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CyberAgent, Inc. 進化ゲーム理論の考え方で ソーシャルゲームの "ソーシャ " を分析する 株式会社 サイバーエージェント アメーバ事業本部 Ameba Technology Laboratory 高野雅典 2014/1/6 1 データサイエンティストサミット

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進化ゲーム理論の考え方でソーシャルゲームの "ソーシャ

ル" を分析する株式会社サイバーエージェント

アメーバ事業本部

Ameba Technology Laboratory高野雅典

2014/1/6 1

データサイエンティストサミット2013

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アジェンダ

• 基本的な動機

• 進化ゲーム理論とソーシャルゲーム

• 協調行動に着目する理由

• ソーシャルゲームの協調者分析

• まとめ

22014/1/6

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基本的な動機

32014/1/6

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ソーシャルゲームの

“ソーシャル”を分析したい

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通常のWebサイトの解析

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アクセス 離脱

回遊

どのような属性の、どのような情報を見たユーザが、どのように振る舞うかといった個人に焦点を当てる

• 継続して利用するか?離脱してしまうか?• どの商品を購入するか?どの広告をクリックするか?

→ソーシャルゲームの分析も基本は同じ

課金

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SNSのソーシャル な分析(Facebook・mixiなど)

2014/1/6 6

ユーザ間のつながりの情報伝播を分析し、口コミ効果の定量化

ユーザ間の情報のやり取りや友人関係のネットワークなど、ユーザ間のつながりに焦点を当てる

弱いつながりが多様な情報伝播を加速する:ソーシャルネットワークの役割と可能性

<http://socialmediaexperience.jp/4952>

広告やキャンペーン施策における

ターゲッティングの最適化

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SNSのユーザ間の関係性

• ユーザ間の関係は基本的に Win-Win

• 誰かの行動が他の誰かに悪影響を及ぼすようなこ

とはSNSの仕組みとして存在しない

• 何がユーザにとっての利益か?はユーザごとに異

なる

– 友達を増やしたい / ふぁぼ(RT/いいね)されたい / 友人と

連絡が取りたい etc…2014/1/6 7

・情報交換

・「いいね!」

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では、

ソーシャルゲームは?

82014/1/6

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ではソーシャルゲームは? - イベントの例

• ユーザ同士でランキング競争!

• ギルド同士でランキング競争!

• ギルド内で協力して協力ボーナスゲット!

2014/1/6 9

• ユーザ間の関係はWin-WinだったりWin-Loseだった

• 一方のユーザの振る舞いが、他方のユーザの振る舞

いに悪影響を与えることがゲームの仕組みとして存

• 何がユーザにとっての利益か?は基本的に同一イベントポイントを取得してポイント報酬 / ランキング報酬ゲット!

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ソーシャルゲームのソーシャルを分析したい

• 従来はソーシャルゲームのソーシャルはあまり分析 対象にされていない

• SNS のソーシャル はソーシャルゲーム の

ソーシャル とは性質が異なる

• でも、ソーシャルゲームでギルドのメンバーと協力してポイントを稼いだり、ランキングで他のユーザを出し抜いたりすることは楽しい

102014/1/6

ソーシャルゲームの特徴である

• ユーザ間の関係に明確な利害関係がある

• ユーザの利益が同一、かつ、定量的に表現されている

という性質を利用してソーシャルゲームのソーシャルにアプローチ

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やったこと

112014/1/6

進化ゲーム理論でモデル化ユーザの協調行動に着目

ユーザの協調行動/協調行動が成立する仕組み/協調行動の効果

を分析

ユーザの協調行動を促進する施策へ

ソーシャルゲーム

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進化ゲーム理論と

ソーシャルゲーム

122014/1/6

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進化ゲーム理論とは

• 個体間の相互作用をゲーム理論の利得行列で表

• 各戦略(表現型)を持った個体の相互作用の結

果、それぞれの個体数の比率がどう増減する

か?

という集団のマクロな状態を扱う力学系の理論

体系

• 個体間相互作用に基づく生物進化の理論※ゲーム理論とよく似てるが前提や目的が大きく異る

132014/1/6

生物の進化だけではなく、行動戦略を持つ集団の

マクロな挙動を扱う枠組みとしても研究されている

– Chaos, Solitons & Fractals(2013/11, Vol. 56)で「Collective Behavior and Evolutionary Games(集団行動と進化ゲーム)」特集

– 社会科学者のための進化ゲーム理論(勁草書房, 2008)

定義

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進化ゲーム理論の例 –タカハトゲーム

• 獲得したポイントの相対的な差に比例して多くの子孫を残せると考える

• ある生物集団に、タカ派とハト派という 2つの性質(戦略)が存在する場合、

• その集団のタカ派とハト派の比率はどうなるのか?

142014/1/6

タカ派ハト派

ハト派

タカ派

5, 5 0, 10

10, 0 -3, -3

→ 2人で半分こ

→タカ派が独り占め

→ 2人で争い、片方が独り占め両方に怪我のリスク

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進化ゲーム理論の例 –タカハトゲーム

152014/1/6

• タカ派のポイント– 対ハト: 10x0.1 = 1pt

– 対タカ: -3x0.9 = -2.7pt

= -1.7pt

• ハト派のポイント– 対ハト: 5x0.1 = 0.5pt

– 対タカ: 0x0.9 = 0pt

= 0.5pt

タカ派が多い時 (1:9)

ハト派の子孫が増加

ハト派が多い時 (9:1)

• タカ派のポイント– 対ハト: 10x0.9 = 9pt

– 対タカ: -3x0.1 = -0.3pt

= 8.7pt

• ハト派のポイント– 対ハト: 5x0.9 = 4.5pt

– 対タカ: 0x0.1 = 0pt

= 4.5pt

タカ派の子孫が増加

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進化ゲーム理論の例 –タカハトゲーム

162014/1/6

• タカ派のポイント– 対ハト: 10x0.1 = 1pt

– 対タカ: -3x0.9 = -2.7pt

= -1.7pt

• ハト派のポイント– 対ハト: 5x0.1 = 0.5pt

– 対タカ: 0x0.9 = 0pt

= 0.5pt

タカ派が多い時 (1:9)

ハト派の子孫が増加

ハト派が多い時 (9:1)

• タカ派のポイント– 対ハト: 10x0.9 = 9pt

– 対タカ: -3x0.1 = -0.3pt

= 8.7pt

• ハト派のポイント– 対ハト: 5x0.9 = 4.5pt

– 対タカ: 0x0.1 = 0pt

= 4.5pt

タカ派の子孫が増加

最終的にタカ派とハト派のポイントが釣り合いの取れる個体数比率に収束し共存

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進化ゲーム理論の前提

利得は1次元の連続的な数値

利得∝子孫数の期待値

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集団を構成する個体数は非常に多く、各個体の出会いはランダム• 個体数について微分可能

• 各戦略の利得は期待値で評価可能

→増減を微分方程式で記述(平均場近似)

初期値は推定できないので、主に十分な時間が経った 後について分析することが多い

平衡点に達する / 周期的に変動する / カオス的な挙動

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進化ゲーム理論の前提(近似)の拡張

相互作用の相手がランダム→相互作用の局所性は無視(近似)している

局所性を無視して説明できない現象について、

局所性を導入したモデルで研究が進んでいる

– 明示的なグループを定義し、グループ間での相互作用や移動の効果を分析

– 格子ネットワークや複雑ネットワークでの相互作用の効果を分析

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進化ゲーム理論とソーシャルゲームの対応

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進化ゲーム理論の特徴 ソーシャルゲームの特徴

利得は1次元の連続的な数値ゲーム上での利益は1種類で定量的(イベントのポイントなど)

集団を構成する個体数は非常に多い

DAU: 数万〜数十万

各個体の出会いはランダム(発展的研究では局所性あり)

各プレイヤーの出会いにはギルドやフレンドなどにより偏り

初期値は推定できないので、主に十分な時間が経った後について分析

ヒットしたら1年以上の運営期間。各イベントは1週間程度

進化だけでなく学習などによる戦略の推移も扱う

プレイヤーは動的に自分に有利になるように戦略を学習

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ここまでのまとめ

進化ゲーム理論は

集団における個体間相互作用の戦略の推移というマクロな現象を扱う理論体系

202014/1/6

• 進化ゲーム理論によってプレイヤー間相互作用(≒ソーシャル)を分析し、サービスに活かすことが可能

• 人の社会性に関する知見も得られる

ソーシャルゲームは

• 進化ゲーム理論の前提や特徴をある程度満たす

• プレイヤーの相互作用の戦略の推移というマクロな 現象についてアプローチができるはず

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協調行動に着目する理由

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協調行動とその課題

• 人間をはじめとして多くの動物に見られる普遍的な現象

• しかし、協調的な個体は非協調的な個体と相互作用す

ると搾取されてしまうので、相互に協調している状態

は不安定

222014/1/6

裏切り協調

協調

裏切り

3, 3 0, 5

5, 0 1, 1

囚人のジレンマ

裏切り協調

協調

裏切り

1, 1 1, 3

3, 1 0, 0

Snowdriftゲーム(チキンゲーム)

なぜ人や動物は協調するのか?進化生物学・社会科学では主要な課題の一つ– 進化ゲーム理論による分析が盛んで、囚人のジレンマや

Snowdriftゲームが良く使われる

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囚人のジレンマにおける進化ゲーム理論的解析

232014/1/6

• 協調者のポイント– 対協調者: 3x0.9 = 2.7pt

– 対裏切り者: 0x0.1 = 0pt

= 2.7pt

• 裏切り者のポイント– 対協調者: 5x0.9 = 4.5pt

– 対裏切り者: 1x0.1 = 0.1pt

= 4.6pt

協調者が多い時 (1:9)

裏切り者の子孫が増加

裏切り者が多い時 (9:1)

• 協調者のポイント– 対協調者: 3x0.1 = 0.3pt

– 対裏切り者: 0x0.9 = 0pt

= 0.3pt

• 裏切り者のポイント– 対協調者: 5x0.1 = 0.5pt

– 対裏切り者: 1x0.9 = 0.9pt

= 1.4pt

裏切り者の子孫が増加

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協調者が多い時 (1:9) 裏切り者が多い時 (9:1)

囚人のジレンマにおける進化ゲーム理論的解析

242014/1/6

• 協調者のポイント– 対協調者: 3x0.9 = 2.7pt

– 対裏切り者: 0x0.1 = 0pt

= 2.7pt

• 裏切り者のポイント– 対協調者: 5x0.9 = 4.5pt

– 対裏切り者: 1x0.1 = 0.1pt

= 4.6pt

裏切り者の子孫が増加

• 協調者のポイント– 対協調者: 3x0.1 = 0.3pt

– 対裏切り者: 0x0.9 = 0pt

= 0.3pt

• 裏切り者のポイント– 対協調者: 5x0.1 = 0.5pt

– 対裏切り者: 1x0.9 = 0.9pt

= 1.4pt

裏切り者の子孫が増加

※Snowdriftゲームでは協調者と裏切り者は共存するが、基本的な問題点は同じ

どのような条件でも最終的には裏切り者のみに

協調の維持には、協調者は裏切り者を避けて協調者同士で相互作用するという局所性が必要

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協調行動と局所性 –マルチレベル選択と移住

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協調者は偏って存在し、裏切り者と相互作用を避ける

グループ内の裏切り者が多いと協調者はグループを移動

Genki Ichinose and Takaya Arita, "The role of migration and founder effect for the evolution of cooperation in a multilevel selection context", Ecological Modeling, Vol. 210, pp. 221-230, 2008.

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協調行動と局所性 –

後に見返りが期待できるならば、即座に自分の利益とならなくても、相手に対して利他的に振る舞う

一方で、見返りが期待できない相手には

利他的に振る舞わない相手を避ける、利己的に振る舞うなど

262014/1/6

長谷川寿一,長谷川真理子:進化と人間行動,東京大学出版会 (2000).

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ここまでのまとめ

協調行動は人の主要な社会的行動の一つ

• 人類の進化上の大きな謎の一つであり、生物学、心理学、社会科学、行動経済学などおいて、非常に多くの研究が存在

• 理論的なアプローチは進化ゲーム理論が多い

272014/1/6

協調と競争はソーシャルゲームの重要なソーシャル要素

サービスの要

ソーシャルゲームの協調行動を進化ゲーム理論で分析

→既存研究の豊富な知見をソーシャルゲームに活かす

ことができる

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ソーシャルゲームの

協調者の分析

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焦点を当てるゲーム部分概要 –レイドイベント

2014/1/6 29

①クエスト

ユーザ

⑤通常x1.5のポイント獲得

⑥ランキング競争

同じギルドのメンバーなど

②レイドボスに遭遇→攻撃

③救援依頼

④救援(攻撃)

1位: 田中(12040pt)2位: 山田(11010pt)3位: 菊池(11005pt)4位: 斎藤(9015pt)・

・・

ボスを攻撃してポイントを稼ぎランキング上位を目指すイベント

• 与えたダメージに比例してポイント獲得• 攻撃回数は限られる(or 課金)ので効率のよいポイント稼ぎが重要

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ソーシャルゲームにおけるSnowdriftゲーム的状況

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レイドボスのHPが残り少しの場合

攻撃

HP

遭遇したユーザや救援を依頼されたギルドメンバー

「攻撃力 > 残りHP」なので、攻撃力 > ダメージ。そのため攻撃力

より少ないイベントポイントを獲得。

攻撃する 攻撃しない

攻撃する - 1, 3

攻撃しない

3, 1 0, 0

2人でボスを倒している場合を考えると…

他の誰かが攻撃してくれることを待つチキンレースのような状況・Snowdriftゲーム/チキンゲームと呼ばれる

この状況で攻撃する行動を協調的行動として、ユーザの協調行動について調査する

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分析結果 –マルチレベル選択と移住

312014/1/6

• 協調的なユーザが集まったギルドと非協調的なユーザが集まったギルドに分化

・ 協調的なギルドのほうが有利

• あまり協調的なユーザが多くないギルドの協調的なユーザは 頻繁に移動

※有利 = ポイント獲得の効率の良さ(課金1円あたりの獲得ポイントの多さ

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分析結果 –互恵的利他主義

322014/1/6

協調ギルドの協調ユーザの場合 協調ギルドの非協調ユーザの場合

協調ユーザ同士で相互に攻撃し合うが、非協調ユーザ相手には一方的に攻撃(助ける)のみ

協調ユーザ相手に攻撃してもらうのみ

のはず…

• 協調ギルドでは– 協調ユーザは相互に協調行動をし合う

– 非協調ユーザは一方的に協調行動をされるのみ

なので、非協調ユーザのほうが有利であるはず

• しかし、実際は協調ユーザのほうが有利だった– 互恵的利他主義により協調ユーザは協調ユーザ同士でしか協調をし

ていない可能性

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分析まとめ

• 関して った分布をしていて、– 協調ユーザがいないギルド(非協調ギルド)– 協調ユーザが多いギルド(協調ギルド)に分化している

• マルチレベル選択と互恵的利他主義により相互の協調状態を維持している

• 協調ユーザはゲームにとってアクティブにゲームを楽しんで頂いている良いプレイヤー

2014/1/6 33

協調ユーザは…

協調しやすい社会環境を構成し、ゲームを活性化したい

互恵的利他主義を促進させる施策の例

• ユーザの協調的行動を他のメンバーが認識しやすいように

• 協調的な行動に対する正のフィードバックがあるように

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まとめ

多くの人のWebサービスの常用化、

大規模データ処理基盤の確立により、人の行動に

関するビッグデータが記録・処理可能に

342014/1/6

ソーシャルゲームは、協調と競合が組み合わさる複雑な社会環境

進化ゲーム理論の枠組みと相性がよく、マクロな ”ソーシャル” の様相にアプローチでき

要素数が非常に多い系を扱うための理論体系が経済現象やWebサービス分析に適用可能に• 経済×統計力学(経済物理学)

• SNSの分析×複雑ネットワーク理論