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90 目 次 第1部 インターネットと知的財産に関する諸問題(個別報告) サイバーエンターテイメントの 国際私法的問題 朴 眞雅 * * 韓国・梨花女子大学校法科大学專任講師 Ⅰ.序論 .サイバーエンターテイメントの法的問題の 一般 1.サイバーエンターテイメントの概念・特 徴及び類型 2.サイバーエンターテイメントの特徴によ る法的問題 A.一般 B.サイバーエンターテイメントの無国境 性による法的問題 C.サイバーエンターテイメントの受用者 の参与性による法的問題 D.サイバーエンターテイメントの約款の 契約性による法的問題 E.サイバーエンターテイメントのその他 の特徴に関する法的問題 .サイバーエンターテイメント紛争の国際裁 判管轄 1.一般 2.裁判管轄の合意がある場合 A.当事者自治の認定可否 B.サービス提供者と受用者の間の紛争 C.受用者間の紛争 3.裁判管轄の合意がない場合 A.実質的な関連原則 B.不法行為紛争の場合 C.契約紛争の場合 ⑴ サービス提供者と受用者の間の紛争 ⑵ 受用者相互間の紛争 D.サイバー知的財産紛争の場合 4.小結 Ⅳ.サイバーエンターテイメント紛争の準拠法 1.一般 2.準拠法合意がある場合 A.当事者自治の認定可否 B.サービス提供者と受用者の間の準拠法 合意 C.受用者間の準拠法合意 2.準拠法合意がない場合 A.最密関連国法(最密接関連国法)の原 B.契約紛争の場合 ⑴ サービス提供者と受用者の間の紛争 の準拠法 ⑵ 受用者相互間の紛争の準拠法 C.不法行為紛争の場合 D.サイバー知的財産紛争の準拠法 3.小結 .サイバーエンターテイメント紛争のADRに よる解決 1.サイバー紛争のADRによる解決 2.サイバー知的財産権紛争のADRによる解 3.サイバーエンターテイメントの紛争解決 機構の創設の必要性 4.小結 Ⅵ.結論

サイバーエンターテイメントの 国際私法的問題win-cls.sakura.ne.jp/pdf/19/11.pdf · 91 I.序論 Web2.0時代の最大の特徴は,オンライン・ コンテンツの利用者がプロシューマーとしての

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目 次

第1部 インターネットと知的財産に関する諸問題(個別報告)

サイバーエンターテイメントの 国際私法的問題

朴 眞雅*

* 韓国・梨花女子大学校法科大学專任講師

Ⅰ.序論

Ⅱ�.サイバーエンターテイメントの法的問題の一般

 1.サイバーエンターテイメントの概念・特徴及び類型

 2.サイバーエンターテイメントの特徴による法的問題

  A.一般  B.サイバーエンターテイメントの無国境

性による法的問題  C.サイバーエンターテイメントの受用者

の参与性による法的問題  D.サイバーエンターテイメントの約款の

契約性による法的問題  E.サイバーエンターテイメントのその他

の特徴に関する法的問題

Ⅲ�.サイバーエンターテイメント紛争の国際裁判管轄

 1.一般 2.裁判管轄の合意がある場合  A.当事者自治の認定可否  B.サービス提供者と受用者の間の紛争  C.受用者間の紛争 3.裁判管轄の合意がない場合  A.実質的な関連原則  B.不法行為紛争の場合  C.契約紛争の場合   ⑴ サービス提供者と受用者の間の紛争   ⑵ 受用者相互間の紛争

  D.サイバー知的財産紛争の場合 4.小結

Ⅳ.サイバーエンターテイメント紛争の準拠法 1.一般 2.準拠法合意がある場合  A.当事者自治の認定可否  B.サービス提供者と受用者の間の準拠法

合意  C.受用者間の準拠法合意 2.準拠法合意がない場合  A.最密関連国法(最密接関連国法)の原

則  B.契約紛争の場合   ⑴ サービス提供者と受用者の間の紛争

の準拠法   ⑵ 受用者相互間の紛争の準拠法  C.不法行為紛争の場合  D.サイバー知的財産紛争の準拠法 3.小結

Ⅴ�.サイバーエンターテイメント紛争のADRによる解決

 1.サイバー紛争のADRによる解決 2.サイバー知的財産権紛争のADRによる解

決 3.サイバーエンターテイメントの紛争解決

機構の創設の必要性 4.小結 Ⅵ.結論

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I.序論

 Web2.0時代の最大の特徴は,オンライン・コンテンツの利用者がプロシューマーとしての利用者でありながら,同時にコンテンツの提供者としての地位も持つようになっている点である。このような特徴は,エンターテイメントのデジタル化によって,エンターテイメントの領域においても同じように現われる。世界的に人気を博している仮想生活のコミュニティ・サービスであるセカンド・ライフや,世界的な人気があるユーチューブ等のように,利用者製作のコンテンツ(UCC)サービスの場合が代表的であると言えるが,これらにおいては利用者が同時にエンターテイメントのコンテンツの提供も行っている。 このように,セカンド・ライフと同じく,仮想体験を「誰でも・いつでも・どこでも」可能にするエンターテイメントが登場している一方で1,エンターテイメントをデジタルの形態で製作,保存,加工及び伝送することができるサイバーエンターテイメントの市場がますます大きくなり,国際化されていく中で多くの法的問題を引き起こしている。しかし,このような新たな社会現象としてのサイバー空間のエンターテイメントは,現実空間のエンターテイメントとは大きな差があるため,現実のエンターテイメントに対する法的基準を同じように適用することはできない。したがって,サイバーエンターテイメントに対する適切な法的検討が必要であり,特に,このような法的問題の中でも国境がない空間上で起きるという特徴に起因した法的問題が中心となっており,この点に焦点を当てた検討が必要である。 したがって,本稿では,先ずサイバーエンターテイメントの法的問題の一般を整理した後,サイバーエンターテイメントの国際私法の問題として国際裁判管轄と準拠法,ADRによる紛争解決に対して検討するようにする2。

Ⅱ.サイバーエンターテイメントの法的問題の一般

1.サイバーエンターテイメントの概念,特徴及び類型

 エンターテイメントは,人の余暇時間の間に行われる活動で,人に楽しさや興味要素を提供して人の心理を楽しませ,気分転換をさせるサービスのことを言い3,サイバーエンターテイメントと言うのは,インターネット等の仮想空間で提供されるエンターテイメントのことを言う。従来は,オンラインサービス提供者

(OSP)等がデジタル・コンテンツをオンラインで提供するのが主なことであったが,今日では,利用者が主体となってデジタル・コンテンツを創作するだけでなく,セカンド・ライフ等で見られるように,利用者がサイバー空間上で相互に楽しめるサービスとして進化している。 サイバーエンターテイメントの当事者は,エンターテイメントをオンライン上で提供するOSPとエンターテイメントのコンテンツを提供するコンテンツ提供者(CP),それにOSPのサイトに接続し,これを見て楽しむ利用者

(User)とに分けられる。しかし,今日のサイバーエンターテイメントにおいては,利用者は単純な観客ないし利用者に止まらず,そのエンターテイメントに参加し,さらに自分もコンテンツを製作して提供する,すなわちUCCを提供する場合が増えているので,これを受用者

((Recipient-User)4と称するのが妥当であろう。 サイバーエンターテイメントは,ジャンル

(提供の内容物)によってインターネット音楽サービス,インターネット動画像・映画,インターネット小説・マンガサービス,インターネットゲーム・スポーツサービス,サイバーコミュニティサービスに分けられる。なお,エンターテイメントの性格・目的により,娯楽性エンターテイメントと機能性エンターテイメント5に分けられる。

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2.サイバーエンターテイメントの特徴による法的問題

A.一般 サイバーエンターテイメントの法的問題を検討するにあたり,サイバーエンターテイメントが既存のエンターテイメントと対比される特徴を考察し,これに起因した法的問題点等を検討することにする。以下では,サイバーエンターテイメントの無国境性,受用者参加性6,約款の契約性及びその他の特徴を中心にサイバーエンターテイメントの法的問題を検討する。B.サイバーエンターテイメントの無国境性による法的問題

 現実のエンターテイメントは場所的な制約によって特定の国内で公演や放送等を通じて提供されることに比べ,サイバーエンターテイメントは,サイバースペースの無国境性により,世界のどこにおいてもリアルタイムで提供されることができるという特徴がある。このような無国境性は,場所が法的判断の基準になる場合には基準を決めることができない問題が生ずる。 サイバーエンターテイメント紛争に関しては,約款に規定を置くことで問題を解決することができるであろうが,その約款規定の効力の限界と,約款に何らの規定を置いていない場合の処理方法が問題になる。仮に,受用者が現実空間の裁判所に訴えを提起する状況を仮定すれば,どこの国の裁判所でどこの国の法を適用して紛争を解決するかと係わり,連結点としての場所が基準になる。しかし,サイバー空間では場所が無意味であるから現実空間に関する理論を適用し難いという問題がある。また,サイバー上の紛争解決方法によって下された判断の現実の空間における承認・執行の可否も問題になる。これは,いわゆるサイバーエンターテイメントの国際私法上の問題として,その具体的な内容は以下で詳しく検討する。C.サイバーエンターテイメントの受用者の参与性による法的問題

 セカンド・ライフ約款3.3条は,リンデン・ラボ(LindenLab)は,利用者が生成し,または

他に保有する知的財産権とは無関係に,アカウント及び関連データに対する権利を保有すると規定している。利用者は,サービス利用の際に生成したコンテンツと係わる特定の著作権又はその他の知的財産権を保有することができるが,サービスに接続するために使うアカウントを所有せず,リンデン・ラボサーバー上で(利用者コンテンツの一部又は全部を表現するか具体化するデータを含む)リンデン・ラボが保存しているデータに対する権利も保有せず,利用者の知的財産権は,サービスに接続する権利を付与するのではなく,リンデン・ラボを代表し,あるいはリンデン・ラボによって保存されたデータに対する権利を付与するものでもないと規定している7。換言すれば,セカンド・ライフ内に存在するサイバー物に対する所有権はリンデン・ラボにあることを規定しており,その有効性が問題になっている。 このように受用者が製作するコンテンツが増加することで実体法上の問題として「サイバー有形財産(virtual tangibleproperty)」に対する所有権認定の問題8と「サイバー知的財産(cy-ber intellectualproperty)」の認定基準が問題となり9,このようなサイバー物権とサイバー知的財産権を認める場合,その権利帰属が問題になる。 また,サイバーエンターテイメントの取引を巡る問題がある。例えば,ユーチューブとUCCを提供する者の間の利用者コンテンツ提供契約の法的性格を明らかにし,当事者間の権利義務を明確にすることが必要であろう10。 一方,セカンド・ライフのような仮想体験のオンラインゲームにおいては,利用者間の不法行為の類型とその制裁が問題になる。セカンド・ライフの場合は,不法行為の類型として,侮辱・名誉毀損,セクハラ(Harassment),プライバシー(privacy)侵害,安穏妨害(Distur-bingthePeace),暴行(Assault),性的(淫乱)低級行為(Indecency)等が挙げられ,これに関するセカンド・ライフの利用約款では,利用者が上記のような不法行為をする場合,アカウ

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ントを即時に永久停止又は取消すことができるとしている。このようなサイバー空間での不法行為について,サービスの運営者による措置と現実裁判所による措置との関係も問題になる。D.サイバーエンターテイメントの約款の契約性による法的問題

 セカンド・ライフのようなサイバーエンターテイメントを利用するサービス提供者と利用者の間の取引は,その法的性格を,サービス利用契約又はコミュニティ会員の資格取得契約とする場合もあるが11,これは,一方が不特定多数の者を相手とし,予め決められた契約条件を提示するいわゆる約款取引にあたるものである12。 セカンド・ライフの約款においては,サイバー上で該当の物を構成し,または実現するデータはリンデン・ラボに帰属し,その物に対するサイバー知的財産権は受用者の所有と認められるが,リンデン・ラボに全世界的かつ無償の通常実施権を許容するように規定している。したがって,このような約款の有効性が問題となり,これに関する紛争の解決に係わる裁判管轄と準拠法合意の有効性も当然に問題となる。このようなセカンド・ライフの約款等の不公正条項に対する規制可能性とその限界を検討する必要がある。E.サイバーエンターテイメントの他の特徴に関する法的問題

 その他,サイバーエンターテイメントの非公然性13,時空間の移動性(timeshifting・placeshifting)も含めて,反復可能性14,受用者の選択可能性・多様性,非對面性,心酔性・中毒性という特徴に由来する法的問題等がある。

Ⅲ.サイバーエンターテイメント紛争の国際裁判管轄

1.一般 国際裁判管轄においては,国際裁判管轄の合意に関する当事者自治の認否と,裁判管轄に関する合意がない場合にどのように国際裁判管轄を決めるかが問題になる。サイバーエンターテ

イメントにおいて,セカンド・ライフの場合を例に挙げれば,直接にアメリカのセカンド・ライフに加入した場合と,韓国等の現地においてセカンド・ライフに対する事業権を持っているセーラコリア等の現地のサービス提供者に加入する場合とで分けられることになるが,国際的紛争は前者の場合において多く生ずることであるといえるため,本稿では前者の場合に関してのみ考察することにする。 以下では,サイバーエンターテイメント紛争を,大きく国際裁判管轄の合意がある場合と合意がない場合とで区分し,更に,それぞれの場合を,ⅰサービス提供者と受用者との間の紛争と,ⅱ受用者間の紛争とに分けて国際裁判管轄問題を検討する。

2.裁判管轄合意がある場合A.当事者自治の認否

 先ず,当事者間に国際裁判管轄合意がある場合である。例えば,セカンド・ライフの利用約款7.2条には,次のような専属的裁判管轄の合意条項が置かれている。すなわち,「受用者とリンデン・ラボは,カリフォルニアのサンフランシスコ市と邦に位置する州裁判所に専属的裁判管轄を認めることに同意する。ただし,7.3条の仲裁合意がある場合にはその限りでない。本合意にかかわらず,受用者は,リンデン・ラボが裁判管轄のある他の裁判所に禁止その他の衡平法上の救済を請求することに同意する(7.2Fo-rumforDisputes.YouandLindenLabagreetosubmittotheexclusivejurisdictionandve-nue of the courts located in theCity andCountyofSanFrancisco,California,exceptasprovided inSubsection7.3belowregardingoptionalarbitration.Notwithstandingthis,youagreethatLindenLabshallstillbeallowedtoapplyforinjunctiveorotherequitablereliefinanycourtofcompetentjurisdiction)。」 一方,ユーチューブの利用約款第14条は,利用者は,ⅰYouTubeのウェブサイトは,カリフォルニアにのみ本拠があるものとみなされる

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こと,及びⅱYouTubeのウェブサイトは,特別であれ一般的であれ,カリフォルニア州以外の法域においてYouTubeに対する人的管轄権を生じさせない受動型のウェブサイトであるとみなされることに同意する(Youagreethat:(i)theYouTubeWebsiteshallbedeemedsolelybased inCalifornia; and(ii) theYouTubeWebsite shallbedeemedapassivewebsitethatdoesnotgiverisetopersonaljurisdictionoverYouTube,eitherspecificorgeneral, injurisdictionsotherthanCalifornia)と規定する。 このようなセカンド・ライフ又はユーチューブの裁判管轄合意条項の有効性を検討する。 まず,裁判管轄に関する国際条約に関し,1999年のハーグ予備草案15や2005年のハーグ合意管轄条約16は,専属的裁判管轄合意条項を原則的に有効であるとしている。 アメリカでは,周知のように裁判管轄合意の有効性がアメリカ連邦最高裁判所のZapata判決によって確立された17。1999年に制定されたコンピューター情報取引を規律する統一コンピューター情報取引法は,公序良俗違反18,非良心的(unconscionable)な裁判管轄合意条項19,不合理かつ不当な(unreasonableandunjust)裁判管轄合意条項20にあたらない限り,専属的裁判管轄合意の効力を認めている。アメリカ法律協会が提案した国際知的財産訴訟に関する原則(ALI原則)21の第202条1項も,裁判管轄合意の有効性を原則的に認めている。 韓国国際私法は,消費者契約について事後の合意や付加的裁判管轄合意を許容する規定を置いている22。問題は専属的裁判管轄合意が認められるかであるが,韓国の最高裁判所は,日本の判例とは異なり,専属的管轄合意の有効要件として,①当該事件が韓国裁判所の専属管轄に属しないこと,②指定された外国裁判所がその外国法上当該事件に対して管轄権を持つこと,③当該事件がその外国裁判所に対して合理的な関連性を持つこと,④その管轄合意が著しく不合理で不公正ではないことの四つの要件を要求している23。しかし,三つ目の要件である内国

関連性の要件に関しては不当であるとの批判を受けている。 裁判管轄合意が約款の形態で成立した場合には,その有効性を認めるべきか否かの検討が必要である。これに関して,アメリカ連邦最高裁判所は,クルーズ約款上の裁判管轄条項の有効性を肯定したことがある24。ALI原則は,裁判管轄合意の原則的な有効性を規定しつつ,但し,消費者と事業者間に適用される大衆市場契約上の管轄合意については合理的であることを要求している25。当該約款条項に接することができ,事後的にも参照しうるものでなければならないとしている。もし,当事者間の合意が裁判管轄指定を含む他の文書に言及するか,または言及することによってこれを合意に含ませようとする場合,ALI原則は裁判所選択条項の接近容易性を要求する26。最近,セカンド・ライフの約款に含まれた仲裁合意条項の有効性に関して,相互協議による契約条件ではなく,一方的に作成された約款による条項であるため,非良心的であり,強制不可能であるとしたアメリカの判例がある27。 韓国約款規制法第14条は顧客に不当に不利な裁判管轄合意約款を無効にする。韓国の公正取引委員会は,民事訴訟法上の管轄規定よりも顧客に不利な専属的裁判管轄合意約款は無効という立場を取っており,判例も同じ立場である。付加的な管轄合意約款の場合にも,顧客に不利益が生じるか否かによりその有効性を判断する。韓国約款規制法第14条は,国内裁判管轄合意のみならず国際裁判管轄合意にも適用される28。B.サービス提供者と受用者の間の紛争

 以上で検討したように,セカンド・ライフの約款は,運営者と受用者の間の紛争についてはカリフォルニア裁判所に専属管轄があることを規定している。セカンド・ライフに関する住所地国を異にするサービス提供者と会員の間の紛争について,アメリカの裁判所以外の裁判所に訴えが提起された場合を考えてみると,先ずその国の裁判所でセカンド・ライフの裁判管轄約款を有効に扱っているか否かが問題になる。裁

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判管轄においては基本的に当事者自治の原則が妥当し,特にセカンド・ライフという仮想生活のコミュニティの特性上,統一された団体法

(シンプレックス法)の適用が必要であるという点で,セカンド・ライフの約款上の裁判管轄条項の有効性を原則的に認めなければならないという主張も可能であろう。しかし,韓国では,国際私法上消費者に不利な裁判管轄合意は無効であり,約款規制法上も顧客に不当に不利な裁判管轄約款を無効と規定しており,その限度内では無効とするはずなので,韓国にいる受用者にカリフォルニアの裁判所の管轄に従わせることを強制する同約款は,少なくとも韓国では無効であると解釈されよう。C.受用者間の紛争

 セカンド・ライフの約款では,運営者と受用者の間の紛争に対しては裁判管轄に関する規定を置いているが,受用者相互間の紛争に関しては何ら規定を設けていない。サービス提供者と受用者の間の紛争に適用される裁判管轄約款は,受用者間の紛争には適用されないと言えよう。受用者相互間に関しては,裁判管轄合意がない場合には,以下での議論が妥当するであろう。

3.裁判管轄合意がない場合A.実質的関連原則

 裁判管轄合意がない場合の裁判管轄決定の一般原則としては,実質的関連の原則が挙げられる。ハーグ予備草案第18条は実質的関連の原則を規定しており,アメリカの判例は周知のように最小限度の接触の原則を採択しているところ,ALI原則では直接的に実質的関連の原則を規定しないが,第207条は不十分な管轄原因を規定することで間接的に実質的関連性を要求している29。韓国国際私法第2条も実質的関連の原則を規定している。 しかし,セカンド・ライフのような仮想空間で作り出された創作物の仮想空間内での利用に関わる紛争は,非属地的な性格を有しており,裁判管轄の基礎となる実質的な関連性を有する場所を決め難い。セカンド・ライフ上の紛争が

どこと実質的関連があるか否かにつき,不法行為紛争,契約紛争,知的財産紛争のような紛争の類型に分けて検討する。B.不法行為紛争の場合

 現実空間での名誉毀損紛争の場合,実質的関連の原則によれば,加害者の所在地に一般管轄が認められ,損害発生地に特別管轄が認められることができよう。しかし,このような原則をサイバー不法行為に適用するとすれば,すべての国に対し,その国で発生した損害に対する管轄を認める結果になり得る。このような問題に対する解決策として,サイバー紛争の場合には,個別の国に特別管轄を認めるにあたり,被害者の住所地に対しては実質的関連性を広く認めるべきであろうが,それ以外の国に対しては実質的関連性を厳格に解釈すべきであり,また,実質的関連の原則により,被告の所在地国のほか,サービス提供者の所在地国においても提訴が可能であるとすべきであろう30。しかし,名誉毀損という不法行為が生じる場所はセカンド・ライフという場所を特定することができない仮想空間であるため,このような方法は,根本的な解決にはならないように思われる。C.契約紛争の場合

 ⑴ サービス提供者と受用者の間の紛争 既に述べたセカンド・ライフの利用約款によれば,リンデン・ラボは,利用者がセカンド・ライフの内で創作したサイバー物を具現する資料に対する所有権を有している。では,このような約款条項の有効性を争う紛争はどこの裁判所で扱われるのか。まず,サービス提供者と受用者の間の契約紛争に関して,これを利用契約とすれば,利用を許諾するサービス提供者の住所地も実質的関連を有するとされる。しかし,異なる国に所在するサービス提供者の住所地で裁判をするという不便から受用者を保護するため,受用者の住所地に裁判管轄を認めることも考慮することができよう。韓国国際私法第27条は,消費者が職業又は営業活動以外の目的で締結する契約は, i )消費者の相手方が契約締結に先立ちその国で広告による取引の勧誘等の職

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業又は営業活動を行うか,または,その国以外の地域でその国における広告による取引の勧誘等の職業又は営業活動を行い,消費者がその国で契約締結に必要な行為をした場合,ii)消費者の相手がその国で消費者の注文を受けた場合,iii)消費者の相手方が,消費者を外国へ行って注文をするように誘導した場合のうちのいずれか一つに該当する場合には,当事者が準拠法を選択しても,消費者の常居所地国の強行規定によって消費者に付与される保護を奪うことはできず(第1項),そのような契約の場合に,消費者は,常居所地国でも相手に対する訴えを提起することができ(第4項),また,消費者の相手方が消費者に対して提起する訴えは,消費者の常居所地国にのみ提起され得ると規定する(第5項)。このような韓国国際私法と同様の消費者保護規定がないとしても,消費者保護のために受用者の住所地の裁判管轄を認めることができよう。 ⑵ 受用者相互間の紛争 受用者間の契約紛争で当事者間に紛争解決の合意がない場合には,紛争と実質的関連がある場所に裁判管轄が認められる。したがって,受用者の一方が現実空間の裁判所に訴えを提起する場合には,紛争と実質的関連がある場所はどこであるかが問題になる。しかし,サイバー空間は場所を決めることができない空間であるため,現実空間の法を適用し難いという問題が生じる。 このため,実質的関連性を判断するにあたり,受用者相互間の契約紛争に関しては,一般原則によって被告の所在地に裁判管轄を認めるほか,受用者双方と関連を有するサービス提供者の所在地に裁判管轄を認める方法が提示される。しかし,その限界については不法行為の紛争で検討したのと同じのことがあてはまる。D.サイバー知的財産紛争の場合

 まず,現実の知的財産紛争の裁判管轄を見ると,ハーグ予備草案は,権利の発生に登録と寄託を要求する知的財産権,すなわち登録知的財産権の成立・有効性等に関する訴訟は,その権

利が登録された国の裁判所の専属管轄に服すると規定するが,著作権・著作隣接権等の非登録知的財産権についてはこのような登録知的財産権に対する専属管轄規定は適用されず,また,このような専属管轄規定は,登録知的財産権の成立・有効性等に対する判断が主要な問題である場合には適用されるが,先決問題として判断される場合には適用されないとしている31。 ALI原則第204条は,知的財産権侵害訴訟の裁判管轄に関して法廷地に住所を有しない被告の侵害行為に対する管轄規定であり,被告が問題となった侵害を開始し,または進行するために実質的に行為をしたか,もしくは実質的な準備行為を行なった国の裁判所に全面的な管轄権を付与し,その被害がどこで生じたかに関わらず,問題となった侵害に関するその国内での行為により発生した全被害に関する請求に管轄が及ぶとしている。また,被告が特定国を志向して侵害行為をした場合には,その国に管轄を認めるが,この場合にはその国で発生した損害に限って管轄を有すると規定している(2項)。 ALI原則第205条は,知的財産権の譲渡又は使用許諾契約の違反に関する訴えは,その権利の利用地国が管轄を有すると規定する一方で,複数の国で利用される権利に関しては,それぞれの国で,その国が付与する権利に対してのみ管轄を有すると規定している。 サイバー知的財産紛争の裁判管轄に関しても,現実の登録知的財産権の成立有効性の紛争の専属管轄の認定の可否,知的財産権侵害訴訟と契約関連訴訟の特別管轄の認定の可否といった問題があるが,この場合にも実質的関連の原則に服させることになろう。無国境性を特徴とするサイバー空間に対し,どこに実質的関連があるかを明らかにすることは容易ではないが,被告の有形財産や知的財産権の所在,または被告の活動に直接的に関連する場所は,実質的関連があるとしなければならないであろう。しかし,セカンド・ライフと同様に,仮想空間で作られて存在する知的財産権を仮想空間で侵害する行為に対しては,どの場所に実質的関連性がある

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とするのかは依然として困難な問題である。

4.小結 サイバーエンターテイメント紛争は,無国境性を特徴とするサイバーエンターテイメントの特性上,多くの場合に国際的な紛争となる。殆どのサービス提供者が,自らの所在地の裁判所で提訴するとする国際裁判管轄条項を有しているが,このような管轄合意は,その不公正性により,原則としてその有効性が否認される。しかし,管轄合意の有効性を否認する場合,結局は紛争と実質的関連がある場所を探して裁判管轄を決めなければならないことになるが,その際は無国境性を特徴とするサイバー空間に対して実質的関連のある場所を見つけ出すことは難しいという問題が生じる。 以上のように,セカンド・ライフ上の紛争と実質的関連がある場所を決めることは容易でないため,原則的には属人主義的なアプローチを採るほかないであろう。したがって,原則的には受用者の住所地に実質的関連があると見ることになるが,例外的な事情,例えばサービス提供者が使用する言語で利用する等,サービス提供者の住所地に実質的関連があるとする場合もあろう。

Ⅳ.サイバーエンターテイメント紛争の準拠法

1.一般 サイバーエンターテイメント紛争の準拠法問題においては,まず,準拠法合意に関して当事者自治が認められるか否か,そして,合意がない場合に,場所の特定が困難なサイバースペース紛争においていかに準拠法を決めるかが問題になる。以下では,サイバーエンターテイメント紛争の国際裁判管轄問題において検討したように,サイバーエンターテイメント紛争における準拠法合意がある場合とない場合とで区分し,さらに,それぞれの場合をⅰサービス提供者と受用者の間の紛争,及びⅱ受用者間の紛争とに

分けて,準拠法問題を考察することにする。

2.準拠法合意がある場合A.当事者自治の可否

 準拠法選択においても裁判管轄合意と同じく当事者自治の原則が一般的に認められている32。韓国国際私法第25条本文は,「当事者自治の原則」を採用し,当事者が選択した法(主観的準拠法)につき,明示的な選択だけではなく,黙示的な選択をも許容している。ただし,黙示的選択が不当に拡張されることを防止するために,黙示的選択は契約内容その他すべての事情から合理的に認められることができる場合に限るとしている(第25条但書)。また,韓国国際私法は,準拠法選択に関する当事者の合意(準拠法指定契約)の成立と有効性に関する準拠法に対しても当事者自治の原則が適用されることを明らかにしている。しかし,消費者と労働者保護のための特則が存在する(第27条,第28条)33。 約款による準拠法合意の効力に関しても,上記の裁判管轄合意約款におけるのと同様の問題がある。国際裁判管轄の合意は受用者に大きな負担となりうるため,可能な限り許容しないとする立場であるが,これに比べ,サービス提供者と受用者の間の準拠法合意については当事者自治の原則により許容しても構わないであろう34。B.サービス提供者と受用者の間の準拠法合意

 セカンド・ライフの約款7.1条は,受用者とリンデン・ラボとの間の合意及び法律関係に関しては,国際私法の諸原則,またはUN物品売買条約にかかわらず,あらゆる面でカリフォルニア州法が適用されると規定している(7.1[GoverningLaw]ThisAgreementandthere-lationshipbetweenyouandLindenLabshallbegovernedinallrespectsbythelawsoftheStateofCaliforniawithoutregardtoconflictoflawprinciplesortheUnitedNationsConventi-onontheInternationalSaleofGoods)。 一方,ユーチューブの約款第14条では,本約款は国際私法の諸原則にかかわらず,カリフォ

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ルニア州の内国実質法の適用を受けると規定され て い る(TheseTermsofServiceshallbegovernedbythe internalsubstantive lawsoftheStateofCalifornia,withoutrespecttoitsconflictoflawsprinciples)。 セカンド・ライフ,またはユーチューブのサービス提供者と,住所地国を異にする会員との間の紛争について,サービス提供者の準拠法約款の効力が有効に認められるかが問題となる。サイバーエンターテイメント紛争の特性,とりわけセカンド・ライフという仮想生活のコミュニティの特性上,統一されたシンプレックス法の適用が必要であるという点で,セカンド・ライフの約款上の準拠法の有効性を原則的に認めなければならないであろう。ただし,消費者契約上の準拠法合意に対しては概ね例外が認められているので,その限りでは当事者自治の原則は制限される35。しかし,仮想生活のコミュニティの特性上,消費者契約に関する準拠法上の特則は,その適用をなるべく制限しなければならないであろう。C.受用者間の準拠法合意

 サイバーエンターテイメント紛争においては,受用者間の準拠法合意も,サービス提供者と受用者との間の準拠法合意と同じく,当事者自治の原則に基づき許容されるであろう。 しかし,受用者間の紛争においては,準拠法に関する事前の合意がない場合が問題となる。セカンド・ライフの約款は,運営者と受用者の間の紛争に対する解決のために準拠法に関する規定を置いているが,受用者間の紛争に対しては何ら規定を置いていない。サービス提供者と受用者との間で合意された準拠法約款は,受用者間の紛争においてはその効力が及ばないと言うべきである。

2.準拠法合意がない場合A.最密接関連国法の原則

 準拠法合意がない場合,多くの国は最密接関連国法の原則を採用している。契約の準拠法と関連し,その契約と最も密接な関連のある国の

法によらしめ,譲渡契約の場合には譲渡人の履行,利用契約の場合には利用許諾者の履行,委任・請負契約,及びこれと類似の役務提供契約の場合には,役務の履行を行わなければならない者の契約締結当時の常居所がある国の法(当事者が法人又は団体の場合には,主たる事務所のある国の法)が最も密接な関連を有すると推定される。ただし,契約が当事者の職業又は営業活動として締結された場合には,当事者の営業所がある国の法が最も密接な関連を有すると推定される36。不動産に対する権利を対象とする契約の場合には,不動産が所在する国の法が最も密接な関連を有すると推定される。その他の事務管理,不当利得,不法行為においても,当事者間の法律関係を基礎に準拠法を定めるとして,最密接関連国法の原則によらしめている。B.契約紛争の場合

 ⑴ サービス提供者と受用者との間の紛争の準拠法

 サイバーエンターテイメント紛争のうち,サービス提供者と受用者との間の紛争に関する準拠法は,最密接関連国法の原則を適用すれば,受用者の住所地法,またはサービス提供者の所在地法を考慮することができよう37。サイバーエンターテイメント契約の法的性質は,一種の利用契約として,履行する利用許諾者の住所地,すなわちサービス提供者の所在地に密接な関連があると推定できるが,必ずしもそうとは言えないであろう。サイバーエンターテイメント紛争,特にセカンド・ライフの場合には,上記で検討したような仮想生活のコミュニティの特性上,統一されたシンプレックス法の適用が必要であるという点で,消費者契約に関する準拠法指定の特則は,その適用をできる限り制限しなければならないであろう。 ⑵ 受用者相互間の紛争の準拠法 セカンド・ライフのようなサイバーコミュニティサービスの会員間の紛争に適用される準拠法につき,セカンド・ライフの約款には何らの規定も置かれていないため,別途の検討を要する。これには, 1 )サイバーコミュニティ法が

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適用されるという見解と, 2 )サイバーコミュニティ法を認めることはできず,当該紛争事案の準拠法を適用するべきであるとする見解があり得る。第2説の場合には,サービス提供者の所在地国法が準拠法になるという見解と,契約や不法行為等のように,セカンド・ライフ上の会員間の法律関係の準拠法を探求しなければならないという見解がある。例えば,東芝の商店とパナソニックの商店がセカンド・ライフに入店し,商店間に紛争が生じた場合のように,共通の属人法である日本法が最も密接な関連がある国の法として準拠法になるとするものである。一方,第1説の場合にも,サイバー法が欠缺する場合には,第2説のように準拠法を決めなければならないという問題が生ずる。C.不法行為紛争の場合

 前述の見解のうち,第2説によると,概ね不法行為はその行為が行われた地の法によるため,不法行為地法が準拠法になる38。概ね不法行為地を行動地と結果発生地とで分け,両者共に連結点となりうるように思われる39。ところで,サイバー上で行われた不法行為の準拠法を定めるにあたっては,行動地がどこであるかが問題となり,また,すべての結果発生地を行為地として見ると,インターネットの接続ができる世界のいかなる国においても損害の発生は可能であるため,損害発生地は被害者の利益が存在するすべての国になりうるという問題も生じる40。このような問題を解決するべく結果発生地を基準とする場合,主たる被害が発生した地のみを結果発生地と見ると,被害者の所在地法が原則的な準拠法となり得るが,被害者保護のために,被害者に加害者の所在地国法と自身の所在地法との間で準拠法を選択することができるようにするのが妥当であろう。D.サイバー知的財産紛争の準拠法

 サイバーエンターテイメント紛争がサイバー知的財産と関わる場合,準拠法を決めるにあたっては,まず現実の知的財産紛争の準拠法決定の原則を検討する必要がある。 ALI原則は,登録知的財産権と非登録知的財

産権とで区分し,登録知的財産権の準拠法は登録国法,非登録知的財産権の準拠法は保護国法としている41。一方,マックスプランク研究所

(MPI)草案42やRomeⅡは,登録知的財産権と非登録知的財産権とを区分せず,保護国法主義を取り43,MPI草案は,保護国の概念もしくはその決定基準に関して市場影響原則(marketim-pactrule)を明示している44。 韓国国際私法第24条も,MPI草案やRomeⅡと同様,登録知的財産権と非登録知的財産権を区分せずに保護国法主義を採るが,この規定が知的財産権侵害以外に知的財産権の成立や移転等の全般に及ぶかに関し,韓国の判例は広く解釈している。ボンドチ事件45では,同法第24条が知的財産権の成立,移転等の全般に関して保護国法主義を採用していると宣言し,全体的に知的財産権に関するすべての問題に関して保護国法によると判示している。したがって,同事件では,著作権譲渡の登録が著作権譲渡の成立要件と対抗要件のうちいずれに当るか,対抗要件にあたるとすれば,対抗要件の具備に必要な具体的判断基準は何か等に関する準拠法は,保護国法たる韓国著作権法であるとした。49種事件46でも,国際私法第24条が侵害停止請求のほかに著作権(著作財産権と著作者人格権を含む)の侵害による損害賠償請求にも適用されるとしているし,デスペラド事件47でも,国際私法第24条は著作権侵害の可否や損害賠償責任の成立の可否,及び損害賠償の範囲等に関しても適用されると判示している。 ALI原則もMPI草案も,多数国内の知的財産侵害紛争の準拠法に関しては,特定することができないか,または特定するのが困難な多数国で知的財産権侵害が発生した場合には,その侵害について最も密接な関連を持つ国の法を準拠法としている48。MPI草案は,最も密接な関連のある国を決めることができない場合には被告の常居所地に最も密接な関連があるとし,ALI原則は法廷地に最も密接な関連があると見ている49。 他方で,最初の権利帰属に関し,ALI原則は,

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登録知的財産権の場合には登録国法主義を採り(第311条),非登録知的財産権の場合に,未登録商標及びトレードドレスに関しては商品及びサービスに関する識別力を備えるとされる国の法(第312条),その他の非登録知的財産権,すなわち著作権のような登録と無関係に発生する権利については創作当時の創作者の居所地国法,あるいは,係争物が雇用契約による場合にはその労働関係を規律する国の法(第313条)が適用されると規定している。MPI草案は,明文の規定を置いていないが,保護国法主義を採っていると理解されている。 ところが,セカンド・ライフのような純粋に仮想空間又は仮想世界(virtualworld)で作り出され,その空間の中で利用され,侵害が起きるサイバースペース紛争の場合には,このような現実空間の連結点が最も密接な関連を有すると考えにくいことから,このようなアプローチは本質的な解決にはなりえないという問題点が指摘されている50。

3.小結 以上のように,サービス提供者の所在地国の法に準拠することにする合意の有効性は,国際裁判管轄合意とは異なり,当事者自治の原則により許容する立場を採ることができよう。しかし,サイバーエンターテイメント紛争において準拠法の合意がない場合には,セカンド・ライフで見られたように,密接な関連のある地を決めることは容易ではないため,原則的には属人主義的なアプローチで問題を解決する方法を検討した。しかし,このようなアプローチは無国境性を特徴とするサイバースペース紛争の根本的な解決策とはならないため,手続的な解決方法を検討していく必要がある。

Ⅴ.サイバーエンターテイメント紛争のADRによる解決

1.サイバー紛争のADRによる解決 サイバー紛争については,以上で検討したよ

うに,無国境性を特徴としているために連結点を決めることが困難であるという問題があり,現実空間のいずれの裁判所に管轄を認めるかが問題になる。このような問題点を解決するため,サイバー紛争はサイバー空間上のADR機関によって解決されるとする方法が提案される。 このようなサイバー紛争のADRによる解決の例として,韓国情報通信網法上の名誉毀損紛争調停部による調停が挙げられる。同法によれば,放送通信審議委員会は,情報通信網を通じて流通する情報のうちの私生活の侵害又は名誉毀損等のような他人の権利を侵害する情報に関する紛争の調停業務を効率的に遂行するため,名誉毀損紛争調停部を設置するとしている51。名誉毀損紛争調停部は,純粋にサイバー上の紛争のみを調停する機構という点で,サイバーエンターテイメント紛争の解決方法を講ずるにあたっても参考になる。 他方で,サイバーエンターテイメントを提供する主要なサービス運営者の約款上のADR規定を検討してみよう。セカンド・ライフの約款7.3条は選択的仲裁に関して規定している。命令的または衡平法上の救済の適用に関する主張を除き,総補償額が10,000ドル以下のいかなる主張に関しても,救済を申込む当事者は,当事者の欠席仲裁判断により,費用効率的な方法で権利侵害主張をすることができる。仲裁を選択した当事者は,当事者が相互に合意した代替的な紛争解決(ADR)機構を通じてこれを開始する。ADR機構及び当事者は以下の準則に服する。⒜電話,オンライン,書面提出のいずれかを救済を求める当事者が選択することによって仲裁が進行される。⒝仲裁は,当事者相互間で合意しない限り,当事者又は証人の直接の出頭を要しない。⒞仲裁による補償金の評決は,管轄権を有する裁判所に属することができる。 ユーチューブの約款第14条も仲裁規定を設けている。紛争が発生した後30日以内に解決されない場合には,仲裁に付託して当該紛争を最終的に解決するとしている。当事者は,同仲裁に明示的に同意し従うものとし,仲裁はアメリカ

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仲裁協会(AmericanArbitrationAssociation)の国際紛争解決センター(InternationalCenterofDisputeResolution)(以下,「AAA」という)に付託され,本契約の締結日現在の時点で有効なAAAの商事仲裁規則(CommercialArbitra-tionRules)(以下,「規則」という)により進行される。仲裁人は当事者相互の合意によって決められた仲裁人1名とする。仲裁は英語で進行され,仲裁場所はアメリカ合衆国カリフォルニア州のSantaMateoのカウンティとする。各当事者は,本契約に基づくいかなる救済手段をも放棄せず,仲裁判断が下されるか,紛争が他に解決されるまでは,自らの権利や財産を保護するために必要な暫定的,臨時的,禁止的または保全的処分を,仲裁人及び管轄裁判所,またはそのいずれかに申立てることができる。仲裁人が下した判断は,終局的かつ当事者に対して拘束力を有し,それに対する判決は,いずれか一方の当事者またはその資産に対し,裁判管轄権を有する裁判所などの管轄裁判所に申立てることができる。当事者は,仲裁人が仲裁事案に対して衡平法的な処分または禁止処分を下す,もしくは言い渡す権限があることに明示的に同意する。ただし,そのような救済手段または処分は,本契約に規定された救済手段及び制限に符合するものでなければならない。当事者は,仲裁手続の進行事実,仲裁手続を通じて公開された情報,関連する合意,交渉,議論,提案,及び判断を含む本条により進行される仲裁手続を秘密情報とみなし,法律やこの約款で他に決められた場合を除いて第三者に公開しないこととする。ただし,当事者は,仲裁人によって宣告された仲裁判断を執行する,もしくは,本条による暫定的,臨時的,禁止的または保全的処分を求めるために,必要な場合には上記の情報を該当の裁判所に公開することができる。

2.サイバー知的財産権紛争のADRによる解決

 セカンド・ライフでは,サービス提供者と受用者との間には約款による契約関係が成立し,

約款のADRによる紛争解決に関する条項に基づく紛争解決をすることができるとするが,受用者間には契約関係がないため,問題となる。ドメイン名の紛争に関するドメイン・ネーム紛争の解決に関する統一方針(UniformDomain-NameDispute-ResolutionPolicy:「UDRP」)が一つの解決方法となり得る。UDRPによると,ドメイン名の不正な登録に関する紛争(例えば,サイバー・スクワッティング)において,商標権者は,ドメイン名の登録の抹消又は移転を求める申請書を承認された紛争解決機構に提出するという簡易な行政手続きによることができる。UDRPによれば,実際のドメイン名の登録名義人と何らの紛争解決合意をしていない商標権者も,UDRPの手続による紛争解決ができるとしている。 UDRPのような紛争解決方式をセカンド・ライフのようなサイバーエンターテイメントの場合にも援用すると,リンデン・ラボが作成した約款にUDRPのような紛争解決条項があり,受用者間の紛争をそれによって解決するとしている場合には,これに同意して加入した受用者はこれに拘束されることになろう。リンデン・ラボは,UDRPに準ずる公正かつ合理的(fairandreasonable)な紛争解決機構を設定すべきであろう。

3.サイバーエンターテイメントの紛争解決機構の創設の必要性

 以上のように,セカンド・ライフ等のようなサイバーエンターテイメントの特殊性により,裁判管轄及び準拠法の決定が困難なので,サイバーエンターテイメント紛争を専門的に解決するサイバー紛争解決機構の創設が必要であると言えよう。 サイバー紛争解決機構の創設に関する試みとして,2007年7月末,ポルトガル法務省はAvei-ro大学及びLisbonNew大学の法学部と協力し,セカンド・ライフ内にE-JusticeCentreを開設したが,同センターは,セカンド・ライフの住民たるアバターを対象に,消費者関連紛争及び

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契約紛争に関する仲裁または調停サービスを提供するものである。E-JusticeCentreは,セカンド・ライフの住民たるアバターから紛争解決の申立てを受けた事案に対し,ポルトガル法または自主的に制定した公正基準(impartialitycri-teria)を適用している52。

4.小結 これまで見てきたように,サイバースペースにおいては,紛争当事者間の合意がない場合に,実質的関連の原則に基づき裁判管轄を決定したり,最密接関連国法の原則に基づき準拠法を定めるということが難しいため,このような問題を解決する新たなアプローチを探求する必要があると言えよう53。 これに関しては,現実空間(realspace)との連結点(contactpoint)があるか否かにより区分して考察する必要があると言えよう。まず,現実空間と接点がない場合として,全面的にサイバースペース上で紛争が生じる場合が挙げられる。例えば,セカンド・ライフ上で作成されたアイテム(item)をセカンド・ライフ内で売買する行為がこれに当たる。このような場合は,サイバー上に通用するサイバースペース法

(lexcyberspace)に準拠し,サイバー上の裁判所(cybercourt)で紛争を解決する方法を講じなければならないであろう。ただし,純粋なサイバースペース上の行為を現実空間法(lexrealspace)によって解決しようとする合意がある場合には,その有効性の可否は,サイバースペース上で通用するサイバースペース法によって判断しなければならないであろう。 次に,現実空間との接点がある場合である。これには,インターネットまたはサイバースペースが一つの媒介としての役割を果たす場合と,インターネットまたはサイバースペースが共に関係する場合とが挙げられる。前者の例としては,セカンド・ライフ内でソフトウェアを具現する契約や,インターネットまたはサイバースペースが契約締結行為の媒介としての役割を果たす場合が挙げられる。後者の例は,サ

イバースペース内で作られた知的財産を現実空間で侵害する行為,サイバースペース上の名誉毀損のような場合である。紛争が現実空間との接点を有する場合,当事者間に裁判管轄と準拠法に関する合意がなければ,実質的な関連の原則ないし最密接関連原則が支配する。しかし,前述したように,紛争と実質的な関連がある場所や最も密接な関連のある場所を探求するのは困難である。ここで,立法論としては,現実空間とサイバースペースにかける紛争の場合も,国と国との間の問題ではないため,国際裁判管轄と準拠法の問題ではなく,二つの空間

(space)の間にかかる特殊な問題を解決するための別途の規則や裁判所(court)が作られなければならないであろう。 現実空間とサイバースペースとの間の判決の執行問題に関しては,次のように解決することができよう。現実空間の判決をサイバー上において執行する場合には,サイバー裁判所(cy-berspacecourt)による承認執行を受けてサイバースペースで執行するものとし,サイバー上で下された判決を現実空間で執行しようとする場合には,外国仲裁判断は内国判断ではないものの執行も可能であるので,現実空間でも執行することが可能であると言えよう。

Ⅵ.結論

 セカンド・ライフのようなサイバーエンターテイメントを提供しまたは利用する地は,属地性を問題にすることができない空間であるから,場所的連結を基礎とする伝統的な法理を適用することには問題がある。すなわち,セカンド・ライフで発生した紛争のようなサイバー紛争を解決するにあたっては,サイバースペースの特性上,伝統的な国際私法理論に基づいて裁判管轄と準拠法を決めることは困難である。したがって,最も密接な関連を有する場所を決めるにあたっても,属地主義から離れ,属人主義の立場で当事者の本拠や常居所地,法人の本拠,特徴的給付をする当事者の所在地国を最も密接

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な関連を有する場所と見ることにより,連結点の決定の困難性を乗越える方法を考えなければならないであろう。 しかし,このような属人主義的なアプローチだけでは,サイバーエンターテイメントの国際私法的問題に対する根本的な解決は難しいと言えよう。なぜなら,サイバースペースにおいては,当事者の住所というのは偶然的な要素に過ぎず,サイバーエンターテイメントと密接な関連があるとは思えないからである。結局,サイバーエンターテイメントの紛争はサイバースペースに適用される規範に基づいたサイバーADRによって解決されるのが望ましく,このため,サイバー規範の定立とサイバー紛争解決機構の設置が必要であると言えよう。このためには,現在のサイバーエンターテイメントサービスで通用する多くの約款を分析して合理的な規範を抽出し,これをモデル約款や原則(prin-ciples)等のsoft lawの形で制定するとともに,ポルトガルのE-JusticeCentreのような国内サイバー紛争解決機構から,ひいては国際的なサイバー紛争解決機構の設立を推進しなければならないであろう。ドメイン名紛争の解決に際してWIPOが見せた積極的な努力が,さらにサイバーエンターテイメント紛争へと拡張されることを期待している。

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1 ビジネスウィーク誌では,セカンド・ライフを,映画「マトリックス」,ソーシャル・ネットワーキングサイト「MySpace」,及び,オンライン・マーケットプレイス「eBay」の罪深い産物(someunholyoffspringof themovieTheMatrix, thesocialnetworkingsiteMySpace.com(NWS),andtheonlinemarketplaceeBay

(EBAY))と表現した。RobertD.Hof「MyVirtualLife」(BusinessWeek,May1,2006)

2 本稿は,便宜上,新しいサイバーエンターテイメントとして注目されているセカンド・ライフを中心に無国境性という特徴に起因した法的問題を検討することにする。

3 Wikipedia辞書では,エンターテイメントを利用者に楽しみ又は気分転換を与えるために企画された事件,公演,活動と定義している。

4 エンターテイメントを見たり,聞いたりしながら楽しむ者を一般公演・演劇の場合は観客,テレビの場合では視聴者,音楽や映画の場合には聴衆,ゲームの場合は利用者とするなど,ジャンルによって様々に呼ばれてきたが,本論文ではこれを統合した概念として「受用者」と称することにする。

5 アメリカの機能性ゲーム市場規模は,2007年基準で5000万ドル,2010年基準では3億6000万ドルと予測されている。韓国においても,2008年7月9日に機能性ゲームフォーラムが発足した。

6 受用者の参加性に対してMMORPG・GRPM-MOを中心に説明する論文としては,ユン・ウングギ「MMORPG/GRPMMOの法的特徴と問題点─アバターペルソナをビョリで─」Enter-tainmentLaw(丁相朝編),博英社(2007年)353 〜 364頁。

7 3.3LindenLabretainsownershipoftheac-countandrelateddata,regardlessof intellec-tualpropertyrightsyoumayhaveincontent

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8 サイバーエンターテイメントの財産性に関する論議として,文化観光部の韓国ゲーム産業開発院「ゲーム紛争事例集2005」(2005年)327頁,ゾン・グヘサング「インターネット・ゲームアイテムの取引に関する法理」中央法学第5集第3号3頁,ゾン・グヘサング「インターネット・ゲームアイテムの取引に関する法的問題」ゲーム産業の法・政策的課題,第11回KITAL定期国際シンポジウム(2004年)148頁,ユン・ウングギ「MMORPGゲームアイテムの現金取引に対する法政策的考察」2004未来ゲームフォーラム公開セミナー,韓国ゲーム産業開発院(2004年)63 〜 65頁,DeenihanAndKevinEdward「LeaveThoseOrcsAlone:PropertyRightsinVirtualWorlds」(3/26/08)(Availa-b l e a t S SRN : h t t p : / / s s r n . c om/ a b s -tract=1113402pp.21,35,MollyStephens「Sa-lesof In-GameAssets:AnIllustrationof theContinuingFailure of IntellectualPropertyLawtoProtectDigital-ContentCreators」(80TexasLawReview,2002,pp.1521ff,パク・ソンホ=丁相朝=ナムヒョスン共編「アバターの法的問題点」インターネットと法律Ⅱ(2005年)参照。

9 サイバー財産(virtualproperty)は,サイバー有形財産とサイバー無形財産がある。サイバー有形財産に対しては現実世界に品物に適用される法理がそのまま類推適用されるという立場と,サイバー物権の概念を否認して現実物権法の類推適用を拒否する立場があり得る。サイバー無形財産で代表的なのは,サイバー知的財産であり,知的財産権の保護要件を備える場合は法的保護が与えられることになろう。

10 掲示版サービス提供者の権利義務としては,掲示版サービス提供者の利用権,掲示情報の削

除権,掲載空間提供義務,掲載コンテンツの管理義務を認めることができるし,利用者の権利義務としては,利用者は動画や文字をアップロードする権利を有し,提供者に自分がアップロードしたコンテンツの利用を許容する義務を負う。

11 セカンド・ライフはリンデン・ラボが提供するマルチユーザ・オンラインサービスとして,リンデン・ラボが提供するソフトウェア及びサービスを支援する無制限のオンライン環境が含まれる。すなわち,サーバー利用,ソフトウェア接続,セカンド・ライフ環境のシミュレーションのためのメッセージ送信及びプロトコル(サーバー),リンデン・ラボが提供しているローカル・コンピューターに設置されるソフトウェア,又は使用者がサーバーに接続してセカンド・ライフの環境にほかに接続するために使うその他の器機(ビューアー),セカンド・ライフの使用のためにリンデン・ラボが提供するアプリケーション・プログラムのインターフェース(APIs),そしてセカンド・ライフのウェブサイトのドメイン,及びサーブドメインで利用可能なウェブサイトとサービスに対する接続などを含む(1.1)。このようなサービス定義と共に,セカンド・ライフ利用約款3.1では,利用者はサービス約款によって,セカンド・ライフの利用に関し,非排他的で制限的,かつ撤回可能な利用権を持つと規定されている。すなわち,本約款規定により,リンデン・ラボは,利用者がサービス約款を守ることを条件に,使用者にリンデン・ソフトウェアとその他のサービスを利用することにつき,非排他的で制限的,かつ完全に撤回可能なライセンスを提供することである。

12 運営者と利用者間の権利義務として,運営者の権利義務は,ⅰ運営者の接続提供義務,ⅱ利用者の個人情報保護義務,ⅲ利用料賦課(課金)方式の説明,告知等義務,ⅳコンテンツの管理義務があり,利用者の権利義務としては,ⅰ利用条件遵守及び利用料支払義務,ⅱ知的財産権の保障及びライセンス許与義務,ⅲ提供サービスの変更禁止,ⅳサービス提供のシステム運用妨害の禁止義務などがある

13 サイバーエンターテイメントでは,エンターテイメントの個人的趣向による個別的な提供が可能なので,不特定多数人への提供を基準にする現実のエンターテイメントとはその法的な取扱を異にすることができる。第一に,審議基準

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に関して,地上波放送や映画より緩和して適用されることができ,芸術の自由がより保障される側面がある。第二に,一般大衆芸術ができない領域まで近付けることができるため,極少数のマニアをターゲットにする市場の形成も可能である。これは,エンターテイメント作品を製作する際,多品種少量販売でも経済性があるために可能となる。したがって,サイバー上のアダルト物は,現実世界とは基準を異にしていると見られるし,インターネット上の賭博に対しては,現実世界と厳格に分離するという前提の下で,ある程度,射倖性があると言われても許容することができよう。このように,サイバースペースには,サイバースペース内のコミュニティが有する文化と価値を前提とする規範が成立されることができる。したがって,サイバー世界のエンターテイメントに適用される違法性の基準を緩和して現実世界と混同しないという前提の下で扇情性,射倖性,暴力性があると言っても,ある程度は許容することができると思う。個人情報の保護においては,個人の趣向を考慮して個別的なサービスが可能なので,このようなサービスと係わった人の情報と利用の内訳など,個人情報がエンターテイメントを提供するOSPとCPによって取得・保管され,商業的に利用されることができるという点で,特別な保護を要する。アメリカのエンターテイメントに対するcensorshipに関しては,SherriL.Burr「EntertainmentLaw」(Thomson/West,2004,pp.83-119),イギリスの場合はVincentNelsonLL.B「TheLawofEntertainmentandBroadcasting」(LondonSweet&Maxwell,1995,pp.520-524)

14 このようなサイバーエンターテイメントの特徴に関しては,MarkG.Tratos「TheImpactofTheInternet&DigitalMediaon theEnter-tainmentIndustry」(896PLI/Pat133,March,2007,pp.237-238)

15 同条約予備草案第4条1項16 同条約第3条d項,第5条1項17 Choiceof forumagreementsaregenerally

enforceable.ThisruleadoptstheapproachofBremenv.ZapataOff-ShoreCo.,407U.S.1,92S.Ct.1907,32L.Ed.2d513(1972)と,その後の判決は裁判管轄合意を絶対的に有効であると見る。TheRestatement(Second)ofConflictsofLawも類似した規律を設けている。

18 UCITA§105(b),Comment3toUCITA

§105(b).Livingstonv.Tapscott,585So.2d839(Ala.1991);OccidentalSav.&LoanAss‘nv.VencoPartnership,293N.W.2d843(Neb.1980)。

19 UCITA§111(a),Comment1&2toUCI-TA§111(a)

20 UCITA§110(a),Comment2&3toUCI-TA§110(a)

21 これに対する紹介は,RochelleDreyfuss「TheALIPrinciplesonTransnational IntellectualPropertyDisputes:WhyInviteConflicts?」(30Brook.J.Int‘lL.819,2004-2005)

22 同法第27条第6項23 韓国大法院1997年9月9日宣告96ダ20093判

決,韓国大法院2004年3月25日宣告2001ダ53349判決

24 CarnivalCruiseLinesv.Shute,499U.S.585(1991).同事件は,カリフォルニアを出発するクルーザーに,ワシントン州居住の乗客が乗っていたが,乗船切符の裏面約款には,クルーズ会社の本社所在地であるフロリダ州で裁判を行うとする専属的裁判管轄合意の条項が含まれていた。米国連邦最高裁判所は,販売者の本社所在地を管轄裁判所にする管轄合意条項の合理性を認めて同管轄条項が有効であると判示した。

25 同原則第202条及び同条3項参照。26 Specht v. Netscape Commc‘ns Corp. ,

306F3d17(2dCir.2002)事件では,仲裁合意条項が他のオンライン文書に含まれており,幾つかのクリックによらなければ利用者は該当の文書を見ることができないようになっており,当該条項を利用者は知ることができなかった。また,利用者の特別な同意も要求しておらず,同事件ではオンライン契約の仲裁条項の強制性が否認された。

27 アメリカのBraggv.LindenCivilActionNo.06-4925事件,BenjaminDuranske, Braggv.LindenUpdate:Defendants’Motions toDis-miss andCompelArbitrationDenied, 2007.http://virtuallyblind.com/2007/06/01/bragg-v-linden-update-motions-to-dismiss-and-compel-arbitration-denied/

28 ただし,国際的に通用する運送業,国際的に通用する金融業及び保険業に関する約款の場合には,約款規制法第14条の適用が制限されるが,その場合にも,著しく不公正な条項については無効と言わなければならない。

29 アメリカ法上,裁判所が被告に対して人的管

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轄権を行使することができるか否かの問題は,⑴制定法上の当該裁判所が被告に対する管轄権を行使する権限があるか,⑵制定法上,そのような権限がある場合,被告に対する人的管轄権の行使がアメリカ憲法に反する否かにかかる。一番目の要件はlong-armstatuteと最小限の関連(minimumcontacts)理論によって決められる。最小限の関連(minimumcontacts)の基準を要約すれば,1)被告が,法廷地で行為する利益を意図的に利用すること(purposefulavailment),2)原告が被告の法廷地との接触が継続的で体系的であるか,訴えがそのような接触で提起されているか関連しているかを立証すること,3)被告の行為と法廷地との連結によって,被告が合理的に法廷地管轄権によることが期待されること,4)人的管轄権の行使が合理的であること等がある。

30 孫京漢=朴眞雅「サイバー不法行為に対する国際的規制」中央大学校法学論文集第31集第1号(2007)570-571頁

31 同予備草案第12条4項,6項32 アメリカ国際私法第2次リステイトメント

は,準拠法選択について,当事者自治の原則を採用している。ただし,より重大な利害関係を持つ国があるとか国の「根本秩序」を阻害する場合などにおいては例外が認められる。ALI原則第302条も当事者自治の原則を採用している。同じく,UCITA第109条⒜も準拠法合意の有効性を規定している。

33 ALI原則は,当事者自治の原則の例外として,登録された権利の効力と維持に関する準拠法,登録の可否にかかわらず,権利の存否,特性,譲渡可能性,存続期間に関する準拠法,そして,譲渡及びライセンスの登録を公式的に要求する準拠法の指定については排除している。大量市場取引契約の場合には,合理的に契約が成立された当時に契約書を作成しなかった当事者が直ちに参照可能であり,その後も当事者が継続的に参照可能である時に限定して,効力を持つと規定している。

34 韓国では裁判管轄約款等に関する約款規制法第14条が,準拠法約款でも類推適用されるかの問題として扱われている。

35 韓国国際私法第27条,日本法の適用に関する通則法第11条参照。

36 日本法の適用に関する通則法第8条2項,韓国国際私法第26条1項・2項も同じ主旨の規定を置いている。アメリカ国際私法第2次リステ

イトメント第188条では,当事者が準拠法を指定しない場合には,取引及び当事者と最も密接な関連がある国の法が適用される。裁判所はいずれの国に最も密接な関連があるかを決定するにあたって,契約締結地,契約の交渉地・移行地,契約目的物の所在地,当事者の住所地・居所地・国籍,法人の本店又は営業所所在地などの要素を考慮して決めると規定している。

37 例えば,サービス提供者と受用者の間の言語が異なり,受用者の言語でサービスを提供する場合には,受用者の所在地が最も密接な関連を持つと思われる。

38 韓国国際私法第32条第1項等を参照。39 被害者に行動地法と結果発生地法の選択権が

あるといえるのか,裁判所が選択義務を負うのか,それとも行動地と結果発生地のうちいずれかの一つが韓国である場合には韓国法が準拠法となるかについては,学説上の争いがある。石光現「国際私法解説」ジサン(2001)232頁,行動地や結果発生地の全部が準拠法になりうると解釈されるとする見解としては,盧泰嶽「サイバー不法行為の裁判管轄と準拠法」国際私法研究第8号(2003)175頁参照。

40 非契約債務の準拠法(lawofnon-contractualobligation)に関する条約(RomeII:2009.1.発効)によれば,不法行為の準拠法は損害発生地法であると規定しており,この条項をサイバー不法行為に適用すれば,サイバー不法行為は,損害発生が全世界で生ずるので全世界法を適用しなければならないという結果になる。Shevil判決で被告の所在地国が一般管轄を持って損害発生地国がその国内での損害に対し管轄を持つと判決したことをサイバー世界に適用してみると,準拠法は加害者の所在地国法になり,個別の国の法がその国で発生した損害に関して準拠法となる。Shevil判決によれば,結果発生地たるすべての国の法をすべて適用しなければならないという結論に至ることとなり,不当である。

41 ALI原則第301条以下参照。42 ドイツのマックスプランク研究所(Max

PlanckInstitute,MPI)は,2003年1月「裁判管轄と執行に関する国際条約:知的財産権に関する規定に対する修正草案 (InternationalProvisions involvingIPRights)」公表したが,これを「MPI草案」と称する。

43 MPI草案第1条⑴,RomeⅡ第8条⑴44 MPI草案第1条⑴

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45 ソウル高等法院2008年7月8日宣告2007ナ80093判決(上告中)。「フライングアイボール

(FlyingEyeball)」と言う名称の「第1,2の著作物」の著作者であるアメリカ人KennethHowardが1992年9月19日に死亡し,その娘であるLisaHowardとLornaMichaelが各著作権を相続した。相続人らは2000年3月31日,日本の株式会社「上野商会」に,この事件の各著作権を含む一体の知的財産権を譲渡し,「上野商会」は,2002年5月15日にアメリカのVonDutchOriginalLLCに本件各著作権を含む一体の知的財産権を譲渡する契約を締結した。しかし,2005年6月8日,上記の相続人らは韓国人であるチン氏に,本件各著作権を含む一体の知的財産権を譲渡する契約を締結し,2005年6月18日,上記のチン氏は,国内でこの事件第1著作物に関する著作権の譲渡の登録を終えた。

46 ソウル中央地方法院2008年6月20日宣告2007ガハップ43936判決。

47 ソウル高等法院2008年9月23日宣告2007ナ127657判決。

48 ALI原則第321条,MPI草案第3条49 ALI原則第321条⑵。これに関しては石光現

「知的財産紛争の準拠法決定の原則」第6回韓日知的財産権・国際私法シンポジウム(Ⅱ)資料,417頁参照。

50 中山真里講師も,2008年12月20日に早稲田大学で開催された韓日セミナーにおいて,インターネットにおける個別具体的な事案毎に最も密接に関わる国又は複数の国の法を適用することは,個別事案に対し適切な判断がなされることを担保することができるが,実際の当事者の予測可能性を害し,法的安全性を害する恐れがあると批判している。中山真里「インターネットにおけるビジネスモデル特許及びデジタル・コンテンツ利用に伴う国際私法上の問題」(同シンポジウム資料(2008))

51 同法第44条10。名誉毀損紛争調停部の委員5人の中,1人以上は弁護士の資格がある者とし,委員は審議委員会の委員長が審議委員会の同意を得て委嘱するとしている。名誉毀損紛争調停部の紛争調停手続等に関しては,情報通信網法第33条の2第2項,第35条ないし第39条までの規定を準用する。この場合,「紛争調停委員会」は「審議委員会」であり,「個人情報に関わる紛争」は「情報通信網を通じて流通する情報のうち,私生活の侵害または名誉毀損など,他人の権利を侵害する情報に関わる紛争」と見

る。名誉毀損紛争調停部の設置・運営及び紛争調停などに関するそれ以外の必要な事項については大統領令で定める。

52 E-JusticeCentreの詳しい紹介に対しては,http://www.campus-adr.net/comments.php?id=756_0_1_0_C参照。

53 以下の論議は,孫京漢「サイバー知的財産権法試論 サイバー知的財産権法」(法英社,2004)30 〜 32,34頁に依拠した。