額は変わらないことを前提とします 第価格札式 札者は各々応札価格を決めて封をして提出し18番値で応札した投資家が落札し

18 このように封をして他の参加者の札が分からないオークションを「封印型オークション(sealed bid

15

その応札価格を払うとしましょうこのような札法を「第価格札式」といいますがA 社にとって望ましい応札価格は幾らでしょうか当然分の評価額である 101 円を上回る価格では札しないでしょうそんな価格で落札してしまったら却って損してしまいますまた101 円丁度で札して落札しても利得は 0 円ですからうまみはありませんしたがってA 社は 101 円を下回る価格で札することが予想されるわけですが安い価格で落札できたが得する応札価格が低ければ低いほど落札確率が下がってしまいます

経済学ではこのように意思決定者が不確実性に直した場合確率をいることで意思決定者がどのように動するかについて分析をいます例えばここでは 4 社の評価額が 97 円以上102 円以下の範囲でランダム19に分布していることが公知であったとしましょう4社は相の応札価格を想像しながら分の応札価格を決めていく必要がありますが実は定の想定の下で A 社の最適な戦略を呈することができます意思決定者がその不確実性を考慮したリターンすなわち期待利得(落札確率times利得)が最になるように応札価格を決めることを想定すると20最低額(ここでは 97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札することが最適な戦略であることを証明できます21(証明の詳細は BOX 5 を参照してください)具体的にはA 社にとってこのケースでは 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円で応札することが最適な戦略になります同様に B~D 社についても最適な応札価格を計算できますがA 社の評価額が番いことから A 社が落札するため発体は A 社の応札価格である 100 円で国債を売ることができます22(図5参照)

auction)」といいますオークションの価格を参加者が把握可能なオークションを「公開型オークション(open bid auction)」といいます 19 専的にいえば様分布であるといいます 20 もっともリスク回避的であることを仮定する場合など必ずしも期待利得を最化するように動しない投資家を想定することもありますが本稿では簡明な説明のため期待利得最化の場合のみを紹介します 21 専的にいえばベイジアン=ナッシュ均衡であるといいます分以外の皆が最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札するという戦略を採るのであれば分も同じ戦略を採ることにより落札確率times利得を最化することができますもっとも分以外の者が必ずしもこのような合理的な戦略を採らないのであればこのような戦略に拘らないが落札確率times利得を最化することができるかもしれませんそのためここで挙げた最適戦略とはあくまで分以外の者も合理的に動すると仮定した場合の最適戦略ということができます 22 般的にこのような場合評価額が番いの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times =97 円+5 円times =101 円となるので発体の期待収は 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円となります

16

図 5 第価格札式の例

上記の結果は札参加者が4であることに依存しています般的に札参加者が であれば札者は最低額(97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格で応札することが最適な戦略になることもすことができます例えば札者が2であれば最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の半分を加算した価格が最適な戦略です 第価格札式 ここまで私的価値に基づく単財オークションについて落札者が応札価格と同額を払う第価格札式を考えてきましたもっとも最近インターネットにおけるオークションなどでは「第価格札式」という式も使われるようになってきています23各々応札価格を決めて封をして提出した上で番値で応札したが落札するところまでは第価格札式と同じです第価格札式がい点はそのの払額が番に値で応札したの応札価格に基づく点であり理論的24に札者は分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる点です25(これを「耐戦略性」といいますまたこの法が最適な戦略となる直感的な解説については BOX 6 を参照してください)

先ほど挙げた国債の札において今度は発体が第価格札式に基づき実施したとします各社の最適な動は素直に分の評価額を表明することですからA 社は分の

23 例えばインターネットオークションを運営する eBay ではこのような式がいられています但し参加者の付け値が時間が経つにつれて明らかになるところが通常の封印型の第価格札式と異なります(キシテイニー 2018) 24 共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります 25 ここでは第価格札式の場合とは異なり分以外の者がどんな戦略をててきても分は分の評価額を札することにより落札確率times利得を最化することができるので分の評価額を札することが配戦略ということになります

評価額 入札額 利得A社 101円 100円 1円

B社 100円 925円 075円

C社 99円 985円 05円

D社 98円 9775円 025円

財務省

17

評価額である 101 円で応札しB 社も分の評価額である 100 円で応札します結果的にA 社は落札に成功しB 社の応札価格である 100 円を払うことになります26 収同値定理 私的価値に基づく単財オークションについて第価格札式と第価格札式を考えてきましたが我々が気になる点はこのつの式のどちらが発体にとって優れているかです驚くべき点は実は定の条件27の下どのようなオークションをっても発体が期待できる収額は定であることが証明できることですこれを「収同値定理」(Revenue Equivalence Theorem)といいます(Myerson 1981 Riley and Samuelson 1981)これはオークション理論における字塔的な定理といえましょうこの定理によれば発体は少なくとも期待できる収額の点からはオークションの仕組みについて殆ど気にしないで良いことが分かります実際上記の例をみればどちらの式でも発価格が 100円になっており売りの収は同じになっていることが確認できます

無論オークションの仕組みを検討する際には期待できる収額以外にも留意すべき点は多々あります例えばどのくらいの札者を込めるか或いはどのような不正が起こり得るかなども看過できずこれらはオークションの仕組みによって異なり得ますしかしオークションは分が有する財を売るために実施しているわけですから期待できる収額が重要な点であることには変わりありません国債の場合発体からみれば「期待できる収」とは「調達コストを抑えること」に相当するため収同値定理は発体にとっても重要な定理であるといえます 33 共通価値(common value) これまで個々が財に対して異なる評価額を有することを前提とする「私的価値」に基づ

き議論を進めてきましたが国債のオークションでは「共通価値(common value)」に基づいて理論が構築されることもあります28「共通価値」とは全ての札者がオークションの対象となる財の価値を同じように評価するという仮定です例えばべ物のように々

26 般的にこのような場合評価額が番にいの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times

=97 円+5 円times =100 円となるので発体の期待収も 100 円となります 27 収同値定理が成するためには①全ての札者はリスク中的②共通した分布関数から互いに独に私的価値を得る③最もい私的価値を持つ者が落札し最も低い私的価値を持つ者の期待利得はゼロであるといった前提条件が置かれていますこの中で最も強い前提は「互いに独に私的価値」の部分でありしたがって転売などを念頭に置いているオークションの場合は他の評価額によって分の評価額も影響を受けざるを得ないため必ずしも収同値定理は成しません国債を始めとする有価証券のオークションの場合にも当然に転売も念頭に置かれていると考えられるため般的にこの収同値定理の前提条件が満たされているとは考え難いです 28 共通価値についてより詳細を知りたいは上(2010)などを参照してください

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 12: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

11

コンベンショナル式とダッチ式の異なる点は購する価格ですコンベンショナル式の場合プライマリーディーラーA と B はそれぞれ分が応札した価格で落札しますすなわちプライマリーディーラーA は 102 円101 円100 円でそれぞれ 200 億円ずつ落札しプライマリーディーラーB は 101 円100 円で 200 億円ずつ落札しますダッチ式では1000 億円に達する価格すなわちそれぞれ落札できた額分(プライマリーディーラーA は 600 億円プライマリーディーラーB は 400 億円)をすべて律の価格である 100 円で落札します

なおこの例では応札額がちょうど 1000 億円になる事例にしていますが実際には発額を超過することがあります例えばこのケースにおいてプライマリーディーラーA が 100 円で(200 億円でなく)300 億円を応札していた場合応札額は 101 円の累計(600 億円)では 1000 億円に達しませんが100 円では応札額(累計)が 1100 億円となり発額である 1000 億円を超過しますこのようなケースでは超過した分が発額に収まるようにするため「『オファー額』と『案分価格帯の段上までの累計』との差分」を「案分価格帯に応札した額」で除することによって率(案分率)を作りますこの場合100 円で応札したAの 300 億円とBの 200 億円の合計(500 億円)が残り 400 億円に収まるようにするため「400500=08」が案分率となります

案分率の計算法(オファー額minus第Ⅰ競争minus切り価格の段上の応札額累計額)divide切り価格の応札額times100

BOX 3 イールドダッチ式 2〜30 年の利付国債についてはコンベンショナル式で発されていますがこれらは

札当の 10 時 30 分に利率(クーポン)が決定され価格で応札します現在40 年債は年度で 1 銘柄発されていますが年度最初のオークションの前には利率が定まっておらず複利利回りで応札するイールドダッチ式が採されていますこれは40 年債においてもしクーポンを定めてから価格で応札した場合デュレーション(利が変化した際の国債の価格感応度)がきいためオークションの結果単価が 100 円からきく乖離する可能性があるからです例えば100 円以下(以上)の価格で国債が発された場合発当局が当初予定した額より少なく(多く)調達することになるという問題を有しますその複利で応札してから利率を定めるイールドダッチ式であれば100 円(パー)に近い発が可能となり発体からみれば安定的な調達が可能になります

12

24 プライマリーディーラーの役割

現在の国債発に際しては主に証券会社で構成される国債市場特別参加者制度(いわゆるプライマリーディーラー制度)が重要な役割を果たしていますプライマリーディーラーとは証券会社などを中に国によって指定された業者のことで国債に関する札や落札の義務を負うで定の優遇措置を受けます先ほど及した価格競争札もプライマリーディーラーに認められた権利になります

BOX 4 市場参加者による札結果の解釈 財務省は国債の札結果として「応募額」「募決定額」「募最低価格」「募最低価

格における案分率」「募平均価格」を発表しています市場参加者はその札の結果を解釈する際しばしば「テール」や「応募倍率」などをいます

「テール」とは「平均価格」と「最低価格」の差になりますオークションに際し投資家が応札した札の分布(横軸に応札価格縦に応札した額)がありますが財務省は分布そのものを公表しないため市場参加者は「平均価格」と「最低価格」から分布を推測しますもし投資家の意が似通っていれば多くの札が分布の中付近に集まりますこの場合テールはさく証券会社及び投資家の意に相違が少ない札であると解釈可能です分布が中に寄っていない場合分布の平均からきく外れた札も落札されることからテールはきくなりますこの結果は証券会社及び投資家の意に相違がきかった札と解釈できます(しばしば市場参加者はテールがきい札を「札結果が流れた」と表現し札結果が不調であった可能性を考える傾向があります)

また「応募倍率」は「応募額」「募決定額」で計算し発額(募決定額)に対してどの程度応募があったかをみるもので数量のでどれくらい投資家が積極的にオークションに参加したのかを把握することができますこれ以外にも例えばBloomberg などが証券会社などの予測値を事前に公表しているためその予測値との乖離をいて札の結果を評価するなど投資家は様々な形でオークションの結果を解釈していますちなみにプライマリーディーラーなど各融機関がいくら落札したかについて財務省は公表していませんが間のベンダーが業者に落札額をヒアリングしています(もっともすべての融機関をカバーしているわけではないため「落札者不明分」が存在します)

なおダッチ式では本で記載したとおり参加者が律の価格で購するため募平均価格に相当する概念がなくテールは計算できません現在の 40 年債の札は利に基づくダッチ式であり「募最利回り」が公表されています

13

実際の国債の札ではプライマリーディーラーが多くの投資家から注を募ることなどを通じて投資家の需要を集めます例えばプライマリーディーラーでない融機関が札で国債の購をおうと考える際多くの場合分が買いたい値段(指値注)で証券会社に注することなどにより札に参加しますプライマリーディーラーはその札を集約して応札することになります

なお現在の制度ではプライマリーディーラー以外も定の条件で札に参加できる形になっています前述のとおり国では 1991 年にソロモンブラザーズが他名義をいて不正に国債の買い占め(スクイーズ)をったのですが国政府はそのようなスクイーズを防ぐことなどを的にプライマリーディーラー以外も札に参加できるように制度を改正しました(国債の札の詳細は BOX 7 を参照してくださいまたスクイーズの詳細は3節で説明します) 3国債のオークション理論 31 国債のオークションと情報の対称性 前章では本国債にかかるオークションの制度を中に議論を進めましたが本章ではオークションを実施する意味について考えていきます国債の発においてオークションをう本質的な理由は本政府側からみれば国債の買いが有する情報を分に把握していないつまり経済学の葉でいうと「情報の対称性」17があるからですそもそもオークションとは財やサービスを売る際買い側からのアクション等を踏まえて値決めをう仕組みですもし売りが買いの情報を全て知っていたのであればわざわざオークションなどせずとも最もい値段で買ってくれるであろう買いのところにって直接財やサービスを売れば良いわけですあるいは最もい値段で買ってくれるであろう買いを想定しその買いがギリギリ買ってくれるであろう値段を付けて売り出すことができるはずですそれをしないでオークションをうのは売りが買いの情報を全て知っているわけではなくむしろオークションという法を通じて買いの有する情報を札価格という形で発的に開してもらいそれを通じて売りが値決めをおうと考えているからに他なりません

売りよりも買いのがその商品の価値を熟知していたとしても全く不思議ではありません国債の札に際してはマーケットの現場にいるプライマリーディーラーや投資家のほうが発体である政府より国債の価値を理解している可能性はいとみることもできますこの状況は前述した情報の対称性が問題になっている局といえましょうそのため政府は投資家が有する情報を発的に開してもらうという意味でオークションをうまく設計する必要があるわけです

切なのはオークションによって投資家が分の情報を発的に開してくれるかど

17 情報の対称性とは買いと売りの間に情報の格差があることをす経済学の専語です

14

うかはその仕組みの巧拙にきく依存する点です極端な例ですが財務省が国債を発する際投資家が1しかいないことが予め投資家には分かっていたとしましょうそしてオークションでは単価ベースで 1 銭から札できるとしますもし買いが内では国債に 100 円払っても良いと思っていたとしてもこの状況下では投資家は最低価格である 1銭で札し落札することになるでしょうこうなると発体である財務省は本来であれば買いの評価額付近の価格で発することにより多くの資調達をできる可能性があったのにもかかわらずその資が調達できないことになります

32 「私的価値」をいたオークション理論の基礎

上記のような例を考えても政府にとってはオークションをうまく設計することで投資家やプライマリーディーラーにうまく情報を開してもらうことが肝要ですここからは国債のオークションにおいて投資家がどのように価格を開していくかを考えるためオークションの仕組みについて具体的に考えていきます我々がにする典型的なオークションは1つの財に対して複数の参加者が札し最も値をれた者が落札するような仕組みですこのようなオークションを「単財オークション」といいます ここからは単財オークションについて考えていきますがまずオークションの参加者個々がある財に対して有するそれぞれの評価額に基づき意思決定すると想定しますこのような評価を「私的価値(private value)」といいます例えばオークションでコンサートのチケットを 1 枚販売するケースにおいて参加者が私的価値に基づき評価しているとしましょうこの場合このオークションの参加者の中にはチケットを常に欲しているやあまり欲しいと思わないなど当該チケットに対して異なる評価をする達がいる(チケットという財に対する評価が分かれている)状況を想定しています

ここで財務省が 10 年債 1 銘柄をオークションにより発する場合(すなわち単財オークションを実施する場合)市場参加者が私的価値に基づくとするとどのような結果が得られるかを考えるため次のような設定を考えますすなわち財務省が発する1銘柄に対して異なる評価を持つ4社の投資家が札に参加するケースを取り上げますこの 10年債についてはA社は 101 円までなら払って良いと内考えているとします同様にB社は 100 円までならC社は 99 円までならD社は 98 円までなら払って良いと考えているとしましょうみな分が幾らまでなら払って良いかは分かっているのですが他社のの内は分かりませんここでは他社の評価額が幾らであっても分の評価額は変わらないことを前提とします 第価格札式 札者は各々応札価格を決めて封をして提出し18番値で応札した投資家が落札し

18 このように封をして他の参加者の札が分からないオークションを「封印型オークション(sealed bid

15

その応札価格を払うとしましょうこのような札法を「第価格札式」といいますがA 社にとって望ましい応札価格は幾らでしょうか当然分の評価額である 101 円を上回る価格では札しないでしょうそんな価格で落札してしまったら却って損してしまいますまた101 円丁度で札して落札しても利得は 0 円ですからうまみはありませんしたがってA 社は 101 円を下回る価格で札することが予想されるわけですが安い価格で落札できたが得する応札価格が低ければ低いほど落札確率が下がってしまいます

経済学ではこのように意思決定者が不確実性に直した場合確率をいることで意思決定者がどのように動するかについて分析をいます例えばここでは 4 社の評価額が 97 円以上102 円以下の範囲でランダム19に分布していることが公知であったとしましょう4社は相の応札価格を想像しながら分の応札価格を決めていく必要がありますが実は定の想定の下で A 社の最適な戦略を呈することができます意思決定者がその不確実性を考慮したリターンすなわち期待利得(落札確率times利得)が最になるように応札価格を決めることを想定すると20最低額(ここでは 97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札することが最適な戦略であることを証明できます21(証明の詳細は BOX 5 を参照してください)具体的にはA 社にとってこのケースでは 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円で応札することが最適な戦略になります同様に B~D 社についても最適な応札価格を計算できますがA 社の評価額が番いことから A 社が落札するため発体は A 社の応札価格である 100 円で国債を売ることができます22(図5参照)

auction)」といいますオークションの価格を参加者が把握可能なオークションを「公開型オークション(open bid auction)」といいます 19 専的にいえば様分布であるといいます 20 もっともリスク回避的であることを仮定する場合など必ずしも期待利得を最化するように動しない投資家を想定することもありますが本稿では簡明な説明のため期待利得最化の場合のみを紹介します 21 専的にいえばベイジアン=ナッシュ均衡であるといいます分以外の皆が最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札するという戦略を採るのであれば分も同じ戦略を採ることにより落札確率times利得を最化することができますもっとも分以外の者が必ずしもこのような合理的な戦略を採らないのであればこのような戦略に拘らないが落札確率times利得を最化することができるかもしれませんそのためここで挙げた最適戦略とはあくまで分以外の者も合理的に動すると仮定した場合の最適戦略ということができます 22 般的にこのような場合評価額が番いの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times =97 円+5 円times =101 円となるので発体の期待収は 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円となります

16

図 5 第価格札式の例

上記の結果は札参加者が4であることに依存しています般的に札参加者が であれば札者は最低額(97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格で応札することが最適な戦略になることもすことができます例えば札者が2であれば最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の半分を加算した価格が最適な戦略です 第価格札式 ここまで私的価値に基づく単財オークションについて落札者が応札価格と同額を払う第価格札式を考えてきましたもっとも最近インターネットにおけるオークションなどでは「第価格札式」という式も使われるようになってきています23各々応札価格を決めて封をして提出した上で番値で応札したが落札するところまでは第価格札式と同じです第価格札式がい点はそのの払額が番に値で応札したの応札価格に基づく点であり理論的24に札者は分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる点です25(これを「耐戦略性」といいますまたこの法が最適な戦略となる直感的な解説については BOX 6 を参照してください)

先ほど挙げた国債の札において今度は発体が第価格札式に基づき実施したとします各社の最適な動は素直に分の評価額を表明することですからA 社は分の

23 例えばインターネットオークションを運営する eBay ではこのような式がいられています但し参加者の付け値が時間が経つにつれて明らかになるところが通常の封印型の第価格札式と異なります(キシテイニー 2018) 24 共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります 25 ここでは第価格札式の場合とは異なり分以外の者がどんな戦略をててきても分は分の評価額を札することにより落札確率times利得を最化することができるので分の評価額を札することが配戦略ということになります

評価額 入札額 利得A社 101円 100円 1円

B社 100円 925円 075円

C社 99円 985円 05円

D社 98円 9775円 025円

財務省

17

評価額である 101 円で応札しB 社も分の評価額である 100 円で応札します結果的にA 社は落札に成功しB 社の応札価格である 100 円を払うことになります26 収同値定理 私的価値に基づく単財オークションについて第価格札式と第価格札式を考えてきましたが我々が気になる点はこのつの式のどちらが発体にとって優れているかです驚くべき点は実は定の条件27の下どのようなオークションをっても発体が期待できる収額は定であることが証明できることですこれを「収同値定理」(Revenue Equivalence Theorem)といいます(Myerson 1981 Riley and Samuelson 1981)これはオークション理論における字塔的な定理といえましょうこの定理によれば発体は少なくとも期待できる収額の点からはオークションの仕組みについて殆ど気にしないで良いことが分かります実際上記の例をみればどちらの式でも発価格が 100円になっており売りの収は同じになっていることが確認できます

無論オークションの仕組みを検討する際には期待できる収額以外にも留意すべき点は多々あります例えばどのくらいの札者を込めるか或いはどのような不正が起こり得るかなども看過できずこれらはオークションの仕組みによって異なり得ますしかしオークションは分が有する財を売るために実施しているわけですから期待できる収額が重要な点であることには変わりありません国債の場合発体からみれば「期待できる収」とは「調達コストを抑えること」に相当するため収同値定理は発体にとっても重要な定理であるといえます 33 共通価値(common value) これまで個々が財に対して異なる評価額を有することを前提とする「私的価値」に基づ

き議論を進めてきましたが国債のオークションでは「共通価値(common value)」に基づいて理論が構築されることもあります28「共通価値」とは全ての札者がオークションの対象となる財の価値を同じように評価するという仮定です例えばべ物のように々

26 般的にこのような場合評価額が番にいの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times

=97 円+5 円times =100 円となるので発体の期待収も 100 円となります 27 収同値定理が成するためには①全ての札者はリスク中的②共通した分布関数から互いに独に私的価値を得る③最もい私的価値を持つ者が落札し最も低い私的価値を持つ者の期待利得はゼロであるといった前提条件が置かれていますこの中で最も強い前提は「互いに独に私的価値」の部分でありしたがって転売などを念頭に置いているオークションの場合は他の評価額によって分の評価額も影響を受けざるを得ないため必ずしも収同値定理は成しません国債を始めとする有価証券のオークションの場合にも当然に転売も念頭に置かれていると考えられるため般的にこの収同値定理の前提条件が満たされているとは考え難いです 28 共通価値についてより詳細を知りたいは上(2010)などを参照してください

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 13: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

12

24 プライマリーディーラーの役割

現在の国債発に際しては主に証券会社で構成される国債市場特別参加者制度(いわゆるプライマリーディーラー制度)が重要な役割を果たしていますプライマリーディーラーとは証券会社などを中に国によって指定された業者のことで国債に関する札や落札の義務を負うで定の優遇措置を受けます先ほど及した価格競争札もプライマリーディーラーに認められた権利になります

BOX 4 市場参加者による札結果の解釈 財務省は国債の札結果として「応募額」「募決定額」「募最低価格」「募最低価

格における案分率」「募平均価格」を発表しています市場参加者はその札の結果を解釈する際しばしば「テール」や「応募倍率」などをいます

「テール」とは「平均価格」と「最低価格」の差になりますオークションに際し投資家が応札した札の分布(横軸に応札価格縦に応札した額)がありますが財務省は分布そのものを公表しないため市場参加者は「平均価格」と「最低価格」から分布を推測しますもし投資家の意が似通っていれば多くの札が分布の中付近に集まりますこの場合テールはさく証券会社及び投資家の意に相違が少ない札であると解釈可能です分布が中に寄っていない場合分布の平均からきく外れた札も落札されることからテールはきくなりますこの結果は証券会社及び投資家の意に相違がきかった札と解釈できます(しばしば市場参加者はテールがきい札を「札結果が流れた」と表現し札結果が不調であった可能性を考える傾向があります)

また「応募倍率」は「応募額」「募決定額」で計算し発額(募決定額)に対してどの程度応募があったかをみるもので数量のでどれくらい投資家が積極的にオークションに参加したのかを把握することができますこれ以外にも例えばBloomberg などが証券会社などの予測値を事前に公表しているためその予測値との乖離をいて札の結果を評価するなど投資家は様々な形でオークションの結果を解釈していますちなみにプライマリーディーラーなど各融機関がいくら落札したかについて財務省は公表していませんが間のベンダーが業者に落札額をヒアリングしています(もっともすべての融機関をカバーしているわけではないため「落札者不明分」が存在します)

なおダッチ式では本で記載したとおり参加者が律の価格で購するため募平均価格に相当する概念がなくテールは計算できません現在の 40 年債の札は利に基づくダッチ式であり「募最利回り」が公表されています

13

実際の国債の札ではプライマリーディーラーが多くの投資家から注を募ることなどを通じて投資家の需要を集めます例えばプライマリーディーラーでない融機関が札で国債の購をおうと考える際多くの場合分が買いたい値段(指値注)で証券会社に注することなどにより札に参加しますプライマリーディーラーはその札を集約して応札することになります

なお現在の制度ではプライマリーディーラー以外も定の条件で札に参加できる形になっています前述のとおり国では 1991 年にソロモンブラザーズが他名義をいて不正に国債の買い占め(スクイーズ)をったのですが国政府はそのようなスクイーズを防ぐことなどを的にプライマリーディーラー以外も札に参加できるように制度を改正しました(国債の札の詳細は BOX 7 を参照してくださいまたスクイーズの詳細は3節で説明します) 3国債のオークション理論 31 国債のオークションと情報の対称性 前章では本国債にかかるオークションの制度を中に議論を進めましたが本章ではオークションを実施する意味について考えていきます国債の発においてオークションをう本質的な理由は本政府側からみれば国債の買いが有する情報を分に把握していないつまり経済学の葉でいうと「情報の対称性」17があるからですそもそもオークションとは財やサービスを売る際買い側からのアクション等を踏まえて値決めをう仕組みですもし売りが買いの情報を全て知っていたのであればわざわざオークションなどせずとも最もい値段で買ってくれるであろう買いのところにって直接財やサービスを売れば良いわけですあるいは最もい値段で買ってくれるであろう買いを想定しその買いがギリギリ買ってくれるであろう値段を付けて売り出すことができるはずですそれをしないでオークションをうのは売りが買いの情報を全て知っているわけではなくむしろオークションという法を通じて買いの有する情報を札価格という形で発的に開してもらいそれを通じて売りが値決めをおうと考えているからに他なりません

売りよりも買いのがその商品の価値を熟知していたとしても全く不思議ではありません国債の札に際してはマーケットの現場にいるプライマリーディーラーや投資家のほうが発体である政府より国債の価値を理解している可能性はいとみることもできますこの状況は前述した情報の対称性が問題になっている局といえましょうそのため政府は投資家が有する情報を発的に開してもらうという意味でオークションをうまく設計する必要があるわけです

切なのはオークションによって投資家が分の情報を発的に開してくれるかど

17 情報の対称性とは買いと売りの間に情報の格差があることをす経済学の専語です

14

うかはその仕組みの巧拙にきく依存する点です極端な例ですが財務省が国債を発する際投資家が1しかいないことが予め投資家には分かっていたとしましょうそしてオークションでは単価ベースで 1 銭から札できるとしますもし買いが内では国債に 100 円払っても良いと思っていたとしてもこの状況下では投資家は最低価格である 1銭で札し落札することになるでしょうこうなると発体である財務省は本来であれば買いの評価額付近の価格で発することにより多くの資調達をできる可能性があったのにもかかわらずその資が調達できないことになります

32 「私的価値」をいたオークション理論の基礎

上記のような例を考えても政府にとってはオークションをうまく設計することで投資家やプライマリーディーラーにうまく情報を開してもらうことが肝要ですここからは国債のオークションにおいて投資家がどのように価格を開していくかを考えるためオークションの仕組みについて具体的に考えていきます我々がにする典型的なオークションは1つの財に対して複数の参加者が札し最も値をれた者が落札するような仕組みですこのようなオークションを「単財オークション」といいます ここからは単財オークションについて考えていきますがまずオークションの参加者個々がある財に対して有するそれぞれの評価額に基づき意思決定すると想定しますこのような評価を「私的価値(private value)」といいます例えばオークションでコンサートのチケットを 1 枚販売するケースにおいて参加者が私的価値に基づき評価しているとしましょうこの場合このオークションの参加者の中にはチケットを常に欲しているやあまり欲しいと思わないなど当該チケットに対して異なる評価をする達がいる(チケットという財に対する評価が分かれている)状況を想定しています

ここで財務省が 10 年債 1 銘柄をオークションにより発する場合(すなわち単財オークションを実施する場合)市場参加者が私的価値に基づくとするとどのような結果が得られるかを考えるため次のような設定を考えますすなわち財務省が発する1銘柄に対して異なる評価を持つ4社の投資家が札に参加するケースを取り上げますこの 10年債についてはA社は 101 円までなら払って良いと内考えているとします同様にB社は 100 円までならC社は 99 円までならD社は 98 円までなら払って良いと考えているとしましょうみな分が幾らまでなら払って良いかは分かっているのですが他社のの内は分かりませんここでは他社の評価額が幾らであっても分の評価額は変わらないことを前提とします 第価格札式 札者は各々応札価格を決めて封をして提出し18番値で応札した投資家が落札し

18 このように封をして他の参加者の札が分からないオークションを「封印型オークション(sealed bid

15

その応札価格を払うとしましょうこのような札法を「第価格札式」といいますがA 社にとって望ましい応札価格は幾らでしょうか当然分の評価額である 101 円を上回る価格では札しないでしょうそんな価格で落札してしまったら却って損してしまいますまた101 円丁度で札して落札しても利得は 0 円ですからうまみはありませんしたがってA 社は 101 円を下回る価格で札することが予想されるわけですが安い価格で落札できたが得する応札価格が低ければ低いほど落札確率が下がってしまいます

経済学ではこのように意思決定者が不確実性に直した場合確率をいることで意思決定者がどのように動するかについて分析をいます例えばここでは 4 社の評価額が 97 円以上102 円以下の範囲でランダム19に分布していることが公知であったとしましょう4社は相の応札価格を想像しながら分の応札価格を決めていく必要がありますが実は定の想定の下で A 社の最適な戦略を呈することができます意思決定者がその不確実性を考慮したリターンすなわち期待利得(落札確率times利得)が最になるように応札価格を決めることを想定すると20最低額(ここでは 97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札することが最適な戦略であることを証明できます21(証明の詳細は BOX 5 を参照してください)具体的にはA 社にとってこのケースでは 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円で応札することが最適な戦略になります同様に B~D 社についても最適な応札価格を計算できますがA 社の評価額が番いことから A 社が落札するため発体は A 社の応札価格である 100 円で国債を売ることができます22(図5参照)

auction)」といいますオークションの価格を参加者が把握可能なオークションを「公開型オークション(open bid auction)」といいます 19 専的にいえば様分布であるといいます 20 もっともリスク回避的であることを仮定する場合など必ずしも期待利得を最化するように動しない投資家を想定することもありますが本稿では簡明な説明のため期待利得最化の場合のみを紹介します 21 専的にいえばベイジアン=ナッシュ均衡であるといいます分以外の皆が最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札するという戦略を採るのであれば分も同じ戦略を採ることにより落札確率times利得を最化することができますもっとも分以外の者が必ずしもこのような合理的な戦略を採らないのであればこのような戦略に拘らないが落札確率times利得を最化することができるかもしれませんそのためここで挙げた最適戦略とはあくまで分以外の者も合理的に動すると仮定した場合の最適戦略ということができます 22 般的にこのような場合評価額が番いの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times =97 円+5 円times =101 円となるので発体の期待収は 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円となります

16

図 5 第価格札式の例

上記の結果は札参加者が4であることに依存しています般的に札参加者が であれば札者は最低額(97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格で応札することが最適な戦略になることもすことができます例えば札者が2であれば最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の半分を加算した価格が最適な戦略です 第価格札式 ここまで私的価値に基づく単財オークションについて落札者が応札価格と同額を払う第価格札式を考えてきましたもっとも最近インターネットにおけるオークションなどでは「第価格札式」という式も使われるようになってきています23各々応札価格を決めて封をして提出した上で番値で応札したが落札するところまでは第価格札式と同じです第価格札式がい点はそのの払額が番に値で応札したの応札価格に基づく点であり理論的24に札者は分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる点です25(これを「耐戦略性」といいますまたこの法が最適な戦略となる直感的な解説については BOX 6 を参照してください)

先ほど挙げた国債の札において今度は発体が第価格札式に基づき実施したとします各社の最適な動は素直に分の評価額を表明することですからA 社は分の

23 例えばインターネットオークションを運営する eBay ではこのような式がいられています但し参加者の付け値が時間が経つにつれて明らかになるところが通常の封印型の第価格札式と異なります(キシテイニー 2018) 24 共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります 25 ここでは第価格札式の場合とは異なり分以外の者がどんな戦略をててきても分は分の評価額を札することにより落札確率times利得を最化することができるので分の評価額を札することが配戦略ということになります

評価額 入札額 利得A社 101円 100円 1円

B社 100円 925円 075円

C社 99円 985円 05円

D社 98円 9775円 025円

財務省

17

評価額である 101 円で応札しB 社も分の評価額である 100 円で応札します結果的にA 社は落札に成功しB 社の応札価格である 100 円を払うことになります26 収同値定理 私的価値に基づく単財オークションについて第価格札式と第価格札式を考えてきましたが我々が気になる点はこのつの式のどちらが発体にとって優れているかです驚くべき点は実は定の条件27の下どのようなオークションをっても発体が期待できる収額は定であることが証明できることですこれを「収同値定理」(Revenue Equivalence Theorem)といいます(Myerson 1981 Riley and Samuelson 1981)これはオークション理論における字塔的な定理といえましょうこの定理によれば発体は少なくとも期待できる収額の点からはオークションの仕組みについて殆ど気にしないで良いことが分かります実際上記の例をみればどちらの式でも発価格が 100円になっており売りの収は同じになっていることが確認できます

無論オークションの仕組みを検討する際には期待できる収額以外にも留意すべき点は多々あります例えばどのくらいの札者を込めるか或いはどのような不正が起こり得るかなども看過できずこれらはオークションの仕組みによって異なり得ますしかしオークションは分が有する財を売るために実施しているわけですから期待できる収額が重要な点であることには変わりありません国債の場合発体からみれば「期待できる収」とは「調達コストを抑えること」に相当するため収同値定理は発体にとっても重要な定理であるといえます 33 共通価値(common value) これまで個々が財に対して異なる評価額を有することを前提とする「私的価値」に基づ

き議論を進めてきましたが国債のオークションでは「共通価値(common value)」に基づいて理論が構築されることもあります28「共通価値」とは全ての札者がオークションの対象となる財の価値を同じように評価するという仮定です例えばべ物のように々

26 般的にこのような場合評価額が番にいの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times

=97 円+5 円times =100 円となるので発体の期待収も 100 円となります 27 収同値定理が成するためには①全ての札者はリスク中的②共通した分布関数から互いに独に私的価値を得る③最もい私的価値を持つ者が落札し最も低い私的価値を持つ者の期待利得はゼロであるといった前提条件が置かれていますこの中で最も強い前提は「互いに独に私的価値」の部分でありしたがって転売などを念頭に置いているオークションの場合は他の評価額によって分の評価額も影響を受けざるを得ないため必ずしも収同値定理は成しません国債を始めとする有価証券のオークションの場合にも当然に転売も念頭に置かれていると考えられるため般的にこの収同値定理の前提条件が満たされているとは考え難いです 28 共通価値についてより詳細を知りたいは上(2010)などを参照してください

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 14: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

13

実際の国債の札ではプライマリーディーラーが多くの投資家から注を募ることなどを通じて投資家の需要を集めます例えばプライマリーディーラーでない融機関が札で国債の購をおうと考える際多くの場合分が買いたい値段(指値注)で証券会社に注することなどにより札に参加しますプライマリーディーラーはその札を集約して応札することになります

なお現在の制度ではプライマリーディーラー以外も定の条件で札に参加できる形になっています前述のとおり国では 1991 年にソロモンブラザーズが他名義をいて不正に国債の買い占め(スクイーズ)をったのですが国政府はそのようなスクイーズを防ぐことなどを的にプライマリーディーラー以外も札に参加できるように制度を改正しました(国債の札の詳細は BOX 7 を参照してくださいまたスクイーズの詳細は3節で説明します) 3国債のオークション理論 31 国債のオークションと情報の対称性 前章では本国債にかかるオークションの制度を中に議論を進めましたが本章ではオークションを実施する意味について考えていきます国債の発においてオークションをう本質的な理由は本政府側からみれば国債の買いが有する情報を分に把握していないつまり経済学の葉でいうと「情報の対称性」17があるからですそもそもオークションとは財やサービスを売る際買い側からのアクション等を踏まえて値決めをう仕組みですもし売りが買いの情報を全て知っていたのであればわざわざオークションなどせずとも最もい値段で買ってくれるであろう買いのところにって直接財やサービスを売れば良いわけですあるいは最もい値段で買ってくれるであろう買いを想定しその買いがギリギリ買ってくれるであろう値段を付けて売り出すことができるはずですそれをしないでオークションをうのは売りが買いの情報を全て知っているわけではなくむしろオークションという法を通じて買いの有する情報を札価格という形で発的に開してもらいそれを通じて売りが値決めをおうと考えているからに他なりません

売りよりも買いのがその商品の価値を熟知していたとしても全く不思議ではありません国債の札に際してはマーケットの現場にいるプライマリーディーラーや投資家のほうが発体である政府より国債の価値を理解している可能性はいとみることもできますこの状況は前述した情報の対称性が問題になっている局といえましょうそのため政府は投資家が有する情報を発的に開してもらうという意味でオークションをうまく設計する必要があるわけです

切なのはオークションによって投資家が分の情報を発的に開してくれるかど

17 情報の対称性とは買いと売りの間に情報の格差があることをす経済学の専語です

14

うかはその仕組みの巧拙にきく依存する点です極端な例ですが財務省が国債を発する際投資家が1しかいないことが予め投資家には分かっていたとしましょうそしてオークションでは単価ベースで 1 銭から札できるとしますもし買いが内では国債に 100 円払っても良いと思っていたとしてもこの状況下では投資家は最低価格である 1銭で札し落札することになるでしょうこうなると発体である財務省は本来であれば買いの評価額付近の価格で発することにより多くの資調達をできる可能性があったのにもかかわらずその資が調達できないことになります

32 「私的価値」をいたオークション理論の基礎

上記のような例を考えても政府にとってはオークションをうまく設計することで投資家やプライマリーディーラーにうまく情報を開してもらうことが肝要ですここからは国債のオークションにおいて投資家がどのように価格を開していくかを考えるためオークションの仕組みについて具体的に考えていきます我々がにする典型的なオークションは1つの財に対して複数の参加者が札し最も値をれた者が落札するような仕組みですこのようなオークションを「単財オークション」といいます ここからは単財オークションについて考えていきますがまずオークションの参加者個々がある財に対して有するそれぞれの評価額に基づき意思決定すると想定しますこのような評価を「私的価値(private value)」といいます例えばオークションでコンサートのチケットを 1 枚販売するケースにおいて参加者が私的価値に基づき評価しているとしましょうこの場合このオークションの参加者の中にはチケットを常に欲しているやあまり欲しいと思わないなど当該チケットに対して異なる評価をする達がいる(チケットという財に対する評価が分かれている)状況を想定しています

ここで財務省が 10 年債 1 銘柄をオークションにより発する場合(すなわち単財オークションを実施する場合)市場参加者が私的価値に基づくとするとどのような結果が得られるかを考えるため次のような設定を考えますすなわち財務省が発する1銘柄に対して異なる評価を持つ4社の投資家が札に参加するケースを取り上げますこの 10年債についてはA社は 101 円までなら払って良いと内考えているとします同様にB社は 100 円までならC社は 99 円までならD社は 98 円までなら払って良いと考えているとしましょうみな分が幾らまでなら払って良いかは分かっているのですが他社のの内は分かりませんここでは他社の評価額が幾らであっても分の評価額は変わらないことを前提とします 第価格札式 札者は各々応札価格を決めて封をして提出し18番値で応札した投資家が落札し

18 このように封をして他の参加者の札が分からないオークションを「封印型オークション(sealed bid

15

その応札価格を払うとしましょうこのような札法を「第価格札式」といいますがA 社にとって望ましい応札価格は幾らでしょうか当然分の評価額である 101 円を上回る価格では札しないでしょうそんな価格で落札してしまったら却って損してしまいますまた101 円丁度で札して落札しても利得は 0 円ですからうまみはありませんしたがってA 社は 101 円を下回る価格で札することが予想されるわけですが安い価格で落札できたが得する応札価格が低ければ低いほど落札確率が下がってしまいます

経済学ではこのように意思決定者が不確実性に直した場合確率をいることで意思決定者がどのように動するかについて分析をいます例えばここでは 4 社の評価額が 97 円以上102 円以下の範囲でランダム19に分布していることが公知であったとしましょう4社は相の応札価格を想像しながら分の応札価格を決めていく必要がありますが実は定の想定の下で A 社の最適な戦略を呈することができます意思決定者がその不確実性を考慮したリターンすなわち期待利得(落札確率times利得)が最になるように応札価格を決めることを想定すると20最低額(ここでは 97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札することが最適な戦略であることを証明できます21(証明の詳細は BOX 5 を参照してください)具体的にはA 社にとってこのケースでは 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円で応札することが最適な戦略になります同様に B~D 社についても最適な応札価格を計算できますがA 社の評価額が番いことから A 社が落札するため発体は A 社の応札価格である 100 円で国債を売ることができます22(図5参照)

auction)」といいますオークションの価格を参加者が把握可能なオークションを「公開型オークション(open bid auction)」といいます 19 専的にいえば様分布であるといいます 20 もっともリスク回避的であることを仮定する場合など必ずしも期待利得を最化するように動しない投資家を想定することもありますが本稿では簡明な説明のため期待利得最化の場合のみを紹介します 21 専的にいえばベイジアン=ナッシュ均衡であるといいます分以外の皆が最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札するという戦略を採るのであれば分も同じ戦略を採ることにより落札確率times利得を最化することができますもっとも分以外の者が必ずしもこのような合理的な戦略を採らないのであればこのような戦略に拘らないが落札確率times利得を最化することができるかもしれませんそのためここで挙げた最適戦略とはあくまで分以外の者も合理的に動すると仮定した場合の最適戦略ということができます 22 般的にこのような場合評価額が番いの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times =97 円+5 円times =101 円となるので発体の期待収は 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円となります

16

図 5 第価格札式の例

上記の結果は札参加者が4であることに依存しています般的に札参加者が であれば札者は最低額(97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格で応札することが最適な戦略になることもすことができます例えば札者が2であれば最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の半分を加算した価格が最適な戦略です 第価格札式 ここまで私的価値に基づく単財オークションについて落札者が応札価格と同額を払う第価格札式を考えてきましたもっとも最近インターネットにおけるオークションなどでは「第価格札式」という式も使われるようになってきています23各々応札価格を決めて封をして提出した上で番値で応札したが落札するところまでは第価格札式と同じです第価格札式がい点はそのの払額が番に値で応札したの応札価格に基づく点であり理論的24に札者は分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる点です25(これを「耐戦略性」といいますまたこの法が最適な戦略となる直感的な解説については BOX 6 を参照してください)

先ほど挙げた国債の札において今度は発体が第価格札式に基づき実施したとします各社の最適な動は素直に分の評価額を表明することですからA 社は分の

23 例えばインターネットオークションを運営する eBay ではこのような式がいられています但し参加者の付け値が時間が経つにつれて明らかになるところが通常の封印型の第価格札式と異なります(キシテイニー 2018) 24 共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります 25 ここでは第価格札式の場合とは異なり分以外の者がどんな戦略をててきても分は分の評価額を札することにより落札確率times利得を最化することができるので分の評価額を札することが配戦略ということになります

評価額 入札額 利得A社 101円 100円 1円

B社 100円 925円 075円

C社 99円 985円 05円

D社 98円 9775円 025円

財務省

17

評価額である 101 円で応札しB 社も分の評価額である 100 円で応札します結果的にA 社は落札に成功しB 社の応札価格である 100 円を払うことになります26 収同値定理 私的価値に基づく単財オークションについて第価格札式と第価格札式を考えてきましたが我々が気になる点はこのつの式のどちらが発体にとって優れているかです驚くべき点は実は定の条件27の下どのようなオークションをっても発体が期待できる収額は定であることが証明できることですこれを「収同値定理」(Revenue Equivalence Theorem)といいます(Myerson 1981 Riley and Samuelson 1981)これはオークション理論における字塔的な定理といえましょうこの定理によれば発体は少なくとも期待できる収額の点からはオークションの仕組みについて殆ど気にしないで良いことが分かります実際上記の例をみればどちらの式でも発価格が 100円になっており売りの収は同じになっていることが確認できます

無論オークションの仕組みを検討する際には期待できる収額以外にも留意すべき点は多々あります例えばどのくらいの札者を込めるか或いはどのような不正が起こり得るかなども看過できずこれらはオークションの仕組みによって異なり得ますしかしオークションは分が有する財を売るために実施しているわけですから期待できる収額が重要な点であることには変わりありません国債の場合発体からみれば「期待できる収」とは「調達コストを抑えること」に相当するため収同値定理は発体にとっても重要な定理であるといえます 33 共通価値(common value) これまで個々が財に対して異なる評価額を有することを前提とする「私的価値」に基づ

き議論を進めてきましたが国債のオークションでは「共通価値(common value)」に基づいて理論が構築されることもあります28「共通価値」とは全ての札者がオークションの対象となる財の価値を同じように評価するという仮定です例えばべ物のように々

26 般的にこのような場合評価額が番にいの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times

=97 円+5 円times =100 円となるので発体の期待収も 100 円となります 27 収同値定理が成するためには①全ての札者はリスク中的②共通した分布関数から互いに独に私的価値を得る③最もい私的価値を持つ者が落札し最も低い私的価値を持つ者の期待利得はゼロであるといった前提条件が置かれていますこの中で最も強い前提は「互いに独に私的価値」の部分でありしたがって転売などを念頭に置いているオークションの場合は他の評価額によって分の評価額も影響を受けざるを得ないため必ずしも収同値定理は成しません国債を始めとする有価証券のオークションの場合にも当然に転売も念頭に置かれていると考えられるため般的にこの収同値定理の前提条件が満たされているとは考え難いです 28 共通価値についてより詳細を知りたいは上(2010)などを参照してください

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 15: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

14

うかはその仕組みの巧拙にきく依存する点です極端な例ですが財務省が国債を発する際投資家が1しかいないことが予め投資家には分かっていたとしましょうそしてオークションでは単価ベースで 1 銭から札できるとしますもし買いが内では国債に 100 円払っても良いと思っていたとしてもこの状況下では投資家は最低価格である 1銭で札し落札することになるでしょうこうなると発体である財務省は本来であれば買いの評価額付近の価格で発することにより多くの資調達をできる可能性があったのにもかかわらずその資が調達できないことになります

32 「私的価値」をいたオークション理論の基礎

上記のような例を考えても政府にとってはオークションをうまく設計することで投資家やプライマリーディーラーにうまく情報を開してもらうことが肝要ですここからは国債のオークションにおいて投資家がどのように価格を開していくかを考えるためオークションの仕組みについて具体的に考えていきます我々がにする典型的なオークションは1つの財に対して複数の参加者が札し最も値をれた者が落札するような仕組みですこのようなオークションを「単財オークション」といいます ここからは単財オークションについて考えていきますがまずオークションの参加者個々がある財に対して有するそれぞれの評価額に基づき意思決定すると想定しますこのような評価を「私的価値(private value)」といいます例えばオークションでコンサートのチケットを 1 枚販売するケースにおいて参加者が私的価値に基づき評価しているとしましょうこの場合このオークションの参加者の中にはチケットを常に欲しているやあまり欲しいと思わないなど当該チケットに対して異なる評価をする達がいる(チケットという財に対する評価が分かれている)状況を想定しています

ここで財務省が 10 年債 1 銘柄をオークションにより発する場合(すなわち単財オークションを実施する場合)市場参加者が私的価値に基づくとするとどのような結果が得られるかを考えるため次のような設定を考えますすなわち財務省が発する1銘柄に対して異なる評価を持つ4社の投資家が札に参加するケースを取り上げますこの 10年債についてはA社は 101 円までなら払って良いと内考えているとします同様にB社は 100 円までならC社は 99 円までならD社は 98 円までなら払って良いと考えているとしましょうみな分が幾らまでなら払って良いかは分かっているのですが他社のの内は分かりませんここでは他社の評価額が幾らであっても分の評価額は変わらないことを前提とします 第価格札式 札者は各々応札価格を決めて封をして提出し18番値で応札した投資家が落札し

18 このように封をして他の参加者の札が分からないオークションを「封印型オークション(sealed bid

15

その応札価格を払うとしましょうこのような札法を「第価格札式」といいますがA 社にとって望ましい応札価格は幾らでしょうか当然分の評価額である 101 円を上回る価格では札しないでしょうそんな価格で落札してしまったら却って損してしまいますまた101 円丁度で札して落札しても利得は 0 円ですからうまみはありませんしたがってA 社は 101 円を下回る価格で札することが予想されるわけですが安い価格で落札できたが得する応札価格が低ければ低いほど落札確率が下がってしまいます

経済学ではこのように意思決定者が不確実性に直した場合確率をいることで意思決定者がどのように動するかについて分析をいます例えばここでは 4 社の評価額が 97 円以上102 円以下の範囲でランダム19に分布していることが公知であったとしましょう4社は相の応札価格を想像しながら分の応札価格を決めていく必要がありますが実は定の想定の下で A 社の最適な戦略を呈することができます意思決定者がその不確実性を考慮したリターンすなわち期待利得(落札確率times利得)が最になるように応札価格を決めることを想定すると20最低額(ここでは 97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札することが最適な戦略であることを証明できます21(証明の詳細は BOX 5 を参照してください)具体的にはA 社にとってこのケースでは 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円で応札することが最適な戦略になります同様に B~D 社についても最適な応札価格を計算できますがA 社の評価額が番いことから A 社が落札するため発体は A 社の応札価格である 100 円で国債を売ることができます22(図5参照)

auction)」といいますオークションの価格を参加者が把握可能なオークションを「公開型オークション(open bid auction)」といいます 19 専的にいえば様分布であるといいます 20 もっともリスク回避的であることを仮定する場合など必ずしも期待利得を最化するように動しない投資家を想定することもありますが本稿では簡明な説明のため期待利得最化の場合のみを紹介します 21 専的にいえばベイジアン=ナッシュ均衡であるといいます分以外の皆が最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札するという戦略を採るのであれば分も同じ戦略を採ることにより落札確率times利得を最化することができますもっとも分以外の者が必ずしもこのような合理的な戦略を採らないのであればこのような戦略に拘らないが落札確率times利得を最化することができるかもしれませんそのためここで挙げた最適戦略とはあくまで分以外の者も合理的に動すると仮定した場合の最適戦略ということができます 22 般的にこのような場合評価額が番いの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times =97 円+5 円times =101 円となるので発体の期待収は 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円となります

16

図 5 第価格札式の例

上記の結果は札参加者が4であることに依存しています般的に札参加者が であれば札者は最低額(97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格で応札することが最適な戦略になることもすことができます例えば札者が2であれば最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の半分を加算した価格が最適な戦略です 第価格札式 ここまで私的価値に基づく単財オークションについて落札者が応札価格と同額を払う第価格札式を考えてきましたもっとも最近インターネットにおけるオークションなどでは「第価格札式」という式も使われるようになってきています23各々応札価格を決めて封をして提出した上で番値で応札したが落札するところまでは第価格札式と同じです第価格札式がい点はそのの払額が番に値で応札したの応札価格に基づく点であり理論的24に札者は分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる点です25(これを「耐戦略性」といいますまたこの法が最適な戦略となる直感的な解説については BOX 6 を参照してください)

先ほど挙げた国債の札において今度は発体が第価格札式に基づき実施したとします各社の最適な動は素直に分の評価額を表明することですからA 社は分の

23 例えばインターネットオークションを運営する eBay ではこのような式がいられています但し参加者の付け値が時間が経つにつれて明らかになるところが通常の封印型の第価格札式と異なります(キシテイニー 2018) 24 共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります 25 ここでは第価格札式の場合とは異なり分以外の者がどんな戦略をててきても分は分の評価額を札することにより落札確率times利得を最化することができるので分の評価額を札することが配戦略ということになります

評価額 入札額 利得A社 101円 100円 1円

B社 100円 925円 075円

C社 99円 985円 05円

D社 98円 9775円 025円

財務省

17

評価額である 101 円で応札しB 社も分の評価額である 100 円で応札します結果的にA 社は落札に成功しB 社の応札価格である 100 円を払うことになります26 収同値定理 私的価値に基づく単財オークションについて第価格札式と第価格札式を考えてきましたが我々が気になる点はこのつの式のどちらが発体にとって優れているかです驚くべき点は実は定の条件27の下どのようなオークションをっても発体が期待できる収額は定であることが証明できることですこれを「収同値定理」(Revenue Equivalence Theorem)といいます(Myerson 1981 Riley and Samuelson 1981)これはオークション理論における字塔的な定理といえましょうこの定理によれば発体は少なくとも期待できる収額の点からはオークションの仕組みについて殆ど気にしないで良いことが分かります実際上記の例をみればどちらの式でも発価格が 100円になっており売りの収は同じになっていることが確認できます

無論オークションの仕組みを検討する際には期待できる収額以外にも留意すべき点は多々あります例えばどのくらいの札者を込めるか或いはどのような不正が起こり得るかなども看過できずこれらはオークションの仕組みによって異なり得ますしかしオークションは分が有する財を売るために実施しているわけですから期待できる収額が重要な点であることには変わりありません国債の場合発体からみれば「期待できる収」とは「調達コストを抑えること」に相当するため収同値定理は発体にとっても重要な定理であるといえます 33 共通価値(common value) これまで個々が財に対して異なる評価額を有することを前提とする「私的価値」に基づ

き議論を進めてきましたが国債のオークションでは「共通価値(common value)」に基づいて理論が構築されることもあります28「共通価値」とは全ての札者がオークションの対象となる財の価値を同じように評価するという仮定です例えばべ物のように々

26 般的にこのような場合評価額が番にいの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times

=97 円+5 円times =100 円となるので発体の期待収も 100 円となります 27 収同値定理が成するためには①全ての札者はリスク中的②共通した分布関数から互いに独に私的価値を得る③最もい私的価値を持つ者が落札し最も低い私的価値を持つ者の期待利得はゼロであるといった前提条件が置かれていますこの中で最も強い前提は「互いに独に私的価値」の部分でありしたがって転売などを念頭に置いているオークションの場合は他の評価額によって分の評価額も影響を受けざるを得ないため必ずしも収同値定理は成しません国債を始めとする有価証券のオークションの場合にも当然に転売も念頭に置かれていると考えられるため般的にこの収同値定理の前提条件が満たされているとは考え難いです 28 共通価値についてより詳細を知りたいは上(2010)などを参照してください

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 16: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

15

その応札価格を払うとしましょうこのような札法を「第価格札式」といいますがA 社にとって望ましい応札価格は幾らでしょうか当然分の評価額である 101 円を上回る価格では札しないでしょうそんな価格で落札してしまったら却って損してしまいますまた101 円丁度で札して落札しても利得は 0 円ですからうまみはありませんしたがってA 社は 101 円を下回る価格で札することが予想されるわけですが安い価格で落札できたが得する応札価格が低ければ低いほど落札確率が下がってしまいます

経済学ではこのように意思決定者が不確実性に直した場合確率をいることで意思決定者がどのように動するかについて分析をいます例えばここでは 4 社の評価額が 97 円以上102 円以下の範囲でランダム19に分布していることが公知であったとしましょう4社は相の応札価格を想像しながら分の応札価格を決めていく必要がありますが実は定の想定の下で A 社の最適な戦略を呈することができます意思決定者がその不確実性を考慮したリターンすなわち期待利得(落札確率times利得)が最になるように応札価格を決めることを想定すると20最低額(ここでは 97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札することが最適な戦略であることを証明できます21(証明の詳細は BOX 5 を参照してください)具体的にはA 社にとってこのケースでは 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円で応札することが最適な戦略になります同様に B~D 社についても最適な応札価格を計算できますがA 社の評価額が番いことから A 社が落札するため発体は A 社の応札価格である 100 円で国債を売ることができます22(図5参照)

auction)」といいますオークションの価格を参加者が把握可能なオークションを「公開型オークション(open bid auction)」といいます 19 専的にいえば様分布であるといいます 20 もっともリスク回避的であることを仮定する場合など必ずしも期待利得を最化するように動しない投資家を想定することもありますが本稿では簡明な説明のため期待利得最化の場合のみを紹介します 21 専的にいえばベイジアン=ナッシュ均衡であるといいます分以外の皆が最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格を札するという戦略を採るのであれば分も同じ戦略を採ることにより落札確率times利得を最化することができますもっとも分以外の者が必ずしもこのような合理的な戦略を採らないのであればこのような戦略に拘らないが落札確率times利得を最化することができるかもしれませんそのためここで挙げた最適戦略とはあくまで分以外の者も合理的に動すると仮定した場合の最適戦略ということができます 22 般的にこのような場合評価額が番いの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times =97 円+5 円times =101 円となるので発体の期待収は 97 円+(101 円minus97 円)times =100 円となります

16

図 5 第価格札式の例

上記の結果は札参加者が4であることに依存しています般的に札参加者が であれば札者は最低額(97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格で応札することが最適な戦略になることもすことができます例えば札者が2であれば最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の半分を加算した価格が最適な戦略です 第価格札式 ここまで私的価値に基づく単財オークションについて落札者が応札価格と同額を払う第価格札式を考えてきましたもっとも最近インターネットにおけるオークションなどでは「第価格札式」という式も使われるようになってきています23各々応札価格を決めて封をして提出した上で番値で応札したが落札するところまでは第価格札式と同じです第価格札式がい点はそのの払額が番に値で応札したの応札価格に基づく点であり理論的24に札者は分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる点です25(これを「耐戦略性」といいますまたこの法が最適な戦略となる直感的な解説については BOX 6 を参照してください)

先ほど挙げた国債の札において今度は発体が第価格札式に基づき実施したとします各社の最適な動は素直に分の評価額を表明することですからA 社は分の

23 例えばインターネットオークションを運営する eBay ではこのような式がいられています但し参加者の付け値が時間が経つにつれて明らかになるところが通常の封印型の第価格札式と異なります(キシテイニー 2018) 24 共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります 25 ここでは第価格札式の場合とは異なり分以外の者がどんな戦略をててきても分は分の評価額を札することにより落札確率times利得を最化することができるので分の評価額を札することが配戦略ということになります

評価額 入札額 利得A社 101円 100円 1円

B社 100円 925円 075円

C社 99円 985円 05円

D社 98円 9775円 025円

財務省

17

評価額である 101 円で応札しB 社も分の評価額である 100 円で応札します結果的にA 社は落札に成功しB 社の応札価格である 100 円を払うことになります26 収同値定理 私的価値に基づく単財オークションについて第価格札式と第価格札式を考えてきましたが我々が気になる点はこのつの式のどちらが発体にとって優れているかです驚くべき点は実は定の条件27の下どのようなオークションをっても発体が期待できる収額は定であることが証明できることですこれを「収同値定理」(Revenue Equivalence Theorem)といいます(Myerson 1981 Riley and Samuelson 1981)これはオークション理論における字塔的な定理といえましょうこの定理によれば発体は少なくとも期待できる収額の点からはオークションの仕組みについて殆ど気にしないで良いことが分かります実際上記の例をみればどちらの式でも発価格が 100円になっており売りの収は同じになっていることが確認できます

無論オークションの仕組みを検討する際には期待できる収額以外にも留意すべき点は多々あります例えばどのくらいの札者を込めるか或いはどのような不正が起こり得るかなども看過できずこれらはオークションの仕組みによって異なり得ますしかしオークションは分が有する財を売るために実施しているわけですから期待できる収額が重要な点であることには変わりありません国債の場合発体からみれば「期待できる収」とは「調達コストを抑えること」に相当するため収同値定理は発体にとっても重要な定理であるといえます 33 共通価値(common value) これまで個々が財に対して異なる評価額を有することを前提とする「私的価値」に基づ

き議論を進めてきましたが国債のオークションでは「共通価値(common value)」に基づいて理論が構築されることもあります28「共通価値」とは全ての札者がオークションの対象となる財の価値を同じように評価するという仮定です例えばべ物のように々

26 般的にこのような場合評価額が番にいの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times

=97 円+5 円times =100 円となるので発体の期待収も 100 円となります 27 収同値定理が成するためには①全ての札者はリスク中的②共通した分布関数から互いに独に私的価値を得る③最もい私的価値を持つ者が落札し最も低い私的価値を持つ者の期待利得はゼロであるといった前提条件が置かれていますこの中で最も強い前提は「互いに独に私的価値」の部分でありしたがって転売などを念頭に置いているオークションの場合は他の評価額によって分の評価額も影響を受けざるを得ないため必ずしも収同値定理は成しません国債を始めとする有価証券のオークションの場合にも当然に転売も念頭に置かれていると考えられるため般的にこの収同値定理の前提条件が満たされているとは考え難いです 28 共通価値についてより詳細を知りたいは上(2010)などを参照してください

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 17: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

16

図 5 第価格札式の例

上記の結果は札参加者が4であることに依存しています般的に札参加者が であれば札者は最低額(97 円)に分の評価額(A 社の場合101 円)と最低額(97 円)の差の 倍を加算した価格で応札することが最適な戦略になることもすことができます例えば札者が2であれば最低額(97 円)に分の評価額と最低額(97 円)の差の半分を加算した価格が最適な戦略です 第価格札式 ここまで私的価値に基づく単財オークションについて落札者が応札価格と同額を払う第価格札式を考えてきましたもっとも最近インターネットにおけるオークションなどでは「第価格札式」という式も使われるようになってきています23各々応札価格を決めて封をして提出した上で番値で応札したが落札するところまでは第価格札式と同じです第価格札式がい点はそのの払額が番に値で応札したの応札価格に基づく点であり理論的24に札者は分の評価額をそのまま応札することが最適な戦略となる点です25(これを「耐戦略性」といいますまたこの法が最適な戦略となる直感的な解説については BOX 6 を参照してください)

先ほど挙げた国債の札において今度は発体が第価格札式に基づき実施したとします各社の最適な動は素直に分の評価額を表明することですからA 社は分の

23 例えばインターネットオークションを運営する eBay ではこのような式がいられています但し参加者の付け値が時間が経つにつれて明らかになるところが通常の封印型の第価格札式と異なります(キシテイニー 2018) 24 共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります 25 ここでは第価格札式の場合とは異なり分以外の者がどんな戦略をててきても分は分の評価額を札することにより落札確率times利得を最化することができるので分の評価額を札することが配戦略ということになります

評価額 入札額 利得A社 101円 100円 1円

B社 100円 925円 075円

C社 99円 985円 05円

D社 98円 9775円 025円

財務省

17

評価額である 101 円で応札しB 社も分の評価額である 100 円で応札します結果的にA 社は落札に成功しB 社の応札価格である 100 円を払うことになります26 収同値定理 私的価値に基づく単財オークションについて第価格札式と第価格札式を考えてきましたが我々が気になる点はこのつの式のどちらが発体にとって優れているかです驚くべき点は実は定の条件27の下どのようなオークションをっても発体が期待できる収額は定であることが証明できることですこれを「収同値定理」(Revenue Equivalence Theorem)といいます(Myerson 1981 Riley and Samuelson 1981)これはオークション理論における字塔的な定理といえましょうこの定理によれば発体は少なくとも期待できる収額の点からはオークションの仕組みについて殆ど気にしないで良いことが分かります実際上記の例をみればどちらの式でも発価格が 100円になっており売りの収は同じになっていることが確認できます

無論オークションの仕組みを検討する際には期待できる収額以外にも留意すべき点は多々あります例えばどのくらいの札者を込めるか或いはどのような不正が起こり得るかなども看過できずこれらはオークションの仕組みによって異なり得ますしかしオークションは分が有する財を売るために実施しているわけですから期待できる収額が重要な点であることには変わりありません国債の場合発体からみれば「期待できる収」とは「調達コストを抑えること」に相当するため収同値定理は発体にとっても重要な定理であるといえます 33 共通価値(common value) これまで個々が財に対して異なる評価額を有することを前提とする「私的価値」に基づ

き議論を進めてきましたが国債のオークションでは「共通価値(common value)」に基づいて理論が構築されることもあります28「共通価値」とは全ての札者がオークションの対象となる財の価値を同じように評価するという仮定です例えばべ物のように々

26 般的にこのような場合評価額が番にいの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times

=97 円+5 円times =100 円となるので発体の期待収も 100 円となります 27 収同値定理が成するためには①全ての札者はリスク中的②共通した分布関数から互いに独に私的価値を得る③最もい私的価値を持つ者が落札し最も低い私的価値を持つ者の期待利得はゼロであるといった前提条件が置かれていますこの中で最も強い前提は「互いに独に私的価値」の部分でありしたがって転売などを念頭に置いているオークションの場合は他の評価額によって分の評価額も影響を受けざるを得ないため必ずしも収同値定理は成しません国債を始めとする有価証券のオークションの場合にも当然に転売も念頭に置かれていると考えられるため般的にこの収同値定理の前提条件が満たされているとは考え難いです 28 共通価値についてより詳細を知りたいは上(2010)などを参照してください

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 18: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

17

評価額である 101 円で応札しB 社も分の評価額である 100 円で応札します結果的にA 社は落札に成功しB 社の応札価格である 100 円を払うことになります26 収同値定理 私的価値に基づく単財オークションについて第価格札式と第価格札式を考えてきましたが我々が気になる点はこのつの式のどちらが発体にとって優れているかです驚くべき点は実は定の条件27の下どのようなオークションをっても発体が期待できる収額は定であることが証明できることですこれを「収同値定理」(Revenue Equivalence Theorem)といいます(Myerson 1981 Riley and Samuelson 1981)これはオークション理論における字塔的な定理といえましょうこの定理によれば発体は少なくとも期待できる収額の点からはオークションの仕組みについて殆ど気にしないで良いことが分かります実際上記の例をみればどちらの式でも発価格が 100円になっており売りの収は同じになっていることが確認できます

無論オークションの仕組みを検討する際には期待できる収額以外にも留意すべき点は多々あります例えばどのくらいの札者を込めるか或いはどのような不正が起こり得るかなども看過できずこれらはオークションの仕組みによって異なり得ますしかしオークションは分が有する財を売るために実施しているわけですから期待できる収額が重要な点であることには変わりありません国債の場合発体からみれば「期待できる収」とは「調達コストを抑えること」に相当するため収同値定理は発体にとっても重要な定理であるといえます 33 共通価値(common value) これまで個々が財に対して異なる評価額を有することを前提とする「私的価値」に基づ

き議論を進めてきましたが国債のオークションでは「共通価値(common value)」に基づいて理論が構築されることもあります28「共通価値」とは全ての札者がオークションの対象となる財の価値を同じように評価するという仮定です例えばべ物のように々

26 般的にこのような場合評価額が番にいの評価額の期待値は 97 円+(102 円minus97 円)times

=97 円+5 円times =100 円となるので発体の期待収も 100 円となります 27 収同値定理が成するためには①全ての札者はリスク中的②共通した分布関数から互いに独に私的価値を得る③最もい私的価値を持つ者が落札し最も低い私的価値を持つ者の期待利得はゼロであるといった前提条件が置かれていますこの中で最も強い前提は「互いに独に私的価値」の部分でありしたがって転売などを念頭に置いているオークションの場合は他の評価額によって分の評価額も影響を受けざるを得ないため必ずしも収同値定理は成しません国債を始めとする有価証券のオークションの場合にも当然に転売も念頭に置かれていると考えられるため般的にこの収同値定理の前提条件が満たされているとは考え難いです 28 共通価値についてより詳細を知りたいは上(2010)などを参照してください

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 19: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

18

の好みが異なりかつ分で消費してしまうものであれば「私的価値」のように個々が異なる評価を与えていると想定することは然ですしかし国債のように将来のキャッシュフローをもたらす有価証券については々がその価値を同じように評価するという「共通価値」の要素が強いとみることもできましょう

「私的価値」に基づく議論では他者の評価額を知ったとしても分の評価額は変わらないと想定しましたがこの仮定は国債の札では必ずしも成するとは限りません例えば国債を転売するプライマリーディーラーの場にたってオークションを考えてみましょうプライマリーディーラーは国債をオークションで取得した後その国債を転売することにより収益を挙げることを論んでいるとしますこの場合プライマリーディーラーが国債の所有を望むのではなく転売的であるため「他社の評価が分の評価に影響を与える」状況であると考えることができますその意味で国債のオークションにおいて私的価値の前提が常に成りつわけではないとも考えられますが実は共通価値に基づけば他社の評価が分の評価に影響を与える状況を描写することができます

なお共通価値に基づいて札の仕組みを考える場合に気を付けるべき点として収同値定理は「私的価値」を前提としているため共通価値の下では般的に収同値定理が成しなくなることです例えばMilgrom and Weber(1982)は共通価値に基づいた場合第価格札式のが第価格札式よりも発体が期待できる収額がきいこと

BOX 5 第価格札式における最適な戦略 証明の概略は次のとおりです札参加者を とします分の評価額を 評価額 の参加者の応札価格を とし簡単のため ∙ を狭義単調増加関数と仮定します は様分布 に従っていると仮定します分以外の皆が評価額 primeに対して prime を札する戦略を採ると仮定しますこのとき評価額 の参加者が lowast を札することによる期待勝

率は lowastlowast

落札成功時の利得は lowast となります

期待利得lowast

lowast が lowast で最になるため階の条件

lowast

lowastlowast

lowast

0 (1)

を解くことにより 1 prime (2) ⟺ 1 prime (3)

が導かれます (3)式が任意の について成することから

(4) が導かれます

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 20: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

19

をしています29それゆえ「私的価値」が成しない場合は収同値定理のインプリケーションが国債のオークションに適できるかどうかを判断するうえでより発展的な理論や実証研究が必要になる点に注意を要します

共通価値をモデル化する場合例えば個々の札者は札前には財の真の価値が分からないため不確かな評価しかできないものの他社の評価額が分かれば事前により正確に真の価値を定めることが出来るといった想定をいますこのことを喩えて「コインの詰まった瓶」と呼ぶことがあります瓶を開けてコインの数を数えれば誰であっても同じ額と評価するわけですが瓶をただけではコインが幾らっているのかは不確かな評価しか出来ませんとはいえ他者の評価額も分かればコインが幾らっているかある程度確度のい推測ができるようになるでしょう30なお私的価値の場合は個々の評価額が予め 29 専的にはこのことはリンケージ原理(linkage principle)と呼ばれる定理から導かれます共通価値に基づく場合分の評価額だけしか落札額の決定に関わらない場合よりも他の評価額も落札額の決定に関わってくる場合のがより正確に真の価値が分かるので勝者の呪いの恐れが減ることから強気の応札が可能です第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額しか関わってこないのに対して第価格札式で落札した場合は落札額の決定に際して分の評価額だけでなく番の応札者の評価額も関わってくるので後者のが勝者の呪いの恐れが少ないことから強気の応札が可能でありしたがって後者のが発体の期待収額がくなります 30 共通価値をモデル化する法は何通りも知られていますが例えば真の価格 があるときに個々の札者はその真の価値を知らず真の価格からある程度乖離した というシグナルを得るという設定が考えられます( は期待値 0 の確率変数であり独同分布を仮定する)ここで札者 は分のシ

BOX 6 第価格札式における最適な戦略 本に記載したとおり第価格札式では分の評価額で応札することが最適な戦

略になります仮に札者が分の評価額よりも低い価格で札したとしましょうその場合たとえ落札に成功したとしても番に値で札したの応札価格を払うことになるので特段得をすることはありませんしまた単に落札成功確率が低くなってしまうことを考えると損する戦略ということになりますでは分の評価額よりい価格で応札したらどうでしょうかこの場合問題となる点は素直に分の評価額で札したら落札できなかったものの分の評価額よりもい額で札することにより落札に成功するケースですこのようなことが起こるのは番に値で札したの応札価格(=分の払額)が分の評価額よりもい場合であり落札に成功しても却って損をしてしまいますしたがって第価格札式では札者は敢えて分の評価額よりも低い額やい額で札しても得することはなく却って損をする可能性があるので理論上は札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略(ここでは配戦略)となります

共謀がある場合などはこの理論が破綻することがあります

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 21: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

20

確定しているのに対して共通価値の場合は個々が不確かな評価しかうことが出来ないと想定しているので技術的な取扱いが難しくなる点に注意が必要です

共通価値をいることで初めてオークションにおける「勝者の呪い」の問題を取り扱うことも可能になります前述のとおりプライマリーディーラーが国債の札に参加する際国債が幾らで転売できるのかを予想した上で札することになりますしかし予想価格をそのまま札価格にしてしまうと買いは国債の落札に成功したにもかかわらず値掴みして却って損をしてしまう可能性があるというな状況であるがゆえ経済学では「勝者の呪い」と称されますしたがって勝者の呪いを避けるためにプライマリーディーラーは初めから予想価格よりも低めの価格で札をう可能性がまれますその場合発体は本来であれば得られたであろう収益を得られなくなる可能性もあります勝者の呪いについては例えばスウェーデンの国債オークションに於いて実際に起こっていた可能性が Nyborg et al (2002)により唆されています 34 複数財オークション 同質財オークション

これまで第第価格札について取り上げてきましたこれはオークション理論を勉強する際に最初ににする札式ですがあくまで単財を前提としています前述のとおり収同値定理は札対象である財が1つである場合を念頭に置いていますが実際の札ではある財を複数個販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションをオークション理論では「複数財オークション」といいます

国債のオークションは複数財オークションではありますが例えば度に 10 年国債を複数売るという意味で同質の財を複数販売していると考えられます複数財の中でも同質の財を売るオークションを特に「同質財オークション」31と呼びますKrishna (2009)や坂井(2013)などオークション理論のテキストでは複数財オークションの中でもシンプルなケースである同質財オークションから議論を始めます本稿では国債を対象としていることから以下では複数財オークションの中でも同質財オークションを前提に議論を進めます

同質財オークションとしてみたコンベンショナル式およびダッチ式 2章で国債のオークション式としてダッチ式やコンベンショナル式を説明しましたがこれらはオークション理論のテキストにおいては同質財オークションの法として紹介されます図 6 はこれらの関係を較した表になります(ヴィックリー式につい グナルである しか事前には知らないのですが他の札者のシグナル も知ることが出来ればより正確に真の価格 を推定できるようになりますしたがって他社の評価額を知ることによって分の評価額も影響を受けることになります 31 ハバードパーシュ(2017)では複数単位オークションという表現をいています

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 22: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

21

ては BOX 12 を参照してください)気を付けてほしい点は本国債の実務ではダッチ式やコンベンショナル式という語がいられるもののオークション理論ではこれらの式を表す際にそれぞれ uniform price auction と discriminatory price auction という語がいられる点ですそしてuniform price auction は「均価格式均価格オークション律価格オークション」discriminatory price auction は「差別価格式ビット払いオークション」などと訳されることから本語でオークション理論についての教科書や論を読んだ際コンベンショナルやダッチなどの語がられないケースが少なくありませんちなみに国債のオークションの実務ではダッチとコンベンショナルという語ではなくオークション理論と同様uniform price auction と discriminatory price auctionという語がいられています(国債のオークションについては BOX 7 を参照してくださいまたダッチ式についてオークションのテキストでは「競り下げ式オークション」を指すことが少なくありませんこの詳細は BOX 8 を参照してください) 図 6 単財オークションと複数(同質)財オークションの較

分の評価額をそのまま札するのが配戦略(耐戦略性) 注ここでの同質財オークションについては封印型オークションを前提にしています公開型を含めた

分類については Krishna (2009)などを参照してください 我々が気になる点は複数の同質財を対象としたコンベンショナル式とダッチ式に

おいて単財の場合と同様に望ましい性質を有する収同値定理が成するかどうかですまずオークションの仕組みそのものは単財の場合とも定の類似性を有しますコンベンショナル式において参加者が落札に成功した場合分の応札した価格を払うことになるため第価格札式と定の類似性を出すことができますまたダッチ式は落札に成功した場合にも必ずしも分の札した価格を払うことになるわけではないことから番の価格を払う第価格札式と似ていると解釈することもできます

しかし32節で議論した第価格札式と第価格札式の有するインプリケー

単財オークション 同質財オークション

ダッチ式(uniform price)ヴィックリー式

落札者は応札価格をそのまま払う

落札者は応札価格を払うとは限らない

第価格札式

第価格札式コンベンショナル式

(discriminatory)

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 23: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

22

ションはあくまでも私的価値に基づく単財のオークションから導出された結果です前述のように本国債のオークションの場合複数財を販売するなど第価格札式や第価格札式で議論した前提と必ずしも致していないことから収同値定理は本国債の札でいられるコンベンショナル式とダッチ式の間で成しているとはいえません坂井(2013)でも「複数財オークションの場合収益同値定理はきわめて限定的にしか成りたずほとんど意味を持ちません」(p209)と注意を促しています

また前述のとおり第価格札式は「札者は分の評価額をそのまま札することが最適な戦略になる」という所(耐戦略性)を持ちますが国債の札におけるダッチ式にはこのような性質はありません(したがってオークションにおける最適戦略に基づくと国債におけるダッチ式ではプライマリーディーラーなどがらが考える評価額を必ずしもそのままオークションで提しているとは限りません32)しかもダッチ式とコンベンショナル式のどちらが理論的にみて発体の収をめるか経済的に効率的な配分が可能であるかなども明らかにされているわけではありません 35 コンベンショナル式およびダッチ式に係る理論的な研究の紹介

世界的にみても国債の札式はコンベンショナル式とダッチ式のいずれかは組合せであることが殆どです例えば図 7 は Brenner et al (2009)より抜粋した図表になりますが(同図は 2005 年時点であることに注意してください)多くの国はコンベンショナル式のみを採しておりダッチ式あるいはその両を併している国がそれに次ぐ状況です冒頭でも図 1 で確認しましたが現在の先進国でもコンベンショナル式とダッチ式が混在しています(このつ以外のオークション式については BOX 9 を参照してください)したがって国債のオークションの理論研究では第価格札式や第価格札式というフレームワークではなく実際のコンベンショナル式とダッチ式に即した研究がなされており具体的にはこれらの札の法がどのような環境下で発体の利益の増加に繋がるのかなどの観点で分析がなされています

そこで以下ではコンベンショナル式とダッチ式について理論的に指摘されていることに関し要点をしぼって紹介していきますなおBrenner et al (2009)は各国のデータをいたうえで英法に基づく国やマーケットメカニズムの重がきい国はダッチ式をいる傾向があり陸法に基づく国やマーケットメカニズムの重がさい国はコンベンショナル式をいる傾向があることを指摘しています 32 もっとも Nautz (1995)や Nautz and Wolfstetter (1997)が想定するように札者がプライステイカーとして動する場合はダッチ式の下ではらが考える評価額をそのまま応札価格とすると考えられます札者が分に多い場合などはこのような想定が成りつ可能性もありますこの辺りについても確たる結論が得られているわけではありません

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 24: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

23

図 7 各国のオークション式

注詳細な定義は Brenner et al (2009)をご参照くださいまた 2005 年時点のオークションをベースとしている点に注意してくださいなお本については割愛しています 出所Brenner et al (2009 p269)より筆者和訳

「勝者の呪い」が顕著なケース

まず前出の「勝者の呪い」が顕著な場合はコンベンショナル式よりもダッチ式のが発体の期待収がくなることが知られています(Milgrom and Weber 1982)勝者の呪いとは前述のとおり値で応札した参加者が値掴みをしてしまったことにより却って損をしてしまう現象を指しますコンベンショナル式では札者が分の応札した価格をそのまま払うことになるので例えば不確実性がいなど定の条件の下では値掴みとなる可能性がくなりますそういった場合コンベンショナル式の下ではオークションの参加者は低めの価格で応札する傾向がまれこのことが発体の期待収を却って低くする可能性をみます他でダッチ式では札者は分の応札価格ではなく落札成功最低札価格を払えば良いので分が値で札していたとしても抵の場合はそれより低い価格を払えばよいことになりますから値掴みはせずに済む可能性が多いと考えられます勝者の呪いの実例については前出のとおりNyborg et al (2002)がスウェーデンの国債オークションで唆しています

札参加者の間での共謀が深刻なケース

札参加者の間での共謀が深刻であればダッチ式よりもコンベンショナル式のが発体の期待収がくなることが知られています(Wilson 1979 Back and Zender 1993)

ダッチ式 両 その他バングラディッシュ リトアニア アルゼンチン ブラジル オーストリア

ベルギー 北マケドニア オーストラリア カナダ フィンランドカンボジア マルタ コロンビア ガーナ ルクセンブルグキプロス モーリシャス 韓国 イタリア フィジー

エクアドル モンゴル ノルウェイ メキシコ アイルランドフランス パナマ シンガポール ニュージーランドドイツ ポーランド スイス シエラレオネ

ギリシャ ポルトガル トリニダードドバゴ スロベニアハンガリー ソロモン諸島 アメリカ イギリスイスラエル スウェーデンジャマイカ トルコラトビア ベネズエラ

コンベンショナル式

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 25: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

24

例えば計 100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて札の参加者は単価ベースで 100 円の価値を持つと考えているとしますそのうえで札に参加する投資家が当

BOX 7 国債のオークション 本の札に慣れ親しんだ者が国のオークションをる際まず注意すべき点は国

債のオークションでは本のようにダッチやコンベンショナルという語が出てこない点です国では本でいうダッチ式を uniform price auction(single price auction)と呼ぶコンベンショナル式を discriminatory price auction(pay-as-bid auction)といいます国では本で紹介したとおり現在uniform price auction(ダッチ式)が採られています前述のとおりソロモンブラザーズの不正等をうけ1992 年 9 から 2 年債と 5 年債の発については uniform price auction が導され1998 年 11 からは全てのオークションについて uniform price auction が採られています

国債のオークションでも札の結果はウェブサイトを通じて公表されています利回りについては High Yield Median Yield Low Yield が公表されますが国ではダッチ式が採されているため札の参加者はみな(最低落札価格に相当する)High Yield で購します本と同様Tendered(応札額)と Accepted(落札額)が公表されますが「Tendered(応札額)Accepted(落札額)」で算出される「Bid-to-Cover Ratio(応札倍率)」も公表されますまた本と同様価格競争札(Noncompetitive auction)も実施されています オークションにおける主なプレイヤーはPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersで構成されますPrimary dealer は国政府に公認されたプライマリーディーラー(20 前後の証券会社)Direct bidders はプライマリーディーラーではないもののオークションに直接参加できる投資家Indirect bidder はディーラー経由でオークションに参加する投資家(ニューヨーク連邦準備銀を経由した Foreign and International Monetary Authority を含む)です国債のオークションではPrimary dealerDirect biddersIndirect biddersがどの程度応札し落札したかに加えSOMA(System Open Market AccountすなわちFRB が公開市場操作を通じて取得した債券等を保有する勘定)を通じて購される額についても公表されています 国のオークションにおいてもプライマリーディーラーが重要な役割を果たします歴史的には元々プライマリーディーラーのみが応札する形でわれていましたしかし1991 年にソロモンブラザーズが発量の 35までしか落札できない中で顧客の座を経由することで 35以上の落札をいましたそこで国債のオークションではプライマリーディーラー以外も参加可能となるように制度改正がなされました

ここでの記述は主にSundaresan (2009)や Fabozzi and Mann (2012)などを参照としています 利と価格は逆の動きをする点に注意してください

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 26: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

25

初全員で共謀するとします極端な例ですが例えばダッチ式の下で99 銘柄は 200円で札し1 銘柄は 1 銭で札するという形で共謀すれば落札価格はすべて 1 銭となりますこのように落札最低札価格付近で応札価格を急減させる戦略は専的には需要削減(Demand Reduction)と呼ばれます

重要な点は共謀について参加者が事前の約束を破るインセンティブがあるかどうかですダッチ式の場合共謀に参加している投資家が約束を破ってより多くの国債を得ようとした場合落札価格がくなってしまい全員が却って損をしてしまうことから裏切るインセンティブはありませんつまりダッチ式ではこのような需要削減の戦略が均衡戦略となるわけですこのケースでは 1 銭で共謀するという事例ですがオークションの参加者が抜け駆けすると却って損をするという条件を満たせば任意の低価格で均衡します33

共謀とは端的にいえば札者らがオークション主催者には内密に予め相談して約束した低い価格で札することで皆で廉価での落札を狙うという戦略ですしかしながら分の応札価格のうち1つだけ引き上げても分の他の札に係る落札額には影響が及ばないことを考えるとコンベンショナル式の下では分だけ約束していた価格よりも少しい価格でビットすることで分だけ当初の約束よりも多くの財を獲得するという抜駆けのインセンティブがまれますこのケースでは投資家は 100 円の価値があると考えているため例えば全投資家が1銭で札するという共謀を計画していたとしてもそれよりもい2 銭などといった価格で応札することで計 100 銘柄をすべて取得するインセンティブを有するわけですこのことを全員が予期すれば均衡として実際の価値に近い 100 円で応札することをすことができます(つまりコンベンショナルでは全員が共謀するという均衡は般的にじません)それに対してダッチ式では分の応札価格のうち1つだけ引き上げると分の他の札に係る落札額全体に影響が及ぶ可能性があるためそのような抜駆けをするインセンティブがまれにくく全員が共謀するという均衡がじるのです

共謀の実例については Umlauf (1993)がメキシコの国債オークションの結果から型投資家の間で共謀があった可能性を報告しています

33 例えば投資家 A と投資家 B が共謀し100 銘柄の国債が発されるオークションにおいて投資家 Aは 49 銘柄を 200 円1銘柄を 1 銭で応札し投資家 B は 50 銘柄を 200 円で応札することを約束したとしますダッチ式の下では落札価格は1銭になりますこのとき投資家 A が共謀を破って更にもう1銘柄を購したいと思い50 円で応札したとしますすると99 銘柄については 200 円という値で応札していることからダッチ式の下では落札価格が1銭から 50 円に跳ね上がることになるため共謀を破らなければ 49 銭の出費で 49 銘柄を購できたものが共謀を破ったことで 50 銘柄を購するために 2500 円を出費することとなりますしたがって共謀を破るインセンティブがじないことになります

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 27: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

26

スクイーズが深刻なケース スクイーズが深刻であればコンベンショナル式よりもダッチ式のがオークション

の参加者のリスクを軽減できることが知られています(Nyborg and Sundaresan 2004)スクイーズとは国債市場において特定の銘柄を買い占める為をいいます証券会社はマーケットメイクをするうえで空売り(ショート)ポジションを抱えることが少なくありませんがここではショートポジションを抱えた証券会社(マーケットメイカー)はそのショートポジションをカバーするために国債のオークションにおいて国債を落札する必要性がいとしましょう(国債市場では典型的にはレポ取引をいてショートポジションを作りますが国債のマーケットメイクとレポ市場の関係については服部(2020a)を参照してください)34コンベンショナル式の下では必ずショートポジションをカバーしなければならない場合マーケットメイカーが確実に落札するため値で札する必要性がまれ結果値を掴まされる可能性がありますダッチ式の下であれば必ず落札できるように値で札したとしても払うべき額は落札成功最低札価格となるため必ずしも分が札したような値を払うことなくショートポジションをカバーすることが可能となります発体にとってもスクイーズが深刻である場合分な参が得られないなどの不都合がじる可能性がありスクイーズが少ない状況は望ましいといえます

国債市場におけるスクイーズについて特に有名な例は前述のとおりソロモンブラザーズによる 2 年国債のスクイーズですソロモンブラザーズは当時債券のトレーディングに強い投資銀でしたが1991 年の国債札において違法な形で量落札をいましたその後ソロモンブラザーズは不正を追及されていきますがJegadeesh (1993)や Jordan and Jordan(1996)など学術研究でもスクイーズがもたらした効果の検証がすすめられています35ソロモンブラザーズの不正はこれを境にプライマリーディーラー以外も国債の札に参加可能となったことに加え国がコンベンショナル式からダッチ式に変更するつの契機にもなるなど国債の札制度に多な影響をもたらしました

札者の国債に対する評価額に係る異質性

札者の国債に対する評価額にどのような異質性があるか(つまり国債の札に際してどの程度意の差異が発しうるか)によってもどの札式が望ましいのかが変わってくる可能性がありますまず札者の国債に対する評価額に異質性が少ない36等37の条件

34 ここでは既発銘柄がオークションで発されるリオープン(銘柄統合)を前提としています 35 Jegadeesh(1993)はソロモンブラザーズが買い占めた 2 年債が発後 4 週間にわたり割になったことを指摘していますJordan and Jordan(1996)ではソロモンブラザーズのスクイーズにより約 6 週間にわたり 2 年債のオーバープライスが続いたとしています 36 専的にいえば札者の私的価値が同の確率分布に従うといいます 37 リスク中性や買占め防のための応札上限が設定されている等の条件

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 28: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

27

が満たされる場合は発体の収はコンベンショナル式のがくなることが知られています(Ausubel et al 2014)例えば国債の札に際して参加者の意の差異がきい場合参加者は勝者の呪いを考慮しコンベンショナル式の下では相対的に低い価格で応札する傾向が強くなります意の相違がさい場合は相対的にい価格で応札する傾向がありこのことにより発体の期待できる収が増します

このことは共謀という観点でも評価することができます具体的には参加者の差異がさい場合ダッチ式では参加者が共謀することにより前述のような需要削減戦略が採られやすくなるためやはりコンベンショナル式のほうが望ましいことが理論的に指摘されます他で異質性がきいなどの条件が満たされる場合はその逆が成りちダッチ式のが発体の期待収が増します

オークション理論によるインプリケーションと実際の政策の関係

上記では勝者の呪い共謀スクイーズなどが深刻なケースについて理論的帰結を述べましたいずれも理論的には興味深い結果ですが極端なケースを考えているため現実に当てはめる際には定の留意が必要ですそので現在のオークションの制度は学術研究からみてもこれらの問題に対処するような設計がなされていると解釈することもできます

例えば2004 年からは本国債の発に際して WI(When Issued)取引が実施されていますWI とはオークション前に約定をい発以降に受渡をう取引を指しますがこのことはオークション前に参加者が参照できる価格を提供することでオークションにかかる不確実性が低減し勝者の呪いの恐れを低下させる機能を果たしているとも考えられますまた我が国では 40 年債や物価連動国債の札においてダッチ式が活されていますがこれらの債券については較的最近発が開始されたところ相対的に流動性が低いことなどを背景に不確実性がきい札となっているとみることもできます38その意味ではこれらの債券の札に際しては勝者の呪いが起こりやすいとも考えられその影響を緩和するためにダッチ式がいられていると解釈することもできます

共謀のリスクについては本の国債市場では分な数のプライマリーディーラーが存在している他プライマリーディーラー以外も札に参加できるためそのリスクは相対的に低いと考えられますまた財務省は流動性供給札により追加的に既発の国債を供給しているだけでなく銀が銀補完供給オペにより既発債を貸し出す制度がありスクイーズを軽減するための措置もあります(なお国債先物と国債市場の関係でみたスクイーズについては服部(2020b)を参照してください) 38 例えば 2019325 の国債投資家懇談会では「利回りダッチ式を持する意としては引き続き他年限対では 40 年債の投資家層が限定的でありこのため流動性が較的低いという声があったほかイールドカーブの端で居所が掴みにくいことから利回りダッチ式のが安定消化に資するという意も聞かれたところ」との投資家の意が紹介されています

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 29: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

28

同質財以外の複数財オークションについて

ここまで複数財オークションについて議論してきましたが本稿では国債を対象にしていることから同質財オークションに絞っていますその意味で本稿は較的シンプルな複数財オークションを対象にしていますが実際のオークションには同質ではない財を複数販売するようなケースも少なくありませんこのようなオークションが複雑である理由は財の価値の間に相互依存関係があることが因です例えば隣接する治体Aと治体Bでの事業免許がそれぞれオークションに掛けられている場合シナジー効果が働くので2つとも取得した時の利得がそれぞれを単独に取得した時の利得の和を上回るようなことが考えられます39このような関係にある財に特化したオークションは「組み合わせオークション」と呼ばれその理論や実証研究は活発になされるとともにどのような仕組みが最適であるのか経済学や数理学などの世界から様々な仕組みが提唱されています

39 その他の例としては国の連邦通信委員会がう周波数オークションや国運輸省も検討した空港での発着枠の割当てなどが挙げられます

BOX 8 ダッチ式と競り下げ式オークション オークション理論の教科書でダッチ型のオークションを学ぶと国債のオークションのよ

うなコンベンショナル式との対ではなく競り下げ式オークションとして紹介されます競り下げ式オークションとはオークションをう際分い価格からスタートして主催者が徐々に価格を下げていき最初に購の意思をした者が勝者となりその価格を払うというオークションになりますこれは 17 世紀のオランダ(Dutch)でチューリップの球根の取引にいられていたことがその由来とされていますもっとも坂井(2010)でも指摘されているようにダッチオークションという葉はその他のオークション式を指すこともあります(国債におけるダッチ式はその例に当たります)ちなみに価格がゼロからスタートしてそこから札者がビットを上げていき新たなビットがなくなったタイミングで終了するオークションを「イングリッシュオークション(競り上げ式オークション)」といいます

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 30: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

29

4実証研究の紹介 41 オークション理論と実証研究の関係

前節ではオークションの理論について議論してきました前節で記載したとおりコンベンショナル式とダッチ式はどちらかが的に良いというものではなくその良さは状況次第のケースバイケースということになりますそのため(特殊なケースを除き)残念ながら理論だけではどちらの式が良いのかについては確定的に述べることはできま

BOX 9 コンベンショナルダッチ以外でいられる国債のオークション式 稀ではありますがスペインのようにコンベンショナル式でもダッチ式でもない折

衷式のオークション式がいられている国もありますこれは落札成功者のうちある定額以上の応札価格で札した者に対してはその定額を払わせる(ダッチ式に類似)その定額未満の応札価格で札した者に対しては分の応札価格を払わせる(コンベンショナル式に類似)式ですスペインでは定額について募平均価格がいられていますなお慶應義塾学の坂井豊貴教授は修正版のスペイン式である「中位上限オークション」を推しています(前述とほぼ同じ式であるが前述の定額について募平均価格ではなく募価格の中央値をいる)このようなコンベンショナル式でもダッチ式でもないような札式について筆者も記載した「債務管理リポート 2015」のコラム 5「諸外国の債務管理政策」(p32)の中でまとめられているので該当部分を紹介します

図 8 コンベンショナル式ダッチ式以外の国債オークション式

札式 国債発式の概要 スペインの札式

各落札のうち募平均価格以上の札には募平均価格が募平均価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式スペインが 1987 年に導

中位上限オークション

各落札のうち募となった札の中位札価格以上の札には中位札価格が中位札価格未満の札には落札者がら札した価格が発条件となる発式坂井 (2014) が理論的にありうる札式として提唱

ヴィックリーオークション(注)

各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算される額となる理論的にあり得る札式として Vickrey(1961)が提唱耐戦略性という理論的所がある

(注)原では Vickrey オークションと表記されていたものを本稿の表記に合わせて修正

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 31: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

30

せん このことについて国債オークション研究の第者でありシカゴ学の教授であるア

リホータクス(Ali Hortaccedilsu)はldquo(前略)Milton Friedmanrsquos question of what type of auction format to use to market government securities Unfortunately auction theory does not provide an a priori answer to this question(後略)rdquo 40(拙訳ミルトンフリードマンは国債札にどのような札式をいるのが良いのかとの疑問を呈した残念ながらオークション理論はいまでもその問いに対して先験的な答えは与えていない)と述べています41慶應義塾学の坂井豊貴教授も「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」(坂井 2014 p85)と指摘しており通常はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかのパフォーマンスが圧倒的に良いということはないと思われます

で上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから実際にデータをいどのような仮説が成しているかについての検証も必要になってきます経済学の実証研究はきく分けて誘導系(reduced-form)と構造系(structural form)の実証に分類されます誘導系の実証とは明的な経済モデルに基づかず特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析をう法になります構造系の実証(構造推定)は明的に経済モデルをいて推定をう法です構造推定の概要は後述しますが現在の経済学の実証研究においては誘導系と構造系の推定がり混じっているのが現状です42国債のオークションの実証についていえば2000 年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが2000 年以降は構造系の実証が増えてきています 42 誘導系実証の紹介

誘導系の実証として特に重要な研究は国財務省が公表している論(Malvey et al 1995 Malvey and Archibald 1998)です前述のとおり国は 1992 年 9 に2 年債と5 年債についてコンベンショナル式からダッチ式へ移していますそのつの要因は

40 httphomeuchicagoeduhortacsuHortacsu20Research20Statementhtm (2020316 閲覧) 41 アリホータクス教授は国財務省におけるプレゼンテーション資料(httpshometreasurygovsystemfiles2762012-workshop-2-Hortacsu-presentationpdf p4)においてダッチ式を推すローレンスサマーズ教授の発rdquo Uniform price auctions can allow the Treasury to make improvements in the efficiency of market operations and reduce the costs of financing the federal debtrdquoとコンベンショナル式を推すグレイデイビス知事(カリフォルニア州)の発rdquohellip overhaul the crazy bidding process for electricity which currently guarantees that every generator is paid according to the highest bid rather than their own bidrdquoを両引し先験的にはどちらの式が良いのか決められないことを印象付けています 42 執筆時点での印象にすぎませんが労働経済学や開発経済学などでは較的誘導系実証が活されるマクロ経済学や産業組織論などでは構造推定がいられるケースが少なくないなど分野によって濃淡もあります

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 32: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

31

ソロモンブラザーズが国債の札において不正な形で買い占めをったことからダッチ式というスクイーズに対して頑健な札法が求められたことがあります43国財務省の論がっている分析は1992 年 9 より前と後の期間をわけその前後で 2 年債と5 年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものです

具体的には2年債と5年債の利と WI 取引の利のスプレッドを計算し441992 年9前後でそのスプレッドに統計的に有意な差がみられないかということを検証していますすなわち同論では実際のオークションで形成された利がオークションの形式に影響を受けない WI とどの程度違うプライシングがなされているかを検証することを通じてコンベンショナル式とダッチ式の検証をしたわけです(同論では国債の利とWI の利のスプレッドをオークションスプレッドとして記載しています)本研究が出したことはコンベンショナル式ではスプレッドが有意に正すなわちコンベンショナル式により決定された利が WI よりいダッチ式ではそのスプレッドがゼロと統計的に異ならないすなわち WI との有意差がじないというものですこの結果はダッチ式のが望ましいオークションである可能性を唆しています45

札式の移前後で較した研究は他にもありますSimon (1994)は国において1973 年から 1974 年の半ばまではダッチ式1974 年の半ばから 1976 年はコンベンショナル式がいられていることに着しWI とのスプレッドがその前後で統計的に有意に異なるかどうかを検証しています具体的にはダッチ式の場合1コンベンショナル式の場合0 をとるオークションダミー変数を作りWI とのスプレッドを説明する変数として利に影響を与えるその他の要因(例えばボラティリティなど)に加えオークションダミー46をいて回帰分析をっていますこの論が出したことはオークションダミーの係数はプラスに有意でありダッチ式を採ることにより国財務省の調達コストがおおよそ 7~8 ベーシス増加した可能性を指摘していますこの結果はコンベンショナル式のが望ましいオークションである可能性を唆しています 43 例えばBower and Bunn (2001 p564-565)では「This is surprising given that the switch to uniform-price auctions by the US Treasury was prompted at least in part by concerns raised by the 1991 Salomon bond trading scandal」と指摘されています 44 同論ではオークションの結果の利回りと同時点での WI 市場での利回りをいています 45 Nyborg and Sundaresan (1996) は WI の取引量のデータをいた分析をしておりダッチ式における WI の取引が活発であることからダッチ式では札前での情報が増加しスクイーズを減少させている点を指摘していますもっともWI のマークアップの較についてはダッチ式とコンベンショナル式のをサポートする結果は出ていません 46 論内では auction technique dummy といっています

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 33: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

32

43 構造推定

誘導系の実証研究の問題点はオークション式の変更の前後で経済環境が変化している可能性があるためその前後にスプレッドの差があったとしてもそれがオークション式の違いによるものかその他の要因の変化によるものかが識別できない可能性がある点です例えば仮にコンベンショナル式からダッチ式に移した前後較で統計的に有

BOX 10 本の流動性供給札の実証 本では流動性供給札を実施しています流動性供給札とは構造的に流動性が不している銘柄や需要のまりなどにより時的に流動性が不している銘柄を追加発する制度です具体的には残存 1 年超 5 年以下5 年超 155 年以下155 年超のゾーンごとに国債供給をっています

筆者の研究(Hattori 2019)では定量的に流動性供給札の実証研究をっています(筆者の実証は誘導系実証です)筆者がった夫は本国債については年末の国債発計画によりおおむねその発量が定まる他事前に発量やスケジュールがアナウンスされていることを利する点です実証研究で因果推論をう際変数の外性の担保が必要ですが筆者は国債の有する制度に着し流動性効果の識別をっています筆者の研究の結果は流動性供給札が本国債の流動性にプラスの寄与をしているというものです

なお国債の流動性に関があるは服部(2018)イールドカーブの決定要因に関があるは服部(2019)をご参照ください

BOX 11 国財務省FRB国証券取引委員会(SEC)による連名レポートの概要 1991 年にソロモンブラザーズの不正な買占めが発覚したことなどを受け国財務省FRBSEC は 1992 年に国債市場に関する包括的な調査及び改提案をいましたその中にはスクイーズ防のための監視の強化やリオープン発(既発債と同の銘柄の発)によるスクイーズに伴う弊害の緩和措置などもありますが本稿に関係する内容としてはコンベンショナル式からダッチ式への移も提案されています

この改提案の中ではコンベンショナル式とダッチ式のどちらの下で発体の収が多くなるのかは定かではないとしながらもダッチ式への移を推していますダッチ式の下では勝者の呪いの恐れがないこと等から幅広い投資家が PD を経由しなくても応札しやすくなりPD が国債を転売することにより得ていた収益の部が国庫に帰属することになるためダッチ式の下では発体の収が増える可能性があるという考えも紹介されています同レポートではミルトンフリードマン教授がダッチ式への移を提案していたことにも触れています

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 34: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

33

意な差異を発できたとしても制度変更直後は過渡期でありボラティリティもいなどという制度移以外の要因が働いている可能性もあります

このような問題を踏まえ2000 年以降は構造推定と呼ばれる法をいる研究が増えてきました前述のとおり構造推定は経済学の理論を明的にいる実証分析を指します経済学では通常個や企業は効や利得を最化するように動していると仮定しますが国債のオークション理論においても各投資家は期待される利得を最化するべく動していると想定されますもっとも個々の投資家は国債に対して異なる需要47を持っているでしょう国債の札における構造推定では札に係る個社レベルのデータをいることで札に参加した投資家やプライマリーディーラーの需要そのものをダイレクトに推定しますその上で札式が変わったら投資家の利得最化により札動がどのように変わるのかを経済理論に基づいて推測しますその結果に基づき札式の変化により政府の収がどの程度変化するかを推計することが可能になります 「私的価値」に基づく実証研究 32節では「私的価値」をベースに議論を進めましたそこでは同じ財に対して個々の札者が異なる評価額を与えていると考えましたが実証研究でも代表的な研究の多くは私的価値に基づいています48その代表的な例が Hortaccedilsu and McAdams (2010)です同研究では 1991 年から 1993 年におけるトルコの 3 か T-bill のデータをいてもし政府がオークションをコンベンショナル式からダッチ式に変更した場合どの程度収が異なってくるかについて分析をっています

重要な点は同論はトルコのオークションに際しビットレベル(買い注レベル)のデータを取得していることですコンベンショナル式の下で各社が応札したビットレベルのデータをいて定の理論をベースに需要曲線を推定しそれを例えばダッチ式をいた場合の需要曲線へ変換します(ここでの理論の概要については BOX 13 を参照してください)図 9 は Hortaccedilsu and McAdams (2010)から抜粋したものですがこのように需要曲線を推定できれば図 9 における斜線部分の積が発体である政府の収であるためどちらのオークションが発体にとって望ましいかの定量的評価が可能になります同論が出したことは驚くべきことにオークションの変更に伴って収にきな差はじないというものですこの結論は前述した「国債が堅調に売れているときにはどのルールを使っても結果に差は出ない」との意を裏付けています49

47 専的にいえば需要曲線 48 専的にいえば「私的価値」の仮定の下では他の評価額が分の評価額に影響を与えることがないということまで仮定されています 49 これ以外の実証としてはスイスを対象とした Heller and Lengwiler (2001)韓国を対象とした Kang and Puller (2008)などが知られていますHeller and Lengwiler (2001)はスイス市場においてはコンベンショナル式よりも現のダッチ式のが望ましいと結論付けているのに対しKang and Puller

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 35: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

34

図 9 コンベンショナル式とダッチ式における需要曲線と供給曲線

出所Hortaccedilsu and McAdams (2010)の figure 1(p835)より抜粋し和訳を加筆

またKastl (2011)もこの分野で代表的な研究のつですKastl (2011)は実際の札のビットレベルのデータをみると需要曲線が滑らかな下曲線とはなっておらず階段関数(step function)状になっている点を指摘しました同論はこのような需要曲線を取り扱うモデルを提案したうえでチェコの国債のデータをいて構造推定をっています同研究では 1999 年 11 から 2000 年 12 の T-bill のデータをいていますが当時採されていたダッチ式のパフォーマンスが良いことを指摘しています 国債のオークションに関する「共通価値」と「私的価値」

ここまで「私的価値」を前提に話を進めてきましたが前章で議論したように国債のオークションでは対象となる財の価値を同じように評価するという「共通価値」の仮定が尤もらしいケースもあります国債のオークションに際し共通価値の仮定を考える上で特に重要な研究は Hortaccedilsu and Kastl(2012)です同研究ではカナダの国債のデータをいてプライマリーディーラーが顧客の情報を観察できることに注しプライマリーディーラーが顧客の情報からファンダメンタルズに関する推論をっているのかあるいはオークションに関する競争環境の厳しさを推論しているのかについて検証をっています前者はいわばファンダメンタルズから類推される「共通価値」に相当しますがプライマリーディーラーが競争環境から利益を得ているとするとプライマリーディーラーや投資家が各々異なる評価をしていると解釈可能であり「私的価値」をサポートする結果になります彼らの結果は「共通価値」より「私的価値」のほうが国債のオークションにおいて妥当性がある可能性を唆します50 (2008)は韓国市場においてはコンベンショナル式のが望ましいと結論付けています 50 なおHortaccedilsu and Kastl(2012)では共通価値を Interdependent Values と呼称しています上(2010)が指摘するとおり共通価値とは狭義には「財の価値がすべての参加者に共通している」

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 36: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

35

私的価値に基づく研究である Hortaccedilsu and McAdams (2010)や Kastl (2011)が学術的にい評価を受けていることに加えHortaccedilsu and Kastl(2012)も同様に学術的にい価値を有することから「私的価値」に基づく考えが優勢というもできますそので「共通価値」に基づいた実証もなされておりその例としてフランスを対象としたArmantier and Sbai (2006) や Fevrier et al (2004)などが挙げられます51共通価値であってもビットレベルのデータを基に需要曲線を推定しそこからオークション式が変わった際の需要曲線を推定しそれぞれの式で得られる収額を定量的に較するという基本的な推計法は私的価値の場合と変わりませんもっとも共通価値をいた実証研究でも結果は様ではありません例えばArmantier and Sbai (2006)はダッチ式のが政府の収が多くなると推計していますがFevrier et al (2004)はコンベンショナル式のが政府の収が多くなると推計しています52

(p89)ことを指します(純粋共通価値)が「広義には私的価値財であっても財の価値が互いに相関している財を共通価値財ないしは相互依存価値(interdependent value)財と呼ぶこと」(p89)があります 51またメキシコを対象とした研究として Castellanos and Oviedo (2008)もあります 52 但し私的価値の場合とは異なり共通価値の場合は識別の関係で効関数などを定の関数形(例えば Armantier and Sbai (2006)では絶対的リスク回避度定効関数を採)に特定化しなければ般的に推定ができないことが知られています(Athey and Haile 2002 Laffont and Vuong 1996)そのため私的価値の前提下では多くの場合ノンパラメトリックな推定がわれる共通価値の前提下ではパラメトリックな推定をうことを余儀なくされます

BOX 12 コンベンショナル式ダッチ式とヴィックリー式の較 BOX 9 では理論的に提唱されているヴィックリー式と呼ばれるオークション式を紹介しましたがその式をコンベンショナル式やダッチ式と較しますヴィックリー式とは各落札者の払額は落札者がら札した価格によって計算されず他の落札できなかった札のうち価格が上位のものから落札額に応じて順に割り当てて計算されるオークションを指します例えばヴィックリー式では国債を 2 銘柄落札した投資家は「他社の応札結果の中で落札できなかった銘柄のうち価格が上位 2 の応札価格」を払うというオークションですヴィックリー式の詳細は坂井(2010 2013)などを参照してください

図 10 では投資家1が落札後に発体に払うことになる額を3式で較しています右肩下がりの階段状の折れ線は投資家1の応札価格を降順に並べたものです右肩上がりの階段状の折れ線は投資家1以外の投資家の応札価格を昇順に並べたものですは1回のオークションにおける国債の総発数であり2つの折れ線の交わるところまで投資家1は国債を落札することになります国債総発数を超過する分の低額の札はグラフには現れません

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 37: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

36

図 10 コンベンショナル式ダッチ式ヴィックリー式の下で投資家が払う額

出所Krishna (2009) の figure 123(p169)より抜粋し和注釈を加筆

コンベンショナル式では投資家1は分の応札価格をそのまま払うことになるので

図 10 左図の描画部分の積が投資家1の払額となりますダッチ式では投資家1は落札総数times最低落札成功価格を払うこととなるので図 10 中図の描画部分の積が払額となります番難しいのはヴィックリー式ですが投資家1以外の者が落札できなかった札のうち価格が上位のものから順に投資家1が落札できた総数だけし上げた額が投資家1の払額となるため図 10 右図の描画部分の積が払額となります

なお図 10 をみると投資家の応札価格が変わらない場合は投資家の払額はコンベンショナル式>ダッチ式>ヴィックリー式の順にくなることが分かりますがKrishna (2009)も著書の中で注意している通りオークション式が異なれば投資家の応札価格も異なってくる可能性があると考えられるためいずれの式の場合に投資家の払額がくなるのかは必ずしも明らかではありません特にヴィックリー式の下では投資家は分の評価額をそのまま札するのが最適(配戦略)となるのに対してBOX 13 で説明する通り理論的にはコンベンショナル式やダッチ式の下では分の評価額と応札価格が定(shading factor)程度異なるのが最適(均衡戦略)となることが導かれるため札式が異なる場合には各々の投資家の応札価格も異なってくる可能性があります

Krishna (2009)の図では最落札不成功価格となっていますがここでは最低落札成功価格に読み替え

てください

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 38: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

37

BOX 13 構造推定の概要 本で記載した構造推定に係る論の多くは Wilson (1979)の理論に基づいています以下では特に私的価値という観点から Wilson (1979)のアイデアを紹介します 構造推定では実際に観察されるビットプライスから投資家の有する私的価値を推定しその価値をベースに異なるオークションでの結果を評価しますこのような評価を可能とするため価格と私的価値とを紐づける関係式を投資家の最適化動から導出しますまず投資家 が既に 1個の銘柄を落札できる状況であるとしますそのうえで 個の銘柄を追加的に価格 で購することを考えますさらに投資家 は 個の銘柄を持つことの追加的な価値を と評価しており価格 で 個の銘柄を購できる確率は であるとしますこのとき 個の銘柄を購した時の投資家 の期待利得は私的価値と分が払う価格の差に確率を掛け合わせたものであるため となります

投資家はオークションに際してプライスを提することを考えると投資家にとってらが選択できる変数は価格である ですコンベンショナル式の場合はこれを最化する条

件を導出するため上記で定義した期待利益を で微分すると 0が得ら

れますここから下記が得られこれが価格と私的価値を結びつける式になります(ここで )

(5)

なお(5)式をみると は と の差額に相当するため投資家の応札価格 が評価額 か

らどれくらい低下するのかをしていると解釈できますちなみにこれはコンベンショナル式に基づく「shading factor」と呼ばれます

次にダッチ式のケースを考えるためまず が単位量だけ増加することを考えますこれに伴い落札確率が増すことによる利得の増加分はコンベンショナル式で議論したものと同様私的価値から価格の差分に確率の増加分を掛け合わしたものであり となります次に が単位量増加することに伴って落札価格が増加することによる利得の減少分はどうでしょうかコンベンショナル式とは異なりダッチ式が難しい点はその制度の特性から価格の変化は落札額すべてに影響を与える点ですいわば参加者のコストは分が価格を上げることにより落札できただろう銘柄がすべて失われることですから価格を単位量だけ動かすことのコストの増加分は落札量すべてである に対して落札量全体である が変化することの確率の変化分である をかけあわせた値すなわち となるこ

とが理解できます(ここで )

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 39: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

38

44 実験による検証

最近のオークションの実証では実験室を使い被験者に銭的報酬を与えることによりインセンティブ付けをった上でどのような札動がわれるのかを実験的に確認する法も盛んになっています前述のとおり理論的にはダッチ式のほうがコンベンショナル式より共謀が起こりやすいオークションといえますがこのような共謀が起こり得るかを実験で検証することができます例えばGoswami et al (1996)のアイデアは実際に事前のコミュニケーションがあった場合にダッチ式とコンベンショナル式によってオークションの結果が変わりうるかを学をいた実験によって検証するものです同論が出した結果はダッチ式では事前のコミュニケーションが有意に価格を低下させオークションを実施する者の利益を減らすというものですコンベンショナル式であれば事前のコミュニケーションはほとんど影響をもたらさないことを指摘しましたこの結果は理論の予測と整合的なものと解釈できます

そのため利益を最化する条件は収の増加分minusコストの増加分=0 から0であり以下が得られます

(6)

先ほどと同様 は投資家の応札価格 が評価額 からどれくらい低下するのかをして

いるのでダッチ式に基づく「shading factor」と呼ばれます 現の札式がコンベンショナル式の場合は(5)に基づいて現実の札データから投

資家の評価額を逆算しますその上で(6)に基づいてダッチ式であったとした場合に発したであろう札データを算出します現の札式がダッチ式の場合は(6)に基づいて現実の札データから投資家の評価額を逆算しますその上で(5)に基づいてコンベンショナル式であったとした場合に発したであろう札データを算出します

なおここでは私的価値の前提でモデルの説明をいましたが共通価値の前提でも殆ど同じモデルが適されます但し誰もが国債を同じ価値で評価することとなるので前述のモデルにおいて更に があらゆる投資家について成することとなります

ダッチ式で落札価格が上昇する場合は 銘柄全てについて払う額が上昇することに留意する必

要があります は価格 で 個の銘柄を購できる確率と価格 で 1個の銘柄を購できる確率の差です前者は後者よりさいので前者から後者を差し引いた値は負の値をとるため絶対値を取っています

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 40: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

39

もっともこの結果と異なる実証結果も報告されています例えばSade et al (2006)はダッチ式とコンベンショナル式についてMBA の学と融の実務家をいた実験をっていますが彼らの研究結果はむしろコンベンショナル式のが共謀が起こる可能性がいという結果を出しており理論の予測と異なる結果が得られています53いずれにせよ実験室でわれる実験は被験者に理解できるよう札に掛けられる財の数が制限されていることが通例なので相当多数の財が同時に札に掛けられる国債オークションにどこまでの洞察を与えるのかについては定の留意が必要です 5おわりに 本稿では国債札制度の歴史的変遷について及するとともに国債札についての学術研究の成果を紹介しましたオークション理論ではオークションに掛けられる財が1つであるなど定の条件下では収同値定理が証明されていますこの定理に基づけばどのようなオークション式であっても売りが期待できる収が定となりますしかし例えば共通価値や多数財オークションのケースなど前述の条件が満たされない場合そのような簡明な結論は得られませんよってオークション式の巧拙によって売りが期待できる収は変わる可能性がありますその意味では発当局や実務家にとってオークションの設計は常に重要といえましょう

残念ながら現時点において般論としてどのようなオークション式が望ましいか確定的な結論が得られているとはいえませんただし勝者の呪い共謀スクイーズなど市場の置かれている問題点がはっきりしていれば理論的回答は得られていますまた近年の構造推定に基づく実証研究では個社毎の個々の応札価格が時系列で分かるようなデータセットをいることによりオークション式を変更した際の収額もシミュレートすることができいわばオークション式変更に伴う影響額を机上で実験することも可能ですもっとも必ずしも実証研究はコンベンショナル式とダッチ式のどちらかをサポートしているわけではありませんHortaccedilsu and McAdams (2010)のように学会でい評価を受けた論であっても発体の収はオークション式にあまり依存しない可能性を指摘しています市場の状況次第ではありますが前述した「優れたオークション法は魔法の杖では決してありませんが無なトラブルを抑えてくれる」というあたりに真実はあるのかもしれません

国債札は多数の財を度にオークションに掛けるものの対象である国債は全て同じであるがゆえ公共札を始めとする他のオークションにべるとシンプルにみえますしかし国債は回当たりの発額が巨額でありしかも世界各地でわれていることから実務上の重要性もくオークションの理論研究者実証研究者により鋭意研究が進

53 スペイン式(BOX 9 を参照してください)ダッチ式コンベンショナル式の順に収がかったと報告されています

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 41: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

40

められています本稿ではその研究の部を紹介するに留まっていますが本稿により少しでもそのような営為に関を持っていただければ筆者らとして望外の喜びです本稿では可能な限り直感的な解説を試みましたがより進んだ内容について知りたい場合は例えば上 (2010)や池邉坂井 (2014)をお薦めいたします

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 42: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

41

参考献 [1] Armantier Olivier and Erwann Sbai (2006) ldquoEstimation and Comparison of Treasury

Auction Format when Bidders are Asymmetricrdquo Journal of Applied Econometrics 21(6) 745‒779

[2] Athey Susan and Philip A Haile (2002) ldquoIdentification of Standard Auction Modelsrdquo Econometrica 70(6) 2107‒2140

[3] Ausubel Lawrence M Peter Cramton Marek Pycia Marzena Rostek and Marek Weretka (2014) ldquoDemand Reduction and Ineciency in Multi-Unit Auctionsrdquo Review of Economic Studies 81(4) 1366‒1400

[4] Back Kerry and Jaime Zender (1993) ldquoAuctions of Divisible Goodsrdquo Review of Financial Studies 6(4) 733‒764

[5] Bower John and Derek Bunn (2001) ldquoExperimental analysis of the efficiency of uniform-price versus discriminatory auctions in the England and Wales electricity marketrdquo Journal of Economic Dynamics and Control 25(3-4) 561‒592

[6] Brenner Menachem Dan Galai and Orly Sade (2009) ldquoSovereign debt auctions Uniform or discriminatoryrdquo Journal of Monetary Economics 56(2) 267‒274

[7] Castellanos Sara and Marco Oviedo (2008) ldquoOptimal Bidding in the Mexican Treasury Securities Primary Auctions Results of a Structural Econometric Approachrdquo Latin American Journal of Economics-formerly Cuadernos de Economiacutea 45 3‒28

[8] Fabozzi Frank J and Steven V Mann (2012) ldquoThe Handbook of Fixed Income Securities Eighth Editionrdquo McGraw Hill Professional

[9] Fevrier Philippe Raphaele Preget and Michael Visser (2004) ldquoEconometrics of Share Auctionsrdquo Working Paper

[10] Goswami Gautam Thomas H Noe and Michael J Rebello (1996) ldquoCollusion in uniform-price auctions experimental evidence and implications for treasury auctionsrdquo Review of Financial Studies 9(3) 757‒785

[11] Hattori Takahiro (2019) ldquoDo Liquidity Enhancement Auctions improve the Market Liquidity in the JGB marketrdquo Economics Letters 183 108516

[12] Heller Daniel and Yvan Lengwiler (2001) ldquoShould the Treasury Price-Discriminate A Procedure for Computing Hypothetical Bid Functionsrdquo Journal of Institutional and Theoretical Economics 157(3) 413‒429

[13] Hortaccedilsu Ali and Jakub Kastl (2012) ldquoValuing Dealers Informational Advantage A Study of Canadian Treasury Auctionsrdquo Econometrica 80(6) 2511‒2542

[14] Hortaccedilsu Ali and David McAdams (2010) ldquoMechanism Choice and Strategic Bidding in Divisible Good Auctions An Empirical Analysis of the Turkish Treasury Auction Marketrdquo Journal of Political Economy 118(5) 833‒865

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 43: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

42

[15] Jegadeesh Narasimhan (1993) ldquoTreasury Auction Bids and the Salomon Squeezerdquo Journal of Finance 48(4) 1403‒1419

[16] Jordan Bradford D and Susan DJordan (1996) ldquoSalomon brothers and the May 1991 Treasury auction Analysis of a market cornerrdquo Journal of Banking amp Finance 20(1) 25‒40

[17] Kang Boo-Sung and Steven L Puller (2008) ldquoThe Effect of Auction Format on Efficiency and Revenue in Divisible Goods Auctions A Test Using Korean Treasury Auctionsrdquo Journal of Industrial Economics 56(2) 290‒332

[18] Kastl Jakub (2011) ldquoDiscrete Bids and Empirical Inference in Divisible Good Auctionsrdquo Review of Economic Studies 78(3) 974‒1014

[19] Krishna Vijay (2009) ldquoAuction Theory Second Editionrdquo Academic Press [20] Kutsuna Kenji and Richard Smith (2004) ldquoWhy Does Book Building Drive out

Auction Methods of IPO Issuance Evidence from Japanrdquo Review of Financial Studies 17(4) 1129‒1166

[21] Laffont Jean-Jacques and Quang Vuong (1996) ldquoStructural Analysis of Auction Datardquo American Economic Review 86(2) 414‒420

[22] Malvey Paul F and Christine M Archibald (1998) ldquoUniform-Price Auctions Update of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[23] Malvey Paul F Christine M Archibald and Sean T Flynn (1995) ldquoUniform-Price Auctions Evaluation of the Treasury Experiencerdquo US Treasury Department

[24] Milgrom Paul R (2004) ldquoPutting Auction Theory to Workrdquo Cambridge University Press

[25] Milgrom Paul R and Robert J Weber (1982) ldquoA Theory of Auctions and Competitive Biddingrdquo Econometrica 50(5) 1089‒1122

[26] Myerson Robert B (1981) ldquoOptimal Auction Designrdquo Mathematics of Operations Research 6(1) 58‒73

[27] Nautz Dieter (1995) ldquoOptimal bidding in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 8(3-4) 301‒306

[28] Nautz Dieter and Elmar Wolfstetter (1997) ldquoBid shading and risk aversion in multi-unit auctions with many biddersrdquo Economics Letters 56(2) 195‒200

[29] Nyborg Kjell G Kristian Rydqvist and Suresh M Sundaresan (2002) ldquoBidder Behavior in Multiunit Auctions Evidence from Swedish Treasury Auctionsrdquo Journal of Political Economy 110(2) 394‒424

[30] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (1996) ldquo Discriminatory versus uniform treasury auctions Evidence from when-issued transactionsrdquo Journal of Financial Economics 42(1) 63‒104

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 44: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

43

[31] Nyborg Kjell G and Suresh M Sundaresan (2004) ldquoMultiple Unit Auctions and Short Squeezesrdquo Review of Financial Studies 17(2) 545‒580

[32] Riley John G and William F Samuelson (1981) ldquoOptimal Auctionsrdquo American Economic Review 71(3) 381‒392

[33] Sade Orly Charles Schnitzlein and Jaime F Zender (2006) ldquoCompetition and Cooperation in Divisible Good Auctions An Experimental Examinationrdquo Review of Financial Studies 19(1) 195‒235

[34] Schneider Gary P (2010) ldquoElectronic Commercerdquo Course Technology Ptr 9th edition

[35] Simon David P (1994) ldquoThe Treasuryʼs experiment with single-price auctions in the mid 1970ʼs winnerʼs or taxpayerʼs curserdquo Review of Economics and Statistics 76(4) 754‒760

[36] Sundaresan Suresh (2009) ldquoFixed Income Markets and Their Derivativesrdquo Academic Press

[37] Umlauf Steven R (1993) ldquoAn empirical study of the Mexican Treasury bill auctionrdquo Journal of Financial Economics 33(2) 313‒340

[38] Vickrey William (1961) ldquoCounterspeculation Auctions and Competitive Sealed Tendersrdquo Journal of Finance 16(1) 8‒37

[39] Wilson Robert B (1979) ldquoAuctions of Sharesrdquo Quarterly Journal of Economics 93(4) 675‒689

[40] 池直史隆(2015)「ブックビルディング式は本当に優れているのか IPOの価格決定式に関する較再検討」三商学研究 57(6) 37-59

[41] 池邉暢平坂井豊貴 (2014)「国債オークション」 坂井豊貴編著『メカニズムデザインと意思決定のフロンティア』第3章 慶應義塾学出版会

[42] 上晃三 (2010)「オークションの理論と実際融市場への応」融研究(20101)本銀融研究所

[43] キシテイニー ナイアル 沢李歌(訳) (2018)「若い読者のための経済学史」すばる舎

[44] 幸真 (2000)「本国債 上下」講談社 [45] 財務省理財局 (2006) 「債務管理リポート 2006」 [46] 財務省理財局 (2015) 「債務管理リポート 2015」 [47] 財務省理財局 (2019) 「債務管理リポート 2019」 [48] 坂井豊貴 (2010)「マーケットデザイン―オークションとマッチングの経済学」

ミネルヴァ書房 [49] 坂井豊貴 (2013)「マーケットデザイン 最先端の実的な経済学」 ちくま新書 [50] 坂井豊貴 (2014) 「政府や治体によるオークション理論の活へ」 財務省財務

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41

Page 45: 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式 …...PRI Discussion Paper Series (No.20A-06) 日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中

44

総合政策研究所 効率的な政策ツールに関する研究会第3回報告 67-94 [51] エリックシュミット(2011)「グーグル上場しても「らしさ」を失わないminusオ

ークション式による掟破りの株式公開プロセス」DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

[52] ティモシーハバード ハリーパーシュ(2017)「 オークション市場をデザインする経済学」NTT 出版

[53] 副島豊花尻哲郎嶋毅(2001)「国債流通市場と発市場のリンケージ強化―主要 5 ヶ国の制度較と実証分析―」融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2001-J-2

[54] 服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―本国債市場を中に」ファイナンス 2 号67‒76

[55] 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(利の期間構造)の決定要因について―本国債を中とした学術論のサーベイ―」ファイナンス 10 号41‒52

[56] 服部孝洋(2020a)「本国債先物―本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス 2 号70‒80

[57] 服部孝洋(2020b)「本国債先物―先渡と先物価格の乖離をむ要因―」ファイナンス 3 号37‒41