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ポリ乳酸ベースの高強度生分解性アイオノマーの合成
広島大学 大学院工学研究科物質化学システム専攻
准教授 中山 祐正
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・埋め立て処理 埋め立て用地の不足
地下水の汚染
廃プラスチック処理上の問題点
有害物質(ダイオキシン,塩化水素等)
温暖化ガス(CO2)
の発生
焼却炉にダメージ(高い燃焼熱)
・焼却処理
・環境中へ拡散 長期間とどまる
鳥獣や魚への被害
添加物や分解物による汚染
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1.なるべく(プラスチック)ゴミを出さない
廃プラスチック処理問題の対策
2.リサイクルする
・ペットボトルなど 衣料品
・家電,車などのプラスチック部品の再利用
・プラスチックの熱分解 燃料油
3.生分解性プラスチックの開発
土壌・海水中の微生物などにより分解されるプラスチック
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天然高分子
生分解性プラスチックの種類
微生物発酵合成系高分子
化学合成系高分子
脂肪族ポリエステル,ポリエーテル,
ポリ(ビニルアルコール),etc.
セルロース及びその誘導体,
澱粉,タンパク質,etc.
微生物ポリエステル,
多糖類,etc.
OCH2OH
OH
R
OCH2OH
OH
RO
OR = OH (セルロース)
NHCOCH3 (キチン)NH2 (キトサン)
O O
Me EtO Om nP(3HB-co-3HV)
ポリ乳酸
O
Me n
O
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Poly(L-lactide)(PLLA)長所
○植物由来
○生体適合性
○優れた剛性
短所
○低い耐衝撃性
○低い耐熱性
短所を改善するには コポリマー
ブレンド
OO
O
Ox
ポリ乳酸
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アイオノマーアイオノマー (Ionomer)(Ionomer)
高分子鎖に少量(15%以下)のイオン基を導入したイオン性高分子。「ionic polymer」からの造語。
アイオノマーとは:
特徴: ホスト高分子中でイオン基が凝集し、ミクロ相分離構造を形成
ホスト高分子の性質をある程度保ちつつ、力学的性質等を向上新機能を発現
(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
(平野紳一、平沢栄作 監修 「アイオノマー・イオン性高分子材料の開発」シーエムシー出版、2003)
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アイオノマーアイオノマー の例の例
エチレン系アイオノマー:
(平野紳一、平沢栄作 監修 「アイオノマー・イオン性高分子材料の開発」シーエムシー出版、2003)
スチレン系アイオノマー:実験用モデル高分子
Surlyn (DuPont)Hi-Milan (三井・デュポンポリケミカル)Iotek (Exxon Chemical)
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本研究
四級アンモニウム基を等間隔に導入した新規ポリ乳酸ベースアイオノマー
高強度、生分解性抗菌性
L-LAN-Methydiethanolamine
(NMDA)
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NMDANMDAを有する両末端水酸基化を有する両末端水酸基化PLLAPLLAの合成の合成
OO
O
OL-LA
N
OHHO
N
O O PLLA-OHHO-PLLA
NMDA
Sn(Oct)2
toluene, 100 oC
HO-PLLA-OH
Polymerization conditions : [L-LA]0/[Sn(Oct)2] = 1000, [L-LA]0 = 1.04 M, Temp. = 100 C, Time = 24 h, Solvent = 2 ml toluene, a) Determined by GPC calibrated with
polystyrene standards.
Run [L-LA]0/[NMDA] M na) M w/M n
a) Yield(%)1 20 5200 1.12 372 40 7000 1.18 863 80 10000 1.27 964 160 30000 1.18 93
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NMDANMDA含有含有Poly(esterPoly(ester--urethane) (PEU)urethane) (PEU)ののワンポット合成ワンポット合成
HMDI
Polymerization conditions :[L-LA]0/[Sn(Oct)2] = 1000, [L-LA]0 = 0.50 M, Temp. = 100 C, Time = 24 h, Solvent = 30 ml toluene. Chain Extension : [HMDI/NMDA] = 1.2,
Temp. = 60 oC. a) Determined by GPC calibrated with polystyrene standards.
N
OHHO
OO
O
OL-LA NMDA
Sn(Oct)2
toluene, 100 oC 60 oCPEU
Run [L-LA]0/[NMDA] M na) M w/M n
a) Yield(%)5 20 15000 1.45 936 40 23000 1.45 937 80 38000 1.83 958 120 41000 2.00 92
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N
O OOO
O O
nnO
b
fe
dNH
HN
O c 1
c 2
c 3
s o lv e n t
a
a + c 2
c 3f
ec 1M e -O -d
b
合成した合成したPEUPEUのの11H NMRH NMRスペクトルスペクトル
Conditions : Solvent, CDCl3. 400 MHz. r.t.
1234567δ/ ppm
(PEU : obtained in Run 6.)
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カチオン性アイオノマーフィルムの調製カチオン性アイオノマーフィルムの調製
PEU 0.3 g Ionomer films1 day
Drying in vacuo
3 days10 h
Iodomethane 1.0 mlTHF 5.0 ml Chloroform 4.0 ml
r.tDrying in air
N
O O PLLAPLLAO N
HNH
O
O O
6 xPEU
THF
N
O OPLLAPLLA
O NH
NH
O
O O
6 x
I
Ionomer
CH3I
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N
O OOO
O O
nnO
f
ed
gf + g
eM e - O -d
N
O OOO
O O
nnO
fe
df
M e - O -d e
CHCH33II--処理前後の処理前後のPEUPEUのの11H NMRH NMRスペクトルスペクトル
22.533.544.5
4.5 4 3.5 3 2.5 2
CH3I-処理前
CH3I-処理後
δ/ ppmConditions : Solvent, CDCl3. 400 MHz. r.t.
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Run [L-LA]0/[NMDA] T g(oC) a) T m(oC) a) ΔH m(J/g) a)
5 20 40.4 119.1 24.6 5-MeI 39.2 115.0 22.0
6 40 43.7 142.4 26.8 6-MeI 42.5 144.8 28.2
7 80 49.2 156.2 33.7 7-MeI 49.3 155.6 30.8
8 120 53.8 162.1 35.6 8-MeI 51.6 162.1 36.2
PEUPEUとアイオノマーフィルムの熱的性質とアイオノマーフィルムの熱的性質
a) Determined by DSC
ほぼ変化なし
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PEUPEUとアイオノマーフィルムの機械的性質とアイオノマーフィルムの機械的性質
a) Determined by GPC calibrated with polystyrene standards.b) Determined on an Orientic universal testing machine RTC-1210A.
up
up
up
up
up
up
up
up
down
down
down
down
Run [L-LA]0/[NMDA] M na)
最大点 荷重b)
伸び率b)
弾性率b)
N % MPa5 20 15000 1.75 613 5
5-MeI 15000 3.92 405 655
6 40 23000 5.07 337 250 6-MeI 20000 6.86 247 1580
7 80 38000 8.85 678 1060 7-MeI 33000 9.80 484 2590
8 120 41000 8.73 516 1300 8-MeI 37000 11.8 209 3610
弾性率が大きく向上
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まとめまとめ
・NMDAを開始剤に用いてL-LAを重合することで,ポリマー鎖の中央にアミノ基を導入したHO-PLLA-OHを合成した.
・HO-PLLA-OHを単離せずにin situで引き続きHMDIと反応させることでPEUを合成した.
・PEUをヨードメタンで処理することによりカチオン性アイオノマーが得られ,元の中性PEUより大幅に高い弾性率を示した.
・ベースポリマーであるPLLAと同程度の熱的性質を持ちなが
ら高い剛性と破断伸度を示すアイオノマーが得られ,脆性の改善に成功した.
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従来技術とその問題点
ポリ乳酸の耐衝撃性を向上させるとしては、共重合や他の材料との複合化などがあるが、
ポリ乳酸成分量の大きな低下 (生分解性、
植物由来という長所を損なう)
製造工程の複雑化
等の問題があり、広く利用されるまでには至っていない。
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新技術の特徴・従来技術との比較
• 従来のポリ乳酸に比して高い弾性率を有する材料を合成する。
• 導入するイオン基は少量でよいので、ポリ乳酸の長所(植物由来・生分解性)を損なわない。
• 合成はやや複雑になるが、熱的性質はポリ乳酸と同様なので、合成後の成型加工は通常のポリ乳酸と同様。
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想定される用途
• 植物由来の生分解性高分子であるポリ乳酸の機械的強度を改善できるため、成型材料としての用途が大きく広がることが期待できる。
• 上記以外に、抗菌性の効果が得られることも期待される。
• これらの特徴から、医療材料や農漁業機具などへの応用が可能と考える。
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想定される業界
• 利用者・対象
先に述べたような商品を生産している企業に材料を納入しているようなポリマー製造メーカー。
• 市場規模
???
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実用化に向けた課題
• 現状では大量生産は困難(実験室レベル、グラムのオーダー)。
• 高コスト。
• 生分解性は未確認。
• 分解生成物の安全性に問題あり(NMDA)。
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企業への期待
• 未解決の分解物の安全性の問題については、安全な開始剤を選ぶことにより克服できると考えている。
• 抗菌性の評価技術を持つ企業との共同研究を希望。
• まとまった量が必要な場合は、自前で合成できることが望ましい。
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本技術に関する知的財産権
• 発明の名称 :イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物及びその合成方法
• 出願番号 :特願2009-148065• 出願人 :広島大学• 発明者 :中山祐正、塩野毅、蔡正国、
稲葉隆道
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お問い合わせ先
広島大学産学連携センター
産学連携部門 コーディネータ 榧木 高男
TEL 082-421-3704
FAX 082-421-3788
e-mail [email protected]