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 · Web viewものへと成長させた。現在でも、海外原作の作品は非常に人気が高い。演劇が人気である理由は輸入作品数の違いだけではないと思うが、ミュージカルの市場規模が右肩下がりなのに対して、日本のアニメを舞台化した2.5次元ミュージカル

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「育てる」日本の舞台芸術

~芸術への入口、ミュージカル~

11281142 松岡 瑞季

第一章 日本の舞台芸術に生まれた3つの芽

    (1)3つの芽が生まれた理由

    (2)「人材育成の芽」が生まれた背景

    (3)「コンテンツ育成の芽」が生まれた背景

    (4)「販売チャネルの芽」が生まれた背景

第二章 日本の舞台芸術を育ててきた人々

    (1)本物を大衆に、小林一三の挑戦

    (2)クラシックとポップを融合する小池修一郎の作品

    (3)家族で楽しむ舞台を、浅利慶太の想い

第三章 舞台芸術を取り巻く「人材育成の芽」

    (1)日本独自の舞台人の育成

      ①スター育成型~宝塚歌劇団~

      ②発掘型~東宝株式会社~

      ③育成発掘両立型~劇団四季~

    (2)自国の芸術を愛する次世代の育成

    (3)新たな観客層の育成

第四章 世界に誇れる「コンテンツ育成の芽」

    (1)歌舞伎の変化

    (2)2.5次元ミュージカルの登場

第五章 舞台と人を繋ぐ「観劇習慣育成の芽」

    (1)日本版TIKS設立計画

    (2)舞台芸術関連コミュニティーサイトの多様化

第六章 まとめ

第一章 舞台芸術に登場した3つの芽

(1) 舞台芸術の3つの芽が登場した理由

2013年時点で、日本のライブ・エンターテイメント市場の規模[footnoteRef:1]は1兆2800億円と言われる。その内の約5割を「遊園地・テーマパーク市場」が占めており、それに次いで多いのが、約2割の「音楽市場」である。一方、音楽を除いたステージ市場は、「音楽市場」との間に「映画市場」を挟み、5分野中4番目の約1割の市場規模という結果になっている。ステージ市場のみの過去7年間の推移を見ても、2009年をピークに減少傾向が続いている。中でも一番規模が大きいのは、「ミュージカル」だが、ピーク時の671億円(2008年)と比較して、471億円まで減少している。(図1参照)その一方で増加傾向に転じているのは、「演劇」だ。2011年から2012年にかけて約1.4倍にまで伸びている。 [1: http://activeictjapan.com/pdf/141112_jimin_it-toku_pia.pdf エンターテイメント市場における「電子チケット」の現状レポート チケットぴあ株式会社]

図1

エンタ-テイメント市場における「電子チケット」の現状レポート 2014年11月 ぴあ株式会社より作成

国内のミュージカルと演劇の違いは、ミュージカルは海外からの輸入作品が圧倒的に多く、演劇は劇団自作の公演が多い事だ。実際に、2015年10月13日時点で「チケットぴあ」[footnoteRef:2]に掲載中のチケットのうち15番目までの作品中、演劇は海外からの輸入作がたった3作品だったのに対し、ミュージカルは9作品が海外からの輸入作になっている。同様に、全国11645団体もの大小様々な劇団が登録されている「CoRich!舞台芸術」[footnoteRef:3]というチケットサイトに掲載中の20番目までの演劇作品中、海外にルーツを持つ作品はたった4作品である。本場の作品を日本語で楽しめる輸入作品の増加は、一部の富裕層の楽しみにすぎなかった日本の舞台芸術を、より多くの人々にとって身近なものへと成長させた。現在でも、海外原作の作品は非常に人気が高い。演劇が人気である理由は輸入作品数の違いだけではないと思うが、ミュージカルの市場規模が右肩下がりなのに対して、日本のアニメを舞台化した2.5次元ミュージカル[footnoteRef:4]は右肩上がりに観客動員数を増やしている事からも、日本独自のコンテンツが求められている事は確かだ。ここまでのデータを見る限り、ステージ市場は飽和状態であり、次の新たな一手を求められているように感じる。 [2: http://t.pia.jp/stage/ チケットぴあ 演劇] [3: http://stage.corich.jp/ CoRich舞台芸術] [4: http://www.j25musical.jp/user/download/J2.5DMA_pamphlet.pdf 2.5次元ミュージカル 協会資料]

   この現状を受け、ステージ市場は、著しく減少傾向にあるミュージカルを中心に、確実に変化しつつある。特にミュージカルは、西欧のモデルを参考に近代化し、現在では、人々にとって最も身近な舞台芸術の一つとなっている。また、音楽、舞踏、芝居、美術、文学、全ての芸術が含まれるミュージカルは、あらゆる芸術への入口となり得る。そこで、今後は、海外の模倣の域を超え、日本独自の舞台芸術文化を育てる事で、人々が自国の芸術を日常的に楽しむための入口となる使命を担っている。そんなミュージカル業界を中心に、日本の舞台芸術には新たな動きが起こっている。それをジャンル分けすると、「舞台芸術を取り巻く人々に関する動き」、「日本の舞台芸術における新たなコンテンツを育てる動き」そして、「人々と舞台をより身近な関係にする為のシステム造りに関する動き」である。これらの新たな試みは、飽和状態に陥っている舞台芸術の現状を打破し、日本の舞台芸術を今以上に人々にとって身近な存在へと成長させるために必要不可欠なものだ。そして、日本の舞台芸術を、将来的には世界に誇れる物へと育てていくためにこれから育てなければならない小さな「芽」である。本論ではこれらを「人材育成の芽」、「コンテンツ育成の芽」、「観劇習慣育成の芽」と名付け、それぞれの動きと、これらの芽が育った結果、日本の舞台芸術にどのような変化が現れるかを考察していきたい。

(2)「人材育成の芽」が生まれた背景

文化庁は、文化芸術を、「人々が心豊かな生活を実現していく上で不可欠な社会的財産」と定義し、「文化芸術立国中期プラン」[footnoteRef:5]を策定した。文化庁は、このプランの中で、実現すべき3つの項目を掲げている。「人をつくる」「地域を元気にする」「世界の文化交流のハブとなる」の3つである。 [5: 我が国の文化政策 平成26年]

中でも「人をつくる」について、「文化芸術における子供の育成」に関しては国が、「新進芸術家の育成」に関しては民間が担っていくという明確な役割分担がなされつつある事が、予算の推移[footnoteRef:6]を見る事で推測できる。文化庁の予算の内、「豊かな文化芸術の創造と人材育成」という項目を見ると、「新進芸術家の育成」に関する予算は、平成26年から極端に削られているのに対し、同年度から「文化芸術による『想像力・創造力』豊かな子供の育成」という項目が新たに追加され、それまでの新進芸術家の育成に費やされていた額に相当する額が新たに予算として割り当てられている。(図2参照)加えて、「新進芸術家の育成」に関する予算が減少傾向なのに対し、「子供の育成」に関する予算は増加傾向にある。実際に、平成14年から文化庁が主催する子供の為の舞台芸術の公演[footnoteRef:7]数も右肩上がりに増加している。発表されているだけでも、平成15年に525公演のみだった「本物の舞台芸術体験事業数が、平成20年にはその倍以上の1367公演にまで増加しており、今後は義務教育期間に少なくとも2回は舞台芸術に触れる事になる1900公演にまで公演数を増やす事を目標に、毎年272公演ずつ公演数を増やすことを計画している。この事からも分かるように、政府は、子供の教育面から「人をつくる」事に力を入れ始めている。これは、内閣府が平成24年に発表した「文化芸術立国の実現」[footnoteRef:8]の中で、文化芸術振興の為に力を入れて欲しい事項という質問で「子ども達の文化芸術体験の充実」と答えた人の割合が約50%となっている事、さらには、平成21年度の「文化に関する世論調査」[footnoteRef:9]では、地域の文化的環境の充実に必要な事項という質問で「子どもが文化芸術に親しむ機会の充実」という回答が約40%と、共に子供に関する文化芸術教育の充実が一番高い割合になっている事から、民意を反映した方針である事が分かる。国は、市民の声を反映し、子供の頃から気軽に芸術を楽しめる環境づくりを目標としている。その一方で、新進芸術家の育成に関しては国の手から民間の手に委ねられつつある。 [6: http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/yosan/ 文化庁予算 文化関係予算] [7: http://www.mext.go.jp/a_menu/hyouka/kekka/1285851.htm芸術文化の振興 文部科学省] [8: http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab201301/detail/1339589.htm 文部科学省 第8章 文化芸術立国の実現] [9: http://survey.gov-online.go.jp/h21/h21-bunka/index.html 文化に関する世論調査 内閣府大臣官房政府広報室]

「芸術家等の人材育成」への予算[footnoteRef:10]は平成26年を境に大幅に削減されており、これは、近年、国内の芸術家を取り巻く環境が改善されつつある事が理由として挙げられる。総務省の「平成22年国税調査」によると、日本の芸術家人口は平成17年に比べ、わずかに減少したものの、約 [10: 文化芸術関連データ集 平成26年]

図2

文化庁ホームページより作成

49万人の芸術家が活動しており、「舞踏家・俳優・演芸家」は「デザイナー」に次いで二番目に多い約8万人活動している。その増加率も、調査開始当時の平成2年から22年にかけて15%という高い増加率になっている。これは、「劇団四季」や「宝塚歌劇団」等、安定した収入を得ながら舞台人としての教育を受けられる団体の増加や、民間のスクールの増加など、舞台人として必要な技術を学べる場所が増えた事が大きな要因の一つと考えられる。平成17年時点で、日本の芸術家人口の就業者総数に占める割合は0.50%と、アメリカ(平成16年)の0.42%、イギリス(平成17年)の0.83%[footnoteRef:11]と比較しても特別劣っているというわけでもない。(ニッセイ基礎研究所調べ)。また、日本芸能実演家団体協議会[footnoteRef:12]の2015年版の調査結果によると、芸術家の個人収入の平均をその前回(2010年)調査結果と比較すると、一年間の収入100万円未満の低所得者の割合が減少し、一番多い所得層も「100万~200万円」から「200万~300万円」へとシフトしている。同調査で、一年間に行った芸能活動以外の仕事の回答数の割合が、変動していない事を考えると、まだまだ格差はあるものの、本業での芸術家の収入環境は以前より改善されつつあると考えられる。(図3・4参照) [11: http://www.nli-research.co.jp/report/researchers_eye/2008/eye080616.html ニッセイ基礎研究所] [12: http://www.geidankyo.or.jp/research/index.html 日本芸能実演家団体協会 2015年調査結果]

また、同調査の中で、どのように現在の技能を身につけたかを複数回答で求めたところ、「その道のプロに弟子入りして教えを受けた」が42.6%、「小さいときから先生についてレッスン、指導を受けた」が32.9%、「専門学校・教室・養成所などで教育を受けた」が22.3%、「劇団・楽団などプロの集団に直接入って技能を身につけた」が20.8%という結果になった。さらに、「現代演劇・メディア」のみを対象にした回答の中では、「劇団・楽団などプロの集団に直接入って技能を身につけた」という項目が一番高い割合を占める。加えて、矢野経済研究所の「芸能系プロフェッショナル養成サービス市場に関する調査2013」の結果によると、これまで人気NO.1だった「俳優・タレント養成市場」は年々減少傾向が続いており、平成22年の6600百万円から平成25年(予測)には6100百万円にまで減少しているのに対し、「ヴォーカリスト・ダンサー養成サービス市場」は年々緩やかな増加傾向が続いており、平成22年の6200百万円から平成25年(予測)には6500

図3   昨年一年間の個人収入(年齢別)

日本芸能実演家団体協議会 調査報告書2015より引用

(第8回:2010年・第9回:2015年調査)

図4  昨年一年間に行った芸能活動以外の仕事(2010年調査結果との比較)

日本芸能実演家団体協議会 調査報告書2015より引用

万円に増加し、「俳優・タレント養成サービス市場」を追い越す形になっている。これらの結果から、特に舞台芸術に関しては、専門的な技術を学べる環境が充実してきているだけでなく、舞台人への関心も高まってきているようにも感じる。金銭的にはまだ十分とは言えないが、以前よりは環境が改善してきており、芸術家人口も増加傾向、さらに民間での学べる環境の増加などを理由に、「芸術家の育成」に関しては、国から民間に託されつつある。

イギリスやアメリカなどの、舞台芸術の盛んな国同様に、日本も、舞台芸術の発展の多くを民間の支援が支えてきた。今後、国は「次世代の育成」を、民間は「舞台人の育成」を担うという役割分担をしつつ、協力して「舞台芸術」を育てていかなくてはいけない。そんな中で生まれてきたのが、「人材育成」における様々な取り組みだ。

(3)「コンテンツ育成の芽」が登場した背景

   ブロードウェイでは、年々30以上の新作[footnoteRef:13]が発表されている。平成26年から27年の間だけ37 [13: http://www.broadwayleague.com/index.php?url_identifier=season-by-season-stats-1 THE BROADWAY LEAGUE]

作品もの新作が発表された。一方日本のミュージカルは、その上演作品の多くが海外から輸入した作品だ。月に一度のペースで作品を変えて上演している宝塚歌劇団[footnoteRef:14]でも、平成27年に上演された、もしくはこれから上演予定の全30作品中18作品が、海外の舞台をリニューアルしたものか海外のコンテンツを原作にして制作された舞台だ。特に、ブロードウェイ日本支社との印象すら感じさせる劇団四季[footnoteRef:15]では、平成27年10月現在上演されている15作品中、子供向けミュージカルの2作品を除いてほとんど全てがブロードウェイミュージカルを日本版にアレンジしたものだ。東宝株式会社[footnoteRef:16]でも、平成27年10月現在ホームページ上に掲載している公演予定作品全26作品中14作品と、半数近くが海外にルーツを持つコンテンツばかりだ。この数字だけを見ると、日本に不足しているのはコンテンツ力の様に感じる。 [14: https://kageki.hankyu.co.jp/ 宝塚歌劇団 公式ホームページ] [15: https://www.shiki.jp/ 劇団四季 公式ホームページ] [16: https://www.toho.co.jp/stage/ 東宝株式会社 公式ホームページ]

しかし、クールジャパンの言葉で知られているように、日本のコンテンツ産業には、世界中からの需要があり、現在最も期待される分野の一つだ。実際に、みずほ銀行が発表している「2014年みずほ産業調査」[footnoteRef:17]の結果によると、出版では毎月6,000~7,000 点を超える新刊が発行されている。またアニメーションでは、1 ヵ月に平均13 本のテレビアニメ番組の新作が放映され、音楽では、毎年300~500 もの国内アーティストがデビューしているという。映画市場では、興行収入全体に占める、邦画の割合が年々増加しているだけでなく、公開本数推移も邦画の割合が洋画の割合を上回っている(図5参照)。同調査内で公開されている2011年から2013年までの興行収入ランキングには各年5から9作品のアニメーション映画がランクインしており、その数も年々増加している。(図6参照) [17: http://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/sangyou/pdf/1048_03_02.pdf  「みずほ産業調査Vol.48」]

  これらの結果からも、日本のアニメが国内で十分に浸透し、人々に親しまれている事が分かる。日本のアニメーション産業は、市場全体は減少傾向(経済産業省[footnoteRef:18]調べ)(図7参照)にある一方で、アニメーション作品の動画配信売上高は右肩上がりに増加している。インターネットの普及などにより、アニメ関連商品への需要が減少し、市場全体は縮小傾向にあるものの、コンテンツそのものへの需要は大きいと考えられる。特にアジア圏での日本のコンテンツの人気が高い。「よく見るアニメ・マンガ」や「好きなドラマ」等、の質問項目における回答の中で「日本」という回答がかなりの割合を占める。 [18: http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/contents/downloadfiles/1401_shokanjikou.pdf 「経済産業省 コンテンツ産業の現状と今後の発展の方向性 平成26年」]

図5 興行収入における邦画・洋画シェア(左図)・公演本数推移(邦画・洋画)(右図)

      

    

「みずほ産業調査 2014年NO.5」より引用

図6 映画興行収入ランキング

みずほ産業調査 2014年NO.5」より引用

       

図7 アニメ制作会社の海外販売売上高推移

(億円)

「経済産業省 コンテンツ産業の現状と今後の発展の方向性 平成26年」より引用

図8 好きなコンテンツの制作国

経済産業省「コンテンツ産業の現状と今後の発展の方向性」より引用

日本のコンテンツ産業には世界中に大きな需要があるにも関わらず、デジタルコンテンツの急速な普及により、CDやDVDを買わなくても、いつでもどこでも好きなコンテンツを楽しめるようになった事や、海賊版などの不正コンテンツの拡散などの影響を大きく受け、日本のコンテンツ産業は頭落ちになっている。この現状を打開できる新たな取り組みが、これらのコンテンツの舞台化である。舞台芸術は、自ら会場に赴き、出演者、他の観客などと共に同じ空間を共有する点に魅力がある芸術だ。そのため、様々なコンテンツの舞台化により、国内だけでなく海外に散らばる原作ファンを日本に誘致する事ができる。また、スター重視の日本の舞台芸術の特徴もあり、出演者自身にファンがつけば、また新たなビジネスチャンスが生まれる事になる。ファンクラブ収入、スター関連グッズ、チケットや写真、同スターが出演する他舞台への観客の誘導など、経済効果をもたらすであろう関連商品の種類が大幅に増える事が予測できる。これらの理由から、伝統芸能も含め、日本の豊富なコンテンツを国内外問わず再度売り出していくための様々な取り組みが始まっている。

(4)「観劇習慣育成の芽」が生まれた背景

   日本の観劇人口は減少傾向が続いている。博報堂生活総研「生活定点」調査[footnoteRef:19]によると、観劇を「趣味」と答えた人の割合は、前回の2012年の数値に比べると1%増加したものの、1992年の13.4%から7.7%まで緩やかに減少し続けている。 [19: http://seikatsusoken.jp/teiten2014/answer/690.html 生活定点1992ー2014]

   しかし、舞台芸術の人気が落ちているわけではない。サービス産業生産性協議会が2015年に発表した、「2014年度日本版顧客満足度指数年間発表」[footnoteRef:20]の結果によると、顧客満足度が高いと評価された企業のランキングで、他ジャンルの候補企業を退け、「劇団四季」が一位、間に「東京ディズニーリゾート」を挟み、3位が「宝塚歌劇団」になっている。受けたサービスと品質に対比して利用者が感じるコストパフォーマンスを数値化したランキングでも、チケット代が10000円をきる「劇団四季」は1位に君臨している。一方で、チケット代が比較的高額な「宝塚歌劇」は一気に順位を落とし、10位という結果になっている。さらに、他者への推奨意向に関するランキングでも「劇団四季」は3位、「宝塚歌劇」は7位と順位があく。ところが、将来の再利用意向、つまり、リピーターになりたいかどうかの意識調査では、「劇団四季」の名前が挙がらず、「宝塚歌劇」のみが9位に残るという結果になっている。人々は、宝塚歌劇に対して、「劇団四季」以上にリピーターになりたいと感じているにもかかわらず、最終的な満足感は「劇団四季」の方が高いと感じている。この結果からも、人々がチケット代を意識しており、その高さが、受けたサービスの質以上に、最終的な満足感に影響を与えているという事が分かる。 [20: http://activity.jpc-net.jp/detail/srv/activity001451/attached.pdf 2015年度JCSI第三回調査結果発表]

   国の予算を民間からの寄付額が上回っている[footnoteRef:21]日本は、アメリカやイギリスと似た文化芸術の支援体制ができている。アメリカもイギリスも舞台芸術の盛んな文化大国だ。そんな2国の舞台芸術と日本の舞台芸術の最も大きな違いが、チケットの値段ではないかと感じる。正規の値段で比較すると、ブロードウェイミュージカルは、現在日本でも大人気の「アラジン」で9240円~20640円(1ドル=120円換算)、最高級のプレミアムシートで32280円という価格になっている。その他の様々な劇場で上演されている作品を比較しても、平均9000円から20000円弱、プレミアシートで50000円程度だ。同様に、イギリスの舞台の金額も、だいたい3000円から10000円という価格帯になる。日本の舞台は平均5000円~14000円という価格帯になっているため、一見特に高いというわけでもない。しかし、特にブロードウェイミュージカルには、格安チケットが流通している。ブロードウェイミュージカルの格安チケットを手に入れる方法は、「TKIS」[footnoteRef:22]というブースで並んで当日券を購入するか、「BROADWAY BOX」というサイトで事前に限られた公演数の中からクーポンを購入する方法の二つだ。しかし、どちらを選んでも、だいたい半額近くでチケットが買える。チケットを値引きする行為自体がマナー違反とされ、当日券が値引きされる事のない日本の舞台芸術では考えられない事だ。ブロードウェイでは、「ロングラン」というシステムが成立しており、観客動員数の多い舞台は公演期間を延長される。公演期間が延びれば延びる程、一席あたりの料金は安くても元がとれるシステムだ。日本でも、「劇団四季」がロングランシステムを導入しているが、日本では期間を区切られた公演が主流だ。舞台芸術は一度の公演内でいかに多くの観客を動員できるかで利益が決まる。空席が出れば損害も大きく、チケットはただの紙切れとなる。特に日本のように、公演期間が短く区切られている場合はなおさらだ。しかし、日本で当日券が格安販売される事はない。期間が区切られている故、正規の値段で席を埋めなければ利益が出にくい。このような事情が、結局の所、日本の舞台芸術の入場料を割高にしている。 [21: 文化芸術関連データ集] [22: http://nagatuduki-eikaiwa.com/1535.html 飽きっぽい人の為の長続き英会話 http://gogony.blog5.fc2.com/blog-entry-29.html ニューヨーク一人旅 DREAMING NY http://ameblo.jp/amamizu7/entry-11651258238.html 雨音のぶろぐ http://www.nytix.com/Broadway/DiscountBroadwayTickets/TKTS/ NY SHOW TIKETS https://www.tdf.org/nyc/7/TKTS-ticket-booths TIKETShttp://www.broadwaybox.com/  BROADWAYBOX.com http://www.broadway.com/ BROADWAY]

   もう一つの日本の特徴として、「劇団主義」という側面がある。日本には、大小合わせて3000近くの劇場が全国に点在しており、それに加えて劇団の数も、把握しきれない程存在する。劇団は、プロからアマチュアまで、誰でも結成する事ができるため、正確な数を把握できない。あるコミュニティーサイトでは1000を超える団体が登録されている一方で、社団法人日本劇団協議会に登録している劇団数は減少傾向にあり、現在65団体である。劇団にとっては、より広く自分たちの存在やチケット情報を拡散する場所が必要であり、一般の人々にとっては、幅広い劇団や公演情報を知る場所が必要である。

    これまで記したような日本の舞台芸術における課題を克服すべく、様々な取り組みが民間の手によって行われている。そうして生まれたのが、「販売チャネルの芽」である。

第二章 日本の舞台芸術を育てた人達

第二章では、第一章で紹介した3つの「芽」を、生み出してきた人々を紹介したい。そして、これらの「芽」を生み出した人々は全員、日本でのミュージカルの発展に大きく貢献してきたという共通点を持つ。このことからも、ミュージカルが日本の舞台芸術にとっても大きな要となっている事が分かる。

(1) 小林一三

 小林一三と言えば、阪急グループの創設者として有名な人物である。世間一般に知られている阪急阪

神百貨店の設立や、阪急沿線の住宅開発等の他にも、電機会社の執行役や、映画館の開場、東宝映画配

給会社(現東宝株式会社)の設立や全国高校野球の開始等、その活躍は多岐に渡る。事業家として有名な

小林一三だが、舞台芸術の分野でも大きな足跡を残している。それが宝塚歌劇団の設立だ。私は、小林

一三が宝塚歌劇団を通して達成した最も大きな功績は、現在「タカラジェンヌ」の名で親しまれている

プロの「舞台人」を育成し、自社所有の専用劇場で観客に楽しんでもらうという新たな商業演劇の形を

成立させた事だと考えている。

明治45年に、鉄道の利用を促進すべく運営を開始した宝塚温泉のプール事業が失敗に終わり、そのプール跡を再利用できる新たな事業として、大正3年に、宝塚少女歌劇団による舞台が提案された。ところが、当時は、女性が人前で踊りや歌を披露する事があまり受け入れられておらず、参考となるような脚本や楽譜も日本にはほとんど無かったため、一から新たな劇団を創っていかざるを得なかった。積極的に海外視察をする事で最先端の舞台芸術を学び、日本の伝統芸能からもヒントを得て独自のアレンジを加えた舞台を創り上げていった。歌劇自体が珍しかった当時、日本で初めてレビューを製作・公演し、事業を成功させる為には、独自の教育機関と本場のコンテンツを利用して「舞台人」を育てる所から始めなければならなかった。

このような背景の中で、新たな観客層を呼び込めるだけの、大衆受けする「スター」を育てる必要があった。そこで、舞台人として必要な技術を身に付ける教育機関として宝塚音楽歌劇学校(現・宝塚音楽学校)を設立した。しかし、スターとして舞台で生き続けられるのはほんの一握りで、実際はその多くが家庭に入るのが現状だった。小林一三は、スキルだけを教える学校では、生徒達の卒業後の進路も狭めてしまうとの危機感から、教養も含め、「家庭人の育成」を意識した学校教育を提案した。ここでは、舞台に立つ為のスキルだけでなく、一人の女性として身に付けるべき教養も身に付ける事で、芸術を通した人格教育も同時に行い、ただの舞台人を超える「タカラジェンヌ」を育成する。人々にとって馴染のない「舞台人」を唯一の目標にするのではなく、「一人前の女性」を最終目標とする事で受験の敷居を下げる狙いもあったように感じられる。現在でこそ授業料を徴収している宝塚音楽学校だが、小林一三が校長を務めた初期の頃は、授業料をとらず、授業に必要な楽器や道具は全て学校が用意した。こうした様々な工夫を通して、小林一三は一から、当時の日本には存在しなかった新たな舞台人を育てる育成システムを確立した。

舞台人の育成と同時に、小林一三は、観劇をより多くの人々がごく一般的な娯楽の一つとして楽しめるエンターテイメントにしようとした。初期の宝塚歌劇団の脚本や演出までも担当し、関係者と欧米視察に何度も出かける等、上演内容のクオリティーにかなりこだわった。それに加えて、それまでは割高だった観劇料金を低価格に変更し、均一価格でより多くの観客を一気に収容する事にこだわった。この改革により、それまでは舞台を見に行く機会があまりなかった庶民も気軽に舞台芸術を楽しむ事が出来るようになった。一説によると、小林一三が大劇場均一料金にこだわったのは、宝塚歌劇団設立以前に帝国劇場で観劇した際、高額で前方席に座っている客達が舞台に対して無関心なのに対し、後方席で舞台に厚い視線を送る若者達の姿を見た事がきっかけだと言われている。宝塚歌劇団は、自社所有の劇場で、自社で育成した「舞台人」による質の高い舞台を提供し、大衆という新たな「観客」で劇場を埋めるという革新的なビジネスモデルを日本で初めて確立した。小林一三の新たな事業の成功は、人材の育成や観客を増やす様々な戦略を通して、ステータスとしてではなく、純粋な娯楽として舞台芸術を楽しむという観劇文化の定着に貢献した。

(2) 小池修一郎

日本の舞台芸術は、劇団、劇場ごとに個性が強いという特徴がある為、同じ演目、同じ演出家でも、全く違う作品として受け入れられる傾向にある。このような特殊な環境の中で、それぞれの劇団や劇場の個性を活かし、幅広い観客層に親しまれる作品創りをする事が日本独自の舞台芸術を確立する為に必要不可欠である。小池修一郎は、それまでは異例であった、二つの劇団で全く同じ演目の演出を担当し、日本の個性を活かした舞台芸術を人々に広めている第一人者である。

宝塚歌劇団所属の演出家である小池修一郎は、様々な作品を、それぞれ固有のファンを持つ宝塚歌劇団と東宝株式会社の二社で舞台化し、全く違うファン層を対象に、人気作品へと育て上げている。小池修一郎の代表作であるウィーンミュージカル「エリザベート」は、平成8年の宝塚歌劇団での初演を皮切りに、宝塚歌劇で8回、東宝株式会社で5回公演されている。宝塚歌劇では「ベルサイユのばら」「風と共に去りぬ」の両作品に次ぐ200万人という観客動員数を実現している。東宝株式会社では、昭和62年から19回も再演され続け、圧倒的な人気を誇る「レ・ミゼラブル」の一回当たりの平均上演回数である約148回を遙かに超え、たった5回という公演回数を通して平均上演回数が約213回にまで達している。これらの事実を目の当たりにすると、この「エリザベート」という作品が、どれ程異例の人気作か簡単に想像がつく。

ここで注目すべきなのは、一人の演出家が、二つの劇団で全く同じ作品の演出を担当し、それが両方で人気演目になっているという点だ。宝塚歌劇団は女性だけの劇団で、スター重視のミュージカルと言われる。一方で、東宝の舞台は作品重視、実力重視をメインに置き、公演ごとにキャストも変わっていく。それぞれ個性が違うため、観客が求めるものも、それぞれの劇団で違っている場合が少なくない。しかし、小池修一郎は、全く同じ作品を、観客層の違う二つの舞台で見事に成功させたのだ。東宝版エリザベートは、宝塚版よりもより原作に忠実に、そして「死」を表現したキャラクターであるトートを怖さや勢いを感じるキャラクターとして描いている。一方の宝塚版では、主役を女性であるエリザベートから男性であるトートに変更し、執念深くも一途に愛を追い求める妖艶で美しいトートを演出している。「エリザベート」の成功に引き続き「ロミオとジュリエット」「1789」等の作品も、両劇団での公演を行っている。

これらの事から分かるように、小池修一郎はミュージカルを様々な対象にむけてその都度アレンジし直す演出力に長けている。それに加えて、クリエイターでありながら、キャストと観客の特徴を誰よりも理解し、意識した舞台創りをする、舞台と観客を繋ぐ仲介人でもある。特に、日本で「エリザベート」が初演された当時は、ウィーンミュージカル自体が珍しいものだった上に、ミュージカルは楽しいものであるべきだという考えが主流で、「死」をテーマにしたミュージカルの公演は異例の試みだった。阪神淡路大震災の直後だった事もあり、「死」を強く表現しているこの作品が当時の日本で受け入れられるかは賛否両論あった。しかし、当時の日本の観客達はこの作品を求めた。なぜ求めたのか、一人一人の観客の理由を断言する事は出来ないが、「死」という、当時の日本では重すぎるテーマを持つ舞台を日本で受け入れられる形へとアレンジした事で、日本の観客と新たな作品との出会いの場を創った。これがきっかけで、それまでの固定概念が覆され、日本でのミュージカルの楽しみ方の幅が広がったように感じる。

小池修一郎が、劇団・劇場の境界線を越えて様々な作品を演出する事で、それまで劇団・劇場ごとに細分化していたファン層が、演出家や作品を重視して舞台を観るようになる。その結果、劇団・劇場のファンだけでなく、日本のミュージカルのファン層そのものを増やす事ができる。日本という一つの国の中で、同じ作品の様々なパターンを楽しめる社会へと日本の舞台芸術は動きだし、小池修一郎はその大きな第一歩を踏み出した日本を代表する演出家である。

そして、来年、日本オリジナル作品の舞台化として、「るろうに剣心」の宝塚歌劇での舞台化にも演出家として携わっている。日本の作品で、今までミュージカルに関心の無かった新たな客層の獲得を狙うという次の段階に踏み出したように感じる。小池修一郎は、自身が劇団・劇場の垣根を越えた活動をする事で、各劇団や劇場の個性を活かした日本独自の舞台芸術をまずは日本で浸透させようとしている。小池修一郎の蒔いた種が芽を出すかどうかは、今後、彼に続く優れた演出家が現れるかどうかにかかっている。日本のミュージカルにおけるこれからの課題は、オリジナルの作品を世に送り出すと同時に、いかに国内で活躍する優れた演出家を育てていくかだと、私は考える。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             

(3) 浅利慶多

浅利慶多は、日本で舞台芸術を大衆化している劇団、「劇団四季」の創設者だ。「劇団四季」にも固定のファンは存在するが、劇場で最も良く見かけるのは親子連れだ。他にも、恋人同士や夫婦、友人同士など、多様な観客層が存在する。「1年に4本くらいフレッシュな舞台をお客様に提供するような劇団を目指すように」という助言と共に、当時明治座の俳優であった芥川比呂志によって命名された劇団四季は、昭和29年に、旗揚げ公演「アルデール又は聖女」でスタートした。

浅利慶太が実現してきた事は、「劇場をみんなの場所にする事」だと私は考えている。つまり、劇場を人々の日常に溶けこんだ場所の一つとして、特定のファンだけでなく、多くの人々が訪れる場所へと成長させてきた。その為に、浅利慶太は様々な改革を行ってきた。劇団四季は、本来、新劇団であり、ストレートプレイへの熱い想いから、ミュージカルの分野で注目を浴びながらも細々とストレートプレイの公演も続けてきた。劇団四季のどのジャンルの作品よりも多い64演目ものストレートプレイの作品数を見れば、浅利の想いを感じる事ができる。しかし、浅利は、ストレートプレイを日本に広める事よりも、「劇場」という場所を人々の身近な存在にする事を優先した。具体的な改革が3つ挙げられる。「子連れ観劇への対応」「チケット販売方法の多様化」「地方での観劇機会の充実」だ。

まず、「子連れ観劇への対応」は、90年代当時、観客の中で特に割合の高かった20代後半の女性客が、彼女達のライフサイクルに合わせて観劇できるようにとの考えから、日本で初めて託児所と親子鑑賞室を整備。親子鑑賞室は防音になっており、観劇中に子供が泣き出しても、誰の邪魔にもならず舞台を見続ける事ができる個室だ。今では四季の全劇場に設置されている。さらに、「ファミリーミュージカル」や鑑賞教室等の効果もあり、子ども達にとっても、劇場が珍しい場所では無くなった。このように、浅利の劇場改革は、幼少期から気軽に観劇体験ができる環境作りを達成したのだ。

次に、「チケット販売方法の多様化」に関しては、設立当時の手売りから始まり、電話予約、自動電話予約、インターネット予約と、時代の流れと人々の声に対応し、どの観客にとっても平等な環境でチケットを購入できるよう工夫してきた。また、電話予約以降は、どの予約方法も廃止する事なく、観客にとって一番都合の良い予約方法でチケットを購入できるようシステムを整備した。特にインターネット予約は、席を指定してチケットを購入できる点が、四季独特の特徴である。それは、ライバル企業に対しても、空席状況をリアルタイムで公開するのと同じ事だったが、好みの席を自分で選べるという顧客の利益を優先した。チケットが取りにくいというイメージを払拭するためにも、徹底した情報公開が四季には求められていた。このようなシステム改革の結果、チケット入手方法を熟知したファン層だけでなく、観劇初心者にも開けた劇団の一つとなった。

最後に、「地方の観客の育成」に関しては、地方公演を積極的に行う事で文化の東京集中を改善した。これほどまでに積極的に地方公演を行っているのは、現在でも劇団四季だけだ。日本全国に専用劇場を建設する事で、日本全国どこにいても劇場、さらには舞台芸術を身近に感じられる環境作りに貢献した。2015年12月現在、専用劇場数は全国7劇場、その他の劇場も合わせた13劇場で15演目が同時期に公演されている。専用劇場の建設により、ロングラン公演を実現する事で収入を安定させ、安価なチケット代も可能にした。最前列でも1万円を切るチケット代で公演を提供しているのは、商業ミュージカルにおいては、東宝、宝塚歌劇と比べても劇団四季だけだ。それに加え、数々のレパートリーを全国の劇場で、ローテーションする事で、地方の観客に「生で舞台を観る機会」を提供してきた。これらの改革が、「劇場」を人々にとって身近な存在へと成長させてきた。浅利は、人々と「劇場」との関係を改善する事が、舞台芸術の振興の一番の近道である事を、早い段階から理解していた。

浅利を語る上で外せないもう一つの功績が、「舞台活動のみで舞台人が生活できる環境づくり」だ。浅利自身、演劇好きの父親の影響で、かなり貧しい子供時代を経験した事もあり、舞台人の生活環境にはかなりのこだわりがあった。自身も、劇団を始めた当初はかなり貧しい暮らしをしていたが、結成5年程たった頃、20代半ばを迎え、劇団を離れざるを得ないメンバー達が続出し、劇団経営の重要性を再認識した。その為に、浅利は、舞台制作と劇団経営を完全に切り離した。それに加えて、複数都市同時公演により、より多くの団員にチャンスが与えられる環境と、通常の会社員と同等かそれ以上の賃金と福利厚生を劇団員に与える事で、舞台活動のみで生活できる環境作りを徹底した。舞台人が舞台のみに集中できる環境作りが、舞台のクオリティーの高さに繋がり、結局は「劇場」の存在価値を高める事につながった。それだけでなく、浅利は、より多くの観客に楽しまれる舞台を提供する為に、「わかる芝居」を追い求めた。それが、四季独特のセリフの言い方に現れている。当時の新劇は、早口で感情を前面に押し出したセリフ口調が一般的だったが、それではほとんどの観客には伝わらないと考えた浅利は、舞台の最後尾まで伝わる独自の発声法を徹底した。劇団四季は、「観客にわかる舞台」を追い求めた結果、ミュージカルの分野で大成功を治め、日本の舞台芸術を牽引する存在にまで成長した。

このように、浅利慶太率いる劇団四季は、「劇場」を人々の生活シーンにとけ込ませる様々な工夫により、多くの人々の観劇を身近なエンターテイメントの一つにしてきた。

表2-1 ジャンル別作品数と公演回数(2001年時点)

松崎哲久著「劇団四季と浅利慶太」より作成

第三章 舞台芸術を取り巻く「人材育成の芽」

(1) 日本独自の舞台人の育成

①育成型~宝塚歌劇団~

 宝塚歌劇団の舞台に立てるのは、宝塚音楽学校の卒業生のみである。宝塚音楽学校は、毎年入学倍率が20倍を超える超難関校だ。タカラジェンヌの卵達はここでの2年間を通し、舞台に立つ事が許されるタカラジェンヌへと成長する。宝塚歌劇では、音楽学校を卒業しでも団員達を「生徒」と呼ぶ。そこには、宝塚歌劇団の団員の育成に関する信念が現れている。宝塚音楽学校が育てるのは「成長し続ける舞台人」だと私は考える。ただスキルを身に着けるのでは無く、一人前の女性としてのマナーや教養等も徹底的に学ぶ。その厳しい環境の中で、どんな舞台でも応用できる基礎力と、様々な環境で学び続けられる根気強さ、スターとしての地位を確立してもおごり高ぶらない謙虚さを身に付ける。女性のみの劇団という特殊な環境で長年学び続けたタカラジェンヌ達が、卒業後も幅広いフィールドで活躍できるのは、宝塚歌劇団の人材育成が有効に働いている証拠だ。

自社の舞台に立つ団員を1から育てる「育成型」を採用する宝塚歌劇団では、競争と団結のどちらか一方でも欠ければ成り立たないだろう。宝塚歌劇団では、舞台上では実力重視、舞台を降りれば年功序列という徹底した秩序がある。宝塚音楽学校では、厳しい義務とルールを科せられ、その秩序の中で同じプロの舞台人としての強い団結が生まれる。そんな厳しい生活を共に耐えた同期は、「伝説のラインダンス」と言われるたった一度の宝塚歌劇での共演を最後に、劇団内にある5つの組へと解散していく。その後は、各組の一員としてトップを目指す。各組では、トップスターが組の顔であり、リーダーとなって組を引っ張る。それぞれの組の団結は、ファンの注目の的であり、宝塚歌劇の最大の魅力とも言われる集団美を創り上げる為に必要不可欠なものだ。また、10年に1度大阪城ホールで開催される「宝塚大運動会」では組対抗の競技や応援合戦が繰り広げられ、舞台以上に熱い姿が見られるとファンの間で人気のイベントだ。一方で、宝塚歌劇団の舞台では団員同士のポジション争いも顕著だ。トップ、二番手、三番手と、劇団内で認められたポジションにより与えられる役柄が変わり、与えられる役柄により、出演時間やソロの数、衣装やフィナーレの立ち位置に至るまで、明らかに待遇が異なる。その為、全員で舞台を創る団結と、少しでも重要な役を獲得し、舞台上で活躍したいと思う団員達の競争心が両立するのが宝塚歌劇団の大きな特徴となっている。舞台上での順位は、宝塚歌劇団が、ファンの反応を見て決定する。その為、若手が突然重役に抜擢される等、少し大胆な配役をする事で観客の反応を見る。近年の少し特殊な例でいうと、平成24年の月組公演「ロミオとジュリエット」では、主役であるロミオを二人の団員による役代わりにするという大胆な配役を行った。宝塚歌劇はトップスターが主役を演じるのが決まりだったが、この時は二人のキャストが人気を競り合っていた。そこで、一人をトップスター、もう一人を準トップスターに位置付け、観客の反応を観る為の期間を設ける事が劇団の狙いだったように感じる。数回同様の公演を行った後、準トップスターは別の組の二番手として配属され、二年後の2014年にトップスターに就任した。このように、観客の反応を伺う大胆な配役があるだけでなく、組内に次期トップにふさわしい候補がいないと判断された場合は、ふさわしい団員を他の組からいきなり二番手として配属したり、専科と呼ばれるベテラン集団が集められた組から突然トップ配属が選ばれる場合もある。このような徹底した実力主義の厳しい環境が整っているからこそ、宝塚歌劇団は、ただの仲良し集団ではなく、共通のプロ意識を持った集団として高いクオリティーを維持する事ができる。

宝塚歌劇団での秩序は、実は生徒達自身による自治で成り立っている。宝塚音楽学校でしつけや教養も意識する理由は、そういう人間的な素養が、結局は舞台に立つ際に活きてくるという理由だけでなく、常に注目の的となる自分たちを守る為の危機意識から生まれた。宝塚音楽学校が、まだ宝塚音楽歌劇学校と呼ばれていた大正12年、講談社が生徒4人に対する事実無根の記事を掲載し、訴訟問題になった。当時は、生徒が現役の団員として舞台に立っていた事から、生徒達がメディアに取り上げられる事も珍しくなく、その事に強い危機感を抱いた生徒達自身の発起で、大正13年に「協和会」という名の自治の会が誕生した。この頃から現在まで、生徒自治による学校の秩序は受け継がれている。青弓社出版の「タカラヅカという夢」という著書によると、「協和会」の設立趣意書には「近頃宝塚少女歌劇団が降盛になるにつれて、種々の流説が新聞・雑誌に掲載され、あしざまに思われている。それらの根無し草の風評も、お互い生徒間の注意、無関心が遠因だろう」との記載があったと記されている。この事からも、現在の音楽学校でも引き継がれる生徒自治による秩序は、注目されるスターとしての生徒達自身のプロ意識から登場した事が分かる。

このような共に育ったプロ集団としての団結と、実力主義の競争とを両立させる様々な工夫により、宝塚歌劇独自の「育成型」の劇団経営は実現している。また、近年では、宝塚音楽学校の入試形態からも、宝塚が育ち続ける原石を探している事が分かる。宝塚音楽学校の入試形態は、平成24年に大幅に改正された。それまで、実技試験のみだった一次審査を面接に変更し、スター性や意欲重視の入試へと変更された。当時減少傾向だった音楽学校の受験者を増やすという目的も大きいと思うが、既に身につけてきたスキルよりも、成長する伸びしろやスター性があるかどうかを重視した結果の変更のように感じる。実際に、何の習い事もしてこなかった受験者が合格する場合も少なくない。

 宝塚歌劇団はスターミュージカルと言われる。スター達が成長していく過程もエンターテイメントの一部となっている。その為、厳しい秩序の中で、「成長し続けられる舞台人」を育てる事で、スターを生み出し続ける事が劇団の存続に大きく影響する。「成長し続けられる舞台人」を育てる理由はそれだけではない。宝塚歌劇団は、未婚の女性のみで構成される劇団という決まりがある為、在団年数は短い傾向にある。宝塚歌劇団を出発点として、退団後も幅広い舞台で活躍できる舞台人として送り出せるようにとの劇団の想いも、宝塚歌劇団が「育成型」の教育制度を採用している理由の内に含まれているように感じる。

②発掘型~東宝株式会社~

  東宝が今抱える最も大きな問題は、人材不足だ。宝塚歌劇や劇団四季は、自社で抱えている劇団員を主役級のキャストとして起用するシステムを取っており、劇団員が存在する限り、舞台制作に支障をきたす事はまず無い。一方、東宝は、「東宝ミュージカルアカデミー」というミュージカルに特化した教育機関を所有していたが、より安価に教育を受けられる環境を提供する為、現在は「ハローミュージカル!プロジェクト」という団体に運営を委託している。この教育機関は、東宝が行うミュージカルのアンサンブル等を担える人材育成の場として運営を開始したが、期間は1年間などの短期が基本で、劇団として人材を確保する場としての役割は担っていない。つまり、劇団員を抱え、自社の舞台に立てるよう育てるのではなく、育った劇団員を外へ出し、改めて出演オファーをするという形を取っているのだ。東宝の持つこのような構造に加え、近年、強力なキャスティング力を持つ有名芸能プロダクションが様々な舞台を主催するケースが増えた。この現象が、さらに、東宝の人材不足を顕著なものにしている。特に自社制作舞台が多いプロダクションが、「ホリプロ」である。東宝の作品にも、「ホリプロ」所属の俳優が多々出演しており、共同制作の舞台もある。「ホリプロ」のホームページによると、2015年11月時点で、15の舞台作品が掲載されており、共同制作も含め、全作品の企画・制作に「ホリプロ」が携わっている。同様に、「アミューズ」も、掲載中の11作品ほぼ全ての制作に関わっており、「ジャニーズ事務所」は自社主催の作品こそ少ないものの、自社所属タレントの出演が決まっている13作品中、約4作品が、同事務所関係者により演出された舞台だ。

 このような現状を受けて、東宝は「作品主義・実力主義」の舞台作りを行おうとしている。その為に必要なのが、スキルのあるキャストだ。さらに、東宝は人気作品の再演を何度も行っている為、そのたびにキャストの世代交代も大きな課題となる。このような現状の中で、現在の東宝の最優先課題が「見つける」という作業だ。  

 ブロードウェイ同様のオーディション型で、新たなキャストを発掘していく為には、それだけ多くの人々にとって舞台芸術が身近な存在であり、なおかつ、高い技術や潜在能力を持った舞台人が国内に多く存在する必要がある。つまり、オーディションの対象となるような受験者の厚い層がなければならない。現在、東宝株式会社が特に力を入れているのはこの点を強化していく事である。東宝が運営する「東宝ジュニア」では、子供達が舞台芸術に気軽に触れられる機会を通してEQ教育(心の教育)をしていく事を目的とした人材育成のための機関である。ここでは、ただ舞台に触れる事を楽しめるクラスと、本格的なスキルを身につけるクラスの両方を用意している。「東宝ジュニア」はスキルを持った舞台人を育て、潜在能力を持った舞台人の卵を発掘する為の機関としての役割を果たすと同時に、舞台芸術を子供達にとって身近な存在にするための機関としての役割も果たしているのだ。

「東宝ジュニア」の活動に加えて東宝株式会社が行っている取り組みの中で最も特徴的なものは「のど自慢大会」だ。日本では身近な文化の一つである「のど自慢大会」を、ミュージカル音楽に限定したイベントに変えて開催している。平成27年「レ・ミゼラブル」の公演を記念して行われた「のど自慢大会」では、1832通もの応募の中から審査で選ばれた20組が、多くの舞台芸術が公演されてきた帝国劇場の舞台で歌声を披露した。この時は「レ・ミゼラブル」の音楽に限られていたが、次回開催が決定している「ミュージカルのど自慢大会」ではミュージカル音楽であれば演目は限定しない。それだけでなく、地方別に会場が設けられ、プロの講師の指導を受けた上で成績優秀者が帝国劇場で歌声を披露する事ができる。これほど大きな舞台でミュージカルの楽曲を歌うイベントに、これだけの応募が集まるまでに、日本の舞台芸術は一部の確固たるファン層を確立している。舞台人として必要なスキルを身に着ける教育機関等の充実だけでなく、このような舞台芸術に気軽に触れる機会の増加により、オーディション型を採用する事が可能になるだけのスキルを持った人材を増やしていく事ができる。実際に、この「のど自慢大会」でファイナリストとして歌声を披露した参加者たちの中には、プロとして舞台に立っていてもおかしくないレベルの参加者も少なくない。東宝株式会社は、このような取り組みを通して舞台芸術を人々にとって身近な存在へと成長させていく事で、東宝株式会社が目指すオーディションによる「発掘型」の人材育成を実現していこうと動き出している。

③育成発掘両立型~劇団四季~

第四章 世界に誇れる「コンテンツ育成の芽」

(1)日本での公演作品の変化

(2)2.5次元ミュージカルの登場

 2.5次元ミュージカルは、2次元であるアニメや漫画・ゲームを3次元の舞台で表現したものであり、現在、新たなジャンルの一つとして急成長中である。平成26年の公演作品数は91作品であり、平成21年の公演作品数28作品から右肩上がりに作品数を伸ばしている。市場規模においても前年比12.3%増の1540億円と好調である。勿論、観客動員するも同様に右肩上がりの状態が続いている。2.5次元ミュージカルの直近の目標は、まず国内で、2.5次元ミュージカルを新たな1つのジャンルとして成長させ、国内でのロングラン公演を実現する事だ。そして将来的には、日本オリジナルのミュージカルである2.5次元ミュージカルを活用したライセンスビジネスを世界規模で成功させ、日本の舞台芸術の環境をより良くする事を目標として掲げている。平成27年3月には、2.5次元ミュージカル専用劇場として「AiiA 2.5Theater Tokyo(客席総数840席)」をオープンし、着々とロングラン公演という目標達成の為の準備を進めている。同劇場では、4カ国語の字幕を見ながら舞台を楽しめる字幕めがねの貸出をしており、外国人観光客のファンも確実に増加している。

 私は、2.5次元ミュージカルが果たしている最も大きな役割は、観客・舞台人・演出家等、立場を問わず舞台に関わる様々な人にとっての出発点としての役割だと考えている。2.5次元ミュージカルを観劇しに来る観客層は、圧倒的に原作ファンの女性が多い。しかもその年齢層はかなり若く、高校生の姿も目立つ。その為、2.5次元ミュージカルが初めての観劇体験になる観客がかなり多いのが、現在の2.5次元ミュージカルの特徴だ。また、2.5次元ミュージカルに採用されるキャストは、圧倒的に無名の俳優が多い。それは、2.5次元ミュージカルが、原作のキャラクターを忠実に再現する事を求められるジャンルであるが故に、まだ俳優としての個性を確立していないキャストである必要があるからだ。このような背景から、2.5次元ミュージカルは、ミュージカルに関わる様々な人にとって、一般的な舞台芸術より敷居が低く、身近なデビューの場となりうる。2.5次元ミュージカルでの観劇体験をきっかけに、他の劇団の舞台を観劇しに行く観客が増えたり、2.5次元ミュージカルの出演をきっかけとし、一般的なミュージカルで活躍する俳優へと成長していく人も少なくない。また、演出家に関しても、2.5次元ミュージカル協会理事である松田誠があるインタビューで、原作への造形が深い若いクリエイターと組んでいきたいという発言をしている事からも分かるように、若者文化であるコンテンツが原作という事もあり、若い力を集結した舞台創りを意識している事が分かる。実際、非現実の世界を表現した2.5次元ミュージカルでは、様々な斬新な演出によってその世界観が表現されている。すでに来年の公演が決定している人気シリーズ「弱虫ペダル」では、競輪選手である出演者達が自転車のハンドルのみを持って演技する斬新な演出が話題となった。また、今年公演された、男子バレーボールの試合を舞台とした「ハイキュー」では、プロジェクションマッピングを駆使した演出が話題となっている。そして、この2つの話題作に共通している点が、「パズルライダー」と呼ばれる、舞台装置を動かしたり、演出のサポートをする黒子がたびたび登場する事だ。非現実な世界観を実現する為には必要不可欠な存在ではあるが、下手に登場すれば舞台の世界観を壊しかねない。しかし、両舞台で出演する「パズルライダー」達は、その場にいてもおかしくない衣装で、まるでエキストラのような自然な存在感を発揮している。私は、このような演出力も、2.5次元ミュージカルが評価される大きな要因だと考える。演出に関する原作者からの制約はほとんどなく、演出家個人の力量に任されている。2.5次元ミュージカルは演出家達にとって、最高の腕の見せ所となっているのだ。それだけでなく、2.5次元ミュージカルの海外進出における最大の目標は、役者・スタッフ以外の全てをフルパッケージで輸出する事だ。つまり、演出や脚本はそのまま海外でも公演されるようになる。これを実現する為には、高い演出力が必須となる。2.5次元ミュージカルの演出を担当する演出家は、その重責を負うと共に、成功すれば海外進出という最高のチャンスも得る事となる。まさに、若手の演出家にとっても舞台芸術の世界で活躍するための登竜門となるのが、2.5次元ミュージカルなのだ。このように、舞台に関わる様々な人々にとっての最も身近な入口となっているのが、2.5次元ミュージカルという新しいジャンルなのだ。

第五章 舞台と人を繋ぐ「観劇習慣育成の芽」

(1)日本版TIKS設立計画

(2)舞台芸術関連コミュニティーサイトの多様化

第六章 まとめ

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作品ジャンル作品数公演回数

ロングラン・ミュージカル(海外)9演目16546回

オリジナル・ミュージカル7演目2768回

中型ミュージカル(海外)15演目4185回

ファミリーミュージカル31演目8549回

ストレートプレイ(海外)64演目4202回

現代日本創作劇18演目460回

その他7演目895回

計151演目37615回

作品ジャンル別作品数と公演回数(2001年時点)