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アルコール飲料の中でビールは人気が高く消費量が多いも のですが,昨今ではビールに似た風味を備えた発泡酒やノン アルコールビールなども発売され,市場は賑わいを見せてい ます。ビール,発泡酒,ノンアルコールビールを “ ビール類 ” と呼ぶことにすると,これらビール類では原料や成分に変化 を加え,アルコール度数やカロリー等を調節したものが多数 販売されています。分光分析の観点から見ると,成分の種類 や量が異なるビール類はその違いを反映した特有の吸収スペ クトルを示すと考えられますが,実際にどのような相違が見 られるかを調べることはたいへん興味深いことと言えます。 今回,紫外可視近赤外分光光度計 UV-3600 を用いて様々 なビール類を測定し,その吸収スペクトルの差異を確認しま したので紹介致します。また多変量解析を用いてビール類の 分類を試みましたので合わせて報告致します。 M. Sugioka UV-3600 を用いて市販のビール類 14 種(ビール 4 種,発 泡酒 6 種,ノンアルコールビール 4 種)の吸収スペクトル を測定しました。超音波を 3 分間照射し脱気してから光路長 2 mm の石英セルを用い Air をブランクとして測定しました。 測定結果を Fig. 1 に,分析条件を Table 1 に示します。さら に紫外域(230 ~ 400 nm)と近赤外域(1400 ~ 1500 nm と 1650 ~ 1750 nm)を拡大した図を Fig. 2 ~ Fig. 4 に示 します。Fig. 3 の 1450 nm 付近の大きなピークは主に水の 吸収によるものであり,Fig. 4 における 1695 nm 周辺のピー クは主にエタノールの吸収によります。参考として水とエタ ノール(99.5 % 濃度)の吸収スペクトルを Fig. 5 に示します。 矢印で示した 1450nm 付近のピークは Fig. 3 のピークに対 応し,1695 nm 付近のピークは Fig. 4 のピークに対応して いることがわかります。 今回のデータでは紫外域で信号が飽和しているため,全試 料を純水で 5 倍に希釈し,紫外域(230 ~ 400 nm)の吸収 スペクトルを再度測定しました。その結果を Fig. 6 に示しま す。250 ~ 300 nm に見えるピークは,主にビール類に含ま れる蛋白質の吸収によると考えられます。 試料と測定結果 Sample and Instrument Fig. 1 ビール,発泡酒,ノンアルコールビールの吸収スペクトル (太線:ビール,細線:発泡酒,点線:ノンアルコールビール) Absorption Spectra of Beers, Low-malt Beers and Non-alcoholic Beers (Thick Line: Beers, Thin Line: Low-malt Beers, Dotted Line: Non- alcoholic Beers) nm 230.0 500.0 1000.0 1500.0 1900.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 Abs. Table 1 分析条件 Analytical Conditions 使用装置 : 島津紫外可視近赤外分光光度 UV-3600 測定波長範囲 : 230 nm ~ 1900 nm スキャンスピード : 中速 サンプリングピッチ : 1.0 nm 測光値 : 吸光度 スリット幅 : 3 nm 検出器切替波長 : 870 nm, 1650 nm 試料に含まれるアルコール量は,ビール:5 %,発泡酒: 3 % ~ 5.5 %,ノンアルコールビール:0 %,また蛋白質量 は 100 mL 中でビール:0.2 ~ 0.4 g,発泡酒とノンアルコー ルビール:0 ~ 0.3 g となっています。商品ラベルにはこれ らの範囲に含まれる “ ある値 ” や “ 範囲 ” として記されてい ます。本データにおける紫外域と近赤外域での吸収の大きさ は,蛋白質とアルコールのそれぞれの含有量を凡そ反映した ものになっています。 Application News No. A447 LAAN-A-UV033 ビール類の分光分析と多変量解析を用いた分類 Spectroscopic Mesurement and Multivariate Analysis to Classification for Various Kinds of Beer 光吸収分析 Spectrophotometric Analysis

SHIMADZU APPLICATION NEWSM. Sugioka UV-3600を用いて市販のビール類14種(ビール4種,発 泡酒6種,ノンアルコールビール4種)の吸収スペクトル を測定しました。超音波を3分間照射し脱気してから光路長

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    0120-131691(075)813-1691

    島津コールセンター

    アルコール飲料の中でビールは人気が高く消費量が多いも

    のですが,昨今ではビールに似た風味を備えた発泡酒やノン

    アルコールビールなども発売され,市場は賑わいを見せてい

    ます。ビール,発泡酒,ノンアルコールビールを “ ビール類 ”

    と呼ぶことにすると,これらビール類では原料や成分に変化

    を加え,アルコール度数やカロリー等を調節したものが多数

    販売されています。分光分析の観点から見ると,成分の種類

    や量が異なるビール類はその違いを反映した特有の吸収スペ

    クトルを示すと考えられますが,実際にどのような相違が見

    られるかを調べることはたいへん興味深いことと言えます。

    今回,紫外可視近赤外分光光度計 UV-3600 を用いて様々

    なビール類を測定し,その吸収スペクトルの差異を確認しま

    したので紹介致します。また多変量解析を用いてビール類の

    分類を試みましたので合わせて報告致します。

    M. Sugioka

    UV-3600 を用いて市販のビール類 14 種(ビール 4 種,発

    泡酒 6 種,ノンアルコールビール 4 種)の吸収スペクトル

    を測定しました。超音波を 3 分間照射し脱気してから光路長

    2 mm の石英セルを用い Air をブランクとして測定しました。

    測定結果を Fig. 1 に,分析条件を Table 1 に示します。さら

    に紫外域(230 ~ 400 nm)と近赤外域(1400 ~ 1500 nm

    と 1650 ~ 1750 nm)を拡大した図を Fig. 2 ~ Fig. 4 に示

    します。Fig. 3 の 1450 nm 付近の大きなピークは主に水の

    吸収によるものであり,Fig. 4 における 1695 nm 周辺のピー

    クは主にエタノールの吸収によります。参考として水とエタ

    ノール(99.5 % 濃度)の吸収スペクトルを Fig. 5 に示します。

    矢印で示した 1450nm 付近のピークは Fig. 3 のピークに対

    応し,1695 nm 付近のピークは Fig. 4 のピークに対応して

    いることがわかります。

    今回のデータでは紫外域で信号が飽和しているため,全試

    料を純水で 5 倍に希釈し,紫外域(230 ~ 400 nm)の吸収

    スペクトルを再度測定しました。その結果を Fig. 6 に示しま

    す。250 ~ 300 nm に見えるピークは,主にビール類に含ま

    れる蛋白質の吸収によると考えられます。

    ■試料と測定結果Sample and Instrument

    Fig. 1 ビール,発泡酒,ノンアルコールビールの吸収スペクトル (太線:ビール,細線:発泡酒,点線:ノンアルコールビール)

    Absorption Spectra of Beers, Low-malt Beers and Non-alcoholic Beers(Thick Line: Beers, Thin Line: Low-malt Beers, Dotted Line: Non-alcoholic Beers)

    nm230.0 500.0 1000.0 1500.0 1900.0

    4.0

    3.0

    2.0

    1.0

    0.0

    Abs.

    Table 1 分析条件Analytical Conditions

    使用装置 : 島津紫外可視近赤外分光光度 UV-3600測定波長範囲 : 230 nm ~ 1900 nmスキャンスピード : 中速サンプリングピッチ : 1.0 nm測光値 : 吸光度スリット幅 : 3 nm検出器切替波長 : 870 nm, 1650 nm

    試料に含まれるアルコール量は,ビール:5 %,発泡酒:

    3 % ~ 5.5 %,ノンアルコールビール:0 %,また蛋白質量

    は 100 mL 中でビール:0.2 ~ 0.4 g,発泡酒とノンアルコー

    ルビール:0 ~ 0.3 g となっています。商品ラベルにはこれ

    らの範囲に含まれる “ ある値 ” や “ 範囲 ” として記されてい

    ます。本データにおける紫外域と近赤外域での吸収の大きさ

    は,蛋白質とアルコールのそれぞれの含有量を凡そ反映した

    ものになっています。

    ApplicationNews

    No.A447

    LAAN-A-UV033

    ビール類の分光分析と多変量解析を用いた分類Spectroscopic Mesurement and Multivariate Analysis to Classification for Various Kinds of Beer

    光吸収分析Spectrophotometric Analysis

  • ApplicationNews

    No.

    nm230.0 250.0 300.0 350.0 400.0

    4.0

    3.0

    2.0

    1.0

    0.0

    Abs.

    Fig. 2 Fig. 1 の拡大図(230 ~ 400 nm) (太線:ビール,細線:発泡酒,点線:ノンアルコールビール)

    Expanded Spectra of Fig. 1 (230 ~ 400 nm)(Thick Line: Beers, Thin line: Low-malt Beers, Dotted Line: Non-alcoholic Beers)

    Abs.

    nm230.0 500.0 1000.0 1500.0 1900.0

    3.0

    2.0

    1.0

    0.0

    Fig. 5 水とエタノールの吸収スペクトル(青線:水,赤線:エタノール)Absorption Spectra of Water and Ethanol (Blue Line: Water, Red Line: Ethanol)

    Abs.

    nm230.0 250.0 300.0

    1.5

    1.0

    0.5

    0.0400.0350.0

    Fig. 6 5 倍に希釈した試料の吸収スペクトル (太線:ビール,細線:発泡酒,点線:ノンアルコールビール)

    Absorption Spectra of 5 times diluted Samples(Thick Line: Beers, Thin Line: Low-malt Beers, Dotted Line: Non-alcoholic Beers)

    Abs.

    nm1400.0 1420.0 1440.0 1460.0 1480.0 1500.0

    3.0

    2.8

    2.6

    2.4

    2.2

    2.0

    ノンアルコールビール 発泡酒

    ビール

    Fig. 3 Fig. 1 の拡大図(1400 ~ 1500 nm) (太線:ビール,細線:発泡酒,点線:ノンアルコールビール)

    Expanded Spectra of Fig. 1 (1400 ~ 1500 nm) (Thick Line: Beers, Thin line: Low-malt Beers, Dotted Line: Non-alcoholic Beers)

    nm1650.0 1660.0 1680.0 1700.0 1720.0 1740.0 1750.0

    Abs. 0.7

    0.6

    0.5ノンアルコールビール

    発泡酒ビール

    Fig. 4 Fig. 1 の拡大図(1650 ~ 1750 nm) (太線:ビール,細線:発泡酒,点線:ノンアルコールビール)

    Expanded Spectra of Fig. 1 (1650 ~ 1750 nm)(Thick Line: Beers, Thin Line: Low-malt Beers, Dotted Line: Non-alcoholic Beers)

    A447

  • スコア

    PC-1 (94 %)

    PC-2 (5 %)

    C3

    C1 C4

    B4

    B5

    B3

    B6

    A4

    A3 A1

    A2

    B1B2

    C2

    -4 -3

    1.2

    1

    0.8

    0.6

    0.4

    0.2

    0

    -0.2

    -0.4

    -0.6

    -0.8

    -1-2 -1 0 1 2 3 4 5

    発泡酒

    ビール

    ノンアルコールビール

    Fig. 7 スコアプロットScore Plot

    Fig. 8 A1 と A3,C1 と C2 の吸収スペクトル (赤線:A1,青線:A3,黒線:C1,緑線:C2)

    Absorption Spectra of A1 and A3, C1 and C3(Red Line:A1, Blue Line: A3, Black Line: C1, Green Line: C2)

    Abs.

    nm230.0 250.0 300.0 350.0 400.0

    1.5

    1.0

    0.5

    0.0

    Fig. 9 ローディングプロットLoading Plot

    ローディング

    1400 ~ 1480 nm

    230 ~ 300 nm

    PC-1 (94 %)- 0.1 0.1

    0.1

    0

    0

    - 0.1

    PC-2 (5 %)

    多変量解析を用いてビール類の分類を試みました。5 倍希

    釈の吸光度データ(230 ~ 400 nm)と希釈無しの吸光度デー

    タ(401 ~ 1870 nm) を 用 い て, 主 成 分 分 析(PCA) を 行

    いました 1)。得られたスコアプロット 2)を Fig. 7 に示します。

    A がビール,B が発泡酒,C がノンアルコールビールに対応

    します。A, B, C の各試料でグループを形成していることが

    わかります。スコアプロット上において近い点ほど “ よく似

    た試料 ” となります。例えば,A1 と A3 や C1 と C2 は似て

    いると考えられますが,Fig. 8 に示したそれらの紫外域のス

    ペクトルを見ると互いによく似ていることがわかります。

    Fig. 9 にローディングプロット 3)を示します。ローディン

    グプロットを見ることで分類された各グループの特徴を把

    握することができます。Fig. 9 を見ると,中心から右(また

    は右上)方向に紫外域のデータ成分に対応するローディン

    グベクトル 3)成分が多くプロットされています。そのこと

    は,Fig. 7 のスコアプロットで右方向にプロットされた試料

    ほど紫外域の吸収が大きいことを意味します。実際その方向

    にある A1 ~ A4(ビール)は,Fig. 6 を見ても紫外域の吸光

    度が高いものになっています。また Fig. 9 のローディングプ

    ロットで,中心から左上方向に水の吸収に対応する 1400 ~

    1480 nm のローディングベクトル成分が多くプロットされ

    ています。このことはスコアプロットで左上方向にプロット

    されている試料ほど,純水に近い(アルコール分の少ない)

    試料であることを意味します。実際その方向にある C1 ~

    C4(ノンアルコールビール)は,Fig. 3 を見ても水の吸収に

    対応する 1450 nm 付近の吸光度が高いものになっています。

    以上より,スコアプロットの右方向ほど主に紫外域の吸光

    度が高い試料が,また左上方向ほどアルコール分が少ない試

    料がプロットされていると言うことができます。表現を変え

    ると,スコアプロット上で右方向に位置する試料ほど蛋白質

    等の有機物を多く含み,また左上方向に位置する試料ほどア

    ルコール分の少ない試料であるということができます。B1

    ~ B6 の発泡酒は,紫外域の吸光度がそれほど高くなく(ノ

    ンアルコールビールと同程度),アルコール分はビールと同

    程度のものも多いことから,スコアプロット上で左下方向に

    位置していると考えられます。

    ■多変量解析を用いたビール類の分類Classification for Various Kinds of Beer by Multivariate Analysis

  • 分析計測事業部グローバルアプリケーション開発センター

    ※本資料は発行時の情報に基づいて作成されており、予告なく改訂することがあります。 改訂版は下記の会員制 Web Solutions Navigator で閲覧できます。

     https://solutions.shimadzu.co.jp/solnavi/solnavi.htm

    会員制情報サービス「Shim-Solutions Club」にご登録ください。https://solutions.shimadzu.co.jp/会員制Webの閲覧だけでなく、いろいろな情報サービスが受けられます。

    0120-131691(075)813-1691

    島津コールセンター

    ApplicationNews

    No.

    3100-07203-560-IK2012.7

    初版発行:2012年7月

    今回,ビール類の吸収スペクトルを見ることで,アルコー

    ルや蛋白質等の含有量の相違を確認することができました。

    また測定データに多変量解析を適用することで,ビール類を

    種類によって各グループに分類し,それらの特徴を把握する

    ことができました。食品の開発・研究においては多数の商品

    を比較検討する必要がありますが,主成分分析(PCA)を用

    いると試料間の類似度を把握することができます。今回の結

    果は,分光分析と多変量解析の組み合わせがビール類を含む

    食品の開発に有効であることを示唆していると考えられま

    す。

    ■まとめSummary

    1) 多 変 量 解 析 ソ フ ト ウ ェ ア The Unscrambler® を 用 い て 計 算 を 行 な い ま し た。The Unscrambler は CAMO 社 の 商 標 ま た は 登 録 商 標 で す。 なお,本解析に関してはデータに対し中心化(mean centering)を行い主成分分析を行いました。

    2) スコアプロットとは,多次元空間中に表現された各試料の点を二つのローディングベクトル上に射影し,2 次元グラフとして表現したものです。ローディングベクトルに関しては下記 3)を参照下さい。

    3) ローディングプロットとは,第一主成分,第二主成分(あるいは他の主成分の組み合わせ)の各ローディングベクトルの対応成分を 2 次元座標にプロットしたものです。ここでローディングベクトルは,データ行列に対し固有値計算を行うことにより得られるベクトルです。

    A447