14
Title 膀胱炎に関する研究 第1編:臨床的観察 Author(s) 日野, 豪 Citation 泌尿器科紀要 (1959), 5(10): 991-1003 Issue Date 1959-10 URL http://hdl.handle.net/2433/111845 Right Type Departmental Bulletin Paper Textversion publisher Kyoto University

Title 膀胱炎に関する研究 第1編:臨床的観察 泌尿器 …...991 泌尿示己要5醤10ン ナ,昭 和34年10月 膀 胱 炎 に 関 す る 研 究 第1編 臨 床的観

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Title 膀胱炎に関する研究 第1編:臨床的観察

Author(s) 日野, 豪

Citation 泌尿器科紀要 (1959), 5(10): 991-1003

Issue Date 1959-10

URL http://hdl.handle.net/2433/111845

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

991

泌 尿示己要5醤10ン ナ

,昭 和34年10月

膀 胱 炎 に 関 す る 研 究

第1編 臨 床 的 観 察

京都大学医学部泌尿器科教室(主任 稲田 務教擾)

助 手 日 野 豪

Studies on Cystitis

Report I. Clinical Observations

Takeshi HIND

From the Department of Urology, Faculty of Medicine, Kyoto University

(Director : Prof. T. Inada)

This report deals statistical observations on nontuberculous cystitis containing 2,209

cases of outpatients in the Urological Clinic of Kyoto University Hospital from 1954 to 1958.

1) Number of the nontuberculous cystitis representing 20.7% of total outpatients was

almost equal to number of the cases of genitourinary tuberculosis which was most common

disease in the total number of outpatients.

The ratio of male and femal was in the 1 : 1.

2) Half cases of all acute cystitis were in the agegroup of 21-40, and two-third of all

acute cystitis in female were in this age group.

3) Acute cystitis occured most frequent in the summer season.

4) Pollakisuria, pain by urination and hematuria were common symptoms. Number

of patients complaining of all of these three symptoms represented 20% of the total patients.

5) 1,381 cases had complications. As complications in upper urinary tract stone disease

was most common. Nephritis seemed to have a certain relationship with cystitis, particu-larly acute nonbacterial hemorrhagic cystitis. As complications in bladder vesicolithiasis

was most common, anomaly of trigone ranked next and carcinoma followed them. As com-

plications in urethra and male genital organ, benign hyperplasia of prostatic gland ranked

by an overwhelming majority and urethral stricture followed. Cystitis in female comming up after or during new-marriage, menstruation, pregnancy, abortion, childbirth or childbed

was frequently observed.

6) Cystoscopic examinations were performed in 1,769 cases of nontuberculous cystitis.

865 cases were diffusive cystitis and others localized. 673 cases were with hyperemic change

only, in which 340 cases were diffusive and others localized at trigone and internal urethral

orifice. 171 cases had submucous hemorrhagic changes of which 42 were nonbacterial

origin. 463 cases had turbid mucous changes without other inflammatory changes except

hyperemia, and 349 of them were diffusive and others localized. 293 cases had edematous

or bullous edematous changes of which 90 had complications (intramural stone, stone

discharge, bladder stone, foreign bodies in bladder, vesicovaginal and vesicointestinal fis-

tules, malignant tumors of uterus etc.). Beeing confusable with infiltration of carcinoma,

bullous edematous change arround malignant tumors in bladder was eliminated in this

992 日野一膀胱炎 に関す る研究(第1編)

report. Changes with small rising on membrane (f. ex. cystic and follicular changes,

granules, nodules etc.) were observed in 126 cases. 59 cases had erosions and ulcers, 18

had polyps and 28 had leucoplacic changes.

1緒 言

膀 胱 炎 は我 汝 の 日常 経験 す る最 も普 通 の疾 患

の 一つ で,原 発性 の もの に,他 の泌 尿 器科 的疾

患 に続 発 した もの を加 え る と我 汝 の外 来 患者 総

数 の 約1/5を 占 め る とい う最 も 多 い疾 患 で あ

る.私 は この 豊 富 な材 料 に つ い て臨 床 的 観察 を

行 う事 は 大 きな意 義 を有 す る と考 え,本 篇 に於

て1954年 よ り1958年 に至 る5年 間 の結 核 性膀 胱

炎 を除 く2,209例 に つ い てそ の臨 床 像を 観 察 し

た.

皿 臨 床 的 観 察

1954年 よ り1958年に至 る5ヵ 年間に,京 大泌尿器科

教室外来 を訪れた結核を除 く外来膀胱炎患者2,209例

について臨床的観察を行つた,

1頻 度

5ヵ 年間の 外来患者総数10,685名 中膀胱炎 患者は

2,209名 で尿路性器結核 とほぼ 同数で 第1位 を 占め

る.膀 胱炎患者数の外来患者総数に対する比率,結 核

性膀胱炎 との関係,男 子膀胱炎患者数 と男子外来患者

総 数に対する比率及び女子膀胱炎患者数の女子外来患

者総数に対す る比率 は表1~3の 如 くであ る.

即 ち表1の 如 く最近5力 年間の外来膀胱炎患者総数

の外来患者総数に対 する百分率は平均20.7%で あ り,

各年度間に有意の差は認め られない.他 の統計例えぽ

東大 の最近5ヵ 年平均10.4%,長 崎大学の昭和23年 よ

り27年に至る5力 年平均12.3%,弘 前大学の昭和27年

か ら31年までの5力 年平均12。8%よ り多いけれ ども,

私の統計では後述の如 く他 の泌尿器科的疾患の合併症

表1膀 胱炎頻度及び結核性膀胱炎

年艦 縄魏囎%羅 懸1鷹:匪ず11

195411,9332382;19.898i3.9:1

19551,99038619.49014.3:1

iII

195612,132…411119・3…9314・4・1

 

19572,252…520.2:,.1・915.711

     

1958E2,S7S[510121・4、8gl5.7・1

計1・ ・68512,21・12・ ・フ1461[

表2男 子膀胱炎頻度

年度 署子総 隠響 劃%

1119541,4211199i14.0

195511,4、 、821・114.5

1956i1,、 。,23114.、   

1957i1… ㌧2631・4・4

19581,693247=15.9

計 旨7,828…1,150Il4,7

表3女 子 膀 胱 炎 頻 度

年度麟 馴 意辮 防19541512183135.8

195554217632,5

1956{524180531.4

19571594257.43.3

19586851263「38.4

計12,8571,05937。11旨

としての膀胱炎 も併せて観察 するため,結 核性膀胱炎

を除いたすべての膀胱炎を対象 に したためこの様に高

率 となつた.し か し泌尿器患者 総数 に対する百分率に

年度差 の認め られないのは他の統計 と同 じである.

本統計では尿路結核 は除外 してあ るので,こ こで結

核性膀胱炎 と,こ の統 計の対象 となる非結核性膀胱炎

との関係を見 ると,結 核性膀胱炎 が最近5ヵ 年間に絶

対数に於 ては増減が見 られぬ とはいえ,外 来患者総数

の増加に伴つてその頻度が減少 して くるのに対 して,

非結核性 のものは外来患者総数 の増加に伴って増加 し

て来ているので,結 核性 膀胱炎は 他の膀胱炎に対 し

1954年 に約1:4で あつたものが.年 々その比を減 じ,

1958年 には約1:6に なつ てい る.

男子膀胱炎患者総数 の男子外来患者総数に対す る百

分率は表2の 如 く,5力 年平均14.7%で,こ れ も各年

度間に差 は認め られな い.女 子膀胱炎患者総数の女子

外来患者総数に対する百分率は表3の 如 く,5ヵ 年平

均37.1%と 非常 に多 く,絶 対数に於て男子のそれ とほ

日野一勝胱炎に関する研究(第1編)

ぼ同数である.膀 胱炎が女子に多い事は女子 の外尿道

口が左右の小陰 唇の間で前庭部にあ り,そ のため尿,

子宮膣分泌物,便 等に より汚染 され易 く,さ らに尿道

が比較的広 く短か く直線的であ り,又 女子に於 ては月

経,分 娩,産 褥等の生理現象があ り,し か も赤須等に

よるとしば しば便秘症を伴 う事等種々の好 条件をそな

えているためであるとされ てい る。荒 川等の男女比1

=1.66,市 川等 の1:1.8,Suterの354=460等 いず

れ も女子に多い.

993

1954

1955

1956

1957

1958

11

0

0

3

2

3i7

03

20

15

16

43

24

621

911

12

29

19

13

28

29

22

6

10

21

19

14

5

16

20

il51

86

53

1484

2153

2410128

小 計 ・il6111Sl751・21・8:・9.321…

計 ♀32613571195169.11496135i1,059

2性 及び年令

膀胱炎はその原因,膀 胱鏡所見から種 々の形に分類

され るが,こ れ については後に記す事 に して,ま ず急

性症と慢性症に大別 し,こ の夫 々について性及び年令

的関係を示 した ものが表4及 び図1及 び2で ある.

表4性 及び年令

3〃

急性・階 。1"発121需31拓:瑠51詔61充171一 計

,217 i2i

4i

7i[sl

2〃

1954

1955

1956

1957

1958

52225

152723

182622

162433

83038

26

21

27

22

30

8

13

9

10

7

10

10

11

3

0

2

0

ill

102

105

123

131

129

小 計}62;12gi141…13652・51・ ・i59・

〃〃

5〃

図1急 性膀胱炎

♂+♀

八♀1

!♂ \

〆プ'へ へ、

ク/\多ノ \

渓,、曳●凸の一

102eJO40∫ObO704合

図2慢 性膀胱炎

慢性司

1954

1955

1956

1957

1958

120

1

0

0

0

3

2

8

13

10

18

・ln

・}

18

i4i

221・ ・1

17251

iIl11271

17127

i7120i

23[2gi24i29

8

15

16

21

39115

97

105

108

132

118

2gl・ ・,・ ・841261447Sl56・

2eo

lee

"

,一 ・99● \ノ ヘ

ロ ノ も

ゆ ゾ 札 へこ\∠" 意

挿 ・t';'

小 計 ・

計6.i・3Sl・ ・ll1961・6171163811,15・

1020」 〃4e5060ク0年 合

急性 ♀

1954

1955

1956

1957

1958

4

8

6

5

5

6

6

9

12

12

48

55

39

40

57

16

25

18

28

33

136

187

134

116

12 i3i

3

4

6

1

0

1

2「0

2 1

97

123

96

104

135

小 計;2Sl4・123gi12・1・ ・13617・555

慢性 ♀

i)急 性膀胱炎 総計1,145例 で内,男 子5go例,女

子555例 である.年 令別に見ると21~30才 に最 も多 く

380例(29.5%)を 占め,次 いで31~40才 の256例

(22.6%)で,21~40才 が半数以上を占め ている.

これを男女別に見ると,女 子は更にこの傾向が著 明

に見 られ,21~30才 が43.1%,21~40才 では64.7%と

な り,ほ とんど2/3を 占めている.一 般 に性生活の旺

盛な時期 に膀胱炎が多いとい う事は一般 に認め られて

いる所であるが,女 子に於ては男子 よ り更 に大 きな影

響 を受け る事 を示 している.又 女子に於いては妊娠,

分娩,産 褥 とい う一連の重荷をほ とん どこの時期に担

うのであ り,女 子膀胱炎患者の18%は 妊婦であつた と

994 日野一膀胱炎 に関する研究(第1編)

い う山本 の報告か らも充分 うなづける事である.

ii)慢 性膀胱炎 について見ると,男 子 のそれは年令

と共に増加 し,61~70才 が 最 も 多 い(144例,25・7

%)こ れは下部尿路 の結石,腫 瘍等 がこの年 令に多

いためである.女 子について見ると21~30才 及び41~

50才 に最 も多いが.21~70才 までの間に著 明な ピーク

が認め られない.こ れは女子の膀胱括約筋部炎(尿 道

膀胱炎),慢 性三角部炎がこの年令に平均 して多いた

めであ ると考え られる.

表6自 覚症

症 状

3急 性膀胱炎の季節的関係

急性膀胱 炎の発生季節をみると表5の 如 く,夏 に多

表5急 性膀胱炎の発生季節

野12

1

2

1954

13

16

7

312

412

518

6

?

8

34

25

32

9

10

11

18

4

8

1955

17

11

15

1956

6

14

17

1419

1122

17旨8F

28

45

24

21

10

15

37

33

23

13

4

13

1957

6

14

29

18

16

22

32

42

24

9

9

14

1958

15

22

24

18

9

20

39

34

e3

25

20

5

57

77

92

81

70

95

170

179

136

86

47

55

冬226

(19.7%)

頻 尿

排尿痛

血 尿

残尿感

下腹部不快感

尿潤濁

下腹部痛

排尿後不快感

尿失禁

腰 痛

発 熱

尿道灼熱感

排尿困難

排尿時不快感

尿線中絶

総 数(1385例)

835

741

353

179

81

81

62

39

21

16

7

6

6

4

3

春246

(21.5%)

夏485

(42.3%)

秋188

(16.4%)

11,145く485例(42.3%)で,他 の季節 のほぼ2倍 である.

冬,春 及び秋には差は認め られ ない 飯 田は北大に於

いて非結核性婦人膀胱炎の全婦人泌尿器科外来患者 と

の月別発生頻度 と月別の気圧,湿 度,気 温との関係を

比較 し,北 海道 に於いては湿度 は2,3月 に高 く,気

温は7.8月 に高いが,3月 及び7,8月 に最 も膀胱

炎発生率が高い事から湿度及び気温の上昇 と婦人膀胱

炎の発生頻度に相関関係のある事を認め,又 桜井 も高

温高湿の時に多いと述べ ている,近 畿地方は7月 が梅

雨期 に当 り,高 温多湿であ るので,夏 期 に多い理 由と

して一応考え得 ると思 う。

4自 覚症

泌尿器科的合併症を伴わないもの及び合併症があつ

ても明かに膀胱炎に よる症状 と認め られ る自覚症を も

つ もの1,385例 について 自覚症を列記すれば表6の 如

くである・即ち頻 尿が最 も多 く60%に 見 られ,次 いで

頻尿+排 尿痛+血 尿289

頻尿+排 尿痛402

排尿痛 で全例 の53,5%に,次 いで血尿 で全例の52%に

見られた.次 いで残尿感(13.0%),下 腹部乃至膀胱

部の不快感(6%),尿 潤濁(6%)の 順 である.又

頻尿,排 尿痛 及び血尿を同時に訴えた ものは289例 で

約20%に 見 られ,頻 尿 と排尿痛を同時に訴 えた ものが

402例(30%)で あった.古 来膀胱炎の三主徴 として

成書に頻尿,排 尿痛及び膿尿が挙 ゲられているが,潤

濁尿がすべて膿尿であ るとい うわけでないが.尿 濁濁

として自覚され る膿尿が少いのは患者が出血を発見す

る事は容易であつて も尿掴濁を 自覚す る事が少いため

であ ると考えられ る.

5合 併症

合併症又は膀胱炎 の誘因又 は慢性化の原因になると

思われる疾患を もっ もの1,381例 について観察 した.

i)上 部尿路及び腎実質

上部尿路及び腎実質に合併症 を有する ものは337例

で表7に 示す如 くである.最 も多いのは腎及び尿管結

石(130例)で,次 いで腎孟炎(46例),水 腎症(40

例),腎 炎(31例)と なっている.こ れ らの内,尿 路感

染症 として膀胱炎 と一連の 関係を 有す る ものは 腎孟

炎,腎 孟腎炎,膿 腎症 の計60例 であ る.血 行性に して

も,尿 管壁内 リンパ管に よるものに して も膀胱の感染

症か ら腎の感染症を起すためには機能的或は器質的に

通過障碍を来す様な因子が存在する事が重大 な条件で

あ るといわれているが.之 に関係あ るものに結石症,

腎下垂症 ・水腎症,尿 管けいれん症等がある(215例),

目野一膀胱炎に関する研究(第1編)

表7合 併症(1)腎 及び上 部尿路 表8合 併症r2!膀 胱

995

隷19・41955.195619…958計 選 195419551956195719581M'

腎及び尿管結石症

腎 炎

腎孟炎

腎孟腎炎

膿腎症

腎下垂症

水腎症

腎出血

腎腫瘍

翼胞腎

尿管けいれん症

海綿腎

ネフローゼ

乳び尿症

腎及び尿管崎型

26

41

9!

O[

2

7

2

2:

oI

liOl

ll

・1

,,1284

5

1

7

5

3

3

1i

・1

:

li

1L

6

5

11

11

?

:

:0

29

11

17

0

1

6

17

6

2

2

2

0

0

0

22.130

631

10146ト

Oi2

i;12

8i35

1σ40

ユi13

14

117

110

01

01

111

14

計 54486795ア3337

腎及び尿管結 石について興味あ る事は,こ れ と濾胞性

膀胱炎 との関係で,膀 胱底部にこの種の変化があ るも

のの大部分に上部尿路結 石が認められた.腎 炎を合併

した ものが31例 あった.腎 炎 と膀胱炎特に非細 菌性急

性出血性膀胱炎について見 ると,非 細菌性急性 出血性

膀胱炎 を土屋は アレルギー又はシユワル ツマ ン現象で

説明 し,又 全身性 シユ ワル ッマ ン現象を初め て記載 し

たApilzは 最 も特徴的な 病変 として 両側性腎皮質壊

死 をあげ,沖 中等は糸球体腎炎 の一型 と考え,全 身性

シユワル ッマ ン反応の手続 きに よ り実験的に種 々の段

階の糸球体腎炎 を起 し得 る事をい くつかの実験成績か

ら示 している.出 血性膀胱炎の際には特殊型 として腎

孟尿管の粘膜に も変化を伴 う事あ りとされているが,

腎皮質に も変化を来す事 も可能であると考えられ る.

ii)膀 胱

膀胱 に合併症 を有する ものは511例 であ り,膀 胱三

角部異常(151例),膀 胱癌(112例),膀 胱結石症

(105例)が 多 く,次 いで 結石排 出後J神 経因性膀

胱,膀 胱憩室,膀 胱膣痩 の順になつ てい る.膀 胱三角

部に形態異常があ り,炎 症性変化を伴わないで頻尿,

排尿時不快感或は疹痛,下 腹部痛,血 尿等 の膀胱炎様

症状を来す ものを膀胱三角部異常症 として稲 田教擾に

よ り記載 され,膀 胱疾患の 重要な 地位を 占め ている

が,稲 田教擾によれば,膀 胱三角部筋は膀胱 の他部 と

異 り,尿 管のそれの延長で,一 方は尿管 口問隆起を形

成 し,他 方にはBell氏 筋 となつて内尿道 口を通 り後

膀胱結石症1161

結石排 出後15!

雛石 周膀胱乳頭腫o

膀胱癌IoI I尿膜管腫瘍0

膀胱異物1i

膀胱三角部異常15L

神経因性膀胱4:

所謂膀胱頸部疾患Ii

膀胱頸部柵形成ol

膀胱 憩室1

膀胱三角部欠損Ol

膀胱膣痩1!

膀胱腸痩oi

膀胱皮層縷0

膀胱砕石術後Ii

高位切開術後0」

232912351211

3'11

0013

12!1

2312127E

ilol21

0i12

18421397.415

i}iii2…2 ,3

0旨liO

l…?1:10…021

,4igi

oj3i

ol

31:

21

11

37

4121

0

2

0i

210IOl

o{

31

105

ρ2

6

7

4

112

6

5

151

24

10

4

19

3

10

1

1

6

5

計 5792115[1三 ・11121511

部尿道に入 り精阜の前方にまで達 している.尿 管 口が

内尿道 口に接近 してお り,従 つて尿管口間隆起 も内尿

道口に接近 しておれば,尿 管の排尿運動は三角部か ら

内尿道 口及び後部尿道に直接的に且つ絶え間な く強 く

伝達せ られ,従 つて トーヌス も高ま り,過 敏,不 安定

な状態にある.こ の様な状態の もとに後部尿道の陰部

神経が刺戟 されて種 々の排尿異常が起 るのであるが,

この様な状態にある三角部,内 尿道 口,後 部尿道は僅

かの原因に よつて も充血を来 し更に出血,炎 症性変化

を来たす事 もあ り得 ると云 う.膀 胱三角部 異常症 と膀

胱三 角部の形態異常 に炎症の合併 した もの とは厳密に

区別され るべ きものであ り,尿 所見及び膀胱鏡所見 よ

り容 易に区別され るが,膀 胱 三角部の形態異常が膀胱

炎特に膀胱三 角部炎を起す一つの因子にな り得る事は

充分考 えられ る.

膀胱結石による膀胱粘膜損傷及び膀胱癌表面組織崩

壊 によ り膀胱 内に細菌感染が起る事は容易に考え られ

るが,こ れ らの疾患 と膀胱炎 との関係にっ いては別項

に記載する.そ の他膀胱 内に尿貯留を来す疾患 として

神経 因性膀胱,所 謂膀胱頸部疾患,膀 胱頸部柵形成,

膀胱憩室等 あわせて57例 に認められた.

iii)尿 道及び男子性器

尿道及び性器の台併症は401例 で,前 立 腺 肥 大 症

996 日野一膀胱炎に関す る研究(第1編)

表9合 併症(3)尿 道及び男子性器

逮 」19・41955195619571958計

前立腺結石症

尿道結石症

前立腺肥大症

前立腺癌

前立腺摘出術後

尿道腫瘍

女子尿道ヵルンケル

尿道腫瘍術後

尿道狭窄

尿道炎

前立腺炎

精嚢炎

前立腺膿瘍

尿道周囲膿瘍

尿道脱

尿道憩室

導尿後

急性副睾丸炎

0

4

16

1

1

0

1

1

13

9

1

1

1

1

0

1

0

0

4

1

25

2

3

2

1

1

39

8

1

0

0

0

0

0

2

3

1

26

2

6

0

2

0

7

12

2

0

1

0

0

O

O

1

2

1

24

4

7

0

4

0

16

16

5

0

2

2

0

0

1

7

4

3

29

7

7

0

4

0

14

15

1

1

4

1

1

0

1

0

11

12

120

17

24

2

13

2

89

60

10

2

8

4

1

1

4

11

計 i51図 ・・j1・lig11・ ・1

(130例)が 最 も多 く,次 いで尿道 狭 窄(89例),尿

道炎(60例),の 順になつている.内,尿 道通過 障碍

を来す疾患即ち前立腺腫瘍,尿 道腫瘍,結 石及び狭窄

を併せると263例 で過半数を占め,尿 道,尿 道附属腺

及び性器の炎症 は96例 であ り,結 局下部尿路通過障碍

と,先 発叉は続発す る炎症性疾患で占め られてい る.

iv)婦 人科的関係

表10合 併症〔4)婦 人科的関係

年 度 19S・11955119S6ilgS7[19SSI計

分娩(産 褥)

流産

人工流産

月経

新婚

妊娠

陰門腔炎

トリコモナス膣炎

子宮頸管炎

子宮内膜炎

卵管炎一膀胱周囲膿瘍

卵管結紮術後

子宮癌

卵巣腫瘍

子宮癌手術後

3

0

1

1

0

2

3

0

1

0

0

0

1

0

0

2

1

1

4

1

0

0

0

3

0

0

0

0

1

1

7

0

0

1

0

0

4

1

1

0

1

0

1

0

0

4

0

1

4

0

3

2

0

2

0

1

0

2

O

0

3

0

1

5

3

7

2

1

2

1

0

1

2

0

0

19

1

4

15

4

12

11

2

9

1

2

1

3

1

1

計 1・・11411611gド ・191

この項 には婦人科的含併症の外に月経,結 婚,妊

娠,分 娩(及 び産褥)と い う一連の生理現象に続発,

或 いはその経過 中に 発生 した 膀胱炎 の 例数を 記載 し

た.こ れに流産及び人工流産直後に発生 した ものを加

えると55例 で過半数を占め る.一 般に性生活の旺盛な

時期に膀胱炎が多 く,特 にこの傾 向が婦人に多 く見 ら

れ る事は前 に述べた如 くであ るが.三 谷によれぽ結婚

直後に初発する女子泌尿器疾患 中非淋菌性膀胱炎 が最

も多い とい う.さ らに山本に よれば女子膀胱炎患者89

例中妊婦の占め る割合 は18%で あ り,妊 婦子宮が小骨

盤腔 を占拠するといわれ る妊娠3~5ヵ 月間が大多数

を占めるとい う.一 方Crabtreeに よれば 妊婦の膀

胱 は細菌に対 し一般に強 い抵抗力を もち,た とえ何 ヵ

月間に もわたつ て患腎か ら膿 尿が排泄 されて も膀胱炎

を起す事は少い と述べている.妊 娠子宮に よる何 らか

の影響が必要であ り.Lowsleyに よれぽ 妊娠3ヵ 月

後半の妊娠後屈子宮又は妊娠後半の胎児頭の圧迫 によ

る膀胱内尿貯留に よ り膀胱炎 が起 る事が多 く,こ れを

整復す る事が最上の治療 であ ると述べている.又 相沢

によれば妊婦の膀胱内圧値は妊娠4ヵ 月頃 より緊張減

退を示 し始め,妊 娠9カ 月でその極度に達するといわ

れるが之 も感染 を助長する因子であると考えられる.

又彼に よると妊娠10ヵ 月には68.8%に 頻尿が見られ る

とい うが,こ れ は妊娠子宮の圧迫に よる膀胱特に三角

部,頸 部に充 血が起 るためと考え られ る.分 娩後即ち

産褥中に発生 した膀胱炎は19例 であ り,最 も多い.産

褥中に膀胱炎を起す事が多い とい う事は一般に認め ら

れてお り,LOwsleyも 膀胱炎発生に重要な役割を演

ずる と述べ,こ れはこの期間には膀胱はア トニーの状

態にあつて膀胱 内 尿貯留を 来 し易いか らと述べてい

る.又Funnel等 は71例 の産褥膀胱の膀胱鏡検査を

行い.膀 胱頸部,三 角部の充血,粘 膜 の浮腫,出 血点

を認めてい る.

性器 の炎症 として陰門膣炎,ト リコモナス膣炎,子

宮頸管炎,子 宮内膜炎,亜 管炎等25例 あ り,ト リコモ

ナス 膣炎の2例 は 共に 膀胱 内 尿中にTrichomonas

原虫を認 めた.子 宮頸管炎9例 中4例 は淋菌感染 によ

るもので,共 に膀胱三角部 よ り括約筋部に強 い充血腫

脹を認めた.卵 管炎 の2例 は膀胱周囲膿瘍 を続発 し,

慢性膀胱炎 を併発 していた ものであ る.

子宮癌及び子宮癌術後の9例 はいずれ も膀胱底部に

水庖性浮腫を認めた,

v)そ の他

ア ンギーナが前駆 して発生 した急性膀胱炎が12例 あ

った,こ れ らはすべて出血性膀胱炎 で,"扁 桃腺炎に

日野一膀胱炎に関する研究(第1編)

罹患 して2~3週 聞 の間隔をお いて腎炎 が始 まつ てく

るη とい う糸球体腎炎発現 コースと,土 屋の非細菌性

急性 出血性膀胱炎がア レルギ ー又 はシユ ワルッマ ン現

象によつて発生す るとい う考えか らすれば,詳 細に問

診すれぽ,出 血性膀胱炎 に前駆 するア ンギ ーナは さら

に多 く認められ ると思われ る.そ の他糖尿病 に慢性膀

胱炎 を合併 した もの3例,肺 結核にて入院中の もの9

例,脊 髄労,夜 尿症等各1例 あった.

vi)尿 路結石症 と膀胱炎

1954年 よ り1958年 までの上部 尿路結石患老総数は

780例であ り,膀 胱鏡検査にて膀胱炎を確認 した もの

は130例 であ る.そ の合併率は13.3~20.1%,平 均

997

表11尿 路結石症 と膀胱炎

上部 尿路石症

105例 であ り,そ の合併率は50~76.7%,平 均62.9%

であつた.結 石に よる膀胱粘膜 の損傷 とそれに続発 し

て起 る細菌感染,結 石 の機械 的刺戟に よる膀胱 粘膜の

変化 と,慢 性膀胱炎の際に存在す る尿素分解菌による

結石形成の促進等の相互関係に よ り,膀 胱結石症に膀

胱炎の合併する事は非常に多 い.結 石摘出或は粋石前

後の充分な化学療 法の必要が感ぜ られ る.

尿道結石患者数は統計44例 で,之 に合併 した膀胱炎

は12例,27.3%で あつた.

viD膀 胱腫瘍と膀胱炎

表12膀 胱腫瘍 と膀胱炎

膀胱乳頭腫

年 度

上部尿路結 石 症

合併した膀 胱 炎 合併率%

1膀胱乳頭腫

年 度

1954

1955

1956

1957

1958

132

113

168

144

223

26

15

28

29

32

19.7

13.3

16.7

20.1

14.3

1955

1956

1957

1958

15

14

11

11

合併した膀 胱 炎

1

2

1

0

合併率%

計 51 4 7.8

膀 胱 癌

計 780 130 16.7

年 度膀胱癌鵬 犠 合併率%

膀胱結石症

年 度

1954

1955

1956

1957

1958

鷺諜 属 犠 合併率%

32

39

40

30

26

16

23

29

23

14

50

59.0

72.5

76.7

53.9

1955

1956

1957

1958

35

30

45

63

23

21

27

31

173 102 59.0

尿膜管腫瘍

167 105 62.9 年 度尿膜管腫瘍

尿道結石症

合併 した膀 胱 率

1955~1958 6

年 度

6

合併率%

lOO

尿 道結 石 症

合併した 合併率%膀 胱 炎

1954~1958 44 12 27.3

16.7%で あつた.こ れ らの中には膀胱炎症状のみにて

来院 し,検 査 によ りはじめて上部尿路結石を発見 した

もの もあ り,又 膀 胱炎症状を全 く欠 き,膀 胱鏡検査 に

より濾胞形成その他の慢性膀胱炎 を確認 した もの もあ

つた.

最近5力 年間の膀胱結石患者数は167例 であ り,そ

の内尿検査及び膀胱鏡検査 にて膀胱炎を認めた ものは

1955年 より1958年に至 る4年 間の膀胱腫瘍患者総数

は230例 であ り,そ の内容は 膀胱乳頭腫51例,膀 胱癌

173例,尿 膜管腫瘍6例 で ある,之 等に 合併 した膀胱

炎即ち腫瘍性膀胱炎は112例 であ る.

膀胱 乳頭腫51例 中膀胱炎を認めた ものは4例 で,合

併率は7.8%で ある.こ の様 に低率なのは乳頭腫の発

育 が比較的緩慢で壊死を来す事が 少く,ほ とん どが単

発性で尿貯留 を来す事が少いため と考えられ る.一 方

膀胱癌は173例 中102例,59。0%に 膀胱炎 を合併 してい

た.Flocksに よれば膀胱腫瘍中,血 尿を主訴 とす る

ものが680∂,膀 胱刺戟症状を有する ものが27.896と い

998 日野一膀胱炎に関する研究(第1編)

われ,又JohnsHopkinsHospitalの107例 中,血

尿66例(61.7%)に 対 ししば しば膿尿を伴 う頻尿,排

尿痛等の膀胱刺戟症状 を有する もの34例(31.8%),

又酒井の膀胱腫瘍81例 中膀胱炎を合併するもの37例 と

い うのを見ても腫蕩性膀胱炎及びこれに もとつ く症状

の多い事 を示 している.

尿膜管癌 は全部で6例 であるが6例 共血尿 と共 に頻

尿,排 尿痛,尿 潤濁等の膀胱炎症状 と膿 尿が認め られ

た.

viii)前 立腺腫瘍 と膀胱炎

表13前 立腺腫瘍 と膀胱炎

前立腺肥大症

濾胞,穎 粒性 変化等 は 一括 して 小隆起 と して 記載 し

た.又 膀胱 の部位を便宜上図2の 如 く記号であらわ し

た.

表14膀 胱 鏡所見

年 度

1955

1956

1957

1958

前 立 腺肥 大 症

49

66

85

78

合併した膀 胱 炎

25

26

34

29

合併率%

1~V【1

VV~W

340

266

45

22

購叢鑑圏160

10

1

349

83

31

計 278

1

1

33

4811

103

水泡性浮腫

1

33

12

29

43

6

2

2

1

46

1

34

び潰

ん瘍

1

7

38

8

1

5il8

2

2

21

5

856

2

4

9130

470

69

248

43

51.0

39.4

40

37.2

訓67311・11463i19・96i・261・91・1・ ・i,,831

1

114 41.0

前立腺癌

鰹 勾 合酬

皿 皿

前立腺癌

2

I

I[

年 度「

1955~19581

1

64 16 25

1955年 よ り1958年に至 る4年 間 に来院 した前立腺肥

大症患者総数は278例,前 立腺癌患者総数は64例,こ

の内尿検査及び膀胱 鏡検査で膀胱炎の合併を認めた も

のは前立腺肥大症の114例(41.0%),前 立腺癌の16

例(25%)で あった.前 立腺肥大症及び癌患者は程度

の差 こそあれ,殆 んど常に排尿困難及び残尿があ り,

尿閉 を来す もの も少 くない.更 に来 院前に導尿処置を

受 けている もの も多 く,又 後部尿道,膀 胱頸部,三 角

部に充血,浮 腫を伴 い.細 菌感染を容易にするため膀

胱炎を合併す る率が多い ものと思われ る.

6膀 胱鏡所見

1954年 よ り1958年に至 る5ヵ 年間に来院 した膀胱炎

患者2,210名 の内,膀 胱鏡検査を行つた ものは1,769名

であ る.こ れを,充 血性変化のみ のもの,こ れに出血

斑及び点状出血 を伴 うもの,掴 濁性変化のあるもの,

浮腫,水 泡性浮腫,粘 膜 小隆起(甕 腫,濾 胞等),び

らん及び潰瘍,ポ リープ,白 板等 にわけて観察 した.

勿論検査を行つた医局員は延数十名に達 し各自の主観

が入れ られるためにまぎらわ しい もの,例 えば嚢腫,

V

VIIVI

vW田

項部側壁

後壁底部(三 角部及び後三角部)

三角部

内尿道口尿管口附近

表14の 如 く膀胱にびまん性に,或 は膀胱粘膜 の広 い

部分に散在性に見 られ る変化は充血,出 血斑又は出血

点,潤 濁性変化,小 隆起,び らん等 の856例 で 約半数

を占め る,他 は単独に,或 は これ らのびまん性変化に

て加え見 られ る限局性変化であ り,部 位的には膀胱三

角部に最 も多 く,そ の大半はIV~W即 ち底部よ り内尿

道 口にかけて集つている.

i)充 血

充血のみで他の変化を伴わな いものが673例 見られ

た.こ の内び まん性のもの340例,V~Wに 限局す る

もの333例 で あつ た.膀 胱三角部,内 尿道口附近は特

に血管に富み,膀 胱鏡挿入のみ でも容易に充血が起 り

得 るものであ り,膀 胱鏡検査時この部の充血は殆んど

常 に見 られるが.自 覚症及び尿所見 よ り三角部炎の診

断には特に慎 重を期 した.

iD出 血斑及び 点状出血

出血斑又は点状 出血性の変化を示す ものが171例 あ

つ た.こ れ らの内には尿所見 よ り非細菌性出血性膀胱

炎 と解 される ものが42例 あつたが.内10例 は三角部に

限局 した 出血性変化を見,他 の17例 は底部 よ り後壁 に

日野一膀胱炎に関する研究(第1編)

かけて散在性の 出血斑 を見,い ずれ も出血 部以外の場

所はほとん ど正常,他 の15例 は殆ん ど膀胱粘膜全体 に

軽度の充血があ り,そ の上に底部 よ り後壁にかけて出

血斑が見られ た.

iii)濁 濁

慢性 炎 と して 粘 膜 が 光 沢 を 失 つ て 潤 濁 の 状 態 に あ

り,充 血 以外 の他 の炎 症 性 変 化 を 伴わ な い もの が463

例 に見 られた.内,び まん 性 の もの349例,慢 性 三 角

部 炎 と して83例,女 子 の膀 胱 括 約筋 部 炎 と して31例 が

見 られ た.

iv)浮 腫 及び 水泡 性 浮 腫

浮腫 及 び 水泡 性 浮 腫 は293例 で,V~V【 以外 の もの

は すべ て膀 胱,尿 管 下部,女 子 生殖 器 に 合 併症 を見 た

もの で,冊 の43例 は壁 内 性 尿管 結 石 及 び 結石 排 出後,

ll,皿 の浮 腫2例 は膀 胱 結 石,llの 水 泡 性浮 腫 の1例

は膀 胱 異物,IVの 浮 腫33例 は 膀 胱 結 石,膀 胱 異 物等

に,rvの 水泡 性 浮 腫11例 中,2例 は 膀胱 異物,6例 は

膀胱 膣腰,2例 は子 宮 癌,他 の1例 は 子宮 癌 術 後 に見

られ た.尚 膀胱 癌 の際 に はそ の周 辺 に 水泡 性 浮 腫 が見

られ るが 癌 浸 潤 とま ぎ らわ しい の で一 応 除 外 した.

v)粘 膜 小 隆起

慢 性膀 胱 炎 の二 次 現 象 と して 膀胱 粘 膜 面 に 発 生す る

小隆起 に 対 しいろ い ろ の名 称,分 類 が 与 え ら れ て い

る.以 前 よ り,Kneise,Ringleb,Joseph,Wossidlo,

Hinman,Pilcher,鶴 井,土 屋 ・田 口,志 熊,高 橋,

金 子等 の図 譜,報 告等 に 種 々の 名 称,分 類 が 与 え られ

てい る.例 えeXCystitisfollicularis,Cystitisgra-

nulosa,Cystitisnodularis,Cystitiscystica,

Cystitisglandularis,Herpesvesicae等,土 屋,

田 口は膀 胱 内の 増殖 病 巣 を 異物 鉗 子 で摘 出 し,組 織 学

的検 索 を行 つ て い るが そ の中 で,膀 胱 鏡 下 に 認 め られ

る半 球状 形 成物 は初 め よ り確 か に 嚢腫 と して認 め られ

る もの,確 か に実 質 性 の もの もあ るが,嚢 腫 と して摘

出 した もの が実 質 性 の も ので あつ た り,叉 この 逆 の事

もあ り,確 か な 診断 は 組 織 学的 に 検 査 す る以 外 に な い

と述べ て い る.さ らに各人 の主 観 が は い るの で 一応 粘

膜 小 隆起 と して 記 載 した.

小隆 起 は126例 に見 られ,そ の 内 ヵ ル テに記 載 して

あ る診 断 に よ り分類 す る と,嚢 腫性 膀 胱 炎 は1~VIの

6,1の2,皿 の2,皿 の1,IVの33,Vの31,V~

町 の1,Wの14で あ り,濾 胞 性膀 胱 炎 はIVの13,Vの

3,VIの1,穎 粒 性 膀胱 炎 はVIの19で あ つ た.こ れ ら

の変 化は 底 部 に最 も多 く見 られ,大 部 分はIV~Wに 集

つ て いた 。又IV,Vに こ の変 化 の見 られ た もの に は上

部 尿路 の結 石,感 染 症 が 多 く,底 部(石1,V)に 見 ら

999

れた濾胞性膀胱炎16例 中14例,及 び嚢腫性膀胱炎の6

例に腎結石の合併が見られた.土 屋 も腎結石の際には

往々濾胞 性膀胱炎が見られ,こ れは塩類の刺戟に よつ

て も発生可能 であろ うと述べてい る.IVの34例 は女子

膀胱 頸部炎に見られた.

iv)び らん及び潰瘍

著 明な充血,浮 腫 と共に粘膜にび らん,潰 瘍の見 ら

れ た ものが59例 あつた.結 核性潰瘍 は勿論除外 してあ

る.や は り後壁 よ り底部に集中 し,IV~Vが53例 で大

部分を占めた.潰 瘍 面は全 ての症例にて繊 維素物で被

われ ていた.膀 胱 粘膜の ほ とん ど全面に わた りび ら

ん,潰 瘍が存在 し,激 烈な膀胱症状 を訴えるものが1

例 あつた.

vii)ポ リープ

女子膀胱括約筋部炎の18例 に見 られた.

viii)白 板

白板は28例 に見 られすべてIV~Wに 存在 し,膀 胱結

石 を有する49才 の男子1例(IV)を 除きすぺて女子に

見 られた.

皿 総括及び考按

1954年 よ り1958年 に至 る5力 年間 の結 核 性膀

胱 炎 を除 く2,209例 の膀 胱 炎 に つ い て,そ の臨

床 的 観察 を総 括 的 に行 つ た.凡 そ膀 胱 炎 は我 女

の 日常経 験 す る最 もあ りふ れ た疾 患 で あ るが そ

の統 計的 観察 は 割合 少 く,山 本,徳 永,荒 川,

桜井 等 少数 の 発表 例 を 見 るの み で あ る.更 に合

併症 とし て膀 胱 炎 を併 う種 々の 疾 患 との関 係,

膀 胱 鏡 所 見の統 計 観 察 等 は未 だ 発表 例 を 見な

い.本 篇 に於 て は膀 胱 炎 の頻 度,性 及 び年 令 的

関 係,季 節 的 関係,自 覚症,合 併症 叉 は誘 因 と

な る疾 患,膀 胱 鏡 所 見に つ き統 計 的観 察 を行 つ

た,

頻度 と しては5力 年間 の 外 来患 者総 数10,685

名 中2,209名(20.796)を 占 め,尿 路 性器 結 核 患

者数 とほぼ 同 数 で あつ た.し か も結 核 性 膀 胱 炎

が年 々そ の頻 度 を 減 じて来 るの に対 し,非 結核

性 の ものは 年 々ほ ぼ 同率 で あつ た.男 女 比 はほ

ぼ1:1で あ つ たが 男 子 外 来 患 者総 数 に対 す る

男 子 膀 胱 炎患 者 数 の百 分率 は14.79(o,女 子 外来

患 者 総 数 に対 す る 女子 膀 胱 炎患者 数 の百 分率 は

37.10/oで あ り,非 常に 高 率 で あつ た.

急 性膀 胱 炎患 者 総 数 は 総 計1,145名 で あ り,

そ の 内t男 子590例,女 子555例 で あ つ た,年 令

1000 日野一膀胱炎に関す る研究(第1し 編)

別 に見 る と1~30才 に最 も多 く380例(29.5%)

占 め,21~40才 の ものが 半 数 以上 を 占 め た.見

に これ を男 女 別 に見 る と更 に ごの 傾 向 が著 明 を

られ,21~30才 が43.196,21~40才 で は64.7%

で殆 ど2/3を 占め た.一 般 に性i生活 の旺 盛 な時

期 に膀 胱 炎 が 多い といわ れ るが.女 子 に於 て は

男子 よ り更 に 強 い影 響 を受 け る こ とを 示 して い

る.

慢 性膀 胱 炎 炎 患者 総 数 は 総 計1,064名 あ り,

男子 に於 ては 膀 胱 炎 の原 因 と な る下部 尿路 の疾

患 が高 齢者 に 多 いた め,慢 性 膀 胱 炎 は 年 令 と共

に増 加 し,61~70才 が 最 も多 く,25.7%(144例)

見 られ た.女 子 に於 て は21~70才 まで の間 に

著 明 な ピ ー クが 見 られ な かつ た.こ れ は女 子 の

膀胱 括 約 筋 部 炎 が この年 令 に平均 して多 い事,

及 び 男子 に於 け る如 く通 過 障碍 を来 す 疾 患 が高

齢 者 に あ ま り見 られ な い た めで あ る,

急 性膀 胱 炎 につ い て そ の発 生季 節 を見 る と高

温 高 温 の夏 季 に多 く42.3%を 占 め た.

泌 尿 器科 的 合併症 を有 しな い もの,及 び 合 併

症 が あ つ て も明 か に膀 胱 炎 に よる症 状 と認 め ら

れ る自覚 症 を もつ もの1,385例 に つ きそ の 自覚

症状 を数 え上 げ た所,頻 尿 が最 も多 く,排 尿痛

えに 次 ぎ,更 に血 尿,残 尿 感,下 腹 部 乃 至膀 胱

部 の不 快 感,尿1圏 濁 の順 で あつ た.又 頻 尿,排

尿痛 及 び血 尿 を同 時 に訴 えた もの は289例 で約

2096に 見 られ,頻 尿 と排 尿痛 を 同時 に訴 え た も

の は402例(30%)で あつ た.

合 併 症 又 は 誘 因 と思 わ れ る疾 患 を もつ もの

1,381例 に つ い て観 察 した.合 併症 の 中 に は膀

胱 炎 と直 接 の つ なが りが な い と考 え られ る もの

も多 数 あ るが膀 胱 炎 と他 疾 患 との 相互 関係 につ

い て考 察 を加 え て見 る.

正 常 の膀 胱 は一 般 に細 菌 感 染 に対 して強 い抵

抗 力 を もち,細 菌 を 膀胱 内 に注 入 して も感 染 は

容 易 に 起 らな い事 は よ く知 られ て い る.例 えば

Braunは 海摂 膀 胱 に経 尿道 感 染 を行 い,膿 尿

よ り分 離 したE.coliで は 多 くは数 日 よ り1週

間 の菌 排 泄 が あ り,叉 組 織 的 変 化 も認 め た もの

も多 い が,全 く変 化 の な い場 合 も あ り,糞 便 よ

り分離 し た菌株 で は何 れ も変 化 を認 め な かつ た

と述 べ,又Frankは 家兎 膀 胱 内 に を注 入 した

所,菌 排泄は少日数認めるが,組 熾的変化は1

例以外はなかつたと述べ,3ζ岩田,岡 山は同じ

実験を行つた所,菌 排泄は短時 目しか認められ

ず,病 理組織上では炎症像を示したが.Pro.

Banthineを 与えて尿蓄債を起さしめた場合の

組織的変化よりも軽度であつたと述べている.

この 様に炎症が起 りにくいという事について

Lowsleyは 膀胱粘膜の上皮細胞の関係,分 泌腺

の少い事,排 尿行為により度々膀胱内容が空虚

になる事によると述べている.更 に感染が起つ

ても頻尿が来 り,他 に合併症のない限り,短 期

間に治癒するといわれている.も し膀膀炎が長

期にわたり存在する場 含は何 らかの原因的疾患

があるわけである.叉 逆に膀 胱 炎 から他の部

位,例 えば腎感染症を二次的に起す場合にも,

やはり尿路に何らかの病的状態が存在しなけれ

ばならない.

上部尿路に於て膀胱炎と相互関係を有する炎

症性疾患として腎孟炎46例,腎 孟腎炎2例,膿

腎症12例,水 腎症特に感染水腎症50例 が見られ

た.こ れらの中にはたえず細菌を膀胱内に送り

込んで胱胱炎を来す場合もあるし,又 逆に血行

性或は尿管壁内 リンパ管行性或は尿管内逆行性

に腎粘膜の感染を起す場 合もある.又 同じ尿路

の連続であるから細菌性膀胱炎が 同時 に 腎孟

炎,尿 管炎を伴つて来る事も可能であり,叉 ア

レルギー叉はシユワルツマン現象により発生す

ると考えられる炎 症 性 変 化が同時に腎孟,尿

管,膀 胱粘膜に来る事も可能 ごあると'老えられ

る.尿 路粘漠よりの細菌の血中移行について見

ると,正 常粘膜 よりの細菌の吸収はGiacobbe

の如 く肯 定 す る もの もあ るが.一 股 に否 定 され

て お り,例 え ば 正常 膀 胱 内 に菌 液 を注 入 した場

合,腎 孟,血 中 に菌 を証 明 しな い(Magoifn,

宗,小 西 等)炎 症性 変 化 の あ る場 合 は どうか

とい う と,宗 は 家 兎 カ ン タ リジ ン炎膀 胱 に変形

菌 を 注 入 し た 場 含は1~6時 間 後 の血 中に陽

性 とな るが 大腸 菌 で は全 例 陰 性 で あ る とい い.

Magoimの 犬 の カ ン タ リジ ン 炎 膀 胱 に奇異

桿 菌 を注 した 場 合 も陰 性 で あ る.し か し機 械 的

損 傷 の場 合は 血 中移 行 が 証 明 され て い る(Sam

son).叉 尿 閉 の場 合 の菌 吸 収 は 古 くか ら知 られ

日野一膀胱 炎に関す る研究(第1編)

てお りAlbarran,Kraus,重 松,小 西等 の

陽 性成績 が あ る.尿 路 粘 膜 よ りの細 菌吸 収 に は

かな りの 粘 膜病 変 が 要 求 され る様 で あ る.一 方

血中 の細菌 の尿 中移 行 に つ い て 見 る と,細 菌 の

健腎 通 過 を肯定 す る者 も あ るが(Grawilz,

Sittmann,Remlinger,谷 沢,久 大 保等),

一 般 には 否定 的 で(Wyssokowitch ,Pernice,

Cavazzni,宗,佐 伯等),既 存 の 腎 病 変,例

えば血 管 壁障 碍,出 血,栓 塞 等 の 変 化 が先 行 す

る事 が 必要 で あ る と され て い る,要 す るに 尿路

相 互間 の血 行 伝染 に は既 成 の病 変 が 必 要 で あ る

事 が考 え られ る.リ ンパ 行 産 伝染 に関 して は,

Helmholzは 家 兎に 網 菌 性 膀 胱 炎を起 さ しめ

た場 合,同 じ細 菌 を 腎孟 内 に認 め て い るが 大 腸

菌 で は腎孟 感 染 は 血 行 性 よ りむ しろ リンパ 行 性

であ る と述 べ て い る.又 尿流 に よる経 尿 管 性下

行 伝染 は当 然 と して,逆 に上 行 産 感染 につ いて

見る と,膀 胱 内細 菌 が 尿管 を上 行 す る ため に も

通過障 碍 に よる 尿の 逆 流,尿 管逆 需動 運 動,膀

胱収縮 力の 減 弱,尿 管 濡動 運 動 の 減 少等 の病 的

状 態 が 必要 と され る.腎 炎 に 合併 した膀 洗 炎が

31例 見 られ た.勿 論 この 中に は偶 然 の発 症 も あ

るが,非 細菌 産出血 性 警 胱 炎 と腎 炎 に は何 等 か

の相互 関 係が あ る と 思 わ れ る.馬 杉 はNeph-

rotoxn注 射 に よつ て 起 る腎 の変 化 とArthus

現 象 との間 に病 理 組織 学 的 に,殊 に そ の血 管 障

碍 の態 度 に於 て 本 質 的 な一 致 を 見出 し,こ の点

を所 謂Nephrotoxin腎 炎 ア レル ギ ー発現 説

の重 要 な よ り こ ころ と して い る.し か し この

Arthus現 象 と全 く同様 な現 象が 非 ア レルギ ー

性 に,即 ち抗 原 抗 体 反応 に よ らず に 惹 起 出来 る

ことが 知 られ て い る.即 ちSchwarzman反

応が そ れで あ る.従 来,Schwarzmal1現 象は

グ ラム陰 性菌 濾 夜で お こせ る もの で,人 の糸 球

体腎 炎 に最 も関 連 の深 い溶 連 菌等 の グ ラム陽 准

球菌 で は 起 らな い と され て い た.し か し 近 年

Thomas,Schwab等 に よ り溶連 菌 の濾 液 も全

身 性Schwarzman反 応 準 備能 力 を有 す る事

を証 明 して い る.又 非 細 菌 性 出血 性膀 胱 炎 の一

型 として細 尿管 出 血 を伴 うStevensandPters

型 が あ る.こ れ は1920年StevensandPeters

が 尿路 紫 班病 の1型 と して発 表 した もの で,膀

1001

胱 炎 と共 に腎 出血,円 住 出現,発 熱 等 の腎 炎 の

症 伏 を伴 うも ので あ り,又 この もの は 亜 急性 乃

至 慢 性の経 過 を と り,時 に再 発 す る点 が特 微 と

され て い る.即 ち膀 胱 粘 膜 の み な らず,腎 皮

質,細 尿 管 に もSchwarzman反 応準 備状 態が

存 在 し得 る と考 え られ る.

膀 胱 内 合 併症 と して最 も 多い の は膀 胱 三 角部

の形 態 異 常 で151例 に 達 す る.こ の 形 態 異 常 に

炎 症 を伴 わ な い で排 尿障 碍 の 加わ つ た もの を稲

田教 授 に よ り膀胱 三 角 部 異 常症 と名 づ け られ一

疾 患 とし て記 載 され たが,排 尿異 常 を起 す メ カ

ニ ズ ム として,尿 管 口が 内 尿道 口に近 く,尿 管

の排 尿運 動 は 三 角部 か ら内 尿 道 口及 び 後部 尿 道

に直 接 約且 つ 絶 え 間 な く強 く伝達 せ られ,従 つ

て トー ヌス も高 ま り,過 敏,不 安定 な状 態 にあ

る.こ の様 な状 態 の も とに 後 部 尿 道 の陰 部 神 経

が 刺 戟 され て種 々の排 泉異 常 が 起 る と説明 され

て い る.叉 この様 な状 態 の ときに は炎 症 が 起 り

易 く,尿 所 見 及び 膀胱 鏡 訴 見 よ り明 らかに 炎 症

の認 め られ る もの を本 統 計 の中 に 入 れ た.

次 に問 題 に な るの は 膀涜 癌 及 び 尿 摸 管腫 瘍 で

前 者は173例 中102例,5996に,後 者 は6例 中全

例 に膀 胱 炎の 合 併 を認 め た.こ れ らの悪 性腫 瘍

の組 徹 崩 壊 に よ り膀 胱 内 に細 菌 感 染 が起 る事 は

容 易 に老 え られ,Flocksの 膀 胱 刺戟 症状 を有

す る もの27.8%,JohnsHopkinsHospital

の107例 中,屡rtwa泉 を 併 う頻 尿,排 尿 痛 等 の

膀 胱 刺 戟 症状 を 併 うもの34例(31。8%),酒 井

の膀 胱 腫 瘍81例 中,明 か に膀 胱 炎 を 併 う もの37

例 とい うの を 見 て も膀 胱 炎 の 合 併率 の 大な る事

を知 る事 が 出 来 る.

次 はは 尿貯 留 と膀 胱 炎 との 関 係 で あ るが,膀

胱 内 尿貯 留を 来 す疾 患 を挙 げ て み る と神 径 因 性

膀…胱24例,所 謂 膀胱 頸 部 疾 患10例,膀 挑 頸 部 冊

形 成4例,膀 胱憩 室19例,前 立 線 肥 ゴC症130例,

前 立腺 癌17例,尿 道 腫 瘍2例,女 チ 尿道 カル ン

ケル13例,尿 道 侠 窄89例 等で あ つ た.一 股 に 尿

路 通 過障 碍 に よ る尿貯 留 と 尿路 の 充 血,出 血,

浮腫,血 液 障 碍,上 皮 変 性,壊 死等 の病 変 は 細

菌 の増 殖 及 び組 織 内 侵 入に好 条 件 とな り,一 度

感 染 が起 れば 通 過 障 碍 が除 去 され る ま で進 行

し,吏 に 尿路 の広 範 因 に拡 たす る こ とは よ く知

1002 日野一膀胱炎に関する研究(第1編)

られており,通 過障碍 と感染についてはいずれ

の成書にも強調されている.又 膀胱内尿貯留は

結石発生の因となり,更 に炎症を強烈且頑固な

ものとする.

次に結石との関係であるが,上 部尿路結石症

の場合には濾胞性膀胱炎を見る事が多く,土 屋

によれば塩類の刺戟により起るものと解 されて

いる.膀 胱底部に,上 部尿路結石症に合併して

この種の粘膜小隆起の見 られたのは20例 であつ

た,膀 胱結石症167例 中,膀 胱炎の合併してい

るものが105例(62.9%)あ つた.細 菌感染,

殊に尿素分解菌による膀 胱 結 石 生成の実験は

HagarandMagathが 陽性の成績を得て以

来多数の報告がある.近 年小川は同様な実験を

行い陰性の成績を得,尿 素分解菌による尿のア

ルカリ化は結石発生の要因となるし,細 菌感染

も深い関係があると考えられるが,尿 の停滞が

起らなくては結石は出来難いし,膀 胱では例え

出来ても小さなものは容易に流出してしまうと

思われると述べている.た しかに膀胱結石発生

は異物の存在や,長 期にわたる尿貯留がなけれ

ば不可能と考えられ,尿 素分解菌はむしろ結石

の成長に重大な意義をもつと考えるのが妥当で

あると考える.

次 に膀胱 炎 の膀 胱 鏡 所見 につ い こ ま とめ て見

る.膀 胱鏡 検 査 を行 つ た の は2,210名 中1,769名

で あ り,内 び まん 性 叉 は広 範 囲 に散 在 性 に病 変

の 見 られ た もの は86例 で あつ た.充 血 のみ で 他

の 変 化 を伴 わ な い カク ル性 膀胱 炎 は673例 で 内,

三 角部 よ り内尿道 口附 近 に限 局 す る もの が 約 半

数333例 あ つ た.出 血性 変 化 を示 す もの は171例

あ つ た.こ れ らの 中 に は尿 所見 よ り非 細 菌 性 急

性 出 血 性 膀 胱 炎 と解 され る ものが42例 あつ た

が,こ の 内10例 は三 角 部 に 限 局 した 出血 性変 化

を見,他 の17例 は 底部 よ り後 壁 にか け て散 在 性

の 出血 班 を 見,い ず れ も出血 部 以 外 の場 所 は ほ

と ん ど正常,他 の15例 は ほ とん ど膀 胱 粘膜 全 体

に軽 度 の充 血 が あ り,そ の上 に底部 よ り後 壁 に

か け て 出血 班 が 見 られ た.充 血以 外 他 の変 化 を

伴 わ な い溺 濁 性 変 化 を 示 す ものが463例 に見 ら

れ,内 び ま ん性 の もの は349例,三 角部83例,

内 尿道 口及 び そ の附 近31例 で あ つ た.浮 腫 及 び

水泡性浮腫は293例 に見られ,三 角部,内 尿道

口に限局するもの以外にはすべて膀胱及び婦人

生殖器に合 併 症が見られた.粘 膜小隆起は126

例に見られた.こ の申には瀕胞,嚢 腫,穎 粒性

変化等が含まれるが各人の主観により見方がま

ちまちであるので粘膜小隆起として一括した.

この変化は多く膀胱底部に見られ,上 部尿路結

石,感 染症に多 く合併して見られ,上 部尿路結

石症に合併してこの種 の変化が見られたものが

20例 あつた.び らん及び潰瘍が59例 に見られ,

これらの変化は後壁から底部に見られるものが

大部であつた,ポ リープは女子膀胱括的筋部炎

の18例 に,白 板は28例 に見 られ膀胱結石を有す

る男子1例 を除 きすべて女子に見られた.

rv結 語

1954年 より1958年 に至る5力 年間に京大泌尿

器科教室外来を訪れた結核を除 く外来膀胱炎患

者2,209例 につき.膀 胱炎の頻度,性 及 び年齢

的関係,急 性 膀 胱 炎の発生季節的関係,自 覚

症,合 併症,膀 胱鏡所見につき臨床観察を行い

次の結果を得た.

1)膀 胱炎患者総数は尿路性器結核とほぼ同数

で外来患者総数に対し20.7%を 占め第1位 を

占める.男 女実数の比はほぼ1:1で ある.

2)急 性跨胱炎では20代 及び30代 々のものが約

半数で最も多く,こ の傾向は女子に於て更に

著明でこの年齢層は女子急性膀胱炎の2/3を

占める.慢 性拷胱炎では女子に於ては年齢的

に平均している.男 子では通過障碍を来す様

な下部尿路の結石,腫 瘍の多い60才代が最も

多い.

3)急 性拷胱炎は夏季に発生する頻度が高い.

4)自 覚症としては頻尿が最 も多く,排 尿痛之

に次ぎ,次 いで血尿の順で,こ の三者を同時

に訴えたものは約20%で あつた.

5)合 併症として上部尿路では腎尿管結石症が

最も多かつた.又 腎炎が多かつた事は特筆す

べきことで腎炎と膀胱炎特に出血性膀胱炎の

間 に何 らかの関係が見られるものと思われ

る.膀 胱疾患では膀胱緒石症,三 角部形態異

常,膀 胱癌が多 く,尿 道性器では前立腺肥大

症が圧 倒 的 多数を占め,尿 道狭窄が之に次

日野一膀胱炎に関する研究(第1編)

ぐ,婦 人科的関係では月経,結 婚,妊 娠,分

娩及び産褥 という一連の生理現象に関連する

ものが過半数を占めた.

6)膀 胱鏡検査所見ではびまん性又は広範囲の

変化を見るものが約半数を占め他は限局性で

あつた.限 局性変化は底部 より内尿道 口にか

1003

けて存在するものが過半数を占めた.慢 性変

化は特に女子の内尿道口附近に限局するもの

が大半であつた.

(御指導並びに御校閲を賜った恩師稲 田教授に深

謝す る)

(文献は最終篇に譲る)