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社会人のための シンポジウム発表入門 - リーン論文作法 -
株式会社SRA 阪井 誠
自己紹介
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阪井誠:さかば、@sakaba37、 ㈱SRA、博士(工学)
• 論文誌、国際会議、シンポジウムの採録経験のほか、ソフトウェアシンポジウムのプログラム委員や委員長の経験を持つ
• ソフトウェア工学の国際会議で最も権威があるといわれているICSEに、論文が2本同時に通ったことがちょっと自慢。
レビュー 監訳
New:5/27 New: 6/22 New: 6/30
New: 8/14
国際会議
シンポジウムの位置づけ
• 年に1回のお祭り
– 経験を整理
– 新しい技術を みんなで議論
– 優秀者を表彰
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分科会 研究会
勉強会
シンポジウム
• 通過点から 議論の場へ
– 論文指導
– 研究
– 実証
– 産学連携
全国大会
論文誌 アワード
フェロー
アカデミアと外部発表
• 査読あり
– 論文誌(博士の審査基準になる)
– 国際会議(博士の審査基準になるものもある)
– シンポジウム(修士ならこれぐらいが期待されている)
• 査読なし
– 研究会(研究に対する専門家の意見をうかがう)
– 全国大会(腕試し、研究の経験、査読ありの場合もある)
• 社会貢献
– 講演、書籍、共同研究、ベンチャービジネス
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産学が日本語で議論できる最も
高度な「場」
完成度
速報性
特徴
アカデミアの変化
論文指導+研究から実証、産業界との協調へ
• エンピリカル(実証的)ソフトウェア工学
• 経験論文(昔は研究論文だけだった)
• 産学連携
• 共同研究
• ベンチャービジネス
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評価されるようになった
シンポジウムと査読
• 組織
– 実行委員長 - 実行委員会 - ローカルアレンジメントー事務局
– プログラム委員長 –プログラム委員会
• 査読
– プログラム委員会で手分けして査読
– コミュニティ内で互選する仕組み
– 足切りで一定の品質を保つが、基本的には教育システムに なっている(査読者は通したい)
– 査読者は評点をつけるほか、説明が求められる
=>説明が容易な論文や聞きたい聞かせたい論文が 採録されやすい
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査読の流れ
• 査読結果を元に採録する論文を決める
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投稿者 プログラム委員長
プログラム委員長
プログラム
委員(差読者)
プログラム委員会
集計結果 ボーダーラインを中心に議論
論文の概要、評点、投稿者・プログラム委員へのコメントを報告する
査読結果の例
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論文の構成
おおむね以下のような構成になっている
• はじめに
• 関連研究
• 研究内容(提案、経験)
• 結果と考察
• まとめ
• 参考文献
=> それぞれ書かないといけないことが決まっており、 形だけを整えても評価されない
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評価の低い文章 • はじめに
– A社では,1980年の創業以来システム開発をしており,プロセス改善を進めてきた.しかし.Excelファイルによる進捗管理では,情報収集に時間がかかっていた
• 関連研究
– 近年,チケット駆動開発と呼ばれるRedmineを用いたタスク管理が注目されている.チケットと呼ばれるものでタスクを管理することで,開発者が進捗を入力できる
• 研究内容(提案,経験)
– これまでExcelのガントチャートで管理していたチームに,チケット駆動開発を導入した.導入に当たってはRedmineの操作方法と運用ルールの説明会を実施した
• 結果と考察
– 進捗確認が効率化され,プロジェクトも成功した
• まとめ
– チケット駆動開発により,効率化できた.他プロジェクトに広げていきたい
• 参考文献 [1] 小川ほか, Redmineによるタスクマネジメント実践技法, 翔泳社, 2010.
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評価の高い文章 • はじめに
– 進捗の共有はプロジェクトを効率化し,活性化する [1].本研究では,Excelに変えテチケット駆動開発(TiDD)を導入し,その効果をアンケートで評価した.
• 関連研究
– チケット駆動開発では残作業が明確で不安が解消され,プロジェクトを活性化する[1].しかし文献[1]では管理者の視点であり,開発者の評価は未確認である.
• 研究内容(提案,経験)
– 初めてチケット駆動開発を導入したプロジェクトにアンケートを取った.アンケートでは,導入初期とそれ以降の作業時間と導入後の感想を集計した.
• 結果と考察
– 進捗確認作業が導入時約50%増,習熟後約20%削減した.安心感も増えていた.
• まとめ
– チケット駆動開発で作業と安心感が改善した.導入時講習が今後の課題である.
• 参考文献 [1] 阪井誠,チケット駆動開発によるプロジェクトの活性化 ―見える化と運用ポリシーがプロジェクトを変えた,SPI Japan 2010,JASPIC, 2010.
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審査基準 • 電子情報通信学会
– 新規性:投稿の内容に著者の新規性があること.
– 有効性:投稿の内容が学術や産業の発展に役立つものであること.
– 信頼性:投稿の内容が読者から見て信用できるものであること.
– 了解性:投稿の内容が明確に記述されていて読者が誤解なく理解できるものであること.
• 情報処理学会 – 学術、技術上の研究あるいは開発成果の記述であり、新規性、有用性などの点から、会員にとって価値のあるもの
• ソフトウェアシンポジウム – 新規性や信頼性(研究論文)
– 知見の有用性(経験論文):採点は新規性、有用性、信頼性、構成力:
• SQiPシンポジウム – 有用性、信頼性、構成と読みやすさから総合的に判断
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ソフトウェア品質シンポジウム(SQiP)
• (1) 有用性 – 経験や、提案する方法が、有用であるかどうかで判定します。自明な方法、すでに広く利用されている方法、陳腐な方法、あるいは、極めて特殊な場合や、特殊な分野にのみ適用可能な場合は、有用性が低いと評価します。投稿者及び関係者自身の長期間にわたる実践により得られた結果や考察は、単発や短期間の試行や他者が提供する公開情報(オープンソースソフトウェアの情報を含む)を用いた評価よりも有用性が高いと評価します。
• (2) 信頼性 – 提案手法の有用性が性能評価等により示されているか、または製品化、あるいは公開された作品、プロダクト等(ソフトウェア、ハードウェア等)で技術的有効性が客観的に確認されているか、という観点から評価します。アブストラクト投稿時点では結果が出ておらず、経験論文、経験発表を投稿する時点において結果が揃う場合には、査読者がそのことを予想、判断できるような情報や根拠を示してください。
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ソフトウェア品質シンポジウム(SQiP)
• (3) 構成と読みやすさ – 趣旨が読み取れない場合、採録要件を満たさないと評価します。章構成が適切か、論理の飛躍がないか、文章が長すぎないか、表現が適切か、誤字脱字の修正をはじめとして推敲は十分に行われているかを評価します。
• (4) その他 – 既発表の内容をもとに追加や改善した点を投稿する場合には、既発表の文献を引用し追加、改善した点を明確にすることで査読者が既発表分との違いを判断できる情報を示してください。過去の発表との差分が小さい場合には、その点を加味して評価します。
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チェック!評価の低い文章 • はじめに
– A社では,1980年の創業以来システム開発をしており,プロセス改善を進めてきた.しかし.Excelファイルによる進捗管理では,情報収集に時間がかかっていた
• 関連研究
– 近年,チケット駆動開発と呼ばれるRedmineを用いたタスク管理が注目されている.チケットと呼ばれるものでタスクを管理することで,開発者が進捗を入力できる
• 研究内容(提案、経験)
– これまでExcelのガントチャートで管理していたチームに,チケット駆動開発を導入した.導入に当たってはRedmineの操作方法と運用ルールの説明会を実施した
• 結果と考察
– 進捗確認が効率化され,プロジェクトも成功した
• まとめ
– チケット駆動開発により,効率化できた.他プロジェクトに広げていきたい
• 参考文献 [1] 小川ほか, Redmineによるタスクマネジメント実践技法, 翔泳社, 2010.
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一般的か?
陳腐な内容
工夫していない
効果が定性的。信頼できない
特に興味を持たない
引用ではなく紹介
リーン論文作法の狙い
• 冗長な論文
– 書きたいことを書いている
– いわゆる仕掛けカンバン
– 長文で趣旨が不明瞭になり易い(「なんでや!」)
– 意見が分かれる論文
• 無駄のない論文
– 書かないといけないことを書いている
– いわゆる引取りカンバン
– 適切で明確な文章(すべてが説明されている)
– 落としにくい論文
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リーンな構成の論文
結果から新規性、有効性を説明する構成にする (それだけで6ページは十分埋まる)
• はじめに
• 関連研究
• 研究内容(提案、経験)
• 結果と考察(定量的に)
• まとめ
• 参考文献
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有効性の説明:やったことの裏返し
一般的な課題から解決した課題に導く
新規性の説明:過去に提案が示されなかったことを示す
価値を高める:実践しないとわからない情報を提供する
巨人の肩に乗る:成果の前提となる文献を「引用」する
チェック!評価の高い文章 • はじめに
– 進捗の共有はプロジェクトを効率化し,活性化する [1].本研究では,Excelに変えテチケット駆動開発(TiDD)を導入し,その効果をアンケートで評価した.
• 関連研究
– チケット駆動開発では残作業が明確で不安が解消され,プロジェクトを活性化する[1].しかし文献[1]では管理者の視点であり,開発者の評価は未確認である.
• 研究内容(提案、経験)
– 初めてチケット駆動開発を導入したプロジェクトにアンケートを取った.アンケートでは,導入初期とそれ以降の作業時間と導入後の感想を集計した.
• 結果と考察
– 進捗確認作業が導入時約50%増,習熟後約20%削減した.安心感も増えていた.
• まとめ
– チケット駆動開発で作業と安心感が改善した.導入時講習が今後の課題である.
• 参考文献 [1] 阪井誠,チケット駆動開発によるプロジェクトの活性化 ―見える化と運用ポリシーがプロジェクトを変えた,SPI Japan 2010,JASPIC, 2010.
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一般的な課題、評価方法を説明
新規性を示す
再現性、工夫を示す
効果が定量的。信頼できる
実施してわかった課題
先行事例の引用
基本的なTIPS
• 言葉の定義を明確に
• 評価基準に沿った内容を書く
• 引用を組み合わせて問題設定する
• 疑問が残らないように「なんでや?」と考える
• 評価は定量的に。できれば検定を
• 定性的な内容も工夫する
• 客観的な事実と主観的な内容は分離する
• 文献は論文の引用が基本
• 書籍の引用はページを書く
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査読者を意識したTIPS
• 落としにくい論文より、聞いてみたい論文 – 合計点で勝負!
– 実践しないとわからない内容を示す
• 内容を的確に示すタイトル – 「手法名: XXを目的としたXXの○○法の提案」など
• 評価基準に沿った概要 – やったこと、効果、評価項目に合わせた特徴
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チケット駆動開発導入による進捗管理の効率化と課題
本論文ではこれまで示されていなかったチケット駆動開発の作業効率をアンケートにより評価した。チケット駆動開発で
進捗を共有した結果、従来よりも約20%進捗の共有作業が
効率化された。その反面、導入時は作業効率が50%低下しており、教育が重要であることもわかった。
最後まで全力で
実践しないとわからないことを示す
• 定量的な情報
– 公開できない場合は相対値で
• よかったこと
– 主題でないこともアピールする
• 難しかったこと、工夫したこと
– 再現する際のノウハウを提供する
• 今後の課題
– できていないことを明示して信憑性を高める
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おわりに
論文を投稿してお祭りに参加しよう!
• シンポジウムはコミュニティのお祭り
• 査読は技術力を向上させる
• 評価基準に合わせて技術を整理する
• 実践しないと知りえない情報はあなたにしか 書けない
• 落ちても指導が受けられる(書き方、関連文献)
=> それでは、シンポジウムでお会いしましょう!
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参考リンク
• 電子情報通信学会 和文論文誌投稿のしおり (情報・システムソサイエティ) 5.1 査読の基準
– http://www.ieice.org/jpn/shiori/iss_5_1.html#5.1
• 情報処理学会 論文誌ジャーナル(IPSJ Journal) 原稿執筆案内
– https://www.ipsj.or.jp/journal/submit/ronbun_j_prms.html
• ソフトウェア・シンポジウム 2016 論文・報告募集 – http://sea.jp/ss2016/call_for_papers.html
• ソフトウェア品質シンポジウム2016一般発表募集 – https://www.juse.jp/sqip/symposium/ippanhappyou_boshu/
申込書(Word)審査基準の詳細が載っています
– https://www.juse.jp/sqip/symposium/ippanhappyou_boshu/toukou_form2016.doc
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完
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社会人のための
シンポジウム発表入門
- リーン論文作法 -