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©日本証券アナリスト協会 2013 77 1.研究の背景と目的 近年、年金基金や投資信託運用を行う機関投資 家の代表的な手法として、 VWAPVolume Weighted Average Price)を基準とした売買が見られる。 VWAPとは約定した取引価格を価格ごとの出来高 で加重平均した価格であり、一定期間における平 均約定価格を表す。銘柄 i の大引け T 時点におけ VWAP (注1) は式で定義される。 VWAP i,T = T t=1 P i,t x i,t T t=1 x i,t P i,t 銘柄 i 時点 t における約定価格 x i,t :銘柄 i 時点 t における約定株数 本稿では、日経225銘柄における日中出来高予測の可能性を考察し、出来高予測モデルの構築を行った。クロ スセクション回帰分析の結果、当期と過去の対数出来高変化率の間には有意な係数が存在し、日中出来高の周期 性が確認された。日中出来高に影響を与えるファクター候補を検証し予測モデルを構築した結果、予測誤差、執 行誤差ともに過去平均モデルを優越し、出来高予測モデルによるVWAP執行戦略の実現可能性が示された。 .研究の背景と目的 .出来高分析 .日中出来高予測モデルの構築 .モデルの評価 .結論と今後の課題 論 文 VWAP執行戦略のための 日中出来高予測モデルに関する研究 枇々木 枇々木 規雄(ひびき のりお) 慶應義塾大学理工学部教授。1988年慶應義塾大学理工学部管理工学科卒業。1990年同大 学院理工学研究科管理工学専攻修士課程、1994年同博士課程修了。博士(工学)。1992慶應義塾大学理工学部助手。専任講師、助教授を経て、2009年より現職。著書に『金融 工学と最適化』(朝倉書店、2001年)などがある。 小里 拓矢(こざと たくや) 三井住友信託銀行株式会社、受託資産運用部。2010年慶應義塾大学理工学部管理工学科 卒業。2012年同大学院理工学研究科開放環境科学専攻修士課程修了。同年月より現職。

VWAP執行戦略のための 日中出来高予測モデルに関する研究VWAP執行戦略のための 日中出来高予測モデルに関する研究 小 里 拓 矢 枇々木

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Page 1: VWAP執行戦略のための 日中出来高予測モデルに関する研究VWAP執行戦略のための 日中出来高予測モデルに関する研究 小 里 拓 矢 枇々木

©日本証券アナリスト協会 2013� 77

1. 研究の背景と目的

 近年、年金基金や投資信託運用を行う機関投資

家の代表的な手法として、VWAP(Volume Weighted

Average Price)を基準とした売買が見られる。

VWAPとは約定した取引価格を価格ごとの出来高

で加重平均した価格であり、一定期間における平

均約定価格を表す。銘柄 i の大引け T 時点におけ

るVWAP(注1)は式1で定義される。

VWAPi,T =Tt =1 Pi,t x i,t

Tt =1 x i,t

Pi,t:銘柄 i、時点 t における約定価格

xi,t:銘柄 i、時点 t における約定株数

 本稿では、日経225銘柄における日中出来高予測の可能性を考察し、出来高予測モデルの構築を行った。クロ

スセクション回帰分析の結果、当期と過去の対数出来高変化率の間には有意な係数が存在し、日中出来高の周期

性が確認された。日中出来高に影響を与えるファクター候補を検証し予測モデルを構築した結果、予測誤差、執

行誤差ともに過去平均モデルを優越し、出来高予測モデルによるVWAP執行戦略の実現可能性が示された。

1.研究の背景と目的

2.出来高分析

3.日中出来高予測モデルの構築

4.モデルの評価

5.結論と今後の課題

目 次

論 文

論 文

VWAP執行戦略のための日中出来高予測モデルに関する研究

小 里 拓 矢枇々木 規 雄

枇々木 規雄(ひびき のりお)

慶應義塾大学理工学部教授。1988年慶應義塾大学理工学部管理工学科卒業。1990年同大

学院理工学研究科管理工学専攻修士課程、1994年同博士課程修了。博士(工学)。1992年慶應義塾大学理工学部助手。専任講師、助教授を経て、2009年より現職。著書に『金融

工学と最適化』(朝倉書店、2001年)などがある。

小里 拓矢(こざと たくや)

三井住友信託銀行株式会社、受託資産運用部。2010年慶應義塾大学理工学部管理工学科

卒業。2012年同大学院理工学研究科開放環境科学専攻修士課程修了。同年4月より現職。