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LabClinPract.22(1):50-57(2004) 50 R-C.P.C. Reversed C.P.C. 抗生物質の服用後,鼻出血をきたした 22 歳,男性 名古屋掖済会病院中央検査部 深 津 俊 明 血液 03/8/8 8/28 9/22 11/5 WBC 10 3 /µ l ) 12.6 6.4 7.4 7.3 RBC 10 4 /µ l ) 356 317 395 455 HGB (g/dl ) 10.5 8.9 11.1 12.2 HCT (%) 31.5 27.8 33.5 38.1 MCV (fl) 88.5 87.7 84.6 83.7 MCH (pg) 29.5 28.2 28.1 26.8 MCHC (g/dl ) 33.3 32.2 33.2 32.0 PLT 10 4 /µ l ) 18.5 30.8 24.8 30.7 hemogram BASO (%) 0.1 0.1 0.5 0.1 EOSINO (%) 0.1 7.5 15.5 8.4 NEUTRO (%) 84.0 62.1 58.0 61.2 LYMPHO (%) 8.9 23.5 20.3 21.8 MoC (%) 6.9 6.8 5.7 8.5 凝固 03/8/8 8/28 9/22 11/5 PT (s) 14.2/12.7 13.7/12.6 INR 1.1 1.1 (%) 82.1 86.1 APTT (23-38 秒) 37.6 34.9 Fib (132-368mg/dl) 488 出血時間 (分) 8.0 4.5 2.0 (Duke 法) 1出血傾向 出血傾向とは,1.正常では出血しない程度の 軽い刺激により,または全く刺激なしに出血す る(閾値の低下),2.血管損傷や手術の際に過剰 出血を起こす(量や持続時間の増大)のいずれか を指す.出血傾向(止血異常)に関与する因子は 1.血管(血管内皮細胞と内皮下組織),2.血小板, 3.血液凝固因子,4.線溶因子,であり,出血傾 向の原因もこの 4 つに大別できる(1). 臨床化学 03/8/8 8/28 9/22 11/5 TP (g/dl ) 6.3 7.1 7.3 8.0 Alb (g/dl ) 3.2 4.0 4.2 4.7 T-Cho (mg/dl ) 163 155 174 AST (8-35IU/l ) 18 15 14 15 ALT (4-30IU/l ) 31 16 7 12 LD (120-230IU/l ) 202 167 175 166 CK (55-270IU/l ) 18 35 37 ALP (90-300IU/l ) 224 243 278 γ GT (10-47IU/l ) 36 23 22 T-Bil (mg/dl ) 0.9 0.5 0.3 0.6 UN (mg/dl ) 16.8 10.5 12.4 12.7 CRE (mg/dl ) 0.92 0.89 0.79 0.79 Na (mEq/l ) 130 138 141 142 K (mEq/l ) 4.5 5.0 4.6 4.6 Cl (mEq/l ) 97 101 103 100 Glu (mg/dl ) 122 96 96 98 CRP (mg/dl ) 17.37 0.67 0.20 出血傾向を認める患者にはまず,既往歴として 過去の出血歴の有無(抜歯や出産,手術時の止血 状況),家族歴,薬剤の服用歴を確認する.血小 板・血管の異常では,出血斑は小さく点状出血 (petechia)で浅在性の鼻出血や下血が多いのに対 し,凝固因子の異常では関節内出血や筋肉内出血 などの深部出血が特有で,遅延性の出血もみられ る.出血傾向のスクリーニング検査としては血小 板数,プロトロンビン時間(PT),活性化部分ト ロンボプラスチン時間(APTT),出血時間を実施 する(2).スクリーニング検査がすべて正常の 場合は,血管性紫斑病,血液凝固 XIII 因子欠損 症,プラスミンインヒビター欠損症,軽症 von Willebrand 病などを疑う.

R C.P.C. - jaclap.org · Reversed C.P.C. - 53 - ×104/µ l 以下で出血時間の延長をみる),明らか な血小板減少時には出血時間を実施する意味はな--).)

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Lab.Clin.Pract.,22(1):50-57(2004)

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R-C.P.C.

Reversed C.P.C. 抗生物質の服用後,鼻出血をきたした 22 歳,男性

名古屋掖済会病院中央検査部

深 津 俊 明 血液

03/8/8 8/28 9/22 11/5

WBC (×103/µ l ) 12.6 6.4 7.4 7.3RBC (×104/µ l ) 356 317 395 455 HGB (g/dl ) 10.5 8.9 11.1 12.2HCT (%) 31.5 27.8 33.5 38.1MCV (fl) 88.5 87.7 84.6 83.7MCH (pg) 29.5 28.2 28.1 26.8MCHC (g/dl ) 33.3 32.2 33.2 32.0PLT (×104/µ l ) 18.5 30.8 24.8 30.7hemogram BASO (%) 0.1 0.1 0.5 0.1 EOSINO (%) 0.1 7.5 15.5 8.4 NEUTRO (%) 84.0 62.1 58.0 61.2 LYMPHO (%) 8.9 23.5 20.3 21.8 MoC (%) 6.9 6.8 5.7 8.5

凝固

03/8/8 8/28 9/22 11/5

PT (s) 14.2/12.7 13.7/12.6 INR 1.1 1.1 (%) 82.1 86.1APTT (23-38 秒) 37.6 34.9Fib (132-368mg/dl) 488 出血時間 (分) 8.0 4.5 2.0 (Duke 法)

1.出血傾向

出血傾向とは,1.正常では出血しない程度の

軽い刺激により,または全く刺激なしに出血す

る(閾値の低下),2.血管損傷や手術の際に過剰

出血を起こす(量や持続時間の増大)のいずれか

を指す.出血傾向(止血異常)に関与する因子は

1.血管(血管内皮細胞と内皮下組織),2.血小板,

3.血液凝固因子,4.線溶因子,であり,出血傾

向の原因もこの 4 つに大別できる(表1).

臨床化学

03/8/8 8/28 9/22 11/5

TP (g/dl ) 6.3 7.1 7.3 8.0Alb (g/dl ) 3.2 4.0 4.2 4.7T-Cho (mg/dl ) 163 155 174 AST (8-35IU/l ) 18 15 14 15 ALT (4-30IU/l ) 31 16 7 12 LD (120-230IU/l ) 202 167 175 166 CK (55-270IU/l ) 18 35 37 ALP (90-300IU/l ) 224 243 278 γ GT (10-47IU/l ) 36 23 22 T-Bil (mg/dl ) 0.9 0.5 0.3 0.6UN (mg/dl ) 16.8 10.5 12.4 12.7CRE (mg/dl ) 0.92 0.89 0.79 0.79Na (mEq/l ) 130 138 141 142 K (mEq/l ) 4.5 5.0 4.6 4.6

Cl (mEq/l ) 97 101 103 100

Glu (mg/dl ) 122 96 96 98

CRP (mg/dl ) 17.37 0.67 0.20

出血傾向を認める患者にはまず,既往歴として

過去の出血歴の有無(抜歯や出産,手術時の止血

状況),家族歴,薬剤の服用歴を確認する.血小

板・血管の異常では,出血斑は小さく点状出血

(petechia)で浅在性の鼻出血や下血が多いのに対

し,凝固因子の異常では関節内出血や筋肉内出血

などの深部出血が特有で,遅延性の出血もみられ

る.出血傾向のスクリーニング検査としては血小

板数,プロトロンビン時間(PT),活性化部分ト

ロンボプラスチン時間(APTT),出血時間を実施

する(表2).スクリーニング検査がすべて正常の

場合は,血管性紫斑病,血液凝固 XIII 因子欠損

症,プラスミンインヒビター欠損症,軽症 von

Willebrand 病などを疑う.

Reversed C.P.C.

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表1 出血傾向をきたす主な疾患・病態 文献 1)より引用改変

1.血管壁の異常

先天性:血管内皮下障害:Ehlers-Danlos 症候群,Marfan 症候群

血管内皮障害:遺伝性出血性末梢血管拡張症(Osler 病)

後天性:血管内皮下障害:単純性紫斑,老人性紫斑,ステロイド紫斑

血管内皮障害:アレルギー性紫斑病(Schölein-Henoch 紫斑病)

2.血小板の異常

1)減少:産生の低下:薬剤性,放射線照射,再生不良性貧血,白血病

破壊の亢進:特発性血小板減少性紫斑病,血栓性血小板減少性紫斑病,

薬剤性

分布の異常:脾機能亢進症

増加:原発性:本態性血小板血症,その他の骨髄増殖性疾患

反応性:炎症性疾患,悪性腫瘍

2)機能異常:内因性:血小板無力症,Bernard-Soulier 症候群

外因性:von Willebrand 病,尿毒症,血漿蛋白異常症,薬剤性

3.血液凝固の異常

血友病などの先天性凝固因子欠損症,循環抗凝血素,抗凝固剤投与,ビタミン K 欠乏

4.線溶の異常

血栓溶解剤投与,プラスミノゲンアクチベーターの増加,プラスミンインヒビター欠損

5.複合異常

播種性血管内凝固症候群(DIC),肝疾患

表2 出血傾向のスクリーニング検査 文献 2)より引用改変

主な原因 血小板 出血時間 PT APTT 欠陥部位

後天性 先天性

正常 正常 延長 正常 外因系凝固 肝疾患,ワルファリン投

与,ビタミン K 欠乏 Ⅶ因子欠損

正常 正常 正常 延長 内因系凝固 ヘパリン投与,循環抗凝血

素 血友病 A,B

正常 正常 延長 延長 共通・複合凝固肝疾患,抗凝固薬投与,ビ

タミン K 欠乏,線溶亢進

Ⅴ,Ⅹ,Ⅱ因子欠損,異常

フィブリノゲン血症

低下 延長 延長 延長 複合 DIC,肝疾患

低下 延長 正常 正常 血小板減少 特発性血小板減少性紫斑

病,薬剤性

正常 延長 正常 正常 血小板機能異常尿毒症,血漿蛋白異常症,

薬剤性

血小板無力症,顆粒放出異

常症

正常 延長 正常 延長 von Willebrand 病

正常 正常 正常 正常 血管・線溶異常 血管性紫斑病 軽症 von Willebrand 病,

ⅩⅢ因子欠損

2.止血機構 3)

血管が破綻し出血が起こった場合,止血の第一

歩は血管内皮の傷害により露出した血管内皮下へ

の血小板の粘着である.この粘着は血管内皮下の

コラゲンやフィブロネクチンと血小板膜糖蛋白

GP I b との von Willebrand 因子(vWF)を介した結

合である.ADP,コラゲン,エピネフリン,トロ

ンビンなどの血小板凝集惹起物質が受容体に作用

すると,ホスホリパーゼ A が活性化され,Ca の

存在下で膜のリン脂質からアラキドン酸を遊離し,

シクロオキシゲナーゼ(COX)により,プロスタグ

ランジンエンドペルオキサイド PGG 2・PGH 2に

変換される.血小板内に留まったエンドペルオキ

Lab.Clin.Pract. (2004)

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サイドはトロンボキサン合成酵素によりトロンボ

キサン(TX)A 2に変換される.TXA 2は強力な血小

板活性化作用を有し,凝集・顆粒放出を惹起する.

また,血小板に刺激が加わるとイノシトール 3 リ

ン酸(IP3)や G 蛋白などの second messenger が活

性化され,蛋白のリン酸化および細胞内の遊離

Ca 増加を導き,血小板は変形や凝集・顆粒放出

をきたす.一方,血小板外に放出されたエンドペ

ルオキサイドは血管内皮細胞に取り込まれプロス

タサイクリン合成酵素によりプロスタサイクリン

PGI 2に変換される.PGI 2は血小板の受容体と結

合後,アデニル酸シクラーゼを活性化し,cyclic

AMP の生成を促進する.cyclic AMP は IP 3の作

用に拮抗し,血小板凝集・顆粒放出を抑制する.

cyclic AMP はホスホジエステラーゼで分解される.

このように血小板の刺激-活性化には多くの生理

活性物質が関与し,バランスを調整している.活

性化された血小板は膜糖蛋白 GP II b-Ⅲa の構造

変化をきたし,相互にフィブリノゲンを介して接

着し,凝集を惹起して血小板内のα 顆粒(β-トロ

ンボグロブリン ; β TG,血小板第4因子 ; PF4,

vWF,フィブリノゲン,トロンボスポンジン,な

ど)と濃染顆粒(ADP,ATP,セロトニン ; 5-HT,

など)を放出する.こうして凝集した血小板は,

活性化され放出反応を示し,さらに多くの血小板

を呼び集め(正のフィードバック),凝集塊は次第

に成長して血小板血栓ができる(一次止血).変化

した血小板膜(リン脂質)上では,活性化したⅤ因

子とⅩ因子が結合し,Ca イオンの存在下で,プ

ロトロンビンをトロンビンに転化する(プロコア

グラント活性 ; 血小板第 3 因子).さらに,血小

板の GPⅡb-Ⅲa はフィブリンと結合し血餅収縮

を起こす.フィブリンはトロンビンにより活性化

されたⅩⅢ因子により安定化し,止血血栓となり

止血が完了する(二次止血).

3.出血時間 4)

出血時間の測定法は,耳朶を穿刺する Duke 法

と上腕にマンシェットで40mmHg の圧をかけ前

腕に一定の切創を加える Ivy 法があり,いずれも

切創を加えて出血してから湧出する血液が自然に

止血するまでの時間を測定する.Duke 法は古典

的方法で日本ではよく行われているが,切創が一

定になり難く,環境温度にも影響されるため,再

現性に乏しい検査である.基準値は 5 分以内とさ

れる.Ivy 法には種々の改良法があり,Template

(型板)を用いて切創を一定にした Template Ivy 法

やディスポーザブル器具で切創を加える Simplate

法があり,基準値は 10 分以内である.Duke 法は

血管収縮から一次止血完了まで,Ivy 法は上腕を

加圧して毛細血管の影響を除いているため,血小

板粘着から一次止血完了までが反映される.従っ

て,出血時間は,血小板数,血小板機能,vWF,

血管(内皮下組織コラゲン)の異常により延長し

(表3),凝固因子障害では正常である.血小板減

少症で出血時間が延長するのは当然であり(7~10

表3 出血時間延長の原因 文献 5)より引用改変

1.血小板自体の異常

・量的異常-血小板減少症

・機能異常-先天性:血小板無力症,放出機構異常症,Bernard-Soulier 症候群

後天性:薬剤性(抗血小板薬,NSAIDs,など),尿毒症,血漿蛋白異常症

・本態性血小板血症,骨髄異形成症候群

2.血小板機能に関与する血漿蛋白の異常

・von Willebrand 病

・先天性無フィブリノゲン血症

3.血管の異常 ・遺伝性出血性末梢血管拡張症(Osler 病)

・Ehlers-Danlos 症候群

Reversed C.P.C.

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×104/µ l 以下で出血時間の延長をみる),明らか

な血小板減少時には出血時間を実施する意味はな

い.血小板数が正常で出血時間が延長している場

合には,血小板機能異常や von Willebrand 病を考

えるが,日常診療ではアスピリンなどの非ステロ

イド系抗炎症剤 ; NSAIDs や塩酸チクロピジン

(パナルジン®)などの抗血小板薬の服用例が多く,

詳細な薬剤服用癧の聴取が必要となる.術前のス

クリーニング検査として出血時間を実施している

施設も未だに多いが,手術時の出血量と出血時間

との間に相関はなく,治療方針が出血時間の結果

により変更されることも少ない.このため,術前

スクリーニングとしての出血時間には意味はなく,

出血傾向の既往歴や薬剤服用歴,家族歴の詳細な

聴取で充分と考えられる.

4.血小板凝集能 6)

クエン酸ナトリムにて採血した血液から遠心に

より多血小板血漿(PRP)と乏血小板血漿(PPP)を

作成して PRP の透過度を 0%,PPP の透過度を

100%に設定し,凝集惹起物質を添加後の血小板

凝集塊の形成を透過度の増加として検出する

(Born 法).低濃度の ADP やエピネフリンで刺激

した場合,まず血小板の形態変化(円盤状→球状

化)が生じて透過度は軽度低下した後,凝集反応

の開始とともに上昇するが,顆粒の放出を伴わな

いと血小板凝集は次第に乖離し,透過度は再び低

下する(一次凝集,可逆的凝集).これに対し,コ

ラゲンおよび高濃度の ADP・エピネフリン刺激

では顆粒の放出反応をきたして持続的な凝集が生

じ,透過度はプラトーに達する(二次凝集,不可

逆的凝集).一般に ADP 10µmol/l,エピネフリン

2µg/ml , コ ラ ゲ ン 4µg/ml , リ ス ト セ チ ン

1.5mg/ml 以上の濃度の凝集惹起物質を添加して

も凝集が起こらないか,あるいは最大凝集率が低

下(50%以下)する場合に凝集低下と判定する.一

次凝集の欠如は GPⅡb-Ⅲa とフィブリノゲンの

相互作用の異常時に起こり,その他の凝集異常の

大部分は二次凝集の欠如・低下をもたらす.

血小板機能異常症は先天性と後天性に分けられ

る7).先天性は稀であるが,それぞれ特徴的な血

小板凝集曲線を示す.ADP・エピネフリン・コラ

ゲン刺激により一次凝集の減弱・二次凝集欠如の

パターンは血小板無力症で,一次凝集正常・二次

凝集欠如のパターンは顆粒放出異常症で,リスト

セチン凝集の特異的減弱は von Willebrand 病と

Bernard-Soulier 症候群で認められる.重症な出

血に対しては血小板輸血が行われる.一方,後天

性血小板機能異常症は,頻度も高く,種々の疾患

に随伴する8)9).また,血小板機能以外の出血性

要因が付加されている場合もある(表4).特に,

薬剤は血小板機能に影響を与える10).抗血小板薬

やアスピリンをはじめとする非ステロイド性抗炎

症剤 ; NSAIDs はよく知られている.脳循環代謝

改善薬や冠動脈拡張薬は作用からも血小板凝集抑

制は推測できるが,三環系抗うつ剤や抗生物質な

どの思わぬ薬剤が血小板機能に影響して出血傾向

をもたらすことがあり,注意が必要である(表5).

後天性血小板機能異常症に特徴的な血小板凝集曲

線はないが,一般的に ADP,エピネフリン,コ

ラゲンによる二次凝集の低下を認める.後天性血

小板機能異常症の治療は,基礎疾患の是正が基本

であるが,重症な出血に対しては酢酸デスモプレ

シン ; DDAVP(デスモプレシン®)の静注または皮

表4 主な後天性血小板機能異常症と要因 文献 7)より引用改変

1.慢性腎不全(尿毒症);透析可能物質(グアニド酢酸など)による血小板機能の抑制

2.血漿蛋白異常症;M 蛋白の血小板や血管壁への吸着

3.肝疾患;FDP よる血小板機能の抑制+凝固因子異常,血小板減少

4.骨髄増殖性疾患,骨髄異形成症候群;α 2受容体の減少,顆粒放出障害

5.SLE,ITP;膜糖蛋白に対する自己抗体+血小板減少

6.心肺体外循環;低体温や心肺装置による血小板活性化,顆粒放出障害+線溶亢進

7.薬剤性;アラキドン酸代謝の阻害,血小板 cyclic AMP の増加,受容体の阻害(表5)

Lab.Clin.Pract. (2004)

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表5 血小板機能に影響を与える薬物 文献 8),9),10)より引用改変

1.アラキドン酸代謝の阻害 ホスホリパーゼの阻害;副腎皮質ステロイド シクロオキシゲナーゼの阻害;非ステロイド性抗炎症剤 NSAIDs アスピリン,ジクロフェナク(ボルタレン®),など トロンボキサン合成酵素の阻害;オザグレル Na(キサンボン®,カタクロット®) 塩酸オザグレル(ドメナン®,ベガ®) 遊離 Ca に拮抗;Ca 拮抗剤(ヘルベッサー®,など)

アラキドン酸の遊離に拮抗;イコサペント酸エチル(エパデール®)

2.血小板 cyclic AMP の増加

アデニル酸シクラーゼの活性化;PGI 2(ドルナー®,プロサイリン®)

リマプロストアルファデクス(オパルモン®)

ホスホジエステラーゼの阻害;シロスタゾール(プレタール®),

イブジラスト(ケタス®),

酒石酸イフェンプロジル(セロクラール®)

;テオフィリン(テオドール®)

血中アデノシンの増加;ジピリダモール(ペルサンチン®,アンギナール®),

塩酸ジラゼプ(コメリアン®)

3.受容体の阻害 ADP 受容体阻害;塩酸チクロピジン(パナルジン®)

セロトニン受容体阻害;塩酸サルポグレラート(アンプラーク®)

トロンボキサン受容体阻害;ラマトロバン(バイナス®),トラピジル(ロコルナール®)

α 2受容体阻害;麦角アルカロイド(ヒデルギン®)

非特異的受容体阻害;抗ヒスタミン剤(レスタミン®,ポララミン®)

三環系抗うつ剤(トフラニール®,トリプタノール®)

フェノチアジン系薬剤(ウインタミン®,コントミン®)

4.膜糖蛋白の阻害;抗 GPⅡb-Ⅲa 剤

5.その他

血小板膜に結合;ペニシリン・セフェム系抗生物質 トロンビンに拮抗;アルガトロバン(ノバスタン®,スロンノン®),ヘパリン

血小板に吸着;デキストラン

下注やアプロチニン(トラジロール®)の点滴静注

が有効である.アスピリンや塩酸チクロピジン

(パナルジン®),イコサペント酸エチル(エパデー

ル®)の作用は不可逆的で,作用を受けた血小板が

血液中を循環している間(血小板寿命の 8~12 日

間)は凝集抑制効果がみられるが,他の薬剤では

投与を中止すれば,数日で機能は回復する.

一方,ADP 0.5µmol/l,エピネフリン 0.01µg/ml,

コラゲン 0.5µg/ml 以下で二次凝集がみられるか,

10 分以内に自然凝集がみられる場合を,凝集亢

進と判断する.凝集能の亢進は,動脈血栓症,心

筋梗塞,脳梗塞,骨髄増殖性疾患,ネフローゼ症

候群などで認められる.

5.症例の経過と解析

2003 年 7 月 22 日,発熱あり.手持ちの抗生物

質を服用するが,その後も周期的に発熱を繰り返

していた.8 月 5 日夕,近医を受診し,39℃の発

熱と心雑音を指摘され,心臓超音波検査にて大動

脈弁の疣贅と無冠尖より右房へのシャントが認め

られた.血液培養にて Streptococcus pyogenes が検

出され,感染性心内膜炎+バルサルバ洞動脈瘤破

裂と診断された.心拡大傾向が認められたため,

8 月 7 日に手術目的にて当院心臓血管外科に紹介

入院となった.PCG(ペニシリン G®) 3,000 万単

位/日+GM(ゲンタシン®) 120mg/日の投与により,

発熱は 3 日で解熱し,抗生物質は有効と考えられ

Reversed C.P.C.

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図1 血小板凝集能検査(2003/9/1)

ADP 4µmol/l にても二次凝集は欠如し,エピネフリン 2.0µmol/l で二次凝集は低下,コラゲン 1.0µg/ml で凝集

はみられない.

た.GM は 8 月 15 日で中止し,PCG は 9 月 4 日

まで続行され,その後,CEZ(セファメジンα ®)

6g/日に変更された.8 月 9 日未明に耳鼻科的処置

を必要とした鼻出血をきたし,その後も鼻出血が

断続的に出現した.8 月 28 日に実施した出血時

間は 8 分と延長しており,貧血も進行していたた

め,当初に予定されていた 9 月 9 日の手術は延期

となった.9 月 22 日の出血時間は 4.5 分と正常化

し,貧血も改善したため,10 月 9 日に開心術(バ

ルサルバ洞動脈瘤破裂手術)が実施された.10 月

20 日以降解熱し,10 月 23 日には CEZ を中止し,

10 月 26 日に退院となった.出血は浅在性の鼻出

血であり,出血時間の延長は血小板減少を伴わな

かったため,後天性血小板機能異常症,特に薬剤

による血小板機能異常を考え,血小板凝集能検査

を実施した.9 月 1 日の血小板凝集能検査(図1)

では,ADP 4µmol/l にても二次凝集は欠如し,エ

ピネフリン 2.0µmol/l で二次凝集は低下,コラゲ

ン 1.0µg/ml で凝集はみられない.11 月 5 日(図

2)には,ADP 4µmol/l での二次凝集はやや低下す

るが,エピネフリンとコラゲンによる凝集は正常

化している.抗生物質の他には血小板凝集能に影

響を与える薬物は投与されておらず,抗生物質に

よる血小板凝集能低下と診断した.

α カルボキシル基(-COONa)を有するペニシリ

ン系抗生物質(PCG,ABPC,SBPC,TIPC,な

ど)を投与すると,血小板膜に非特異的に結合し

て血小板凝集関連部位(受容体)をブロックし,血

小板凝集の抑制・出血傾向をきたすことが報告さ

れている11).投与量に依存して凝集能低下・出血

時間延長をきたし,その効果は投与 1 から 3 日後

にピークとなり,薬物を中止しても数日は影響が

Lab.Clin.Pract. (2004)

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図2.血小板凝集能検査(2003/11/5)

ADP 4µmol/l での二次凝集はやや低下するが,エピネフリンとコラゲンによる凝集は正常化している.

残る.セフェム系抗生物質の一部(CET,CTX,

CEZ,LMOX,など)にも同様の効果を示すもの

がある.セフェム系抗生物質の投与後,ビタミン

K 欠乏による出血傾向も報告されている.抗生物

質投与による腸内細菌叢の抑制や N-methyl

tetrazolethiol ; NMTT 基などの特殊な構造による

ビタミン K の酸化還元サイクル障害がビタミン

K 欠乏の原因である12).感染症に対して抗生物質

を投与中に出血傾向が出現した場合は,DIC など

を考えがちであるが,抗生物質の副作用としての

血小板減少,血小板機能異常,ビタミン K 欠乏

による出血傾向もあり得ることに注意が必要であ

る.

文 献

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後にみられた出血傾向の 8 例 . 診療と新薬

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