10
ファームテクジャパン 第36巻第9号 2020年7月1日発行(毎月1回1日発行) Vol.36 No.9 July 2020

Vol.36 No.9 July 2020...Data Integrity Project, GMP Expert committee, Quality & Technology Committee, Japan Pharmaceutical Manufacturers Association Chugai Pharmaceutical Co., Ltd.1),

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: Vol.36 No.9 July 2020...Data Integrity Project, GMP Expert committee, Quality & Technology Committee, Japan Pharmaceutical Manufacturers Association Chugai Pharmaceutical Co., Ltd.1),

Vol.36 No.9 July 2020

ファームテクジャパン 第36巻第9号 2020年7月1日発行(毎月1回1日発行)

Vol.36 No.9  July 2020

発行所

じほう

(株)

二〇二〇年七月一日発行(毎月一日発行)

©

〒  

 東京都千代田区神田猿楽町一│五│一五 猿楽町SSビル

TEL

03│

3233│

6364(編集)3233│

6336(購読)

3233│

6341(広告営業)

101-8421

定価﹇本体二、〇〇〇円+税﹈

Page 2: Vol.36 No.9 July 2020...Data Integrity Project, GMP Expert committee, Quality & Technology Committee, Japan Pharmaceutical Manufacturers Association Chugai Pharmaceutical Co., Ltd.1),

●●❶ データインテグリティガイダンスUPDATE 荻原健一�  7●❷ 田辺三菱製薬工場におけるデータインテグリティへの取り組み 藤崎 浩�  21●❸ �日本製薬工業協会GMP部会におけるデータインテグリティに係わる� �取り組み(その1) 藤江 宏,大河内一宏�  31

REPORT

�█ �日本CMO協会,新会長に廣貫堂の竹内二三雄氏就任� �今後も委員会活動を中心に積極的な活動を�  39

PHARM TECH JAPAN ONLINE

�█ 2020年5月度,月間閲覧ランキング�  43�█ PHARM�TECH�JAPAN�バックナンバー�2020年5月度,閲覧ランキング�  45

ARTICLES

�█ 医薬品の物性評価 Q&A 質問募集 日本薬剤学会物性FG�  47�█ �リスクに基づいた分析法バリデーションにおける室内再現精度の検討� �Phil Borman,Marion Chatfield,淺原初木,田村文子,Adam Watkins�  49

██  科学とリスクに基づくクリーニングバリデーション(第2回)

 �ASTM�E3106「科学およびリスクベースのクリーニングプロセスの開発と� �バリデーションに関するスタンダードガイド」の概要� �Andrew Walsh,白木澤 治�  57

�█ �第10回製剤技師認定試験�問題と解説(4)(応用編)� �公益社団法人 日本薬剤学会 製剤技師認定委員会�  69

██  無菌医薬品包装の完全性評価および漏れ試験法(第3回)

 無菌医薬品包装の完全性評価と最大許容漏れ限度の設定 樋口泰彦�  74██  PTP基礎講座(第22回)

 �機械 PTP包装機における完全部分加熱成形方式の特徴 池内健介�  83██  対談█嶽北先生が訊く█再生医療のいまと未来(第10回)

 キムリアに学ぶ再生医療等製品開発(2/3) 嶽北和宏氏×弦巻好恵氏�  87

特集 データインテグリティ対策UPDATE

◇編集顧問大矢晴彦� 横浜国立大学名誉教授

◇編集委員川嶋嘉明� �愛知学院大学特任教

授・岐阜薬科大学名誉教授

園部  尚� �地域創生ビジョン研究所代表組合員

永井恒司� (財)永井記念薬学国際� 交流財団理事長長江晴男� NPO-QAセンター� 代表副理事

CONTENTS製剤技術とGMPの最先端技術情報誌

(Vol.36�No.9) 72020

3(1443) Vol.36 No.9(2020)

Page 3: Vol.36 No.9 July 2020...Data Integrity Project, GMP Expert committee, Quality & Technology Committee, Japan Pharmaceutical Manufacturers Association Chugai Pharmaceutical Co., Ltd.1),

██ █封じ込め設備の運用に関するいくつかの話題█ █~PIC/S査察官用備忘録およびUSP<800>の視点から~(第4回)█ █島 一己█  91

██  今さら聞けない「QbDって何?」(第16回)

 医薬品品質保証のパラダイムシフト 岡崎公哉█  99██  進め!! 医療薬学研究(第9回)

 █病院における薬剤業務に基づく研究 鈴木昭夫█  107██ █“interchangeability”に特に注目したバイオシミラーの使用の普及に█ █実施されている施策などの世界における現状 後編 新見伸吾█  115

██  核酸医薬品の創出に向けた産官学の取り組み(第9回)

 オリゴ核酸の合成と国内の製造施設について 南海浩一█  123██  次世代シーケンシングによるバイオ医薬品等のウイルス安全性評価(番外編5)

 NGS受託試験企業PathoQuest社訪問記 平澤竜太郎█  135██ █薬の名前 ステムを知れば薬がわかる 追補-2█ █特定のチロシンキナーゼ阻害薬を定義する新しいステム█ █「-ertinib」,「-trectinib」,「-metinib」,「-xertinib」など█ █宮田直樹,田辺光男,内田恵理子,川崎ナナ█  141

██  欧州の市販後薬事規制(第15回)

 GVP█Module█15 安全性の情報伝達 野村香織█  153██ 製剤研究者が注目する一押しトピック█  163██ 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団ニュース(No.153) 津田重城█  167

Study of GMP

██  █中小規模組織におけるQRMのインフラ整備(第31回)

 トレーナーが注意すべきこと█Part4 柳澤徳雄█  171

製剤技術

██ █製剤と粒子設計 自立型感温性を示すイオン液体含有複合高分子ゲル微粒子の合成█ █鈴木登代子,南 秀人█  177

●News█Topics█ 183●New█PRODUCTS█ 186

■World█News█Topics█ 187ガイドライン関連,品質関連,警告書関連

◆次号予告█ 200

CONTENTS

製剤技術とGMPの最先端技術情報誌 2020

(Vol.36█No.9) 7

5(1445) Vol.36 No.9(2020)

Page 4: Vol.36 No.9 July 2020...Data Integrity Project, GMP Expert committee, Quality & Technology Committee, Japan Pharmaceutical Manufacturers Association Chugai Pharmaceutical Co., Ltd.1),

 MHRA(イギリス医薬品・医療製品規制庁)から2015

年3月にデータインテグリティに関するガイダンスが発

行され,2016年にかけてWHO(世界保健機関),FDA(米

国食品医薬品局),そしてPIC/Sや中国CFDAからも同

様のガイダンスが相次いで発行された。これら初期のガ

イダンスの多くはドラフトで発出されたものが多く,そ

の後,2018年にかけてファイナル版が相次いで発行され

ている。

 本稿は代表的なデータインテグリティ関連ガイダンス

とその後の発出状況を含めて整理してみた。

(1)�MHRA�GMP�Data� Integrity�Definitions�and�Guidance�for�Industry�March�2015

 2015年3月にデータインテグリティに関するガイダン

ス「MHRA GMPデータインテグリティの定義と業界の

ためのガイダンス2015年3月)が発行され,その後の多

くのガイダンス発行の引き金となった(図1)。

 このガイダンスは全体で16ページからなる比較的シン

プルなものであるが,特徴的なのはデータインテグリティ

の取り組みに重要な“19の用語”を“定義”し,それに

対する当局の“期待と補足的な解説”をすべて表形式で

まとめているところである。このため簡潔でわかりやす

いガイダンスとなっている。

 また,内容的にも優れていることからその後の各国等

はじめに

MHRAガイダンスの発出状況1.

のガイダンスの基礎にもなっており,他のガイダンスに

引用されている部分も多く見られる。

 ガイダンスの全体構成とガイダンスの形式については,

図2に示したとおりである。

(2)�MHRA�GxP�Data� Integrity�Definitions�and�Guidance� for� Industry�Draft� version� for�consultation�July�2016

 MHRAはデータインテグリティの問題はGMPに限定

されないとして,タイトルを“GxP”に改めて2016年7

月に「MHRA GxPデータインテグリティの定義と業界

のためのガイダンス」のドラフト版を発行し,およそ3

図1 �「MHRA�GMP�Data�Integrity�Definitions�and�Guidance�for�Industry�March�2015」

(出典:MHRA)

データインテグリティガイダンスUPDATE

UPDATE of data integrity guidance

株式会社シーキャスト 代表

荻原健一Ken-IchI OgIhara

C-CAST CORPORATION

特集 データインテグリティ対策UPDATE 1

7(1447) Vol.36 No.9(2020)

Page 5: Vol.36 No.9 July 2020...Data Integrity Project, GMP Expert committee, Quality & Technology Committee, Japan Pharmaceutical Manufacturers Association Chugai Pharmaceutical Co., Ltd.1),

 医薬品製造におけるデータインテグリティ(DI)に関

しては,海外当局や主要な国際機関よりガイダンスが発

出されている。これらのガイダンスへ対応することは,

人の生命,健康に直接関わる医薬品の品質を高い次元で

保証することに直結する。医薬品製造の品質とは,「品

質システム」が適切に機能している状態で製造管理およ

び品質管理が行われ,かつ,医薬品そのものの物理化学

的,製剤学的特性,有効性および安全性が保証されたも

のでなければならない。それゆえ,医薬品製造における

データの信頼性を担保することは,医薬品の品質を保証

するために欠かせない要件であるという考えの下でわれ

われはDIに取り組んでいる。本稿では,医薬品製造に

おける当社のDIへの取り組みについて,その考え方お

よび具体的な進め方を紹介する。

 DI対応は,意識面の改革やリソース配分などが必要

とされるため,経営陣を含めた会社全体で取り組むべき

課題である。また,対応に時間を要する事項が発生する

こともあるため,DIの管理体制構築のためにマスター

プランを作成し,適切に進捗を管理することが重要であ

る。マスタープランには目的,背景,運用範囲,方針,

スケジュール,役割と責任,対応項目およびコミュニケー

ションといった内容を盛り込むとよい。これらについて

は,製薬協GMP部会DIプロジェクトの成果物1)である

はじめに

DI対応のマスタープラン1.

DIマスタープランが大変参考になる。なお,本プロジェ

クトではマスタープラン以外にも,DIのガバナンスやデー

タ等の管理・完全性を保証するための手順書や,運用を

評価するためのアセスメントシート,ラボ機器・システ

ムのアセスメントツールおよび教育訓練マテリアル(経

営陣向けおよび実務者向け)といったDI対応に有用なツー

ルが成果物として報告されているので積極的に活用され

ることを推奨する。

 最近では海外当局も品質文化の重要性について言及す

る機会が増えてきている。DI対応についても例外では

なく,各種ガイダンスに品質文化と品質システムの重要

性が論じられている(表1)2〜5)。特にFDAのDIガイダン

スでは,品質文化に対するマネジメントサポートがなけ

れば,品質システムが壊れてしまい,CGMP違反につな

がるとまで記載されている。このことからもDI対応に

ついて品質システムと品質文化をセットにして進めてい

くことが大変に重要と言えよう。

 DIというとシステム面での対応をメインに考えがち

であるが,データの生成から廃棄までのライフサイクル

において,必ずどこかのプロセスに人が介在する。さら

に言えば,システムを造るのも人である。それゆえ,デー

タの取り扱いに関わる人たちが持つDIや品質に対する

マインドセットをより良いものにする,すなわち,品質

文化を築き醸成させていく必要がある。

 このように医薬品製造におけるDIとは,品質を保証

するために不可欠な仕組み(品質システム)の完全性であ

DIと品質文化2.

田辺三菱製薬工場におけるデータインテグリティへの取り組み

Approach to data integrity of Mitsubishi Tanabe Pharma Factory Corporation

田辺三菱製薬工場株式会社

藤崎 浩HirosHi Fujisaki

Mitsubishi Tanabe Pharma Factory Corporation

特集 データインテグリティ対策UPDATE 2

21(1461) Vol.36 No.9(2020)

Page 6: Vol.36 No.9 July 2020...Data Integrity Project, GMP Expert committee, Quality & Technology Committee, Japan Pharmaceutical Manufacturers Association Chugai Pharmaceutical Co., Ltd.1),

 医薬品の品質保証において,品質に係る製品の出荷判

定等の判断を適切に下すためにはその判断の根拠となる

データは完全で信頼できる必要がある。データインテグ

リティは特に新しい概念ではなく,GMPの基本要件

「Good Documentation Practice」として各国のガイドラ

イ ン(EU-GMP Part I Chapter 4, EU-GMP Part II

Chapter 6, FDA CFR211 Subparts F, I and J)に以前か

ら定められている。GMP活動を完全に追跡し再構築す

るためにすべての記録(紙および電子)を適切に管理する

ことは以前から求められている。

 一方,コンピュータシステムの進歩によるデータ管理

の複雑化や企業におけるデータに関するGMPコンプラ

イアンス問題の増加を受けて2010年代以降,各国から相

次いでデータインテグリティに関するガイダンスが発行

されている。近々のデータインテグリティへの関心が高

まりつつある中,日本製薬工業協会(製薬協)GMP部会

ではデータインテグリティプロジェクトを2017年に立ち

上げた。プロジェクトを立ち上げた当初は,内外の査察

権者からデータインテグリティに関連した指摘事項が増

加している傾向にあるにもかかわらず,データインテグ

リティに関する要求事項は必ずしも明確ではなく,多く

の製薬企業がその対応に苦慮している状況にあった。

はじめに そこで,当プロジェクトではデータインテグリティに

関する最新のガイドラインの要求事項を正確に理解し,

リスク分析に基づいたデータインテグリティ対応を行う

ことが効果的かつ効率的な品質保証体制の構築のために

極めて重要であると考え,データインテグリティ活動の

一助となるような実践的なツール事例を作成するべく活

動していくことにした。

 本稿では,製薬協GMP部会データインテグリティプ

ロジェクトが携わってきたデータインテグリティへの取

り組みについて,3回に分けて紹介する。

 第1回目となる今回は,データインテグリティに関す

る期待事項,プロジェクト発足の背景と目的,そして,

本プロジェクトの活動のベースとなるデータインテグリ

ティの基本的な考え方について紹介する。

 第2回は,本プロジェクトで作成した4つの成果物の

うち,3つの成果物(データインテグリティ・マスタープ

ラン,データインテグリティ・コンプライアンス・アセス

メントシート,機器・システムリスト 兼 リスクアセス

メントシート)について,また第3回では,4つ目の成

果物(教育訓練マテリアル)について,具体的に紹介する。

 そもそもデータインテグリティ(Data Integrity:DI)

データインテグリティに関する期待事項と最近の動向

1.

日本製薬工業協会GMP部会におけるデータインテグリティに係わる取り組み(その1)

Efforts related to data integrity in the Japan Pharmaceutical Manufacturers Association, GMP Expert committee (Part 1)

日本製薬工業協会 品質委員会 GMP部会 データインテグリティプロジェクト

中外製薬株式会社1),武田薬品工業株式会社2)

藤江 宏1),大河内一宏2)

HirosHi Fujie1), KazuHiro oKocHi2)

Data Integrity Project, GMP Expert committee, Quality & Technology Committee, Japan Pharmaceutical Manufacturers Association

Chugai Pharmaceutical Co., Ltd.1), Takeda Pharmaceutical Co., Ltd.2)

特集 データインテグリティ対策UPDATE 3

31(1471) Vol.36 No.9(2020)

Page 7: Vol.36 No.9 July 2020...Data Integrity Project, GMP Expert committee, Quality & Technology Committee, Japan Pharmaceutical Manufacturers Association Chugai Pharmaceutical Co., Ltd.1),

 分析法バリデーションでは,分析法の試験室内での変

動を検証するために室内再現精度の検討が要求される。

しかし,室内再現精度の試験デザインをどのように構築

するかについての国際的なガイダンスはない。科学およ

びリスクに基づく原則,すなわちクオリティ・バイ・デ

ザイン(QbD)の原則を分析法開発に適用することで,分

析法の性能への影響という観点から,最も高いリスクを

示す因子を確実に選択し,室内再現精度の試験デザイン

に組み込み,また試験デザインに含める独立した分析

(independent analytical run)の数も,その分析法の複雑

さや包括的リスクにふさわしいものとすることができる。

以前(QbD導入以前),国立医薬品食品衛生研究所

(NIHS)より,室内再現精度の評価において6回の

independent analytical runを行う一般的な試験デザイン

を示した有用なガイダンスが提供されている。本稿では,

その代替として,分析法でのリスクを考慮しながら室内

再 現 精 度 の 試 験 デ ザ イ ン を 構 築 し,independent

analytical runの数を規定する事例を紹介する。

 長きにわたり利用されているICH Q2ガイドライン1)は,

欧州,日本および米国での製造販売承認申請資料に含め

る分析法バリデーションについて,検討に際して考慮す

べき分析能パラメータを定めている。ICH Q2ガイドラ

インにおいて,精度に係る分析能パラメータは3段階で

定められており,室内再現精度はその2段階目にあたる

(残りの2つは,併行精度と室間再現精度)。また,「室

内再現精度とは,同一施設内において,試験日,試験実

はじめに施者,器具,機器等を変えて測定する場合の精度のこと

である」と記載されている。さらに,室内再現精度の実

施方法について,検討が必要な代表的な変動因子である

試験日,試験者,装置などへの影響を別々に検討する必

要はないとされ,実験計画法を利用することが奨励され

ている。

 分析法のバリデーションは,ときに各々の分析能パラ

メータの評価に一般化されたバリデーション試験を用い

ることから,しばしば「チェックボックス的」作業2)と

して取り扱われている。このことは,室内再現精度を単

純で一般化された試験3)で評価することが日常的となる

状況を招いているが,規制当局からも容認されている。

前述のとおり,NIHSは2002年,室内再現精度の検討に

おいて許容できるアプローチとして,一般化された試験

デザインを提案しており4),各種因子(試験日,試験者,

装置)を十分に組み合わせながら,6回のindependent

run5)(自由度5)を行うことが推奨されている。他の手

法としては,試験者2名,機器2台および試験日を組み

合わせて分析する種々のデザイン(例えば,8つの条件

でそれぞれ繰り返し3回測定するデザイン6);8つの条

件の要因デザインのうち1/2(半分)の4条件でそれぞれ

9錠測定するデザイン7)),または数日間にわたり分析

するデザイン(例えば,試験者などの因子が固定されて

いるかは述べられていないが,異なる7試験日に2つの

マトリックスからなる複数ロットを測定する2セットの

分析8))などが示されている。NIHSのデザイン4)を表1

に示す(注:NIHSの論文4)のように試験日順ではなく,

また一部改編している)。

 表1に示す6つの条件を用いたデザイン5)は,長期間

リスクに基づいた分析法バリデーションにおける

室内再現精度の検討

Risk-Based Intermediate Precision Studies for Analytical Procedure Validation

GlaxoSmithKline

Phil Borman,Marion Chatfield,淺原初木,田村文子,Adam Watkins

49(1489) Vol.36 No.9(2020)

Page 8: Vol.36 No.9 July 2020...Data Integrity Project, GMP Expert committee, Quality & Technology Committee, Japan Pharmaceutical Manufacturers Association Chugai Pharmaceutical Co., Ltd.1),

 本稿では,ASTMから発行されたE3106「科学および

リスクベースのクリーニングプロセスの開発とバリデー

ションに関するスタンダードガイド」に記載されている

科学,リスクおよび統計に基づく手法について詳述する。

 本連載の第1回1)で述べたように,規制当局および業

界によりさまざまな取り組みが行われ,業界ではクリー

ニングバリデーションに科学,リスクおよび統計に基づ

いた手法がより多く用いられるようになった。特に重要

なクリーニングバリデーションに関する出来事として,

Barr Labs Court Case2),1996年のGMP改訂3),1996年

の改訂に伴うISPE Risk-MaPPガイドラインの導入4)な

どがあげられる。

 1996年にFDAはGMPの改訂を提案し,以下のように

述べた。

「FDAは,製造業者に対し,自社製造の医薬品から交叉

はじめに汚染のリスクがある製品を特定し,そのリスクを排除す

るために必要な措置を講じることを望む」。

 同時期に,一部の規制当局と業界従事者が,クリーニ

ングバリデーションにおける許容限界値を投与量の0.001

または10ppmとする正当性に異議を唱え始めた5)。この

基準を用いて算出された限界値には大きなばらつきがあ

り,低リスク製品でも不必要に専用の製造施設が必要に

なる場合があることが認識され始めた。またいくつかの

ケースでは,十分に低い基準が設定されていなかった。

さらに重要な点として,投与量の1/1000または10ppmと

いう限界値では,クリーニングバリデーションの限界値

を特定するための薬剤について得られたあらゆる毒性デー

タと臨床データが考慮されているわけではないことが明

らかとなった。

 後にRisk-MaPP Guideを執筆することになるチームが

2004年に結成された。1996年改訂版の課題に対処するた

め,各薬剤について得られたすべての毒性データと臨床

データを考慮してクリーニングバリデーションの限界値

を設定する新たな手法が必要となった。そこで,製薬従

※本稿の内容の一部は,Pharmaceutical Onlineを原著とし,Pharm Tech Japanでの掲載に向けて修正・改訂した。

ASTM E3106「科学およびリスクベースのクリーニングプロセスの開発とバリデーションに関するスタンダードガイド」の概要

科学とリスクに基づくクリーニングバリデーション 第2回

連 載

Science Based and Risk Based Cleaning Validation Part 2Introduction to the ASTM E3106 "Standard Guide to Science Based and

Risk Based Cleaning Process Development and Validation"

NPO法人 Center for Pharmaceutical Cleaning Innovation1),ライフサイエンティア株式会社2)

Andrew Walsh1),白木澤 治2)

Andrew wAlsh1),OsAmu shirOkizAwA2)

Center for Pharmaceutical Cleaning Innovation1), Life Scientia Limited2)

57(1497) Vol.36 No.9(2020)

Page 9: Vol.36 No.9 July 2020...Data Integrity Project, GMP Expert committee, Quality & Technology Committee, Japan Pharmaceutical Manufacturers Association Chugai Pharmaceutical Co., Ltd.1),

 医薬品の包装完全性評価については,PMDA製剤委

員会,創包工学研究会,包装標準化委員会などさまざま

な組織・団体による検討が長年続けられてきた。その結

果2016年4月PMDA製剤委員会の下「無菌医薬品包装

の完全性評価WG」が設置され原案策定が開始された。

その後2019年6月に完成した原案に対する意見聴取を経

て製剤委員会に上程された。現在,2021年4月第18改正

日本薬局方 参考情報「無菌医薬品包装の完全性評価」

および「無菌医薬品包装の漏れ試験法」収載に向け審議

が行われている。本稿では,当該参考情報(案)および米

国薬局方 参考情報USP<1207>「無菌製剤の包装完全

性評価」を対比,分析することにより,その方向性と課

題について考察し完全性評価実施に向けた科学的根拠に

基づく管理基準策定のための手順の検討結果を示す。

 第18改正日本薬局方 参考情報(案)「無菌医薬品包装の

完全性評価」および「無菌医薬品包装の漏れ試験法」は,

USP<1207>,第17改正日本薬局方,国際調和などさま

はじめに

1 USP<1207>の示す方向性

ざまな要求に基づき構成されている。

 本稿ではUSP<1207>の考え方や方向性について分析

し,第18改正日本薬局方参考情報(案)の元となった考え

方について説明を行う。

 USP<1207>の論旨は,漏れ試験業務に長年携わって

きた専門メーカー(フクダ)から見ても極めて完成度が高

く科学的妥当性を有する内容である。

 USP<1207>は,表1に示す4分類から構成されてお

り,そのうち<1207.2>,<1207.3>については,一般

的な試験法の説明であるため,ここでは<1207>,

<1207.1>に的を絞ってその概要の説明を行う。

<1207>パッケージ完全性評価―滅菌(対象)製品

①パッケージの漏れによる品質リスク

・微生物の侵入を許してしまうリスク

・ 製品の投薬形態を崩してしまうリスクまたは液体や固

形物質の侵入を許すリスク

・ パッケージ上部空間のガス含有量変化を許すリスク(真

空の喪失,酸素,水蒸気,空気の侵入)

表1 USP<1207>の概要

<1207≫ パッケージ完全性評価―滅菌(対象)製品<1207.1≫ 製品ライフサイクルにおけるパッケージ完全性試験

―試験方法の選定方法および妥当性確認<1207.2≫ パッケージ完全性リーク試験技術<1207.3≫ パッケージ封止品質試験技術

無菌医薬品包装の完全性評価および漏れ試験法第3回

無菌医薬品包装の完全性評価と最大許容漏れ限度の設定

Current status and problems of integrity test and leak test method for sterile pharmaceutical packaging

株式会社フクダ 医薬品包装等プロジェクト

樋口泰彦Yasuhiko higuchi

FUKUDA CO., LTD.

74(1514) Vol.36 No.9(2020)

Page 10: Vol.36 No.9 July 2020...Data Integrity Project, GMP Expert committee, Quality & Technology Committee, Japan Pharmaceutical Manufacturers Association Chugai Pharmaceutical Co., Ltd.1),

ファームテク編集部へのご意見,ご質問,ご感想等は

じほうホームページは

E-mail アドレス:[email protected]://www.jiho.co.jp

著作物利用許諾に関するお願い 近年,薬学雑誌出版を取り巻く環境は大きく変貌し,誌面情報の電子化とネットワーク上での利用などに対しあらゆる面からの対処が必要となってまいりました。そこで弊社といたしましては,記事の電子化ならびに二次利用につきまして,著作権の適正な管理・運用をめざし,次のとおり手続きをさせていただきます。 本誌に掲載された記事につきましては,その利用にかかわる著作権(複製権,公衆送信権,翻案権,上映権,譲渡権,二次的著作物の利用に関する権利など著作物の利用上必要な著作権)の行使および複写権の管理を弊社に許諾いただいたものとし,今後発行する本誌に関しましても同様の扱いとさせていただきます。 なお,上記の許諾は,執筆者の著作権(執筆者自身による他誌・書籍への転載など)を制限するものではありませんが,本誌掲載後に執筆者ご自身で著作物を他の書物,WEBサイト等に転用される場合も,編集部にご一報いただければ幸いです。 ご理解とご協力をいただきますようお願い申し上げます。� 株式会社じほう

お客様の個人情報の取扱いについて 弊社は,書籍購入のお申込み,新聞・雑誌購読のお申込み,その他の商品のご購入やサービスのご利用にあたり,お客様の個人情報を収集させていただき,厳重に管理しております。 この個人情報は,書籍,新聞・雑誌,その他の商品や各種サービスのご提供・ご案内など,弊社事業活動に利用させていただく場合がありますので,あらかじめご了承ください。 なお,お客様が個人情報の利用を希望されない場合や,お客様の個人情報の確認・訂正につきましては,お手数ですが下記の窓口までご連絡ください。 【お問い合わせ窓口】 ■E-Mail:[email protected] 〒101-8421 東京都千代田区神田猿楽町1-5-15 猿楽町SSビル 株式会社 じ ほ う

特集 GDP対応と適正な

医薬品流通に向けて

ARTICLES

Study of GMP製剤技術

そ の 他

8月号予告Vol.36 No.10

①2019年度日本版GDPガイドラインに関するアンケート調査結果� �� 松本欣也(日本製薬団体連合会�品質委員会,日本通運)

②医薬品適正流通(GDP)ガイドライン質疑応答(追加)� �� 浅木幸造(日本製薬団体連合会�品質委員会,大塚製薬工場)

③倉庫及び車両・コンテナの温度モニタリングと温度マッピング手法(参考情報)� �� 大野高史(医薬品流通課題検討会,アステラス製薬)

■リスクマネジメントの視点からの防虫管理(その1)リスクマネジメントプロセス� �� 谷 壽一,木村俊彦,尾池泰英(シーアンドエス)

■無菌医薬品製造におけるフィルター完全性試験のデータインテグリティ対応(第1回)� �データインテグリティの基礎とFDA査察指摘� �� 望月 清(エクスプロ・アソシエイツ),志村靖二,谷山浩將(日本ポール)

■日本製薬工業協会GMP部会におけるデータインテグリティに係わる取り組み(その2)� �� 日本製薬工業協会�品質委員会�GMP部会�データインテグリティプロジェクト

■「冷たいWFI」を製造するには?(その2)~冷たいWFI懸念を払拭する提案~� �� 布目 温(布目技術士事務所)

■無菌医薬品包装の完全性評価および漏れ試験法(第4回)気体の漏れと透過の基本的考え方� �� 吉田 肇(産業技術総合研究所)

■バイオ医薬品のCMC薬事担当者養成~基礎をおさえ,一歩進んだ次世代CMC薬事へ~(第4回)� �� 李 仁義(神戸大学)

■封じ込め設備の運用に関するいくつかの話題� �~PIC/S査察官用備忘録およびUSP<800>の視点から~(第5回)� �� 島 一己(ファルマハイジーンサポート)

■終業後のクリーンルームにおける風量の削減� 川上浩司(京都大学)■今さら聞けない「QbDって何?」―医薬品品質保証のパラダイムシフト―(第17回)� 岡崎公哉(GSK)■対談�嶽北先生が訊く 再生医療のいまと未来(第11回)� �キムリアに学ぶ再生医療等製品開発� 弦巻好恵氏(ノバルティスファーマ),嶽北和宏氏(大阪大学)

■核酸医薬品の創出に向けた産官学の取り組み(第10回) 規制:品質評価� �� 伊藤浩介(医薬品医療機器総合機構)

■進め!! 医療薬学研究(第10回)� �多施設共同ランダム化比較試験に関連した研究(病院)� 鈴木賢一(星薬科大学)

■製剤研究者が注目する一押しトピック■医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団ニュース(No.154)� �� 津田重城(医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団)

■中小規模組織におけるQRMのインフラ整備(第32回)� 柳澤徳雄

■【製剤と粒子設計】定容積せん断試験装置を用いた粉体流動性の新しい評価法� �� 島田泰拓(ナノシーズ)

◦News�Topics  ◦World�News�Topics