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工業会活動 30 米国航空宇宙工業会(AIA)国際委員会に参加して 平成24年10月24日から26日に米国ジョージア州サバンナにて、米国航空宇宙工業会 国際委員会が開催された。参加者は、米国政府、企業、海外工業会などから総勢54名で、 海外からはカナダ航空宇宙工業会とSJACが招待された。この会議は、海外市場の動向、 今後の航空産業の見通し、米国輸出管理の改革などのトピックについて、業界、政府、 メディアなどが意見交換する、というものである。トピックの中から、インド市場の動向、 防衛装備品の市場予測、米国輸出管理の改革について、以下に報告する。 1.米-印 防衛装備品の貿易について シンクタンクCenter for Strategic & International Studyの客員研究員Dr. Amer Latif氏が「米-印 防衛装備品の貿易・パートナーシップの深化 と機会」と題する講演を行った。 20019.11直後にインドに対する米国の経 済制裁が解除され、防衛分野における協力関 係が構築され始めた。アフガニスタン、海上 安全保障、中国の軍備拡張、自然災害への対 応などを共通のテーマとして、それぞれの関 心に応じて防衛関係を緊密化させた。そして、 両国は防衛対話を拡大するとともに、防衛装 備品の貿易を増やした。2000年代半ばから輸 送機、海上偵察機、特殊武器、地上レーダ、 水陸両用艇などを米国がインドに輸出した。 2011年に、インドは米国からの武器購入国の 中で第3 位であり、45 億ドルの契約高をあげ ている。 しかし、2011 4 月にインド政府がマルチ ロール戦闘機MRCA)を米国企業に発注し ないことを決めたため、防衛装備品の売買、 技術移転・オフセットの実行、インド政府が 所有する企業との取引など今後のビジネスに 懸念が生じている。 防衛装備品の売買には、担当者同士の信頼、 売買の仕組みや役所の仕組みの理解、イン ターオペラビリティや両国で使用可能な武器 の共同開発などの協力が必要になる。防衛装 備品の貿易を深めることはアジア太平洋地域 の安定をもたらし、災害援助、人権保護、反 海賊行為、平和維持などを通して、共通の利 益のために共同活動することが出来る。米印 両国の深い絆は北京政府に対し、アジアのす べての国が国際的な行動規範を支持するとい うワシントンとニューデリーのコミットを発 信するものであるが、近い将来こういった状 態になるとも思えない。以下に5 つの懸案事 項とその対処について述べる。 戦略的課題は、現在でなく将来の貿易 にある。米国から見て、インドの市場が どれほど確保されるかだけでなく、貿易 によって防衛パートナーシップがどれだ け深められるかが判断材料となる。一方 インドからすると、どれだけ技術移転が されたか、どれだけ現地生産されたか、 インドの産業育成をどれだけ米国は支援 したかが判断基準となる。対応として、 両国にそれぞれ1 名の代表を立て、相互 に防衛装備品の貿易の優先順位をつけさ せることだ。インドが必要しているもの を両国は議論し、米国はインドに対する 戦略を見直すべきだ。 政策的な課題として、パキスタンへの 米国武器輸出や、両国が積極的に活動し たことが結果として防衛関係に影響を与 える、といった事がある。対応として、 技術移転について米国は一貫した、信頼 性のある決定をすべきだ。

工業会活動 - sjac.or.jp · DDTC(Directorate of Defense Trade Controls) 所属のDeputy Director of LicensingのTerry L.Davis

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工業会活動

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米国航空宇宙工業会(AIA)国際委員会に参加して平成24年10月24日から26日に米国ジョージア州サバンナにて、米国航空宇宙工業会国際委員会が開催された。参加者は、米国政府、企業、海外工業会などから総勢54名で、海外からはカナダ航空宇宙工業会とSJACが招待された。この会議は、海外市場の動向、今後の航空産業の見通し、米国輸出管理の改革などのトピックについて、業界、政府、メディアなどが意見交換する、というものである。トピックの中から、インド市場の動向、防衛装備品の市場予測、米国輸出管理の改革について、以下に報告する。

1.米-印 防衛装備品の貿易についてシンクタンクCenter for Strategic & International

Studyの客員研究員Dr. Amer Latif氏が「米-印 防衛装備品の貿易・パートナーシップの深化と機会」と題する講演を行った。

2001年9.11直後にインドに対する米国の経済制裁が解除され、防衛分野における協力関係が構築され始めた。アフガニスタン、海上安全保障、中国の軍備拡張、自然災害への対応などを共通のテーマとして、それぞれの関心に応じて防衛関係を緊密化させた。そして、両国は防衛対話を拡大するとともに、防衛装備品の貿易を増やした。2000年代半ばから輸送機、海上偵察機、特殊武器、地上レーダ、水陸両用艇などを米国がインドに輸出した。2011年に、インドは米国からの武器購入国の中で第3位であり、45億ドルの契約高をあげている。しかし、2011年4月にインド政府がマルチロール戦闘機 (MRCA)を米国企業に発注しないことを決めたため、防衛装備品の売買、技術移転・オフセットの実行、インド政府が所有する企業との取引など今後のビジネスに懸念が生じている。防衛装備品の売買には、担当者同士の信頼、売買の仕組みや役所の仕組みの理解、インターオペラビリティや両国で使用可能な武器の共同開発などの協力が必要になる。防衛装備品の貿易を深めることはアジア太平洋地域

の安定をもたらし、災害援助、人権保護、反海賊行為、平和維持などを通して、共通の利益のために共同活動することが出来る。米印両国の深い絆は北京政府に対し、アジアのすべての国が国際的な行動規範を支持するというワシントンとニューデリーのコミットを発信するものであるが、近い将来こういった状態になるとも思えない。以下に5つの懸案事項とその対処について述べる。①  戦略的課題は、現在でなく将来の貿易にある。米国から見て、インドの市場がどれほど確保されるかだけでなく、貿易によって防衛パートナーシップがどれだけ深められるかが判断材料となる。一方インドからすると、どれだけ技術移転がされたか、どれだけ現地生産されたか、インドの産業育成をどれだけ米国は支援したかが判断基準となる。対応として、両国にそれぞれ1名の代表を立て、相互に防衛装備品の貿易の優先順位をつけさせることだ。インドが必要しているものを両国は議論し、米国はインドに対する戦略を見直すべきだ。②  政策的な課題として、パキスタンへの米国武器輸出や、両国が積極的に活動したことが結果として防衛関係に影響を与える、といった事がある。対応として、技術移転について米国は一貫した、信頼性のある決定をすべきだ。

平成24年12月  第708号

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③  手続きや技術的な課題は、両国の武器売買、技術移転、オフセットや防衛協定などに関係する。対応として、マクロには、両国は米国のFMSをインドの購入手続きに合わせて調整する努力をすべきだ。両国は、ライセンスや技術移転についての意見を集約するべきだ。インドは、オフセットで米国から引き出したいものを明瞭にすべきだ。またインドのインフラなど間接的な面も考慮されるべきだ。海外直接投資について、インドは米国企業へのインセンティブとして、海外投資比率を50%以上に上げるべきだ。④  官僚機構の課題は、防衛装備品の貿易の決定や実行がいかに行われるかの理解が相互に不足している点だ。米国高官はインド政府の不透明な態度に当惑させられ、インド市場への透明性に不信感を募らせている。一方、インド高官は、技術転移について何度も米国に質問するが、FMSプログラムを通して、どうやってそれができるのか見えない。対応として、

両国高官は透明性や予測性を高める努力をすべきだ。米国はもっとインドの要求を考慮するべきだし、インドは契約変更などの迅速化のため、ルーチンワークを改善すべきだ。⑤  コミュニケーションの課題は、米印両国は限られた社会で、興味ある人たちとしか話をしないことが、動機づけ、政策面で誤った方向に導く。対応として、米国側にはインドの広範な人とのコミュニケーションを求めたい。また、インド側は防衛購入品の優先順位を公表すべきだ。

2.防衛装備品市場の予測についてTeal Group社のVP, Analysis Richard Aboulafia氏が「防衛装備品の国際市場に関する考察」と題した講演を行った。米国国防省の投資の実績と見通しを、機器調達(Procurement)、研究開発(RDT&E)、オーバーホール・修理(O&M)別に示した図1を参照されたい。オーバーホール・修理は2010年の

図1 米国国防省の投資

工業会活動

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2,930億ドルをピークに毎年減り続け、7年後の2017年には2,200億ドルと730億ドルの減少を予想している。この原因は、Sequestration*1

と呼ばれる米国全体の国家予算削減および国防省への追加削減要求から来るものである。なお、2012年の予算の内訳で、オーバーホール・修理が2,840億ドルで、全体の4,770億ドルのうち60%を占め、ここに大きな削減余地があると見られている。一方、機器調達は修理・オーバーホールに続く予算規模で、2008年がピークの1,650億ドルだが、2013年には漸減し1,085億ドルなり、その後はイランへの対抗措置として微増すると予測している。研究費はここ10年間横ばいで、700億ドル前後の規模である。

*1  Sequestration:米国連邦政府は2011年8月に財政破綻する瀬戸際に追い込まれた。しかし、財政再建策について議会の承認が得られなかったため、2013年1月2日から連邦予算を一律10%カットする計画である。これを米国ではSequestrationと呼んでいる。国防費もこの対象で、10%カットに加え、10年で更に5,000億ドルの削減を求められている。

一方、世界の戦闘機の生産では、図2に示すように2015年以降、F35の生産・配備が急ピッチで進み、現在米国が保有している機種F15、F16、FA18などが置き換えられて行くだけでなく、世界的にF35が使われ、2021年には世界全体の約75%を占めることを示した。

3.米国輸出管理の改革DDTC(Directorate of Defense Trade Controls)所属のDeputy Director of LicensingのTerry L.Davis氏が、「防衛装備品の輸出の最新動向」と題した講演を行った。防衛装備品輸出に関するライセンス(許可)決定までに、2006年には43日を要していたが、2008年に16.5日と改善され、2012年には18.5日と顕著な遅れがないことを示した。また、米国の国際武器取引規制ITAR(International Traffic in Arms Regulations)に該当するかどうかの判定には2006年に196日を要していたが、2012年には46日へと大きく改善している。これらは、組織的な人員強化などによって達成できたと説明した。

図2 戦闘機の製造割合

平成24年12月  第708号

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今後の取り組みとして、防衛におけるサービス分野、メインテナンスのレベルなどを新たに定義すること、民生部品を組み込んだ武器の取り扱い、交換部品を除外項目とすること、技術及び技術分野への共通な定義、ライセンス書式の一元化、米国政府プログラムによるライセンスの扱い、TAA(Trade Agreement Act)に調印している海外の国から最終ユーザーを示すサインをもらうことの取りやめ、などを挙げた。米国輸出管理システムの改善は継続してお

り、今後米国の輸出管理システムに如何なる変更があろうとも、武器輸出管理法(AECA:Arms Export Control Act)によってアフガンやスリランカなどへの輸出は禁じられていること、などは不変である。また、米国の国家安全保障がリトマス試験紙として使われることに変わりない。そして、どんな変更でも現在の仕組みに影響を与えるが、その変更が改善につながるようにすることは全員の責任だ、と締めくくった。

4.所感米国とインドの防衛関係についてあまり知

識を得る機会がなかったが、今回その実態の一部を伺うことが出来た。9.11テロ以降に米

国が急接近したことから改善が進んだが、インドの戦闘機選定では技術移転や現地生産などインド側の要求が高く、米国からの輸出はまとまらず、フランスのRafaleに決まった。国防産業の育成の観点から、技術移転やオフセット、海外からの投資など、武器購入に絡んで多面的にインド政府が要求していることが伺える。日本が戦闘機などを購入する場合もこの議論はあるが、一歩先を見て、武器3原則が緩和され武器輸出が可能になった場合、こういった案件が相手国との大きな交渉条件になるので、いろいろな機会を通じて情報を得る必要がある。米国の輸出管理システムの改革は、ライセンスの決定やITAR該当品の特定などで処理日数が減っていることが示され、順調に改革が進んでいるとの印象を受けた。一方で、米国のコンサルタントは、民生部品を使った武器などの扱いは、複雑な事務処理を行う計画があると述べ、この内容が実行されれば、処理日数は悪くなるとの情報を聞いた。限定した武器やシステムはハードルを高くし、そうでないものは低くするといった方向で改革が進んでいると聞いているが、これからどう進んで行くか見守る必要がある。