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1 3 電波 1. 電波望遠鏡の歴史 宇宙からの電波が地球に届いていることが発見されてからまだ 80 年くらいしか経っていない。1931 年、米国ベル電話研究所のカ ール・ジャンスキー(Karl Jansky)が、無線通信の障害となる雑音 電波の研究から、地球外からの電波を偶然に発見した(図 16-3- 1)。その電波の到来方向を詳しく調べた結果、その発生源が銀河 系の中心であることが判明した。当時の天文学者はこの大発見に 大きな関心を示さなかった。ところが、1937 年に、米国のアマチュア 天文家であるグロート・リーバー(Grote Reber)が、自宅の庭に木造 の口径 10mのパラボラ・アンテナを建設し、銀河系の電波地図を作 成することに成功した。このアンテナは宇宙からの電波を受信する 目的で作られた初めての電波望遠鏡である。 図 16-3-1 宇宙電波を発見した波長 15m のアンテナと発見者の カール・ジャンスキー (米国国立電波天文台)

その後、電波望遠鏡は大きな進化をとげ、感度で7 …cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Chap-16...2 その後、電波望遠鏡は大きな進化をとげ、感度で7桁、解像力

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3 電 波

1. 電 波 望 遠 鏡 の歴 史

宇 宙 からの電 波 が地 球 に届 いていることが発 見 されてからまだ

80 年くらいしか経っていない。1931 年、米国ベル電話研究所のカ

ール・ジャンスキー(Karl Jansky)が、無線通信の障害となる雑音

電波の研究から、地球外からの電波を偶然に発見した(図 16-3-

1)。その電波の到来方向を詳しく調べた結果、その発生源が銀河

系の中心であることが判明した。当時の天文学者はこの大発見に

大きな関心を示さなかった。ところが、1937 年に、米国のアマチュア

天文家であるグロート・リーバー(Grote Reber)が、自宅の庭に木造

の口径 10m のパラボラ・アンテナを建設し、銀河系の電波地図を作

成することに成功した。このアンテナは宇宙からの電波を受信する

目的で作られた初めての電波望遠鏡である。

図 16-3-1 宇宙電波を発見した波長 15m のアンテナと発見者の

カール・ジャンスキー (米国国立電波天文台)

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その後、電波望遠鏡は大きな進化をとげ、感度で 7 桁、解像力

(角度分解能)は 9 桁も向上した。表 16-3-1は世界の主な地上電

波 望 遠 鏡 の一 覧 である。電 波 望 遠 鏡 は、単 一 アンテナ電 波 望 遠

鏡と複数のアンテナ・受信機を結合する電波干渉計に分けられる。

単一アンテナ電波望遠鏡の中で、固定アンテナの Arecibo300m 球

面鏡、駆動可能なドイツ Effelsberg100m 鏡と米国 GBT(グリーンバ

ンク・テレスコープ)100m 鏡(図 16-3-2)、またミリ波帯では野辺山

45m鏡が、それぞれ世界最大級のものである。

表 16-3-1 世界の主な地上電波望遠鏡(理科年表より作成)

単 一 アンテナ

電 波 望 遠 鏡

電 波 干 渉 計 VLBI

メートル波 ・センチ波 Arecibo 球 面 鏡

(300m)

Effe lsberg (100m)

GBT(100m)

VLA(25mx27)

(最 大 基 線 36km)

GMRT(45mx30)

(最 大 基 線 25km)

VLBA(25mx10)

(最 大 基 線 8000km)

VERA(20mx4)

(最 大 基 線 2300km)

ミリ波 ・サブミリ波 LMT(50m)

野 辺 山 (45m)

IRAM(30m)

JCMT(15m)

ALMA

(12mx54+7mx12)

(最 大 基 線 18km)

SMA(6mx8)

(最 大 基 線 500m)

既 存 の電 波 望 遠 鏡 をリ

ン ク し た 観 測 を 行 う こ と

が あ る が 、 専 用 装 置 は

ない。

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図 16-3-2 世界最大規模の単一アンテナ電波望遠鏡 GBT(グリー

ンバンク・テレスコープ) (米国国立電波天文台)

電 波 干 渉 計 では、これまで米 国 ニューメキシコ州 の VLA(Very

Large Array)が最大規模であったが、それを大幅に上回る規模の

巨大電波干渉計 ALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計の略

でアルマと呼ぶ)が現在チリ・アタカマ高地で建設中である。ALMA

は、口径 12m アンテナ 54 台、口径 7m アンテナ 12 台の、合計 66

台を組み合わせた巨大な干渉計であり、最大 18km相当の電波望

遠鏡に匹敵する解像力を実現する(図 16-3-5)。ミリ波~サブミリ

波の波長帯をカバーし、ハッブル望遠鏡より一桁高い解像力を活

かし、銀河や星の形成と進化、惑星系や生命の誕生など天文学の

重要課題に挑戦する。2011 年から、完成した一部を使って既に試

験的な共同利用が開始されており、2013 年にはシステム全体が完

成し、本格的な運用が開始される。

VLBI(超長基線電波干渉計)では、大陸間など極端に離れた電

波 望 遠 鏡 を結 合 し、ミリ秒 角 以 下 の角 度 分 解 能 を実 現 する。この

種の電波望遠鏡では、米国の VLBA が最大規模であり、その基線

長(アンテナ間の距離)は 8 千 km にも及ぶ。さらに基線長を伸ばす

ための技術として、宇宙に打ち上げられたアンテナを利用するスペ

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ース VLBI がある。1997 年と 2011 年に、それぞれ日本とロシアから

打ち上げられたスペース VLBI 衛星では、地上の電波望遠鏡との

間で最大基線長 3 万km~35 万kmでの VLBI が実現した。

ALMA に継ぐ将来の巨大電波望遠鏡として、3 千 km の範囲に 3

千台以上のアンテナを展開し、全体で 1 平方kmの実効開口面積

を実現する SKA(Square Kilometer Array)計画が、イギリス、オラ

ン ダ 、 オ ー ス ト ラ リ ア な ど 8 ヵ 国 の 国 際 協 力 で 進 め ら れ て い る 。

ALMA とは逆にセンチメートル波からメートル波の長波長帯を狙っ

たもので、宇宙初期の暗黒時代に最初のブラックホールや最初の

星 がどのようにして誕 生 したかなどの謎 を解 くことが期 待 されてい

る。

2. 電 波 天 文 観 測

電波は可視光線や X 線と同じ電磁波の仲間であるが、波長が

遠赤外線より波長の長いものを言う。波長数十メートルより長い波

長の電波は地球の電離層を通過するときに吸収されるため、地上

の電波望遠鏡で観測できる波長は主にメートル波からサブミリ波に

かけての波長域に限られる。

天体からの電波は主に、高温の電離ガスからの「熱的電波」、高

エネルギー電 子 が磁 場 中 でらせん運 動 することで発 生 する「非 熱

的電波」(シンクロトロン放射ともいう)、星間ガス中の原子、分子が

発する「線スペクトル電波」の 3 種類に分けられる。電波天文観測

では、これら天体から発生する電波をアンテナで受信し、低雑音受

信 機 で検 出 やスペクトル分 析 (光 学 望 遠 鏡 での分 光 に相 当 )を行

う。

電波天文観測の最も基本となるのは、天体の電波強度分布(マ

ップ)を得ることである。単一アンテナ電波望遠鏡では、アンテナを 2

次元走査することにより、また電波干渉計では、複数のアンテナか

らの信号を相関させ、「開口合成」をすることにより、電波強度分布

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を得る。マップから、天体の構造(温度分布や密度分布)が求めら

れるが、そこに線 スペクトルの情 報 が加 わると、ガス中 の原 子 ・分

子の種類が分かり、さらにドップラー効果を利用すると、ガスの運動

についての情 報 が得 られる。また、偏 波 (光 の偏 光 と同 じ)の観 測

が出来る場合は、磁力線の構造(方向と強さ)についての情報を得

ることができる。

3. 単 一 アンテナ電 波 望 遠 鏡

単一アンテナ電波望遠鏡は、電波望遠鏡の中で最も基本となる

ものである。図 16-3-3 はこのタイプの電波望遠鏡の基本構成であ

る。光学望遠鏡の反射鏡に相当するアンテナで受信した宇宙から

の極めて微弱な電波信号は、受信機システムで検出およびスペク

トル分析などの信号処理が行われる。アンテナや受信機などの制

御 および最 終 的 なデータ処 理 にはコンピュータが重 要 な役 割 を果

たす。

一 般 に、望 遠 鏡 の性 能 を表 す指 標 は、「解 像 力 」と「集 光 力 」で

ある。望遠鏡の解像力は(波長/口径)で、また、集光力(アンテナ

利得)は(口径/波長)2で決まる。したがって、解像力および集光力

のどちらも、口径が大きいほど、また波長が短いほど高くなる。

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図 16-3-3 単一アンテナ電波望遠鏡の基本構成。アンテナは光学

望遠鏡の反射鏡に相当し、宇宙からの微弱な電波を集める。アン

テナ焦点に設置される受信機前段部、その後の受信機後段部を

経て、信号処理部で信号の検出や分光(スペクトル分析)が行わ

れる。

アンテナ

解像力および集光力は、実際には、アンテナの鏡面精度と指向

精度によってその性能が制限される。大型アンテナになるほど、自

重による構造変形や風・日照による姿勢変化のため、口径に見合

った性能を達成することが困難となる。重力や風の影響を受ける地

上の望遠鏡では 100m 程度の口径(例:図 16-3-2の GBT)が限界

である。

メートル波のような長波長では、八木アンテナやその集合体など

の形式もあるが、ほとんどの電波望遠鏡で採用されているアンテナ

はパラボラ・アンテナである。鏡面精度 と指向精度はそれぞれ、観

測する最短波長でのアンテナビーム半値幅の 1/10~1/20 が要求

される。長波長帯では、金網の反射面でも十分反射鏡として機能

する一方、極めて高い精度が要求されるミリ波・サブミリ波観測用

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のアンテナでは、鏡面精度で 10 ミクロン、指向精度で 1 秒角程度

が要求される。このため、CFRP(炭素繊維)などの温度変化に強い

材 料 を使 用 したり、風 や日 射 の影 響 を避 けるため、光 学 望 遠 鏡 と

同様なドーム内(レドームと呼ばれる)に設置されることもある。

受 信 機 システム

検出感度を大きく左右する「受信機前段部(フロントエンドとも呼

ぶ)」はアンテナの焦点面に設置され、そこから出た信号を最終的

には「受信機後段部(バックエンドとも呼ぶ)」を経由して、最後にデ

ジタル分光計などの「信号処理部」で分光(スペクトル分析)処理な

どの高度な信号処理を行う。ここで重要なことは、宇宙から到来す

る電波は雑音性のものであり、地球大気など周囲の環境や観測装

置そのものから発生する雑音と区別がつかないことである。このた

め、アンテナを天 体 方 向 と背 景 の空 に交 互 に向 けてその差 分 をと

るスイッチング観測や、スペクトルの観測から天体からの信号と不

要な雑音を区別したりする。

フロントエンドとしては、過去にはメーザー増幅器やパラメトリック

増幅器などが使用されたこともあったが、その後はよりコンパクトで

格段に性能が高い方式が開発された。主にセンチ波帯までは冷却

した半導体増幅器が使われているが、ミリ波からサブミリ波にかけ

ては、絶対温度4度以下に冷却した SIS(超伝導)ミキサーと呼ば

れる周波数変換器を使用し、周波数をいったん低い周波数に変換

してから増幅を行う。バックエンドとしては、過去には、フィルターバ

ンクや音響光学型分光計が使用されたが、現在はデジタル型の分

光計がほとんどで、10GHz を超える帯域の実時間での信号処理が

可能となっている。

これまでの多くのフロントエンドでは、空の1方向しか見られない1

画素の CCD カメラ相当であったが、最近では焦点面に複数画素の

「アレイカメラ」を搭載できるようになり、数百画素のイメージが同時

に得られ、観測効率が大幅に向上させることができるようになった。

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アレイカメラ搭 載 の電 波 望 遠 鏡 が将 来 の主 流 となることは間 違 い

ない。

4. 電 波 干 渉 計

歴史的には、電波望遠鏡の解像力が光学望遠鏡に比べて格段

に低く、観測上の大きな制限となっていた。1940 年後半に、複数の

アンテナを結合する電波干渉計のアイデアが生まれ、最近では光

学望遠鏡の解像力を大幅に上回ることができるようになった。1946

年頃から、イギリスとオーストラリアで干渉計の開発競争が行われ、

その後イギリスのマーティン・ライル(Martin Ryle)らのグループが干

渉計技術を大きく発展させた「開口合成法」を編み出し、現在の世

界の干渉計の礎を築き上げた。

干 渉 計 の基 本 原 理 とシステム

電波干渉計の基本は、図 16-3-4 に示すようなアンテナ 2 素子の

干渉計である。干渉計の測定量は、各アンテナで受信した信号間

の相 関 関 数 (複 素 )の振 幅 と位 相 である。アンテナ間 隔 を離 すと、

天体のわずかな方向の変化でも位相変化として現れ、素子アンテ

ナの指向性では区別できないような天体の細かな構造(例えば原

始 惑 星 系 円 盤 や原 始 星 からの双 曲 流 ジェットなど)に関 する情 報

が得られる。干渉計の角度分解能は[波長/基線長]で決まるので、

長基線、短波長ほど、角度分解能が高くなる。

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図 16-3-4 電波干渉計の基本となる 2 素子干渉計の構成例。各

アンテナで受信した信号を長距離離れた相関器まで伝送できるよ

う、低い周波数に変換する。電波の振幅と位相の情報を忠実に維

持・伝送することが干渉計の性能を決定する。

図4の英文⇒和文

Mixer → 周波数変換器

LO → 局部発振器

IF Amp → 中間周波増幅器

LASER Synthesizer → レーザー基準信号発生器

Optical Fibers → 光ファイバー

Digital Spectro-correlator → デジタル分光相関器

図 16-3-4 のシステムは、ALMA の例である。周波数が極めて高

く、信号を直接長距離伝送することが不可能なため、各アンテナの

周波数変換器(現在は7つの周波数帯をカバーする SIS ミキサー

群)で低い周波数に変換し、中間周波増幅器で増幅後、デジタル

信号に変換して光ファイバーで長距離伝送する。特に位相情報が

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重要であり、干渉計システムの性能は、各アンテナで受信した信号

の振幅と位相の情報をいかに忠実に維持・伝送できるかにかかっ

ている。

このため、図 16-3-4 の例では、中央から光ファイバーで 2 波長の

レーザー信号を送り、各アンテナの LO(局部発振器)でそのビート

信号から周波数変換用の基準信号を作り出す。光ファイバーの伸

び縮みで位相が狂わないように、ファイバー長を常時ミクロン精度

で計測し補正している。デジタル分 光 相 関 器は、専用の超高速デ

ジタル信号処理装置であり、アンテナ間の信号遅延を補正した後、

数千チャンネルのスペクトル成分に分解し、各周波数成分ごとの相

関値を求める処理が実時間で行われる。

ALMA では口径 12m アンテナ 54 台、口径 7m アンテナ 12 台の、

合計 66 台を組み合わせた巨大な電波干渉計(図 16-3-5)である

が、基本的には、多くの 2 素子干渉計に分解して考えることができ

る。一般に、N 台アンテナがあると、N(N-1)/2 だけの 2 素子干渉計

の組み合わせがあり得るので、ALMA には 2145 組の 2 素子干渉計

が存在する。

図 16-3-5 標高 5000m に居並ぶ ALMA のアンテナ群。口径12m

アンテナ 54 台、口径7mアンテナ 12 台、合計 66 台の高精度アン

テナを組み合わせ、最大口径18kmのパラボラアンテナに相当す

る解像力を実現する。 [ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)]

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開 口 合 成 法

ある基線長の 2 素子干渉計は、天体の輝度分布の中の特定の

フーリエ成分(空間周波数成分)に感ずる共振器のような働きをす

る。図 16-3-6 に示すように、アンテナ間隔(基線長)を長くしていく

と、より高いフーリエ成分を観測することになる。ここで点状の電波

源 を観 測 する場 合 を想 定 する。一 つの基 線 長 で観 測 すると、ある

正弦波状のレスポンス(干渉縞と呼ぶ)となるが、天体がどの山の

方向にあるか不定となる。そこで、いくつかの基線長で観測した結

果をコンピュータの中で足し算すると図6の最下部にあるように、真

の方向に鋭いレスポンスが得られ、この方向に天体があることが分

かる。たった 2 台のアンテナでも、アンテナ間隔を変えながら観測す

ることにより、原理的にいくらでも高い解像力を得ることが可能とな

る。これが、1 次元での開口合成の原理である。このとき、全体の

観測時間内では、天体の輝度分布が変化しないという条件が必要

であるが、激 しく変 化 する太 陽 のような天 体 を除 けば、ほとんどの

天体に適用可能である。

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図 16-3-6 1 次元の場合の開口合成の原理。短い基線長(No.1 と

No.2 のアンテナ間隔)の観測ほど、天体の広がった成分に感度が

あり、基線長を長くするほど細かな構造に感度がある。たった 2 台

のアンテナでも、基線長を変えて観測を繰り返し、そのデータを最

後に合成するとシャープな画像が得られる(最下段、点源の場合の

シミュレーション)

2 次元の天体の輝度分布は、2 次元的に基線長を変化させること

によって得られるが、大変手間がかかることになる。そこでライルら

のグループは、地 球 の自 転 を利 用 すると、アンテナ移 動 の手 間 を

大幅に減らすことができることを発見し、「地球の自転を利用した開

口 合 成 法 」を編 み出 した。観 測 対 象 の天 体 から地 球 を見 ると、図

16-3-7 のように、自転にともなって基線の方向と長さが時々刻々

変 化 する。この時 観 測 されるフーリエ成 分 をコンピュータの中 に蓄

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え、観測後フーリエ変換という処理を施すと、天体の 2 次元画像が

得られる。一般には、観測効率を上げるために、なるべく多くのアン

テナを基線の重複を最小とする配列に並べて観測が行われる。

図 16-3-7 天体から見た干渉計基線の変化。観測する天体から

見ると、No.1 と No.2 の 2 台のアンテナを結ぶ干渉計基線の方向と

間隔が、地球の回転にともなって、時々刻々変化する。この原理に

より、アンテナ移動の手間を大幅に改善したのが、「地球の自転を

利用した開口合成法」である。

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5. VLB I (超 長 基 線 電 波 干 渉 計 )

アンテナ間隔を数百 km から数千 km にまで拡張して、天体の超

微 細 の 構 造 を 描 き 出 す 手 法 が VLBI (Very Long Baseline

Interferometer) である。場合によっては、大陸間の電波望遠鏡を

組み合わせて干渉観測が行われる。

VLBI では、通常の干渉計とは異なり、各アンテナからの信号をケ

ーブル等 で伝 送 することが不 可 能 となる。そこで、各 アンテナで受

信した信号を高密度のテープレコーダなどに記録し、それを一ヵ所

に運び、相関処理を行う。このとき、信号の記録と同時に極めて精

確な原子時計の信号を同時に記録し、干渉計として重要な位相の

情報を失わないようにする。

既 存 の電 波 望 遠 鏡 を組 み合 わせた VLBI 観 測 も行 われるが、

VLBI 専用の望遠鏡も建設されており、口径 25m アンテナ 10 基を

最大 8 千 km に展開する米国の VLBA が世界最大である。日本で

も、口径 20m アンテナ 4 基を日本列島に沿って設置し、2300km の

最 大 基 線 長 を 有 す る VERA (VLBI Experiment of Radio

Astronomy) がある。

地球上のアンテナを組み合わせた VLBI の最長基線長が地球の

直 径 で制 限 されていたが、1997 年 に日 本 で世 界 初 のスペース

VLBI 衛星「はるか」が打ち上げられ、軌道上の口径8mアンテナと

地上 VLBI ネットワークを結合する最大基線長 3 万kmの干渉計が

実現した。また、2011 年には、ロシアの口径 10mスペース VLBI 衛

星「RADIOASTRON」が打ち上げられ、最大基線長 35 万kmでの

VLBI 観測が可能となった。

VLBI 技術は電波天文学特有のものであるが、今後もさまざまな

工 夫 がされて、電 波 領 域 における超 高 解 像 イメージングに挑 んで

いくことが期待される。