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企業はマーケティングを通じて 世界平和に貢献できるか? 2016年9月7日 次世代マーケティングプラットフォーム研究会 講演 マカイラ株式会社代表 藤井宏一郎

企業はマーケティングを通じて世界平和に貢献できるか?Can Businesses Contribute to World Peace through Marketing?

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企業はマーケティングを通じて世界平和に貢献できるか?

2016年9月7日

次世代マーケティングプラットフォーム研究会 講演

マカイラ株式会社代表 藤井宏一郎

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平和のためのマーケティングとは

みなさんは「平和のマーケティング」と聞いて何を思うでしょうか

たとえばこんなCM

https://www.youtube.com/watch?v=ts_4vOUDImE

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平和のためのマーケティングとは

こんなポスター・キャンペーン

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平和のためのマーケティングとは

あるいはこんな歌。。。

https://youtu.be/DVg2EJvvlF8?t=1m57s

愛を讃え、戦争に反対する。

Imagine there's no

countries

It isn't hard to do

Nothing to kill or die for

And no religion, too

Imagine all the people

Living life in peace...

ジョン・レノン『イマジン』より

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愛を歌えば平和になるのでしょうか?

戦争に反対すれば平和になるのでしょうか?

そもそも平和を“マーケティング”するとは?

平和と“企業活動”の関係とは?

企業による平和のためのマーケティングとは

実際は真面目に考えると、ものすごく複雑で難しい問題です。

http://today.uconn.edu/2012/07/uconn-grad-publishes-fourth-book-on-college-presidents/

本講義はクリエイティブ批評よりも概念整理を中心に話します。

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そもそもマーケティングとは

釈迦に説法ではありますが。。。

顧客、依頼人、パートナー、社会全体 にとって価値のある提供物を

マーケティングの定義(米国マーケティング協会)

創造・伝達・配達・交換 するための

活動であり、一連の制度、そしてプロセスである。

4P: Product/Price/Place/Promotion4C: Customer Value/Cost/Convenience/Communication

ステークホルダー

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そもそもマーケティングとは

つまり、ひとことで言うと

世の中の人々に価値のあるものを 作って、伝えて、配って、受け取ってもらうための 活動やプロセス

作る(Customer value)

伝える(Communication)

配る (Convenience)

価値あるもの

受け取って

もらう (Cost)

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「平和」に関係するマーケティングの3領域

マーケティングの対象となる「価値あるもの」は、商品とは限らず、「平和」のような目に見えないものも含まれます。

非営利マーケティング

マーケティング3.0

ソーシャルマーケティング

ソサイエタルマーケティングCSRマーケティングコーズマーケティングなど

行動変革

NGOなど

企業の社会的責任

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①ソーシャル・マーケティング(コトラー教授の定義:狭義)

ソーシャルマーケティング:◆ 望ましい「行動様式」「態度」「考え方」などの普及のためにマーケティングを応用する。

普及させたい「行動様式」「態度」

禁煙する シートベルト締める 飲酒運転しない 節電する 反戦キャンペーン署名 ヘイトスピーチ反対

行動・受容する

対象: 若者・女性・車を運転する人など、セグメントごと

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②非営利マーケティング

非営利マーケティング:◆ 非営利組織が、会員やボランティア獲得・キャンペーンのファン獲得・支援サービスの最適化・ファンドレイジングなどのためにマーケティングを応用する

組織のブランドやサービス 支援を受ける人にとって:サービスが最適化される。役に立つ。

支援者にとって:会員になる・ボランティアになる・寄付する。

NGOに限らず政府機関なども

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③マーケティング3.0(含CSRマーケティング・コーズマーケティング等)

マーケティング3.0:◆ 企業が、社会貢献をビジネスに組み込み、顧客だけでなくて社会全体に良い効果をもたらすことをもって、ステークホルダーと関係を構築すること。

企業イメージが向上し、従業員・株主・行政など社会全体とよい関係構築。

直接の顧客だけでなく、社会全体に利益。

途上国貧困層のためのBOP(Base of the Pyramid)ビジネス

環境に優しいCSRビジネス など

BOP

(例)

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企業活動と「平和」の関係:マーケティング3.0の射程

ちょっと待ってください。非営利やソーシャルマーケティングは分かりますが、

平和をマーケティングすることが難しいのではなくて、そもそも平和をビジネスに組み込むことが難しいのでは?

マーケティング3.0(BOPやCSR)で企業は、本当に世界平和に貢献できますか?

国連グローバルコンパクトがカバーする4分野は人権・労働・環境・腐敗防止ですが、「平和」は入っていません。

企業の社会的責任が求められる分野についてESG(Environment・Society・Governance)という言葉がありますが、P(Peace)は入っていません。

カンヌ等でも企業の「平和」キャンペーンは非常に少ないです。

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企業活動と「平和」の関係:相性の悪さ

平和とビジネスは、相性がいいのか? YES and NO

戦争をするしないは基本的に国(政府)の専権事項。

環境・人権・教育・衛生などでは、企業も企業なりに「具体的に」「一歩ずつ」貢献できるが…。戦争や和平に至るプロセスは基本政治の話。

「反戦運動」は「反体制運動」になりやすく、企業には厳しい。

「安全保障」論は政治的に非常にセンシティブ。

企業自体が防衛産業に関係していることも(→軍産複合体の問題など)

「平和」の政治性・国の専権性の問題

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(余談)「平和」をめぐる政治との緊張関係

戦争と平和をめぐっては国と市民との間で緊張関係があります。その言論をめぐるポジションの取りあいやメッセージ発信や、メディアリテラシーの涵養に、産業界・経済界がどう関わるかは極めて重要な「政治マーケティング」の問題ではありますが、ここでは深入りしません。

興味がある人は自分で読んでみましょう。

ちなみに日本に初めてPublic Relations の概念を持ち込んだのは、戦後日本の体制変革と民主化を進めたGHQです…。

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企業活動と「平和」の関係:相性の良さ

平和とビジネスは、相性がいいのか? YES and NO

現代の「平和」「紛争」の多元性・複雑性ゆえに逆にビジネスが貢献する余地

平和、安全保障と開発の一義的な責任は各国政府にありますが、民間セクターも、紛争地帯や高度危険地帯において、安定と安全保障のために意味のある貢献をすることができます。商業活動は、

• 雇用を生み出したり、経済開発や復興を助けるための収入を生み出したり、

• 町や村に持続可能な投資をもたらしたり、

• 民族間やコミュニティ間のよい関係を作るインクルーシブな雇用ルールを作ったり、

• BOPビジネス戦略を作ったり、

• 人権・労働・環境・腐敗防止の各分野でベストプラクティスを奨励したりすることにより、

直接間接のポジティブな効果をもたらすことができます。ビジネスはまた、

• 国境や文化の境界を超えて人々を一つの場所に集め、

• 共通のアイデンティティと目標に基づく人間関係を作り、

より広い社会では乗り越えるのが難しい違いを乗り越えるための強力な動機付けとなりえます。

国連の「PRI(責任投資原則)」報告書より抜粋

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企業活動と「平和」の関係:歴史的な視点

時代と連動して平和学でも「平和」の概念が拡張。単に戦争がない「消極的平和」から、紛争の原因となる「構造的暴力」を排除する「積極的平和論」へ。

新興独立諸国における統治の失敗に起因する内戦や民族紛争

が多い

世界を二分する政治・経済体制間の争い(及び大国間の代理戦争)

もっとも、ウクライナや南シナ海・東シナ海など、冷戦後の主権国家間の勢力均衡の不安定化が要因の一連の紛争群についてビジネスがどう貢献できるかは、現代でも微妙。。。

1950s~冷戦時代の紛争 2000s~現代の紛争

個々の企業が「具体的に」平和に貢献する方法は少なかった。

(それこそ愛を歌うくらいしか)

紛争原因となる貧困などの問題解決に企業が貢献できる場面が増えた。

(BOPビジネス・CSV経営)

そもそも片方は資本主義を否定

グローバル化した資本主義経済

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企業と「平和」の関係:国際親善型

ビジネスが平和に役立つ場面は、途上国開発支援ばかりではない。

平和貢献型NGOの3分類法を民間企業にも当てはめてみる

現地支援型 国際親善型 政策提言型

NGO 緊急支援・保健衛生・教育・マイクロファイナンスなど

二国間友好協会・文化交流・スポーツ交流その他

戦争反対・護憲・武器廃絶その他

民間企業 BOP・フェアトレード・インフラ開発・直接投資

コンテンツ・メディア・観光産業など、国際理解と親善に資するビジネス

経済界(団体)も政策提言をしています…。

NGOと民間は重なる部分も多いが、開発至上主義には批判も多い。

経済外交についての提言が多い。冷戦時代は、「自由主義擁護」。民主国家同士は戦争しないという「民主的平和論」(ゴールデンアーチ理論)なども…。

あまり「平和貢献」と意識されないが、パブリックディプロマシーの観点からも重要。

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平和のマーケティングの射程と限界

「既存のマーケティング理論が平和運動にも応用可能なこと」

これは単に「そういう説明も出来る」というレベルの話では? 「マーケティング」は平和実現に本質的なインパクトを与えられるのか?

は分かったが、

そもそもソーシャルマーケティングの得意とすることは、「特定の行動変革」を「特定されたターゲット」に引き起こすこと。

= =

「誰のどのような行動変革が平和をもたらすか」自体の問いについては、マーケティングはあまり貢献しない?

しかし

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平和のマーケティングの射程と限界

つまり

一般的マーケティング

ターゲットユーザー層

マーケティングは、ターゲット層と商品の整合性を取るプロセス。ただし「速い車をどう作るか」は、マーケティングではなく技術革新の問題。

マーケティングは、ターゲット層とキャンペーンの整合性を取るプロセス。ただし「どういう行動変革が世界平和をもたらすか」は、マーケティングではなく「平和学」や「紛争解決学」の問題? 分野間の対話が待たれる。

この層にはSNSで署名運動

この層にはもっと速い車

平和のソーシャルマーケティング

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「平和のマーケティング」と「平和学」

これをやれば平和が一歩実現するという「具体的な行動」が見えにくい。

平和実現は「どうすれば景気がよくなるか?」と同じような、「複雑系の問題」。

領土問題、民族問題、資源問題、統治問題などが複雑に絡む。

「具体的な行動」まで落としこめれば、あとはマーケティングの得意領域。

東京新聞Web版2015年10月5日 朝刊より

このような複雑な状況を解きほぐす試みは、「平和学」や「紛争解決学」。復興支援などでは「ソーシャルデザイン」の視点も。

対話が必要

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平和学と平和のマーケティング比較見取り図(試論)

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社会の状態

構造的暴力/文化的暴力 直接的暴力

社会的ストレスの蓄積しつつある状況

かろうじて停戦の続いている状況

• 戦争/地域紛争• ジェノサイド• 難民、紛争による飢餓など

• 富の不公正分配• 地球環境の悪化• 人権の抑圧など

• 民族間の憎悪• 宗教的あつれき• 領土問題など

対策国際機関による諸活動 平和維持活動 集団安全保障

予防外交/NGOなどによる社会開発支援 人道的援助

平和運動

社会的イシュー• 人権擁護運動 ・ 民族対話/融和運動

• 反戦運動(一般的)

• 反戦運動(特定の戦争)

政治・軍事的イシュー• 軍事化/軍国主義化への反対 ・ 武器廃絶運動

平和貢献 企業やNGOによる開発支援など• 武装解除・人道支援など

(参考:平和学部分について、「平和学をはじめる第2版」(晃洋書房)p.17参照)

平和学の対象

平和のマーケティングの対象

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広島県主催「国際平和のための世界経済人会議」10/14-15

紛争の要因

物理的

要因

•貧困

•資源・エネルギー

•ガバナンス欠如

•領土問題

•武器拡散 etc

精神的

要因

•宗教・民族対立

•相互理解の欠如

•共感の欠如

•核兵器

•対人地雷

•クラスター爆弾

•武器貿易

•殺人ロボット

①CSV/BOPビジネス

③武器廃絶

キャンペーン

②NGO/NPOとの連携

④共感と理解を養うビジネス

(メディア・観光・教育など)

⑤キャンペーンのツール

・PR

・広告

・デジタル

・ロビイング

その他

(平和と紛争の構造) (平和のマーケティング) (広島の将来)

• 研究

• 人材育成

• 情報発信

を広島に集積

⑥国際平和拠点

「ひろしま」の地域ブランディング

①~⑥は、パネルセッションのテーマ。

レガシー

その他、平和と「ダイバーシティ」「教育」「食」「CSR」「BOP」「デザイン」などのWSを予定。

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広島県主催「国際平和のための世界経済人会議」10/14-15

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【セッション1】 武器廃絶のための各種キャンペーン

核兵器・対人地雷・クラスター爆弾・武器貿易・殺人ロボット禁止キャンペーンなどにおいてマーケティングが果たしている役割

【セッション2】 平和のための非営利マーケティング

平和のためのNGO・NPOのキャンペーンやファンドレイジング NPO/NGOと経済界・行政の連携

【セッション3】 平和キャンペーンのツール:PR・クリエイティブ・SNSなど

さまざまなツールを使いこなす平和のためのキャンペーン戦略、注目すべき過去のキャンペーン事例

ソーシャルメディアや新しいメディアと、平和のためのキャンペーン

【セッション4】 共感と国際相互理解を養うビジネス

メディア・コンテンツ・教育・観光産業などの平和貢献とマーケティング

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広島県主催「国際平和のための世界経済人会議」10/14-15

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【セッション5】 ヤング・グローバル・リーダーたちとのセッション

世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダー約20名と観客とのインタラクティブセッション

【セッション6】 CSVとBOPビジネスによる平和と復興への貢献

飢餓・貧困・病気などの排除による地域の安定化とマーケティングの貢献 戦後復興期における民間企業やビジネスの役割

【セッション7】 プレイスマーケティングと国際平和拠点としての「ひろしまブランディング」

平和に関する研究・人材育成・情報発信の拠点としての、未来に向けた広島のあり方

【ワークショップ】 複数テーマに分かれてのワークショップ

平和と教育・平和とダイバーシティ・平和とCSRなど

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ご清聴ありがとうございました。

藤井宏一郎

[email protected]