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伊豆の国市 歴史的風致 維持向上計画 策定の背景 伊豆の国市は、世界遺産登録の決定を受けた韮山反射炉をはじめ、豊富な歴史・文化資源に恵まれた土地であり、古くから歴史や伝統を反映した人々の生活が営まれ、それぞれ地 域固有の街並みや歴史的な建造物、そこで受け継がれてきている伝統的な祭事等は、その重層的な歴史を物語っており、本市の歴史的環境を形成している。 しかしながら、歴史的価値のある建造物等の維持管理に多くの費用や手間がかかること、また、高齢化や人口減少による担い手の不足により、適切な管理が出来ずに地域の歴史的 風致を損なう事態が懸念されている。 そこで、こうした本市を取り巻く状況に対応するため、平成 20 年(2008)に施行された「地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律」に基づき、豊富な歴史・文化資 源に恵まれた良好な環境(歴史的風致)を維持・向上させ、後世に継承するため「伊豆の国市歴史的風致維持向上計画」を策定するものである。 伊豆の国市の維持及び向上すべき歴史的風致 Page1 ▽伊豆の国市の維持及び向上すべき歴史的風致 韮山代官江川英龍ゆかりの江川邸・韮山反射炉界隈 の営みにみる歴史的風致 江戸時代、幕府の韮山代官職を世襲した 江川家の屋敷である「江川邸(重要文化財江 川家住宅・史跡韮山役所跡)」には、3 万 8 千点余にのぼる「重要文化財韮山代官江川 家関係資料」が伝来するとともに、江川家 と周辺の金谷地区の人々によって、「具足開 き」「御会式」などの年中行事が継承されて いる。周辺の山木地区は、江戸時代に韮山 代官所の郷宿としての役割を担っていた。 金谷地区には、江川家の菩提寺である日蓮 宗本立寺があり、江川家代々の墓所となっ ている。 「史跡韮山反射炉」は、江戸時代末、西洋式の鉄製大砲鋳造のため、 時の韮山代官江川英龍が築造した幕府直営の反射炉。炉体と煙突部分が 完全な形で残る、貴重な産業遺産である。 大正 11 年(1922)3 月に国の史跡となり、昭和 7 年(1932)には韮 山村(当時)が管理団体に指定され、町制施行・合併を経て、伊豆の国市が 保存管理を担っている。 昭和 32 年(1957)・平成元年(1989)の 2 回にわたって、大規模な保 存修理が実施され、今日まで適切に継承されてきた。 日本における製鉄産業の黎明期を象徴す るものとして、平成 27 年(2015)7 月「明 治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、 石炭産業」の構成資産として世界文化遺産 に登録された。世界遺産としての資産範囲 には、反射炉に水力を供給した「韮山古川」 も含まれている。地元有志の保存運動に始 まり、管理団体によって受け継がれてきた 韮山反射炉の保存と継承への営みにより、 地域を象徴するランドマークとなってい る。 史跡韮山反射炉 重要文化財江川家住宅 史跡韮山役所跡 ▽伊豆の国市の位置図 計画期間 2018 年度から 2027 年度

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Page 1: Page1 - Izunokuni...Page1 伊豆の国市の維持及び向上すべき歴史的風致 1 韮山代官江川英龍ゆかりの江川邸・韮山反射炉界隈 の営みにみる歴史的風致

伊 豆 の 国 市

歴 史 的 風 致

維持向上計画

策 定 の 背 景

伊豆の国市は、世界遺産登録の決定を受けた韮山反射炉をはじめ、豊富な歴史・文化資源に恵まれた土地であり、古くから歴史や伝統を反映した人々の生活が営まれ、それぞれ地

域固有の街並みや歴史的な建造物、そこで受け継がれてきている伝統的な祭事等は、その重層的な歴史を物語っており、本市の歴史的環境を形成している。

しかしながら、歴史的価値のある建造物等の維持管理に多くの費用や手間がかかること、また、高齢化や人口減少による担い手の不足により、適切な管理が出来ずに地域の歴史的

風致を損なう事態が懸念されている。

そこで、こうした本市を取り巻く状況に対応するため、平成 20 年(2008)に施行された「地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律」に基づき、豊富な歴史・文化資

源に恵まれた良好な環境(歴史的風致)を維持・向上させ、後世に継承するため「伊豆の国市歴史的風致維持向上計画」を策定するものである。

伊豆の国市の維持及び向上すべき歴史的風致

Page1

▽伊豆の国市の維持及び向上すべき歴史的風致 1 韮山代官江川英龍ゆかりの江川邸・韮山反射炉界隈

の営みにみる歴史的風致

江戸時代、幕府の韮山代官職を世襲した

江川家の屋敷である「江川邸(重要文化財江

川家住宅・史跡韮山役所跡)」には、3 万 8

千点余にのぼる「重要文化財韮山代官江川

家関係資料」が伝来するとともに、江川家

と周辺の金谷地区の人々によって、「具足開

き」「御会式」などの年中行事が継承されて

いる。周辺の山木地区は、江戸時代に韮山

代官所の郷宿としての役割を担っていた。

金谷地区には、江川家の菩提寺である日蓮

宗本立寺があり、江川家代々の墓所となっ

ている。

「史跡韮山反射炉」は、江戸時代末、西洋式の鉄製大砲鋳造のため、

時の韮山代官江川英龍が築造した幕府直営の反射炉。炉体と煙突部分が

完全な形で残る、貴重な産業遺産である。

大正 11 年(1922)3 月に国の史跡となり、昭和 7 年(1932)には韮

山村(当時)が管理団体に指定され、町制施行・合併を経て、伊豆の国市が

保存管理を担っている。

昭和 32 年(1957)・平成元年(1989)の 2 回にわたって、大規模な保

存修理が実施され、今日まで適切に継承されてきた。

日本における製鉄産業の黎明期を象徴す

るものとして、平成 27 年(2015)7 月「明

治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、

石炭産業」の構成資産として世界文化遺産

に登録された。世界遺産としての資産範囲

には、反射炉に水力を供給した「韮山古川」

も含まれている。地元有志の保存運動に始

まり、管理団体によって受け継がれてきた

韮山反射炉の保存と継承への営みにより、

地域を象徴するランドマークとなってい

る。 史跡韮山反射炉

重要文化財江川家住宅

史跡韮山役所跡

▽伊豆の国市の位置図

計画期間

2018 年度から 2027 年度

Page 2: Page1 - Izunokuni...Page1 伊豆の国市の維持及び向上すべき歴史的風致 1 韮山代官江川英龍ゆかりの江川邸・韮山反射炉界隈 の営みにみる歴史的風致

伊豆の国市の維持及び向上すべき歴史的風致

5 国清寺・毘沙門堂と奈古谷地区をめぐる歴史的風致 市の北東部、山地側に位置する奈古谷地区には、上杉憲顕の建立とされる「国

清寺」や、文覚上人の配流地と伝えられる「毘沙門堂」のほか、「大日石」「弘法

石」などの磨崖仏が点在し、中世以来の宗教的中心地であったことを伝える景観

が残る。また、江戸時代には山岳修験の拠点としても知られていた。毘沙門堂の

「だるま市」や観音堂の「観音講」などの伝統行事が、地域の人々によって伝承

されている。

2 狩野川をめぐる祭と信仰にみる歴史的風致 市内平野部を北流する狩野川は、農業や舟運、鮎などの漁場として、流域の人々に利用されてきた。一方で、度重なる

洪水によって、甚大な被害をもたらしてもきた。そのため、神島地区の「かわかんじょう」をはじめ、8 月 1 日前後の盆

の時期には、川沿いの各地で狩野川水難者を供養する行事や、多数の犠牲者を出した昭和 33 年(1958)の「狩野川台風

殉難者慰霊祭」が営まれている。

Page2

狩野川台風殉難者慰霊碑(南條地区)

6 韮山・大仁地域の神社の祭礼と三番叟にみる歴史的風致

韮山地区の「荒木神社」・「守山八幡宮」で行われる「三番叟」、田京地区の「広瀬神社」に伝わる「式三番叟」と、「熊

野神社」・「大仁神社」で奉納される「種蒔三番叟」、いずれも人が演じる三番叟であり、伊豆半島に広く伝承されている民

俗芸能である。11 月 3 日に行われる広瀬神社の例大祭では、式三番叟が奉納される他、神輿とともに、田京を含む周辺 5

地区の山車が、「しゃぎり」を演奏しながら巡行する。熊野神社・大仁神社の祭礼とともに、地域の信仰の中心としての良

好な風致を形成している。

毘沙門堂

4 伊豆長岡温泉にみる歴史的風致

『吾妻鏡』に記される「古奈温泉」と、明治 40 年(1907)に湧出した「長岡温泉」を合わせ「伊豆長岡温泉」という。古奈温泉は鎌倉時代

からの湯治場だが、長岡温泉の開場とともに、多くの温泉旅館や、犬養毅・後藤新平ら名士の別荘建築が相次ぎ、伊豆長岡温泉は大正・昭和期に

かけて発展した。

往時の様相を残す「あやめ小路」や、昭和初期の近代和風建築である「三養荘本館」(旧岩崎久彌別邸)などを含めた街並みと、平成 29 年(2017)

で 82 回目を数える 7 月の「源氏あやめ祭」、伊豆長岡温泉街の発展とともに成長してきた芸妓衆による踊りなどの芸能が、温泉街としての風致

を形づくっている。 あやめ御前供養祭 かつての古奈温泉のようす

松明といかだを作る人々 かわかんじょう

毘沙門堂 だるま市 広瀬神社例大祭・式三番叟 熊野神社例大祭・種蒔三番叟 大仁神社例大祭・種蒔三番叟

3 北条の里と旧下田街道にみる歴史的風致 守山を中心に、鎌倉幕府の執権として権勢を誇った北条氏の館跡である「史跡北条氏邸跡(円成寺跡)」・北条時政が、

源頼朝の奥州征伐戦勝祈願のため建立した「史跡願成就院跡」・室町幕府の関東支配の拠点であった「史跡伝堀越御所

跡」の三つの史跡が集中する。現在の「願成就院」には、「国宝運慶作諸仏」があり、隣接する「守山八幡宮」には、

寛永 9 年(1632)建立の社殿が残るとともに、10 月の例大祭では「三番叟」が奉納される。また、鎌倉時代の往還道

である「旧下田街道」沿いに、「中世在銘石造物群」がある「眞珠院」をはじめ、「信光寺」「光照寺」「成福寺」といっ

た寺院が所在し、中世の政治・宗教の中心地であったこの地域の歴史を物語る、良好な環境を形成している。 史跡北条氏邸跡(円成寺跡) 史跡願成就院跡 守山八幡宮 三番叟

Page 3: Page1 - Izunokuni...Page1 伊豆の国市の維持及び向上すべき歴史的風致 1 韮山代官江川英龍ゆかりの江川邸・韮山反射炉界隈 の営みにみる歴史的風致

江川邸と韮山反射炉を結ぶ道路の美装化事業

重要文化財江川邸と韮山反射炉を結ぶ南北の道で、道路愛称

「坦庵公思索の道」と名付けられている自然豊かな歩行者道路を

歴史の散歩道にふさわしい景観とするため、周辺の風景に調和し

た道路の美装化を行う。

●伊豆の国市の歴史的風致における重点区域

「1.韮山代官江川英龍ゆかりの江川邸・韮山反射炉界隈の営み

にみる歴史的風致」のうち、重要文化財江川家住宅を中心とする「韮

山山木・韮山金谷地区」、史跡韮山反射炉を中心とする「中地区」

と、「土手和田・南條地区」を含む地区を重点区域に設定する。歴

史的風致の維持向上に資する各種施策を展開していくものとする。

なお、重点区域は、今後、本計画を推進することで、本市の歴史的

風致の維持向上に効果的に寄与する範囲が生じた場合等に随時見

直しを行うものとする。

伊豆の国市の重点区域における施策・事業概要

Page3

重点区域

面積約 200ha

◇重点区域における事業

(1)歴史的建造物の保存・活用の推進に関する事業

(2)歴史・伝統を反映した活動の継承と

活性化に関する事業

(3)歴史文化資源の保存・活用の推進に関する事業

(4)歴史文化を生かした観光振興等による地域の

活性化に関する事業

韮山城跡総合調査事業

現在未指定である韮山城跡の国史跡指定を目指し、その本質

的価値を明らかにするため、総合調査を実施する。

江川文庫収蔵施設建設事業

韮山代官江川家関係資料・江川家関係写真を保存管理するため

の収蔵施設を建設する。

江川邸周辺の歴史的風致形成建造物保全事業

江川邸周辺地区内に点在している歴史的建造物(韮山稲荷、松

山稲荷、瀬田稲荷、明奉社、星の宮)について、維持保全を図る

ために、必要に応じ補修及び修復を行う。

(重文)韮山代官江川家関係資料美術工芸品保存修理等事業

「韮山代官江川家関係資料」の保存修理を実施する。

史跡韮山役所跡保存活用計画策定事業

重要文化財江川家住宅を含む史跡韮山役所跡について、適切な

保存と維持管理及び活用のための方針・手法・現状変更の取扱基

準等を定める。

重点区域における景観を阻害する電柱の撤去・移設事業

重要文化財江川邸から眺める富士

山の景色を阻害する電柱電線類の撤

去・移設を行い、周辺の風景に調和し

た景観を確保する。

▼景観の阻害

史跡韮山反射炉保存修理事業・

史跡韮山反射炉整備事業

煉瓦部分の劣化が進行している

韮山反射炉本体の保存修理工事を

実施する。また、史跡内に所在した

製砲工場(遺構)の発掘調査を行い、

成果に基づいて史跡整備を実施す

る。

▼韮山反射炉

無形文化財記録作成・保存事業

市内の祭礼や伝統行事について調査し、記録を作成すること

で、将来への継承を図るための基礎資料とする。

市域全体を対象とした事業

韮山反射炉に関する事業

江川邸に関する事業

市民組織の活動費補助事業

韮山反射炉の普及啓発・広

報活動を積極的に行ってい

る市民組織等に対し、支援を

行う。

▼観光客に説明をする

伊豆の国歴史ガイドの会

重点区域図