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杉山 俊幸 山梨大学大学院医学工学総合研究部環境社会創生工学専攻 civil-eye.com webセミナー (株)CRCソリューションズ 1 性能照査型設計法に基づく橋梁設計の基礎知識と応用 第1章 序論 1.1 性能照査型設計導入の背景 1) 土木構造物や建築構造物のような構造物が保有する性能,すなわち,さまざまな荷重作 用下での構造物の挙動は必ずしも明確ではない.これは,①従来の設計体系では,決めら れた手順をたどる設計を行えばよく,設計者は自身が設計した構造物の性能を必ずしも把 握していないこと,②構造物の性能は大きな外力が作用した時に初めて明らかになること が多いが,発生が稀な外力の特性や大きな外力作用時の構造物の挙動の予測は容易でない こと,③既存の構造物の大半は際立った支障が生ずることなく供用に耐えてきており,あ る程度の安全性等が現行の設計規準で確保されていると考えられること,④一般市民の間 には構造物が安全であることは当然との認識があり,コストと構造物の保有する性能との バランスが必ずしも認識されていないこと等の理由により,構造物の性能を明確に評価す るための技術が体系的に確立されてこなかったことが原因と考えられよう 2) .例えば, 2002 3 月版以前の道路橋示方書 3) では,使用する材料の種類や最小寸法,あるいは基準式等 が規定されている場合もあり,いわゆる仕様規定方式の設計基準となっている部分も見受 けられる.また,同示方書では許容応力度設計法のフォーマットが採用されていることか ら,安全性や使用性のレベルを定量的に把握することは容易でない.さらに,採用されて いる許容応力度の割増し係数がどのような根拠に基づいて決定されているのか等が明確に 記載されていないこともこれに拍車をかけている. 設計体系のあるべき本来の姿としては,設計者が自身の設計した構造物の性能を十分に 把握し,構造物の性能に関する情報を利用者に提供することで,構造物の保有する性能が 価値判断の材料となることであると言えよう.こうした技術的側面からみた設計規準の欠 点を克服するための 1 つの方法として導入がなされてきているのが性能照査型設計である. ただし,性能照査型設計が導入されてきた背景としては,前述の技術的側面からの要請 というよりは,むしろ以下に述べる社会的・経済的側面からの要請の方が強かったことは 否めない.1990 年代に入り,経済活動の国際化の傾向が強まり,1995 年には「貿易の技術 的障害に関する協定」(WTO/TBT) の締結がなされ,1996 2 月には日米包括経済協議にお ける建築分野への規制緩和要求が米側からなされた.また,国際標準化機構(International Organization for Standardization ISO) による国際規格等の性能規定化が促進されてきたこと とも相俟って,我が国の建築分野では,建築基準法が 1998 5 月に性能規定化を意図した 設計基準に改正され,性能表示制度,瑕疵保証制度,紛争処理体制を 3 本柱とした住宅の 品質確保の促進等に関する法律が 2000 6 月より施行されている. 一方,土木分野でも,1995 1 月に阪神・淡路大震災に遭遇し橋梁の耐震性能評価の必 要性が認識され始めたのを契機として性能照査型設計への移行の必要性が認識され,1996 12 月に改訂された現行道路橋示方書・V 耐震設計編では,橋の耐震性能が,例えば「特 に重要度の高い橋(B 種の橋)は,橋の供用期間中に発生する確率は低いが大きな強度をも つ地震動に対して,限定された損傷にとどめる」というように記載され,性能照査型設計 を部分的に取り込んだものとなった 4) .その後,新技術開発など設計者の創意工夫の活用

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杉山 俊幸 著 山梨大学大学院医学工学総合研究部環境社会創生工学専攻

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1

性能照査型設計法に基づく橋梁設計の基礎知識と応用

第1章 序論 1.1 性能照査型設計導入の背景1)

土木構造物や建築構造物のような構造物が保有する性能,すなわち,さまざまな荷重作

用下での構造物の挙動は必ずしも明確ではない.これは,①従来の設計体系では,決めら

れた手順をたどる設計を行えばよく,設計者は自身が設計した構造物の性能を必ずしも把

握していないこと,②構造物の性能は大きな外力が作用した時に初めて明らかになること

が多いが,発生が稀な外力の特性や大きな外力作用時の構造物の挙動の予測は容易でない

こと,③既存の構造物の大半は際立った支障が生ずることなく供用に耐えてきており,あ

る程度の安全性等が現行の設計規準で確保されていると考えられること,④一般市民の間

には構造物が安全であることは当然との認識があり,コストと構造物の保有する性能との

バランスが必ずしも認識されていないこと等の理由により,構造物の性能を明確に評価す

るための技術が体系的に確立されてこなかったことが原因と考えられよう 2).例えば,2002

年 3 月版以前の道路橋示方書3)では,使用する材料の種類や 小寸法,あるいは基準式等

が規定されている場合もあり,いわゆる仕様規定方式の設計基準となっている部分も見受

けられる.また,同示方書では許容応力度設計法のフォーマットが採用されていることか

ら,安全性や使用性のレベルを定量的に把握することは容易でない.さらに,採用されて

いる許容応力度の割増し係数がどのような根拠に基づいて決定されているのか等が明確に

記載されていないこともこれに拍車をかけている.

設計体系のあるべき本来の姿としては,設計者が自身の設計した構造物の性能を十分に

把握し,構造物の性能に関する情報を利用者に提供することで,構造物の保有する性能が

価値判断の材料となることであると言えよう.こうした技術的側面からみた設計規準の欠

点を克服するための 1 つの方法として導入がなされてきているのが性能照査型設計である.

ただし,性能照査型設計が導入されてきた背景としては,前述の技術的側面からの要請

というよりは,むしろ以下に述べる社会的・経済的側面からの要請の方が強かったことは

否めない.1990 年代に入り,経済活動の国際化の傾向が強まり,1995 年には「貿易の技術

的障害に関する協定」(WTO/TBT)の締結がなされ,1996 年 2 月には日米包括経済協議にお

ける建築分野への規制緩和要求が米側からなされた.また,国際標準化機構(International

Organization for Standardization:ISO)による国際規格等の性能規定化が促進されてきたこと

とも相俟って,我が国の建築分野では,建築基準法が 1998 年 5 月に性能規定化を意図した

設計基準に改正され,性能表示制度,瑕疵保証制度,紛争処理体制を 3 本柱とした住宅の

品質確保の促進等に関する法律が 2000 年 6 月より施行されている.

一方,土木分野でも,1995 年 1 月に阪神・淡路大震災に遭遇し橋梁の耐震性能評価の必

要性が認識され始めたのを契機として性能照査型設計への移行の必要性が認識され,1996

年 12 月に改訂された現行道路橋示方書・V 耐震設計編では,橋の耐震性能が,例えば「特

に重要度の高い橋(B 種の橋)は,橋の供用期間中に発生する確率は低いが大きな強度をも

つ地震動に対して,限定された損傷にとどめる」というように記載され,性能照査型設計

を部分的に取り込んだものとなった4).その後,新技術開発など設計者の創意工夫の活用

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・工期短縮・建設コスト縮減・性能を明示することによる国際化対応を目指す性能照査型

設計の導入が,景気の低迷に伴う建設投資額の縮減という経済的な動向を見据えながら積

極的に検討され,2002 年 3 月に発刊された現行道路橋示方書では、従来の仕様規定型から

性能規定型に改訂されている5).ただし,これには従来の仕様規定・許容応力度設計方式

の規定も併記されている.

1.2 性能照査型設計導入の経緯 1.2.1 海外の経緯 建築構造物の設計に性能の概念を導入しようとする試みが 初に明確な形でなされ,現

時点でも必ずと言ってよいほど参照されるのは,ノルディック建築基準委員会(NKB)が作

成した性能照査型設計の理念階層モデル NKB Level System(図 1.2.1)である6).NKB は,

各国の既存の法律に含まれる建築規制上の要求基準を比較し,改訂のベースを作成するこ

とを目的として検討を重ね,NKB Level System を「規制要求基準の内容を理解するための

共通の枠組み」として開発している.

欧州共同体(EU)は,NKB Level System を基に居住用建築物に関する建築基準と実証方法

に関するモデル規定をまとめているが,NKB Level System のどのレベルまでを法令に基づ

く強制的な適用とするかについて検討している7).同様に,イギリス,ニュージーランド,

オーストラリア,カナダでも NKB Level System をベースとして建築構造の性能設計体系を

構築している8).表 1.2.1 にこれらの国々の設計規準における性能照査型設計の記述の階

層を示すが,大半は構造物の性能までを法的に拘束を受けるものとし,照査方法に関して

は法的な拘束力を持たせないというのが共通した考え方といえる.

これに対し米国では,「設計地震の生起頻度」と「耐震性能レベル」を 2 つの軸とし,

構造物の重要度をパラメータとして構造物の耐震性能を表示しようとする性能マトリック

ス(表 1.2.2)の概念を導入した米国カリフォルニア構造技術者協会(SEAOC:Structural

Engineering Association of California)発行の Vision 2000 の考え方9)に基づいて性能照査型

設計体系が構築されている.また,CALTRAN(カリフォルニア州交通当局)では,表 1.2.3に示すような耐震性能に関するサービス水準を規定している 10).

図 1.2.1 NKB Level System(NKB レベルの階層図)

全体目標

機能的要求

性能表現による要求水準

検証方法 性能要求水準の達成

を評価するための 計算法,実験法など

適合みなし仕様

性能要求水準を満足

しているとみなされ

る具体的な構造寸法,

材料等の仕様

法的拘束力

あり

なし

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表 1.2.1 諸外国の設計基準における性能照査型設計の記述の階層

ノルディック イギリス オーストラリ

ア カナダ

ニュージーラ

ンド

目 的 ○ ○ ○ ○ ○

機能的要求 ○ ○ ○ ○ ○

性能の要求水準 ○ △ ○ 規定なし ○

検証方法 △ △ △(代替法

の承認)規定なし △

適合みなし仕様 △ △ ○ △ △

○ 法的拘束力あり △法的拘束力なし

表 1.2.2 Vision 2000 における性能マトリックスの概念

Structural Engineering Association of California Earthquake Performance Level

Fully Operational Operational Life Safe Near Collapse

Frequent (43year) ○ × × ×

Occasional (72year) □ ○ × ×

Rare (475year) ☆ □ ○ ×

Earthquake

Design

Level

(Return Period) Very Rare (970year) ☆ □ ○

×:Unacceptable Performance (for New Construction) ○:Basic Objective □:Essential/Hazardous Objective ☆:Safety Critical Objective (翻訳すると微妙なニュアンスの違いが生じることから,ここでは原文で表示した)

表 1.2.3 California 州交通局の耐震性能基準でのサービス水準

Ground Motion at Site Ordinary Bridge Performance Level Important Bridge Performance Level

Functional-Evaluation Earthquake

Service Level Immediate "Repairable" Damage

Service Level Immediate "Minimal" Damage

Safety-Evaluation Earthquake

Service Level Limited "Significant" Damage

Service Level Immediate "Repairable" Damage

(翻訳すると微妙なニュアンスの違いが生じることから,ここでは原文で表示した)

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1.2.2 我が国の経緯 前述した通り,建築分野では日米包括経済協議における米側の規制緩和要求を受けて,

建築基準法の性能規定化に向けた試みが開始された.具体的には,平成 7 年度に建設省(現

国土交通省)建築研究所を中心に発足された総合技術開発プロジェクト「新建築構造体系の開

発」において,「消費者が自らが必要とする性能とコストを理解して建築物を求めることがで

き,また,技術の側にとっては,より自由度が高く,技術開発の促進や国際調和に対応するこ

とができ,これらの結果として,建築構造技術をとりまく経済の世界に市場原理が機能するよ

うな体系を確立すること」を目的とし,①性能を基盤とした建築構造設計体系,②建築構造に

要求される性能の考え方,③性能の水準の設定と性能評価の枠組,④性能を基盤とした体系の

ための新たな社会機構,の 4 つを研究課題として活動が行われた.本プロジェクトは 3 年間か

けて調査・研究活動が精力的に実施され,その成果 11)~15)は,建築基準法の性能規定化,およ

び 2000 年 6 月より施行されている性能表示制度,瑕疵保証制度,紛争処理体制を 3 本柱と

した住宅の品質確保の促進等に関する法律に活かされている.さらに日本建築学会では,

2001 年 4 月に,保険制度と危機管理調査研究特別委員会から,性能照査型設計導入のため

には必要不可欠な社会体制の確立に直結すると考えられる“自然災害低減のための危機管

理と保険制度”に関して,①自然災害に関するハザードマップを整備し公開すること,②

複数地震の被害想定に応じたシナリオを作成し,それに対応した災害危機管理体制を作る

こと,③自治体として,保険システムの導入をはかること,の 3 つの提言が地方自治体に

向けてなされている 16).また,ほぼ同時期に学会規準・仕様書のあり方検討委員会より報

告書(答申)が出され,性能規定化への対応に関し,「目標性能(性能項目,性能レベル)が

表示されていないことが多い現行規準・標準仕様書類に対し見直しすること」を答申して

いる 17).

土木分野では,土木学会コンクリート委員会において,平成 7 年に示方書小委員会の下に,

「2005 年を目途に土木学会コンクリート標準示方書を大改訂するための中期ビジョンを討議し,

そのための研究開発の方向を提案すること」を目的として幹事会が設置された.以後,積極的

に性能照査型設計に基づく全面改訂に向けた活動がなされ 18),これまでに「2002 年制定コン

クリート標準示方書[構造性能照査編]」等7編 19)が発刊されるに至っている.その他,1999

年の「港湾の施設の技術上の規準」の改訂など,性能照査型設計体系の構築に向けた動きが

精力的になされている.また,地盤工学会では,性能照査型設計を念頭に置いた「地盤コ

ード 21」という呼称の基礎構造物の共通モデルコードが提案されている 20).なお,鉄道

構造物の技術基準も細目規定から性能照査型規定への改訂作業が進められており,2004 年

にコンクリート構造物に関する設計標準が発行されている 21).

土木鋼構造分野の学・協会における活動報告書としては,①土木学会・鋼構造委員会の

下に設置された鋼構造物の耐震検討小委員会・第 1 分科会における,「性能照査型耐震設

計・構造安全性・地震後の使用性・構造物の重要度・許容安全性水準・安全係数」の 6 つ

のキーワードに基づいた鋼構造物の性能照査型耐震設計についての調査研究活動 22),②鋼

橋技術研究会・鋼橋の性能設計研究部会における,a)他分野での性能照査方法・品質保証

機構の調査,b)性能照査型設計に向けての視点と提案例,c)性能照査型設計移行後の社会

機構のあり方,d)設計 VE と性能照査型設計,e)性能照査型設計を想定した試設計等につい

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ての調査研究活動 23),③土木学会鋼構造委員会・鋼構造物の性能照査型設計法に関する調

査特別小委員会における「性能を基盤とする鋼構造物の設計体系の考え方」および「性能

照査型設計体系に基づく設計指針(案)」の作成を試みた活動の報告書が挙げられる 24).

この数年の間には、土木・建築という分野の違い、あるいは、鋼・コンクリート・地盤

という構造材料の違いを問わず、広範な視点から、性能照査型設計規準を策定する上での

基本的な考え方と手順を示そうとする試みもなされており、国土交通省による「土木・建

築にかかる設計の基本」25)、本城らによる「性能設計概念に基づいた構造物設計コード作

成のための原則・指針と用語」26)が公表されている。

1.3 性能照査型設計の長所と課題および性能照査型設計のフロー 性能照査型設計の定義は,現時点では必ずしも確立しているわけではないが,概ね,「設

計された構造物の保有する性能が,要求性能さえ満足していれば,どのような構造形式や

構造材料,構造解析手法,架設工法を用いてもよい設計法」と言えよう.性能照査型設計

が導入されると,①新材料や新工法,新構造解析手法の導入など設計者の創意工夫を十二

分に活かすことができる,その結果として,②工期短縮・建設コスト縮減が期待できる,

③実際に設計され架設された構造物がどのような性能を保有しているのかを,設計者はも

ちろんのこと発注者側も,また,これを利用する側も知ることができる,④発注する側は,

構造物のライフサイクルを通してどのような性能を確保するのが 適かをコストや環境負

荷等の観点から考慮しながら選択することができる,等の長所がある.

ただし,①要求性能水準をどのような方法で算出し,どのような値にすればよいのか,

②設計された構造物の保有する性能を如何に検証するか,③ライフサイクルコストの評価

やライフサイクルアナリシスを如何に合理的に実施するか,は極めて難しい問題であり,

性能照査型設計の定義も含め,今後の研究成果を待たねばならない.さらに,④要求性能

水準の設定や検証を誰が行うのか,⑤性能照査型設計を受け入れることのできる社会体制

(入札・契約制度,リスク管理・情報公開制度,保険制度等)が十分に整っているのかに

関しては,社会的なコンセンサスを必要とする課題であり,これらの課題の克服は容易で

はない.いずれにせよ,技術力の適切な評価システムを確立することが性能照査型設計導

入の大前提であろう.

橋に要求される一般的な性能と,その性能を満足させるために設計段階で考慮される限

界状態や検討項目を表1.3.1に示す.なお,同表に示す性能は主として個々の部材としての

性能であり,橋全体としてみた場合の性能については,さらに議論を深めていく必要があ

ろう.また,図1.3.1に性能照査型設計に基づく橋の設計・施工・維持管理・補修のフロー

チャートの一例を示す.性能照査型設計では性能さえ満足すればよいことから,図示した

フローチャートは一例にすぎない.このようなプロセスを踏む場合に各ステップでどのよ

うなことに留意しながら設計や維持管理・補修等を行っていくか,また,各段階で生ずる

問題点については,次章以降で詳述する.

なお,構造物の設計に確率論的な概念を導入するという信頼性設計法と性能照査型設計

の関連については,以下のように考えるのが適切であろう.性能照査型設計を行う場合の

要求性能水準の設定に際して,どのような大きさ・発生頻度の荷重を設計で想定するか,

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また,この設計荷重に対して限界状態に達する可能性がどの程度の構造物を設計しようと

するのかを定量的に表現すること,さらには,設計した構造物が保有する性能水準がどの

程度なのかを具体的な数値で表示することが も望ましい.これらを可能にするのが信頼

性設計法であり,究極の性能照査型設計は信頼性設計そのものと考えるのが妥当であろう.

ISO から,終局限界状態および使用限界状態を対象とした信頼性理論に基づく部分安全係

数方式の性能照査型設計を推奨した ISO2394 General principles on reliability for structures27)

が発行されており,世界各国では,今後,これを目標に設計規準が改訂されていくものと

思われる.ただし,現時点では,土木構造物が限界状態に達するまでの挙動を正確に把握

すること,また,土木構造物に作用する種々の荷重を正確に推定することは必ずしも容易

ではないのが実状である.

ところで,「構造物の構成部材の中で損傷する部材を制御し,構造系全体の性能を高め

る設計法」,もう少し具体的に記述すると,「強度の低い部材のエネルギー吸収性能を高

めることにより,構造系全体のエネルギー吸収性能を合理的に向上させる設計法」として

キャパシティ・デザイン(損傷制御設計 capacity design)があるが,この設計法は性能照査

型設計の一部,すなわち,性能を確保するための 1 つのアプローチのしかたであると位置

づけられる.

表1.3.1 橋に要求される性能と、設計段階で考慮される限界状態や検討項目

要求される性能 設計段階で考慮される限界状態や検討項目

安全性 剛体的安定限界、破断限界、降伏限界、塑性崩壊、

座屈限界、動的安定限界、疲労限界

使用性 ひびわれ限界、変形限界、局部損傷、振動限界、外観劣化

経済性 ライフサイクルコスト(=建設費[設計費用等を含む]+

維持管理費+補修費+破壊時の損失費用の期待値) 小

環境適合性 景観、遮光性、排出物質、生態系への影響

耐久性 (安全性や使用性の時間関数)

維持管理性 維持管理の難易度

復旧性(修復性) 復旧までに要する時間、復旧工事の難易度

施工性 架設期間、架設場所、気象条件

付加性能 シンボル性、芸術性、観光資源性etc.

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1.4 用語の定義 性能照査型設計に関わる用語の定義については,「性能照査型設計」そのものの定義同

様,現時点では必ずしも確立されておらず,設計規準を策定しようとしたり,これに関係

するような調査研究活動を行ったりする場合,長時間の議論を行い,時間の制約上やむを

得ず「取り敢えずこのような定義で進めていこう」と割り切っているのが実情である.

本節では,こうした状況下にあって、比較的分かり易く用語の定義がなされている文献

1),および,文献 26)を紹介する.後者には、文献 1),20),25),27),28)で定義されてい

る用語を比較しつつ,さらに独自に定義した用語が記載されている.

1.4.1 土木鋼構造物の性能設計ガイドライン1)における用語の定義 a)性能の階層化に関する用語 目的(objective):

構造物を建設する理由.例えば,道路橋であれば「道路の一部として河川などと立体

交差させること」など.

機能(function):

利用者が目的に適合するよう構造物に期待する役割.通常,一般の人に理解し易い言

葉で表される.道路橋であれば「交通を安全で円滑に通すこと」.

性能(performance):

機能を果たすために構造物が持たなければならない種々の性質および能力.専門用語

で表される場合が多い.例えば,「応力が限界値を超えない」など.性能を定量的に

表現するためには品質もその変数となり得る.

品質(quality):

製品のもつ1つの特性を定量的指標で表現したもの.予め設定された検査や試験により

定量的指標の1つの実現値が得られる.例えば,鋼材の降伏点,シャルピー衝撃吸収エ

ネルギーなど.

要求性能(required performance):

設計しようとする構造物が保有すべきであると要求された性能で,具体的には性能照

査(応答値S ≤ 限界値R)を満たすこと.

基本性能(basic performance):

要求性能を満足するために考慮すべき性能であり,安全性,使用性,環境適合性,施

工性,維持管理性,および解体・再利用性からなる.なお,耐久性は安全性の中に含

める.

要求性能水準(level of required performance)

構造物の要求性能に対応する限界状態への達し難さの程度.定量的には信頼性理論に

基づき破壊確率あるいは信頼性指標の大小で表される.

要求性能の上位表現(upper class expression for required performance):

一般の人が理解できるように表現した要求性能.

要求性能の中位表現(middle class expression for required performance):

標準的技術者が理解できるように定性的に表現した要求性能

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要求性能の下位表現(lower class expression for required performance):

標準的技術者が理解できるように定量的に表現した要求性能

b)性能照査型設計法の概念および体系に関する用語 性能照査型設計法(performance-based design):

設計された構造物が要求性能さえ満足していれば,どのような構造形式や構造材料,

設計手法,工法を用いてもよいとする設計方法.より具体的には,構造物の目的とそ

れに適合する機能を明示し,機能を備えるために必要とされる性能を規定し,規定さ

れた性能を構造物の供用期間中確保することにより機能を満足させる設計方法.類似

の用語に,性能規定型設計,性能明示型設計,性能指向型設計などがあるが,本報告

書では,内容が明確に分かる性能照査型設計(簡略化して,性能設計)を用い,その

他は用いない.

仕様規定に基づく設計(regulation-based design):

具体的な構造材料の種類や寸法,解析手法等が指定されており,それに基づいて設計

する方法.多くの現行設計基準はこれにあたる.

適合みなし規定(deemed-to-satisfy regulation):

要求性能を満足していると見なされる「解」を例示したもので,性能照査方法を明確

に表示できない場合に規定される構造材料や寸法,および従来の実績から妥当と見な

される現行基準類に指定された解析法,強度予測式等を用いた照査方法を表す.他に

は,適合みなし規定,適合みなし仕様,承認設計などの用語があるが,示方書等に規

定されている既存の解析法あるいは予測式もこの中に含めているため,仕様よりも規

定の方が適切で,適合みなし規定を用いる.

信頼性設計法(reliability based design):

構造物が限界状態に達する可能性を確率論的に照査する設計法.信頼性設計法は構造

物の破壊確率に対する算定精度の高い順にⅢ,Ⅱ,Ⅰの3レベルに区分されている.

限界状態設計法(limit state design):

照査すべき限界状態を明確にした設計法.照査フォーマットとして信頼性理論のレベ

ルⅠにあたる部分安全係数法を採用することがほとんどであるため,部分安全係数法

(partial safety factor design)を限界状態設計法と同義で使われることも多い.

評価性能(evaluating property of performance):

基本性能に対して評価すべき性能で,基本性能より細分化された項目.「構造安全性」

という基本性能に対して,「耐荷力」,「変位」,「変形」などが挙げられる.

照査指標(index for performance check):

評価性能を具体的に表す物理量で,照査で必要となる応答値や限界値の算出対象とな

る指標.例えば,「力」,「たわみ」,「ひずみ」などが挙げられる.

性能照査(performance check):

応答値Sと対応する限界値Rの間でS≤Rまたはf (S, R)≤1.0の判定を行う行為.

応答値S(demand, response value):

外力によって構造物に発生する物理量.例えば,「曲げモーメント」,「変位」,「ひ

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ずみ」など.

限界値R(capacity, limit value of performance):

応答値に対して許容される限界の値で,「限界状態」の種類によって定められる物理

量.例えば,「終局曲げモーメント」,「終局変位」,「終局ひずみ」,など.

要求性能マトリックス(required performance matrix):

構造物に付与すべき性能のグレードと想定する外力のグレードをマトリックスに表示

したもの.設計者は構造物の重要度に応じて付与すべき性能をマトリックスから選択

する.本報告書では,耐震,疲労,耐風などに対して要求性能マトリックスが提案さ

れている.

c)限界状態に関する用語 限界状態(limit state):

基本性能に対して,それを超えると要求を満足できなくなる状態.

終局限界状態(ultimate limit state):

安全性(耐久性を含む)に関する限界状態で,それを越えると耐荷性能,変形性能な

どを失って破壊する.具体的には剛体的安定限界,破壊限界,降伏限界,変形限界,

変位限界,塑性崩壊,座屈限界,疲労限界等がこれに含まれる.

使用限界状態(serviceability limit state):

通常の使用性に関する限界状態で,それを越えると使用性を喪失する.具体的には,

損傷限界,振動限界,ひびわれ限界,変位限界,変形限界,疲労限界等がこれに含ま

れる.

寿命(life, lifetime, life period, lifecycle)

構造物が施工されてから,何らかの理由で使用が停止され,撤去されるまでの期間.

物理的寿命,機能的寿命,経済的寿命に分類される.

設計供用期間(design working life):

当初の維持管理計画の範囲内で,すなわち特別な補修をすることなしに構造物(主構

造および部材・部品)が当初の目的のために使用されると設計時に想定される期間.

同義語に,設計耐用年数,耐用年数,などがある.

ライフサイクル期間(lifecycle period):

LCC,LCCO2などのライフサイクルでの評価量を算定する期間で,主構造の設計供用

期間に等しい.

ライフサイクルコスト(lifecycle cost, LCC):

構造物の計画,設計,施工,供用・維持管理,解体までを含めたライフサイクル期間

において必要とされるコストの総量.

ライフサイクルでのCO2排出量(total CO2 emission in lifecycle period,LCCO2)

環境負荷項目の一つで,ライフサイクル期間における二酸化炭素総排出量.

d)性能の照査レベルおよび検証・認定に関する用語 荷重モデル(design load model):

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応答値の算出に際して考慮する荷重で,その特性を適切かつ解析に取り入れ易いよう

にモデル化したもの.荷重を静的に作用させるか,動的に作用させるか,疲労のよう

に累積を考慮して載荷するかを,載荷タイプ別に分類する.

照査法のレベル(distinctness level of performance check):

設計した構造物が要求性能レベルを満足しているかどうかを照査する場合の応答値と

限界値の比較のしかたの厳密性の程度を表すもの.厳密性の高い照査方法から順に高

度,準高度,標準の3段階に分けている.

解析手法の信頼性水準(reliability level of structural analysis):

設計した構造物に設計荷重を作用させた場合の応答値や限界値を算出するための手法

の妥当性を表すもの.次の3段階に分けている.

① 十分に実証されているものをレベル H

② 十分に実証されていないが,高度な技術者が工学的に適当と判断したものをレ

ベル M

③ 根拠が明確でなく,従来の慣例・慣習を踏襲したものをレベル L

荷重の設計値および限界値の信頼性水準(reliability level of design load and capacity):

応答値を算出する場合の荷重値や限界値を算出する場合の強度値の適切さを表すもの.

次の4段階に分けている.

① 十分なデータを収集し,信頼性理論に基づいて算出されたものをレベル A

② 十分なデータが収集されている訳ではないが,高度な技術者がデータを基に工

学的に適当と判断したものをレベル B

③ 国の内外の基準(規準)を参考に安全側となるように規定されたものをレベル C

④ 公称値を用いたものをレベル D

事前評価(pre-evaluation):

構造物の計画・設計段階で,構造物の製作・架設時,供用時,解体・再利用時に要求

される性能を満たすように照査する行為.

事後評価(post-evaluation):

構造物の製作・架設時の品質検査,供用時および偶発的外力による損傷時の点検・調

査などの行為.すなわち構造物の製作・架設以後において要求性能を照査する行為.

照査(performance check):

事前評価または事後評価時に応答値と限界値を比較して,下位の要求性能を満たして

いるかどうかを調べることで,設計者が行う行為.

検証(verification):

設計された構造物がすべての要求性能を満たしているかどうかを精査する,第三者機

関が行う行為. 検証に合格すれば,認定を受けた第三者機関が認証することになる.

認定(authorization):

検証を実施し得る諸機関を定めることで, 高の行為.

認証(certification):

認定機関が要求性能を満足していることを検証し,証明書を出す行為.

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1.4.2 性能設計概念に基づいた構造物設計コード作成のための原則・指針と用語26)に

おける用語の定義

1.用語の定義(Definitions of terminologies)

本章では,本包括設計コード及び本包括設計コードに従う固有基本設計コード・固有設

計コードで使用する用語を定義する. なお,用語の肩字は以下に示すような引用したコードを示す.

0) 本包括設計コードにおいて新たに定義した用語.

1) ISO2394(第3版 ,1998)で定義された用語を引用したものであり,ISO2394の定義・

変更に従うべき用語.

2) 土木鋼構造物の性能設計ガイドライン(2001.10)を参考に本包括設計コードで定義

した用語.

3) 地盤コード21(2000.3)を参考に本包括設計コードで定義した用語.

4) 土木と建築にかかる設計の基本(2002.10)を参考に本包括設計コードで定義した用

語.

5) ISO13822(第1版,2001)で定義された用語を引用したものであり,ISO13822の定義

・変更に従うべき用語.

1.1 一般用語

1.1.1 一般 構造物(structure)1):剛性を発揮するように設計された種々の部材を結合し,組織的に組

み上げたもの.

構造要素(structural element) 1):構造物を構成する要素で,物体として識別可能.例と

して柱,梁,板などがある.

構造システム(structural system) 1):建築物や土木構造物の耐力要素,およびこれらの

要素を共同して機能させる仕組み.

寿命(life, lifetime, life period)2):構造物が施工されてから,何らかの理由で使用が停

止され,撤去されるまでの期間.物理的寿命,機能的寿命,経済的寿命に分類

される. ライフサイクル(life cycle) 1):計画,設計,施工,および供用の全期間のこと.ライフ

サイクルは構造物の必要性が認識された時に始まり,解体された時に終了する.

品質(quality)2):製品のもつ1つの特性を定量的指標で表現したもの.予め設定された

検査や試験により定量的指標の1つの実現値が得られる.例えば,鋼材の降伏点,

シャルピー衝撃吸収エネルギーなど.

信頼性(reliability) 1) : 構造物又は構造要素が所定の要求事項を満足できる能力であっ

て,所定の要求事項には設計時に想定される供用期間も含まれる.

破壊(failure) 1) : 構造物あるいは構造要素の耐荷性能または使用性が不十分である状

態.

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1.1.2 設計コード・設計法

包括設計コード(comprehensive design codes)3):一つの国や地域で,土木・建築構造

物一般,さらに個々の構造物種別について,その構造的な設計の原則を記述した

設計コード.個々の構造物の設計を行うためのコードというよりは,構造物の性

能規定の方法,用語の統一,安全性余裕の導入方法と形式,情報伝達法の標準化

の他,設計で留意すべき共通事項を記述した,設計コード体系の階層のもっとも

上位に立つべきコード.「設計コード作成者のためのコード」と考えることもで

きるが,設計者にとって基本的な情報を含んでいる.固有基本設計コードの上位

に立つ設計コード.

固有基本設計コード(specific base design codes) 3):当該構造物の構造的性能を統括す

る行政機関/地方公共団体/事業主体などが,その構造的な要求性能を規定し

た文書.

固有設計コード(specific design codes) 3):「固有基本設計コード」を受け,この基本コ

ードに基づいて作成される「固有設計コード」.より特化した目的,限定された

地域での使用,特定構造物のために作成された,要求性能や性能規定を記した文

書.これに一連の性能照査手順を示す場合もある.

性能規定型設計コード(performance based design codes) 3):構造物を,その仕様によ

ってではなく,その社会的に要求される性能から規定する,構造物の設計コー

ド.

注)文献6)では,「構造物の機能を確保するために要求される性能のレベル

と,その照査に用いる作用のレベルとの関係を明確にした設計法」を性能規定

型設計法または性能明示型設計法としている.

性能照査型設計法(performance-based design)2):設計された構造物が要求性能さえ

満足していれば,どのような構造形式や構造材料,設計手法,工法を用いても

よいとする設計方法.より具体的には,構造物の目的とそれに適合する機能を

明示し,機能を備えるために必要とされる性能を規定し,規定された性能を構

造物の供用期間中確保することにより機能を満足させる設計方法.類似の用語

に,性能規定型設計,性能明示型設計,性能指向型設計などがある.

仕様規定に基づく設計(specification-based design)2):具体的な構造材料の種類や寸

法,解析手法等が指定されており,それに基づいて設計する方法.多くの現行

設計基準はこれにあたる.

適合みなし規定(pre-verified specification)2): 要求性能を満足していると見なされる

「解」を例示したもので,性能照査方法を明確に表示できない場合に規定され

る構造材料や寸法,および従来の実績から妥当と見なされる現行基準類に指定

された解析法,強度予測式等を用いた照査方法を表す.他には,適合みなし規

定,適合みなし仕様,承認設計などの用語があるが,示方書等に規定されてい

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る既存の解析法あるいは予測式もこの中に含めているため,仕様よりも規定の

方が適切で,適合みなし規定を用いる.

信頼性設計法(reliability based design)2):構造物が限界状態に達する可能性を確率

論的に照査する設計法.

目標信頼性レベル(target reliability level)5) :受容可能な性能を確認するために必要な信

頼性のレベル.

限界状態設計法(limit state design)2):照査すべき限界状態を明確にした設計法.照

査フォーマットとして信頼性理論のレベルⅠにあたる部分安全係数法を採用す

ることがほとんどであるため,部分安全係数法(partial safety factor design)が限界

状態設計法と同義で使われることもある.

部分係数様式(partial factors format) 1) : 代表値,部分係数,および,必要ならば他の

付加的な量によって,基本変数の有する不確定性と変動性を考慮する計算様式.

部分係数による設計法(partial factors design procedure) 3): 構造物に作用する各種

の作用,地盤パラメータ,構造物寸法,設計計算モデルの精度,限界状態を設

計計算で照査するための基準値などの不確実性に対して,構造物が所定の限界

状態を適当な確率で満足するための余裕を,部分係数により考慮する設計法.

材料係数アプローチ(material factor approach)3):部分係数を,各作用の特性値,抵抗パ

ラメータの特性値などに直接適用し,これらの設計値を求め,これら設計値を計

算モデルに代入して,構造物の作用効果と応答,また耐力を求め,これにより限

界状態に対する照査を行おうとする部分係数による設計法.

抵抗係数アプローチ(resistance factor approach)3):作用の特性値と,抵抗パラメータの

特性値を直接計算モデルに代入し,構造物の作用と応答や耐力の特性値を求め,

これら特性値に直接部分係数を適用して,限界状態の照査を行おうとする部分

係数による設計法.

1.2 設計に関する用語

1.2.1 一般

設計供用期間(design working life) 1):大きな補修を必要とせずに,当初の目的のために

構造物や構造要素を使用できると仮定した期間.

構造健全性(構造ロバスト性)(structural integrity) (structural robustness) 1): 火災,爆

発,衝撃,人為的ミスの結果などによって,当初想定した原因によるよりもか

なり大きな損傷を受けない性能.

構造物の信頼性等級(reliability class of structures) 1) : ある特定の信頼性レベルが要

求される構造物あるいは構造要素の等級.

要求性能マトリックス(required performance matrix)2):構造物に付与すべき性能の

グレードと想定する外力のグレードをマトリックス表示したもの.設計者は構

造物の重要度に応じて付与すべき性能をマトリックスから選択する.本報告書

では,耐震,疲労,耐風などに対して要求性能マトリックスが提案されている.

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評価(assessment) 1) : 構造物の信頼性が許容できるかどうかを判断するために実施さ

れる作業の総称.

事前評価(pre-evaluation)2):構造物の計画・設計段階で,構造物の製作・架設時,供

用時,解体・再利用時に要求される性能を満たすように照査する行為.

事後評価(post-evaluation)2):構造物の製作・架設時の品質検査,供用時および偶発

的外力による損傷時の点検・調査などの行為.すなわち構造物の製作・架設以

後において要求性能を照査する行為.

1.2.2 性能記述に関する用語

目的(objective)0):構造物を建設する理由を一般的な言葉で表現したものであり,事

業者または利用者(供用者)が主語として記述されることが望ましい.

要求性能(performance requirement)0):構造物がその目的を達成するために保有す

る必要がある性能を一般的な言葉で表現したもの. 性能規定(performance criterion)0):性能照査を具体的に行えるように,要求性能を具体

的に記述したものであり,構造物の限界状態,作用・環境的影響および時間の

組み合わせによって定義される.

基本要求性能(basic performance requirement)0):要求性能のうち,構造物の目的を

達成するために不可欠な性能のことで,構造物の「機能」と言うこともできる.

重要度(significance of structures)0):構造物の生み出す便益の大きさ,緊急時の必

要性,代替構造物の有無などに応じて決められるべき構造物の重要さの程度.

使用性(serviceability) 1) : 構造物あるいは構造要素が,考えられるあらゆる作用のも

とで,通常の使用に対して機能できる能力.

1.2.3 限界状態に関する用語

限界状態(limit states) 0) : 性能規定に対応して,構造物の意図した状態と意図からはず

れた状態を区別する,ある状態.

終局限界状態(ultimate limit state) 1) : 崩壊もしくはそれに類似した構造物の破壊を

招く限界状態.

注:この状態は一般的に構造物または構造要素の 大耐力に相当する.しかし,

場合によっては,許容 大ひずみや許容 大変形に相当する.

使用限界状態(serviceability limit state) 1) : それを超えると,構造物または構造要素

が使用性に関する要求性能を満足できなくなる限界状態.

修復限界状態(Restorability limit state)0 ):想定される作用により生ずることが予測され

る損傷に対して,適用可能な技術でかつ妥当な経費および期間の範囲で修復を

行えば,構造物の継続使用を可能とすることができる限界の状態.使用性に対

する限界状態のひとつと理解することもできる.

非可逆的限界状態(irreversible limit state) 1) : 限界状態に至らせた作用が取り除かれ

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ても,永久的に超過したままになる限界状態.

可逆的限界状態(reversible limit state) 1) : 限界状態に至らせた作用が取り除かれれ

ば,超過していない状況に戻る限界状態.

1.2.4 照査に関する用語

照査(性能照査)(verification)2):構造物が性能規定を満足しているかの判定を行う

行為.限界状態設計法の場合には,応答値Sと対応する限界値Rの間でS≤Rまたは

f (S, R)≤1.0の判定を行う行為.

照査アプローチA(verification approach A)0):構造物の性能照査に用いられる方法に

制限を設けないが、設計者に構造物が規定された要求性能を適切な信頼性で満

足することを証明することを要求する構造物性能照査のアプローチ.

照査アプローチB(verification approach B) 0):構造物の性能照査に,当該構造物の構造

的性能を統括する行政機関/地方公共団体/事業主体などが指定する「固有基

本設計コード」又は「固有設計コード」に基づいて,そこに示された手順(設計

計算など)に従い,性能照査を行う性能照査のアプローチ.

1.2.5 審査・認証 他

審査(design examination)0):目的の設定から照査までの一連の設計が適切に実施さ

れているかどうかを精査する,認定を受けた第三者機関が行う行為. 審査に合格

すれば,第三者機関が認証することになる.

認定(accreditation)0):審査を実施し得る諸機関を定めること

認証(certification)0 ):認定機関が目的の設定から照査までの一連の設計が適切に実施

されていることを審査し,証明書を出す行為.

履行(compliance) 1):所定の要求事項を実現・実行すること.

1.3 作用・環境的影響に関する用語

作用(action) 1):作用とは以下のものを言う.

a) 構造物に集中あるいは分布して作用する力学的な力の総称(直接的作用)

b) 構造物に働く間接的な力,または力ではない強制的な作用で,変形の原因(間

接的作用)

注0) 環境的影響も作用の一つに含まれるとする区分もある.

作用の代表値(representative value of an action) 1) : 限界状態の照査に用いられる数

値.

注:代表値とは,特性値,組合せ値,頻度値,準永続値などを言うが,他の値を

入れてもよい.

作用の特性値(characteristic value of an action) 1) : 主要な代表値.

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注1:設計対象期間中に望ましくない方向への所定の非超過確率をもつように統

計的に定められるか,過去の経験,あるいは物理的制限によって選ばれる値.

注2:特性値(characteristic value)3):設計で検討する限界状態を予測するため

のモデルに も適切な値として推定されたパラメータの代表値.特性値の決

定にあたっては,理論や過去の経験にもとづき,ばらつきや単純化したモデ

ルの適用性に十分留意しなければならない. 作用の設計値, Fd (design value of an action) 1) : 部分係数γFを代表値に乗じること

により得られる値.

永続作用(permanent action) 1):

a) 与えられた設計対象期間を通して絶えず作用すると考えられる作用で,その

時間的変動が平均値と比較して小さいもの.

b) その変動がわずかであり,かつ限界値をもつ作用.

変動作用(variable action) 1) : その大きさの時間的変動が平均値に比べて無視できず,

かつ単調変化をしない作用.

偶発作用(accidental action) 1) : 設定された設計対象期間中にはまれにしか生じない

が,一度生じると当該構造物に重大な影響を及ぼすと考えられる作用.

注:偶発作用は短時間の場合が多い.

固定作用(fixed action) 1) : 構造物に対して確定した分布をもつ作用.つまり構造物の

ある点で値が決められれば,その大きさや方向が構造物全体に対しても明確に

定まる作用.

自由作用(free action) 1) : 構造物全体にわたって,ある制限内で任意の空間的分布をと

る作用.

静的作用(static action) 1) : 構造物あるいは構造要素に有意な加速度を生じさせない

作用.

動的作用(dynamic action) 1) : 構造物あるいは構造要素に有意な加速度を生じさせる

作用.

有界作用(bounded action) 1): 正確に,又は概ね判っている限界値を有し,それを超え

ることができない作用.

非有界作用(unbounded action) 1) : 既知の限界値を有しない作用.

組合せ値(combination value) 1) : 統計的に定められる場合には,作用組合せにより生

じる作用効果の値の超過確率が単一の作用のみの時とほぼ同程度であるように

選ばれる値. 頻度値(frequent value) 1) : 統計的に定められる場合には,次のように決められる:

・あらかじめ設定された期間内にそれを超過する期間の合計が,全体の極一部で

あるもの.

・その超過頻度が,あらかじめ設定された値を超えない.

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準永続値(quasi-permanent value) 1) : 統計的に定められる場合には,それを超過する

期間の合計が全体の半分程度となるように決められた値. 作用組合せ(action combination) 0 ) : 異なる作用を同時に考慮するときの限界状態に

対する構造信頼性の照査に用いる設計値の組み合わせ.荷重組合わせ( load

combination)とも呼ばれる.

環境的影響 (environmental influence) 1): 構造物を構成する材料の劣化を引き起し,

そのため構造物の使用性や安全性を損なうおそれのある力学的,物理的,化学

的又は生物的影響.

荷重(load)4):構造物に働く作用を,作用モデルを介して,断面力,応力または変位等の

算定という設計を意図した計算の入力に用いるために,直接に構造物に載荷す

る力学的な力の集合体に変換したもの. 基準期間(reference period) 1) : 変動作用や時間依存性を有する材料特性等の値を評価

するための根拠として用いられるある一定の期間. 設計状況(design situation) 1) : ある期間内の一連の物理的条件を言い,設計ではこの

期間内に生じうる種々の限界状態に達しないことを証明する.

持続的状況(persistent situation) 1) : 構造物の通常の使用条件であり,一般的には設計

供用期間と関係するものである.

注:「通常の使用」には風,雪,上載荷重,地震多発地域での地震などによって

起こりうる 大級の地震動が作用した状態も含まれる.

施工時状況(transient Situation)3):構造物の建設中,または更新時に考慮すべき作用が

働いた状態をいう.また,過渡的状況ということもある.

1.4 構造物の応答,強度,材料特性,幾何学量に関する用語

材料特性の特性値(characteristic value of a material property) 1) : 関連する基準に

従って生産・供給される材料に関し,その特性の統計分布から定められた所定

のフラクタイル値.

断面寸法の特性値(characteristic values of a geometrical quantity) 1): 設計者が指定

する寸法に対応して決まる量.

材料特性の設計値(design value of a material property) 1): 特性値を部分係数γMで除

した値,あるいは特殊な場合には直接評価する値.

幾何学量の設計値(design value of a geometrical quantity) 1) : 特性値に付加的な量

を増減した値.

換算係数(conversion factor) 1) : 試験体から得られる材料特性を計算モデルでの仮定

に対応する値に変換する係数.

換算関数(conversion function) 1): 試験体から得られる材料特性を計算モデルでの仮定

に対応する値に変換する関数.

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フラクタイル値(fractile value)4):累積確率が設定した確率以下となる確率変数の値.

注:「○%フラクタイルは△」という使い方をする.

設計値(design value)3):材料係数アプローチを用いた場合,設計値は設計計算モデルに用

いられるパラメータの値であり,特性値に部分係数を適用して得られる.

応答値S(demand, response value)2):外力によって構造物に発生する物理量.

限界値R(capacity, limit value of performance)2):応答値に対して許容される限界の

値で,「限界状態」の種類によって定められる物理量.これを応答値が超過す

ると,要求性能を満足しないとされる.

統計的不確定性(statistical uncertainty) 1) : 分布やパラメータ推定の精度に関わる不

確定性.

基本変数(basic variable) 1) : 作用,環境的影響,土質を含む材料特性,断面寸法に対

応する物理量を表わすために設定される変数群.

主要基本変数(primary basic variable) 1) : 設計に重要な主たる基本変数.

限界状態関数(limit state function) 1) : 基本変数の関数gで,g(X1,X2,……,Xn) = 0によ

り限界状態を記述するもの:g > 0は望ましい状態で,g < 0は望ましくない状態を

示す.

信頼性指標,β(reliability index,β) 1): 破壊確率Pfの代わりとして用いられ,β=-Φ -1(pf)

で定義される. ここにΦ -1は標準正規分布関数の逆関数である.

信頼性要素(reliability element) 1) : 部分係数形式で用いられる数量であり,それによ

って,あらかじめ設定された信頼性レベルが達成されるものと仮定する.

要素信頼性(element reliability) 1) : 単一の支配的な破壊モードをもつ1構造要素の信

頼性.

システム信頼性(system reliability) 1) : 複数の関連する破壊モードを有する1構造要

素の信頼性,又は複数の関連する構造要素から成るシステムの信頼性.

モデル(model) 1): 単純化された数学的記述,又は実験装置(or装備)により,作用,材

料特性,構造物の挙動を模擬するもの.

注:モデルは,一般的に支配的な要因を考慮すべきで,重要でないものは

無視する.

モデル不確定性(model uncertainty) 1): モデルの精度に関するもので,物理的あるいは

統計的な不確定性がある.

1.5 既存構造物の性能評価に関する用語

性能評価(assessment)5):将来継続使用される既存構造物の信頼性を確認する行為.

補修(rehabilitation) 0):経時変化による構造物の性能低下に対する抵抗性を改善する行

為.

補強(upgrading) 0):構造物の力学的性能を現状よりも向上させるための対策を講ずる行

為.

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損傷(damage) 5):構造物の性能に悪影響を及ぼしうる構造物の状態変化.

劣化(deterioration) 5):構造物の性能と信頼性が時間経過とともに低下する過程.

劣化モデル(deterioration model) 5):時間経過による劣化を考慮して,構造物の性能を

時間の関数として表現するモデル.

点検(inspection) 5):構造物の現在の状況を確定するために現場で行われる非破壊検査.

調査(investigation) 5):点検,資料調査,載荷試験,その他の試験により情報を収集し

評価を下すこと.

載荷試験(load testing) 5):構造全体あるいはその一部の挙動や性質を評価し,もしくは

耐荷性能を推定するために荷重や強制変位を作用させて行われる試験.

維持管理(maintenance) 5):構造物の性能を適正に保つために行われる行為.

モニタリング(monitoring) 5):構造物の状態や構造物への作用を頻繁にもしくは連続的

に,通常は長期間にわたって観察もしくは測定すること.

残存供用期間(remaining working life) 5):既存構造物を維持管理しながら供用すること

が想定されている期間.

参考文献

1) 日本鋼構造協会:土木鋼構造物の性能設計ガイドライン,JSSC テクニカルレポート

No.49,2001.10.

2) 建設省大臣官房技術調査室監修,(社)建築研究振興協会:建築構造における性能指向型

設計のコンセプト ―仕様から性能へ―,技報堂出版,2000.8.

3) 例えば,日本道路協会:道路橋示方書・同解説 Ⅰ鋼橋編 Ⅱ共通編,1996.12.

4) 日本道路協会:道路橋示方書・同解説 V 耐震設計編,1996.12.

5) 日本道路協会:道路橋示方書・同解説,2002.3.

6) NKB:Structure for Building Regulations, NKB Research Report No.34, NKB, 1978.11.

7) 大橋雄二:性能規定の必要性と問題点 主旨説明,日本建築学会大会建築法制部門 研

究懇談会資料,日本建築学会法制委員会,1996.9.

8) 本城勇介:性能規定型設計・限界状態設計法の動向と杭基礎への適用,基礎工,2000.12.

9) Structural Engineering Association of California:VISION 2000; Performance Based Seismic

Engineering of Buildings, 1995.4.

10) ATC:Improved seismic design criteria for California bridges : provisional recommendations,

1996.

11) 建設省建築研究所:建設省総合技術開発プロジェクト「新建築構造体系の開発」平成 7 年度

報告書,(財)日本建築センター,(財)国土開発技術研究センター,1996.3.

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21

12) 建設省建築研究所:建設省総合技術開発プロジェクト「新建築構造体系の開発」平成 8 年度

報告書,建設省建築研究所,(財)日本建築センター,(財)国土開発技術研究センター,1997.3.

13) 建設省建築研究所:建設省総合技術開発プロジェクト「新建築構造体系の開発」総合報告書,

建設省建築研究所,(財)日本建築センター,(財)国土開発技術研究センター,1998.3.

14) 建設省建築研究所:建設省総合技術開発プロジェクト「新建築構造体系の開発」目標水準分

科会報告書,建設省建築研究所,(財)国土開発技術研究センター,1998.3.

15) 建設省建築研究所:建設省総合技術開発プロジェクト「新建築構造体系の開発」社会機構分

科会報告書,建設省建築研究所,(財)日本建築センター,1998.3.

16) 学会規準・仕様書のあり方検討委員会委員会:報告書(答申),日本建築学会,日本建築

学会ホームページ,http://www.aij.or.jp/news/index_n.htm,2001.4.

17) 保険制度と危機管理調査研究特別委員会:危機管理と保険制度に関する地方自治体に向

けての 3 つの提言,日本建築学会,日本建築学会ホームページ,

http://www.aij.or.jp/news/index_n.htm,2001.4.

18) 前川宏一:新しい示方書-仕様規定から性能照査へ-改訂の動向・経緯,土木学会誌,Vol.85,

pp.30-31,2000.4.

19) 例えば,土木学会:2002 年制定コンクリート標準示方書[構造性能照査編],2002.3.

20) 地盤工学会:包括基礎構造物設計コード 地盤コード21 ver. 1,2000.3.

21) 国土交通省鉄道局監修,鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説 コン

クリート構造物,丸善㈱,2004.4.

22) 土木学会:鋼構造物の性能照査型耐震設計法(報告書),鋼構造委員会・鋼構造物の耐震

検討小委員会,2000.5.

23) 鋼橋技術研究会・鋼橋の性能設計分科会:報告書,2000.9 および 2002.9.

24) 土木学会鋼構造委員会:鋼構造物の性能照査型設計体系の構築に向けて,2003.4.

25) 国土交通省:土木・建築にかかる設計の基本,2002.10.

26) 本城勇介他:性能設計概念に基づいた構造物設計コード作成のための原則・指針と用語

(通称「code PLATFORM ver. 1」)の開発,構造物の安全性および信頼性 Vol. 5, JCOSSAR

論文集, 2003.11.

27) ISO2394:International Standard "General Principles on Reliability for Structures", 1998.3.

28) ISO13822:Bases for design of structures - Assessment of existing structures, 1st edition,

2001.12.

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杉山 俊幸 著

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1

性能照査型設計法に基づく橋梁設計の基礎知識と応用

第2章 橋に要求される性能と設計段階で考慮される限界状態

2.1 橋に要求される性能

橋は,「道路,鉄道,水路などの輸送路において,輸送の障害となる河川,渓谷,湖沼,

海峡あるいは他の道路,鉄道,水路などの上方にこれらを横断すること 1)」を目的とし,「そ

の上を通り渡っていくものを,支障なく安全に通行輸送させることができ,かつ,周辺環

境に及ぼす悪影響を最小限に留められる」という機能を有するように建設されるのが一般

的である. 橋は,自然環境下に設置され,かつ,供用期間が長いため,土圧・水圧・風・地震・走

行荷重など種々様々な外力作用を受ける.また,単純桁・連続桁・トラス・ラ-メン・ア

-チなど構造力学で登場する構造形式のほとんど全てが用いられていることから,代表的

な土木構造物といわれている.さらに,橋は,

①その存在により最短距離で対岸に到達でき時間的節約になるため,利用する多くの人々

が直接的利便を感受できること

②旅行時等の目印の役割を果たすランドマ-ク的性質(サイン作用)を有すること

③文化的・歴史的遺産となり得ること

④審美的対象となり得る要素(シンボル作用)があること

⑤都市内高架橋のように必然的に大衆の目にさらされる場合が多いこと

⑥その大半が社会資本であること(税金で建設されていること)

などの特徴を有するため,一般の人々に関心を持たれることが多い.

このような目的,機能,および特徴を有する橋のライフサイクルを,性能照査を適用す

ることをベースとした計画や設計,施工,維持管理を行うことを意識して描いたのが図 2.1.1である.なお,この橋のライフサイクルを,より詳細に示したのが前出の図 1.3.1 である.

橋は,その使用目的に適った,安全でかつ利用しやすいものとなるようにする必要がある.

そのためには,適切な調査・計画がなされた後,施工期間中ならびに供用期間中に生じる

外力作用に対して適切な安全性を有し,供用時に十分な機能を発揮するように設計,施工,

および維持管理がなされる必要がある.また,十分な耐久性が確保され,かつ,周辺環境

に適したもの,振動や騒音等の害を及ぼさないものでなければならない. 橋に要求される性能の種類については,表 1.3.1 に示したが,ここでは,それらの具体

的な内容について,2007 年 3 月に発刊された「2006 年 鋼・合成構造標準示方書 Ⅰ 総

則編 Ⅱ 構造計画編 Ⅲ 設計編 2)」に基づき述べる.表 1.3.1 の分類とは多少異なるが,

御了解願いたい.

①安全性

安全性は,構造物が利用者,および第三者の生命・財産を脅かさないために必要な性能

である.安全性には,橋の構造物としての安全性(構造安全性)と,橋周辺を通行する一

般の人々に対する安全性(公衆安全性)とがある.構造安全性とは,橋または橋を構成す

る部材が破断したり座屈したりしないようにする性能,橋全体が転倒したり滑ったり沈下

したりしないようにする性能である.公衆安全性とは,橋から標識などの付属物が落下し

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たり,鉄筋コンクリート床版のかぶりコンクリートが剥落したりして,橋の利用者や第三

者に被害を与えることを防止するための性能である.

社会的要請・必要性

調査・計画 橋に要求される性能の想定

維持管理計画

設計

断面の仮定 → 性能照査・最適化

製作・架設 性能照査・品質管理 → 必要に応じて修正

供用・維持管理

点検 → 性能の確認 → 必要に応じて補強・補修,維持管理計画の見直し (健全度評価)

再使用・再利用 または 廃棄

図 2.1.1 橋のライフサイクル ②使用性

使用性は,橋の利用者が許容限度以上の不快感,不安感を覚えずに橋を利用するために

必要な性能である.具体的には,自動車や列車などが橋の上を快適に走行できるかどうか

(走行性)や,歩行者が不快に感じるような振動や過大な変形等が生じないかどうか(歩

行性),外観が劣化し利用者や周辺の通行人に不安感や不快感を与えないかどうか等を示す

性能である.さらに最近では、歩道部の平坦性や縦断勾配・横断勾配、段差等について配

慮するユニバーサルデザインへの適合度も使用性として要求される性能の1つとなってき

ている。

③修復性

修復性とは,橋が供用期間中に想定される外力作用(主として,発生する確率は低いが

大きな強度をもつ地震動)により損傷を受けて安全性や使用性等が低下した場合の回復の

し易さを表す性能である.

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④耐久性

耐久性とは,繰り返し働く変動作用あるいは環境作用による橋あるいは橋を構成する部

材の性能の低下に対する抵抗性のことである.橋に関する耐久性の具体的なものとしては,

部材の疲労破壊に対する抵抗性を表す耐疲労性,環境作用による鋼材の腐食に対する抵抗

性を表す耐腐食性,環境作用に対するコンクリート部材の材料劣化や耐荷力の低下を表す

材料劣化抵抗性が挙げられる.さらに,橋の耐久性に重大な影響を及ぼすことから,橋の

点検のし易さ,塗装の塗り替えのし易さ,変状が生じた場合の修復作業のし易さなどを表

す維持管理性も耐久性の1つとなる.

⑤社会・環境適合性

社会・環境適合性は,橋が健全な社会,経済,文化等の活動に貢献し,周辺の社会環境,

自然環境に及ぼす悪影響を最小限にする性能で,近年の社会情勢から重要と考えられる性

能である.社会・環境適合性は,社会的適合性,経済的合理性,環境適合性の3つに大別

される.社会的適合性は,橋が社会的にどの程度重要なのかを表す性能であり,重要度に

応じてランクづけが行われる.経済的合理性は,ライフサイクルにわたり経済性が最も優

れているかどうかを表す性能である.この性能が要求される理由は,橋の大半が社会資本

で国民の支払う税金で建設されるため,過度に安全性や使用性等を高めることは適切では

ないためである.環境適合性は,橋の存在が周辺景観に及ぼす悪影響,橋の上を車両が走

行することにより生じる振動や騒音が周辺の住環境に及ぼす悪影響,資源の有効利用によ

る環境負荷の低減への寄与(リデュース,リユース,リサイクルに繋がる構造材料の適用)

等を考慮する性能である.

⑥施工性

施工性は,施工時の安全性,製作や架設の容易さ,品質管理の容易さなど施工時に要求

される性能を表し,設計時に考慮すべき重要な性能である.また,橋の完成時の性能が,

設計時に想定した性能を下回らないようにするための初期健全性も,施工性に含まれる.

なお,平成 14 年に国土交通省より発行された「土木・建築にかかる設計の基本 3)」では,

(1)安全性:想定した作用に対して構造物内外の人命の安全性等を確保する

(2)使用性:想定した作用に対して構造物の機能を適切に確保する

(3)修復性:必要な場合には,想定した作用に対して適用可能な技術でかつ妥当な経費およ

び期間の範囲で修復を行うことで継続的な使用を可能とする

の3つの基本的要求性能を確保することを基本としている.

耐久性に関しては,表 1.3.1 に示したように,安全性や使用性の時間関数として取り扱

うのがよいとの考え方もあり,議論が今後積み重ねられることが望まれる.

2.2 設計段階で考慮される限界状態

橋の設計において要求される性能を満足しているかどうかを照査する場合,要求される

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性能のレベル(性能レベル)に対応する限界状態を対象として,橋(または橋を構成する

部材)が限界状態に達するか否かを照査するのが一般的である.限界状態とは,想定され

る外力作用に対して,橋の全体あるいは一部が所要の要求性能を確保できず,その機能を

果たさなくなると設計上定めた状態のことである 2).従って,2.1 で記述した橋に要求され

る性能の全てに対して限界状態が存在することになるが,例えば社会・環境適合性のよう

に,限界状態を明確に定めることが現時点では困難な性能もある.このような場合には,

様々な解の組み合わせを考慮しながら,例えばコストや効用(ユーティリティ)などの目

的関数の最適化を図る「最適化問題」として扱うことになる 4). ここでは,明確に定めることができる限界状態として,「2006 年 鋼・合成構造標準示方

書 Ⅰ 総則編 Ⅱ 構造計画編 Ⅲ 設計編 2)」で定義されているものを紹介する.

①安全限界状態

構造物あるいは部材が破壊したり,大変形,変位,振動等を起こし,構造物の安全性を

失う状態.構造物の安全性に対する限界状態として用いる.終局限界状態と表記される

ことも多い.

②使用限界状態

構造物または部材が過度の変形,変位,振動等を起こし,正常な使用ができなくなる状

態.構造物の使用性に対する限界状態として用いる.

③修復限界状態

想定される作用により生ずることが予測される損傷に対して,適用可能な技術でかつ妥

当な経費および期間の範囲で修復を行えば,構造物の継続使用を可能とすることができ

る限界の状態.構造物の修復性に対する限界状態として用いる.なお,損傷限界状態と

いう用語が用いられることもある.

④疲労限界状態

構造物または部材が作用の繰り返しにより疲労損傷し,機能を失う状態.構造物の耐疲

労性に対する限界状態として用いる.

橋の設計においては,表 1.3.1 に示したように,①の安全限界状態,および,②の使用

限界状態に関してさらに細分化して考慮されるのが一般的である.細分化された限界状態

の内容は以下の通りである.

①安全限界状態

・剛体的安定限界:橋全体あるいは一部の剛体的不安定(転倒,滑動,沈下)

・破断限界:橋を構成する部材等の破壊・破断

・降伏限界:橋を構成する鋼製部材断面の降伏,鉄筋コンクリート部材の鉄筋の降伏

・塑性崩壊限界:橋を構成する部材等における塑性メカニズムの形成

・座屈限界:橋を構成する部材全体あるいは一部の座屈崩壊

・動的安定限界:風による発散振動

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② 使用限界状態

・ひび割れ限界:人に不安感,不快感を与えるひび割れ

・変形限界:正常な状態で使用するには過大な変形・変位

・局部損傷限界:そのままの使用が不適当なコンクリート部材の表面剥離等の損傷

・振動限界:人に不安感,不快感を与える振動

・外観劣化限界:人に不安感,不快感を与える腐食の進行

なお,平成 14 年に国土交通省より発行された「土木・建築にかかる設計の基本 4)」では,

(1)安全性に対する終局限界状態:想定される作用により生ずることが予測される破壊や大

変形等に対して,構造物の安定性が損なわれず,その内外の人命に対する安全性等を確

保しうる限界の状態

・疲労限界状態:変動作用が繰り返し作用することに伴う疲労損傷で発生

・耐久限界状態:環境作用の影響に伴う損傷で発生

・耐火限界状態:火災に伴う損傷で発生

(2)使用性に対する使用限界状態:想定される作用により生ずることが予測される応答に対

して,構造物の設置目的を達成するための機能が確保される限界の状態

・疲労限界状態:変動作用が繰り返し作用することに伴う疲労損傷で発生

・耐久限界状態:環境作用の影響に伴う損傷で発生

・耐火限界状態:火災に伴う損傷で発生

(3)修復性に対する修復限界状態:想定される作用により生ずることが予測される損傷に対

して,適用可能な技術でかつ妥当な経費および期間の範囲で修復を行えば,構造物の継

続使用を可能とすることができる限界の状態

の3つの限界状態と,それを細分化した特定作用限界状態(疲労限界状態,耐久限界状態,

耐火限界状態)を定義し,設計に際しては,各構造物の特性に応じて限界状態を選択する

こととしている.

2.3 設計時に目標とする性能レベルの設定

性能レベルとは,橋に要求される性能のレベルのことであり,安全性,使用性,修復性,

耐久性,社会・環境適合性,および施工性の6つの性能に対して設定することができる.

対象とする性能に対して,どの性能レベルを設定するかについては,まず,橋の重要度,

すなわち,設計しようとする橋が限界状態に至った際の社会的影響や防災上の重要性,再

建あるいは補修に要する費用等の経済的要因も考慮して定められるのが一般的である.こ

の場合は,橋の発注者が主観的に決定するケースが多いようである.表 2.3.1 は,文献 2)

に掲載されている走行性に関する性能レベルを一例として示したものである.また,表

2.3.2~2.3.3 は現行道路橋示方書・耐震設計編 5)で規定されている橋の耐震性能に関する

性能レベルである.これらの性能レベルはいずれも定性的に表現されたものであり,設計

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時の具体的な照査方法については第3章で詳述するが,通常は,各々の性能レベルに対応

して設定された限界値が応答値を上回るように断面決定がなされてる.

表 2.3.1 鋼・合成構造標準示方書における走行性に関する性能レベルの例

レベル 作用および気象条件 性能項目 内容

レベル

・設計供用期間中に作用する活荷重

・気象条件1:風速・雨量が十分小

さい

通常時の

走行性

走行安全性を確保し,利用者

に不快感を与えない

レベル

・気象条件2:風速・雨量があるレ

ベル以上

異常時の

走行性

通常の走行性がある程度損な

われることを許容するが,走

行安全性を確保する

表2.3.2 現行道路橋示方書における設計地震動と目標とする橋の耐震性能5)

設計地震動 道路種別及び橋の機能・構造に

応じて重要度が標準的な橋 道路種別及び橋の機能・構造に

応じてとくに重要度が高い橋

橋の供用期間中に発生

する確率が高い地震動

(レベル1地震動)

地震によって橋の健全性を損なわない性能(耐震性能1)

橋の供用期間中に発生

する確率は低いが大き

な強度をもつ地震動

(レベル2地震動)

地震による損傷が橋として致命

的とならない性能(耐震性能3)

地震による損傷が限定的なもの

にとどまり,橋としての機能の

回復が速やかに行い得る性能

(耐震性能2)

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表2.3.3 現行道路橋示方書における耐震性能の観点5) 耐震設計上の修復性 橋の耐震性能 耐震設計上の

安全性 耐震設計上の

供用性 短期的修復性 長期的修復性

耐震性能1 落橋に対する

安全性を確保

する

地震前と同じ

橋としての機

能を確保する

機能回復のための修

復を必要としない 軽微な修復でよい

耐震性能2

落橋に対する

安全性を確保

する

地震後橋とし

ての機能を速

やかに回復で

機能回復のための修

復が応急修復で対応

できる

比較的容易に恒久復旧

を行うことが可能であ

耐震性能3 落橋に対する

安全性を確保

する

- -

なお,1.3 でも記したが,橋の設計時に目標とする性能レベルを信頼性理論に基づいて設

定できるようになれば究極の性能設計を実施することが可能となる.現時点では,まだま

だこの域に到達できていないが,設計で目標とする安全性や使用性に対する限界状態に達

する可能性(目標確率値)を設定する方法として,現時点で考えられている 4 通りの方法

を以下に紹介する 4).

(1)ライフサイクルコスト(LCC)最小化

橋のライフサイクルの中で必要となる初期建設費用,維持管理費用,再使用・再利用あ

るいは廃棄,橋が限界状態に達した場合の損失費用(の期待値)等の総和が最小となる

ように目標確率値を設定する方法.

(2)ライフサイクルユーティリティ(LCU)最大化

橋の建設・供用がもたらす全ての効用(ユーティリティ)が最大となるように目標確率

値を設定する方法. (3)バックグランドリスクの考慮

人が日常生活を送っていく上で曝される各種の潜在的な危険,例えば,交通事故や疾病

により死に至る危険や自然放射線による被曝量が許容値を超える危険等をバックグラン

ドリスクと呼ぶが,これらの危険性を考慮して目標確率値を設定する方法.

(4)現行設計規準とのキャリブレーション(コードキャリブレーション)

長期間に渡って社会に定着してきた設計法とその中で採用されている諸数値は社会的に

受容されていると見なすことにより,新しい設計法によって設計される構造物が現行の

規準で設計されたものとほぼ同じ目標確率値を有するように,新しい設計法で用いられ

る諸数値を設定する方法.

土木・建築構造物の設計に関する基本事項を定めた国際標準である ISO23946)には,上記

(1),(3),(4)の方法が示されており,ここで簡単に紹介する 4).

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(1)の方法は,経済的合理性の観点から構造物が限界状態に達した時の損失費用の期待値

と安全性や使用性等の性能を向上させるための対策費のバランスを最適化するという考え

方から目標確率値を設定する方法である.ISO2394 では,次の期待総費用最小化の基本式を

示している.

∑ ⋅++= ffmbtot CPCCC

ここで,Ctot:期待総費用,Cb(Pf):初期建設費用,Cm(Pf):維持管理・廃棄費用,Cf:限界

状態到達時の損失(構造物の破壊のみでなく,社会的に波及する損失も含める),Pf:供用

期間中に限界状態に達する確率である.この方法では期待総費用 Ctot を最小化する Pfの値

を求め,それを目標確率値 PfTとして設定するため,考え方が明快で合理的である.しかし

ながら,人命を損失の項に含めるのか,人命に対する安全性を十分確保した上で上式を適

用するのか,人命をどのようにコストに換算するのか等,議論が分かれるところである.

また,土木構造物は公共性の高い構造物であり,社会的な波及コストをどこまで見積もる

かは必ずしも容易でないのが実情である.

(3)の方法は,ISO2394 では,構造物の最大許容限界状態到達確率は,構造物が限界状態

に達するという条件の下で人が死亡するという条件付確率で表現できるとして,次式を紹

介している.

yearfdPyearfP /10)|()|( 6−< (2.3.1)

ここで,P(f|year):1 年間の構造物の許容限界状態到達確率,P(d|f):限界状態到達の際

に構造物の中にいる人が死亡する確率である.この式を使う場合には,P(d|f)を定めるこ

とが難しいが,この値さえ決まれば P(f|year)を構造物の目標確率値として求めることが

できる.1年あたりの個人致死事故率が 10-4/year であることを参考にすると,10-6/year と

いう値は合理的であると解説している.ただし,式(2.3.1)は,個人の人命に対する最低の

要求であって多数の人命を考慮する場合には別の要求を示している.そこで,実際のバッ

クグラウンドリスクがどの程度なのかを経年推移として示したのが図 2.3.1 であり 7),この

図より,不慮の事故による死者が 10-4/year = 100 人/(10 万人・年)のオーダーであること

がわかる.また,自然災害による死亡率がおよそ 10-6/year であり,式(2.3.1)の値と同じ

になっていることも読み取れる.

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図 2.3.1 バックグラウンドリスクの経年推移

(4)の方法は,「コードキャリブレーション」と呼ばれる方法で,海外でも新たに設計基

準を策定する場合に用いられることが多く,最も現実的な方法である.この方法は現行の

設計規準に従って設計された構造物の持つ目標確率値が,歴史的な経緯からみて社会的に

も十分に容認されているという考え方に基づいたものである.表 2.3.4 は,ISO2394 に掲載

されている供用期間における目標信頼性指標βT の値(現行設計とのキャリブレーションを

実施した結果得られた値)の例である.安全性の相対コストとは,想定する破壊(限界状

態への到達)を避けるために限界状態をどこに設定するかに関わるコストである.例えば,

耐震設計でいえば耐震性能1とするか,耐震性能2とするかの選択で決まるコストである.

その他の設計基準において設定されている目標信頼性指標βTの値を表 2.3.5に示す.なお,

信頼性指標については,3.5.1 で詳述する.

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表 2.3.4 目標信頼性指標βTの例 (対象:供用期間)

破壊の頻度 安全性の

相対コスト 小 時々 中 大

高 0 (注 A)1.5 2.3 (注 B)3.1

中 1.3 2.3 3.1 (注 C)3.8

低 2.3 3.1 3.8 4.3

(注)A:使用限界状態では,可逆的なものはβT=0 を,非可逆的なものはβT=1.5 を使う.

B:疲労限界状態では,検査の可能性に依存してβT=2.3 からβT=3.1 を使う.

C:終局限界状態では,安全性クラスに応じてβT=3.1,3.8,4.3 を使う.

表 2.3.5 その他の目標信頼性指標βTの例

ANSI-A58 (1980) ENV1991-1 Eurocode 1 (1993) Ontario Highway Bridge

Design Code (1991)

D + L β= 3.0 設計供用期間 1年間 終局限界 β= 3.8(50 年)

D + S β= 3.0 終局限界 β= 3.8 β= 4.7 使用限界 β= 1.5

D + L + W β= 2.5 使用限界 β= 1.5 β= 3.0 (適切な設定期間)

D + L + E β= 2.0 疲労限界 β= 1.5~3.8 規定なし

これら(1)~(4)の方法の内,実際に用いられているのは(4)であり,1980 年ころ米国で整

備された荷重抵抗係数設計法 8) ,日本建築学会の鋼構造限界状態設計規準(案) 9)において

採用されている.ただし,この場合の目標信頼性指標はある特定の構造と確率モデルに依

存するため,前提となっている条件を明確にすることが必要である.(1)および(2)の方法

は,原理的には極めてシンプルで理解も容易であるが,実際にライフサイクルコストやラ

イフサイクルユーティリティを精度良く算出するのは極めて難しく,大まかな仮定を用い

ざるを得ないのが実状である.(3)の方法に関しては,バックグランドリスクの調査・デー

タ解析は容易であるものの,安全係数を決定する際にどのバックグランドリスクを考慮の

対象とすればよいのか,その値は時間の経過と共に変動するものなのかどうか等,決断が

容易でない.

橋の性能を明示するためには,現時点では必ずしも容易ではないものの各種の性能レベ

ルを定量的に表示すること,すなわち,個々の限界状態に関する目標確率値を示すことが

最も重要である.従って,設計規準では可能な限りその値の算定根拠を明確にし,その資

料を公開することが望まれる.

なお,橋の設計に入る前になされる調査・計画に際しては,橋をその目的に適合させる

と共に,構造物に要求される用途・機能に関する法令等の制約条件を満足しつつ,2.1で記述した①~⑥の性能に対して検討し,複数の構造形式・構造材料等に関する代替案から,

単に初期建設コストが最小であるという観点からの判断ではなく,維持管理コストも考慮

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したライフサイクルコスト最小の観点から,最適な案を選定する必要がある. 本来ならば,橋の存在が,そのライフサイクルを通じて社会的・経済的環境的に及ぼす

影響を,効用(ユーティリティ)に換算して評価することが理想的であるが,現時点では

容易でなく,橋の初期建設費用と維持管理費用のみを考慮したライフサイクルコスト最小

の観点から橋を設計しようと試みられているのが実情である.将来,各性能の効用への換

算が可能になった場合には,ライフサイクルユーティリティ(LCU : Life Cycle Utility)

が最大となるように橋の調査・計画,そして設計を行うのが望ましい姿である.

参考文献

1)(社)土木学会編:土木用語辞典

2) (社)土木学会:2006 年 鋼・合成構造標準示方書 Ⅰ 総則編 Ⅱ 構造計画編 Ⅲ 設

計編,2007 年 3 月.

3)国土交通省:土木・建築にかかる設計の基本,2002 年 10 月.

4) 日本鋼構造協会:土木鋼構造物の性能設計ガイドライン,JSSC テクニカルレポート No.49,

2001 年 10 月.

5)(社)日本道路協会:道路橋示方書・同解説 Ⅴ 耐震設計編,2002 年 3 月.

6)ISO/TC98/SC2 (1998):ISO2394 General Principles on Reliability for Structures,

1998.6.

7) 建設省建築研究所,(財)日本建築センター,(財)国土開発技術センター:建設省総合技

術開発プロジェクト「新建築構造体系の開発」平成 8年度報告書,1997.4.

8) Galombos, T.V., Ellingwood, B., MacGregor, J.G. and Cornell, A.:Probability Based

Load Criteria: Assessment of Current Design Practice, Journal of Structural

Engineering Division, Proc. of ASCE, Vol.108, pp.959-977, 1982.

9) 日本建築学会:鋼構造限界状態設計規準(案)・同解説,1990.

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性能照査型設計法に基づく橋梁設計の基礎知識と応用

第3章 性能照査型設計法に基づく橋の断面決定

3.1 荷重の設計値の設定

3.1.1 確率分布を用いた設定方法

性能照査型設計法を適用して橋を構成する各部材の断面形状や寸法を決定していく際に

は,橋に要求される性能レベルに応じて,橋の施工中および供用期間中に最大の影響を与

える大きさの荷重の値を設計値として設定する必要がある.一般に,安全性の照査に用い

る荷重の大きさは,設計上想定している供用期間における最大値(または最小値)とする

場合が多い.現時点では,荷重の大きさに関する供用期間最大値分布(あるいは最小値分

布)を精度良く決定するために必要なデータが必ずしも十分にない場合もあるが,最大値

分布(または最小値分布)から求められる統計的特性値を用いるのが望ましいといえる.

なお,統計的特性値とは,対象とする確率変数に関するデータからその確率分布形とパラ

メータ値を決定したとき,その値を下回る確率がある一定の値となるように定められた値

のことで,確率分布形の特性を表示する期待値や最頻値も統計的特性値の1つとみなさる

1).

統計的特性値を用いた荷重の設計値の設定方法を概説すると,以下のようになる.

橋に作用する1つの荷重の大きさのデータが長年に渡って収集されており,そのデータ

の中から,1年ごとに区切った期間内の最大の値を抽出したものを対象として,図 3.1.1

に示すような確率分布形(年最大値分布の確率密度関数fS(s)=dFS(s)/ds,FS(s):

年最大値分布の確率分布関数)が求まったとする.このとき,設定されたある荷重の大き

さSiに対して,非超過確率piが求められる.そして,qi= 1-pi としたとき,大きさ

Siの荷重の再現期間は,1/qi年として求めることができる.このとき,Siのことを「(qi

×100)%フラクタイル(またはフラクタイル値)」と呼んでいる.

次に,橋の供用期間が,例えば 100 年であり,この荷重の大きさや発生頻度が経年変化

せず,各 1 年間ごとの発生が統計的に互いに独立である場合には,供用期間 100 年間の最

大値分布FS100(s)は

FS100(s)={FS(s)}

100

として求められる.従って,荷重の大きさSiが供用期間 100 年間最大値分布のx100%非超

過確率値である場合には,上式に s=Siを代入して

x100/100=FS100(Si)

={FS(Si)}100=pi

100

という関係が得られる.

荷重の設計値としては,図 3.1.1 に示された年最大値分布の確率分布で表示すると,確

率密度関数の値が右端においてほとんどゼロとみなせるような位置に対応する最大レベル

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の荷重が設定されるのが一般的である.ただし,この荷重の大きさの適切なレベルは,橋

に要求される性能レベル(例えば,非常に重要な構造物で,極めて高い安全性のレベルが

要求される場合には,最大レベルの大きさの荷重に対しても損傷しないように設計する,

など)と密接に関わっていることに留意する必要がある.また,同じ荷重でも,設計の対

象とする限界状態が異なると,その荷重の大きさ,あるいは荷重のの種類の設定法が異な

ることがあるので注意が必要である.例えば同じ活荷重でも,座屈限界や破断限界を対象

とする場合には静的荷重として扱われるが,疲労限界を対象とする場合には,荷重変動の

範囲とそれらが発生する頻度の両方を考慮する形で荷重が設定されることになる 2).

なお,橋の性能照査型設計で考慮する荷重の種類に関しては,文献 1)等を参考に,設計

技術者が必要な荷重を選定することになる.同時に,統計的特性値としてどのような値を

図3.1.1. 信頼性理論に基づく荷重の大きさの設定のイメージ2)

荷重のばらつき 確率論的な把握の例

・ 供用期間における非超過確率が○○以上

となる荷重の大きさ

・ 再現期間○年に対応する荷重の大きさ(○

年に一回生起が期待される荷重の大きさ)

・ 荷重の大きさの代表値&ばらつきを表す

パラメータ

または

・ 想定される最大レベルの荷重の大きさ

など

荷重の大きさ s

確率密度fS(s)

荷重の大ささSi に対応する非超過確

率pi(網掛け部分の面積)=FS(Si )

代表値 最大レベルの荷重

Si

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算出するのが適切かも設計技術者の判断に委ねられるが,一般的には,供用期間最大値分

布の場合には 5~10%超過確率値(最小値分布の場合には 5~10%非超過確率値)が妥当と

考えられている.ただし,統計データの数が十分でない場合やデータの計測精度が高くな

く 5~10%非超過確率値を算出するのが望ましくない場合,あるいは荷重自体のばらつきが

大きく分布形の裾部の値を採用することが適切ではないような場合(例えば土圧に関連す

る値など)には,供用期間最大値分布(または最小値分布)の期待値を用いることが推奨

されている 3).さらに,稀にしか発生しない巨大竜巻や巨大地震等の偶発荷重で,統計デー

タが極めて少ないものについては,「既往最大級」という概念を取り入れて設計荷重として

設定することになる 1).

3.1.2 荷重の組合せ

橋の設計において考慮する荷重は,一つだけが対象となることは少なく,同時に複数の

荷重を考慮する,すなわち,荷重の組合せを考慮するのが一般的である.ただし,同時に

作用し得る荷重については,最大値(もしくは最小値)が同時に起きる可能性は一般に必

ずしも大きくないと考えられるので,複数の荷重の同時載荷を考える場合には,何らかの

調整を行うことが合理的である.従って,荷重の組合せにおいて,変動荷重(設計時に想

定する供用期間内の変動が平均値に比べて無視できない荷重で,かつ単調な変化をしない

荷重)を,主たる変動荷重と従たる変動荷重に分け,

①主たる変動荷重の大きさは,供用期間最大値(または最小値)分布の 5~10%超過確率値

とする

②従たる変動荷重の大きさは,供用期間最大値(または最小値)分布の期待値とする

のが一般的である.この考え方は Turkstra ルール 4)と呼ばれている.ただし,主たる変動

荷重とは,安全性の照査に用いる作用の組合せにおいて,その組合せの中で最も主要と考

えられる一つ,あるいは,一組の変動荷重であり,従たる変動荷重とは,安全性の照査に

用いる作用の組合せにおいて,主たる変動荷重や偶発荷重と組合せて付加的に考慮すべき

変動荷重である.従って,従たる変動荷重は,同時発生確率の低さを考慮して,主たる変

動荷重よりも低い超過確率値が設計荷重として設定されることになる 1).

なお,荷重の組合せに関しては,例えば,現行の道路橋示方書 5)では,許容応力度の割増

し係数で対処している.すなわち,生起頻度の極めて低い荷重どうしの組合せを無視し,

生起頻度の低い荷重との組合せに対しては,許容応力度を割増しすることで,複数の設計

荷重が同時に道路橋に生じる確率の大小を考慮している.換言すると,最大値レベルの荷

重が同時に作用する可能性が低いことを考慮する係数は,この許容応力度の割増し係数の

逆数に相当するものである.既往の研究 6)によれば,道路橋示方書で用いられている許容応

力度の割増係数は,組合せのための低減係数をかなり適切に反映していることから,「許容

応力度の割増し係数の逆数」を組合せのための低減係数として採用してもよいとも考えら

れている 1).

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3.2 構造材料強度の設計値の設定

橋を構成する各部材の構造材料としての強度特性は,橋の性能に大きく影響を及ぼす要

因の1つであることから,性能照査型設計においては,構造材料強度を適切に設定するこ

とが重要となる.前述した荷重の設計値同様,構造材料強度の設計値の設定に際しては,

統計的特性値を用いるのが適切である.ただし,荷重の場合には,最大値に相当する値を

採用するのが一般的であるのに対し,構造材料強度の場合は,最小値に相当する値に着目

することが多い.構造材料強度の特性値を実験(試験)結果から統計的手法に基づいて決

定する方法として ISO 23947)に紹介されているものを概説すると,以下のようになる 2).

たとえば鋼材の降伏点や引張り破断強度などのような構造材料強度が正規分布に従い,

かつ,標準偏差σが既知の場合,超過確率 95%となる強度の下界値は次式で推定される.

σ⋅−= sRestk kmR , (3.2.1)

ここに,Rk,est:超過確率 95%となる強度の

下界推定値,mR:サンプルの平均値,σ:

構造材料強度の標準偏差(既知),ks:サン

プルサイズに応じた係数である.係数 ks

の求め方を詳述すると,次のようになる 8).

正規分布の場合,超過確率 95%となるとき

ks =1.64 であるが,構造材料強度の平均値

μが未知であるため式(3.2.1)の推定値は

ばらつきを持つ.したがって,式(3.2.1)

の推定値がμ-k・σを越える危険率をγ(信

頼水準 1-γ)となるように ksを定める必要がある.すなわち,

[ ] γσμσ =⋅−>⋅− kkmP sRr (3.2.2)

とすればよい.式(3.2.2)を変形すると次の式を得る.

( ) γσ

μ=

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡−>

−kkn

nm

P sR

r (3.2.3)

ここで,nはサンプル数である.式(3.2.3)の ( ) ( )nmR σμ− は標準正規分布 N(0, 1)に従

うので,ksは次式で求められる.

( ) )1(1 γ−Φ=− −kkn s

nkks

)1(1 γ−Φ+=∴

(3.2.4)

ここで, )(1 ⋅Φ − は標準正規分布関数の逆関数である.

図 3.2.1 抵抗の超過確率 95%推定値の分布

k・σ

ks・σ

γ

P

強度

mR-μの分布

μ

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構造材料強度の平均値,標準偏差とも未知の場合,超過確率 95%となる抵抗の下界値を

サンプルの平均値 mR,サンプルの標準偏差 sRを用いて次式で推定する.

RsRestk skmR ⋅−=, (3.2.5)

ただし,サンプルの標準偏差は不偏推定量であり次式で計算する.

1)( 2

−= ∑

nmx

s RiR

(3.2.6)

標準偏差が既知の場合と同様に次式を満たすように ksを定める.

[ ] γσμ =⋅−>⋅− kskmP RsRr (3.2.7)

上式を変形すると次式を得る.

γσ

σμ

=

⎥⎥⎥⎥⎥

⎢⎢⎢⎢⎢

⋅>

−−

⋅+−

s

R

R

r kn

nsn

knn

m

P

1)1( 22

(3.2.8)

この式の中の ( ) ( )nmR σμ− は標準正規分布 N(0, 1)に従い,(n-1)sR2/σ2 は自由度 n-1

のχ2分布に従う.このとき式(3.2.8)の不等式の左辺は自由度 n-1,非心度 kn ⋅ の非心 t

分布 9)に従う.非心 t 分布の上側確率γ に対するパーセント点を ),1(' knnt ⋅−γ と表すと,

ksは次式で求められる.

n

knntks

),1(' ⋅−= γ (3.2.9)

例えば,信頼度が 75%以上の水準(γ= 25%)で超過確率 95%となる材料強度の下界値を

推定するための係数 ksは表 3.2.1 のようになる7).

表 3.2.1 式(3.2.5)に用いる ks値7)

サンプル数 n

3 4 6 8 10 20 30 100 ∞

超過

確率

0.95 3.15 2.68 2.34 2.19 2.10 1.93 1.87 1.76 1.64

構造材料強度の設計値としては,前述の統計的特性値の他に,例えば,JIS で規定されて

いる鋼材の降伏点の最低保証値(公称値と呼ばれることもある)が用いられる場合 5)もある.

性能照査型設計を行う場合には,最低保証値がどのような統計的特性値に相当しているの

かを十分に把握することが重要となる.

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3.3 構造解析手法,耐荷力解析手法の選定 2)

橋に要求される性能を満足するように断面形状や部材寸法を決定するためには,架設中

および供用期間中に予想される全ての外力に対して橋または橋を構成する部材がどのよう

な挙動をするのかを適切に評価する必要がある.すなわち,橋または各構造部材に生じる

断面力,応力,変位量等の応答値を算出する必要がある.具体的な応答値としては,①動

的応答値あるいは静的応答値,②弾性応答値あるいは弾塑性応答値,③幾何学的線形応答

値あるいは幾何学的非線形応答値,④時間非依存型応答値あるいは時間依存型応答値(例

えば,コンクリートとの合成構造におけるコンクリートのクリープ)が挙げられる.これ

らの応答値を算出するためには,種々の構造解析手法や構造解析モデルが用いられる.

構造解析モデルとしては,はり,柱,格子,板,シェル,トラス,ケーブル,ラーメン,

および,アーチ,あるいは,これらの組み合わせにより適切に簡略化したモデルがある.

材料の力学特性モデルとしては,線形モデルと非線形履歴モデルがあり,後者は,さら

にバイリニア型,トリリニア型等に細分される.

外力により橋または各構造部材に生じる断面力,応力,変位量等の応答値は,対象とす

る構造部材と照査する限界状態の種類,作用する荷重の状態に応じた構造部材の材料特性,

橋の規模や構造形式に応じた幾何学的特性,支持条件等を適切に評価できる解析理論や解

析モデルを適用して算出することが望ましい.性能照査型設計の場合には,どのような解

析理論や解析モデルを用いるかは,設計技術者の裁量に委ねられているため,設計技術者

が判断することになる.従って,構造解析の実施に際しては,採用する解析理論や解析モ

デルが,例えば,「信頼度の高い解析結果が得られることが十分実証されている」ものか否

かを十分に把握した上で応答値を算出する必要がある.

現時点で行われている解析の種類としては,静的解析,動的解析,固有値解析が挙げら

れる.静的解析は,橋の変形挙動の時間依存性が無視できる場合に適用される.一方,変

形挙動における慣性力の影響が無視できない場合には,動的解析を行う必要がある.これ

らの解析では,ある荷重を橋に作用させ,それによって生じる変位やひずみなどの変形量

あるいは応力や断面力を応答値として求める.

静的解析は単調載荷あるいは繰り返し載荷のもとで行われる.橋の耐震特性を評価する

際などには,後者の荷重条件が採用される.動的解析には,時刻歴応答解析法,応答スペ

クトル法がある.時刻歴応答解析法は,運動方程式に数値積分を適用し,各種応答値の時

間変化を逐次評価する方法である.これに対し,応答スペクトル法では,応答スペクトル

を用いて,応答の最大値のみを大まかに推定する.

固有値解析は,橋の固有振動数(固有周期)や座屈荷重を求めるのに適用される.部材

の有効座屈長の算定に固有値解析が利用されることもある.また,複素固有値解析により

対数減衰率(さらにはフラッター発振風速)を求めることも行われている.

静的解析と動的解析は,いずれもさらに線形解析と非線形解析に分類される.線形解析

は,微小変位および弾性変形の仮定に基づいた手法で,橋または構造部材に生じる変位,

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ひずみが小さい場合に適用できる.

変形が大きく,変形後の構造部材の幾何形状と初期形状との差が無視できない場合(幾

何学的非線形)や橋を構成する構造材料の変形挙動が非線形性を示す場合(材料非線形)

には,構造部材の変形量が荷重の大きさに比例せず,非線形解析が適用される.また,幾

何学的非線形と材料非線形の両方を考慮した解析(複合非線形解析)が適用される場合も

ある.

橋として複数の限界状態に達するモード(破壊モード)を有する場合には,想定される

外力の組み合わせに対して最も厳しい条件下で応答値が算出できるようにすることが重要

である.この時,個々の構造部材の応答値を求めて性能を照査するのか,橋全体としての

性能を照査するのかについても十分な検討が必要となる.

なお,新形式の橋,新構造材料などを用いる場合などで,適切な構造解析理論および構

造解析モデルが存在しない場合は,実験により橋または構造部材の応答値を求めることに

なる.実験による応答値に関しては,一般に物理現象そのものの有する不確定性,および,

実験データの数が必ずしも十分でないことに起因する統計的不確定性が含まれることから,

統計的な処理が必要となることに留意する必要がある.また,実験では考慮できない条件

(例えば,長期間に渡る暴露の結果生じる状態)に関しては,別途十分な考慮が必要とな

ってくる.

橋に要求される性能を満足するように断面形状や部材寸法を決定するためには,前述した

応答値の算定だけでは不十分で,設計で要求される各性能レベルに対応した限界状態を示

す値,すなわち,限界値(安全性の照査を行う場合は,限界値のことを「耐荷力」と呼ぶ

ことが多い)の算出が必要となる.そのために用いられるのが耐荷力解析手法である.耐

荷力の算出に際しては,有限要素法を用いた複合非線形解析を適用する場合が多いが,こ

の時は各構造部材に適した材料構成則,要素分割,荷重(変位)制御法などを選択する必

要がある.また,線形問題と違って,熟練した経験や技術が必要となる場合が多い.その

ため,市販の汎用有限要素法プログラムを使う場合も含め,事前に精度が確認されている

ベンチマークテスト結果を参考にして,解析プログラムの有効性と精度,および,その取

り扱い方法について確認しておく必要がある.

耐荷力を算出する際に,上述のコンピュータを用いた数値解析では不十分な場合(例え

ば,新構造形式の橋を採用する場合)には,模型実験,あるいは,実物大実験により限界

値を求めることがある.このときには,応答値の場合と同様,実験により求められた限界

値には幾つかの不確定性が含まれていることを十分考慮しながら評価する必要がある.

応答値,および,限界値(耐荷力)の算出に用いる解析手法の精度の確認に関しては,

過去の大荷重作用時の荷重の特性や橋の挙動,および,荷重作用後の損傷・破断状況等が

記録されている場合には,選定の対象となる解析手法を用いてその現象をシミュレートし,

精度良く再現できるかどうかをチェックするのが,現時点では最も望ましいといえよう.

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3.4 応答値と限界値の算定

これまでにも繰り返し述べてきたように,橋に要求される性能を満足するような断面形

状や寸法を決定するためには,要求される性能レベルに相当する荷重が作用したときの橋

あるいは構造部材の応答値と限界値(耐荷力)を算定し,その両者の大小関係を比較する

のが一般的である.本節では,要求される性能の内,定量的な限界状態の設定がある程度

可能な安全性,使用性,耐久性に関する照査を行うための応答値,および,限界値を算定

する際に留意すべき事項について述べる.なお,応答値と限界値の算出に用いる手法につ

いては,3.3に記載してある.また,具体的にどのような応答値と限界値を算定するかに関

しては,例えば鋼橋に関しては,文献1)や2)を参照されたい。

3.4.1 応答値の算定1)

(1)安全性を照査するための応答値の算定

設計において仮定された断面形状および寸法を有する橋または構造部材が,安全性

に対する要求性能を満足しているかどうかを照査する際に対象となる限界状態は安全

限界状態(終局限界状態)である.安全限界状態には破壊限界,降伏限界,変形限界,

変位限界,塑性崩壊,座屈限界,剛体的安定限界,動的安定限界が含まれる.安全性

の照査に用いる応答値は,設計の対象とする限界状態に応じて「作用軸力」であった

り「作用応力」であったりするが,安全限界状態に達するかどうかを最も適切に照査

できる応答値を採用することになる. 安全限界状態に関する応答値の算出に用いられる解析手法としては,変形が大きい

場合に変形後の構造物の幾何形状と初期形状との差を考慮する幾何学的非線形を考慮

した有限変位解析,構造物を構成する材料の変形挙動が弾性的でないという材料非線

形を考慮した弾塑性解析,さらには,これら両者を同時に考慮した複合非線形解析が

ある.また,有限要素法が構造解析に用いられることが多いが,その際の構造物のモ

デル化に用いられる要素には,はり要素とシェル要素があり,はり要素は,M-φ要

素とファイバー要素に大別される.どの手法,どの要素を用いて構造解析を行うかは,

解析の対象とする構造形式,構造部材,および,安全限界状態の種類に応じて判断す

るのが望ましい. 適切な構造解析理論および構造解析モデルが存在しない場合は,実験により,安全性の

照査に必要となる構造物または構造部材の応答値を求めることになる.

(2)使用性を照査するための応答値の算定

設計された橋または構造部材の使用性は,使用性に関する要求性能を満足している

かどうかを照査することにより確保される.使用性照査の対象となる限界状態は使用

限界状態であり,使用限界状態には走行限界,歩行限界が含まれる.使用性の照査に

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用いる応答値は,設計の対象とする限界状態に応じて「振動加速度」であったり「た

わみ」であったりするが,使用限界状態に達するかどうかを最も適切に照査できる応

答値を採用することになる.

使用性の照査の対象となる荷重は,設計供用期間中に比較的頻繁に生じるものであ

り,安全限界状態の照査に用いられる荷重よりも小さいのが一般的である.そのため,

使用限界状態に関する応答値の算出には,幾何学的非線形や材料非線形を考慮しない

線形解析を用いればよいことが多い.どの手法を用いて応答値の算定を行うかは,解

析の対象とする構造形式,構造部材,および,使用限界状態の種類に応じて設計技術

者が判断する.

適切な構造解析理論および構造解析モデルが存在しない場合は,実験により,使用性の

照査に必要となる構造物または構造部材の応答値を求めることになる.特に車両走行性に

影響してくる路面の平坦性等に関しては,実験により求めることになるのが現時点では一

般的である.

(3)耐久性を照査するための応答値の算定

設計された橋または構造部材の耐久性に関する照査の対象となる性能には耐疲労性,

耐腐食性,材料耐久性,維持管理性が含まれる.耐久性の照査に用いる応答値は,設

計の対象とする要求性能に応じて「想定される変動荷重によって生じる応力範囲の最

大値」であったり「鉄筋位置での塩素イオン」であったりするが,耐久性に関する限

界状態に達するかどうかを最も適切に照査できる応答値を採用することになる.

なお,耐久性に関しては,供用中の橋に適切な維持管理が施されることが極めて重

要であり,設計時に想定した応答値が経年劣化により要求性能を下回る状態に達する

ことのないよう維持管理を行う必要がある.そして,耐久性に関する限界状態に達し

そうであることが検査等で明らかになった場合には,適切な補修・補強対策等を講ず

る必要がある.また,設計段階から適切な維持管理を実施することを前提として耐久

性に関する要求性能レベルを設定する方が,構造物の供用期間中に維持管理をほとん

ど行わないことを前提として要求性能レベルを設定するよりも経済的な場合もあるこ

とから,耐久性に関する応答値の算出に際しては,この点に留意することが重要であ

る.

3.4.2 限界値の算定

性能照査型設計における要求性能の照査の内,安全性に関する限界値(耐荷力)の算定

に際しては,構造材料の材料強度(例えば,降伏点応力や破断強度)を基本として算出す

るのが一般的である.このとき,例えば鋼材の場合には,JIS の規格値(公称値)が採用さ

れることが多いが,これらの値がどのような載荷速度や試験片を用いて試験がなされてい

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るか,製作上の寸法誤差がどの程度含まれてくるのか等を十分に考慮した上で,限界値を

算定する必要がある.また,数値解析により耐荷力を算出する場合には,その手法がどの

程度の精度を有するのかも十分に意識しなければならない.さらに,例えば,鋼製厚板断

面の全断面塑性化までの曲げ耐力を期待しようというコンパクト断面の採用に際しては,

それに応じた耐荷力を算定する必要がある.

使用性に関する限界値の設定は,主観的な要素が含まれる部分も多く,実験により求め

られることが多いのが実情である.たとえば,歩道橋の歩行性の1つである振動に関する

限界値は,実測結果を基に幾つかの物理量を尺度として設定されている 10)が,どの尺度を

用いるのが適切なのかの判断は必ずしも容易ではない.こうした人の主観に依存する限界

値は,時代と共に変化する可能性もあり,橋が架設される地点の状況に応じて,設計技術

者が適切に判断することになる.また,現行道路橋示方書 5)で規定されている「たわみ制限」

の限界値に関しては,その根拠が明瞭に示されておらず,変形限界を検討する際に設計技

術者の判断が必要とされるものの一例である.

耐久性には,耐疲労性,耐腐食性,材料劣化抵抗性,維持管理性の4つが含まれており,

この内,耐疲労性に関する限界値としては,継手形状(等級)によって定められる疲労限

応力度や Miner 則をベースとした限界疲労損傷度が採用されている 11).鋼部材の耐腐食性

に関する限界値については文献 12),コンクリート部材の材料劣化抵抗性の限界値について

は文献 13)を参照しながら,設計技術者が適切に決定することになる.維持管理性の限界値

については,明確な限界値を現時点で定めるのは困難であり,長年の実積に基づいて判断

されているのが実情である.

3.3でも述べたが,限界値設定の基本は,できるだけ信頼性理論に基づいた取り扱いをす

ることである.少なくとも材料レベルや部材レベルの変動性については,実験などで明確

に統計的特性値を求めるのがよい.また,限界値を解析的に求めるのに,複合非線形解析

を行うことがある.その際には,事前に精度の確認されているベンチマークテスト結果を

参考にして,複合非線形解析に対する解析プログラムの有効性と精度,および,その取り

扱い方法を確認しておく必要がある 2).

3.5 設計終了段階での保有性能の評価

3.5.1 性能照査フォーマット 2)

一般に,構造物の信頼性設計においては,設計の対象とする限界状態に達する可能性があ

る一定のレベル以下となるように構造部材の寸法や材質等を決定する.限界状態に達する

可能性のレベルを性能レベルと言い,この性能レベルの表示のしかたによって,性能照査

フォーマットは表 3.5.1 に示すⅠ~Ⅲの 3 レベルに分類されている.この分類は,限界状態に達する確率との対応の厳密さに基づいてなされており,レベルⅢが最も高く,レベル

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Ⅱ,Ⅰの順に厳密さが低減した方法になっている.以下にレベルⅢ~Ⅰの方法について概

説する.なお,図 3.5.1 は,これら3通りの方法の概念図を示したものである. (1) レベルⅢ

設計しようとする橋あるいは構造部材が限界状態に達する確率が,あらかじめ設定され

た目標とする確率値よりも小さくなることを照査する方法がレベルⅢで,式(3.5.1)を満足することで,要求される性能レベルを満たすことになる.

fTf PP ≤ (3.5.1)

ここで,Pf はある限界状態に対して設計される橋あるいは構造部材がその限界状態に達す

る確率,PfTは目標とする確率値である. (2) レベルⅡ

レベルⅡは,確率変数の 1 次および 2 次のモーメント(平均および分散)で定義される信頼性指標βと呼ばれる指標を用い,式(3.5.2)を満足するように橋あるいは構造部材を設計しようとする照査フォーマットである.

表 3.5.1 信頼性設計法レベルⅠ~Ⅲの比較

レベル 照査フォーマット 摘 要

Ⅲ fTf PP ≤ 構造物が限界状態に達する確率 Pfが目標とする確率 PfTより小

さくなることを照査する.確率論的に最も厳密な性能の照査法で

あるが,設計変数の確率分布が既知であることが前提である.

Ⅱ Tββ ≥

確率論的な取扱いに一次近似(正規分布に近似)を行う方法であ

る.確率分布は平均値(1次モ-メント),標準偏差(2 次モ-

メント)によって考慮され,性能レベルは,限界状態に達する確

率に対応する信頼性指標βが目標信頼性指標βΤより大きいことで

性能を照査する.また,レベルⅠの照査法における部分係数を設

定するための根拠としての意味も有する.

Ⅰ 1≤⋅

⋅=mk

kFi

d

di R

SRS

γγ

γγ

部分係数法による照査法であり,実際の設計において最も多く利

用されている.この方法では,各設計変数について設計値を設定

し,この値に関係づけられた部分係数を用いて限界状態に対する

性能レベルを照査する.設計変数の設計値は,その確率分布につ

いてあらかじめ規定された超過確率,あるいは非超過確率に対応

する統計的特性値として求められるのが望ましい.部分係数の値

は,必要な性能レベルと設計変数の変動性との関数として,レベ

ルⅡのβΤを介して算出される.

注)表中 「破壊確率 「 界状態 達す 確率 表 す 用 あ

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Tββ ≥ (3.5.2)

ここで,βは設計した橋あるいは構造部材がある限界状態に対して有している信頼性指標の

値,βTは目標とする信頼性指標の値である.信頼性指標βの詳細については専門書 14)に譲る

として,βが何を意味しているかを簡単に述べる. 橋あるいは構造部材の安全性や使用性に関与する不確定量(確率変数)は,橋(あるい

は構造部材)の強度に関係する Rと,これに作用する荷重に関係する Sに大別でき,かつ,Rと Sは互いに独立であるとする.このとき,Z=R−Sという確率変数を考えると,橋は通常 Z≦0のときに限界状態に達するといえる.信頼性指標βは,確率変数 Zの標準偏差をσZ

としたとき,Z の平均 SRZ −= と Z= 0 との隔たりがσZの何倍かを示すパラメータ,すな

わち, ZZ σβ = で定義される値である(図 3.5.1(2)参照).なお,図 3.5.1(2)の網掛部分

は,限界状態に達する確率(破壊確率)を示すことになる. 橋あるいは構造部材をより性能レベルの高いものにするには,Rの値を大きくするか,あるいは S(によって生じる断面力・応力など)の値を小さくし,Z を大きくすればよい.す

なわち,βの値を大きくすれば設計された橋の性能レベルは高くなる.信頼性指標βは,確

率変数 Z の 2 次までのモーメント,すなわち平均と分散(標準偏差)のみを用いて算出できることから,レベルⅡの照査フォーマットは 2次モーメント法とも呼ばれている.

(r)or (s) ff

:荷重(s)Sf :抵抗(r)Rf

R S or

{ }dsdrffPs

00f ∫∫∞

= (r)(s) RS

s dss +

(Z)f

S-RZ =dzfP

0

f ∫ ∞−= (z)Z

(Z)f

S-RZ =zμ

zσ⋅β

fP

破壊(Z<0)

安全(Z>0)

(r)or (s) ff

:荷重(s)Sf :抵抗(r)Rf

R S orSk RkSd Rd RμSμ

(1) レベルⅢ

(2) レベルⅡ

(3) レベルⅠ

Z:破壊基準関数(性能関数)

z

z

σμβ =信頼性指標 

RT σ⋅β⋅αST σ⋅β⋅α

RR σ⋅kSS σ⋅k

(r)or (s) ff

:荷重(s)Sf :抵抗(r)Rf

R S or

{ }dsdrffPs

00f ∫∫∞

= (r)(s) RS

s dss +

(Z)f

S-RZ =dzfP

0

f ∫ ∞−= (z)Z

(Z)f

S-RZ =zμ

zσ⋅β

fP

破壊(Z<0)

安全(Z>0)

(r)or (s) ff

:荷重(s)Sf :抵抗(r)Rf

R S orSk RkSd Rd RμSμ

(1) レベルⅢ

(2) レベルⅡ

(3) レベルⅠ

Z:破壊基準関数(性能関数)

z

z

σμβ =信頼性指標 

RT σ⋅β⋅αST σ⋅β⋅α

RR σ⋅kSS σ⋅k

図 3.5.1 信頼性設計法レベルⅠ~Ⅲの概念図

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(3) レベルⅠ

この照査様式は,設計しようとする橋(または構造部材)の設計強度 Rdと想定される設

計荷重 Sdの比が,予め設定された安全係数 γ よりも大きければ,安全性や使用性が確保されるという考えに基づくもので式(3.5.3)で表される.

γ≥dd SR (3.5.3)

ここで,Rdは強度の設計値,Sdは荷重の設計値,γは安全係数である.このレベルⅠの照査

フォーマットでは設計した橋がどの程度の安全性や使用性を有するのか,限界状態に達す

る確率との対応がレベルⅢ,Ⅱのフォーマットに比べて不明確になる. レベルⅠの照査フォーマットは安全係数をどのように考慮するかにより,さらに以下の 3通りに分類することができる. ①許容応力度設計方式・・・・橋あるいは構造部材の強度に対して,ただ 1 つの部分係数を考

慮する方式.

Rdd RS γ≤ (3.5.4)

∑= kd SS (3.5.5)

ここで,γRは設計強度 Rd (通常,応力で表示)に対する部分係数,Skは種類が異なる個々

の設計荷重(例えば死荷重や活荷重)である.

②荷重係数設計方式・・・・橋(または構造部材)に作用する荷重に対して部分係数を考慮す

る方式.

djjC RS ≤∑γγ (3.5.6)

ここで,γjは荷重 Sjに対する部分係数,γcは荷重の組み合わせ等を考慮した部分係数. ③部分係数設計方式・・・・橋(または構造部材)の強度および作用する荷重の両者に対して,そ

れぞれ部分係数を考慮する方式

RdjjC RS γγγ ≤⋅∑ (3.5.7)

上記①~③の中では,複数の部分係数を決めなければならない煩雑さを伴うが,③の部

分係数設計方式が最も適切である.それは,橋または構造部材の強度,それに作用する個々

の荷重の特性(強度や荷重の大きさのばらつき,荷重の発生頻度など),設計の対象となる

限界状態の種類等を考慮して部分係数が設定できるからである. なお,③の部分係数設計方式を限界状態設計法と称することが多いため,現行の道路橋

示方書で並記されている①の許容応力度設計法は限界状態設計法ではないとの見方もある.

しかし,限界状態として降伏限界や座屈限界を想定しており,限界状態を考慮していない

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わけではない.つまり,限界状態設計法と許容応力度設計方式は相反するものではない.

レベルⅢの方法は厳密性が高く,最も望ましいフォーマットである.信頼性設計法で最

初に検討された方法はレベルⅢで,限界状態に達する確率(破壊確率)を直接求めようと

するものであった 15).しかし,橋あるいは構造部材が限界状態に達する確率を算出するの

は極めて煩雑であり,また,橋の安全性・使用性に関与する不確定要因(確率変数)の確率

分布形を精度良く推定するだけの統計データが当時は十分でなかったことから,実務的な

設計へ適用することが困難であった.そのため,レベルⅡである信頼性指標βに基づく 2次モーメント法が開発された 16).信頼性指標βは設計に関与する確率変数の分布形を精度良く

求めなくても算出が可能で,かつ,確率論を導入した性能照査様式であることから,欧米

諸国では 1980年代後半から設計規準に取り入れられるようになってきている 17).ただし,

信頼性指標βを信頼性理論によって一般的な技術者に求めさせることは困難として,実際の

設計規準は,目標信頼性指標 βT に基づいて部分係数を定めたレベルⅠのフォーマットで書かれている.我国の設計基準でも,鉄道構造物設計標準 18)やコンクリート標準示方書 19)な

どは,この考え方に基づいて記されている.また,建築物の鋼構造限界状態設計規準 20)で

は部分係数の根拠となる信頼性指標 β の値を示してあり,破壊確率との関係が把握しやすくなっている. 最近では,構造物の性能に関与する不確定要因(確率変数)の確率分布形を推定するための統計データが蓄積され,限界状態を予測する精度の良い解析モデルも開発されてきている

が,レベルⅢの方法を適用するためには未だ十分ではないと思われる.したがって,現時

点で推奨される性能照査フォーマットは,①ISO 23947)で示される原則に基づいて,想定し

うる複数の限界状態を対象としたレベルⅠの部分係数フォーマットを採用する,②統計デ

ータをできる限り利用し,データが十分でなく確率論的に決定できないものはその旨を明

記する,③現行設計基準に基づいて設計される構造物と大きな違いが生じないように部分

係数や安全係数をキャリブレーションにより求める,というのが世界的趨勢であり,2010年に施行を目指しているユーロコード 21)もこの方式を採用している. 今後,さらに統計データおよび部分係数決定に必要なデータが蓄積・公開されていけば,

より厳密性の高いレベルⅡのフォーマットに移行するのが望ましいと思われる.加えて,

橋(あるいは構造部材)が限界状態に達する確率の簡便な算出方法が開発された暁には,

レベルⅢの性能照査フォーマットに基づいて橋あるいは構造部材の設計がなされるように

なるものと予想される.

3.5.2 許容応力度設計方式の欠点と部分係数設計方式の利点

例えば 2002年制定のもの以前の我が国の道路橋示方書では,仮定した断面寸法を有する

構造部材に設計荷重を作用させた時に生ずる応力が,主として降伏限界(または弾性限界)

および座屈限界を対象として設定された許容応力度を上回らなければよいというレベルⅠ

の許容応力度設計方式が基本的に採用されてきていた.しかし,この設計法には,

①構造部材が降伏限界(または弾性限界)を超えてから破壊に至るまでの余剰耐力(構造部

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材が降伏点を越えてもすぐに破壊に至らず,応力の再分配や地震作用時の履歴によるエ

ネルギー吸収等により外力に耐えるという性能を有すること)を十分に活かしきれない

こと

②個々の荷重のばらつきの大きさを考慮できないこと

などの欠点があるため,安全限界状態を対象とした部分係数方式の照査フォーマットに移

行する方が合理的な設計を行えることになる.

上記①の欠点については,特に阪神淡路大震災で改善の必要性が浮き彫りにされ,1996

年 12月に改訂された耐震設計編で,橋脚の耐震設計に余剰耐力の考慮が組み入れられるよ

うになった 22).

②の欠点について具体例を用いて説明すると次のようになる.

支間長 40m程度の短い道路橋の主桁では,死荷重によって生ずる応力と活荷重により生

ずる応力はほぼ同程度である.これに対し,中央支間が 1000mを越えるような吊橋のケー

ブルでは,死荷重による応力が全応力の 90%以上を占め,活荷重による応力の占める割合

はわずか数%である.今,構造材料として許容応力度 140[N/mm2]の部材を用いるとの前提

で断面寸法を仮定し,断面に生ずる応力が仮に次のように得られたとする(実際の吊橋で

は,ケーブルに高張力鋼を用いるため,その許容応力度は数倍大きい).

支間長 40mの主桁 σ=σD+σL=65[N/mm2]+70[N/mm2]

支間長 1000mの吊橋のケーブル σ=σD+σL=125[N/mm2]+10[N/mm2]

ただし,σD:死荷重による応力,σL:活荷重による応力

いずれの場合も,死荷重と活荷重によって生ずる応力はσ=135[N/mm2] であり,部材の

許容応力度140[N/mm2]を下回って,許容応力度設計方式としての照査を満たすことになる.

ここで,死荷重と活荷重の統計的特性を考えてみると,死荷重は主桁やケーブル自体の

重量や床版・舗装等の重量,照明灯や高欄の重量等からなるが,そのばらつきは極めて小

さく,設計図面から精算される値にかなり近い値になるといえよう.これに対し活荷重の

場合は,過積載のダンプトラックが走行したり事故渋滞で車両が満載されたりするケース

があり,そのばらつきは,死荷重と比べてかなり大きくなるものと予想できる.しかしな

がら,許容応力度設計方式では,合計としての応力が許容応力度を下回るかどうかが問題

にされるだけで,その合計応力を構成する応力の中味については何の考慮もなされていな

い.「設計荷重が設計強度を上回る確率」を考えると,この例の場合には,支間長 40mの

主桁の方が,支間長 1000mの吊橋のケーブルと比べて大きくなろうことは容易に推測でき

る.

この例からわかるように,許容応力度設計方式には,個々の荷重の有する統計的ばらつ

きが考慮できないという欠点がある.従って,個々の荷重や材料強度等に関する実測が精

力的になされ,かなりの数のデータが収集されてきている今日,許容応力度設計方式から

部分係数設計方式に移行していこうとする動きは当然のことと言えよう.

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3.5.3 信頼性理論に基づく照査方法

(1)性能照査フォーマット

3.5.1で,現時点においては部分係数設計方式による性能照査フォーマットが適切である

ことを述べた.そこで,筆者自身が望ましいと考えている部分係数設計方式による性能照

査フォーマットを提示し,部分係数決定に際しての考え方を述べる. 望ましいフォーマットは次式で表される 2).

1≤d

dI R

Sγ (3.5.8)

ここで, Rd:設計限界値

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⋅⋅=

nM

nk

M

k

M

k

BBF

fffR

,

,

2,

2,

1,

1,

21

,,,1γγγγγγ

L (3.5.9)

fk,i:材料強度の特性値(5%フラクタイル値の採用を基本とする) γF:製作 and/or施工精度のばらつき等を考慮した係数 γB1:耐荷力解析モデルの不確かさを考慮した係数 γB2:限界状態の特性(例えば破壊が脆性的か延性的か)等を考慮した係数 γM,i:材料特性が限界状態に及ぼす影響等を考慮した係数 R(・):材料強度から橋あるいは構造部材の限界値を算出するための関数

Sd:設計応答値 ( )∑ ⋅⋅⋅⋅⋅= jkjjjCA FS ,,3,2,1 γγγγγ (3.5.10)

Fk,j:個々の荷重の設計値(供用期間最大値分布の 5~10%超過確率値の採用を基本とする)

γA:構造解析モデルの不確かさを考慮した係数 γC:荷重組合せの生起頻度を考慮した係数 γ1,j:設計の対象とする限界状態を考慮した係数 γ2,j:対象とする「荷重の組合せ」において,その荷重が支配的か否かを表す係数.

支配的な荷重に対しては 1.0,支配的でない荷重に対しては供用期間最大値分布の平均値まで Fk,jを低減する値を採用.

γ3,j:荷重の不確定性(データの多寡,データの精度等)を考慮した係数 S(・):設計荷重を載荷した場合に生ずる応答値を算出するための関数

γI:橋または構造部材の重要度係数 である. (2)部分係数設定の考え方

式(3.5.8)~式(3.5.10)に含まれる特性値や部分係数の値をどのように決定するかにつ

いては,必ずしも合意が得られている訳ではないが,ここでは,次の方針で値を設定して

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みる 23). ① 統計データがある程度収集されており,それらを利用できる場合には,統計確率論に

基づいて特性値を決定する.

② 十分な統計データがない場合には,公称値あるいは現行設計規準で採用されている値

を用いる.

③ 部分係数の内,おおよその値が設定できるものに関しては,鋼・合成構造標準示方書

Ⅲ 設計編 1),鉄道構造物等設計標準・同解説 18),コンクリート標準示方書[構造性

能照査編]19)等を参考に決定する.

④ 橋の重要度係数については,橋の重要度についておおよその値を決定するが,最終的

には現行設計とのキャリブレーションにより算出するのを原則とする.

以下に,個々の部分係数や特性値等の具体的な値と決定方法に関するコメントを記す. 1) 材料強度の特性値 fk,i 材料強度の特性値としては,5%フラクタイル値の採用を基本とする.材料強度に関する試験データが十分に得られている場合には,その確率分布の型,および,確率分布形の

パラメータを統計的手法に基づいて決定した後 24),5%非超過確率値を算出する. 2) 製作 and/or施工精度のばらつき等を考慮した係数γF

この係数は,橋を製作する場合に生じる寸法誤差や架設する場合の施工精度のばらつき等が橋の限界値に及ぼす影響を考慮した係数である.鋼橋の場合,現在では,コンピ

ュータ制御による製作が一般的となっており,また,架設・施工機械の性能も十分に高

くなっていることを考慮すると,標準的な場合にはγF =1.0 としてよい.架設場所に高性能の施工機器を搬入できない場合等についてはγF >1.0とする.

3) 耐荷力解析モデルの不確かさ等を考慮した係数γB1 この係数は,橋の限界値を算出する手法が十分に実証されているものかどうかのレベルを考慮したもので,コンクリート標準示方書 19)では,γF・γB1・γB2 の積として 1.0~1.3の値を採用している.鋼橋の場合はコンクリート橋よりも限界状態に達するまでの挙動

の把握が精度良くできると考えられることから,γB1の値として標準的には 1.05とする. 4) 限界状態の特性等を考慮した係数γB2 この係数は,橋が安全限界状態に達した後の崩壊のしかたが急激か否か,具体的には,橋の破壊が脆性的か延性的かによって安全度の余裕に差を設ける方が適切であることを

考慮した係数である.降伏限界のような限界状態を対象とする場合にはγB2 =1.0,安全限界状態に属する疲労限界のような限界状態を対象とする場合には,γB2 =1.2とする.

5) 材料特性が限界状態に及ぼす影響等を考慮した係数γM,i この係数は,例えば高張力鋼は普通鋼と比較して応力集中部の存在による疲労強度の低下が顕著であること等,材料特性が限界状態に及ぼす影響等を考慮した係数である.

普通鋼に対してはγM,i =1.0,コンクリートの安全限界状態および使用限界状態に対してはコンクリート標準示方書 19)を参照して,各々γM,i =1.3,1.0とする.

6) 個々の荷重の設計値 Fk,j

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個々の荷重の設計値としては,統計データが十分に収集されている場合は,材料強度

の特性値と同様,その確率分布の型,および,確率分布形のパラメータを統計的手法に

基づいて決定した後,供用期間最大値分布の 5~10%超過確率値を算出する(3.1参照).荷重の設計値を算出する方法として再現期間をベースとする方法もあるが,①確率論的

には,供用期間最大値分布の 5~10%超過確率値から再現期間を算出するのは容易であること,②地震や強風等自然現象による荷重の場合は再現期間を用いることが可能である

が,死荷重や活荷重等に対して再現期間を用いるのは必ずしも適切ではないことから,

ここでは「5~10%フラクタイル値」(3.1.1参照)を用いている. 7) 構造解析モデルの不確かさを考慮した係数γA この係数は,設計荷重を作用させた場合の応答値を算出する際に用いる構造解析モデル(構造解析手法)の不確かさを考慮したもので,構造解析モデルの精度が十分に実証

されている場合には 1.0,そうでない場合には 1.0< γA <1.2とする. 8) 荷重組合せの生起頻度を考慮した係数γC この係数は,設計で考慮する荷重の組み合わせの生起頻度を考慮した係数で,現行道路橋示方書の許容応力度の割り増し係数の逆数に相当する.3.1.2でも述べたが,現行道路橋示方書の許容応力度の割り増し係数の値が確率論的にかなり妥当な値となっている

ことが確認されているので 6),それらの値をそのまま用いることにする(表 3.5.2参照). 9) 設計の対象とする限界状態を考慮した係数γ1,j

この係数は,例えば,風による橋の上部構造全体系の発散振動やダイバージェンスは,発現すると橋梁構造物の崩壊に直接結びつく現象であることから,設計照査に用いる風

速を,想定される最大風速の 1.2 倍および 7.1 倍することが多いことを考慮した係数で

ある 2).荷重に対して,特に設計の対象とする限界状態を考慮する必要がない場合には

1.0とする. 10) 対象とする「荷重の組合せ」において,その荷重が支配的か否かを表す係数γ2,j この係数は,同じ荷重の組合せであっても,設計の対象となる構造形式や部材が異なると,支配的となる荷重も異なってくることを考慮するためのものである.例えば,死

荷重+活荷重+温度変化の影響+風荷重の組み合わせを考慮する場合,ある部材では風

荷重が支配的となるが,別の部材では温度変化の影響が支配的となることを考慮するた

めの係数である.ISO23947)を参照し,ここでは,支配的な荷重に対しては 1.0,支配的でない荷重に対しては供用期間最大値分布の平均値まで Fk,jを低減する値を採用する.な

お,8)で述べたγCとまとめて考慮する方が適切との考え方もある. 11) 荷重の不確定性を考慮した係数γ3,j この係数は,対象とする荷重に関するデータの多寡や,データの精度(どのような計測機器や手法を用いてデータを収集したのか)等を考慮するためのもので,データの多

寡に関する係数の算出方法は,3.2で紹介した通りである(ISO2394 Annex D7) 参照). 12) 構造物の重要度係数γI

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この係数は,橋の重要度に応じて要求性能レベルに差を設けることを目的としたもの

で,普通の橋では 1.0,重要な橋では 1.1,最重要な橋では 1.2 とする.ただし,現行設計規準で設計した橋と,式(3.5.8)に従って設計した橋とで断面形状や寸法に大きな差が生じるような場合には,2.3で述べたコードキャリブレーションによりγIを決定し,現行設計基

準との差が許容範囲内に収まるようにγIの値で調整するものとする.

表 3.5.2 荷重の組合せのための低減係数

荷 重 の 組 合 せ 低減係数

1.主荷重(P)+主荷重に相当する特殊荷重(PP)

2.主荷重(P)+主荷重に相当する特殊荷重(PP)+温度変化の影響(T)

3.主荷重(P)+主荷重に相当する特殊荷重(PP)+風荷重(W)

4.主荷重(P)+主荷重に相当する特殊荷重(PP)+温度変化の影響(T)+風荷

重(W)

5.主荷重(P)+主荷重に相当する特殊荷重(PP)+制動荷重(BK)

6.主荷重(P)+主荷重に相当する特殊荷重(PP)+衝突荷重(CO)

鋼部材に対して

鉄筋コンクリ-ト部材に対して

7.活荷重および衝撃以外の主荷重+地震の影響(EQ)

8.風荷重(W)のみ

9.制動荷重(BK)のみ

10.施工時荷重(ER)

1.00

0.90

0.80

0.75

0.80

0.60

0.70

0.70

0.85

0.85

0.80

なお,鉄道構造物等設計標準・同解説(鋼・合成構造物)18)やコンクリート標準示方書[性

能設計編]19),鋼・合成構造標準示方書 1) では,性能照査フォーマットとして以下の式が

用いられている.

( )( )

1.0/ /

a f ki

k m b

S FR fγ γ

γγ γ

∑ ⋅ ⋅⋅ ≤ (3.5.11)

ただし,Rd:設計限界値, fk:材料強度の特性値, γm:材料係数,

γb:部材係数, R(・):材料強度から構造物の限界値を算出するための関数

Sd:設計応答値, Fk:個々の作用の特性値, γa:構造解析係数

γf:個々の作用に対する荷重係数

S(・):作用を載荷した場合に生ずる応答値を算出するための関数

γi:構造物係数

式(3.5.11)を式(3.5.8)~式(3.5.10)と比較すると,γb=γF・γB1・γB2,γf=γC・γ1,j・γ2,j・γ3,j

であり,式(3.5.8)~式(3.5.10)で用いられている係数は,式(3.5.11)で用いられている

部分係数をさらに細分化したものであることがわかる.橋または構造部材を設計する際に

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考慮すべき不確定要因として複数の異なる要因が存在する場合には,各要因に関する不確

定性をできる限り別個に明確にしておく方が,今後の研究成果を設計基準に容易に組み込

めるため,ここでは,式(3.5.8)~式(3.5.10)を「望ましい性能照査フォーマット」として

示した.

(3) γB1,γB2,およびγAの設定例

文献 23)では,具体的に鋼構造物の耐震性能照査を対象に耐荷力解析が実施された結果に基づいて,耐荷力解析モデルの不確かさ等を考慮した係数γB1 としてどの程度の値を設定

すればよいのかについて検討されている.また,限界状態の特性等を考慮した係数γB2と構

造解析モデルの不確かさを考慮した係数γAの評価のしかたを示し,これらの結果に基づい

てγAを設定することも試みているので,以下にその結果のみ紹介する.

a)耐荷力解析モデルの不確かさ等を考慮した部分係数γB1に関して 1)限界値としてどのような指標を採用するのかを決定すること,次に,何を『真の値』とするかについて検討することになる.最終的にエキスパートの engineering judgment によりγB1を決定する以外に方法がない場合には,その理由を詳細に記すよう努める.

2)単柱式鋼製橋脚のような比較的単純な構造系に対しては,強度解析モデルの不確かさ等を考慮した係数γB1の値としては,免震支承を有しない場合に 1.10,免震支承を有し構造解析が複雑になる場合には 1.20を採用するのがよい.

3)γB1の値を設定するに際しては,簡単な構造の鋼製橋脚でもその形状の特性を良く考慮し

なければ解析結果はばらつくため,入力地震波はもちろんのこと,鉛直荷重が偏心して

作用する鋼製橋脚(逆 L形橋脚)では鉛直荷重,免震支承を有する橋脚では免震支承のパラメータに注意する必要がある.また,構造要素モデルとして用いるモデル,復元力特性,

減衰モデルによる違いによっても結果のばらつきが大きいことに留意する必要がある.

b)限界状態の特性等を考慮した部分係数γB2に関して 4)この値を統計確率論的なアプローチにより求めることは現時点では不可能と考えられ,エキスパート(あるいは構造設計規準策定者)の engineering judgment により決定するしかな

いと思われる.従って,エキスパートを複数選び出し,各エキスパートの提案する値を

統計的に処理して決定していくようにする.その処理方法については明確に記しておく. c)構造解析モデルの不確かさを考慮した係数γAに関して 5)各種の動的応答解析手法によって算出される応答値が,①構造物のモデル化のしかた,②構成則モデル,③使用ソフト等により,どの程度異なるか(ばらつきがあるか)を調査

し,そのばらつき具合を考慮して算出することになる.この場合,人為的ミス(human error)

が含まれているかどうかについて十分に検討する.また,入力地震波として,周波数特

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性の異なる地震波を入力した場合の応答値のばらつきに関する検討も行う.さらに,同

一の地震波を用いる場合でも,ランダム波のシミュレーション手法により,スペクトル

は同じで波形の異なる5波程度の入力を実施して応答のばらつきを調べるのが望ましい. 6) 静的解析においては,鋼製アーチ橋やトラス橋のような複雑な構造系に対してもγA=

1.0とする.ただし,構造解析に用いる構造要素モデル,減衰モデル,幾何学的非線形の考慮の有無に関し,相対的に精度の低いモデルを用いる場合には,γA=1.05~1.10を用いるものとする.

7) 動的解析においては,比較的簡単な構造系に関してはγA=1.05,アーチ橋やトラス橋,免震支承を有する橋脚などの複雑な構造系の動的解析ではγA=1.10とする.ただし,構造解析に用いる構造要素モデル,減衰モデル,幾何学的非線形の考慮の有無に関し,相

対的に精度の低いモデルを用いる場合には,γA=1.15~1.20を用いるものとする. 8) 複雑な構造系に関する動的解析を実施する場合には,少なくとも2種類の構造解析ソフトを使用してベンチマークテストを実施するのが望ましい.この場合,最大・最小応答

値のみでなく,これらの応答値が生じる時刻が±1秒程度の範囲内で一致していること

を確認する必要がある.ただし,3種類以上の構造解析ソフトを用いて検討する場合は,

解析結果のばらつきの程度に応じてγA=1.00~1.05に低減してよいものとする. 表 3.5.3 鋼構造物の耐震性能照査で提案する部分係数および他の基準等での値 23)

本報告書 コンクリート 標準示方書

鉄道構造物等

設計標準

JSSC

γB1 1.10 (免震支承を有しない 場合) 1.20 (免震支承を有し,構造

系が複雑な場合)

1.05

γB2 1.0(降伏) 1.2(終局)

γF×γB1 ×γB2 =1.0~1.3

1.0(降伏) 1.2(終局)

γA 1.0 (静的解析) 1.05 (比較的簡単な構造 系の動的解析) 1.10 (複雑な構造系の 動的解析) 注]

1.0 (地震によって機能が損なわ

れない場合)

1.0~1.2 (上記以外の場合)

1.0 (動的応答解析を原則)

1.0~1.2

注]3種類以上の構造解析ソフトを用いて検討する場合は,解析結果のばらつきの程度に応じて 1.00~1.05に低減してよい

以上の結果に基づき,文献 23)で提案されている部分係数γB1,γB2,γAの値を表 3.5.3

に示す.同表には,比較のため,他の設計基準で用いられている部分係数の値についても

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記載してある. (4)荷重係数の設定例

ここでは,2007年3月に発刊された「鋼・合成構造標準示方書 Ⅲ 設計編1)」に記述さ

れている荷重係数の設定例について紹介する.3.5.3の(1),(2)で用いられている荷重係数

と若干異なる部分もあるが,それに関しては,コメントを記すことにする.

荷重係数とは,荷重の特性値からの望ましくない方向への変動,荷重の算定方法の不確

実性,設計供用期間中の荷重の変化,荷重の特性が設計の対象とする限界状態に及ぼす影

響,環境作用の変動等を考慮するための係数であり,性能照査型設計では,設計技術者が

3.1で求めた荷重の設計値に荷重係数を乗じて算出される値を用いることになる.ここで,

①「荷重の特性値からの望ましくない方向への変動」とは,橋に荷重の特性値よりも大き

な(場合によっては小さな)荷重が生じて限界状態に達した場合に極めて深刻な影響(負

の便益)をもたらす可能性のあること,

②「荷重の算定方法の不確実性」とは,荷重の大きさを算出する際に統計データが十分で

ないこと等,

③「設計供用期間中の荷重の変化」とは,例えば地球温暖化による平均気温の上昇等で荷

重自体の特性の変化が予想されること等,

④「荷重の特性が限界状態に及ぼす影響」とは,例えば衝撃的な荷重は脆性破壊のような

急激な破壊を引き起こす可能性があること等,

⑤「環境作用の変動」とは,例えば鋼材の腐食環境等の経年変化が予想されること等

を想定している.

[コメント]上記①~⑤の内,②と④は,各々,式(3.5.10)のγ3,j,γ1,j に相当する荷重

係数である.また,①は,2.3 で述べたライフサイクルコスト(LCC)最小化,あるいは,ラ

イフサイクルユーティリティ(LCU)最大化の考え方を適用する場合に必要が生じる係数で,

式(3.5.8)のγIと関連させて考える必要がある.③と⑤については,式(3.5.10)には含まれ

ていない要因であるが,経年変化を見込んでおかないと橋あるいは構造部材の耐久性に有

意な影響を及ぼすと考えられる場合には考慮する必要がある.

これらのことを考慮した荷重係数を用いる場合は,設計技術者がその値を決定すること

になるが,「荷重の特性値からの望ましくない方向への変動」および「荷重の特性が限界状

態に及ぼす影響」については,設計技術者が経験や勘に基づいて主観的に決定する要因で

あり,「荷重の算定方法の不確実性」は統計論に則って処理できる要因,「設計供用期間中

の荷重の変化」および「環境作用の変動」については,統計論に基づきながらも設計技術

者の判断がいくらか加わりながら決定される要因である.

しかしながら,これらの値を決定するのが困難な場合には,他の基準等で用いられてい

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る以下の値を採用することになる.

他の基準類で用いられている値の例として,鋼構造とコンクリート構造の限界状態設計

法に関する共通原則 25)では,

永久荷重に対して 1.0~1.2 (小さい方が不利となる場合 1.0~0.8)

主たる変動荷重に対して 1.1~1.2

という値が採用されている.

現行の道路橋示方書で採用されている荷重に関する荷重係数としては,既往の研究成果

に基づき,表 3.5.4 に示すような荷重の組合せも考慮に入れた値が提案されている 26).

表 3.5.4 日本道路協会荷重検討班の荷重の組合せ・荷重修正係数案(一部のみ引用)

鉄道構造物の設計規準である鉄道構造物等設計標準・同解説(鋼・合成構造物)18)では,

表 3.5.5 に示す値が採用されているが,設計の対象とする限界状態および荷重の組合せ別

に詳細に荷重係数が設定されている.なお,表 3.5.5 の最右列には,鋼・合成構造標準示

方書 1)における照査項目との対応が記してある.

変動荷重を 2種類以上考慮しなければならない作用の組み合わせに関しては,3.1.2で紹

介したように,設計しようとする橋あるいは構造部材に作用する主たる変動荷重の値は設

計供用期間の最大値分布(あるいは最小値分布)の 5~10%フラクタイル値とし,それ以外

の変動作用の値を設計供用期間の最大値分布(あるいは最小値分布)の期待値として組み

合わせを考慮する,いわゆる Turkstra ルール 4)が採用される場合が多い.

なお,最近では,パーソナルコンピュータの演算処理能力や容量が格段に進歩している

ことから,変動荷重の発生頻度(発生時間間隔),継続時間,荷重の大きさに関する確率分

布形とそのパラメータ値,および,荷重の変動パターン(矩形波,正弦波,鋸状波など)

が得られている場合には,変動荷重の組み合わせに関するシミュレーションを実施し,結

果として得られる組み合わされた作用の最大値,あるいは,5~10%超過確率値(あるいは

非超過確率値)を用いることも十分に考えられる.ただし,この場合,シミュレーション

は少なくとも 100 回以上繰り返すのが望ましい 24).

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表 3.5.5「鉄道構造物等設計標準・同解説(鋼・合成構造物)」の荷重組合せと荷重係数

(a)鋼橋(鋼桁)の場合

限界状態 作用の組合せと作用係数の例 文献 1)における照査項

終局限界状態の照

・1.0D+1.1L+1.1I+1.1C+{LR}+{T}

・1.0D+1.1L+1.1I+1.1C+{LR}+{LF}+

{W}

・1.0D+1.1L+{LR}+{B}+{W}

・{LR}+1.1B or 1.1LR+{B}

・1.1LF+{W}

・1.1B+{W}

・1.0D+1.1L*2+1.1C*2+1.0W

・1.0D+1.2W

・D+L+C+EQ

安全性(耐荷性能)の照

使用限界状態の照

・[D]+L+[C]・・・・・・・・・列車荷重によるた

わみ

使用性(列車走行性)の

照査

疲労限界状態の照

・1.0D+1.1L+1.1I+1.1C・・・・・・・・・疲労

限の照査

・D+L+I+C・・・・繰返し数の影響を考慮し

た照査

耐久性(耐疲労性)の照

(b)合成桁の場合

限界状態 作用の組合せと作用係数の例 本示方書における照査

項目

終局限界状態の

照査

・1.1*1D1+1.0D2+1.1L+1.1I+1.1C+1.0SH+

1.0CR+{LR}+{T}

・1.1*1D1+1.0D2+1.1L+1.0SH+1.0CR+{LR}+

{B}+{T}

・1.1*1D1+1.0D2+1.1L*2+1.1C*2+1.0W

・1.1*1D1+1.0D2+1.2W

・D1+D2+L+C+EQ

安全性(耐荷性能)の

照査

使用限界状態の

照査 ・[D]+L+[C]・・・・・・・・・列車荷重によるたわみ

使用性(列車走行性)

の照査

疲労限界状態の

照査

・1.1*1D1+1.0D2+1.1L+1.1I+1.1C・・・・・・疲

労限の照査

・D1+D2+L+I+C・・・・・繰返し数の影響を考慮

した照査

耐久性(耐疲労性)の

照査

注) ・{ }を付けた作用は,従たる変動荷重を意味する. ・[ ]を付けた作用は,必要に応じて組合せを考慮する. ・*1 コンクリート床版の死荷重に対して作用係数 1.1,鋼桁に対しては作用係数

1.0 を用いる. ・*2 空車の方が影響が大きい場合には 1.0 を用いる.

・作用の記号は下記の通り.

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D D1 D2 L I C LR LF

:死荷重 :固定死荷重 :付加死荷重 :列車荷重 :衝撃荷重 :遠心荷重 :ロングレール縦荷重 :車両横荷重および車輪横圧荷重

BWTCRSHEQ

:制動荷重および始動荷重 :風荷重 :温度変化の影響 :コンクリートのクリープの影響 :コンクリートの収縮の影響 :地震の影響

参考文献

1) (社)土木学会:2006 年 鋼・合成構造標準示方書 Ⅲ 設計編,2007 年 3 月.

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20) 日本建築学会:鋼構造限界状態設計規準・同解説,1990 年.

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会荷重検討班第1次報告書,1986 年,第2次報告書,1989 年.