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視覚障害者の社会生活におけるアクセシビリティを向 上に関する取り組みとして,例えば,視覚障害者を目的地 への誘導する方法として盲導鈴を用いた誘導,誘導ブロ ックを用いた誘導等が導入されている。盲導鈴の場合,目 的場所ごとに盲導鈴を設置する必要があり,設置場所の 確保や騒音等の問題が存在する。誘導ブロックによる方 法においてもあらゆる場所に誘導ブロックを設置するのは 困難である。一方これらの方法のメリットとしては視覚障害 者自身が用意すべき物として後述の特別な機器を必要と しない点が挙げられる。周囲への騒音や設置場所の問題 を解決する方法として,近年ではIT技術を利用した目的 地への誘導支援システムが研究されており,携帯音楽プ レーヤーを使用した誘導手法や白杖を改良した誘導手法 等が研究されている。しかし,これらは視覚障害者自身が 必要な機材を所持する必要や,イヤホンで音を聞く場合 は周りの環境音を遮って歩行時の危険性が増してしまう。 本研究の目的は,特定の場所にいる支援対象者に対し 周りへの騒音を抑えつつ,目的地方向を分かりやすく提 示するシステムを用いて,視覚障害者や外国人のアクセ シビリティ向上を図ることである。 1.超指向性スピーカーによる音のピンポイント再生 定位ある音像を支援対象者に対してヘッドフォンのよう な装着型のデバイスを用いずに提示するには,左耳用の 信号は左耳のみへ,右耳用の信号は右耳のみへというよ うに立体音響の信号を各耳へ選択的に伝達させる必要が ある。装着型デバイスでないスピーカーを用いて上記の 条件を満たすには,再生音が鋭い指向性を持つパラメトリ ックスピーカーを用いることが有効である。 パラメトリックスピーカーは,再生信号を超音波波形で AM変調を行った信号を強力に照射し,スピーカーから伝 搬する媒質の非線形性によって信号が復調されて,再生 信号が聞こえる。音を再生の際の指向性は,その波長に 比例するため,超音波(波長が短い)の指向性でピンポイ ント再生が可能となる。 2.頭部伝達関数の活用による音像の定位方向操作 バイノーラル録音・再生技術とは人の頭,耳介の形状を 再現したダミーヘッドを用い,鼓膜の位置においてマイク ロフォンにより録音し,ユーザがヘッドフォンから再生する ことによりダミーヘッドの位置における定位のある音を聞く ことができる。これらはバイノーラル録音・再生技術と呼ば れており,今回我々はスピーカーを用いたバイノーラルシ ステムを開発した。 Figure ステレオ超指向性スピーカーによる音像定位 代表発表者 / 問合せ先 3 0 5 - 8 5 7 3 1 - 1 - 1 0 2 9 - 8 5 3 - 5 3 3 8 , z e m p o @ i i t . t s u k u b a . a c . j p , h t t p : / / w w w . x p e r c e p t . a c l a b . e s y s . t s u k u b a . a c . j p (1)視覚障害者支援 (2)アクセシビリティ (3)立体音響・超指向性スピーカー 森賀 正貴(筑波大院・シス情工) 水谷 孝一(筑波大・シス情系) 若槻 尚斗(筑波大・シス情系) 川本 雅之(筑波大・産学連携) P-56 58

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Page 1: P-56 ステレオ超指向性スピーカーによる 音像定位 … › ... › P-056_showcase2017.pdfはじめに 視覚障害者の社会生活におけるアクセシビリティを向

■ はじめに

視覚障害者の社会生活におけるアクセシビリティを向

上に関する取り組みとして,例えば,視覚障害者を目的地

への誘導する方法として盲導鈴を用いた誘導,誘導ブロ

ックを用いた誘導等が導入されている。盲導鈴の場合,目

的場所ごとに盲導鈴を設置する必要があり,設置場所の

確保や騒音等の問題が存在する。誘導ブロックによる方

法においてもあらゆる場所に誘導ブロックを設置するのは

困難である。一方これらの方法のメリットとしては視覚障害

者自身が用意すべき物として後述の特別な機器を必要と

しない点が挙げられる。周囲への騒音や設置場所の問題

を解決する方法として,近年ではIT技術を利用した目的

地への誘導支援システムが研究されており,携帯音楽プ

レーヤーを使用した誘導手法や白杖を改良した誘導手法

等が研究されている。しかし,これらは視覚障害者自身が

必要な機材を所持する必要や,イヤホンで音を聞く場合

は周りの環境音を遮って歩行時の危険性が増してしまう。

本研究の目的は,特定の場所にいる支援対象者に対し

周りへの騒音を抑えつつ,目的地方向を分かりやすく提

示するシステムを用いて,視覚障害者や外国人のアクセ

シビリティ向上を図ることである。

■ 活動内容

1.超指向性スピーカーによる音のピンポイント再生

定位ある音像を支援対象者に対してヘッドフォンのよう

な装着型のデバイスを用いずに提示するには,左耳用の

信号は左耳のみへ,右耳用の信号は右耳のみへというよ

うに立体音響の信号を各耳へ選択的に伝達させる必要が

ある。装着型デバイスでないスピーカーを用いて上記の

条件を満たすには,再生音が鋭い指向性を持つパラメトリ

ックスピーカーを用いることが有効である。

パラメトリックスピーカーは,再生信号を超音波波形で

AM変調を行った信号を強力に照射し,スピーカーから伝

搬する媒質の非線形性によって信号が復調されて,再生

信号が聞こえる。音を再生の際の指向性は,その波長に

比例するため,超音波(波長が短い)の指向性でピンポイ

ント再生が可能となる。

2.頭部伝達関数の活用による音像の定位方向操作

バイノーラル録音・再生技術とは人の頭,耳介の形状を

再現したダミーヘッドを用い,鼓膜の位置においてマイク

ロフォンにより録音し,ユーザがヘッドフォンから再生する

ことによりダミーヘッドの位置における定位のある音を聞く

ことができる。これらはバイノーラル録音・再生技術と呼ば

れており,今回我々はスピーカーを用いたバイノーラルシ

ステムを開発した。

Figure ステレオ超指向性スピーカーによる音像定位

医療・福祉・介護

ステレオ超指向性スピーカーによる 音像定位方向の操作

代表発表者 善甫 啓一 (ぜんぽ けいいち) 所 属 筑波大学システム情報系知能機能工学域 知覚拡張システム研究室/音響システム研

問合せ先 〒305-8573 つくば市天王台 1-1-1

029-853-5338, [email protected], http://www.xpercept.aclab.esys.tsukuba.ac.jp

■キーワード: (1)視覚障害者支援 (2)アクセシビリティ (3)立体音響・超指向性スピーカー■共同研究者: 森賀 正貴(筑波大院・シス情工) 水谷 孝一(筑波大・シス情系) 若槻 尚斗(筑波大・シス情系) 川本 雅之(筑波大・産学連携)

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