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1 本稿テーマ:コア部品サプライヤーをめぐる企業間の製品開発の分業 —契約理論の視点— 東京大学経済学研究科経営教育研究センター 特任研究員 許經明(Shiu, Jing-Ming[email protected] 概要: 1990 年代末から、TI ADI などのコア部品サプライヤーが携帯電話端末の心臓部に当た る「ベースバンドチップセットと通信プロトコル・スタック」を販売し始めた。それにより、台湾系の生 産受託企業は欧米系のブランド企業に製品開発のサービスを提供し始めた。本研究では、契約 理論のもとで、コア部品サプライヤーをめぐるブランド企業と生産受託企業との製品開発の分業 の成功パターンを検討した。台湾系の生産受託企業 8 社へのアンケート調査の結果によると、 ブランド企業は生産受託企業との製品の開発品質を最大限に獲得するためには、「コア部品知 識」を高く確保していながら、生産受託企業に製品開発の「意思決定の権利(Decision Rights)」 を多く委ねる必要がある。また、ブランド企業は生産受託企業とは「早期問題解決」と「緊密なコミ ュニケーション」を取ることも欠かせないのである。最後に、本研究の分析結果を用いて、従来の ダイヤドの企業間分業を想定している契約理論を拡張することを試みる。 キーワード:トライアドの企業間分業、コア部品サプライヤー、コア部品知識、 意思決定の権利、製品の開発品質

Shiu, Jing-Ming jingmingshiu@gmail - HOME - 大西立 …webpark1746.sakura.ne.jp/jafee2015/pdf/ShiuJingming.pdf1 本稿テーマ:コア部品サプライヤーをめぐる企業間の製品開発の分業

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本稿テーマ:コア部品サプライヤーをめぐる企業間の製品開発の分業

—契約理論の視点—

東京大学経済学研究科経営教育研究センター 特任研究員 許經明(Shiu, Jing-Ming) [email protected]

概要:

1990 年代末から、TI や ADI などのコア部品サプライヤーが携帯電話端末の心臓部に当た

る「ベースバンドチップセットと通信プロトコル・スタック」を販売し始めた。それにより、台湾系の生

産受託企業は欧米系のブランド企業に製品開発のサービスを提供し始めた。本研究では、契約

理論のもとで、コア部品サプライヤーをめぐるブランド企業と生産受託企業との製品開発の分業

の成功パターンを検討した。台湾系の生産受託企業 8 社へのアンケート調査の結果によると、

ブランド企業は生産受託企業との製品の開発品質を 大限に獲得するためには、「コア部品知

識」を高く確保していながら、生産受託企業に製品開発の「意思決定の権利(Decision Rights)」

を多く委ねる必要がある。また、ブランド企業は生産受託企業とは「早期問題解決」と「緊密なコミ

ュニケーション」を取ることも欠かせないのである。 後に、本研究の分析結果を用いて、従来の

ダイヤドの企業間分業を想定している契約理論を拡張することを試みる。

キーワード:トライアドの企業間分業、コア部品サプライヤー、コア部品知識、 意思決定の権利、製品の開発品質

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1. はじめに

ICT (Information Communication Technology)産業では、コア部品サプライヤーの意図と戦

略がブランド企業のアウトソーシングに大きく影響を与えている(Brown and Eisenhardt, 1998;

Burgelman, 2002)。例えば、Intel と台湾系の生産受託企業は戦略的にコラボーレーションをす

ることによって、ブランド企業に Intel の 新 CPU を搭載するパソコンを提供している (立本・許・

安本, 2008)。こうして、ICT 産業でのコア部品サプライヤーの意図や戦略が、ブランド企業と生

産受託企業の製品開発の分業に影響力を大きく発揮していると考えられる。

ブランド企業は生産受託企業との製品開発の分業から得る 大な利益としては、製品の高

品質による市場販売台数の増加である。通常、市場の不確実性と技術の複雑性のもとで、市場

販売台数がブランド企業と生産受託企業との契約には事前に明記されることが難しい。また、製

品品質に関連するすべての製品開発の事項も事前に契約には記載することが容易ではない。

このような状況のなかで、製品の開発品質が高まると、市場販売台数の増加による収益も高くな

ると予測され、ブランド企業と生産受託企業はそれぞれその収益を享受することができる。したが

って、ブランド企業と生産受託企業はそれぞれ不完全契約のもとで製品の開発品質を高め、残

余的な利得(residual income)の獲得を企てると考えられる。

従来の契約理論によると、残余的な利得を 大限に獲得するために、ブランド企業は自社と

生産受託企業のどちらが知識を多く持っているのかによって、製品開発における意思決定の権

利(decision rights)を自社に保有するのか生産受託企業に委ねるのかを決定する。しかし、先

述のように、ICT 産業においては、ブランド企業と生産受託企業との間の知識と意思決定の権利

がコア部品サプライヤーの意図や戦略によって影響されることを無視してはいけない。では、こう

して、ICT 産業でよく見られるように、コア部品サプライヤーは製品開発の も重要な知識を提

供しているという状況のなかで、ブランド企業が如何にして生産受託企業との分業における製品

の開発品質を 大限に向上することで残余的な利得を獲得するのか。

本研究は、まず、第 2 節では、企業間分業のパフォーマンスに貢献する要因を、従来の契約

理論に関するサーベイを通じて明らかにする。それを踏まえ、ICT 産業における企業間分業に

関する既存研究を概観する。また、従来のダイヤドの企業間分業を想定している契約理

論とは異なり、ICT 産業に求められる「トライアド」の企業間分業の分析視点の必要性

を提起する。第 3 節では、本研究の分析するフレームワークや仮説を提示する。第 4 節

は分析対象、手法、データ、変数の処理を説明する。第 5 節では、ブランド企業は生産受

託企業との製品の開発品質を 大限に追求できる条件とは何か、という分析結果を示す。最後、

第 6 節と第 7 節では、本研究の分析結果をディスカッションし、今後の研究課題を提起

する。

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2. 既存研究

2.1. 企業間分業のパフォーマンスに貢献する要因

市場の不確実性と技術の複雑性は企業間分業の収益構造に影響を与える。企業と協業相

手にとっては、分業開始後の出来事については事前に予測することが難しいという限定合理性

(bounded rationality)が存在しているため、不完全契約(incomplete contract)しか結ばれない。

このような状況のなかで、企業と協業相手はそれぞれ自己利益のために、不完全契約における

残余的な利得を企ている。

不完全契約のなかで、知識が一つの無形資産であると考えられ、残余的な利得を獲得する

ことに助ける。通常、企業は協業相手の知識の量によって、分業における意思決定の権利を協

業相手に委ねる(Barzel, 1997; Foss and Foss, 1998; Hart and Moore, 1990; Windsperger, 2009)。

それによって、協業相手に残余的な利得を大きく獲得してもらい、分業の活動に貢献すると期待

する。一方、協業相手は分業における残余的利得を自分の利益として獲得することができると見

込むときに、不完全契約での分業の活動を協力する意思決定を下す。しかし、協業相手は分業

における残余的利得を自分の利益として獲得することが難しいと想定する際に、事前の契約に

明記できない分業の活動を協力しないという意思決定を下す可能性がある。こうして、協業相手

の意思決定の権利と残余的な利得とは補完的な関係(complementarity)であれば、代替的な関

係(substitutability)でもある(Windsperger, 2003)。

オーストリアのウィーン大学(University of Vienna)の Windsperger 教授は 90 年代半ばから

の一連の研究で、企業と協業相手との間に知識、意思決定の権利という2つの要因が、企業の

残余的な利得と関連していることを実証してきた。例えば、Windsperger (2001)、Windsperger

(2002)、Windsperger (2004)、Windsperger and Dant (2006)の研究では、オーストリアのフランチ

ャイザーが現地市場に関する知識を保有している程度が低ければ、フランチャイジーに購買、

生産、会計、広告、投資などの意思決定の権利をより多く委ねるという傾向があると見られた

(1997 年、83 サンプル、回収率が 38.4%)。

さらに、Windsperger (2003)は 1998 年のドイツのフランチャイズとフランチャイジー(153 サン

プル、回収率が 31.5%)、Windsperger and Jell (2005)は 2002 年から 2004 年までのハンガリー

のトラック・キャリア対運転手(126 サンプル、回収率が 60.29%)、Windsperger (2009)は 2004

年から 2005 年までのハンガリーのジョイント・ベンチャー(80 サンプル、回収率が 15%)、に関

する研究でも、協業相手への意思決定の権利の委譲が、企業と協業相手との「相対的な」知識

の程度によって決定されると明らかになった。また、彼のそれぞれの研究のなかで、協業相手の

意思決定の権利を実行する動機やインセンティブによって、残余的な利得を獲得する程度も異

なっていると明らかになった。このように、企業は不完全契約のもとで、如何にして分業における

残余的な利得を 大限に獲得するのかが 90 年代からの契約理論のなかで も重要な関心点

であり、様々の実証研究を通じて議論されてきた。

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従来の契約理論では、企業か協業相手かどちらか知識を多く保有しているのかという知識の

「相対的な程度」が、分業の収益構造に影響していると想定している。これは、不完全契約のな

かで、知識は企業と協業相手の間には移転しにくいという1つの無形的な資産であると前提され

ている(Jensen and Meckling, 1992)。また、知識を保有している者が、意思決定の権利も高く所

有するという企業間分業における「所有構造(the structure of ownership rights)(Windsperger,

2002)」であると認識されている。

しかし、不完全契約であるからこそ、企業と協業相手はそれぞれ残余的な利得を企て、無形

資産である知識を獲得しようとするという側面もある。とくに、ICT 産業のように、ブランド企業と生

産受託企業はコア部品サプライヤーから製品開発の も重要な知識を獲得し、それぞれの調整

力と製品開発の能力を高めることによって、企業間分業での各自の利益を追求しようとしている

(許, 2016)。こうして、無形的な資産であるコア部品知識の「獲得」を考慮すると、ブランド企業は

コア部品知識を高く保有していることと、生産受託企業は製品開発の意思決定の権利も高く保

有していることが、今までの契約理論ではあまり取り上げられていなかった状況が形成されると考

えられる。

2.2. ICT 産業における企業間分業の境界の変化

いままでの契約理論では、産業構造および企業間分業の境界の変化をあまり考慮していな

かった。しかし、ICT 産業のように、産業構造と企業間分業が、80 年代から垂直非統合と水平分

業に変化している。とくに、コア部品サプライヤーをめぐるブランド企業と生産受託企業の製品開

発の分業が形成されるようになってきたことが注目されている(Kawakami, 2011)。これにより、

ICT 産業でのオープン企業間関係で、ブランド企業と生産受託企業はそれぞれ無形的な資産

であるコア部品知識を「獲得」することができるようになっている。

例えば、下記の図 1 の右下のセルのように、80 年代のワークステーション産業、メインフレー

ム産業において、ブランド企業はコア部品の技術開発と製品開発は企業内部で行っていた

(Iansiti, 1997; Garud and Kumaraswamy, 1993)。しかし、80 年代半ばから 90 年代前半までのワ

ークステーション産業においては、専業 CPU サプライヤーの出現が、製品開発を行うブランド企

業にコア部品である CPU の内製と外注という難しい技術選択をもたらした(Afuah, 2001)。この

意味では、ワークステーションのブランド企業は、コア部品知識を専有することが低下し始めた

(図1の右上のセル)。無論、図 1 の左下のセルのように、90 年代のワークステーション産業、携

帯端末産業において、製品開発の権利を外部企業に譲渡(alleviate)し、コア部品知識を専有

す る 企 業 ( 例 え ば 、 Sun Microsystems 、 Palm ) が あ っ た ( Boudreau, 2010; Garud and

Kumaraswamy, 1993; 1995)。しかし、図 1 の左上のセルのように、90 年代半ばからの ICT 産業、

例えば、パソコン産業(Kawakami, 2011; 立本・許・安本, 2008)と携帯端末産業(許, 2016)にお

いて、コア部品サプライヤーの出現により、ブランド企業はコア部品の内製から外注に切り替え

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た。一方、生産受託企業はコア部品サプライヤーと協業することによって、ブランド企業に製品

開発を提案するようになってきた(Kawakami, 2011; 立本・許・安本, 2008; 許, 2009; 許, 2016)。

出所:筆者作成

図 1 ICT 産業での企業間分業の境界

通常、コア部品サプライヤーという中間財を提供する業者の出現が、単に完成品企業の生産

拠点の再配置 (Arndt and Kierzkowski, 2001)、産業の非統合(Sturgeon and Memedovic, 2010)、

そして企業間分業(Jacobides, 2005; Jacobides and Winter, 2005)を促進すると考えられてきた。

しかし、コア部品サプライヤーの出現により、企業間分業における「所有構造(the structure of

ownership rights)(Windsperger, 2002)」も変わっている。例えば、許(2016)によると、90 年代か

ら 2000 年代の初期までの携帯電話端末産業では、ブランド企業はコア部品知識と製品開発の

意思決定の権利を保有していながら、コア部品と製品開発をそれぞれコア部品サプライヤーと

生産受託企業にアウトソーシングしていた。その後、コア部品サプライヤーのコア部品知識をめ

ぐるブランド企業と生産受託企業との製品開発分業というように、コア部品サプライヤーが企業間

分業において中心な役割を果たすようになってきた。

こうして、産業構造および企業間分業の境界が変化しているという状況のなかで、ブランド企

業と生産受託企業との製品開発の分業には、コア部品サプライヤーのコア部品知識が必要とな

ってきた。また、ICT 産業でのオープン企業間関係のもとで、ブランド企業と生産受託企業はそ

れぞれ無形的な資産であるコア部品知識を「獲得」することができる。このような背景で、従来の

契約理論で論じられている企業と協業相手の間の知識、意思決定の権利を検討し直さない限り、

企業にとっては如何にして残余的な利得に結びつく協業相手との分業を進むのかが不明なまま

になっている。

以上述べてきたように、契約理論を用いて、ICT 産業における企業間分業を分析するために

は、二つを注意する必要がある。一つ目は、企業対協業相手というダイヤドの視点ではなく、コ

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ア部品サプライヤーをめぐるブランド企業と生産受託企業というトライアドの視点が必要である。

二つ目は、ブランド企業と生産受託企業はそれぞれコア部品知識をコア部品サプライヤーから

「獲得」するという側面を考える必要がある。つまり、ブランド企業と生産受託企業はそれぞれコア

部品サプライヤーからコア部品知識を獲得するこによって、ブランド企業はコア部品知識を高く

確保していることと、生産受託企業は製品開発における意思決定の権利も高く保有しているとい

う状況が形成される可能性を想定する必要がある。

3. 分析フレームワークと仮説

本研究は、下記の図2のような分析フレームワークを通じ、「ブランド企業はどれほどコア部品

サプライヤーからコア部品知識を獲得するのか」と、「生産受託企業はどれほどコア部品サプライ

ヤーのコア部品知識をもとにし、ブランド企業との製品開発における意思決定の権利を持ってい

るのか」という 2 つの側面によって、コア部品サプライヤーをめぐるブランド企業と生産受託企業

との製品開発の分業を検討し、ブランド企業は生産受託企業との分業における残余的な利得に

結びつく製品の開発品質をどのように 大限に追求できるのかを実証する。

出所:筆者作成

図 2 分析フレームワーク

そもそも、製品の機能対構造に関する設計基準、開発手法、人的資源、問題解決、テスティ

ング、そしてスケジュールなどを設計開発のドキュメントに明記することことが容易ではない。また、

これらの製品開発に関わる活動が、どれほど製品の品質を向上することができるのかに関しては、

実際に製品開発を行う時にしか分からない。したがって、契約に完全に明記できない残余的な

利得に結びつく製品の開発品質を高めるには、企業と協業相手の努力が欠かせないことである。

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ICT 製品においては、コア部品である半導体が製品の心臓部にあたる製品設計のなかで上

位の部品であり、下位のペリフェラルの部品を制御する性質がある(Clark, 1985; Henderson,

1995; Henderson and Clark, 1990)。また、製品開発においては入れ子のヒエラルキー(nested

hierarchy)の設計決定(design decisions)(Clark, 1985)を常に行い、周辺部品のような下位レイヤ

ーで発見された問題を解決するためには、コア部品のような上位レイヤーの設計まで原因を探る

場合もある(Dosi, 1982; Dosi, Hobday, Marengo and Prencipe, 2003)。

この意味では、ブランド企業はコア部品知識を持っていることが、企業間分業の製品開発に

関わる活動を正しく遂行されているかどうかを判断することができる1。また、ブランド企業はコア

部品知識を持っているという程度が高ければ、製品の開発品質も高くなると予測される。一方、

生産受託企業は不完全契約のなかで、市場での製品販売台数の増加によって、ブランド企業

からの追加生産発注のオーダーという残余的な利得を獲得するためには、製品の開発品質をよ

り高く向上すると努力する。この場合は、生産受託企業はコア部品に関する知識をもとにし、ブラ

ンド企業との製品開発分業における意思決定の権利を高めることで、設計基準、開発手法、人

的資源、問題解決、テスティング、そしてスケジュールなどの製品開発の活動を行うことで、製品

の開発品質をより高く向上する。こうして、下記のような仮説1を提起することができる。

H1:ブランド企業のコア部品知識の程度と生産受託企業の意思決定の権利の程度が高けれ

ば、製品の開発品質が高くなる。

し か し 、 企 業 の 協 業 相 手 の 意 思 決 定 の 権 利 と 残 余 的 な 利 得 と は 補 完 的 な 関 係

(complementarity)であれば、代替的な関係(substitutability)でもある(Windsperger, 2003)。とく

に、市場の不確実性と技術の複雑性という状況のなかで、市場販売台数を事前に正確に予測

することが簡単ではない。この場合は、生産受託企業は、市場販売台数の増加による追加生産

オーダーという残余的な利得を獲得することができるかと考え、消極的に自己利益の意思決定

を下す可能性がある。とくに、生産受託企業はブランド企業の開発リソースを観察しながら、分業

における一連の開発活動に費やすリソースを節約することができるかと心掛ける。または、その

開発活動の責任をブランド企業に転嫁する。

例えば、図 2 の左上のセルにおいて、生産受託企業は製品開発で発見した問題を積極的

に原因を探求せずに、コア部品知識を高く保有していることで開発活動に優位となるブランド企

1従来、企業は協業相手との分業を行う際に、該当分業の業務に関する知識を豊富に保有することが重要であるとされてきた

(Brusoni and Prencipe, 2001; Brusoni, Prencipe and Pavitt, 2001; Lincoln, Ahmadjian, and Mason, 1998; Takeishi, 2001; Takeishi, 2002)。とくに、現代の企業は競合他社と同じ協業相手と取引している場合は、自社の製品開発の情報が協業相手

から競合他社に流出されてしまう可能性がある(Lincoln, Ahmadjian, and Mason, 1998; Takeishi, 2001; Takeishi, 2002)。また、

市場の不確実性と技術の複雑性によって、協業相手は企業に特殊資産を積極的に投資しない可能性もある。従って、ブラン

ド企業はコア部品知識を高く保有していることが、このような契約に明記できない製品開発の活動も防ぐことができると考えられ

る。

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業に責任を転嫁する可能性がある。また、図2の右下のセルにおいて、生産受託企業はコア部

品知識を高く活用し、自社利益に合うような既存設計資産や部品選択などを元にし、分業にお

ける問題解決を行う可能性もある。さらに、図2の右上のセルにおいては、生産受託企業は上記

の 2 つのことを利用すると予測される。このように、生産受託企業はブランド企業と分業を行うと

きに、消極的かつ自己利益の意思決定を下すことが製品の開発品質に負の影響を与えると考

えられる。こうして、下記のような仮説 2 を提起することができる。

H2:ブランド企業のコア部品知識の程度と生産受託企業の意思決定の権利の程度が高けれ

ば、生産受託企業は消極的かつ自己利益の意思決定を下し、製品の開発品質に負の影

響を与える可能性が高くなる。

ブランド企業は、消極的かつ自己利益の意思決定を下す生産受託企業に対して、コーディ

ネーション・メカニズムを設ける必要がある。そもそも、製品開発の重要な知識をコア部品サプラ

イヤーから提供されていることは、知識分散(dispersed knowledge, Foss and Foss, 2008)という

状況である。この場合は、企業は協業相手に対し、如何にしてコーディネーション・メカニズムを

構築するのかが、90 年代の半ばからのノリッジ・ベース・ビューの研究ストリームで議論されてき

た(Contractor and Ra, 2002; Foss, 2013;Foss and Foss, 1998; Foss and Michailova, 2009;

Grandori, 1997; Grandori and Kogut, 2002; Nickerson and Zenger, 2004)。

Asanuma (1988)、Clark and Fujimoto (1991)によると、自動車メーカーは製品開発の早期に

部品サプライヤーを巻き込むことが、製品開発のパフォーマンスに貢献することができる。一方、

日本のコピー機産業、カメラ産業、パソコン産業(Imai, Nonaka and Takeuchi, 1985)、日本のメイ

ンフレーム産業、ミニコンピュータ産業(Eisenhardt and Tabrizi, 1995)に関する研究でも、製品開

発の早期に部品サプライヤーを巻き込むことが企業の製品開発においては欠かせない成功要

因でもあると議論されている。さらに、企業間分業の製品開発においては、企業内部部門間の

統合(Clark and Fujimoto, 1991; Iansiti, 1997; Iansiti, 1998; Iansiti and Clark, 1994; Tyre and

Orlikowski, 1994)と、企業外部のサプライヤーとの統合(Clark and Fujimoto, 1991; Takeishi,

2001)が欠かせないとされてきた。その場合は、コミュニケーションが重要である(Allen, 1977;

Ancona and Caldwell, 1992; Brown and Eisenhardt, 1995)2。

こうして、製品開発における「早期問題解決」と「緊密なコミュニケーション」が、ブランド企業と

生産受託企業の異なる考え方を知る機会を提供し、双方の利益相反を調整することができると

考えられる。従って、下記のような仮説 3 を提起することができる。 2例えば、トヨタと日産が、アメリカ自動車メーカーより短い製品開発のリードタイムを享受できている 1 つの原因としては、トヨタ

と日産はサプライヤーとフェース・ツー・フェースという緊密なコミュニケーションを取っているからである(Dyer, 1996)。ただし、

企業は企業外部のサプライヤーとコミュニケーションを取るには、企業内部の部門間のコミュニケーションも効率的に行う必要

がある。Takeishi (2001)、Takeishi (2002)も、企業間の製品開発のパフォーマンスを高めるには、企業外部のサプライヤーとの

コミュニケーションだけではなく、企業内部の部門間のコミュニケーションも必要であると指摘した。

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H3:ブランド企業は生産受託企業に対する早期問題解決と緊密なコミュニケーションの程度

が高ければ、生産受託企業の消極的かつ自己利益の意思決定を制御することができ、製

品の開発品質への貢献も高くなる。

後に、H1、H2、H3 の分析結果を踏まえ、上記の図 2 の分析フレームワークを用いて、「ブ

ランド企業と生産受託企業との製品の開発品質」に関して、「コア部品サプライヤーの意図と戦

略」を検討する。基本的に、コア部品サプライヤーはブランド企業と生産受託企業の生産量と製

品技術の代表性によって、戦略的にブランド企業か生産受託企業かどちらも特別技術サポート

を実施する(許, 2016)。この場合は、ブランド企業のコア部品知識の程度と生産受託企業の意

思決定の権利の程度がコア部品サプライヤーの意図や戦略によって増強され、製品の開発品

質により大きく貢献することができると考えられる3。

上記の図 2 の左下のセルでは、コア部品サプライヤーはブランド企業と生産受託企業に標

準的な技術サポートを行う。それに比べ、図2の左上と右下のセルでは、コア部品サプライヤー

は生産受託企業かブランド企業かどうちらかに特別技術サポートを行う。そのなかで、図2の左

上と右下のセルでの製品の開発品質は図2の左下のセルでの製品の開発品質より高くなると予

見できる。なぜなら、ブランド企業のコア部品知識の程度か生産受託企業の意思決定の権利の

程度かはコア部品サプライヤーの特別技術サポートによって強化され、製品の開発品質により

大きく貢献するからである。さらに、図2の右上のセルでは、ブランド企業のコア部品知識の程度

と生産受託企業の意思決定の権利はコア部品サプライヤーの特別技術サポートによってより強

化され、製品の開発品質にさらに高く貢献する。

しかし、先述のように、図2の右上のセルでは、生産受託企業は消極的かつ自己利益の意思

決定を下す可能性がある。例えば、コア部品知識が製品開発で発見した問題の原因を探求す

ることに助ける。このような状況のなかで、生産受託企業は自社のコア部品サプライヤーの特別

技術サポートを利用し、自社の設計資産や部品選択などに合うような問題の解決策を打ち出し

たいという行動を取る可能性がある。また、生産受託企業はブランド企業のコア部品サプライヤ

ーの特別技術サポートを利用し、問題原因の追求をブランド企業に責任転嫁する可能性もある。

生産受託企業はこのような消極的かつ自己利益の意思決定を下すことが、製品の開発品質に

負の影響を大きくすると予測される。ただし、図 2 の右上のセルの場合は、ブランド企業は「早期

問題解決」と「緊密なコミュニケーション」を行うことによって、生産受託企業の消極的かつ自己利

3例えば、Brown and Eisenhardt (1998)と Burgelman (2002)は指摘したように、Intel は 1993 年と 1997 に新しい Pentium CPU chipset を IBM や日本系のパソコン・ブランド企業にうまく導入してもらえず、台湾系のパソコン生産受託企業に強力な技術サ

ポートを行っていた。Intel と台湾系のパソコン生産受託企業の協業が、Intel の新しい CPU を搭載するパソコンの市場拡大を

加速できた。その後、台湾系のパソコン生産受託企業は Intel の新しい CPU を搭載したパソコンを開発し、IBM などのパソコ

ン・ブランド企業にも納めるようになり始めた。

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益の意思決定を下すことを防ぐことができ、製品の開発品質を も高く向上することができると考

えられる。

4. 分析方法

4.1. 分析対象

本研究の分析対象は移動体通信産業である。第 2 世代 GSM は 1991 年 7 月にフィンランド

で通信業者である“Radiolinja”によって商業化された以来、Nokia、Ericsson、Motorola などの大

手のブランド企業が携帯電話端末の心臓部に当たる「ベースバンドチップセットと通信プロトコ

ル・スタック」と携帯電話端末の製造はそれぞれ TI などの半導体サプライヤー(この以降は、コ

ア部品サプライヤーを呼ぶことにする)や台湾系生産受託企業などに任せていた。また、Nokia、

Ericsson、Motorola はそのベースバンドチップセットと通信プロトコル・スタックと携帯電話端末の

開発をそれぞれ自社内部で行っている。この意味では、Nokia、Ericsson、Motorola はコア技術

や部品に関する知識を保有していながら、企業間分業をコントロールすることによって、90 年代

の移動体通信システムのインフラストラクチャー(コア・ネットワークと基地局)と携帯電話端末の

世界シェアを大きく確保していた4。

出所:許(2016)

図 3. 移動体通信産業における企業間分業の変化

しかし、2000 年からは、Qualcomm は Nokia、Ericsson、Motorola などの有力なブランド企業

の主導で技術の標準化のメリットを享受し、自社の知的財産権を強化することができた5。さらに、

1990 年代末から、TI、ADI、Qualcomm などのコア部品サプライヤーは「ベースバンドチップセッ

トとプロトコル・スタック」を後発のブランド企業と生産受託企業に提供し始めた6。その結果、生産

4 1998 年には、Nokia、Ericsson、Motorola によるコアネットワークと基地局の世界マーケットシェアはそれぞれ 12%、29%、

12%となっていた。携帯電話端末においても、この 3 社による世界マーケットシェアはそれぞれ 22.5%、15.1%、19.5%を占

めていた(Shiu and Yasumoto, 2015) 。 5 出所:Shiu and Yasumoto (2015)、許・安本・任(2015)。 6 出所:許(2009)。

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受託企業はコア部品サプライヤーの「ベースバンドチップセットとプロトコル・スタック」を活用し、

ブランド企業に製品の製造だけではなく、製品の「開発」も提供し始めた。その結果、上記の図

3 のように、ブランド企業と生産受託企業との製品開発の分業は、コア部品サプライヤーの知識

に大きく依存するようになってきた。本研究では上記の図 3 の右側にあるような状況のなかで、

ブランド企業がどのようにして生産受託企業との製品開発についての製品の開発品質を向上す

ることができるのか、という問いを解明したい。

4.2. 台湾系生産受託企業へのアンケート調査の実施

本研究では、ブランド企業に携帯電話端末を開発している台湾系生産受託企業 8 社の

2012 年から 2014 年までの 3 年間の製品開発プロジェクトを選定した。また、2015 年 5 月にこの

8 社にオンライン・アンケート(Google Form)を実施した7。アンケート調査の前に、まず、8 社の開

発エンジニア、PM(プロダクト・マネジャー)などの 27 人と約 30 分ずつで各社の過去 3 年間の

プロジェクトの状況を検討して、各社の主要なプロジェクトを特定して、アンケート調査の方向性

を決めた8。台湾系の携帯電話端末の生産受託企業はブランド企業の 3G UMTS のスマートフォ

ンを開発し始めたのが、約 2006 年の頃であった。本研究でアンケート調査を協力してくれたエ

ンジニア、プロジェクト・マネジャーなどは、台湾の移動体通信業界では平均的に約 9.4 年の勤

務年数であり、生産受託企業では平均的に約 8.0 年の勤務年数である。したがって、アンケート

回答者の殆どは初期のブランド企業の携帯電話端末の開発プロジェクトから現在に至るまで多

数多様なプロジェクト開発を経験していた。この意味では、アンケートの回答者は長い経験を用

いてアンケートを回答してくれた客観性が十分がある。

次は、この 27 人を通じて、8 社の開発エンジニア、PM(プロダクト・マネジャー)に合計 93 件

のオンライン・アンケート(Google Form)を回答してもらった。この 93 件のアンケートは同じプロジ

ェクトに対して答える可能性があるため、アンケートの回収の 5 月末に再度に 8 社の開発エンジ

ニア、PM に同じプロジェクトの重複したアンケートを処理してもらった。その結果、本研究は 8 社

3 年間 50 プロジェクトを集計してアンケートの回答となった(下記の表 1)。この 50 プロジェクトの

分布とは、2012 年には 15 件、2013 年には 16 件、2014 年には 19 件がある。この数字だと平均

的に年間 1 社当たり約 2 件のプロジェクトを説明している。現在1つのメジャー・モデルの開発は

約 6 ヶ月から 10 月ぐらいかかるので、この 8 社は複数のメジャー・モデルを同時に進行する様

7本研究は、ブランド企業へのアンケート調査が困難であるため、生産受託企業にアンケート調査を実施した。これによって、生

産受託企業は多数のブランド企業と製品開発の分業を行っている経験を有しているため、製品開発の分業に関する実状も客

観的に答えてもらうことができると考えられる。 8本研究での分析の基本単位は、生産受託企業のスマートフォンの製品開発プロジェクトである。なお、筐体などの外観を手直

しするようなプロジェクトが本研究の対象外とする。無論、ブランド企業にとっては、個々の開発プロエジェクト単位ではなく、複

数のプロジェクト(multiple projects)をまとめてとらえるという視点も重要である (Aoshima, 2002; Cusumano and Nobeoka, 1998)。

つまり、複数のプロジェクトを同時に視野に入れ、複数の生産受託企業とのやりとりを念頭におきながら分業のマネジメントを考

えていくという視点である。しかし、この研究では、単独のプロジェクトのマネジメントをどうするか、という点にテーマをしぼって

議論を進めることにしたい。

12

子が伺えた。また、インタビューによると、エンジニアは複数のプロジェクトを担当している場合も

あれば、プロジェクトごとを担当している場合もある。台湾では、2012 年から 2014 年の総プロジ

ェクト件数を把握することが難しいが、この 50 件のプロジェクトは少なからず台湾系携帯電話端

末の生産受託企業の総プロジェクトを代表できると考えられる。

表 1 アンケート調査の対象

4.3. 分析の変数

下記の表2では H1、H2、H3 の検証に必要な変数をリストしている9。まず、ブランド企業は該

当製品開発のプロジェクトの①スケジュール、②テスト、③問題解決、④機能設計、⑤構造設計

におけるコア部品知識をどれほど持っているのかと質問項目を作成した。これによって、ブランド

企業がこのプロジェクトではどれほどコア部品知識を持っているのかという変数(CCK:Core

Component Knowledge)を設計した。一方、CCK の質問項目に対応し、生産受託企業の意思決

定の権利の質問項目を作成するにあたって、Yasumoto and Shiu (2008)とインタビューの調査結

果を参照した。また、「生産受託企業はコア部品サプライヤーの知識を活かすことによって、該当

製品開発のプロジェクトの①スケジュール、②テスト、③問題解決、④モジュール設計、⑤部品

選択、⑥既存設計資産の再利用に関する意思決定の権利を、どれほど持っているのか(DEM:

Decision Rights)」という質問項目を作成した。

前述のように、ブランド企業と生産受託企業との製品開発の分業が開始した後に、生産受託

9変数の構成の質問項目が許(2016)を参照してください。

13

企業はブランド企業のコア部品知識の程度を見込み、消極的かつ自己利益のための意思決定

を下すという可能性があると考えられる。本研究では、CCK と DEM の乗積(交互作用)である

(CCK x DEM)を、生産受託企業の消極的かつ自己利益の意思決定を表す変数とする。なお、

この研究では、Takeishi(2001)、Takeishi (2002)の技術の新しさの指標を参照し、コア部品の技

術の新しさ(NWT: Technological Newness)をコントロール変数として設計した。

次は、Takeishi(2001)、Takeishi (2002)の設計品質の指標を参照し、ブランド企業と生産受

託企業との製品の開発品質という変数(PDQ: Product Design Quality)を 設計した。この PDQ に

は、製品のパフォーマンス、コスト、品質、機能や構造などの質問項目が含まれている。また、よ

り市場の競争力を反映するために、ほかの量産プロジェクトの製品の設計品質に対し、このプロ

ジェクトの製品の設計品質を再度回答者に評価してもらう。 後は、ブランド企業は生産受託企

業の消極的かつ自己利益の意思決定を制御するためのコーディネーション・メカニズムに関する

変数、早期問題解決(EPS:Early Problem Solving)、生産受託企業との間のコミュニケーション

(EXC:External Communication)、という2つの変数も設計した。なお、モデルの検証のため、ブ

ランド企業間内部の部門間のコミュニケーション(INC:Internal Communication)の変数も作成し

た。

無論、本研究の分析では、「生産受託企業の能力」と「製品の属性」という 2 つのファクターを

考慮する必要がある。このため、分散分析(ANOVA)の結果を用いて、プロジェクトの製品の品

質(PDQ)に関しては、それぞれが統計の有意な差があるとわかった10。このように、生産受託企

業の異質性(heterogeneity)11をコントロールするためには、各生産受託企業からのアンケート調

査の結果を「平均の中心化(Mean Centering)」で行った12。

表 2 命題1〜3 を検証するための変数

測定内容 被説明変数

製品の開発品質 PDQ:生産受託企業のプロジェクト・マネジャーとして

の製品の開発品質の満足度、ほかのプロジェクトの製

品の開発品質との比較

測定内容 説明変数

ブランド企業のコア部品知識の程度

CCK:ブランド企業は製品開発においてコア部品知識

を有している程度

10技術コミュニケーション(TEC)に関する ANOVA の分析結果(N=50)は、各生産受託企業内(d.f. = 42、Mean Square = 1.042**)、各生産受託企業間(d.f. = 7、Mean Square = 3.792**)である。プロジェクトの製品の品質(PDQ)に関する ANOVA の分

析結果は、各生産受託企業内(d.f. = 42、Mean Square = 0.442*)、各生産受託企業間(d.f. = 7、Mean Square = 1.284*)であ

る。 11 この意味では、生産受託企業は製品の属性によって、コア部品サプライヤーとの技術コミュニケーションの程度が異なると考

えられる。また、生産受託企業は高い能力を持っているときに、プロジェクトの製品の品質に高く貢献することも考えられる。 12Takeishi(2001)も同じ手法を使用した。

14

生産受託企業の意思決定の権利の程

DEM:生産受託企業はコア部品知識をベースにした

製品開発における意思決定の権利の程度

生産受託企業の消極的かつ自己利益

の意思決定の程度

CCK x DEM:生産受託企業はブランド企業のコア部

品知識の程度を見込み、消極的かつ自己利益のため

の意思決定を行う程度。

ブランド企業と生産受託企業との早期

問題解決の程度

EPS:製品開発の初期において、ブランド企業と生産

受託企業との問題解決の程度

ブランド企業と生産受託企業とのコミュ

ニケーションの程度

ブランド企業内部部門間の調整の程

EXC:製品開発において、ブランド企業と生産受託企

業とのコミュニケーション程度(毎週の会議の回数:テ

レビ会議、カンファレンス・コール、シンクアップ、バグ

レビューなどの会議の程度)

INC:製品開発において、ブランド企業内部部門間の

調整の程度

技術の新しさ NWT:コア部品の技術の新しさが生産受託企業の製

品開発に影響する程度

各変数の相関は Appendix の表 A1

5. 分析結果

表 3 は重回帰分析の結果を示している。まず、モデル PDQ1 では、生産受託企業の意思決

定の権利(DEM)が製品の開発品質(PDQ)に影響を与えることは統計的に有意ではなかった。

モデル PDQ2 では、ブランド企業のコア部品知識(CCK)が統計的には有意(係数:0.342***)で

あるが、生産企業の意思決定の権利(DEM)が有意ではなかった(係数:0.123)。また、モデル

PDQ2 の調整済み R2 が 0.262 であり、P value が 0.001***となった。この結果を解釈すると、ブラ

ンド企業のコア部品知識が製品の開発品質(PDQ)に正の影響を与えることが明らかになった。

モデル PDQ3 では、ブランド企業のコア部品知識(CCK)、生産企業の意思決定の権利

(DEM)、生産受託企業の消極的かつ自己利益の意思決定(CCK x DEM)のそれぞれの係数

は 0.387***、0.221**、-0.191**であり、全部統計的には有意であった。また、モデル PDQ3 の

調整済み R2 が 0.339 であり(P value が 0.000***)、モデル PDQ2 の調整済み R2 の 0.262 より高

くなった。この分析結果によって、H1と H2 を証明することができた。つまり、ブランド企業のコア

部品知識の程度(CCK)と生産企業の意思決定の権利の程度(DEM)が高ければ、製品の開発

品質(PDQ)も高くなる。しかし、生産受託企業の消極的かつ自己利益の意思決定(CCK x

DEM)が高ければ、製品の開発品質(PDQ)が低下する。

次は、ブランド企業はコーディネーション・メカニズムを構築することによって、生産受託企業

の消極的かつ自己利益の意思決定(CCK x DEM)を制御することができるのかを検証する。こ

15

のために、ブランド企業と生産受託企業との早期問題解決(EPS)、ブランド企業と生産受託企業

との緊密なコミュニケーション(EXC)、ブランド企業内部部門間の調整(INC)という 3 つの変数

をモデル PDQ4 からモデル PDQ6 までに一個ずつ追加して実証した。

まず、モデル PDQ4 の調整済み R2 が 0.371 であり(P value が 0.000***)、モデル PDQ3 の調

整済み R2 の 0.339(P value が 0.001***)より高くなった。ブランド企業のコア部品知識の程度

(CCK)と生産企業の意思決定の権利の程度(DEM)の係数はそれぞれ 0.298***、0.222**であ

り、統計的には依然として有意であった。また、ブランド企業と生産受託企業との早期問題解決

(EPS)が高ければ、製品の開発品質(PDQ)も高くなるという傾向が見られた(EPS の係数は

0.405*であり、統計的には有意であった)。さらに、生産受託企業の消極的かつ自己利益の意思

決定(CCK x DEM)の係数は-0.170**となり、モデル PDQ3 での CCK x DEM の係数である-

0.191**より少し低下した。

次は、モデル PDQ5 には、ブランド企業と生産受託企業との緊密なコミュニケーション(EXC)

を追加投入した。モデル PDQ5 の調整済み R2 が 0.451 であり(P value が 0.000***)、モデル

PDQ4 の調整済み R2 の 0.371(P value が 0.000***)より高くなった。ブランド企業のコア部品知

識の程度(CCK)、生産企業の意思決定の権利の程度(DEM)、ブランド企業と生産受託企業と

の早期問題解決(EPS)の係数はそれぞれ 0.210***、0.187**、0.360*であり、統計的には依然と

して有意であった。また、ブランド企業と生産受託企業との緊密なコミュニケーション(EXC)が高

ければ、製品の開発品質も高くなるという傾向が見られた(EXC の係数は 0.327***であり、統計

的には有意であった)。さらに、生産受託企業の消極的かつ自己利益の意思決定(CCK x DEM)

の係数は-0.091 となり、統計的には有意がなくなった。この分析結果によると、H3 を証明するこ

とができた。つまり、ブランド企業は生産受託企業に対する早期問題解決と緊密なコミュ

ニケーションの程度が高ければ、生産受託企業の意思決定を制御することができ、

製品の開発品質への貢献も高くなる。

後、モデル PDQ6 には、ブランド企業間内部の部門間のコミュニケーション(INC)を追加

投入した。モデル PDQ6 の調整済み R2 が 0.460 であり(P value が 0.000***)、モデル PDQ5 の

調整済み R2 の 0.451 より高くなった(P value が 0.000***)。このモデル PDQ6 では、ブランド企

業のコア部品知識の程度(CCK)と、ブランド企業と生産受託企業との緊密なコミュニケーション

(EXC)がしか有意ではなかった(CCK の係数は 0.213**、0.263**)。

表 3 ブランド企業のコア部品知識、生産受託企業の意思決定の権利、

コーディネーション・メカニズム、製品の開発品質との関係

Model # PDQ1 PDQ2 PDQ3 PDQ4 PDQ5 PDQ6

Intercept -0.043 -0.015 -0.070 -0.061 -0.052 -0.044

16

N=50, * p-value <0.1; **p-value <0.05; ***p-value <0.01, ( ) : Standard Error

6. ディスカッション

ICT 産業において、コア部品サプライヤーは製品開発の も重要な知識を提供しているとい

う状況のなかで、ブランド企業は生産受託企業との分業における製品の開発品質をどのように

大限に追求できるのか。このような問題意識に対し、本研究では知識と意思決定の権利による企

業間分業の所有構造と分業における残余的な利得との関係、という契約理論のもとで検討して

きた。

従来の契約理論によると、知識が企業間分業における無形資産であると考えられ、企業と協

CCK: ブランド企業のコ

ア部品知識

0.342***

(0.080)

0.387***

(0.078)

0.298***

(0.091)

0.210**

(0.091)

0.213**

(0.090)

DEM:生産受託企業の

意思決定の権利

CCK x DEM:生産受託

企業の消極的かつ自己

利益の意思決定

0.039

(0.111)

0.123

(0.097)

0.221**

(0.100)

-0.191**

(0.076)

0.222**

(0.097)

-0.170**

(0.075)

0.187**

(0.092)

-0.091

(0.076)

0.144

(0.097)

-0.096

(0.075)

EPS:ブランド企業と生産

受託企業との早期問題

解決

0.405*

(0.221)

0.360*

(0.208)

0.229

(0.229)

EXC:ブランド企業と生

産受託企業と緊密なコミ

ュニケーション

0.327***

(0.121)

0.263**

(0.129)

INC:ブランド企業内部

部門間の調整

0.251

(0.192)

NWT:コア部品の技術

の新しさが生産受託企

業の製品開発に影響す

る程度

0.428

(0.360)

0.149

(0.315)

0.327

(0.307)

0.282

(0.300)

0.342

(0.281)

0.256

(0.287)

Adjusted R2

-0.006

0.262

0.339

0.371

0.451

0.460

R2 0.036 0.308 0.393 0.435 0.518 0.537

F 値 0.865 6.810 7.27 6.789 7.707 6.954

P-value 0.428 0.001*** 0.000*** 0.000*** 0.000*** 0.000***

17

業相手の分業においての意思決定の権利を決定すると考えられる。つまり、協業相手は企業に

比べ、知識を「相対的に」どれほど持っているのかによって、どれほどの意思決定の権利を協業

相手に委ねられべきである。また、それによる分業における残余的な利得を 大限に獲得するこ

とができると考えられてきた。例えば、Windsperger のフランチャイザーとフランチャイジーの分業

に関する研究では、現地市場に関する知識が一つの無形資産であることと強調されている。そ

の現地市場に関する知識をフランチャイザーかフランチャイジーかどちらかに多く所有されてい

るのかによって、フランチャイザーとフランチャイジーの分業における意思決定の権利の配置が

決定されている。

しかし、現代の分業に必要な知識がそもそも企業か協業相手かどちらかが 初から所有する

ものではない。むしろ、企業と協業相手はその知識をどのように獲得するのかと注意する必要が

ある。例えば、市場消費者の嗜好などを専門的に調査しているコンサルティング企業が、フラン

チャイザーかフランチャイジーかどちらも現地市場に関する情報を提供しているのであろう。その

結果、フランチャイザーとフランチャイジーはそのコンサルティング企業の現地市場情報に依存

しながら、分業における残余的な利得を獲得するのかという状況が形成されるのであろう。

コア部品サプライヤーをめぐるブランド企業と生産受託企業との製品開発の分業が、従来の

契約理論で見落としている無形資産である知識の「獲得」という側面を反映することができる。本

研究では、ブランド企業のコア部品知識の程度と生産受託企業の意思決定の権利の程度が高

ければ、製品の開発品質が高くなるという H1 を証明した。この結果は、ブランド企業と生産受託

企業はそれぞれコア部品サプライヤーからコア部品知識を獲得するという状況では、ブランド企

業と生産受託企業との製品開発の分業における知識と意思決定の権利が必ずしも同じところに

配置されるわけではない。むしろ、ブランド企業のコア部品知識と生産受託企業の意思決定の

権利はそれぞれ独立として、分業の残余的な利得にむすびつく製品の開発品質の向上に大き

く貢献している傾向があると明らかになった。

さらに、図 2 の右上セルのように、ブランド企業のコア部品知識(CCK)と生産受託企業の意

思決定の権利(DEM)がそれぞれコア部品サプライヤーの特別技術サポートを受けることによっ

て、0.187 と 0.210 の倍率(表 3 のモデル PDQ5 で CCK と DEM の係数による)で大きく増強さ

れ、製品の開発品質(PDQ)により高く貢献することができると予測される。この意味では、コア部

品サプライヤーの意図や戦略による特別技術サポートが、ブランド企業と生産受託企業との分

業に大きく影響するのであると言えよう。

このような結果を解釈すると、企業は業務をアウトソーシングするときに、まず分業に必要な知

識を高く「獲得」することができる協業相手を選ぶことが重要である。次は、企業も協業相手と同

じように分業に必要な知識を高く「獲得」すると努力する必要がある。また、不完全契約のもとで、

その分業に必要な知識の獲得が、協業相手に消極的かつ自己利益の意思決定を下らせる可

能性がある(H2 の分析結果)。この場合は、企業は協業相手の間には「早期問題解決」、「緊密

18

なコミュニケーション」を行うことによって、協業相手は消極的かつ自己利益の意思決定を下すと

いうことを防ぐだけではなく、販売台数の増加という残余的な利得に結びつく製品の開発品質も

より高く向上することができる(H3 の分析結果)。

7. 結論と今後の課題

本研究は、現代の ICT を代表する携帯電話端末産業における企業間分業を分析した。この

産業では、通常の自動車産業とは異なり、コア部品サプライヤーが製品開発の も重要な知識

を提供している。本研究は、コア部品サプライヤーの意図と戦略はブランド企業と生産受託企業

との製品の開発品質に影響を与えることを明らかにした。また、ブランド企業は生産受託企業と

の分業におけるコア部品知識と意思決定の権利を考慮したうえで、生産受託企業の消極的かつ

自己利益の意思決定に対する適切なコーディネーション・メカニズムを構築することによって、製

品の開発品質をより高く向上することができると明らかになった。

後に、本研究では2つの課題が残されている。一つ目は、近年、ブランド企業は自社のな

かでコア部品を開発し、製品に搭載する。例えば、Samsung と Huawei はそれぞれ 2009 年 11

月、2012 年 10 月から自社製のコア部品(CPU)を使用して、Android スマートフォーンを開発し

始めた13。このように、ブランド企業はコア部品を自社で開発している場合は、知識と意思決定の

権利による所有構造、および残余的な利得との関係をどのように考えればよいのかが不明であり、

今後の研究課題の 1 つである。また、産業の垂直非統合における分業に必要な知識を提供す

る専門業者の出現が、企業と協業相手との分業に影響し、従来のダイヤドを想定する契約理論

も拡張する可能性があるとわかった。二番目の研究課題としては、本研究の議論や発見を一般

化するには、携帯電話端末産業だけではなく、パソコン産業、デジカメ産業などの分析も必要と

する。

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【Appendix】 表 A1 各変数間の相関