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中中中中中中中中中中 中中中中 (中中中中中中中中中中中中 中中中中1. 中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 1931中中中中中中中中 中中中中中中中中 中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 、。、 中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 、。 中中中中中 中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中 、、 γ中中中中中中中中中中中中(中中) 中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中 。、 中中1中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中 中中中 中中 、、。、 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中 、。。 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中 。、。 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中 、。。。 中中中中中 中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中 中中中中中中中 。、一一。 中中 中中中 中中中中中中中中 中中中中中中中中 中中 中中中中中 中中中中中中中中 中中中中中中中中 中中中中中中中中 中中中中中中中中 中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中 。、。 中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 「」。 中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中 「」、 2.7MV中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中 。。 中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中 中中中中中中中 、、。 MIT中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中L.Grodzins,G.Goldring,R.Scharenberg中中中中中中中中中中中 中中 中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 」、、。 中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 。。。 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中,中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中 中中中中中中 一、。 中中中中 中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中 中中中 、、、、1 中中中中中 中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中 一。 RF中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 。。 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中3mm中中中中中中中中中中中0.5mm中中中中中中中中中中中中中中中 中中 。RF 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中中 中中 中中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中 中中中中中中中中中中中中中中中中中 。、、。 中中 中中中中中中中中中中 中中中 中中中

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中 ノ 島 時 代 の 杉 本 先 生中 井 浩 二 ( 高 エ ネ ル ギ ー 物 理 学 研 究 所 名 誉 教 授 )

1. 杉 本 研 究 室 発 祥 の 地 : 大 阪 大 学 中 ノ 島 キ ャ ン パス  昔 は 水 都 と 呼 ば れ た 大 阪 市 の 中 心 、 堂 島 川 と 土佐 堀 川 に 挟 ま れ た 中 ノ 島 に 大 阪 大 学 理 学 部 が 創 設さ れ た の は 1931 年 の こ と で あ っ た 。 初 代 学 長 に 長 岡半 太 郎 先 生 は 、 こ の 新 し い 大 学 の 創 設 に 意 欲 を 持っ て 取 り 組 み 全 国 か ら 優 れ た 人 材 を 集 め ら れ た 。特 に 、 当 時 創 成 期 に あ っ た 原 子 核 物 理 学 を 中 心 的プ ロ ジ ェ ク ト と し て 選 び 、 理 研 か ら 新 進 気 鋭 の 菊池 正 士 先 生 を リ ー ダ ー に 迎 え ら れ た 。  菊 池 先 生 は 、 先 ず コ ッ ク ク ロ フ ト ・ ワ ル ト ン 加速 器 を 建 設 し て 中 性 子 原 子 核 反 応 の 実 験 に 取 り 組み 、 中 性 子 の 非 弾 性 散 乱 に よ る γ 線 の 測 定 で 有 名 な菊 池 ・ 青 木 ( 熊 谷 ) ・ 伏 見 の 実 験 を 次 々 と 発 表 さ れた 。 次 に サ イ ク ロ ト ロ ン を も 建 設 さ れ 、阪 大 1 期 生 の 伊 藤 順 吉 先 生 に よ る フ ェ ル ミ の 理 論 の検 証 、 光 学 模 型 の 原 点 と な っ た 若 槻 哲 雄 先 生 の 影散 乱 な ど 、 先 駆 的 な 成 果 が 挙 げ ら れ た 。 ま た 、 湯川 秀 樹 先 生 の 中 間 子 論 の 予 言 も こ の 中 で 生 ま れ た 。  菊 池 研 究 室 が サ イ ク ロ ト ロ ン の 建 設 を は じ め た時 、 第 三 の 加 速 器 ヴ ァ ン デ グ ラ フ の 建 設 も 始 ま った 。 伏 見 康 治 先 生 が 始 め ら れ た 。 静 電 型 加 速 器 はサ イ ク ロ ト ロ ン と 違 っ て 大 変 難 し い も で あ っ た 。伏 見 先 生 が 始 め ら れ 、 若 槻 先 生 が 大 変 な 苦 労 を なさ っ た が 旨 く 行 か な か っ た と 聞 い て い る 。 そ の うち に 太 平 洋 戦 争 が 始 ま り 全 て の 活 動 が 止 ま っ て しま っ た 。  戦 後 、 こ の 加 速 器 を 完 成 さ せ た の が 杉 本 先 生 であ っ た 。 殆 ど ゼ ロ か ら の 出 発 で あ っ た 。 今 日 の ように絶縁素材が整っ て い る わ け で は な い 。 真 空 技 術 も 未 熟 で あ る 。杉 本 先 生 は 、 い ろ い ろ な 工 夫 を 重 ね な が ら そ の 困難 を 一 つ 一 つ 解 決 さ れ た 。  先 ず 、 先 生 は 高 圧 電 極 側 の 支 持 を 取 り 外 し て し

真空                         図1 ヴァンデグラフ加速器

ポンプ

ビーム

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ま っ た 。 元 の 伏 見 先 生 の 設 計 で は イ ス コ ン シ ン 大ウの ハ ー ブ 先 生 の 設 計 を 真 似 て 高 圧 電 極 に も 支 柱 があ っ た 。 支 柱 を 外 し 横 型 の 加 速 器 装 置 を 片 持 ち にし た 状 態 で ベ ル ト を 動 か す と 、 も の す ご い 振 動 であ っ た 。 そ の 頃 は す っ か り 理 論 物 理 に 戻 ら れ た 伏見 先 生 が と き ど き 訪 ね て 来 て 「 ま だ 壊 れ ま せ んか 」 と 杉 本 先 生 に 訊 く こ と を 楽 し ん で 居 ら れ た そう で あ る 。                 図 1 ヴ ァ ン デ グ ラ フ 加 速 器

  「 片 持 ち 」 構 造 に し て 、 や っ と 2.7MV の 高 電 圧 を発 生 で き る よ う に な っ た 。 こ の 手 造 り の 加 速 器 は難 物 で そ れ だ け に 良 い 勉 強 に な っ た 。 し か し 何 より も 、 困 難 を 克 服 し て 完 成 さ せ た 杉 本 先 生 の 技 術は 誰 も が 賞 賛 し 、 尊 敬 し た 。 杉 本 先 生 は 次 に MITに留 学 し 、 そ こ で も ロ ッ ク フ ェ ラ ー 加 速 器 と 呼 ば れる 加 速 器 を 改 善 し て 日 本 人 の 実 験 技 術 の 高 さ を 示し L.Grodzins,G.Goldring,R.Scharenberg ら と の 親 交 を 深 め ら れ た 。  「 片 持 ち 」 の 支 持 構 造 体 の 端 末 に つ い て い る 高圧 電 極 は 、 ベ ル ト の 回 転 に よ っ て 激 し く 振 動 し 、高 圧 タ ン ク の 外 に も 響 く 轟 音 を 立 て て 動 い て い た 。初 め て 高 圧 タ ン ク に 入 れ て 貰 っ て 驚 い た 。 高 圧 電極 に 複 雑 な 機 器 が ぎ っ し り 詰 ま っ て い た 。 こ れ らの 機 器 は あ た か も 振 動 に よ る 拷 問 試 験 を し て い るよ う な も の で あ っ た 。  ヴ ァ ン デ グ ラ フ 加 速 器 の 高 圧 タ ン ク の 中で , こ れ ら の 機 器 に 一 寸 し た 不 具 合 が で き ると 、 そ の 修 理 は 大 変 で あ っ た 。 タ ン ク か らガ ス を 抜 き 、 タ ン ク に 入 っ て 修 理 し た 後 、再 び 乾 燥 ガ ス を 詰 め 、 更 に ガ ス を 乾 燥 す る操 作 が 必 要 に な る の で 、 少 な く と も 約 1 週間 の ロ ス に な る 。   ヴ ァ ン デ グ ラ フ 加 速 器 の も う一 つ の 困 難 は 真 空 系 で あ っ た 。 RF イ オ ン 源 か ら 加速 管 ま で の 空 間 を 真 空 に ひ く 真 空 ポ ン プ は 加 速 管の 終 端 に し か つ け ら れ な い 。 長 い 加 速 管 を 通 す ので 排 気 速 度 は 極 め て 限 ら れ た も の に な る 。 各 局 部の 排 気 に も 注 意 を 払 い 例 え ば 袋 ネ ジ の 奥 の ガ ス に対 す る 排 気 速 度 を 上 げ る た め 3mm の ネ ジ の 中 心 軸 に沿 っ て 0.5mm の 穴 を あ け る と い う 注 意 を 払 っ た 。 RF イ オ ン 源 の 交 換 や そ の 他 の 作 業 の た め 真 空 を 破る こ と は 大 変 な こ と で あ っ た 。 新 し く 機 器 を 取 り付 け る 時 は 充 分 に 真 空 の 漏 れ が 無 い こ と を 確 か めた 。 吸 着 ガ ス の 放 出 に も 注 意 を 払 い 、 新 し い 機 器を 取 り 付 け る 時 は 、 全 て 超 音 波 洗 浄 機 で 充 分 に 洗浄 し た 。

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  杉 本 研 の 一 員 と し て 最 初 に 取 り 組 ん だ 仕 事 は RFイ オ ン 源 の改 造 で あ った 。 そ れ まで 30MHz で 励起 し て い たが ビ ー ム が変 調 さ れ ると 良 く な いの で 周 波 数を 100MH z に上 げ た 。 それ に は 、 RL集 中 回 路 の発 信 器 で は無 理 な の で 平 行 線 型 の 立 体 回 路 発 信器 を 作 る 必 要 が あ っ た 。 ヴ ァ ン デ グラ フ 加 速 器 の 狭 い 高 圧 電 極 の 中 に 組み 込 む こ と が 必 要 で あ っ た が 、 そ こに 組 み 込 む 回 路 の 配 線 は 振 動 に よ って 簡 単 に 断 線 し て し ま う の で 柔 構 造に し て お く こ と が 大 切 で あ っ た 。100MHz RFイ オ ン 源 は 完 成 し た が 、 高 圧電 極 に 設 置 し 調 整 す る 作 業 に 数 ヶ 月を 要 し た 。 高 圧 電 極 内 の 機 器 の 調 整は 、 ま る で 人 工 衛 星 積 載 機 器 の よ う で あ っ た 。  私 た ち は ヴ ァ ン デ グ ラ フ 加 速 器 で 苦 労 し た が 、そ の 代 わ り に 限 界 に 挑 戦 す る 実 験 技 術 を 学 ぶ こ とが で き た 。 工 作 技 術 ・ 真 空 技 術 ・ 回 路 技 術 そ れ に放 射 線 技 術 な ど は 全 て 自 力 で 学 ん だ 。  杉 本 先 生 の 細 部 に 亘 る 注 意 は 非 常 に 教 育 的 で あっ た 。 機 器 の 設 計 図 を 書 く と き も 細 か い と こ ろ まで よ く 見 て 注 意 し て 頂 い た 。 何 度 も 製 図 を や り 直さ せ ら れ た 。 時 に は 「 ど ち ら で も い い で は な い です か 」 と 言 いた く な っ た が 、そ れ を 言 う と「 ど う で も 良い と 言 う 前 に 、何 で も よ い から 理 由 を 考 えて こ い 」 と 厳し く 叱 ら れ た 。杉 本 先 生 と の共 同 作 業 は 緊 張 の 連 続 で あ っ た 。1950 年 代 の 中 頃 と い う と 日 本 は 未 だ 貧 乏 で あ っ た 。

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貧 乏 で 困 難 な 環 境 の 中 で 加 速 器 の 建 設 ・ 保 守 す ると い う 作 業 は 、 優 れ た 実 験 物 理 の 研 究 者 を 育 て てく れ た 。

2. ひ と の や ら な い こ と を や ろ う : Q(19F*(5/2+)) の 実 験 :  1950 年 、 60 年 代 、 わ が 国 で は 原 子 核 物 理 と 加 速 器科 学 は 未 分 化 で あ っ た 。 原 子 核 研 究 者 は 加 速 器 の運 転 ・ 補 修 ・ 改 良 を 自 力 で 行 っ て い た 。 杉 本 先 生は 、 ヴ ァ ン デ グ ラ フ 加 速 器 の 建 設 、 改 良 、 維 持 に多 く の 時 間 を 費 や し な が ら も 、 原 子 核 励 起 状 態 の磁 気 能 率 の 測 定 に 業 績 を 挙 げ ら れ た 。   阪 大 旧 菊池 研 の 主 流 グ ル ー プ は 若 槻 先 生 の 下 に サ イ ク ロ トロ ン の 建 設 を 始 め ら れ て い た 。  杉 本 先 生 は 、 「 ひ と の や れ な い こ と を や る 」 こと が で き れ ば 理 想 的 だ が 、 貧 乏 な 日 本 で は 望 め ない こ と で あ る 。 そ れ な ら 「 ひ と の や ら な い こ と をや ろ う 」、 間 違 っ て も 「 ひ と の や る よ う な こ と を やる 猿 ま ね は や め よ う 」 と 言 っ て お ら れ た 。 「 ひ との や ら な い こ と を や ろ う 」 と い う 考 え は 、 そ の 後ず っ と 杉 本 グ ル ー プ の 精 神 と な っ た 。  特 に 、 物 理 の テ ー マ の 選 択 に お い て 「 ひ と の やら な い こ と を や ろ う 」 と い う 精 神 は 重 要 で あ っ た 。  杉 本 先 生 は 、 ビ ー ム に よ っ て 励 起 さ れ た 核 か ら放 出 さ れ る γ 線 の 角 度 分 布 が 磁 場 に よ っ て 回 転 す る擾 乱 効 果 を 解 析 す る 方 法 (TIPAC 法 ) で 152Sm核 の 励 起 状態 の 磁 気 能 率 を 決 定 さ れ た 。 152Sm核 の 場 合 は 、 核 に働 く 内 部 磁 場 を 知 る 必 要 が あ り 、 永 宮 研 の 金 森 順次 郎 先 生 の 協 力 を 得 て 物 性 計 算 が 行 わ れ た 。 「 核物 性 」 と い う 分 野 の 誕 生 で あ っ た 。  私 が 、 杉 本 グ ル ー プ に 参 加 さ せ て も ら っ た の はこ の 後 で あ る が 、 こ の 頃 、 中 性 子 の 飛 行 時 間 (TOF) を 測 る た め に ナ ノ 秒 の パ ル ス 計 測 技 術 が 始 ま っ てい た 。 杉 本 グ ル ー プ は 、 ナ ノ 秒 パ ル ス 技 術 を 用 いて 核 ス ピ ン 回 転 の 時 間 微 分 ス ペ ク ト ル を 計 測 す る実 験 を 始 め た 。 私 は ヴ ァ ン デ グ ラ ー フ 型 加 速 器 から の ビ ー ム を パ ル ス 化 す る 装 置 を 製 作 し た 。 平 行平 板 に 高 圧 の 高 周 波 を 加 え て ビ ー ム 軌 道 を 上 下 に振 り 、 ス リ ッ ト を 通 し て パ ル ス ビ ー ム を 得 る と いう 初 歩 的 な 原 理 で あ っ た が 、 当 時 は 容 易 で な か った 。 時 間 ス ペ ク ト ル 測 定 用 の 時 間 波 高 変 換 回 路 は 、溝 渕 先 輩 の 担 当 で あ っ た が 遅 延 ケ ー ブ ル な ど は 自作 で あ っ た 。  実 験 の 準 備 が 整 っ た 頃 、 阪 大 の 実 験 室 は 第 2 室戸 台 風 に よ る 水 害 の 洗 礼 を 受 け た 。 実 験 室 は 地 階に あ る の で 、 実 験 装 置 は 全 て 水 没 し た 。 そ の 翌 日か ら 泥 落 と し に 半 年 あ ま り を 費 や し 、 実 験 の 再 開

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ま で に 1 年 か か っ た 。  悲 劇 的 な 破 壊 か ら の 復 興 に 意 欲 を 燃 や し て 取 り組 ん だ の は 19F の 第 二 励 起 状 態 (5/2+, E=197keV,τ=123ns ) の 電気 四 重 極 能 率 の 測 定 で あ っ た 。 磁 気 能 率 は 、 既 に見 事 な 測 定 が 報 告 さ れ て い た 。 磁 気 能 率 μ と 違 っ て

電 気 四 重 極 能 率 Q の 測 定 は 分子 の 結 晶 場 q = (dE/dz) と の 相 互作 用 を 利 用 し て 測 る の で 厄 介で あ る . は じ め に テ フ ロ ン(C2F4)n を 標 的 に し て 19F(p,p’)19F*反 応に よ る γ 線 の 時 間 ス ペ ク ト ルを ビ ー ム に 対 し 0° と 90°方 向 で測 定 し そ の 差 か ら 電 気 四 重 極相 互 作 用 の 基 本 角 周 波 数 ω0

が 求 ま っ た 。  ω0= (3/5x4)(eqQ/h)π で あ る 。 電 気四 重 極 能 率 Qを 求 め る に は q を知 る こ と が 必 要 で あ っ た 。 早速 、 永 宮 先 生 、 金 森 先 生 に ご相 談 に 上 が っ た が 、 テ フ ロ ンの (C-F) 共 有 結 合 に つ い て q を 計算 す る こ と は 不 可 能 で あ る と教 わ っ た 。そ し て 、 q を 計 算 す る に は 二原 子 分 子 の 固 体 結 晶 を 使 っ て

実 験 す る よ う に と い う 助 言 を い た だ い た 。 こ れ が大 変 で あ っ た 。  F が 共 有 結 合 を す る 二 原 子 分 子 と い う と F 2 , ClF‥で 、 F 2 が 最 も 望 ま し い が   分 子 結 晶 の 標 的 を 作 るこ と が 難 し い の で ClF を 標 的 と し て 用 い る こ と に した 。 と こ ろ が 、 当 時 ClF な ど と い う 物 質 は 市 販 薬 品に な い ど こ ろ か 日 本 の 何 処 に も 存 在 し な い こ と を知 っ た 。

図 2   イ オ ン 結 晶 KF 、 高 分 子 テ フ ロ ン (C2F4)n お よ び  共 有 結 合 分 子 ClF を 標 的 と し た 時 の 角 相 関 係 数 。  下 図 は テ フ ロ ン 標 的 の γ 線 角 分 布 の 時 間 ス ペ ク トル 。

  杉 本 先 生 が 、 ( 株 ) ダ イ キ ン 工 業 に 作 っ て 貰 う よう 頼 み に 行 こ う と 言 わ れ る の で 二 人 で お 願 い に 上が っ た 。 ダ イ キ ン の 研 究 部 の 化 学 主 任 は 、 ClF3 は ロケ ッ ト 燃 料 と し 作 っ た が ClF は 用 途 が な い の で や った こ と は な い 、 面 白 い か ら や り ま し ょ う と 即 答 して 下 さ っ た 。

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  1 月 も 経 た な い う ち 、 ClF が で き ま し た と 連 絡 があ っ た 。 直 ち に 受 け 取 り に 行 く と 小 型 の ボ ン ベ に入 っ た ガ ス を 下 さ っ た 。 次 は こ の ガ ス 約 100mg を 小型 容 器 に 移 し 、 こ こ か ら タ ー ゲ ッ ト の 位 置 に 設 け液 体 窒 素 で 冷 却 し た Cu 板 に 吹 き 付 け て ClF の 分 子 結晶 タ ー ゲ ッ ト と し た 。 し か し 、 こ の 小 さ な ガ ス ハン ド リ ン グ シ ス テ ム が 正 常 に 動 作 す る ま で 、 時 間が か か っ た 。 原 因 は 配 管 内 に 吸 着 し た 水 に よ る ClFの 加 水 分 解 で あ っ た 。 ClF が 加 水 分 解 す る と HF と HClに な る 。 HCl は 冷 却 さ れ た Cu 板 に 吸 着 す る が HF は 沸点 が 低 い の で ガ ス と し て 飛 散 し て し ま う 。 結 果 とし て 、 ビ ー ム 照 射 し た と き の γ 線 ス ペ ク ト ル に Cl は見 ら れ た が 、 肝 心 の F の γ 線 は 見 ら れ な か っ た 。  タ ー ゲ ッ ト に 用 い る ClF の 量 が 100mg と い う 微 量 なの で 、 加 水 分 解 で 失 わ れ る 可 能 性 が 大 き い こ と は想 像 で き た の で 、 配 管 は モ ネ ル メ タ ル と テ フ ロ ンで 製 作 し ベ ー キ ン グ を 行 っ て 配 管 の 各 部 に 吸 着 する 水 を 追 い 出 す こ と を 試 み た が ClF の 加 水 分 解 は 変わ ら な か っ た 。 そ こ で 杉 本 先 生 の 発 案 で 、 ClF を 入れ る 前 に 多 量 の F2 ガ ス を 流 し た 。 各 部 に 吸 着 す る水 を HF に し て 追 い 出 す た め で あ っ た 。 こ の 結 果 ClFの 分 子 結 晶 を タ ー ゲ ッ ト と し た 実 験 に 成 功 し (Cl-F)共有 結 合 に よ る 電 気 四 重 極 相 互 作 用 の 角 周 波 数 ω0(Cl-F) が 決 ま っ た 。  次 に ω0(Cl-F) か ら 19F 核 の 電 気 四 重 極 能 率 Qを 求 め るた め に ClF 共 有 結 合 に よ る 電 場 勾 配 q を 計 算 し た 。ClF 結 合 の イ オ ン 結 合 性 と 共 有 結 合 性 の 比 率 を 実 験デ ー タ の 経 験 則 で 求 め 、 こ れ に い く つ か の 補 正 を加 え て q を 求 め た 。 実 験 で 決 め た ω0(Cl-F) の 5% の 精 度は 、 こ れ ら の 計 算 に よ る 誤 差 に 蝕 ま れ 、 最 終 的 に得 た Qの 値 は     | Q| = 0.11±0.02 b と い う 大 き な 誤差 20% が つ い た 。   3 年 の 長 期 に 亘 り 数 々 の 困 難 を克 服 し て 得 た 結 果 が こ ん な こ と か と 思 う と 悲 し かっ た 。 二 度 と Qモ ー メ ン ト の 測 定 を す る も の か と ここ ろ に 決 め た 。 ( し か し 、 そ の 6 年 後 に は Berkeley のHILAC で Projectile Coulombに 於 け る Reorientation effect を 利 用 す る方 法 で SD-shell 核 の Qモ ー メ ン ト を 測 定 す る こ と に なる と は 思 っ て も い な か っ た 。 )3. ひ と の や ら な い こ と を や ろ う : μ(17F(5/2+)) の 実 験

19F*(5/2+)の 電 気 四 重 極 能率 測 定 の 測 定 の 実 験は 溝 渕 先 輩 の 学 位 論文 と な っ た 。 学 位 を取 る に は 、 何 年 も かけ て こ ん な に 苦 労 する の か と 思 っ た 。 次

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は 私 の 番 で あ っ た 。  杉 本 先 生 は 、 何 年 間 か ず っ と 心 の 中 に 蓄 え 、 熟成 さ せ て こ ら れ た ア イ デ ィ ア を 話 し て 下 さ っ た 。そ れ に は 二 つ の 要 素 が あ っ た 。 即 ち 、(1) 鏡 映 核 の 磁 気 能 率 を 測 り 、 核 磁 気 能 率 に 現 れ る中 間 子 効 果 を 調 べ る こ と 、(2) 核 反 応 に よ り 偏 極 し た 核 を 作 り 、 そ の 偏 極 を パリ テ ィ の 破 れ に よ る β 線 の 非 対 称 放 出 の 観 測 し 磁 場中 で RF 遷 移 を 観 測 す る 新 NMR 法 を 開 発 す る こ と 、 であ っ た 。        図 3   βNMR 実 験 の セ ッ ト ア ッ プ  こ の 頃 鏡 映 核 の 磁 気 能 率 が 測 ら れ て い た の は 3Hと 3He の 対 だ け で あ っ た 。 磁 気 能 率 の 和 を と る とSchmidt 模 型 に よ る 磁 気 能 率 の 和 に 極 め て 近 く 、 差 をと る と 大 き く 違 っ て い る 。 そ れ は 中 間 子 効 果 の 符号 が 鏡 映 核 で は 逆 に な っ て い る か ら で あ る と 教 科書 に 書 か れ て い た 。 こ れ を 詳 細 に 調 べ た い と い うこ と が 第 一 の 動 機 で あ っ た 。 鏡 映 核 の 一 方 の 磁 気能 率 は 測 ら れ て い た が そ の 相 手 は み な 半 減 期 が 短い の で NMR に よ る 精 密 測 定 が で き な か っ た 為 で あ る 。  色 々 な 可 能 性 を 検 討 し た 後 、 17F(5/2+,T1/2= 66sec) を 選ん だ 。 こ れ は 、 17O の 対 で 、 二 重 閉 殻 構 造 の 16O 核 の外 に 陽 子 が 1 個 つ い た 核 な の で 構 造 が 判 り 易 い 。  新 NMR 法 の 実 験 の 原 理 を 図 3 に 示 す 。 17F は 、 ヴ ァン デ グ ラ フ 加 速 器 で 加 速 し た 2.3MeVの 重 陽 子 ビ ー ムを 石 英 薄 膜 の 標 的 に あ て て 16O(d,n) 17F 反 応 に よ っ て 造る 。 こ の と き 17F 核 は 反 跳 エ ネ ル ギ ー を 得 て 標 的 の薄 膜 か ら 放 出 さ れ る 。 そ の う ち コ リ メ ー タ ー で 限ら れ た 方 向 に で る 17F 核 を CaF2 膜 の ス ト ッ パ ー に 捕 まえ る 。 こ の 17F 核 が 偏 極 し て い て 、 そ れ が β 崩 壊 す る迄 保 持 で き た と す る と 、 パ リ テ ィ 保 存 則 の 破 れ に因 っ て 上 下 に 放 出 さ れ る ベ ー タ 線 の 強 度 が 違 っ てく る 。 そ こ で 、 全 体 を 磁 場 の 中 に 置 き 高 周 波 を かけ て 上 下 の β 線 の 強 度 比 を 観 測 す る と 核 磁 気 共 鳴 の条 件 を 満 た す 周 波 数 の 時 に 強 度 比 が 消 え る 。  実 験 に 成 功 し た か ら こ の よ う に 簡 単 に 原 理 を 説明 で き る が 、 実 際 は 山 あ り 谷 あ り で 困 難 な 要 素 が多 く 、 実 験 が う ま く 行 く と は 誰 も 信 じ て く れ な いし 、 自 分 た ち も 信 じ 難 い 挑 戦 で あ っ た 。  先 ず 、 核 反 応 で 偏 極 核 が 作 れ る と 信 じ る 理 由 はな か っ た 。 次 に 偏 極 を 1 分 近 く 保 持 で き る と い う根 拠 は な か っ た 。 や っ て み る よ り 仕 方 が な い と 思っ て い た 。 い わ ば ギ ャ ン ブ ル で あ っ た 。  (1) 核 偏 極 が 得 ら れ る か ? (2) 偏 極 を 長 時 間 保持 で き る か ?

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  (3)NMRを 観 測 で き る か ?と い う 3 つ の 疑 問 に 対 し 、(3) は 心 配 し て い な か っ た 。 (1) は 核 理 論 屋 に 相 談 して も 答 は 得 ら れ ず 、 や る し か 他 に 法 は な か っ た 。し か し 、 (2) に 関 し て は 努 力 す る 道 が い く つ も 考 えら れ た 。  核 反 応 で 作 ら れ た 偏 極 核 の ス ピ ン は 、 そ の 核 が β崩 壊 す る 迄 に そ の 方 向 を 乱 す 数 々 の 相 互 作 用 が 核外 か ら 働 く 。 先 ず 標 的 か ら 放 出 さ れ ス ト ッ パ ー に跳 ぶ 迄 の 間 、 核 は い ろ い ろ な 荷 電 状 態 に あ っ て 核外 電 子 に よ る 超 微 細 相 互 作 用 を 受 け て ス ピ ン の 向き は 乱 さ れ る は ず で あ る 。 し か し 幸 い な こ と に 外部 か ら か け る NMR 用 の 磁 場 が ス ピ ン の 偏 極 軸 と 一 致す る た め パ ッ シ ェ ン バ ッ ク 効 果 に 因 っ て ス ピ ン の方 向 は 維 持 で き る 。  次 に 、 ス ト ッ パ ー に 入 っ た 核 ス ピ ン は 電 気 四 重極 相 互 作 用 を 受 け る . こ の 効 果 を 小 さ く す る た めス ト ッ パ ー は 等 軸 対 称 を 持 つ CaF2 を 用 い た 。 結 晶 の格 子 点 に う ま く 捕 ま れ ば 電 気 四 重 極 相 互 作 用 は 働か な い 。 格 子 点 に 捕 ま る 確 率 は 前 節 で 述 べ た 実 験の う ち KF ィ オ ン 結 晶 に つ い て の デ ー タ か ら 60% 以 上あ る こ と が 解 っ て い た 。 CaF2 中 の 19F が と 反 跳 核 17F の質 量 が 近 い の で 交 換 衝 突 で 格 子 点 に 着 床 し 易 い と考 え ら れ た 。 こ う し て 最 初 の 偏 極 の 半 分 は 保 持 でき た 。 こ う し て 初 期 の 擾 乱 を 通 り 抜 け た 核 ス ピ ンは 、 次 に 周 囲 の 常 磁 性 不 純 物 と ス ピ ン ・ ス ピ ン 相

互 作 用 を す る 可 能 性 が あ る の で 、 CaF2

は 高 純 度 の も の を 選 び 、 特 に 色 の つ い て い な い 部分 を 選 ん で 使 っ た 。 カ ラ ー セ ン タ ー と の 相 互 作 用も 困 る か ら で あ っ た 。 核 ス ピ ン 偏 極 の 保 持 に こ うし た 注 意 を 払 っ た 結 果 、 遂 に 核 ス ピ ン の 緩 和 時 間を 30 秒 に す る こ と が で き た 。 NMR 実 験 に は 充 分 な 長さ で あ る 。 物 性 研 究 者 を 含 む 多 く の 人 が 驚 い た .常 磁 性 緩 和 の 時 間 は 秒 以 下 で あ ろ う と 言 わ れ て いた が 、 そ れ も 克 服 で き た 。 こ れ は 17F 核 の 磁 気 能 率が CaF2 中 の 19F 核 の そ れ と 異 な っ て い る た め ス ピ ン 拡

図517F(5/2+)のNMR

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散 と 呼 ば れ る 過 程 が な か っ た た め で あ っ た 。 幸 運で あ っ た 。図 4   NMR デ ー タ

常 温 で 30 秒 と い う 緩 和 時 間 (T1)は 未 だ 誰 も破 ら れ な い 記 録 で あ る 。 こ の 後 、 共 鳴 実 験 を 行 い 17F の 磁 気 能 率 を決 定 し た 。      μ   = 4.7224±0.0012 nm で あ っ た 。  こ の 値 を 決 め た 日 の 夜 は 、 嬉 し く て 眠 れ な か った 。 こ の 値 は 。 私 達 杉 本 グ ル ー プ の 4 人 以 外 は 世界 中 の 誰 も 知 ら な い と 思 う と わ く わ く し た 。 し かし 、 同 時 に こ れ だ け の 精 度 の 値 を チ ェ ッ ク す る ため に 、 こ ん な 難 し い 実 験 を す る 人 が 現 れ な い と する と 、 ど う な る だ ろ う と い う 心 配 も し た .  後 に な っ て 、 パ リ テ ィ 非 保 存 を 実 験 的 に 発 見 した C.S.Wu 先 生 が 来 日 さ れ た 時 、 自 分 た ち が 発 見 し たパ リ テ ィ 非 保 存 を 使 っ て 実 験 に 成 功 し た こ と を 喜ん で 下 さ っ た 。 そ の 時 、 Wu 先 生 は 、 有 名 な 60Co の 極低 温 偏 極 法 で 実 験 さ れ た が 、 最 初 に T.D.Lee教 授 が Wu先 生 に 提 案 さ れ た 実 験 は 、 ま さ に 核 反 応 に よ る 偏極 を 使 っ た 実 験 で あ っ た と い う 話 を 聞 か せ て い ただ い た 。

5. 豊 中 キ ャ ン パ ス へ

の 移 転

  阪 大 理 学 部 は 、 水害 を 一 つ の 機 会 と して 将 来 性 の な い 中 ノ島 キ ャ ン パ ス か ら 豊中 へ の 移 転 す る 計 画を 建 て て い た 。 杉 本グ ル ー プ は 、 そ の 間に も ヴ ァ ン で グ ラ フ加 速 器 実 験 室 を 復 興し 、 前 の 2 節 で 述 べ た 二 つ の 実 験 を 行 っ て 成 功 した 。 水 害 は 凡 そ 1 年 間 の ブ ラ ン ク を 作 っ た が 、 復興 の た め の 予 算 で 、 古 い 回 路 な ど を 更 新 し 、 新 しい 機 器 を 整 え る こ と も で き た 。「 水 太 り 予 算 」 だ と 人 は 呼 ん だ 。                                      図 5 豊 中 ヴ ァ ン で グ ラ フ 実 験 室 の 鳥 瞰 図 ( 杉 本 に よ る )

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  そ れ に 加 え て 、 キ ャ ン パ ス 移 転 が 認 め ら れ 多 額の 予 算 が つ き 、 ヴ ァ ン デ グ ラ フ加 速 器 も 更 新 し 、 新 し く 米 国 のHIVEC 社 か ら 輸 入 す る こ と に な った 。 4 M V の 加 速 器 で あ っ た 。新 し く 建 設 す る 実 験 室 も 杉 本 先生 を 中 心 に 自 分 た ち で 設 計 し 建設 し た 。 研 究 室 の 移 転 、 新 実 験室 の 建 設 、 新 し い ヴ ァ ン で グ ラフ の 建 設 と 忙 し い 日 々 が 続 い たが 、 学 ぶ こ と が 多 か っ た 。 日 通の 人 た ち か ら 重 量 物 の 運 搬 を 学び 他 の 人 の で き ぬ 経 験 を し た 。HIVEC 社 か ら 来 た エ ン ジ ニ ア か らは ア メ リ カ 風 の 仕 事 の 進 め 方 を学 ん だ 。  新 ヴ ァ ン で グ ラ フ 加 速 器 は 、縦 型 で 極 め て 静 か な 機 械 で あ った 。上 か ら の 垂 直 ビ ー ム は 分 析 電 磁 石 で 90°偏 向 し て 水平 に す る が 、 分 析 電 磁 石 を 回 転 台 に の せ て 4 箇 所の 実 験 室 に ビ ー ム を 出 せ る よ う に 設 計 し た 。  実 験 室 の 完 成 を ま っ て 、 新 NMR を 活 か し た 実 験 を始 め た 。  ま ず 始 め は 12B の NMR で あ っ た 。 12B は 半 減 期 が 短 く10msec で あ る こ と 、 β 線 の エ ネ ル ギ ー が 大 き い こ と等 の 理 由 で 、 先 に 述 べ た 17F の 場 合 よ り も 実 験 が 易し い 。 最 初 に ア イ ソ バ ー の 対 で あ る 1

2B-12N の 磁 気 能 率 を 測 っ た 。  こ の 後 の 展 開 は 、 南 園 忠 則 君 の 紹 介 が あ る の で重 複 を 避 け る が 、 新 し い ヴ ァ ン デ グ ラ フ 加 速 器 の実 験 施 設 で は 、 そ の 後 多 く の 人 材 を 続 々 と 輩 出 した 。  図 6 4 MV ヴ ァ ン で グ ラ フ 加 速 器 と 杉 本 先 生

6.   杉 本 先 生 の 人 材 教 育  杉 本 先 生 の 教 育 は 厳 し い も の で あ っ た 。 数 々 の難 問 が 与 え ら れ 困 難 に 直 面 す る 日 々 で あ っ た 。 その 中 で 困 難 を 克 服 し た と き の 達 成 感 は こ の 上 な く嬉 し か っ た 。 杉 本 先 生 ご 自 身 の 研 究 者 生 活 が そ のも の で あ っ た 。中 ノ 島 に あ っ た 手 造 り の ヴ ァ ン で グ ラ フ 加 速 器 を完 成 さ せ 、 核 磁 気 能 率 の 測 定 に 成 功 し て 仁 科 賞 を

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受 賞 さ れ 次 は 、 鏡 映 核 の 磁 気 能 率 の 精 密 測 定 に よっ て 中 間 子 効 果 を 決 め る た め に βNMR を 開 発 さ れ た ( 東 レ 賞 ) 。 そ の 間 に 台 風 に よ る 水 害 で 水 浸 し に なっ た 実 験 室 を 復 旧 し 、 更 に 新 キ ャ ン パ ス へ の 移 転と い う 大 事 業 を 成 し 遂 げ ら れ た 。 そ の 間 に 育 っ た弟 子 が 各 地 ・ 各 分 野 で 活 躍 し て い る 。  確 実 な 技 術 を 身 に つ け 、 学 問 に 強 い 好 奇 心 を 持っ て 取 り 組 む と い う 姿 勢 を 弟 子 に 見 せ 、 学 ば せ る 、と い う 教 育 を わ れ わ れ は 受 け た 。 そ の 始 ま り は 貧乏 な 時 代 で あ っ た 。 戦 後 菊 池 先 生 が 海 軍 か ら 持 ち帰 ら れ た 廃 兵 器 を 解 体 し て 加 速 器 や 測 定 器 を 自 作し た 。 実 験 に 必 要 な ビ ー ム の 生 成 か ら 放 射 線 の 計測 と デ ー タ の 解 析 迄 み ん な 自 力 の 作 業 で あ り 、 その 研 究 の 動 機 は 純 粋 で あ っ た 。 樋 屋 の 技 術 か ら 高エ ネ ル ギ ー 原 子 核 実 験 ま で 幅 広 く 学 術 の 研 究 に 取入 れ い ろ い ろ な 局 面 で 若 者 を 刺 激 し 教 育 さ れ た 。  逆 に 、 豊 か に な っ た 日 本 の 環 境 の 中 で 研 究 は 分業 化 が 進 み 、 例 え ば 実 験 に 従 事 す る 若 者 は 加 速 器に 完 全 に 依 存 し 、 も っ と ビ ー ム を 、 も っ と 高 い エネ ル ギ ー を と 言 う こ と だ け で 深 く 理 解 し よ う と しな い 。 杉 本 先 生 は 、 も っ と 不 景 気 に な れ ば よ い とよ く 言 い っ て 居 ら れ た 。 勿 論 一 方 で は 大 計 画 の 推進 に 熱 心 に 取 り 組 ん で 居 ら れ た 。 豊 か に な る こ とで 人 の こ こ ろ が 貧 し く な る こ と の 危 う さ を 早 く から 感 じ と っ て お ら れ た 。  本 質 を 見 失 っ た 教 育 の 論 議 、 マ ニ ュ ア ル の 整 備と そ の 理 解   的 な 接 触 が 原 点 に あ っ た 。

  最 後 に 杉 本 先 生 の 語 録 を 並 べ て 本 稿 の ま と め とす る 。♦  人 の や れ な い こ と を や り た い 。 し か し そ の 環 境が 得 ら れ な い な ら 人 の や ら な い こ と を や ろ う 。    「 勿 嘗 糟 粕 」 と い う 長 岡 半 太 郎 初 代 阪 大 総 長の 揮 毫 が 理 学 部 大 講 義 室 に 掲 げ ら れ て い る 。    創 設 期 の 阪 大 を 知 る 先 輩 の 先 生 方 は こ の 精 神に 導 か れ 、 後 進 を 導 か れ た 。 「 岡 部 金 次 郎 先 生 は 、    論 文 を 読 む な 、 自 分 で 考 え ろ 、 そ し て 良 い 考え が 浮 か ん だ 時 自 分 と 同 じ 考 え 持 っ た 人 が 過 去 に    い た か ど う か 調 べ る た め に 論 文 を 読 め と 指 導さ れ た 」 と 杉 本 先 生 が 良 く 話 し て お ら れ た 。♦  加 速 器 や 実 験 装 置 の 部 品 の 設 計 は い つ も 自 分 で図 面 を 書 い た 。 杉 本 先 生 は 細 か く 見 て 下 さ り 、    何 度 も 注 文 が つ い て 書 き 直 し を さ せ ら れ た 。10 回 近 く 書 き 直 し て こ れ で OK が 貰 え る と 思 っ て いる と    「 何 と な く 気 に 食 わ な い 」 と 言 わ れ る 。 ど う

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し て で す か と 訊 く と 見 た 目 に 美 し く な い も の は うま く 機 能 し な い 。    と 言 わ れ た 。 機 能 美 の 不 足 で あ っ た 。♦  こ ん な こ と ど う で も 良 い で は な い で す か と 言 うと 叱 ら れ た 。 「 ど う で も よ い 」 と い う の は 実 験 屋が 言 う 言 葉    で は な い ど ん な こ と で も 良 い か ら 理 由 を 考 えて 来 い 。 自 分 の 行 為 に は 必 ず 理 由 を 考 え ろ と 言 われ た 。♦  お 茶 の こ こ ろ で 実 験 を !    実験に於いても重要な精神的要素を磨くことが大切である。

♦  優 れ た 実 験 の 案 は 、 実 現 が 困 難 で あ っ て も 最 終の 段 階 ま で 徹 底 的 に 計 画 を つ め て お け 。    杉本研助手になって最初に与えられた課題は、重陽子ビームのウラニウムによる散乱の精密

測定により

  重陽子のPolarizability を測って重陽子波動関数におけるd成分の比を決めようという提案であ

った。

  細かい検討の結果この実験は諦めたが、それから約10 年の後Berkeley のHILACでクーロン励

起の

  Reorientation 効果の実験を行う時、非常に役に立った。

♦  広 い 視 野 を 持 て 、 Keep you eyes open.    「エピソード1」で紹介した樋屋の話のように先生はいわゆる雑学の豊富な方であった。そ

れは、好奇心に

  満ちた少年の頃から大阪の町工場で見聞を広げた経験にもとづいていた。 物理実験 ばかりで

なく、

  水害後の復旧作業や移転作業においても、先生の独創的な機知に富む指揮に救われることが多か

った

  ヴァンデグラフ実験室の設計においても先生の独創的な発想が満ちている。

  ニューマトロン計画挫折後の対応においても、先生の広く豊かな視野に基づく指導力がわれわれ

を救った。

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