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15年振りにマクロ経済学を勉強し直してます。根本から。まずは基本の基本、ラムゼーモデルをきっちりと。経済学徒じゃない人、でも理系で数学に困らない人に分かってもらうことを目的に書いてますので、読んでもらえたなら、分かりやすかった、分かりにくかったなど感想を書いて下さい。分かりにくいところは具体的に指摘してもらえると嬉しいです。一応self-containedを目指してますけど、足りない部分は別のものを書こうと思ってます。
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基本モデルその 1:Ramsey Model
現代のマクロ経済学の基本モデルはラムゼーモデル(最適成長モデル)と世代重複モデル(OLGモデル)である。このうち、ここではラムゼーモデルの超短い解説をする。
1 準備:最大値原理制約条件付きの最適制御問題の解が満たすべき必要条件を書く。次のような問題を考える1。
max{u(t)}
J =∫ t1
t0
I(x, u, t)dt + F (x1, t1), (1.0.1)
x = f(x, u, t), (1.0.2)
x(t0) = x0, (1.0.3)
x(t1) = x1, (1.0.4)
{u(t)} ∈ U. (1.0.5)
xは状態変数(state変数)、uは制御変数(control変数)で、xと uはベクトル、tはスカラーである。状態変す xに付随する新たな(未知の)ベクトル yをラグランジュ乗数(co-state変数)とし、ハミルトニアン関数H を次のように定義する。
H(x, u, y, t) = I(x, u, t) + yf(x, u, t). (1.0.6)
次の方程式が解の満たすべき必要条件となる。
∂H
∂u= 0, (1.0.7)
x =∂H
∂y, (1.0.8)
y = −∂H
∂x, (1.0.9)
x(t0) = x0, (1.0.10)
x(t1) = x1 (1.0.11)
y(t1) =∂F
∂x1. (1.0.12)
1詳しくは Intriligator 1971 を参照されたい。
1
2 Social Planner の問題 : 最適成長のベンチマークラムゼーモデルは別名最適成長モデルとも言うが、これは消費者(家計)や企業の行動がそれぞれ別々に意思決定がなされる分権的経済での配分が社会全体としても社会的厚生を最大にするという意味で最適となる経済成長のモデルである。詳しくは Blanchard and Fisher (1989)の第 2章を参照されたい。まずはベンチマークとなるべき Social Plannerの問題を考える。
2.1 生産企業は労働と資本を投入して生産を行う。長期的分析を取り扱うため完全雇用を想定する。Kt
を t 期の資本量、Nt を t 期の労働力を表すものとし、労働・資本と産出 Yt の関係を生産関数Yt = F (Kt, Nt)で表す。閉鎖経済を仮定しているため生産された財 Yt は消費 Ct されるか貯蓄され、貯蓄は次期の資本を増加させる投資 dKt/dtとなる。よって
Yt = Ct +dKt
dt. (2.1.1)
経済成長は国レベルよりも個人レベルでの厚生に関心があるから、一人当たりに書き直す。人口成長率を nとする(nは正でも負でも構わない)。一国の生産関数は収穫一定(Constant Returns to Scale:CRS)と仮定する。収穫一定は数学的には生産関数が一次同次であることを意味する。f が一次同次とは aをスカラー、xをベクトルとすると af(x) = f(ax)となることだから、
Yt
Nt=
F (Kt, Nt)Nt
= F (Kt
Nt,Nt
Nt) = F (
Kt
Nt, 1). (2.1.2)
一人当たりの産出を yt = Yt/Nt、一人当たりの資本を kt = Kt/Nt とし、yt = f(kt) = F (kt, 1)
と表す。Ktの時間微分は経済学的には投資になるが、これを一人当たりに直すと、dKtdt
Nt= dkt
dt +nkt
となる2。一人当たりの消費を Ct/Nt = ct とすると、産出を配分する消費と貯蓄(=投資)は一人当たりにすると
yt = f(kt) = ct +dk
dt+ nkt. (2.1.3)
書き直すと、
dk
dt= f(kt) − ct − nkt. (2.1.4)
関数 f は経済的にあると嬉しい仮定(何回でも微分可能で、ktに対して増加凹関数、kt → ∞のとき f ′(kt) → 0、kt → 0のとき f ′(kt) → ∞など)は全て満たされているものとする。
2kt = KtNtより ktNt = Kt。これを t で微分すると dkt
dtNt + k dNt
dt= dKt
dt。整理すると dKt/dt
Nt= dkt
dt+ nkt
2
2.2 境界条件この問題の境界条件のうち、始端点は k0(> 0)として与えられているものとする。終端条件は
limT→∞
kT e−θT ≥ 0 (2.2.1)
で与えられるものとする。最終期の資本の現在価値が負になってはならないものとする。有限視野で最終期が T とした時に kT+1が負になることを許容すると、将来から資本を借りることで現在の消費をいくらでも増やすことができてしまう。このようなことを排除するために最終期での資本の現在価値を非負に制約する。
2.3 Social Plannerの社会的厚生最大化Social Planner は毎期の資本 ktを所与として消費 ctを決めるので、ktは状態変数(state変数)、
ct は制御変数(control変数)である。消費者の時間割引率を θ > 0とし、効用関数 U を次のようなものと仮定する3。
U =∫ ∞
0
u(ct)e−θtdt. (2.3.1)
これに前節の生産の制約と境界条件を課して、U を最大にするような {ct}を選ぶような最大化問題とする。
U =∫ ∞
0
u(ct)e−θtdt (2.3.2)
kt = f(kt) − ct − nkt (2.3.3)
k0 > 0 (2.3.4)
limt→∞
kte−θt ≥ 0 (2.3.5)
状態変数(state変数)である資本 ktに付随する co-state変数を qtとすると、ハミルトニアンは
H(kt, ct, qt) = u(ct)e−θt − qt(nkt + ct − f(kt)). (2.3.6)
ここで µt = eθtqt とおくと4、
H(kt, ct, µt(qt)) = e−θt{u(ct) − µt(nkt + ct − f(kt))}. (2.3.7)
一階の条件は、ct, kt, qt でH を微分することで求められる。まず、qt で微分すると、
k(t) =∂H
∂qt= f(kt) − nkt − ct. (2.3.8)
また、ct で微分すると、∂H
∂ct= e−θt(u′(ct) − µt) = 0. (2.3.9)
3e−θt は非常に急速にゼロに収束するのに対し、u(ct)は凹関数であるため無限大に向かうスピードが遅いので U < ∞である。
4q はシャドープライスの現在価値(t 期での価値に割引率を乗じて現在価値に引き戻している)を表し、µ はそれを将来価値(t 期での価値)で表したもの。便利な方を使い分ける。
3
よって、u′(ct) = µt. (2.3.10)
さらに、kt での微分は、
q = −∂H
∂kt= qt(n − f ′(kt)) = e−θtµt(n − f ′(kt)). (2.3.11)
一方 µt の定義から、µt =
d
dt(eθtqt) = θeθtqt + eθtqt. (2.3.12)
よって、
µt = θeθtqt + eθte−θtµt(n − f ′(kt)) (2.3.13)
= θµt + µt(n − f ′(kt)) (2.3.14)
= µt(θ + n − f ′(kt)). (2.3.15)
まとめると、次のように kt, ct, µt に関する 1階常微分方程式を得る(cについては implicit)。
kt = f(kt) − nkt − ct (2.3.16)
u′(ct) = µt (2.3.17)
µt = µt(θ + n − f ′(kt)). (2.3.18)
2.4 横断性条件終端条件 lim kte
−θt = 0から、これに付随するラグランジュ乗数を λとすると、準備の節で示した F (xT , T )は λkT e−θT である。よって、
∂F
∂kT= µT = λT e−θt
となるが、終端条件は不等式の制約条件であるため complementary slackness conditionとして、
λT kT e−θT = 0
を満たさなければならない5。これらの二つの式とハミルトニアンから得られた µT = u′(cT )e−θT
より、µと λを消去して、kT u′(cT )e−θT = 0
を得る。これを T → ∞として横断性条件
limT→∞
kT u′(cT )e−θT = 0
が得られる6。
5詳しくはクーン・タッカーの定理を参照されたし。6そもそも目的関数 U 自体が極限であることは案外忘れられているかもしれない。
4
2.5 まとめ前節最後の式の 2番目の式の両辺を tで微分すると、
µt = u′′(ct)ct. (2.5.1)
よって、3番目の式はu′′(ct)ct = u′(ct)(θ + n − f ′(kt)), (2.5.2)
となる。kt と ct について整理すると、
ct =u′(ct)u′′(ct)
(θ + n − f ′(kt)), (2.5.3)
kt = f(kt) − nkt − ct, (2.5.4)
となる。これが (ct, kt)の均衡での振る舞いを表す微分方程式である。
3 分権化経済3.1 企業行動家計は毎期労働Ntを賃金 wtで供給し、所有する資本 ktをレンタル rtで企業に貸し出すものとする。このとき企業は利益 πt = F (Kt, Nt) − rtKt − wtNt を最大化する。よって、
∂πt
∂Kt= FKt − rt = 0 (3.1.1)
∂πt
∂Nt= FNt − wt = 0. (3.1.2)
ところが、
FK = limδ→0
F (K + δ,N) − F (K,N)δ
= limδ→0
1N (F (K + δ,N) − F (K,N))
1N δ
(3.1.3)
= limδ→0
F (K+δN , N
N ) − F (KN , N
N )δN
= limδ→0
F (KN + δ
N , 1) − F (KN , 1)
δN
(3.1.4)
= limδ→0
F (k + δN , 1) − F (k, 1)
δN
= limδ→0
f(k + δN ) − f(k)
δN
(3.1.5)
= limε→0
f(k + ε) − f(k)ε
= f ′(k). (3.1.6)
である(途中で ε = δ/N とおいたが。δ → 0の時、ε → 0となることに注意。)。F は一次同次と仮定しているからオイラーの定理より7、
F (K,N) = KFK + NFN . (3.1.7)
両辺をN で割ると、左辺は F (K,N)/N = f(k)、右辺は、
K
NFK + FN = kf ′(k) + FN . (3.1.8)
7g が k 次同次であるとき、g(x) = kx · ∂g∂x
. この場合 k = 1 だから、g(x) = x · ∂g∂x。
5
よって、FN = f(k) − kf ′(k). (3.1.9)
ゆえに企業の利益最大化問題の一階の条件は、
f ′(kt) = rt (3.1.10)
f(kt) − ktf′(kt) = wt (3.1.11)
と整理することが出来る。
3.2 消費者行動:予算制約分権化された経済での消費者は初期の資本K0を所有し、企業に資本を貸し出すことでレンタル
rを得、また毎期労働を非弾力的に供給し賃金 wを得る。他方、この得た収入を消費 C と貯蓄=資産 Aの増分 dA/dtに振り分けるものとする。このとき経済全体での消費者の予算制約は次のようになる。
Ct +dAt
dt= wtNt + rtAt. (3.2.1)
これを資本の時と同様に一人当たりに直すと、
ct +dat
dt+ nat = wt + rtat, (3.2.2)
となる。
3.3 消費者行動:NPG制約(境界条件)消費者の予算制約式を at で整理すると、
ct +dat
dt= wt + (rt − n)at, (3.3.1)
となる。よって、rt − nは資産に対する「実質利子率」のように考えることができる8。終端点における境界条件として、資産 aT をマイナス無限大にすることであるペース以上9 で消費を無限大にすることを防ぐため、次のような制約をおく。
aT e−R T0 (rs − n)ds ≥ 0 (3.3.2)
これを無限視野に置き換えて、
limT→∞
aT e−R T0 (rs − n)ds ≥ 0 (3.3.3)
とする。これを No Ponzi Game制約という10。
8仮に rt を一定とおくと、資産は a0e(r−n)t で増やすことができるが、これは a0eR t0 (r−n)ds に等しい。
9借金(資産が負の時は借金)が例えば at = −a0eR T0 (rs−n+ε)ds, ε > 0 の時には
−a0eR T0 (rs − n + ε)dse−
R T0 (rs − n)ds = −a0e
R T0 εds = −a0eεT → −∞, T → ∞.
10永遠に将来から借り増していく、ねずみ講を排除する。
6
NPG制約を使った動学的予算制約の導出
NPG制約が統合で満たされているものと仮定する。予算制約式を次のように整理する。
at − (rt − n)at = wt − ct. (3.3.4)
ここで微分方程式を解くためのテクニックとして、両辺に e−R t0 (rs−n)ds をかける。
ate−
R t0 (rs−n)ds − (rt − n)ate
−R t0 (rs−n)ds = (wt − ct)e−
R t0 (rs−n)ds. (3.3.5)
ここで、(ate−
R t0 (rs−n)ds)′ = ate
−R t0 (rs−n)ds − (rt − n)ate
−R t0 (rs−n)ds に注意して両辺を 0から T
まで積分すると、 [ate
−R t0 (rs−n)ds
]T
0=
∫ T
0
(wt − ct)e−R t0 (rs−n)dsdt, (3.3.6)
を得る。左辺で t = 0で評価した時の積分は a0 であることに注意すれば、
aT e−R T0 (rs−n)ds − a0 =
∫ T
0
(wt − ct)e−R t0 (rs−n)dsdt (3.3.7)
ところが NPG制約により左辺の第一項は T → ∞の時、ゼロになるから、整理すると、∫ ∞
0
cte−
R T0 (rs−n)dsdt =
∫ ∞
0
wte−
R T0 (rs−n)dsdt + a0, (3.3.8)
を得る。これは将来にわたる全ての消費の現在価値の合計は初期の資産と将来にわたる収入の現在価値の合計に等しいことを意味するため、動学的予算制約または通時的予算制約と呼ぶ。
3.4 消費者行動:最適化
U =∫ ∞
0
u(ct)e−θtdt (3.4.1)
at = wt − ct + (rt − n)at (3.4.2)
a0 ≥ 0 (3.4.3)
limt→∞
ate−
R t0 (rs − n)ds ≥ 0 (3.4.4)
この問題のハミルトニアンは、at に付随する co-state変数を qt とすると、
H(ct, at, qt) = u(ct)e−θt + qt(wt − ct + (rt − n)at). (3.4.5)
一階の条件は、∂H
∂ct= u′(ct)e−θt − qt = 0, (3.4.6)
at =∂H
∂qt= wt − ct + (rt − n)at, (3.4.7)
qt = −∂H
∂at= −qt(rt − n). (3.4.8)
ct に関する偏微分から、qt を微分すると、
qt = u′′(ct)cte−θt − θu′(ct)e−θt = (u′′(ct)ct − θu′(ct))e−θt. (3.4.9)
これを第 3番目の式に代入して整理すれば、
u′′(ct)ct = u′(ct)(θ − rt + n). (3.4.10)
7
3.5 市場均衡各 t期での資本市場の均衡は
rt = f ′(kt), (3.5.1)
kt = at, (3.5.2)
であり、労働市場では労働供給は非弾力的に供給されているため 1であり価格は、
wt = f(kt) − ktf′(kt), (3.5.3)
となる。これらを一階の条件に代入すると、
kt = f(kt) − ktf′(kt) − ct + (f ′(kt) − n)kt, (3.5.4)
= f(kt) − ct − nkt, (3.5.5)
ct =u′(ct)u′′(ct)
(θ − f ′(kt) + n). (3.5.6)
これは Social Plannerが解いた問題と同じ解である。よって、このモデルでは分権化された経済は社会的に最適な成長が実現される。
c
O k
c=0
k=0
�E
�E
図 1: 相図
8
4 均衡での振る舞い4.1 リスク回避度との関係相対リスク回避度(Degree of Relatvie Risk Aversion: RRA)σ(ct)を次のように定義する。
σ(ct) = −ctu′′(ct)u′(ct)
. (4.1.1)
この指標を使うと、ct は次のように書き直せる。
ct =ct
σ(ct)(f ′(kt) − θ − n). (4.1.2)
相対的リスク回避度が高い経済では消費の増加ペースは遅くなる。その分貯蓄が増加し資本蓄積が促進されるのだろうか?そして定常状態での資本量に変化はあるのだろうか?
ct = 0の時、ct = 0ではないとすれば f ′(kt) = θ + nである11。これは ct には依存せず、kt はθ + nで決まることを意味している。一方、kt = 0の時には、ct = f(kt) − nkt であるから、相対リスク回避度には依存していないことが分かる。よって、相対リスク回避度の違いは定常状態での資本及び消費には影響を与えない12。
4.1.1 例:CRRA効用関数
u(c) =c1−ξ
1 − ξ, (0 < ξ < 1) (4.1.3)
という効用関数を例にとると、u′(c) = c−ξ, u′′(c) = −ξc−ξ−1 だから、
σ(c) = −c−ξc−ξ−1
c−ξ= ξ.
このような効用関数を相対リスク回避度が一定(Constant Relative Risk Averse)であるといい、CRRA効用関数と呼ぶ。また、生産関数を
f(k) = kα (0 < α < 1)
と仮定すれば、f ′(k) = αkα−1。よってこの場合の消費および投資の成長は次のように表される。
ct =ct
ξ(αkα−1 − θ − n), (4.1.4)
kt = kαt − ct − nkt. (4.1.5)
4.1.2 例:CARA効用関数
u(c) = −1ζe−ζt, (ζ > 0)
11実際、k0 > 0, u′(c) → ∞(c → 0) という仮定から ct 6= 0 である。12リスクへの態度は単に同時点での消費に関するものだけではなく、通時的な消費への態度へも現れるべきで、その場合には時間割引率 θ が小さくなると考えるのが自然と思われる。その場合には定常状態での資本量は増え、よって、消費は増加する。
9
という効用関数を絶対リスク回避度一定 (Constant Absolute Risk Aversion)であるといい、CARA効用関数と言う。絶対リスク回避度は−u′′(c)/u′(c)と定義されるが、CARA効用関数では絶対リスク回避度は ζ となり一定である。
CARA効用関数の相対リスク回避度は ctζ であるから、
ct =1ζ(αkα−1 − θ − n), (4.1.6)
kt = kαt − ct − nkt. (4.1.7)
4.2 人口成長率の影響人口成長率 nは正でも負でも構わないが、暗黙のうちに正を仮定してきたが、ここでは成長率が負の場合を考える。消費者の予算制約を見れば分かるように、n < 0の時には (rt − n)は人口成長がプラスの時に比較して大きくなるので所得が増えることになる。放っておいても少しずつ資本があまり食いつぶしていける恰好になる。また、均衡での資本蓄積と消費の経路を見ると、いずれも nの減少に対して増加することがわかる。相図を見れば分かるように、定常状態では一人当たりの資本も消費も増えることがわかる13。
k=0�Ek=0�E
c
O k
c=0k=0
�E �E
図 2: 人口成長が負の時の相図
13経済全体での成長率はどうなる?
10
5 政府の役割5.1 均衡財政での財政支出政府は tにおいて租税 τtを徴収し、gtを支出するものとする。ここでは gtは消費や投資には何も影響を与えないものとする。このとき、家計の予算制約は租税の徴収がある分だけ所得が減る。
ct + at + nat = wt + rtat − τt. (5.1.1)
これを整理してat = wt + (rt − n)at − τtct,
となるから、at に付随する共役変数(co-state変数)を qt とするハミルトニアンは
H(ct, at, qt) = u(ct)e−θt + qt(wt + (rt − n)at − τt − ct)
であり、一階の条件は
∂H
∂ct= u′(ct)e−θt − qt = 0, (5.1.2)
qt = −∂H
∂at= qt(rt − n), (5.1.3)
at = wt + (rt − n)at − τtct. (5.1.4)
最初の二つの式は政府を考慮しない場合と同じであり、違いは最後の予算制約式のみである。このことから、
kt = f(kt) − nkt − τt − ct, (5.1.5)
を得る。特に、kt = 0の時、ct = f(kt) − nkt − τt, (5.1.6)
となる。τt = τ で一定と仮定すると、その変化は相図の通り。k の曲線が τ 分だけ下に平行移動し、定常状態での消費が減るが、蓄積される資本量に変化はない。
NPG条件を使った動学的予算制約の導出
各期の家計の予算制約から動学的予算制約を導出したのと全く同じ方法によって、税を含んだ動学的予算制約を導出できる。∫ ∞
0
cte−
R t0 (rs−n)dsdt =
∫ ∞
0
wte−
R T0 (rs−n)dsdt −
∫ ∞
0
τte−
R T0 (rs−n)dsdt + a0. (5.1.7)
均衡財政においては τt = gtであるから当然∫ ∞0
τte−
R T0 (rs−n)dsdt =
∫ ∞0
gte−
R T0 (rs−n)dsdtとなる。
よって、動学的予算制約式は次のように書き直すことができる。∫ ∞
0
cte−
R t0 (rs−n)dsdt =
∫ ∞
0
wte−
R T0 (rs−n)dsdt −
∫ ∞
0
gte−
R T0 (rs−n)dsdt + a0. (5.1.8)
11
5.2 国債を財源とした財政支出均衡財政との比較において、国債発行による財源確保はどのような影響を及ぼすであろうか。その場合、政府は国債発行残高を btとすると、毎期 btを発行して租税 τtに補って支出を賄う。btのマイナスは国債の償還を意味する。また、国債は民間からの借入なので、そのコストは資本借入の市場金利 rt に一致しなければならない。このとき、政府の予算制約式は、
bt + nbt = gt − τt + rtbt, (5.2.1)
となる。一人当たりの場合の導出方法は kt の時と同様であり、人口増加分が加味される。
NPG条件を使った動学的予算制約の導出
この場合の政府の動学的予算制約はどのようなものになるかを考えると、∫ ∞
0
τte−
R T0 (rs−n)dsdt =
∫ ∞
0
gte−
R T0 (rs−n)dsdt + b0, (5.2.2)
を得る。家計の予算は vt = at + bt とおくと、ct + vt + nvt = wt + rtvt − τt となるから、これを動学的予算制約にすると、∫ ∞
0
cte−
R T0 (rs−n)dsdt =
∫ ∞
0
wte−
R T0 (rs−n)dsdt −
∫ ∞
0
τte−
R T0 (rs−n)dsdt + v0, (5.2.3)
これに政府の予算制約式を代入すれば、∫ ∞
0
cte−
R T0 (rs−n)dsdt =
∫ ∞
0
wte−
R T0 (rs−n)dsdt −
∫ ∞
0
gte−
R T0 (rs−n)dsdt + a0 (5.2.4)
を得るが、これは均衡財政の条件の下で得られる動学的予算制約と全く同一である。よって、家計が将来からの借入を自由にできるという仮定の下では一括税による財源調達と国債による調達との間に資源配分の違いは起こらない。
5.3 歪みのある税今度は歪みのある税を考える。資本からの収益 rtに対して定率 τtの税をかけるものとし、一括式で zt を支出するものとする。政府は各時点で財政を均衡させるものとする。このとき、家計の予算制約は次のようになる。
ct +dat
dt+ nat = wt + (1 − τt)rtat + zt. (5.3.1)
この時のハミルトニアンは、
H(ct, at, qt) = u(ct)e−θt + qt(wt + ((1 − τt)rt − n)at + zt − ct), (5.3.2)
となり、一階の条件は、
∂H
∂ct= u′(ct)e−θt − qt = 0, (5.3.3)
qt = −∂H
∂at= qt(n − (1 − τt)rt), (5.3.4)
at = wt + ((1 − τt)rt − n)at + zt − ct. (5.3.5)
12
これを整理すると、u′′(ct)ct
u′(ct)= θ + n − (1 − τt) (5.3.6)
よって、定常状態の ct = 0においては、
rt =n + θ
1 − τt, (5.3.7)
となる。均衡において rt = f ′(kt)で、τt と rt は 1対 1の関係、f ′ も単射だから τ から kへの関数が存在する。τ と kとの関係は図のように示される。
k
k
n+θ1-τ
τ1
n+θf’ (k)
図 3: 税制と定常状態での資本の関係
一方、kt については制約式と市場均衡式 (r = f ′(k), w = f(k) − kf ′(k))から、
k = f(k) − (τf ′(k) + n)z − c, (5.3.8)
となる。k = 0の時、c = f(k) + z − nk − τf ′(k)k, (5.3.9)
となるが、これは図のような関係を表す。所得移転の zの分だけ上に平行移動するが、τf ′(k)kの分だけ下に歪んだ形に引き下げるのである。
13
kk
c
O k
k=0・
c
O k
k=0・
z
c=0・
図 4: 歪みのある税制の下での相図
14
6 参考文献• Blanchard, Olivier and Stanley Fischer, A Lecture Note on Macroeconomics, MIT Press,
1989.
• Intriligator, Michael D., Mathematical Optimization and Economic Theory, Prentice-Hall,1971.
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