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ポ ビ ドンヨー ド(PVP-I)経 鼻吸入 と含 嗽 によ り咽頭 に
定着 した病原細 菌 を除去す る試み
国立国際医療セ ンター呼吸器科
川 名 明 彦 工 藤 宏 一 郎
(平成10年12月14日 受付)
(平成11年2月16日 受理)
Key words:povidone-iodine,nasal inhalation,pharyngeal colonization
要 旨
上 気道 に定 着 した潜 在 的病原 菌 を誤嚥 す る こ とが 細菌性 肺 炎 の主 要 な原 因 とされ てい る.わ れ われ は,
上気 道か らこれ らの菌 を除去す るの にポ ビ ドンヨー ド(Povidone-iodine:PVP-I)経 鼻吸 入が 有用 で は な
い か と考 え検 討 を行 った.対 象 と して,気 道 に通常 は常 在 しない菌,す な わち緑 膿菌 や腸 内細 菌 科 に属
す る好気 性 グ ラム陰性 桿菌,お よび メチ シ リ ン耐性 黄色 ブ ドウ球 菌(以 下潜在 的病 原菌 と略 す)が 無 症
候性 に咽 頭 か ら繰 り返 し検 出 され る外 来患 者63人 を選択 した.こ れ らの症 例 にPVP-I含 嗽 を2週 間施
行 し,対 象菌 を除菌で きなか った30例 を無 作為 にPVP-I経 鼻吸 入 ・PVP-I含 嗽 併用 群(以 下 併用 群 と略
す)とPVP-I含 嗽 単独 群(以 下単 独群 と略す)と に分 け,2週 間の処 置 の前 後 で咽頭 の細 菌 学的検 索 を行 っ
た.併 用 群 は16人 で,う ち9人(56%)は 慢 性 的 な肺 合併症(気 管 支拡 張症,慢 性気 管 支炎 な ど)を 有
してい た.単 独群 は14人 で,う ち6人(43%)は 同様 の肺合 併症 を有 して いた.治 療 期 間終 了時 に,併
用群 で は44%,単 独 群 で は14%で 咽頭 か ら潜在 的病 原 菌が 消失 した.特 に,肺 合 併症 を有 さな い患者 に
お いて は,併 用群 で は86%で 除菌 し得 た.PVP-I経 鼻 吸入 と関連 した有 害事 象 はみ られな か った.上 気
道 か ら潜 在 的病 原菌 を除去 す るの に,PVP-I経 鼻 吸入 は安 全 で,特 に肺合 併症 の ない症 例 にお い て有用 な
方法 と考 え られ た.
〔感染症誌73:429~436,1999〕
序 文
上気道にコロナイズした病原微生物 を下気道に
アスピレーションすることは肺感染症の大 きな原
因のひとつである1).し たがって,上気道に定着 し
た病原微生物を除去,あ るいは減少 させ ることが
で きれば,肺 感染症の予防対策に役立つと思われ
る.こ のた めの手段 と して,ポ ビ ドンヨー ド
(Povidone-iodine,以 下PVP-Iと 略す)経 鼻吸入が
有効ではないか と考えた.経 鼻的に吸入すること
により,従 来の含嗽のみでは到達できなかった鼻
腔 や下咽頭 ・喉頭お よび太い気道 までPVP-Iを
作用させ ることがで きる.今 回われわれは,通 常
のPVP-I含 噺にPVP-I経 鼻吸入 を併用するこ と
により,咽 頭に定着 した潜在的な病原細菌を除去
することがで きるか否かについて検討 し,あ わせ
てその安全性について検討 したので報告する.
対象と方法
気道 に通常は常在 しない菌1),す なわち緑膿菌
や腸内細菌科に属する好気性グラム陰性桿菌,お
よびメチシリン耐性黄色ブ ドウ球菌(MRSA)(以
下潜在的病原菌 と略す)が 無症候性 にくりかえし
別刷請求先:(〒162-8655)東 京都新宿 区戸山1-21-1
国立国際医療セ ンター呼吸器科
川名 明彦
平成11年5月20日
430 川名 明彦 他
Fig.1 (a) Compressor (Devilbiss Pulmo-Aide) and
jet-nebulizer with nasal inhalation equipment.(b)
Using the nasal inhalation equipment.
咽 頭 か ら検 出 さ れ て い る 症 状 の 安 定 し た 当 セ ン
タ ー外 来 通 院患 者 で,通 常 のPVP-I含 嗽 液(明 治
製 菓 イ ソ ジ ン ガー グ ル20倍 希 釈 液)を 用 い て1日
2回2週 間 連 続 して う が い を施 行 して も こ れ らの
菌 を咽 頭 か ら除 去 で きな か っ た 症 例 を 選 択 した.
選 択 さ れ た 症 例 を 無 作 為 に,PVP-I経 鼻 吸 入 ・
PVP-I含 嗽 併 用 群(以 下,経 鼻 吸 入 ・含 嗽 併 用 群 と
略 す)と,PVP-I含 嗽 単 独 群(以下,含 嗽 単 独 群 と
略 す)と に分 け た.経 鼻 吸 入 ・含 嗽 併 用 群 に対 し
て は,生 理 食 塩 水 で 希 釈 した1%PVP-I液2mlを
1日2回14日 間 に わ た り鼻 孔 用 ア ダ プ タ ー 付 き
コ ン プ レ ッ サ ー 加 圧 式 ジ ェ ッ ト ネ ブ ラ イ ザ ー
(Devilbiss社 製Pulmo-Aide)を 用 い た 経 鼻 吸 人
(Fig.1)を 施 行 し,併 せ て1日2回 のPVP-I含 嗽
も併 用 した.含 嗽 単独 群 に 対 して は こ の 間,1日
2回 のPVP-I含 嗽 の み を継 続 施 行 した.な お 事 前
Fig.2 Process of categorizationn of the patients with
potentially pathogenic bacteria colonization in the
pharynx,
に医師が本療法の 十分な説明を行い,文 書にて承
諾を得た症例のみを対象とした.ま た,甲 状腺機
能異常者,妊 娠授乳中の患者,ヨ ー ド過敏(PVP-
Iパ ッチテス トにて判定)の ある患者,抗 生剤使用
中の患者,そ の他担当医が不適切 と判断 した患者
は本検討の対象からは除外 した.治 療開始直前お
よび14日 問の治療終了 翌 日の咽頭培養を行い,比
較検討した.咽 頭培養は,朝 食前に目蓋弓および
中咽頭部をスワブで擦過 したものを検体 とし,1
~3+と 記載した.ま た,患 者の自覚症状,血 液生
化学,動 脈血液ガス,甲 状腺機能等の検査所見を
もとに本療法の安全性につき検討した.な お吸入
により咽頭不快感,呼 吸困難などが出現 した場合
はただちに中止することとした.
統 計解析 には,2群 の標 本 百分率 の検 定 は
Fisherの 直接確率計算法 を,2群 間の比較検定は
Mann-Whitney U検 定を用い,い ずれもp値0.05
未満で統計学的有意差あ りとした.
成 績
今回の検討の経過はFig.2に 示 した.無 症候性
に咽頭から潜在的病原菌が繰 り返 し検出される外
来通院患者が63人 選択 された.こ れ らの患者に
PVP-I含 嗽液による1日2回2週 間連続の うがい
を施行 した.こ のうち5例(8%)は 外来を受診 し
な くなるなどの理由で脱落 した.残 り58人 中28
人(48%)はPVP-I含 嗽のみで咽頭から潜在的病
原菌が検出されなくなった.PVP-I含 嗽によって
も潜在的病原菌が除去で きなかった症例は30人
感染症学雑誌 第73巻 第5号
PVP-I経 鼻吸入 による咽頭定着菌の除去 431
Table1•@ Patients demographics and characteristics.
Table2•@ Patients characteristics and pharyngeal bacterial culture before and after2weeks treatment with both PVP-
I nasal inhalation and PVP-I gargling.
(52%)あ った.こ の30人 を無作為に,経 鼻吸入
・含嗽併用群 と,含 嗽単独群 とに分けた.各 群に
対 し,上 記方法によりそれぞれPVP-I経 鼻吸入 な
らびに/あ るいはPVP-I含 嗽を施行 した.各 群の
平成11年5月20日
432 川名 明彦 他
Table3•@ Patients characteristics and pharyngeal bacterial culture before and after2weeks PVP-I gargling.
患者構成 をTable1に,ま たそれぞ れの結果 を
Table2と3に 示す。経鼻吸入 ・含嗽併用群は16
例で,男 性9例,女 性7例,平 均年齢639(25~93)
歳であった.こ の中には,肺 に器質的な基礎疾患
を有するものが9例(気 管支拡張症:5例,慢 性気
管支 炎:2例,肺 気腫:1例,陳 旧性肺 結核:1
例)含 まれていた.そ の他の7例 は,不 整脈や陳
旧性心筋梗塞など,肺 に器質的な基礎疾患を有さ
ないと考えられる症例であった.一 方,含 嗽単独
群は14例 で,男 性8例,女 性6例,平 均年齢64.7
(35~84)歳 であった.こ の中には,肺 に器質的な
基礎疾患 を有す るものが6例(気 管支拡張症:2
例,肺 線維症:2例,慢 性気管支炎:1例,肺 気腫:
1例)含 まれていた.そ の他の8例 は,高 血圧や陳
旧性心筋梗塞など,肺 に器質的な基礎疾患を有 さ
ないと考えられる症例であった.以 上の各構成に
ついては両群問で統計学的な差は認められなかっ
た.
各群における処置前後の咽頭培養の結果につい
てTable2,3に 示 した.処 置終了翌 日の時点で咽
頭培養 を施行 し,標 的 とした潜在的病原菌が消失
していたもの(有 効)は,経 鼻吸入 ・含嗽併用群
においてはTable2の 症例1~7の7例(44%)で
あった.一 方,含 嗽単独群では,有 効例はTable
3の 症例17,18の2例(14%)の みにとどまった.
肺の基礎疾患の有無による有効率 をTable4に 示
した.肺 になんらかの基礎疾患を有する症例につ
いてみると,含 嗽単独群で有効率0%,経 鼻吸入 ・
感染症学雑誌 第73巻 第5号
PVP-I経 鼻吸入 による咽頭定着菌の除去 433
Table4•@ Effectiveness of the PVP-I treatment and the respiratory complications.
含嗽併用群において も有効率11%で あった.基 礎
疾患 を有さない症例に限ってみると,含 嗽単独群
で有効率25%,経 鼻吸入 ・含嗽併用群で有効率86
%と,後 者において統計学的に有意 に高い除菌効
果が認め られた(p=0.04).
なお,今 回PVP-I吸 入 を行った患者を対象に吸
入前後で甲状腺機能をはじめ,動 脈血液ガス,末
梢血,血 液生化学的検査を施行 したが,い ずれも
PVP-I吸 入に関連すると思われる検査値の有意の
変動はなかった.ま た,全 例 において安全 に14
日間の吸入を終了することができ,PVP-I吸 入 に
関連すると思われる有害事象は認めなかった.
考 案
PVP-Iは,皮 膚 粘 膜 に対 す る刺 激 性 が 弱 くか つ
消 毒 効 果 に優 れ て い る た め,手 術 野 の 消 毒,手 洗
い,含 嗽 な どの 用 途 に 日常 きわ め て 幅 広 く使 用 さ
れ て い る外 用 剤 で あ る.本 剤 は,種 々の 病 原 微 生
物 に 対 し て広 い 殺 菌 消 毒 作 用 を有 す る.す な わ ち
通 常 の 臨 床 使 用 濃 度(0.2~0.5%)に お い てStaphy-
lococcus aureus,Streptococcus pneumoniae,Pseudo-
monas aeruginosaな ど の 細 菌2),イ ン フ ル エ ン ザ
ウ イ ル ス,ヒ ト免 疫 不 全 ウ イ ル ス(HIV),ア デ ノ
ウ イ ル ス,ラ イ ノ ウ イ ル ス,コ ク サ ッキ ー ウ イ ル
ス な ど の ウ イ ル ス3)4)に対 して も有 用 性 が 示 され て
い る.一 方,抗 生 物 質 と異 な りPVP-Iの 使 用 に よ
る耐 性 菌 の 出 現 は報 告 され て い な い5).以 上 よ り,
上 気 道 に 定 着 した 病 原 細 菌 や ウ イ ル ス を 除 去 な い
し減 少 させ る た め にPVP-Iは 有 効 で あ る と 考 え
ら れ る.
本 剤 は外 用 消 毒 剤 で あ るが,ヒ トの体 腔 内 に使
用 した例 は 多 く報 告 され て い る.例 え ば,大 腸 手
術 の 術 前 処 置 と し てPVP-Iで 注 腸 を 行 っ た 報
告6),膿 胸 の胸 腔 洗 浄 に用 い た 報 告7),前 立 腺 手 術
の前に膀胱洗浄に用いた報告8)などがある.ま た,
適応外使用例 として新生児眼疾患の予防にPVP-I
点眼を行った報告9)がある.吸 入により本剤を気道
に使用 した報告 もわずかなが らある.椎 貝ら10)は,
患者の口腔 から15~20cm離 した位置からPVP-I
ネブライザーを噴霧 し,鼻咽腔からMRSAを 除菌
することができた と報告 している.ま た力富11)は,
咽頭にジャクソン型の気道噴霧器 を用いてPVP-I
スプレーを行 う方法を報告 している.こ れ らの報
告はいずれ も問題 となる副作用はなかった とし,
PVP-Iの 安全性 と有効性 を結論づけている.以 上
より,PVP-I吸 入 も充分臨床応用可能と考 えられ
るが,今 回われわれはさらに安全に施行で きるよ
うに次の3点 を検討 し採用 した.
第1点 は,PVP-Iを 含むエアロゾルが,可 及的に
上気道か ら太い気管支 までの領域に限局 して到達
するための工夫である.エ アロゾル粒子を吸入 し
た場合,粒 子の大 きさによって主に沈着する気道
部位が異なることが知 られている12).す なわち粒
子径が10~30μm以 上であればそのほとんどは上
気道,太 い気管支に選択的に沈着する.コ ンプレッ
サー加圧式ジェッ トネブライザーは,粒 径 が10
~30μmの エ アロゾルを発生 し13),特 にエアロゾ
ルを鼻か ら吸入 した場合,10μm以 上の粒子はほ
とんどが鼻腔に沈着する14)とされる.し たがって
コンプ レッサー加圧型ジェットネブライザーを用
いて鼻孔 か ら吸入す る こ とで,よ り選択 的 に
PVP-Iを 上気道に到達させることがで きると考え
た.
第2点 は,PVP-I吸 入量の設定である.吸 入され
たPVP-I液 の多 くは呼出 により再 び体外 に出る
と考えられるが,そ の何割かは吸収 されると想像
される.そ こで,す でに商品化 されている含嗽用
平成11年5月20日
434 川名 明彦 他
PVP-I(商 品名 イソジンガーグル明治製菓)を 用法
に従って1日3回,7日 間うがいをした場合,口 腔
内に残留 し,消 化管に吸収される総有効 ヨウ素量
(約50mg)15)を 越えない量 を今回の検討では総吸
入量 として採用 した(ち なみにPVP-Iは 安全性が
高いため,通 常の誤飲程度では問題がない2)とされ
ている).吸 入濃度はPVP-Iと して1%と したが,
0.5%で 十分な殺菌 ・殺 ウイルス効果が示 されて
いる2)4)ことより,十 分な濃度と考える.
第3点 は過敏反応についてである.う がいなど
の適応使用範囲においても,0.94%に 嘔気,口 内刺
激,口 腔粘膜 びらん等の軽度の副作用が報告され
ている2)ことから,本剤またはヨウ素 に対 し過敏症
の既往歴のある者や甲状腺機能異常者に対 しては
使用 しないこととした.ま た,PVP-Iに 対す る過敏
性はパ ッチテス トで判定するのが有用であるとす
る報告があるため,本 検討施行前 にはPVP-Iの
パ ッチテス トを行っだ16)17).
以上のように,本 法の安全性,妥 当性を十分吟
味した上で今回の臨床的検討を行った.
一般に,上 気道にコロナイズ した病原微生物を
下気道にアス ピレーションすることが急性肺感染
症の大 きな原因のひとつ とされている1).こ のた
め,こ れまでにも上気道の清浄化の試みが報告 さ
れている.力 富らは鼻腔 ・咽頭 にMRSAが 定着 し
た老 人病院の入院患者 に対 し,鼻 腔へ のPVP-I
ク リー ム塗 布1日3回 と咽頭 へ のPVP-Iス プ
レー1日3回 を行 うことで40%の 除菌効果 を認
めたとしている18).われわれはまず,潜 在的病原
菌の定着 した患者にPVP-I含 嗽のみ を2週 間行
いその除菌効果 を検討 した.今 回の検討では含嗽
のみでも48%(58人 中28人)の 患者で除菌が可
能であった.先 述の力富らの報告より除菌率が高
かったのは,わ れわれが外来患者のみを対象 とし
たためと考え られる.含 嗽 のみでは除菌 し得な
かった残 りの52%の 症例について,PVP-I経 鼻吸
入を追加 して除菌 を試みたのが今回の検討であ
る.そ の結果 を以下に考察する(Table4).
第1に,PVP-I経 鼻吸入 ・含嗽併用群 とPVP-I
含嗽単独群 とを比較 した場合,後 者が14%の 症例
のみで除菌 し得たのに対 し,前者では44%で 除菌
することがで きた.統 計学的に有意差は認め られ
なかったが,PVP-I経 鼻吸入の有用性が推定され
る結果である.
次に肺の器質的基礎疾患の有無によって分類 し
検討 した.気 管支拡張症や慢性気管支炎などの合
併症を有す症例の場合は,PVP-I含 嗽単独群では
潜在的病原菌の除菌は全 く認められず,PVP-I経
鼻吸入 ・含嗽併用群 において も除菌率は11%と
低かった.一 方,肺 合併症を有 さない症例の場合
は,PVP-I含 嗽単独群 で も25%で 除菌可能であ
り,PVP-I経 鼻吸入 ・含嗽併用群においては86
%と 有意に高い除菌成績であった.以 上の結果は,
肺合併症,特 に慢性下気道感染を合併 しているよ
うな症例は,上 気道の清浄化のみでは咽頭から潜
在的病原菌を除去することは困難であることを示
している.下 気道か ら喀痰を介 して常に菌が供給
されているためではないか と推定で きる.一 方,
肺合併症を有 さない症例では,PVP-I経 鼻吸入を
併用することで極めて効率的に潜在的病原菌を除
菌することができることが示 された.呼 吸器合併
症のない慢性疾患,例 えば脳血管障害,大 腿骨骨
折などで長期入院を余儀なくされている患者にお
いても,咽 頭への潜在的病原菌のコロニゼーショ
ンが しばしば見 られる.こ のような患者群に対 し
PVP-I経 鼻吸入を行うことで効率的に除菌するこ
とがで き,ひ いては院内肺炎の発症を減らすこと
ができる可能性が示 された.
また,安 全性の面に関 しても,甲 状腺への影響
や,不 快な刺激の訴えもなく,全 例で問題なく施
行することがで きた.
われわれは,こ れらの検討を通 じ,PVP-I経 鼻吸
入は,上 気道に定着 した潜在的病原菌の除去に有
効で,安 全な方法であると結論 したい.上 気道を
清浄化する場合に,従 来から行われているPVP-I
含嗽に加え,経 鼻吸入を行 うことでよりよい効果
が得 られると考える.今 後はPVP-I経 鼻吸入が実
際に肺炎の予防にどの程度寄与するのか,あ るい
はインフルエ ンザやその他のウイルス性上気道炎
に も有効 であるか,と いった点 について検討を
行ってい く予定である.
なお,今回のPVP-I経 鼻吸入法の臨床的検討は,国立国
感染症学雑誌 第73巻 第5号
PVP-I経 鼻吸入に よる咽頭定着菌の除去 435
際医療センター倫理委員会の審査承認を得 て行った.
本研究 は,厚 生省国際医療協力委託研究事業"開 発途上
国で利用可能な急性気道感染症対策に関す る研究(長 崎大
学,永 武毅班長)"の 援助 を受けた.
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平成11年5月20日
436 川名 明彦 他
A Trial of Povidone-iodine (PVP-I) Nasal Inhalation and Gargling to RemovePotentially Pathogenic Bacteria Colonized in the Pharynx
Akihiko KAWANA & Koichiro KUDODivision of Pulmonology, International Medical Center of Japan
Objective: Aspiration of potentially pathogenic bacteria (PPB) colonized in the upper airway is
a major cause of bacterial pneumonia. We hypothesized that PVP-I nasal inhalation is effective in re-
moving PPB from the upper airway. The aim of this study was to investigate the effectiveness and
safety of PVP-I nasal inhalation. Methods : Patients with asymptomatic PPB (MRSA and/or aerobic
GNB i. e. Pseudomonas aeruginosa, Enterobacteriaceae) colonization in the pharynx were enrolled in this
study. These patients were divided randomly into two groups as follows: a PVP-I nasal inhalation
group (N group) which was asked to inhale 1%PVP-I solution•~2/day nasally by a jet nebulizer and
gargling with PVP-I soultion•~2/day, and a control group (C group), which was asked to gargle with
PVP-I solution•~2/day. The study period was2weeks in both groups. Results: Group N consisted of
16cases, which included9 (56%) cases with chronic respiratory complications and group C consisted
of14cases which included6 (43%) cases with complications. In N and C group, PPB disappearance
from the pharynx was observed in44% and14% of patients after the study period, respectively. In
the patients of group N, without chronic respiratory complication, PPB disappeared in86% ot the
cases. There was no adverse effect correlated with PVP-I nasal inhalation. Conclusion: We conclude
that PVP-I nasal inhalation is a safe procedure for removing PPB from the upper airway, and this
method may contribute to preventing bacterial pneumonia.
感染症学雑誌 第73巻 第5号