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J. Natl. Inst. Public Health, 68 (3) : 2019 193 公衆衛生と臨床研究への CDISC 標準導入 ―疾患横断分析が可能な医療情報の二次利用性の確保へ― 木村映善 国立保健医療科学院保健医療情報管理分野統括研究官 Toward introduction of CDISC to clinical research and public health: To enable cross-border and secondaly analysis of medical information Eizen Kimura Research Management Director, National Institute of Public Health <巻頭言> 規制当局への医薬品や医療機器に関する申請電子データ提出にCDISCClinical Data Interchange Standards Consortium)標準に準拠することが求められるようになってから,我が国ではCDISC標準 は当局の承認申請の為のツールという先入観が広がっている.しかし,CDISC標準は医学研究のデー タ標準であり,治験以外でも利用可能なものである.我が国では,医学研究において独自のデータ収 集・管理が委ねられているため,研究班ごとに収集項目や回答様式が異なり,データの保存性,信頼 性の担保の取り組みも不十分である.その結果,研究班以外の研究者へのデータ提供やメタアナリシ ス,異なる分野のデータを突合した分析等が困難となっている. 翻って,我が国では統合イノベーション戦略(平成30年 6 月15日閣議決定)において「オープンサ イエンスのためのデータ基盤の整備」が策定されたところである.しかし,電子カルテや臨床研究の 調査票等に用いる統制用語集が整備されておらず,データ基盤整備のためにも標準医療情報規格への 対応は喫緊の課題である. 本特集号においては,CDISC標準の紹介と様々な分野での利用について紹介することを試みた.ま ず,CDISCCEOであるDavid R. Bobbit先生直々にCDISC標準の全体像と最近の試みについて紹介い ただいた.本稿は広く読んで頂きたいために,保健医療科学のWebサイトに掲載したAppendixに翻訳 したものを収録している.我が国において長らくCDISC標準に取り組まれてきた木内貴弘先生には, 我が国における取り組みの経緯とアカデミアでの活用の展望について解説して頂いた.また,CDISC そもそもが実現しようとしている「標準情報モデル」「用語集」といった考え方,それが何故必要な のかを小林慎治先生に解説頂き,公衆衛生分野でのデータ収集・活用に関して貢献するであろう標準 規格の歴史的経緯と今後の利用の仕方について木村から解説した.また中村治雅先生から具体的事例 として神経筋疾患領域における患者レジストリについて,青柳吉博先生からCDISC標準を利用した電 子カルテからのデータ収集の試みについて解説頂く. 本特集号が公衆衛生分野におけるデータの標準化,相互交換の議論に貢献し,疾患横断分析が可能 な研究開発の促進につなげることができれば幸いである.

Toward introduction of CDISC to clinical research …J. Natl. Inst. Public Health, 68 (3) : 2019 193 公衆衛生と臨床研究へのCDISC 標準導入 ―疾患横断分析が可能な医療情報の二次利用性の確保へ―

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Page 1: Toward introduction of CDISC to clinical research …J. Natl. Inst. Public Health, 68 (3) : 2019 193 公衆衛生と臨床研究へのCDISC 標準導入 ―疾患横断分析が可能な医療情報の二次利用性の確保へ―

J. Natl. Inst. Public Health, 68 (3) : 2019 193

公衆衛生と臨床研究への CDISC標準導入 ―疾患横断分析が可能な医療情報の二次利用性の確保へ―

木村映善

国立保健医療科学院保健医療情報管理分野統括研究官

Toward introduction of CDISC to clinical research and public health:To enable cross-border and secondaly analysis of medical information

Eizen Kimura

Research Management Director, National Institute of Public Health

<巻頭言>

規制当局への医薬品や医療機器に関する申請電子データ提出にCDISC(Clinical Data Interchange Standards Consortium)標準に準拠することが求められるようになってから,我が国ではCDISC標準は当局の承認申請の為のツールという先入観が広がっている.しかし,CDISC標準は医学研究のデータ標準であり,治験以外でも利用可能なものである.我が国では,医学研究において独自のデータ収集・管理が委ねられているため,研究班ごとに収集項目や回答様式が異なり,データの保存性,信頼性の担保の取り組みも不十分である.その結果,研究班以外の研究者へのデータ提供やメタアナリシス,異なる分野のデータを突合した分析等が困難となっている.翻って,我が国では統合イノベーション戦略(平成30年 6 月15日閣議決定)において「オープンサ

イエンスのためのデータ基盤の整備」が策定されたところである.しかし,電子カルテや臨床研究の調査票等に用いる統制用語集が整備されておらず,データ基盤整備のためにも標準医療情報規格への対応は喫緊の課題である.本特集号においては,CDISC標準の紹介と様々な分野での利用について紹介することを試みた.まず,CDISCのCEOであるDavid R. Bobbit先生直々にCDISC標準の全体像と最近の試みについて紹介いただいた.本稿は広く読んで頂きたいために,保健医療科学のWebサイトに掲載したAppendixに翻訳したものを収録している.我が国において長らくCDISC標準に取り組まれてきた木内貴弘先生には,我が国における取り組みの経緯とアカデミアでの活用の展望について解説して頂いた.また,CDISCそもそもが実現しようとしている「標準情報モデル」「用語集」といった考え方,それが何故必要なのかを小林慎治先生に解説頂き,公衆衛生分野でのデータ収集・活用に関して貢献するであろう標準規格の歴史的経緯と今後の利用の仕方について木村から解説した.また中村治雅先生から具体的事例として神経筋疾患領域における患者レジストリについて,青柳吉博先生からCDISC標準を利用した電子カルテからのデータ収集の試みについて解説頂く.本特集号が公衆衛生分野におけるデータの標準化,相互交換の議論に貢献し,疾患横断分析が可能な研究開発の促進につなげることができれば幸いである.