26
エストニアの理科教育と理科教師教育(予察) Science Education and Science Teacher Education in Estonia: A Preliminary Study 小川 正賢 OGAWA, Masakata 東京理科大学大学院科学教育研究科 Graduate School of Mathematics and Science Education, Tokyo University of Science [ 要約] 国際比較調査の結果が公表されると東アジア地域に混じって北欧フィンランドの好成績が注目 をあびてきた.ところで,その影に隠れてはいるが,継続して理科で好成績を挙げている国に バルト三国の小国エストニアがある.旧ソ連の崩壊によって 1990 年代に独立したバルト三国 (エストニア,ラトビア,リトアニア)の中で,エストニアだけがとびぬけて理科の成績が良 好である.いったいその原因はどこにあるのだろうか.そのような問題意識から,本論では, 従来あまり紹介されてこなかったエストニアの理科教育事情,理科教師教育事情を概観する. [ キーワード] エストニア,理科教育,理科教師教育 1.問題の所在 PISA の結果が公開されるたびに,シンガポー ル,日本,韓国,台湾といったアジア地域の好 成績が当然視されてきている中で,北欧フィン ランドの好成績が国内外の教育関係者の間でも 注目されてきた. そのような中で,気になる地域・国がある. それは,エストニア,ラトビア,リトアニアと いうバルト三国である.周知のようにこれらの 国々は,旧ソ連の崩壊によって 1990 年代に独立 した新興国であり,現在では NATO や欧州連合 EU)に も 加 盟 し て い る .三 国 は 独 立 し て ま だ 20 年しか経過しておらず,教育の基盤面(教育 制度,教授方法,教員養成,教師文化,教育文 化等)は,旧ソ連時代のそれを多かれ尐なかれ 引きずっていることが予想されるのだが,これ ら三国の TIMSS PISA の理科(中学生)の成 績には興味深い違いがみられる.表1,表2は, それぞれ TIMSS PISA の成績変化を,同じ旧 ソ連のロシアとともに示している.これらの 国々は,すべての調査に参加しているわけでは ないが,ラトビア,リトアニアがロシアとほぼ 同じような成績変化を示しているにもかかわら ず,エストニアだけは,これらの国々の中で突 出して良好な成績を示していることがわかる. しかしながら,エストニアの理科教育に関する 研究は,国内ではほとんど行われていなかった. 表1:バルト三国とロシアの TIMSS 理科(中学生)の 成績変化 1995 1999 2003 2007 エストニア 552 ラトビア 476 503 513 リトアニア 464 488 519 519 ロシア 523 529 514 530 554 550 552 554 シンガポール 580 568 578 567 表2:バルト三国とロシアの PISA 科学リテラシー(中 学生)の成績変化 2000 2003 2006 2009 エストニア 531 528 ラトビア 460 489 490 494 リトアニア 488 491 ロシア 460 489 479 478 550 548 531 539 フィンランド 538 548 563 554 そこで,本研究は,その研究の第一歩として, エストニアの理科教育,理科教師教育を概要す ることを目的とする. 27 科教研報 Vol.25 No.5

Science Education and Science Teacher Education in Estonia ...kenkyu/100502.pdf · 1)学校教育制度. Eurydice. 2009 版. のStructures of Education and Training Systems in Europe

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

エストニアの理科教育と理科教師教育(予察)

Science Education and Science Teacher Education in Estonia: A Preliminary Study

小川 正賢

OGAWA, Masakata

東京理科大学大学院科学教育研究科

Graduate School of Mathematics and Science Education,

Tokyo University of Science

[要約]

国際比較調査の結果が公表されると東アジア地域に混じって北欧フィンランドの好成績が注目

をあびてきた.ところで,その影に隠れてはいるが,継続して理科で好成績を挙げている国に

バルト三国の小国エストニアがある.旧ソ連の崩壊によって 1990 年代に独立したバルト三国

(エストニア,ラトビア,リトアニア)の中で,エストニアだけがとびぬけて理科の成績が良

好である.いったいその原因はどこにあるのだろうか.そのような問題意識から,本論では,

従来あまり紹介されてこなかったエストニアの理科教育事情,理科教師教育事情を概観する.

[キーワード] エストニア,理科教育,理科教師教育

1.問題の所在

PISA の結果が公開されるたびに,シンガポー

ル,日本,韓国,台湾といったアジア地域の好

成績が当然視されてきている中で,北欧フィン

ランドの好成績が国内外の教育関係者の間でも

注目されてきた.

そのような中で,気になる地域・国がある.

それは,エストニア,ラトビア,リトアニアと

いうバルト三国である.周知のようにこれらの

国々は,旧ソ連の崩壊によって 1990 年代に独立

した新興国であり,現在では NATO や欧州連合

(EU)にも加盟している.三国は独立してまだ

20 年しか経過しておらず,教育の基盤面(教育

制度,教授方法,教員養成,教師文化,教育文

化等)は,旧ソ連時代のそれを多かれ尐なかれ

引きずっていることが予想されるのだが,これ

ら三国の TIMSS や PISA の理科(中学生)の成

績には興味深い違いがみられる.表1,表2は,

それぞれ TIMSS と PISA の成績変化を,同じ旧

ソ連のロシアとともに示している.これらの

国々は,すべての調査に参加しているわけでは

ないが,ラトビア,リトアニアがロシアとほぼ

同じような成績変化を示しているにもかかわら

ず,エストニアだけは,これらの国々の中で突

出して良好な成績を示していることがわかる.

しかしながら,エストニアの理科教育に関する

研究は,国内ではほとんど行われていなかった.

表1:バルト三国とロシアの TIMSS 理科(中学生)の

成績変化

1995 1999 2003 2007

エストニア 552

ラトビア 476 503 513

リトアニア 464 488 519 519

ロシア 523 529 514 530

日 本 554 550 552 554

シンガポール 580 568 578 567

表2:バルト三国とロシアの PISA 科学リテラシー(中

学生)の成績変化

2000 2003 2006 2009

エストニア 531 528

ラトビア 460 489 490 494

リトアニア 488 491

ロシア 460 489 479 478

日 本 550 548 531 539

フィンランド 538 548 563 554

そこで,本研究は,その研究の第一歩として,

エストニアの理科教育,理科教師教育を概要す

ることを目的とする.

27

科教研報 Vol.25 No.5

2.エストニアとその学校教育

エストニアはフィンランドの対岸に位置する

国土面積が約 4.5 万平方キロ(日本の 9 分の1),

人口が約 135 万人の国(岩手県,青森県,川崎

市とほぼ同じ)である .政府統計によれば,人口

密度は,31 人 /Km2,都市人口が約 7 割を占め,

出生率死亡率ともに約 12 人/千人で,人口の7

割がエストニア人,25%がロシア人となってい

る.公用語はエストニア語であるが,フィンラ

ンド語,ロシア語,英語も使われている.

亀野 (2007) によれば,経済規模や所得水準

においては EU 先進国と比較すると务るものの,

競争力や学力の国際比較では上位にランクされ

ており,小国ながら世界各地から注目されてい

るという.

1)学校教育制度

Eurydice 2009 版の Structures of Education and

Training Systems in Europe の Estonia に基づい

て,簡潔に紹介する.

学校教育制度は,就学前教育,基礎教育(7

歳から 9 年間の義務教育),後期中等教育(3 年),

高等教育となっている.就学前教育には 3 歳児

までの保育園と7歳までの幼稚園がある.5 歳

児以上の就学率は 92%を越える.基礎教育は,

基礎学校(全体の 46%),基礎教育課程を含む

後期中等学校(全体の 40%),1-6 学年だけの

初等学校(全体の 14%)で行われる.年間 175

日(35 週),週 5 日制,45 分授業で1週間の授

業時数は 1 年生で 20 時間,9 年生で 34 時間で

ある.国定基準の教育課程 (national curriculum)

は,学年別ではなく,三段階(第一段階は 1-3

年,第二段階が 4-6 年,第三段階が 7-9 年)に

区分されて提示されている.国定基準はあるが,

各学校・教師はそれを参照しつつ独自に教育課

程を編成することができる.教科書,ワークブ

ック,教材等は国定基準に準拠することが求め

られる.特徴的な点は,この各段階の終了時に

標準化されたテストが実施され,児童生徒の学

習成果が評価されることにある.

3 年間の後期中等教育は,普通後期中等学校

(Gumnaasium)と職業型後期中等学校に分かれ

ている.週当たりの学習時間は 32 時間以上とな

っているが上限は設定されていない.国定基準

では,必修科目群とそれぞれの履修時間,教育

目標,教育内容などが記載されている.学校ご

とに独自の科目を選択科目として設定すること

ができ,それが学校の特徴となっている.エス

トニア語で授業を行う学校では 3年間で 72単位

の必修科目から,またロシア語で授業を行う学

校では第二言語としてのエストニア語の授業が

必修となるので,81 単位の必修科目から成る.

(1単位は 35 時間の学習時間を意味する.)

初 等 中 等 教 育 の 教 師 に つ い て い え ば ,

Generalist teachers (学士課程と修士課程の統合

されたカリキュラムで 5 年間の教育を受ける.

一般に 1-6 年の全科目を受け持つ ),Specialist

teachers of basic schools と Specialist teachers of

upper-secondary schools(各教科専門に関連する

3 年制学士課程を修了後,教師教育の 2 年制修

士課程で教育を受ける.専門性によって 1-数科

目を 5-12 年生に教える),Teachers of general

education subjects in vocational schools, Special

education teachers の区分がある.エストニアで

は,教員免許という制度はなく,上述の課程を

修了したことそのものが,教師となる基礎資格

ということになる.

3.エストニアの理科教育

1)歴史的経緯 (Henno, 2008)

旧ソ連の実質的な支配下にあった時代のエス

トニアの学校教育制度は,他の旧ソ連邦諸国と

同様,極度な中央集権的で政治化された制度で

あり,自然科学やエンジニアリングの優秀性が

絶えず強調されていたが,その理科教育課程で

は,百科全書的な知識や事実が問題解決力や意

思決定力を凌駕していた.独立(1991 年)後は,

教育状況は一変し,法整備から教育課程改訂ま

で教育省の主導で一気に変革が行われた.児童

中心の学校への移行であった.当時の世界的な

流れであった社会構成主義学習論に基づく教育

改革で,学校や教師に教育課程の改編を促した.

1996 年に最初のナショナル・カリキュラムが制

定されたが,1999-2001 年はすぐに改訂され,

2002 年に実施された.ここでは,子どもたちの

興味や能力に寄り添った学習活動を選択・決定

する自由を学校に与えた.各教科においてそれ

ぞれのキー・コンピテンシーを設定し,Ruus

(2005) によれば,教師の 8 割がコンピテンシー

に基礎をおくアプローチを取り入れていた.

28

表3:学習段階(学年群)ごとの理科科目とその週当

たり学習時間.(1 単位時間は 45 分)

学習段階

教科

I

(1-3)

II

(4-6)

III

(7-9)

IV

(10-12)

自然科学 3 7 2

生物 5 4

化学 4 4

物理 4 6

総時数 71 83 96 必修 72

2)エストニアの理科教育

エストニアのナショナル・カリキュラムでは

理科は表3のようになっている (Eurydice.2009).

日本と比較して特徴的なこととしては, (1) 小

学校低学年でも理科の科目が設定されているこ

と, (2) 小学校レベルでは理科の授業数は日本

に比べても多くないこと, (3) 中学校から理科

科目のウェイトが高くなり,しかも生物,化学,

物理と専門化し,必修であること, (4) 高校レ

ベルでも生物,化学,物理が必修であること,

などがいえる.また,Henno (2008) によれば,

1-4 年生では,Generalist teacher (class teacher)が

自然科学を教えるが,5 年生以上ではそれぞれ

の 教 科 専 任 教 師 (specialist teacher or subject

teacher)が自分の専門である科目(生物,化学,

物理)を教える.

エストニアの理科教育の特徴をエストニアの

研究者はどうみているのだろうか . Henno

(2008) は,エストニアの理科教育の特徴として,

(1) 小学生の頃から「自然科学」という授業の

中で理論的・概念的な思考のトレーニングを受

けてきた,(2)ラトビア,リトアニアに比べて早

い学年(段階)からいくつかの科学トピックに

ついて学んでいる,(3)小学生の時期から教科専

門教師に理科科目を教わってきた,(4)エストニ

アの教師は探究型実験実習を行える準備ができ

ていない(Kask & Rannikmae, 2006), (5)生徒た

ちは科学的方法を適用する経験や実験室での探

究活動をやったことがない(Henno & Reiska

2007), (6) 実験機器がない学校があって活動ベ

ースの授業ができない,(7)理科はエストニア語

で教えられる,(8)教科書でも探究活動や実験活

動は記述が尐ないが,あっても「観察」が中心

で,「推論」「論議」に焦点をおいたものはさら

に尐ない,(9)生徒たちが学ぶのは現象とその説

明についてであって,科学的な諸現象を発見す

ることを学ぶことにはなっていない (10) 理科

授業は教科書が主な教材である, (11)エストニ

アでは初等レベル終了時と前期中等レベル終了

時にそれぞれ必須テストと選択科目テストを受

けなくてはならない.その成績によって課程の

修了が判断される. (12)そのため理科教師もこ

の種のテストの存在に敏感であり,科学知識や

科学理論の暗記や応用に気を使う,(13) 残念な

がらそのようなテストでは,実験・観察といっ

た実践的な科学的スキルは評価対象になってい

ない,ことなどを指摘している.

3.エストニアの理科教師教育

むろん,エストニアが国際比較調査で好成績

をあげる背景には,理科教師の質,あるいは理

科教師教育の質というものがあるに違いない.

では,エストニアの理科教師教育はどうなって

いるのだろうか.

エストニアの理科教師教育は,タルツ大学

(University of Tartu) と タ リ ン 大 学 (Tallinn

University) が主に担っているといってよい.昨

年訪問調査を行ったタリン大学の養成課程(修

士課程)は次のようになっている(表4).

ここに進学してくる学生は,学士号をそれぞ

れ物理,化学,生物の分野で取得していること

が前提となる.しかしそれでも,それぞれの専

門(物理,化学,生物)科目の履修(修士論文

を除くと,24/70 単位)と多く,また,他教科

(物理を専攻する場合,数学や化学)の専門科

目を副専攻として履修させている.これは,学

校現場で,物理教師でも化学や数学を教えなく

てはならないことが出てくることへの対応であ

り,Reiska 教授へのインタビューの中でも,複

数の教科を教えられるようになることに言及が

あった.同様に,教科教育法に相当する科目の

中にも,主専攻の教授法だけでなく副専攻の教

授法も履修することになっているのもその表れ

である.

また教育実習に1年をかけていることも特徴

といえる.エストニアでは,近年,養成教育と

現職教育の間に,1年間の研修プログラム

(kutseaasta)を挿入し,養成教育の卒業生(新

人教員)のスムーズな教職への移行を図ってい

29

科教研報 Vol.25 No.5

る.この研修プログラムを経て,教師としての

実質的な資格が付与されることになる.

Henno (2008)は,エストニアの教師の質が高

い理由として,(1)理科教師が修士レベルの教育

を受けていること,(2)理科教師の養成にあたる

教員養成プログラムの担当教員は自然科学の博

士号が要求されている,(3)理科教師養成プログ

ラムの認定基準がないため,各大学が自分たち

自身でそのプログラムの開発・評価を行ってい

ること,を挙げている.

4.おわりに

以上,エストニアの理科教育,理科教師教育

の現状を概観してきた.エストニアの理科教育

成功の秘密を探るには,今後,残り二つのバル

ト諸国(ラトビア,リトアニア)ならびにロシ

アとの詳細な比較を行うことが不可欠であり,

それが次の課題である.

[謝辞 ]

本研究は,2010 年度東京理科大学特定研究助成金の支

援を得て実施された研究(「理数教師の資質高度化・国

際化を担う大学院教育に関する国際比較研究」)の成果

の一部である.また,2010 年 11 月 2 日の訪問調査に

おいて貴重な時間をさいてインタビューに応じていた

だいた Tallinn University の Priit Reiska (Vice-Rector),

Tiit Land (Director of Institute of Mathematics and Natural

Sciences), Madis Lepik の各教授に謝意を表する.

[引用文献 ]

Eurydice (2009). Structures of Education and Training

Systems in Europe. Estonia. 2009/10 Edition. Brussels:

Eurydice. Retrieved April 11, 2011, from

http://eacea.ec.europa.eu/education/eurydice/eurybase_

en.php#estonia

Henno, I. (2008). A critique of current educational policies

for science teaching based on the Estonian example. In

Holbrook, J. et al. (eds.). The Need for a Paradigm

Shift in Science Education for Post-Soviet Societies.

New York; Peter Lang..

Henno, I. & Reiska, P. (2007). Exploring teaching ap-

proaches in Estonian science lessons based on TIMSS.

In J.Holbrook & M. Rannikmae (Eds.), Europe needs

more scientists. pp.56-65, Tartu: Tartu University

Press.

亀野淳 (2007).エストニアの経済発展・人材育成にお

ける高等教育機関の役割-エストニアにおけるイ

ンタビュー調査を事例として-.北海道大学大学院

教育学研究科紀要,102 号,1-13.

Kask, K. & Rannikmae, M. (2006). Estonian teachers’ rea-

diness to promote inquiry skills among students.

Journal of Baltic Science Education , 1(9), 5-16..

Ruus, V.R. (2005). Millise oppekavagajatkab Eesti kool?

/Which school curriculum for the future?/ Riigikogu

Toimetised, lk 86-94. (In Estonian). Cited from Henno

(2008).

Tallinn University (2008). Initial Teacher Education in

Tallinn University. Tallinn, Estonia. Tallinn University.

30pp.

表4:タリン大学の科学専門教師用修士課程プログラムの教育課程 (Tallinn University(2008)より著者作成 )

Modules I 学期 II 学期 III 学期 IV 学期

教育学・

心理学

(21 CP)

社会の中の学校・教師 3

発達と学習 3

学習環境とその創造 3

指導者・カウンセラーとしての教師 3

研究者としての教師 1

特別支援の必要な生徒 2

選択科目 2

教育科学と哲学 3

科学教授法

(9CP+

副専攻 4CP)

科学教授法 I 3

科学教授法 II 3

科学教授法 III 3

他教科教授法(副専攻)4

科学専門科

目(24CP) 主専攻+副専攻 10 主専攻+副専攻 7 主専攻+副専攻 3 主専攻+副専攻 4

教育実習

(10+2CP) 参与観察 2 教育実習(主専攻) I 4

教育実習(主専攻) II

4

教育実習(副専攻)2

修士論文

(10CP) 修士論文 10

合計 80CP 20CP 20CP 20CP 20CP

(CP:1credit point は,40 時間,あるいは1週間の学習活動に対応する.)

30

算数・数学の授業実践のための関係発達論に基づく情報環境の構築

Construction of informational environment based on theory of relation development for teaching

practice of arithmetic and mathematics

宮本 俊光,Ph.D.

MIYAMOTO,Toshimitsu

福山市立大学/京都大学大学院

Fukuyama City University/Kyoto University

[要約] 本稿は,算数・数学科の授業のために,関係発達論に基づいて構築した

情報環境を用いて実験授業をしたその結果報告である.

具体的には,大学院生を被験者として,中学校 2年生から高等学校 3年生の範

囲の数学問題を用いて,グループ学習を実施した所,有効な結果が得られた.

[キーワード] 関係発達論,授業実践,情報環境,算数・数学

1. はじめに

情報ネットワークの進展に伴って,身の回り

至るとこに,大変素晴らしい情報環境が整って

いる.しかし,一方で,生活環境の情報環境高

機能化の中で,その情報環境を十分には利用し

きれてはいない.さらに,提供されている情報

環境のほとんどを使っていないと言った方が,

適切である.

この様な,情報ネットワークが,爆発的に進

展しているのにもかかわらず,コンピュータと

人間とのコミュニケーションが問題となって

いる.すなわち,人間とコンピュータとのミス

マッチである.

教育分野においても,このコンピュータネッ

トワークの爆発的な進展と無縁でいるわけに

はいかず,これからの時代に対しても十分な対

策を検討しておくことが、重要になると考え

る.

そこで,従来,人間とコンピュータシステム

がお互いに寄り添う関係を,コンピュータ側が

主体的に自立性を持って人間に対して答える

システムを構築することができれば,人間とコ

ンピュータとの人間的なふれあいの様な関係

をつくりだすことができると考えた.

コンピュータに自立性を持たせることによ

り,コンピュータが相手の人間の状態を人間の

様に人間側から何もアクションを行なわなく

ても,理解し主体的かつ適切にコミュニケーシ

ョンを持つことが出来ることによって,お互い

が寄り添う関係の情報システム構築すること

を考えた.

本研究においては,その実現のために,近年

大変注目を浴びている関係発達論に基づいて,

システム構築し,さらに,その情報環境におい

てグループ学習を実施し,その有効性を探るこ

とを試みた.

本実験システムによって,実験授業を実施し

た結果,定量的にも定性的にも,ある程度有効

であるとの結論が示唆されたので,その報告を

する.

2. 研究の目的

本研究は,関係発達論に基づいたグループ学

習支援システムの高度化の実現により,グルー

プ学習を支援し,学習成果を効果的に向上する

グループ学習の新たな支援方法を確立するこ

とを目的とする.

一般的に,グループ学習の支援をコンピュー

タによって実現する研究例としては,ネットワ

ーク型の遠隔グループ学習支援システムが多

数開発されてはいる.しかし,従来のシステム

31

科教研報 Vol.25 No.5

は学習に必要な情報をネットワーク上で共有

するための基本的なツール群の提供が中心で

あるために,これらのシステムを使用した学習

では,教師の豊富な経験と学習者の成績や性格

などの詳細な履歴に基づいた指導といった人

と人の心に寄り添う指導に比べて,真に実用化

に耐え学習成果を効果的に向上させるには至

るには,ほど遠い状態であるのが現状であった.

特に,ネットワーク上に分散した遠隔学習者

の学習進捗状況をいかに的確にコンピュータ

自身が把握できるか,また,提供される学習に

関連する情報の過多による学習への集中度の

低下をいかに防ぐかが大きな課題となってい

た.

本研究においては,これらの課題に対し,関

係発達論に基づき,グループ学習をコンピュー

タネットワークを介した協調作業のひとつと

してとらえて,現実空間とディジタル空間のお

互いに主体性をもった効果的な連携による新

たなコンピューティングの概念を導入するこ

とによってこれらの課題を解決するものであ

るグループ学習の知的で,相互に間主観性を持

った支援方法を提案する.

具体的には,グループ学習のような協調作業

を IT により効果的に支援するために,現実空

間(RS)とディジタル空間(DS)とのギャップに

着目し,RS と DS の間に「共認知」を実現する.

このことによって,双方に主体性を持たせる.

ここで言う共認知とは,RS 内の社会知,個人

の特性,環境情報などをDSが自律的に獲得し,

また DS の情報,知識,サービスなどを RS に対

して適切なタイミングで必要十分に提供する

機能である.

本研究では,この共認知の考え方を協調作業

のひとつであるグループ学習に適用する.すな

わち,お互いに間主観性を持った RS と DS の概

念をグループ学習支援に導入し,共認知によっ

て学習作業における RS から DS,および DS から

RS の情報の流れを主体的かつ積極的に制御し,

グループ学習の効果的な支援を実現する手法

を提案するものである.

具体的には,DS 内の共有作業領域と RS 内の

個別作業領域の利用を,グループ学習作業の進

捗状況に応じて適宜制限することによって,学

習の進行を促進する手法を提案する.これによ

り,DS 内に蓄積された学習成果が徐々に高めら

れ,その結果が知識として積極的に RS に対し

てフィードバックされることで,学習効果の向

上を実現する高度な支援が可能になると期待

されると考える.

本研究においては,まず,関係発達論に基

づくグループ学習の効果的な支援方式のアー

キテクチャを構成する.次に,本方式を用いた

グループ学習支援システムを構成する.また,

小規模な実験環境におけるグループ学習支援

実験を行い,本方式の有効性を検証する.

3. 研究の方法

グループ学習おいて RSと DSの間で流通する

情報とは,例えば学習教材,問題集,実験デー

タ,学習結果,中間結果,報告書などであるが,

RS 内での個人学習により生成された情報が DS

内でのグループ学習時に効果的に反映されな

かったり,逆に DS 内でのグループ学習の成果

が効果的に共有できないなどの課題がある.共

認知はこの情報を DSと RS との間で効果的に流

通させるための仕組みである.

これまでの協調作業支援システムでは,RS 内

の学習者に対して DS 内のグループ作業領域

(Shared Work Space: SWS)は常に提示され利用

可能となっており,それを介して常に協調作業

が行える状況であった.しかしながら,SWS で

の作業の発生のため各個々人は個人作業領域

(Personal Work Space: PWS)での作業に集中で

きず,PWS 内での知識の向上が行えない場合が

あった。これにより総合的に見て協調作業の改

善が阻害されるケースが存在した.

これに対し本研究においては,SWS の提示を

制御することで,RS 内の PWS から DS 内の SWS

への情報の流れ,およびその逆の流れをそれぞ

32

れ制限する手法を提案する.具体的には,RS と

DS の間に,RS と DS 間の情報の流れを制御する

「共認知機構」(Mutual Cognition Mechanism:

MCM)を導入する.これにより,相互に主体性を

持つことが出来て,PWS 内での作業中には個人

の知的作業が阻害されず,PWS 内の知識の向上

がより効果的に行われる.

また,PWS 内での各個人の作業が進んだ段階

で SWS を提示し,PWS 内の作業結果を SWS 内に

ロードして協調作業へ移行することで,PWS 内

の作業結果を十分に反映させたSWS内での作業

が実現できる.また,SWS での作業結果に基づ

き,PWS に移行して個人作業を継続することで,

各個人の PWS での作業が促進する.これを繰り

返すことで両作業領域内の学習成果がより高

次へ推移することが期待できる.

4.結果と考察

本関係発達論に基づくこのシステムの有効

性を検証するために,評価用システムの設計・

実装を行った.具体的には PWSと SWS を構成し,

PWS と SWS の学習進捗状況を把握するためのイ

ンタフェースを導入した.また PWS と SWS 間の

作業移行を切り替える機能を導入した.MCM に

ついては,提案アーキテクチャの有効性を検証

するために今回は人間の教師が機能を代行し,

PWS と SWS の作業移行の切り替えを手動で行っ

た.

以上の評価用システムを用いて,3 人のグル

ープ学習者が,PWS と SWS を用いて幾何学に関

する数学問題を解く実験を実施した.

認知的側面としては,本提案システムと既存の

システムを用いて,一定時間において,ある同

じ問題を何通りの方法で解答できたかといっ

た,解答の方法の解き方の種類が多いか少ない

か,何通りの方法で解くことができたかで比較

した.また,情意的側面としては,実験授業終

了後,教師役と生徒役の大学院生それぞれに,

アンケート用紙を配布し,評価してもらった.

その結果,認知的側面としては,本システム

で,グループ学習を実施したグループの方が,

既存のシステムを利用してグループ学習を実

施したグループと比較して,多くの解答方法を

見出すことが出来た.

また,認知的側面としての評価としては,ア

ンケート調査の結果,全ての項目で,本システ

ムで,グループ学習を実施したグループの方が,

既存のシステムを利用してグループ学習を実

施したグループと比較して,いい結果を出すこ

とができた.

以上の実験結果から,グループ学習の進度に

合わせて,SWS を適切なタイミングで提示する

ことによって,グループ学習の結果が向上する

ことを確認することができた.

また,これによって,提案システムの有用性

を示すこともできた.

今後はさらに,コンピュータが全て人間とし

ての教師を完全に代替できる様に人の心に寄

り添う情報システム構築をして行きたい.

参考文献

(1)MIYAMOTO Toshimitsu(2010)”Effective

Knowledge Sharing based on Symbiotic

Computing and its Application to Networked

Cooperative Group Learning for Arithmetical

Education”, The 5th East Asia Regional

Conference on Mathematics

Education ,proceedings,pp.535-542.

(2)Toshimitsu MIYAMOTO et al.,

(2009)”Effective Knowledge Reinforcement

in Networked Cooperative Work Based on

Symbiotic Computing:Basic Concept and

Application,GSIS Interdisciplinary

Information Science Vol.15,No.1,pp.1-11.

(3)鯨岡峻(2006)「ひとがひとをわかるという

こと」,ミネルヴァ書房

(4)鯨岡峻(1997)「原初的コミュニケーション

の諸相」,ミネルヴァ書房

(5)鯨岡峻(1998)「両義性の発達心理学」,ミネ

ルヴァ書房

33

科教研報 Vol.25 No.5

(6)鯨岡峻(1999)「関係発達論の構築」,ミネル

ヴァ書房

(7)鯨岡峻(1999)「関係発達論の展開」,ミネル

ヴァ書房

(8)鯨岡峻(2002)「<共に生きる場>の発達臨

床」,ミネルヴァ書房

34

eポートフォリオの開発と実践に関する研究動向

Research Trend of e-Portfolio Development and Implementation

谷塚光典 東原義訓

YATSUKA, Mitsunori HIGASHIBARA, Yoshinori

信州大学教育学部附属教育実践総合センター

Center for Educational Research and Training, Faculty of Education, Shinshu University

[要約]本研究では,eポートフォリオに関する論文をレビューし,eポートフ

ォリオの研究動向を概観した。日本科学教育学会の年会論文集や研究会研究報告

においては,①教師教育(特に教員養成)における実践,②再構成型コンセプト

マップ作成ソフトウェアを活用したポートフォリオ評価,③グループウェアを用

いたポートフォリオ評価,④CSCL 環境を用いたポートフォリオ評価,等のeポ

ートフォリオに関する研究が行われていることが明らかになった。

[キーワード]ポートフォリオ,教師教育,教員養成,教員研修,教職実践演習

1.はじめに

中央教育審議会答申「今後の教員養成・免

許制度の在り方について」(2006 年 7 月 11 日)1)では,改革の方向の1つとして「大学の教

職課程を,教員として必要な資質能力を確実

に身に付けさせるものに改革する」ことが掲

げられた。そして,改革の具体的方策として,

教職課程の質的水準の向上のために,教育実

習における大学の責任ある対応を法令上明確

化することや「教職指導」の実施を法令上明

確化することと合わせて,「教職実践演習」が

新設・必修化されることとなり,「使命感や責

任感,教育的愛情等を持って,教科指導,生

徒指導等を実践できる資質能力」が最終的に

形成されているか確認することが求められる

ようになった。

教職実践演習の実施にあたっては,その留

意事項として,「学生のこれまでの教職課程の

履修履歴を把握し,それを踏まえた指導を行

うことにより,不足している知識や技能等を

補うものとすること」とされており,「入学の

段階からそれぞれの学生の学習内容,理解度

を把握(例えば,履修する学生一人一人の「履

修カルテ」を作成)」が準備事項例としてあげ

られている。学生の履修履歴の記録である「履

修カルテ」の作成を,教職実践演習を実施す

る全大学に義務づけている 2)。

米国では,教員スタンダード準拠のティー

チング・ポートフォリオを用いて教員として

の資質能力を証明しており,TaskStream や

LiveText 等の商用システムが導入されている。

一方,日本においては,兵庫教育大学 3)や日

本女子大学 4),奈良教育大学 5)等で独自の e

ポートフォリオ・システムを開発・運用して

おり,その活用の効果を検証してきている。

信州大学教育学部においても,「目指す教師

像」を中核に据えた「個人カルテ」の作成を

学生に求めているところである 6)。

ポートフォリオは,最近では電子化された

eポートフォリオとして作成されるようにな

った。永田 7)がティーチング・ポートフォリ

オ実践研究の動向と課題をまとめているが,

それ以降,教職志望学生および現職教員が作

成するティーチング・ポートフォリオは,e

ポートフォリオとして作成されることが多く

なってきた。また,初等・中等教育段階では,

総合的な学習の時間,理科,外国語等の学習

で,オーセンティック評価としてのポートフ

ォリオ評価が広く活用されるようになってき

ている。

35

科教研報 Vol.25 No.5

そこで,本研究では,教師教育で活用され

るティーチング・ポートフォリオおよび初

等・中等教育段階で児童・生徒が作成するポ

ートフォリオの両方を含んで,eポートフォ

リオに関する論文をレビューし,eポートフ

ォリオの研究動向を概観することを目的とす

る。

2.研究の方法

eポートフォリオの開発と実践に関する研

究をレビューするために,国立情報学研究所

の論文情報ナビゲータ CiNii を利用した。

詳細検索で出版者を「日本科学教育学会」

とした上で,検索語を「ポートフォリオ」と

して検索した。すなわち,論文名だけではな

く,抄録やキーワードに「ポートフォリオ」

を含む論文が検索されることになる。

3.日本科学教育学会におけるeポートフォ

リオの研究動向

1)ポートフォリオに関する研究動向

CiNii で,出版者を「日本科学教育学会」と

した上で,検索語を「ポートフォリオ」とし

て検索した結果,論文名,抄録,キーワード

等に「ポートフォリオ」を含む論文は,43 件

であった。このうち,年会論文集が 32 件,研

究会研究報告が 11 件であり,学会誌である

『科学教育研究』は検索されなかった。

年代別に見ると,1991~1995 年が 2 件,1996

~2000 年が 14 件,2001~2005 年が 22 件,2006

~2010 年が 5 件となっている。年によっても

差はあるが,2000 年と 2004 年が多くなって

いる。

2)eポートフォリオに関する研究動向

全 43 件のうち,eポートフォリオ(各論文

では,「電子ポートフォリオ」「デジタル・ポ

ートフォリオ」「Web ポートフォリオ」等と

表現は異なっている)に関係しているのは表

1に示す 17 件であった。

これらを大別すると,①教師教育(特に教

員養成)における実践,②再構成型コンセプ

トマップ作成ソフトウェアを活用したポート

フォリオ評価,③グループウェアを用いたポ

ートフォリオ評価,④CSCL 環境を用いたポ

ートフォリオ評価,等に分類できる。

①教師教育(特に教員養成)における実践

については,谷塚ほか(2010),谷塚ほか(2009),

谷塚・東原 (2005)で,理科教育実習生が作成

した教育実習 Web ポートフォリオから,教育

実習リフレクションシートの記述を分析し,

教育実習生のリフレクションの様相を明らか

にしようとしている。

②再構成型コンセプトマップ作成ソフトウ

ェアを活用したポートフォリオ評価について

は,小学校(中西 , 2005)や中学校(田中 , 2004)

の理科授業に,再構成型コンセプトマップ作

成ソフトウェア「あんどう君」を使用したコ

ンセプトマップを導入して,ポートフォリオ

評価の有効性を検証している。

③グループウェアを用いたポートフォリオ

評価については,堀口ほか (2002)や余田・山

野井 (2000)で,独自に開発したポートフォリ

オ用ソフトウェアを用いた実践研究を報告し

ている。余田・山野井 (2004)は,年会におけ

るワークショップである。

そして,④CSCL 環境を用いたポートフォ

リオ評価としては,鈴木ほか (2000),美馬ほ

か(2000),大島ほか(2000)は,一連の課題研究

としての発表である。高等教育機関における

ポートフォリオ作成について,ポートフォリ

オ作成を念頭においた高等科学教育カリキュ

ラムやポートフォリオ作成を支援するツール

としての CSCL 環境のあり方について議論し

ている。

4.おわりに

本研究では,eポートフォリオに関する論

文をレビューし,eポートフォリオの研究動

向を概観した。日本科学教育学会の年会論文

36

集や研究会研究報告においては,①教師教育

(特に教員養成)における実践,②再構成型

コンセプトマップ作成ソフトウェアを活用し

たポートフォリオ評価,③グループウェアを

用いたポートフォリオ評価,④CSCL 環境を

用いたポートフォリオ評価,等のeポートフ

ォリオに関する研究が行われていることが明

らかになった。

今後の課題としては,日本科学教育学会だ

けでは学界全体を一般化することはできない

ので,eポートフォリオに関する研究が多く

公開されている日本教育工学会や教育システ

ム情報学会等についても同様に分析すること

によって,日本におけるeポートフォリオの

研究動向を明らかにすることができると考え

られる。

謝辞

本研究は,科学研究費補助金基盤研究 (B)

課題番号 18300286「ビデオ記録と相互評価を

核としたデジタルティーチングポートフォリ

オシステムの開発」,若手研究 (B)課題番号

19700631「スタンダードとエビデンスに基づ

くティーチング・ポートフォリオ・システム

の開発」および若手研究(B)課題番号 22700810

「ティーチング・ポートフォリオを用いた省

察の深化による教育実習生の成長の質的分

析」の助成を受けている。

引用文献

1) 中央教育審議会 (2006) 今後の教員養

成・免許制度の在り方について(答申)

2) 田井祐子 (2010) 教職実践演習の実施に

当たって.『SYNAPSE』2010 年 10 月号,

14-19 頁.

3) 永田智子・森山潤・森広浩一郎・掛川淳一

(2009) 教職大学院用 e ポートフォリオ・シ

ステムの開発と試行.『日本教育工学会論文

誌』33(Suppl.),65-68 頁.

4) 小川賀代・小村道昭・梶田将司・小舘香椎

子 (2007) 実践力重視の理系人材育成を目

指したロールモデル型 e ポートフォリオ活

用.『日本教育工学会論文誌』31(1),51-59

頁.

5) 小柳和喜雄 (2008) 教職大学院における

学習環境設計に関する研究.『日本教育工学

会研究報告集』JSET08-3,63-68 頁.

6) 伏木久始 (2010) 教員養成カリキュラム

に お け る 教 職 実 践 演 習 の 位 置 づ け .

『SYNAPSE』2010 年 10 月号,26-31 頁.

7) 永田智子 (2002) ティーチング・ポートフ

ォリオ実践研究の動向と課題.『日本教育工

学会大会講演論文集』18,309-310 頁.

37

科教研報 Vol.25 No.5

表1 日本科学教育学会における「eポートフォリオ」関連研究

No. 著者名 年 論文名 雑誌名,巻号,pp.ページ

1 谷塚光典,三崎隆,東原義訓

2010 ティーチング・ポートフォリオの分析による理科教育実習生のリフレクションの深化に関する予備的研究

年会論文集,34,pp.363-364

2 谷塚光典,三崎隆,東原義訓

2009 理科教育実習生による教科内容とコミュニケーションに関するリフレクション :ティーチ

ング・ポートフォリオの分析から

年会論文集,33,pp.325-326

3 中西英 2005

ポートフォリオ評価を支援する再構成型コン

セプトマップ作成ソフトウェア :小学校第 6 学年・理科「生物と環境」の実践事例

年会論文集,

29,pp.325-326

4 余田義彦,山野井一夫 2004 はじめてのデジタルポートフォリオ 年会論文集,28,pp.639-640

5 谷塚光典,東原義訓 2004 教育実習リフレクションシートにみる理科教育実習生の成長と課題意識

年会論文集,28,pp.499-500

6 田中保樹 2004 再構成型コンセプトマップ作成ソフトウェアによるポートフォリオ評価 :中学校第 2 学年理科「電流とその利用」での実践事例

年会論文集,28,pp.173-176

7 谷塚光典,東原義訓 2004 ICT を活用した教育実習事前・事後指

導 :NetMeeting による遠隔講義の実践と課題

日本科学教育学会研究会研

究報告,18(6),pp.79-82

8 片平克弘 2003 中学校理科におけるポートフォリオの開発:実践研究に対する支援の可能性

年会論文集,27,pp.223-224

9 加納寛子 2003 PBD 教育システムによる学びの評価:ポートフォリオカンファレンスの効果

年会論文集,27,pp.193-196

10 筧直之,杉山武志,倉恒子,小西宏志,鈴木英夫

2003 学びの発信と交流を支援する Web ポートフォリオシステムと授業実践

年会論文集,27,pp.69-72

11

鈴木真理子,永田智子,中原淳,浦嶋憲明,

今井靖,上杉奈生,若林美里,森広浩一郎

2002 CSCL 環境での教員養成系大学生による協調

的な教具制作活動

年会論文集,

26,pp.313-314

12 加納寛子 2002 電子ポートフォリオを評価するためのルーブリックの開発に向けて

年会論文集,26,pp.297-298

13 堀口秀嗣,荒義明,田中秀典,田中宏明,浅野弘

2002 デジタルポートフォリオ・デジポケッツの機能と授業での活用

日本科学教育学会研究会研究報告,16(4),

pp.33-38

14 余田義彦,山野井一夫 2000 学校教育用グループウェア「スタディノート」

を用いたデジタル・ポートフォリオ評価

年会論文集,

24,pp.289-290

15

大島純,大島律子,刑

部育子,美馬のゆり,中原純,鈴木真理子,山内祐平

2000 ポートフォリオ作成を支援するツールとしての CSCL 環境

年会論文集,24,pp.81-82

16

美馬のゆり,刑部育子,中原淳,大島純,

大島律子,鈴木真理子,山内祐平

2000 ポートフォリオ作成を念頭においた高等科学

教育カリキュラム

年会論文集,

24,pp.79-80

17

鈴木真理子,刑部育子,美馬のゆり,中原淳,大島純,大島律子,

山内祐平

2000 高等教育機関におけるポートフォリオ作成の意味

年会論文集,24,pp.77-78

38

新潟県における理数系教員(コア・サイエンス・ティーチャー)養成拠点構築事業

Project for Establishing Training Centers for Core Science Teachers in Niigata Prefecture

五百川裕 IOKAWA, Yu

上越教育大学 Joetsu University of Education

[要約] 新潟県における理数系教員(CST)養成拠点構築事業の特徴は, 県内 12地区の理科教育センタ

ーを CST 活動拠点として充実・支援すること,CST 養成プログラムの現職教員履修者の多くは修了後に

各地区理科教育センター担当 CST となること,学生履修者の多くは理工系学部卒業後に小学校教員免許

取得をめざす大学院生であること等である。この特徴ある取り組みは,新潟県教育委員会が広大な県土

における理科教育振興に不可欠と守り育ててきた地区理科教育センターの存在と,上越教育大学が大学

院での高度な教員養成を指向し他大学卒業生が大学院で教員免許取得ができるよう制度(免許取得プロ

グラム)を整備したこと,そして,県教育委員会と上越教育大学とが長年連携して教員養成と現職教員

再教育に取り組んできた信頼関係により初めて可能となったものである。CST 養成プログラムでは,県

立教育センター理科長期派遣研修のノウハウも取り入れ,堅実な CST 養成体制の構築をめざしている。

[キーワード] CST,新潟県,地区理科教育センター,免許取得プログラム,長期派遣研修

1. はじめに

新潟県における理数系教員(コア・サイエン

ス・ティーチャー)養成拠点構築事業(以下,CST

養成事業と呼ぶ)は,上越教育大学と新潟県教育

委員会が主実施機関となり,平成 22 年度の科学

技術振興機構(JST)の事業公募に申請し採択さ

れたものである。実施期間は,平成 22 年度から

平成 25年度までの 4年間で,平成 22 年度は事業

実施体制の確立と,CST 養成プログラムの策定,

CST 活動拠点の整備を行い,平成 23 年度から CST

養成プログラムを開講した。

2. 事業目的

上越教育大学と新潟県教育委員会が連携し,

小・中学校の理科教育において中核的な役割を担

う教員(コア・サイエンス・ティーチャー;CST)

を養成することにより,小・中学校教員の理科教

育における指導力向上を図ることを目的とする。

CST 養成の場として大学施設だけでなく,新潟

県が持つ全国的にもユニークな施設であり,理科

教育支援拠点としての実績を持つ県内 12 地区の

理科教育センター,及び県立教育センター等を整

備・活用し,CST活動拠点として充実する。

上越教育大学における教員養成カリキュラム

の編成と評価の基本となる上越教育大学スタン

ダードに準拠して構成される講習授業科目と,地

区理科教育センターにおける実践的実習等を組

み合わせた CST養成プログラム,及び検討策定す

る規準に基づく CST認定制度を構築し,実施する

ことにより,科学リテラシーと観察・実験指導能

力に優れた CSTの養成を図る。

3. 実施体制

上越教育大学,新潟県教育委員会,新潟市を含

39

科教研報 Vol.25 No.5

む 7市教育委員会,新潟大学,社会教育施設等の

担当者により CST 養成事業実施委員会を設置し,

事業実施に関わる事項を審議し,組織,規則等を

整備する実施主体とした。そして,実働組織とし

て 3 つのワーキンググループ(WG),企画 WG(事業

全体の立案),プログラム WG(CST 養成プログラム

立案),認定 WG(CST認定規準立案)を設置した。

図 1 新潟県の CST養成事業の実施体制

図2 新潟県の CST養成事業実施イメージ

4. 平成 22年度事業内容

① 実施組織,制度の構築

前述の通り CST養成事業実施委員会の設置等を

行い,実施体制を確立する。

② CST養成プログラムの策定

プログラムの講習科目ごとの内容,認定基準,

認定方法を検討して定める。講習科目と大学の授

業科目との内容の適合性を検討し,講習科目互換

授業科目を定め,在学生のプログラム受講におけ

る内容の重複を防ぎ,受講しやすくする。

③ CST養成プログラム受講生の募集

受講者区分(現職教員大学院生,免許プログラ

ム大学院生)ごとのプログラム・スケジュールを

検討して定め,募集要項を作成して,大学院入学

予定者に周知する。現職教員の受講に関しては,

新潟県教育委員会が必要な措置を定める。

④ CST活動拠点の整備

地区理科教育センター及び県立教育センター

等の CST活動に必要な消耗品購入等の経費を手当

てし,研修等の準備,実施の補助スタッフを雇用

する。最先端の科学技術を踏まえた研修の実施の

ため,卓上走査型電子顕微鏡(ポータブル SEM)を

購入し,2地区のセンターに配置する。

⑤ CSTの認定

新潟県教育委員会による県立教育センターで

の長期派遣研修を受講し各地区理科教育センタ

ーの指導主事または理科協力員となっている現

職教員を,CST 養成プログラム修了規準との適合

確認を経て CSTとして認定する。

5. 平成 22年度事業成果

① 実施組織,制度の構築

前述の通り CST養成事業実施委員会の設置等を

行い,実施体制を確立した。

② CST養成プログラムの策定

40

プログラムの受講対象は基本的に上越教育大

学大学院在学生とすることにし,現職教員大学院

生履修用と免許プログラム大学院生履修用の 2つ

のプログラムを策定した。全ての講習科目を受講

し科目修了認定を得ると,CST 養成プログラム修

了認定証を交付することとし,この認定証保持者

が一定期間の教職経験を持ち,その上で規準に適

合すると認められた場合,CST 認定証を交付する

制度にした。従って,現職教員大学院生は,基本

的に CST養成プログラム修了と共に CST認定を受

けることができる仕組みである。

<現職教員大学院生履修用:129 時間>

CST理解(6時間),教科内容理解(36時間),

社会教育施設理解(9時間),授業実践演習(18

時間),CST支援実習(60時間)

<免許プログラム大学院生履修用:120時間>

科学的自然理解(3時間),理科学習内容研究

(15時間),理科実験演習(15時間),理科領域

学習理解(15 時間),教材開発演習(9 時間),

社会教育施設理解(9時間),授業実践演習(18

時間),CST支援実習(36時間)

③ CST 養成プログラム受講生の募集

現職教員大学院生については,新潟県及び新潟

市教育委員会に大学院派遣教員に CST養成プログ

ラム受講生を推薦いただけるように依頼し,県内

小中学校現職教員 5名が CST養成プログラム受講

生として新潟県及び新潟市教育委員会からの派

遣推薦を受けて大学院入試を受験し合格した。ま

た,免許プログラム大学院生については,他大学

の理工系学部卒業生で小中学校教員志望者約 10

名が大学院入試に合格したため,入学後に CST養

成プログラムの受講募集をすることにした。

平成 23 年度大学院入学生に対する受講募集の

結果,現職教員大学院生は前記 5 名の他,1 名の

受講申請があり,免許プログラム大学院生は 12

名の受講申請があり,合計 18 名の受講者で開講

することができた。

④ CST活動拠点の整備

県内 12 地区理科教育センターの整備のため,

要望に沿って来年度から実施される新学習指導

要領対応の小学校理科教科書と教師用指導書を

購入し配置した他,先端科学機器の小中学校での

活用をめざして,下越の三市北蒲原郡地区理科教

育センターと中越の長岡地域理科教育センター,

上越では本学にポータブル SEMを配置して,教員

研修会や出前授業での利用準備を進めた。

図3 ポータブル SEMの中学生による観察活用

また, CST 活動を支援するスタッフについて,

地区理科教育センター連絡協議会を通して希望

調査を実施し,4 地区の理科教育センターに 6 名

を雇用して支援することができた。この内の 2名

は,小中学校教員志望の上越教育大学大学院生で

あり,教員支援力を養成するための CST養成プロ

グラム科目である CST支援実習の試行的な意義も

あった。

⑤ CSTの認定

平成 23 年度から開講する CST 養成プログラム

は平成 24 年度末に最初のプログラム修了者が出

て,その内の現職教員が CST認定対象者となるが,

それに先立って,平成 22年度は,県内 12地区理

科教育センターの指導主事または協力員として,

41

科教研報 Vol.25 No.5

理科研修会の実施や理科授業の支援を実践して

いる 12 人の小中学校教員を CST として特例認定

することによって,各センターにおける CST活動

の先行実施を行い活動支援体制の充実を図るこ

ととした。CST特例認定は,企画 WG において検討

し別に定めた平成 22 年度上越教育大学 CST 認定

規準に対する適合審査を,12人の対象者が県立教

育センターで 1年間受講し修了した理科長期派遣

研修の研修報告書を根拠資料として実施した。審

査結果は CST養成事業実施委員会に報告し,審議

の結果,規準に適合することを認め,上越教育大

学学長名で CST認定証を 12人に授与した。

認定を受けた CSTによって,小中学校教員対象

の研修会が合計 38 回(平成 22 年 12 月から平成

23年 3月まで)開催され,小中学校教員のべ 228

人が研修を受けた。

表1. 平成 22年度上越教育大学 CST認定規準

6. 課題

新潟県の CST養成事業においては,養成プログ

ラムの修了認定と,CST 認定とは区別しており,

現職教員以外の大学院生は,養成プログラム修了

認定を受けた後,教員採用試験に合格し,教員と

して一定年数の経験を積んでから,本学に実績報

告書を提出し,CST 養成事業実施委員会での審査

を経て CSTに認定されることを想定している。従

って,現職教員以外の大学院生に対しては,養成

プログラム修了者の教員採用率の動向が,養成プ

ログラムの受講希望者数に影響することが考え

られ,質の高い養成プログラム修了者を出すこと

が課題となる。

平成 23年度は,平成 22年度に確立した実施体

制により, CST養成プログラムを開講し,理科教

育支援拠点における CST活動の支援を実行しなが

ら,受講生や研修参加者の実態等に合わせた見直

しを図り,事業を充実させていくこととしており,

質の高い CST養成プログラム修了者を多く輩出し,

理科教育振興に寄与できるシステムの構築をめ

ざしていくこととしている。

7. おわりに

新潟県の CST養成事業は,主実施機関である上

越教育大学と新潟県教育委員会,共同実施機関で

ある新潟市教育委員会,上越市教育委員会,妙高

市教育委員会,糸魚川市教育委員会,柏崎市教育

委員会,長岡市教育委員会,新発田市教育委員会,

そして連携機関である国立大学法人新潟大学,新

潟県立教育センター,新潟市立総合教育センター,

新潟県地区理科センター連絡協議会,国立妙高青

少年自然の家,フォッサマグナミュージアム,上

越清里星のふるさと館が,事業目的に賛同し,協

力して実施体制を確立できたことが,今後の本事

業の成果を充実させるために重要な点である。

本報告の結びにあたり,改めて本事業に関わる

全ての関係者の的確な業務の遂行に敬意を表す

ると共に,本事業実施おいて指導をいただいた理

数系教員養成拠点構築事業推進委員会の委員の

皆様に感謝申し上げる。

42

福井大学におけるCST養成拠点構築事業への取り組み

Approach for Establishing and Developing CST Training Program at University of Fukui

淺原雅浩

ASAHARA, Masahiro

福井大学教育地域科学部

Faculty of Education and Regional Studies, University of Fukui

[要訳] 平成 21 年度理数系教員養成拠点構築事業第 1 次募集に採択され、学部生、大学

院生および現職小中教職員を対象とした理数系教員(コア・サイエンス・ティーチャー:

CST)養成と支援のための仕組み作りに着手した。平成 22 年度より、養成プログラム受

講者を募集し、実際の養成に着手した。平成 23 年度末には、CST となる教員が誕生し、

実際の CST 活動が開始される予定である。現在、養成プログラムの運用・改善とともに

支援拠点の構築など支援策についても検討中である。

[キーワード] CST,教員養成,養成プログラム,学部生,理工系卒大学院生,現職教員

1 はじめに

小・中学校教員の理科教育における指導力向

上を図ることを目的として、大学と教育委員会

が連携し、地域の理科教育において中核的な役

割を担う教員を養成する公募事業が、平成 21

年度から科学技術振興機構(以下、JST と略記)

により開始された。1) 福井大学と福井県教育委

員会は1次募集で通常取組(4 年間)に採択さ

れ、半年の準備期間を経て、平成 22 年度より

コア・サイエンス・ティーチャー(以下、CST

と略記)の養成を開始した(図 1)。

図 1 福井大学 CST 養成プログラムの概略

なお,平成 23 年度理数系教員養成拠点校構

築事業の公募も開始されているが、平成 22 年

度末現在、通常取組として 12 拠点が採択され、

地域の特性に合わせた養成が行なわれている。

2 CST養成の体制作り

福井大学と福井県教育委員会が採択された

事業企画名は、「地域・学校拠点を活用する自

己啓発型 CST 養成・支援システムの構築」で

ある。目的は、児童・生徒に加えて同僚教員に

対する指導力を強化することにより、地域の核

となる優れた理科教員(CST)を養成・支援する

ことにある。

(1) 養成システムの開発

県内の理科関連機関、他大学、科学館等およ

び市町教育委員会との連携により、CST 養成

プログラムの一部を実施してもらうと共に、本

学と福井県教育研究所および嶺南教育事務所

(以下、研究所等と略記)の既存講座を CST

養成プログラムに活用することで円滑に CST

養成システムを実現した。

CST 資格は 3 階級制とし、小学校および中学

校理科教員を目指す学部生対象の初級、主に理

工系学部卒の小中教員を目指す大学院生対象

43

科教研報 Vol.25 No.5

の中級、更に現職小中教員対象の上級の各プロ

グラムを策定した 2,3,4)。

(2) 養成プログラムの開発

CST 養成プログラムは、①基礎知識、②知識、

③技能、④指導力、⑤総合力の 5 観点に基づき

作成した。①は、学部生・院生の専門力向上に

つながる基盤形成を目的としたため、初級・中

級にのみ設定した。

以下,現職小中教員を対象としたプログラム

(上級 CST 養成プログラム)を中心に列記す

る。

②は、県内の大学・科学館等より提供される

「先端科学技術セミナー」、研究所等の提供す

る「学校教育研修講座」、理科(教育)又は科学

技術関連学会への参加による「理科教育研究

A」からなる。

③は、研究所等の提供する理科(授業)関連講

座「技能研修講座 A」、科学館等の提供する「技

能研修講座 B」、学会等での発表に相当する「理

科教育研究 B」および理科教育に関連する申請

書の作成と申請に相当する「理科教育研究 D」

からなる。

④は、授業公開の実施、参加、指導案の作成、

授業研究会への参加が該当する「理科授業研究

A~D」、科学イベント講師実習が該当する「科

学コミュニケーション」からなる。

⑤は、初級・中級受講者のインターンシップ

受入とその指導、同僚への助言活動あるいは,

地域の理科研究サークル等での活動など CST

としての実践的な活動・実習が対象となる「イ

ンターンシップ C」が該当する。

これらの比重を勘案し、平成 21 年度に試行

的に実施した内容を踏まえて、小冊子「CST

養成プログラムの手引き」にまとめた。実施状

況に基づき改訂を続けている。平成 24 年度末

までには、仕組みを完成させたい。

(3) 養成プログラムの受講に際しての留意

① 本プログラムを受講するに当たり、現職教

員の年度ごとの勤務内容の変化を考慮し、1

~5 年間を予定修了年限として設定した。

なお、初級および中級 CST 養成プログラム

の標準修業年限は 2 年としている。この期

間内に、上記カテゴリーの講座を自分の興

味関心に基づき選択し受講することでポイ

ントを取得していく。

② 基本的に勤務時間外(夕方以降や土日祝)

に開講される講座または、教員としての授

業力向上に資する授業研究・研修をポイン

トとして設定している。このため、受講に

際し、所属学校の協力が必要なものもある

が、大部分は自身の裁量で自己啓発的に研

修できる仕組みとしている。

③ ポイント取得を積み重ねていくうちに、「上

級 CST」となれる仕組みとしている。

④ 県内の大学や科学館等で講座を受講する際

には、その会場で講師とできるだけコンタ

クトをとり、将来、連絡を取ることができ

るよう名刺交換を勧めている。

⑤ インターンシップ C では、できるだけ、初

級・中級 CST 受講者(学部 3 年,院生)の

受け入れ担当教員となってもらい、後輩と

の連携を取ってもらう。

⑥ 講座受講の認定は、インターネットから投

稿された報告書による形式とし、フォーマ

ットも統一した。報告内容は、「受講内容」

「学んだこと」および「CST として活かせ

ること」の 3 点について、200~400 字で報

告することとした。

⑦ 上級 CST およびその候補者を対象とした

「合同研修会」を年数回開催し、上級 CST

および受講者間の連携や教材研究が進む環

境作りを行なった。

44

3 実施状況

昨年2月から4月に、受講生募集を実施した。

その結果、初級 8 名、中級 3 名及び上級 6 名

の応募があり、受講生として認定した。上級に

関しては、7~8 月の 2 次募集で,5 名の受講者

が加わった。また、平成 23 年度の受講者募集

の結果、更に、初級 6 名、中級(理工系学部卒

2 名を含み)3 名、上級 4 名が加わり、受講者

数も充実してきた。

平成 22 年度に各機関から提供頂いた講座数

は、200 を超え、県内各地で開催される状況が

出来上がったが、なお、開講場所については、

福井県北部(嶺北地域)特に、福井市内に偏在

しており、この問題を解決することが、県内全

域での CST 養成のカギを握っていると考えて

いる。今後も、CST 養成および支援に関する

協力機関を新規に開拓していき、県内のどこに

居住していても CST 養成プログラムに参加で

きる体制を整えていきたい。

現在、それぞれの興味関心をもとに、各連携

機関において知識・技能および指導力の向上に

資する研修に取り組んでいる。今年度(平成

23 年度)以降も受講者募集を継続して養成し、

CST の活動による地域の理科教育支援を行な

っていきたい。

福井大学、福井県教育研究所をはじめ、県内

の協力機関すべてが、現場の先生方の支援拠点

であり、上級 CST となった先生の所属校も支

援拠点として活動していくことを申請段階で

計画していた。平成 22 年度から養成に取り組

んでいく中で、他拠点の視察で得た取組も参考

とし、もう尐し明確な支援拠点を設置していき

たいという議論があり、CST 企画運営委員会

の議を経て、地域支援拠点(小学校)の設置を準

備している。県内に数ヵ所設定し、この拠点を

もとに、CST 事業の普及啓発、地域の理科教

育力の向上に資する活動等を展開していく計

画である。

4 まとめ

今後、CST 養成プログラムに所属する学部

生・院生・現職教員の数が増え、更に、平成

23 年度末には、本プログラムを修了した初級

CST、中級 CST、および上級 CST が輩出され

る。本事業を通じて、地域の理科教育力の向上

に資する活動が県内各地で展開されると同時

に、各級 CST および各級 CST 養成プログラム

受講者の間での世代間の交流や、それぞれと本

事業の協力機関の協力者との間に、新しいネッ

トワークが生まれ、小中学校での連携、地域の

大学・科学館等理科教育機関との連携も推進さ

れることも期待している。

謝辞

本取組みは、平成 21 年度理数系教員養成拠

点構築事業(通常取組)に採択され、独立行政

法人科学技術振興機構の支援のもと実施した

ものである。

本事業を実施するに当たり、本学教育地域科

学部理数教育講座の構成員および共同実施機

関である福井県教育委員会,CST 養成プログ

ラムに講座を提供いただいた、連携機関である

福井県立大学、福井工業大学、福井県立恐竜博

物館、福井市自然史博物館、福井県児童科学館、

協力機関である福井県大学私学振興課(大学連

携リーグ)、若狭湾エネルギー研究センター、

日本原子力研究開発機構(アクアトム)、原子

力安全システム研究所、更に、インターンシッ

プの仕組みづくりと実施に助言・協力いただい

た福井市教育委員会、美浜町教育委員会、坂井

市教育委員会等多数の機関のご協力にお礼申

し上げます。

45

科教研報 Vol.25 No.5

参考文献

1) 独立行政法人科学技術振興機構,理数系教

員(コア・サイエンス・ティーチャー)養成拠

点構築事業 HP http://rikai.jst.go.jp/cst/。

2) 福井大学・福井県教育委員会,平成 21,22

年度理数系教員養成拠点構築事業 HP

http://www.cst-fukui.net/。

3) 「理数系教員養成拠点構築事業における福

井大学の取り組み 」山田吉英、中田隆二、栗

原一嘉、大山利夫、山本博文、石井恭子、前田

桝夫、淺原雅浩、向井健治,日本理科教育学会

第60回全国大会論文集, P21(2010)。

4) 「福井大学におけるCST(コア・サイエン

ス・ティーチャー)養成の取り組み」淺原雅浩,

大阪教育大学科学教育センター 第4回科学教

育シンポジウム「理科教育のための教員研修を

考える」-日本の理科力向上のために

http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~cse/。

46

高知 CST 養成プログラム初年度の取り組み

ー高知 CST プログラムの基盤構築と高知 CST 養成プログラムの開発を中心にー

A Basis for Initial Trials of “Kochi Core Science Teachers Programme”:

Fundamental Construction of the CST Programme and Development of the CST training programme 大嶌竜午*,吉岡健一*,蒲生啓司**

Ryugo Oshima*, Kenichi Yoshioka*, Keiji Gamoh**

高知大学総合教育センター*,高知大学教育学部**

General Education Center, Kochi University*, Faculty of Education, Kochi University**

[要約] 高知大学と高知県教育委員会は,科学技術振興機構の助成のもと「高知 CST 養

成拠点構築事業」に平成 22 年度から4カ年の計画で取り組んでいる.本小論では,平成

22 年度に高知 CST 養成拠点構築事業においてなされた取り組みを,本事業を実施するた

めの基盤構築と CSTを養成するためのプログラムの開発の2点から検討した.その結果,

高知 CST 養成拠点構築事業では,初年度の取り組みとして,各機関との連携の構築とそ

の強化,高知 CST プログラム拠点校の選定・整備,高知 CST プログラムの周知,高知

CST養成プログラムの開発を主な成果として挙げることができた.

[キーワード] コア・サイエンス・ティーチャー(CST),教師教育

Ⅰ はじめに

理数教育の充実が盛り込まれた新学習指導要領が

本年度から小学校において,そして来年度から中学

校において実施される.このような改訂の背景には,

子どもの理科学力の不均衡や理科に対する消極的な

態度 1)など,理科を取り巻く諸問題があるだろう.

高知県内には,これまでも理科指導力を高める

ために教師による自主的な研究組織が存在し活

動が続けられてきた.しかしながら,近年,若い教

師が活動に加わらない,子どもの基礎学力の向上が

見られないというように,教師の理科指導力を高め

る取り組みのあり方に課題が見られるようになった.

小・中学校段階で子どもたちを理科好きにし,理

科に対する興味・関心を育み,科学的な思考力や

表現力を育てていくために,理科教員の指導力向

上を図るための方策が求められるのである.

そこで,高知大学と高知県教育委員会は,科学

技術振興機構の助成により「コア・サイエンス・

ティーチャー(CST)養成拠点構築事業」2)に平

成 22 年から取り組み始め,地域の中核的な理科

教員の養成,そして高知県内の小・中学校教師に

対する理科指導力の向上を図るためのシステム

の構築を行っている.平成 23年 4月から CSTの

養成が始まったが,平成 22年度にはそれに向けて

本事業の基盤構築と CST 養成プログラムの開発が

行われてきた.この節目にこれまでなされてきた取

り組みを検討し,今後の改善につなげていきたい.

本小論では,平成 22年度における高知 CST養

成拠点構築事業での取り組みを,高知 CST プロ

グラム全体に関わる基盤構築と CST を養成する

ためのプログラムの開発の2点から検討するこ

とを目的とする.なお,小論では,前者を「高知

CSTプログラム」,後者を「高知 CST養成プログ

ラム」として区別する.

47

科教研報 Vol.25 No.5

Ⅱ 高知 CST 養成拠点構築事業の概要

1 高知 CST 養成拠点構築事業の基本理念

本事業は,高知県内小・中学生の理科の基礎力

向上を図るために,その前提である教員の理科教

育力を向上させることを目的としている.この目

的を達成するために以下の2点を下位目標とし

て設定した.

・ 高知大学と高知県教育委員会との連携協力に

より,「高知 CST養成プログラム」を開発・実

施し,豊かな科学的知識や実験,観察について

の確かな知識と技能を持つ大学院生,現職教員

を養成する.

・ CST(高知 CST 養成プログラムを修了した現

職教員)が,拠点校を中心に勤務校や近隣小・

中学校において,基礎力向上を重視した理科教

育についての指導や助言を行い,地域の理科教

育の中核的な役割を担えるようなシステムを

構築する.

2 高知 CST養成プログラムの受講対象者と修了

目標者数

本養成プログラムは初級,中級,上級の3プロ

グラムを有しており,各級の受講対象者は以下の

通りである.

・ 初級:教育学,理学,農学を専攻する大学院生

(ただし,現職教員を除く)を対象とし,2年

間で修了認定を目指す.

・ 中級:現職教員を対象とし,初級 CST 修了者

または教科ミドルリーダー(高知県教育委員会

が修了認定)は1年間で,それ以外の現職教員

は2年間で修了認定を目指す.

・ 上級:中級 CST修了者であり且つ上級 CST候

補者,および高知県教育委員会より特別推薦を

受けた現職教員を対象とし,1年間で修了認定

を目指す.

高知 CST養成プログラムは平成 23年度から開

講され,初年度末に最初の CST が誕生する見込

みである.表 1に示したように,科学技術振興機

構からの助成期間内に,40名の CSTを養成する

ことを目標としている.初級プログラムは,履修

期間が2年間であるため,平成 23 年度に修了者

は出ない見込みである.

表1 高知 CST 養成プログラム修了目標者数

23 年度 24 年度 25 年度

初級 8 名 10 名

中級 2 名 6 名 6 名

上級 2 名 2 名 4 名

計 4 名 16 名 20 名

Ⅲ 高知 CST プログラムの初年度の成果

本章では,平成 22 年度における本事業の成果

を,高知 CST プログラム全体に関わる基盤構築

と,高知 CST 養成プログラムの開発の2点から

述べることにする.

1 高知 CST プログラムの基盤構築

(1)各機関との連携構築と強化

1)高知大学と高知県教育委員会との連携

高知 CST プログラムの主たる実施機関は,高

知大学と高知県教育委員会である.そこで,本事

業を展開するにあたり,この2機関の強固な連携

が不可欠であるという認識が共有されている.そ

の考えは,高知 CST プログラムの運営会議,実

施委員会,4つの部会における委員の構成及び役

割に現れている.すなわち,これらの会議,委員

会,部会は,高知大学側の8名,そして高知県教

育委員会側(高知県教育センター,3つの市教育

委員会を含む)の 12 名の委員から構成されてお

り,数的なバランスがとられている.また,一方

からの委員が会議,委員会,部会の代表を務めた

場合,もう一方からの委員が副代表を務めるとい

う体制になっており,高知 CST プログラムを進

48

める上で,高知大学と高知県教育委員会が相互に

イニシアチブをとることが可能である.

2)高知大学内での連携

高知大学において理科教員の養成に対して特

に関連の強い大学院の専攻科は,教育学専攻,理

学専攻,そして農学専攻である.そこで,高知

CSTプログラムを幅広い観点から吟味し,またそ

れぞれの専攻がもつ専門性を高知 CST 養成プロ

グラムの授業科目に生かすために,教育学専攻が

主導的役割を担いながら理学専攻,農学専攻との

連携を図ってきた.3専攻が連携し,多様な授業

を提供することにより,受講生が個々の興味関心

及び問題意識に応じて授業を選択できるように,

カリキュラムの選択性を高めた.また,受講生の

負担軽減及び受講生の確保という観点から,それ

ぞれの専攻で開設されている授業科目の活用や,

高知 CST 養成プログラムの説明会の実施などを

円滑に行うことができた.

3)高知県教育委員会内での連携

高知県教育委員会は,その管轄下にある市教育

委員会,高知県教育センター,高知 CST プログ

ラム拠点校との連携を強化することにより,高知

CST プログラムの実質的な充実を担った.特に,

3つの市教育委員会との連携により,現職教員の

プログラム受講生の確保を行った.また,教員の

理科授業力の高度化への取り組みとして,高知県

教育センターにこれまで蓄積されてきたノウハ

ウを,高知 CST 養成プログラムの開発に生かす

ことができた.

4)高知県内研究機関・企業・NPO法人と高知 CST

プログラムとの連携

高知県内の研究機関,企業,NPO 法人から,

高知 CST 養成プログラムの充実のために連携協

力を得た.これらの連携により,高知の自然,応

用科学技術,科学と社会の関わりなどについての

内容を受講者に提供することができる.また,こ

れまでの理科授業の実践に対する新たな視点を

高知 CST 養成プログラム受講生に養うことが目

指されている.また,これら地域に根ざした施設

及びそこで働く人々を本プログラムに取り込む

ことにより,地域と教育機関が一体となった高知

県の理科教育を創造する礎となることが期待さ

れている.

(2) 高知 CST プログラム拠点校の選定及び整備

高知 CST プログラムでは,地域の理科教育力

を向上させるために,CST を養成する場として,

また地域の小・中学校教師への指導助言を行う場

所として,小学校及び中学校それぞれ2校を高知

CSTプログラム拠点校として選定した.選定の基

準は以下の2点である.

・ これまでの実績もあり,理科教育に熱心に取り

組んでいる学校.

・ 今後も高知県の理科教育の拠点校として他校

をリードしていく学校.

平成 22 年度にはこれら4校の実験設備・備品

等の整備を行い,地域の拠点校としての充実を図

った.

(3)高知 CST プログラムの周知

高知 CST プログラムを地域に根ざすため,そ

して高知 CST 養成プログラムの受講生を確保す

るため,以下のように高知 CST プログラムの周

知を図ってきた.第一に,ホームページを活用し

た情報発信である.高知 CST プログラムを広く

周知させ,参加を促す目的でホームページを制作

した.第二に,高知 CST 養成プログラムの受講

生を確保するため,説明会を実施した.高知大学

は,主に平成 23 年度から大学院生となる学生を

対象に行い,高知県教育委員会は,高知 CST プ

ログラムの共同実施市である高知市,土佐市,南

国市及び拠点校の教師を対象に説明会を実施し

49

科教研報 Vol.25 No.5

た.説明会に加え,広報用のチラシを作成し配布

すること,また高知大学フリーペーパーに高知

CST 養成プログラムに関する記事を掲載するこ

とによって,高知 CST プログラムの周知を図っ

た.第三に,高知 CST プログラムの取り組みに

対して地域から理解・支援を得ること,そしてそ

れらを最大限発揮し地域の理科教育力を向上さ

せることを目的として,高知県内の報道機関にこ

の取り組みに関する報道の働きかけを行ってき

た.例えば,平成 22年 8月 26日付けの読売新聞

に本プログラムの取り組みに関する記事が掲載

され,平成 22 年 9 月 11 日にラジオ FM 高知

「Change The 高知大学」を通じて,「高知大学

と高知県教育委員会が共同で『理数系教員』養成

の質的向上を目指す」という内容が放送された.

2 高知 CST 養成プログラムの開発

(1)高知 CST 養成プログラム開発の基本指針

高知 CST 養成プログラムのねらいは,高知県

下の理科教育の実態及び地域の理科教育力育成

における課題を踏まえ,子どもの科学的な見方・

考え方を育むために,教師能力の高度化を図るこ

とである.そうしたねらいのもと,高知 CST 養

成プログラムは主に以下の3つの方向性に基づ

いて開発された.

1)4つのコアカリキュラムに基づいた科目の構成

高知 CST 養成プログラムでは,4つの観点か

ら教師の理科指導能力の高度化を図ることとさ

れている.それら4つの観点は,4つのコアカリ

キュラム,すなわち,実習・演習コアカリキュラ

ム,理科専門コアカリキュラム,環境教育コアカ

リキュラム,ソーシャルスキルコアカリキュラム

である.これらのコアカリキュラムに基づき,高

知 CST養成プログラムの授業科目が設定された.

2)地域の力の活用

高知 CST 養成プログラムでは,子どもの基礎

力向上を重視した地域の理科教育力向上が指向

されている.そこでは,子どものもつ自然や環境

への興味関心を引き出し,観察と実験が活発に行

われる環境を作ることができる教師の養成が求

められる.高知県には,海,川,山など豊かな自

然が存在しており,それらを活用することが子ど

もの理科への興味関心を高め,深い学びへと導く

ことが期待できる.そこで,高知 CST 養成プロ

グラムでは,高知県の豊かな自然を活用した授業

科目が多数開講される予定である.身近に存在し

ている自然について受講生が理解を深めること

とともに,自然を学ぶ楽しさを再認識し,その観

点を理科指導に役立たせることが期待できるか

らである.

また,豊かな自然に加え,それらを研究するた

めの先端の研究施設が高知県内には多数存在し

ている.例えば,高知県立牧野植物園,高知県海

洋深層水研究所,海洋研究開発機構高知コアセン

ターである.さらに,高知県内の産業を支えるた

めに日夜研究を繰り返している企業や,高知の自

然環境を守るために活動している NPO 法人も存

在している.高知 CST プログラムでは,大学教

員や指導主事のみならず,上述した高知県内研究

施設,企業,NPO 法人の協力により,地域全体

で高知の理科教育力を向上させることがねらわ

れているのである.

3)受講生の負担軽減

高知 CST 養成プログラムの受講生は,高知大

学大学院の教育学,理学,農学専攻においてそれ

ぞれの専門研究を遂行しながら,あるいは,小・

中学校で勤務をしながら,本養成プログラムを受

講することになる.しかしながら,本養成プログ

ラムの負担があまりに大きいことにより,プログ

ラムの途中で受講を取りやめることになるので

あれば,理科の中核的な教師を養成するという本

50

養成プログラムの本来の目的を達成することは

できない.そこで,本養成プログラムが,受講生

にとって一定の効果を生みながら,専門研究や勤

務に対して過度の負担とならないように,受講生

の負担軽減を図った.

まず,大学院生である受講生に対する負担軽減

策として,本養成プログラムの授業科目に,通常

の大学院授業科目をできるだけ活用するように

配慮した.また,農学専攻のキャンパスは,CST

養成プログラムの授業科目が主に開講されるキ

ャンパスから離れていることから,農学専攻生の

経済的,時間的な負担軽減を図るために,ソーシ

ャルスキルコアカリキュラムの授業科目におい

て遠隔講義システムを用いることにより,農学専

攻のキャンパスからでも受講可能となるように

した.次に,現職教員である受講生に対する負担

軽減策として,土日及び長期休業中に集中的に受

講可能となるように授業開講日を設定した.

(2)高知 CST 養成プログラムの科目と履修方法

1)高知 CST養成プログラムの科目

高知 CST 養成プログラムの授業科目は,①実

習・演習コアカリキュラム,②理科専門コアカリ

キュラム,③環境教育コアカリキュラム,④ソー

シャルスキルコアカリキュラムの4つから構成

されている.

①実習・演習コアカリキュラム

実習・演習コアカリキュラムは,理科授業力向

上を主眼として,実験活動の基礎知識及びスキル,

理科と社会及び科学研究とのかかわり,などを理

解・修得させることをねらいとして設定された.

「小中学校理科授業研究Ⅰ」,「小中学校理科特別

実習Ⅰ」,「小中学校理科特別研究Ⅰ・Ⅱ」では,

高知大学での講義・実習をはじめ,高知県教育セ

ンター本館の教科研究センターにおいて高知県

教育センター指導主事の協力を得て授業が展開

されるとともに,さらに4校の拠点校において授

業観察や研究授業が実施される.「先端研究を探

るⅠ・Ⅱ」は,研究・開発の最前線で活躍してい

る県内の研究機関・企業(約 15 機関の内,受講

生が選択)に受講生が赴き,直接担当者とディス

カッションを行う授業科目である.

②理科専門コアカリキュラム

理科専門コアカリキュラムは,なぜ理科を学ぶ

必要があるのかを考察すること,あるいは物理・

科学・生物・地学の専門的知識を修得することを

ねらいとして設定された.受講生は,理科授業に

おける指導者としての立場のみならず,探究者と

しての理科教師という側面が求められるからで

ある.

③環境教育コアカリキュラム

環境教育コアカリキュラムは,今日の自然環境

に関する研究の成果を,小・中学校の教育現場で

どのように子どもたちに伝えるのか,さらには教

材に活かすのかについて,教員が考え,実践して

いく力をつけることをねらいとして設定された.

ここでは,幅広く自然環境,生活環境及び環境問

題を知る上での各専門研究と環境教育の立場か

ら,基本となる見方・考え方について,実習・演

習を交えながら講義を行う.とりわけ,実習を主

体とした科目としてフィールド実習科目が設定

されている.

④ソーシャルスキルコアカリキュラム

ソーシャルコアカリキュラムは,教師の役割を

学ぶとともに,子どもが何をどのように感じてい

るのかを把握し,子どもの効果的なコミュニケー

ションの形を学ぶことをねらいとして設定され

た.これは,子どもの自然に対する興味関心ある

いは理科学習に対する意欲の喚起,子どもの学び

を促すインタープリターとしての教師の役割が

期待されているのである.

51

科教研報 Vol.25 No.5

2)高知 CST 養成プログラムの履修方法

高知 CST 養成プログラムでは,受講生のプロ

グラム(初級,中級,上級)及びカリキュラム区

分(A,B-1,B-2,B-3,B-4,C)により履修期

間,要修了科目,要修了総時間数が異なる(表2).

表中の「ミドルリーダー」とは,高知県教育委員

会独自の研修制度により,教科ミドルリーダーに

認定された教員を指す.実習・演習コアカリキュ

ラムのみが,必修科目(上級プログラム受講生は

実習・演習コアカリキュラムのいくつかの授業科

目の内の一部に指導的立場で参加)であり,理科

専門コアカリキュラム及び環境教育コアカリキ

ュラムは,初等及び中等プログラムの選択必修科

目,ソーシャルスキルコアカリキュラムは,初等

プログラムの選択必修科目である.

Ⅳ おわりに

本小論の目的は,平成 22 年度における高知

CST養成拠点構築事業での取り組みを,高知CST

プログラム全体に関わる基盤構築と高知 CST 養

成プログラムの開発の2点から検討することで

あった.その結果,高知 CST 養成拠点構築事業

では,初年度の取り組みとして,各機関との連携

の構築とその強化,高知 CST プログラム拠点校

の選定及び整備,高知 CST プログラムの周知,

高知 CST 養成プログラムの開発を主な成果とし

て挙げることができた.

引用文献

1)大髙泉:「新学習指導要領がめざすもの 理科教

育」,『指導と評価』,Vol.54, 5月特大号,30-33

項,2008年.

2)科学技術振興機構:「理数系教員(コア・サイエ

ンス・ティーチャー)養成拠点構築事業」,

〈http://rikai.jst.go.jp/cst/1100.html〉,2011

年 5月取得.

プログラム カリキュラム

区分 受講対象者 履修期間 要修了時間数

大学院教育学専攻学生

大学院理学専攻学生 初級CST A

大学院農学専攻学生

2年間 288時間

B‐1 現職教員(大学院専攻学生) 240時間

B‐2 現職教員※ 2年間

240時間

B‐3 現職教員(初級CST) 132時間 中級CST

B‐4 現職教員(ミドルリーダー) 1年間

108時間

上級CST C 県による特別推薦教員 1年間 「上級CST認定科目」を履修

表2 受講対象者・履修期間・要修了時間数一覧

※B‐1、B‐3、B‐4を除く。

52