Title 尿管大動脈瘻の1例

Author(s) 粟倉, 康夫; 山本, 雅一; 福澤, 重樹; 奥野, 博; 橋村, 孝幸; 福山, 拓夫; 大谷, 哲之; 土屋, 宣之; 小泉, 欣也

Citation 泌尿器科紀要 (1997), 43(4): 299-301

Issue Date 1997-04

URL http://hdl.handle.net/2433/115937

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

泌 尿 紀 要43:299-301,1997 299

尿 管 大 動 脈瘻 の1例

国立京都病院泌尿器科(主 任医長=福 山拓夫)

粟 倉 康 夫,山 本 雅一,福 澤 重樹

奥野 博*,橋 村 孝幸**,福 山 拓 夫

国立京都病院外科(主 任医長:小 泉欣也)

大 谷 哲之,土 屋 宣之,小 泉 欣 也

A CASE OF URETEROAORTIC FISTULA

Yasuo AWAKURA, Masakazu YAMAMOTO, Shigeki FUKUZAWA,

Hiroshi OKUNO, Takayuki HASHIMURA and Takuo FUKUYAMA

From the Department of Urology, Kyoto National Hospital

Tetsuyuki OTANI, Nobuyuki TUCHIYA and Minya Kotzumi

From the Department of Surgery, Kyoto National Hospital

We report a case of ureteroaortic fistula. A 69-year-old man with rectal cancer underwent a

pelvic exenteration and a double-barreled cutaneous ureterostomy in the right lower abdomen. Stomal stenosis necessitated continuous indwelling of double J stents in the two ureters. Two years

postoperatively, massive bleeding occurred during exchange of double J catheters. Occlusive ureterogram demonstrated a ureteroaortic fistula at the crosspoint between the left ureter and the aorta. The surgical repair consisted of closure of the aortic fistula, ligation of the left ureter proximal to the fistula and percutaneous left nephrostomy.

(Acta Urol. Jpn. 43: 299-301, 1997) Key words : Uretero-aortic fistula, Ureterocutaneostomy, Ureteral catheter

緒 言

尿管動脈痩は稀な疾患で,自 験例を含めて文献上39

例報告 されている。本疾患は尿管皮膚痩造設術後の尿

管カテーテル留置の合併症として重要であ り,予 後不

良であるため迅速な診断と治療が不可欠であると考え

られる.わ れわれは尿管大動脈痩の1例 を経験 したの

で報告する.

症 例

患者:69歳,男 性

主訴:尿 管皮膚痩のス トーマよりの出血

既往歴:胃 潰瘍(58歳)

現病歴:1990年5月31日,直 腸癌にて骨盤内臓器摘

除術,人 工肛門造設術,右 単一開口両側尿管皮膚痩術

を施行 した.同 年7月 頃より尿管狭窄のため両側に尿

管カテーテルを留置 していた.1992年4月10日 頃より

血尿,発 熱が出現 した.4月15日,カ テーテル交換時

に左尿管カテーテルを抜去 した際,多 量の出血があ り

緊急入院となった.出 血はカテーテルの再留置により

*現:京 都大学医学部泌尿器科学教室

**現:国 立姫路病院泌尿器科

止 血 す る こ とが で きた.

入 院 時検 査 成 績:血 算,生 化 学 検 査 で は貧 血,低 蛋

白,低 ア ル ブ ミ ン血 症 の他 は特 に異 常 所 見 は認 め られ

ず,腫 瘍 マ ー カ ー も正 常 範 囲 内で あ っ た.尿 沈 渣 で は

左 腎 孟 尿 で 赤 血 球 が 多 数 認 め られ,尿 培 養 で はEn-

terococcusが105/ml以 上 検 出 さ れ た.尿 細 胞 診 は

classIIで あ った.

X線 所 見:CTで は左 腎 孟 内 に 凝 血 塊 と 思 わ れ る

lowdensityの 像 が 認 め られ た.左 腎 動 脈 大 動 脈 造

影 で は異 常 所 見 は認 め られ な か っ た.さ らに,左 尿 管

と大動 脈 の交 通 を疑 い 閉塞 性 尿 管 造 影 を実 施 した.左

尿 管 と大 動 脈 の 交 叉 部 位 よ り も末 梢 側 で バ ル ー ン カ

テ ー テ ル に よ り尿 管 を 閉塞 して造 影 剤 を注 入す る と,

交 叉部 位 よ り大動 脈 の 陰影 が 認 め られ た(Fig.1).以

上 の所 見 よ り左 尿 管 大 動 脈 痩 と診 断 した.

手 術 所 見:1992年6月2日,尿 管大 動 脈 痩 閉鎖 術 を

施 行 した.尿 管 は大 動 脈 分 岐 部 よ り約lcm中 枢 側 で

大動 脈 と強 く癒 着 して い た.大 動 脈 中枢 側 と両 側総 腸

骨 動 脈 の血 流 を遮 断 し,大 動 脈 と癒 着 した 尿 管 部 分 を

切 除 した.切 除後 の尿 管 は結 紮 す るの み に と どめ再 建

は 行 わ な か っ た.痩 孔 を4-OProieneaに て 連 続 縫 合

し手 術 は終 了 した.切 除尿 管 の病 理所 見 は慢 性 尿 管 炎

で あ っ た.左 腎 に 関 して は廃 絶 す る予 定 で あ った が,

300 泌尿紀要43巻4号1997年

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左 腎 孟 腎 炎 と思 わ れ る 熱発 が あ った た め,約1カ 月後

の7月8日 に ドレナ ー ジ 目的 で左 腎痩 造 設 術 を施 行 し

た.

術 後 は特 に重 篤 な 合 併 症 も な く,9月10日 に退 院 し

た.患 者 は1996年10月20日 現在,腫 瘍 の再 発 な く健 在

で あ る.

考 察

尿 管 動 脈 痩 は稀 な疾 患 で あ り本 邦 で は 自験 例 を含 め

て10例 報 告 され て い る(Tablel)卜8)欧 米 で は1992

年Bullockら が 集 計 した25例 を含 め9),29例 の報 告 例

が あ る10'14)

以 上 の39症 例 につ き尿 管 動 脈 疲 形 成 の 病 因 に関 して

検 討 した.痩 孔 形 成 に は ほ とん どの 症 例 で 複 数 の 病 因

が 関与 して い るが,尿 管 側 と動 脈 側 の 病 因 に大 き く分

け る こ とが で きる.

尿 管 側 で は,尿 管 カ テ ー テ ル留 置 が39例 中26例 を し

める.こ のうち骨盤内手術後の留置例が16例 あ り,そ

の内訳は大腸癌,直 腸癌のため骨盤内臓器摘除術が6

例,膀 胱全摘除術が8例,子 宮全摘除術 が2例 であ

る.そ の他の尿管カテーテル留置例 としては妊娠中の

水腎症 ・腎孟炎による ものが3例,尿 管結石が4例

(尿管切石術後が3例,結 石による尿管閉塞が1例),

その他が3例 である.

動脈側では動脈瘤などの血管病変が15例 ある.こ の

うち血管外科手術を行った結果,動 脈 と尿管の癒着あ

るいは尿管閉塞を生 じた例が12例 をしめる.

以上より尿管動脈痩の形成には尿管カテーテル留置

が重要な病因となっていることが推察 される.特 に骨

盤内手術後の尿管カテーテル留置例が多 く,そ の痩孔

発生の機序として,手 術操作によって尿管 と動脈が癒

着 してカテーテルによる慢性感染や圧迫が加わったこ

とが考え られる8・9>さ らに,カ テーテル交換時にガ

イ ドワイヤーで尿管壁を突 くことも直接の病因として

考えられる.し か し,当 科では交換時古いカテーテル

にガイ ドワイヤーを通 して抜去 しているため,本 症例

の病因とは考えられない.ま た,尿 管カテーテル留置

による尿管静脈痩の報告例 はわずか に1例 のみであ

り14),動 脈の拍動に よる尿管の圧迫 も尿管動脈痩の

発生に深 く関与 しているとの報告 もある13)

尿管動脈痩を術前に診断できた例は39例 中Il例 にと

どまり,根 拠 となった画像診断は逆行性腎孟造影が7

例,大 動脈造影が2例,閉 塞性尿管造影が2例 であ

る.画 像診断によって本疾患 を診断することは比較的

困難であることがわかる.

尿路側に対 して本症例のように腎を温存で きた例 も

認められるが,術 前に腎出血が疑われた場合や腎機能

低下や感染 を伴 う場合は,腎 尿管摘出が行われてい

る.動 脈側に対 しては感染が認められる場合バイパス

手術が一般的に行われているが,本 症例のように直接

痩孔部を縫合す ることによって治癒せ しめた例 もあ

る.こ のように患者の状態に応 じて治療法が選択 され

ているが,39例 中12例が大量出血や術後の敗血症など

Table1.Casesofuretero-arteriaifistulalntheJapaneseliterature

報告者 ・年度 尿管動脈痩の種類 基 礎 疾 患 カテ ーテル留置 転帰

赤 羽(1983)左 尿管総腸骨動脈痩

高 橋(1984)左 尿管大動脈痩

谷

高

石

Jli(1987)

山(1990)

月1(199D

西 谷(1992)

南 出(1993)

塚 本(1994)

自馬灸f列(1996)

左尿管大動脈旗

左尿管大動脈痕

左尿管大動脈旗左尿管総腸骨動脈痩

左尿管総腸骨動脈痩

右尿管総腸骨動脈痩

左尿管大動脈旗

左尿管大動脈痕

血管外科術後

骨盤内臓全摘除術,尿 管皮膚痩術後解離性腹部大動脈瘤

骨盤内臓全摘除術,尿 管皮膚旗術後

骨盤内臓全摘除術,尿 管皮膚痩術後

膀胱全摘除術,尿 管皮膚痕術後骨盤内臓全摘除術,回 腸導管術後術後骨盤内膿瘍形成

膀胱全摘除術,尿 管皮膚痩術後方　身寸線療?去

右総腸骨動脈瘤,血 管外科術後

膀胱全摘除術,尿 管皮膚旗術後

骨盤内臓全摘除術,尿 管皮膚痩術後

留置せず

2カ 月

6カ 月

5カ 月

16カ 月

留置せ ず

5カ 月

留 置 せ ず

18カ 月

17カ 月

治癒

死亡

治癒

治癒

死亡

治癒

治癒

治癒

治癒

粟倉,ほ か:尿 管大動脈痩 尿管皮膚痩カテーテル

により死亡 してお り,本 疾患は予後不良であることが

わかる.

本疾患は術前診断が比較的困難であるが.予 後不良

であることか ら迅速 な対応が要求 される.し たがっ

て,尿 管カテーテルを留置 している患者で著明な肉眼

的血尿あるいは出血があった場合,特 に骨盤内手術後

の患者の場合は,本 疾患を鑑別診断することが重要で

ある.ま た尿管皮膚痩を造設する際は,本 疾患を予防

するため,尿 管 と血管の間に大網を介在 させる等の処

置をして尿管 と血管が直接交叉しないようにすること

が必要と考え られる8)さ らに尿管カテーテルの留置

が必要な場合,で きるかぎり短期間にとどめ材質が柔

軟で径の細いカテーテルを用いるように努めるべ きで

あると思われる9)近 年,尿 管カテーテルを留置する

機会が以前に比べて増加 している.し たがって,尿 管

カテーテル留置の稀ではあるが重要な合併症 として,

本疾患に対 して認識を新たにする必要があると考えら

れる.

結 語

69歳男性の尿管大動脈痩の1例 を経験 したので報告

した.尿 管動脈痩 は稀な疾患で自験例は文献上39例 目

(本邦10例 目)で あった.本 疾患は尿管カテーテル留

置の重要な合併症と考えられた,

本論文の要 旨は第154回 日本泌尿器科学 会関西地方会 にお

いて発表 した,

文 献

1)赤 羽 紀 武,氏 家 久,梅 沢和 正,ほ か:突 発 性 大

量血 尿 を生 じた腸 骨動 脈尿 管痩 の1例.日 外 会誌

84:648-653,1983

2)高 橋 喜 成,猪 狩大 陸,和 賀 井 哲 吉,ほ か:尿 管 皮

膚痩 術 後尿 管 腹 部 大動 脈 痩 を きた した1例.日 泌

尿 会 誌75:866,1984

3)谷 川 俊貴,北 村 康 男,佐 藤 昭太 郎,ほ か:尿 管 皮

301

膚 痩 術 後 に 生 じ た 大 動 脈 尿 管 痩 の1例.臨 泌

41:1065-1068,1987

4)高 山 豊,多 田 祐 輔,高 木 淳 彦,ほ か=直 腸 癌 術

後(骨 盤 内 臓 全 摘 術)に 発 生 した 大 動 脈 尿 管 痩 の

1治 験 例.日 外 会 誌91:645-648,1990

5)石 川 清 仁,浅 野 晴 好,日 比 秀 夫=動 脈 尿 管 痩 の2

例 。 臨 泌46:223-226,1992

6)西 谷 真 明,鳴 尾 精 一,浜 尾 巧,ほ か:単 一 開 口

両 側 尿 管 皮 膚 旗 造 設 術 後 に 発 生 した 左 尿 管 左 総 腸

骨 動 脈 痩 の1例.西 日 泌 尿54:1617-1620,

1992

7)南 出 雅 弘,岡 野 達 弥,井 坂 茂 夫,ほ か:総 腸 骨 動

脈 瘤 尿 管 痩 の1例.泌 尿 紀 要39:1163-ll66,

1993

8)塚 本 拓 司,藤 岡 俊 夫,月 脚 靖 彦,ほ か 二尿 管 皮 膚

痩 に 合 併 し た 尿 管 大 動 脈 痩 の1例.日 泌 尿 会 誌

86:949-952,1995

9)BullockA,AndorioleGL,NeumanN,etal.:Renal

autotransplantationinthemanagementofa

uretcroarterial丘sutula:acasereportandreviewof

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aorticfistula:aseverecomplicationofuretero-

cutaneostomy.EurUrol17:262-263,1990

12)ZwcersHMM,vanDrielMFandMensinkHJA:

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俣:織臨 蹴 論1器1)