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44
1 骨粗鬆症患者ではどの部位の骨折が多いですか?
骨粗鬆症患者が最も骨折しやすいのは背骨(脊椎)ですが、軽いうちは患者自身も気づかないことが多く、姿勢がかなり悪くなるまで放置されることがあります。次に多いのは足のつけ根(大腿骨近位部)、腕の
つけ根(上腕骨近位部)、手首(橈骨遠位端)で、これらの大部分は転倒や軽微な外傷によって起こります。特に足のつけ根の骨折は要介護(寝たきり)の原因となりやすいので、転倒予防対策が重要です。
A
●骨粗鬆症で骨折しやすい部位
足のつけ根の骨折は寝たきりの原因になることがあります。
45
資料 ● 保健師、栄養士からの質問Q&A
2骨粗鬆症検診で踵の骨を測定し、YAMの87%だった人が、3ヵ月後に手首の骨を測定したらYAMの75%でした。どちらが正しいのですか?
踵の骨に超音波をあてて測定する定量的超音波測定法
踵骨は一般的には超音波の伝播速度または減衰率により骨を評価します(定量的超音波測定法:QUS)。一方、橈骨(手首の骨)はDXA法で2
種類のエネルギーの異なるエックス線を照射して、軟部組織の影響を除外し、骨の吸収率の差で骨密度を測定します。踵骨は荷重がかかる骨で海綿骨が95%と多く、一方、橈骨は荷重がかからない骨で皮質骨が主体の骨という違いがあります(P.10参照)。このように測定原理、測定方法、測定部位が違うので、両者の測定値を単純に比較することはできません。治療効果などのように経時的な変化を調べるには、同一機種で同一部位の骨量を測定することが必要です。検診では用いる機種や測定部位が異なると測定値が異なることがありますが、YAMに対する値が低いほうの数値を採用して判定し、必要があれば精密検査を受けるように指導してください。
A
●定量的超音波測定法とDXA法
手首の骨にエックス線をあてて測定する橈骨DXA法
46
3 たとえば50歳代の人に、「あなたの骨は70歳代です」という言い方は適切でしょうか?
●骨量の平均値の変化(概念図)
これから一生懸命に予防や治療に努めてもらいたいという親切心から、このようなショックを与える言葉が使われる可能性がありますが、適切な表現ではありません。また、検診で70歳代と言われたのに、精密な
骨量測定装置のある病院で測ったら、それほどでもなかったということもあります。骨量には個人差があり、55歳でYAM(若年成人の平均値)の80%という人もい
れば、70歳でYAMの90%という人もいます。「あなたの骨量は70歳の人の平均値・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
に相当・ ・ ・
します」という言い方なら間違いとはいえませんが、それでも誤解されやすいので、このような言い方は避けるべきです。
A
YAM
骨
量
(歳)
平均値
95パーセンタイル(全体の95%が含まれる範囲)
20 30 40 50 60 70 80年 齢
47
資料 ● 保健師、栄養士からの質問Q&A
4骨粗鬆症の診断基準に用いられている骨密度の表示が、欧米では「Tスコア」、日本では「%」と、異なるのはなぜですか?
Tスコアは若年成人女性(20~44歳)の骨密度の平均値と標準偏差(SD)から求める数値です。たとえば「Tスコア-2.5」は「骨密度が若年成人平均値(YAM)の-2.5 SD」であること、つまりYAMから標準偏差の2.5
倍低い値であることを表します(標準偏差は正規分布を示す標本におけるデータのバラツキ度を表す指標)。わが国でも以前は診断基準の表記に、Tスコアと同じ方法を用いていました。日本人の集団で腰椎の骨密度の分布を調べ、脊椎骨折に関して感度と特異度が一致する点(カットオフ値:脊椎骨折の有無を効率よく判定できる値)を求めたところ、ほぼYAMの-2.5 SDに相当することから、これを骨粗鬆症の診断基準値としました。しかし、腰椎以外の部位、たとえば橈骨の骨密度を測定すると、一部の機種では脊椎骨折のカットオフ値はYAMの-2.5 SDに相当せず、異なるSD値を設定する必要が生じました。一方、%表示にすると、測定部位が違ってもほぼ同じ数値(YAMの70%未満など)で脊椎骨折の有無の判定が可能でした。また、%表示の方がSDを用いるよりも直感的に理解しやすいということもあり、現在では%表示が用いられています。しかし、日本骨代謝学会 骨密度基準値設定委員会では国際的な基準に合わせるため、腰椎と大腿骨はSD表示に変更する予定です。
A
[参考]折茂肇ほか. 原発性骨粗鬆症の診断基準(1996年度改訂版). 日骨代謝誌 1997; 14: 219-33.
●骨密度と脊椎骨折率の関係(概念図)
骨密度値により骨折の有無を判定した場合、判定基準とする骨密度値が高いほど骨折の感度(真陽性率)は高く、特異度(真陰性率)は低くなる。逆に骨密度値が低いほど骨折の感度は低く、特異度は高くなる。
100
50
0
(%)
特異度 感度
カットオフ値
骨密度値
48
5 要精検とされた人が、精密検査で骨粗鬆症ではないと診断されることがありますが、なぜですか?
診断基準作成時のDXA法(QDR)による腰椎骨密度データの平均値±標準偏差は、若年女性で1.011±0.119 g/cm2、65~69歳女性で0.771±0.146 g/cm2です。この数値から、65~69歳女性のうちYAM(若年成人
平均値)の80%未満の人の割合は59%となるので、理論上は100人が検診を受けると59人が要精検となります。しかし、脆弱性骨折がなければ、精密検査で骨粗鬆症と診断されるのは骨密度がYAMの70%未満の場合であり、この基準にあてはまるのは33%です。したがって、59人が要精検とされても33人しか骨粗鬆症に相当する骨密度とは判定されません。さらに、脊椎のエックス線写真、血液・尿検査結果などから他の低骨量を呈する疾患と診断されることもあります。検診と精密検査では多くの場合、骨量測定部位が異なり、測定値(YAMの%換算)が異なるので、検診では骨量減少例が見逃されるのを防ぐため、判定基準を厳しくしています。
[参考]Orimo H, et al. Diagnostic criteria of primary osteoporosis. J Bone Miner Metab 1998; 16: 139-50.山内広世ほか. Pharma Medica 2008; 26: 37-42、一部改変
●若年成人女性と65~69歳女性の骨密度分布─DXA法(QDR)による腰椎骨密度─
骨密度(g/cm2)0.2 1.60.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4
骨量測定の分布
要精検
骨粗鬆症?
(脆弱性骨折がない場合)
YAMの80%
YAMの70%
20~44歳女性の分布
YAM
65~69歳女性の分布
(0.809)
(0.708)
(1.011)
A
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資料 ● 保健師、栄養士からの質問Q&A
6受診者に「あなたの骨量は若い人の平均値の75%なので、精密検査を受けてください」というと、「この年齢の平均並みなのに、なぜ精密検査が必要なのか」と問われました。どう答えればよいですか?
高齢になればなるほど骨密度は低く、要精検者の割合が高くなります(P.5 図1-6)。そのため、骨量がその年代の平均値付近でも要精検となる確率が高くなります。このことをまず説明してください。さらに「骨
量が若年成人の平均値の70%未満になると、骨折の頻度が高くなります。精密検査の結果も75%だとすると、すでに背骨などを骨折している可能性があり、また近い将来、足のつけ根などを骨折する確率も高いので、医師による指導や、場合によっては治療が必要です。ぜひ精密検査を受けてください」と勧めてください。
A
●女性の骨密度の加齢による変化(概念図)
YAMの80%
YAMの70%
骨密度
20
24
~ 25
29
~ 30
34
~ 35
39~ 40
44~ 45
49
~ 50
54
~ 55
59
~ 60
64
~ 65
69
~ 70
74
~ 75
79
~ 80
84
~ 85~ (歳)
YAM
年 齢
50
7 まれに比較的若い男性で骨量の低い人がいます。どのような原因が考えられますか?
男性の原発性骨粗鬆症は70歳以上の高齢者が多く、若年で骨量が低い場合は続発性骨粗鬆症の可能性があります。医療機関で精密検査を受けることを勧めてください。若年男性の続発性骨粗鬆症で特に多いの
は、ステロイド(グルココルチコイド)長期服用、性腺機能不全、関節リウマチ、慢性アルコール中毒などによるものです。
A
●続発性骨粗鬆症の主な原因
内分泌性 甲状腺機能亢進症、性腺機能不全、クッシング症候群 など
栄養性 壊血病、ビタミンAまたはD過剰、神経性食思不振症、胃切除後、吸収不良症候群 など
薬物 ステロイド、メトトレキサート、ヘパリン、ワルファリン など
不動性 全身性(臥床安静、対麻痺 など)、局所性(骨折後 など)
先天性 骨形成不全症、マルファン症候群 など
その他 関節リウマチ、糖尿病、肝・腎疾患、慢性アルコール中毒 など
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資料 ● 保健師、栄養士からの質問Q&A
8カルシウム摂取が推奨されていますが、カルシウムの摂取量を増やすだけで、骨粗鬆症の予防や治療ができるのですか?
『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版』(ライフサイエンス出版、2006)には、①若年者では骨量を高めるためにカルシウム摂取は有効である。②骨粗鬆症治療には1日800 mg以上のカルシウム摂取が勧められ
る。③カルシウム製剤を骨粗鬆症の主治療薬としては勧められないが、日本人のカルシウム摂取量が少ないことを考慮すると、他の治療薬の効果を十分に発揮させるためにもカルシウム不足例において推奨される、と記載されています。骨粗鬆症の予防には、カルシウム以外に蛋白質、ビタミンD、ビタミンK、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸なども併せて摂取することが大切です。また、運動、日光浴も必要です。
A
●若年者におけるカルシウム補強の骨密度に対する効果
対照群 カルシウム補強群 *p<0.05 両群間で変化率に有意差あり
介入開始時 2年後(終了時)
3年後
1.30
1.25
1.20
1.15
1.10
(g/cm2)腰椎骨密度の変化
**
介入開始時 2年後(終了時)
3年後
1.10
1.00
(g/cm2)大腿骨近位部骨密度の変化
15~16歳の女性105例を2群に分け、一方にはカルシウム1日1000mg相当の乳製品を摂取するように2年間指導した(カルシウム1日摂取量はカルシウム補強群1155mg、対照群684mg)。2年後の骨密度の変化率には両群間で有意差があったが、介入を中止して1年後にはその効果が失われていた。(Merrilees MJ, et al. Eur J Nutr 2000; 39: 256-62)
52
9 精密検査や治療効果の評価で使われる骨代謝マーカーとは、どのようなものですか?
骨は丈夫さを保つため、常に古くてもろくなった部分を壊し(骨吸収)、新しく強い骨に作りかえています(骨形成)。加齢や閉経により骨吸収と骨形成のバランスが崩れると骨量が減少し始めます(P. 38参照)。
骨代謝マーカーは骨吸収または骨形成にかかわる物質で、その血中または尿中の濃度から骨代謝の状態を知ることができます。骨吸収が亢進していると、それだけで骨折の危険性が高まるので、治療が必要かどうかの判断や薬剤の選択に迷う場合、また治療が有効であることを患者に示すための資料として、骨代謝マーカーのデータが使われます。
A
マーカー 検体 基準値
骨吸収マーカー
DPD(デオキシピリジノリン) 尿 2.8~7.6 nmol/mmol・Cr*1
NTX( I 型コラーゲン架橋N-テロペプチド) 尿 9.3~54.3 nmolBCE/mmol・Cr*1
血清 7.5~16.5 nmolBCE/L*2
CTX( I 型コラーゲン架橋C-テロペプチド) 尿 40.3~301.4μg/mmol・Cr*1
骨形成マーカー
ucOC(低カルボキシル化オステオカルシン) 血清 4.5 ng/mL未満*1
BAP(骨型アルカリホスファターゼ) 血清 7.9~29.0U/L*1
*1 30~44歳女性 *2 40~44歳女性
●骨粗鬆症診療で用いられる骨代謝マーカー
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資料 ● 保健師、栄養士からの質問Q&A
WHO骨折リスク評価ツール:http://www.shef.ac.uk/FRAX/index_JP.htm
10 最近「FRAX 」が話題になっていますが、どのようなものですか?
FRAX(fracture risk assessment tool)はWHO(世界保健機関)が開発し、2008年2月に公表した骨折リスク評価法です。患者(受診者)が12
項目の質問に答えると、10年以内に骨折する確率(%)が算出されます。骨密度以外のさまざまな骨折危険因子が反映された骨折リスクが、比較的簡単に、わかりやすい形で得られるので、治療が必要な患者を効率よく判別することができます。また、質問の中には骨密度値も含まれますが、身長と体重から得られるBMIで代用できるので、骨密度測定設備のない地域でも使えます。
WHOが示したのは、わが国を含む世界各国の疫学データをもとに作成された標準モデルなので、これをそれぞれの国の実状に合わせて改変・調整して使うことになり、わが国でもそのための検討が行われています。
A