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2009.02.09-10 島根大学集中講義 1 1.はじめに 2.不安定粒子の質量スペクトル 3.長距離力と短距離力 4.ハドロンのクォーク構造 5.クォークの紐モデルと閉じ込め 6.ジェット現象 7.ゲージ理論とは? 第4講 QCD (Quantum ChromoDynamics) 量子色力学

(Quantum ChromoDynamics - Yamanaka Grouposksn2.hep.sci.osaka-u.ac.jp/~naga/kogi/shimane-class09/shimanelec... · 2009.02.09-10 島根大学集中講義 2 1.はじめに 素粒子標準理論の公理

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2009.02.09-10 島根大学集中講義 1

1.はじめに

2.不安定粒子の質量スペクトル

3.長距離力と短距離力

4.ハドロンのクォーク構造

5.クォークの紐モデルと閉じ込め

6.ジェット現象

7.ゲージ理論とは?

第4講

QCD (Quantum ChromoDynamics)

量子色力学

2009.02.09-10 島根大学集中講義 2

1.はじめに

素粒子標準理論の公理

1.物質はクォークとレプトンでできている。

2.粒子間に働く力は、重力、弱い力、電磁力強い力の4種 類があり、全てゲージ理論という数学的枠組みに従う。

3.我々を取り巻く真空はある種の超伝導状態にある。

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QCD

(量子色力学) (Quantum ChromoDynamics)

クォークとグルーオン場(色電磁場)の相互作用は

電子とフォトン場

(電磁場)

の相互作用 QED (Quantum Electro-

Dynamics= 量子電気力学) によく似ている。

ただし、電荷が3種類あり、グルーオン自身が電荷を持ち、自己相互作

用をすること

(数学的には非線形方程式となる。)

その結果:1)

漸近自由(近い距離ではクォークは自由に振る舞う)

2)

閉じ込め

(遠い距離では強い力が働き、クォークを単独では取り

出せない。)が現れる。 紐の出現

---(反誘電効果)---

赤 黄 緑R Y G

マゼンタ

シアンMg

Cy

青B

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2.不安定粒子の質量スペクトル素粒子は生成消滅し、一般に不安定である。

寿命と質量の不確定性は、ハイゼンベルグの

不確定性原理により関係づけられている。

Γ=FWHM (Full Width at half Maximum)

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粒子がハドロンの中を光速で通過する時間

相互作用に要する時間

質量と時間の不定性

は短いか長いか?

人間が相互作用する時間

10分?

を1単位とする人間が通勤にかける時間

30分人間の寿命

~80年

106 ~107 単位人間尺度の1015 単位は、宇宙年齢に匹敵

2009.02.09-10 島根大学集中講義 6

素粒子には、物質の構成要素の他に力の伝達粒子がある。

重力・弱い力・電磁力・カラー力(強い力)の基本的な担い手(ゲージ粒子)

は、グラヴィトン・W/Zボソン・フォトン・グルーオン

重力と電磁力は長距離力

強い力(核力)と弱い力は短距離力

3.長距離力と短距離力

2009.02.09-10 島根大学集中講義 7

“力の媒介粒子が質量を持つ。

到達距離が有限である。“ことの証明。

直観的証明ハイゼンベルグの不確定性原理より、力の粒子が質量mを持つならば、粒子の放出・吸

収により少なくもΔE=mc2の不定性が生じる。これは短い時間Δtの間だけ許されるから、

その間に相手に到達すれば力を伝えられる。

半古典的方法(電磁力からの類推)

湯川粒子は相対論的波動方程式クライン・ゴードンの式に従う。原点にポテンシャルの源

があるとして

これはm=0, g=e ならばクーロンポテンシャルをあたえる。方程式を解くと湯川ポテンシャ

ルとなる。

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QCD 色の力:

SU(3)

=3種類の電荷(R,G,B)

力の伝達粒子は8種のグルーオン:

クォークが、クォークのみが色荷を持つ。

ハドロンは無色の組み合わせのみ許される。

赤 黄 緑R Y G

マゼンタ

シアンMg

Cy

青B

4.ハドロンのクォーク構造

(ハドロンは分離可能な物質粒子の最小単位)

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ハドロンのクォーク構造

メソン

バリオン

陽 子=uud 中性子=udd

π+ =

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クォークモデルによるハドロンの分類:u,d,s,c によるSU(4) 分類と 赤面はu,d,s によるSU(3)分類

.

I3

Y=S+BC

C=チャーム数

Y=超電荷S=ストレンジネスB=バリオン数I3=アイソスピン

第3成分

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単独のクォークは発見されていない。

クォークは単独に取り出せない。切り離すには無限大のエネルギーが必要。

クォーク間のポテンシャル:

k1

クーロン力

k2

:

紐定数=紐の力~20トン

ある程度(~10-13cm)離れると、バラバラに千切れてハドロンを作る方が

エネルギー的に得をする。

クォークやグルーオンはハドロン(主にπメソン)ジェットとして観測される。

5.クォークの閉じこめと紐モデル

不確定性原理で真空ではクォーク・反クォーク対が現れたり消えたりしている。紐上でクォーク対が発生すると、紐が千切れる。

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第2種超伝導体

完全反磁性体

磁束は束になって超伝導体を貫く磁荷をつなぐ紐(アブリコソフの渦糸)になる

超伝導体

第1種超伝導体完全反磁性体

超伝導体では磁荷の閉じこめが起きている。

磁束の観測写真

マイスナー効果:磁力線は超伝導体の中に入れない

2009.02.09-10 島根大学集中講義 13

ハドロンの紐モデル(再訪問) 完全反誘電体の中では電気力線は束になる

磁極のNとSが決して切り離せないように、裸の色電荷も

単独では切り離せない。(カラーの閉じ込め)

上は電荷の作る電気力線下は閉じこめを与えるカラー電束

力∝ r -2

力 = 一定

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ポジトロニウムとチャーモニウムのレベル構

造はほとんど等しい。すなわち、力学構造が

同じ。ただし、エネルギースケールは100,000

倍違う。力の大きさが約100倍。(k1 ~g2~100e2)

K2 は、レッジェ軌跡から1GeV/c2~20トンと決められた。強い力(色の力)が電磁力とよく似ていた。

第4のクォーク、チャームクォークの発見(1974)

発見された一連の共鳴群は、レベル構造がポジトロニウム*によく似ており、チャーモニウ

ムと名付けられた。チャーモニウムは、クーロン力に似た力で結ばれた2個のスピン1/2粒子(

)の束縛状態と解釈できる。

*ポジトロニウムは、電子と陽電子の束縛状態。

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メソンをクォーク・反クォークの束縛状態と考える。閉じ込め力を

∝ rn

と置き、2個の粒子が光速で円運動しているとする。相対論的エネルギーは、クォークの質量を無視すれば

E=pc

ポテンシャルエネルギー

r の大きいところではクーロン力を無視すると、

ハドロンのレッジェ軌跡

J∝M2

閉じ込め力はどんなに距離が大きくても一定の大きさを持つことの理由

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3-jet 事象例 (JADE)・

2-jet 事象例 (VENUS)

6.ジェット現象クォークやグルーオンは、ハドロン化してジェット(沢山の粒子が同一方向に吹き出す)となる。

プレゼンター
プレゼンテーションのノート
1) 2-jet と 3-jet 構造 ・ e+ + e- q + q.bar   ・ e+ + e- q + q.bar + g グルオンの発見 1979- DESY PETRA, e+e-衝突型加速器 √s ~30GeV,

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QCDとQED

QEDでは電荷が力の源。QCDでは色(電)荷が力の源。

電子はフォトンの雲をまとっている。クォークはグルーオンの雲をまとっている。

電子が磁場で曲げられるとシンクロトロン放射を行う。(雲が振り切れフォトンが飛び出す。)

電子が原子核のクーロン場で曲げられると制動放射を行う。クォークがハドロンの中に入り、色荷によるクーロン場で曲げられると制動放射でグルーオンを放出する。

違いは裸の色電荷は閉じ込められ、観測できないこと(閉じ込め)。観測できるのは色電荷が中性(白色)のハドロンのみ。クォークやグルーオンはハドロン化する。

量子色力学

量子電気力学

クォークとグルオンの相互作用

電子とフォトンの相互作用

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ハドロン-ハドロン衝突ハドロンの中の一つのクォークが、他のハドロン内のクォークと2体弾性散乱

をして、残りのクォークは素通りする。クォークはソフトグルーオンを大量に放出してQCD雑音を作る。

エネル

ギー

φ

η=log tan θ

xt

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種々の素過程

ファインマン図

グルーオン-グルーオン散乱

がどう見えるか

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7.ゲージ理論とは?

ゲージ理論とはどんなものか?

おおよその考え方

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全てのゲージ場は電磁場の数学的拡張:

電荷種を増やすだけ

マクスウェル方程式

マクスウェル方程式はゲージ変換で不変。

(テンソル表記法)

。マクスウェルの方程式

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相対論的エネルギーと運動量

エネルギーと運動量の間には

非相対論近似

古典力学・電磁気学から量子力学への移行

ディラック方程式はシュレーディンガー方程式を相対論化したもの

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物質粒子の充たす相対論的方程式

を充たす4x4の行列であり、ディラック行列と呼ばれる。ψもまた4x1の行列波動関数であ

る。4成分は粒子・反粒子とスピン1/2の合計4つの自由度に対応する。

相対論的な表記のディラック方程式

量子場の理論での物質粒子の基本運動方程式ニュートン力学の第1法則に相当

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素粒子論では、粒子を場の励起状態とみなす。ψ

は1個の粒子の波動関数ではなく波動場と考える。

観測する前は、場=波と考えなければいけない。場とは?

時空の全領域で定義される物理量

観測したときのみ粒子像が現れる。大量に粒子を集めたときのみ古典的波として観測される。

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Top 10 beautiful experiments by Physics World

1 Young's double-slit experiment applied to the interference of single electrons2 Galileo's experiment on falling bodies (1600s) 3 Millikan's oil-drop experiment (1910s) 4 Newton's decomposition of sunlight with a prism (1665-1666) 5 Young's light-interference experiment (1801) 6 Cavendish's torsion-bar experiment (1798) 7 Eratosthenes' measurement of the Earth's circumference (3rd century BC) 8 Galileo's experiments with rolling balls down inclined planes (1600s) 9 Rutherford's discovery of the nucleus (1911) 10 Foucault's pendulum (1851)

http://physicsworld.com/cws/article/print/9746http://physics-animations.com/Physics/English/top10.htm

プレゼンター
プレゼンテーションのノート
The list below shows the top 10 most frequently mentioned experiments by readers of Physics World. Top 10 beautiful experiments 1 Young's double-slit experiment applied to the interference of single electrons 2 Galileo's experiment on falling bodies (1600s) 3 Millikan's oil-drop experiment (1910s) 4 Newton's decomposition of sunlight with a prism (1665-1666) 5 Young's light-interference experiment (1801) 6 Cavendish's torsion-bar experiment (1798) 7 Eratosthenes' measurement of the Earth's circumference (3rd century BC) 8 Galileo's experiments with rolling balls down inclined planes (1600s) 9 Rutherford's discovery of the nucleus (1911) 10 Foucault's pendulum (1851) Others experiments that were cited included: Archimedes' experiment on hydrostatics Roemer's observations of the speed of light Joule's paddle-wheel heat experiments Reynolds's pipe flow experiment Mach & Salcher's acoustic shock wave Michelson-Morley measurement of the null effect of the ether Röntgen's detection of Maxwell's displacement current Oersted's discovery of electromagnetism The Braggs' X-ray diffraction of salt crystals Eddington's measurement of the bending of starlight Stern-Gerlach demonstration of space quantization Schrödinger's cat thought experiment Trinity test of nuclear chain reaction Wu et al.'s measurement of parity violation Goldhaber's study of neutrino helicity Feynman dipping an O-ring in water

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シュレーディンガー方程式は、

に対して不変。

しかし、

に対しては不変でない。ところが、最小結合で電磁相互作用を入れると

すなわち微分演算子を共変微分演算子で置き換えると

とすると方程式はゲージ不変となる。

波動関数のゲージ変換

電磁場と最小結合するシュレーディンガー方程式はゲージ不変

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運動方程式が微分でなく共変微分

で書いてあればゲージ原理を充たす。

弱い力、強い力では電荷種が増えるのみ。変わるところは

標準理論における電磁力、弱い力、強い力全てこの式で表される。

ディラック方程式

マクスウェル方程式

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ゲージ原理とは関与する方程式が局所ゲー ジ不変性を充たすという原理。

局所ゲージ対称性を要求すると相互作用が 必然的に入る。

2009.02.09-10 島根大学集中講義 29

重力は空間の歪みとして理解できる。

質量(一般的にはエネルギー)が存在すると、空間を歪める。

光や粒子は空間で常に直線運動をする。空間が歪んでいると、直線は測地線になる。平面に投影すると曲線になる。結果的に質量が光や粒子に引力を及ぼすとみなせる。

力の幾何学的解釈一般相対性理論はゲージ理論の一種

電荷・弱荷;色荷を超空間の質量と考える。あるいはゲージ理論による力は、超空間の歪みと解釈できる。

空間を4+D次元と見なし(余剰次元空間)、電荷・弱荷・色荷を余剰次元の質量と考える理論が今盛んである。

超重力理論、紐の理論

慣性系で成立一般座標系で成立

微分を共変微分で書き直す

重力の幾何学的解釈

2009.02.09-10 島根大学集中講義 30

電荷・弱荷;色荷を超空間の質量と考える。ゲージ理論による力は、超空間の歪みと解釈できる。電磁場は超空間の曲率を表す。マクスウェル方程式は超空間の曲率を決める式

等価原理:

慣性系ではディラック方程式一般超空間では共変微分で書いたディラック方程式

空間を4+D次元と見なし(余剰次元空間)、電荷・弱荷・色荷を余剰次元の質量と考える理論が今盛んである。

超重力理論、紐の理論

ゲージ力の幾何学的表現

2009.02.09-10 島根大学集中講義 31