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daisuke-nakanishi
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社会心理学者にとっての創発
• 社会心理学では個人と集団 (あるいは社会) という2つのレヴェルにまたがる現象を扱っている。
• 個人のレヴェルで観察できなかった特性が集団や社会のレベルで現れることを創発を考えれば、マイクロ=マクロダイナミックスをその研究の根幹に置いてきた社会心理学はまさに創発 (的) 現象を扱ってきたと言える。
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取り付け騒ぎはどう起こるか?
• 豊川信用金庫事件
• 1973年12月「豊川信金が倒産する」という噂が広がって起こった取り付け騒ぎ事件。
• 豊川信金に就職が決まった女子高生に友達が「信用金庫は危ないよ」と言った事が発端 (本当は「銀行強盗が入るから危ないよ」という意味だった̶̶実際に2012年11月に立てこもり事件が発生)。
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取り付け騒ぎのメカニズム• 銀行には全ての顧客に即時払い戻しができるキャッシュがあるわけではない。
• 「銀行はつぶれない」という集合的な信頼によって銀行は成立している。
• この期待が崩れると、実際に銀行はつぶれてしまう。
• 銀行に対する集合的な信頼は、「他の人も銀行はつぶれないと思っている」という期待によって成立する創発的な現象である。他者に対する期待が崩れれば、自分の信念はどうあれ、預金を下ろしにいかなくてはいけない。
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貨幣と社会的現実
• 貨幣は「貨幣には価値があるとみんなが思っている」という期待によって、実際に価値が生まれる。
• 自分が貨幣自体に価値を与えているかどうかは問題ではない (むしろみんなが「貨幣なんて鉄くず or 紙切れ」だと思っていても構わない)。
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買い占め現象
• オイルショックによる買い占め (1973年11月̶̶豊川信金事件の1ヶ月前)、震災による買い占め
• 「トイレットペイパーがなくなる」と自分が思っていなくても、「他の人はトイレットペイパーがなくなってしまうと思って買い占めに走るらしい」という期待があれば、買い占め現象は成立する。
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合理的選択としての差別
• 社長が新入社員を選ぶ状況
• 候補者は男性1人、女性1人で、能力差はない。
• 「女性は寿退社をする」ことが多い社会では、男性を選ぶことが社長にとって合理的な選択。差別意識がなくても、社員の訓練コストを考えれば男性を採用した方がよい。
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社会現象の社会心理学的理解• 取り付け騒ぎ、買い占め、差別などの現象は、集合的な期待が社会的現実を作り (e.g., 銀行は危ない、トイレットペイパーがなくなる、女性より男性を雇ったほうがよい)、その社会的現実が個人の合理的行動を拘束するという意味でマイクロとマクロの相互作用によって成立する。
• 個人の合理的な行動が社会全体の非効率を産み出している。
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個人の意見は集団意思決定で いかに集約されるか?
• 集団意思決定 (group decision making)、集団問題解決 (group problem solving) の領域
• 個人の意見がどのように集団としての決定に変換されるか?
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DavisのSocial Decision Scheme (SDS) Model
Aさん 賛成 Bさん 賛成 Cさん 反対 Dさん 反対 Eさん 賛成
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グループの決定 賛成? 反対?
個人の意見がグループの決定にどのように変換されるか?
多数決モデル• 5人グループ (賛成, 反対) = グループ賛成率
• (5, 0) = 1.00
• (4, 1) = 1.00
• (3, 2) = 1.00
• (2, 3) = 0.00
• (1, 4) = 0.00
• (0, 5) = 0.00
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真理が勝つモデル• 5人グループ (賛成, 反対) = グループ賛成率
• (5, 0) = 1.00
• (4, 1) = 1.00
• (3, 2) = 1.00
• (2, 3) = 1.00
• (1, 4) = 1.00
• (0, 5) = 0.00
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支持された真理が勝つモデル• 5人グループ (賛成, 反対) = グループ賛成率
• (5, 0) = 1.00
• (4, 1) = 1.00
• (3, 2) = 1.00
• (2, 3) = 1.00
• (1, 4) = 0.00
• (0, 5) = 0.00
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比例型モデル• 5人グループ (賛成, 反対) = グループ賛成率
• (5, 0) = 1.00
• (4, 1) = 0.80
• (3, 2) = 0.60
• (2, 3) = 0.40
• (1, 4) = 0.20
• (0, 5) = 0.00
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多数決規則はロバスト• 正解が曖昧であれば、多数決的に人々は決定する。こうした現象は以下の2種類の集団極化現象を引き起こす。こうした現象は、集団討議によって人が意見を変えるという前提を置く必要は必ずしもない。
• リスキーシフト
• 集団になると人はリスキーな判断をする現象
• コーシャスシフト
• 集団になると人は安全な判断をする現象
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「3人寄れば文殊の知恵」?• 文殊の知恵基準A
• グループは平均的な個人よりもよい。
• 文殊の知恵基準B
• グループは最も優れた個人以上の遂行を示す。
• 文殊の知恵基準C
• グループは個人が思いつかない創造的アイディアを産み出す (真の創発?)。
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中西・亀田 (2001)
• 定言的三段論法課題
• 2つの前提から結論部分が論理的に導きだせるかどうかを判断する論理課題。
• 集団条件: 個人回答→5人で回答→個人回答
• 個人条件: 個人回答→無関係課題→個人回答
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• ステレオタイプ的認知の影響力がグループレヴェルで創発するか?
• 三段論法の結論部分がステレオタイプと合致する場合、
• 結論が真の場合は正答率が理論値を上回り、
• 結論が偽の場合は正答率が理論値を下回る。
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なぜか?
• 社会的に共有された表象=50%を超える人々によって共有されている表象
• 多数決型で意思決定するという前提を置けばどうなるか?
• 5人中3人以上が支持する確率を二項分布から求める。
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小選挙区制・最多得票者選出制度による集約
• 得票率≠議席数
• 得票率の多い政党はより (その得票率よりも) 多くの議席を獲得する。
• 各選挙区レベルの得票率が、全国レベルではより極端な形で議席数につながる。
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三浦・飛田 (2002)
• 集団の創発性に影響する2つの重要な要因
• 集団成員の多様性
• 集団成員の類似性
• 類似した発想を持つ成員からなる集団が、自分が思いつかなかったアイディアに触れることで創発性が生まれる。
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実験1 (三浦・飛田, 2002)
• まずは集団成員の多様性 (集団を構成する成員の発想や着眼点がそれぞれに異なっている程度) が集団の創発性にどのような影響を与えるかを検討する。
• 3人集団で行うUnusual Uses Task (UUT) で検討
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Unusual Uses Task (UUT)
• ある特定の品物 (e.g., CD-ROMディスク) に関して通常とは異なる利用法のアイディアを考えるタスク。
• CD-ROMの利用法
• コースター、フリスビー、etc
• 分析対象となった利用法は185個
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実験2 (三浦・飛田, 2002)
• Unusual Uses Task (UUT)
• 針金ハンガーの使い道
• トイレットペーパー・ホルダー、シャボン玉の枠、etc
• 分析対象となった利用法は1,168個
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情報に対する信頼は どう成立するか?
• ヒトは自ら経験しなくても、他者の行動によって学ぶことができる。
• 「他者の行動が正しい」という現象はどのように生まれるのか?
• コピペを例に考えてみる。
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コピペの成立する条件
• コピペによって低コストで (調べずに) 高いパフォーマンス正答率を上げることができる条件とは?
• 自分以外の他者が、きちんと調べていること。
• コピペがバレないこと (バレても罰されないこと)。
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Kameda & Nakanishi (2002)• 個人的学習のコスト > 社会的学習のコスト
• 大多数の他者が個人的学習に従事
• (コピペするべき正しい情報が流通しているから) 社会的学習に依存するのが合理的
• 大多数の他者が社会的学習に従事
• (コピペするべき正しい情報が流通していないから) コストを払ってでも個人的学習に従事するのが合理的
61
シミュレーションの状況• エージェントは行動Aか行動Bのいずれかを採ることができる。
• 環境Aでは行動A、環境Bでは行動Bを採ることが望ましい。
• 環境は基本的には全世代と同じだが、小さな確率で世代間変動する。
• エージェントが使える情報
• 前世代の他個体の行動情報
• 現世代における統計情報 (コストをかけた個体のみ)
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心理学実験による検討• ウサギ当てゲーム (“Where is the rabbit” game)
• 穴Aと穴Bのどちらにウサギが隠れているかを6名グループで繰り返し当てるゲーム (1回当てると30円の報酬)
• 基本的にウサギは前試行と同じ穴に住むが、小さな確率で巣穴を移動する。
• ウサギを当てるために使える情報
• ウサギ発見機の利用 (高コスト: 15円 / 低コスト: 5円)
• 前試行の他者の決定 (参加者以外の5名から3名の判断をランダムに提示)
• 正解のフィードバックなし
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情報に対する信頼は創発するか?
• 情報を誠実に提供する者 (コピペのもとを提供する者) は一定比存在する。
• 個人的学習のコストにも依存するが、情報に対する信頼は、均衡という形で基本的に成立する。
77
均衡による「よりよい社会」
• 複数の戦略が均衡した集団と単独の戦略のみで構成される集団のいずれの方が「よい社会」なのだろう?
• 均衡状態≠パレート改善
• パレード改善: 集団内の誰の効用も悪化させることなく、少なくとも1人の効用を高めることができる状態。
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Kameda & Nakanishi (2003)
• 社会的/文化的学習はヒトの適応度を増すか?
• 全く社会的学習ができない状況と、他者の情報が利用できる状況ではどちらの社会が幸せか?
• 要するに、他者の発明を全く利用できない社会と、他者の情報を利用できるが故にフリーライダーも発生する社会との比較を行ったs。
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なぜ社会的学習ができることは適応度を増さないのか?
• 個人的学習者の適応度は社会的学習者の数に依存しない。
• 社会的学習者の適応度は社会的学習者が増えるほど減少する (コピペ者が増えるほど、コピペ者は劣化コピーのために損をする)。
• 均衡点は個人的学習者のみの適応度と等しい点になる。
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心理学実験で検討
• Kameda & Nakanishi (2002) の高コスト条件と、ウサギ発見機 (個人的学習機会) を利用しなかったら何も情報が得られない (他者がどう行動したかの情報が与えられない) 条件を比較してみる。
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なぜ異なる結果が得られたのか?• 学習モード切り替え (= 社会的比較) の可能性
• Rogersの前提: 社会的学習と個人的学習は相互背反的
• 「個人的学習者は社会的情報を使わない」という前提
• 社会心理学者Festinger (1954) の社会的比較型行動
• 人は客観的な情報が曖昧な時には社会情報に依存する。
• 学習モードの切り替えが可能な個体を想定した進化シミュレーションを行う。
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均衡による「よりよい社会」
• フリーライダーが存在しても、社会的情報の利用できる社会の方がより「よい」。
• 情報獲得の効率のよさは、他者の情報に依存できる (フリーライドできる) という前提により生まれる。
• ヒトの社会性によって生まれたフリーライダー問題が、効率を向上させているという逆説的な結果。
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